(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】植物病害防除剤
(51)【国際特許分類】
A01N 37/02 20060101AFI20240816BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A01N37/02
A01P3/00
(21)【出願番号】P 2020107718
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【氏名又は名称】星野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】石川 成寿
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/096466(WO,A1)
【文献】特開2005-053794(JP,A)
【文献】特表2018-530531(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0357538(US,A1)
【文献】Food Packaging and Shelf Life,2020年02月26日,24,100495
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/02
A01P 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウリン酸又はその塩を有効成分と
し、
キュウリ斑点細菌病又はコマツナ炭疽病を防除するための、植物病害防除剤。
(ただし、亜鉛イオン、銅イオンの内少なくとも1種を含有する植物病害防除剤を除く。)
【請求項2】
前記植物が、野菜類である、請求項1に記載の植物病害防除剤。
【請求項3】
前記ラウリン酸塩がラウリン酸カリウムである、請求項1
又は2に記載の植物病害防除剤。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の植物病害防除
剤によって、植物の種子又は植物体を処理することを含む、植物病害の防除方法。
【請求項5】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の植物病害防除
剤によって、植物の種子又は植物体を処理することを含む、植物の育成方法
。
【請求項6】
前記植物病害防除
剤に植物の種子を浸種処理する工程を含む、請求項
4又は
5記載の方法。
【請求項7】
前記植物病害防除
剤を植物体に散布処理する工程を含む、請求項
4又は
5記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラウリン酸又はその塩を有効成分とする、植物病害防除剤又は抗菌剤に関する。
また本発明は、前記植物病害防除剤又は抗菌剤を用いた、植物病害の防除方法又は植物の育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物栽培時、特に有用作物栽培時における植物病害の防除は、世界的な食糧問題を解決する上で非常に重要である。植物病害としては、例えば、いもち病、炭疽病、つる割病などの種子伝染性病害、灰色かび病、うどんこ病などの空気伝染性病害、並びに青枯病、萎凋病などの土壌伝染性病害などが知られている。
これらの植物病害を確実に防除するためには、病害やその原因となる病原菌の種類、宿主とする植物種やその生育ステージに応じて、防除剤の種類、使用方法及び総使用回数などを適宜決定する必要がある。特に栽培圃場では、糸状菌病や細菌病などの植物病害による被害が甚大であり、両者を効果的に防除することが必要である。一方で、防除剤の種類によっては、どちらか一方の病害(糸状菌病又は細菌病)に対してのみ効果を有するものが多くあり、糸状菌病と細菌病の両者を効果的に防除するためには、それぞれに対して防除効果を有する複数の化学農薬を処理したり、これらの農薬を混合したりして製剤化して処理する必要がある。
【0003】
従来、このような植物病害に対しては、重金属化合物や有機塩素系薬剤、有機リン酸系薬剤などの防除剤が広く使用されてきた。
重金属化合物を用いた防除方法としては、銅化合物(銅剤)を用いた防除方法が古くから広く知られている。しかし、一般的に銅剤は処理する植物体に薬害を発生させる場合が有り、銅剤で処理できる植物体の生育ステージも限られている。例えば、キュウリ斑点細菌病は種子伝染するので、発病の蔓延を防止するうえで幼苗期の防除が重要である。しかし、銅剤系統の農薬を用いた幼苗期の防除では薬害の発生が問題となる。このような問題に対して、例えば特許文献1には、銅剤による薬害の程度を緩和させた、銅剤とトリホリンとを有効成分として含有する農園芸用殺菌剤組成物が記載されている。
また、銀イオンは比較的高い抗菌活性と安全性を有することが知られており、銀を無機化合物に担持又はイオン交換させた抗菌剤を使用した抗菌性樹脂組成物が多数提案されている。例えば特許文献2及び3には、銀及び有機酸アニオン含有アルミニウム硫酸塩水酸化物粒子又は銀含有アルミニウム硫酸塩水酸化物粒子からなる抗菌剤を含む農薬が記載されている。
また、より薬害の発生を抑えた殺菌剤としては、殺菌性グアニジン化合物の全炭素数9以上の親油性基を有する付加塩を有効成分とする、薬害性の軽減されたグアニジン系農園芸用殺菌剤が知られている(特許文献4)
【0004】
一方で、このような農薬については、しばしば耐性菌が発生するという問題がある。これまでにも多数の農薬が販売されているが、通常一つの主要病害に対して高い防除効果を示す農薬は3~4グループ程度であり、そのため常に新規の農薬の開発が求められている。また、特に細菌病に対する農薬は種類が少なく、また防除効果も十分でない場合が多い。さらに、耐性菌は化学的・生化学的に共通の作用機構である同じグループの農薬の連用によって発生することがある。そのため、病原菌に対して新規の耐性菌が発生しにくい農薬の開発が必要である。
【0005】
また、植物病害の防除にあたっては、環境保全に配慮した防除方法が強く求められている。動植物への影響や環境汚染へのリスクを考慮し、化学農薬などについては総使用回数や使用量の制限が課せられている場合が多い。また、平成29年度では、農薬の散布中、又は誤用による中毒が20件(37人)発生しており、消費者だけではなく生産者にとっても安全で安心に使用できる農薬の開発に需要がある。
このような背景もあって、近年では有機栽培が広がりつつあり、有機栽培にも利用できる新たな農薬の開発に期待が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-290993号公報
【文献】特開2007-039442号公報
【文献】特開2007-039444号公報
【文献】特開昭60-178801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
植物病害の病原菌の一種である糸状菌や細菌に対しては、一般的にそれぞれ異なる防除作用や抗菌作用を有する農薬が使用されることが多く、有用作物の収穫までに複数の農薬の使用が必要となる。そのため、安全で安心できる使用、防除費軽減などの観点から、糸状菌病や細菌病の両者に効果のある農薬の開発が急務となっている。そのことにより、農薬全体の総使用量の低減が期待される。
さらに、病原菌に対して強い防除効果、抗菌効果を有する農薬は、同時に植物体の正常な生育を妨げる(薬害を発生させる)場合が多く、農薬によっては使用できる植物体の生育ステージが限られ、必ずしも使い勝手が良いものとは言えない現状があった。これまでにも、薬害の発生を抑えた農薬が開発されてきているが、薬害の発生を抑えることと、高い防除効果、汎用性とを両立させることは困難であった。
このことから、様々な病害(特に、糸状菌病及び細菌病の両者に起因する病害)、病原菌(特に、糸状菌病菌及び細菌病菌の両者)に対して高い防除効果、抗菌効果を有しながら、植物の種類や生育ステージに関わらず安全に使用でき、薬害発生のリスクが抑えられ、さらには人体にも安全で自然環境への負荷の少ない防除剤・抗菌剤の開発に需要がある。
【0008】
本発明は、糸状菌病及び細菌病両者の病害を防除でき、人体に安全で且つ環境への負荷が少なく、さらに薬害の発生リスクを抑制できる、植物病害防除剤の提供を課題とする。
また本発明は、各種糸状菌及び細菌の両者に対して抗菌活性を有する抗菌剤の提供を課題とする。
また本発明は、前記植物病害防除剤又は抗菌剤を用いて、植物病害を防除する方法の提供を課題とする。
また本発明は、前記植物病害防除剤又は抗菌剤を用いて、植物の正常な成長を維持させる方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ラウリン酸とは、ココナッツオイルなどの植物油などに多く含まれる高級脂肪酸であり、食用として用いる他、可塑剤、化粧品等の乳化剤、石鹸や洗剤等の洗浄剤、繊維処理剤、又は毛髪リンス剤としても広く利用されている。
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、ラウリン酸又はその塩を含有する溶剤で植物体を処理することにより、人体や自然環境に安全でありながら、糸状菌病及び細菌病などの病害やこれらの原因となる病原菌に対して高い防除効果、抗菌作用を発揮する一方で、処理された植物体には薬害が認められず、植物を健全に生育させることができることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0011】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
(1)
ラウリン酸又はその塩を有効成分とする植物病害防除剤。
(2)
前記植物が、野菜類である、前記(1)に記載の植物病害防除剤。
(3)
前記病害が、キュウリ斑点細菌病又はコマツナ炭疽病である、前記(1)又は(2)記載の植物病害防除剤。
(4)
前記ラウリン酸塩が、ラウリン酸カリウムである、前記(1)~(3)のいずれか1項記載の植物病害防除剤。
【0012】
(5)
ラウリン酸又はその塩を有効成分とする抗菌剤。
(6)
前記抗菌剤が、野菜類を宿主植物とする病原菌に対する抗菌剤である、前記(5)に記載の抗菌剤。
(7)
前記抗菌剤が、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌及びコレトトリカム(Colletotrichum)属菌からなる群より選ばれる少なくとも1種又は2種以上に対して抗菌効果を示すものである、前記(5)又は(6)記載の抗菌剤。
(8)
前記ラウリン酸塩がラウリン酸カリウムである、前記(5)~(7)のいずれか1項記載の抗菌剤。
【0013】
(9)
前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の植物病害防除剤、又は前記(5)~(8)のいずれか1項に記載の抗菌剤によって、植物の種子又は植物体を処理することを含む、植物病害の防除方法。
(10)
前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の植物病害防除剤、又は前記(5)~(8)のいずれか1項に記載の抗菌剤によって、植物の種子又は植物体を処理することを含む、植物の育成方法
(11)
前記植物病害防除剤又は抗菌剤に植物の種子を浸種処理する工程を含む、前記(9)又は(10)記載の方法。
(12)
前記植物病害防除剤又は抗菌剤を植物体に散布処理する工程を含む、前記(9)又は(10)記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の植物病害防除剤によれば、人体や環境への負荷が少なく、かつ薬害の発生リスクを抑制して、処理された植物を糸状菌病や細菌病から防除することができる。
また本発明の抗菌剤によれば、各種糸状菌及び細菌の生育や増殖を抑制することができる。
また本発明の植物病害の防除方法によれば、人体や環境に安全な状態で、かついずれの植物生育ステージであっても薬害を生じさせずに、植物を糸状菌病や細菌病から防除することができる。
また本発明の植物の生育方法によれば、いずれの植物生育ステージであっても薬害を生じさせず、植物の健全な成長を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
植物病害に対する一般的な防除方法としては、例えば化学的方法、生物的方法、物理的方法、耕種的方法などの方法により病原菌を制御する方法;植物の抵抗力・自然免疫力を高めることによる宿主植物を制御する方法;気温・湿度、肥料、土壌の湿度・pHを調整することにより環境を制御する方法、などが挙げられる。
本発明に用いるラウリン酸又はその塩は、病原菌に対して強い抗菌作用を有しており、さらに植物に抵抗性の誘導を付与していると推察される。本発明に用いるラウリン酸又はその塩が防除効果、抗菌効果を発揮する具体的なメカニズムは定かではないが、ラウリン酸又はその塩が病害菌に直接作用して抗菌作用を発揮するのと同時に、カリウムイオンなどの1価の陽イオンが植物体の健全な成長を維持するので、植物病に対する抵抗力が発揮できると考えられる。
【0016】
(防除剤)
本発明の第1の態様は、ラウリン酸又はその塩を有効成分とする植物病害防除剤である。以下、「本発明の植物病害防除剤」又は「本発明の防除剤」ともいう。
本明細書において、「防除」とは、植物の病害を予防、抑制又は排除することを意味する。
【0017】
前記ラウリン酸塩は、好ましくはカリウムイオン、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、又はアルミニウムイオンとの塩であることが好ましく、中でも、カリウムイオンとの塩であることがより好ましい。
【0018】
本発明に用いるラウリン酸又はその塩は、例えばヤシ油やパーム核油などの天然物から精製することによって得ることもでき、化学的に合成することによって得ることもできる。また、ラウリン酸の生成能を有する微生物を培養して、培養物を精製することにより得ることもできる。本発明に用いるラウリン酸又はその塩は、市販品を用いてもよい。
【0019】
本発明の防除剤は、ラウリン酸又はその塩に加えて、展着剤を含むことが好ましい。展着剤を含むことにより、防除剤で植物を処理した際に、防除剤の付着性や拡展性を高めることができる。展着剤としては、一般展着剤、機能性展着剤、固着剤など、防除剤に一般的に用いられる展着剤を用いることができる。
本発明に用いる展着剤としては、付着性及び浸達性の観点から、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステルが好ましい。
本発明が上記展着剤を含む場合、その含有量は用いる展着剤や防除剤の種類、及び防除方法に応じて適宜設定できる。例えば、散布処理によって防除する場合、適当な濃度に調整した防除剤に対して農薬登録に定められている使用量で展着剤を添加することが好ましい。
【0020】
さらに本発明の防除剤は、上記展着剤以外にも、本発明の効果を妨げない範囲で任意の成分を含有することができる。このような成分としては、例えば展着剤以外の界面活性剤、結合剤、粘着付加材、増粘剤、着色剤、拡展剤、凍結防止剤、固結防止剤、崩壊剤、分解防止剤、防腐剤などが挙げられる。これらの成分は単独で含有されてもよいし、2種類以上を組み合わせて含有されていてもよい。
また、本発明の防除剤は、他の防除剤と組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本発明の防除剤は、例えばDL粉剤、FD剤などの粉剤;粒剤;微粒剤F、細粒剤Fなどの粉粒剤;粉末;顆粒水和剤、フロアブル製剤、サスポエマルション製剤などの水和剤;水溶剤;濃厚エマルション製剤などの乳剤;マイクロエマルション製剤などの液剤;油剤;エアゾル;マイクロカプセル剤;ペースト剤;くん煙剤;くん蒸剤;塗布剤、として使用することができる。また、本発明の防除剤は、例えばジャンボ剤、豆つぶ剤、1キロ粒剤、水面展開剤として使用することもできる。
使用に際しては、適当な濃度に調整した防除剤を植物体に散布することができ、又は適当な濃度に調整した防除剤に種子を浸漬して処理することもできる。
【0022】
本発明の防除剤により病害を防除される植物種は特に限定されないが、種子植物が好ましい。例えば、穀類;イモ類、根菜類、鱗茎類、豆類、ウリ科野菜、なす科果菜類、アブラナ科野菜、葉菜類、茎野菜類、食用花類などの野菜類;かんきつ類、仁果類、核果類、ベリー類等の小粒果実類などの果樹類;牧草類;芝類;香料など特用作物類;花卉類;樹木類などが挙げられる。なかでも野菜類や果樹類が好ましく、野菜類がより好ましい。
野菜類としては、例えば、キュウリ、コマツナ、イチゴ、キャベツ、トマト、ホウレンソウ、ブロッコリー、レタス、タマネギ、ネギ、ピーマン、ナス、コールラビ、ハクサイ、カラシナ、ブロッコリー、カリフラワー、シュンギク、アーティチョーク、レタス、アスパラガス、パセリ、セロリ、アメリカボウフウ、フダンソウ、ペッパー、オクラ、ニラ、などが挙げられる。中でも、キュウリ及びコマツナが好ましい。
果樹類としては、例えばキウイフルーツが挙げられる。
また、上記植物は、遺伝子組み換え植物であってもよい。
【0023】
本発明の防除剤は、植物病害に対して優れた防除効果を有する。植物病害としては、子嚢菌、担子菌、ツボカビ菌、接合菌などの糸状菌や細菌により引き起こされる植物病害(糸状菌病や細菌病)が挙げられる。本発明の防除剤は、糸状菌病と細菌病の両方の防除に好適に用いることができる。具体的な植物病害としては、例えば「日本植物病名目録(2020年1月版)(日本植物病理学会編)」に記載される植物病害が挙げられる。
【0024】
糸状菌病の具体例としては、例えば、フザリウム(Fusarium)属菌、ピリクラリア(Pyricularia)属菌、コクリオボルス(Cochliobolus)属菌、ポドスフェラ(Podosphaera)属菌、コレトトリカム(Colletotrichum)属菌、シュードペロノスポラ(Pseudoperonospora)属菌、ベンチュリア(Venturia)属菌、エリシフェ(Erysiphe)属菌、ボトリチス(Botrytis)属菌、リゾクトニア(Rhizoctonia)属菌、パクシニア(Puccinia)属菌、セプトリア(Septoria)属菌、スクレロティニア(Sclerotinia)属菌、ピシウム(Pythium)属菌、スフェロテカ(Sphaerotheca)属菌、などの糸状菌に起因する植物病害が挙げられる。細菌病の具体例としては、例えば、アシドボラックス(Acidovorax)属細菌、バークホルデリア(Burkholderia)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、などの細菌に起因する植物病害が挙げられる。
ここで、「糸状菌」とは、分枝した糸状の菌糸体で栄養成長する微生物(菌類、かび)である。また、「細菌」とは、一般的に大きさが1~2μm程度の単細胞からなる微生物である。
【0025】
また本発明の防除剤は、特にウリ科植物の病害に対して効果的に用いることができる。ウリ科植物であるキュウリを宿主植物とする植物病害としては、例えば、青枯病(細菌病、病原菌:Ralstonia
solanacearum)、黄色かさ斑細菌病(細菌病、病原菌:Pseudomonas
syringae)、褐色かさ斑細菌病(細菌病、病原菌:Pseudomonas
syringae)、褐斑細菌病(細菌病、病原菌:Xanthomonas
cucurbitae)、軟腐病(細菌病、病原菌:Pectobacterium
carotovorum)、斑点細菌病(細菌病、病原菌:Pseudomonas
syringae pv. lachrymans)、縁枯細菌病(細菌病、病原菌:Pseudomonas
marginalis pv. marginalis、Pseudomonas
viridiflava)、うどんこ病(糸状菌病、病原菌:Golovinomyces
cucurbitacearum、Leveillula
taurica、Podosphaera
xanthii)、疫病(糸状菌病、病原菌:Phytophthora
melonis、Phytophthora
nicotianae)、果実腐敗病(糸状菌病、病原菌:Fusarium
pallidoroseum)、褐斑病(糸状菌病、病原菌:Corynespora
cassiicola)、環紋葉枯病(糸状菌病、病原菌:Cristulariella
moricola)、菌核病(糸状菌病、病原菌:Sclerotinia
sclerotiorum)、黒星病(糸状菌病、病原菌:Cladosporium
cucumerinum)、こうがいかび病(糸状菌病、病原菌:Choanephora
cucurbitarum)、黒点根腐病(糸状菌病、病原菌:Monosporascus
cannonballus)、黒斑病(糸状菌病、病原菌:Alternaria
alternata、Alternaria
cucumerina)、白絹病(糸状菌病、病原菌:Sclerotium
rolfsii)、炭腐病(糸状菌病、病原菌:Macrophomina
phaseolina)、立枯病(糸状菌病、病原菌:Globisporangium
splendens)、炭疽病(糸状菌病、病原菌:Colletotrichum
orbiculare)、つる枯病(糸状菌病、病原菌:Didymella
bryoniae)、つる割病(糸状菌病、病原菌:Fusarium
oxysporum)、苗立枯病(糸状菌病、病原菌:Pythium
cucurbitacearum、Pythium
debaryanum、Rhizoctonia
solani)、根腐病(糸状菌病、病原菌:Pythium
aphanidermatum、Pythium
myriotylum、Pythium
volutum)、灰色疫病(糸状菌病、病原菌:Phytophthora
capsici)、灰色かび病(糸状菌病、病原菌:Botrytis
cinerea)、半身萎凋病(糸状菌病、病原菌:Verticillium
dahliae)、斑点病(糸状菌病、病原菌:Cercospora
citrullina)、斑葉病(糸状菌病、病原菌:Stemphylium
cucurbitacearum)、ばら色かび病(糸状菌病、病原菌:Trichothecium
roseum)、変形菌病(糸状菌病、病原菌:Didymium
squamulosum、Physarum
cinereum)、べと病(糸状菌病、病原菌:Pseudoperonospora
cubensis)、ホモプシス根腐病(糸状菌病、病原菌:Phomopsis sp.)、円葉枯病(糸状菌病、病原菌:Helminthosporium
cucumerinum)、紫紋羽病(糸状菌病、病原菌:Helicobasidium
mompa)、輪紋病(糸状菌病、病原菌:Ascochyta
phaseolorum)、及び綿腐病(糸状菌病、病原菌:Pythium
aphanidermatum)などが挙げられる。これらの植物病害の病原菌としては、上述した植物病害の病原菌が挙げられる。
これらのうち、本発明の植物病害防除剤は、キュウリうどんこ病、及びキュウリ斑点細菌病の防除に特に好ましく用いることができる。
【0026】
また本発明の防除剤は、特にアブラナ科植物の病害に対して効果的に用いることができる。アブラナ科植物であるコマツナを宿主植物とする植物病害としては、例えば、黒斑細菌病(細菌病、病原菌:Pseudomonas
cannabina pv. alisalensis、Pseudomonas
syringae pv. maculicola)、萎黄病(糸状菌病、病原菌:Fusarium
oxysporum)、菌核病(糸状菌病、病原菌:Sclerotinia
sclerotiorum)、白さび病(糸状菌病、病原菌:Albugo
macrospora)、炭疽病(糸状菌病、病原菌:Colletotrichum
higginsianum)、灰色かび病(糸状菌病、病原菌:Botrytis
cinerea)、白斑病(糸状菌病、病原菌:Pseudocercosporella
capsellae)、斑葉病(糸状菌病、病原菌:Phoma
wasabiae)、べと病(糸状菌病、病原菌:Hyaloperonospora
brassicae)、及びリゾクトニア病(糸状菌病、病原菌:Rhizoctonia
solani)などが挙げられる。これらの植物病害の病原菌としては、上述した植物病害の病原菌が挙げられる。
これらのうち、本発明の植物病害防除剤は、コマツナ炭疽病の防除に特に好ましく用いることができる。
【0027】
また、本発明の防除剤は、上述した以外にも、例えばイチゴ炭疽病(糸状菌病、病原菌:Glomerella
cingulata、Collletotrichum
acutatum)、トマト斑葉細菌病(細菌病、病原菌:Pseudomonas
syringae pv. tomato)、キウイフルーツかいよう病(細菌病、病原菌:Pseudomonas
syringae pv. morsprunorum)などの病害にも効果的に用いることができる。
【0028】
(抗菌剤)
本発明の第2の態様は、ラウリン酸又はその塩を有効成分として含有する抗菌剤である。
本明細書において「抗菌」とは、菌の増殖を抑制する効果、及び菌を死滅させる効果の両方を含む概念である。
「菌の増殖を抑制する効果、及び菌を死滅させる効果」とは、例えば、病原菌の分裂阻害、糸状菌の菌糸先端の分裂異常、糸状菌の付着器形成阻害、分生子形成阻害、分生子殻形成阻害、分生子層形成阻害、子嚢殻形成阻害、などを原因として引き起こされる効果が挙げられる。
【0029】
本発明の抗菌剤は、子嚢菌、担子菌、ツボカビ菌、接合菌などの糸状菌と、細菌の両者に対して抗菌活性を有する。
具体的には、糸状菌及び細菌の正常な生育・分裂を阻害することができる。
【0030】
本発明の抗菌剤に用いるラウリン酸又はその塩としては、第1の態様で述べたラウリン酸又はその塩を好適に用いることができる。また、抗菌剤に含まれるラウリン酸又はその塩の含有量も、第1の態様と同様の量を含有することができる。
さらに、展着剤や他の成分を、第1の態様と同様の態様で含むことができ、同様の形態(剤型)で使用することができる。
【0031】
本発明が抗菌作用を有する病原菌としては、例えば第1の態様で述べた植物病害を引き起こす病原菌が挙げられる。中でも、細菌であるアシドボラックス属細菌、バークホルデリア属細菌、及びシュードモナス属細菌、並びに糸状菌であるフザリウム属菌、ピリクラリア属菌、コクリオボルス属菌、ポドスフェラ属菌、及びコレトトリカム属菌からなる群より選ばれる少なくとも1種又は2種以上の病原菌に対して、優れた抗菌活性を有する。
【0032】
(植物病害の防除方法)
本発明の第3の態様は、上記の植物病害防除剤(第1の態様)又は抗菌剤(第2の態様)によって、植物の種子や茎葉、土壌を処理することを含む、植物病害の防除方法である。
本発明の防除剤又は抗菌剤の処理は、病害の抑制又は排除、及び病原菌の増殖抑制又は病原菌を死滅させるために処理すること、並びに病害発生の予防するために処理することを含む。
【0033】
本発明の植物病害の防除方法における、前記防除剤又は抗菌剤を処理する方法は特に限定されず、対象となる植物種、病害菌の種類や感染程度、施用範囲、剤型に応じた方法で行うことができる。具体的には、種子浸漬処理、種子紛衣処理、種子塗布処理、種子吹き付け処理、植物体への散布処理、覆土への混和、床土への混和、育苗箱への施用、液剤かん注、側条施用、水面施用、無人飛行機による散布等が挙げられる。中でも、本発明の防除方法には、種子浸漬処理又は植物体への散布処理を好ましく適応できる。また、防除剤又は抗菌剤は、前述した剤型を、処理の目的に応じて適切に選択することが好ましい。さらに、たとえば農薬キャリアーなどを用いて防除剤又は抗菌剤を調整し、散布することも好ましい。
また、例えば対象となる植物がキュウリやコマツナである場合、植物体の葉や茎に防除剤又は抗菌剤を散布することが好ましい。
【0034】
本発明の防除剤は、糸状菌病及び細菌病の両者を効果的に防除することができ、また本発明の抗菌剤は糸状菌及び細菌の両者に対して抗菌活性を示す。したがって本発明の植物病害の防除方法によれば、本発明の防除剤又は抗菌剤の総使用回数を、他の複数の農薬を使用した場合の総使用回数に比べて低減することができる。
また、本発明の防除剤又は抗菌剤の処理では、処理後の植物体において生育抑制や葉の黄化などの薬害が発生しにくいことから、例えば薬害が顕著に表れやすい幼苗期の植物体に対しても本発明の防除剤又は抗菌剤を処理することができる。また、環境の温度変化による影響も受けづらく、季節を問わず植物体に処理をすることができる。
【0035】
本発明の防除剤又は抗菌剤は、そのまま用いてもよいし、前記防除剤又は抗菌剤を溶媒で溶解ないし希釈して用いてもよく、適宜希釈して用いることが好ましい。希釈して用いる場合、使用する溶媒は水であることが好ましい。適切な希釈倍率は、本発明の防除剤、抗菌剤が含有する有効成分量、対象となる病害やその病原菌の種類、宿主植物の種類やその生育ステージ、防除剤及び抗菌剤の処理方法などによって適宜決定することができる。例えば、本発明の防除剤又は抗菌剤は、100倍~1600倍に希釈して用いることもでき、200倍~800倍に希釈して用いることも好ましい。
本発明の植物病害の防除方法において、使用する防除剤又は抗菌剤に含まれるラウリン酸又はその塩の含有量は、目的に応じて適宜設定することができる。
【0036】
病害の抑制又は排除、並びに病原菌の増殖抑制又は病原菌を死滅させる目的で本発明の防除剤又は抗菌剤を施用する場合、対象となる病害やその病原菌の種類、宿主植物の種類やその生育ステージなどによって本発明の防除剤又は抗菌剤の希釈倍率を適宜決定することができる。希釈倍率としては、上記と同様の希釈倍率が挙げられる。
さらに、本発明の防除方法が病害発生の予防を目的とする場合、病害の抑制又は排除、並びに病原菌の増殖抑制又は病原菌を死滅させる目的の場合と比べて、防除剤又は抗菌剤の処理量を少なくすることが好ましい。
【0037】
本発明の防除剤又は抗菌剤の処理回数は、対象となる植物種、防除する菌種、防除方法などによって適宜設定することができる。例えば植物体への散布処理の場合、植物の生育に合わせて複数回処理をすることが好ましい。
また、本発明の防除剤又は抗菌剤を複数回使用するときの使用頻度は、対象となる植物種、防除する菌種、防除方法などによって適宜設定することができるが、対象病害の発生前または初期に予防的に散布処理することが好ましい。また、通常一定以上の間隔を空けて使用し、処理間隔は、宿主植物の成長、病勢に適合することがより好ましい。
【0038】
(植物の育成方法)
本発明の第4の態様は、上記の植物病害防除剤又は抗菌剤によって、植物の種子や植物体を処理することを含む、植物の育成方法である。
本発明の植物の育成方法は、前述した本発明の防除方法(第3の態様)と同様の方法によって処理することができる。
【0039】
本発明の植物の育成方法は、本発明の防除剤又は抗菌剤を植物体に処理することで、植物の生育を促進することができる。具体的には、本発明の防除剤又は抗菌剤を処理することで、植物の葉の色をより濃くすることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、実施例において、例えば「キュウリ斑点細菌病」とあるのは、「キュウリを宿主植物とする斑点細菌病」を意味する。他の病害についても同様である。また、実施例において、「キュウリ斑点細菌病菌」とあるのは、「キュウリ斑点細菌病の原因となる病原菌」を意味する。他の病原菌についても同様である。
【0041】
試験例1 キュウリ斑点細菌病に対するラウリン酸カリウムの防除試験
(1)供試作物の育成
供試作物として、キュウリ(Cucumis
sativus、品種:ゆうみ637)を用いた。
培養土(育苗培土 野菜・草花育苗用、タキイ種苗株式会社製)を、合成樹脂製ポット(直径12cm、高さ10cm)に高さ9cmまで充填し、キュウリ種子を1ポットにつき1株となるように播種し、20~30℃の温室内で育成管理した。
【0042】
(2)防除剤処理
ラウリン酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、蒸留水1000mLに2g溶解させた溶液を調製し、さらに展着剤として、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル(商品名:アプローチBI(登録商標)、花王株式会社製)を、前記溶液に対して1000倍希釈となるように加えて、ラウリン酸カリウム溶液(500倍液)を調製し、防除剤として用いた。また対照試験に用いる防除剤としては、化学農薬である銅水和剤(商品名:クプロシールド、エス・ディー・エス バイオテック株式会社製)を蒸留水に1000倍で希釈して用いた。なお、薬剤処理しない区画には、上記展着剤を蒸留水に1000倍で希釈したもの(展着剤加用蒸留水)を用いた。
第2本葉展開中のキュウリ(播種後14日目)に対し、上記ラウリン酸カリウム溶液、銅水和剤、又は展着剤加用蒸留水を、処理量が1株あたり30mLとなるように手動噴霧器で散布処理した。なお、試験は各防除剤処理につき7ポット(7株)供し、3連制で行った。
【0043】
(3)病原菌の接種
キュウリ斑点細菌病菌の菌株(細菌、MAFF730050菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)を、Potato Peptone Glucose Agar (PPGA)培地(組成:ジャガイモ 200gの煎汁 1000mL、ペプトン 5g、グルコース 5g、Na2HPO4・12H2O 3g、KH2PO4 0.5g、NaCl 3g、寒天 18g)に植菌し、25℃で2日間静置培養して接種用細菌を得た。病原菌の濃度が108個cfu/mLとなるように調製し、上記防除剤の処理1日後に、調製した本病菌懸濁液50mLを全供試株に手動噴霧器で噴霧接種し、接種後24時間多湿条件下(温度:25℃)に置いた。接種24時間後、植物体のポットを温室に移して生育させた。
(4)防除効果の測定
発病調査は、病原菌の接種から5日後に第1本葉及び第2本葉それぞれの葉1枚当たり斑点数を計測し、下記式(1)を用いて防除価を算出した。なお、計測は各処理に対して、全株について行った。下記式中、「処理区」とは各防除剤で処理した区画を、「無処理区」とは各防除剤で処理していない区画(展着剤加用蒸留水で処理した区画)を意味する。
防除価=100-{(処理区の病斑数/無処理区の病斑数)×100} 式(1)
【0044】
試験結果を表1及び2に示す。また、薬害調査は随時目視による観察によって行い、下記表中の薬害に対する評価で「-」とあるのは、防除剤処理後、防除効果測定時までの期間に薬害作用(防除剤処理による葉身の黄化及び生育抑制)を認めなかったことを、「+」とあるのは、同期間に薬害作用(防除剤剤処理による生育抑制、葉身の黄化)が認められたことを意味する。
【0045】
【0046】
【0047】
表1及び2に示される通り、ラウリン酸カリウムは、細菌病であるキュウリ斑点細菌病に対して高い防除効果を示すことがわかった。さらに、銅水和剤に比べて、ラウリン酸カリウムはより高い防除効果を示すことがわかった。また、銅水和剤で処理したキュウリの本葉は葉が黄化して生育抑制が認められるのに対し、ラウリン酸カリウムで処理したキュウリの本葉はそのような生育抑制が見られなかった。
【0048】
試験例2 ラウリン酸カリウム散布処理がキュウリ葉色に及ぼす影響
試験例1の防除試験に供したキュウリ第2本葉の葉色を「FHK葉色カラースケール」(FHK富士平工業株式会社製)を用いて調査した。なお、FHK葉色カラースケールは葉色指数の数値が小さいほど黄緑色に近く、数値が大きいほど深緑色に近い。
【0049】
試験結果を表3に示す。なお、表中の葉色指数は、第2本葉20~21枚の葉色指数の平均値である。
【0050】
【0051】
表3からわかるように、ラウリン酸カリウムで処理したキュウリの第2本葉は、銅水和剤や展着剤のみを処理したものに比べて、葉色指数が大きく、より深緑色に近いことがわかった。
【0052】
試験例3 コマツナ炭疽病に対するラウリン酸カリウムの防除効果
(1)供試作物の育成
供試作物として、コマツナ(Brassica
rapa var. perviridis、品種:いなむら)を用いた。
培養土(育苗培土 野菜・草花育苗用、タキイ種苗会社製)を、合成樹脂製ポット(直径9cm、高さ8cm)に高さ7cmまで充填し、コマツナ種子を1ポットにつき1株となるように播種し、20~30℃の温室内で育成管理した。
【0053】
(2)防除剤処理
ラウリン酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、蒸留水1000mLに5g溶解させた溶液を調製し、さらに展着剤として、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステル(商品名:アプローチBI(登録商標)、花王株式会社製)を、上記溶液に対して1000倍希釈となるように加えて、ラウリン酸カリウム溶液(200倍液)を調製し、防除剤として用いた。また対照試験に用いる防除剤としては、化学農薬であるマンデストロビン水和剤(商品名:スクレアフロアブル(登録商標)、住友化学株式会社製)を蒸留水に2000倍で希釈して用いた。なお、薬剤処理しない区画には、上記展着剤を蒸留水に1000倍で希釈したもの(展着剤加用蒸留水)を用いた。
播種後3週目のコマツナに対し、上記ラウリン酸カリウム溶液、マンデストロビン水和剤及び展着剤加用蒸留水を、処理量が1株あたり30mLとなるように手動噴霧器で散布処理した。なお、各薬剤処理につき10ポットを供し、3連制で行った。
【0054】
(3)病原菌の接種
コマツナ炭疽病菌の菌株(糸状菌、MAFF305635菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)を、ポテトデキストロース培地(PDA培地、富士フイルム和光純薬株式会社製)に植菌し、25℃で10日間培養した。病原菌の濃度が104分生子/mLとなるように調製し、上記防除剤の処理1日後に、本病菌分生子の懸濁液50mLを全供試株に手動噴霧器で噴霧接種し、接種後2日間多湿条件下(温度:25℃)に置いた。接種2日後、植物体のポットを温室に移して生育させた。
(4)防除効果の測定
接種後5日目のコマツナの1株当たりの斑点数を計測し、上記式(1)を用いて防除価を算出した。なお、計測は各薬剤処理につき全ポットについて行った。
【0055】
試験結果を表4に示す。なお、表中の病斑数及び防除価は、供試株(30株)の平均値である。また、薬害調査は随時目視による観察によって行い、下記表中の薬害に対する評価で「-」とあるのは、防除剤処理後、防除効果測定時までの期間に薬害作用(薬剤処理による葉身の黄化及び生育抑制)を認めなかったことを意味する。
【0056】
【0057】
表4に示される通り、本発明の防除剤で処理したコマツナでは、展着剤のみを処理したものと比べて、病斑の発生が抑えられることがわかった。このことから、本発明の防除剤は糸状菌病であるコマツナ炭疽病に対して高い防除効果を示すことがわかった。また、本発明の防除剤を処理しても生育抑制などの薬害が認められないことがわかった。
【0058】
これらのことから、ラウリン酸又はその塩を有効成分として有する本発明の防除剤を処理することで、糸状菌病と細菌病のいずれの植物病害に対して高い防除効果を示すことがわかった。また、本発明の防除剤を処理しても植物体に薬害が認められず、さらに葉の色をより深い緑色に改質する効果を示すことがわかった。
【0059】
試験例4 ディスク拡散法試験によるキュウリ斑点細菌病菌に対する抗菌活性測定
キュウリ斑点細菌病菌の菌株(細菌、MAFF730050菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)をPPGA培地(試験例1と同様の組成)に植菌し、25℃で2日間静置培養し、滅菌水に懸濁してマクファーランド濁度が0.5の菌懸濁液を調製した。供試菌の接種は、滅菌綿棒に供試菌懸濁液を染み込ませ、PPGA培地に塗布培養した。
ラウリン酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、超純水1000mLに5g溶解させてラウリン酸カリウム溶液(200倍液)を調製し、さらにラウリン酸カリウム溶液(200倍液)を、超純水を用いて段階希釈したラウリン酸カリウム溶液(400~3200倍液)を調製した。対照試験としては、超純水を用いた。その後、直径10mmのペーパーディスク(No.6濾紙(東洋濾紙株式会社製)をコルクボーラーにて直径10mmに打ち抜いたもの)を各溶液に浸漬し、アルミホイル上で風乾した。供試溶液を染み込ませたペーパーディスクを本病菌培養PPGA培地に等間隔に置床(3ディスク/ペトリ皿)した。25℃で3日間静置培養した後に、阻止円の形成を目視にて観察した。
【0060】
試験結果を表5に示す。なお、下記表中「+」とあるのは、供試ディスクのうち少なくとも1つについて阻止円形成が認められたことを、「-」とあるのは、いずれの供試ディスクにおいても阻止円形成が認められなかったことを意味する。また、表中の数値(n/供試ディスク数)は、供試ディスク数あたりの阻止円形成が認められたディスク数を示す。
【0061】
【0062】
表5からわかるように、ラウリン酸カリウム溶液(200倍液、400倍液、800倍液)に浸漬したペーパーディスクでは、阻止円の形成が認められた。
【0063】
試験例5 キュウリ斑点細菌病菌のコロニー形成
試験例4に準じて、キュウリ斑点細菌病菌の菌株(細菌、MAFF730050菌株、農研機構 農業生物資源ジーンバンクより入手)を培養し、菌懸濁液を調製した。供試培地は、ラウリン酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を、PPGA培地(試験例1と同様の組成)に対して重量基準で1/200倍量から1/3200倍量となるように添加し、各ラウリン酸カリウム添加PPGA培地を作製した。その後、本病菌懸濁液を各培地上に均一に塗布し、25℃で3日間静置培養し、コロニー形成状況を観察した。
【0064】
試験結果を表6に示す。なお、下記表中「+」とあるのは、コロニー形成が認められたことを、「-」とあるのは、コロニー形成が認められなかったことを意味する。
【0065】
【0066】
表6からわかるように、ラウリン酸カリウムを適量添加したPPGA培地(1/200倍)では、キュウリ斑点細菌病菌のコロニー形成が見られないことがわかった。
【0067】
以上のことから、本発明の抗菌剤は、植物病害の病原菌に対して抗菌活性を有することがわかった。
【0068】
よって本発明の防除剤は、処理された植物体に薬害を生じさせずに、むしろ植物体の健康な成長を促しつつ、植物病害を効果的に防除することができる。また、本発明の抗菌剤は、植物病害の原因となる病原菌に対して高い抗菌活性を有する。さらに本発明の防除剤及び抗菌剤の有効成分であるラウリン酸又はその塩を使用することにより、得られる防除剤又は抗菌剤は人体にとって安全であり、さらに環境汚染のリスクも抑えることができる。