(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/73 20060101AFI20240816BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240816BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20240816BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20240816BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240816BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20240816BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20240816BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240816BHJP
C12N 5/074 20100101ALN20240816BHJP
【FI】
A61K36/73 ZNA
A61P43/00 105
A61P17/16
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q1/00
A61Q19/10
A23L33/105
C12N5/074
(21)【出願番号】P 2020122039
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2023-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田所 修平
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 寿
(72)【発明者】
【氏名】野場 翔太
(72)【発明者】
【氏名】深田 紘介
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-119432(JP,A)
【文献】特開平03-127714(JP,A)
【文献】特開2017-124984(JP,A)
【文献】Journal of Investigative Dermatology,2004年,Vol.122, Issue 4, pp.971-983
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61P 17/00-17/18
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニワウメの
熱水抽出物を有効成分として含有する、表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤
(美白用、肌荒れ防止及び肌荒れ改善用、セラミド量の低下が原因となる疾患の症状の改善又は治療用、保湿用、シワの改善用、アトピー性皮膚炎の症状改善用ならびにシミの予防用を除く)。
【請求項2】
請求項1に記載の剤を含有する、表皮幹細胞の分化機能低下又は不全により、正常に表皮角化細胞が形成されないことに起因する疾患又は病態の治療、改善及び予防用皮膚外用剤
(美白用、肌荒れ防止及び肌荒れ改善用、セラミド量の低下が原因となる疾患の症状の改善又は治療用、保湿用、シワの改善用、アトピー性皮膚炎の症状改善用ならびにシミの予防用を除く)。
【請求項3】
請求項1に記載の剤を含有する、表皮幹細胞の分化機能低下又は不全により、正常に表皮角化細胞が形成されないことに起因する疾患又は病態の治療、改善及び予防用医薬品
(美白用、肌荒れ防止及び肌荒れ改善用、セラミド量の低下が原因となる疾患の症状の改善又は治療用、保湿用、シワの改善用、アトピー性皮膚炎の症状改善用ならびにシミの予防用を除く)。
【請求項4】
請求項1に記載の剤を含有する、表皮幹細胞の分化機能低下又は不全により、正常に表皮角化細胞が形成されないことに起因する疾患又は病態の治療、改善及び予防用食品
(美白用、肌荒れ防止及び肌荒れ改善用、セラミド量の低下が原因となる疾患の症状の改善又は治療用、保湿用、シワの改善用、アトピー性皮膚炎の症状改善用ならびにシミの予防用を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラ科に属するニワウメ(Prunus japonica)の抽出物を含有することを特徴とする表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎動物、特に哺乳動物の組織は、傷害もしくは疾患、又は加齢などに伴い細胞・臓器の損傷が起こった場合、再生系が働き、細胞・臓器の損傷を回復しようとする。この作用に、当該組織に備わる幹細胞が大きな役割を果たしている。幹細胞は、あらゆる細胞・臓器に分化する多能性を有しており、この性質により細胞・臓器の損傷部を補うことで回復に導くと考えられている。このような幹細胞を、生体外において培養し、目的の細胞に分化誘導させ、再生したい臓器や組織に類似した3次元的な構築を行うといった、次世代の技術である再生医療や再生美容に期待が集まっている。
【0003】
哺乳動物の幹細胞研究において、近年、骨髄、肝臓、膵臓、脂肪、皮膚など、あらゆる臓器・組織に幹細胞が存在することが明らかにされ、各臓器・組織の再生および恒常性維持を司っていることがわかってきた(非特許文献1~4)。皮膚内における幹細胞は、表皮及び真皮に存在していると考えられており(非特許文献5,6)、それらは多分化能を示し、皮膚の細胞にも分化可能であると考えられる(非特許文献7)。
【0004】
皮膚は、外部からの様々な環境因子(紫外線や乾燥等)に対するバリア機能において、重要な役割を果たしている。特に、表皮角化細胞は、皮膚の中でも最表面の層である表皮の大部分を占めており、それらの環境因子から体を守る重要な細胞である。表皮角化細胞は、表皮の最下層の基底層で分裂し、上層に向かって移動するとともに、分裂能を失って分化していき、有棘層、顆粒層を経て、最上層の角質層に到達して角質細胞に分化する。角質層は表皮角化細胞の最終分化産物であり、やがて皮膚より剥がれ落ちる。この表皮角化細胞の増殖と分化の過程はターンオーバーと呼ばれており、表皮幹細胞は、この表皮のターンオーバーに重要な役割を果たしていると考えられている(非特許文献8)。よって、ターンオーバーの正常化と、より強固な表皮バリア機能を発揮するためには、表皮幹細胞を最外層の角質層へと分化を導くことが重要である。
【0005】
ニワウメ(学名:Prunus japonica)は、バラ目バラ科スモモ属に属する落葉低木であり、生薬の郁李仁(イクリニン)はニワウメの種子を乾燥させたもので、緩下、利尿に効用があるとして用いられている。その他のニワウメの薬効としては自然保湿因子(NMF)成分産生促進効果(特許文献1)及びペルオキシソーム増殖剤応答性受容体活性化効果(特許文献2)を有すること等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-20225号公報
【文献】特開2007-119432号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Goodell M. F., et al., Nat. Med., 1997,3,1337-1345
【文献】Zulewski H., et al., Diabetes, 2001,50,521-533
【文献】Suzuki A., et al., Hepatology, 2000,32,1230-1239
【文献】Zuk P. A., et al., Tissue Engineering, 2001,7,211-228
【文献】Bickenbach Jr., et al., J. Invest. Dermatol., 1987,88,42-46
【文献】Chen FG., et al., J. Cell Sci.,2007,120,2875-2883
【文献】Fuchs E., et al., Dev. Cell, 2001, Jul.1(1),13-25, Review.
【文献】Clayton E.ら, Nature, 2007年, 446, pp.185-189
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
安全で安定性に優れ、表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進効果に優れた素材が望まれているが、未だ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような事情により、本発明者らは鋭意検討した結果、ニワウメの抽出物が優れた表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進作用を有していることを見出した。さらに、その抽出物を含有する外用剤が、安全で安定であり、シミやくすみを改善する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)ニワウメの抽出物を有効成分として含有する、表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤。
(2)(1)に記載の剤を含有する、表皮幹細胞の分化機能低下又は不全により、正常に表皮角化細胞が形成されないことに起因する疾患又は病態の治療、改善及び予防用皮膚外用剤。
(3)(1)に記載の剤を含有する、表皮幹細胞の分化機能低下又は不全により、正常に表皮角化細胞が形成されないことに起因する疾患又は病態の治療、改善及び予防用医薬品。
(4)(1)に記載の剤を含有する、表皮幹細胞の分化機能低下又は不全により、正常に表皮角化細胞が形成されないことに起因する疾患又は病態の治療、改善及び予防用食品。
(5)表皮幹細胞を、ニワウメの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進方法。
(6)表皮幹細胞を、ニワウメの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、表皮角化細胞の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ニワウメの抽出物を有効成分として含有する表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤が提供される。従って、本発明は、表皮幹細胞の分化機能低下又は不全により、正常に表皮角化細胞が形成されないことに起因する疾患又は病態の治療、改善及び予防に、有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いるニワウメ(学名:Prunus japonica、別名:コニワザクラ、チョウコウイクリ)は、バラ目バラ科スモモ属に属する落葉低木であり、中国北部原産で、日本各地で観賞用に栽培されている。
【0013】
本発明において、ニワウメの抽出物は、その花、果実、種子、幹、樹皮、根等の植物体の一部又は植物体全体、あるいはそれらの混合物の抽出物をいうが、本発明において抽出原料として使用する部位は、種子が好ましい。又、抽出には、植物体を生のまま使用しても良く、前処理として、乾燥、粉砕、細切等の処理を行っても良い。
【0014】
抽出溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)が挙げられる。好ましくは、水、低級アルコール及び液状多価アルコール等の極性溶媒が良く、特に好ましくは、水、エタノール、1,3-ブチレングリコール及びプロピレングリコールが良い。これらの溶媒は一種でも二種以上を混合して用いても良い。また、これらの溶媒に酸やアルカリを添加して、pHを調整した溶媒を用いることもできる。また、抽出方法は、特に限定されないが、例えば、連続抽出や浸漬抽出が挙げられる。抽出温度は、加熱抽出であっても良いし、常温抽出や冷温抽出であっても良く、抽出物の使用用途や抽出溶媒等によって、適宜選択できる。
【0015】
本発明に用いる抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良いが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等による濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色や脱臭等の処理を行ってから用いても良い。更には、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0016】
このようにして得られたニワウメの抽出物は、生体レベル又は培養レベルで、表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤として使用できる。本発明に係る表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤は、表皮幹細胞を、表皮角化細胞へと効率的に分化させるための表皮幹細胞培養用培地添加剤、研究用試薬としても使用することができる。
【0017】
本発明に係る表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤を、ヒトを含めた哺乳動物の表皮幹細胞に適用することで、表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化を促進することができる。
【0018】
本発明に係る表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤は、有効成分であるニワウメの抽出物が優れた表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進作用を有するので、表皮幹細胞の分化機能低下又は不全により、正常に表皮角化細胞が形成されないことに起因する疾患又は病態を治療、改善及び予防するのに有効である。ここで、その疾患又は病態としては、例えば、シミ、くすみ、熱傷、創傷、瘢痕、ケロイド、角質肥厚、毛穴のひらき、ニキビ痕、肌荒れ、乾燥肌、敏感肌、アトピー性皮膚炎、乾癬などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
本発明はまた、表皮幹細胞を、ニワウメの抽出物を含有する培地で培養することで、表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化を促進する方法に関する。換言すれば、本発明に係る方法は、表皮幹細胞を、ニワウメの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進方法、表皮角化細胞の製造方法ということができる。
【0020】
本発明の表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤、皮膚外用剤、医薬品及び食品は、上記抽出物をそのまま使用しても良く、抽出物の効果を損なわない範囲内で、化粧品、医薬部外品、医薬品又は食品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤、甘味料、酸味料等の成分が含有されていても良い。
【0021】
本発明の表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤、皮膚外用剤、医薬品及び食品の剤形としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、錠菓、チョコレート、ガム、飴、飲料、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤、坐剤、注射剤等が挙げられる。注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0022】
外用の場合、本発明に用いる上記抽出物の含有量は、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001~10重量%がより好ましい。さらに、0.01~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を超えると、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0023】
内用の場合、摂取量は年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なる。通常、成人1人当たりの1日の摂取量としては、5mg以上が好ましく、10mg~5gがより好ましい。さらに、20mg~2gが最も好ましい。
【0024】
上記の量はあくまで例示であって、組成物の種類や形態、一般的な使用量、効能・効果などを考慮して適宜設定・調整すればよい。
【0025】
本発明に係る方法において、表皮幹細胞から分化誘導して製造された表皮角化細胞は、一般的に体外で培養後、創傷部や組織を再生させたい部位に直接注射などで移植することが可能である。表皮幹細胞を培養する培地、また同時に用いる添加剤としては、特に限定はされず、表皮幹細胞の分化のために一般的に使用されている培地及び添加剤を用いればよい。
【0026】
具体的には、表皮幹細胞を培養する培地には、幹細胞の生存及び増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む基本培地、例えば、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI 1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12(D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、Hank’s balanced salt solution(ハンクス液)等が挙げられる。また、上記培地には、細胞の増殖速度を増大させるために、必要に応じて、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)等の増殖因子、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、ウシ血清アルブミン(BSA)、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント等を添加してもよく、また、抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン等)等を添加してもよい。さらに、本発明の分化促進剤とは別に、表皮幹細胞から表皮角化細胞への分化誘導因子を添加してもよい。その分化誘導因子としては、例えば、カルシウム塩、リゾフォスファチジン酸(LPA)等が挙げられる。培地の各成分は、滅菌された状態で使用する。
【0027】
また、上記以外には、1~20重量%の含有率で血清が培地に含まれることが好ましい。しかしながら、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
【0028】
上記の本発明に係る表皮幹細胞の分化促進剤あるいは本発明に係る方法に準じて、ニワウメの抽出物を、単独で、あるいは培地と別々に又は培地と混合し、表皮幹細胞の分化促進のための試薬キットとして提供することもできる。当該キットは、必要に応じて取扱い説明書等を含むことができる。あるいは、上記のニワウメの抽出物を培地と混合し、表皮幹細胞の分化促進用培地として提供することもできる。
【0029】
表皮幹細胞の培養に用いる培養器は、表皮幹細胞の培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、シャーレ、ディッシュ、プレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトルなどが挙げられる。培養器は、細胞非接着性であっても接着性であってもよく、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質などで処理したものを用いてもよい。細胞支持用基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。
【0030】
表皮幹細胞培養に使用される培地に対するニワウメの抽出物の添加濃度は、上述の本発明に係る表皮幹細胞の分化促進剤におけるニワウメの抽出物の含有量に準じて適宜決定することができるが、ニワウメの抽出物の乾燥物に換算して、例えば1~10000μg/mL、好ましくは10~5000μg/mL、最も好ましくは50~2000μg/mLの濃度が挙げられる。また、表皮幹細胞の培養期間中、これらの抽出物を定期的に培地に添加してもよい。
【0031】
表皮幹細胞の培養条件は、表皮幹細胞の培養に用いられる通常の条件に従えばよく、特別な制御は必要ではない。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30~40℃、好ましくは約36~37℃である。CO2ガス濃度は、例えば約1~10体積%、好ましくは約2~5体積%である。なお、培地の交換は2~3日に1回行うことが好ましく、毎日行うことがより好ましい。前記培養条件は、表皮幹細胞が生存及び増殖可能な範囲で適宜変動させて設定することもできる。
【0032】
表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化が促進されたか否かのin vitroでの判定は、当業者が通常行う方法によって行うことが可能であり、例えば、本発明に係る表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進剤の非存在下で培養した表皮幹細胞と比較して、本発明に係る表皮幹細胞の分化促進剤の存在下で培養した該幹細胞において表皮角化細胞マーカー遺伝子の発現レベルがmRNAレベル又はタンパク質レベルで有意に高いか否かで評価することができる。表皮角化細胞マーカー遺伝子としては、例えば、LOR(ロリクリン)、FLG(フィラグリン)、IVL(インボルクリン)、OCLN(オクルディン)、CLDN(クローディン)などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0033】
次に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に指定のない場合は、実施例に示す%とは重量%を示す。
【実施例1】
【0034】
(製造例1)ニワウメの熱水抽出物1の調製
ニワウメ(Prunus japonica)の種子の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してニワウメの熱水抽出物1を2.6g得た。
【0035】
(製造例2)ニワウメの50%エタノール抽出物の調製
ニワウメ(Prunus japonica)の種子の乾燥物10gを200mLの50%エタノール水溶液に室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してニワウメの50%エタノール抽出物を1.7g得た。
【0036】
(製造例3)ニワウメのエタノール抽出物の調製
ニワウメ(Prunus japonica)の種子の乾燥物10gを200mLのエタノールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過した後、エバポレーターで濃縮乾固してニワウメのエタノール抽出物を0.2g得た。
【0037】
(製造例4)ニワウメの1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
ニワウメ(Prunus japonica)の種子の乾燥物10gを200mLの1,3-ブチレングリコールに室温で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾過して、ニワウメの1,3-ブチレングリコール抽出物を190g得た。
【0038】
(製造例5)ニワウメの熱水抽出物2の調製
ニワウメ(Prunus japonica)の植物体全体の乾燥物10gに200mLの水を加え、95~100℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してニワウメの熱水抽出物2を3.0g得た。
【実施例2】
【0039】
(処方例1) 化粧水1
処方 含有量(%)
1.ニワウメの熱水抽出物1(製造例1) 2.0
2.1,3-ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~6及び11と、成分7~10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0040】
(比較処方例1) 従来の化粧水
処方例1において、ニワウメの熱水抽出物1(製造例1)を精製水に置き換えたものを、従来の化粧水とした。
【0041】
(処方例2) 化粧水2
処方例1において、ニワウメの熱水抽出物1(製造例1)をニワウメの熱水抽出物2(製造例5)に置き換えたものを、化粧水2とした。
【0042】
(処方例3) クリーム
処方 含有量(%)
1.ニワウメの50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
12.1,3-ブチレングリコール 8.5
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1及び11~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0043】
(処方例4) 乳液
処方 含有量(%)
1.ニワウメのエタノール抽出物(製造例3) 0.01
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分10~13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分9を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0044】
(処方例5) ゲル剤
処方 含有量(%)
1.ニワウメの1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4) 1.0
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
5.香料 適量
6.1,3-ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~5と、成分1及び6~11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0045】
(処方例6) パック
処方 含有量(%)
1.ニワウメの熱水抽出物1(製造例1) 1.0
2.ニワウメの1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4) 5.0
3.ポリビニルアルコール 12.0
4.エタノール 5.0
5.1,3-ブチレングリコール 8.0
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
7.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
8.クエン酸 0.1
9.クエン酸ナトリウム 0.3
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~11を均一に溶解し製品とする。
【0046】
(処方例7) ファンデーション
処方 含有量(%)
1.ニワウメの50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
2.ステアリン酸 2.4
3.ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E.O.) 1.0
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.0
5.セタノール 1.0
6.液状ラノリン 2.0
7.流動パラフィン 3.0
8.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
9.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
10.ベントナイト 0.5
11.プロピレングリコール 4.0
12.トリエタノールアミン 1.1
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.二酸化チタン 8.0
15.タルク 4.0
16.ベンガラ 1.0
17.黄酸化鉄 2.0
18.香料 適量
19.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2~8を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分19に成分9をよく膨潤させ、続いて、成分1及び10~13を加えて均一に混合する。これに粉砕機で粉砕混合した成分14~17を加え、ホモミキサーで撹拌し75℃に保ち水相とする。油相に水相をかき混ぜながら加え、乳化する。その後、冷却し、45℃で成分18を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0047】
(処方例8) 浴用剤
処方 含有量(%)
1.ニワウメのエタノール抽出物(製造例3) 1.0
2.炭酸水素ナトリウム 50.0
3.黄色202号(1) 適量
4.香料 適量
5.硫酸ナトリウムにて全量を100とする
[製造方法]成分1~5を均一に混合し製品とする。
【0048】
(処方例9) 軟膏1
処方 含有量(%)
1.ニワウメの熱水抽出物1(製造例1) 5.0
2.ニワウメの1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4) 1.0
3.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.) 2.0
4.モノステアリン酸グリセリン 10.0
5.流動パラフィン 5.0
6.セタノール 6.0
7.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
8.プロピレングリコール 10.0
9.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分3~6を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1、2及び7~9を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0049】
(処方例10) 軟膏2
処方例9において、ニワウメの熱水抽出物1(製造例1)をニワウメの熱水抽出物2(製造例5)に置き換えたものを、軟膏2とした。
【0050】
(処方例11) 散剤1
処方 含有量(%)
1.ニワウメの熱水抽出物(製造例1) 1.0
2.乾燥コーンスターチ 39.0
3.微結晶セルロース 60.0
[製造方法]成分1~3を混合し、製品とする。
【0051】
(処方例12) 散剤2
処方例11において、ニワウメの熱水抽出物1(製造例1)をニワウメの熱水抽出物2(製造例5)に置き換えたものを、散剤2とした。
【0052】
(処方例13) 錠剤
処方 含有量(%)
1.ニワウメのエタノール抽出物(製造例3) 5.0
2.乾燥コーンスターチ 25.0
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20.0
4.微結晶セルロース 40.0
5.ポリビニルピロリドン 7.0
6.タルク 3.0
[製造方法]成分1~4を混合し、次いで成分5の水溶液を結合剤として加えて顆粒成型する。成型した顆粒に成分6を加えて打錠する。1錠0.52gとする。
【0053】
(処方例14) 錠菓
処方 含有量(%)
1.ニワウメのエタノール抽出物(製造例3) 2.0
2.乾燥コーンスターチ 49.8
3.エリスリトール 40.0
4.クエン酸 5.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
6.香料 0.1
7.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~4及び7を混合し、顆粒成型する。成型した顆粒に成分5及び6を加えて打錠する。1粒1.0gとする。
【0054】
(処方例15) 飲料1
処方 含有量(%)
1.ニワウメの熱水抽出物1(製造例1) 0.05
2.ステビア 0.05
3.リンゴ酸 5.0
4.香料 0.1
5.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1~3を少量の水に溶解する。次いで、成分4及び5を加えて混合する。
【0055】
(処方例16) 飲料2
処方例15において、ニワウメの熱水抽出物1(製造例1)をニワウメの熱水抽出物2(製造例5)に置き換えたものを、飲料2とした。
【0056】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【実施例3】
【0057】
実験例1 表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進効果の評価
表皮幹細胞のモデルとして、ヒト不死化表皮細胞を用いた。ヒト不死化表皮細胞を、φ60mm dishに1×105個播種し、HuMedia KG-2培養液にて、37℃、5体積%CO2条件下で培養した。培養を開始してから24時間後に、各試料(終濃度は表1に記載)を添加したHuMedia KG-2培養液にて72時間培養した後、細胞を回収し、総RNAの抽出を行った。細胞からの総RNAの抽出はRNAiso Plus(タカラバイオ)を用いて行い、総RNA量は分光光度計(Nanodrop)を用いて260nmにおける吸光度により求めた。mRNA発現量の測定は、細胞から抽出した総RNAを基にしてリアルタイムRT-PCR法により行った。リアルタイムRT-PCR法には、PrimerScript RT Master Mix(タカラバイオ)及びSYBR Select Master Mix(ライフテクノロジーズ)を用いた。即ち、500ngの総RNAを逆転写反応後、PCR反応(95℃:15秒間、60℃:60秒間、40cycles)を行った。その他の操作は定められた方法に従い、表皮角化細胞への分化マーカーであるインボルクリン(IVL) mRNAの発現量を、内部標準である18SrRNAの発現量に対する割合として求めた。IVL発現促進率は、コントロール(試料未添加)群のIVL mRNAの発現量に対する試料添加群のIVL mRNAの発現量の比率として算出した。尚、各遺伝子の発現量の測定に使用したプライマーは次の通りである。
【0058】
IVL用のプライマーセット
CCATCAGGAGCAAATGAAACAG(配列番号1)
GCTCGACAGGCACCTTCTG(配列番号2)
18SrRNA用のプライマーセット
TGCACCACCAACTGCTTAGC(配列番号3)
TCTTCTGGGTGGCAGTGATG(配列番号4)
【0059】
これらの実験結果を表1に示した。その結果、本発明のニワウメの抽出物には、優れたIVL発現促進効果(表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進効果)が認められた。
【0060】
【0061】
実験例2 使用試験
処方例1の化粧水1及び比較処方例1の従来の化粧水を用いて、シミ、くすみがある5人(26~66歳)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。使用後、シミ、くすみの程度をアンケートにより判定した。
【0062】
その結果、本発明のニワウメの抽出物を含有する化粧水により、シミ、くすみが軽減した。尚、試験期間中、皮膚トラブルは1人もなく、安全性においても問題なかった。又、処方成分の劣化についても問題なかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のことから、本発明で用いるニワウメの抽出物は、優れた表皮幹細胞の表皮角化細胞への分化促進作用を有し、安定性にも優れていた。よって、本発明で用いるニワウメの抽出物は、再生医療や再生美容を含む医療や美容の分野において利用でき、化粧品、医薬部外品、医薬品及び食品への応用が期待される。
【配列表】