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特許7539136ウイルスベクターによるcas9遺伝子の部位特異的導入方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ウイルスベクターによるcas9遺伝子の部位特異的導入方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240816BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240816BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240816BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20240816BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/867 Z ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/861 Z
C12N15/55
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2020133311
(22)【出願日】2020-08-05
(65)【公開番号】P2022029801
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】林 日出喜
(72)【発明者】
【氏名】久保 嘉直
(72)【発明者】
【氏名】泉田 真生
(72)【発明者】
【氏名】松山 俊文
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-523005(JP,A)
【文献】特表2019-519250(JP,A)
【文献】国際公開第2020/036445(WO,A1)
【文献】特表2017-532001(JP,A)
【文献】国際公開第2020/047353(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/006067(WO,A1)
【文献】Nucleic Acids Research,2015年,Vol.43, No.13,pp.6450-6458
【文献】Nature Biotechnology,2015年,Vol.33, No.7,pp.755-760
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、ex vivoで細胞の所望のゲノム領域にcas9遺伝子またはその変異遺伝子を導入する方法。
(1)細胞でcas9遺伝子またはその変異遺伝子を発現させる工程、
(2)工程(1)で発現したCas9タンパク質またはその変異タンパク質によって細胞の所望のゲノム領域を切断し、該切断部位にcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列を導入する工程、および
(3)工程(1)で発現したCas9タンパク質またはその変異タンパク質によって工程(2)において導入された部分塩基配列を切断し、該切断部位に工程(2)で導入された部分塩基配列以外のcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列を導入し、細胞の所望のゲノム領域でcas9遺伝子またはその変異遺伝子を構築する工程。
【請求項2】
工程(1)が、cas9遺伝子またはその変異遺伝子の塩基配列を含むウイルスベクターを細胞に感染させることによって実施される工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(1)が、細胞のゲノムからcas9遺伝子またはその変異遺伝子を発現させる工程である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(1)のウイルスベクターが、レンチウイルスベクターである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(2)が、以下の塩基配列を含むウイルスベクターを細胞に感染させることによって実施される工程である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
(i)細胞の所望のゲノム領域の塩基配列に相補的な塩基配列、および
(ii)cas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(i)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれた、該部分塩基配列。
【請求項6】
工程(2)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(3)が、以下の塩基配列を含むウイルスベクターを細胞に感染させることによって実施される工程である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
(iii)工程(2)において導入される部分塩基配列に相補的な塩基配列、および
(iv)工程(2)において導入される部分塩基配列以外のcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(iii)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれた、該部分塩基配列。
【請求項8】
工程(3)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
(4)工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子を細胞のゲノムから除去する工程をさらに含む、請求項2~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(4)が、工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列に相補的な塩基配列および下流塩基配列に相補的な塩基配列を含むウイルスベクターを細胞に感染させることによって実施される工程である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(4)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(1)が、ウイルスのゲノムからcas9遺伝子またはその変異遺伝子を発現させる工程である、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
工程(1)のウイルスベクターが、アデノウイルスベクターである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(1)の変異遺伝子が、D10A変異、H840A変異およびN863A変異からなる群から選択される変異を有するCas9タンパク質をコードする遺伝子である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
工程(3)で構築される変異遺伝子がD10A変異、H840A変異およびN863A変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するCas9タンパク質をコードする遺伝子である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
所望のゲノム領域が、aavs1遺伝子座である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
工程(2)で導入される部分塩基配列が、配列番号7または31で表される塩基配列を含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
工程(3)で導入される部分塩基配列が、配列番号17または32で表される塩基配列を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
以下のウイルスベクターを含む、細胞の所望のゲノム領域へのCas9遺伝子またはその変異遺伝子導入キット。
(1)cas9遺伝子またはその変異遺伝子の塩基配列を含むウイルスベクター、
(2)以下の塩基配列を含むウイルスベクター、
(i)細胞の所望のゲノム領域の塩基配列に相補的な塩基配列、および
(ii)cas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(2)(i)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれた、該部分塩基配列、並びに
(3)以下の塩基配列を含むウイルスベクター
(i)上記(2)(ii)の部分塩基配列に相補的な塩基配列、および
(ii)上記(2)(ii)の部分塩基配列以外のcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(3)(i)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列および下流塩基配列に挟まれた、該部分塩基配列。
【請求項20】
(1)のウイルスベクターが、レンチウイルスベクターまたはアデノウイルスベクターである、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
(2)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、請求項19または20に記載のキット。
【請求項22】
(3)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、請求項19~21のいずれか1項に記載のキット。
【請求項23】
(4)上記(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列に相補的な塩基配列および下流塩基配列に相補的な塩基配列を含むウイルスベクターをさらに含む、請求項19~22のいずれか1項に記載のキット。
【請求項24】
(4)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、請求項23に記載のキット。
【請求項25】
(1)のウイルスベクターに含まれる変異遺伝子が、D10A変異、H840A変異およびN863A変異からなる群から選択される変異を有するCas9タンパク質をコードする遺伝子である、請求項19~24のいずれか1項に記載のキット。
【請求項26】
(2)または(3)のウイルスベクターに含まれる変異遺伝子が、D10A変異、H840A変異およびN863A変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するCas9タンパク質をコードする遺伝子である、請求項19~25のいずれか1項に記載のキット。
【請求項27】
所望のゲノム領域が、aavs1遺伝子座である、請求項19~26のいずれか1項に記載のキット。
【請求項28】
(2)のウイルスベクターに含まれる部分塩基配列が、配列番号7または31で表される塩基配列を含む、請求項19~27のいずれか1項に記載のキット。
【請求項29】
(3)のウイルスベクターに含まれる部分塩基配列が、配列番号17または32で表される塩基配列を含む、請求項19~28のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は所望のゲノム領域にcas9遺伝子またはその変異遺伝子を導入する方法および該方法のための導入キットに関する。
【背景技術】
【0002】
CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)及びCRISPR関連(Cas)タンパク質は、一本鎖ガイドRNA(sgRNA)及びプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に依存的な様式で標的DNAを切断することで、細菌の適応免疫系として働くことが知られている。ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9ヌクレアーゼは、DNA二重鎖切断(DSB)の修復経路を有する真核生物において、強力なゲノム編集ツールとして広く使用されている(例えば、非特許文献1、2)。非相同末端結合(NHEJ)経路によるDSBの修復中に、標的DNAに小さな挿入及び/又は欠失(indels)が導入され、部位特異的な遺伝子破壊が生じる(knock out)。また、効率は宿主細胞に依存するものの、標的領域に対するホモロジーアームを含むドナーDNAを提供することにより、相同組換え修復(HDR)によって標的領域に遺伝子を導入することも可能である(knock in)。
【0003】
CRISPR/Cas9系を用いてknock inを行う場合、Cas9、sgRNA、ドナーDNAを標的細胞へ導入する際、cas9遺伝子を安定的に発現可能なゲノム領域に導入することができれば、適切なsgRNAとドナーDNAを細胞に供給するのみで、単一遺伝子変異のみならず、癌などでみられる複数の遺伝子変異も効率的に修復することが可能となる。ex vivoでは、ベクターに含まれるDNAサイズに制限がないという特徴を有するトランスフェクション法やエレクトロポレーション法によってcas9遺伝子をゲノムへ導入することが可能であるが、当該方法はin vivoでは適用できない。
【0004】
in vivoでゲノムに遺伝子を導入する代表的な方法としては、ウイルスベクターを用いる方法が挙げられる。in vivo法で使用されるウイルスベクターとしては、例えば、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどが挙げられる。しかし、これらのウイルスベクターの使用には、従来から一長一短があった。例えば、レンチウイルスベクターは宿主のゲノムに容易に所望の遺伝子を組み込むことが可能であるが、組み込む場所を選べないため、予測できない内在性遺伝子の破壊が生じる懸念があるという欠点がある。アデノウイルスベクターは、大きなサイズのDNAであっても搭載することが可能であり、宿主のゲノムへのDNAの挿入が生じないため、内在性遺伝子の破壊が生じない一方、生体にとって免疫原性が強く、頻回投与に向かない。一方、アデノ随伴ウイルスベクターは、免疫原性が低く、組織選択的な遺伝子導入が可能である点で好ましい。しかし、アデノ随伴ウイルスベクターは搭載できるDNAサイズが小さく、cas9遺伝子、sgRNA、ドナーDNAを一度に搭載することができないという欠点があった。従って、in vivoで宿主のゲノムの安全な部位にcas9遺伝子を導入する方法は未だに未解決の問題であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Mali, P. et al., Science 339, 823-827 (2013).
【0006】
【文献】Cong, L. et al., Science 339, 819-823 (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ex vivoは勿論、in vivoでも安定的なcas9遺伝子の発現を実現するためのウイルスベクターを用いたcas9遺伝子の部位特異的な導入方法および該方法のための導入キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、野生型cas9(Cas9v1)遺伝子をレンチウイルスベクターでヒト培養細胞のゲノムにランダムに組み込んだ。さらに、aavs1遺伝子の塩基配列に相補的な塩基配列(sg1配列)、sg1配列によって標的される切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれた野生型cas9(Cas9v2)遺伝子のN末端1.9kb断片を搭載したアデノ随伴ウイルスベクターを前記細胞に導入し、Cas9v1の活性を利用して、cas9v2遺伝子のN末端1.9kb断片をaavs1遺伝子内に組み込んだ。さらに、cas9v2遺伝子のN末端1.9kb断片の3’端の塩基配列に相補的な塩基配列(sg2配列)、sg2配列によって標的される切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれたcas9v2遺伝子のC末端2.3kb断片を搭載したアデノ随伴ウイルスベクターを前記細胞に導入し、aavs1遺伝子座にcas9v2遺伝子を再構築した。最後に、レンチウイルスベクターのLTRに相補的な塩基配列を含むアデノ随伴ウイルスベクターを前記細胞に導入し、cas9v1遺伝子を除去した。このようにして得られた細胞で発現するCas9v2は機能的であることを確認した。また、cas9v2遺伝子に代わり、D10A変異を有するCas9ニッカーゼやD10A変異およびN876A変異を有する不活性Cas9(dCas9)をaavs1遺伝子座に組み込み、それらが機能的であることを確認した。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下よりなる。
[1]以下の工程を含む、細胞の所望のゲノム領域にcas9遺伝子またはその変異遺伝子を導入する方法。
(1)細胞でcas9遺伝子またはその変異遺伝子を発現させる工程、
(2)工程(1)で発現したCas9タンパク質またはその変異タンパク質によって細胞の所望のゲノム領域を切断し、該切断部位にcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列を導入する工程、および
(3)工程(1)で発現したCas9タンパク質またはその変異タンパク質によって工程(2)において導入された部分塩基配列を切断し、該切断部位に工程(2)で導入された部分塩基配列以外のcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列を導入し、細胞の所望のゲノム領域でcas9遺伝子またはその変異遺伝子を構築する工程。
[2]工程(1)が、cas9遺伝子またはその変異遺伝子の塩基配列を含むウイルスベクターを細胞に感染させることによって実施される工程である、[1]に記載の方法。
[3]工程(1)が、細胞のゲノムからcas9遺伝子またはその変異遺伝子を発現させる工程である、[2]に記載の方法。
[4]工程(1)のウイルスベクターが、レンチウイルスベクターである、[3]に記載の方法。
[5]工程(2)が、以下の塩基配列を含むウイルスベクターを細胞に感染させることによって実施される工程である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
(i)細胞の所望のゲノム領域の塩基配列に相補的な塩基配列、および
(ii)cas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(i)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれた、該部分塩基配列。
[6]工程(2)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、[5]に記載の方法。
[7]工程(3)が、以下の塩基配列を含むウイルスベクターを細胞に感染させることによって実施される工程である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
(iii)工程(2)において導入される部分塩基配列に相補的な塩基配列、および
(iv)工程(2)において導入される部分塩基配列以外のcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(iii)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれた、該部分塩基配列。
[8]工程(3)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、[7]に記載の方法。
[9](4)工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子を細胞のゲノムから除去する工程をさらに含む、[2]~[8]のいずれか1つに記載の方法。
[10]工程(4)が、工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列に相補的な塩基配列および下流塩基配列に相補的な塩基配列を含むウイルスベクターを細胞に感染させることによって実施される工程である、[9]に記載の方法。
[11]工程(4)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、[10]に記載の方法。
[12]工程(1)が、ウイルスのゲノムからcas9遺伝子またはその変異遺伝子を発現させる工程である、[2]に記載の方法。
[13]工程(1)のウイルスベクターが、アデノウイルスベクターである、[12]に記載の方法。
[14]工程(1)の変異遺伝子が、D10A変異、H840A変異およびN863A変異からなる群から選択される変異を有するCas9タンパク質をコードする遺伝子である、[1]~[13]のいずれか1つに記載の方法。
[15]工程(3)で構築される変異遺伝子がD10A変異、H840A変異およびN863A変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するCas9タンパク質をコードする遺伝子である、[1]~[14]のいずれか1つに記載の方法。
[16]所望のゲノム領域が、aavs1遺伝子座である、[1]~[15]のいずれか1つに記載の方法。
[17]工程(2)で導入される部分塩基配列が、配列番号7または31で表される塩基配列を含む、[1]~[16]のいずれか1つに記載の方法。
[18]工程(3)で導入される部分塩基配列が、配列番号17または32で表される塩基配列を含む、[1]~[17]のいずれか1つに記載の方法。
[19]以下のウイルスベクターを含む、細胞の所望のゲノム領域へのCas9遺伝子またはその変異遺伝子導入キット。
(1)cas9遺伝子またはその変異遺伝子の塩基配列を含むウイルスベクター、
(2)以下の塩基配列を含むウイルスベクター、
(i)細胞の所望のゲノム領域の塩基配列に相補的な塩基配列、および
(ii)cas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(2)(i)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれた、該部分塩基配列、
(3)以下の塩基配列を含むウイルスベクター、および
(i)上記(2)(ii)の部分塩基配列に相補的な塩基配列、および
(ii)上記(2)(ii)の部分塩基配列以外のcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(3)(i)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列および下流塩基配列に挟まれた、該部分塩基配列。
[20](1)のウイルスベクターが、レンチウイルスベクターまたはアデノウイルスベクターである、[19]に記載のキット。
[21](2)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、[19]または[20]に記載のキット。
[22](3)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、[19]~[21]のいずれか1つに記載のキット。
[23](4)上記(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列に相補的な塩基配列および下流塩基配列に相補的な塩基配列を含むウイルスベクターをさらに含む、[19]~[22]のいずれか1つに記載のキット。
[24](4)のウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスベクターである、[23]に記載のキット。
[25](1)のウイルスベクターに含まれる変異遺伝子が、D10A変異、H840A変異およびN863A変異からなる群から選択される変異を有するCas9タンパク質をコードする遺伝子である[19]~[24]のいずれか1つに記載のキット。
[26](2)または(3)のウイルスベクターに含まれる変異遺伝子が、D10A変異、H840A変異およびN863A変異からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するCas9タンパク質をコードする遺伝子である、[19]~[25]のいずれか1つに記載のキット。
[27]所望のゲノム領域が、aavs1遺伝子座である、[19]~[26]のいずれか1つに記載のキット。
[28](2)のウイルスベクターに含まれる部分塩基配列が、配列番号7または31で表される塩基配列を含む、[19]~[27]のいずれか1つに記載のキット。
[29](3)のウイルスベクターに含まれる部分塩基配列が、配列番号17または32で表される塩基配列を含む、[19]~[28]のいずれか1つに記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ex vivoは勿論、in vivoでも安定的なcas9遺伝子の発現が可能となり、適切なsgRNAとドナーDNAを細胞に供給するのみで、単一遺伝子変異のみならず、癌などでみられる複数の遺伝子変異も効率的に修復することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、AAVS1遺伝子座へのCas9の組み込みのための4工程戦略の模式図を示す。
図2図2は、AAVS1遺伝子座にN末端1.9kb Cas9v2を導入するためのAAVベクター#1コンストラクトを示す。
図3図3は、ゲノム構造およびN末端Cas9v2発現を確認するためのPCRおよび免疫ブロットを示す。
図4図4は、AAVS1遺伝子座中で全長Cas9v2-FLAGを再構築するためのAAVベクター#2コンストラクトを示す。
図5図5は、AAVS1遺伝子座における全長Cas9v2-FLAGの再構築を確認するためのPCRおよび免疫ブロットを示す。
図6図6は、ゲノム中に組み込まれたレンチウイルスLTRを標的とするAAVベクター#3コンストラクトを示す。
図7図7は、ゲノムからCas9v1-Mycを含むレンチウイルスの除去を示す。
図8図8は、再構築されたCas9v2-FLAGの機能を検証するためのAAVベクター#4を用いたIFNAR1のノックアウトを示す。
図9図9は、Cas9(Nick)-Mycを用いた4工程ストラテジーの模式図を示す。
図10図10は、AAVベクターの連続的感染方法を示す。
図11図11は、HEK 293TにおけるCas9v1-Mycの発現を示す。
図12図12は、N末端Cas9v2クローン#8の2つのアリルの構造を示す。
図13図13は、薬剤選択なしで、ランダムに組み込まれたCas9v1-Mycを含むレンチウイルスのゲノムからの除去を示す。
図14図14は、薬剤選択なしで、ランダムに組み込まれたCas9v1-Mycを含むレンチウイルスのゲノムからの除去を示す。
図15図15は、薬剤選択なしで、ゲノムに組み込まれたレンチウイルスの除去の評価を示す。
図16図16は、sgRNA処理後のIFNAR1遺伝子のDNA配列解析を示す。
図17図17は、AAVS1遺伝子座にN末端1.9kb Cas9v2ニッカーゼを導入するためのAAVベクター#5コンストラクトを示す。
図18図18は、ゲノム構造およびN末端Cas9v2ニッカーゼ発現を確認するためのPCRおよび免疫ブロットを示す。
図19図19は、AAVS1遺伝子座における全長Cas9v2-FLAGニッカーゼの再構築を示す。
図20図20は、全長Cas9v2-FLAGニッカーゼの再構築を確認するためのPCRおよび免疫ブロットを示す。
図21図21は、薬剤選択なしで、全長Cas9v2-FLAGニッカーゼが再構築できたことを確認するためのPCRおよび免疫ブロットを示す。
図22図22は、Cas9v1-Mycを含むレンチウイルスの除去を示す。
図23図23は、薬剤選択なしで、Cas9v1-Mycを含むレンチウイルスの除去を示す。
図24図24は、Cas9v2-FLAGニッカーゼの機能を検証するためのAAVベクター#4を用いたIFNAR1のノックアウトを示す図である。
図25図25は、sgRNA処理後のIFNAR1遺伝子の配列解析を示す。
図26図26は、AAVS1遺伝子座における全長dCas9v2-VP64を再構築するためのAAVベクター#6コンストラクトを示す。
図27図27は、AAVS1遺伝子座における全長dCas9v2-VP64の再構築を確認するためのPCRおよび免疫ブロットを示す。
図28図28は、薬剤選択なしで、AAVS1遺伝子座における全長dCas9v2-VP64の再構築を確認するためのPCRおよび免疫ブロットを示す。
図29図29は、Cas9v1-Mycを含むレンチウイルスの除去を示す。
図30図30は、再構築されたdCas9v2-VP64を介した内因性IFNβ遺伝子プロモーターの活性化を示す。
図31図31は、全ての方法の各工程における2つの独立クローンの免疫ブロット解析を示す。
図32図32は、全ての方法の各工程における2つの独立クローンの免疫ブロット解析を示す。
図33図33は、MycタグされたCas9ニッカーゼ(Cas9(Nick)-Myc)を発現するためのレンチウイルスコンストラクトを示す。
図34図34は、薬剤選択なしで、レンチウイルスCas9(Nick)-Mycを発現するHEK 293T細胞の出現を示す。
図35図35は、AAVS1遺伝子座にN末端1.9kb Cas9v2ニッカーゼを導入するためのAAVベクター#7コンストラクトを示す。
図36図36は、AAVS1遺伝子座へのN末端1.9kb Cas9v2ニッカーゼの導入を示す。
図37図37は、AAVS1遺伝子座における全長Cas9v2-FLAGニッカーゼ再構築するためのAAVベクター#8コンストラクトを示す。
図38図38は、AAVS1遺伝子座における全長Cas9v2-FLAGニッカーゼの再構築を示す。
図39図39は、AAVS1遺伝子座における全長dCas9v2-VP64を再構築するためのAAVベクター#9コンストラクトを示す。
図40図40は、AAVS1遺伝子座における全長dCas9v2-VP64の再構築を示す。
図41図41は、AAVベクター#7と#8の連続感染により、AAVS1遺伝子座における全長Cas9v2-FLAGニッカーゼの再構築を確認するためのPCRおよび免疫ブロットを示す。
図42図42は、AAVベクター#7と#9の連続感染により、AAVS1遺伝子座における全長dCas9v2-VP64の再構築を確認するためのPCRおよび免疫ブロットを示す。
図43図43は、図41で再構築された全長Cas9v2ニッカーゼー-FLAG遺伝子を有する293T細胞 (クローン#1-#6)のゲノム構造の比較を示す。
図44図44は、図41D、図42Dの免疫ブロットで検出できなかった293T細胞においてもすべてのクローンで遺伝子レベルではCas9(Nick)-Mycのレンチウイルスゲノムの組み込みが残っていることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、細胞の所望のゲノム領域にcas9遺伝子またはその変異遺伝子を導入する方法(以下、本発明の方法)を提供する。
【0013】
本発明の方法において導入されるcas9遺伝子によってコードされるタンパク質は、細菌及び古細菌において外来性遺伝子に対する獲得耐性を提供する適応免疫系を構成するCasタンパク質ファミリーの一つである。Cas9タンパク質はDNA中のPAM配列を認識して、その上流で切断するエンドヌクレアーゼとして機能する。Cas9タンパク質は、エンドヌクレアーゼ活性を有する機能ドメインを2つ含むため、二本鎖DNAを平滑末端になるように切断することができる。従って、本発明の方法において導入されるcas9遺伝子は、ガイドRNAと複合体を形成し、二本鎖DNA切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を意味する。
【0014】
本発明の方法において導入されるcas9遺伝子としては、例えば、ストレプトコッカス ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)に由来するSpCas9をコードする遺伝子、ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)に由来するStCas9をコードする遺伝子、ナイセリア メニンギチジス(Neisseria meningitidis)に由来するNmCas9をコードする遺伝子等が挙げられ、これらに限定されない。
【0015】
また、本発明の方法において導入されるcas9遺伝子は変異cas9遺伝子であってもよい。変異cas9遺伝子は、ガイドRNAとの複合体の形成能を維持しつつ、かつ、エンドヌクレアーゼ活性を有する機能ドメインが1つまたは2つ不活性化されている変異を有する遺伝子であれば、特に制限されない。そのような変異cas9遺伝子としては、一実施態様においては、例えば、cas9タンパク質の10番目アスパラギン酸がアラニンに置換される変異(D10A変異)、840番目ヒスチジンがアラニンに置換される変異(H840A変異)、および863番目アスパラギンがアラニンに置換される変異(N863A変異)からなる群から選択される変異を有するcas9遺伝子が挙げられる。また別の実施態様においては、変異cas9遺伝子は、例えば、cas9タンパク質の10番目アスパラギン酸がアラニンに置換される変異(D10A変異)、840番目ヒスチジンがアラニンに置換される変異(H840A変異)、および863番目アスパラギンがアラニンに置換される変異(N863A変異)からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するcas9遺伝子が挙げられる。D10A変異、H840A変異およびN863A変異からなる群から選択される変異を有するcas9遺伝子によってコードされるタンパク質は、Cas9タンパク質の2つのエンドヌクレアーゼドメインのうちの1つが不活性化されており、二本鎖DNAのうちの片側の鎖のみを切断するニッカーゼとして働くため、オフターゲット効果の抑制を期待することができる。また、D10A変異およびH840A変異、D10A変異およびN863A変異、またはD10A変異、H840A変異およびN863A変異を有するcas9遺伝子によってコードされるタンパク質は、Cas9タンパク質の2つのエンドヌクレアーゼドメインが不活性化されており、DNAを切断することはできないが、この変異を有するCas9タンパク質に転写活性化因子と融合タンパク質を形成させることにより、標的遺伝子の転写を活性化できる。
【0016】
本発明の方法においてcas9遺伝子またはその変異遺伝子が導入される細胞とは、生体内の細胞であってもよいし、培養細胞であってもよい。生体としては、特に制限されるものではないが、ヒトまたは他の温血動物(例、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、トリなど)があげられる。生体内の細胞としては、本発明の方法でcas9遺伝子またはその変異遺伝子を導入できるあらゆる細胞であってよく、例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞、ガン細胞が挙げられ、なんらかの疾患の原因となる細胞であることが好ましい。培養細胞としては、前記の細胞の培養細胞であれば特に制限されない。
【0017】
本発明の方法においてcas9遺伝子またはその変異遺伝子が導入される細胞の所望のゲノム領域とは、cas9遺伝子またはその変異遺伝子が安定に発現できるゲノム領域であれば特に制限されない。そのようなゲノム領域としては例えば、AAVS1遺伝子座、hROSA26遺伝子座、CCR5遺伝子座などが挙げられ、最も解析が進み多用されているAAVS1遺伝子座が好ましい。
【0018】
本発明の方法は以下の工程を含む。
(1)細胞でcas9遺伝子またはその変異遺伝子を発現させる工程。
(2)工程(1)で発現したCas9タンパク質またはその変異タンパク質によって細胞の所望のゲノム領域を切断し、該切断部位にcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列を導入する工程。
(3)工程(1)で発現したCas9タンパク質またはその変異タンパク質によって工程(2)において導入された部分塩基配列を切断し、該切断部位に工程(2)で導入された部分塩基配列以外のcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列を導入し、細胞の所望のゲノム領域でcas9遺伝子またはその変異遺伝子を構築する工程。
【0019】
本発明の方法は、細胞でcas9遺伝子またはその変異遺伝子(以下、工程(1)のcas9遺伝子)を発現させる工程(工程(1))を含む。導入される工程(1)のcas9遺伝子は、ガイドRNAと複合体を形成し、二本鎖DNA切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であれば制限されず、例えば、前記のcas9遺伝子が好ましく用いられる。また、導入される工程(1)のcas9遺伝子の変異遺伝子は、Cas9タンパク質の10番目アスパラギン酸がアラニンに置換される変異(D10A変異)、840番目ヒスチジンがアラニンに置換される変異(H840A変異)、および863番目アスパラギンがアラニンに置換される変異(N863A変異)からなる群から選択される変異を有するcas9遺伝子が挙げられる。工程(1)のcas9遺伝子としては、オフターゲット効果の抑制を期待することができるため、変異遺伝子がより好ましい。
【0020】
工程(1)において、細胞における工程(1)のcas9遺伝子の発現は、前記の細胞内でCas9タンパク質またはその変異タンパク質(以下、工程(1)のCas9タンパク質)が発現していれば特に制限されないが、例えば、該工程(1)は、工程(1)のcas9遺伝子の塩基配列を含むウイルスベクターを細胞に感染させることによって実施される。細胞の感染に使用されるウイルスベクターとしては、工程(1)のcas9遺伝子を細胞のゲノムに導入することによって発現させるウイルスベクターまたは該遺伝子を細胞のゲノムに導入することなく、ウイルスベクターから直接的に発現させるウイルスベクターが挙げられるが、後述する通り、細胞のゲノムに導入された工程(1)のcas9遺伝子を除去する必要がないという利点のために、ウイルスベクターから工程(1)のcas9遺伝子を直接的に発現させるウイルスベクターがより好ましい。
【0021】
工程(1)において、細胞の感染に使用されるウイルスベクターとして、工程(1)のcas9遺伝子を細胞のゲノムに導入するウイルスベクターを用いる場合、LTRに挟まれた工程(1)のcas9遺伝子の塩基配列を含むウイルスベクターが用いられる。例えば、5’LTRおよび3’LTRの間に挿入された工程(1)のcas9遺伝子の塩基配列を適当なウイルスベクター作製用プラスミドに挿入した後、パッケージング用細胞に導入し、ウイルスにパッケージングし、回収したウイルスを常套手段に従って、生体に対して経口的または非経口的に投与、あるいは培養細胞の培地に添加することによって、工程(1)のcas9遺伝子をランダムに細胞のゲノムに導入することができる。工程(1)のcas9遺伝子は発現可能であれば導入されるゲノムの箇所は特に制限されない。また、ゲノムに導入される工程(1)のcas9遺伝子の数は1つであっても、2つ以上であってもよい。
【0022】
ウイルスベクターとしては、細胞のゲノムに工程(1)のcas9遺伝子を発現させることが可能である限り特に制限されないが、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどが挙げられ、大きなサイズの遺伝子をウイルスベクター内に搭載することができ、かつ細胞にガン化を引き起こしにくいという点からレンチウイルスベクターが好ましい。
【0023】
一方、工程(1)において、細胞の感染に使用されるウイルスベクターとして、工程(1)のcas9遺伝子を細胞のゲノムに導入することなく、ウイルスベクターから直接的に該遺伝子を発現できるウイルスベクターを用いる場合、例えば、工程(1)のcas9遺伝子の塩基配列を適当なウイルスベクター作製用プラスミドに挿入した後、パッケージング用細胞に導入し、ウイルスにパッケージングし、回収したウイルスを常套手段に従って、生体に対して経口的または非経口的に投与、あるいは培養細胞の培地に添加することによって、工程(1)のcas9遺伝子を含むウイルスベクターを細胞に導入し、該遺伝子を発現させることができる。また、ウイルスベクターに導入される工程(1)のcas9遺伝子の数は1つであっても、2つ以上であってもよい。
【0024】
ウイルスベクターとしては、工程(1)のcas9遺伝子を細胞のゲノムに導入することなく、ウイルスベクターから直接的に該遺伝子の発現が可能である限り特に制限されないが、一過性発現が可能であるという観点からは、非増殖性アデノウイルスベクターまたはインテグラーゼ活性を欠失させたレンチウイルスベクターを使うことも可能である。
【0025】
本発明の方法は、工程(1)で発現したCas9タンパク質またはその変異タンパク質によって細胞の所望のゲノム領域を切断し、該切断部位にcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列を導入する工程(工程(2))を含む。工程(2)においては、第1に、工程(1)のCas9タンパク質によって細胞の所望のゲノム領域が切断される。該Cas9タンパク質は、細胞の所望のゲノム領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む一本鎖核酸(sgRNA)と複合体を形成し、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の5’側の2本鎖DNAを切断する。
【0026】
所望のゲノム領域の塩基配列に相補的な塩基配列(CRISPR-RNA(crRNA)(a))は、所望のゲノム領域におけるPAMの5’側に隣接している塩基配列であれば特に制限されない。crRNA(a)の塩基配列の長さは所望のゲノム領域への特異性を確保できる限り特に制限されないが、通常、10塩基長から30塩基長、好ましくは、15塩基長から25塩基長、より好ましくは、20塩基長が挙げられる。
【0027】
PAMは、工程(1)のCas9タンパク質の種類によって異なるが、例えばストレプトコッカス ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9(SpCas9)タンパク質またはその変異タンパク質が用いられる場合NGG(NはA、G、T又はC。以下同じ)、ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)由来のCas9(StCas9)タンパク質またはその変異タンパク質が用いられる場合NNAGAAW(WはA又はT。以下同じ)、ナイセリア メニンギチジス(Neisseria meningitidis)由来のCas9(NmCas9)タンパク質またはその変異タンパク質が用いられる場合NNNNGATT等が挙げられる。
【0028】
細胞の所望のゲノム領域の塩基配列に相補的な塩基配列を含む一本鎖核酸(sgRNA(a))は、さらに工程(1)のCas9タンパク質のリクルートに必要な塩基配列(trans-activating RNA(tracrRNA))を含んでもよい。tracrRNAの塩基配列は公知の塩基配列を用いることができ、例えば、配列番号2などで表される塩基配列が挙げられる。tracrRNAはcrRNA(a)の3’端に直接連結されてもよいし、スペーサー配列を間に挟んでもよい。
【0029】
工程(2)においては、第2に、細胞の所望のゲノム領域の塩基配列に相補的な塩基配列によって標的される切断部位にcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列(工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列)が導入される。本発明において、工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列とは、cas9遺伝子またはその変異遺伝子の開始コドンから始まる部分塩基配列をいう。導入される工程(2)のcas9遺伝子は、導入される工程(1)のcas9遺伝子と同様、ガイドRNAと複合体を形成し、二本鎖DNA切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であれば制限されず、例えば、前記のcas9遺伝子が好ましく用いられる。また、導入される工程(2)のcas9遺伝子の変異遺伝子は、cas9タンパク質の10番目アスパラギン酸がアラニンに置換される変異(D10A変異)、840番目ヒスチジンがアラニンに置換される変異(H840A変異)、および863番目アスパラギンがアラニンに置換される変異(N863A変異)からなる群から選択される少なくとも1つの変異を有するcas9遺伝子が挙げられる。
【0030】
工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列の長さは、工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列が含まれるウイルスベクターが組み込むことが可能な塩基配列の長さの範囲内であれば特に制限されないが、通常、数十bp~数kbp、好ましくは、200bp~500bpである。工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列としては、例えば、配列番号7または37で表される塩基配列を含む塩基配列が挙げられる。
【0031】
工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列は、工程(1)のCas9タンパク質によって切断された細胞の所望のゲノム領域の切断部位に挿入される。ここで、工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列の上記切断部位への挿入は、相同組換え修復(HDR)によって成される。従って、工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列は、さらに工程(1)のCas9タンパク質による細胞の所望のゲノム領域中の切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれてよい。
【0032】
上記相同配列の同一性の程度は、相同組換えを可能とする限り特に限定されない。相同組換えを可能とする同一性の程度は、ポリヌクレオチドの長さによっても異なるが、例えば少なくとも80%以上、好ましくは少なくとも85%以上、より好ましくは少なくとも90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%であり得る。同一性の程度は、自体公知の方法により決定でき、例えば、NCBIで利用可能なBLASTNを初期(default)設定で用いることにより決定できる。同一性の程度はまた、Smith-Watermanのアルゴリズムを使用して、ギャップ オープン ペナルティー(gap open penalty):12、ギャップ エクステンション ペナルティー(gap extension penalty):1によりアフィン ギャップ検索(affine gap search)を行うことにより決定してもよい。
【0033】
上記相同配列の長さは、切断部位において相同組換えが生じる長さである限り特に限定されない。しかしながら、一般論として、相同組換えが効率よく起こるためには、相同領域が長いほどよい。一方、ウイルスベクターが組み込むことが可能な塩基配列の長さによって、相同配列の長さは一定に制限される。従って、これらを考慮すると、該相同配列の長さは、通常、200bp~500bp、好ましくは250bp~400bpであり得る。
【0034】
工程(2)において、工程(1)のCas9タンパク質によって細胞の所望のゲノム領域を切断し、該切断部位に工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列を導入する方法は、例えば、以下の塩基配列を含むウイルスベクターを細胞に感染させることによって実施できる。
(i)細胞の所望のゲノム領域の塩基配列に相補的な塩基配列(塩基配列(i))。
(ii)cas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(i)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれた、該部分塩基配列(塩基配列(ii))。
塩基配列(i)および(ii)は、前記された塩基配列と同一であってよい。
【0035】
工程(2)において、細胞の感染は、例えば、塩基配列(i)および(ii)を適当なウイルスベクターに挿入した後、パッケージング用細胞に導入し、ウイルスにパッケージングし、回収したウイルスを常套手段に従って、生体に対して経口的または非経口的に投与、あるいは培養細胞の培地に添加することによって、工程(1)のCas9タンパク質によって細胞の所望のゲノム領域を切断し、該切断部位に工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列を導入することができる。
【0036】
ウイルスベクターとしては、細胞の所望のゲノム領域を切断し、該切断部位に工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列の導入が可能である限り特に制限されないが、例えば、ランダムなゲノムへの挿入が生じず、抗原性も低いという利点から、アデノ随伴ウイルスベクターが好ましい。
【0037】
本発明の方法は、工程(1)で発現したCas9タンパク質またはその変異タンパク質によって工程(2)において導入された部分塩基配列を切断し、該切断部位に工程(2)で導入された部分塩基配列以外のcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列を導入し、細胞の所望のゲノム領域でcas9遺伝子またはその変異遺伝子を構築する工程(工程(3))を含む。工程(3)においては、第1に、工程(1)のCas9タンパク質によって工程(2)において導入された部分塩基配列が切断される。該Cas9タンパク質は、工程(2)において導入された部分塩基配列に相補的な塩基配列を含む一本鎖核酸(sgRNA)と複合体を形成し、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の5’側の2本鎖DNAを切断する。
【0038】
工程(2)において導入された部分塩基配列に相補的な塩基配列(crRNA(b))は、工程(2)において導入された部分塩基配列におけるPAMの5’側に隣接している塩基配列であれば特に制限されない。crRNA(b)の塩基配列の長さは所望のゲノム領域への特異性を確保できる限り特に制限されないが、通常、10塩基長から30塩基長、好ましくは、15塩基長から25塩基長、より好ましくは、20塩基長が挙げられる。なお、PAMは工程(2)で記載されたPAMと同一であってよい。
【0039】
工程(2)において導入された部分塩基配列に相補的な塩基配列を含む一本鎖核酸(sgRNA(b))は、さらに工程(1)のCas9タンパク質のリクルートに必要な塩基配列(trans-activating RNA(tracrRNA))を含んでもよい。tracrRNAの塩基配列は工程(2)で記載されたtracrRNAと同一であってよい。tracrRNAはcrRNA(b)の3’端に直接連結されてもよいし、スペーサー配列を間に挟んでもよい。
【0040】
工程(3)においては、第2に、工程(2)において導入された部分塩基配列に相補的な塩基配列によって標的される切断部位に工程(2)において導入された部分塩基配列以外のcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列(工程(3)のcas9遺伝子の部分塩基配列)が導入される。本発明において、工程(3)のcas9遺伝子の部分塩基配列とは、工程(2)で導入された部分塩基配列における切断部位より下流のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の部分塩基配列をいう。工程(3)のcas9遺伝子の部分塩基配列の長さは、cas9遺伝子の全塩基配列から工程(2)のcas9遺伝子の部分塩基配列を差し引いた長さであってよい。工程(3)のcas9遺伝子の部分塩基配列としては、例えば、配列番号17または47で表される塩基配列を含む塩基配列が挙げられる。
【0041】
工程(3)のcas9遺伝子の部分塩基配列は、工程(1)のCas9タンパク質によって切断された工程(2)において導入された部分塩基配列の切断部位に挿入される。ここで、工程(3)のcas9遺伝子の部分塩基配列の上記切断部位への挿入は、相同組換え修復(HDR)によって成される。従って、工程(3)のcas9遺伝子の部分塩基配列は、さらに工程(1)のCas9タンパク質による工程(3)のcas9遺伝子の部分塩基配列中の切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれてよい。なお、上記相同配列の同一性の程度および長さは、工程(2)の相同配列の同一性の程度および長さと同一であってよい。
【0042】
工程(3)において、工程(1)のCas9タンパク質によって工程(2)において導入された部分塩基配列を切断し、該切断部位に工程(3)のcas9遺伝子の部分塩基配列を導入する方法は、例えば、以下の塩基配列を含むウイルスベクターを細胞に感染させることによって実施できる。
(iii)工程(2)において導入される部分塩基配列に相補的な塩基配列。
(iv)工程(2)において導入される部分塩基配列以外のcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(iii)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれた、該部分塩基配列。
塩基配列(iii)および(iv)は、前記された塩基配列と同一であってよい。
【0043】
工程(3)において、細胞の感染は、例えば、塩基配列(i)および(ii)を適当なウイルスベクターに挿入した後、パッケージング用細胞に導入し、ウイルスにパッケージングし、回収したウイルスを常套手段に従って、生体に対して経口的または非経口的に投与、あるいは培養細胞の培地に添加することによって、工程(1)のCas9タンパク質によって工程(2)において導入された部分塩基配列を切断し、該切断部位に工程(3)のcas9遺伝子の部分塩基配列を導入することができる。
【0044】
ウイルスベクターとしては、工程(2)において導入された部分塩基配列を切断し、該切断部位に工程(3)のcas9遺伝子の部分塩基配列の導入が可能である限り特に制限されないが、例えば、ランダムなゲノムへの挿入が生じず、抗原性も低いという利点から、アデノ随伴ウイルスベクターが好ましい。
【0045】
以上の通り、工程(3)によって、細胞の所望のゲノム領域においてcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる上流部分塩基配列の直後にcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる下流部分塩基配列が連結され、全長のcas9遺伝子またはその変異遺伝子が細胞の所望のゲノム領域において再構築される。再構築された全長のcas9遺伝子またはその変異遺伝子は、工程(1)に発現されるcas9遺伝子またはその変異遺伝子に対して代替的または異なる役割を果たすことができる。
【0046】
工程(1)において、細胞の感染に使用されるウイルスベクターとして、工程(1)のcas9遺伝子を細胞のゲノムに導入するウイルスベクターを用いた場合、細胞のゲノムに導入されたcas9遺伝子は内在性遺伝子を破壊する可能性があり、正常細胞の異常増殖を引き起こす原因になりうる。従って、工程(1)において細胞のゲノムに導入されたcas9遺伝子は除去されることが好ましい。従って、本発明の方法は、工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子を細胞のゲノムから除去する工程(工程(4))をさらに含んでもよい。
【0047】
工程(4)においては、工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列および下流塩基配列がCas9タンパク質またはその変異タンパク質によって切断される。前記cas9遺伝子の上流塩基配列および下流塩基配列を切断するためのCas9タンパク質またはその変異タンパク質は、工程(1)において細胞のゲノムから発現されたCas9タンパク質またはその変異タンパク質であってもよいし、工程(2)および(3)によって再構築された全長cas9遺伝子またはその変異遺伝子から発現されたCas9タンパク質またはその変異タンパク質であってもよい。該Cas9タンパク質は、工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列に相補的な塩基配列および下流塩基配列に相補的な塩基配列をそれぞれ含む一本鎖核酸(sgRNA(c1)およびsgRNA(c2))と複合体を形成し、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の5’側の2本鎖DNAを切断する。
【0048】
工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列に相補的な塩基配列(CRISPR-RNA(crRNA)(c1))および下流塩基配列に相補的な塩基配列(CRISPR-RNA(crRNA)(c2))はそれぞれ、工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列におけるPAMの5’側に隣接している塩基配列および下流塩基配列におけるPAMの5’側に隣接している塩基配列であれば特に制限されない。crRNA(c1) およびcrRNA(c2)の塩基配列の長さは前記cas9遺伝子の上流塩基配列または下流塩基配列への特異性を確保できる限り特に制限されないが、通常、10塩基長から30塩基長、好ましくは、15塩基長から25塩基長、より好ましくは、20塩基長が挙げられる。なお、PAMは工程(2)で記載されたPAMと同一であってよい。
【0049】
工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列に相補的な塩基配列または下流塩基配列に相補的な塩基配列を含む一本鎖核酸(sgRNA(c1)またはsgRNA(c2))は、さらにCas9のリクルートに必要な塩基配列(trans-activating RNA(tracrRNA))を含んでもよい。tracrRNAの塩基配列は工程(2)で記載されたtracrRNAと同一であってよい。tracrRNAはcrRNA(c1)およびsgRNA(c2)の3’端に直接連結されてもよいし、スペーサー配列を間に挟んでもよい。
【0050】
工程(4)において、工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列および下流塩基配列をCas9タンパク質またはその変異タンパク質によって切断する方法は、工程(2)または工程(3)におけるウイルスベクターを細胞に感染させる方法と同一の方法によって実施することができる。細胞の感染に使用されるウイルスベクターとしては、ゲノムに導入することなく、ウイルスベクターから直接的に発現させるウイルスベクターが挙げられるが、アデノ随伴ウイルスベクターがより好ましい。
【0051】
工程(4)において、工程(1)のcas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列および下流塩基配列をCas9タンパク質またはその変異タンパク質によって切断する方法としては、5’LTRに相補的な塩基配列および3’LTRに相補的な塩基配列を標的とするsgRNAを発現させるウイルスベクターを用いて実施されてよい。
【0052】
本発明はまた、所望のゲノム領域へのCas9遺伝子またはその変異遺伝子導入キット(以下、本発明のキット)を提供する。本発明のキットを用いて導入されるCas9遺伝子またはその変異遺伝子、およびそれらが導入される所望のゲノム領域は、本発明の方法に記載のCas9遺伝子またはその変異遺伝子、所望のゲノム領域と同一であってよい。
【0053】
本発明のキットは以下のウイルスベクターを含む。
(1)cas9遺伝子またはその変異遺伝子の塩基配列を含むウイルスベクター、
(2)以下の塩基配列を含むウイルスベクター、
(i)細胞の所望のゲノム領域の塩基配列に相補的な塩基配列、および
(ii)cas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(2)(i)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列の相同配列および下流塩基配列の相同配列に挟まれた、該部分塩基配列、
(3)以下の塩基配列を含むウイルスベクター、および
(i)上記(2)(ii)の部分塩基配列に相補的な塩基配列、および
(ii)上記(2)(ii)の部分塩基配列以外のcas9遺伝子またはその変異遺伝子に含まれる部分塩基配列であって、(3)(i)の塩基配列によって標的される切断部位の上流塩基配列および下流塩基配列に挟まれた、該部分塩基配列。
また、本発明のキットは、(4)cas9遺伝子またはその変異遺伝子の上流塩基配列に相補的な塩基配列および下流塩基配列に相補的な塩基配列を含むウイルスベクターをさらに含んでもよい。
本発明のキットに含まれるウイルスベクターおよびウイルスベクターに含まれる塩基配列は、本発明の方法に記載したウイルスベクターおよびウイルスベクターに含まれる塩基配列と同一であってよい。
【0054】
本発明のキットはまた、ウイルスベクター以外に、cas9遺伝子またはその変異遺伝子を導入する細胞、緩衝液、培地等を適宜含んでもよい。また、本発明のキットに含まれるウイルスベクターは、各々別個に(あるいは可能であれば混合した状態で)水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファーなど)中に適当な濃度となるように溶解し、約-20℃で保存することができる。
【0055】
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではないことは明らかである。
【実施例
【0056】
材料および方法
細胞株および細胞培養
ヒト胎生腎臓HEK293TおよびLenti-XTM 293T細胞(Takara Bio Inc. #632180)を10%ウシ胎仔血清を含むダルベッコ改変イーグル培地中で培養した。安定な細胞株を作製するために、それ以外であると記載しない限り、発明者らは、少なくとも2週間0.3 mg/ml ハイグロマイシンB (Wako #084-07681)、2.5 μg/ml ピューロマイシン (Nacalai #14861-71)または 32 μg/ml ブラストサイジンS (Wako #026-18711)を使用した。
【0057】
ウイルスコンストラクト
SIN(自己不活性化)型レンチウイルスベクターpLVSIN-EF1a Hyg (#6185)およびAAV2血清型ベクターpAAV-CMV (#6230)をTakara Bio Inc.より購入した。pCas-Guide (#GE10002)をOriGene Tech. Inc.より購入した。lentiCRISPR v2をFeng Zhang氏(Addgeneプラスミド# 52961; http://n2t.net/addgene:52961; RRID:Addgene_52961)より譲渡された。lentiSAMv2もまたFeng Zhang氏(Addgeneプラスミド # 75112; http://n2t.net/addgene:75112; RRID:Addgene_75112)より譲渡された。レンチウイルス pLVSINを改変し、CMVプロモーター制御下でCas9v1(pCas-Guide由来のSpCas9)-Mycおよび自己切断ペプチドT2Aに連結されたハイグロマイシン耐性遺伝子(Hygro)を発現するようにした(図6)。さらに、このCas9v1-Mycに1つだけあるBspHI制限酵素部位で、そのN末端側をCas9v2ニッカーゼに置換することによってCas9(Nick)-Mycを構築した(図33B)。レンチウイルスの段階希釈液で293T細胞を感染させた後、ハイグロマイシンBの存在下10日間生存したコロニーの数によって、ウイルス価(導入価/ml)を決定した。
以下のベクターの構築するために、アデノ随伴ウイルス血清型2型(Takara-Bio #6230)を購入した。AAVS1特異的sgRNA1(sg1)がU6プロモーターにより、また数個のエレメントがAAVS1遺伝子の転写と共に転写されるように、AAVS1の相同性アームで挟み、ウイルスのITRs(逆位反復配列)の間に置くことによって、AAVS1遺伝子座(T1)を標的とするAAVベクター#1を作製した(図2)。該エレメントは、SA(スプライシングアクセプター)-T2A(自己切断ペプチド)-1.9kb N末端Cas9v2断片-T2A(自己切断ペプチド)-ピューロマイシン耐性遺伝子およびポリアデニル化配列(pA)である。ダブルカットドナーを形成することによる相同組換え修復(HDR)を促進するために、相同性アームに隣接して標的配列(T1)を付加した。配列は表1を参照。
【0058】
【表1】
【0059】
AAVベクター#2配列もまた表2に記載した。sgRNA2(sg2)は、1.9kb N末端Cas9v2の3’端とP2A(自己切断ペプチド)の5’端の間の接合部(T2)を標的にする。全長Cas9v2を再構築するために、発明者らは、Cas9v2の1.9kb N末端部分と2.3kb C末端部分の間で0.3kb領域をオーバーラップさせた(図4)。0.3kbオーバーラップはHDRにおいて左アームとして機能する。右アームとして、P2AとピューロマイシンのN末端0.3kb断片は、ダブルカットドナーを提供するためのT2標的配列およびITRに隣接している。
【0060】
【表2】
【0061】
表3に記載されるように、野生型Cas9とニッカーゼCas9によるDNA二本鎖切断のための、16bpオフセットを備えた1組のsgRNAs (sg3-1およびsg3-2)によって、AAVベクター#3はレンチウイルスベクターのLTRを標的にしている(図6)。
【0062】
【表3】
【0063】
IFNAR1 (T4)のエキソン1を標的にするAAVベクター#4(表4)を作製し、ITRsの間に、野生型Cas9とニッカーゼCas9によるDNA二本鎖切断のための、7bpオフセットを備えた1組のsgRNAs (sg4-1およびsg4-2)およびハイグロマイシンを置いた(図8)。
【0064】
【表4】
【0065】
AAV#5(表5)は、1.7kb N末端Cas9v2におけるD10A (GAC→GCC)変異以外、AAV#1と同一である。
【0066】
【表5】
【0067】
AAV#6(表6)は、2.3kb C末端Cas9v2におけるN863A (AAC→GCC)変異とFLAGをVP641に置換した以外、AAV#2と同一である。
【0068】
【表6】
【0069】
AAVベクター#5に別のsgRNA (sg7)を加え、標的配列T1をT1/7で置換することによってAAVベクター#7を作製した(図35)。AAVベクター#7の正確な配列は表7に記載の通りである。
【0070】
【表7】
【0071】
AAVベクター#8およびAAVベクター#9もまた、それぞれAAVベクター#2および#6に別のsgRNA (sg8)を加え、標的配列T2をT8/2で置換することによって構築したした(図37、39)。AAVベクター#8および#9の正確な配列は表8および9に記載の通りである。
【0072】
【表8】
【0073】
【表9】
【0074】
段階希釈されたウイルス液で293T細胞を感染させた後、2.5μg/mlピューロマイシンまたは0.3mg/mlハイグロマイシンBの存在下10日間生存したコロニーの数によって、直接的にベクター#3および#4のAAVウイルス価(導入価/ml)を決定した。AAVベクター#1、#2、#5、#6、#7、#8、および#9については、発明者らは、0.3M NaCl、20mM Tris、pH7.0 (Q-Fast Flow, Pharmacia)中、アニオン交換樹脂によるインキュベーションを通じてウイルス液から余分なDNA断片を除去後、特定のプライマーP11-P12(表10)でリアルタイムPCRを用いて、ピューロマイシン遺伝子の量を1次計測した。次に、生物学的ウイルス価とAAVベクター#3のピューロマイシン遺伝子の量の関係から、上記のAAVベクターのウイルス価(導入価/ml)を見積もった。
【0075】
【表10】
【0076】
細胞内導入
SIN型レンチウイルスベクターをViraPowerTM レンチウイルスパッケージングMix (Invitrogen #K497500)と共に、リポフェクタミンTM 2000トランスフェクション試薬 (Thermo Fisher Scientific #11668027)でLenti-XTM 293T細胞(Takara #632180)に共トランスフェクションした。3日後、組換えウイルス粒子を含む上清をLenti-XTM濃縮試薬(Takara Bio #631231)で濃縮し、10μg/ml Polybrene (Nakalai #12996-81)の存在下、細胞感染(MOI=0.1-2)のために使用した。
連続的感染については、24穴プレート中に播種された293T-Cas9(Nick)-Myc細胞(500/穴)を、AAVS1部位を標的とするsgRNAおよびCas9v2ニッカーゼNT1.9kb断片を提供する、10,000導入価のAAV#7で36時間インキュベートした。培地を吸引後、細胞を連続的に10,000導入価のAAV#8またはAAV#9で24時間インキュベートし、全長Cas9(v2)ニッカーゼ-FLAGまたはdCas9(v2)-VP64をそれぞれ再構築した。細胞を6穴プレートに移し、2日後にブラストサイジンを加えた。32 μg/mlブラストサイジンS存在下10日後にコロニーを集めて、PCRおよび免疫ブロットで解析した。
【0077】
ゲノムDNA単離およびPCR
24穴プレート中のセミコンフルエントな細胞からゲノムDNAを抽出した。細胞質成分の1% Triton-X抽出後、細胞残渣を0.5% SDS含有バッファー中で24時間、180μg/ml Proteinase K (Nakalai #15679-06)で処理した。それらをフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1)で処理し、エタノールで沈殿させ、70%エタノール洗浄後、TE中に溶解させた。ゲノムDNA(各100ng)を表10にリストした特定のプライマー、KOD-FX-neo DNA Polymerase (TOYOBO #KFX-201)を用いてLightCycler 1.5 (ABI)上でPCRに供した。それ以外の記載がない限り、通常の反応条件は、94℃、2分間に続いて、98℃で変性の10秒、62℃でアニーリングの10秒および68℃で伸長の1分の35サイクルであった。PCR産物を1%アガロースゲルで解析した。いくつかのDNA断片を精製し、直接的に、またはプラスミドにサブクローニングした後に、シークエンスした。
【0078】
免疫ブロット解析
24穴プレート中のセミコンフルエントな細胞からGlo溶解バッファー(Promega #E2661)で細胞溶解物を抽出した。細胞溶解物(各10 μg)を5~12.5% SDS-PAGEで分離し、PVDF膜(Millipore)に転写した。特定のタンパク質を検出するために、抗Cas9ポリクローナル抗体(Takara Bio #632607)、抗Mycタグ (9B11)マウスモノクローナル抗体(Cell Signaling Tech #2276S)、抗FLAG M2マウスモノクローナル抗体(Sigma-Aldrich #F1804)または抗βアクチンマウスモノクローナル抗体(Santa-Cruz #SC-47778)を1:500~3,000希釈で用いた。それらをHRPコンジュゲート抗ウサギまたは抗マウスIgG抗体およびECL試薬で可視化した。
【0079】
ルシフェラーセアッセイ
HEK293T細胞(2x104/well)を96穴プレートに播種し、24時間後に10 ngのホタルルシフェラーゼレポータープラスミドpISRE(Interferon-stimulated response element)-Lucでトランスフェクトした。トランスフェクション後24時間に40ng/ml IFNαで細胞を刺激し、刺激後12時間にSteady-Glo(登録商標)Luciferase Substrate (Promega #E2510)を添加することによってルシフェラーセ活性を測定した。
【0080】
薬剤選抜なしの細胞形質導入
感染前日に24穴プレートに播種されたHEK293T細胞(500/穴)を10,000導入価のAAVベクター(MOI=20)で処理した。インキュベート24時間後、感染細胞を3つの異なる希釈(1/30、1/10、および1/3)で6穴プレートに移した。選抜のための抗生物質なしで約10日間インキュベーション後、完全に孤立したコロニーを集めて、24穴プレートに移し、ゲノムDNAおよび細胞ライセートの調製に十分な程度まで増殖させた。
【0081】
細胞株
宿主ゲノムに組み込まれたレンチウイルスの除去を評価するために、発明者らは、レンチウイルスの感染によって、最少プロモーターおよびブラストサイジン耐性遺伝子を構成的に含む、3 x κB (NF-κB結合部位)を介して5ng/ml TNFα刺激応答性ルシフェラーゼレポーターを発現する安定細胞株を作製した。その32μg/mlブラストサイジンに耐性の細胞に、さらにCMVプロモータ下のCas9およびピューロマイシン耐性遺伝子を構成的に発現するためのプラスミドでトランスフェクトした。図15の通り、結果として得られた2.5μg/mlピューロマイシン耐性細胞がTNFα応答性κB-Luc およびCMV駆動Cas9を発現していることを確認した(HEK 293T-lentiviral-κB-Luc+CMV-Cas9)。レンチウイルスLTRを標的とするAAV vector #3感染(sg-Lenti)によって組み込まれたレンチウイルスが細胞から除去されれば、細胞は、TNFα応答性ルシフェラーゼ活性を喪失するので、レンチウイルスの除去率を定量できる。
【0082】
ルシフェラーセアッセイ(2)
ゲノムからレンチウイルスの除去を評価するために、発明者らは、図15のHEK 293T-lentiviral-κB-Luc+CMV-Cas9細胞を用いた。該細胞(1,000/穴)を48穴プレートに播種し、24時間後にレンチウイルスLTRまたはコントロールsgRNAを標的にする500-5,000導入価のAAVベクター#3(MOI=0.5-5)で感染させた。トランスフェクション後24時間に細胞を5 ng/ml TNFαで刺激し、刺激後12時間にSteady-Glo(登録商標)Luciferase Substrate (Promega #E2510)を加えることによってルシフェラーゼ活性を測定した。
図29で、レンチウイルスが除去されたsgLenti #1および#2細胞におけるdCas9v2-VP64機能を調べるために、発明者らは、48穴プレート上の該細胞(1×104/穴)中の内在性IFNβ遺伝子プロモーター特異的な活性化を調べた。細胞を10ng 4 x ISRE (インターフェロン応答配列)-ルシフェラーゼプラスミドDNA、10ng MS2-P65-HSF1プラスミドDNA、およびIFNβ遺伝子プロモーター部位を標的にする10ng MS2-sgRNA発現プラスミド(sg-IFNβ)またはコントロールプラスミド(sg-control)を0.2μl Lipofectamine(登録商標)2000トランスフェクション試薬 (Thermo Fisher Scientific #11668027)でトランスフェクトした。トランスフェクション後36時間にSteady-Glo(登録商標)Luciferase Substrateを加えることによってルシフェラーゼ活性を測定した。dCas9v2-VP64、MS2-P65-HSF1、MS2-sgIFNβにより特異的に活性化されたIFNβがISREを介してルシフェラーゼ活性を顕著に上昇させた。MS2-sgRNA発現プラスミドの、IFNβ遺伝子プロモーター標的部位及びコントロール配列を表11に記載した。
【0083】
【表11】
【0084】
DNA配列解析
精製されたゲノムDNAから増幅されたPCR断片のダイレクトシークエンシングによっていくつかの確立された細胞の正確なゲノム構造を解析した。IFNAR1遺伝子について、PCRテンプレートとして各クローン由来のゲノムDNAを使用し、P9-P10プライマーでIFNAR1のエキソン1周辺領域を増幅した(図8)。プライマー配列を表10に記載した。増幅されたDNA断片(それらは概ねヘテロな約0.4kbであった)をアガロースゲルから切り出し、GeneCleanキット(Funakoshi #1102-200)で精製し、pcDNAベクタープラスミドにクローニングした。構造解析のためプラスミドDNA配列(1細胞株から4クローン以上)を調べた。
【0085】
統計処理
両側P値でStudent’s t検定を用いて量的データを解析した。p<0.02の値を統計的に有意であると判断した。
【0086】
実施例1 AAVS1遺伝子座への野生型Cas9の組み込み
In vivoでヒト体細胞を直接操作するために、発明者らは、レンチウイルスおよびAAVウイルスベクターの利点を採用し、ウイルスベクターのみを用いてAASV1遺伝子座にCas9を導入する方法を開発した。Cas9の安定発現は、特定のsgRNAおよび相同性アームを含み、HDRを促すことができる、AAVベクターの感染後の正確な遺伝子編集を可能にする。図1に示される通り、発明者らは2種のCas(Cas9v1(本来のSpCas9:化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes))およびCas9v2(SpCas9からヒトコドンに最適されている)を用いた。これらは、同一のタンパク質をコードするが、DNA配列という点において異なり、sgRNA #2がCas9v2のみを認識でき、Cas9v1を認識できないようにしている。タンパク質レベルでの両方のCas9の発現をモニターするため、発明者らはCas9v1とCas9v2にそれぞれMycタグとFlagタグを付加した(図1)。また、発明者らはHDRを可能にし、AAVベクターへの挿入DNAサイズを最小限にするために、0.3kbの短い相同性アームを伴う、ダブルカットドナー法を採用した。本方法は、以下に4工程を含んだ。
1)レンチウイルスベクターを用いて宿主細胞のゲノムにランダムにCas9v1(化膿レンサ球菌由来)を導入した。この方法は、組み込み部位を制御できなかった場合でさえ、サイズの大きいCas9v1を受け入れ、長期かつ案手にその発現を保証した。
2)AAVベクターの外来性遺伝子の収容力は2.5kb以下であるため、Cas9v1ヌクレアーゼ活性を用いて、AAVベクター#1を介して1.9kb Cas9v2 N末端断片(ヒトコドンに最適されている)をAAVS1遺伝子座に導入した。
3)2.3kb Cas9v2 C末端断片および1.9kb N末端断片とオーバーラップした0.3kb領域を提供する、AAVベクター#2でHDRを用いて全長Cas9v2を再構築した。
4)レンチウイルスベクターの長い末端反復配列(LTR)を標的にするsgRNAを含んだAAVベクター#3を用いてCsa9v1を含むレンチウイルスをゲノムから除去した。
【0087】
1)Cas9v1-Mycのゲノムへのランダムな組み込み
まず発明者らは、ゲノム組み込みはランダムであったが、レンチウイルスベクターによってCas9v1-Mycをヒト胎生腎臓(HEK)293T細胞の宿主ゲノムに導入した。多くの細胞における長期かつ安定な発現のため、自己切断ペプチドT2Aで連結されたCas9v1-Myc転写産物およびハイグロマイシン耐性遺伝子の両方をサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターを介して駆動した。感染したHEK293T細胞をハイグロマイシンBを用いて選抜し、選抜2週間後に調べた5クローンは全て(100%)Cas9v1-Mycを発現した(図11)。ここで、Cas9(Nick)-Myc感染に示されるように、発明者らは比較的低濃度のレンチウイルス(感染多重度(MOI)=0.1)を使用し、導入効率が低かったが、高濃度のレンチウイルスを使用することによって導入効率は改善し得る(図34)。
【0088】
2)1.9kb Cas9v2N末端断片のAAVS1遺伝子座への組み込み
Cas9v1-Mycヌクレアーゼ活性を用いて、AAVベクターを用いて1.9kb Cas9v2 N末端断片をAAVS1遺伝子座に導入した(図2)。HDRを可能するために、AAVS1特異的なsgRNA1 (sg1)を発現し、0.3kbの短い相同性アームを有するダブルカットドナーおよびプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を含むT1標的配列を提供するようにAAVベクター#1を設計した。該配列は表1に記載した。HDRが起きた場合、スプライスアクセプター(SA)、T2AおよびP2A自己切断ペプチドを介して、安定したPPP1R12C転写産物から1.9kb Cas9v2 N末端およびピューロマイシン耐性遺伝子の両者が発現する。Cas9v1-Mycを発現するHEK293T細胞(#2 clone)をAAVベクター#1に感染させ、2週間ピューロマイシンを用いて選抜した。ピューロマイシン耐性細胞(クローン#1-#15)から調製されたゲノムDNAを相同性アームの外側にセットされたプライマーP1-P2でPCRを用いて解析した(図3)。プライマーは表10に記載する。4.5kbおよび1.5kb PCR産物はそれぞれ、N末端Cas9v2が組み込まれたアリルおよび組み込まれていないオリジナルアリルに由来した。調べた15クローンのうち8クローン(53%)は2本バンドを有し、このことは1つのアリルだけがN末端Cas9v2を有し、クローン#8のみが両方のアリルにインサート(4.5kbおよび4.2kb)を保持することを示した。Cas9v2が組み込まれた可能性のあるクローン(PCR 4.5kb産物)をP1-P3プライマーおよびP4-P2プライマーでさらに解析した。8候補は全てCas9v2遺伝子(図3B: P1-P3プライマーを用いた1.2kb)およびピューロマイシン耐性遺伝子(図3C: P4-P2プライマーを用いた1.1kb)を保持していた。また、同じ細胞由来の細胞溶解物を、6%SDS-PAGEの後、両方のCas9を認識する抗体を用いて免疫ブロットによって解析した。8細胞は全てCas9v1-Myc (160 kDa)およびCas9v2の1.9kb N末端 (70 kDa)を発現していた(図3D)。N末端(NT)クローン#4断片の4.5kb配列は設計した通りであった(図2B)。クローン#8由来の4.5kb断片はクローン#4のそれとと同一であったが、クローン#8由来の4.2kb断片は右アーム周辺に挿入と欠失の両方を含んでいた(図12)。その配列は表12にリストした。
【0089】
【表12】
【0090】
3)AAVS1遺伝子座における全長Cas9v2-FLAGの再構築
HDRによって全長Cas9v2-FLAGを再構築するため、本発明者らは、Cas9v2-FLAGのC末端2.3kb断片およびN末端1.9kb断片とオーバーラップする0.3kb領域をAAVベクター#2を介して導入した(図4)。sgRNA2 (sg2)は、1.9kb N末端Cas9v2の3’端およびP2A自己切断ペプチドの5’端の間の接合部配列(T2)を標的にする。P2Aおよびピューロマイシンの0.3kb N末端断片を右アームとして使用し、T2標的配列およびITRに隣接したダブルカットドナーを提供した(表2)。P2Aは、AAVS1部位に存在するPPP1R12Cプロモーターで駆動される転写産物由来の再構築された全長Cas9v2-FLAGとブラストサイジン耐性遺伝子を発現する。ピューロマイシン耐性遺伝子もまたHDRを用いて再構築されたが、その前に挿入されたブラストサイジン耐性遺伝子の終止コドンのために、その転写産物は翻訳されなかった。Cas9v1-MycおよびCas9v2の1.9kb N末端を発現するHEK293T細胞(NTクローン#4)にAAVベクター#2を感染させ、ブラストサイジンで2週間選抜した。ブラストサイジン耐性細胞(クローン#1-#9)はピューロマイシンに感受性となり、そのゲノムDNAを調製し、P5-P6プライマーでPCRを用いて解析した(図5)。9クローン全て(100%)で検出された1.2kb PCR産物によってドナーエレメントの組み込みが示された。同じ細胞由来の細胞溶解物を、6%SDS-PAGEの後、両方を認識する抗体で免疫ブロットによって解析した。AAVベクター#2に感染した細胞全てにおいて、Cas9v2の1.9kb N末端を示す70-kDaのバンドは消失し、160-kDaバンドの強度が増した。抗FLAG抗体および抗Myc抗体によって、これらのバンドは、再構築された全長Cas9v2-FLAGおよびCas9v1-Mycのそれぞれを有することが確認された。AAVS1組み込み部位を含むCas9v2全長クローン#7の配列を確認した(表13)
【0091】
【表13】
【0092】
4)ランダムに組み込まれたCas9v1-Mycを含むレンチウイルスのゲノムからの除去
ランダムに組み込まれたCas9v1-Mycを含むレンチウイルスをゲノムから除去するために、発明者らは、非相同末端結合(NHEJ)を用いてレンチウイルスベクターのLTR (T3)を標的にするAAVベクター#3を構築した(図6)。Cas9v1-Mycおよび全長Cas9v2-FLAGを発現する細胞は機能的ピューロマイシン発現を喪失しているため(図4および5)、発明者らはsgRNAを発現する細胞を選抜するためにピューロマイシン耐性遺伝子を使用した。多くのケースでHIVのLTRを標的にするsgRNAが首尾よくLTR間の遺伝子を除去したという報告がある。発明者らは、野生型Cas9とCas9ニッカーゼによるDNA二本鎖切断のための16bpオフセットを有する一組のsgRNA(sg3-1およびsg3-2)をセットした(図6および表3)。ニッカーゼは標的部位として、オフセット(通常4から20bp)を挟んで逆鎖に相補的な1対のsgRNAsを必要とする。Cas9v1-Mycおよび全長Cas9v2-FLAGを発現するHEK293T細胞(Cas9v2 全長クローン#7)をAAVベクター#3に感染させ、ピューロマイシンで選抜した。Cas9v1-Mycに対する特定のプライマー(P7-P8)を用いたPCRおよびCas9v1-MycとCas9v2-FLAGに対する免疫ブロットによってピューロマイシン耐性細胞(クローン#1-#10)を解析した(図7)。10クローンのうちの5クローン(50%)で、LTRの僅かな部分を残しながらも、NHEJを用いてCas9v1-Mycを含むレンチウイルスが首尾よくゲノムから除去された。低濃度のAAV(MOI=0.1)の使用では、全体的な導入効率はそれほど高くなかった。しかし、MOIを20にまで増やすことによって、薬剤選択なしの除去率は約50%(3回の独立実験で3/6、5/9,および4/10)に増加した(図13および14)。Cas9v2と比較したCas9v1の特異的除去はPCRおよび免疫ブロットによって確認した。薬剤選択なしにレンチウイルスベクターの高除去率を達成することは、in vivo使用において重要である。
sgRNAを介した組み込まれたゲノムからのレンチウイルスの除去率を別の方法で量的に評価した(図15)。TNFα存在下におけるルシフェラーゼ活性は、Cas9も安定的に発現している細胞におけるレンチウイルスのκB-ルシフェラーゼ遺伝子の量に依存する。sgRNAを発現するAAVベクターの感染後36時間の相対的ルシフェラーゼ活性を介して、組み込まれたレンチウイルスのκB-ルシフェラーゼ遺伝子の除去率を測定した(sg-Lenti (sg3-1およびsg3-2)からsg-コントロール)。比較的低いMOI=5で細胞の半分以上(59%)においてレンチウイルスは除去された。このことは、レンチウイルスの除去率は50%以上であることを示唆する。
【0093】
5)再構築されたCas9v2-FLAG機能の検証
AAVS1遺伝子座において再構築されたCas9v2-FLAGがヌクレアーゼ活性に対して機能的であることを検証するために、発明者らは、特定の部位を標的にするsgRNAと共に、Cas9v2-FLAGが該部位にDNA二本鎖切断(DSB)を生じさせるかどうかを調べた。一過性ルシフェラーゼアッセイを用いてインターフェロンα受容体1(IFNAR1)遺伝子がノックアウトされているかどうかを調べることが容易であるため、発明者らは標的として該遺伝子を選択した。インターフェロン刺激応答エレメント(interferon-stimulated response element)-ルシフェラーゼプラスミドをトランスフェクトされた細胞は、IFNα刺激に対して良好な応答を示したが、IFNAR1を欠損した細胞は刺激に応答しなかった。Cas9ニッカーゼおよび野生型Cas9によるDNA二本鎖切断のための7bpオフセットを有する1対のsgRNA(sg4-1およびsg4-2)を置くことによって、IFNAR1のエキソン1(T4)を標的にするAAVベクター#4を作製した(表4) (図8)。レンチウイルスLTRを標的にするsgRNA3を発現する細胞(sgLentiクローン#10)中において、ハイグロマイシン耐性遺伝子はCas9v1-Mycと共に除去されるので、このsgIFNAR1(sgRNA4)を発現する細胞を選抜するために、新たなハイグロマイシン耐性遺伝子をITRの間に置いた。
sgLentiクローン#10細胞にAAVベクター#4を感染させ、ISRE-Luciferase プラスミドでトランスフェクションされた後のISRE応答を測定する。ルシフェラーゼアッセイによってIFNAR1が実際にノックアウトされているかどうか、Cas9v2-FLAGおよびsgIFNAR1を発現するハイグロマイシン耐性クローン(#1-#6)を調べた。6クローンのうち5クローン(83%)は、IFNα応答を喪失しており、このことはCas9v2-FLAG 、sgIFNAR1でNHEJを起こし、IFNAR1が特異的にノックアウトされたことを示した。発明者らは#1および#3クローンからIFNAR1クローンのゲノム構造を解析した(図16)。細胞はIFNAR1アリルにおいてヘテロな挿入と欠失を有し、結果として、IFNα刺激に対する応答を喪失していた。従って、発明者らは、再構築されたCas9v2-FLAGは機能的であり、他の遺伝子を編集するために使用できることを確認した。
【0094】
実施例2 AAVS1遺伝子座へのCas9ニッカーゼの導入
実施例1の通り、AAVS1遺伝子座において再構築されたCas9v2-FLAGは機能的であったが、Cas9はしばしばオフターゲット効果により標的部位以外でゲノムの切断を引き起こす。遺伝子編集において起こりうるオフターゲット効果を減らすために、発明者らはまた、D10A変異を持ったCas9v2ニッカーゼをAAVS1遺伝子座へ導入した。発明者らは、Cas9v1-Mycを発現するHEK293T細胞(クローン#2)への感染のために、AAV#1の代わりにD10A変異を有するCas9v2の1.7kb N末端 (AAV#5)(表5)を使用した(図17)。10種のピューロマイシン耐性クローン(#1-#10)のうち3クローン(30%)は1つのアリル中に候補となる4.5kbのバンドを有していた(図18)。3クローンは全て、PCRにより変異1.9kb N末端Cas9v2遺伝子およびピューロマイシン遺伝子を有し、Cas9に対する抗体を用いた免疫ブロットにより70kDa N末端Cas9v2ニッカーゼおよび160kDa Cas9v1-Mycタンパク質を有することを確認した。N末端Cas9v2ニッカーゼ断片の導入効率は低く、薬剤選抜なしに連続的感染において高濃度のベクター(MOI=20)を用いたデータから約3~6%と見積もった(図9、10、41および42)。
全長Cas9v2ニッカーゼを再構築するために、発明者らは、図4と同じAAVベクター#2を用いてCas9v1およびCas9v2の変異1.9kb N末端を発現する細胞(nickase-NTクローン#9)を感染させた(図19)。PCRおよび免疫ブロットによって10種の細胞株(#1~#10)は全てCas9v1-Mycおよび全長Cas9v2-FLAGニッカーゼを発現していることが示された(図20)。AAVS1組み込み部位を含む全長Cas9v2-FLAGニッカーゼクローン#3の配列を確認した(表14)。
【0095】
【表14】
【0096】
薬剤選抜はin vivoにおいては適用され得ないので、発明者らは、薬剤選抜なしにニッカーゼN末端1.9kb 断片を含む細胞(クローン#9)から全長Cas9v2-FLAGニッカーゼの再構築率を測定した。高量AAVベクター#2(MOI=20)を用いて薬剤選抜なしに、6つのうち3クローン(50%)が首尾よく再構築された(図21)。
最終的に、発明者らは、図6と同じAAVベクター#3を用いて、ゲノムからCas9v1を含むレンチウイルスベクターを除去した(Cas9v2nickase full-length#3クローン) (図22)。10クローンのうち3クローン(30%)はNHEJにより首尾よくゲノムからCas9v1-Mycを含むレンチウイルスが除去された。MOI=20 (図23)まで増やすことによって、薬剤選抜なしの除去率は56%(5/9)に増加した。Cas9v2と比べた具体的な除去をPCRで確認した。
sgLenti#4を発現する細胞中の再構築された全長Cas9v2-FLAGニッカーゼのヌクレアーゼ活性を確認するため、細胞をAAVベクター#4に感染させ、IFNAR1遺伝子を標的とする1対のsgRNA(sg4-1およびsg4-2)を発現させた(図8)。結果として得られた6つのハイグロマイシン耐性クローンのうち5クローン(83%)は、IFNAR1を介したIFNα応答を完全に喪失した(図24)。発明者らは、クローン#3および#5のIFNAR1のゲノム構造を解析した(図25)。細胞はIFNAR1アリル中にヘテロな挿入と欠失を有し、結果としてIFN刺激に対する応答を喪失していた。クローン#3の1アリルはイン-フレーム欠失だったが、シグナル配列の喪失は、細胞表面におけるIFNAR1の適切な発現に影響をを与えた。従って、発明者らは、再構築されたCas9v2-FLAGニッカーゼは機能的であり、より正確に他の遺伝子を編集するために用いることできることを確認した。
【0097】
実施例3 AAVS1遺伝子座への不活性Cas9(dCas9)の導入
CRISPR/Cas9システムは、特定の遺伝子のノックアウトまたはノックインのみならず、特定の遺伝子の転写活性化にも使用される。D10AおよびN876A変異を有し、転写活性化因子VP64にコンジュゲートされた、ヌクレアーゼ活性のない不活性Cas9(dCas9-VP64)を、特定のプロモーターを標的とする具体的に改変されたsgRNA (MS2-sgRNA)と共に使用した。MS2-sgRNAは、dCas9-VP64と共にMS2タンパク質を介して転写活性化因子(P65およびHSF1)をプロモーターにリクルートする。結果として、プロモーターからの転写が活性化された。発明者らは、AAVベクター#6(図26)をCas9v1およびD10A変異Cas9v2を発現するHEK293T細胞(nickase-NT#9)(図18)に感染させることによってAAVS1遺伝子座に全長dCas9v2-VP64を再構築した。PCRと免疫ブロットによって、10種のブラストサイジン耐性細胞株の全て(100%)が再構築された全長dCas9v2-VP64とCas9v1-Mycを発現したことが示めされた(図27)。薬剤選抜なしで1.9kb N末端ニッカーゼ断片を含む細胞(clone#9)からの全長Cas9v2-VP64の再構築率は、高量のAAVベクター#26(MOI=20)による薬剤選抜なしで6つのうち3つ(50%)であった(図28)。AAVS1組み込み部位を含む全長dCas9v2-VP64クローン#1の配列を確認した(表15)。
【0098】
【表15】
【0099】
最終的に、発明者らは、図6と同じAAVベクター#3を用いて、全長dCas9v2-VP64#1を発現する細胞からCas9v1-Mycを含むレンチウイルスベクターを除去した(図29)。10クローンのうち4クローン(40%)はCas9v1-Mycを含むレンチウイルスが首尾よく除去された。再構築された全長dCas9v2-VP64はヌクレアーゼ活性を持たないことを考えると、遺伝子が除去される前にCas9v1-Myc遺伝子から転写され翻訳された残余Cas9v1-Mycタンパク質が、Cas9v1-Myc遺伝子自身を含むレンチウイルスを除去するように働いたと思われる。特定のプロモーターを活性化させるためのdCas9v2-VP64機能を確認するため、発明者らは、IFN β遺伝子プロモーター部位を標的にする改変sgRNAおよびMS2-P65-HSF1がIFNβ転写を活性化させるか否かを試験した(図30)。MS2-sgRNAおよびMS2-P65-HSF1を発現するための指定のプラスミドをトランスフェクトするためにISRE(インターフェロン応答配列)-Lucプラスミドを使用した後、IFNARを介してISRE-ルシフェラーゼ活性を用いて、IFNβ転写の発現レベルをモニターした。IFNβ標的によってISRE-ルシフェラーゼ活性は有意に活性化された(#1および#2クローンにおいてそれぞれコントロールに比べて12.8および19.0倍)。従って、dCas9v2-VP64が後から任意の他の遺伝子を活性化することは妥当である。全コンストラクトのタンパク質構造を確認するための免疫ブロット解析を図31および32に示す。
【0100】
実施例4 オフターゲット効果を減らすための第1工程におけるレンチウイルスCas9ニッカーゼの使用
本発明の方法の最初の工程におけるレンチウイルスのCas9の使用は、そのゲノムの組み込みのために遺伝的リスクと同様、潜在的なオフターゲット効果を有する。AAVS1遺伝子座におけるCsa9v2-ニッカーゼまたはdCas9v2-VP64の再構築の間、レンチウイルスのCas9v1によって生じるオフターゲット効果を減らすため、発明者らは、本発明の方法の最初の工程における野生型Cas9v1の代わりにレンチウイルスのCas9ニッカーゼ(Cas9(Nick)-Myc)を使用した。図33に示される通り、ランダムに宿主のゲノムに組み込まれるレンチウイルスCas9(Nick)-MycとAAVS1遺伝子座に組み込まれるCsa9v2-FLAGニッカーゼまたはdCas9v2-VP64を区別するために、1つだけあるBspHI制限酵素部位でN末端Cas9v1をCas9v2ニッカーゼで置換することによってCas9(Nick)-Mycを構築した。ハイグロマイシン選抜後、免疫ブロットでCas9(Nick)-Myc発現を確認した(図33C)。また、感染細胞の約10%(2つの独立実験において1/10および1/10)は、高量のレンチウイルス(MOI=2)によって薬剤選抜なしにCas9(Nick)-Mycを発現していた(図34)。幸運にも、AAVS1組み込み部位、およびN末端Cas9v2とT2Aの間のジャンクションの両方においてCas9ニッカーゼによる可能な切断節があった(図35および37)。D10A変異を有するN末端Cas9v2ニッカーゼのAAVS1遺伝子座への導入について、発明者らは、Cas9(Nick)によるDNA二本鎖切断(DSB)のためのAAVベクター#5へ別のsgRNA (sg7)を加えることによってAAVベクター#7を作製した(図35および36)。ダブルカットドナーを提供するために、標的配列(T1)もまたT7/1で置換した。AAVベクター#7の正確な配列を表7に示す。全長Cas9v2-FLAGニッカーゼおよびdCas9v2-VP64を再構築するために、AAVベクター#8 (図37および38)およびAAVベクター#9(図39および40)をそれぞれ構築した。これらの配列もまた表7~9に記載した。
【0101】
実施例5 薬剤選選抜なしのAAVベクターの連続的感染
図15のデータから、ゲノム再構築を完了するには約24時間で十分であることが示された。発明者らは、感染の間薬剤選抜なしに短い間隔(24h36h)での2つのAAVベクターの連続的感染によって、AAVS1遺伝子座における2つのベクターからのCas9の再構築をなし得ると考えた。図10に示される通り、36hの短い間隔でAAVベクター#7と#8または#9の連続的感染によって効率的に首尾よくCas9v2を再構築した(図41~44)。AAVS1遺伝子座における全長Cas9v2-FLAGニッカーゼ再構築について、免疫学的およびPCR解析によって、ブラストサイジン耐性細胞中の83%(5/6)がAAVS1遺伝子座に全長Cas9v2-FLAGニッカーゼを有していることが判明した(図41)。全クローンが全長Cas9v2-FLAGニッカーゼタンパク質を発現したが、クローン#6はAAVS1組み込み部位の3’領域において欠失を持っている可能性がある。一方、クローン#1、#2および#3は全て、ゲノム中にCas9(Nick)-Myc遺伝子を有していたが、該クローンにおいてレンチウイルスCas9(Nick)-Mycタンパク質は検出されなかった(図44)。この矛盾の理由に関しては発明者らも結論を得ていない。6クローン全て(100%)において全長dCas9v2-VP64も首尾よく再構築されたが、クローン#4は右アーム周辺に欠失を有していた(図42および43)。さらに、全クローンともゲノム中にCas9(Nick)-Myc遺伝子を有していたが、クローン#1、#3および#6においてレンチウイルスCas9(Nick)-Mycタンパク質は検出されなかった(図44)。その理由は不明である。両実験で最初の500個のHEK 293T-Cas9(Nick)-Myc細胞から平均15個のコロニーが現れたので、これらの連続的感染の全導入効率は、約3%だった(図10)。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、ex vivoは勿論、in vivoでも細胞において安定的なcas9遺伝子の発現が可能となり、適切なsgRNAとドナーDNAを細胞に供給するのみで、単一遺伝子変異のみならず、癌などでみられる複数の遺伝子変異も効率的に修復することが可能となる。複数の遺伝子変異によって生じる癌、ゲノムに原因となるウイルス遺伝子が組み込まれることによって生じるウイルス性疾患に対して、ゲノム中で安定的にCas9タンパク質を発現させることにより、変異遺伝子やウイルス由来遺伝子を標的としたsgRNAを必要に応じてドナーDNAと組み合わせることによって、効果的な治療が期待できる。
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【配列表】
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