(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】メソポーラスケイ酸の合成方法及び合成装置、並びに地熱発電装置
(51)【国際特許分類】
C01B 37/00 20060101AFI20240816BHJP
C01B 33/20 20060101ALI20240816BHJP
F03G 4/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C01B37/00
C01B33/20
F03G4/00 501
F03G4/00 511
(21)【出願番号】P 2020158947
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2019206726
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 雄二郎
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-180912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
F03G
C02F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地熱水中に濃度300~2000mg/Lで含有するシリカからメソポーラスケイ酸を直接合成する方法であって、
前記シリカと、前記シリカの総量及びカチオン界面活性剤の合計量に対して2.2
~23.0モル%の
下記式で表されるカチオン界面活性剤とを
、60~160℃の温度で
、pH3.0~4.0又は6.5以上において、反応させる、メソポーラスケイ酸の合成方法。
式:R
1
N(R
2
)(R
3
)(R
4
)Xで表される4級アンモニウム塩
式中、R
1
は炭素数12~18の直鎖アルキル基を示し、R
2
~R
4
はそれぞれ水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。
【請求項2】
前記反応を
、pH7.0以上で行う、請求項1に記載の合成方法。
【請求項3】
前記反応を、前記地熱水の自熱を利用して行う、請求項1又は2に記載の合成方法。
【請求項4】
前記反応を、70~130℃で行う、請求項1に記載の合成方法。
【請求項5】
前記地熱水が、地熱発電装置における還元水である、請求項1~4のいずれか1項に記載の合成方法。
【請求項6】
前記反応により生成する沈殿物を固液分離する、請求項1~5のいずれか1項に記載の合成方法。
【請求項7】
前記反応と前記固液分離とを1サイクルとして、複数サイクル繰り返して行う、請求項6に記載の合成方法であって、
前サイクルの固液分離により得られる沈殿物の存在下で、次サイクル用の地熱水中のシリカと
、当該シリカの総量及びカチオン界面活性剤の合計量に対して2.2~23.0モル%の下記式で表されるカチオン界面活性剤とを
、60~160℃の温度で、pH3.0~4.0又は6.5以上において、反応させる、合成方法。
式:R
1
N(R
2
)(R
3
)(R
4
)Xで表される4級アンモニウム塩
式中、R
1
は炭素数12~18の直鎖アルキル基を示し、R
2
~R
4
はそれぞれ水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。
【請求項8】
地熱水中のシリカ
と下記式で表されるカチオン界面活性剤とを反応させ
るメソポーラスケイ酸合成装置
であって、
沈殿物排出口及び上澄液排出口を有し、前記シリカと前記カチオン界面活性剤との反応を行う反応槽と、前記反応槽の内部に配置された撹拌装置と、前記沈殿物排出口に接続された沈殿物排出管と、前記上澄液排出口に接続された上澄液排出管とを備えている、メソポーラスケイ酸合成装置。
式:R
1
N(R
2
)(R
3
)(R
4
)Xで表される4級アンモニウム塩
式中、R
1
は炭素数12~18の直鎖アルキル基を示し、R
2
~R
4
はそれぞれ水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の合成方法を実施するための、請求項8に記載のメソポーラスケイ酸合成装置。
【請求項10】
蒸気井と、前記蒸気井に接続された気水分離器と、前記気水分離器に接続された熱水槽と、前記熱水槽に接続された還元井とを備えた地熱発電装置であって、
前記熱水槽と前記還元井との間に請求項8
又は9に記載のメソポーラスケイ酸合成装置を備えた地熱発電装置。
【請求項11】
前記熱水槽に接続された熱交換器を備えたバイナリー型の、請求項
10に記載の地熱発電装置。
【請求項12】
前記熱水槽と前記還元井とを接続する輸送管、前記熱水槽と前記熱交換器とを接続する輸送管、又は、前記熱交換器と前記還元井とを接続する輸送管の途中に、前記メソポーラスケイ酸合成装置を併設した、請求項
11に記載の地熱発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メソポーラスケイ酸の合成方法及び合成装置、並びに地熱発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーのうち、地熱発電は天候に左右されずに安定的かつ長期的にエネルギーを供給することができ、近年脚光を浴びている。また日本政府は、地熱発電を再生可能エネルギーの重要な柱として位置付けており、2030年までに現状の地熱発電出力(52万kW)を2~3倍に増やすとしている。
しかし、地熱発電は、地中から地熱流体を取り出し、その熱により発電しているため、低温及び低圧になることにより地熱流体に含まれるシリカが発電設備の配管やボイラー等に析出し、発電効率が大幅に低下するという問題がある。
その対策として、地熱流体(地熱水)を酸性にする試みが行われているが、配管の劣化が懸念される。また、地熱流体にカチオン界面活性剤又は凝集沈殿剤等を加えてシリカ沈殿物として取り除く方法が提案されている(特許文献1、2及び非特許文献1~3)。しかし、シリカ沈殿物はヒ素など有害物質を含むことから産業廃棄物に区分されるため、廃棄処理コストが非常にかかり、地熱発電の経済性に大きく影響を及ぼす。そのため、産業廃棄物であるシリカ沈殿物の有効利用法として、ゼオライトやメソポーラスケイ酸塩など環境浄化材料を合成する方法が提案されている(特許文献1及び非特許文献4)。しかし、シリカ沈殿物から環境浄化材料を合成するには、沈殿物析出後に液性を酸からアルカリに変更して水熱合成するため、必ずしも発電コスト低減につながらず実用化に至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-167213号公報
【文献】特開2001-096282号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】日本地熱学会誌、第8巻、第l号(1986)、p1-14
【文献】日本地熱学会誌、第22巻、第4号(2000)、p249-258
【文献】Advanced Materials Research、Vols.516-517(2012)、p.380-383
【文献】International Symposium on Water Resource and Environmental Protection 2、p.1455-1458、2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地熱発電所等で採取した地熱流体からメソポーラスケイ酸塩を直接合成できると、地熱流体を用いる地熱発電における上述の問題(発電効率の低下)が解消され、発電コスト低減も可能になると考えられる。
しかし、MCM-41(商品名、エクソンモービル社製)等のメソポーラスケイ酸塩は、通常、高濃度のシリカ源を含む溶液にカチオン界面活性剤(例えばヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB))を投入して100℃のアルカリ水熱条件で合成されるが(例えば、C.T.Kresge et al.,Nature,359,710-712(1992)参照)、地熱流体のように低濃度の(微量な)SiO2(300~2000mg/L)と、各種の塩とを含む溶液から合成された例は報告されていない。
なお、カチオン界面活性剤を地熱流体のSiO2の凝集剤として使用した例はあるが、地熱流体に少量のCTABを添加するか、地熱流体を酸性にしてポリマーシリカの沈殿を促進させるかの検討がなされているに過ぎない(非特許文献1)。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであり、地熱流体からメソポーラスケイ酸を直接合成する方法及びその合成装置を提供することを課題とする。また、本発明は、地熱流体からメソポーラスケイ酸を直接合成するメソポーラスケイ酸合成装置を備えた地熱発電装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の状況の下、発明者は、地熱流体からメソポーラスケイ酸を直接合成する方法について鋭意検討を重ねた結果、シリカ濃度が低濃度である地熱水であっても、特定量のカチオン界面活性剤の存在下、特定条件で反応させることにより、地熱水中のシリカ成分から目的とするメソポーラスケイ酸を直接合成できることを見出した。また、この直接合成法、更にはこの直接合成方法を実施可能な合成装置が地熱発電装置に併設可能であることも見出した。
本発明はこれらの知見に基づき更に検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明の課題は、下記の手段により解決された。
<1>地熱水中に濃度300~2000mg/Lで含有するシリカからメソポーラスケイ酸を直接合成する方法であって、
前記シリカと、前記シリカの総量及びカチオン界面活性剤の合計量に対して2.2モル%以上のカチオン界面活性剤とを200℃未満の温度で反応させる、メソポーラスケイ酸の合成方法。
<2>前記反応を、pH4以下又はpH7以上で行う、<1>に記載の合成方法。
<3>前記反応を、前記地熱水の自熱を利用して行う、<1>又は<2>に記載の合成方法。
<4>前記カチオン界面活性剤が、アンモニウム系カチオン界面活性剤である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の合成方法。
<5>前記地熱水が、地熱発電装置における還元水である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の合成方法。
<6>前記反応により生成する沈殿物を固液分離する、<1>~<5>のいずれか1項に記載の合成方法。
<7>前記反応と前記固液分離とを1サイクルとして、複数サイクル繰り返して行う、<6>に記載の合成方法であって、
前サイクルの固液分離により得られる沈殿物の存在下で、次サイクル用の地熱水中のシリカとカチオン界面活性剤とを反応させる、合成方法。
<8>200℃未満の温度において、地熱水中のシリカと、前記シリカの総量及びカチオン界面活性剤の合計に対して2.2モル%以上のカチオン界面活性剤とを反応させる、メソポーラスケイ酸合成装置。
【0009】
<9>蒸気井と、前記蒸気井に接続された気水分離器と、前記気水分離器に接続された熱水槽と、前記熱水槽に接続された還元井とを備えた地熱発電装置であって、
前記熱水槽と前記還元井との間に<8>に記載のメソポーラスケイ酸合成装置を備えた地熱発電装置。
<10>前記熱水槽に接続された熱交換器を備えたバイナリー型の、<9>に記載の地熱発電装置。
<11>前記熱水槽と前記還元井とを接続する輸送管、前記熱水槽と前記熱交換器とを接続する輸送管、又は、前記熱交換器と前記還元井とを接続する輸送管の途中に、前記メソポーラスケイ酸合成装置を併設した、<10>に記載の地熱発電装置。
<12>前記メソポーラスケイ酸合成装置が、沈殿物排出口及び上澄液排出口を有する反応槽と、前記反応槽の内部に配置された撹拌装置と、前記沈殿物排出口に接続された沈殿物排出管と、上澄液排出口に接続された上澄液排出管とを備えている、<9>~<11>のいずれか1項に記載の地熱発電装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地熱水から凝集されたシリカ沈殿物からではなく、シリカ濃度が低濃度である地熱水を用いてメソポーラスケイ酸を直接合成することができる。本発明の合成方法により、地熱水からシリカ沈殿物を一旦生成及び単離させることなく、直接メソポーラスケイ酸を簡便に合成できるため、生産性の向上と大幅な製造コスト削減につながる。また、本発明のメソポーラスケイ酸合成装置は本発明の合成方法を好適に実施でき、本発明の合成方法を地熱発電装置に適用すると、地熱発電装置において従来問題になっている地熱水からのシリカ析出(配管詰まり、発電効率の低下)を抑制することもできる。
本発明の地熱発電装置は、上述の本発明の合成方法を実施可能な本発明のメソポーラスケイ酸合成装置を備えており、地熱水からのシリカの析出を抑制できるうえ、地熱発電コストの低減も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の地熱発電装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明のメソポーラスケイ酸合成装置の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、実施例1で合成したメソポーラスケイ酸の粉末X線回折の結果を示すXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、通常、地熱流体とは地中から採取される流体であって地熱水及び蒸気を含む流体をいい、地熱水(地熱熱水)とは地熱流体から気液分離された熱水をいう。この地熱水としては、通常、後述するフラッシュ型地熱発電では還元水(還元井に移送される熱水)、後述するバイナリー型地熱発電では熱交換水又は還元水等として用いられる。なお、本発明においては、特に断らない限り、地熱流体と地熱水とを同じ意味に用いる。
本発明において、用語「シリカ」は、二酸化ケイ素、無水ケイ酸、更には特に断らない限りモノケイ酸等を包含する意味で用い、用語「メソポーラスケイ酸」は、メソポーラスシリカ、更にその塩を包含する意味で用いる。ただし、メソポーラスケイ酸塩としては、用いる地熱水の組成、合成条件等に応じて一義的に決定されず、その例として、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アルミニウム塩等が挙げられる。
メソポーラスケイ酸とは、一般に、均一で規則的な細孔(直径2~50nm程度のメソ孔)を有するシリカをいう。このメソポーラスケイ酸は、触媒や環境浄化材料など他種多様な用途への適用が期待されている物質であって、その有用性は高く、またメソポーラスケイ酸の1つであるMCM-41(商品名、エクソンモービル社製)は高価である。
本発明において、地熱水からメソポーラスケイ酸を直接合成するとは、(ポリケイ酸を含む)シリカ沈殿物を一旦凝集(生成)又は単離させることなく、地熱水中のシリカからメソポーラスケイ酸を合成することを意味する。
本発明において、フラッシュ型地熱発電とは、地熱流体から気液分離された蒸気を発電機のタービンに直接導入するタイプ(一次作動流体のみ使用)の発電方式をいい、バイナリー型地熱発電とは、地熱流体(一次作動流体)から気液分離された地熱水から熱交換して加熱された二次作動流体を発電機のタービンに導入するタイプの発電方式をいう。
【0013】
まず、本発明のメソポーラスケイ酸の合成方法(製造方法)について説明する。
本発明のメソポーラスケイ酸の合成方法(単に本発明の合成方法ということがある。)は、地熱水中のシリカからメソポーラスケイ酸を直接合成する方法であり、原料となるシリカ含有液として地熱水を用いる。
【0014】
地熱水としては、いずれの地中から産出される地熱水でもよいが、そのシリカ濃度が300~2000mg/Lという低濃度のもの(低濃度シリカ含有液)を用いる。地熱水は、通常、上記範囲のシリカ濃度を有しており、本発明ではこのようなシリカ濃度が低い地熱水を用いてもメソポーラスケイ酸を合成することができる。この点は、シリカ沈殿物を用いる従来のメソポーラスケイ酸の合成法(シリカ濃度は上記範囲を超える高濃度に設定される)では達成しえない、地熱水の直接利用という本発明の特徴及び効果となる。なお、本発明においては濃縮した地熱水を用いることもできる。
シリカ濃度が300~2000mg/Lであると、(産出地に関わらず)地熱水を直接利用が可能(シリカ濃度の過度な調整が不要)となる上に、メソポーラスケイ酸を効率的に合成できる。メソポーラスケイ酸の効率的な合成の点で、地熱水中のシリカ濃度は、例えば、400~1500mg/L又は400~1200mg/Lに設定することもできる。
本発明において、地熱水のシリカ濃度は、二酸化ケイ素(SiO2)に換算した濃度である。地熱水のシリカ濃度は、公知の方法により定量することができ、例えばモリブデンイエロー法、ICP発光分光分析法が挙げられる。
【0015】
地熱水のpHは、特に制限されず、酸性、中性又はアルカリ性でもよいが、後述する合成条件(pH)を満たしうる(地熱水をそのまま使用可能となる)点で、中性又はアルカリ性であることが好ましく、ポリケイ酸の合成を抑制して、メソポーラスケイ酸を効率的に合成できる点で、アルカリ性がより好ましい。地熱水の具体的なpH値は後述する合成条件と同じであることが好ましい。
【0016】
地熱水の温度は、特に制限されないが、後述する合成条件(合成温度)を満たしうる(地熱水をそのまま使用可能となる)点で、200℃未満であることが好ましい。地熱水の具体的な温度は後述する合成条件と同じであることが好ましい。
【0017】
地熱水は、シリカ以外にも、各種の塩、元素(イオン)等を含んでいるが、これらの含有量は特に制限されない。地熱水が含む元素としては、例えば、アルカリ金属元素、アルカリ土類元素、アルミニウム、亜鉛、ハロゲン元素が挙げられ、塩としては、これらを組み合わせたもの、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0018】
本発明に用いる地熱水は、地熱発電装置において、地熱流体から気液分離されて得られる熱水であることが、地熱発電コストの低減、地熱発電装置の保守等の点で、好ましい。
【0019】
本発明に用いる地熱水は、産出地(生産井)を異にする2種以上の地熱水を混合して用いることもできる。
【0020】
本発明に用いるカチオン界面活性剤は、特に制限されないが、アンモニウム系カチオン界面活性剤が好ましい。カチオン界面活性剤となる4級アンモニウム塩としては、特に制限されないが、メソポーラスケイ酸を効率的に合成できる点で、アルキルアンモニウム塩が好ましく、テトラアルキルアンモニウム塩が好ましく、長鎖の直鎖アルキル基を含むアンモニウム塩が更に好ましく、モノ長鎖の直鎖アルキルトリ短鎖アルキルアンモニウム塩が特に好ましい。4級アンモニウム塩を形成するアニオンは、特に制限されないが、ハロゲン化物イオン、過ハロゲン酸イオン等の無機アニオンが挙げられ、好ましくはハロゲン化物イオンであり、より好ましくは臭化物イオンである。
【0021】
アンモニウム系カチオン界面活性剤としては、特に制限されないが、下記式で表される4級アンモニウム塩が挙げられる。
式:R1N(R2)(R3)(R4)X
式中、R1は長鎖の直鎖アルキル基を示す。直鎖アルキル基の炭素数は、メソポーラスケイ酸を効率的に合成できる点で、6~18であることが好ましく、12~18であることがより好ましくい。R2~R4はそれぞれ水素原子又は短鎖アルキル基を示し、同一でも異なっていてもよい。短鎖アルキル基は、直鎖でも分岐鎖でもよく、その炭素数はメソポーラスケイ酸を効率的に合成できる点で、1~4であることが好ましく、1であることがより好ましい。Xはハロゲン原子を示し、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、臭素原子が好ましい。
【0022】
4級アンモニウム塩のカチオン界面活性剤としては、例えば、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、デシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロマイド、これらのクロリド体が挙げられる。
【0023】
本発明の合成方法においては、地熱水又は後述する反応系のpHを調整するpH調整剤を用いることができる。pH調整剤としては、特に制限されないが、各種の酸又は塩基が挙げられる。酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸等の有機酸が挙げられる。塩基としては、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属等の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、炭酸塩等が挙げられ、取扱性、コスト等の点で、水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0024】
本発明の合成方法においては、メソポーラスケイ酸の合成反応を阻害しない範囲で他の成分を添加することができる。
【0025】
本発明の合成方法においては、反応に先立って、地熱水とカチオン界面活性剤と、適宜にpH調製剤等とを配合する。このときの配合順は、特に制限されず、通常、地熱水に、カチオン界面活性剤、pH調製剤等を加えて行うが、これ以外にも、例えば、地熱水にカチオン界面活性剤を加えた後にpH調製剤を加えることもできる。
【0026】
カチオン界面活性剤の添加量は、用いる地熱水中のシリカの総量及びカチオン界面活性剤の添加量の合計量に対して、2.2モル%以上とする。これにより、地熱中のシリカからメソポーラスケイ酸を直接合成することができる。カチオン界面活性剤の添加量は、メソポーラスケイ酸を効率的に直接合成できる点で、上記合計量に対して、4.4モル%以上であることが好ましく、22モル%以上であることがより好ましい。一方、添加量の上限値は、特に制限されないが、溶解度等の観点から一義的に決定されず、適宜に設定できる。例えば、界面活性剤のコストの点で、上記合計量に対して、44モル%以下であることが好ましく、36モル%以下であることがより好ましく、28モル%以下であることが更に好ましい。
本発明においては、シリカの総量とは、地熱水中のケイ素元素含有量をシリカ含有量に換算した値を意味する。また、カチオン界面活性剤の添加量の単位は「モル%」である。
【0027】
反応は200℃未満の温度で行う。この温度で反応させることにより、地熱水をそのまま使用(地熱水の自熱を利用)することができるうえ、地熱中のシリカからメソポーラスケイ酸を直接合成することができる。反応温度は、地熱水の自熱をより効果的に利用でき(外部加熱に要するコスト削減が可能)、メソポーラスケイ酸を効率的に直接合成できる点で、50℃以上が好ましく、80~160℃がより好ましく、80~100℃がより好ましい。
反応温度は、地熱水の自熱を利用してもよく、(外部)加熱手段で加熱して行ってもよく、これらを併用してもよい。作業容易性及びコスト等の点で、少なくとも、地熱水の自熱を利用して行うことが好ましい。
【0028】
反応は適宜のpH値(酸性、中性及びアルカリ性)で行うことができる。ポリケイ酸の生成を抑制できる点、又はポリケイ酸が存在していてもモノケイ酸に分解できる点で、pH4以下又はpH6.5以上で行うことが好ましく、pH4以下又はpH7以上で行うことがより好ましく、更にメソポーラスケイ酸を効率的に合成できる点で、pH7以上で行うことが更に好ましい。反応は、炭酸カルシウム等の不純物量の混入を避け、高純度のメソポーラスケイ酸塩を合成できる点で、pH7~8が特に好ましい態様の1つである。本発明において、反応は、pH7超(アルカリ性)で行うことができ、更にはpH9.5以上又はpH11以上で行うこともできる。
【0029】
地熱水は上述の塩、元素等を含むため、上記反応はこれらの塩、元素等の存在下で行うこともできる。このときの塩、元素等の濃度は、地熱水の上記濃度に依存するため、一義的に決定されない。反応において、通常、地熱水を希釈又は濃縮せずに用いるため、反応系内の各種塩又は元素濃度は、地熱水の濃度とほぼ一致する。
【0030】
反応時間は、特に制限されないが、シリカ濃度、反応温度、カチオン界面活性剤の添加量、反応方法等に応じて、適宜に設定される。反応時間としては、例えば、30分以上とすることができ、適宜に、4時間以上又は17時間以上とすることもできる。
【0031】
本発明の合成方法においては、反応は、通常、撹拌下に行われる。撹拌条件は、特に制限されず、適宜に決定できる。
【0032】
上述のようにして、地熱水中のシリカとカチオン界面活性剤とを反応させると、メソポーラスケイ酸が通常固形分として合成される。そこで、本発明の合成方法においては、反応後(撹拌停止後)、生成したメソポーラスケイ酸を固液分離により、上澄液(分散液を含む)と分離することができる。固液分離方法は、特に制限されず、例えば、各種の濾過法が挙げられる。本発明においては、メソポーラスケイ酸の固液分離に際して、必要に応じて反応液を濃縮することもできる。
上記反応(合成)時に、無機塩(塩化ナトリウム、炭酸カルシウム等)やシリカ等も生成して、メソポーラスケイ酸と共沈することがある。この場合、共沈混合物からメソポーラスケイ酸を公知の各種方法により単離精製することができる。
こうして合成したメソポーラスケイ酸がカチオン界面活性剤を含有している場合、公知の方法(例えば熱処理や酸処理)により、除去することができる。
【0033】
本発明の合成方法は、上述の反応をバッチ式で行ってもよく、連続して行ってもよい。
特に、上述の反応と固液分離とを行う場合、反応と固液分離とを1サイクルとして、複数サイクル繰り返して行う方法(連続合成法ということがある。)も適用できる。
連続合成法としては、例えば、複数サイクル繰り返して行う反応と固液分離において、前サイクルの固液分離により得られる沈殿物と次サイクル用の地熱水とを混合して次サイクル用の地熱水中のシリカとカチオン界面活性剤とを反応させる方法(沈殿物の存在下で次サイクルの反応を行う方法)が挙げられる。この連続合成法は、具体的には、上述の方法及び条件で、1サイクル目(1回目)の反応を行ってメソポーラスケイ酸を合成した後に固液分離して上澄液を除去して得られた沈殿物に地熱水及びカチオン界面活性剤を加えて(得られた沈殿物の存在下で)2サイクル目(2回目)の反応を行い、次いで固液分離を行う。更に、適宜、2サイクル目の反応及び固液分離と同様にして、3サイクル目以降の反応及び固液分離を順次行う。こうして、サイクル毎に沈殿物を取り上げることなく、連続してメソポーラスケイ酸を合成することができる。この連続合成法において、2サイクル以降の反応におけるカチオン界面活性剤の添加量は、1サイクル目の反応におけるカチオン界面活性剤の添加量と同じであり、2サイクル以降の反応に用いる地熱水中のシリカの総量とカチオン界面活性剤の添加量の合計量を基準に設定される。この連続合成法においても、各固液分離に先立ち必要に応じて反応液を濃縮することもできる。
連続合成法において、各工程(反応及び固液分離)は、時間的に連続して行うことを意味するものではなく、反応及び固液分離のサイクルが連続して行われることを意味する。
【0034】
上述のようにして、本発明の合成方法により、メソポーラスケイ酸を地熱水中のシリカから直接合成することができる。このメソポーラスケイ酸は、例えば、カチオン界面活性剤からなるミセル周辺にケイ酸の加水分解及び縮合の両反応が生起して、無機-有機ナノ複合体が形成されることによって(適宜にカチオン界面活性剤を除去して)、合成されると考えられる。メソポーラスケイ酸の合成は、後述する実施例における粉末X線回折(XRD)により確認、同定できる。
本発明において、メソポーラスケイ酸は、合成条件等にも依存するが、後述する実施例等では地熱水中のシリカの総量に対して約10%までの収率で合成できる。
得られるメソポーラスケイ酸は、その特性から、触媒等、他種多様な用途への適用が期待されている物質であって、その有用性は高い。
【0035】
本発明の合成方法では、地熱水から凝集されたシリカ沈殿物ではなく、シリカ濃度が低濃度である地熱水を原料として用いて、この地熱水中のシリカからメソポーラスケイ酸を直接合成することができる。そのため、シリカ沈殿物の形成を不要とし、目的とするメソポーラスケイ酸を簡便に合成できる点で、地熱水からのシリカ回収(除去)コストの削減効果が高い。
また、本発明の合成方法は、上述のように地熱水をそのまま使用する反応工程により簡便にメソポーラスケイ酸を直接合成することができるため、地熱発電装置(地熱発電所)に好ましく適用できる。本発明の合成方法を地熱発電装置(地熱発電所)に適用すると、地熱発電装置において従来問題になっている地熱水からのシリカ析出(配管詰まり、発電効率の低下)を抑制することができ、更に反応系を中性~アルカリ性に調整する態様においては、地熱発電装置の配管劣化の抑制も可能となる。
【0036】
次いで、本発明の地熱発電装置について、本発明のメソポーラス合成装置とともに、説明する。
本発明の地熱発電装置は、本発明の合成方法を実施可能なメソポーラスケイ酸合成装置を備えた装置であればよく、フラッシュ型地熱発電に用いられるフラッシュ型の地熱発電装置であってもよく、バイナリー型地熱発電に用いられるバイナリー型の地熱発電装置であってもよい。本発明の地熱発電装置は、特に地熱水のシリカ析出が問題となるバイナリー型の地熱発電装置であることが好ましい。
【0037】
本発明の地熱発電装置は、蒸気井と、蒸気井に接続された気水分離器と、気水分離器に接続された熱水槽と、熱水槽に接続された還元井と、熱水槽及び還元井の間にメソポーラスケイ酸合成装置とを備えている。
本発明の地熱発電装置は、メソポーラスケイ酸合成装置及びその設置位置以外は、公知の地熱発電装置と基本的に同じである。本発明の地熱発電装置がフラッシュ型の地熱発電装置である場合、メソポーラスケイ酸合成装置は熱水槽と還元井とを接続する輸送管の途中に併設(介装)され、発電機は気水分離器に接続されている。一方、バイナリー型の地熱発電装置である場合、メソポーラスケイ酸合成装置は、熱水槽と還元井とを接続する輸送管、熱水槽と熱交換器とを接続する輸送管、及び/又は、熱交換器と還元井とを接続する輸送管の途中に介装される(
図1参照。)。発電機は、通常、気水分離器に接続された第1発電機と、熱交換器を流れる二次作動流体の循環路に接続された第2発電機とを有している。
【0038】
本発明の地熱発電装置の一例として、
図1に示されるバイナリー型の地熱発電装置1が挙げられる。
この地熱発電装置1は、蒸気井11と、蒸気井11に接続された気水分離器13と、気水分離器13に接続された熱水槽14と、熱水槽14に接続された還元井12と、熱水槽14に接続された熱交換器16と、熱交換器16と第2発電機17とを経由する二次作動流体の循環路18と、気水分離器13に接続された第1発電機15とを備えている。この合成装置1の各機器等は、
図1に示されるように、移送管により接続されている。蒸気井11と気水分離器13とは移送管3aにより、熱水槽14と還元井12とは移送管3bにより、熱水槽14と熱交換器16とは移送管3cにより、熱交換器16と還元井12とは移送管3dにより、それぞれ、接続されている。このように、熱水槽14と還元井12とは、移送管3bで直接的に接続する第1移送路と、移送管3c及び3dにより熱交換器16を経由する第2移送路との2経路で接続されている。
なお、
図1においては、メソポーラスケイ酸合成装置の併設位置を説明するため、熱水槽14と還元井12との間に3つのメソポーラスケイ酸合成装置19A~19Cを図示しているが、本発明において、メソポーラスケイ酸合成装置を3つ併設することは必須ではなく、いずれか1つを併設すればよい。
【0039】
メソポーラスケイ酸合成装置を併設する地熱発電装置1は、通常の地熱発電装置を特に制限されることなく適用することができ、更に、気水分離器13、熱水槽14、熱交換器16、発電機15、17及び循環路18等についても公知のものを特に制限されることなく適用することができる。
【0040】
メソポーラスケイ酸合成装置は、上述の本発明の合成方法を実施可能な装置であればよく、200℃未満の温度において、シリカを含有する地熱水と、シリカの総量及びカチオン界面活性剤の添加量の合計量に対して2.2モル%以上のカチオン界面活性剤とを反応可能な装置が挙げられる。メソポーラス合成装置として、例えば、地熱水とカチオン界面活性剤とを均一に撹拌可能な撹拌器を備えた反応槽が挙げられる。
【0041】
メソポーラス合成装置としては、特に制限されないが、例えば、
図2に示される合成装置2が挙げられる。このメソポーラス合成装置2は、本発明のメソポーラス合成法における反応を行う反応槽21と、反応槽21の内部に設けられた攪拌装置として撹拌器22とを備えている。この反応槽21は、本発明のメソポーラス合成法による反応物から分離させた沈殿物を反応槽21から排出する沈殿物排出口21a、及び反応物から分離させた上澄液を反応槽21から排出する上澄液排出口21bを有している。また、メソポーラス合成装置2は、反応槽21の沈殿物排出口21aに接続された沈殿物排出管21cと、上澄液排出口21bに接続された上澄液排出管21dとを備えている。
【0042】
反応槽21は、本発明のメソポーラスケイ酸の合成方法を実施可能な槽であればよく、通常の反応槽を特に制限されることなく用いることができる。本発明のメソポーラスケイ酸の合成方法では地熱水の自熱を用いることができるため、反応槽21は加熱装置(
図2において図示しない。)を有していてもいなくてもよい。加熱装置としては通常のものを用いることもでき、地熱水を用いることもできる。また、反応槽21は、地熱水や反応物を濃縮する濃縮装置(
図2において図示しない。)を適宜備えていてもよい。
【0043】
この装置2において、沈殿物排出口21aは、通常、反応槽21の下部に設けられることが好ましく、
図2に示すように底部に設けられることがより好ましい。上澄液排出口21bは、上澄液を排出可能な位置に設けられ、例えば、
図2に示すように反応槽21の深さ方向の中間部に設けられる。本発明において、上澄液とは、本発明の合成方法において固液分離される液相を意味し、溶液だけでなく、分散液、懸濁液等を含む。
沈殿物排出管21cは、通常、沈殿物を一時保管する保管槽、後処理槽等(
図2において図示しない。)に接続されており、図示しない弁等の開閉装置の開閉により沈殿物を保管槽等に排出(移送)する。上澄液排出管21dは、
図1に示す地熱発電装置1の還元井12又は熱交換器16等に接続されており、図示しない弁等の開閉装置の開閉により上澄液を還元井12等に排出(移送)する。
【0044】
撹拌器22は、地熱水とカチオン界面活性剤との混合物を均一に混合できるものであればよく、通常の撹拌器を特に制限されることなく用いることができる。
本発明のメソポーラスケイ酸合成装置は、
図1に示されるように、地熱発電装置に併設されることが好ましいが、地熱水を用いたメソポーラスケイ酸の合成方法を実施可能であれば地熱発電装置とは別々に設置することもできる。
【0045】
地熱発電装置1の作用について簡単に説明する。
まず、蒸気井11から採取された地熱流体は移送管3aにより気水分離器13に移送され、ここで蒸気と地熱水とに分離される。分離された蒸気は第1発電機(一次作動流体用発電機)15に移送され、発電機15内のタービン(
図1に図示しない)を回転させることで発電に寄与する。一方、分離された地熱水は一旦熱水槽14に移送される。
次いで、地熱水は、熱水槽14からメソポーラスケイ酸合成装置19A又は19Bに移送され、本発明のメソポーラスケイ酸合成方法が施される。こうして得られた反応液からメソポーラスケイ酸を回収する(例えば、メソポーラスケイ酸を含む沈殿物と上澄液とに固液分離する)。固液分離したメソポーラスケイ酸(沈殿物)は反応槽21の沈殿物排出管21cで移送されて、メソポーラスケイ酸を回収する。一方、分離した上澄液は、反応槽21の上澄液排出管21dで還元井12又は熱交換器16に移送される。熱水槽14又はメソポーラスケイ酸合成装置19Aから熱交換器16に移送された上澄液は、熱交換器16内で二次作動流体に熱量を付与する(二次作動流体と熱交換する)。ここで加熱された二次作動流体は循環路18により第2発電機(二次作動流体用発電機)17に移送され、発電機17内のタービン(
図1に図示しない)を回転させることで発電に寄与する。一方、二次作動流体と熱交換した上澄液は移送管3dで移送され、還元井12又はメソポーラスケイ酸合成装置19Cに移送される。メソポーラスケイ酸合成装置19の作用機能(反応等)は上記メソポーラスケイ酸合成装置19A等と同様である。
こうして、地熱発電と並行して、地熱水中のシリカからメソポーラスケイ酸を合成することができ、上述のように、発電コストの低減と、地熱発電装置内でのシリカ析出の抑制とが可能となる。
【0046】
本発明においては、熱水槽14と熱交換器16との間に気水分離器13を設けて、分離した熱水と蒸気とを別々に熱交換器16に移送することもできる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
<実施例1>
下記地熱水を用いてメソポーラスケイ酸を合成した。
地熱水:シリカ濃度446mg/L、温度80℃、pH8.6、Naイオン濃度460ppm、Clイオン濃度771ppm
上記地熱水16Lに、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)8.1g(シリカの総量及びカチオン界面活性剤の合計量に対して15.76モル%)、2mol/LのNaOH水溶液を添加して、反応系のpHを11以上に調整して、17時間撹拌した。このとき、反応系の温度は地熱水の自熱により80℃前後となるが、経時による温度低下をさけるため反応槽の周囲に地熱水を循環させて保温した。
次いで、撹拌を停止して固液分離し、メソポーラスケイ酸を含む沈殿物を得た。
【0049】
こうして合成したメソポーラスケイ酸を含む沈殿物を下記測定方法及び測定条件で粉末X線回折したところ、メソポーラスケイ酸の1つであるMCM-41(商品名、エクソンモービル社製)が示す(100ピークと同じ(100)ピーク(α
0:5.67nm)の存在を確認した(
図3参照)。
<粉末X線回折の測定方法及び測定条件>
X線回折装置(Cu-Kα線)(リガク製、ULTIMA-IV)を用いて、40kV、30mAで1.5°~40°まで測定を行った。
また、沈殿物を下記測定方法及び測定条件でエネルギー分散型X線分析(EDX)を行ったところ、得られたメソポーラスケイ酸のSi含有量はCaを除く不純物(Na、K、Mg、S、Al、Cl)に比べ10倍以上、また、Caとの比較では2倍以上となることを確認した。
<EDXの測定方法及び測定条件>
EDX分析装置(HORIBA製X-Max)を用いて加速電圧15KV、電流10μA、W.D.(ワーキングディスタンス)15mmで測定を行った。
上記粉末X線回折及びEDXの結果から、地熱水中のシリカからメソポーラスケイ酸を直接合成できたことが分かる。また、この結果から、バイナリー型地熱発電所においても実施例1と同様にしてメソポーラスケイ酸の合成が可能で、同様の結果が得られることが分かる。
【0050】
<実施例2>
実施例1と同じ地熱水(放冷したもの)を用いて、反応温度及び反応時間を変更してメソポーラスケイ酸を合成した。
80℃で地熱水1LにCTAB0.81g及びNaOH水溶液を順次添加した後、反応系の温度を放冷又はヒータ(外部加熱手段)により、60℃を維持し、又は80℃、100℃、130℃、160℃及び200℃に加熱して、24時間反応したこと以外は、実施例1と同様にして、メソポーラスケイ酸を合成した。
得られた沈殿物から単離精製したメソポーラスケイ酸を実施例1と同様にして粉末X線回折した。その結果、反応温度が200℃である場合はメソポーラスケイ酸を合成できなかった(合成後に分解したと考えられる)のに対して、反応温度が60~160℃である場合はいずれもメソポーラスケイ酸を合成できた。得られたメソポーラスケイ酸のEDX分析によりSi含有量は、Caを除く不純物(Na、K、Mg、S、Al、Cl)に比べ10倍以上、また、Caとの比較では3割以上となることを確認した。
【0051】
<実施例3>
ケイ酸ナトリウムを純水に溶解して調製した下記想定地熱水を用いて、カチオン界面活性剤の添加量を変更して、メソポーラスケイ酸を合成した。
想定地熱水:シリカ濃度1000mg/L、温度80℃、pH8.0、Naイオン濃度357ppm、Clイオン濃度0ppm
シリカの総量及びカチオン界面活性剤の合計量に対する、カチオン界面活性剤の添加量を、0.22モル%、0.44モル%、2.2モル%、4.4モル%及び22モル%に設定し、反応系のpHを調製せずに24時間撹拌したこと以外は、実施例1と同様にして、メソポーラスケイ酸を合成した。
得られた沈殿物から単離精製したメソポーラスケイ酸を実施例1と同様にして粉末X線回折した。その結果、カチオン界面活性剤の添加量が0.22モル%及び0.44モル%である場合はXRDパターンにおいて(100)ピークの存在を僅かに確認でき、メソポーラスケイ酸をほとんど合成できなかった。これに対して、カチオン界面活性剤の添加量が2.2モル%、4.4モル%及び22モル%である場合はいずれも(100)ピークを明確に確認でき、メソポーラスケイ酸を効率よく合成できた。また、得られたメソポーラスケイ酸のEDX分析によりSi含有量は、Caを除く不純物(Na、K、Mg、S、Al、Cl)に比べ10倍以上となることを確認した。
【0052】
<実施例4>
実施例3で調製した上記想定地熱水1Lを用いて、カチオン界面活性剤の添加量及び反応系のpHを変更して、メソポーラスケイ酸を合成した。
カチオン界面活性剤の添加量をシリカの総量及びカチオン界面活性剤の合計量に対して22モル%(1.75g)に変更するとともに、NaOH水溶液又は硫酸の添加量を変更して反応系のpHを3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、8.7及び9.0に設定して、24時間撹拌したこと以外は、実施例1と同様にして、メソポーラスケイ酸を合成した。
得られた沈殿物から単離精製したメソポーラスケイ酸を実施例1と同様にして粉末X線回折した。その結果、pHが5.0及び6.0である場合はメソポーラスケイ酸を合成できなかったのに対して、pHが3.0、4.0、7.0、8.0、8.7及び9.0である場合はいずれもメソポーラスケイ酸を得ることができた。EDX分析により、このメソポーラスケイ酸のSi含有量は、Caを除く不純物(Na、K、Mg、S、Al、Cl)に比べ10倍以上となることを確認した。また、窒素雰囲気下、前述のメソポーラスケイ酸を電気炉で550℃まで昇温(2℃/min.)後、大気中で1時間保持した。その後、実施例1と同様に粉末X線回析を実施した結果、メソポーラス構造が保持され、また、EDXより炭素量の減少が確認されたことから、得られたメソポーラスケイ酸から界面活性剤が抜けメソ孔が生成したことを確認した。
【0053】
<実施例5>
実施例1と同じ地熱水を用いてメソポーラスケイ酸を連続合成した。
(1サイクル目)
上記地熱水1Lに、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)0.767g(シリカの総量及びカチオン界面活性剤の合計量に対して22モル%)を添加し、更に3mol/LのNaOH水溶液を添加して反応系のpHを11以上に調整し、30分撹拌した。こうしてシリカとカチオン界面活性剤を反応させた。このとき、反応系の温度はホットプレートを用いて80℃前後に維持した。
次いで、撹拌を停止して20分静置した後に、メソポーラスケイ酸を含む沈殿物を上澄液から固液分離して、上澄液を除去した。
こうして、1サイクル目の反応及び固液分離を行った。
(2サイクル目)
1サイクル目の固液分離で得られた沈殿物に、上記地熱水を追加し総量を1Lとし、次いでCTAB0.767g(溶液中のシリカの総量(追加した地熱水中のシリカ含有量)及びカチオン界面活性剤の合計量に対して22モル%)を添加し、適宜に3mol/LのNaOH水溶液を添加して反応系のpHを11以上に調整して、反応系の温度を80℃前後に維持して、30分撹拌した。こうしてシリカとカチオン界面活性剤を反応させた。次いで、1サイクル目の固液分離と同様にして、上澄液を除去した。
こうして、2サイクル目の反応及び固液分離を行った。
(3~5サイクル目)
上記2サイクル目の反応及び固液分離と同様にして、2サイクル目の固液分離で得られた沈殿物に対して、反応及び固液分離を更に3サイクル繰り返して行った。なお、5サイクル目の反応終了後、更に80℃で17時間攪拌した。
1サイクル目の固液分離で得られた沈殿物0.0088g(一部採取したもの)を得、また、5サイクル目の固液分離により得られた沈殿物(0.27g)を熱処理等することにより、メソポーラスケイ酸を得た。こうして得たメソポーラスケイ酸を実施例1と同様にして粉末X線回折した。また、得られたメソポーラスケイ酸のEDX分析によりSi含有量は、Caを除く不純物(Na、K、Mg、S、Al、Cl)に比べ10倍以上となることを確認した。その結果、連続合成法(各サイクル)においてもメソポーラスケイ酸を合成できることが分かった。
【0054】
<実施例6>
実施例3で調製した上記想定地熱水1Lを用いて、カチオン界面活性剤をオクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(C21H46BrN)に変更して、メソポーラスケイ酸を合成した。カチオン界面活性剤の添加量をシリカの総量及びカチオン界面活性剤の合計量に対して22モル%に変更するとともに、NaOH水溶液の添加量を変更して反応系のpHを11.0に設定して、24時間撹拌したこと以外は、実施例1と同様にして、メソポーラスケイ酸を合成した。メソポーラスケイ酸塩を示す(100)ピークが見られ、そこから算出したa0は5.80nmであり、CTABから合成したMCM-41より、界面活性剤の直鎖が長いため、細孔径がわずかに大きくなった。このように界面活性剤の種類を変えてもメソポーラスケイ酸塩が合成できることを確認した。
【0055】
<実施例7>
下記塩濃度の高い地熱水を用いてメソポーラスケイ酸を合成した。
地熱水:シリカ濃度600mg/L、温度90℃、pH7.2、Naイオン濃度9681ppm
上記地熱水10Lに、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)1.75g(シリカの総量及びカチオン界面活性剤の合計量に対して4.59モル%)入れ、反応系のpHを調整せずに、30分攪拌後、上澄み約9L廃棄し、1Lをテフロン(登録商標)製の容器に入れ、16時間撹拌した。このとき、反応系の温度は地熱水の自熱により90℃前後となるが、経時による温度低下をさけるため反応槽の周囲に地熱水を循環させて保温した。
次いで、撹拌を停止して固液分離し、メソポーラスケイ酸を含む沈殿物を得た。
窒素雰囲気下、前述のメソポーラスケイ酸を電気炉で550℃まで昇温(2℃/min.)後、大気中で1時間保持した。その後、実施例1と同様に粉末X線回析を実施した結果、メソポーラス構造が保持され、また、EDXより炭素量の減少が確認されたことから、得られたメソポーラスケイ酸から界面活性剤が抜けメソ孔が生成したことを確認した。
【0056】
<実施例8>
下記酸性の地熱水を用いてメソポーラスケイ酸を合成した。
地熱水:シリカ濃度765mg/L、温度70℃、pH3.4、Naイオン濃度969ppm
上記地熱水1Lに、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)1.25g(シリカの総量及びカチオン界面活性剤の合計量に対して21.2モル%)入れ、NaOH粉末を添加して反応系のpHを7.2に設定して、17時間攪拌した。このとき、反応系の温度は地熱水の自熱により70℃前後となるが、経時による温度低下をさけるため反応槽の周囲に地熱水を循環させて保温した。
次いで、撹拌を停止して固液分離し、メソポーラスケイ酸を含む沈殿物を得た。
【0057】
<実施例9>
ケイ酸ナトリウムを純水に溶解して調製した下記想定地熱水を用いてメソポーラスケイ酸を合成した。
想定地熱水:シリカ濃度2000mg/L、温度80℃、pH8.0、Naイオン濃度709ppm、Clイオン濃度0ppm
上記想定地熱水を用い、CTABの添加量を22モル%に変更し、かつ反応系のpHを調製せずに24時間攪拌したこと以外は、実施例1と同様にして、メソポーラスケイ酸を合成した。
得られた沈殿物から単離精製したメソポーラスケイ酸を実施例1と同様にして粉末X線回折した。その結果、XRDパターンにおいて(100)ピークが確認され、メソポーラスケイ酸を効率よく合成できた。
【0058】
<実施例10>
実施例1と同じ地熱水を用いて、カチオン系界面活性剤を変更してメソポーラスケイ酸を合成した。
実施例1において、カチオン系界面活性剤として、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドに代えてドデシルトリメチルアンモニウムクロリドを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、メソポーラスケイ酸を合成した。
得られた沈殿物から単離精製したメソポーラスケイ酸を実施例1と同様にして粉末X線回折した。その結果、XRDパターンにおいて(100)ピークが確認され、メソポーラスケイ酸を効率よく合成できた。
【0059】
<実施例11>
実施例4において、反応系のpHを6.5に調整したこと以外は、実施例4と同様にして、メソポーラスケイ酸を合成した。
得られた沈殿物から単離精製したメソポーラスケイ酸を実施例4と同様にして粉末X線回折した。その結果、XRDパターンにおいて(100)ピークが確認され、メソポーラスケイ酸を効率よく合成できた。
【符号の説明】
【0060】
1 地熱発電装置
2 メソポーラス合成装置
3a、3b、3c、3d 移送管
11 蒸気井
12 還元井
13 気水分離器
14 熱水槽
15 第1発電機
16 熱交換器
17 第2発電機
18 二次作動流体の循環路
19A、19B、19C メソポーラスケイ酸合成装置
21 反応槽
21a 沈殿物排出口
21b 上澄液排出口
21c 沈殿物排出管
21d 上澄液排出管
22 撹拌器