(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】検眼装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/028 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
A61B3/028
(21)【出願番号】P 2020198842
(22)【出願日】2020-11-30
【審査請求日】2023-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390000594
【氏名又は名称】株式会社レクザム
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】辻 資生
(72)【発明者】
【氏名】北中 有依
(72)【発明者】
【氏名】岡野 有里
(72)【発明者】
【氏名】竹内 瑛梨果
(72)【発明者】
【氏名】ダービット・ファン・デル・クロースター
【審査官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-057740(JP,A)
【文献】特開平05-261066(JP,A)
【文献】特表2020-510475(JP,A)
【文献】特開2003-199712(JP,A)
【文献】特開2002-200041(JP,A)
【文献】国際公開第2018/160314(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の前方に配置され、光学素子を切り替えることによって前記被検眼の視機能を矯正する光学ユニットと、
前記光学ユニットとの距離を変更できるように配置された、近用視標を提示する視標提示部と、
前記近用視標を照明する照明部と、
前記照明部が消灯している際に環境の明るさを取得
し、前記照明部が点灯している際に前記照明部の明るさを取得する取得部と、
前記取得部によって取得された
環境の明るさ
、前記照明部が点灯している際に取得された前記照明部の明るさ、及び、前記照明部から前記近用視標までの距離を用いて、前記照明部の経年劣化に応じた光量の減少を補償して前記近用視標が所定の明るさとなるように前記照明部を制御する制御部と、を備え
、
前記照明部及び前記取得部は、前記光学ユニットに設けられている、検眼装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記照明部の経年劣化を考慮しないで、取得された環境の明るさ、及び、前記照明部から前記近用視標までの距離を用いて前記照明部のデューティ比を特定し、当該特定したデューティ比を、前記照明部が点灯している際に取得された前記照明部の明るさを用いて調整し、当該調整したデューティ比で前記照明部を発光させる、請求項1記載の検眼装置。
【請求項3】
前記制御部は、取得された環境の明るさにおいて、前記近用視標が所定の明るさとなるために必要となる前記照明部の光度を算出し、当該算出した光度で前記照明部が発光した際に前記取得部によって取得される明るさを特定し、前記取得部によって取得された明るさが当該特定した明るさとなるように前記照明部の光量を調整する、請求項1記載の検眼装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記照明部から前記近用視標までの距離に応じた、前記近用視標の明るさと、前記取得部で取得される明るさと、環境の明るさとの関係を用いて、前記近用視標が所定の明るさとなるための前記取得部で取得される明るさを特定し、前記取得部によって取得された明るさが当該特定した明るさとなるように前記照明部の光量を調整する、請求項1記載の検眼装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近用検査に用いられる近用視標を照明する検眼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼の屈折異常を矯正する眼鏡レンズ等の度数を決定するために、被検者の眼前に球面レンズや円柱レンズ等を組み合わせながら切り換えて配置し、前方の視標を見せながら目の屈折力を自覚的に検査する検眼装置が知られている。
【0003】
検眼装置の検査では、3m~5m程度の遠用距離に視標を提示して屈折力(遠点の屈折力)を検査した後、20cm~70cm程度の近用距離に視標を提示して、同じく屈折力(近点の屈折力)や加入度数を検査する方法が実施されている。
【0004】
この検査は、通常、検眼装置を用いて日中を想定した比較的明るい環境で行われるが、眼屈折度は周囲の明るさに応じて変化することが知られており、夜間などの屈折度数を検査するために、周囲の照明光量を落として検査することもある。
【0005】
従来、周囲の照明光量を落として検査する場合に、被検者に提示する視標(特に近用距離に提示する近点視標)を照明する照明構造を持った検眼装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載された検眼装置では、検眼装置本体のレンズ室ユニットに近用視標を照明するための照明構造を設け、近用視標の距離に応じて照明光量を制御する構造になっているが、室内の環境の明るさに関係なく近用視標を照明するため、近用視標の照度が検査ごとに変化する可能性があり、正しい検査環境での検査を安定して行いにくいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、検査ごとに近用視標の明るさが変化することを防止し、安定した検査を行うことができる検眼装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様による検眼装置は、被検眼の前方に配置され、光学素子を切り替えることによって被検眼の視機能を矯正する光学ユニットと、光学ユニットとの距離を変更できるように配置された近用検査用の近用視標と、近用視標を照明する照明部と、近用視標に関連する明るさを取得する取得部と、取得部によって取得された明るさに基づいて、近用視標が所定の明るさとなるように照明部を制御する制御部と、を備えたものである。
このような構成により、取得された明るさに基づいて照明部を制御することによって、検査ごとに近用視標の明るさが変化することを防止することができる。その結果、安定した検査を行うことができるようになる。
【0010】
また、本発明の一態様による検眼装置では、取得部は、照明部が消灯している際に環境の明るさを取得し、制御部は、取得部によって取得された環境の明るさ、及び、照明部から近用視標までの距離を用いて、近用視標が所定の明るさとなるように照明部を制御してもよい。
このような構成により、取得した環境の明るさを用いて、近用視標の明るさが所定の明るさとなるように照明部を制御することができる。
【0011】
また、本発明の一態様による検眼装置では、取得部は、照明部が点灯している際に照明部の明るさも取得し、制御部は、照明部が点灯している際に取得された照明部の明るさをも用いて、近用視標が所定の明るさとなるように照明部を制御してもよい。
このような構成により、照明部の制御に、照明部が点灯している際に取得された明るさも用いることになるため、例えば、照明部の光量が経年劣化で減少した場合であっても、近用視標が所定の明るさとなるように制御することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様による検眼装置によれば、検査ごとに近用視標の明るさが変化することを防止することができ、安定した検査を行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態による検眼装置の外観を示す斜視図
【
図2】同実施の形態における照射部及び取得部を示す断面図
【
図3】同実施の形態による検眼装置の機能を示す機能ブロック図
【
図4】同実施の形態による検眼装置の動作を示すフローチャート
【
図5A】同実施の形態における照明部の光量と近用視標の照度との関係を示す図
【
図5B】同実施の形態における照明部の光量と近用視標の照度との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明による検眼装置について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による検眼装置は、取得された明るさに基づいて、近用視標が所定の明るさとなるように照明部を制御するものである。
【0015】
図1は、本実施の形態による検眼装置1の外観を示す斜視図である。
図2は、照明部15、及び取得部17を示す縦断面図である。
図3は、検眼装置1の機能を示す機能ブロック図である。本実施の形態による検眼装置1は、光学ユニット11と、視標提示部13と、照明部15と、取得部17と、制御部19とを備える。また、検眼装置1は、コントローラユニット3に接続されている。
【0016】
光学ユニット11は、被検眼の前方に配置され、球面レンズや円柱レンズ等の光学素子を切り替えることによって、その被検眼の視機能を矯正する。本実施の形態では、光学ユニット11が、被検眼の両眼に対応する検査窓11a,11bがそれぞれ設けられている一対のユニットを有しており、被検者が左右の被検眼でそれぞれ検査窓11a,11bから視標を見ることによって自覚検査が行われる場合について主に説明する。光学ユニット11内の光学素子は、例えば、コントローラユニット3によって切り替えられてもよい。なお、本実施の形態では、光学ユニット11の光学素子を切り替えるために用いられる構成、すなわち被検者の自覚検査を行うための構成については、その説明を省略する。
図1では省略しているが、検眼装置1は、光学ユニット11を支持するための支持部を備えていてもよい。その支持部によって、光学ユニット11の高さを被検者の姿勢に合わせて上下することができてもよい。また、光学ユニット11は、被検者の瞳孔間距離に合わせて、検査窓11a,11bの間隔を調整できるようになっていてもよい。
【0017】
視標提示部13は、近用検査用の視標である近用視標を提示する。本実施の形態では、視標提示部13が、複数の近用視標の表示されたチャート(近用チャート)である場合について主に説明する。視標提示部13は、光学ユニット11との距離を変更できるように配置されている。
図1では、視標提示部13が、直線状に延びるロッド5に取付部13aによってスライド可能に取り付けられている場合について示しているが、視標提示部13は、他の構成によって、光学ユニット11との距離が変更できるようになっていてもよい。視標提示部13は、例えば、被検眼からの距離が20cmから70cmまでの距離となるように配置されてもよい。また、そのロッド5に表示された目盛りによって、光学ユニット11から視標提示部13までの距離を知ることができるようになっていてもよい。
【0018】
なお、光学ユニット11、及び視標提示部13は、フォロプタやレフラクタと呼ばれる検眼装置で用いられるものと同様のものであり、それらの詳細な説明を省略する。
【0019】
照明部15は、視標提示部13によって提示される近用視標を照明する。本実施の形態では、照明部15が光学ユニット11に取り付けられている場合について主に説明する。照明部15は、光量(照明出力レベル)を調整できるものであることが好適である。照明部15の光源15aは、例えば、1個または2個以上のLEDであってもよく、その他の光源であってもよい。LEDは、例えば、白色LEDであってもよい。光源15aがLEDである場合には、例えば、PWM制御によってLEDの光量が調整されてもよい。本実施の形態では、光源15aの光量がPWM制御によって調整される場合について主に説明する。この場合には、光源15aの光量は、デューティ比によって示されることになる。また、
図2で示されるように、光源15aから出射された光は、拡散板15bによって拡散されて近用視標に照射されてもよい。
【0020】
取得部17は、視標提示部13に提示された近用視標に関連する明るさを取得する。本実施の形態では、近用視標に関連する明るさが、照明部15が消灯している際の環境の明るさである場合について主に説明する。その環境とは、近用視標を用いた検査を行う環境である。したがって、環境の明るさとは、その検査を行う室内の明るさであってもよい。照明部15による照明の有無に関わらず、近用視標は、その環境の明るさだけ明るくなるため、その環境の明るさは近用視標に関連する明るさであると言うことができる。この明るさは、例えば、照度(lux)であってもよい。この場合には、取得部17は、照度センサ17aによって照度を取得してもよい。照度センサ17aは、例えば、
図2で示されるように、透明な保護板17bを介して光を受け付けてもよい。
【0021】
取得部17は、照明部15が点灯している際に照明部15の明るさも取得してもよい。このようにすることで、後述するように、照明部15の光源15aの光量が経年劣化等によって減少する状況であっても、視標提示部13の近用視標が所定の明るさとなるように照明することができるようになる。なお、取得部17が照明部15の明るさも取得する場合には、取得部17は、照明部15の近傍に配置されていることが好適である。環境の明るさを無視して、より正確に照明部15の光源15aの明るさを取得することができるようになるからである。この明るさは、例えば、照度であってもよい。なお、光源15aの近くで照度を測定する場合には、光源15aの光束発散度(lux)を測定していると考えることもできる。ただ、光速発散度と照度とは同じ単位であるため、以下の説明では両者を特に区別しない。
【0022】
なお、本実施の形態では、照明部15と取得部17との組が、光学ユニット11の左眼用のユニット、及び右眼用のユニットのそれぞれに設けられている場合について主に説明する。すなわち、検眼装置1が、2個の照明部15と、2個の取得部17とを有する場合について主に説明する。
【0023】
制御部19は、取得部17によって取得された明るさに基づいて、視標提示部13の近用視標が所定の明るさとなるように照明部15を制御する。その所定の明るさは、例えば、あらかじめ設定された明るさであってもよい。また、その所定の明るさは、検者等がコントローラユニット3によって変更できてもよい。本実施の形態では、制御部19が、取得部17によって取得された環境の明るさ、及び、照明部15から近用視標までの距離を用いて、近用視標が所定の明るさとなるように照明部15を制御する場合について主に説明する。特に、制御部19が、照明部15から近用視標までの距離に応じた、照明部15の光量と近用視標の明るさとの関係、及び、環境の明るさを用いて、近用視標が所定の明るさとなるように照明部15を制御する場合について主に説明する。通常、光学ユニット11と照明部15との距離は既知である。また、光学ユニット11から視標提示部13までの距離は、例えば、検者等がコントローラユニット3に入力することによって、または、距離センサ等を用いて測定することによって取得することができる。したがって、制御部19は、照明部15から視標提示部13に提示された近用視標までの距離を、光学ユニット11と照明部15との距離、及び光学ユニット11から視標提示部13までの距離を用いて特定することができる。なお、
図1で示されるように、照明部15が光学ユニット11に設けられている場合には、照明部15から近用視標までの距離は、光学ユニット11から視標提示部13までの距離と同じになる。また、検眼装置1が2個の取得部17を有する場合には、各取得部17によって取得された環境の明るさの平均が、以下の説明における環境の明るさとして用いられてもよい。照明部15の光量と近用視標の明るさとの関係は、例えば、グラフやテーブルによって示されてもよく、数式によって示されてもよい。
【0024】
なお、照度(lux)と、光源15aの光度(cd)とは、次式の関係がある。ここで、次式の距離は、光源15aから照度を測定する位置までの距離である。
照度(lux)=光度(cd)/(距離(m))2 (式1)
【0025】
また、光源15aの光量と、その光源15aから一定の距離だけ離れた位置における照度とは線形の関係になる。なお、光量は、上記したように、例えば、PWM制御におけるデューティ比であってもよい。以下の説明では、光量がPWM制御におけるデューティ比である場合について主に説明する。したがって、光源15aから近用視標までの距離ごとの、近用視標の照度と光源15aのデューティ比との関係は、例えば、
図5Aで示されるようになる。なお、
図5Aで示される照度とデューティ比との関係は、例えば、測定されたものであってもよく、または、理論的に求められたものであってもよい。本実施の形態では、前者の場合について主に説明する。また、検眼装置1が2個の照明部15を有する場合には、
図5Aで示される照度とデューティ比との関係は、2個の照明部15を点灯した際の近用視標の照度と、2個の照明部15のデューティ比との関係であってもよい。なお、光源15aの個体差が小さい場合には、ある検眼装置1において測定した照度とデューティ比との関係を、同じ構成の他の検眼装置1においても用いてもよい。
【0026】
本実施の形態では、照明部15が光学ユニット11に配置されているため、光源15aから近用視標までの距離は、光学ユニット11から視標提示部13までの距離となる。この距離は、例えば、光学ユニット11に設けられた距離センサによって自動的に測定されてもよく、または、検者等によってコントローラユニット3に入力されてもよい。本実施の形態では、後者の場合について主に説明する。制御部19は、光源15aから近用視標までの距離X(cm)をコントローラユニット3から受け取ると、距離Xに応じたデューティ比と、照度との関係を図示しない記録媒体から読み出す。また、制御部19は、取得部17から、照明部15が消灯している際の環境の明るさを取得する。すると、
図5Bで示されるように、その環境の明るさ(環境光の照度)分だけ照度をずらした、距離Xに応じたデューティ比と近用視標の照度との関係(Xcm(環境光あり))を取得することができる。例えば、環境光がない状況における距離Xに対応する近用視標の照度と光源15aのデューティ比との関係が、
近用視標の照度=A×デューティ比 (式2)
である場合には、環境光がある状況における距離Xに対応する近用視標の照度と光源15aのデューティ比との関係は、
近用視標の照度=A×デューティ比+環境光の照度 (式3)
となる。なお、係数Aは、正の実数であり、照明部15から近用視標までの距離に応じて変わる。
【0027】
したがって、制御部19は、式3を用いて、近用視標の照度があらかじめ設定された照度となるデューティ比を特定することができる。そして、制御部19は、そのデューティ比で発光するように照明部15を制御することによって、近用視標の照度を、あらかじめ決められた照度にすることができる。このようにして、環境光の照度が変化したとしても、近用視標の照度が一定になるようにすることができ、安定した検査を行うことができるようになる。
【0028】
なお、制御部19は、例えば、あらかじめ設定された照度から環境光の照度を減算した照度を、式2の近用視標の照度に代入することによってデューティ比を算出し、そのデューティ比で発光するように照明部15を制御してもよい。このような制御も、式3を用いた制御と実質的に同様の制御である。
【0029】
次に、照明部15の経年劣化に応じた光量の減少を補償する制御部19による制御について説明する。この場合には、制御部19は、照明部15が点灯している際に取得された照明部15の明るさをも用いて、近用視標が所定の明るさとなるように照明部15を制御する。そのような制御に関して、以下、3つの制御について具体的に説明する。
【0030】
1.照度とデューティ比(光量)との関係を用いる制御
この場合には、
図5Aで示される関係を取得する時、例えば検眼装置1の出荷時に、光源15aのデューティ比と、照度センサ17aにおける照度との関係をも取得してもよい。その関係は、次式で示されるものであったとする。ここで、係数Bは、正の実数である。なお、厳密には、係数Bの値は、環境の明るさに応じて変わるが、光源15aと照度センサ17aとの距離が十分近い場合には、環境の明るさに応じた係数Bの変化は無視できるほど小さくなるため、式4では環境の明るさを考慮しなくてよいことになる。
センサの照度=B×デューティ比 (式4)
【0031】
次に、近用視標を用いた検査を行う際に、あるデューティ比で光源15aを発光させ、その時の照度を照度センサ17aによって取得する。この発光は、例えば、式2または式3を用いて算出されたデューティ比での発光であってもよく、または、照明部15の経年劣化に応じた光量の減少を補償する制御のための発光であってもよい。後者の場合には、より正確な補償を行う観点から、より大きいデューティ比で発光することが好適である。例えば、デューティ比D1で光源15aを発光させた際に照度センサ17aによって取得された照度がL1であったとする。すると、その時の照度センサ17aの照度と光源15aのデューティ比との関係は、次式のようになる。
センサの照度=(L1/D1)×デューティ比 (式5)
【0032】
なお、係数Bの値と、(L1/D1)の値が実質的に同一であれば、照明部15は経年劣化していないことになり、照明部15の光量を補償する必要はないことになる。一方、両者が異なる場合(通常、経年劣化によって光量が落ちるため、B>(L1/D1)となる。)には、デューティ比を増加させることによって、光量を埋め合わせる必要がある。その際に、デューティ比をどれぐらい増加させればよいのかについて、以下、説明する。
【0033】
経年劣化していない光源15aをデューティ比D1で発光させた場合に照度センサ17aで取得される照度は、式4を用いて算出することができ、B×D1になる。それと同じ照度を、経年劣化した光源15aによって実現するためには、式5においてセンサの照度がB×D1となるデューティ比を算出し、そのデューティ比で光源15aを発光させればよいことになる。そのデューティ比は、D1×(B×D1/L1)となるため、光源15aを発光させる際には、デューティ比を(B×D1/L1)倍すればよいことになる。
【0034】
そのため、制御部19は、式2または式3を用いて特定したデューティ比に、(B×D1/L1)を乗算することによって、経年劣化した光源15aのデューティ比を取得することができる。したがって、制御部19は、そのようにして取得したデューティ比で光源15aを発光させるように制御すればよいことになる。
【0035】
なお、検眼装置1が2個の照明部15と2個の取得部17とを有する場合には、この1.の制御は、照明部15と取得部17とのペアごとに行われてもよい。
【0036】
2.式1を用いた理論的な制御
あらかじめ設定された照度から環境光の照度を減算した照度と、光源15aから近用視標までの距離とを式1に代入することによって、近用視標を所定の照度にするために必要な光源15aの光度を算出することができる。また、その算出した光度と、光源15aから照度センサ17aまでの距離とを式1に代入することによって、照度センサ17aにおける照度を算出することができる。なお、この場合にも、上記したように、通常、環境光の明るさは無視することができる。その後、制御部19によって、照度センサ17aにおける照度が、その算出された照度となるように光源15aを制御することによって、光源15aの経年劣化に関わらず、近用視標を所定の照度で照明することができるようになる。そのように、照度センサ17aにおける照度が、算出された照度となるようにするための制御において、点灯時に取得された照明部15の明るさが用いられることになる。
【0037】
なお、検眼装置1が2個の照明部15と2個の取得部17とを有する場合には、照明部15と取得部17とのペアごとに、近用視標の照度が、あらかじめ設定された照度の半分の照度となるように制御されてもよい。以下の3.の制御においても同様である。
【0038】
3.近用視標の照度と照度センサの照度との関係を用いる制御
式3と式4を用いることによって、次の式6を得ることができる。なお、式6において、A/Bは、光源15aが経年劣化しても変化しない値である。その理由について説明する。式1から、光源15aの光度がα倍(経年劣化の場合には、通常、α<1となる。)になれば、照度もα倍になる。そのため、経年劣化に応じて式2及び式3の係数Aがα×Aになると、式4の係数Bも同様にα×Bになる。したがって、光源15aの光度が経年劣化で変化しても、A/Bの値は変わらないことになる。
近用視標の照度=(A×センサの照度)/B+環境光の照度 (式6)
【0039】
また、式6に、あらかじめ設定された近用視標の照度や、環境光の照度を代入することによって、照度センサ17aの照度(センサの照度)を算出することができる。したがって、制御部19によって、照度センサ17aにおける照度が、その算出された照度となるように光源15aを制御することによって、光源15aの経年劣化に関わらず、近用視標を所定の照度で照明することができるようになる。そのように、照度センサ17aにおける照度が、算出された照度となるようにするための制御において、点灯時に取得された照明部15の明るさが用いられることになる。
【0040】
なお、上記1.の制御では、まず、光源15aの経年劣化を考慮しないで、環境の明るさを用いて光源15aの光量(デューティ比)を特定し、その後に、その特定した光量を、光源15aの経年劣化に応じて調整することになる。一方、上記2.の制御では、測定された環境光の照度において、近用視標が所定の明るさとなるために必要となる光源15aの光度を算出し、その光度で光源15aが発光した際の照度センサ17aの照度を特定し、その特定した照度となるように光源15aの光量を調整することになる。また、上記3.の制御では、近用視標の距離に応じた、近用視標の照度と、照度センサ17aの照度と、環境光の照度との関係を用いて、近用視標が所定の明るさとなるための照度センサ17aの照度を特定し、その明るさとなるように光源15aの光量を調整することになる。このように、上記2.及び3.の制御では、環境の明るさ、及び光源15aの経年劣化の両方を一緒に考慮した制御を行うことになるため、式2または式3を用いた光量(デューティ比)の算出は行わなくてもよいことになる。また、上記1.~3.では、照明部15の点灯時に取得部17によって取得された照明部15の明るさをも用いることによって照明部15の経年劣化を埋め合わせるための制御の一例について説明したが、実質的に同様のことを他の制御によって行うこともできることは容易に理解できる。したがって、制御部19は、そのような制御を行ってもよい。
【0041】
また、制御部19は、制御後の明るさに関する情報をコントローラユニット3に出力してもよい。その明るさに関する情報は、例えば、制御後の近用視標の明るさを示す情報であってもよく、制御後の照明部15の明るさを示す情報であってもよい。制御後の近用視標の明るさを示す情報は、通常、近用視標の明るさの設定値と同じである。
【0042】
次に、検眼装置1の動作について
図4のフローチャートを用いて説明する。この
図4のフローチャートでは、上記1.の制御が行われる場合について主に説明する。
(ステップS101)取得部17は、照明部15が消灯している際の環境の明るさを取得する。
【0043】
(ステップS102)制御部19は、照明部15から近用視標までの距離を取得する。なお、制御部19は、例えば、その距離をコントローラユニット3から取得してもよい。
【0044】
(ステップS103)制御部19は、ステップS101で取得した環境の明るさと、ステップS102で取得した距離とを用いて、照明部15の光量を計算する。制御部19は、例えば、環境の明るさと、近用視標の設定照度とを式3に代入することによって、照明部15のデューティ比(光量)を計算してもよい。なお、式3における係数Aは、近用視標の距離に応じた係数となる。また、制御部19は、例えば、近用視標の設定照度をコントローラユニット3から取得してもよい。
【0045】
(ステップS104)制御部19は、照明部15が点灯しているかどうか判断する。そして、照明部15が点灯している場合には、ステップS106に進み、そうでない場合には、ステップS105に進む。
【0046】
(ステップS105)制御部19は、ステップS103で計算した光量で照明部15を点灯させる。
【0047】
(ステップS106)制御部19は、ステップS103で計算した光量となるように照明部15の光量を調整する。
【0048】
(ステップS107)取得部17は、照明部15が点灯している際の照明部15の明るさを取得する。
【0049】
(ステップS108)制御部19は、ステップS107で取得された照明部15の明るさを用いて、上記1.の制御によって照明部15の明るさを調整する。この調整によって、照明部15の経年劣化を補償した照明を行うことができる。
【0050】
(ステップS109)制御部19は、近用検査を終了するかどうか判断する。そして、近用検査を終了する場合にはステップS110に進み、そうでない場合にはステップS102に戻る。なお、制御部19は、例えば、コントローラユニット3から近用検査を終了する旨の指示を受け付けた場合に、近用検査を終了すると判断してもよい。
【0051】
(ステップS110)制御部19は、照明部15を消灯させる。このようにして、近用検査を行う一連の処理が終了となる。
【0052】
なお、
図4で示されるフローチャートには含まれていないが、近用視標の照度の設定値や光学ユニット11から近用視標までの距離などがコントローラユニット3で受け付けられ、記録媒体等で記憶されていてもよい。また、近用検査が終了されるまで、ステップS102からS104,及びステップS106からS109の処理が繰り返されることによって、例えば、近用検査の途中において近用視標の照度の設定値が変更された場合や、照明部15から近用視標までの距離が変更された場合にも、その変更に対応した照明となるように制御することができる。そのように、近用検査の途中において照度の設定値や近用視標の距離が変更されない場合には、ステップS102からS108の処理が1回だけ行われ、近用検査が終了されるまでステップS109の処理を繰り返すことによって時間待ちを行い、近用検査が終了されるとステップS110に進むようにしてもよい。
【0053】
また、
図4のフローチャートにおいて、例えば、上記2.または上記3.の制御を行う場合には、ステップS103の処理を行わないで、上記2.または上記3.の制御を行うことによって、環境の明るさ、近用視標の距離、及び照明部15の明るさに基づいて、近用視標の照度があらかじめ設定された照度となるように制御してもよい。また、
図4のフローチャートにおける処理の順序は一例であり、同様の結果を得られるのであれば、各ステップの順序を変更してもよい。
【0054】
次に、検眼装置1において近用視標を設定照度で照明する動作について、具体例を用いて説明する。この具体例において、検者が、あらかじめコントローラユニット3に設定照度を登録しているものとする。また、視標提示部13の位置が決まると、それに応じて、検者がコントローラユニット3を操作して、光学ユニット11から視標提示部13までの距離を入力したとする。その後、まず取得部17によって、照明部15の消灯時の環境光の照度が測定される(ステップS101)。また、制御部19は、コントローラユニット3から、視標提示部13の距離、及び設定照度を読み出す(ステップS102)。また、制御部19は、その読み出した視標提示部13の距離に応じた係数Aを図示しない記録媒体から読み出し、その係数Aを含む式3に、設定照度と、環境光の照度とを代入することによって、デューティ比「D1」を算出する(ステップS103)。そして、制御部19は、そのデューティ比で発光するように光源15aを点灯させる(ステップS104、S105)。その後、取得部17は、点灯時の光源15aの照度「L1」を取得して制御部19に渡す(ステップS107)。その照度を受け取ると、制御部19は、図示しない記録媒体から係数Bを読み出し、光源15aのデューティ比がD1×(B×D1/L1)となるように調整する(ステップS108)。このようにして、近用視標が設定照度で照明されるようになる。また、近用検査が終了されるまで、上記の処理が繰り返されることによって、近用視標の距離の変更や、設定照度の変更にも対応することができるようになる(ステップS102~S104,S106~S109)。また、近用検査が終了されると、制御部19によって光源15aが消灯される(ステップS109、S110)。
【0055】
以上のように、本実施の形態による検眼装置1によれば、近用検査を行う環境の明るさに関係なく、近用視標の照度を、自動的に設定された照度にすることができる。そのため、適切な検査環境における安定した近用検査を実現することができる。また、照明部15が点灯している際の照明部15の明るさも取得することによって、照明部15の経年劣化を補償する制御も行うことができるようになる。その結果、照明部15が経年劣化して光量が減少したとしても、近用視標の照度を、設定された照度にすることができる。また、照明部15の点灯時の明るさを用いることによって、例えば、光源15aの出力レベルがばらついているような場合であっても、そのばらつきによる近用視標の明るさの変化を抑えることができるようになる。また、
図1で示されるように、取得部17が照明部15の近傍に配置されている場合には、1個の取得部17によって環境の明るさと、照明部15の明るさとの両方を取得することができ、コストを低減することができる。
【0056】
なお、本実施の形態では、PWM制御によって光源15aの光量を調整する場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。光源15aの電圧や電流の制御によって光源15aの光量を調整してもよく、その他の制御によって光源15aの光量を調整してもよい。
【0057】
また、本実施の形態では、検眼装置1が、2個の照明部15及び2個の取得部17を有する場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。検眼装置1は、照明部15及び取得部17の組を1個だけ有するものであってもよく、照明部15及び取得部17の組を3個以上有するものであってもよい。
【0058】
また、本実施の形態では、光学ユニット11が、被検者の両眼用の一対のユニットを有している場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。光学ユニット11は、一方の被検眼用のものであってもよい。この場合には、検眼装置1は、照明部15及び取得部17を1個ずつ有していてもよい。
【0059】
また、本実施の形態では、取得部17が環境の明るさと、照明部15の点灯時の明るさとを取得する場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。取得部17は、近用視標の照度を直接、取得してもよい。すなわち、取得部17が取得する、近用視標に関連する明るさは、近用視標そのものの明るさであってもよい。この場合には、取得部17は、例えば、CCDイメージセンサやCMOSイメージセンサなどの固体撮像素子であり、近用視標を撮影することによって、近用視標の照度を取得してもよい。また、制御部19は、そのようにして取得された近用視標の明るさが所定の明るさとなるように照明部15の光量を調整することによって、照明部15を制御してもよい。制御部19は、例えば、取得された近用視標の明るさが所定の明るさとなるように、照明部15の明るさを増減させてもよい。この場合には、取得部17は、例えば、光学ユニット11に配置されていてもよく、または、光学ユニット11以外の位置に配置されていてもよい。
【0060】
また、本実施の形態では、取得部17が照明部15の点灯時の明るさを取得し、その取得された点灯時の照明部15の明るさも用いて照明部15が制御される場合について主に説明したが、そうでなくてもよい。照明部15が経年劣化しにくいものである場合や、照明部15の経年劣化を考慮しない場合などには、そのような制御を行わなくてもよい。この場合には、制御部19は、取得部17によって取得された環境の明るさと、照明部15から近用視標までの距離に応じた照明部15の光量と近用視標の明るさとの関係を用いて、近用視標が所定の明るさとなるように照明部15を制御してもよい。なお、この場合には、照明部15は、取得部17の近傍に設けられていなくてもよい。そのため、照明部15と取得部17とは、離れた位置に配置されてもよい。例えば、取得部17が、照明部15からの光の影響のないところに配置される場合には、取得部17は、照明部15の点灯時に、環境の明るさを取得してもよい。また、この場合には、例えば、照明部15は、近用視標の位置に配置されてもよい。より具体的には、照明部15は、近用視標を表示する視標提示部13のバックライトや、パネルそのものであってもよい。このような場合には、制御部19は、例えば、所定の明るさから、環境の明るさを減算した明るさとなるように、視標提示部13のバックライトである照明部15や、視標提示部13のパネルである照明部15を発光させる制御を行ってもよい。この場合には、視標提示部13は、近用視標を表示する液晶パネルや有機ELパネル等のディスプレイであってもよい。
【0061】
また、本実施の形態では、検眼装置1を用いて近用検査を行う場合について主に説明したが、検眼装置1を用いて遠用検査を行ってもよいことは言うまでもない。遠用検査を行う場合には、近用検査用の視標提示部13は、例えば、取り外されてもよい。
【0062】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、または、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0063】
また、上記実施の形態において、各構成要素間で行われる情報の受け渡しは、例えば、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に異なるものである場合には、一方の構成要素による情報の出力と、他方の構成要素による情報の受け付けとによって行われてもよく、または、その情報の受け渡しを行う2個の構成要素が物理的に同じものである場合には、一方の構成要素に対応する処理のフェーズから、他方の構成要素に対応する処理のフェーズに移ることによって行われてもよい。
【0064】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したりした情報や、各構成要素が処理で用いる閾値や設定値、数式等の情報等は、上記説明で明記していなくても、図示しない記録媒体において、一時的に、または長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、または、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、または、図示しない読み出し部が行ってもよい。また、それらの情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していなくても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよい。その場合には、情報等の変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0065】
また、上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、または、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。
【0066】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上より、本発明の一態様による検眼装置によれば、環境の明るさに関わらず近用視標を所定の明るさにすることができるという効果が得られ、被検眼の屈折力などを自覚的に検査する検眼装置等として有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 検眼装置
11 光学ユニット
13 視標提示部
15 照明部
17 取得部
19 制御部