(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ダイヤモンドアンビルセルおよび高圧物性測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/04 20060101AFI20240816BHJP
G01N 23/20041 20180101ALI20240816BHJP
【FI】
G01N27/04 Z
G01N23/20041
(21)【出願番号】P 2020200684
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】松本 凌
(72)【発明者】
【氏名】山本 紗矢香
(72)【発明者】
【氏名】高野 義彦
(72)【発明者】
【氏名】境 毅
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-128286(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038690(WO,A1)
【文献】特開2006-009147(JP,A)
【文献】特開2004-307304(JP,A)
【文献】特開2015-023197(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101509947(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107765161(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
G01N 23/20041
G01R 27/00-27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一組のダイヤモンドアンビルの対向する平面部を突き合わせて被測定試料に高圧を印加するダイヤモンドアンビルセルであって、
前記一組のダイヤモンドアンビルの一方である第1のダイヤモンドアンビルには、少なくとも前記被測定試料の接触面となる前記平面部にホウ素ドープダイヤモンド薄膜からなる計測用電極とヒーター電極が形成されている、ダイヤモンドアンビルセル。
【請求項2】
前記第1のダイヤモンドアンビルには、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜からなる電気抵抗測定型の温度計測用電極がさらに形成されている、請求項1記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項3】
前記温度計測用電極の電気抵抗測定部は前記接触面に配置されている、請求項2記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項4】
前記計測用電極、前記ヒーター電極および前記温度計測用電極は、同一の組成のホウ素ドープダイヤモンド薄膜からなる、請求項
2または3記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項5】
前記ホウ素ドープダイヤモンド薄膜のホウ素ドープ量は10
17cm
-3以上10
22cm
-3以下である、請求項4記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項6】
前記計測用電極、前記ヒーター電極および前記温度計測用電極の前記ホウ素ドープダイヤモンド薄膜の厚さは同一である、請求項4または5記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項7】
前記温度計測用電極のホウ素ドープ量は10
17cm
-3以上10
22cm
-3以下である、請求項
2または3記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項8】
前記ヒーター電極は前記平面部から前記第1のダイヤモンドアンビルの前記平面部以外の領域にまたがって形成されており、前記ヒーター電極の前記平面部における電気抵抗は前記平面部以外の領域における電気抵抗より高い、請求項1から7の何れか1項記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項9】
前記ヒーター電極の前記平面部における抵抗は前記平面部以外の領域における電気抵抗の1.1倍以上200倍以下である、請求項1から7の何れか1項記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項10】
前記ヒーター電極は前記第1のダイヤモンドアンビルに接して形成されている、請求項1から9の何れか1項記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項11】
絶縁性ダイヤモンド膜が前記計測用電極と前記ヒーター電極を覆うように形成されている、請求項1から10の何れか1項記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項12】
前記計測用電極は、前記被測定試料が置かれる試料側電極部と、外部の計測器と接続するための第1の電極パッド部と、前記試料側電極部と前記第1の電極パッド部を電気的に接続する第1のリード線部からなる、請求項1から11の何れか1項記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項13】
前記温度計測用電極は、前記被測定試料が置かれる試料側温度計測用電極部と、外部の計測器と接続するための第2の電極パッド部と、前記試料側温度計測用電極部と前記第2の電極パッド部を電気的に接続する第2のリード線部からなる、請求項
2または3記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項14】
前記第1のダイヤモンドアンビルは平板状のダイヤモンド基板からなり、
他方のダイヤモンドアンビルがダイヤモンド製圧子からなる、請求項1から13の何れか1項記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項15】
さらに、前記ダイヤモンド製圧子からなるダイヤモンドアンビルの突端が挿入される開口
部が形成されたガスケットを有する、請求項14記載のダイヤモンドアンビルセル。
【請求項16】
請求項1から15の何れか1項記載のダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧物性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドアンビルセルおよび高圧物性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高温高圧状態での試料の物性評価は重要であり、その評価を簡便かつ低コストで行いたいという強い要求がある。
しかしながら、一般に、高温下で高圧が試料にかけられる装置は大型でコストも高いものであった。
【0003】
簡便でコストの低い装置であって試料に対して高圧がかけられる装置として、ダイヤモンドアンビルセルが知られている。ここで、ダイヤモンドアンビルセルは、二つのダイヤモンド単結晶を一組の対向アンビルとした、一軸加圧装置である(特許文献1、2および3参照)。
【0004】
ダイヤモンドアンビルセルは、アンビルに地球上最も硬い物質であるダイヤモンドを用いているので、約200GPa以上の超高圧を発生させることができる。また、アンビルが透明であるため、X線等の分光により、高圧下の物質変化を直接的に観察・測定することができる。
【0005】
ダイヤモンドアンビルセルでは、アンビルを通して赤外線などの光を導入することにより、試料によっては約4000℃に加熱することもできるため、高温高圧状況下での材料物性測定に資する装置である。
【0006】
しかしながら、レーザー光等でダイヤモンドアンビルセルの外部から熱を供給して高温高圧状況下での材料物性測定を行う方法は、発熱温度が光吸収率に依存し、場合によっては十分な加熱ができない、局所的な加熱で試料内の熱均一性を十分にとるのが難しいという問題や、装置が大型化し、また装置コストも高いものになるという問題があった。
また、試料評価用のヒーター、温度計、物性評価用の電極を高圧がかかるセルの中に封じ込むという方法では、試料室内での配線の取り回しが大変になるという問題と、これらが1回の実験で破壊し、再現実験や再現性評価に支障をきたすとともに、コストがかさむという問題があった。
【0007】
なお、純粋なダイヤモンドは電気的には絶縁体であるが、ホウ素をドープするとダイヤモンドはホウ素が電荷アクセプタとしてふるまうp型半導体になる。このようなダイヤモンドは、高い絶縁耐性(10MV/cmより大)および大きなキャリヤ移動度をもつことから、高周波、高電力デバイスのような電気面での応用が期待される物質である。
【0008】
また、1021cm-3のように多量にホウ素がドープされたダイヤモンドは金属伝導性を示し、電気化学の分野において電極として使用されてきた。また、化学気相成長法により合成した、多量にホウ素をドープしたダイヤモンドが11.4Kで超伝導性を示すことも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6489594号公報
【文献】特開2018-128286号公報
【文献】中国特許出願公開第102183693号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】高圧力の科学と技術、Vol.18,No.1,p.3-10(2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高温高圧下での試料の電気特性評価を装置破壊を伴わずに簡便に行うことができ、かつ装置コストの低いダイヤモンドアンビルセルおよび高圧物性測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
課題を解決するための本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
一組のダイヤモンドアンビルの対向する平面部を突き合わせて被測定試料に高圧を印加するダイヤモンドアンビルセルであって、
前記一組のダイヤモンドアンビルの一方である第1のダイヤモンドアンビルには、少なくとも前記被測定試料の接触面となる前記平面部にホウ素ドープダイヤモンド薄膜からなる計測用電極とヒーター電極が形成されている、ダイヤモンドアンビルセル。
(構成2)
前記第1のダイヤモンドアンビルには、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜からなる電気抵抗測定型の温度計測用電極がさらに形成されている、構成1記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成3)
前記温度計測用電極の電気抵抗測定部は前記接触面に配置されている、構成2記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成4)
前記計測用電極、前記ヒーター電極および前記温度計測用電極は、同一の組成のホウ素ドープダイヤモンド薄膜からなる、構成1から3の何れか1つ記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成5)
前記ホウ素ドープダイヤモンド薄膜のホウ素ドープ量は1017cm-3以上1022cm-3以下である、構成4記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成6)
前記計測用電極、前記ヒーター電極および前記温度計測用電極の前記ホウ素ドープダイヤモンド薄膜の厚さは同一である、構成4または5記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成7)
前記温度計測用電極のホウ素ドープ量は1017cm-3以上1022cm-3以下である、構成2または3に記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成8)
前記ヒーター電極は前記平面部から前記第1のダイヤモンドアンビルの前記平面部以外の領域にまたがって形成されており、前記ヒーター電極の前記平面部における電気抵抗は前記平面部以外の領域における電気抵抗より高い、構成1から7の何れか1つ記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成9)
前記ヒーター電極の前記平面部における抵抗は前記平面部以外の領域における電気抵抗の1.1倍以上200倍以下である、構成1から7の何れか1つ記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成10)
前記ヒーター電極は前記第1のダイヤモンドアンビルに接して形成されている、構成1から9の何れか1つ記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成11)
絶縁性ダイヤモンド膜が前記計測用電極と前記ヒーター電極を覆うように形成されている、構成1から10の何れか1つ記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成12)
前記計測用電極は、前記被測定試料が置かれる試料側電極部と、外部の計測器と接続するための第1の電極パッド部と、前記試料側電極部と前記第1の電極パッド部を電気的に接続する第1のリード線部からなる、構成1から11の何れか1つ記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成13)
前記温度計測用電極は、前記被測定試料が置かれる試料側温度計測用電極部と、外部の計測器と接続するための第2の電極パッド部と、前記試料側温度計測用電極部と前記第2の電極パッド部を電気的に接続する第2のリード線部からなる、構成2または3記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成14)
前記第1のダイヤモンドアンビルは平板状のダイヤモンド基板からなり、
他方のダイヤモンドアンビルがダイヤモンド製圧子からなる、構成1から13の何れか1つ記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成15)
さらに、前記ダイヤモンド製圧子からなるダイヤモンドアンビルの突端が挿入される開口部が形成されたガスケットを有する、構成14記載のダイヤモンドアンビルセル。
(構成16)
構成1から15の何れか1つ記載のダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧物性測定装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明のダイヤモンドアンビルによれば、高温高圧下での試料の電気特性評価を装置破壊を伴わずに簡便に行うことができ、かつ装置コストの低いダイヤモンドアンビルセルおよび高圧物性測定装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態を示すボックス型ダイヤモンドアンビルセル100の構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態を示すキュレット型ダイヤモンドアンビルセル101の構成図である。
【
図3】本発明の一実施形態を示すダイヤモンドアンビルのキュレット部の構成図である。
【
図4】本発明の電極パターンレイアウトの例を示す平面図である。
【
図5】本発明の電極パターンレイアウトの例を示す平面図である。
【
図6】実施例におけるダイヤモンドアンビルのキュレット部の光学顕微鏡写真である。
【
図7】温度校正特性曲線の一例を示す特性図である。
【
図8】ヒーターへの投入電力と温度計の電気抵抗の関係を示す特性図である。
【
図9】ヒーターへの投入電力と発熱温度の関係を示す特性図である。
【
図10】試料電気特性の昇温、降温特性を実施例1のダイヤモンドアンビルセルで測定した特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
本発明の一実施形態を示すダイヤモンドアンビルセル100は、第1のダイヤモンドアンビルであるボックス型のダイヤモンドアンビル30と第2のダイヤモンドアンビルであるダイヤモンド製圧子10からなる一組のダイヤモンドアンビルの対向する平面部を突き合わせて被測定試料に高圧を印加する装置であって、その構成を
図1に示す。同図に示されるように、ダイヤモンドアンビルセル100は、ダイヤモンド製圧子10、ガスケット20、ボックス型のダイヤモンドアンビル(物性評価用素子搭載ダイヤモンドアンビル)30を具備する。
【0017】
ダイヤモンド製圧子10は、例えばブリリアントカットされたダイヤモンドで、頂部の平らなテーブル面11、上部の側面に設けられたクラウン12、上部と下部の境界となるガードル13、下部の側面に設けられたパビリオン14、突状平面であるキュレット15で構成される。キュレット15の突状平面は被測定試料に圧接されるもので、突状平面の大きさは被測定試料の形状に応じた測定用の密封空間の大きさに適合するように定める。
【0018】
ガスケット20は、被測定試料(図示せず)をダイヤモンド製圧子10とダイヤモンド基板31を用いたダイヤモンドアンビル(物性評価用素子搭載ダイヤモンドアンビル)30で挟んだ状態を保持すると共に、キュレット15の先端で押圧された時に圧縮されて、キュレット15の先端とガスケット20のセンター穴21の壁で形成された密封空間の高圧状態を保持するものである。ここで、ダイヤモンド基板31上には物性測定用電極32、ヒーター用電極33および温度計用電極34が配置されている。
このガスケット20には、ここでは大略矩形の板材が用いられており、例えばプラスチック材料、セラミクス材料や金属材料が用いられる。金属ガスケットとしては、例えばステンレス、レニウムおよびタングステンを挙げることができる。
センター穴21は、ガスケット20の中央部分(中央近傍部)に設けられるもので、キュレットの先端により高圧で押されることで、センター穴21の周縁部が押し潰されて、内部に密封空間を形成する。なお、被測定試料はこの密封空間に収容されて、高圧状態での物理的特性が評価される。
ここで、絶縁テープ(図示なし)をガスケット20とダイヤモンドアンビル30の間に装着してもよい。なお、この絶縁テープは、ダイヤモンド基板31上に形成された物性測定用電極32、ヒーター用電極33、温度計用電極34などの電極の絶縁とともに、被測定試料に均一な圧力が印加されるための緩衝材の機能も担う。絶縁テープの材料としては、窒化ホウ素や酸化アルミニウムを挙げることができる。絶縁テープの他に窒化ホウ素粒、酸化アルミニウム粒などの絶縁性の粉体を用いることもできる。被測定試料に均一な圧力が印加されるための緩衝材としては、塩化ナトリウムなどを用いることもできる。
【0019】
図2は、本発明の別の実施形態を示すキュレット型ダイヤモンドアンビルセル101の構成図である。同図において、ダイヤモンドアンビルセル101は、ダイヤモンド製圧子10、ガスケット20、第1のダイヤモンドアンビルである物性評価用素子搭載のキュレット型のダイヤモンドアンビル40を具備する。キュレット型ダイヤモンドアンビルセル101とボックス型ダイヤモンドアンビルセル100の構成の差は、ボックス型のダイヤモンドアンビル30を用いるかキュレット型のダイヤモンドアンビル40を用いるかの差である。
【0020】
ここで、ボックス型のダイヤモンドアンビル30は、電極パターン形成などを平面上で行うことができるので作製が容易であるという特徴を有する。
一方、キュレット型のダイヤモンドアンビル40は、被試料測定部に集中して圧力をかけやすく、また被試料測定部およびその近傍の体積が小さいので加熱を行いやすい。またその部分の熱容量が小さいため、昇温降温の速度を高めやすく、試料物性の温度に対する応答性評価に適するという特徴を有する。
【0021】
ダイヤモンド基板31および所定の形状にカッティングされたダイヤモンド基板41は、単結晶でも多結晶でもよい。
ダイヤモンド基板31には、計測用電極(物性測定用電極)32、ヒーター用電極33および温度計用電極34が設けられており、ダイヤモンド基板41にも、計測用電極(物性測定用電極)42およびヒーター用電極43および温度計用電極44が設けられている。
ここで、ダイヤモンド基板31に温度計用電極34を設けておくと温度をモニターできて好ましく、ダイヤモンド基板41にも温度計用電極44を設けておくと温度をモニターできて好ましい。
【0022】
なお、物性測定用電極32、42は、被測定試料がダイヤモンド製圧子10で押圧された状態で、電気的な特性を測定するのに適した配線パターンを有している。被測定試料は物性測定用電極32、42に設けられたパッド部等を介して物性測定用電極に電気的に接続される(図示なし)。ここで、測定対象となる物性としては、例えば電気抵抗率、導電率およびホール係数などを挙げることができる。
ヒーター用電極33、43は、被測定試料がダイヤモンド製圧子10で押圧された状態で、被測定試料を所定の温度に加熱するのに適した配線パターンを有している。
温度計用電極34、44は、被測定試料がダイヤモンド製圧子10で押圧された状態で、被測定試料の温度を測定するするのに適した配線パターンを有している。
【0023】
キュレット型ダイヤモンドアンビル40の先端(キュレット部)に設けられた被測定試料搭載部45に物性測定用電極51、ヒーター用電極52および温度計用電極53が配置された例を
図3に示す。物性測定用電極51および温度計用電極53では、電極の電気抵抗を下げるため、領域を確保しやすい周辺部に向かうほど電極幅は太い。一方、ヒーター用電極52では被測定試料が置かれる中心部では細い電極が用いられ、周辺部では電極幅が一定な九十九折り形状の電極が用いられている。このようにすることにより、被測定試料領域に均一な熱量を均一にかけることが可能になる。
ボックス型ダイヤモンドアンビル30の場合も、
図3の例と同様に、物性測定用電極32、ヒーター用電極33および温度計用電極34の形状は、被測定試料が置かれる中心部では細く、領域を確保しやすい周辺部では電極幅を太くすることが好ましい。
【0024】
これらの電極、すなわち物性測定用電極32、42、ヒーター用電極33、43および温度計用電極34、44は、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜からなる。
ホウ素ドープダイヤモンド薄膜は、その薄膜に圧力が印加されても変形を起こしにくい十分な硬さをもち、かつ高い耐熱性も有する膜である。ホウ素ドープダイヤモンド薄膜は、ホウ素のドープ量に依存するが、高い熱伝導度を有する。例えば、ホウ素のドープ量が1019cm-3のときの熱伝導度は約1000W/mKである。ダイヤモンドへのホウ素ドープ量が1017cm-3以上でホウ素ドープドダイヤモンド薄膜は導電体となり、ドープ量が増すほどその薄膜の電気抵抗率は下がる。このため、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜からなる電極は、十分高温高圧に耐えるとともに、電極の存在による加熱均一性の低下が十分抑えられるため、十分な精度で高温高圧下で被測定試料の物性電気特性評価を行うことができる。
ここで、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜のホウ素ドープ量は、1019cm-3以上1022cm-3以下が好ましい。ホウ素ドープダイヤモンド薄膜のホウ素ドープ量を1019cm-3以上とすることで、電気抵抗が電極として使用する上で十分な値に抑えられる。また、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜のホウ素ドープ量を1022cm-3以下とすることで、均質なホウ素ドープダイヤモンド薄膜を容易に形成することが可能になる。
【0025】
物性測定用電極32、42、ヒーター用電極33、43および温度計用電極34、44としては、同一組成のホウ素ドープダイヤモンド薄膜を用いることが好ましい。これは、1回の成膜で同一組成のホウ素ドープダイヤモンド薄膜を作製した後パターン加工を行うことにより、所望の電極を少ない工程で簡便に形成することが可能なためである。また、この方法で形成した電極の厚さは一定であり、ダイヤモンド製圧子10を接触させて圧力を印加した際に被測定試料に均一な圧力を印加しやすいというメリットもある。繰り返しになるが、電極として使用するホウ素ドープダイヤモンド薄膜は、厚さが電極によらず同一であると被測定試料に均一な圧力を印加しやすく好ましい。なお、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜の厚さに関しては、特に限定はないが、例えば0.01μm以上300μm以下とすることができる。
【0026】
物性測定用電極32、42および温度計用電極34、44は、一般に、電気抵抗が小さいことが好まれる。一方で、ヒーター電極33、43には、所定の加熱が行えるように比較的高い電気抵抗にする必要がある。一般的には、物性測定用電極32、42および温度計用電極34、44と高温試験用のヒーター電極33、43を同一組成の膜で形成することは困難である。
【0027】
本発明では、物性測定用電極32、42および温度計用電極34、44と、ヒーター電極33、43で電極の(配線の)体積を変えて、各々の電極に対して所望の電気抵抗を得るように設定する。このようにすると、一般的には、ヒーター用の配線が細くなってヒーター作動時に断線を起こしやすくなる。しかしながら、本発明では電極材料にエレクトロマイグレーションや熱断線を起こしにくいホウ素ドープダイヤモンド薄膜を用いているため、高温下での細い電極配線でも断線を起こしにくく、同一組成の薄膜で物性測定用電極32、42、ヒーター用電極33、43および温度計用電極34、44を担うことが可能になっている。
【0028】
ヒーター用電極33、43は、被測定試料の置かれている被測定試料搭載部35、45(平面部A)から第1のダイヤモンドアンビル30、40の平面部A以外の領域にまたがって形成されていて、ヒーター用電極33、43の平面部Aにおける抵抗は平面部A以外の領域における抵抗より高いことが好ましい。これは、平面部Aは、ダイヤモンドアンビル30、40の平面部A以外に比べ、ヒーター用電極33、43以外にも物性測定用電極32、42および温度計用電極34、44が集中して電極密度が高いこと、および平面部Aに加熱の熱量を集中して加熱効率を高めることが可能になることによる。このようにすることにより、電極密度が高い平面部Aにおいて、電極のレイアウトが容易になり、また被測定試料の物性測定用電極32、42への設置もしやすくなる。
ここで、ヒーター用電極33、43の平面部Aにおける電気抵抗は、平面部A以外の領域における電気抵抗の1.1倍以上200倍以下であることが好ましい。このようにすると、被測定試料の加熱効率が特に高まり、また電極のレイアウトが容易になる。
【0029】
ヒーター用電極33、43は、第1のダイヤモンドアンビル30、40に接して、すなわちダイヤモンド基板31、41に接して形成されていることが好ましい。これは、ダイヤモンド基板31、41は絶縁体であり、かつ極めて高い熱伝導率を有するため効率よくかつ均一に被測定試料を加熱することが可能になるためである。
【0030】
被測定試料の置かれている領域の温度測定を行うため、抵抗測定型の温度計が平面部Aに設置されていることが好ましい。平面部Aはキュレット15の突状平面が被測定試料に圧接される場所でもあり、所望の圧力が被測定試料に印加された状態で温度測定が可能になる。
その抵抗測定型の温度計は、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜からなる温度計用電極34、44を用いたものでよい。温度計用電極34、44の電気抵抗の変化から被測定試料の置かれている領域の温度をモニターできる。
【0031】
被測定試料の置かれている領域の温度測定精度を高めるため、被測定試料の置かれている領域である平面部Aにおける温度計用電極34、44の線幅は、他の領域における温度計用電極34、44の線幅より細くしておくのが好ましい。平面部Aにおける温度計用電極34、44の電気抵抗の比率が高まって被測定試料の置かれている領域での温度測定精度が高まる。
【0032】
温度計用電極34、44を構成するホウ素ドープダイヤモンド薄膜のホウ素ドープ量は1017cm-3以上1022cm-3以下が好ましい。この範囲で、電気抵抗測定により、十分な温度測定を行うことができる。さらに、ホウ素ドープ量が1018cm-3以上1020cm-3以下の場合は、温度に対する電気抵抗変化量が大きく、温度をモニターするのに適するため、より一層好ましい。ホウ素ドープ量がこの範囲では、温度計用電極34、44からなる電気配線の電気抵抗は、比較的幅の広い線幅としても比較的大きいが、4端子測定用の回路構成にすることにより精度よく温度をモニターすることができる。
【0033】
物性測定用電極32、42、ヒーター用電極33、43の上には絶縁性ダイヤモンド膜が形成され、電極間の所望ではない電気的接触を防止しておくことが好ましい。温度計用電極34、44を用いる場合は、温度計用電極34、44の上にも絶縁性ダイヤモンド膜を形成し、物性測定用電極32、42、ヒーター用電極33、43および温度計用電極34、44を不本意な電気的接触から保護しておくことが好ましい。
絶縁性ダイヤモンド膜は、約10MV/cmという高い絶縁耐性を有するとともに、機械的強度も強くて高圧印加に耐え、高い熱伝導率を併せもつので、高温高圧下で信頼性が高く測定精度の高い物性評価を行う上で好適である。
ここで、絶縁性ダイヤモンド膜の厚さは特に限定はないが、例えば10nm以上2000nm以下とすることができる。なお、被測定試料が配置される場所や、被測定試料と電気的接触を行う物性測定用電極32、42上に形成されたパッド部などでは、絶縁性ダイヤモンド膜が除かれていることが好ましい。
【0034】
物性測定用電極32、42、ヒーター用電極33、43および温度計用電極34、44は、熱伝導性が高い(約22W/cmK)ダイヤモンド基板31またはダイヤモンド基板41上に形成されるため、ヒーター用電極33、43を用いて発生させた熱は均一に拡がり、熱分布を生じしにくいという特徴がある。さらに、被測定試料部の外側近傍に置かれたヒーター用電極33、43からの熱もダイヤモンド基板からの高い熱伝導により被測定試料部の加熱に寄与するため、ヒーター用電極33、43による加熱効率が高いという特徴も併せもつ。
【0035】
物性測定用電極32、42は、被測定試料が置かれる試料側電極部と、外部の計測器と接続するための電極パッド部と、試料側電極部と電極パッド部を電気的に接続するリード線部からなるようにレイアウトする。また、同様に、温度計用電極34、44も被測定試料が置かれる試料側温度計測用電極部と、外部の計測器と接続するための電極パッド部と、試料側温度計測用電極部と電極パッド部を電気的に接続するリード線部からなるようにレイアウトする。
【0036】
電極レイアウトの例を物性測定用電極32の場合について示す。ここでは、ボックス型ダイヤモンドアンビル30の場合を例示するが、キュレット型ダイヤモンドアンビルセル40でも同様に当てはまる。
図4は、本発明の一実施形態を示すダイヤモンド基板31上に形成された6端子用の電極パターンを示す図で、(a)は電極パターンの全体図、(b)は試料側電極部となる電極先端の拡大図である。
電極パターンは、例えば外部の測定計器と接続するための電極パッド部61aと、被測定試料と接触する試料側電極部61cと、電極パッド部61aと試料側電極部61cとを接続するリード線部61bを有している。試料側電極部61cは電極先端に対応している。
6端子用の電極パターンでは、電圧用の正極用と負極用としてVa
+、Va
-、Vb
+、Vb
-が設けられており、電流用の正極用と負極用としてI
+、I
-が設けられている。6端子用の電極パターンでは、電気抵抗やホール係数の測定が可能である。
【0037】
図5は、本発明の一実施形態を示すダイヤモンド基板上に形成された4端子用の電極パターンを示す図で、(a)は電極パターンの全体図、(b)は試料側電極部となる電極先端の拡大図である。
電極パターンは、例えば外部の測定計器と接続するための電極パッド部71aと、被測定試料と接触する試料側電極部71cと、電極パッド部71aと試料側電極部71cとを接続するリード線部71bを有している。試料側電極部71cは電極先端に対応している。
4端子用の電極パターンでは、電圧用の正極用と負極用としてV
+、V
-が設けられており、電流用の正極用と負極用としてI
+、I
-が設けられている。4端子用の電極パターンでは、電極パターンの電気抵抗の影響を軽減するため、電極パターンの幅を6端子用の電極パターンの場合と比較して広くしてある。
【0038】
なお、上記の実施の形態では、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜の電極パターンとして6端子電極パターンおよび4端子電極パターンの場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、2端子電極パターン、8端子電極パターンやこれら以外の数の端子を有する電極パターンでもよい。8端子電極パターンとすると、2個の被測定試料を同時に密封測定空間内で測定できる。
温度計用電極34、44は、上述のように4端子計測が好適であるため、4端子電極パターンが好ましい。一方、ヒーター用電極33、43に関しては2端子電極パターンでもよい。端子数を抑制することにより、領域を物性測定用電極32などの他の電極のために割り当てることが可能になる。
【0039】
次に、ダイヤモンド基板上に電極パターンを成膜する製造工程について説明する。
本発明の電極パターンには、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜が用いられている。このダイヤモンド薄膜は、化学気相成長法により形成された薄膜であり、超伝導性を示す。この薄膜の超伝導転移温度は、Tcオンセット値で11.4Kのものが得られているが、さらに高い温度のものが得られる可能性がある。この薄膜の結晶配向は、典型的には(111)配向であるが、これに限定されず、例えば(100)配向や(110)配向等のものであってもよい。(111)配向のホウ素ドープダイヤモンドは、たとえば(001)配向のものより1オーダー大きな比率でホウ素のドーピングを行うことができ、超伝導性の発現に有利である。また、この薄膜に多結晶ダイヤモンドを用いることも可能である。
【0040】
本実施例におけるホウ素ドープダイヤモンド薄膜の形成には、化学気相成長法が使用されるが、その中でもマイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)法が好ましく使用される。成膜条件は以下のとおりである。
【0041】
原料ガスとしては、少なくとも炭素化合物及びホウ素化合物よりなり、水素を含む混合ガスを用いることができる。炭素化合物としては、メタン、エタン、プロパン、エタノール等、炭素を含む種々の材料を用いることができる。ホウ素化合物としては、ジボラン(B2H6)、トリメチルホウ素(B(CH3)3)、酸化ホウ素(B2O3)、ホウ酸(メタホウ酸、オルトホウ酸、四ホウ酸等)、固体ホウ素(B)等、ホウ素を含む種々の材料を用いることができる。原料ガスのB/C比は、たとえば100ppmから100000ppm、好ましくは1000ppmから24000ppmのものとすることができるが、これに限定されない。また、水素に対する炭素濃度は、たとえば0.1原子%から10原子%のものとすることができるが、これに限定されない。これらの値は、超伝導の発現、成膜性の観点から考慮される。
成膜中の雰囲気圧力、基板温度、成膜時間等も、超伝導の発現、成膜性の観点から考慮される。なお、化学気相合成装置、反応炉の構成、構造については特に限定されることはない。
本発明のダイヤモンドアンビルセルは高圧下での物性測定に好適なため、本発明のダイヤモンドアンビルセルは高圧物性評価装置として好適である。
【実施例】
【0042】
<実施例1>
実施例1ではダイヤモンドアンビルセルを試作した。
試作したダイヤモンドアンビルは、
図1に示したボックス型ダイヤモンドアンビルを用いたものと
図2に示したキュレット型ダイヤモンドアンビルを用いたものであり、ボックス型についてはダイヤモンド基板31として多結晶を用いたものと単結晶を用いたもの、キュレット型に関しては単結晶を用いたものを試作した。このうち、単結晶ダイヤモンド基板を用いたボックス型に関しては絶縁性ダイヤモンド膜による保護膜が形成されたものも試作した。
【0043】
ダイヤモンドアンビルの作製方法は下記のとおりである。
まず、ボックス型のダイヤモンド基板31とブリリアントカットが施されたダイヤモンド基板41を準備した。ここで、ボックス型に関しては単結晶と多結晶の2種類の基板を準備し、キュレット型に関しては単結晶の基板を準備した。単結晶の場合は、(100)配向ダイヤモンド基板とした。基板の大きさはボックス型が2.5mm×2.5mm×2.0mmで、キュレット型がΦ3mmである。
【0044】
次に、マイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)法を用いて、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜をダイヤモンド基板上に形成した。
まず、ダイヤモンド基板を有機溶媒を用いた超音波法により洗浄した。
しかる後、電子線描画法を用いたリフトオフプロセスによってチタンと金からなる電極形成用の金属マスクを形成した。その後、アルゴンガス雰囲気中、450℃で1時間アニールした。
その後、70Torrのチャンバ圧力、750Wのマイクロ波電力、800~900℃の基板温度の条件下で、メタンとトリメチルボロンの水素中での希釈混合ガスを用いてホウ素ドープダイヤモンド薄膜の成膜を行った。水素に対するメタン濃度は3%である。30分の堆積後に厚さおよそ1μmの薄膜が得られた。成膜したダイヤモンド薄膜へのホウ素のドープ量は約1021cm-3である。
その後、硝酸や硫酸を用いた酸洗浄によって、チタンと金から成る金属マスクを溶解することで、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜からなる電極パターンを形成した。ここで、形成した電極は、物性測定用電極、ヒーター用電極および温度計用電極である。
【0045】
その後、一部の試料に対して、絶縁性のダイヤモンド薄膜を成膜した。
ここで、絶縁性のダイヤモンド薄膜の成膜は下記のようにして行った。
まず、上記のプロセスによって作製したホウ素ドープダイヤモンド電極付きのダイヤモンド基板上に、電子線描画法を用いたリフトオフプロセスによってチタンと金からなる電極形成用の金属マスクを形成した。その後、アルゴンガス雰囲気中、450℃で1時間アニールした。
しかる後、35Torrのチャンバ圧力、270Wのマイクロ波電力、600~700℃の基板温度の条件下で、メタンと水素の希釈混合ガスを用いて絶縁性ダイヤモンド薄膜の成膜を行った。水素に対するメタン濃度は3%である。2時間の堆積後に厚さおよそ400nmの薄膜が得られた。
その後、硝酸や硫酸を用いた酸洗浄によって、チタンと金から成る金属マスクを溶解することで、絶縁性ダイヤモンド薄膜からなる絶縁層を形成した。
【0046】
試作した試料の光学顕微鏡写真を
図6に示す。ここで、同図中に示された81は物性測定用電極、82はヒーター兼温度計用電極、83はキュレット面、84はベベル斜面そして85はダイヤモンドアンビルの斜面であり、(a)は広域、(b)はその中心部を拡大した写真である。
ダイヤモンドアンビルの形状はボックス型とキュレット型、結晶性については多結晶ダイヤモンドと単結晶ダイヤモンドについて作製を確認した。また、任意のホウ素ドープダイヤモンドのパターンの上から、絶縁性ダイヤモンドからなる保護層を成膜できることも確認された。また、ホウ素ドープダイヤモンドからなる各要素の形状の自由度は高く、例えば発熱体と抵抗温度計を兼ねたパターンとすることも可能であることが確認された。
【0047】
<実施例2>
実施例2では、試作した単結晶のボックス型ダイヤモンドアンビルを用いて試料の電気抵抗特性評価を行った。
そこでは、
図1に示した構成のボックス型ダイヤモンドアンビル30を用い、ダイヤモンド製圧子10のキュレット15と接触させるダイヤモンド基板31の被測定試料搭載部35の間に電気絶縁部として窒化ホウ素を配置し、圧力媒体である窒化ホウ素およびパイロフィライトを用いて被測定試料を押圧しつつ、被測定試料の電気的特性を物性測定用電極32を介して測定した。
【0048】
準備として、電気炉内にダイヤモンドアンビル30を設置し、常圧の条件で電気炉内の温度と温度計用電極34の電気抵抗値を調べ、温度校正曲線を得た。その結果を
図7に示す。電気炉としては管状炉(アサヒ理化製作所製)を用いた。温度計用電極34の温度測定部の線幅は4μmで、配線として使用している最も太い部分の線幅は400μmである。電気抵抗は4端子回路を用いた電気抵抗測定装置(デジタルマルチメーター(GWINSTEK製))にて測定した。なお、電気炉内の温度は熱電対を用いてモニターし、真空中または窒素ガスフロー中で測定した。
【0049】
次に、ダイヤモンドアンビル30にダイヤモンド製圧子10を押し付けて被測定試料に1.7GPaの圧力を印加した状態で、ヒーター用電極33に直流の電力を投入して、ヒーターへの投入電力と温度計用電極32の電気抵抗の関係を調べた。その結果を
図8に示す。ヒーターへの投入電力と温度計用電極の電気抵抗はほぼリニアの関係にあることがわかる。
【0050】
図7と
図8のデータを用いて、ヒーター用電極33への投入電力と発熱温度、すなわち被測定試料に印加される温度の関係をプロットした。その結果を
図9に示す。発熱温度はヒーター用電極33への投入電力の増加に伴い単調かつ滑らかに増加していくことがわかる。ヒーター用電極33に16Wの電力を投入することにより被測定試料に約700Kの温度を印加できる。ヒーター用電極33の最も細い部分の電極幅は75μmであるが、700Kという高温下でも断線などの不具合は生じず、安定性、再現性をもって加熱できることが確認された。
【0051】
被測定試料をLaO
1-xF
xBiS
2として、ダイヤモンドアンビルセル100に装着し、0.7GPaの圧力を試料に印加しながらヒーター用電極33へ電力を増減させながら供給して試料の電気抵抗特性を評価した。その結果を
図10に示す。ここで、昇温速度は40℃/min、降温速度は40℃/minとした。
実施例2により、本発明のダイヤモンドアンビルセル100で高温高圧下の物性評価ができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のダイヤモンドアンビルセルおよび高圧物性測定装置は、高温高圧下での試料の電気特性を簡便かつ低コストで測定できる装置であり、かつ装置破壊を伴わないので再現実験が可能で、測定再現性も調べられるものである。したがって、本発明の装置を用いると、試料の高温高圧下での特性評価が進むので、産業に大いに寄与するものと考える。
【符号の説明】
【0053】
10:ダイヤモンド製圧子
11:テーブル面
12:クラウン
13:ガードル
14:パビリオン
15:キュレット
20:ガスケット
21:穴
30:ダイヤモンドアンビル(物性評価用素子搭載ダイヤモンドアンビル)
31:ダイヤモンド基板
32:計測用電極(物性測定用電極)
33:ヒーター用電極
34:温度計用電極
35:被測定試料搭載部(平面部A)
40:ダイヤモンドアンビル(物性評価用素子搭載ダイヤモンドアンビル)
41:ダイヤモンド基板
42:計測用電極(物性測定用電極)
43:ヒーター用電極
44:温度計用電極
45:被測定試料搭載部(平面部A)
51:物性測定用電極
52:ヒーター用電極
53:温度計用電極
61a:電極パッド部
61b:リード線部
61c:試料側電極部
71a:電極パッド部
71b:リード線部
71c:試料側電極部
81:物性測定用電極
82:ヒーター兼温度計用電極
83:キュレット面
84:ベベル斜面
85:ダイヤモンドアンビルの斜面
100:ダイヤモンドアンビルセル(ボックス型ダイヤモンドアンビルセル)
101:ダイヤモンドアンビルセル(キュレット型ダイヤモンドアンビルセル)