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特許7539160接着組成物、表面処理金属部材の製造方法、および金属-樹脂複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】接着組成物、表面処理金属部材の製造方法、および金属-樹脂複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 1/00 20060101AFI20240816BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240816BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20240816BHJP
   C23C 22/06 20060101ALI20240816BHJP
   C23C 22/60 20060101ALI20240816BHJP
   C23C 22/68 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C09J1/00
C09J11/06
B32B7/12
C23C22/06
C23C22/60
C23C22/68
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021501673
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000437
(87)【国際公開番号】W WO2020170638
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2019029047
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 知紀
(72)【発明者】
【氏名】東松 逸朗
(72)【発明者】
【氏名】秋山 大作
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-068085(JP,A)
【文献】特開2007-023353(JP,A)
【文献】特開2017-008414(JP,A)
【文献】特開2018-104785(JP,A)
【文献】特開2018-188715(JP,A)
【文献】特開2018-115306(JP,A)
【文献】特開2017-203073(JP,A)
【文献】特開2005-023301(JP,A)
【文献】国際公開第2018/032006(WO,A1)
【文献】特開2013-030702(JP,A)
【文献】特開昭62-035843(JP,A)
【文献】特表2016-513755(JP,A)
【文献】特表2008-537975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 201/00
C09J 11/06
B32B 7/12
C23C 22/06
C23C 22/60
C23C 22/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属(但し、亜鉛系めっきを除く。)の表面に、樹脂との接着層を形成するための接着組成物であって、
前記樹脂は、硬化性樹脂であり、
前記組成物は、1分子中に2個以上の窒素原子を有する低分子有機化合物(但し、グアニジウムカチオン源を有する化合物を除く。)と、3価のアルミニウムイオン、および3価のクロムイオンからなる群より選ばれる1種以上の金属イオンを含み、かつpHが12以下の水溶液であり、
前記低分子有機化合物の濃度は、0.01~150g/Lであり、
前記金属イオンのモル濃度は、0.005~100mmоl/Lであることを特徴とする接着組成物(但し、フルオロジルコニウム酸塩を含有する場合、フッ素イオン及び/又はフッ素含有イオンを含有する場合、を除く。)。
【請求項2】
前記低分子有機化合物は、芳香環を有する化合物であることを特徴とする請求項1記載の接着組成物。
【請求項3】
前記低分子有機化合物は、含窒素複素環を有する化合物であることを特徴とする請求項1または2記載の接着組成物。
【請求項4】
金属の表面を有する部材に、請求項1~3のいずれかに記載の接着組成物を接触させることにより、当該表面に接着層を形成する工程を含むことを特徴とする表面処理金属部材の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の表面処理金属部材の製造方法で得られた表面処理金属部材の接着層上に、樹脂部材を接合する工程を含むことを特徴とする金属-樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着組成物、表面処理金属部材の製造方法、および金属-樹脂複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子基板の製造工程においては、金属層や金属配線の表面に、エッチングレジスト、めっきレジスト、ソルダーレジスト、プリプレグ、封止樹脂などの樹脂材料が接合される。電子基板の製造工程および製造後の製品においては、金属と樹脂との間に高い接着性が求められる。金属と樹脂との接着性を高めるために、粗化剤(マイクロエッチング剤)により金属の表面に微細な凹凸形状を形成する方法、金属の表面に樹脂との接着性を向上するための被膜(接着層)を形成する方法、粗化表面に接着層を形成する方法などが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1および2では、金属部材と樹脂との接着性に優れる被膜を形成するための被膜形成用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-203073号公報
【文献】特開2018-115306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、電子基板製造分野における、モールド工程の直前のリードフレームには、ボンディングワイヤ、ダイパッド、ボンディングパッド、ヒートシンクなどの銅、ニッケル、銀、アルミ、金、スズ、鉛などの複数の金属の表面が存在する。上記のような特許文献で開示された被膜形成用組成物は、銅または銅合金の金属部材と樹脂との優れた接着性を有するが、上記のような複数の金属に対し、樹脂が同時に接着できるよう改善する余地があった。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、複数の金属の表面と、樹脂との接着性を向上できる接着組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属の表面に、樹脂との接着層を形成するための接着組成物であって、前記樹脂は、硬化性樹脂であり、前記組成物は、1分子中に2個以上の窒素原子を有する低分子有機化合物と、3価のアルミニウムイオン、および3価のクロムイオンからなる群より選ばれる1種以上の金属イオンを含み、かつpHが12以下の水溶液であり、前記低分子有機化合物の濃度は、0.01~150g/Lであり、前記金属イオンのモル濃度は、0.005~100mmоl/Lであることを特徴とする接着組成物、に関する。
【0008】
また、本発明は、金属の表面を有する部材に、前記接着組成物を接触させることにより、当該表面に接着層を形成する工程を含むことを特徴とする表面処理金属部材の製造方法に関する。
【0009】
さらに、本発明は、前記表面処理金属部材の製造方法で得られた表面処理金属部材の接着層上に、樹脂部材を接合する工程を含むことを特徴とする金属-樹脂複合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着組成物における効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。ただし、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0011】
本発明の接着組成物は、金属の表面に、樹脂との接着層を形成するために用いられ、前記樹脂は硬化性樹脂である。また、本発明の接着組成物は、1分子中に2個以上の窒素原子を有する低分子有機化合物と、3価のアルミニウムイオン、および3価のクロムイオンからなる群より選ばれる1種以上の金属イオンを含み、かつpHが12以下の水溶液であり、前記低分子有機化合物の濃度は、0.01~150g/Lであり、前記金属イオンのモル濃度は、0.005~100mmоl/Lである。前記組成物は、特定量の前記低分子有機化合物と、特定量の前記金属イオンが、自己集積的なネットワークを構築することで密着に有利となる密な被膜を形成するため、複数の金属の表面と、樹脂との接着性を向上できると推定される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の接着組成物は、金属の表面に、樹脂との接着層を形成するための接着組成物であって、前記樹脂は、硬化性樹脂であり、前記組成物は、1分子中に2個以上の窒素原子を有する低分子有機化合物と、3価のアルミニウムイオン、および3価のクロムイオンからなる群より選ばれる1種以上の金属イオンを含み、かつpHが12以下の水溶液であり、前記低分子有機化合物の濃度は、0.01~150g/Lであり、前記金属イオン源のモル濃度は、0.005~100mmоl/Lである。
【0013】
<金属>
本発明の金属は、周期表の遷移元素、卑金属元素、半金属元素に属する金属であればよく、これらの合金も含む。前記遷移元素としては、例えば、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、モリブテン、銀、タングステン、白金、金などが挙げられ、前記卑金属元素としては、例えば、アルミニウム、インジウム、スズ、鉛などが挙げられ、前記半金属元素としては、例えば、ケイ素、アンチモンなどが挙げられる。これらの中でも、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、スズが好ましい。ここで、前記金属の表面は、例えば、酸化被膜を有する金属の表面、めっき金属の表面、活性化処理された金属の表面などを含む。また、前記金属の表面は、平滑でよく、粗化されていてもよい。
【0014】
前記金属の表面は、通常、金属の表面を有する部材(金属部材)であり、とくに当該部材の形状は限定されない。前記部材の形状としては、例えば、金属の塊、板材、棒材などが挙げられ、また、塑性加工、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、研磨加工などを単独、またはこれらの加工を組み合わせて所望の形状に機械加工されたものなどが挙げられる。
【0015】
前記金属部材を有する部材・部位としては、例えば、半導体ウェハー、電子基板、リードフレーム、ダイパッド、ボンディングワイヤ、ボンディングパッド、バスバー、ヒートシンクなどが挙げられる。
【0016】
<樹脂>
本発明の樹脂は、硬化性樹脂である。
【0017】
前記硬化性樹脂は、硬化性を示す樹脂組成物から形成される樹脂である。前記硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アルキド樹脂、イソシアネート樹脂、シアノアクリレート樹脂など;アクリル樹脂などの光硬化性樹脂;ゴム、エラストマーなどを含む反応硬化性樹脂組成物などが挙げられる。これらの中でも、親和性の観点から、カルボキシル基、チオール基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、シリル基などの官能基を含むものが好ましい。前記硬化性樹脂は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0018】
前記硬化性樹脂としては、前記硬化性樹脂からなる組成物であってもよく、あるいは、前記硬化性樹脂を主成分とする組成物であってもよい。また、本発明の効果を損なわない程度に、従来公知の各種無機・有機充填剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、加工助剤、核剤、離型剤、可塑剤、繊維状補強材などの添加剤を含有する組成物であってもよい。
【0019】
<1分子中に2個以上の窒素原子を有する低分子有機化合物>
本発明の1分子中に2個以上の窒素原子を有する低分子有機化合物は、金属の表面と樹脂との接着層を形成する主成分となる。なお、前記低分子有機化合物は、所謂、高分子有機化合物を含まないことを意味するものであり、とくに分子量が限定されるものではないが、例えば、当該分子量の上限値として、1500以下、1000以下が例示できる。前記低分子有機化合物は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0020】
前記低分子有機化合物は、1分子中に2個以上の窒素原子が自己集積的にネットワークを形成するため、1分子中に2個以上の窒素原子を有する低分子有機化合物であれば特に限定されないが、当該窒素原子を含む有機基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、ニトロソ基、アゾ基、ヒドラゾ基、ジアゾ基、シアノ基、窒素原子を含む複素環(含窒素複素環)などが挙げられる。また、前記低分子有機化合物は、分子内に芳香環を有する化合物が好ましく、窒素原子を含む複素環(含窒素複素環)を有する化合物がより好ましい。
【0021】
前記アミノ基含有化合物としては、例えば、ニトロアニリン、シアノアニリン、パラフェニルアゾアニリンなどのモノアミン化合物;エチレンジアミン、ジアミノ安息香酸、フェニレンジアミン、アミノベンゾチアゾール、ピペラジンなどのジアミン化合物;ビスヘキサメチレントリアミン、ジエチレントリアミン、ジアミノアニリンなどのトリアミン化合物;ベンゼンテトラアミン、トリアミノエチルアミン、ビフェニルテトラミンなどのテトラアミン化合物などのポリアミン化合物が挙げられる。これらの中でも、分子内に芳香環を有するアミノ基含有化合物が好ましい。
【0022】
また、イミノ基含有化合物としては、例えば、アセトアミジン塩酸塩、グアニジン塩酸塩など;ニトロ基含有化合物としては、例えば、ジニトロフルオロベンゼン、ジニトロフェノールなど;、ニトロソ基含有化合物としては、例えば、ジニトロソベンゼン、ジメチルニトロソアミンなど;アゾ基含有化合物としては、例えば、アゾベンゼンジカルボン酸など;ヒドラゾ基含有化合物としては、例えば、ヒドラゾベンゼン、ヒドラジンなど;ジアゾ基含有化合物としては、例えば、ジアゾ酢酸エステル、塩化ベンゼンジアゾニウムなど;シアノ基含有化合物としては、例えば、ジクロロジシアノベンゾキノン、ジシアノ銀塩などが挙げられる。
【0023】
前記含窒素複素環を有する化合物は、複素環が、単環でもよく、あるいは縮合環でもよく、また、複素環に酸素原子やイオウ原子が含まれていてもよい。前記含窒素複素環を有する化合物としては、例えば、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、イソキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、テトラジン、ペンタジン、アゼピン、ジアゼピン、トリアゼピンなどの単環;インドール、イソインドール、チエノインドール、インダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、ベンゾトリアゾールなどの縮合二環;カルバゾール、アクリジン、β‐カルボリン、アクリドン、ペリミジン、フェナジン、フェナントリジン、フェノチアジン、フェノキサジン、フェナントロリンなどの縮合三環;キンドリン、キニンドリンなどの縮合四環;アクリンドリンなどの縮合五環;などが挙げられる。これらの中でも、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン、テトラジン、ペンタジンなどの2個以上の窒素原子を含む含窒素複素環が好ましく、イミダゾール、トリアゾールおよびトリアジンが特に好ましい。
【0024】
また、前記1分子中に2個以上の窒素原子を有する低分子有機化合物としては、例えば、特開2017-203073号公報、特開2018-115306号公報に記載の下記の1分子中にアミノ基および含窒素複素環を有する化合物を使用できる。
【0025】
【化1】
(一般式(I)および(II)におけるR11~R15は、それぞれ独立に、水素原子、または炭素数1~20のアルキル基、アリル基、ベンジル基もしくはアリール基である。R21およびR22は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシ基またはメトキシ基を表し、pは0~16の整数である。R31は、第一級アミノ基(-NH)、または-Si(OR4142 (3-k)で表されるアルコキシシリル基もしくはヒドロキシシリル基(kは1~3の整数、R41およびR42はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~6のアルキル基)である。
【0026】
【化2】
(一般式(III)におけるR21およびR22、R31ならびにpは、上記一般式(I)および(II)と同様である。R16は、水素原子、または炭素数1~20のアルキル基、アリル基、ベンジル基もしくはアリール基である。Xは、水素原子、メチル基、-NH、-SHまたは-SCHであり、-NHが特に好ましい。)
【0027】
【化3】
(一般式(IV)において、R50、R51、R52、R60およびR61は、それぞれ独立に、任意の二価の基であり、例えば炭素数1~6の分岐を有していてもよい置換または無置換のアルキレン基である。アルキレン基は、末端や炭素‐炭素間に、エーテル、カルボニル、カルボキシ、アミド、イミド、カルバミド、カルバメート等を含んでいてもよい。ZはZと同一の基である。mおよびnは、それぞれ独立に、0~6の整数である。末端基Aは、水素原子、第一級アミノ基(-NH)、または-Si(OR4142 (3-k)で表されるアルコキシシリル基またはヒドロキシシリル基(kは1~3の整数、R41およびR42はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~6のアルキル基)である。)
【0028】
前記一般式(IV)における2つのZが、いずれもm=0であり、末端基Aがアミノ基である化合物は下記式(V)で表される。
【化4】
【0029】
前記一般式(IV)における2つのZのうち、一方のZがm=0、末端基Aがアミノ基であり、他方のZがm=0、末端基Aがトリアルコキシシリル基である化合物は下記式(VI)で表される。
【化5】
【0030】
【化6】
(一般式(VII)および(VIII)において、R21~R24は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、ヒドロキシ基またはメトキシ基を表す。R31は、第一級アミノ基(-NH)、または-Si(OR4142 (3-k)で表されるアルコキシシリル基またはヒドロキシシリル基(kは1~3の整数、R41およびR42はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1~6のアルキル基)である。pは0~16の整数であり、qは1または2である。)
【0031】
<金属イオン>
本発明の金属イオンは、3価のアルミニウムイオン、および3価のクロムイオンからなる群より選ばれる1種以上である。前記金属イオンは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0032】
前記金属イオンは、通常、金属イオン源として、金属イオン有機塩、あるいは金属イオン無機塩を用いる。前記有機塩としては、ギ酸、酢酸、マロン酸塩、安息香酸塩、石炭酸塩、クエン酸塩、アミノ酸塩などが挙げられる。また、前記無機塩としては、例えば、塩化物、臭化物、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、水酸化物などが挙げられる。
【0033】
本発明の接着組成物は、pHが12以下の水溶液である。前記接着組成物に含まれる媒体は、イオン交換水、純水、蒸留水、工業用水などの水を主成分とすればよいが、例えば、有機溶媒を含有する水であってもよい。前記有機溶媒としては、例えば、アルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素などが挙げられる。有機溶媒を含有する水を使用する場合、前記媒体中、有機溶媒の割合は、15重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましい。また、前記pHは、金属イオンの種類によって溶解度が変化するため、適宜決定することができるが、複数の金属の表面と硬化性樹脂との接着性を向上させる観点から、pHが2~11であることが好ましく、pHが3~10であることがより好ましく、pHが4~9であることがさらに好ましい。なお、前記pHは、各種の酸・アルカリなどのpH調整剤をとくに制限なく使用して調製できる。
【0034】
前記低分子有機化合物の濃度は、前記接着組成物中、0.01~150g/Lである。前記低分子有機化合物の濃度は、接着層の良好な成膜性の観点から、前記接着組成物中、100g/L以下であることが好ましく、50g/L以下であることがより好ましく、35g/L以下であることがさらに好ましく、そして、前記低分子有機化合物の濃度は、塗工後の接着層の膜厚を効率よく確保する観点から、前記接着組成物中、0.1g/L以上であることが好ましく、0.8g/L重量%以上であることがより好ましい。
【0035】
前記金属イオンのモル濃度は、前記接着組成物中、0.005~100mmоl/Lである。前記金属イオンのモル濃度は、塗工後に析出した金属塩が密着阻害することを防ぐ観点から、前記接着組成物中、50mmоl/L以下であることが好ましく、20mmоl/L以下であることがより好ましく、そして、前記金属イオンのモル濃度は、自己集積的にネットワークを形成する観点から、前記接着組成物中、0.01mmоl/L以上であることが好ましく、0.1mmоl/L以上であることがより好ましい。
【0036】
前記低分子有機化合物および前記金属イオン源の合計の割合は、前記接着組成物の固形分中、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがさらに好ましく、90重量%以上であることがよりさらに好ましく、95重量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0037】
本発明の接着組成物は、添加剤を含むことができる。前記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、防腐剤などの安定化剤;粘度調整剤、着色剤などが挙げられる。
【0038】
<表面処理金属部材の製造方法>
本発明の表面処理金属部材の製造方法は、前記金属の表面を有する部材(金属部材)に、前記接着組成物を接触させることにより、必要に応じて前記媒体を乾燥除去して、当該表面に接着層を形成する工程を含む。前記接着層は、厚さが20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0039】
前記接着組成物の接触の方法は、公知の各種接触(塗布あるいは塗装)方法が適用でき、例えば、刷毛塗装、浸漬塗装、スプレー塗装、バーコート、ロールコーター、フィルムアプリケータ、スピンコート、スクリーン印刷、転写などが挙げられる。
【0040】
<金属-樹脂複合体の製造方法>
本発明の金属-樹脂複合体の製造方法は、前記表面処理金属部材の製造方法で得られた表面処理金属部材の接着層上に、前記樹脂の部材(樹脂部材)を接合する工程を含む。
【0041】
前記接合の方法は、積層プレス、射出成形、押出成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、注型成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)などが採用できる。前記金属-樹脂複合体の成形条件は、使用する前記樹脂に応じて、公知の条件を採用することができる。
【0042】
なお、本発明の表面処理金属部材および金属-樹脂複合体の製造方法では、必要に応じ、脱脂工程、洗浄工程、水洗工程、超音波洗浄工程、熱処理工程、乾燥工程などの他の工程を適宜採用できる。上記の接合後、熱処理工程を施すことで、金属と樹脂との接着性を高めることができる。
【0043】
本発明の接着組成物から形成される接着層は、前記金属の表面と前記硬化性樹脂との接着性に優れるため、とくに、他の層を介することなく、前記金属の表面と前記硬化性樹脂とを直接接合できる。とくに、前記金属の表面が2種以上の金属の表面を有する場合、これら2種以上(複数)の金属に対して、前記硬化性樹脂が同時に接着できるため、本発明の接着組成物は好適である。なお、前記2種以上の金属の表面とは、相異なる金属の表面であり、また、前記相異なる金属とは、金属の主成分が異なることを意味し、例えば、銅の表面と、銅めっきの表面と、銅合金の表面は、銅が主成分なので、同一の金属の表面に属する。
【実施例
【0044】
次に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0045】
<実施例1~36、および比較例1~34>
<接着組成物の調製>
各実施例および各比較例において、表2または3に示す各成分を、表2または3に示す配合量(g/L)となるようにイオン交換水に溶解した後、表2または3に示すpHとなるように、酢酸またはアンモニアを加えて、溶液(接着組成物)を調製した。なお、金属イオン濃度(mmоl/L)は、ICP(型番「PS3520UVDD II」、日立ハイテック社製)装置を用い、標準液(メルク社製 「マルチエレメントスタンダードIV」)を5000倍、1000倍、500倍に希釈した液によって較正して、測定した。サンプルは適宜希釈し、金属濃度を測定した。ただし、チタンイオンは、富士フィルム和光純薬社製のチタン標準液(1,000ppm)で較正した。
【0046】
<表面処理金属部材、および金属-樹脂複合体の製造>
上記で得られた溶液(接着組成物)を、エアブラシ(「スプレーワークHGシングルエアーブラシ」タミヤ社製)を用いて、表2または3に示す金属の表面に塗装後、ドライヤーで30秒間乾燥して、当該金属の表面上に接着層を形成し、表面処理金属部材(合計2つ)を製造した。得られた表面処理金属部材の接着層面に、硬化性樹脂として、エポキシ樹脂(「G2エポキシ樹脂」、GATAN社製)を0.2mm厚で塗布した後、もう一方の表面処理金属部材の接着層面と貼り合わせ(接着面積:50mm)、加温圧締(条件:100℃、10kPa、2時間)によって硬化性樹脂を硬化させて、金属-樹脂複合体を製造した。
【0047】
<接合強度(接着強度)の評価>
接合強度(接着強度)は、上記で得られた金属-樹脂複合体について、オートグラフ(島津製作所社製、「AGX-10kNX」)を用い、引張速度3mm/分で、せん断強度(MPa)を測定することにより、以下の基準にて評価した。結果を表2および3に示す。なお、以下の参考例1~8では、上記の溶液(接着組成物)を使用せずに、上記の条件にて、金属部材同士を上記の硬化性樹脂を介して貼り合わせて、金属-樹脂複合体を製造し、上記のせん断強度(MPa)を測定した。
◎:せん断強度(MPa)が、参考例のせん断強度の値と比較して190%以上である(比較対象は同種金属)
〇:せん断強度(MPa)が、参考例のせん断強度の値と比較して160%以上190%未満である(比較対象は同種金属)
●:せん断強度(MPa)が、参考例のせん断強度の値と比較して145%以上160%未満である(比較対象は同種金属)
△:せん断強度(MPa)が、参考例のせん断強度の値と比較して130%以上145%未満である(比較対象は同種金属)
×:せん断強度(MPa)が、参考例のせん断強度の値と比較して130%未満である(比較対象は同種金属)
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
表2および3中の各成分において、
トリアジン化合物aは、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリチオール;
トリアジン化合物bは、
【化7】
で表される化合物;
トリアゾール化合物は、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール;
イミダゾール化合物は、2-(2,4―ジクロロベンジル)ベンゾイミダゾール;
チアゾール化合物は、アミノベンゾチアゾール;
オキサゾリン化合物は、2,2´-ビス(2-オキサゾリン);
ジアミン化合物aは、ジアミノ安息香酸;
ジアミン化合物bは、エチレンジアミン;
ジシアノ化合物は、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン;
ジニトロ化合物は、2,4-ジニトロフルオロベンゼン;
ジアミド化合物は、マロンアミド;
アミン化合物aは、3-アミノプロピルトリエトキシシラン;
アミン化合物bは、グリシン;を示す。
【0051】
表1~3中の金属において、
Ni(ニッケル)は、C194銅合金板にスルファミン酸光沢ニッケルめっき処理した板を、Oプラズマ処理による洗浄処理、希硫酸浸漬による脱脂処理(120秒)、水洗処理(30秒)、およびドライヤーによる乾燥処理(30秒)したもの;
Cu(銅)は、C7025銅合金板を、希硫酸浸漬による脱脂処理(20秒)、水洗処理(30秒)、およびドライヤーによる乾燥処理(30秒)したもの;
Ag(銀)は、C194銅合金板にメタンスルホン酸無光沢銀めっき処理した板を、希硝酸浸漬による脱脂処理(20秒)、水洗処理(30秒)、およびドライヤーによる乾燥処理(30秒)したもの;
Al(アルミニウム)は、A5052アルミ合金板を、アルカリ性表面処理剤(「CA-5372」、メック社製)浸漬による脱脂処理(120秒)、水洗処理(30秒)、およびドライヤーによる乾燥処理(30秒)したもの;
Fe(鉄)は、SUS304を、Oプラズマ処理による洗浄処理、希硫酸浸漬による脱脂処理(120秒)、水洗処理(30秒)、およびドライヤーによる乾燥処理(30秒)したもの;
An(スズ)は、圧延スズ板を、Oプラズマ処理による洗浄処理、希硫酸浸漬による脱脂処理(120秒)、水洗処理(30秒)、およびドライヤーによる乾燥処理(30秒)したもの;
Au(金)は、C194銅合金板にスルファミン酸光沢ニッケルめっき処理した板を、さらに、金めっき処理後、Oプラズマ処理による洗浄処理、希硫酸浸漬による脱脂処理(120秒)、水洗処理(30秒)、およびドライヤーによる乾燥処理(30秒)したもの;
Si(ケイ素)は、単結晶のシリコンウェハーを、Oプラズマ処理による洗浄処理、希硫酸浸漬による脱脂処理(120秒)、水洗処理(30秒)、およびドライヤーによる乾燥処理(30秒)したもの;を示す。
【0052】
<実施例37~48>
<接着組成物の調製、表面処理金属部材、および金属-樹脂複合体の製造>
各実施例において、表5に示す接着組成物を、エアブラシ(「スプレーワークHGシングルエアーブラシ」タミヤ社製)を用いて、表5に示す金属の表面に塗装後、ドライヤーで30秒間乾燥して、当該金属の表面上に接着層を形成し、表面処理金属部材(合計2つ)を製造した。得られた表面処理金属部材の接着層面に、硬化性樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂(「冷間埋込樹脂 No.105」、丸本ストルアス社製)、シアノアクリレート樹脂(「アロンアルファ一般用」、東亞合成社製)、シリコーン樹脂(「バスボンドQ#04884」、コニシ社製)、またはポリウレタン樹脂(「シューズドクターN」、セメダイン社製)を0.2mm厚で塗布した後、もう一方の表面処理金属部材の接着層面と貼り合わせ(接着面積:50mm)、加温圧締(条件:100℃、10kPa、2時間)によって硬化性樹脂を硬化させて、金属-樹脂複合体を製造した。
【0053】
<接合強度(接着強度)の評価>
接合強度(接着強度)は、上記で得られ金属-樹脂複合体について、オートグラフ(島津製作所社製、「AGX-10kNX」)を用い、引張速度3mm/分で、せん断強度(MPa)を測定することにより、以下の基準にて評価した。結果を表5に示す。なお、以下の参考例9~20では、上記の溶液(接着組成物)を使用せずに、上記の条件にて、金属部材同士を上記の硬化性樹脂を介して貼り合わせて、金属-樹脂複合体を製造し、上記のせん断強度(MPa)を測定した。
◎:せん断強度(MPa)が、参考例のせん断強度の値と比較して190%以上である(比較対象は同種金属、同種硬化性樹脂)
〇:せん断強度(MPa)が、参考例のせん断強度の値と比較して160%以上190%未満である(比較対象は同種金属、同種硬化性樹脂)
●:せん断強度(MPa)が、参考例のせん断強度の値と比較して145%以上160%未満である(比較対象は同種金属、同種硬化性樹脂)
△:せん断強度(MPa)が、参考例のせん断強度の値と比較して130%以上145%未満である(比較対象は同種金属、同種硬化性樹脂)
×:せん断強度(MPa)が、参考例のせん断強度の値と比較して130%未満である(比較対象は同種金属、同種硬化性樹脂)
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
<実施例49~53>
各実施例において、表6に示す成分を用いて、上記の実施例1と同様に、溶液(接着組成物)を調製し、金属-樹脂複合体を製造した。その後、表6に示す条件にて熱処理工程を施し、上記の方法にて、熱処理前後の接合強度を評価した。結果を表6に示す。
【0056】
【表6】