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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20240816BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20240816BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20240816BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240816BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/053
C08K5/092
C08K7/02
C08G69/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021519450
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2020019059
(87)【国際公開番号】W WO2020230805
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019092511
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 優介
(72)【発明者】
【氏名】田窪 由紀
(72)【発明者】
【氏名】正木 辰典
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/125886(WO,A1)
【文献】特開2016-153459(JP,A)
【文献】特開2000-345031(JP,A)
【文献】特表2018-517833(JP,A)
【文献】特表2016-514751(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0329744(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 69/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド(A)100質量部と、多価アルコール(B)3.0~10.0質量部と、芳香族多価カルボン酸(C)0.0質量部超4.0質量部以下とを含有し、
(A)と(C)のカルボン酸基量の合計が、(A)と(B)と(C)の合計1kgあたり、80~600mmolであることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
芳香族多価カルボン酸(C)の含有量が、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.4質量部以上であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド(A)の融点が270~350℃であることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
多価アルコール(B)が、ジペンタエリスリトールまたはその誘導体であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
芳香族多価カルボン酸(C)が、下記の一般式(1)で示される芳香族トリカルボン酸であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載にポリアミド樹脂組成物。
【化1】
(一般式(1)において、R、R、Rは、それぞれ独立して、単結合または二価基を示す。)
【請求項6】
芳香族多価カルボン酸(C)が、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸であることを特徴とする請求項記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
大気雰囲気下、180℃、1000時間後の引張強度保持率と、200℃、1000時間後の引張強度保持率が、いずれも90%以上であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、繊維状強化材(D)5~200質量部を含有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
繊維状強化材(D)が、ガラス繊維および/または炭素繊維であることを特徴とする請求項記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
ポリアミド(A)100質量部と、多価アルコール(B)3.0~10.0質量部と、芳香族多価カルボン酸(C)0.0質量部超4.0質量部以下とを含有するポリアミド樹脂組成物からなる成形体であって、(A)と(C)のカルボン酸基量の合計が、(A)と(B)と(C)の合計1kgあたり、65~500mmolであることを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは、耐熱性や機械的特性が優れていることから、成形材料として広く用いられている。中でも、融点が高いポリアミドは、自動車のエンジン周りやLED照明等の、耐熱性への要求が特に高い用途に用いられている。
【0003】
一般に、ポリアミドは、高融点のものほど、溶融加工時の流動性に乏しく、また、高温環境下において、物性低下(熱老化)を起こしやすいことが知られている。
特許文献1~3には、脂肪族ポリアミドや半芳香族ポリアミドは、多価アルコールが添加されると、熱老化が抑制されることが開示され、雰囲気温度が概ね200℃を上回る場合において、熱老化が効果的に抑制されることが示されている。
しかしながら、上記文献において開示されている、添加剤による熱老化の抑制効果には、温度依存性があり、このため、雰囲気温度が200℃以下の場合には、その効果が低いことがあった。
特許文献4には、半芳香族ポリアミドの熱老化を抑制する技術が開示されているが、200℃における熱老化の抑制が十分でないことがあった。
【0004】
上記のように、ポリアミドにおいては、比較的低い180~200℃程度の雰囲気における熱老化を抑制する技術は、確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2011-529991号公報
【文献】特表2013-538927号公報
【文献】特開2017-106038号公報
【文献】国際公開第2015/159834号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであって、180~200℃程度の温度雰囲気下における熱老化が高度に抑制されたポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ポリアミドと多価アルコールと芳香族多価カルボン酸とを含有する樹脂組成物において、各成分の含有量を特定範囲に調整するとともに、ポリアミドと芳香族多価カルボン酸のカルボン酸基量の合計を特定範囲に調整すると、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0008】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(A)100質量部と、多価アルコール(B)3.0~10.0質量部と、芳香族多価カルボン酸(C)0.0~4.0質量部とを含有し、
(A)と(C)のカルボン酸基量の合計が、(A)と(B)と(C)の合計1kgあたり、80~600mmolであることを特徴とする。
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、芳香族多価カルボン酸(C)を含有量が、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.0質量部を超えることが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、芳香族多価カルボン酸(C)の含有量が、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.4質量部以上であることが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、ポリアミド(A)の融点が270~350℃であることが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、多価アルコール(B)が、ジペンタエリスリトールまたはその誘導体であることが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、芳香族多価カルボン酸(C)が、下記の一般式(1)で示される芳香族トリカルボン酸であることが好ましい。
【化1】
(一般式(1)において、R、R、Rは、それぞれ独立して、単結合または二価基を示す。)
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、芳香族多価カルボン酸(C)が、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸であることが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、大気雰囲気下、180℃、1000時間後の引張強度保持率と、200℃、1000時間後の引張強度保持率が、いずれも90%以上であることが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、さらに、繊維状強化材(D)5~200質量部を含有することが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物によれば、繊維状強化材(D)が、ガラス繊維および/または炭素繊維であることが好ましい。
本発明の成形体は、ポリアミド(A)100質量部と、多価アルコール(B)3.0~10.0質量部と、芳香族多価カルボン酸(C)0.0~4.0質量部とを含有するポリアミド樹脂組成物からなり、(A)と(C)のカルボン酸基量の合計が、(A)と(B)と(C)の合計1kgあたり、65~500mmolであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、180~200℃程度の温度雰囲気下における熱老化が高度に抑制されており、この温度帯の環境下での物性低下の懸念がないポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(A)100質量部と、多価アルコール(B)3.0~10.0質量部と、芳香族多価カルボン酸(C)0.0~4.0質量部とを含有する。
【0011】
本発明におけるポリアミド(A)は、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを含有するものである。ポリアミド(A)は、共重合成分を含んでいてもよいが、耐熱性や機械強度、耐薬品性に優れ、結晶化が速く低温金型で成形体が得られるなどの点から、共重合していない、すなわち単一のジカルボン酸成分と単一のジアミン成分からなることが好ましい。
【0012】
ポリアミド(A)を構成するジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸およびその誘導体、ナフタレンジカルボン酸およびその誘導体などの芳香族ジカルボン酸や、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられ、中でも、耐熱性が向上することから、テレフタル酸が好ましい。
【0013】
ジカルボン酸成分がテレフタル酸である場合、共重合する酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等のジカルボン酸が挙げられる。テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸や脂環式ジカルボン酸の共重合量は、ポリアミド(A)の融点や耐熱性を低下させないために、原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下であることが好ましく、これらを実質的に含まないことがより好ましい。
【0014】
ポリアミド(A)を構成するジアミン成分としては、例えば、1,2-エタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミンなどの脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0015】
脂肪族ジアミン以外に共重合するジアミン成分としては、シクロヘキサンジアミン等の炭素数6~20の脂環式ジアミンや、キシリレンジアミン、ベンゼンジアミン等の炭素数6~20の芳香族ジアミンが挙げられる。脂肪族ジアミン以外の脂環式ジアミンや芳香族ジアミンの共重合量は、脂肪族ジアミンによってもたらされる上記特性を損なわないため、原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下であることが好ましく、これらを実質的に含まないことがより好ましい。
【0016】
本発明におけるポリアミド(A)は、後述するように、融点が270~350℃であることが好ましく、融点の観点から、ポリアミド(A)は、ポリアミド46などの脂肪族ポリアミドや、半芳香族ポリアミドであることが好ましい。半芳香族ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド8T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12Tおよびそれらの共重合体が挙げられる。さらに、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、およびそれらの共重合体などのポリアミドは、吸水性が低く、耐熱性に優れ、また耐リフロー性に特に優れるため、より好ましく、中でもポリアミド10Tおよびその共重合体は、耐熱性、機械的特性のバランスが良好であり、また耐薬品性に優れるため、特に好ましい。ポリアミド(A)として、これらポリアミドを単独で使用でもよいし、2種類以上のポリアミドの混合物を使用してもよい。
【0017】
本発明において、ポリアミド(A)を構成する上記以外の共重合成分として、カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸等のω-アミノカルボン酸が挙げられる。これらの共重合量は、ポリアミド(A)の耐熱性、機械的特性、耐薬品性を低下させないために、原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下であることが好ましく、これらを実質的に含まないことがより好ましい。
【0018】
本発明におけるポリアミド(A)は、上記のように、単一の芳香族ジカルボン酸成分と単一の脂肪族ジアミン成分からなることが好ましいが、本発明のポリアミド樹脂組成物は、構成モノマー成分が異なるポリアミド(A)を2種以上含有してもよい。
【0019】
本発明において、ポリアミド(A)は、流動性、離型性を高めるために、構成成分としてモノカルボン酸成分を含有してもよい。モノカルボン酸成分の含有量は、ポリアミド(A)を構成する全モノマー成分に対して0.0~4.0モル%であることが好ましく、0.0~3.0モル%であることがより好ましく、0.0~2.5モル%であることがさらに好ましい。
【0020】
モノカルボン酸の分子量は、140以上であることが好ましく、170以上であることがさらに好ましい。モノカルボン酸の分子量が140以上であると、ポリアミド(A)は、流動性、離型性がより向上する。さらに、溶融加工時の流動性が向上することにより、加工温度を下げることも可能となり、溶融加工時の熱劣化を抑制できるため、結果として、得られる成形体は耐熱老化性が向上する。また、樹脂組成物は、多価アルコール(B)とともに、分子量140以上のモノカルボン酸成分を含有するポリアミド(A)を含有すると、成形時の結晶化速度に変化がないにもかかわらず、得られる成形体は結晶化度が向上する。その結果、成形体は、耐薬品性が相乗的に向上する。自動車分野の中でも、不凍液に触れる部品などの成形体においては、耐薬品性が求められており、結晶化度が向上した成形体は、この用途に特に有用である。
【0021】
モノカルボン酸成分としては、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸が挙げられ、流動性と離型性の点から、脂肪族モノカルボン酸が好ましい。
【0022】
分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸が挙げられる。中でも、汎用性が高いことから、ステアリン酸が好ましい。
分子量が140以上の脂環族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチルシクロヘキサンカルボン酸、4-へキシルシクロヘキサンカルボン酸、4-ラウリルシクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。
分子量が140以上の芳香族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチル安息香酸、4-へキシル安息香酸、4-ラウリル安息香酸、アルキル安息香酸類、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0023】
モノカルボン酸成分は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。また、分子量が140以上のモノカルボン酸と分子量が140未満のモノカルボン酸を併用してもよい。なお、本発明において、モノカルボン酸の分子量は、原料のモノカルボン酸の分子量を指す。
【0024】
本発明において、ポリアミド(A)は、融点が270~350℃であることが好ましく、300~350℃であることがより好ましく、305~340℃であることがさらに好ましく、310~335℃であることが特に好ましい。ポリアミド(A)の融点が270℃未満であると、得られるポリアミド樹脂組成物は、結晶性が不十分であることから、耐熱老化性が劣る場合がある。一方、ポリアミド(A)は、融点が350℃を超えると、ポリアミド結合の分解温度が約350℃であるため、溶融加工時に、炭化や分解が進行する場合がある。なお、本発明において、融点は、示差走査熱量計(DSC)にて、昇温速度20℃/分で昇温した際の吸熱ピークのトップとする。
【0025】
本発明において、ポリアミド(A)の、96%硫酸中、25℃、濃度1g/dLで測定した場合の相対粘度は、機械的特性の点から、1.8以上であることが好ましく、1.8~3.5であることがより好ましく、2.2~3.1であることがさらに好ましい。ポリアミド(A)は、相対粘度が3.5を超えると、溶融加工が困難となる場合がある。
【0026】
ポリアミド(A)の製造方法は特に限定されないが、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いることができる。中でも、工業的に有利であることから、加熱重合法が好ましく用いられる。
加熱重合法により半芳香族ポリアミドを製造する方法としては、芳香族ジカルボン酸成分と、脂肪族ジアミン成分とから反応生成物を得る工程(i)と、得られた反応生成物を重合する工程(ii)とからなる方法が挙げられる。
【0027】
工程(i)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸粉末を、予め脂肪族ジアミンの融点以上、かつ芳香族ジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、この温度の芳香族ジカルボン酸粉末に、芳香族ジカルボン酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含有させずに、脂肪族ジアミンを添加する方法が挙げられる。あるいは、別の方法としては、溶融状態の脂肪族ジアミンと固体の芳香族ジカルボン酸とからなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンの反応による塩の生成反応と、生成した塩の重合による低重合物の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。この場合、反応をさせながら破砕をおこなってもよいし、反応後に一旦取り出してから破砕をおこなってもよい。工程(i)は、反応生成物の形状の制御が容易な前者の方が好ましい。
【0028】
工程(ii)としては、例えば、工程(i)で得られた反応生成物を、最終的に生成する半芳香族ポリアミドの融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、半芳香族ポリアミドを得る方法が挙げられる。固相重合は、重合温度180~270℃、反応時間0.5~10時間で、窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
【0029】
工程(i)および工程(ii)の反応装置としては、特に限定されず、公知の装置を用いればよい。工程(i)と工程(ii)を同じ装置で実施してもよいし、異なる装置で実施してもよい。
【0030】
また、加熱重合法における加熱の方法として、特に限定されないが、水、蒸気、熱媒油等の媒体にて反応容器を加熱する方法、電気ヒーターで反応容器を加熱する方法、攪拌により発生する攪拌熱等内容物の運動に伴う摩擦熱を利用する方法が挙げられる。また、これらの方法を組み合わせてもよい。
【0031】
ポリアミド(A)の製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いてもよい。重合触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられる。重合触媒の添加量は、通常、ポリアミド(A)を構成する全モノマー成分に対して、2モル%以下であることが好ましい。
【0032】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(A)100質量部に対して、多価アルコール(B)を3.0~10.0質量部含有する。
本発明における多価アルコール(B)とは、2個以上の水酸基を含有する化合物である。多価アルコール(B)としては、飽和脂肪族化合物、不飽和脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物、糖類が挙げられる。多価アルコールは、1つまたは複数のヘテロ原子、例えば酸素、窒素および/または硫黄を含有してもよい。多価アルコール(B)は、水酸基以外の置換基、例えば、エーテル、カルボン酸、アミドまたはエステル基を含有してもよい。また、多価アルコールは低分子量化合物であっても、一定のモノマー単位が繰り返すポリマー型の高分子量化合物であってもよい。多価アルコール(B)は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、多価アルコール(B)を含有することにより、耐熱老化性が向上されたものとなる。また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、多価アルコール(B)を含有することにより、流動性が向上されたものとなるので、溶融加工時の加工温度を下げることも可能となり、溶融加工時の熱劣化を抑制することができる。
【0033】
飽和脂肪族化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、グリセリンモノメタクリレート等の2価の低分子量アルコール;グリセロール、トリメチロールプロパン、ヘキサン-1,2,6-トリオール、1,1,1-トリス-(ヒドロキシメチル)エタン、3-(2′-ヒドロキシエトキシ)-プロパン-1,2-ジオール、3-(2′-ヒドロキシプロポキシ)-プロパン-1,2-ジオール、2-(2′-ヒドロキシエトキシ)-ヘキサン-1,2-ジオール、6-(2′-ヒドロキシプロポキシ)-ヘキサン-1,2-ジオール、1,1,1-トリス-[(2′-ヒドロキシエトキシ)-メチル]-エタン、1,1,1-トリス-[(2′-ヒドロキシプロポキシ)-メチル]-プロパン、ジ-トリメチロールプロパン、トリメチロールプロパンエトキシレート、トリメチロールプロパンプロポキシレート等の3価の低分子量アルコール;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等の4価以上の低分子量アルコール;ポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、ポリビニルブチラール(例えば、クラレ社製Mowital)、両末端水酸基水素化ポリブタジエン(例えば、日本曹達社製GIシリーズ)、両末端水酸基ポリブタジエン(例えば、日本曹達社製Gシリーズ)、樹枝状ポリアルコール(例えば、パーストープ社製Boltorn)、ポリカプロラクトンポリオール(例えば、ダイセル社製プラクセル200シリーズ、300シリーズ、400シリーズ)等の高分子量多価アルコールが挙げられる。
【0034】
不飽和脂肪族化合物としては、例えば、リシノレイルアルコールが挙げられる。
脂環式化合物としては、例えば、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3,5-シクロヘキサントリオール、2,3-ジ-(2′-ヒドロキシエチル)-シクロヘキサン-1-オールが挙げられる。
芳香族化合物としては、例えば、1,2-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノール、ヒドロベンゾイン、1,1,2,2-テトラフェニルエタン-1,2-ジオール、1,1,1-トリス-(4′-ヒドロキシフェニル)-エタン、1,1,1-トリス-(ヒドロキシフェニル)-プロパン、1,1,3-トリス-(ジヒドロキシ-3-メチルフェニル)-プロパン、1,1,4-トリス-(ジヒドロキシフェニル)-ブタン、1,1,5-トリス-(ヒドロキシフェニル)-3-メチルペンタン、ビスフェノキシエタノールフルオレンが挙げられる。
糖類としては、例えば、シクロデキストリン、D-マンノース、グルコース、ガラクトース、ショ糖、フルクトース、キシロース、アラビノース、D-マンニトール、D-ソルビトール、D-またはL-アラビトール、キシリトール、イジトール、ガラクチトール、タリトール、アリトール、アルトリトール、ギルトール、エリスリトール、トレイトール、リビトール、D-グロン酸-γ-ラクトンが挙げられる。
【0035】
2個以上の水酸基を有するとともに、それ以外の置換基としてエステル基を有する多価アルコールとしては、例えば、ペンタエリスリトールと脂肪酸からなるエステル(例えば、日油社製ユニスターHシリーズ)、ジペンタエリスリトールと二塩基酸からなるエステル(例えば、味の素ファインテクノ社製プレンライザーシリーズ)などの2個以上の水酸基を残して脂肪酸とエステル結合している多価アルコールが挙げられる。
【0036】
多価アルコール(B)の含有量は、ポリアミド(A)100質量部に対して、3.0~10.0質量部であることが必要であり、3.0~9.0質量部であることが好ましく、3.0~8.0質量部であることがより好ましく、5.0~8.0質量部であることが特に好ましい。多価アルコール(B)の含有量が3.0質量部未満の場合、樹脂組成物は、熱老化の抑制効果が見られない。一方、多価アルコール(B)の含有量が10質量部を超えると、熱老化の抑制効果が飽和し、それ以上の効果発現が見込めないだけでなく、樹脂組成物は、溶融加工時に多価アルコールが気化してガスが大量に発生したり、滞留安定性が不良になったり、また、成形体は、表面に多価アルコールがブリードアウトして外観が損なわれたり、機械的特性が不十分となることがある。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(A)100質量部に対して、芳香族多価カルボン酸(C)を0.0~4.0質量部含有する。
本発明において、芳香族多価カルボン酸(C)は、1分子中に複数のカルボキシル基を有している化合物であれば特に限定されない。芳香族多価カルボン酸は、水和物や無水物でもよく、また、低分子量化合物であっても、一定のモノマー単位が繰り返すポリマー型の高分子量化合物であってもよい。芳香族多価カルボン酸(C)は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、芳香族多価カルボン酸(C)を含有することにより、耐熱老化性が向上されたものとなる。
【0038】
芳香族多価カルボン酸(C)としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、4,4′-ベンゾフェノンジカルボン酸、2,2′-ビフェニルジカルボン酸、3,3′-ビフェニルジカルボン酸、4,4′-ビフェニルジカルボン酸、3,3′-ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′-ビフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′-ビナフチルジカルボン酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸)、1,3,5-トリス(カルボキシメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリット酸、3,3′4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2′3,3′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,3′,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3′4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2′,3,3′-ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸、4,4′-オキシジフタル酸、3,3′4,4′-ジフェニルメタンテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、アントラセンテトラカルボン酸等が挙げられる。複素環多価カルボン酸としては、例えば、トリス(2-カルボキシエチル)イソシアヌレート、トリス(3-カルボキシプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。
【0039】
芳香族多価カルボン酸(C)は、ベンゼン環の1,3,5の位置にカルボン酸を配することにより、架橋によるゲル化を抑制することができるため、下記の一般式(1)で示される芳香族トリカルボン酸であることが好ましい。
【化1】
一般式(1)において、R、R、Rは、それぞれ独立して、単結合または二価基を示す。二価基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基が挙げられる。二価基は、直鎖状であってもよいし分岐状であってもよい。一般式(1)で示される芳香族トリカルボン酸の中でも、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、1,3,5-トリス(カルボキシメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼンが好ましく、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸がより好ましい。
【0040】
芳香族多価カルボン酸(C)の含有量は、ポリアミド(A)100質量部に対して、0.0~4.0質量部であることが必要であり、0.0質量部を超えることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、0.4~3.0質量部であることがさらに好ましく、0.4~2.0質量部であることが特に好ましい。芳香族多価カルボン酸(C)の含有量が4.0質量部を超えると、樹脂組成物は、熱老化の抑制効果が飽和し、それ以上の効果発現が見込めないだけでなく、機械的特性が不十分となることがある。
【0041】
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、ポリアミド(A)と芳香族多価カルボン酸(C)のカルボン酸基量の合計は、ポリアミド(A)と多価アルコール(B)と芳香族多価カルボン酸(C)の合計1kgあたり、80~600mmolであることが必要であり、80~400mmolであることが好ましく、90~400mmolであることがより好ましい。(A)と(C)のカルボン酸基量の合計が、(A)と(B)と(C)の合計1kgあたり、80mmol未満であると、樹脂組成物は、熱老化の抑制効果がみられず、また600mmolを超えると、樹脂組成物は、表面に多価カルボン酸がブリードアウトし、機械強度が不十分となることがある。
【0042】
なお、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体においては、ポリアミド(A)および/または芳香族多価カルボン酸(C)と、多価アルコール(B)とが反応することによって、(A)と(C)のカルボン酸基量の合計が、樹脂組成物におけるそれから減少する場合がある。成形体においては、(A)と(C)のカルボン酸基量の合計が、(A)と(B)と(C)の合計1kgあたり、65~500mmolであることが必要であり、65~300mmolであることが好ましく、70~300mmolであることがより好ましい。(A)と(C)のカルボン酸基量の合計が、(A)と(B)と(C)の合計1kgあたり、65mmol未満であると、成形体は、熱老化の抑制効果がみられず、また500mmolを超えると、成形体は、表面に多価カルボン酸がブリードアウトし、機械強度が不十分となることがある。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、上記構成を有するため、180~200℃程度の温度雰囲気下における熱老化が高度に抑制されている。本発明のポリアミド樹脂組成物は、大気雰囲気下、180℃、1000時間後の引張強度保持率、および、200℃、1000時間後の引張強度保持率が、いずれも90%以上であることが好ましい。
【0044】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、さらに、繊維状強化材(D)を含有することが好ましい。繊維状強化材(D)としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維が挙げられる。中でも、繊維状強化材(D)は、機械的特性の向上効果が高いことから、また、融点が270℃以上であることが好ましいポリアミド(A)との溶融混練に耐え得る耐熱性を有することから、また、入手しやすいことから、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。繊維状強化材(D)は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0045】
ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状強化材(D)は、集束剤などの表面処理剤で処理されていることが好ましい。集束剤の主成分は、カップリング剤や被膜形成剤であることが好ましい。
カップリング剤としては、例えば、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系、アミノチタン系などのカップリング剤が挙げられる。中でも、ポリアミド(A)とガラス繊維または炭素繊維との密着効果が高く、耐熱性に優れることから、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
被膜形成剤としては、例えば、ウレタン系、エポキシ系、アクリル系の樹脂が挙げられ、中でも、ガラス繊維または炭素繊維との密着効果が高く、耐熱性に優れることから、ウレタン系樹脂が好ましい。被膜形成剤は、樹脂組成物の耐加水分解性が向上することから、酸成分を含有することが好ましい。酸成分は、被膜形成剤の主成分である樹脂に共重合していることが好ましい。酸成分としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸や、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸や、無水マレイン酸が挙げられる。
【0046】
繊維状強化材(D)の繊維長、繊維径は、特に限定されないが、繊維長は0.1~7mmであることが好ましく、0.5~6mmであることがより好ましい。繊維状強化材(D)は、繊維長が0.1~7mmであることにより、成形性に悪影響を及ぼすことなく、樹脂組成物を補強することができる。また、繊維状強化材(D)の繊維径は3~20μmであることが好ましく、5~14μmであることがより好ましい。繊維状強化材(D)は、繊維径が3~20μmであることにより、溶融混練時に折損することなく、樹脂組成物を補強することができる。繊維状強化材(D)の断面形状としては、例えば、円形、長方形、楕円、それ以外の異形断面が挙げられ、中でも、円形が好ましい。
【0047】
ポリアミド樹脂組成物が繊維状強化材(D)を含有する場合、その含有量は、ポリアミド(A)100質量部に対し、5~200質量部であることが好ましく、10~180質量部であることがより好ましく、20~150質量部であることがさらに好ましく、30~130質量部であることが特に好ましい。繊維状強化材(D)の含有量が5質量部未満であると、樹脂組成物は、機械的特性の向上効果が小さい場合がある。一方、含有量が200質量部を超えると、樹脂組成物は、機械的特性の向上効果が飽和し、それ以上の向上効果が見込めないばかりでなく、溶融混練時の作業性が低下し、ペレットを得ることが困難になる場合がある。また、樹脂組成物は、繊維状強化材(D)の含有量が200質量部を超えると、溶融加工時の流動性が大幅に損なわれるために、せん断発熱により樹脂温度が高くなったり、また、流動性を向上させるために樹脂温度を高くせざるを得ない状況になったりするので、結果的に分子量低下や機械的特性、耐熱老化性の低下を招く場合がある。
【0048】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、必要に応じて、その他の充填材、着色剤、帯電防止剤等の添加剤をさらに含有してもよい。充填材としては、例えば、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、グラファイトが挙げられる。着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、ニグロシン等の染料が挙げられる。特にニグロシンを含有することにより、ポリアミド樹脂組成物の溶融加工時の流動性が向上し、溶融加工温度が下がるとともに耐熱老化性を向上させることができ、また得られる成形体は、表面外観が向上する。
【0049】
本発明において、ポリアミド(A)、多価アルコール(B)、芳香族多価カルボン酸(C)、および必要に応じて添加される、繊維状強化材(D)やその他添加剤等から、本発明のポリアミド樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されないが、溶融混練法により製造することが好ましい。
溶融混練法としては、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機等を用いる方法が挙げられる。溶融混練温度は、ポリアミド(A)が溶融し、分解しない温度であれば特に限定されないが、高すぎると、ポリアミド(A)が分解することから、(ポリアミドの融点-20℃)以上、(ポリアミドの融点+40℃)以下であることが好ましい。
【0050】
溶融された樹脂組成物は、ストランド状に押出してペレット形状にする方法や、ホットカット、アンダーウォーターカットしてペレット形状にする方法や、シート状に押出してカッティングする方法や、ブロック状に押出し粉砕してパウダー形状にする方法などにより、様々な形状に加工することができる。
【0051】
本発明の成形体は、ポリアミド(A)100質量部と、多価アルコール(B)3.0~10.0質量部と、芳香族多価カルボン酸(C)0.0~4.0質量部とを含有するポリアミド樹脂組成物からなり、(A)と(C)のカルボン酸基量の合計が、(A)と(B)と(C)の合計1kgあたり、65~500mmolである。
【0052】
本発明の成形体は、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形することにより製造することができる。その成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、焼結成形法が挙げられ、機械的特性、成形性の向上効果が大きいことから、射出成形法が好ましい。
【0053】
射出成形機としては、特に限定されず、例えば、スクリューインライン式射出成形機またはプランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、(ポリアミドの融点-20℃)以上、(ポリアミドの融点+40℃)未満とすることがより好ましい。本発明の樹脂組成物は、溶融加工時の流動性に優れているために、成形時の樹脂温度を必要以上に高くする必要がない。したがって、成形時の樹脂温度を低下させて、溶融加工時の熱劣化を低減することができる。
【0054】
ポリアミド樹脂組成物を溶融加工する時には、十分に乾燥されたポリアミド樹脂組成物ペレットを用いることが好ましい。含有する水分量が多いポリアミド樹脂組成物ペレットを用いると、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いるポリアミド樹脂組成物ペレットの水分量は、ポリアミド樹脂組成物100質量部に対して、0.3質量部未満であることが好ましく、0.1質量部未満であることがより好ましい。
【0055】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、自動車部品、電気電子部品、雑貨、産業機器部品、土木建築用品等広範な用途の成形体成形用樹脂として使用することができる。
自動車部品としては、例えば、サーモスタット部材、インバータのIGBTモジュール部材、インシュレーター、モーターインシュレーター、エキゾーストフィニッシャー、パワーデバイス筐体、ECU筐体、モーター部材、コイル部材、ケーブルの被覆材、車載用カメラ筐体、車載用カメラレンズホルダー、車載用コネクタ、エンジンマウント、インタークーラー、ベアリングリテーナー、オイルシールリング、チェーンカバー、ボールジョイント、チェーンテンショナー、スターターギア、減速機ギア、車載用リチウムイオン電池トレー、車載用高電圧ヒューズの筐体、自動車用ターボチャージャーインペラが挙げられる。
電気・電子部品としては、例えば、コネクタ、ECUコネクタ、メインテンロックコネクタ、モジュラージャック、リフレクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、ピンソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、ブレーカー、回路部品、電磁開閉器、ホルダー、カバー、プラグ、携帯用パソコンやワープロ等の電気・電子機器の筐体部品、インペラ、掃除機インペラ、抵抗器、可変抵抗器、IC、LEDの筐体、カメラ筐体、カメラ鏡筒、カメラレンズホルダー、タクトスイッチ、照明用タクトスイッチ、ヘアアイロン筐体、ヘアアイロン櫛、全モールド直流専用小型スイッチ、有機ELディスプレイスイッチ、3Dプリンタ用の材料、モーター用ボンド磁石用の材料が挙げられる。
雑貨としては、例えば、トレー、シート、結束バンドが挙げられる。
産業機器部品としては、例えばインシュレーター類、コネクタ類、ギア類、スイッチ類、センサー、インペラ、プラレールチェーンが挙げられる。
土木建築用品としては、例えば、フェンス、収納箱、工事用配電盤、アンカーボルトガイド、アンカー用リベット、太陽電池パネル嵩上げ材が挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、180~200℃程度の温度雰囲気下における熱老化が高度に抑制されたものであるから、高温環境下で長期間使用されることになる自動車部品の成形体に特に好適に用いることができる。
【実施例
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0057】
1.測定方法
ポリアミド(A)およびポリアミド樹脂組成物の物性測定は以下の方法によりおこなった。
(1)融点
示差走査熱量計DSC-7型(パーキンエルマー社製)用い、窒素雰囲気下にて昇温速度20℃/分で360℃まで昇温した後、360℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温し、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点とした。
【0058】
(2)カルボン酸基量
ポリアミド(A)におけるカルボン酸基量、および、ポリアミド樹脂組成物のペレットと成形体における、(A)と(B)と(C)の合計1kgあたりの(A)と(C)のカルボン酸基量の合計は、H-NMR測定をおこない求めた(溶媒:重水素化トリフルオロ酢酸、温度:25℃)。成形体として、下記(3)記載の方法で作製した試験片1を用いた。
【0059】
(3)引張強度、耐熱老化性(引張強度保持率)
下記の方法で作製した試験片1~3を用いて、ISO178に準拠して引張強度を測定した。試験片1に対する試験片2、3の引張強度保持率(%)をそれぞれ求め、180℃、200℃における耐熱老化性を評価した。
<試験片1>
ポリアミド樹脂組成物を、射出成形機S2000i-100B型(ファナック社製)を用いて、シリンダー温度(ポリアミドの融点+15℃)、金型温度(ポリアミドの融点-175℃)、シリンダー内滞留時間10秒の条件で射出成形し、試験片1(ISO多目的試験片)を作製した。
<試験片2>(熱老化評価用試験片、180℃×1000時間熱処理)
試験片1を、大気雰囲気下の熱風炉の中で、180℃で1000時間熱処理して、試験片2を作製した。
<試験片3>(熱老化評価用試験片、200℃×1000時間熱処理)
試験片1を、大気雰囲気下の熱風炉の中で、200℃で1000時間熱処理して、試験片3を作製した。
【0060】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
(1)ポリアミド(A)
・ポリアミド(A-1)の製造
芳香族ジカルボン酸成分として粉末状のテレフタル酸(TPA)4.89kgと、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物9.3gとを、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、脂肪族ジアミン成分として100℃に加温した1,10-デカンジアミン(DDA)4.98kgを、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し反応生成物を得た。なお、原料モノマーのモル比は、TPA:DDA=50.5:49.5であった。
続いて、得られた反応生成物を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで8時間加熱して重合し、ポリアミドの粉末を作製した。
その後、得られたポリアミドの粉末を、二軸混練機を用いてストランド状とし、ストランドを水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド(A-1)ペレットを得た。
【0061】
・ポリアミド(A-2)~(A-4)の製造
樹脂組成を表1に示すように変更した以外は、ポリアミド(A-1)と同様にして、ポリアミド(A-2)~(A-4)を得た。なお、ポリアミド(A-4)においては、モノカルボン酸としてのステアリン酸を、テレフタル酸と次亜リン酸ナトリウム一水和物とともに、リボンブレンダー式の反応装置に入れた。
【0062】
・ポリアミド(A-5)の製造
オートクレーブ内で1,4-ブタンジアミンとアジピン酸の塩を220℃で4時間重合を行い、プレポリマーを作製した。その後1バールの圧力で作製プレポリマーをさらに250℃で4時間重合することによって反応生成物を得た。その後の工程はポリアミド(A-1)と同様に行い、ポリアミド(A-5)ペレットを得た。
【0063】
得られたポリアミドの樹脂組成と特性値を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
・ポリアミド(A-6):ポリアミド6(ユニチカ社製、A1030BRF―BA、カルボン酸基量47mmol/kg、融点220℃、相対粘度3.10)
・ポリアミド(A-7):ポリアミド66(旭化成社製、レオナ1200、カルボン酸基量120mmol/kg、融点265℃、相対粘度2.45)
【0066】
(2)多価アルコール(B)
・B-1:ジペンタエリスリトール(東京化成社製)
・B-2:ジペンタエリスリトールとアジピン酸からなるエステル(味の素ファインテクノ社製、プレンライザーST-210)
・B-3:ペンタエリスリトール(東京化成社製)
【0067】
(3)芳香族多価カルボン酸(C)
・C-1:1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(東京化成社製、分子量210.14、カルボン酸基量14276mmol/kg)
・C-2:1,3,5-トリス(カルボキシメチル)ベンゼン(シグマアルドリッチ社製、分子量252.22、カルボン酸基量11894mmol/kg)
・C-3:1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン(富士フィルムワコーケミカル社製、分子量438.43 カルボン酸基量12582mmol/kg
【0068】
(4)繊維状強化材(D)
・D-1:ガラス繊維(日本電気硝子社製、T-262H、平均繊維径10.5μm、平均繊維長3mm、酸共重合物を含んだ被膜形成剤を使用)
・D-2:炭素繊維(東邦テナックス社製、HTA-C6-NR、平均繊維径7μm、平均繊維長6mm)
【0069】
実施例1
ポリアミド(A-1)100質量部、多価アルコール(B-1)3.0質量部をドライブレンドし、ロスインウェイト式連続定量供給装置CE-W-1型(クボタ社製)を用いて計量し、スクリュー径26mm、L/D50の同方向二軸押出機TEM26SS型(東芝機械社製)の主供給口に供給して、溶融混練をおこなった。途中、サイドフィーダーより繊維状強化材(D-1)45質量部を供給し、さらに混練をおこなった。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、(ポリアミドの融点+5℃)~(ポリアミドの融点+15℃)、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/hとした。
【0070】
実施例3
ポリアミド(A-1)100質量部、多価アルコール(B-1)5.0質量部、芳香族多価カルボン酸(C-1)1.5質量部をドライブレンドした以外は、実施例1と同様の操作をおこなってポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0071】
実施例2、4~31、比較例1~9
ポリアミド樹脂組成物の組成を表2、3に示すように変更した以外は、実施例1または3と同様の操作をおこなってポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0072】
得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを用い、各種評価試験をおこなった。その結果を表2~3に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
実施例1~31の樹脂組成物は、本発明の要件を満足するため、180℃、200℃の温度雰囲気下における熱老化が高度に抑制されており、1000時間経過後の引張強度保持率がいずれも90%以上であった。
実施例2~3、4~7、9~10、16~17、20~21、28~29、30~31においては、ポリアミド(A)と芳香族多価カルボン酸(C)のカルボン酸基量の合計が多いほど、樹脂組成物の耐熱老化性の向上がみられた。また、芳香族多価カルボン酸(C)の含有量が多いほど、引張強度が低下していた。
【0076】
比較例1~2、5、9の樹脂組成物は、(A)と(C)のカルボン酸基量の合計が少なく、比較例3の樹脂組成物は、(A)と(C)のカルボン酸基量の合計が多いため、いずれも、引張強度保持率が低く、耐熱老化性に劣るものであった。
比較例4、6~7の樹脂組成物は、多価アルコール(B)の含有量が少なく、比較例8の樹脂組成物は、多価アルコール(B)の含有量が多いため、いずれも、引張強度保持率が低く、耐熱老化性に劣るものであった。