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特許7539163ビフィドバクテリウム・ビフィダム非生菌及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ビフィドバクテリウム・ビフィダム非生菌及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240816BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240816BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20240816BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240816BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240816BHJP
   A61P 1/06 20060101ALI20240816BHJP
   A61P 1/10 20060101ALI20240816BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20240816BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/135
A61K35/745
A61P1/00
A61P1/04
A61P1/06
A61P1/10
A61P1/12
A61P29/00
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021520463
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 EP2019066448
(87)【国際公開番号】W WO2019243563
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】18179382.9
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM24514
(73)【特許権者】
【識別番号】520505087
【氏名又は名称】シンフォーミュラス・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】SYNFORMULAS GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,クレメンス
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-505065(JP,A)
【文献】GUGLIELMETTI, S et al.,Randomised clinical trial: Bifidobacterium bifidum MIMBb75 significantly alleviates irritable bowel syndrome and improves quality of life - a double-blind. placebo-controlled study,Alimentary Pharmacology & Therapeutics,2011年,Vol. 33, No. 10,pp. 1123-1132,[online], [検索日2023.03.28], Retrieved from the Internet,<URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1365-2036.2011.04633.x>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)株SYN-HI-001の熱失活非生菌を有効成分として含む、処置における使用のための組成物であって、該組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の少なくとも98%が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌である、組成物。
【請求項2】
受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌を有効成分として含む、消化管障害の処置における使用のための組成物であって、該組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の少なくとも98%が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌である、組成物。
【請求項3】
組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の少なくとも99%が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌である、請求項1又は2に記載の使用のための組成物。
【請求項4】
組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の少なくとも99.9%が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項5】
組成物が、医薬組成物又は食品組成物である、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項6】
受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌の乾燥粉末の形態である、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
消化管障害が、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、嚢炎、感染後大腸炎、下痢、便秘、ディスペプシア及び/又は関連するディスペプシア症状、胃不全麻痺、並びに擬性腸閉塞から選択される、請求項2に記載の使用のための組成物。
【請求項8】
少なくとも10個の熱失活非生菌細胞の1日量で、経口投与される、請求項1からのいずれか一項に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
少なくとも10個の熱失活非生菌細胞の1日量で、2用量単位として経口投与される、請求項に記載の使用のための組成物。
【請求項10】
ヒト被験者に投与される、請求項1からのいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項11】
免疫無防備状態の被験者に投与される、請求項1から10のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の組成物を調製する方法であって、該方法は、
(a)受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株の菌を準備する工程;及び
(b)工程(a)で準備された細菌を熱で不活化して、ビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌含む組成物を得る工程であって、該組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の少なくとも98%が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌である工
を含む、方法。
【請求項13】
非ヒト被験体において消化管障害を処置する方法であって、該方法は、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌を含む組成物を、被験体に投与する工程であって、該組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の少なくとも98%が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌である工程を含む、方法。
【請求項14】
組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の少なくとも99%が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の少なくとも99.9%が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
消化管障害が、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、嚢炎、感染後大腸炎、下痢、便秘、ディスペプシア及び/又は関連するディスペプシア症状、胃不全麻痺、並びに擬性腸閉塞から選択される、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌の乾燥粉末の形態である、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
消化管障害を処置するための医薬組成物の製造のための、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌の使用であって、該組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の少なくとも98%が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌である、使用。
【請求項19】
組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の少なくとも99%が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の少なくとも99.9%が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌である、請求項18又は19に記載の使用。
【請求項21】
消化管障害が、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、嚢炎、感染後大腸炎、下痢、便秘、ディスペプシア及び/又は関連するディスペプシア症状、胃不全麻痺、並びに擬性腸閉塞から選択される、請求項18から20のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
前記医薬組成物が、少なくとも10個の熱失活非生菌細胞の1日量で、経口投与される、請求項18から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
前記医薬組成物が、少なくとも10個の熱失活非生菌細胞の1日量で、2用量単位として経口投与される、請求項18から21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記医薬組成物が、ヒト被験者に投与される、請求項18から23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
前記医薬組成物が、免疫無防備状態の被験者に投与される、請求項18から24のいずれか1項に記載の使用。
【請求項26】
受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌が、受託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の熱失活非生菌の乾燥粉末の形態である、請求項18から25のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処置における使用のための、特に消化管障害、例えば過敏性腸症候群の処置における使用のための、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌、又はその1つ以上の断片に関する。さらに、本発明は、該非生菌を活性成分として含む、処置における使用のための、特に消化管障害の処置における使用のための組成物に関する。また、本発明は、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌又はその1つ以上の断片を調製する方法、及び、本発明の方法によって得ることのできる、処置における使用のための、特に消化管障害の処置における使用のための細菌に関する。
【0002】
本明細書において、特許出願及び製造業者のマニュアルを含む、多くの文書が引用されている。これらの文書の開示は、本発明の特許性に関連があるとは考えられないが、これにより、その全体が参照により組み入れられる。より具体的には、全ての参照された文書は、各々の個々の文書が具体的かつ個々に参照により組み入れられていると示されているのと同じ範囲まで、参照により組み入れられる。
【0003】
消化管障害は典型的には、消化管機能障害に相関し、及び/又は、望ましくない消化管炎症活動に相関し、広範囲におよぶ有病率を有する。過敏性腸症候群(IBS)(EMA/CHMP/60337/2013)は、例えば、これらの障害の中で最も多いものの1つであり、欧州人口において推定される有病率は最大20%である。過敏性腸症候群は、器質性疾患を全く確認することのできない、機能的な消化管症状の反復発症によって特徴付けられる。一般的な過敏性腸症候群の症状としては、腹痛、鼓腸、膨満、下痢、及び/又は便秘が挙げられる。過敏性腸症候群の患者は、その生活の質の明白な低下に苦しみ、これは他の慢性疾患を有する患者よりも、悪いことさえあることが判明した(Chang et al., 2004)。
【0004】
欧州医薬品庁(EMA)の推奨によると、過敏性腸症候群は、過敏性腸症候群を定義するための科学的標準として現在広く受け入れられている、ローマIII基準によって診断され得る。現在のローマIII基準は、(1)排便による改善、(2)便の頻度の変化を伴う発症、又は(3)便の形状の変化を伴う発症のうち少なくとも2つの基準(EMA/CHMP/60337/2013;Rome, 2006)を伴い、少なくとも6カ月前に症状が発現し、過去3カ月間の間、月に少なくとも3日間の腹痛又は不快感として、過敏性腸症候群集団を定義する。
【0005】
過敏性腸症候群患者における多様な症状プロファイルをもたらす病因は、まだ完全に解明されておらず、過敏性腸症候群集団の不均一な病状に因り、有効な標準療法は依然として無い。現在、過敏性腸症候群の処置は主に、患者の主症状に焦点を当てている。しかしながら、大半の薬物療法の有効性はわずかであり、高品質のエビデンスが無いことが多い(Camilleri and Ford, 2017)。
【0006】
結腸生検の研究は一貫して、過敏性腸症候群の患者においては腸のバリア機能が変化し、健常な被験者と比較して、有意に高い透過性が見られることを示す(Piche et al., 2009; Vivinus-Nebot et al., 2012)。したがって、1つの仮説は、腸バリアの透過性のこのような上昇に因り、通性病原菌の転移が起こり、次いで、腹痛、尿意切迫感、便秘、及び下痢などの過敏性腸症候群の症状が起こるというものである。粘液バリア活性を増強するために、及び腸バリアを回復させるために、タンニン酸ゼラチンなどの粘膜バリア保護剤の使用が、生理的な腸の恒常性を再確立するための有望なアプローチとして示唆されている(Lopetuso et al., 2015)。
【0007】
インビトロでの研究は、特定のプロバイオティクス株が、腸のバリア機能を強化することができることを示し、なぜ特定の細菌が過敏性腸症候群の処置において役立つかの説明を与えた(Resta-Lenert et al., 2006; Eun et al., 2011)。これらの知見に基づき、プロバイオティクスは、過敏性腸症候群の処置においてますます重要になっている。欧州特許第B1-2481299号は、プロバイオティクス製剤へと製剤化されると、過敏性腸症候群の症状(腹痛/不快感、膨隆/膨満、尿意切迫感、及び消化障害)を有意に改善することが判明した、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)という特定の株を記載している。
【0008】
しかしながら、様々な株の作用機序及び有効性は非常に株特異的であり、密接に関連している株でさえ、その有効性はかなり異なり得る(Brenner and Chey, 2009; Layer et al., 2011)。この株特異性は、過敏性腸症候群の症状に対する、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)MF1928及びラクトバチルス・プランタルムLP299Vの有効性に関する研究において実証されている。ラクトバチルス・プランタルムLP299V株は、過敏性腸症候群の症状の有意な改善をもたらしたが(Ducrotte et al., 2012)、密接に関連したラクトバチルス・プランタルムMF1298株は、過敏性腸症候群患者の症状の有意な悪化をもたらした(Farup et al., 2012)。したがって、その密接な関係にも関わらず、2つの株は、その有効性においてかなり異なる。さらに、数多くの他の株は、過敏性腸症候群の処置に全く効果がないことが判明した(Bausserman and Michail, 2005; Niv et al., 2005; Kim et al., 2005; Sen et al., 2002)。さらに、長年、胃腸の健康を増強するためのプロバイオティクス菌の使用が提案され、一般的には安全と認識されているが、深刻な疾患を有する患者は、プロバイオティクス菌の経口投与による重度の合併症のリスクがより高い可能性があることが示されている。Besselink et al., 2008は、予防として使用された多種のプロバイオティクス生菌製剤が、プラセボと比較して、死亡リスクの上昇を伴うことが判明した、重度の急性膵炎と予測される患者の臨床試験を報告した。
【0009】
したがって、多大な努力が、現在、胃腸障害のより完全な解明を得ることに、及び適切な治療アプローチを開発することに注がれているという事実にも関わらず、現在利用可能なアプローチに代わる有効かつ安全なアプローチを提供する必要性が依然としてある。
【0010】
この必要性は、特許請求の範囲において特徴付けられる実施態様の提供によって対処される。
【0011】
したがって、本発明は、処置における使用のための(すなわち、医薬品としての使用のための/障害の処置における使用のための)、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌、又はその1つ以上の断片に関する。特に、本発明はまた、過敏性腸症候群などの胃腸障害の処置における使用のための、これらの非生菌又はその1つ以上の断片に関する。
【0012】
本発明はさらに、処置における使用のための、特に過敏性腸症候群などの胃腸障害の処置における使用のための、該非生菌又はその1つ以上の断片を含む組成物に関する。特に、本発明は、処置における使用のための、好ましくは胃腸障害(例えば過敏性腸症候群)の処置における使用のための、該非生菌又はその1つ以上の断片を、有効成分として含む、組成物を指す。さらに、本発明は、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌、又はその1つ以上の断片を調製する方法、及び、処置における使用のための、特に過敏性腸症候群などの胃腸障害の処置における使用のための、本発明の方法によって得られた、細菌又はその1つ以上の断片に関する。本発明はまた、過敏性腸症候群などの胃腸障害を処置する方法に関し、ここでの該方法は、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌、又はその1つ以上の断片を、それを必要とする被験者に投与する工程を含む。さらに、本発明はまた、過敏性腸症候群などの胃腸障害を処置するための医薬品の製造のための、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌又はその1つ以上の断片の使用に関する。
【0013】
本発明によると、非生菌は、ビフィドバクテリウム・ビフィダム菌である。ビフィズス菌(bifidobacteria)は、放線菌のビフィドバクテリウム科に属し、グラム陽性、非運動性、しばしば分岐している嫌気性属菌に相当する。それらは、ヒトをはじめとする哺乳動物の消化管、膣、及び口腔の至る所に生息している。さらに、それらは、哺乳動物における腸内フローラを構成している細菌の主要な属の1つである。特定のビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001株は、2011年1月26日にライプニッツ研究所DSMZ(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)、インホフフェン通り7B、38124ブラウンシュヴァイク、ドイツ)に寄託番号DSM24514で寄託された。
【0014】
本発明によると、細菌は、それらの生活環のいずれかの形態であり得、例えば、増殖期又は静止期であり得、ただし、それらは非生菌である。
【0015】
本明細書において使用する「非生菌」という用語は、不活化されている、すなわち死滅している細菌に関する。非生菌は全く代謝を有さず、もはや複製することができない。細菌が複製することができるかどうかは、さらなる面倒を伴うことなく、当業者によって、例えば細菌を寒天プレートに蒔き、該株の生菌が増殖しコロニーを形成することを可能とするに適した条件下で、該細菌が該プレート上で増殖しコロニーを形成することができるかどうかを分析することによって決定することができる。これらの条件下においてコロニーが形成されないことは、該細菌が生菌ではないことを示す。
【0016】
本発明によると、「非生菌」という用語は、インタクトな非生菌、並びにもはやインタクトではない細菌の両方を含む。もはやインタクトではない非生菌の非制限的な例としては、細菌細胞壁の破壊を示す細菌が挙げられるがこれらに限定されない。
【0017】
本発明はさらに、これらのビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌の「1つ以上の断片」に関する。このような(a)断片(群)は、例えば、ビフィドバクテリウム・ビフィダム菌株SYN-HI-001を構成する大半の分子を含むが、該細菌の特定の成分、例えば、細菌の細胞壁及び/又は細胞膜に限定され得る。好ましくは、断片(群)は、ビフィドバクテリウム・ビフィダム菌株SYN-HI-001の細胞壁の少なくとも1つ以上の分子を含む。より好ましくは、断片(群)は、ビフィドバクテリウム・ビフィダム菌株SYN-HI-001に存在する細胞壁分子の少なくとも60%、例えば少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、例えば少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%を含有している。
【0018】
本発明によると、非生菌又はその1つ以上の断片が、処置における使用のために(すなわち、医薬品としての使用のために)提供される。この目的を達成するために、それらは、患者に投与され、そしてそれらの治療能を現わすことを可能とする、任意の適切な形態で提供され得る。例えば、非生菌又はその1つ以上の断片は、医薬品、化粧品、プレバイオティクス、又は食品用組成物をはじめとする、本明細書において以下に詳述されているような組成物へと製剤化され得る。
【0019】
本発明の脈絡において、驚くべきことに、熱で失活させたビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌が、過敏性腸症候群の症状を効果的に改善したことが判明した。添付の実施例において示されているように、無作為化、二重盲検、多施設、及びプラセボ対照試験が実施され、過敏性腸症候群患者における、熱で失活させたビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌の強力で有益な効果についての説得力のあるエビデンスが提供された。熱で失活させたビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌を用いると、主要評価項目について、プラセボの19.4%と比較して、33.5%という有意により高い奏効率が達成された。試験の主要評価項目は、EMAの現在のガイドラインによって示唆されているような、処置期間の少なくとも50%における、腹痛、及び症状緩和パラメーターに関する3つの最良のカテゴリー(腹痛/不快な排便習慣、及び他の過敏性腸症候群の症状)の中の少なくとも1つの30%の改善として定義された、複合奏効率であった。さらに、熱で失活させたビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌は、処置終了時における個々の過敏性腸症候群の症状(「症状の主観的包括的評価」(SGA)、腹痛、膨隆/膨満、複合スコア1~4、便通に関連した不快感及び疼痛)並びに健康に関連した生活の質を有意に改善した。特に、症状の緩和の奏効率(十分な3つの緩和)は、ビフィズス菌群において60.18%と極めて高く、非常に有意であった(P=0.0009)。
【0020】
本発明者らの知る限りでは、現在までに、熱で失活させたどの菌株も、プラセボと比較して、過敏性腸症候群の症状又は他の消化管疾患を有意に改善することは示されていなかった。Tsuchiya et al.(2004)は、例えば、非生菌細胞の摂取後に、ベースラインと比較して、過敏性腸症候群の症状、疼痛、排便習慣及び膨満の改善は全くなかったが、これらの症状は、ベースライン及び非生細胞と比較して、プロバイオティクス生菌においては有意に改善されたことを発見した。他のグループは、急性下痢における、非生細胞と比較した生細胞の有効性を研究し、生菌が、治療有効性において重要であることを発見した(Isolauri et al., 1991; Mitra et al., 1990)。したがって、失活は、細菌の有効性に影響を及ぼすことが繰り返し発見され、この効果は、失活プロセスに対する株特異的感受性によって説明され得る。本明細書に提示された研究は今回、熱で失活させたビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001菌株が、過敏性腸症候群患者においてプラセボと比較して、有意な結果をもたらすという最初のエビデンスを提供する。したがって、本発明は初めて、過敏性腸症候群の処置において、インビボでの有効性が証明された非生菌株を提供する。生菌に基づいた、胃腸障害の処置のための確立されたプロバイオティクス組成物とは異なり、本発明のこれらの非生菌はさらに、例えば、Besselink et al., 2008において深刻な病気の被験者について以前に報告されている、有害な副作用を伴うリスクの低減をもたらす。したがって、本発明の非生菌並びにその断片は、胃腸障害の処置のための有望かつ安全で新規なツールを提供する。
【0021】
上記に説明されているように、本発明は特に、消化管障害の処置における使用のための、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌又はその1つ以上の断片に関する。被験者における消化管障害の存在は、該被験者の生活の質の低下を伴うことが多いので、本発明はまた、消化管障害によって引き起こされたか又は消化管障害に伴う、生活の質の低下を改善させるための、該非生菌又はその断片(群)の使用に関する。
【0022】
本発明に従って処置されることのできる「消化管障害」は好ましくは、過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、嚢炎、感染後大腸炎、下痢(クロストリジウム・ディフィシル(Chlostridium difficile)に関連した下痢を含む)、便秘、ディスペプシア及び/又は関連するディスペプシア症状、胃不全麻痺、擬性腸閉塞、便排出障害、腹部膨満、腹部膨隆、宿便、腹痛、腹部不快感、便通に関連した疼痛、便通の回数の減少/増加、及び軟便形状から選択される。より好ましくは、障害は、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、嚢炎、感染後大腸炎、下痢(クロストリジウム・ディフィシルに関連した下痢を含む)、便秘、ディスペプシア及び/又は関連するディスペプシア症状、胃不全麻痺、及び擬性腸閉塞から選択される。さらにより好ましくは、消化管障害は、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、嚢炎、感染後大腸炎、及び下痢疾患から選択される。最も好ましくは、障害は、過敏性腸症候群である。
【0023】
本発明はさらに、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌又はその1つ以上の断片を含む組成物に関する。本発明に従って使用されるような「組成物」という用語は、少なくとも本発明の非生菌又はその1つ以上の断片を、活性成分として含む、組成物に関する。該組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダム菌の少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%、さらにより好ましくは少なくとも99%が、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌であることが特に好ましい。該組成物に含まれる全てのビフィドバクテリウム・ビフィダム菌の少なくとも99.5%、より好ましくは少なくとも99.9%、最も好ましくは100%が、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌であることが特に好ましい。
【0024】
該組成物は場合により、さらなる分子を含んでいてもよい。このようなさらなる分子は、それ自体が活性成分であっても、又は不活性であってもよく、多様な機能を満たすために、例えば、本発明の非生菌若しくはその1つ以上の断片の安定化のために、又はそれらの機能を遅延、調節、及び/若しくは活性化するために、又は該組成物が与えられた患者に対して追加の(健康の)利点をもたらす化合物として、含まれてもよい。このようなさらなる分子の非制限的な例としては、薬学的に許容される及び/又は摂取可能な担体、補助剤、他の非生菌成分、さらなる薬理学的に活性な物質、タンパク質及び/又はペプチド、特にグルタミン/グルタミン酸の豊富なタンパク質及び/又はペプチド、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル、及び/又は微量元素が挙げられる。
【0025】
「薬学的に許容される担体」という用語は、任意の種類の無毒性の固体、半固体、又は液体の充填剤、希釈剤、封入材料、又は製剤化助剤に関する。このような担体ビヒクルの例としては、水、食塩水、リンガー液、及びデキストロース溶液が挙げられる。不揮発性油及びオレイン酸エチルなどの非水性ビヒクル並びにリポソームも、本明細書において有用である。担体は適切に、少量の添加剤、例えば等張性及び化学的安定性を増強する物質を含有している。このような材料は、使用される用量及び濃度においてレシピエントに対して無毒性であり、該材料としては、緩衝液、例えばリン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、及び他の有機酸又はそれらの塩;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸;低分子量(約10残基未満)の(ポリ)ペプチド、例えばポリアルギニン又はトリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、又はアルギニン;単糖、二糖、及び他の糖質、例えばセルロース若しくはその誘導体、グルコース、マンノース、又はデキストリン;キレート剤、例えばEDTA;糖アルコール、例えばマンニトール又はソルビトール;対イオン、例えばナトリウム;及び/又は非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート、ポロキサマー、又はPEGが挙げられる。本発明により特に好ましい担体としては、リン酸緩衝化食塩水溶液、水、エマルション、例えば水中油滴型エマルション、様々な種類の湿潤剤、無菌溶液、及び有機溶媒、例えばDMSOが挙げられる。
【0026】
本明細書において使用する「摂取可能な担体」という用語は、組成物の経口投与に適し、かつ、該組成物の成分の摂取を助ける担体に関する。適切な担体は、さらなる面倒を伴うことなく、該組成物が投与される予定の剤形に応じて、当業者によって選択され得る。いくつかの非制限的な例を挙げると、本明細書において以下に詳述されているように、セルロースが、錠剤又はカプセル剤の剤形のための担体材料として使用され得;マルトデキストリンが、散剤の剤形のために使用され得、又は、乳製品が、食品の形態での投与のために使用され得る。
【0027】
本明細書において使用する「補助剤」という用語は、他の化合物(例えば、本発明の非生菌又はその1つ以上の断片)の効果を修飾するが、単独で投与された場合には、あるとしても僅かな直接作用しか及ぼさない、化合物に関する。補助剤はしばしば、活性成分に対する、より早期でより強力な応答及び/又はより持続的な応答を促進するために付加され、これにより、より低用量の使用が可能となる。補助剤の非制限的な例としては、例えば、水酸化アルミニウム及びリン酸アルミニウム、有機化合物のスクアレンが挙げられるが、しかしまた、補助剤として現在試験されているか又はすでに認可されている化合物、例えば、QS21、水酸化アルミニウム及びその誘導体、油浸オイル、リピドA及びその誘導体(例えばモノホスホリルリピドA(MPL)、CpGモチーフ、ムラミルジペプチド(MDP)、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、又はMF59Cも挙げられる(例えば、Garcon and Van Mechelen. Recent clinical experience with vaccines using MPL- and QS-21-containing adjuvant systems. Expert Rev Vaccines. 2011 Apr;10(4):471-86; Alving CR. Lipopolysaccharide, lipid A, and liposomes containing lipid A as immunologic adjuvants. Immunobiology. 1993 Apr;187(3-5):430-46; Petrovsky and Aguilar. (2004). "Vaccine adjuvants: current state and future trends". Immunol Cell Biol. 82 (5): 488-96; Weiner et al. (1997). Immunostimulatory oligodeoxynucleotides containing the CpG motif are effective as immune adjuvants in tumor antigen immunization. PNAS 94 (20): 10833-7; Yoo et al. Adjuvant activity of muramyl dipeptide derivatives to enhance immunogenicity of a hantavirus-inactivated vaccine. Vaccine. 1998 Jan-Feb;16(2-3):216-24; Steiner et al.(1960) The local and systemic effects of Freund's adjuvant and its fractions. Archives of Pathology 70:424-434;米国特許第6,299,884B号、米国特許第6,451,325号参照)。
【0028】
本明細書において使用する「他の非生菌成分」という用語は、非生菌又はその断片に関し、該細菌は、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌ではない。このような非生菌の非制限的な例としては、ラクトバシラス、ビフィドバクテリウム、サッカロマイセス、ストレプトコッカス、エンテロコッカス、及び/又はバシラスの菌種の菌株が挙げられる。
【0029】
本明細書において使用する「薬理学的に活性な物質」という用語は、患者に対して薬学的に耐容可能でありつつ薬学的に活性である、化学的又は生物学的な化合物に関する。非制限的な例としては、ビサコジル、ロペラミド、アミノサリチル酸、スルファサラジン、5-アミノサリチル酸、4-アミノサリチル酸、ベンザラジン、二塩酸塩、オルサラジン、バルサラジド、及び次サリチル酸ビスマスが挙げられる。特に、薬理学的に活性な物質は、消化管疾患の処置に有用であることが知られている医薬品から選択され得る。このような薬理学的に活性な物質の例は当技術分野において公知であり、製薬登録簿、例えばドイツの「ドイツ医薬品集(Rote Liste)」に記録され絶えずアップデートされている。
【0030】
本明細書において使用する「ペプチド」という用語は、最大30個のアミノ酸からなる分子群のことを言い、「タンパク質」は、30を超えるアミノ酸からなる。ペプチド及びタンパク質はさらに、二量体、三量体、及びより高次のオリゴマーを形成し得、すなわち、同一であっても同一でなくてもよい1つを超える分子からなり得る。対応するより高次な構造は結果として、ホモ二量体又はヘテロ二量体、ホモ三量体又はヘテロ三量体などである。「ペプチド」及び「タンパク質」という用語(ここでの「タンパク質」は「ポリペプチド」の同義語として使用される)はまた、天然に修飾されたペプチド/タンパク質を指し、ここでの修飾は、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化などによって行なわれる。このような修飾は当技術分野において周知である。好ましくは、グルタミン/グルタミン酸の豊富なタンパク質及び/又はペプチドが使用される。グルタミン/グルタミン酸は、腸細胞を構築するのに、及び損傷を受けた腸粘膜を再構築するのに役立つからである。グルタミン/グルタミン酸の豊富なタンパク質及び/又はペプチドとしては、乳タンパク質、大豆タンパク質、及び小麦タンパク質が挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
本明細書において使用する「脂質」という用語は、関連技術に従って定義される。追加の化合物として適した脂質の非制限的な例としては、オリーブ油、大豆油、菜種油、及び魚油が挙げられるがこれらに限定されない。
【0032】
「糖質」は、炭素、水素、及び酸素のみからなる有機化合物である。追加の化合物として適した糖質の非制限的な例としては、セルロース、ラクトース、マルトデキストリン、イヌリン、デキストロース、マンニトール、フラクトオリゴ糖、マンニトール、マルトース、デキストリン、ソルビトール、及びフルクトースが挙げられる。
【0033】
本発明による「ビタミン」は、水溶性並びに水不溶性ビタミンを含む。追加の化合物として適したビタミンの非制限的な例としては、ビタミンA(例えばレチノール、レチナール及びカロテノイド、例えばβカロテン)、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(例えばナイアシン、ナイアシンアミド、ニコチンアミド)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(例えばピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサール)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(例えば葉酸、フォリン酸)、ビタミンB12(例えばシアノコバラミン、ヒドロキシコバラミン、メチルコバラミン)、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンD(例えばエルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール)、ビタミンE(例えばトコフェロール、トコトリエノール)、及びビタミンK(例えばフィロキノン、メナキノン)が挙げられる。
【0034】
特に好ましいビタミンは、ビタミンB群、例えばビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(例えばナイアシン、ナイアシンアミド、ニコチンアミド)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(例えばピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサール)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(例えば葉酸、フォリン酸)、及びビタミンB12(シアノコバラミン、ヒドロキシコバラミン、メチルコバラミン)である。
【0035】
追加の化合物として適したミネラルの非制限的な例としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、セレニウム、鉄、銅、マンガン、クロム、モリブデン、カリウム、バナジウム、ホウ素、及びチタンが挙げられる。特に好ましいミネラルは、マグネシウム及びカルシウムである。
【0036】
本明細書において使用する「微量元素」という用語は、生物、好ましくはヒト生物の成長、発達、及び/又は生理のために非常に少量だけ必要とされる、化学元素に関する。追加の化合物として適した微量元素の非制限的な例としては、ヨウ素、銅、又は鉄が挙げられる。
【0037】
非生菌又はその断片(群)とこのようなさらなる分子との間の適切な比は、さらなる面倒を伴うことなく、当業者によって決定され得る。
【0038】
例えば、15~40g、好ましくは18~35g、より好ましくは20~30g、さらにより好ましくは22~28g、最も好ましくは25gの非生菌(又はその断片(群))を、50~100g、好ましくは60~90g、より好ましくは65~85g、さらにより好ましくは70~80g、最も好ましくは75gの1つ以上の糖質(好ましくは1つ以上のプレバイオティックス又はマルトデキストリン)、1つ以上の薬学的に許容される化合物又はその混合物と混合することができる。該混合物を場合によりさらに、30~70g、好ましくは35~65g、より好ましくは40~60g、さらにより好ましくは45~55g、最も好ましくは50gの1つ以上の薬学的に許容される及び/又は摂取可能な担体、1つ以上の補助剤、1つ以上の他の非生菌成分、1つ以上のさらなる薬理学的に活性な物質、1つ以上のタンパク質及び/又はペプチド、1つ以上の脂質、1つ以上のさらなる糖質、1つ以上のビタミン、1つ以上のミネラル、1つ以上の微量元素、又はこれらのいずれかの分子の混合物と混合してもよい。
【0039】
より好ましい例では、非生菌(又はその断片(群))を、上記に列挙されている好ましい量の、1つ以上の糖質、好ましくは1つ以上のプレバイオティクスと混合する。該混合物を場合によりさらに、上記に列挙されている好ましい量の、1つ以上の薬学的に許容される担体、1つ以上のさらなる糖質、1つ以上のビタミン、1つ以上のミネラル、1つ以上の微量元素、又はこれらのいずれかの分子の混合物と混合してもよい。
【0040】
さらにより好ましい実施態様では、非生菌(又はその断片(群))を、上記に列挙されている好ましい量の、1つ以上の糖質、好ましくは1つ以上のプレバイオティクス又はマルトデキストリンと混合し、上記に列挙されている好ましい量の、1つ以上の薬学的に許容される担体、1つ以上のさらなる糖質、1つ以上のビタミン、1つ以上のミネラル、1つ以上の微量元素、又はこれらのいずれかの分子の混合物と混合する。
【0041】
さらにより好ましい実施態様では、非生菌(又はその断片(群))を、上記に列挙されている好ましい量の、マルトデキストリン及び薬学的に許容される担体、好ましくはセルロースと混合する。最も好ましくは、非生菌(又はその断片(群))を、およそ1:3:2の比(重量に基づく)でマルトデキストリン及びセルロースと混合する(例えば、25gの非生菌(又はその断片(群))を、75gのマルトデキストリン及び50gのセルロースと混合するなど)。
【0042】
本発明によると、本発明の組成物が、唯一の活性物質として、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌又はその1つ以上の断片を含有していることが特に好ましい。本発明の組成物が、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌又はその1つ以上の断片以外のさらに他の細菌成分を全く含有していないことがさらに特に好ましい。
【0043】
本発明の組成物は、任意の種類の組成物、例えば医薬組成物、プレバイオティクス組成物、又は食品組成物であり得る。該組成物が、医薬組成物又は食品組成物であることが特に好ましい。
【0044】
プレバイオティクス組成物では、該組成物はさらに、「プレバイオティクス化合物」を含む。本明細書において使用する「プレバイオティクス化合物」という用語は、被験者によって摂取されると、該被験者の腸に存在する1つ以上の有益な細菌の増殖及び/又は活性化の選択的刺激のために、該被験者にとって利点をもたらす、消化不可能な化合物に関する。したがって、プレバイオティクス化合物は、細菌フローラの再平衡化を可能とする。好ましくは、本発明のプレバイオティクス組成物は、本発明の非生菌又はその1つ以上の断片の他に、プレバイオティクス化合物としてイヌリン及び/又はフラクトオリゴ糖を含む。
【0045】
イヌリンは、化学的にはフルクタンファミリーに属する可溶性化合物であり、すなわち、末端にグルコース残基を有するフルクトース直鎖(最大100個のフルクトース分子)によって形成される多糖である。当技術分野において、イヌリンの消費により、腸内のビフィズス菌及び乳酸菌の存在が増加することが確立されている。乳酸菌は、正しい消化及び結腸の健康にとって重要である乳酵素を産生する。同時に、腸内の多くの有害な細菌の数の大きな減少が観察される。
【0046】
フラクトオリゴ糖は、唾液中及び腸内の消化酵素による加水分解に抵抗性である、より短いオリゴ糖のフルクタン(最大10個のフルクトース分子)である。結腸では、それらは嫌気性細菌によって発酵され、消化管の全体的な健康は増加する。
【0047】
本発明の組成物はまた、食品組成物の形態であってもよい。本明細書において使用する「食品組成物」という用語は、ヒト又は動物による消費に適した任意の食品に関する。したがって、このような「食品組成物」の非制限的な例としては、例えば動物用食品、例えば押し出されペレット化された動物用食品、又は粗く混合された食品、並びに、ヒトによる消費のための食品が挙げられ、どちらも固形状及び液状の食品、例えば飲料、例えば飲料水、及び以下に詳述されているような乳製品としてである。したがって、該用語は、食品、ダイエタリー・サプリメント、又は栄養補助食品を含むがこれらに限定されない。
【0048】
本明細書において使用する「ダイエタリー・サプリメント」という用語は、経口摂取されヒト又は動物の食事を補助することを目的として製造された製品を指し、典型的には丸剤、カプセル剤、錠剤、又は液剤の剤形で、単一又は複数の用量単位で梱包されて提供される。ダイエタリー・サプリメントは典型的には、有意な量のカロリーは提供しないが、他の微量栄養素、例えばビタミン又はミネラルを含有していてもよい。本発明による「栄養補助食品」という用語は、カロリー源と組み合わせてダイエタリー・サプリメントを含む、組成物を指す。例えば、栄養補助食品は、食事代用食又は食事補助食品、例えば栄養バー又はエネルギーバー、栄養飲料又は栄養濃縮物であってもよい。
【0049】
好ましくは、食品組成物は乳製品である。乳製品の非制限的な例としては、酸性乳、牛乳を主成分とするデザート、ヒト化牛乳、粉ミルク、牛乳濃縮物、牛乳を主成分とするドレッシング、牛乳飲料、並びに、発酵乳製品、例えばヨーグルト、例えばフローズンヨーグルト、ヨーグルト料理、例えばヨーグルトドリンク、発酵クリーム、ケフィア、サワークリーム、クレームフレーシュ、チーズ及びチーズスプレッドが挙げられる。本明細書において使用する「乳製品」という用語は、動物起源(すなわち酪農製品)又は植物起源(すなわち非酪農製品)のいずれかの製品を含む。動物起源の乳製品としては、例えばウシ、ヒツジ、ヤギ、又はバッファーローから得られたミルクから調製された製品が挙げられる。植物起源の乳製品としては、植物起源の発酵製品、例えば、豆乳、ライスミルク、アーモンドミルク、ココナッツミルク、又はシリアルミルク(例えばオート麦から作製されたミルク)から調製された製品が挙げられる。
【0050】
本発明によると、該組成物は固体又は液体の剤形であり得、従来の方法によって製剤化され得る。例えば、医薬組成物の製剤化のための方法は、当技術分野において、例えば「レミントン:薬学の科学と実践」、Pharmaceutical Press、第22版に記載されている。一般的に、組成物は、該組成物の成分を均一にかつ密接に所望の追加の化合物と接触させることによって調製される。その後、必要であれば、製品を所望の製剤へと成形する。
【0051】
組成物の種類に応じて、該組成物は、様々な剤形に製剤化され得る。例えば、医薬組成物並びにプレバイオティクス組成物は、経口、非経口、例えば筋肉内、静脈内、皮下、皮内、動脈内、心内、直腸内、鼻腔内、局所、エアゾール、又は膣内投与用の剤形として製剤化され得る。経口投与用の剤形が特に好ましい。経口投与用の該組成物は、経口摂取によって、特に嚥下によって投与されることができる。よって、該組成物は口腔を通って消化管へと入るように投与され得る。経口投与用の好ましい剤形の非制限的な例としては、即時放出、遅延放出、調節された放出、持続放出、パルス放出、又は制御された放出の適用のための、コーティングされている及びコーティングされていない錠剤、軟ゼラチンカプセル剤、硬ゼラチンカプセル剤、ロゼンジ剤、トローチ剤、カシェ剤、ウエハース剤、カプセル剤、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤、復元用の散剤及び顆粒剤、分散可能な散剤及び顆粒剤(例えば無菌充填された散剤又は顆粒剤)、薬用ガム、咀嚼錠、及び発泡錠(これらは、香味剤又は着色剤を含んでいてもよい)が挙げられる。該組成物は、食品組成物を提供するために、食品に取り込まれてもよい。
【0052】
錠剤は、賦形剤、例えば、微結晶セルロース、乳糖、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム及びグリシン、崩壊剤、例えばデンプン(好ましくはコーン、ジャガイモ、又はタピオカのデンプン)、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム及びある種の複雑ケイ酸塩、及び造粒用の結合剤、例えばポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ショ糖、ゼラチン、及びアカシアを含有していてもよい。さらに、潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル及びタルクが含まれていてもよい。類似した種類の固形組成物も、ゼラチンカプセル剤の充填剤として使用され得る。これに関して好ましい賦形剤としては、乳糖、デンプン、セルロース、又は高分子量のポリエチレングリコールが挙げられる。水性懸濁液及び/又はエリキシル剤では、本発明の非生菌又はその1つ以上の断片は、様々な甘味剤又は香味剤、着色物質又は色素、乳化剤及び/又は懸濁化剤、及び希釈剤、例えば水、エタノール、プロピレングリコール、及びグリセリン、及びその組合せと配合し得る。
【0053】
記載のように、本発明の非生菌(又はその断片(群))又は組成物は、処置における使用のための、より具体的には、消化管障害の処置における使用のためのものである。したがって、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌又はその1つ以上の断片の治療有効量が、本発明に従って使用されるべきである。変化を観察するために必要とされる処置の長さ、及び応答が起こる処置後の区間は、具体的な医療用途に応じて変更されることが理解されるだろう。具体的な量及び時間は、当業者には周知である従来の試験によって決定され得る。
【0054】
例えば、医薬組成物では、用量処方計画は典型的には、担当医師によって決定され、臨床因子に依存する。医学分野においては周知であるように、いずれか1人の患者についての用量は、患者の体格、体表面積、年齢、投与する予定の具体的な化合物、性別、投与時刻及び投与経路、全般的な健康状態、並びに同時投与される他の薬物をはじめする、多くの因子に依存する。所与の状況に対する治療有効量は、単調な実験によって容易に決定され、通常の臨床医又は医師の技能及び判断の範囲内である。(約70kgの体重の)ヒトへの経口投与のために提案されているがこれに限定されない用量は、単位用量あたり、0.05~2000mg、好ましくは0.1mg~1000mgの活性成分であり得る。単位用量は、例えば1日あたり1~3回投与され得る。単位用量はまた、週に1~14回投与され得、例えば1日あたり1~2回投与され得る。類似した量及び投与間隔は、プレビオティクス又は食品組成物などの他の種類の組成物にも適切である。
【0055】
患者/被験者の年齢及び体重、並びに、処置する予定の容態の重症度に応じて、用量に通例の変更を行なうことも必要であり得ることが理解されるだろう。的確な用量及びまた投与経路は最終的には、担当医師又は獣医の判断によるであろう。典型的には、治療薬の投与のために使用される予定の医薬組成物の成分は無菌でなければならない。
【0056】
本発明によると、非生菌は、少なくとも約10個の非生細胞の1日量で経口投与される予定であることが特に好ましい。より好ましくは、非生菌は、少なくとも約10個、例えば少なくとも約10個、例えば少なくとも約10個、例えば少なくとも約10個、例えば少なくとも約10個、又は例えば少なくとも約10個の非生細胞の1日量で、最も好ましくは少なくとも約10個の非生細胞の1日量で経口投与される予定である。約24時間の投与間隔、より好ましくは正確に24時間の投与間隔が、全処置期間において観察されることが特に好ましい。
【0057】
さらに好ましいのは、非生菌は、1日あたり2単位の剤形として、例えば1日あたり2個の錠剤又は2個のカプセル剤として経口投与される予定であることである。好ましくは、各単位の剤形は、少なくとも約5×10個、より好ましくは少なくとも約5×10個、例えば少なくとも約5×10個、例えば少なくとも約5×10個、例えば少なくとも約5×10個、例えば少なくとも約5×10個、例えば少なくとも約5×10個の非生細胞を含み、最も好ましくは、各単位の剤形は、少なくとも約5×10個の非生細胞を含む。したがって、1日あたり2単位の剤形の投与によって、1日あたり少なくとも約10個から10個の非生細胞の上記の好ましい総量が投与されるだろう。非生菌の1日量、例えば1日あたり2個の錠剤又は2個のカプセル剤が、一度に、好ましくは常に一日のほぼ同じ時間に、最も好ましくは食事と一緒に投与されることがさらに特に好ましい。換言すれば、総1日量は、2個の錠剤又は2個のカプセル剤の剤形で投与される場合、両錠剤/両カプセル剤が同時に摂取されることが好ましい。
【0058】
最も好ましくは、上記に列挙された好ましい量によって処置される予定の消化管障害は過敏性腸症候群である。
【0059】
本発明によるプレバイオティクス化合物の好ましい量は、1gの非生細胞及び/又はその断片(群)あたり、より好ましくは10個の非生細胞(又はその断片(群))あたり、少なくとも1g、好ましくは少なくとも2g、より好ましくは少なくとも3g、さらにより好ましくは4g、最も好ましくは少なくとも5gのプレバイオティクス化合物を含む。
【0060】
本発明の非生菌(又はその断片(群))又は組成物は、単独療法(例えば、さらに他の治療剤を全く併用投与することなく、又は、非生菌(又はその断片(群))若しくは本発明の組成物を用いて治療若しくは予防されるべき同疾患に対するさらに他の治療剤を全く併用投与することなく)で投与され得る。しかしながら、本発明の非生菌(又はその断片(群))又は組成物はまた、1つ以上のさらに他の治療剤と組み合わせて投与されてもよい。本発明の非生菌(又はその断片(群))又は組成物が、同疾患又は同容態に対して有効である第二の治療剤と組み合わせて使用される場合、各物質の用量は、対応する物質を単独で使用する場合の用量とは異なっていてもよく、特に、より低用量の各物質を使用することができる。本発明の非生菌(又はその断片(群))又は組成物と1つ以上のさらに他の治療剤との組合せは、本発明の非生菌(又はその断片(群))又は組成物とさらに他の治療剤(群)の同時/併用投与(単一の医薬製剤で又は別々の医薬製剤でのいずれか)、又は、本発明の非生菌(又はその断片(群))若しくは組成物とさらに他の治療剤(群)の順次/別々の投与を含み得る。投与が順次である場合、本発明の非生菌(又はその断片(群))若しくは組成物、又は1つ以上のさらに他の治療剤のいずれかをまず投与し得る。投与が同時である場合、1つ以上のさらに他の治療剤は、本発明の非生菌(又はその断片(群))又は組成物と同じ医薬製剤に含まれてもよく、あるいは、それらは2つ以上の異なる(別々の)医薬製剤で投与されてもよい。
【0061】
本発明により処置されることができる被験者又は患者は、動物(例えばヒト以外の動物)であり得る。好ましくは、被験者/患者は哺乳動物である。より好ましくは、被験者/患者はヒト(例えば男性又は女性)又はヒト以外の哺乳動物(例えばモルモット、ハムスター、ラット、マウス、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、サル、類人猿、マーモセット、ヒヒ、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザル、ヒツジ、ウシ、又はブタ)である。最も好ましくは、本発明により処置されることのできる被験者/患者はヒトである。
【0062】
さらに好ましいのは、非生菌、又はその1つ以上の断片、又は組成物は、免疫無防備状態の被験者に投与される、あるいは投与される予定であることである。「免疫無防備状態」の被験者は、免疫系が完全には機能していない任意の被験者である。例えば、該被験者の免疫系は、感染症及び/又は癌と戦うことができない可能性がある。このような被験者はまた、「免疫不全」を有するとも称される。被験者は、生まれつき免疫不全であり得るか(原発性免疫不全症)、又は、被験者は、例えばHIV感染、高齢、若しくは環境因子、例えば栄養失調などに因り、免疫不全(続発性免疫不全症)を獲得し得る。さらに、臓器移植手術の状況で拒絶に対抗する措置として、及び自己免疫疾患などの過活動性免疫系に苦しむ患者において、処方されることの多い、ステロイドなどの特定の薬物により、免疫抑制が起こり得る。好ましくは、免疫無防備状態の被験者はヒトである。より好ましくは、免疫無防備状態の被験者は、原発性免疫不全症を有するヒト、続発性免疫不全症(好ましくはHIV感染に因る)を有するヒト、又はその免疫系が医学的に抑制されているヒトである。
【0063】
本発明はさらに、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌又はその1つ以上の断片を調製する方法に関し、該方法は、(a)寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム菌株を準備する工程;及び(b)工程(a)で準備された細菌を不活化して、ビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌又はその1つ以上の断片を得る工程を含む。
【0064】
この本発明の方法によると、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム菌株が、第一工程において提供される。十分量のこれらの細菌を提供するために、それらを、例えば「Probiotics and Health Claims」, Wolfgang Kneifel, Seppo Salminen, John Wiley & Sons;第1版(2011年1月7日)に記載のような、当技術分野において公知である手段によって、工程(a)の前に培養し増幅させ得る。例えば、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001の生細胞を、タンパク質の豊富な液体増殖培地中で増殖させ得る。一般的に、工程(a)に従ってビフィドバクテリウム・ビフィダム株を増殖及び/又は発酵させるのに適した培地は、少なくとも水、デキストロース、酵母抽出物、及びミネラルを含む。典型的に使用される標準培地は、0.05%のL-システイン塩酸塩の補充されたMRSブロス(ディフコ社、デトロイト、MI州、米国)(cMRS)である。当業者は、他の培地も、細菌生物の増殖、発酵及び前培養に使用することができるという事実をよく知っている。典型的には、少なくとも200mL、好ましくは少なくとも300mL、より好ましくは少なくとも400mL、さらにより好ましくは少なくとも500mL、最も好ましくは少なくとも600mLの標準培地の容量に、少なくとも1つの細菌細胞株を接種し、培養液を、一晩、嫌気的に、例えば37℃、220rpmで増殖させる。追加の発酵工程、例えばより高容量での発酵工程が、追加的に実施されてもよい。
【0065】
第二の工程(工程(b))では、細菌をその後、不活化することにより、非生菌を得る。細菌を失活させるための手段及び方法は、当技術分野において周知であり、これには、熱、圧力、超音波、照射、例えば紫外線による照射、乾燥、パルス電場(PEF)、超臨界二酸化炭素、及び/又はpH変化をかけることによる失活が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、失活は、熱による失活である。失活は、直接、発酵容器で、又は別の容器で実施され得る。工程(b)は、一回実施されても、又は、必要であると思われるだけ何回も繰り返し行なってもよい。成功裡の失活は、さらに調製物を使用する前に、失活させた細菌調製物のアリコートを培養培地上に蒔き、標準的な条件下で培養することによって試験されてもよい。
【0066】
工程(b)での失活後、結果として得られた組成物は、そのままで使用されても、又はさらに処理されてもよい。さらなる処理は、例えば、非生菌又はその特定の断片の収集及び/又は精製のための1つ以上の追加の方法工程を含む。このような収集工程及び/又は精製工程のための手段及び方法は当技術分野において周知であり、これには、例えば遠心分離、例えばディスク型遠心分離機又はディスク型セパレーター(例えば、GEAウェストファリアセパレーター社(エルデ、ドイツ)によって提供されるような)を使用することによる遠心分離などが挙げられる。その後、該細胞は、標準的な手段及び方法を使用して、安定化され、凍結乾燥され、粉砕され、ふるいにかけられ得る。上記の全ての方法は当技術分野において公知であり、例えば「Probiotics and Health Claims」, Wolfgang Kneifel, Seppo Salminen, John Wiley & Sons;第1版(2011年1月7日)、「Modelling microorganisms in food」, Stanley Brul, Suzanne Van Gerwen, Marcel Zwietering;第1版(2007)及び「Probiotic bacteria: fundamentals, therapy, and technological aspects」、J. Paulo Sousa e Silva and Ana C. Freitas;第1版(2014)に記載されている。
【0067】
該方法は、寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌を断片化して、細菌の1つ以上の断片を得る、さらなる工程を含み得る。この工程はまた、工程(b)、すなわち細菌の失活化工程と組み合わせてもよい。例えば、工程(b)の失活化は、細菌を破壊するのに十分に厳しく、十分に長い時間適用される条件下で行なわれ得る。このような方法としては例えば、例えばエタノール/水、又はプロパノール/水の混合物(又は、極性物質及び非極性物質を抽出するに適した、任意の他の抽出溶液又は溶媒混合物)中で細菌を煮沸すること、細菌を凍結解凍処理に(例えば、複数回の凍結解凍サイクルに)かけること、細菌を超音波処理にかけること、細菌を洗浄剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(例えば、ノニデットP-40又はIGEPAL CA-630)、トリトンX-100、n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド(DDM)、ジギトニン、ポリソルベート20(例えばTween20)、ポリソルベート80(例えばTween80)、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート(CHAPS)、尿素、コール酸塩、ラウロイルサルコシンナトリウム(サルコシル)又はその任意の組合せを用いて処理することのいずれか1つが挙げられる。細菌の破壊後、関心対象の断片を、所望であれば、追加の工程(c)で単離することができる。例えば、細胞壁(画分)及び/又は細胞膜(画分)は、細菌細胞の残り、例えば細胞質及び細胞質成分から、ろ過、好ましくは約0.5μmから約2μm、より好ましくは約1μmの孔径を有するフィルターを使用したろ過、及び遠心分離を含むがこれらに限定されない、様々な方法によって分離することができる。
【0068】
例示的な実施態様では、以下のアプローチが適用され得る:寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株の生菌を、タンパク質の豊富な液体増殖培地中で増殖させ、発酵容器中で熱失活させ、遠心分離にかけ、その後、凍結乾燥させ、粉砕し、ふるいにかける。さらに、その後、乾燥粉末の失活させた細菌を、賦形剤と混合し、コーティングされていないセルロースカプセルなどのカプセルに、約0.5×10個の非生菌の量で充填することができる。
【0069】
その後、本発明の方法によって得られた又は得ることのできる非生菌は、処置において、特に本明細書において上記されているような消化管障害の処置のために使用され得る。
【0070】
本明細書において使用する「任意選択の」、「場合により」及び「し得る」という用語は、示された特徴が存在してもよいが、存在しなくてもよいことを示す。「任意選択の」、「場合により」又は「し得る」という用語が使用される時にはいつでも、本発明は特に両方の可能性に関連し、すなわち、対応する特徴が存在するか、又は代替的には、対応する特徴が存在しないことに関する。例えば、組成物の成分が存在「し得る」ことが示されている場合、本発明は特に、両方の可能性に関連し、すなわち、対応する成分が存在する(該組成物に含有される)か、又は対応する成分が該組成物に存在しないことに関する。
【0071】
本明細書において使用する「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」という用語は、違うと明記されない限り又は内容と矛盾しない限り、「1つ以上」及び「少なくとも1つ」の同義語として使用される。したがって、例えば、「1つの」特定の化合物、例えば1つの担体を含む1つの組成物は、「1つ以上」の前記の特定の化合物、例えば1つ以上の担体を含む1つの組成物を指すと解釈され得る。
【0072】
本明細書において使用する「約」という用語は好ましくは、示された数値の±10%、より好ましくは示された数値の±5%、特に示された寸分たがわぬ数値を指す。「約」という用語が範囲の端点と関連して使用される場合、それは好ましくは、その示された数値から-10%低い端点から、その示された数値から+10%高い端点までの範囲を指し、より好ましくは、-5%低い端点から+5%高い端点までの範囲を指し、さらにより好ましくは下の端点と上の端点の寸分たがわぬ数値によって規定される範囲を指す。「約」という用語が、開いている範囲の端点と関連して使用される場合、それは-10%低い端点から又は+10%高い端点から始まる対応する範囲、より好ましくは-5%低い端点から又は+5%高い端点から始まる範囲、さらにより好ましくは対応する端点の寸分たがわぬ数値によって規定される開いている範囲を指す。「約」という用語が、整数で定量されるパラメーターと関連して使用される場合、示された数値の±10%又は±5%に対応する数字を、(タイブレーク則「四捨五入(round half up)」を使用して)最も近い整数へと丸めるべきである。
【0073】
本明細書において使用する「含んでいる(comprising)」(又は「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含有する(contain)」、「含有する(contains)」又は「含有している(containing)」という用語は、違うと明記されない限り又は内容と矛盾しない限り、「とりわけ、含有している」、すなわち、「さらに他の任意選択の要素の中に、含有している」の意味を有する。それに加えて、この用語はまた、「本質的にからなる」及び「からなる」というより狭い意味を含む。例えば、「BとCとを含むA」という用語は、「とりわけBとCとを含有しているA」の意味を有し、ここでのAは、さらなる任意選択の要素を含有していてもよいが(例えば、「BとCとDとを含むA」も包含されるだろう)、この用語はまた、「BとCから本質的になるA」の意味、及び「BとCからなるA」(すなわち、BとC以外の成分はAに全く含まれない)の意味も含む。
【0074】
違うと具体的に示されない限り、本明細書に言及される全ての特性及びパラメーター(例えば、「mg/ml」、「%(w/v)」(すなわち、mg/100μl)、又は「%(v/v)」で示される任意の量/濃度、並びに任意のpH値を含む)は好ましくは、標準的な周囲温度及び圧力条件、特に25℃の温度(298.15K)及び101.325kPa(1気圧)の絶対圧で決定することができる。
【0075】
本明細書において使用する(疾患又は障害の)「処置」又は「処置すること」という用語は、内容と矛盾しない限り、疾患又は障害の1つ以上の症状又は臨床的に関連した徴候を治癒、軽減、低減、又は予防すること、あるいは、疾患又は障害を軽減、元に戻す、又は消失させること、あるいは、疾患又は障害の発症を予防すること、あるいは、疾患又は障害の進行を予防、低減、又は遅延させることを指す。例えば、それぞれの疾患又は障害の症状又は臨床的に関連した徴候が全く同定されていない、被験者又は患者の「処置」は、阻止的又は予防的処置であり、それぞれの疾患又は障害の症状又は臨床的に関連した徴候が同定されている、被験者又は患者の「処置」は、例えば、治癒的又は寛解的処置であり得る。これらの処置の形態のそれぞれ1つ1つが、本発明の明確に異なる態様として考えられ得る。
【0076】
障害又は疾患の「処置」により、例えば、障害若しくは疾患の進行は停止し得るか(例えば症状の悪化が全くない)、又は障害若しくは疾患の進行は遅延し得る(進行の停止が、単に一過性である場合)。障害又は疾患の「処置」によりまた、障害又は疾患に罹患している被験者/患者の部分応答(例えば症状の回復)又は完全応答(例えば症状の消失)がもたらされ得る。したがって、障害又は疾患の「処置」はまた、例えば、障害若しくは疾患の進行の停止、又は障害若しくは疾患の進行の遅延に至り得る、障害又は疾患の回復を指し得る。このような部分応答又は完全応答の後に再発が起こる場合がある。被験者/患者に、処置に対する幅広い応答(例えば、本明細書に上記されているような例示的な応答)が起こり得ることが理解されるべきである。障害若しくは疾患の処置は、とりわけ、障害若しくは疾患の治癒的処置(好ましくは、完全な応答に至り、最終的には障害又は疾患の治癒に至る)、寛解的処置(症状の緩和を含む)、又は予防的処置(阻止を含む)を含み得る。
【0077】
違うと定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者一般によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合には、本明細書(定義を含む)が優先されるだろう。
【0078】
本発明は特に、一般的及び/又は好ましい特徴/実施態様の任意の組合せを含む、本明細書に記載の特徴及び実施態様のそれぞれ、及びあらゆる組合せに関する。
【0079】
同じように、そして、独立クレーム及び/又は従属クレームが代替物を列挙していない場合にも、従属クレームが複数の先行クレームに再び言及する場合、これにより網羅される主題の任意の組合せが明確に開示されていると考慮すべきであることが理解されるべきである。例えば、独立クレーム1、クレーム1に再び言及している従属クレーム2、及びクレーム2と1の両方に再び言及している従属クレーム3の場合、クレーム3と1の主題の組合せが、クレーム3と2と1の主題の組合せと同様に、明瞭かつ明白に開示されているということになる。クレーム1~3のいずれか一項に言及しているさらなる従属クレーム4が存在する場合、クレーム4と1、クレーム4と2と1、クレーム4と3と1、並びにクレーム4と3と2と1の主題の組合せが、明瞭かつ明白に開示されているということになる。
【0080】
上記の考察は、全ての付属したクレームに準用される。非制限的な例を挙げると、クレーム18と16と2の組合せが、クレームの構造の点で、明瞭かつ明白に想定される。同じことが例えば、クレーム18と16と12の組合せ、又はクレーム18と16と5の組合せなどに適用される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
図1】試験デザイン。5回の受診と、導入期間、処置期間、及びウォッシュアウト期間を含む、12週間の試験。
図2】全試験期間中の患者のフローチャート。本物(Verum)=熱で失活させたビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001。
図3】「インテンション・トゥ・トリート(intention-to-treat)」(ITT)集団及び「パー・プロトコール(per-protocol)」(PP)集団の処置中の複合レスポンダー(十分な緩和レスポンダーを疼痛レスポンダーと組み合わせたもの)。
図4】両方の処置区間中における複合レスポンダー(十分な緩和レスポンダーを疼痛レスポンダーと組み合わせたもの)の経過。両方の処置区間中のビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001において有意により多いレスポンダー。
図5】処置中の十分な緩和のレスポンダー。
図6】週1の頻度での症状の緩和(1~7の尺度で記録)に対する、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001とプラセボの効果の比較。処置の第2週から処置終了までの、プラセボ群に対するビフィドバクテリウム・ビフィダム群における有意な改善。
図7】「インテンション・トゥ・トリート(intention-to-treat)」(ITT)集団及び「パー・プロトコール(per-protocol)」(PP)集団において、処置終了時に50%以上のIBS-SSSの改善を示した患者。
図8】「インテンション・トゥ・トリート(intention-to-treat)」(ITT)集団及び「パー・プロトコール(per-protocol)」(PP)集団において、ベースラインから処置終了までのスコア変化平均値で、プラセボと比較した、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001によるIB-SSS総スコア(0~500)の有意な減少。
図9】処置終了時の、ベースラインからのスコア変化平均値で、プラセボと比較した、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001による、毎日評価されたIBS症状の有意な減少。複合スコア1~4=4つの個々の症状スコア(SGA、疼痛、膨隆/膨満、尿意切迫感)の算術平均値。
図10】処置終了時の、ベースラインからのスコア変化平均値で、プラセボと比較した、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001による、週1の頻度で評価されたIBS症状の有意な減少(「インテンション・トゥ・トリート(intention-to-treat)」、ITT)。
図11】ベースラインから処置終了までのスコア変化平均値で、プラセボと比較した、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001による、SF-12総計及びメンタルヘルス総計の有意な増加(「インテンション・トゥ・トリート(intention-to-treat)」、ITT)。
【0082】
以下の実施例は本発明を説明する:
【0083】
実施例1:過敏性腸症候群患者における、熱で失活させたビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001の有効性を評価した、二重盲検、多施設、無作為化、及びプラセボ対照試験
1.1 試験集団
患者は、主任研究員から、及び広告によって採用された。試験プロトコールは、助言的意見を求めて、ハンブルクの医師会の倫理委員会に提示されている。ローマIII基準により過敏性腸症候群を有する18~65歳の被験者が含まれている。炎症性で器質的な消化管疾患、全身性疾患、がん、自己免疫疾患、糖尿病、乳糖不耐症又は免疫不全症の既往、腹部手術(虫垂切除術、ヘルニア手術、胆嚢摘除、又は帝王切開を除く)、55歳以上の患者について過去5年間以内にS状結腸鏡検査法又は大腸内視鏡検査の診断結果が陰性ではない、甲状腺機能亢進症と診断されている、少なくとも3カ月間の抗精神病薬の使用、又は試験開始前の少なくとも1か月間の間に全身への副腎皮質ステロイド、主要な精神障害、セリアック病、又は妊娠を示した個体は除外された。
【0084】
1.2 試験デザイン
試験は、前向き、多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照、2群間介入試験として実施された。試験期間全体を通じて、患者は、患者の日記を使用して、彼らの全体的な過敏性腸症候群の症状、並びに、個々の過敏性腸症候群の症状を毎日記録した。さらに、患者は、診療所で、全体的な症状及び個々の症状(2~5回目の受診時)及び生活の質(2~4回目の受診時)について問診を受けた。受診は、スクリーニング時、2週間の導入期間(無作為化)後、4週間の処置後(管理のための受診時)、8週間後(処置終了後)、及びさらなる2週間のウォッシュアウト期間の後(試験終了時)に実施された(図1)。
【0085】
患者は、書面によるインフォームドコンセントを提出した後、患者は、1回目の受診(0日目)時に、完全な病歴及び健康診断を含む、スクリーニング用検査の資格が与えられた。女性用の妊娠検査を含む、分析のための血液試料が中央研究所で採取された。患者は、試験期間全体を通して食習慣及び生活スタイル習慣を維持するように指導された。患者の日記が配られた。
【0086】
2回目の受診時(14日目)に、日記は医師によって再検討された。導入期間中の2日間に11段階の数値評価スケール(NRS)で少なくとも4以上の疼痛スコアと記録され、さらに他の全ての選択基準を満たし、かつ除外基準に全く違反しなかった、患者を1:1に無作為化して、熱で失活させたビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001又はプラセボのいずれかの投与を受けさせた。患者を、コンピューターで作成されたブロックランダム化リストに従って、ブロックサイズ4を有する処置群に割り当てた。ブロックサイズは、治験担当医師には伝達されず、割り当ては、患者及び施設のスタッフの両方に対して盲検的であった。8週間の介入期間中、患者は、熱で失活させた細菌を含む2つのカプセルを毎日、又は同じに見えるプラセボのいずれかを消費した。
【0087】
処置期の中頃に(3回目の受診時、42日目)、治験担当医師は患者と共に疾患の経過を考察し、処置の日記の最初の部分を集め再検討した。処置期間の終了時に(4回目の受診時、70日目)、治験担当医師は残りの処置の日記を再検討し集めた。
【0088】
処置を行なわないウォッシュアウト期間後(5回目の受診時、84日目)、治験担当医師はウォッシュアウト日記、並びに、未使用の試験薬及び空の箱を集め、服薬順守を確認した。さらに、完全な健康診断を実施し、血液試料を採取した。ビサコジル及びロペラミドはレスキュー薬物として許可された。試験薬の有効性に影響を及ぼし得るプロバイオティクス又は他の薬物は、許可されなかった。
【0089】
1.3 試験薬の調製
寄託番号DSM24514で寄託されたビフィドバクテリウム・ビフィダム株の生細胞を、タンパク質の豊富な液体増殖培地中で増殖させ、発酵容器中で熱失活させ、遠心分離にかけ、続いて凍結乾燥させ、粉砕し、ふるいにかけた。さらに、乾燥粉末の不活化細菌を賦形剤と混合し、コーティングされていないセルロースカプセルに約0.5×10個の細胞(ビフィドバクテリウム・ビフィダム株SYN-HI-001の非生菌)の量で充填した。プラセボカプセルは、同一に見え、マルトデキストリンを含有していた。
【0090】
1.4 評価項目の定義
前向きに定義された有効性の主要評価項目は、11段階の数値評価スケールで疼痛の30%以上の改善と、7段階のリッカート尺度で最良の3つの緩和カテゴリーの中の1つの達成との組合せとしてであり、処置レスポンダーとして認定されるためには、8週間の処置のうち少なくとも4週間においてこれらの両方の基準が満たされる。患者は、毎日、質問「ここ24時間の間に腹痛があったならば、この疼痛にどのような等級づけをしますか?」に答えるように頼まれた。可能な答えの範囲は0(疼痛なし)から10(想像できる最も強力な疼痛)であった。
【0091】
症状の緩和は、週1回、7段階のリッカート尺度(包括的改善評価尺度)で把握された。この尺度は、8週間の処置期間中に毎週、患者の日記において評価された。患者は、「試験薬を摂取する前にいつも感じていた具合と比べて、ここ7日間の間の症状(腹痛/不快感、排便習慣、及び他の過敏性腸症候群の症状)の緩和にどのように等級付けをしますか?に答えるように頼まれた。可能な答えの範囲は、1(非常に緩和した)から、2(かなり緩和した)、3(幾分緩和した)、4(変化せず)、5(幾分悪化)、6(かなり悪化)、7(非常に悪化)までであった。
【0092】
有効性の二次評価項目は、7段階のリッカート尺度で記録された(腹痛は、上記のような11段階の数値評価スケールで評価された)、「症状の主観的包括的評価(SGA)」及び過敏性腸症候群の単独の個々の症状、例えば「腹痛」、「膨隆/膨満」、及び「尿意切迫感」を含んでいた。個々の症状スコアをさらに組み合わせて、症状の主観的包括的評価(SGA)と3つの個々の症状スコアとの算術的平均値としての複合症状スコアとした。さらに、便通の回数の減少及び/又は増加、便の形状(ブリストル便性状スケールを介して評価される)、不完全な排便感、及び他の薬物の摂取を日記に毎日報告し、評価した。
【0093】
処置の開始時、最中、及び終了時、並びに、試験の終了時(2~5回目の受診時)、医師は、患者に、過敏症腸症候群の重症度スコアリングシステム(IBS-SSS)を介して、患者の過敏症腸症候群の症状の重症度に関する質問を行なった。スコアは、0~100の範囲の5つの視覚アナログスケール(VAS)に基づき、過去10日間における、症状「腹痛の重症度」、「腹痛の頻度」(過去10日間において疼痛を有した日数)、「腹部膨満の重症度」、「便通の満足度」及び「過敏症腸症候群による日常活動の制限」を含む。健康に関連した生活の質を、処置前、処置の最中、及び処置終了時に(2、3及び4回目の受診時)、SF-12質問票の使用によって評価した。
【0094】
試験期間中ずっと有害事象が記録され、3、4及び5回目の受診時に試験処置の耐容性の包括的評価が質問されている。耐容性は、「試験処置の副作用を考えるならば、全体的な耐容性についてどのような等級付けをしますか?」という質問を用いて5段階尺度で評価された。可能な答えの範囲は、1(非常に良好)から、2(良好)、3(まずまず)、4(満足できない)、5(悪い)までであった。バイタルサインを、毎回受診する毎に確認し、臨床検査値を、スクリーニングのための受診時、及び試験終了時に調べた。
【0095】
1.5 統計学的方法
1.5.1 サンプルサイズの計算
サンプルサイズの計算は、主要評価項目について推定されるプラセボ群と処置群の応答と、主要症状スコアについて推定される過敏性腸症候群の亜群間の差の両方に基づいていた。検出率80%で、350人の評価可能な患者のサンプルサイズが計算された。無作為化後の脱落率は15~20%であると推定されるので、412人の無作為化された患者を計画し、試験開始前に離脱する可能性を考えて507人が採用された。
【0096】
1.5.2 統計学的分析
この試験の主な目的は、十分な緩和のレスポンダー3と疼痛レスポンダーとの組合せレスポンダー率が、プラセボ群と比較して、ビフィドバクテリウム群において有意により大きいという仮説を証明することであった。主要評価項目は、11段階の数値評価スケールで疼痛の30%以上の改善と(疼痛レスポンダー)、7段階のリッカート尺度で最良の3つの緩和カテゴリーの中の1つの達成(十分な緩和のレスポンダー3)との組合せとして定義され、処置レスポンダーとして認定されるためには、8週間の処置のうち少なくとも4週間においてこれらの2つの基準が満たされていなければならなかった。試験センターによって層別化されたコクラン・マンテル・ヘンツェル検定が処置群の比較に使用され、P<0.05が統計学的に有意であると判断された。
【0097】
一次分析は、インテンション・トゥ・トリート(intention-to-treat)集団に基づき、ここでは全ての成功裡に無作為化された患者が含まれた。データの欠落している週は、自動的に無応答として数えられた。有効性の主要評価項目においてベースラインの記入しか行なわれなかった患者は、有効性の主要基準の評価において「ノンレスポンダー」と判断された。補助する目的で、追加のパー・プロトコール分析を実施した。
【0098】
二次評価項目を、入手可能なデータに基づいて、記述的に分析した。処置の差を検出するために、ウィルコクソン順位和検定を連続変数のために適用し、フィッシャーの正確確率検定をバイナリ変数のために適用した。全てのp値は両側である。有効性の二次評価項目は、処置中の症状の緩和の50%という法則(処置期間中の8週間のうち4週間において少なくとも改善、及びベースラインからの少なくとも1段階の減少として定義される改善)に基づいた応答を含んでいた。
【0099】
有害事象(AE)は、試験期間中ずっと使用される、試験開始時の現行バージョンを使用したICH国際医薬用語集を使用することによってコード化された。コード化はドイツバージョンに基づき、対応する英語バージョンは最終分析のために使用された。有害事象は、ICH国際医薬用語集の辞書の基本語(PT)に基づいて集計された。集計は、罹患患者並びに事象の絶対頻度及び相対頻度を含むだろう。
【0100】
全ての統計学的分析は、windows用SASバージョン9.5、SAS研究所、ケーリー、NC州、米国、を使用して実施された。
【0101】
1.6 結果
1.6.1 被験者
スクリーニングされた507人の患者から、443人の患者が、プラセボ(n=222)又は熱失活ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001(n=221)のいずれかの投与を受けるように成功裡に無作為化された。全ての無作為化患者を、インテンション・トゥ・トリート(ITT)分析及び有害事象分析した(n=443)。計377人の患者(187人のプラセボ及び190人のビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001)を、パー・プロトコール分析した(図2)。
【0102】
1.6.2 ベースラインの特徴
ベースラインの特徴及び人口統計は、2つの処置群間で良好なバランスであった。24.2%が便秘を主症状とする過敏性腸症候群(IBS-C)、40.0%が下痢を主症状とする過敏性腸症候群(IBS-D)、7.7%が混合型過敏性腸症候群(IBS-M)、28.2%がサブタイプ化されていない過敏性腸症候群(IBS-U)として分類され、ビフィドバクテリウム群とプラセボ群との間には有意差はなかった。
【0103】
平均して、患者は41.3歳であり、69.3%は女性であり、平均身長は171.9cmであり、平均体重は73.0kgであり、平均肥満度指数(BMI)は24.6であり、2つの処置群間には有意差はなかった(表1)。
【0104】
【表1】
【0105】
1.6.3 主要評価項目:複合レスポンダー(十分な緩和のレスポンダー3を疼痛のレスポンダーと組み合わせたもの)
主要評価項目は、8週間の処置のうち少なくとも4週間(50%の法則)における、疼痛の30%の改善と最良の3つの緩和カテゴリーの中の1つの達成との組合せとして定義された、複合レスポンダーであった。この定義に基づくと、ビフィドバクテリウム群の33.5%の患者(74/221)に複合応答が達成され、これに対してプラセボ群では19.4%の患者(43/222)であった。これは、試験薬を用いると1.7倍より高い成功率に等価である(95%信頼区間:1.3~2.4)。試験センターによって層別化されたコクラン・マンテル・ヘンツェル検定により、統計学的な有意差(P=0.00071)が判明した。正の結果が、パー・プロトコール分析によって確認された。熱失活ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001で処置された患者は、36.8%の複合応答を達成し、これに対して、プラセボで処置された場合は19.8%であった(マンテル・ヘンツェル検定を用いてP=0.0004)。これらの結果は非常に有意であり、プラセボよりも熱失活ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001の方が明らかに優れていることを示す(図3)。2つの処置区間(1~4週及び5~8週)の複合レスポンダーの経過の分析は、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001を用いての処置が、第一及び第二のどちらの処置区間においても、プラセボよりも有意に優れていたことを示した。1~4週目には、31.7%のビフィドバクテリウム群vs19.8%のプラセボ群(P=0.0047)、及び5~8週には39.4%のビフィドバクテリウム群vs29.7%のプラセボ群(P=0.0361)が、時間の50%において応答基準を満たした(図4)。
【0106】
1.6.4 二次評価項目
1.6.4.1 他の複合レスポンダー及び十分な緩和/症状の緩和
二次評価項目は、複合応答の「より厳しい」定義を含んでいた:8週間の処置のうち少なくとも4週間において、疼痛の30%の改善及び最良の2つの緩和カテゴリーの中の1つの達成。十分な緩和のレスポンダーのこの「より厳しい」定義を用いてさえも、この複合応答は、プラセボ群(7.7%)と比較して、ビフィドバクテリウム群(15.8%)の方が有意により高く、結果は、パー・プロトコール分析において確認された(ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001:17.9%vsプラセボ:7.5%;P=0.0031)。
【0107】
十分な緩和のレスポンダーのみの分析(別のレスポンダーと組み合わせない)により、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001を用いての処置における有意な利点がもたらされる。十分な3つの緩和の奏効率(8週間の処置のうち少なくとも4週間において最良の3つの緩和のカテゴリー)は、ビフィドバクテリウム群(すなわち本物の群)において60.18%であり、プラセボ群では僅か44.14%であった(P=0.0009)。また、十分な2つの緩和の奏効率(8週間の処置のうち少なくとも4週間において最良の2つの緩和のカテゴリー)は、プラセボ(11.26%)に比べて、本物の群(20.36%)の方が有意により高かった(P=0.0093)(図5)。
【0108】
別の二次評価項目は、症状の緩和の改善(平均スコアの減少)であり、これは、8週間の処置中に毎週、患者の日記に評価された。
【0109】
週1の頻度での症状の緩和の評価は、処置の第二週目(2週目)から開始して処置の終了(8週目)まで毎週、ビフィドバクテリウム群の患者において有意な利点を示した。処置終了時に、症状の緩和の平均スコアは、本物の群においては3.08であり、プラセボ群においては3.44であった(P=0.006)(図6)。
【0110】
1.6.4.2 過敏性腸症候群の重症度スコアリングシステム(IBS-SSS)
IBS-SSSは、ベースライン時(2回目の受診時)、4週間の処置後の管理のための受診時(3回目の受診時)、8週目の処置終了後(4回目の受診時)、及び10週目の試験終了時(5回目の受診時)において評価され、総スコアの範囲は0~500であった。処置終了時(8週目)に、IBS-SSSは、プラセボ群の患者と比較して(28.8%)、本物の群の有意により多くの患者(41.2%)において、50%以上改善され得る(P=0.0072)。結果は、パー・プロトコール分析において確認された(ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001:37.4%対プラセボ:25.1%;P=0.0109)(図7)。
【0111】
ベースラインから処置終了までのIBS-SSS総スコアの減少に関して、試験は、プラセボと比較して、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001の統計学的に有意な優越性を実証し、プラセボ群の総スコア-71.24と比較して、本物の群では-101.7という改善であった(P=0.0013)。ここでも、結果は、パー・プロトコール分析によって確認された(ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001:-102.11対プラセボ:-73.51;P=0.0048)。(図8)。下位尺度のうち3つ(各スコアは0~100の範囲である)(便通の満足度、疼痛を有する日数、及び日常生活に対する影響)は、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001に有利な有意差を示し、よって、症状に基づいたスコアにおいてプラスの処置効果のエビデンスが強化された。便通の満足度は、本物の群において-23.72改善され、これに対してプラセボ群では-16.62であった(P=0.0208)。疼痛を有する日数は、本物の群において-22.71改善され、これに対してプラセボ群では-14.35であった(P=0.0080)。日常生活に対する影響は、本物の群において-20.05改善され、これに対してプラセボ群では-14.15であった(P=0.0122)。IBS-SSSの残りの2つのパラメーターである腹痛の重症度及び膨満の重症度は、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001群の方が数字的により大きな減少を示した。
【0112】
1.6.4.3 過敏性腸症候群の症状の主観的包括的評価(SGA)、個々の症状、及び複合スコア1~4
二次評価項目である「SGA」、「腹痛」、「膨隆/膨満」及び「尿意切迫感」は、毎日、7段階のリッカート尺度で患者の日記において評価された(腹痛のみが、11段階の数値評価スケールで記録された)。ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001は、ベースラインから処置終了までに、SGAはプラセボ群の-0.54ポイントに対して-0.76ポイントの有意な減少(P=0.0192)、腹痛はプラセボ群の-0.93ポイントに対して-1.29ポイントの有意な減少(P=0.0112)、膨隆/膨満はプラセボ群の-0.50ポイントに対して-0.69ポイントの有意な減少(P=0.0456)を示した。複合スコア1~4が、過敏性腸症候群の症状について計算された(SGA、腹痛、膨隆/膨満、及び尿意切迫感)。ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001群の患者は、プラセボに対して処置から有意な利点を得た(本物における、ベースラインから処置終了時までの変化:-1.21ポイント;プラセボ:-0.89ポイント;P=0.0256)(図9)。
【0113】
さらに、「不快感」及び「便通に関連した疼痛」の症状が、毎週、7段階のリッカート尺度で患者の日記において評価された。ここでも、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001は、ベースラインから処置終了時までに有意な減少を示した。不快感は、プラセボ群の-0.92ポイントに対して、-1.35ポイント減少し(P=0.0015)、便通に関連した疼痛は、プラセボ群の-0.46ポイントに対して、-0.88ポイント減少した(P=0.0231)(図10)。
【0114】
1.6.4.4 健康に関連した生活の質(SF-12)
SF-12総スコアの評価は、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001群において生活の質の有意な向上を示した。SF-12総計は、ベースラインから処置終了時までに、ビフィドバクテリウム群において5.82、プラセボ群において4.06改善した(P=0.0382)。メンタルヘルスの総計は、ベースラインから処置終了時までに、ビフィドバクテリウム群において3.31、プラセボ群において1.66改善した(P=0.0309)。身体の健康の総計は、プラセボ(0.8965)と比較して、本物の群(2.51)において数字的により大きく改善したが、差は有意には達しなかった。過敏性腸症候群患者は、身体的よりもむしろ精神的に影響を受けているので、この結果は驚くべきことではない(図11)。
【0115】
1.6.4.5 亜群の分析
亜群の分析により、対応する過敏性腸症候群の種類に特異的である、以下の症状の改善が判明した:
【0116】
1.便の頻度(IBS-C):
IBS-C患者では、便通の頻度についてのベースラインから処置終了までの変化平均値は、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001に有利な有意差を示した。ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001では、週に1.66回の便通という増加平均値が観察され、これに対して、プラセボ群では週に-1.01の便通の減少が観察された(P=0.0220)。
【0117】
2.軟便形状(IBS-D):
IBS-D患者の亜群では、ブリストル便性状スケール(BSFS)(1=便秘から7=下痢まで)を介して、患者の日記に毎日評価された便の粘度は、ベースラインから処置終了までに、プラセボ群(-0.48ポイント)と比較して、より硬い便の粘度の方へと、本物の群(-0.68ポイント)の方が有意により改善した(P=0.0939)。
【0118】
3.便通の満足度(IBS-M及びIBS-U):
IBS-M及びIBS-Uの亜群の両方において、便通の満足度において、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001群に有利な有意差が見られた。処置終了時に、ベースラインからの変化平均値の差(本物-プラセボ)は、IBS-Mでは-27.41[95%信頼区間:-49.26;-5.55]、IBS-U亜群では-13.71[95%信頼区間:-24.66;-2.76]であった。
【0119】
1.6.4.6 有害事象
試験薬に関係があると疑われる有害事象は15件しか報告されず、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001では7件、プラセボ群では8件であった。ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001対プラセボの副作用プロファイルに有意差は検出できなかった(表2)。
【0120】
【表2】
【0121】
大半の有害事象の重症度は、軽度から中等度であり、対症療法後に回復した。大半の事象は、消化管の症状に関連し、基礎疾患に随伴する症状であると考えられ得る。
【0122】
2人の患者のみが、深刻な有害事象(急性冠症候群及び大腿骨頸部骨折)を報告し、これらはどちらも処置に関連していないと評価され、どちらもプラセボ群において起こった。この試験において死亡は報告されなかった。
【0123】
過敏性腸症候群の症状のために摂取された薬物は、2つの処置群の間で有意差はなく、試験処置の中止も同様であった。臨床検査値も、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001による安全性のリスクを全く示唆していない。バイタルサイン及び健康診断の評価により、異常はないことが判明した。処置終了時における耐容性の包括的評価は、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001の患者の90.5%、プラセボ群の患者の86.0%において(全試験集団の88.3%;差は有意ではない)非常に良好又は良好と評価された。
【0124】
全体的に、試験は良好な耐容性を実証し、過敏性腸症候群の患者における熱失活ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001の使用の安全性のリスクを全く示唆しなかった。
【0125】
本明細書において提供された試験は初めて、ビフィドバクテリウム・ビフィダムSYN-HI-001株の非生菌が、過敏性腸症候群の処置に適したインビボでの有効性を有することを示す。プロバイオティクス組成物、すなわち、生菌に基づいた組成物とは異なり、これらの本発明の非生菌はさらに、例えば、Besselink et al., 2008において深刻な病気の被験者について以前に報告されている、有害な副作用を伴うリスクの低減をもたらす。したがって、本発明の非生菌並びにその断片は、胃腸障害の処置のための有望かつ安全で新規なツールを提供する。
【0126】
さらなる参考文献
【表3】

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11