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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】医療用コネクタ
(51)【国際特許分類】
   A61M 39/04 20060101AFI20240816BHJP
   A61M 39/26 20060101ALI20240816BHJP
   A61M 39/10 20060101ALI20240816BHJP
   A61M 5/14 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A61M39/04 100
A61M39/26
A61M39/10 120
A61M5/14 580
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022020990
(22)【出願日】2022-02-15
(65)【公開番号】P2023118184
(43)【公開日】2023-08-25
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000153823
【氏名又は名称】株式会社八光
(72)【発明者】
【氏名】内山 周
【審査官】川上 佳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0039802(US,A1)
【文献】特表2002-515311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/04
A61M 39/26
A61M 39/10
A61M 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輸液ラインに雄テーパー部を接続するためのコネクタであって、
前記雄テーパー部の挿抜により輸液ラインへの通路を開閉する開口部を備え、弾性部材よりなる弁部材と、
前記弁部材に上面及び外周面の一部を固接した硬質部材よりなるハウジングにより構成し、
前記弁部材により、前記ハウジングにキャップを冠着した態様に形成され、
前記コネクタに雄テーパー部を挿着し、輸液ラインへの通路が形成されたとき、前記雄テーパー部は前記弁部材の上面とのみ接触し、前記開口部に侵入しないことを特徴とする医療用コネクタ。
【請求項2】
前記弁部材の上面中心部に、前記雄テーパー部の挿着により通孔を形成する開口設定部として針孔痕を備える請求項1の医療用コネクタ。
【請求項3】
前記開口設定部として備える針孔痕は、先端が円錐形状の針管の貫通により形成される請求項2の医療用コネクタ。
【請求項4】
前記弁部材の上面は、中心部分に形成され前記雄テーパー部の挿入のさいに該雄テーパー部の先端と当接する被押圧部と、該被押圧部の周りに形成される上面辺縁部からなり、
前記被押圧部は前記上面辺縁部に対し肉厚に形成され、
前記ハウジングの上面の開口部と前記被押圧部の周面との間には隙間が設けられる請求項1乃至3のいずれかの医療用コネクタ。
【請求項5】
前記ハウジングの上面の開口部の内径は、3.6mm以上、3.9mm以下に形成される請求項1乃至のいずれかの医療用コネクタ。
【請求項6】
前記弁部材とハウジングは二色成形により一体に形成される請求項1乃至のいずれかの医療用コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸液ラインに設けられる医療用コネクタに関し、詳しくは、輸液ラインにシリンジ等の雄テーパー部を接続するための医療用コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、輸液ラインに別の薬液を混注するさい、注入針や活栓を用いずに、シリンジ等注入器具の雄テーパー部を接続して用いるゴム弾性部材の弁を備えたコネクタがある。このコネクタは、弁に雄テーパー部を挿入することで弁に設けるスリットなどの開口部が押し広げられ流体通路が確保され、テーパー部を抜くことで弁の開口部が元の閉じた状態となり通路が閉塞されるものとなっている。
【0003】
従来このようなコネクタとしては、例えば、特許文献1のような中央部にスリットを有するディスク状の弁部材を、ハウジングの内周面に内方向に突出して設けられた台座上に載置し、該弁部材の上面辺縁部にハウジングと接合したリング部材を設けて、リング部材とハウジングで弁部材の周囲を挟持してなる医療用コネクタや、前記同様にハウジング内に設ける弁部材の辺縁部をハウジングで上下から挟持してなるコネクタであって、弁部材に設けるスリットを放射状に形成することで、雄テーパー部の外周面とスリットの内面の摩擦抵抗が低減し、ハウジングからの弁部材の脱落が防止され、安定保持できるとした特許文献2のような医療用コネクタ等々が提案されている。
【0004】
前記コネクタは、雄テーパー部等により弁部材のスリットを押し開き、貫通することにより輸液ラインとの通路が形成させるものであるが、弁部材を貫通し、雄テーパー部の先端が流体通路内と接触すると、該テーパー部に付着した細菌やゴミなどで通路内を汚染する可能性があることから、ハウジング内にゴム弾性の弁部材を配置するのに、該ハウジング内に弁部材の逃げ空間(弁部材を軸方向に逃がす空間)および間隙(弁部材を周囲方向に逃がす空間)が形成されており、雄テーパー部が弁部材を押圧してコネクタに接続されたとき弁部材が変形して、スリット部が開口するとともに、弁部材の一部が逃げ空間および隙間に入り込むことで、該弁部材の押圧面への押力が分散され、押圧面に過度な力が掛からないため、雄テーパーの先端が弁部材を貫通せず、結果、該先端部が流体通路内とほぼ接触することがないとした特許文献3のコネクタがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-011820号公報
【文献】WO2014/046271号公報
【文献】特開2002-035140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献3の器具によれば、雄テーパー部で弁部材の上面を押し込み、弁部材を押しつぶすとき、弁部材が下方および外方に伸び、スリットが開き、開口部が形成されるが、弁部材の押圧面には大きな力が掛からずに弁を押し下げるに留まり、シリンジの先端面はスリット内に入り込むことがなく、ほぼ弁部材の上表面のみに接触した状態が保たれる。このため、雄テーパー部表面は、ほとんど輸液ラインの薬液に接触することがなく、流体通路内を衛生的に保つことができる。しかし、弁部材の周りに空間が多く、雄テーパー部の着脱に対する変形の自由度が大きいことから、弁部材が常に意図する安定した形態に変形されるかの懸念がある。また、薬液等の注入時あるいは注入後に、薬液の残液が間隙等の空間に入り込み残ってしまう可能性があり、再度の注入のさい等に輸液ルート内に細菌等の汚染を広げてしまうことが懸念される。
【0007】
一方、医療器具業界では、医療用コネクタの誤接続による医療事故の事例が国内外で報告されている。これは、これまで利便性が優先され、輸液等のすべての用途で同一のコネクタ規格(ルアーテーパーによる接続)が用いられたことに由来することから、用途により、例えば、経腸栄養ラインと輸液ラインに用いるコネクタが物理的に接続できないように基準を改正するなどの安全性を優先した対応がなされている。そして、近年、このコネクタの誤接続を防止するため神経麻酔分野、経腸栄養分野等において国際規格の制定が進められ、段階的な誤接続防止コネクタの導入が決定された。特に、神経麻酔分野においては、既に新規格(ISO80369-6)への切り替えが行われており、新規格に適合する各種コネクタの提供が急務となっている。
【0008】
この神経麻酔分野の新規格は、旧規格のルアーテーパーに比較して小口径のテーパーが採用されており、また、雄コネクタのテーパー部の周囲にはカラーを設けることが必須要件とされることから、この規格に適合する雌側のコネクタにおいても適合する小口径の構造が求められているが、単に、従来構造のコネクタのテーパー嵌合部を小さくしたもので は、強度等の構造面や製造上の問題があり、そのまま適用することが難しい。
【0009】
例えば、従来の特許文献1、2のコネクタは、弁部材をハウジングで保持するのに周面の辺縁部で上下あるいは両側面から挟持する構成であり、この構成を新規格のコネクタに採用すると、サイズが小さくなることで弁部材とハウジングの接続部も小さくせざるおえないため、物理的強度や製造が難しくなったり、接続部の強度が弱まったりすることが懸念される。また、引用文献3のコネクタでも間隙等の空間が必要となるなどサイズダウンには同様の懸念がある。また、小口径の弁部材の開口部としてスリットを設けることは、相対的な弾性部材の減少等により押圧に対する伸びが不足し、開口部となるスリットが破損しやすくなるなどの不都合が生じる懸念が考慮される。
【0010】
そこで本発明は、輸液ラインにシリンジ等の雄テーパー部を接続するのに用いられるコネクタにおいて、コネクタへの雄テーパー部の接続により流体通路を汚染することがなく、また、新たな小口径の規格に対しても安全かつ確実に適用できる医療用コネクタを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の医療用コネクタは、輸液ラインに雄テーパー部を接続するためのコネクタであって、前記雄テーパー部の挿抜により輸液ラインへの通路を開閉する開口部を備え、弾性部材よりなる弁部材と、前記弁部材に上面及び外周面の一部を固接した硬質部材よりなるハウジングにより構成し、前記弁部材により、前記ハウジングにキャップを冠着した態様に形成され、前記コネクタに雄テーパー部を挿着し、輸液ラインへの通路が形成されたとき、前記雄テーパー部は前記弁部材の上面とのみ接触し、前記開口部に侵入しない構成とした。
【0012】
次の各部は、次の通り形成されることが望ましい。
・前記弁部材の上面中心部に、前記雄テーパー部の挿着により通孔を形成する開口設定部として針孔痕を備える。
・前記開口設定部となる針孔痕は、先端が円錐形状の針管の貫通により形成される。
・前記ハウジングの上面の開口部の内径は、3.6mm以上、3.9mm以下に形成される。
・前記弁部材とハウジングは二色成形により一体に形成される。
【0013】
また、前記弁部材の上面は、中心部分に形成され前記雄テーパー部の挿入のさいに該雄テーパー部の先端と当接する被押圧部と、該被押圧部の周りに形成される上面辺縁部からなり、前記被押圧部は前記上面辺縁部に対し肉厚に形成され、前記ハウジングの上面の開口部と前記被押圧部の周面との間には隙間が設けられる。
【0014】
(作用)
本手段によると、弁部材によりハウジングにキャップを冠着した態様に形成されており、また、ハウジングの上面及び外周面が固接されていることでハウジング内に弁部材を保持する機構を必要としないため、小口径のコネクタの形成を容易なものとすることができる。また、雄テーパー部を弁部材に押し込んで挿着するさい、弾性部材よりなる弁部材は、ほぼ弁の軸方向にのみに伸ばされることになり、押圧による弁部材の変形は安定したものとなる。
【0015】
また、前記雄テーパー部の挿着により開口する開口設定部を針孔痕とすることにより、輸液ラインへの通路が必要以上に大きく開口されることがなく、テーパー先端部に対して針孔痕は極めて小さく設定できることで、該雄テーパー先端部は弁部材の上面を押圧するだけで、該先端部が直接開口設定部内に接触することがない。更に、針孔痕の形成に、先端に円錐形状の針管を用いることにより、通孔が円形状となることで、雄テーパー部の押圧により開口したとき、開口部全体に均等な押圧かかり、スリットの両端部のように裂けやすい部分が形成されないため、弁部材の損傷のリスクが低減される。
【0016】
ハウジングの上面の開口部の内径を3.6mm以上、3.9mm以下とすることで、新規格の神経麻酔分野のコネクタを接続保持可能で、また、ルアーテーパー規格のコネクタ及び他の規格のコネクタの雄テーパー部等の接続を防止することができる。
【0017】
弁部材とハウジングを二色成形で一体に形成することで、前記ハウジングの上面及び外周面の一部が確実に弁部材の対応接続部位と固定することができ、雄テーパー部による弁部材への押圧によっても接続部が外れる懸念がない。また、ハウジングへの弁部材の固定に、挟持部分等他の手段を必要としないため構造が簡易で、製造も容易となる。更に、コネクタの接続部を細径に形成可能なことで、新規格に求められる小口径のコネクタに適用することができる。
【0018】
前記手段により構成されるコネクタに雄テーパー部を挿着し、輸液ラインへの通路を形成したとき、該輸液ラインへの通路内に異物の付着や汚染の可能性がある雄テーパー部の先端面を接触させないことで、輸液ライン内を不潔にすることがなく、また、雄テーパー部を抜去した後に残液が残る可能性のある部位が、雄テーパー部との接触面となる平面の弁部材上面のみであるため、容易に除去、除菌が可能で、清潔が維持できることで再度の雄テーパー部の接続などのさいも輸液ライン内を汚染することがない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、輸液ラインにシリンジ等の雄テーパー部を接続するのに用いられるコネクタにおいて、該コネクタへの雄テーパー部の接続により輸液ライン内を汚染することがなく、また、雄テーパー部の接続を安全、確実に可能で、かつ、構成や製造が容易な新たな神経麻酔分野に求められる小口径コネクタ規格に適用した医療用コネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態の一例を示す医療用コネクタの構成を示す断面図。
図2】前記形態の医療用コネクタを取付けた、輸液ラインの中途に設けられる分岐管を示す全体構成図。
図3】前記分岐管の正面及び上面を示す一部断面構成図。
図4】前記形態の医療用コネクタを取付けた、プラグインタイプのコネクタを示す一部断面正面図及び上面図。
図5】前記実施の形態の分岐管への雄テーパー部の挿着の様子を示す模式図。(接続前)
図6】前記実施の形態の分岐管への雄テーパー部の挿着の様子を示す模式図。(接続中)
図7】前記実施の形態の分岐管への雄テーパー部の挿着の様子を示す模式図。(接続後)
図8】神経麻酔分野の小口径コネクタの国際規格(ISO80369-6規格)の雄テーパーの規格サイズを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の医療用コネクタの実施の形態について図面を参考に詳細に説明する。
本例の医療用コネクタは、例えば、長時間連続して薬液等を注入する輸液ラインに別の薬液をワンショットで注入する混注に用いられるコネクタで、輸液ラインの主ルートの中途に、シリンジ等の雄テーパー部を接続するため分岐ラインを備えたコネクタとして構成される。使用される薬液や用途は特定するものではないが、本例では、麻酔薬の混注に特に好適で、サイズや構造は、神経麻酔分野の小口径コネクタの国際規格ISO80369-6に適合した雄テーパー部を挿抜可能な雌コネクタとして形成された。
【0022】
本発明の実施の形態を説明する前に、本例のコネクタと接続可能なISO80369-6に規定する雄テーパー部のサイズについて簡単に説明する。本規格の雄テーパー部には、周囲に雌テーパー部との接続をネジにより確実にするロック機構(ロックリング)を備えたロック式コネクタと、雄テーパー部の周囲にロック機構を持たないカラーを設けるスリップ式コネクタが規格されているが、ここでは、代表例としてスリップ式コネクタの例についてのみ記載する。なお、本発明のコネクタが、ロック式コネクタを除外するものではない。
【0023】
図8は、小口径(スモールボア)コネクタのひとつとして規定される神経麻酔分野のコネクタに関する国際規格ISO80369-6のスリップ式雄コネクタを示している。本規格のコネクタ(雄テーパー)40は、雄テーパー部41と、該テーパー部41の周囲に設けるカラー42とからなり、雄テーパー40の各部のサイズは次の通りである。
・テーパー角度5/100。
(以下、単位はmm、ミニマム値(公称値)マキシマム値の順で記載)
・カラー42からのコネクタ先端(雄テーパー部41)の陥凹又は突出-4(0)+4。
・雄テーパー先端部から0.5mm(基準寸法)位置における雄テーパー先端外径(a)3.17(3.21)3.25。
・雄テーパー先端内径(b)-(1.15)2.3。
・雄テーパー先端部から6.5mm(基準寸法)位置における雄テーパー大端外径(c)3.45(3.51)3.57。
・内側カラー径(d)6.75(6.875)7.0。
・雄テーパー先端からのコネクタ長(g)8.0(8.3)―。
・コネクタの流体ルーメンの内径(f)―(1.15)2.3。
・カラー外側形体の外周面を包囲する最小円筒体の径(e)9.8(10.5)11.5。
となっている。
【0024】
対して、ルアーテーパーの規格(ISO80369-7)の各部のサイズは次の通りである。
・テーパー角度6/100。
・雄テーパー先端部から0.75mm(基準寸法)位置における雄テーパー先端外径3.97(4.021)4.07。
・雄テーパー先端内径―(2.1)、2.9。
・雄テーパー先端部から7.5mm(基準寸法)位置における雄テーパー大端外径4.376(4.426)4.476。
・雄テーパー長7.5(8.4)10.5。
となっており、新たな神経麻酔分野の規格(ISO80369-6)のテーパーは、ルアーテーパーと比較して、雄テーパー部の外径が先端で約0.8mm、大端で約0.9mm細径となり、ロック機構を備えていない雄テーパーであってもテーパー部とほぼ同じ高さ(0±0.4mm以内)のカラーが設けられる規格となっている。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態の一例を示す医療用コネクタの構成断面図、図2は前記医療用コネクタが取り付けられた分岐管コネクタの全体構成図、図3は前記分岐管コネクタの一部断面正面(B)及び上面図(A)を示している。
本形態の医療用コネクタ(雌コネクタ)10は、前記のとおり、輸液ラインの中途に設ける分岐管コネクタ20の側管側に取付けられる弁付きのコネクタで、シリンジ等薬液注入器具の雄テーパー部41の挿抜により輸液ラインへの通路を開閉する弁部材11と、該弁部材11を先端側にキャップを冠着した態様で固接したハウジング12とにより構成される。
【0026】
弁部材11は、イソプレンゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、熱可塑性エラストマー等の伸縮性に富んだゴム弾性を備えた材質(本例においては、スチレン系エラストマー)から選択され、ほぼ平面状に形成される弁部材11の上面と、側面となる弁周面112により円筒キャップ形状に形成される。そして、前記上面の中心部分をテーパー部との当接部となる被押圧部111として上面辺縁部より厚く形成され、その中心には雄テーパー部40を挿着したさいに通孔を形成する針孔痕13が設けられる。そして、被押圧部111より薄く形成される辺縁部は円形の溝形状に形成され、後記するハウジング20の先端側と嵌合し、ハウジング上面123との固接部となる。一方、弁周面112は、前記上面辺縁部の溝部分とほぼ同じ厚さで筒状に形成され、その内面がハウジング12との固接部となる。
【0027】
前記被押圧部111の中心部に設ける開口設定部となる針孔痕13は、円筒状に形成される貫通孔痕で、自然状態では弁部材11の弾性により閉塞され、輸液ラインの気密を保持しており、被押圧部111への雄テーパー部41の押圧、挿着により弁部材11が伸びて変形し、針孔痕13が開口して輸液ラインへの通路となる。弁部材11への針孔痕13の形成は、先端が円錐の針管を被押圧部111の中心に貫通させることで形成され、本例においては、径0.76mmの円錐ポイントの針管が用いられた。
【0028】
ハウジング12は、形状を保持可能な硬質樹脂、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネイト、ポリスチレン、ポリアセタールなど熱可塑性樹脂等(本例においては、ポリプロピレン)により複数の段差を設けた円筒状に形成される。ハウジング12の先端側筒部121は、弁部材11が冠着される細径側で、弁冠着部122は、弁部材11の弁周面112の厚さの分だけ肉薄に形成され、弁部材11が冠着されると段差の無い同じ外径の円筒となるように形成される。また、先端の辺縁部分が僅かに内側に突出してハウジング上面123が形成される。該先端側筒部121は、挿着される雄テーパーの形態に適合したサイズに形成されれば良いが、本例においては、前記小口径の雄テーパー41の規格に適合してハウジング12の先端部分の内径を、該規格の雄テーパー部41の外径のMax寸法となる3.570mmが通過可能な3.6mm以上、雄ルアーテーパー規格のMin寸法となる3.97mmが挿入できない3.9mm以下の範囲に形成される。(本例における具体的な先端部内径3.6mm、先端部以外の内径4.0mm)また、ハウジング12の先端側筒部121外径(弁冠着部122は、弁部材11を冠着したときの外径)を小口径の雄テーパー41の規格のカラー42内に収まるように、該規格のカラー42内径のMin値となる6.75mmより小さく形成する。(本例における具体的な外径6.2mm)更に、細径内筒部の内腔空間14の深さは、小口径の雄テーパー規格のテーパーの挿着長のMax値6.5mm程度より大きく設定される。(本例における具体的な深さ7.5mm)
【0029】
一方、ハウジング12の基側筒部124は、分岐管コネクタ20の後記する側管壁25に嵌着する太径側で、端部の辺縁部が僅かに内側に突出してハウジング下面が形成される。該基側筒部124は、嵌着する側管の形態に適合したサイズに形成されれば良いが、本例においては、後記する分岐管コネクタに適合して、内径を9.1mm、外径10.5mm、内腔の深さ5.4mmとした。前記先端側筒部121と基側筒部124に段差を設けることにより、雄テーパー部41を挿着するさいに、深く挿入すると該段差の肩部125とテーパー部のカラー42が当たることによりテーパー部の過剰な挿入を防止することができる。
【0030】
そして、前記弁部材11は、ハウジング12に冠着されるが、ハウジング12の先端部となる上面部123と、弁部材11の肉厚に形成された被押圧部111の周囲には、僅かに隙間15が設けられており、雄テーパー部40による押圧により、わずかに周面側にも伸びることができる逃げ空間となっている。また、弁部材11とハウジング12は接着等により冠着することもできるが、前記弁部材11を形成するスチレン系エラストマーとハウジング12を形成するポロプロピレンを二色成形により一体となるように形成することで、前記弁部材11の上面辺縁部の裏面とハウジング上面123、及び、弁部材周面112の内面とハウジングの弁冠着面122が、雄テーパー40の押圧によってもずれたり破損したりすることがない固着された構造となる。
【0031】
前記の通り形成された雌コネクタ10が、分岐管コネクタ20の側管ルート27を形成する側管壁25に嵌着される。本例の分岐管コネクタ20も前記した神経麻酔分野の小口径コネクタの規格(ISO80369-6)に適用して形成されており、その構成は、主管ルート26と分岐管ルート27を含む分岐管本体21と、主管ルートの一方側に設ける小口径規格の雄テーパー部22と、他方側に設ける小口径規格の雌テーパー部24と、分岐管本体21で分岐された側管ルートを形成する側管となる側管壁25により構成し、前記雄テーパー部22には対応する雌テーパー部を固定するロックリング23が取り付けられた。
【0032】
そして、前記雄テーパー部22、雌テーパー部24には各々対応する雌テーパー、雄テーパーを備えたコネクタを接続したチューブ等が接続され、ロックリング23により固定し、側管壁25には本発明の雌コネクタ10が接着等により接続される。
【0033】
図4は、本発明の医療用コネクタ10を接続したプラグインタイプのコネクタの正面図(B)及び上面図(A)を示している。
本例のコネクタは、前記のように輸液ラインの分岐部のみに接続されるものではなく、分岐部を含む対応する雌テーパー部に接続して注入口として使用できるプラグインコネクタ30で、前記分岐管コネクタ20と同様に神経麻酔分野の小口径コネクタの規格(ISO80369-6)に適用して形成される。該プラグインコネクタ30は、該規格に適合するロック32付きの雄テーパー部31と、該雄テーパー部31の基部に設ける本発明の雌コネクタ10との接続部33とにより構成し、前記分岐管コネクタ20と同様に、該接続部33に本発明の雌コネクタ10が接着剤等により接続される。
【0034】
図5図7は、本発明の医療用コネクタに神経麻酔分野の小口径コネクタ規格(ISO80369-6)に適合する雄テーパー部を挿着する様子を示す模式図で、図5が挿着前の状態、図6が挿着中の様子、図7が挿着された状態を示している。
【0035】
本雌コネクタ10にシリンジ50の雄テーパー部41を接続する前、弁部材11に設ける開口設定部となる針孔痕13は閉塞された状態にあり、輸液ラインを確実に気密状態に維持している。
【0036】
本雌コネクタ10の弁部材11の被押圧部111に雄テーパー部41の先端を押し込むと、弁部材11が弾性により伸び、ハウジング12の内腔空間14に押し下げられ、被押圧部11の中心部に設けられた針管痕13が徐々に押し広げられ開口していく。
【0037】
本雌コネクタ10に、更に雄テーパー部41を押し込み、テーパーのカラー42がハウジング12の肩部125に接触する程度まで押し込まれ完全に挿着されると、弁部材11の被押圧部111は、更に伸びてハウジング12の内腔空間14に押し込まれ、針孔痕13が周囲に引っ張られ開口し、開口部131として輸液ラインとの通路が形成される。その時、雄テーパー部41の先端開口部が、開口した針孔痕13開口部131より大きく形成されていることで、テーパーの先端面は弁部材11の被押圧部111の上面を押圧するのみで輸液ラインと接触することがない。
【0038】
本実施の形態の医療用コネクタによると、弁部材11をハウジング12にキャップ状に冠着する構造を採ることで、ハウジングに弁部材を取付ける構造として該ハウジングに挟持部等を必要としないため、雄テーパー部との挿着部を小さく細径に形成することができる。また、弁部材11とハウジング12の接続を二色成形とすることにより、前記のような冠着構造でも部材間の固定を確実にすることができる。これにより、従来よりも小口径のテーパー規格となる、神経麻酔分野のコネクタ規格(ISO80369-6)の雄テーパー部に安全に、かつ、確実に適用することができる。
【0039】
また、弁部材11に雌テーパー部41を挿着したさいに開口する開口部131が、雄テーパー部41の開口部より小さな径の円形形状に形成されることにより、開口部131開口のさい針孔痕13の周面に掛かる力が均等となり、また、スリットの端部のように強度的に弱い部分がないことから、挿着のさいの大きな押圧に対しても弁部材11の破損のリスクが小さい。また、薬液ラインの一部となるハウジング内腔空間14や弁部材11の開口部131の面に、不潔部となる可能性が有る雄テーパー部41の先端面を含め表面部分が物理的に接触することがないことで、薬液ラインを汚染することがない。また、薬液注入後などに汚染原因となる残液が付着してしまう可能性がある部位が、ほぼ平面に形成される弁部材11上面に限られることで、残液除去や除菌等がしやすく、注入口として複数回の利用するさいにも感染等のリスクを小さくすることができる。
【符号の説明】
【0040】
10. 医療用コネクタ
11. 弁部材
111.被押圧部
112.弁周面
12. ハウジング
121.先端側筒部
122.弁冠着部
123・ハウジング上面
124.基側筒部
125.肩部
13. 針孔痕
14. 内腔空間
15. 隙間
20. 分岐管コネクタ
21. 分岐管本体
22. (分岐管)雄テーパー部
23. ロックリング
24. (分岐管)雌テーパー部
25. 側管壁
26. 主管ルート
27. 側管ルート
30. プラグインコネクタ
31. (プラグ)雄テーパー部
32. ロック
33. 接続部
40. 規格の雌コネクタ(ISO80369-6)
41. 雄テーパー部
42. カラー
5. シリンジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8