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  • 特許-押出成形用ダイ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】押出成形用ダイ
(51)【国際特許分類】
   B29C 48/31 20190101AFI20240816BHJP
   B29C 48/25 20190101ALI20240816BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20240816BHJP
【FI】
B29C48/31
B29C48/25
B29C48/92
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022141303
(22)【出願日】2022-09-06
(65)【公開番号】P2024036815
(43)【公開日】2024-03-18
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591136883
【氏名又は名称】株式会社城北精工所
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】前島 康浩
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-070235(JP,A)
【文献】特開2013-202794(JP,A)
【文献】特開平08-224769(JP,A)
【文献】中国実用新案第207156414(CN,U)
【文献】特開平10-211641(JP,A)
【文献】特開平03-007321(JP,A)
【文献】米国特許第04726752(US,A)
【文献】特許第7142972(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品の製造に用いる押出成形用ダイであって、
溶融樹脂を吐出するリップ部を先端に有する一対のブロックと、
当該リップ部のリップ幅を制御するモータと、
当該一対のブロックと当該モータとの間に配置した、当該一対のブロックから当該モータへの伝熱を遮蔽する断熱性部材とを備え、
当該断熱性部材は、当該一対のブロックのうちの一方のブロックとその一端部とが接続した、アーム部材及び連結プレートと、当該連結プレートの他端部に接続したリップ幅調整用ボルト接続部材とからなり、
当該アーム部材は、押出成形用ダイ本体において当該連結プレートよりも外側に位置し、且つその他端部は当該モータと接続しており、
当該リップ幅調整用ボルト接続部材には、当該モータと接続し、且つ当該モータの駆動力により回動可能なリップ幅調整用ボルトが、負荷軽減部材を介して接続しており、
断熱性部材には、内部に少なくとも一つのU字状冷媒通路が備わり、
各U字状冷媒通路は、各断熱性部材をその長手方向に向かって一端部の外表面まで貫通する一対の直線状孔と、当該一端部の近傍で当該一対の直線状孔と連通しつつ、その一端又は両端が当該各断熱性部材の外表面に開口する連通穴とを備え、当該各断熱性部材の当該一端部における当該一対の直線状孔の開口部と、当該連通穴の開口部とに栓部材を装着した構成であることを特徴とする押出成形用ダイ。
【請求項2】
樹脂成形品の製造に用いる押出成形用ダイであって、
溶融樹脂を吐出するリップ部を先端に有する一対のブロックと、
当該リップ部のリップ幅を制御するモータと、
当該一対のブロックと当該モータとの間に配置した、当該一対のブロックから当該モータへの伝熱を遮蔽する断熱性部材とを備え、
当該断熱性部材は、当該一対のブロックのうちの一方のブロックとその一端部とが接続した、アーム部材及び連結プレートと、当該連結プレートの他端部に接続したリップ幅調整用ボルト接続部材とからなり、
当該アーム部材は、押出成形用ダイ本体において当該連結プレートよりも外側に位置し、且つその他端部は当該モータと接続しており、
当該リップ幅調整用ボルト接続部材には、当該モータと接続し、且つ当該モータの駆動力により回動可能なリップ幅調整用ボルトが、負荷軽減部材を介して接続しており、
断熱性部材には、内部に少なくとも一つのU字状冷媒通路が備わり、
各U字状冷媒通路は、各断熱性部材に備わるプレート部をその長手方向に向かって貫通し、その一端部の外表面を突き抜けて配置したパイプ部材による一対の直線状孔と、当該一端部の近傍で当該パイプ部材と接続するU字状の配管継手とにより構成したことを特徴とする押出成形用ダイ。
【請求項3】
前記負荷軽減部材は回動ナットであり、当該回動ナットの回動外周面に対して略直交する方向に前記リップ幅調整用ボルトが貫通螺合している請求項1又は請求項2に記載の押出成形用ダイ。
【請求項4】
エアージェット冷却装置のノズル先端を前記モータの近傍に配設した請求項1又は請求項2に記載の押出成形用ダイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、樹脂フィルムや樹脂シート等の樹脂成形品の製造に用いる押出成形用ダイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂フィルムや樹脂シート等の樹脂成形品の製造に際して、押出成形用ダイ(Tダイとも称する)が用いられている。この押出成形用ダイは、供給された溶融樹脂をマニホールドを介してその幅方向に広げ、下端の対向する平面部(リップ部)の間からフィルム状に押し出す構成になっている。押し出されたフィルム状の溶融樹脂は、フィルム基材と貼り合わせた後に冷却ロール等を用いて急冷することにより、フィルム状の樹脂成形品となる。また、押し出されたフィルム状の溶融樹脂を、フィルム基材と貼り合わせずにそのまま冷却ロール等を用いて急冷すると、シート状の樹脂成形品となる。このような樹脂成形品は、主に包装や防湿等の目的で利用されるため、膜厚の均一性が求められる。
【0003】
押出成形用ダイは、製造する樹脂成形品の膜厚を均一にするために、リップ部の離間距離(リップ幅)を調整する必要がある。特許文献1には、「モータ、駆動軸、ウォーム、リップ幅調整用ボルト駆動シャフト、ウォームホイル及びクラッチを具備するTダイ用リップ幅調整装置」が開示されている。特許文献1のTダイ用リップ幅調整装置によれば、モータの駆動力を用いてリップ幅を変更できるため、樹脂成形品の膜厚の調整作業を短時間且つ高精度で、自動的に行うことが可能になる。
【0004】
しかし、特許文献1のTダイ用リップ幅調整装置では、モータをTダイの長手方向の両脇に離間配置しているものの、Tダイ本体から発せられる高熱からモータを確実に保護することはできない。そのため、モータを長時間安定して動作させることは困難であり、また、Tダイの大型化を招くことにもなる。
【0005】
この問題に対して、本発明者は、特許文献2に示すように、押出成形用ダイを構成する一対のブロックとモータとの間に断熱構造を設けることで、樹脂フィルムや樹脂シート等の樹脂成形品の膜厚を長時間安定して、均一且つ高精度に制御できることを見出した。特に、特許文献2の冷媒通路を備える断熱構造は、高熱によるモータの動作不良を抑制できる点で優れている。そして、引用文献2の押出成形用ダイは、リップ幅調整用ボルトの外周の少なくとも一部を負荷軽減部材に接触させることにより、ブロックに弾性変形を起こさせてリップ幅の拡幅又は減幅を行うアーム部材が、スムーズに回動しなくなる不具合を防止できる点においても優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-246223号公報
【文献】特開2021-70235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の押出成形用ダイのように、単に冷媒通路を備えた断熱構造を設けただけでは、溶融樹脂を内包及び吐出する一対のブロック部分からの伝熱を効率よく遮蔽することができず、モータの性能を十分に発揮できないおそれがある。そして、押出成形用ダイの構造が複雑化する場合があることが判明した。
【0008】
そこで、本件出願に係る発明は、構造を複雑化させずに押出成形用ダイに備わる断熱構造における冷却効率の最適化を図り、製造する樹脂フィルムや樹脂シート等の樹脂成形品の膜厚を、従来よりも長時間安定して高精度に制御することができる押出成形用ダイの提供を目的とする。同時に、長期間の使用にも耐えうる信頼性の高い押出成形用ダイの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、以下の押出成形用ダイを採用することで上記課題を達成するに至った。
【0010】
本件出願に係る押出成形用ダイは、樹脂成形品の製造に用いる押出成形用ダイであって、溶融樹脂を吐出するリップ部を先端に有する一対のブロックと、当該リップ部のリップ幅を制御するモータと、当該一対のブロックと当該モータとの間に配置した、当該一対のブロックから当該モータへの伝熱を遮蔽する断熱性部材とを備え、当該断熱性部材は、当該一対のブロックのうちの一方のブロックとその一端部とが接続した、アーム部材及び連結プレートと、当該連結プレートの他端部に接続したリップ幅調整用ボルト接続部材とからなり、当該アーム部材は、押出成形用ダイ本体において当該連結プレートよりも外側に位置し、且つその他端部は当該モータと接続しており、当該リップ幅調整用ボルト接続部材には、当該モータと接続し、且つ当該モータの駆動力により回動可能なリップ幅調整用ボルトが、負荷軽減部材を介して接続しており、当該断熱性部材には、各々の内部に少なくとも一つのU字状冷媒通路が備わり、各U字状冷媒通路は、各断熱性部材をその長手方向に向かって一端部の外表面まで貫通する一対の直線状孔と、当該一端部の近傍で当該一対の直線状孔と連通しつつ、その一端又は両端が当該各断熱性部材の外表面に開口する連通穴とを備え、当該各断熱性部材の当該一端部における当該一対の直線状孔の開口部と、当該連通穴の開口部とに栓部材を装着した構成であることを特徴とする。
【0011】
また、本件出願に係る押出成形用ダイは、樹脂成形品の製造に用いる押出成形用ダイであって、溶融樹脂を吐出するリップ部を先端に有する一対のブロックと、当該リップ部のリップ幅を制御するモータと、当該一対のブロックと当該モータとの間に配置した、当該一対のブロックから当該モータへの伝熱を遮蔽する断熱性部材とを備え、当該断熱性部材は、当該一対のブロックのうちの一方のブロックとその一端部とが接続した、アーム部材及び連結プレートと、当該連結プレートの他端部に接続したリップ幅調整用ボルト接続部材とからなり、当該アーム部材は、押出成形用ダイ本体において当該連結プレートよりも外側に位置し、且つその他端部は当該モータと接続しており、当該リップ幅調整用ボルト接続部材には、当該モータと接続し、且つ当該モータの駆動力により回動可能なリップ幅調整用ボルトが、負荷軽減部材を介して接続しており、当該断熱性部材には、各々の内部に少なくとも一つのU字状冷媒通路が備わり、各U字状冷媒通路は、各断熱性部材に備わるプレート部をその長手方向に向かって貫通し、その一端部の外表面を突き抜けて配置したパイプ部材による一対の直線状孔と、当該一端部の近傍で当該パイプ部材と接続するU字状の配管継手とにより構成したことを特徴とする。
【0012】
本件出願に係る押出成形用ダイにおいて、前記負荷軽減部材は回動ナットであり、押出成形用ダイは、当該回動ナットの回動外周面に対して略直交する方向に前記リップ幅調整用ボルトが貫通螺合していることが好ましい。
【0013】
本件出願に係る押出成形用ダイにおいて、エアージェット冷却装置のノズル先端を前記モータの近傍に配設することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本件出願に係る押出成形用ダイは、その構造を複雑化させずに断熱構造(本願でいう断熱性部材等)の冷却効率の最適化を図ることができる。よって、製造する樹脂フィルムや樹脂シート等の樹脂成形品の膜厚を従来よりも長時間安定して高精度に制御することができる。そして、本件出願に係る押出成形用ダイは、長期間に亘り押出成形用ダイ本体及びこれを構成する部品の調整を要することなく、安定的に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本件出願に係る押出成形用ダイの構造を例示した側面図である。
図2】本件出願の第1の実施形態に係る断熱性部材の構造を例示した図(上面図、側面図及び正面図)である。
図3】本件出願の第2の実施形態に係る断熱性部材の構造を例示した図(上面図、側面図及び正面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図1図3を参照して、本件出願に係る押出成形用ダイについて説明する。なお、本件出願に係る押出成形用ダイは、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本件出願に係る押出成形用ダイ1は、樹脂フィルムや樹脂シート等の樹脂成形品の製造に用いるものである。この押出成形用ダイ1は、溶融樹脂(不図示)を吐出するリップ部4を先端に有し、且つヒーター(不図示)を保持する一対のブロック2、3と、当該リップ部4のリップ幅Wを制御するモータ20と、ヒーターを保持する一対のブロック2、3とモータ20との間に配置した、ヒーターを保持する一対のブロック2、3からモータ20への伝熱を遮蔽する断熱性部材とを備える。そして、当該断熱性部材は、一対のブロックのうちの一方のブロック3とその一端部とが接続した、アーム部材8及び連結プレート11と、連結プレート11の他端部に接続したリップ幅調整用ボルト接続部材16とからなる。このアーム部材8は、押出成形用ダイ1本体において連結プレート11よりも外側に位置し、且つその他端部はモータ20と接続している。そして、リップ幅調整用ボルト接続部材16には、モータ20と接続し、且つモータ20の駆動力により回動可能なリップ幅調整用ボルト22が、負荷軽減部材23を介して接続している。更に、断熱性部材には、各々の内部に少なくとも一つのU字状冷媒通路9、12、17が備わっている。
【0018】
本件出願に係る押出成形用ダイ1は、当該構成を具備することにより、構造を複雑化させずに、製造する樹脂フィルムや樹脂シート等の樹脂成形品の膜厚を、従来よりも長時間安定して高精度に制御することが可能となる。そして、本件出願に係る押出成形用ダイ1は、当該構成を具備することにより、長期間の使用にも耐えうる信頼性の高いものとなる。以下に、本件出願に係る押出成形用ダイ1について、各構成部材ごとに説明する。
【0019】
<一対のブロック>
本件出願の押出成形用ダイ1における一対のブロック2、3は、樹脂フィルムや樹脂シート等の樹脂成形品を製造するにあたり、溶融樹脂(不図示)を吐出するリップ部4を先端に有し、且つヒーター(不図示)を保持するものである。ここで、樹脂成形品の膜厚は、一対のブロック2、3のリップ部4を弾性変形させて、そのリップ幅Wを変えることにより調整できる。一対のブロック2、3は、下部に位置するリップ部4に近づくに従い肉薄となる形状とすることで、リップ部4をより容易に弾性変形させることができる。その結果、押出成形用ダイ1のリップ幅Wを微調整することが可能となる。
【0020】
図1に示すブロック3は、その下部に減厚スリット6を備えている。ブロック3に減厚スリット6を設けることで、後述するアーム部材8を用いてブロック3側のリップ部4を弾性変形させてリップ幅Wの調整を行うことが、より容易になる。また、図1に示すように、リップ幅Wの調整をブロック2側から行う手段として、リップ幅調整補助用ボルト30を用いることもできる。リップ幅調整補助用ボルト30は、手動回転によりブロック2側のリップ部4を、より細かく弾性変形させることができる。
【0021】
本件出願に係る発明において、ブロック2、3の形状は、図1に示すものに限定されない。また、ブロック2、3の材質に関しても特段の限定はない。ブロック2、3の材質は、弾性変形によりリップ幅Wを調整可能であると共に、マニホールド5に供給される溶融樹脂の温度に耐え得るものであればよい。
【0022】
<モータ>
本件出願の押出成形用ダイ1におけるモータ20は、リップ部4のリップ幅Wを制御することにより、樹脂フィルムや樹脂シート等の樹脂成形品の厚さを調整するために用いるものである。モータ20を用いることで、リップ幅Wの制御を自動的に行い、製造する樹脂成形品の膜厚を簡便且つ正確に、略均一とすることが可能となる。そして、製造した樹脂成形品の膜厚が予め設定した値から外れた場合でも、その都度素早く対応することができる。
【0023】
押出成形用ダイ1は、アーム部材8の一端部がブロック3のリップ部4付近に備わる取付溝7に嵌合して接続されている。そして、アーム部材8の他端部側は、モータ20が連結固定して接続されている。また、連結プレート11の一端部側は、ブロック3に連結固定して接続されており、連結プレート11の他端部には、リップ幅調整用ボルト接続部材16が、連結固定して接続されている。ここで、その一端がモータ20と接続するアーム部材8は、押出成形用ダイ1本体において、連結プレート11よりも外側に配置されている。そのため、溶融樹脂を内包及び吐出し、且つヒーターを保持して高温になる一対のブロック2、3から発せられる高熱を、より受け難い構造となっている。更に、リップ幅調整用ボルト接続部材16には、モータ20と接続し、且つモータ20の駆動力により回動可能なリップ幅調整用ボルト22が、螺合して接続されている。
【0024】
押出成形用ダイ1を当該構成にすると、モータ20の駆動力によりリップ幅調整用ボルト22が回転して、アーム部材8を回動させることができる。ここで、アーム部材8は、その一端部がブロック3に支持されており、ブロック3の減厚スリット6を設けた部分の近傍を支点として回動する。その結果、アーム部材8は、図1中のA方向に回動したときにリップ幅Wが拡幅し、図1中のB方向に回動したときにリップ幅Wが減幅する(図1中の白抜き矢印を参照)。
【0025】
そして、リップ幅調整用ボルト22は、その外周の少なくとも一部を、リップ幅調整用ボルト22自体にかかる負荷を軽減するための負荷軽減部材23を介して、リップ幅調整用ボルト接続部材16に接続させる必要がある。これは、アーム部材8の回動時にリップ幅調整用ボルト22とリップ幅調整用ボルト接続部材16との間の締結角度が変化することで、リップ幅調整用ボルト22に負荷がかかり、アーム部材8の回動動作をスムーズに行えなくなる等の不具合を防止するためである。
【0026】
本件出願に係る押出成形用ダイ1は、当該構造を具備することにより、押出成形用ダイ1を構成するリップ幅調整用ボルト22やリップ幅調整用ボルト接続部材16等の部品を交換、修理等する頻度を大幅に減らすことができる。具体的には、当該部分に負荷軽減部材23を有さない押出成形用ダイであれば、押出成形装置を所定期間運転するごとに、リップ幅調整用ボルト22等の部品の交換、修理等が必要となる場合がある。一方、当該部分に負荷軽減部材23を有する本件出願に係る押出成形用ダイ1は、押出成形装置を所定期間運転した後に点検を行い、必要に応じてリップ幅調整用ボルト22等の部品の交換、修理等を行えばよく、押出成形用ダイ1の管理コストを削減することができる。そして、本件出願に係る押出成形用ダイ1は、リップ幅調整用ボルト22と負荷軽減部材23との組合せを、後述するようにボールねじとすることにより、アーム部材8の回動動作がよりいっそうスムーズになると共に、リップ幅調整用ボルト22とリップ幅調整用ボルト接続部材16との間に隙間(ねじの遊び、バックラッシュ)を設ける必要がなくなる。その結果、リップ幅Wをより精密に制御することが可能になる。具体的には、当該部分に負荷軽減部材23を有さない押出成形用ダイであれば、樹脂フィルムや樹脂シート等の樹脂成形品の膜厚のばらつきが、その横幅方向において発生する場合がある。一方、当該部分に負荷軽減部材23を有する本件出願に係る押出成形用ダイ1は、樹脂成形品の膜厚のばらつきを、その横幅方向において低減することが可能となる。
【0027】
ここで、負荷軽減部材23としては、円柱形状を有しアーム部材8の回動方向に回動可能で、且つリップ幅調整用ボルト22の外表面に設ける雄ねじ構造に螺合可能な雌ねじ構造を内表面に設けた、回動ナット部材を好適に採用することができる。そして、リップ幅調整用ボルト22は、回動ナット部材と螺合接続させるに際し、回動ナット部材の回動外周面に対して略直交する方向に貫通螺合させることが好ましい。当該構成により、アーム部材8の回動時に、リップ幅調整用ボルト22とリップ幅調整用ボルト接続部材16との間の締結角度の変化が吸収されて、リップ幅調整用ボルト22自体にかかる負荷を低減することができる。
【0028】
また、押出成形用ダイ1は、上述した効果を長期間得るために、負荷軽減部材23である回動ナット部材の回動外周面にグリスを供給するためのグリス注入路24を備えることが好ましい。そして、リップ幅調整用ボルト22の雄ねじ構造と、負荷軽減部材23である回動ナット部材の雌ねじ構造との組合せは、ボールねじとすることもできる。リップ幅調整用ボルト22の送りにボールねじを採用することで、ねじの遊び(バックラッシュ)が無くなり、リップ幅調整用ボルト22の送り精度を、より高めることができる。また、上述した回動ナット部材の雌ねじ構造は、円柱形状を有しアーム部材8の回動方向に回動可能な負荷軽減部材23の内部に、既製のナット(ボールねじナットを含む)を組み込んで設けることもできる。
【0029】
<断熱性部材>
本件出願に係る押出成形用ダイ1における断熱性部材は、一対のブロックのうちの一方のブロック3とその一端部とが接続した、アーム部材8及び連結プレート11と、連結プレート11の他端部に接続したリップ幅調整用ボルト接続部材16とからなる。そして、本件出願に係る押出成形用ダイ1は、その断熱性部材の各々の内部に少なくとも一つのU字状冷媒通路9、12、17を備えている。各断熱性部材は、冷媒通路をU字状とすることで、冷媒の流通抵抗が増大することを防ぐことができる。その結果、限られた体積の中で効率よく断熱性部材と冷媒との間で熱交換が行われることととなり、冷却効率の向上を図ることができる。
【0030】
更に、断熱性部材は、冷媒通路をU字状とすることで、冷媒の流入口と戻り口とが各断熱性部材8、11、16の同一側面の比較的近い位置に配置される。そのため、冷媒を適切な設定温度に冷却する熱交換器(不図示)や冷媒を冷媒通路内で循環させるポンプ(不図示)の配置と、これら熱交換器やポンプを通る冷媒の循環経路とが複雑化することを防ぐことができる。その結果、押出成形用ダイ1の構造の複雑化や設置スペースの増大を防止することができる。
【0031】
また、断熱性部材は、ブロック2、3とモータ20との間に配置するものである。押出成形用ダイ1のブロック2、3は、ヒーター(不図示)を保持し、且つ高温に熱せられた溶融樹脂がマニホールド5に供給されるため、高温になり易い。一方、モータ20は熱に弱く、温度が高くなるに従い性能の低下が起こり易い。そのため、モータ20は、押出成形用ダイ1の近くに配置するほど、ブロック2、3からの伝熱を受けて所望の性能を発揮しなくなるおそれがある。しかし、本件出願に係る押出成形用ダイ1は、U字状冷媒通路9、12、17を有する断熱性部材を、ブロック2、3とモータ20との間に備えることで、ブロック2、3から発せられる高熱からモータ20を保護することができ、モータ20の性能が低下することを効果的に防ぐことができる。
【0032】
冷媒通路内に流動させる冷媒は、水等の液体でも空気等の気体でもよく、特に限定されない。また、用いる冷媒の温度に関しても特段の限定はなく、ブロック2、3の温度等に応じて適宜調整することができる。冷媒温度は、熱交換器で冷却温度を調整したり、ポンプで冷媒の流入量を変更する等して調整することができる。そして、U字状冷媒通路9、12、17の断面形状に関しても特に限定されず、円形状等の構造を採用することができる。冷媒流通方向におけるU字状冷媒通路9、12、17の垂直断面形状が円形状であると、冷媒の流れる速度を安定させて冷却効率の向上を図ることができるため好ましい。
【0033】
U字状冷媒通路9、12、17は、冷媒流通方向の垂直断面が円形状である場合、冷媒流通方向に対して垂直な方向における断熱性部材8、11、16の厚さ(幅)Xに対する、U字状冷媒通路9、12、17の垂直断面方向における直径Yの比率(Y/X)が0.5~0.9であることが好ましい(図2及び図3を参照)。U字状冷媒通路9、12、17を構成する後述の直線状孔がこの条件を満たすことで、断熱性部材8、11、16の冷却効率が更に高められ、ブロック2、3からモータ20への伝熱を、より効果的に抑制することができる。ここで、上述した比率(Y/X)が0.5未満であると、内部を流通させる冷媒の量を十分に確保することが困難となったり、冷媒と断熱性部材8、11、16との接触面積を十分に確保できないおそれがあるため好ましくない。一方、上述した比率(Y/X)が0.9を超えても、冷媒の流動性が悪化したり、断熱性部材8、11、16の耐久性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0034】
次に、本件出願に係る断熱性部材における、第1の実施形態及び第2の実施形態について説明する。本件出願に係る断熱性部材は、これらの実施形態を採用することで、構造が簡易でありながら効率的な冷却を実現し、モータの性能が十分に発揮されることとなる。
【0035】
第1の実施形態: 図2は、第1の実施形態に係る断熱性部材の構造を説明するために例示した図である。図2には、断熱性部材である連結プレート11の上面図、側面図及び正面図を例示する。本実施形態では、U字状冷媒通路12が、断熱性部材(この場合、連結プレート11を示す)をその長手方向に向かって一端部の外表面まで貫通する一対の直線状孔12a、12aと、当該一端部の近傍で、この一対の直線状孔12a、12aと連通しつつ、一端又は両端が連結プレート11の外表面に開口する連通穴12bとを備える。そして、断熱性部材である連結プレート11の当該一端部における一対の直線状孔12a、12aの開口部と、連通穴12bの開口部とに栓部材P1、P2を装着した構成となっている。
【0036】
本実施形態の断熱性部材では、上述した構造を採用することで、一方の直線状孔12aの内部に供給された冷媒が、連通穴12bを通ってUターンし、他方の直線状孔12aの内部に供給される(図2中に例示した黒塗り矢印を参照)。このように冷媒を循環させることで、断熱性部材である連結プレート11と内部を流れる冷媒との間の熱交換により、連結プレート11が冷却される。連結プレート11の冷却効率をより向上させるためには、冷媒通路中における冷媒の流れを妨げる要因を極力減らすことが重要である。そのため、連通穴12bを一対の直線状孔12a、12aに対して略垂直方向に設けることが好ましい。なお、図示は省略したが、冷媒の循環経路には、冷媒を適切な設定温度に冷却する熱交換器や冷媒に循環力を付与するポンプ等を配置することができる。
【0037】
本実施形態の断熱性部材は、連結プレート11の所望の位置を穿孔した後に、栓部材P1、P2を別途用いるだけで簡単に形成することができる。そのため、押出成形用ダイ1の形状や構造に制限されることなく、冷媒の循環経路を好適な位置に配設することができる。その結果、連結プレート11の冷却効率の向上を効果的に図ることができる。また、本実施形態の断熱性部材を採用した押出成形用ダイ1は、別途冷却装置を必要としないため、設備コストの増大や大型化を招かない。
【0038】
本実施形態の断熱性部材で用いる栓部材P1、P2は、冷媒が連結プレート11の外部に漏れ出るのを防止できればよく、その形状、構造及び材質等に関して特に限定されない。例えば、栓部材P1、P2と連結プレート11とをねじ止め可能な構造とすることもできる。その場合、栓部材P1、P2は、その外周にねじ山等を形成したものとなる。また、栓部材P1、P2を金属材料で形成することもできる。その場合、連結プレート11等の接続先の部材と同じ材料で形成することが、異種金属接触による腐食の発生を抑制する上で好ましい。
【0039】
第2の実施形態: 図3は、第2の実施形態に係る断熱性部材の構造を説明するために例示した図である。図3には、断熱性部材であるアーム部材8の上面図、側面図及び正面図を例示する。本実施形態では、U字状冷媒通路9が、断熱性部材(この場合、アーム部材8を示す)に備わるプレート部13aをその長手方向に向かって貫通し、その一端部の外表面を突き抜けて配置したパイプ部材14による一対の直線状孔9a、9aと、当該一端部の近傍でパイプ部材14と接続するU字状の配管継手13bとにより構成されている。本実施形態の断熱性部材は、アーム部材8が押出成形用ダイ1の長手方向に複数離間配置される場合において、特に好適である。
【0040】
本実施形態の断熱性部材では、上述した構造を採用することで、一方の直線状孔9aの内部に供給された冷媒が、U字状の配管継手13bを通ってUターンし、他方の直線状孔9aの内部に供給される(図3中に例示した黒塗り矢印を参照)。このように冷媒を循環させることで、断熱性部材であるアーム部材8と内部を流れる冷媒との間の熱交換により、アーム部材8が冷却される。なお、図示は省略したが、冷媒の循環経路には、上述した第1の実施形態と同様に、冷媒を適切な設定温度に冷却する熱交換器や冷媒に循環力を付与するポンプ等を配置することができる。
【0041】
本実施形態の断熱性部材によれば、第1の実施形態と同様に、押出成形用ダイ1の形状や構造に制限されることなく、冷媒の循環経路を好適な位置に配設することが可能となる。また、U字状冷媒通路9の断面積を連続的に略一定とすることができるため、冷媒通路中における冷媒の流れを妨げる要因を極力減らすことができる。その結果、アーム部材8の冷却効率の向上をより効果的に図ることが可能となる。本実施形態の断熱性部材を採用した押出成形用ダイ1は、第1の実施形態と同様に別途冷却装置を必要としないため、設備コストの増大や大型化を招かない。
【0042】
パイプ部材14及びU字状の配管継手13bは、冷媒がアーム部材8の外部に漏れ出るのを防止できればよく、その形状、構造及び材質に関して特に限定されない。例えば、パイプ部材14とU字状の配管継手13bとを接続するに際して、管用ねじ(不図示)を用いることができる。その場合、パイプ部材14及びU字状の配管継手13bは、その内周又は外周にねじ山等を形成したものとなる。また、U字状の配管継手13bは、その製造の容易化を図るべく、第1の実施形態と同様に栓部材を用いた構造とすることもできる(図3を参照)。そして、パイプ部材14やU字状の配管継手13bを金属材料で形成することもできる。その場合、互いの部材及び/又は接続先の部材と同じ材料で形成することが、異種金属接触による腐食の発生を抑制する上で好ましい。
【0043】
以上に、本件出願に係る押出成形用ダイ1について説明した。ここで、押出成形用ダイ1は、モータ20の性能がより十分に発揮されるよう、以下に示す構成を別途備えてもよい。
【0044】
本件出願に係る押出成形用ダイ1は、モータ20の周囲をカバー21で囲うと共に、冷風機40から吹き出される冷気をカバー21内に送風する構成とすることもできる(図1中の黒塗り矢印を参照)。このように、冷風機40を設けることで、モータ20が加熱してその性能が低下することを、より効果的に抑制することができる。モータ20に冷気を接触させる方法は上述の方法に限定されず、例えば、図示は省略するが、ボルテックスチューブの原理を利用したエアージェット冷却装置を用いて、冷却ノズルの先端をモータ20の近傍に配設する方法を採用することもできる。この方法によれば、モータ20に冷気を吹き付ける装置をより小型化させることができる。
【0045】
また、本件出願に係る押出成形用ダイ1は、連結プレート11とリップ幅調整用ボルト接続部材16との間に介在させる断熱部材15や、アーム部材8とモータ20との間に介在させる断熱部材10を併用することが、モータ20の性能を十分に発揮させる上でより好ましい。これら断熱部材10、15を構成する材料に特段の制限はなく、例えば、難燃性であるグラスウール等の無機繊維材料等を採用することができる。
【0046】
そして、本件出願に係る押出成形用ダイ1は、アダプター50やコネクター51から発せられる高熱がモータ20に伝わることを遮断する断熱板52を設けることもできる。このアダプター50は、高温に熱した溶融樹脂をコネクター51を介して押出成形用ダイ1に供給するためのものである。断熱板52の材質に特段の制限はなく、例えば、SUS304等のステンレス鋼等を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本件出願に係る押出成形用ダイは、従来よりも長時間に亘り、安定して高品質な樹脂フィルムや樹脂シート等の樹脂成形品を製造できると共に、長期間の使用にも耐えうる信頼性の高いものである。そして、本件出願に係る押出成形用ダイは、押出成形用ダイを構成する部品を交換、修理等する頻度を減らすことができると共に、より精密に略均一な膜厚を有する樹脂成形品を製造できるものである。よって、包装や防湿等の様々な用途の樹脂成形品を安定的に製造するに際して、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1・・・押出成形用ダイ
2、3・・・ブロック
4・・・リップ部
5・・・マニホールド
6・・・減厚スリット
7・・・取付溝
8・・・アーム部材
9、12、17・・・U字状冷媒通路
10、15・・・断熱部材
11・・・連結プレート
9a、12a・・・直線状孔
12b・・・連通穴
13a・・・プレート部
13b・・・U字状の配管継手
14・・・パイプ部材
16・・・リップ幅調整用ボルト接続部材
20・・・モータ
21・・・カバー
22・・・リップ幅調整用ボルト
23・・・負荷軽減部材
24・・・グリス注入路
30・・・リップ幅調整補助用ボルト
40・・・冷風機
50・・・アダプター
51・・・コネクター
52・・・断熱板
P、P1、P2・・・栓部材
W・・・リップ幅
図1
図2
図3