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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】検出器の校正装置および校正方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/17 20060101AFI20240816BHJP
   G01T 1/24 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G01T1/17 E
G01T1/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023505037
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010034
(87)【国際公開番号】W WO2022190350
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】500561263
【氏名又は名称】株式会社ジョブ
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 修一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】山▲さき▼ 雅志
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】林 裕晃
(72)【発明者】
【氏名】紀本 夏実
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-020334(JP,A)
【文献】VESPUCCI S., et al.,Robust Energy Calibration Technique for Photon Counting Spectral Detectors,IEEE Transactions on Medical Imaging,米国,IEEE,2019年04月02日,Vol. 38, No. 4,pp. 968-978
【文献】ZAMBON P., et al.,A wide energy range calibration algorithm for X-ray photon counting pixel detectors using high-Z sen,Nuclear Inst. and Methods in Physics Research, A,NL,Elsevier,2019年02月12日,Vol. 925,pp. 164-171
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/17
G01T 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射したX線の光子のエネルギ値に応じた波高値を有する電気パルス信号を発生させるとともに波高値ごとの光子数を計数する複数の検出素子を有する検出器の校正装置において、
前記検出器にX線を照射するX線管の管電圧を制御するX線管制御部と、
それぞれの前記検出素子から波高値ごとの光子数を取得するとともに前記X線管の管電圧を取得する取得部と、
前記取得部で得られる値からX線の光子が検出される範囲であり且つ波高値が最大となる最大波高値を推定する演算部と、
前記取得部で取得される管電圧に前記最大波高値を対応させる校正値を前記検出素子ごとに算出する校正部とを備えていて、
前記X線管制御部が、予め定められた複数のエネルギ値の範囲の境界となるエネルギ値に対応する状態で管電圧を変更させる構成を有していて、
前記校正部が管電圧ごとに校正値を算出する構成を有することを特徴とする校正装置。
【請求項2】
前記取得部で取得される管電圧に対応する波高値より小さく且つ予め定められる範囲で、光子数と波高値との関係に基づく近似直線を決定して、前記近似直線の上で光子数がゼロとなるときの波高値の値を前記最大波高値とする構成を前記演算部が有する請求項1に記載の校正装置。
【請求項3】
前記取得部で取得される管電圧に対応する波高値より小さく且つ予め定められる範囲で、光子数の平方根と波高値との関係に基づく近似直線を決定して、前記近似直線の上で光子数がゼロとなるときの波高値の値を前記最大波高値とする構成を前記演算部が有する請求項1に記載の校正装置。
【請求項4】
入射したX線の光子のエネルギ値に応じた波高値を有する電気パルス信号を発生させるとともに波高値ごとの光子数を計数する複数の検出素子を有する検出器の校正方法において、
前記検出器にX線を照射するX線管に予め定められる管電圧を印加して、
それぞれの前記検出素子から波高値ごとの光子数を取得して、
X線の光子が検出される範囲であり且つ波高値が最大となる最大波高値を推定して、
前記管電圧に前記最大波高値を対応させる校正値を前記検出素子ごとに算出する構成を有していて、
予め定められた複数のエネルギ値の範囲の境界となるエネルギ値のうちの一つに対応する管電圧を前記X線管に印加して前記校正値を前記検出素子ごとに取得した後に、
予め定められた複数のエネルギ値の範囲の境界となるエネルギ値のうち上記と異なる一つに対応する管電圧を前記X線管に印加して前記校正値を前記検出素子ごとに取得することを特徴とする校正方法。
【請求項5】
前記管電圧に対応する波高値より小さく且つ予め定められる範囲で、光子数と波高値との関係に基づく近似直線を決定して、前記近似直線の上で光子数がゼロになるときの波高値の値を前記最大波高値とする請求項4に記載の校正方法。
【請求項6】
前記管電圧に対応する波高値より小さく且つ予め定められる範囲で、光子数の平方根と波高値との関係に基づく近似直線を決定して、前記近似直線の上で光子数がゼロになるときの波高値の値を前記最大波高値とする請求項4に記載の校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線の光子のエネルギ値に応じた波高値を有する電気パルス信号を発生させるとともに波高値ごとの光子数を計数する複数の検出素子または検出画素(以下、検出素子と総称する)を有する検出器の校正装置および校正方法に関するものであり、詳しくは検出素子で測定されるエネルギ値の校正を精度良くおこなえる校正装置および校正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線装置が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1には、複数の検出素子から構成されていて検出素子ごとにX線の光子の光子数およびエネルギ値を取得できる検出器の構成が開示されている。X線の光子が入射することで検出素子から電気パルス信号が発生して、この電気パルス信号の波高値を光子のエネルギ値として変換する構成を検出器は有していた。
【0003】
また特許文献1に記載のX線装置は、エネルギ弁別機能を有していた。複数のエネルギ値を境界として複数のエネルギ値の範囲(エネルギBIN)が予め設定されていて、検出素子ごとに入射した光子がいずれのエネルギBINに属するかを弁別する機能を検出器は有していた。各エネルギBINにおいて異なる補正データを利用して補正を行うことで、X線装置による測定精度を向上することが可能となっていた。
【0004】
検出素子で検出された光子のエネルギ値がいずれのエネルギBINに属するかを判定するために、各検出素子は特にエネルギBINの境界となるエネルギ値において、光子のエネルギ値を精度良く測定することが求められる。つまりある特定のエネルギ値を有する複数の光子が複数の検出素子にそれぞれ1つずつ入射した場合、いずれの検出素子からも同じエネルギ値が得られるべきである。このとき時間的に同時であるか離散的であるかに関わらず、同じエネルギ値が得られるべきである。エネルギBINが設定されてエネルギ弁別を行っている検出器では、各検出素子に属するエネルギBINの境界が、検出素子間で揃っていて、かつ望ましくは検出器の操作者の意図する所望のエネルギに一致することが重要である。
【0005】
しかしながら検出素子を製造する際の精度等の影響により、実際は検出素子ごとに得られるエネルギ値にばらつきがある。検出素子ごとに出力される波高値とエネルギ値との対応関係を校正して、正確なエネルギ値とすることで、X線装置による測定精度をさらに向上することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特許第6590381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は検出素子で測定されるエネルギ値の校正を精度良くおこなえる校正装置および校正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための校正装置は、入射したX線の光子のエネルギ値に応じた波高値を有する電気パルス信号を発生させるとともに波高値ごとの光子数を計数する複数の検出素子を有する検出器の校正装置において、前記検出器にX線を照射するX線管の管電圧を制御するX線管制御部と、それぞれの前記検出素子から波高値ごとの光子数を取得するとともに前記X線管の管電圧を取得する取得部と、前記取得部で得られる値からX線の光子が検出される範囲であり且つ波高値が最大となる最大波高値を推定する演算部と、前記取得部で取得される管電圧に前記最大波高値を対応させる校正値を前記検出素子ごとに算出する校正部とを備えていて、前記X線管制御部が、予め定められた複数のエネルギ値の範囲の境界となるエネルギ値に対応する状態で管電圧を変更させる構成を有していて、前記校正部が管電圧ごとに校正値を算出する構成を有することを特徴とする。
【0009】
上記の目的を達成するための校正方法は、入射したX線の光子のエネルギ値に応じた波高値を有する電気パルス信号を発生させるとともに波高値ごとの光子数を計数する複数の検出素子を有する検出器の校正方法において、前記検出器にX線を照射するX線管に予め定められる管電圧を印加して、それぞれの前記検出素子から波高値ごとの光子数を取得して、X線の光子が検出される範囲であり且つ波高値が最大となる最大波高値を推定して、前記管電圧に前記最大波高値を対応させる校正値を前記検出素子ごとに算出する構成を有していて、予め定められた複数のエネルギ値の範囲の境界となるエネルギ値のうちの一つに対応する管電圧を前記X線管に印加して前記校正値を前記検出素子ごとに取得した後に、予め定められた複数のエネルギ値の範囲の境界となるエネルギ値のうち上記と異なる一つに対応する管電圧を前記X線管に印加して前記校正値を前記検出素子ごとに取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、最大波高値を利用して検出素子の校正を行うことが可能となる。最大波高値は、X線の光子がX線管から得られるエネルギの最大値に対応するものであり、管電圧に対応するものである。検出素子で測定されるエネルギ値の校正を精度良く行うには有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、X線装置に接続される校正装置の概略を例示する説明図である。
図2図2は、検出素子から出力される波高値の状態を例示する説明図である。
図3図3は、光子数と波高値との関係を例示するグラフである。
図4図4は、図3の破線の円で囲まれる部分を拡大して例示するグラフである。
図5図5は、光子数の平方根と波高値との関係を例示するグラフである。
図6図6は、管電圧を変更して複数回測定した場合の光子数の平方根と波高値との関係を例示するグラフである。
図7図7は、検出素子における波高値とエネルギ値との関係を例示する説明図である。
図8図8は、検出器の構成を例示する説明図である。
図9図9は、出力されるチャンネルナンバーと検出素子の数との関係を例示するグラフである。
図10図10は、図1の校正装置の変形例を例示する説明図である。
図11図11は、フィルタ機構を利用した場合の光子数の平方根と波高値との関係を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、検出器の校正装置および校正方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に例示するように校正装置1は、X線装置2に接続されて利用される。X線装置2は食品検査や医療現場で使用される。X線装置2は、X線を照射するX線管3と、X線管3から照射されるX線を受光する検出器4と、X線管3および検出器4を制御する制御機構5とを有している。
【0014】
X線管3は、制御機構5の制御により所定の電圧値と電流値とを有する電気の供給を受けて、連続X線を照射する構成を有している。X線管3と検出器4との間に配置される測定対象物に向かって、X線管3はX線を照射する。
【0015】
検出器4は、X線管3から照射されて測定対象物を透過したX線を検出する構成を有している。検出器4は面状に並べて配置される複数の検出素子6を有している。検出素子6は、入射するX線の光子のエネルギ値に応じた波高値を有する電気パルス信号を発生させるとともに、光子数を計数する構成を有している。検出素子6は、例えばCdTe(テルル化カドミウム)系半導体などの直接変換型半導体と、この直接変換型半導体からの信号を増幅してデジタル化する光子計数型ASIC(application specific integrated circuit)などの半導体とで構成される。
【0016】
検出素子6の構成は上記に限定されない。検出素子6はX線の光子のエネルギ値と光子数を取得できる構成を有していればよい。
【0017】
制御機構5は、例えばコンピュータで構成される。制御機構5は、X線管3に供給される電気の電圧値や電流値を制御する構成を有している。制御機構5は、検出器4からデータを取得する構成を有している。このデータを利用して例えばX線装置2の外部に接続されるモニター等にX線画像が表示される。制御機構5はX線管3および検出器4とそれぞれ信号線で接続されている。図1では説明のため信号線が一点鎖線で示されている。またX線が照射される方向を矢印で示している。
【0018】
校正装置1は、X線装置2の制御機構5に信号線を介して接続されている。校正装置1がX線装置2の内部に組み込まれる構成にしてもよい。
【0019】
校正装置1は、X線管3の管電圧を制御するX線管制御部7を備えている。X線管制御部7は、制御機構5に働きかけてX線管3に供給される電気の電圧(管電圧)を制御することができる。X線管制御部7は管電圧に加えて、X線管3に供給される電気の電流(管電流)を制御する構成を有していてもよい。
【0020】
校正装置1は、検出器4を構成する複数の検出素子6から波高値ごとの光子数を取得する取得部8を備えている。この実施形態では制御機構5が検出器4から取得する波高値ごとの光子数を取得部8が取得する。取得部8はX線管制御部7から管電圧を取得する構成も有している。制御機構5から管電圧を取得する構成を取得部8が有していてもよい。
【0021】
校正装置1は、取得部8で得られる値からX線の光子が検出される範囲であり且つ波高値が最大となる最大波高値Hを推定する演算部9を備えている。最大波高値Hは検出素子6ごとに演算部9で推定される。
【0022】
校正装置1は、取得部8で得られる管電圧に演算部9で推定される最大波高値Hを対応させる校正値dを算出する校正部10を備えている。校正値dは検出素子6ごとに校正部10で算出される。校正部10で得られる校正値dは、制御機構5に送られて記憶される。制御機構5は、検出器4で取得されるデータを校正値dにより校正することが可能となる。また検出器4に波高値や波高値検出のしきい値の微調整機構がある場合には、校正値dを基に微調整の制御を行い、エネルギ値の出力そのものを同じ値になるように調整できる。
【0023】
校正装置1に含まれるX線管制御部7等はそれぞれ信号線で接続されている。図1では説明のため信号線を一点鎖線で示している。校正装置1およびX線装置2に利用される信号線は、有線であっても無線であってもよい。
【0024】
次に検出器4の校正方法について説明する。まずX線装置2に校正装置1を信号線等で接続する。X線管制御部7がX線管3に供給する電気の電圧等を決定する。例えばX線管制御部7が制御機構5を介して、X線管3の管電圧が40kVであり管電流が0.5mAとなる状態に電気を供給させる。例えばアルミニウムフィルタをX線管3と検出素子6との間に配置したり、X線管3と検出素子6との間隔を調整したりして、検出素子6当たり例えば300CPS(counts per second)の低線量のX線をX線管3から検出器4に照射する。図1の実施形態ではX線管3と検出器4との間には何も配置されていない状態である。例えば二時間など予め定められる測定時間の間、X線装置2による測定が継続される。
【0025】
図2に例示するように検出器4の検出素子6は、X線の光子が入射する度に光子のエネルギ値に応じた波高値を有する電気パルス信号を発生させる。X線の光子の有するエネルギ値が大きいほど、波高値の大きい電気パルス信号が検出素子6から制御機構5に送られる。なお前述の低線量のX線とは、光子計数時にパイルアップ現象が無視できる程度の線量である。CPSをいくつにすると低線量であるかについて一般的な定義はない。線量が300CPSであればX線の光子が各検出素子6に入射する間隔は平均3.3msとなる。この場合、電気パルス信号のパルス間隔pは平均3.3msとなる。例えばパルス幅wが300nsである場合、average(p/w)=10000となり、パルス間隔pに対してパルス幅wが十分に短くなり、パイルアップ現象がほぼ無視できる。このようにパイルアップ現象をほぼ無視できる状態を本明細書では極低線量状態という。またaverage(p/w)=100以上の状態を本明細書では低線量状態という。
【0026】
校正装置1の取得部8は、制御機構5を介して波高値ごとの光子数を取得する。図3に例示するように光子数と波高値との関係を示すグラフを取得部8は取得できる。波高値ごとの光子数とは、実際上はある波高値hx以上の波高値を持つ光子数であり、定義上だけ存在する無限の高さの波高値(h=∞)と波高値hxの範囲に入る波高値の光子数をC(∞:hx)と本明細書では表記する。また別の例としては、ある一定の範囲の波高値を示す光子数であり波高値hx1と波高値hx2の範囲に入る波高値の光子数は同様の表記法でC(hx1:hx2)と表記される。
【0027】
次に取得部8が取得するデータに基づき演算部9が最大波高値Hの推定を行う。図3に例示するように縦軸を光子数として横軸を波高値としたとき、光子数がゼロとなるときの波高値を本明細書では最大波高値Hと定義する。最大波高値Hは、X線の光子が検出される範囲であり且つ波高値が最大となるときの波高値の値をいう。
【0028】
この実施形態では検出素子6に含まれる光子計数型ASICは、光子数を波高値(光子エネルギ)について無限大までの高さを積分した積分値を取得する構成を有している。前述のC(hx1:hx2)のような差分値よりもC(∞:hx)のような積分値を取得する光子計数型ASICの方が、測定誤差が小さくなるので校正の精度を向上するには望ましい。差分演算またはASIC内部の差分演算回路の使用を前提とした場合、差分演算時に誤差伝搬法則により、誤差が増大するためである。検出素子6に含まれる光子計数型ASICが差分値を取得する構成を有していてもよい。なお光子計数型ASICが積分値を取得する構成の場合には、演算部9で演算によって差分値を取得する構成としてもよい。
【0029】
光子が検出される範囲とは、X線の光子が検出され得る波高値の範囲をいう。光子が検出される範囲は、例えば図3に例示するグラフの形状等から光子数が明らかにゼロとなる範囲を除外した範囲ともいえる。光子が検出される範囲は、光子数が1以上となる範囲に限定されない。実際に検出される光子数がゼロであっても、光子が検出される可能性があればこの範囲に含めてもよい。
【0030】
パイルアップ現象が無視できる極低線量状態の場合において、最大波高値HはX線管3の管電圧のエネルギ値を理論上超えない。管電圧から得られるエネルギ以上のエネルギを有するX線の光子がX線管3から発生し得ないためである。例えば管電圧が40kVの場合、X線の光子が有しうるエネルギの最大値は40keVとなる。なおパイルアップ現象が起きた場合には二つのパルスが合成されて、パルスの波高値が最大波高値Hを超えることがありうる。
【0031】
図3に例示するようにある検出素子6で検出される最大波高値Hは管電圧に対応する。そのため管電圧が40kVの場合、最大波高値Hは40keVのエネルギ値に対応する。X線装置2により対象物を測定する際に、この検出素子6が最大波高値Hと一致する電気パルス信号を検出したとき、この検出素子6が検出したX線の光子のエネルギ値は40keVであるといえる。
【0032】
校正部10は、取得部8で取得される管電圧に演算部9から得られる最大波高値Hを対応させる校正値dを算出する。この校正値dはX線装置2の制御機構5に送られて記憶される。X線装置2は対象物の測定を行う際に、検出器4から得られるデータに対して校正値dを利用する校正を行い、その後X線画像などの測定結果を出力する際に活用することができる。
【0033】
校正装置1による校正で、少なくとも最大波高値Hに対応するエネルギ値に対しては、すべての検出素子6が正確なエネルギ値を出力できるようになる。管電圧という一つの指標に対して複数の検出素子6のエネルギ値をそれぞれ校正することができる。同一のエネルギ値を有するX線の光子が入射したとき、いずれの検出素子6においても同一のエネルギ値として検出される状態となる。それぞれの検出素子6から得られるエネルギ値を校正することができるので、検出器4によるエネルギ分析が可能となる。検出器4をエネルギ分析装置として利用することが可能となる。
【0034】
X線管制御部7により管電圧を変更することで、前述と同様の測定を異なる管電圧で行うことが可能となる。校正装置1は、管電圧をたとえば40kVから80kVに変更して、検出素子6ごとに最大波高値Hの推定を行い、校正値dを算出する。これによりすべての検出素子6は、40keVおよび80keVのエネルギ値を有するX線の光子に対して、この光子のエネルギ値を正確に出力することが可能となる。
【0035】
最大波高値Hを推定する具体的な例を以下に説明する。図3において破線の円で囲まれる範囲を拡大したものを図4に例示する。図4に例示するように最大波高値Hの近傍となる領域(抽出領域S)において、光子数と波高値との関係に基づく近似直線または近似曲線を決定して最大波高値Hを推定することができる。
【0036】
抽出領域Sは管電圧に対応する波高値より小さく且つ予め定められる範囲に設定される。例えば管電圧が40kVのとき、抽出領域Sは35keV~38keVの範囲に設定することができる。実際には抽出領域Sはおよそ35keVのエネルギ値に対応する波高値と、およそ38keVのエネルギ値に対応する波高値との間に挟まれる領域であり、このエネルギ値と波高値との関係は校正装置1により校正される前の値である。
【0037】
図4に例示するように光子数yと波高値hとの関係を示すグラフにおいて、抽出領域Sの範囲のデータを直線近似する。このとき直線の式y=-ah+b=-a(h-H)が得られる。このときb=a×Hとなる。この直線の式において光子数がゼロ(y=0)となるにはh=Hでなければならない。波高値の値hを最大波高値Hとして決定する。この最大波高値Hが管電圧に対応するエネルギ値と対応する。
【0038】
演算部9で推定される最大波高値Hが例えば39.8keVのエネルギ値に対応する大きさであった場合、これを管電圧に対応するエネルギ値40.0keVとするための校正値dが校正部10で算出される。例えば校正値d=40.0/39.8とする。この検出素子6から得られる波高値hに対して、波高値dhに対応するエネルギ値が真の値であるとしてエネルギ値の校正を行う。
【0039】
例えば校正値d=40.0-39.8=0.02としてもよい。この検出素子6から得られる波高値hに対して、波高値h+dに対応するエネルギ値が真の値であるとしてエネルギ値の校正を行う。校正値dは検出素子6ごとに算出されて、対応する校正値dにより検出素子6ごとに校正される。
【0040】
抽出領域Sを管電圧に対応する波高値より小さくなる範囲に設定することで、校正値dの精度を向上できる。最大波高値Hの近傍では検出素子6により検出される光子数が少なくなるため、測定誤差が大きくなる。誤差の大きくなりやすい範囲を抽出領域Sから除外することで校正の精度を向上できる。例えば光子数の下限値を決めて抽出領域Sを設定してもよい。最大波高値Hの近傍で光子数が10以下のとなるデータは抽出領域Sから除外する構成としてもよい。校正装置1による校正の精度を向上するには有利である。
【0041】
光子数が少なくなると誤差が大きくなる理由は、X線管3から発生するX線光子の発生確率がポアソン統計に従うからである。ある一定時間に測定した光子数Cに対する誤差分布の標準偏差は√cである。光子数に対するこの標準偏差の比√c/c=1/√cであるため、光子数Cが減少するほど誤差の比率が大きい。
【0042】
光子数Cの下限値を決めて抽出領域Sを設定する際に、一旦抽出領域Sを仮に決定した後、近似直線の近似度合いを計算して、さらに抽出領域Sを変更しながら同様の計算を行って、最も近似度が高かった抽出領域Sを採用する構成としてもよい。この方法であれば意図的または製造上のばらつきなど何らかの事情によって検出素子6のサイズが変わっても、エネルギ値を精度良く校正できる。
【0043】
検出素子6のサイズ(X線が照射される面の面積)が変わると、光子数Cはその面積比分だけ増減する。よって光子数Cの下限値を固定することが適切でない場合がある。ただし光子数Cに対するこの標準偏差の比√c/c=1/√cが誤差に影響を与えることは間違いない。最大波高値Hの近傍で光子数Cが固定値以下となるデータは抽出領域Sから除外する条件付きで、最も近似度が高い抽出領域Sを探索して採用することもできる。
【0044】
X線管3から照射されるX線の線量が、パイルアップの発生しない範囲の極低線量状態となる範囲で校正装置1による校正を行うことが望ましい。校正装置1による校正はX線の線量が低線量状態となる範囲で行われてもよい。X線管3に供給される管電流をX線管制御部7により比較的小さい値に設定することで極低線量状態または低線量状態を実現できる。パイルアップにより二つ以上の電気パルス信号が重ね合わせられて波高値が見かけ上大きくなる不具合を、極低線量状態または低線量状態とすることで回避できる。パイルアップにより管電圧を超えるエネルギ値に対応する波高値が得られることを回避できる。具体的には線量が1000CPS以下となる状態に管電流を設定する。望ましくは線量が300CPS以下となる状態に管電流を設定する。パイルアップが発生する可能性をより低減させるには有利である。X線管制御部7によりX線管3の管電流を制御することで線量は容易に調整することができる。
【0045】
図5に例示するように光子数C(∞:h)の平方根と波高値hとの関係を示すグラフを取得部8が取得する構成にしてもよい。光子数C(∞:h)の平方根と波高値hとの関係を示すグラフは、理論上でも実際上でも図3に例示するグラフよりも直線に近い状態となる。そのため光子数の平方根と波高値との関係に基づく近似直線を決定する際の精度を向上することができる。最大波高値Hを推定する際の誤差をより抑制することができる。
【0046】
最大波高値Hを推定する方法は上記に限定されない。抽出領域Sにおいて直線ではなく曲線で近似する構成(例えば多項式近似)としてもよい。また例えば図5に例示する光子数Cの平方根と波高値hとの関係を示すグラフを生成して、画像処理により最大波高値Hを推定する構成にしてもよい。最大波高値Hを比較的高い精度で取得できれば上記以外の方法で最大波高値Hを推定してもよい。
【0047】
検出素子6がエネルギ弁別機能を有している場合の校正方法を以下に説明する。例えば五つのエネルギ値の範囲(エネルギBIN)が予め設定されていて、エネルギBINの境界となるエネルギ値が20keV、40keV、60keV、80keVに設定されている場合を仮定する。
【0048】
図6に例示するように、まずX線管制御部7により管電圧が20kVに制御された状態で、例えば2時間など予め定められた時間で、検出器4がX線の光子を検出する。検出器4で得られるデータ等を利用して演算部9で最大波高値H1の推定が行われる。検出器4を構成する複数の検出素子6のそれぞれについて最大波高値H1が推定される。校正部10ではそれぞれの検出素子6に対して校正値dがそれぞれ算出される。
【0049】
次にX線管制御部7により管電圧が40kVに変更されて、上記と同様の手順で最大波高値H2が推定される。同様に管電圧が60kVのときの最大波高値H3と、管電圧が80kVのときの最大波高値H4とが推定される。四つの最大波高値Hを得るのに例えば8時間の測定時間がかかる。
【0050】
これによりすべての検出素子6は、少なくとも20keV、40keV、60keV、80keVのエネルギ値を有するX線の光子に対して、この光子のエネルギ値を正確に出力することが可能となる。そのため検出素子6で検出された光子のエネルギ値がいずれのエネルギBINに属するかを、X線装置2は高い精度で判別して、かつそのエネルギBINの境界となるエネルギ値に対応する波高値hを検出素子6ごとに正確に把握できる。
【0051】
図7に例示するように検出素子6に入射する光子のエネルギ値と、その際に検出素子6から出力される電気パルス信号の波高値とは通例理想的には比例関係となるように検出器4は設計される。。図7では説明のため検出素子6の理想的な特性を一点鎖線で示している。しかしながら現実的には実線で示すように比例関係とは異なる特性を有していることがあり、この特性が検出素子6ごとに異なることがある。また設計段階で比例関係とならない場合もあり、製造上の都合やその他の原因により設計から実際の特性がずれることもある。
【0052】
実線で示す特性を検出素子6ごとに取得して、検出される波高値から正確なエネルギ値を取得できるように校正することが理想である。この場合は管電圧を例えば1kVずつ変更させて最大波高値Hの推定および校正値dの取得を繰り返すことで図7に実線で示す特性を取得することが可能となる。
【0053】
一方でエネルギBINの境界となるエネルギ値に限定して最大波高値H1~H4を推定して校正を行う場合、H1~H4のそれぞれの近傍のみ校正値dを取得すればよいので、校正に必要となる時間を大幅に短縮することができる。またエネルギBINの境界となるエネルギ値において検出素子6を精度良く校正することができる。検出素子6で検出された光子のエネルギ値がいずれのエネルギBINに属するかをX線装置2は精度良く弁別して、且つそのエネルギBINの境界となるエネルギ値に対応する波高値を検出素子6ごとに正確に把握することが可能となる。X線装置2による測定精度を向上できるので、精度の高い画像をX線装置2は出力することが可能となる。
【0054】
校正装置1は、任意のエネルギ値において検出素子6を精度良く校正できる。そのためエネルギBINの境界となるエネルギ値が上記とは異なる検出器4においても、精度良く校正できる。X線管3に印加される管電圧の変更という簡単な制御で、校正の対象とするエネルギ値の変更が可能となる。校正装置1は多種多様な検出器4を精度良く校正することができる。
【0055】
図8に例示する検出器4を例に更に具体的に校正方法を説明する。この実施形態の検出器4は、例えばCdZnTe(Cadmium Zinc Telluride)系半導体で構成される検出素子6と、この検出素子6に接続される光子計数型ASICで構成される。光子計数型ASICは、検出素子6から電荷を受け取り増幅するチャージアンプ11と、チャージアンプ11から受ける信号の波形を成形する波形成形器12と、波形成形器12から受ける信号を弁別する弁別器13と、弁別器13から出力される信号を計数するカウンタ14と、制御機構5から送られる信号を弁別器13に送るDAコンバータ15とを有している。図8では説明のため信号線を一点鎖線で示している。また信号の進む方向を矢印で示している。
【0056】
検出素子6にX線が入射するとこのX線のエネルギに比例した電荷が発生する。この電荷はチャージアンプ11に送られる。チャージアンプ11は電荷の数に比例した波高を有する波形を出力する。波形成形器12はチャージアンプ11から受け取った波形を滑らかに成形する。波形がノイズ等で細かく振動していると、後段の弁別器13での弁別の精度が低くなる。
【0057】
波形成形器12には四つの弁別器13が接続されている。弁別器13は予めリファレンス電圧が設定されていて、このリファレンス電圧よりも高い電圧を有する波形のみを抽出する構成を有している。リファレンス電圧は、例えばエネルギBINの境界となるエネルギ値に対応する電圧に設定される。実際にはエネルギ値に対応するチャンネルナンバーとしてリファレンス電圧は設定される。
【0058】
例えばチャンネルナンバーが0―127(7bit)の構成を有していて、弁別器13で処理するエネルギ値の上限を80keVとした場合、1チャンネルあたり0.625keVの範囲となる。例えばエネルギBINの境界となるエネルギ値として、四つの弁別器13においてそれぞれ20、40、60、80keVを設定する場合、弁別器13に設定されるチャンネルナンバーは32、64、96、127となる。理想的にはチャンネルナンバーはエネルギ値に比例する。また理想的にはチャンネルナンバーは波高値hと比例関係となる。
【0059】
例えば30keVのエネルギ値を有するX線の光子が検出素子6に入射すると、弁別器13においてはチャンネルナンバーが48の光子として認識される。チャンネルナンバーが32に設定されている弁別器13においては、チャンネルナンバー48に対応するデジタル信号がカウンタ14に送られる。チャンネルナンバーが64に設定されている弁別器13においては、リファレンス電圧を下回るためカウンタ14には信号が送られない。
【0060】
カウンタ14は弁別器13から出力されるデジタル信号を計数する構成を有している。一つの弁別器13に一つのカウンタ14が接続されている。この実施形態では検出器4は四つのカウンタ14を有している。チャンネルナンバーごとに光子数Cを計数して、その結果を制御機構5に送る構成をカウンタ14は有している。
【0061】
チャージアンプ11、波形成形器12、四つの弁別器13および四つのカウンタ14は、検出素子6ごとにそれぞれ配置されている。つまり図8に例示する光子計数型ASICのうちDAコンバータ15以外の機構は、複数の検出素子6にそれぞれ設けられている。
【0062】
DAコンバータ15は、制御機構5から送られる信号を変換してそれぞれの弁別器13のリファレンス電圧を設定する構成を有している。光子計数型ASICに含まれる複数の弁別器13に対して、一括してリファレンス電圧を設定する構成をDAコンバータ15は有している。
【0063】
制御機構5が微調整機構16を有していてもよい。微調整機構16は弁別器13に信号を送ることでリファレンス電圧を微調整する構成を有している。実際にはトリムナンバーとしてリファレンス電圧が微調整される。微調整機構16によるリファレンス電圧の調整は、弁別器13ごとに異なる値で行うことができる。複数の検出素子6についてそれぞれ異なるトリムナンバーにより微調整機構16は調整することができる。
【0064】
校正装置1は、弁別器13のリファレンス電圧を調整することでエネルギ値の校正を行う。検出器4により測定可能なエネルギ値の上限を例えば80keVとする場合、理想的にはチャンネルナンバー0がエネルギ値0keVに対応して、チャンネルナンバー127がエネルギ値80keVに対応することになる。
【0065】
このとき管電圧を40kVとしてX線の測定を行うと、図5に示すグラフと同様の測定結果が得られる。理想的にはチャンネルナンバー64の光子数Cが1以上となり、チャンネルナンバー65以上においては光子数Cが0となる。つまり最大波高値Hに最も近い整数値としてはチャンネルナンバー64であると推定することができる。チャンネルナンバー64に対応するエネルギ値が40keVであると考えられる。
【0066】
次に校正装置1が、検出素子6ごとに最大波高値Hの推定を行う。実際の測定では最大波高値Hがチャンネルナンバー62や66として出力される検出素子6が出てくる。図9に最大波高値Hとして推定されるチャンネルナンバーとその検出素子6の数との関係を示す。40keVのエネルギ値を有するX線に対して、各検出素子6から出力されるチャンネルナンバーにはばらつきが生じる。図9に例示するように仮にグラフの中央値がチャンネルナンバー66となる場合は、制御機構5を介してチャンネルナンバーを調整する。40keVのエネルギ値に対応するエネルギBINの境界としてチャンネルナンバー66を設定する。
【0067】
つまり校正装置1は、制御機構5を介して弁別器13のリファレンス電圧を調整する。弁別器13において40keVのエネルギ値に対応するチャンネルナンバーを64から66に変更する。
【0068】
校正前の検出器4は、弁別器13から出力されるチャンネルナンバーが64のとき、対応するエネルギ値は40keVであると仮定されている状態であった。校正装置1の測定により、実際はチャンネルナンバーが64のときエネルギ値は40keVを下回る状態であったことがわかる。チャンネルナンバー66を得られた校正値dとして、校正装置1から制御機構5に送る。校正後の検出器4は、弁別器13から出力されるチャンネルナンバーが66のとき、対応するエネルギ値は40keVとなる。この検出器4は40keVのエネルギ値を精度良く測定することが可能となる。
【0069】
校正装置1が図9に例示するグラフに対応するデータを取得して、中央値を抽出する構成を有していてもよい。この場合、校正装置1が制御機構5に働きかけてチャンネルナンバーを設定し直す。具体的には校正装置1から送られる校正値dに基づき、制御機構5からDAコンバータ15を介して弁別器13のリファレンス電圧が変更される。
【0070】
40keVのエネルギ値を有するX線に対して多数の検出素子6がチャンネルナンバー66として出力する状態となる。チャンネルナンバー66が出力されるとき、測定されたX線の光子はおおよそ40keVのエネルギ値を有することになる。複数の検出素子6の全てに対してチャンネルナンバー66に対応する一つのリファレンス電圧が設定される。
【0071】
制御機構5が微調整機構16を有する場合には更に校正の精度を向上させることができる。図9に例示するように最大波高値Hとなるチャンネルナンバーが66以外にも、検出素子6によってはチャンネルナンバー64を出力するものもある。チャンネルナンバーが64から68の間でばらつきがある。つまり検出素子6によっては40keVのX線の光子に対して、38.75~41.25keVとして出力する状態となっている。
【0072】
微調整機構16はエネルギ値に対するトリムナンバーとしてリファレンス電圧を微調整する。例えばトリムナンバーが0-15(4bit)の構成を有している場合を例に説明する。図9に例示するように中央値のチャンネルナンバー66に対して±2の範囲のばらつきがある場合、チャンネルナンバー4つ分の範囲をトリム範囲としてまず設定する。トリムナンバー1あたりの範囲はチャンネルナンバーの0.25の範囲に相当する。
【0073】
校正装置1により検出素子6ごとに推定される最大波高値Hはチャンネルナンバーとして算出する。チャンネルナンバーはデジタル値であり整数部のみの数値となるが、最大波高値Hとして推定されるチャンネルナンバーは小数部を含む数値となる。
【0074】
ある検出素子6において制御機構5からDAコンバータ15に設定されたチャンネルナンバーが66であり、且つトリムナンバーの初期設定値が7であり、最大波高値Hがチャンネルナンバー66.5であると推定される場合、この検出素子6のトリムナンバーを+2に設定する。このトリムナンバー+2を得られた校正値dとして、校正装置1から制御機構5に送る。これにより弁別器13におけるリファレンス電圧がチャンネルナンバーの0.5と同等分上がる。つまりこの検出素子6においてチャンネルナンバー66.5は40keVのエネルギ値と一致することになる。この検出素子6はチャンネルナンバー66.5を40keVのエネルギBINの境界として、光子数Cが計数されることになる。上記と同様に、すべての検出素子6に対してそれぞれトリムナンバーが決定される。
【0075】
校正装置1が、検出素子6ごとの最大波高値Hのばらつきに基づきトリム範囲を決定する構成を有していてもよい。また校正装置1が推定される最大波高値Hに基づきトリムナンバーを決定する構成を有していてもよい。具体的には校正装置1から送られる校正値dに基づき、制御機構5の微調整機構16から弁別器13のリファレンス電圧が微調整される。
【0076】
弁別器13の判定に使用される実際の波高値Hに対応するチャンネルナンバーは、制御機構5からDAコンバータ15に設定されたチャンネルんナンバー(整数)に極めて近い値である。仮にエネルギBINの境界が40keVに設定される場合、40keV以下のエネルギ値を有する光子は境界より下のBINに含まれるとしてカウントされる。このとき判定に使用される実際の波高値Hに対応するチャンネルナンバーは66に極めて近い値となる。一方で40keVより大きいエネルギ値を有する光子は境界より上のBINに含まれるとしてカウントされる。このとき判定に使用される実際の波高値Hに対応するチャンネルナンバーは66に極めて近い値となる。40keVのエネルギ値を境界として、光子のエネルギ値は精度良く弁別される。
【0077】
校正後に校正装置1による再測定を行い、校正結果を評価する構成を校正装置1が備えていてもよい。微調整機構16による校正を行うと、例えばチャンネルナンバー66±0.25の範囲にすべての検出素子6が収まる。このとき図9に破線で例示する結果が得られる。40keVのエネルギ値を有するX線の光子に対して、すべての検出素子6は40keV±0.16keVの精度で検出することが可能となる。
【0078】
この実施形態では校正装置1により設定されるチャンネルナンバーおよびトリムナンバーが校正値dとして、校正部10で算出される。この校正値dが校正装置1から制御機構5に送られることで、X線装置2におけるエネルギ値の校正を精度良く行うことができる。
【0079】
微調整機構16のトリムナンバーとチャンネルナンバーとの対応関係が比例関係から崩れている場合には、校正後のエネルギ値が想定通りに収束しないことも考えられる。このような場合であってもチャンネルナンバーとトリムナンバーの設定および測定(校正)を繰り返すことで、校正の精度を向上させることができる。校正後のエネルギ値が収束不可能な検出素子6がある場合には、これを不良画素として取り扱う構成としてもよい。校正装置1は不良画素を特定するための位置情報等の不良画素情報を校正値dとして制御機構5に送る。X線装置2において、不良画素情報に基づき不良画素とされた検出素子6からの得られる信号を制御機構5が排除する構成としてもよい。制御機構5は不良画素とされた検出素子6から得られる信号を使用しない状態となる。検出器4を利用した画像分析装置において、データ解析の際に不良画素のデータを使用しないことで、エネルギ情報の誤差の比較的大きなデータの混入を防いで、分析精度を向上させることができる。
【0080】
校正装置1による校正方法は上記に限定されない。例えば光子計数型ASICなど検出器4の構成が異なる場合は、校正装置1で得られる校正値dや校正方法は変わる。校正装置1は、最大波高値Hを利用して、各検出素子6から出力される信号とこれに対応するエネルギ値との関係を精度良く校正できればよい。
【0081】
図10に例示するように校正装置1がX線管3と検出器4との間に配置されるフィルタ機構17を備える構成としてもよい。フィルタ機構17は材料の異なる複数のフィルタが切替可能に配置される構成を有している。フィルタは例えば4.0mmの厚みのアルミニウムで構成されるフィルタや、2.0mmの厚みのアルミニウムと0.3mmの厚みの銅とを組み合わせたフィルタなどで構成される。この実施形態では材料のそれぞれ異なる複数のフィルタがX線の照射方向に直交する方向に並べて固定されている。フィルタが並べられる方向に移動させることで、フィルタ機構17はX線が透過するフィルタを切り替えることができる。図10では説明のためフィルタの移動方向を矢印で示している。
【0082】
フィルタ機構17は、自動でフィルタの切り替えを制御するフィルタ制御部18に信号線を介して接続されていてもよい。図10では説明のため信号線を一点鎖線で示している。フィルタ制御部18は、X線管制御部7から管電圧を取得して、管電圧に応じて予め設定されているフィルタに自動的に切り替える構成を有している。X線管3の管電圧が変更されるとき、フィルタ機構17のフィルタが切り替えられる。フィルタの切り替えは手動で行われてもよい。この場合、校正装置1はフィルタ制御部18を備えない構成となる。
【0083】
フィルタ機構17のフィルタは、通過するX線の線質を変化させることができる。フィルタは、最大波高値Hを推定する際に有用となる抽出領域Sの光子数を増加させて、抽出領域Sに含まれない部分の光子数を減少させる材料が選択される。そのため管電圧ごとに最適となるフィルタの材料が異なる。
【0084】
例えば管電圧が20kVのとき0.7mmのアルミニウムフィルタが使用されて、40kVのとき2.0mmのアルミニウムと0.3mmの銅とを組み合わせたフィルタが使用されて、60kVのとき2.0mmのアルミニウムと1.4mmの銅とを組み合わせたフィルタが使用される。X線装置2の校正を行うとき、管電圧を変更する際にフィルタ機構17のフィルタが管電圧に合わせて切り替えられる。
【0085】
図11に例示するように抽出領域Sの光子数が増加するので、最大波高値Hを推定する際の精度を向上できる。また最大波高値Hの推定に必要となるエネルギの範囲の光子数が相対的に増加するので、校正に必要となる時間を短縮することが可能となる。
【0086】
X線管3から照射されるX線の線量を低くするほど検出素子6で検出される電気パルス信号の時間の間隔が大きくなるためパイルアップを抑制しやすくなる。一方でX線管3から照射されるX線の光子の数が少なくなるため、一定の光子数を得ようとした場合、校正に必要となる時間が増加してしまう。フィルタ機構17を利用することで、X線管3からの線量を増加させても、検出器4に入射する全体の線量を増加させることなく最大波高値Hの推定に必要となる光子の数を増加させることができる。X線装置2の校正に必要となる時間を短縮するには有利である。
【0087】
校正装置1がフィルタ制御部18を備える場合は、数時間かかるX線装置2の校正を自動で行うことができる。検出器4の製造工場等において出荷前の検出器4の校正を効率よく行うには有利である。
【0088】
校正装置1がX線装置2に組み込まれる場合は、食品工場等で食品の生産が停止される夜間などにX線装置2の校正を自動的に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0089】
1 校正装置
2 X線装置
3 X線管
4 検出器
5 制御機構
6 検出素子
7 X線管制御部
8 取得部
9 演算部
10 校正部
11 チャージアンプ
12 波形成形器
13 弁別器
14 カウンタ
15 DAコンバータ
16 微調整機構
17 フィルタ機構
18 フィルタ制御部
p パルス間隔
w パルス幅
H 最大波高値
h 波高値
d 校正値
S 抽出領域
C 光子数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11