(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ビール製造装置を用いたどぶろくの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/022 20190101AFI20240816BHJP
【FI】
C12G3/022
(21)【出願番号】P 2024059340
(22)【出願日】2024-04-02
【審査請求日】2024-04-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512252777
【氏名又は名称】株式会社宮城マイクロブルワリー
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】原 勉
【審査官】藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-158171(JP,A)
【文献】特開2018-174910(JP,A)
【文献】特開平3-232540(JP,A)
【文献】特開昭60-009480(JP,A)
【文献】日本醸造協会誌,2010年,Vol.105, No.10,p.628-640
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00 - 3/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビール製造装置を用いたどぶろくの製造方法であって、
前記ビール製造装置は、
仕込み釜と、
圧力容器である発酵熟成タンクと、
前記発酵熟成タンク内の液体の温度を調整するタンク温度調整器と、を備え、
前記製造方法は、
精米した米を水に含浸することと、
含浸した前記米を前記仕込み釜に入れることと、
前記仕込み釜に投入した前記米に、温水を加えて粥状の米を作ることと、
前記粥状の米を前記発酵熟成タンクに入れることと、
前記発酵熟成タンク内の前記粥状の米に麹と酵母と水を入れることと、
前記タンク温度調整器を用いて、前記発酵熟成タンク内の温度を所定の温度に保つことと、を含む、どぶろくの製造方法。
【請求項2】
前記精米を水に含浸する前に、前記精米を粉砕機により粉砕することをさらに備える、請求項1に記載のどぶろくの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール製造装置を用いたどぶろくの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
清酒とは、米と麹と水とを発酵させた後、発酵により生じた醪(もろみ)を濾して造る酒である。なお、清酒のうち原材料と醸造地が日本であるものが日本酒と呼ばれる。これに対して、米と麹と水とを発酵させた後、醪を濾さずに造られた酒は、どぶろくと呼ばれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、どぶろくは、醪を上槽する工程、すなわち、醪を濾して酒と酒粕に分ける工程が行われないことを除いて、清酒(日本酒)と同様の製法で造られる。そのため、市販されているどぶろくは、清酒(日本酒)を製造する酒造メーカーが、その設備を利用して製造することが一般的である。
【0004】
近年、クラフトビールと呼ばれる、小規模なビール醸造所で製造されたビール(又は発泡酒)の需要が高まっており、小規模なビール醸造所が各地に存在している。本発明者は、ビール醸造所にあるビール製造装置を用いることにより、どぶろくの製造ができることに想到し、本発明に至った。
【0005】
本発明の目的は、クラフトビールなどのビールを製造するビール醸造所が有するビール製造装置を用いて、どぶろくを製造するための製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様に従えば、ビール製造装置を用いたどぶろくの製造方法であって、
前記ビール製造装置は、
仕込み釜と、
圧力容器である発酵熟成タンクと、
前記発酵熟成タンク内の液体の温度を調整するタンク温度調整器と、を備え、
前記製造方法は、
精米を水に含浸することと、
含浸した前記精米を前記仕込み釜に入れることと、
前記仕込み釜に投入した前記精米に、温水を加えて粥状の米を造ることと、
前記粥状の米を前記発酵熟成タンクに投入することと、
前記発酵熟成タンク内の前記粥状の米に麹と酵母と水を入れることと、
前記タンク温度調整器を用いて、前記発酵熟成タンク内の温度を所定の温度に保つことと、を含むどぶろくの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
ビール製造装置を用いたどぶろくの製造方法においては、一般のどぶろくの製造方法における蒸米工程(後述)に代えて、仕込み釜に温水を加えている。これにより、蒸米工程における、高温の蒸気を吹き付けて蒸すという手間を省くことができ、どぶろくの製造が容易となる。また、発酵熟成タンクとタンク温度調整器とを組み合わせて使用しているため、発酵熟成タンク内の粥状の米の温度を容易に調整することができる。特に、発酵の過程で生じる発酵熱を取り除くことができ、発酵・熟成の期間中、タンク内の温度を所定の温度に容易に保つことができる。さらに、発酵・熟成に用いられる発酵熟成タンクは圧力容器であるため、発酵の際に生じた二酸化炭素は外部に逃げて消失することが抑制される。これにより、どぶろくを二酸化炭素で飽和させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は清酒の製造方法に基づいた、一般的などぶろくの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】
図2はビール製造装置1を説明するための説明図である。
【
図3】
図3は一般的なビールの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図4】
図4はビール製造装置1を用いたどぶろくの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るどぶろくの製造方法について、図面を参照しつつ説明する。なお、本明細書においては、どぶろくは、米と麹と水とを発酵させた後、醪を濾さずに造られた酒であるとする。
【0010】
まず、清酒の製造方法に基づいた、一般的などぶろくの製造方法について説明する。
図1に示されるように、精白した米を洗い、ぬかを落とし、水に浸す(S101)。このような工程を洗米工程と呼ぶ。次に洗米した白米に高温の蒸気を吹き付けて蒸す(S102)。このような工程を蒸米工程と呼ぶ。次に、蒸した米(蒸米)に麹菌を入れ、床揉みして、湿度及び温度を保った状態で繁殖させる(S103)。このような工程を麹づくりという。なお、床揉みとは、蒸米に種麹を振りかけ、種麹が満遍なく付着するように蒸米を混ぜる作業をいう。次に、麹、蒸米、水を混ぜ、さらに一定の乳酸を加えて、酵母(酒母)を育てる(S104)。このような工程を、もとづくり又は酒母づくりと呼ぶ。なお、このような工程を省略し、市販の酵母を用いることもできる。次に、麹と酵母に水を加えて発酵させて醪(もろみ)を造る(S105)。このとき、さらに蒸米を追加してもよい。これにより、麹の酵素が米のデンプンを糖に変え、同時に酵母(酒母)が糖に対してアルコール発酵を行う。このような工程を仕込みと呼ぶ。このようにして造られた醪を濾さずに瓶詰めすることにより、どぶろくが製造される。なお、瓶詰めの前後において、アルコール発酵を止めるために、70℃程度に加熱して殺菌する火入れを行ってもよい。
【0011】
次に、一般的なビールの製造方法について
図2、3を参照しつつ説明する。
図2に示されるように、一般的なビール醸造所においては、ビール製造装置1として、粉砕機10と、仕込み釜20と、発酵熟成タンク30と、ボイラー40と、タンク温度調整器50とを主に備えている。まず粉砕機10を用いて麦芽を粉砕し(S201)、仕込み釜20に入れる。次に、仕込み釜20にボイラー40により加熱された温水(約78℃)を加え、温度を保ちつつ攪拌する。このとき、麦芽の酵素の働きにより、麦芽のデンプンが糖に変わる糖化が行われる(S202)。このようにして生成された麦汁を濾過することにより麦芽の粒などの固形物を取り除いた後、麦汁を煮沸する(S203)。なお、煮沸は、仕込み釜20を用いて行ってもよく、麦汁を専用の煮沸釜に移して行ってもよい。なお、煮沸の際に、苦みと香りを付けるためにホップを加える。次に、タンク温度調整器50を用いて、仕込み釜20内の麦汁を冷却し、発酵熟成タンク30に移す。そして、発酵熟成タンク30に移された麦汁に酵母を加えて発酵させ、熟成させてビールを製造する(S204)。このとき、タンク温度調整器50を用いて、発酵熟成タンク30の温度を適宜の温度に調整する。また、発酵熟成タンク30は密閉可能な圧力容器となっているため、発酵の際に生じた二酸化炭素は外部に逃げて消失することが抑制される。これにより、ビールを二酸化炭素で飽和させることができる。また、必要に応じて、外部から二酸化炭素を注入することもできる。このようにして製造されたビールを缶や瓶に詰めることにより、クラフトビール等のビールが製造される。
【0012】
次に、ビール製造装置1を用いたどぶろくの製造方法について、
図4を参照しつつ説明する。まず、精米した米を粉砕機10で粉砕する(S301)。次に、粉砕した米を30分~40分程度水に浸した後、仕込み釜20に入れる(S302)。なお、仕込み釜20に入れるのは、粉砕した米である必要はなく、上記のS301の工程を省略して、精米した米を浸水した後、仕込み釜20に入れてもよい。
【0013】
次に、仕込み釜20に、ボイラー40で加熱した温水(約50℃)を加え、約80℃まで加熱する(S303)。これにより、米が粥状となる。次に、発酵熟成タンク30に粥状の米を移し、タンク温度調整器50を用いて、約17℃まで冷却する(S304)。温度が下がったら、麹、酵母、水を加えて攪拌した後、温度を約15℃に保った状態で発酵・熟成させる(S305)。約3週間~4週間熟成させた後、瓶詰めすることにより、どぶろくが製造される。なお、上述の製造方法と同様に、瓶詰めの前後において、アルコール発酵を止めるために、70℃程度に加熱して殺菌する火入れを行ってもよい。
【0014】
ビール製造装置1を用いたどぶろくの製造方法においては、上述の蒸米工程に代えて、仕込み釜20に約50℃の温水を加えて、約80℃まで加熱している。これにより、蒸米工程における、高温の蒸気を吹き付けて蒸すという手間を省くことができ、どぶろくの製造が容易となる。また、ビールの製造において用いられる仕込み釜20は、もともと、麦芽に温水(約78℃)を加える工程において使用されていたものである。そのため、どぶろくの製造に用いる際に、仕込み釜20の中に約50℃の温水を加えて、さらに約80℃まで加熱したとしても、仕込み釜20の温度耐久性に全く問題はない。
【0015】
また、ビール製造装置1の発酵熟成タンク30は、ビールの製造の際に、タンク温度調整器50と組み合わせて用いることにより、内部の液体(麦汁)の温度を調整している。ビール製造装置1を用いたどぶろくの製造方法においては、このような発酵熟成タンク30とタンク温度調整器50とを組み合わせて使用しているため、上記のS304の工程において、発酵熟成タンク30内の粥状の米の温度を容易に17℃程度まで下げることができる。また、発酵熟成タンク30とタンク温度調整器50とを組み合わせて使用しているため、上記のS305の工程において、発酵の過程で生じる発酵熱を取り除くことができ、発酵・熟成の期間中、タンク内の温度を所定の温度(約15℃)に容易に保つことができる。
【0016】
なお、清酒を製造する酒造メーカーが行う、一般的などぶろくの製造方法においては、麹と酵母に水を加えて発酵させて醪(もろみ)を造る工程は、木樽やステンレス製のタンクを用いて行われるが、いずれも、圧力容器ではない。そのため、発酵の際に発生する二酸化炭素の大部分は、タンクの外に逃げて消失される。これに対して、ビールは発泡性の酒であるため、ビールを製造する際には、ビールを二酸化炭素で飽和させるために発酵熟成タンク30として圧力容器が用いられる。ビール製造装置1を用いたどぶろくの製造方法においても、発酵・熟成に用いられる発酵熟成タンク30は圧力容器であるため、発酵の際に生じた二酸化炭素は外部に逃げて消失することが抑制される。これにより、どぶろくを二酸化炭素で飽和させることができる。また、必要に応じて、外部から二酸化炭素を注入することもできる。
【0017】
市販の発泡性のどぶろくは、火入れをせずに、酵母が生きた状態で瓶詰めして出荷している。そのため、瓶詰めした後も内部で発酵が進むため、発酵により生じた二酸化炭素により瓶の内圧が上昇する恐れがある。そこで、瓶の内圧が上昇しすぎることを防ぐために、瓶のキャップなどにガス抜き用の穴が開けられていることが多い。また、火入れを行っていないため、賞味期限が短く設定され、且つ、温度変化による劣化のおそれがある。また、キャップにガス抜き用の穴が開いているので、瓶を横に倒したりすることができない。
【0018】
これに対して、ビール製造装置1を用いたどぶろくの製造方法においては、上述のように、発酵・熟成に用いられる発酵熟成タンク30として、圧力容器を用いている。そのため、発酵・熟成の際に、どぶろくを二酸化炭素で飽和させることができる。そのため、製造されたどぶろくに火入れを行い、その後の発酵を止めたとしても、二酸化炭素が十分溶存した発泡性のどぶろくを製造することができる。
【0019】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。例えば、粥状の米を作るために仕込み釜20に加える温水の温度は、必ずしも50℃ではなくてもよく、適宜の温度にすることができる。発酵熟成タンク30におけるタンク内の温度も、適宜の温度にすることができる。また、米を水に浸す時間、発酵・熟成の時間なども適宜変更しうる。例えば、比重計を用いて、発酵熟成タンク30内の液体の糖分を測定し、それに基づいて発酵・熟成の程度を判断して、発酵・熟成の時間を決定してもよい。
【0020】
上記実施形態において、ビール製造装置1はボイラー40を備えていたが、必ずしも必須ではない。どぶろくの製造に必要な温水を別途用意することもできる。
【0021】
明細書、及び図面中において示した製造方法における各処理の実行順序は、特段に順序が明記されておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるので無い限り、任意の順序で実行しうる。便宜上、「まず、」「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するわけではない。
【符号の説明】
【0022】
10 ビール製造装置
20 仕込み釜
30 発酵醸成タンク
40 ボイラー
50 タンク温度調整器
【要約】
【課題】ビール製造装置を用いて、どぶろくを製造するための製造方法を提供する。
【解決手段】
どぶろくの製造方法は、精米を水に含浸することと、含浸した前記精米を仕込み釜20に投入することと、仕込み釜20に投入した前記精米に、温水を加えて粥状の米を作ることと、粥状の米を発酵熟成タンク30に投入することと、発酵熟成タンク30内の粥状の米に麹と酵母と水を入れることと、タンク温度調整器50を用いて、発酵熟成タンク30内の温度を所定の温度に保つことと、を含む。
【選択図】
図4