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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】6-ヒドロキシダイゼインの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/06 20060101AFI20240816BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
C12P17/06
C12N1/20 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018193678
(22)【出願日】2018-10-12
(65)【公開番号】P2020058319
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-08-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 侑平
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩明
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】福井 悟
【審判官】天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】J.Agric.Food Chem.,2014年,62,12377-12383
【文献】Blautia producta(Prevot 1941) Liu et al. 2008,1471,JCM Catalogue,[online],[2022/04/14検索],インターネットURL:https://www.jcm.riken.jp/cgi-bin/jcm/jcm number?JCM=1471
【文献】Blautia coccoides (Kaneuchi et al.1976) Liu et al. 2008,1395,JCM Catalogue,[online],[2022/04/14検索],インターネットURL:https://www.jcm.riken.jp/cgi-bin/jcm/jcm number?JCM=1395
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(a)を含む、6-ヒドロキシダイゼインの製造方法。
工程(a):グリシテインを含有する溶液において、ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)に属する微生物に、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成させる工
【請求項2】
前記ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)に属する微生物が、ブラウチア・シンキ
(Blautia schinki)JCM 14657株である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)と同一の系で行われる下記工程(c)を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
工程(c):グリシチンを含有する溶液において、グリシチンからグリシテインを生成する能力を有する微生物に、グリシチンからグリシテインを生成させる工程
【請求項4】
同一の系で行われる下記工程(a)及び工程(b)を含む、エクオールの製造方法。
工程(a):グリシテインを含有する溶液において、ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)に属する微生物、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)に属す
る微生物、及びブラウチア・シンキ(Blautia schinki)に属する微生物から成る群から
選択される一又は複数の微生物に、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成させる工程
工程(b):前記工程(a)で生成した6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液において、アサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する微生物、
及びエガセラ(Eggerthella)属に属する微生物から成る群から選択される一又は複数の
微生物に、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成させる工程
【請求項5】
前記アサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物が、アサッカロバクタ
ー・セラツス(Asaccharobacter celatus)に属する微生物である、請求項に記載の製
造方法。
【請求項6】
前記アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物が、アドレクラウチア・エ
クオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)に属する微生物である、請求項
又はに記載の製造方法。
【請求項7】
前記アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)に属する微生物が、
アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株である、請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)に属
する微生物が、アドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株である、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する微生物が、ラクトコッカス・ガルビエ
(Lactococcus garvieae)に属する微生物である、請求項のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記エガセラ(Eggerthella)属に属する微生物が、エガセラ・エスピー(Eggerthella
sp)YY 7918株である、請求項のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程(a)及び工程(b)と同一の系で行われる下記工程(c)を含む、請求項10のいずれか1項に記載の製造方法。
工程(c):グリシチンを含有する溶液において、グリシチンからグリシテインを生成する能力を有する微生物に、グリシチンからグリシテインを生成させる工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6-ヒドロキシダイゼインの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イソフラボン類は腸内細菌によりエクオールに変換されることが知られている。エクオールは女性ホルモン様の生理作用が強いため、更年期症状や骨粗鬆症の予防や改善(特許文献1)、皮膚の老化及びシワの予防や治療(特許文献2)、アレルギー症状の緩和(特許文献3)等への利用が提案されている。
【0003】
しかし、イソフラボン類の代謝には個人差があり、イソフラボン類を含む大豆等を摂取しても体内でエクオールを産生できない人も多い。そのため、エクオールの様々な製造方法がこれまでに報告されている。例えば、イソフラボン類を含む培地にβ-シクロデキストリン等を添加し、エクオール生産能を有する微生物を作用させることを特徴とするエクオールの製造法が知られている(特許文献4)。
【0004】
また、イソフラボン類の代謝について、これまでに下記のことが知られている。
ダイゼイン配糖体であるダイジン、グリシチン、ゲニスチンは、β-グルコシダーゼ活性により、それぞれ、ダイゼイン、グリシテイン、ゲニステインに変換される(特許文献5)。このβ-グルコシダーゼ活性を有する微生物として、例えば、ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)DSM 2950株、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides
)DSM 935株、ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)DSM 10518株、ユーバクテリウム
・レクタレ(Eubacterium rectale)A1-86株、同M104/1株、同T1-815株、ユーバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)70/3株が知られている(非特許文献1、非特許
文献2)。
【0005】
また、グリシテインは、腸内細菌による脱メチル化により6-ヒドロキシダイゼインに変換される。このような腸内細菌として、ユーバクテリウム・リモサム(Eubacterium limosum)が知られている(特許文献5)。
【0006】
また、6-ヒドロキシダイゼインやダイゼインは、腸内細菌によりエクオールに変換されることが知られている。このような腸内細菌として、アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)に属する微生物や、アドレクラウチア・エクオリファシエン
ス(Adlercreutzia equolifaciens)に属する微生物が知られている(特許文献4、特許
文献5)。
【0007】
しかし、ブラウチア(Blautia)属に属する微生物が、グリシテインを脱メチル化して
6-ヒドロキシダイゼインを生成することは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2001-523258号公報
【文献】特表2002-511860号公報
【文献】特許4479505号明細書
【文献】特開2012-135218号公報
【文献】特開2010-104241号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 63, 599-603 (2013)
【文献】FEMS Microbiol. Ecol., 66, 487-495 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、6-ヒドロキシダイゼインの新規製造方法の提供を課題とする。また、好ましい態様では、該製造方法で製造された6-ヒドロキシダイゼインを用いたエクオールの新規製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ブラウチア(Blautia)属に属する微生物が、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成する能力を
有することを見出し、本発明を完成させた。本発明は以下のとおりである。
【0012】
〔1〕下記工程(a)を含む、6-ヒドロキシダイゼインの製造方法。
工程(a):グリシテインを含有する溶液において、ブラウチア(Blautia)属に属す
る微生物に、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成させる工程
〔2〕前記ブラウチア(Blautia)属に属する微生物が、ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)に属する微生物、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)に属する微生物、及びブラウチア・シンキ(Blautia schinki)に属する微生物から成る群から
選択される一又は複数の微生物である、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕前記ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)に属する微生物が、ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)JCM 1471株である、〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕前記ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)に属する微生物が、ブラウ
チア・コッコイデス(Blautia coccoides)JCM 1395株である、〔2〕又は〔3〕に記載
の製造方法。
〔5〕前記ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)に属する微生物が、ブラウチア・シ
ンキ(Blautia schinki)JCM 14657株である、〔2〕~〔4〕のいずれかに記載の製造方法。
〔6〕前記工程(a)と同一の系で行われる下記工程(c)を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の製造方法。
工程(c):グリシチンを含有する溶液において、グリシチンからグリシテインを生成する能力を有する微生物に、グリシチンからグリシテインを生成させる工程
〔7〕同一の系で行われる下記工程(a)及び工程(b)を含む、エクオールの製造方法。
工程(a):グリシテインを含有する溶液において、ブラウチア(Blautia)属に属す
る微生物に、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成させる工程
工程(b):前記工程(a)で生成した6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液において、アサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する微生物、
及びエガセラ(Eggerthella)属に属する微生物から成る群から選択される一又は複数の
微生物に、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成させる工程
〔8〕前記アサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物が、アサッカロバ
クター・セラツス(Asaccharobacter celatus)に属する微生物である、〔7〕に記載の
製造方法。
〔9〕前記アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物が、アドレクラウチア
・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)に属する微生物である、〔7
〕又は〔8〕に記載の製造方法。
〔10〕前記アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)に属する微生
物が、アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株である、
〔8〕又は〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕前記アドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens
)に属する微生物が、アドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株である、〔9〕又は〔10〕に記載の製造方法。
〔12〕前記ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する微生物が、ラクトコッカス・ガ
ルビエ(Lactococcus garvieae)に属する微生物である、〔7〕~〔11〕のいずれかに記載の製造方法。
〔13〕前記エガセラ(Eggerthella)属に属する微生物が、エガセラ・エスピー(Eggerthella sp)YY 7918株である、〔7〕~〔12〕のいずれかに記載の製造方法。
〔14〕前記工程(a)及び工程(b)と同一の系で行われる下記工程(c)を含む、〔7〕~〔13〕のいずれかに記載の製造方法。
工程(c):グリシチンを含有する溶液において、グリシチンからグリシテインを生成する能力を有する微生物に、グリシチンからグリシテインを生成させる工程
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインの効率的な製造方法が提供できる。
本発明により得られる6-ヒドロキシダイゼインを、化粧品、医薬部外品、医療用品、衛生用品、医薬品、飲食品(サプリメントを含む。)等に用い、ヒトを含む対象がそれを使用又は摂取等することにより、6-ヒドロキシダイゼインによる公知の効果を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、6-ヒドロキシダイゼインの製造方法(第一の発明)、及び該製造方法で製造された6-ヒドロキシダイゼインを用いたエクオールの製造方法(第二の発明)を含む。
【0015】
<1.第一の発明>
本発明の第一の発明に係る6-ヒドロキシダイゼインの製造方法は、下記工程(a)を含む。本発明の第一の発明は、その他の工程を含んでもよい。
【0016】
(1)工程(a)
工程(a)は、グリシテインを含有する溶液において、ブラウチア(Blautia)属に属
する微生物に、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成させる工程である。
【0017】
(ブラウチア(Blautia)属に属する微生物)
本工程における、グリシテインを含有する溶液においてグリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成する微生物は、ブラウチア(Blautia)属に属する微生物である。そ
の中でも、ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)に属する微生物、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)に属する微生物、ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)に属する微生物が好ましい。また、それらの中でも、ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)JCM 1471株、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)JCM 1395株、ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)JCM 14657株がより好ましい。
本工程におけるブラウチア(Blautia)属に属する微生物としては、1種でも2種以上
を用いてもよく、1株でも2株以上を用いてもよい。
【0018】
JCM番号が付与された微生物は、Japan Collection of Microorganisms(国立研究開発
法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室、郵便番号:305-0074、住所:茨城県つくば市高野台3-1-1)から入手することができる。
【0019】
ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)JCM 1471株は、それと実質的に同等の菌株であってもよい。実質的に同等の菌株とは、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成する能力を有するブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)に属する微生物と同属又は同種の微生物であって、当該菌株と同程度の高い6-ヒドロキシダイゼイン生成能を有する菌株をいう。また、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、当該菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは100%の相同性を有し、且つ、好ましくは当該菌株と同一の菌学的性質を有する。さらに、当該菌株は、当該菌株又はそれと実質的に同等の菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
このことは、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)JCM 1395株、ブラウチ
ア・シンキ(Blautia schinki)JCM 14657株についても同様である。
【0020】
(ブラウチア(Blautia)属に属する微生物の静止菌体)
ブラウチア(Blautia)属に属する微生物は、その静止菌体を含む。静止菌体とは、培
養した微生物から遠心分離等の操作により培地成分を取り除き、塩溶液や緩衝液で洗浄し、該洗浄液と同一の液に懸濁した菌体であって、増殖しない状態の菌体を指し、本発明の第一の発明においては、少なくとも、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成できる代謝系を有している菌体をいう。塩溶液としては生理食塩水等が好ましい。緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス-塩酸緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、MOPS緩衝液、酢酸緩衝液、グリシン緩衝液等が好ましい。緩衝液のpHや濃度は、常法に従い適宜調製できる。
【0021】
(グリシテインを含有する溶液)
グリシテインを含有する溶液とは、該溶液において、ブラウチア(Blautia)属に属す
る微生物に、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成させることができるものであれば特に制限されない。好ましくは培地であり、より好ましくは後述する「培地、及び培養による6-ヒドロキシダイゼインの生成」欄に記載した培地である。また、ブラウチア(Blautia)属に属する微生物が静止菌体である場合には、前述した塩溶液や緩衝液
が好ましい。
本明細書に記載されている「培地」とは、いずれも、最少培地を含む、微生物が増殖できる溶液をいい、微生物が増殖できない溶液、例えば、前述した塩溶液や緩衝液などを含まないものとする。
【0022】
該溶液又はその溶媒へグリシテインを添加する場合には、6-ヒドロキシダイゼインの生成前に添加しても、その途中で添加してもよく、また、一括添加、逐次添加、連続添加でもよい。
溶液中のグリシテインの含有量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。一方、通常100g/L以下、好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0023】
(培地、及び培養による6-ヒドロキシダイゼインの生成)
工程(a)では、前記溶液が培地であることが好ましい。該培地は特に限定されないが、例えば、Oxoid社製のANAEROBE BASAL BROTH(ABB培地)、Oxoid社製のWilkins-Chalgren Anaerobe Broth(CM0643)、日水製薬株式会社製のGAM培地、変法GAM培地、ブレインハートインヒュージョン培地等を使用することができる。
【0024】
また、培地に水溶性の有機物を炭素源として加えることができる。水溶性の有機物として、以下の化合物を挙げることができる。すなわち、グルコース、アラビノース、ソルビトール、フラクトース、マンノース、スクロース、トレハロース、キシロースなどの糖類;グリセロールなどのアルコール類;吉草酸、酪酸、プロピオン酸、酢酸、ギ酸、フマル
酸などの有機酸類などを挙げることが出来る。
【0025】
炭素源としての培地に加える有機物の濃度は、効率的に発育させるために適宜調節することができる。一般的には、0.1~10wt/vol%の範囲から添加量を選択することができる。
【0026】
前記の炭素源に加えて、培地に窒素源を加えることができる。窒素源としては通常の発酵に用いうる各種の窒素化合物を用いることができる。
好ましい無機窒素源として、アンモニウム塩、硝酸塩などを、より好ましくは、硫安、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、硝酸カリウム及び硝酸ソーダなどを挙げることが出来る。
また、有機窒素源としては、アミノ酸類、酵母エキス、ペプトン類(例えばポリペプトンN、大豆ペプトンなど)、肉エキス(例えばエールリッヒカツオエキス、ラブ-レムコ末、ブイヨンなど)、魚介類エキス、肝臓エキス、消化血清末、魚油などを挙げることが出来る。
【0027】
さらに、炭素源や窒素源に加えて、例えば、ビタミンなどの補因子や各種の塩類等の無機化合物を培地に加えることによって、増殖や活性を増強できる場合もある。たとえば無機化合物、ビタミン類、脂肪酸など、動植物由来の微生物増殖補助因子として以下のものを挙げることができる。
【0028】
無機化合物 ビタミン類
リン酸二水素カリウム ビオチン
硫酸マグネシウム 葉酸
硫酸マンガン ピリドキシン
塩化ナトリウム チアミン
塩化コバルト リボフラビン
塩化カルシウム ニコチン酸
硫酸亜鉛 パントテン酸
硫酸銅 ビタミンB12
明ばん チオオクト酸
モリブデン酸ソーダ p-アミノ安息香酸
塩化カリウム ビタミンK
ホウ酸等
塩化ニッケル
タングステン酸ナトリウム
セレン酸ナトリウム
硫酸第一鉄アンモニウム
酢酸ナトリウム三水和物
硫酸マグネシウム七水和物
硫酸マンガン四水和物
【0029】
また、培地中に、微生物の生育を良好にするために、システイン、シスチン、硫化ナトリウム、亜硫酸塩、アスコルビン酸、グルタチオン、チオグリコール酸、ルチンなどの還元剤や、カタラーゼ、スーパーオキシドムターゼなどの活性酸素種を分解する酵素を添加することができる。
【0030】
培養中の気相及び水相は、空気又は酸素を含まないことが好ましく、例えば、窒素及び/又は水素を任意の比率で含むことや、窒素及び/又は二酸化炭素を任意の比率で含むことが挙げられ、水素を含む気相や水相であることが好ましい。気相における水素の割合は
、6-ヒドロキシダイゼインの生成が促進されることから、通常0.5%以上、好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上であり、一方、通常100%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
培養中の気相及び水相をこのような環境にする方法は特に制限されないが、例えば、培養前に前記ガスで気相を置換する方法、これに加えて、培養中も培養器の底部から前記ガスを供給する及び/又は培養器の気相部に前記ガスを供給する方法、培養前に前記ガスで水相をバブリングするなどの方法をとることが出来る。前記水素は、水素ガスをそのまま用いてもよい。また、培地にギ酸及び/又はその塩などの水素の原料を添加し、微生物の作用により培養中に水素を生成してもよい。
【0031】
前記ガスの通気量としては、通常0.005~2vvmであり、0.05~0.5vvmが好ましい。また、混合ガスはナノバブルとして供給することもできる。
ブラウチア(Blautia)属に属する微生物の培養温度は、通常20~45℃、より好ま
しくは25~40℃、さらに好ましくは30~37℃である。
培養器の加圧条件は、生育できる条件であれば特に限定されるものではないが、通常0.001~1MPa、好ましくは0.01~0.5MPaである。
培養時間としては、通常8~340時間、好ましくは12~170時間、より好ましくは16~120時間である。
【0032】
また、培養液に界面活性剤や吸着剤、包摂化合物などを添加することにより、6-ヒドロキシダイゼインの生成を促進できる場合がある。
界面活性剤としては、例えばTween 80等が挙げられ、濃度として0.001~10g/L以下とすることができる。
吸着剤としては、例えば、セルロース及びその誘導体;デキストリン;三菱化学株式会社製の疎水吸着剤であるダイアイオンHPシリーズやセパビーズシリーズ;オルガノ株式会社製のアンバーライトXADシリーズなどが挙げられる。
【0033】
包摂化合物としては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラスターデキストリン(高度分岐環状デキストリン)、及びこれらの類縁体でもよい。例えば、メチル-β-シクロデキストリン、トリメチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンなどが挙げられる。これらの中で、γ-シクロデキストリンが最も効果的である場合がある。また、2種以上の包摂化合物を共存させることにより、6-ヒドロキシダイゼインの生成を更に促進できる場合がある。
包摂化合物の添加量は、グリシテインに対し、モル比の総量で、通常0.1当量以上、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは1.0当量以上であり、一方、通常5.0当量以下、好ましくは2.5当量以下、より好ましくは2.0当量以下である。
【0034】
(静止菌体による6-ヒドロキシダイゼインの生成)
ブラウチア(Blautia)属に属する微生物が静止菌体である場合の溶液は、前記培地の
代わりに、前述した「ブラウチア(Blautia)属に属する微生物の静止菌体」欄に記載し
た塩溶液や緩衝液が好ましい。その他の条件については、前記「培地、及び培養による6-ヒドロキシダイゼインの生成」欄の記載を援用する。
【0035】
(グリシテイン)
グリシテインは、どのような方法により調製されたものでもよい。例えば、化学合成法や発酵法により合成したものが挙げられる。本発明の第一の発明で製造される6-ヒドロキシダイゼインを飲食品として利用する場合には、飲食品もしくは飲食品素材を原料にして、発酵法や酵素法により調製したグリシテインを利用することが望ましい。
【0036】
発酵法としては、グリシテインの原料を含有する溶液において、グリシテインの原料からグリシテインを生成する能力を有する微生物に、グリシテインの原料からグリシテインを生成させる方法が挙げられる。
グリシテインの原料としては、例えば、グリシチンが挙げられる。グリシチンからグリシテインを生成する能力を有する微生物としては、β-グルコシダーゼ活性を有する微生物であればよい。β-グルコシダーゼ活性を有する微生物としては、例えば、非特許文献1、非特許文献2に記載されているように、ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)DSM 2950株、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)DSM 935株、ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)DSM 10518株、ユーバクテリウム・レクタレ(Eubacterium rectale)A1-86株、同M104/1株、同T1-815株、ユーバクテリウム・シラエウム(Eubacterium siraeum)70/3株などが挙げられる。
【0037】
(工程(a)の前に含んでもよい工程)
発酵法によりグリシテインを生成後、該グリシテインを分離及び/又は精製して、工程(a)のグリシテインとして工程(a)に適用することもできるが、分離及び/又は精製せず、該グリシテインを含む溶液をそのまま、又は、希釈もしくは濃縮後に、工程(a)のグリシテインとして工程(a)に適用することもできる。
すなわち、本発明の第一の発明は、前記工程(a)の前に、該工程(a)が行われる系とは別の系で行われる、下記工程(pre-a´)及び(pre-a´´)をこの順に含んでもよく、又は、下記工程(pre-a´)及び(pre-a´´´)をこの順に含んでもよい。
工程(pre-a´):グリシチンを含有する溶液において、グリシチンからグリシテインを生成する能力を有する微生物に、グリシチンからグリシテインを生成させる工程
工程(pre-a´´):工程(pre-a´)で生成したグリシテインを分離及び/又は精製し、該分離及び/又は精製されたグリシテインを、工程(a)のグリシテインとして、工程(a)に適用する工程
工程(pre-a´´´):工程(pre-a´)で生成したグリシテインを含む溶液をそのまま又は希釈もしくは濃縮後に、工程(a)のグリシテインとして、工程(a)に適用する工程
【0038】
(2)工程(c)
本発明の第一の発明である6-ヒドロキシダイゼインの製造方法は、前記工程(a)と同一の系で行われる下記工程(c)を含むことが好ましい。
工程(c)は、グリシチンを含有する溶液において、グリシチンからグリシテインを生成する能力を有する微生物に、グリシチンからグリシテインを生成させる工程である。
【0039】
(同一の系)
工程(a)及び(c)が同一の系で行われるとは、工程(c)において、グリシチンを含有する溶液において、グリシチンからグリシテインを生成する能力を有する微生物により、グリシチンからグリシテインが生成されてから、該生成したグリシテインが工程(a)のグリシテインとしてそのまま用いられて、工程(a)において6-ヒドロキシダイゼインが生成されるまでの一連の流れが、同一の系で連続して行われることをいう。すなわち、工程(c)と工程(a)の間に、例えば、工程(c)で生成したグリシテインを分離及び/又は精製する工程などを含まないことをいう。
【0040】
具体的には、グリシチンからグリシテインを生成する能力を有する微生物とブラウチア(Blautia)属に属する微生物とを同じ培養液に植菌し、培養することにより、6-ヒド
ロキシダイゼインを生成することなどが挙げられる。両微生物は同一の微生物でもよいし、異なる微生物でもよい。
【0041】
(グリシチン)
グリシチンは、どのような方法により調製されたものでもよい。グリシチンの原料、さらにはその原料、それ以降についても同様である。例えば、化学合成法や発酵法により合成したものが挙げられる。ただし、本発明の第一の発明で製造される6-ヒドロキシダイゼインを飲食品として利用する場合には、発酵法や酵素法により得られたグリシチンを利用することが望ましい。
【0042】
(その他の工程)
本発明の第一の発明は、以下の工程を含んでもよい。
本発明の第一の発明は、例えば、得られた6-ヒドロキシダイゼインを定量する工程を含んでもよい。定量方法は常法に従うことができる。たとえば、培養液の一部を採取して適宜希釈し、よく撹拌した後、ポリテロラフルオロエチレン(PTFE)膜などの膜を使用して濾過し、不溶物を除去したものを高速液体クロマトグラフィーで定量することなどが挙げられる。
【0043】
また、本発明の第一の発明は、得られた6-ヒドロキシダイゼインを回収する工程を含んでもよい。当該回収工程は、精製工程や濃縮工程等を含む。精製工程における精製処理としては、熱などによる微生物の殺菌;精密濾過(MF)、限外濾過(UF)などによる除菌;固形物、高分子物質の除去;有機溶媒やイオン性液体などによる抽出;疎水性吸着剤、イオン交換樹脂、活性炭カラム等を用いた吸着、脱色といった処理を行うことができる。また、濃縮工程における濃縮処理としては、エバポレーター、逆浸透膜等による濃縮が挙げられる。
さらに、6-ヒドロキシダイゼインを含む溶液は、凍結乾燥、噴霧乾燥などにより粉末化することができる。粉末化において、ラクトース、デキストリン、コーンスターチ等の賦形剤を添加することもできる。
【0044】
<2.第二の発明>
本発明の第二の発明に係るエクオールの製造方法は、同一の系で行われる下記工程(a)及び工程(b)を含む。本発明の第二の発明は、その他の工程を含んでもよい。
【0045】
(1)工程(a)
工程(a)は、グリシテインを含有する溶液において、ブラウチア(Blautia)属に属
する微生物に、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成させる工程である。
工程(a)については、本発明の第一の発明における工程(a)の説明を援用する。
【0046】
(2)工程(b)
工程(b)は、前記工程(a)で生成した6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液において、アサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物、アドレクラウチア
(Adlercreutzia)属に属する微生物、ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する微生物、及びエガセラ(Eggerthella)属に属する微生物から成る群から選択される一又は複数
の微生物に、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成させる工程である。
【0047】
(6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物)
本工程における、6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液において、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物は、アサッカロバクター(Asaccharobacter
)属に属する微生物、アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物、ラクトコ
ッカス(Lactococcus)属に属する微生物、及びエガセラ(Eggerthella)属に属する微生物から成る群から選択される一又は複数の微生物である。
【0048】
アサッカロバクター(Asaccharobacter)属に属する微生物としては、アサッカロバク
ター・セラツス(Asaccharobacter celatus)に属する微生物が好ましく、アサッカロバ
クター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株がより好ましい。
【0049】
アドレクラウチア(Adlercreutzia)属に属する微生物としては、アドレクラウチア・
エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)に属する微生物が好ましく、ア
ドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株がより好ましい。
【0050】
ラクトコッカス(Lactococcus)属に属する微生物としては、ラクトコッカス・ガルビ
エ(Lactococcus garvieae)に属する微生物が好ましく、ラクトコッカス・ガルビエ(Lactococcus garvieae)20-92株がより好ましい。
【0051】
エガセラ(Eggerthella)属に属する微生物としては、エガセラ・エスピー(Eggerthella sp)に属する微生物が好ましく、エガセラ・エスピー(Eggerthella sp)YY 7918株がより好ましい。
【0052】
DSM番号が付与された微生物は、DSMZ (Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH) に保存されている微生物であり、同機関から入手することができる微生物である。
本工程における、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物としては、上記微生物のうち1種でも2種以上を用いてもよく、1株でも2株以上を用いてもよい。
【0053】
アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株は、それと実質的に同等の菌株であってもよい。実質的に同等の菌株とは、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する能力を有するアサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)に属する微生物と同属又は同種の微生物であって、当該菌株と同程度の高い
エクオール生成能を有する菌株をいう。また、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、当該菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列と98%以上、好ましくは99%以上、より好ましくは100%の相同性を有し、且つ、好ましくは当該菌株と同一の菌学的性質を有する。さらに、当該菌株は、当該菌株又はそれと実質的に同等の菌株から、変異処理、遺伝子組換え、自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
このことは、アドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株、エガセラ・エスピー(Eggerthella sp)YY 7918株についても同様であ
る。
【0054】
(6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物の静止菌体)
6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物は、その静止菌体を含む。当該静止菌体については、本発明の第一の発明における「ブラウチア(Blautia)属に属
する微生物の静止菌体」欄の記載を援用する。
【0055】
(6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液)
6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液とは、前記工程(a)で生成した6-ヒドロキシダイゼインを含有する溶液である。
【0056】
前記工程(a)で生成した6-ヒドロキシダイゼインとは別に、該溶液に、さらに6-ヒドロキシダイゼインを添加する場合には、エクオールの生成前に添加しても、その途中で添加してもよく、また、一括添加、逐次添加、連続添加でもよい。
溶液中の6-ヒドロキシダイゼインの含有量は、通常0.01g/L以上、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは1g/L以上である。一方、通常100g/L以下、
好ましくは20g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。
【0057】
(培地、及び培養によるエクオールの生成)
本発明の第二の発明に係るエクオールの製造方法では、前記工程(a)及び工程(b)が同一の系で行われる。そのため、工程(b)における培地条件、及び培養によるエクオールの生成条件は、工程(a)における「培地、及び培養による6-ヒドロキシダイゼインの生成」欄の説明を援用する。
【0058】
(静止菌体によるエクオールの生成)
本発明の第二の発明に係るエクオールの製造方法では、前記工程(a)及び工程(b)が同一の系で行われる。そのため、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物が静止菌体である場合の溶液も、前記培地の代わりに、前述した「ブラウチア(Blautia)属に属する微生物の静止菌体」欄に記載した塩溶液や緩衝液が好ましい。その他
の条件については、工程(a)における「培地、及び培養による6-ヒドロキシダイゼインの生成」欄の説明を援用する。
【0059】
(同一の系)
工程(a)及び(b)が同一の系で行われるとは、工程(a)において、グリシテインを含有する溶液において、ブラウチア(Blautia)属に属する微生物により、グリシテイ
ンから6-ヒドロキシダイゼインが生成されてから、該生成した6-ヒドロキシダイゼインが工程(b)の6-ヒドロキシダイゼインとしてそのまま用いられて、工程(b)においてエクオールが生成されるまでの一連の流れが、同一の系で連続して行われることをいう。すなわち、工程(a)と工程(b)の間に、例えば、工程(a)で生成した6-ヒドロキシダイゼインを分離及び/又は精製する工程などを含まないことをいう。
【0060】
具体的には、グリシテインから6-ヒドロキシダイゼインを生成するブラウチア(Blautia)属に属する微生物と、6-ヒドロキシダイゼインからエクオールを生成する微生物
とを同じ培養液に植菌し、培養することにより、エクオールを生成することなどが挙げられる。両微生物は同一の微生物でもよいし、異なる微生物でもよい。
【0061】
(3)工程(c)
本発明の第二の発明であるエクオールの製造方法は、前記工程(a)及び工程(b)と同一の系で行われる下記工程(c)を含むことが好ましい。
工程(c)は、グリシチンを含有する溶液において、グリシチンからグリシテインを生成する能力を有する微生物に、グリシチンからグリシテインを生成させる工程である。
工程(c)については、本発明の第一の発明における工程(c)の説明を援用する。
【0062】
(同一の系)
工程(a)、工程(b)及び工程(c)が同一の系で行われるとは、工程(c)において、グリシチンを含有する溶液において、グリシチンからグリシテインを生成する能力を有する微生物により、グリシチンからグリシテインが生成されてから、該生成したグリシテインが工程(a)のグリシテインとしてそのまま用いられて、工程(a)において6-ヒドロキシダイゼインが生成され、該生成した6-ヒドロキシダイゼインが工程(b)の6-ヒドロキシダイゼインとしてそのまま用いられて、工程(b)においてエクオールが生成されるまでの一連の流れが、同一の系で連続して行われることをいう。すなわち、工程(c)と工程(a)と工程(b)のいずれの間でも、生成物(すなわちグリシテイン及び/又は6-ヒドロキシダイゼイン)を分離及び/又は精製する工程などを含まないことをいう。
【0063】
(その他の工程)
本発明の第二の発明は、以下の工程を含んでもよい。
本発明の第二の発明は、例えば、得られたエクオールを定量する工程や回収する工程を含んでもよい。これらについては、本発明の第一の発明における「その他の工程」欄の説明を援用する。
【実施例
【0064】
以下、具体的な実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実験例1~3]6-ヒドロキシダイゼインの製造方法
(前培養培地の調製)
Thermo scientific社製 Anaerobe Basal Broth (ABB)培地を試験管に5 mL分注した。その後、窒素ガスでガス置換し、滅菌した。
(本培養培地の調製)
ABB培地にグリシテインを40 mg/Lとなるように添加し、試験管に10 mL分注した。その
後、窒素ガスでガス置換し、滅菌した。
(前培養)
前培養培地に、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)JCM 1395株、ブラウ
チア・プロダクタ(Blautia producta)JCM 1471株、ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)JCM 14657株をそれぞれ植菌した後、窒素ガスでガス置換し、37 ℃、200 spmで1日
間培養した。
(本培養)
上記前培養した各菌株を本培養培地にそれぞれ植菌した後、窒素ガスでガス置換し、37
℃、200 spmで5日間培養した。
【0066】
(測定方法)
培養後の本培養培地から20 μLをサンプリングし、希釈液(エタノール:ミリQ水=70:30 (V/V))で50倍希釈した。これを0.45 μmフィルターでろ過した後に、上清を下記HPLC条件で分析した。
【0067】
<イソフラボン類およびエクオールのHPLC分析条件>
Column: Phenomenex SYNERGI 4 μm POLAR-R 150mm×4.6mm
Eluent: 蒸留水 / メタノール = 55 / 45 (v/v)
Temperature: 40 ℃
Detection: 280 nm
Flow rate: 1.0 mL/min
Injection: 10 μL
Time: 30 min
【0068】
(結果)
表1のように、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)JCM 1395株、ブラウ
チア・プロダクタ(Blautia producta)JCM 1471株、ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)JCM 14657株は、いずれもグリシテインを脱メチル化し、6-ヒドロキシダイゼインを生産することが分かった。
【0069】
【表1】
【0070】
[実験例4~13]エクオールの製造方法
(前培養培地の調製)
Thermo scientific社製 Anaerobe Basal Broth (ABB)培地を試験管に10 mL分注した。
その後、窒素ガスでガス置換し、滅菌した。
(本培養培地の調製)
ABB培地に、ダイジン、グリシチン及びゲニスチンを含むイソフラボン類を、55 mg/Lとなるように添加し、試験管に5 mL分注した。その後、窒素ガスでガス置換し、滅菌した。(前培養)
前培養培地に、アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株、アドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)JCM 1395株、ブラウチア・シン
キ(Blautia schinki)JCM 14657株、ブラウチア・プロダクタ(Blautia producta)JCM 1471株をそれぞれ植菌した後、窒素ガスでガス置換し、37 ℃、200 spmで1日間培養した

(本培養)
上記前培養した各菌株を、表2の組合せで本培養培地に植菌した後、窒素ガスでガス置換し、37 ℃、200 spmで7日間培養した。
【0071】
(測定方法)
培養後の培地から20 μLをサンプリングし、実験例1~3と同様にして測定した。
【0072】
(結果)
表2の実験例10~12より、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)JCM 1395株、ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)JCM 14657株、及びブラウチア・プロダ
クタ(Blautia producta)JCM 1471株のいずれかの菌株を用いた場合、ダイジン及びグリシチンが、それぞれダイゼイン及びグリシテイン・ゲニステインに変換された。これは、各菌株がβ-グルコシダーゼ活性を有していることによると推測される。
また、グリシチンから生成したグリシテインは、実施例1~3の結果を加味すると、各菌株によりその一部が脱メチル化され、6-ヒドロキシダイゼインに変換されたと推測される。
【0073】
さらに、表2の実験例4~9より、ブラウチア・コッコイデス(Blautia coccoides)JCM 1395株、ブラウチア・シンキ(Blautia schinki)JCM 14657株、及びブラウチア・プ
ロダクタ(Blautia producta)JCM 1471株のいずれかの菌株と、アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株又はアドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株との共培養によって、6-ヒドロキシダイゼインがエクオールに変換された。
ここで、実験例4~9では、実験例10~12と比べて、ダイゼインの濃度も著しく低下している。これは、特許文献4、特許文献5を加味すると、アサッカロバクター・セラツス(Asaccharobacter celatus)DSM 18785株、アドレクラウチア・エクオリファシエンス(Adlercreutzia equolifaciens)DSM 19450株が、ダイゼイン及び/又は6-ヒドロキ
シダイゼインを出発物質としてエクオールを生成したことによるものと推測される。
すなわち、ブラウチア(Blautia)属に属する微生物とエクオール生産菌を共培養する
ことによって、従来知られていた、ダイゼイン又は6-ヒドロキシダイゼインからエクオールへの変換のみならず、グリシテインからエクオールへの変換も可能であることが分かった。
【0074】
尚、実験例1~12ではゲニステインは検出されなかった。しかし、ゲニスチン(ゲニステイン配糖体)については、微生物を用いなかった実験例13と比べて明らかに小さい濃度を示していることから、実験例1~12では、ゲニスチンがゲニステインに変換され、そのゲニステインは他の代謝物に変換されていると推測される。
【0075】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の製造方法により製造された6-ヒドロキシダイゼイン及びエクオールは、化粧品、医薬部外品、医療用品、衛生用品、医薬品、飲食品(サプリメントを含む。)等の原料や素材として有用である。