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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】DOTA合成
(51)【国際特許分類】
   C07D 257/02 20060101AFI20240816BHJP
   A61K 49/10 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
C07D257/02
A61K49/10
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2018531560
(86)(22)【出願日】2016-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2016081705
(87)【国際公開番号】W WO2017103258
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-11-22
【審判番号】
【審判請求日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】1522412.4
(32)【優先日】2015-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】396019387
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・アクスイェ・セルスカプ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 玲恵
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー,アンドレアス・リチャード
(72)【発明者】
【氏名】オービュ,アーネ・ワング
(72)【発明者】
【氏名】フセイン,カリード
(72)【発明者】
【氏名】ニルセン,ソンドゥラ
(72)【発明者】
【氏名】サニング,ミッケル・ジェイコブ
(72)【発明者】
【氏名】ハウガン,ヨール・アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ガウズメル,イングヴィル
(72)【発明者】
【氏名】エネス,ニコライ
(72)【発明者】
【氏名】スミハル,シララヒ
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】冨永 保
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/117911(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
REGISTRY(STN)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)の合成のための方法であって、前記方法が、
(a)1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(サイクレン)と、ハロ酢酸および/またはその塩ならびに過剰の塩基とを水溶液中で反応させるステップと;
(b)ステップ(a)で得た反応混合物を結晶化させることにより、DOTAの結晶化生成物を得るステップと;
(c)前記DOTAの結晶化生成物をに溶解してDOTAの結晶化生成物の水溶液を得た後、得られたDOTAの結晶化生成物の水溶液を、膜濾過を用いて濾過することにより濾過溶液を得るステップと;
(d)ステップ(c)で得た前記濾過溶液を結晶化させるステップと
を含み、
ステップ(b)が、ステップ(a)から得られる反応混合物への有機溶媒の添加を含み、ステップ(b)で用いられる前記有機溶媒が、エタノール、メタノール、イソプロパノール、またはアセトンであり、
ステップ(d)が、ステップ(c)から得られる濾過溶液への有機溶媒の添加を含み、ステップ(d)において用いられる前記有機溶媒が、エタノール、メタノール、イソプロパノール、またはアセトンであり、
ステップ(b)および(c)の各々が、3<pH<3.5で独立に実行され、
得られるDOTAのナトリウム含量は<50ppmである、方法。
【請求項2】
前記ハロ酢酸が、ヨード酢酸、ブロモ酢酸およびクロロ酢酸を含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロ酢酸がクロロ酢酸である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ハロ酢酸および/またはその塩が前記ハロ酢酸の塩である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記塩基がアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物を含む群から選択される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記塩基がアルカリ金属水酸化物である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基がNaOHまたはKOHである、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基がNaOHである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基がKOHである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)が、pH9.0~12.5で実行される、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(a)が、pH9.5~12.0で実行される、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(a)が、pH10.0~11.5で実行される、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(a)が、pH10.5~11.5で実行される、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(a)が、pH11で実行される、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(b)の前記pHが、HCl、HSO、HNO、HBr、HClOおよびHIを含む群から選択される酸の添加によって調節される、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(b)の前記pHが、HClの添加によって調節される、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記濾過ステップ(c)が、膜濾過によって実行される、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記濾過ステップ(c)が、ナノフィルトレーションによって実行される、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(d)が、pH3~3.5で独立に実行される、請求項1乃至18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(b)、(c)および(d)の各々が、pH3.2で独立に実行される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)の合成のための方法であって、前記方法が、
(a)1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(サイクレン)とハロ酢酸および/またはその塩ならびに過剰のNaOHとをpH11で水溶液中で反応させるステップと;
(b)ステップ(a)で得た反応混合物を結晶化させることにより、DOTAの結晶化生成物を得るステップであって、前記結晶化がメタノールの添加を含み、pH3~4で実行され、前記pHがHClの添加によって調節される、ステップと;
(c)前記DOTAの結晶化生成物をに溶解してDOTAの結晶化生成物の水溶液を得た後、得られたDOTAの結晶化生成物の水溶液を膜濾過によるかまたはナノフィルトレーションによって濾過することにより濾過溶液を得るステップと;
(d)ステップ(c)で得た前記濾過溶液を結晶化させるステップであって、前記結晶化がメタノールの添加を含み、pH3~4で実行され、前記pHがHClの添加によって調節される、ステップと
を含み、
ステップ(b)および(c)の各々が、3<pH<3.5で独立に実行される、方法。
【請求項22】
ステップ(d)が、pH3~3.5で独立に実行される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(d)において、前記結晶化がpH3.2で実行される、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴画像法(MRI)の分野、および造影MRIにおいて有用な化合物の合成に関する。特に、本発明は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)およびその金属キレートの合成のための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)は、以下の構造の中央の12員のテトラアザ環からなる有機化合物である:
【0003】
【化1】
DOTAは、特にランタニドイオンの錯化剤として使用され、その複合体は、癌治療として、ならびに生体イメージングおよび診断における医学用途を有する。
【0004】
DOTAが癌治療の一部として使用される場合、それは一般に放射性同位元素903+のキレート剤として機能する。DOTAは、アミドとして4つのカルボキシル基の1つの結合によってモノクローナル抗体と複合化することもできる。残りの3つのカルボン酸塩陰イオンはイットリウムイオンと結合する。修飾された抗体は腫瘍細胞に蓄積し、90Yの放射能の効果を濃縮する。このモジュールを含有する薬剤には、「テトラキセタン」で終わる国際一般名称が与えられる。
【0005】
DOTAはまた、常磁性金属イオンと特に安定なキレートを形成し、特にそれはランタニドイオンである。ガドリニウム-DOTAキレート(Dotarem(登録商標))は、市販のMRI剤の1つである。
【0006】
DOTAの合成は、文献に広く記載されており、いくつかの合成戦略がある(例えばDesreux 1980 Inorganic Chemistry;19(5):1319-1324およびDelgado 1982 Talanta;29(10):815-822に記載)。最も一般的なDOTA合成は、ハロ酢酸および無機塩基を用いてサイクレンのアルキル化から出発する。DOTAを得るサイクレンのアルキル化において、クロロ酢酸が最も一般的なアルキル化剤であり、水酸化ナトリウムが最も一般的な塩基である:
【0007】
【化2】
この反応から得たDOTAは、有機不純物および無機塩が混入しており、結果として医薬品の造影剤を製造する際に使用するには精製が必要である。粗DOTAに存在する最も一般的な無機塩は、塩化ナトリウムである。精製は、一般に反応混合物を非常に低いpHで結晶化することによって実行され、不純物のレベルの低下したDOTAが得られる。非常に低いpHにより、非常に低いレベルのナトリウムを含むDOTAを得ることができる。塩化物の不純物は、一般にイオン交換樹脂を用いる精製によって除去される。
【0008】
欧州特許第0998466B1号(Bracco)は、以下のステップを含むDOTA合成プロセスを記載する:
1)2a,4a,6a,8a-デカヒドロテトラアザシクロペンタ[fg]アセナフチレンからのDOTAの合成。
【0009】
2)pH2での結晶化による精製
3)カラム精製(PVP)による精製
国際公開第2013076743号(Biophore)は、以下からなるDOTA合成プロセスを記載する:
1)pH<0.75の水性溶媒からの結晶化によるDOTAの精製。
【0010】
2)アニオン性イオン交換樹脂での処理による精製。
【0011】
3)有機溶媒の添加による水溶液からの沈殿
上記のプロセスは専門の製造設備を必要とする結晶化ステップに求められる極めて低いpHのためにDOTAの工業生産への使用が限られる。
【0012】
それよりもわずかに高いpH値が結晶化プロセスで使用されているが、それでもpH3よりも低い。しかし、そのように得られたDOTAには、かなりの量のナトリウムおよび塩化物が混入し、イオン交換樹脂を用いる精製がその後に必要である。これに対処するいくつかの試みが記載されている。国際公開第2014114664号(AGFA)では、以下からなるDOTA合成プロセスが教示される:
1)pH>10のハロ酢酸を使用する、市販のサイクレンのアルキル化によるDOTAの合成。
【0013】
2)pH<3への酸性化、加熱/冷却および有機溶媒の添加による結晶化による精製。
【0014】
3)ステップ2)で得られる材料の、カチオン樹脂への吸着の後、揮発性塩基溶液でDOTAを脱着することによる精製。
【0015】
4)ステップ3)で得られる材料の、アニオン樹脂への吸着の後、最初に希揮発性有機酸で洗浄し、次に濃揮発性酸で洗浄することによってDOTAを脱着することによる精製。
【0016】
5)ステップ4)で得られる材料の、水と低沸点水混和性有機溶媒で繰り返し濃縮することによる精製。
【0017】
6)5)で得られる材料の随意の沈殿および濾過。
【0018】
上のプロセスは、(i)結晶化ステップに低いpHが求められ、そして(ii)その後の精製ステップで大量のイオン交換樹脂が必要であるので、DOTAの工業生産に使用が限られている。
【0019】
結晶化およびイオン交換処理はDOTA精製の最も一般的な方法であるが、ナノフィルトレーションも不純物を除去する手段として提案されている。国際公開第2014055504号(Mallinckrodt)は、以下からなるDOTA合成プロセスを記載する:
1)置換アジリジンからのDOTAの合成。
【0020】
2)ナノフィルトレーションによる精製。
【0021】
3)pH1~4の水性溶媒からの結晶化による精製。
【0022】
このプロセスは、ナノフィルトレーションおよび結晶化に基づく、おそらくは組み合わせた精製戦略を提案する。しかし、本明細書に上文に記載されるその他のプロセスと比較してDOTA精製ステップがどれほど効率的であるかまたは好結果をもたらすかを示す例はない。
【0023】
そのため、工業生産に適した技術および設備を使用して粗DOTA反応混合物から有機および無機不純物を除去するための改良された方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】国際公開第2015117911号
【発明の概要】
【0025】
第1の態様では、本発明は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)の合成のための方法を提供し、前記方法は、
(a)1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(サイクレン)とハロ酢酸および過剰の塩基とを反応させるステップ;
(b)ステップ(a)で得た反応混合物を結晶化させるステップであって、前記結晶化がpH>3および<3.5で実行される、ステップ;
(c)膜濾過を用いてステップ(b)の結晶化生成物の水溶液を濾過するステップ;
(d)ステップ(c)で得た濾過溶液を結晶化させるステップ
を含む。
【0026】
第2の態様では、本発明は、式(I)または式(II)の金属-DOTAキレートを調製するための方法を提供する:
【0027】
【化3】
この際、前記方法は、本発明の第1の態様の方法に従って得た生成物を金属カチオン、Mn+で処理することを含み(この際、n+は2または3であり、金属酸化物、金属炭酸塩、および弱キレートからなる群から選択される金属イオン源から供給される)、該金属カチオンは、Gd、Eu、Tb、Dy、Sm、Lu、La、In、Ga、Re、Ru、Fe、Cu、Zn、Ni、Co、Cr、V、Ti、Sc、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Ag、Cd、Sn、Hf、Ta、W、Os、Ir、Pt、AuおよびYからなる群から選択され、M2+の配位は、カルボキシル部分のいずれか2つで生じ得る。
【0028】
第3の態様では、本発明は、
(i)Gdを本発明の第1の態様の方法に従って得られる生成物に添加するステップ;
(ii)メグルミンを、ステップ(i)で得られる複合体DOTA-Gdに添加するステップ
を含む、ガドテル酸メグルミンを調製するための方法を提供する。
【0029】
本発明の方法は、MRI用造影剤の医薬品製造で使用するために十分な純度のDOTAの工業生産に特に適している。本発明の方法によって得られるDOTAは、非常に低レベルの有機および無機不純物を特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0030】
特許請求される本発明の主題をさらに明白かつ簡潔に記載し示すために、本明細書および特許請求の範囲を通して使用される特定の用語には、以下の定義が与えられる。本明細書における特定の用語の例示は、非限定的な例として考慮されるべきである。
【0031】
用語「含んでいる(comprising)」または「含む(comprises)」は、本出願を通じてその慣習的な意味を有し、薬剤または組成物が列挙された本質的な特徴または構成要素を有さなければならないが、他の特徴または構成要素がさらに存在してもよいことを意味する。用語「含んでいる(comprising)」は、好ましいサブセットとして、他の特徴または構成要素が存在しない列挙された構成要素を組成物が有することを意味する「実質的に~からなる(consisting essentially of)」を含む。
【0032】
用語「反応させる」は、本明細書において、DOTAを形成するためのサイクレンとハロ酢酸の合成反応をさす。反応の生成物は、DOTAと様々な不純物を含む粗反応混合物である。
【0033】
本明細書において使用される用語「塩基」は、プロトン供与体からプロトンを受け取り、かつ/あるいは、完全にまたは部分的に置換可能なOHイオンを含む物質をさす。
【0034】
用語「結晶化させる」とは、目的生成物が結晶を生じるように、供給流を冷却するかまたは目的生成物の溶解度を低下させる沈殿剤を添加することによって生成物を液体供給流から分離する精製方法をさす。
【0035】
用語「濾過する」とは、流体だけが通過することのできる媒体を挿入することによって流体(液体または気体)から固体を分離するための精製方法をさす。通過する流体を濾液と呼ぶ。用語「膜濾過」とは、異なる孔径の膜への浸透によって混合物の成分を混合物の残部から分離する濾過の方法をさす。
【0036】
本発明の方法の一実施形態では、前記ハロ酢酸は、ヨード酢酸、ブロモ酢酸およびクロロ酢酸を含む群から選択される。一実施形態では、前記ハロ酢酸はクロロ酢酸である。一実施形態では、前記ハロ酢酸は、前記ハロ酢酸の塩、例えば、カリウム塩またはナトリウム塩である。一実施形態では、前記ハロ酢酸は、クロロ酢酸カリウムまたはクロロ酢酸ナトリウムである。
【0037】
本発明の方法の一実施形態では、前記塩基は、水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属水酸化物を含む群から選択される。一実施形態では、前記塩基は水酸化アルカリである。一実施形態では、前記塩基はNaOHまたはKOHである。一実施形態では、前記塩基はNaOHである。本発明の方法のもう一つの実施形態では、前記塩基はKOHである。
【0038】
本発明の方法の一実施形態では、ステップ(a)はpH9.0~12.5で実行される。一実施形態では、前記ステップ(a)は、pH9.5~12.0で実行される。一実施形態では、前記ステップ(a)は、pH10.0~11.5で実行される。一実施形態では、前記ステップ(a)は、pH10.5~11.5で実行される。一実施形態では、前記ステップ(a)は、約11のpHで実行される。用語「約11のpH」は、pH11とpH11を中心とした小さい変動を包含することを意図する。例えばpH10.75~11.25、pH10.8~11.2およびpH10.9~11.1の範囲は、用語「約11のpH」の実施形態と考えることができる。
【0039】
本発明の方法の一実施形態では、pHはステップ(b)において、HCl、HSO、HNO、HBr、HClOおよびHIを含む群から選択される酸の添加によって調節される。一実施形態では、pHはステップ(b)において、HClの添加によって調節される。アルキル化および濾過中のpHのモニタリングおよび調節は、手動でまたは自動化された方法で実行されてよい。
【0040】
本発明の方法の一実施形態では、ステップ(b)は、ステップ(a)から得られる反応混合物に有機溶媒を添加することを含む。一実施形態では、前記有機溶媒は、短鎖アルコール、例えば、エタノールまたはメタノールである。一実施形態では、前記有機溶媒はアセトンである。
【0041】
本発明の方法の一実施形態では、前記濾過ステップ(c)は、電気透析によって実行される。用語「電気透析」は、イオンが電位の影響下で半透膜を通して輸送される膜濾過プロセスと理解され得る。膜は、陽イオンかまたは陰イオンのいずれかが選択的に流れるように、カチオン選択性かまたはアニオン選択性であってよい。
【0042】
本発明の方法のもう一つの実施形態では、前記濾過ステップ(c)はナノフィルトレーションによって実行される。用語「ナノフィルトレーション」は、本明細書において、膜が小分子およびイオンをそれよりも大きい(有機)分子から分離するのに適したサイズの孔を含む膜濾過プロセスを意味する。ナノフィルトレーションの典型的な孔径は、通常1~10ナノメートルの範囲内である。
【0043】
本発明の方法の一実施形態では、ステップ(b)、(c)および(d)は、pH3~4の間で、例えばpH3~3.5で、またはpH3.2で独立に実行される。
【0044】
本発明の方法の一実施形態では、ステップ(d)は、ステップ(c)から得られる反応混合物に有機溶媒を添加することを含む。一実施形態では、前記有機溶媒は、短鎖アルコール、例えば、エタノール、イソプロパノールまたはメタノールである。
【0045】
一実施形態では、本発明の方法は、
(a)1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(サイクレン)とハロ酢酸および過剰のNaOHとを約11のpHで反応させるステップ;
(b)ステップ(a)で得た反応混合物を結晶化させるステップであって、前記結晶化がメタノールの添加を含み、pH3~4、例えば、pH3.2で実行され、pHがHClの添加によって調節される、ステップ;
(c)ステップ(b)の結晶化生成物の水溶液を電気透析によるかまたはナノフィルトレーションによって濾過するステップ;
(d)ステップ(c)で得た濾過溶液を結晶化させるステップであって、前記結晶化がメタノールの添加を含み、pH3~4、例えばpH3.2で実行され、pHがHClの添加によって調節される、ステップ、
を含む。
【0046】
ステップ(a)は、例えば、Desreuxにより記載される方法(1980 Inorganic Chemistry;19(5):1319-1324)およびDelgadoに記載される方法(1982 Talanta;29(10):815-822)のような当分野で公知の方法を用いて実行されてよい。
【0047】
結晶化技法は当業者に周知であり、異なる方法を記載する教科書が利用可能である(例えば、「Crystallization:Basic Concepts and Industrial Applications」;2013 Wiley-VCH:Wolfgang Beckmann編を参照)。同様に、濾過の方法も当業者に周知であり、異なる方法を記載する教科書が利用可能である(例えば、「Handbook of Membrane Separations:Chemical,Pharmaceutical,Food and Biotechnological Applications」;2009 CRC Press:Anil K.Pabbyら編)。本発明での使用に最も適した結晶化および濾過方法は、医薬品の要件を満たさなければならない。そのようないわゆる「優良医薬品製造基準」(GMP)要件は、国および地域の保健局から(例えば、米国食品医薬品局のhttp://www.fda.gov/Drugs/GuidanceComplianceRegulatoryInformation/Guidances/ucm064971.htmから、または欧州医薬品庁のhttp://ec.europa.eu/health/documents/eudralex/vol-4/index_en.htmから)すぐに利用可能である。
【0048】
本発明の方法の両方の結晶化ステップは、直前のステップから得られる水溶液で出発する。本明細書において定義される、サイクレンとハロ酢酸を反応させるステップ(a)は、水溶液中で行われる。濾過するステップ(c)は、水溶液で実行された後、ステップ(d)の前に特定の水溶液濃度に濃縮される。
【0049】
DOTAの良好な精製、それによって良好な収率を得るために、本発明の方法の結晶化ステップ(b)および濾過ステップ(c)の各々のpHが重要である。3よりも低いかまたは3.5よりも高いpH値は、ステップ(b)および(c)で主に除去されるナトリウムイオンの除去に影響を与えることがある。ステップ(c)では、陽イオンNaが膜を通過するために、陰イオンが必要であり、これは一実施形態でHCl中のClとして提供される。
【0050】
本明細書は、最良の様式を含む本発明を開示するため、およびどのような当業者も、任意のデバイスまたはシステムの作製および使用ならびに任意の組み込まれた方法の実行を含む本発明の実践を可能にするために、実施例を使用している。本発明の特許性のある範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者が想到する他の実施例を含むことができる。このような他の実施例は、請求項の文言と異ならない構造要素を有する場合、または、請求項の文言と実質的な差のない等価の構造要素を含む場合に、請求項の範囲内にあることが意図されている。本文に述べられたすべての特許および特許出願は、それらが個別に組み込まれたかのように、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0051】
実施例の簡単な説明
実施例1は、本発明の限定されない実施形態のDOTAを得るための方法を説明する。
【0052】
実施例で使用される略語のリスト
DOTA 1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸;
ICP 誘導結合プラズマ
MeOH メタノール
ppm 百万分率
実施例1:DOTAの合成
Desreuxの方法(1980 Inorganic Chemistry;19:1319-1324)の修正版に従った。
【0053】
30L反応器に水(2L)と、それに続いてサイクレン(Kinsy China;1.00kg、5.805mol)を充填し、それに続いて追加の水(1L)を充填して、pH12.4の溶液を得た。較正されたpHプローブを使用して始めから終わりまでpHをモニターした。
【0054】
クロロ酢酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、3.00kg、25.3mol)の水(5L)中の溶液を2時間にわたって添加し、それとともに水酸化ナトリウム溶液(1.839kg、22.99mol;50% w/w濃度)を手動制御下で滴下して、反応物のpHを約pH11に維持した。添加が完了した後、反応混合物をさらに3~4時間撹拌した後、15℃に冷却した。
【0055】
混合物のpHが約pH3.0となるまで濃塩酸(35%;約2.57kg)を添加した。混合物を室温まで放冷し、次にメタノール(14L)を添加し、混合物をさらに3時間撹拌した。沈殿した粗DOTAを濾別し、メタノール水溶液(1:2 vol/vol;2×2.35L)で洗浄した。得られるケーキを、吸引を用いて乾燥させ、白色の粉末を得た(2.44kg;収率90%)。材料をICP-分析およびKarl Fischer滴定によって分析し、87%の純度が示された(残りの内容物は水および約2.5重量%のナトリウム)。メタノール含量はGCによって評価した。
【0056】
上記の粗DOTAを水に溶解し、ナノフィルトレーションに供し、それによりナトリウム含量を2.5重量%から1.3重量%まで減少させた。この塩の減少したDOTAの水溶液を水に溶解し、溶液を濃縮し、次にメタノールを添加して結晶化を誘導し残留する塩化ナトリウムを除去した。単離した結晶のナトリウム含量は非常に低く(0.0~0.3重量%)、メタノールは約4重量%であった。
【0057】
下の表は、各ステップに従う反応混合物の性質を要約する:
【0058】
【表1】
実施例2:DOTAの大規模合成
6000L反応器に、水(360L)と、それに続いてサイクレン(Kinsy、Spain;180kg、1.045kmol)を充填した。
【0059】
クロロ酢酸ナトリウム(Akzo Nobel、540kg、4.55kmol)の水(900L)中溶液を、1.5時間にわたって添加し、それとともに水酸化ナトリウム溶液(377kg、濃度50% w/w;4.71kmol NaOH;)を連続的に添加して、反応pHを約pH11に維持した。添加が完了した後、反応混合物をさらに5時間撹拌した。
【0060】
濃塩酸(35%;約462kg)を、混合物のpHが約pH3.2になるまで添加した。次に、メタノール(2340L)を約55℃で添加し、冷却速度約5℃/時で10℃まで冷却した。
【0061】
沈殿した粗DOTAを濾別し、メタノール水溶液(1:2 vol/vol;4×315L)で洗浄した。得られるケーキを、減圧および加熱(ジャケット温度55℃)を用いてフィルタで乾燥させた。
【0062】
上記の粗DOTAを水に溶解し、量およびナトリウム含量の測定のために試料採取し(
DOTA369kg;収率87%;Na5.26%)、ナノフィルトレーションに供し、
それによりナトリウム含量を5.26重量%から0.84重量%まで減少させた。この塩
の減少したDOTAの水溶液を濃縮し、次にメタノールを添加して結晶化を誘導し、残り
の塩化ナトリウムを除去した。単離された結晶のナトリウム含量は、NMT 10μg/
g DOTAであった。

本発明は、以下の態様を含む。
<1>
1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA
)の合成のための方法であって、前記方法が、
(a)1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(サイクレン)とハロ酢酸および/またはその塩ならびに過剰の塩基とを反応させるステップと;
(b)ステップ(a)で得た反応混合物を結晶化させるステップであって、前記結晶化
がpH>3および<3.5で実行される、ステップと;
(c)膜濾過を用いてステップ(b)の結晶化により得られた生成物の水溶液を濾過するステップと;
(d)ステップ(c)で得た前記濾過溶液を結晶化させるステップと
を含む、方法。
<2>
前記ハロ酢酸が、ヨード酢酸、ブロモ酢酸およびクロロ酢酸を含む群から選択される、
<1>に記載の方法。
<3>
前記ハロ酢酸がクロロ酢酸である、<1>または<2>に記載の方法。
<4>
前記ハロ酢酸が前記ハロ酢酸の塩である、<1>乃至<3>のいずれかに記載の方法。
<5>
前記塩基がアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物を含む群から選択される、<1>乃至<4>のいずれかに記載の方法。
<6>
前記塩基がアルカリ金属水酸化物である、<1>乃至<5>のいずれかに記載の方法。
<7>
前記塩基がNaOHまたはKOHである、<1>乃至<6>のいずれかに記載の方法。
<8>
前記塩基がNaOHである、<1>乃至<7>のいずれかに記載の方法。
<9>
前記塩基がKOHである、<1>乃至<5>のいずれかに記載の方法。
<10>
ステップ(a)が、pH9.0~12.5で実行される、<1>乃至<9>のいずれかに記載の方法。
<11>
ステップ(a)が、pH9.5~12.0で実行される、<1>乃至<10>のいずれかに記載の方法。
<12>
ステップ(a)が、pH10.0~11.5で実行される、<1>乃至<11>のいずれかに記載の方法。
<13>
ステップ(a)が、pH10.5~11.5で実行される、<1>乃至<12>のいずれかに記載の方法。
<14>
ステップ(a)が、約11のpHで実行される、<1>乃至<13>のいずれかに記載の方法。
<15>
ステップ(b)の前記pHが、HCl、H SO 、HNO 、HBr、HClO およびHIを含む群から選択される酸の添加によって調節される、<1>乃至<14>のいずれかに記載の方法。
<16>
ステップ(b)の前記pHが、HClの添加によって調節される、<1>乃至<15>のいずれかに記載の方法。
<17>
ステップ(b)が、ステップ(a)から得られる反応混合物への有機溶媒の添加を含む
、<1>乃至<16>のいずれかに記載の方法。
<18>
前記有機溶媒が、エタノール、イソプロパノールまたはメタノールである、<17>に記載の方法。
<19>
前記濾過ステップ(c)が、膜濾過によって実行される、<1>乃至<18>のいずれかに記載の方法。
<20>
前記濾過ステップ(c)が、ナノフィルトレーションによって実行される、<1>乃至<18>のいずれかに記載の方法。
<21>
ステップ(b)、(c)および(d)の各々が、pH3~4の間で独立に実行される、
<1>乃至<20>のいずれかに記載の方法。
<22>
ステップ(b)、(c)および(d)の各々が、pH3~3.5の間で独立に実行され
る、<1>乃至<21>のいずれかに記載の方法。
<23>
ステップ(b)、(c)および(d)の各々が、pH3.2で独立に実行される、<1>乃至<22>のいずれかに記載の方法。
<24>
ステップ(d)が、ステップ(c)から得られる反応混合物への有機溶媒の添加を含む
、<1>乃至<23>のいずれかに記載の方法。
<25>
前記有機溶媒がエタノールまたはメタノールである、<24>に記載の方法。
<26>
前記有機溶媒がアセトンである、<24>に記載の方法。
<27>
(a)1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(サイクレン)とハロ酢酸および
過剰のNaOHとを約11のpHで反応させるステップと;
(b)ステップ(a)で得た反応混合物を結晶化させるステップであって、前記結晶化
がメタノールの添加を含み、pH3~4で実行され、前記pHがHClの添加によって調
節される、ステップと;
(c)ステップ(b)の結晶化により得られた生成物の水溶液を膜濾過によるかまたはナノフィルトレーションによって濾過するステップと;
(d)ステップ(c)で得た前記濾過溶液を結晶化させるステップであって、前記結晶
化がメタノールの添加を含み、pH3~4、例えばpH3.2で実行され、前記pHがH
Clの添加によって調節される、ステップと
を含む、<1>乃至<26>のいずれかに記載の方法。
<28>
式(I)または式(II)の金属-DOTAキレートを調製するための方法であって:
【化1】

前記方法が、<1>乃至<26>のいずれかに記載の方法に従って得られる生成物を、金属カチオン、M n+ で処理することを含み(この際、n+は2または3であり、金属酸化物、金属炭酸塩、および弱キレートからなる群から選択される金属イオン源から供給される)、前記金属カチオンが、Gd、Eu、Tb、Dy、Sm、Lu、La、In、Ga、Re、Ru、Fe、Cu、Zn、Ni、Co、Cr、V、Ti、Sc、Zr、Nb、Mo、Rh、Pd、Ag、Cd、Sn、Hf、Ta、W、Os、Ir、Pt、AuおよびYからなる群から選択され、M 2+ の配位が、前記カルボキシル部分のいずれか2つで生じ得る、方法。
<29>
前記金属カチオンがGdである、<28>に記載の方法。
<30>
金属イオン源がGd であり、前記式(II)の化合物の複合体がガドテル酸メグルミンである、<29>に記載の方法。
<31>
ガドテル酸メグルミンを調製するための方法であって:
(i)Gd を<1>乃至<27>のいずれかに記載の方法に従って得られる生成物に添加するステップと;
(ii)メグルミンを、前記ステップ(i)で得られる複合体DOTA-Gdに添加す
るステップと
を含む、方法。