(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ダイシングテープ、及び接着フィルム付きダイシングテープ
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240816BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20240816BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01L21/78 M
C09J7/38
C09J133/00
(21)【出願番号】P 2019043186
(22)【出願日】2019-03-08
【審査請求日】2022-01-07
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】高本 尚英
(72)【発明者】
【氏名】大西 謙司
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄大
(72)【発明者】
【氏名】杉村 敏正
(72)【発明者】
【氏名】福井 章洋
【合議体】
【審判長】小宮 慎司
【審判官】松永 稔
【審判官】中野 浩昌
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152919(WO,A1)
【文献】特開2010-153774(JP,A)
【文献】特開2018-081954(JP,A)
【文献】特開2017-183705(JP,A)
【文献】特開2010-251727(JP,A)
【文献】特開2017-038061(JP,A)
【文献】特開2017-092296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と粘着剤層とを含む積層構造を有するダイシングテープ
と、
前記ダイシングテープにおける前記粘着剤層に剥離可能に密着している接着フィルムとを有する、接着フィルム付きダイシングテープであって、
前記粘着剤層は、ガラス転移温度が-43℃以下であるベースポリマーを含有し、
前記ダイシングテープの-15℃での破断伸度が300%以上414%以下であ
り、
前記接着フィルムの25℃での破断伸度は15%以下である、
接着フィルム付きダイシングテープ。
【請求項2】
前記ベースポリマーは、アクリル系ポリマーである、請求項1に記載の
接着フィルム付きダイシングテープ。
【請求項3】
前記粘着剤層の厚みは、5μm以上40μm以下である、請求項1又は2に記載の
接着フィルム付きダイシングテープ。
【請求項4】
前記ダイシングテープの-15℃での破断強度が15N/10mm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の
接着フィルム付きダイシングテープ。
【請求項5】
前記ベースポリマーは、モノマーユニットとして、ホモポリマーのガラス転移温度が-10℃未満の低ガラス転移温度モノマーと、ホモポリマーのガラス転移温度が-10℃以上の高ガラス転移温度モノマーとを含有し、
前記低ガラス転移温度モノマーと前記高ガラス転移温度モノマーのモル比(低ガラス転移温度モノマー/高ガラス転移温度モノマーのモル比)は5以上85/6以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の接着フィルム付きダイシングテープ。
【請求項6】
前記接着フィルムの25℃での破断強度は5N/10mm以下で
ある、請求項
1~5のいずれか1項に記載の接着フィルム付きダイシングテープ。
【請求項7】
半導体ウエハの割断工程に用いられる、請求項
1~6のいずれか1項に記載の接着フィルム付きダイシングテープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造過程で使用することのできるダイシングテープ、及び接着フィルム付きダイシングテープに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程においては、ダイボンディング用のチップ相当サイズの接着フィルムを伴う半導体チップ、即ち接着フィルム付き半導体チップを得るうえで、接着フィルム付きダイシングテープが使用される場合がある。接着フィルム付きダイシングテープは、例えば、基材および粘着剤層からなるダイシングテープと、その粘着剤層側に剥離可能に密着している接着フィルムとを有する。接着フィルムは、ワークである半導体ウエハを上回るサイズの円盤形状を有し、例えば、その接着フィルムを上回るサイズの円盤形状を有するダイシングテープに対してその粘着剤層側に同心円状に貼り合わされている。ダイシングテープの粘着剤層において接着フィルムに覆われていない接着フィルム周りの領域には、SUS製のリングフレームが貼り付けられうる。リングフレームは、ダイシングテープに貼り付けられた状態において、各種装置の備える搬送アームなど搬送機構がワーク搬送時に機械的に当接する部材である。
【0003】
接着フィルム付きダイシングテープを使用して接着フィルム付き半導体チップを得る手法の一つとして、接着フィルム付きダイシングテープにおけるダイシングテープをエキスパンドして接着フィルムを割断するための工程を経る手法が知られている。この手法では、まず、接着フィルム付きダイシングテープにおいて、ダイシングテープ粘着剤層の接着フィルム周りの領域にリングフレームが貼り付けられた状態で、接着フィルム上に半導体ウエハが貼り合わせられる。この半導体ウエハは、例えば、後に接着フィルムの割断に共だって割断されて複数の半導体チップへと個片化可能なように、加工されたものである。次に、それぞれが半導体チップに密着している複数の接着フィルム小片がダイシングテープ上の接着フィルムから生じるように当該接着フィルムを割断すべく、所定のエキスパンド装置が使用されて、接着フィルム付きダイシングテープのダイシングテープが低温下(例えば、-20℃~0℃)でウエハ径方向にエキスパンドされる(クールエキスパンド工程)。このクールエキスパンド工程では、接着フィルム上の半導体ウエハにおける接着フィルム割断箇所に対応する箇所でも割断が生じ、接着フィルム付きダイシングテープないしダイシングテープ上にて半導体ウエハが複数の半導体チップに個片化される。次に、接着フィルム付きダイシングテープ上のチップ間の離隔距離を広げるためのダイシングテープのエキスパンド(離間エキスパンド)を経た後、各半導体チップがそれに密着しているチップ相当サイズの接着フィルムと共に、ダイシングテープの下側からピックアップ機構のピン部材によって突き上げられたうえでダイシングテープ上からピックアップされる(ピックアップ工程)。このようにして、接着フィルム付きの半導体チップが得られる。この接着フィルム付き半導体チップは、その接着フィルムを介して、実装基板等の被着体にダイボンディングによって固着されることとなる。例えば以上のように使用される接着フィルム付きダイシングテープに関する技術については、例えば下記の特許文献1、2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-2173号公報
【文献】特開2010-177401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のクールエキスパンド工程においてダイシングテープをエキスパンドする際に、特に、接着フィルム及びダイシングテープにおける、半導体ウエハの外周側面の延長面とリングフレームの内周側面の延長面の間の部分に張力が集中して、ダイシングテープに裂けが生じることがある。クールエキスパンド工程の際中にダイシングテープに裂けが生じるとダイシングテープから伝わる張力が分断されるため、半導体ウエハや接着フィルムの割断が進行しなくなるという不都合が生じる。また、ダイシングテープの裂けが大きくなると、次工程に進むことが困難になる。
【0006】
本発明は、以上のような事情のもとで考え出されたものであって、その目的は、クールエキスパンド工程においてダイシングテープをエキスパンドする際に、裂けが生じにくいダイシングテープ、及び接着フィルム付きダイシングテープを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面によると、ダイシングテープが提供される。このダイシングテープは、基材と粘着剤層とを含む積層構造を有し、粘着剤層は、ガラス転移温度(Tg)が-43℃以下であるベースポリマーを含有する。このような構成のダイシングテープは、その粘着剤層に接着フィルムが剥離可能に密着され、さらに接着フィルムに半導体ウエハが張り合わされた形態において、ダイシングテープを低温下(例えば、-15℃~5℃)でエキスパンドして、半導体ウエハ及び接着フィルムを割断して、個片化された接着フィルム付き半導体チップを得る割断工程(クールエキスパンド工程)で好適に使用し得るものである。
【0008】
本発明の第1の側面に係るダイシングテープは、上記のように、その粘着剤層が、Tgが-43℃以下であるベースポリマーを含有する。この構成は、上記クールエキスパンド工程において、ダイシングテープの裂けを抑制できるという点で好適である。すなわち、クールエキスパンド工程の低温条件下において、粘着剤層が、Tgが-43℃以下であるベースポリマーを含有することにより、粘着剤層が適度な柔軟性を有し、粘着剤層の割れを起点とするダイシングテープの裂けが抑制できると考えられる。ダイシングテープの裂けを抑制できるという観点からは、上記ベースポリマーのTgは、好ましくは-50℃以下、より好ましくは-55℃以下である。上記ベースポリマーのTgは、好ましくは-65℃以上、より好ましくは-62℃以上である。上記ベースポリマーのTgが、好ましくは-65℃以上、より好ましくは-62℃以上であるという構成は、クールエキスパンド工程においてダイシングテープの張力が粘着剤層に吸収されることなく接着フィルムに伝達して、半導体ウエハが良好に割断できる観点から好適である。
【0009】
本発明の第1の側面に係るダイシングテープのベースポリマーは、Tgを-43℃以下に制御しやすいという観点から、アクリル系ポリマーが好ましい。
【0010】
本発明の第1の側面に係るダイシングテープにおいて、粘着剤層の厚みは、好ましくは5μm以上40μm以下、より好ましくは7μm以上30μm以下、さらに好ましくは10μm以上15μm以下である。このような構成は、半導体ウエハの割断性を確保しつつ、ダイシングテープの裂けを抑制する上で好ましい。上記粘着剤層の厚みが、40μm以下、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは15μm以下であるという構成は、粘着剤層の肥厚化によるバルクとしての硬さを抑制し、粘着剤層の割れに起因するダイシングテープの裂けを抑制する上で好ましい。上記粘着剤層の厚みが、5μm以上、好ましくは7μm以上、さらに好ましくは10μm以上であるという構成は、クールエキスパンド工程でダイシングテープの張力を接着フィルムに伝達して、半導体ウエハを良好に割断する観点から好適である。
【0011】
本発明の第1の側面に係るダイシングテープの-15℃での破断伸度は、好ましくは300%以上、より好ましくは373%以上、さらに好ましくは400%以上である。このような構成は、ダイシングテープの裂けを抑制する上で好適である。また、上記破断伸度は、好ましくは600%以下、より好ましくは500%以下である。
【0012】
本発明の第1の側面に係るダイシングテープの-15℃での破断強度は、好ましくは15N/10mm以上、より好ましくは18N/10mm以上、さらに好ましくは30N/10mm以上である。このような構成は、ダイシングテープの裂けを抑制する上で好適である。また、上記破断強度は、クールエキスパンド工程でダイシングテープの張力を接着フィルムに伝達して、半導体ウエハを良好に割断する観点から、好ましくは35N/10mm以下、より好ましくは32N/10mm以下である。
【0013】
本発明の第2の側面によると、接着フィルム付きダイシングテープが提供される。本発明により提供される接着フィルム付きダイシングテープは、本発明の第1の側面に係るダイシングテープと、このダイシングテープにおける前記粘着剤層に剥離可能に密着している接着フィルムとを有する。本発明の第1の側面に係るダイシングテープを備えるこのような接着フィルム付きダイシングテープは、クールエキスパンド工程に使用するのに適し、すなわち、クールエキスパンド工程にてダイシングテープの裂けを抑制し、半導体ウエハ及び接着フィルムを良好に割断させるのに適する。
【0014】
本発明の第2の側面に係る接着フィルム付きダイシングテープにおいて、接着フィルムの25℃での破断強度は、好ましくは5N/10mm以下、より好ましくは3N/10mm以下、さらに好ましくは1.5N/10mm以下である。このような構成は、ダイシングテープにかかる負荷を軽減し、ダイシングテープの裂けを抑制する上で好適である。また、上記破断強度は、半導体ウエハの適度な割断性の観点から、好ましくは0.1N/10mm以上、より好ましくは0.2N/10mm以上、さらに好ましくは0.5N/10mm以上である。
【0015】
本発明の第2の側面に係る接着フィルム付きダイシングテープにおいて、接着フィルムの25℃での破断伸度は、好ましくは100%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは50%以下、最も好ましくは15%以下である。このような構成は、ダイシングテープにかかる負荷を軽減し、ダイシングテープの裂けを抑制する上で好適である。上記破断伸度は、半導体ウエハの適度な割断性の観点からは、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一の実施形態に係る接着フィルム付きダイシングテープの断面模式図である。
【
図2】
図1に示すイシング接着フィルム付きダイシングテープの平面図である。
【
図3】
図1に示す接着フィルム付きダイシングテープが使用される半導体装置製造方法の一例における一部の工程を表す。
【
図10】
図1に示す接着フィルム付きダイシングテープが使用される半導体装置製造方法の他の例における一部の工程を表す。
【
図12】
図1に示す接着フィルム付きダイシングテープが使用される半導体装置製造方法の他の例における一部の工程を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一の実施形態に係る接着フィルム付きダイシングテープXの断面模式図である。接着フィルム付きダイシングテープXは、本発明の一の実施形態に係るダイシングテープ10と接着フィルム20とを含む積層構造を有する。ダイシングテープ10は、基材11と粘着剤層12とを含む積層構造を有する。粘着剤層12は、接着フィルム20側に粘着面12aを有する。接着フィルム20は、ダイシングテープ10の粘着剤層12ないしその粘着面12aに剥離可能に密着している。本実施形態では、ダイシングテープ10および接着フィルム20は、
図2に示すように、円盤形状を有し且つ同心円状に配されている。ダイシングテープ10の粘着剤層12において接着フィルム20に覆われていない接着フィルム周りの領域には、例えばSUS製のリングフレームが貼り付けられうる。リングフレームは、ダイシングテープ10に貼り付けられた状態において、各種装置の備える搬送アームなど搬送機構がワーク搬送時に機械的に当接する部材である。このような接着フィルム付きダイシングテープXは、半導体装置の製造において接着フィルム付き半導体チップを得る過程で使用することのできるものである。
【0018】
接着フィルム付きダイシングテープXにおけるダイシングテープ10の基材11は、ダイシングテープ10ないし接着フィルム付きダイシングテープXにおいて支持体として機能する要素である。基材11は、紫外線透過性を有する例えばプラスチック基材であり、当該プラスチック基材としてはプラスチックフィルムを好適に用いることができる。プラスチック基材の構成材料としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニルスルフィド、アラミド、フッ素樹脂、セルロース系樹脂、およびシリコーン樹脂が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-ブテン共重合体、およびエチレン-ヘキセン共重合体が挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリブチレンテレフタレートが挙げられる。基材11は、一種類の材料からなってもよし、二種類以上の材料からなってもよい。基材11は、単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。また、基材11は、プラスチックフィルムよりなる場合、無延伸フィルムであってもよいし、一軸延伸フィルムであってもよいし、二軸延伸フィルムであってもよい。
【0019】
基材11における粘着剤層12側の表面は、粘着剤層12との密着性を高めるための物理的処理、化学的処理、または下塗り処理が施されていてもよい。物理的処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、サンドマット加工処理、オゾン暴露処理、火炎暴露処理、高圧電撃暴露処理、およびイオン化放射線処理が挙げられる。化学的処理としては例えばクロム酸処理が挙げられる。
【0020】
基材11の厚さは、ダイシングテープ10ないし接着フィルム付きダイシングテープXにおける支持体として基材11が機能するための強度を確保するという観点からは、好ましくは40μm以上、より好ましくは50μm以上である。また、ダイシングテープ10ないし接着フィルム付きダイシングテープXにおいて適度な可撓性を実現するという観点からは、基材11の厚さは、好ましくは200μm以下、より好ましくは180μm以下である。
【0021】
基材11のヘイズは、好ましくは50~98%である。プラスチック基材など基材についてのヘイズについては、例えば、ヘイズ測定装置(商品名「HM-150」,株式会社村上色彩技術研究所製)を使用して測定することができる。基材11のヘイズが50%以上であるという構成は、接着フィルム付きダイシングテープXに半導体ウエハを貼り合わせるのに使用される貼合わせ装置の備える光学センサーでの位置認識を可能にするうえで好適である。基材11のヘイズが98%以下であるという構成は、ダイシングテープ10の粘着剤層12に対する基材11越しの紫外線照射によって粘着剤層12を紫外線硬化させるうえで好適である。
【0022】
ダイシングテープ10の粘着剤層12を構成する粘着剤は、放射線照射や加熱など外部からの作用によって意図的に粘着力を低減させることが可能な粘着剤(粘着力低減型粘着剤)であってもよいし、外部からの作用によっては粘着力がほとんど又は全く低減しない粘着剤(粘着力非低減型粘着剤)であってもよく、接着フィルム付きダイシングテープXを使用して個片化される半導体チップの個片化の手法や条件などに応じて適宜に選択することができる。
【0023】
粘着剤層12中の粘着剤として粘着力低減型粘着剤を用いる場合、接着フィルム付きダイシングテープXの製造過程や使用過程において、粘着剤層12が相対的に高い粘着力を示す状態と相対的に低い粘着力を示す状態とを、使い分けることが可能となる。例えば、接着フィルム付きダイシングテープXの製造過程でダイシングテープ10の粘着剤層12に接着フィルム20を貼り合わせる時や、接着フィルム付きダイシングテープXが所定のウエハダイシング工程に使用される時には、粘着剤層12が相対的に高い粘着力を示す状態を利用して粘着剤層12からの接着フィルム20など被着体の浮きや剥離を抑制・防止することが可能となる一方で、それより後、接着フィルム付きダイシングテープXのダイシングテープ10から接着フィルム付き半導体チップをピックアップするためのピックアップ工程では、粘着剤層12の粘着力を低減させたうえで、粘着剤層12から接着フィルム付き半導体チップを適切にピックアップすることが可能となる。
【0024】
このような粘着力低減型粘着剤としては、例えば、放射線硬化型粘着剤(放射線硬化性を有する粘着剤)や加熱発泡型粘着剤などが挙げられる。本実施形態の粘着剤層12においては、一種類の粘着力低減型粘着剤が用いられてもよいし、二種類以上の粘着力低減型粘着剤が用いられてもよい。また、粘着剤層12の全体が粘着力低減型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層12の一部が粘着力低減型粘着剤から形成されてもよい。例えば、粘着剤層12が単層構造を有する場合、粘着剤層12の全体が粘着力低減型粘着剤から形成されてもよいし、粘着剤層12における所定の部位(例えば、ウエハの貼着対象領域である中央領域)が粘着力低減型粘着剤から形成され、他の部位(例えば、リングフレームの貼着対象領域であって、中央領域の外側にある領域)が粘着力非低減型粘着剤から形成されてもよい。また、粘着剤層12が積層構造を有する場合、積層構造をなす全ての層が粘着力低減型粘着剤から形成されてもよいし、積層構造中の一部の層が粘着力低減型粘着剤から形成されてもよい。
【0025】
粘着剤層12における放射線硬化型粘着剤としては、例えば、電子線、紫外線、α線、β線、γ線、またはX線の照射により硬化するタイプの粘着剤を用いることができ、紫外線照射によって硬化するタイプの粘着剤(紫外線硬化型粘着剤)を特に好適に用いることができる。
【0026】
ダイシングテープ10の粘着剤層12における粘着剤は、上記の通り、ガラス転移温度(Tg)が-43℃以下であるベースポリマーを含有する。この構成は、上記クールエキスパンド工程において、ダイシングテープ10の裂けを抑制できるという点で好適である。すなわち、クールエキスパンド工程の低温条件下において、粘着剤層12が、Tgが-43℃以下であるベースポリマーを含有することにより、粘着剤層12が適度な柔軟性を有し、粘着剤層12の割れを起点とするダイシングテープ10の裂けが抑制できると考えられる。ダイシングテープ10の裂けを抑制できるという観点からは、上記ベースポリマーのTgは、好ましくは-50℃以下、より好ましくは-55℃以下である。上記ベースポリマーのTgは、好ましくは-65℃以上、より好ましくは-62℃以上である。上記ベースポリマーのTgが、好ましくは-65℃以上、より好ましくは-62℃以上であるという構成は、クールエキスパンド工程においてダイシングテープ10の張力が粘着剤層12に吸収されることなく接着フィルム20に伝達して、半導体ウエハが良好に割断できる観点から好適である。
【0027】
このベースポリマーのTgは、例えば、JIS K 7121などに従って測定したものであってもよいが、以下のFoxの式から算出される計算ガラス転移温度であってもよい。この計算ガラス転移温度は、ベースポリマー(共重合体)を構成する各モノマー成分の種類及び量等を選択することにより調整することができる。
【0028】
計算ガラス転移温度(計算Tg)は、Foxの式〔1〕から算出することができる。
1/計算Tg=W1/Tg(1)+W2/Tg(2)+・・・+Wn/Tn 〔1〕
ここで、W1、W2、・・・Wnは共重合体を構成するモノマー成分(1)、モノマー成分(2)、・・・モノマー成分(n)の全モノマー成分に対する各重量分率(重量%)を意味し、Tg(1)、Tg(2)、・・・Tg(n)は、モノマー成分(1)、モノマー成分(2)、・・・モノマー成分(n)のホモポリマーのガラス転移温度(単位は絶対温度:K)を表す。
なお、ホモポリマーのガラス転移温度は、各種文献、カタログなどから公知であり、例えば、J. Brandup, E. H. Immergut,E. A. Grulke: Polymer Handbook:JOHNWILEY & SONS, INCに記載されている。各種文献に数値が無いモノマーについては、一般的な熱分析、例えば示差熱分析や動的粘弾性測定法等により測定した値を採用することができる。
【0029】
粘着剤層12における上記ベースポリマーの含有量は、粘着剤層12にクールエキスパンド工程の低温条件下で適切な柔軟性を付与するという観点で、粘着剤層12に対して85重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましい。また、粘着剤層12における上記ベースポリマーの含有量は、放射線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分や重合開始剤などの機能性成分を配合する観点から、粘着剤層(100重量%)に対して99重量%以下が好ましく、98重量%以下がより好ましい。
【0030】
ベースポリマーのTg(Foxの式により算出される計算Tgを含む)を-43℃以下に調整するためには、ホモポリマーが低いTgを有するモノマー成分(以下、「低Tgモノマー」と称する)とホモポリマーが高いTgを有するモノマー成分(以下、「高Tgモノマー」と称する)の配合割合を調整することが好ましい。
【0031】
低TgモノマーのホモポリマーのTgとしては、ベースポリマーのTgを-43℃以下に調整しやいという観点から、好ましくは100℃未満、より好ましくは80℃未満、より好ましくは60℃未満、より好ましくは40℃未満、より好ましくは20℃未満、より好ましくは0℃未満、さらに好ましくは-10℃未満である。
高TgモノマーのホモポリマーのTgとしては、ベースポリマーのTgを-43℃以下に調整しやいという観点から、好ましくは-10℃以上、より好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。
【0032】
低Tgモノマーと高Tgモノマーの比率(低Tgモノマー/高Tgモノマーのモル比)は、使用するモノマー成分のTgやその組み合わせにより変動し得るが、ベースポリマーのTgを-43℃以下に調整しやすく、ダイシングテープ10の裂けを抑制できるという観点から、例えば、5以上が好ましく、より好ましくは10以上である。また、上記比率は、ベースポリマーのTgを-65℃以上に調整して、半導体ウエハの割断性を担保する観点から、30以下が好ましく、より好ましくは25以下である。
【0033】
粘着剤層12における上記ベースポリマーとしては、例えば、アクリル系粘着剤たるアクリル系ポリマー、ウレタン系粘着剤たるウレタン系ポリマー、シリコーン系粘着剤たるシリコーン系ポリマーなどが挙げられる。上記Foxの式で算出される計算Tgを調整しやいという観点からアクリル系ポリマーが好ましい。
【0034】
上記のアクリル系ポリマーは、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。「(メタ)アクリル」は、「アクリル」および/または「メタクリル」を意味するものとする。アクリル系ポリマーのモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸エステル、即ち、アクリル系ポリマーの構成モノマーである(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、および(メタ)アクリル酸アリールエステルが挙げられる。
【0035】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s-ブチルエステル、t-ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2-エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル(即ちラウリルエステル)、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル、およびエイコシルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のシクロペンチルエステルおよびシクロヘキシルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸フェニルおよび(メタ)アクリル酸ベンジルが挙げられる。アクリル系ポリマーの構成モノマーとして、一種類の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよいし、二種類以上の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよい。アクリル系ポリマーのための(メタ)アクリル酸エステルとしては、好ましくは、アクリル酸2-エチルヘキシルが用いられる。また、(メタ)アクリル酸エステルに依る粘着性等の基本特性を粘着剤層12にて適切に発現させると共に、Tgを-43℃以下に調整するうえでは、アクリル系ポリマーの構成モノマー全体における(メタ)アクリル酸エステルの割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0036】
上記のアクリル系ポリマーは、例えばその凝集力や耐熱性の改質やTgを-43℃以下に調整する観点から、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な一種類の又は二種類以上の他のモノマーに由来するモノマーユニットを含んでいてもよい。アクリル系ポリマーのモノマーユニットをなすための他の共重合性モノマー、即ち、アクリル系ポリマーの構成モノマーである他の共重合性モノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、窒素含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、および、リン酸基含有モノマーが挙げられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、およびクロトン酸が挙げられる。酸無水物モノマーとしては、例えば、無水マレイン酸および無水イタコン酸が挙げられる。ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、および(メタ)アクリル酸(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチルが挙げられる。窒素含有モノマーとしては、例えば、アクリロイルモルフォリン、アクリルアミド、およびアクリロニトリルが挙げられる。エポキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルおよび(メタ)アクリル酸メチルグリシジルが挙げられる。スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、および(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸が挙げられる。リン酸基含有モノマーとしては、例えば2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートが挙げられる。アクリル系ポリマーのための上記共重合性モノマーとしては、好ましくは、ヒドロキシ基含有モノマーおよび窒素含有モノマーからなる群より選択される少なくとも一種が用いられる。アクリル系ポリマーのための上記共重合性モノマーとしては、より好ましくは、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルおよびアクリロイルモルフォリンからなる群より選択される少なくとも一種が用いられる。
【0037】
上記のアクリル系ポリマーがヒドロキシ基含有モノマー(特に、アクリル酸2-ヒドロキシエチル)に由来するモノマーユニットを含むものである場合、即ち、アクリル系ポリマーがその構成モノマーとしてヒドロキシ基含有モノマーを含む場合、当該アクリル系ポリマーにおける構成モノマーとしてのヒドロキシ基含有モノマーの割合は、好ましくは5~40mol%、より好ましくは10~30mol%である。
【0038】
上記のアクリル系ポリマーが窒素含有モノマー(特に、アクリロイルモルフォリン)に由来するモノマーユニットを含むものである場合、即ち、アクリル系ポリマーがその構成モノマーとして窒素含有モノマーを含む場合、当該アクリル系ポリマーにおける構成モノマーとしての窒素含有モノマーの割合は、好ましくは0~30mol%、より好ましくは5~20mol%、さらに好ましくは10~20mol%である。ダイシングテープ10において、同含有割合が、5mol%以上、好ましくは10mol%以上であるという構成は、粘着剤層12中の前記ポリマーについて高い極性を実現するうえで好適であり、粘着剤層12が高弾性化して、半導体ウエハの割断性や、割断後の接着フィルム付き半導体チップのダイシングテープ10からの剥離性を得るうえで好適である。ダイシングテープ10において、同含有割合が、30mol%以下、好ましくは20mol%以下であるという構成は、ダイシングテープ10の裂けを抑制できる点で好適である。
【0039】
アクリル系ポリマーは、そのポリマー骨格中に架橋構造を形成するために、(メタ)アクリル酸エステルなどのモノマー成分と共重合可能な多官能性モノマーに由来するモノマーユニットを含んでいてもよい。そのような多官能性モノマーとして、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリグリシジル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、およびウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」および/または「メタクリレート」を意味するものとする。アクリル系ポリマーの構成モノマーとして、一種類の多官能性モノマーが用いられてもよいし、二種類以上の多官能性モノマーが用いられてもよい。(メタ)アクリル酸エステルに依る粘着性等の基本特性を粘着剤層12にて適切に発現させるうえでは、アクリル系ポリマーの構成モノマー全体における多官能性モノマーの割合は、好ましくは40mol%以下、好ましくは30mol%以下である。
【0040】
高Tgモノマーとしては、アクリロイルモルフォリン(ホモポリマーのTg:145℃)、アクリルニトリル(ホモポリマーのTg:97℃)、メタクリル酸メチル(ホモポリマーのTg:105℃)等が挙げられ、アクリロイルモルフォリンが好ましい。
また、低Tgモノマーとしては、アクリル酸2-エチルヘキシル(ホモポリマーのTg:-70℃)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(ホモポリマーのTg:-15℃)、アクリル酸ブチル(ホモポリマーのTg:-55℃)、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(ホモポリマーのTg:-40℃)等が挙げられ、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチルが好ましい。
【0041】
アクリル系ポリマーは、それを形成するための原料モノマーを重合して得ることができる。重合手法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、塊状重合、および懸濁重合が挙げられる。ダイシングテープ10ないし接着フィルム付きダイシングテープXの使用される半導体装置製造過程における高度の清浄性の観点からは、ダイシングテープ10ないし接着フィルム付きダイシングテープXにおける粘着剤層12中の低分子量物質は少ない方が好ましいところ、アクリル系ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは10万以上、より好ましくは20万~300万である。アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)により測定して得られた、標準ポリスチレン換算の値をいうものとする。
【0042】
粘着剤層12ないしそれをなすための粘着剤は、アクリル系ポリマーなどベースポリマーの平均分子量を高めるために例えば、架橋剤を含有してもよい。アクリル系ポリマーなどベースポリマーと反応して架橋構造を形成するための架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤としてのポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリオール化合物、アジリジン化合物、およびメラミン系架橋剤が挙げられる。粘着剤層12ないしそれをなすための粘着剤組成物における架橋剤の含有量は、アクリル系ポリマーなどベースポリマー100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上である。同含有量は、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
なお、本願発明における「ベースポリマーのTg」は、架橋剤と反応する前のベースポリマーのTgを意味するものとする。
【0043】
粘着剤層12が紫外線照射によって粘着力の低下を生じる紫外線硬化性の粘着剤層である場合、紫外線硬化性の粘着剤層を形成するための粘着剤としては、アクリル系粘着剤たるアクリル系ポリマーなどのベースポリマーと、紫外線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基を有する紫外線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分とを含有する、添加型の紫外線硬化性粘着剤が挙げられる。
【0044】
紫外線硬化性粘着剤をなすための上記の紫外線重合性モノマー成分としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、および1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。紫外線硬化性粘着剤をなすための上記の紫外線重合性オリゴマー成分としては、例えば、ウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系など種々のオリゴマーが挙げられ、分子量100~30000程度のものが適当である。紫外線硬化性粘着剤中の紫外線重合性のモノマー成分やオリゴマー成分の総含有量は、形成される粘着剤層12の粘着力を適切に低下させ得る範囲で決定され、アクリル系ポリマーなどのベースポリマー100質量部に対して、好ましくは5~500質量部であり、より好ましくは40~150質量部である。また、添加型の紫外線硬化性粘着剤としては、例えば特開昭60-196956号公報に開示のものを用いてもよい。
【0045】
粘着剤層12のための紫外線硬化性粘着剤としては、例えば、紫外線重合性の炭素-炭素二重結合等の官能基をポリマー側鎖や、ポリマー主鎖中、ポリマー主鎖末端に有するベースポリマーを含有する内在型の紫外線硬化性粘着剤も挙げられる。このような内在型の紫外線硬化性粘着剤は、形成される粘着剤層12内での低分子量成分の移動に起因する粘着特性の意図しない経時的変化を抑制するうえで好適である。
【0046】
内在型の紫外線硬化性粘着剤に含有されるベースポリマーとしては、アクリル系ポリマーを基本骨格とするものが好ましい。そのような基本骨格をなすアクリル系ポリマーとしては、上述のアクリル系ポリマーを採用することができる。アクリル系ポリマーへの紫外線重合性の炭素-炭素二重結合の導入手法としては、例えば、所定の官能基(第1の官能基)を有するモノマーを含む原料モノマーを共重合させてアクリル系ポリマーを得た後、第1の官能基との間で反応を生じて結合しうる所定の官能基(第2の官能基)と紫外線重合性炭素-炭素二重結合とを有する化合物を、炭素-炭素二重結合の紫外線重合性を維持したままアクリル系ポリマーに対して縮合反応または付加反応させる方法が、挙げられる。
なお、本願発明における「ベースポリマーのTg」は、第2の官能基と紫外線重合性炭素-炭素二重結合とを有する化合物等と反応して、紫外線重合性の炭素-炭素二重結合が導入される前のベースポリマーのTgを意味するものとする。
【0047】
第1の官能基と第2の官能基の組み合わせとしては、例えば、カルボキシ基とエポキシ基、エポキシ基とカルボキシ基、カルボキシ基とアジリジル基、アジリジル基とカルボキシ基、ヒドロキシ基とイソシアネート基、イソシアネート基とヒドロキシ基が挙げられる。これら組み合わせのうち、反応追跡の容易さの観点からは、ヒドロキシ基とイソシアネート基の組み合わせや、イソシアネート基とヒドロキシ基の組み合わせが、好ましい。また、反応性の高いイソシアネート基を有するポリマーを作製するのは技術的難易度が高いので、アクリル系ポリマーの作製または入手のしやすさの観点からは、アクリル系ポリマー側の上記第1の官能基がヒドロキシ基であり且つ上記第2の官能基がイソシアネート基である場合が、より好ましい。この場合、紫外線重合性炭素-炭素二重結合と第2の官能基たるイソシアネート基とを併有するイソシアネート化合物、即ち、紫外線重合性の不飽和官能基含有イソシアネート化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)、およびm-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネートが挙げられる。
【0048】
粘着剤層12は、好ましくは光重合開始剤を含有する。光重合開始剤としては、例えば、α-ケトール系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ケタール系化合物、芳香族スルホニルクロリド系化合物、光活性オキシム系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、カンファーキノン、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、およびアシルホスフォナートが挙げられる。α-ケトール系化合物としては、例えば、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、α-ヒドロキシ-α,α'-ジメチルアセトフェノン、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノン、および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが挙げられる。アセトフェノン系化合物としては、例えば、メトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、および2-メチル-1-[4-(メチルチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-1が挙げられる。ベンゾインエーテル系化合物としては、例えば、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、およびアニソインメチルエーテルが挙げられる。ケタール系化合物としては、例えばベンジルジメチルケタールが挙げられる。芳香族スルホニルクロリド系化合物としては、例えば2-ナフタレンスルホニルクロリドが挙げられる。光活性オキシム系化合物としては、例えば、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシムが挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、および3,3'-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンが挙げられる。チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、および2,4-ジイソプロピルチオキサントンが挙げられる。粘着剤層12における光重合開始剤の含有量は、アクリル系ポリマーなどのベースポリマー100質量部に対して例えば0.05~10質量部である。
【0049】
粘着剤層12ないしそれをなすための粘着剤は、上述の各成分に加えて、架橋促進剤、粘着付与剤、老化防止剤、および、顔料や染料などの着色剤を、含有してもよい。着色剤は、放射線照射を受けて着色する化合物であってもよい。そのような化合物としては、例えばロイコ染料が挙げられる。
【0050】
粘着剤層12の厚みは、好ましくは5μm以上40μm以下、より好ましくは7μm以上30μm以下、さらに好ましくは10μm以上15μm以下である。このような構成は、半導体ウエハの割断性を確保しつつ、ダイシングテープ10の裂けを抑制する上で好ましい。上記粘着剤層12の厚みが、40μm以下、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは15μm以下であるという構成は、粘着剤層12の肥厚化によるバルクとしての硬さを抑制し、粘着剤層12の割れに起因するダイシングテープ10の裂けを抑制する上で好ましい。上記粘着剤層12の厚みが、5μm以上、好ましくは7μm以上、さらに好ましくは10μm以上であるという構成は、クールエキスパンド工程でダイシングテープ10の張力を接着フィルム20に伝達して、半導体ウエハを良好に割断する観点から好適である。
【0051】
以上のような構成のダイシングテープ10の-15℃での破断伸度は、好ましくは300%以上、より好ましくは373%以上、より好ましくは400%以上である。このような構成は、ダイシングテープ10の裂けを抑制する上で好適である。また、上記破断伸度は、好ましくは600%以下、より好ましくは500%以下である。
【0052】
また、ダイシングテープ10の-15℃での破断強度は、好ましくは15N/10mm以上、より好ましくは18N/10mm以上、さらに好ましくは30N/10mm以上である。このような構成は、ダイシングテープの裂けを抑制する上で好適である。また、上記破断強度は、クールエキスパンド工程でダイシングテープの張力を接着フィルムに伝達して、半導体ウエハを良好に割断する観点から、好ましくは35N/10mm以下、より好ましくは32N/10mm以下である。
【0053】
接着フィルム付きダイシングテープXにおける接着フィルム20は、熱硬化性を示すダイボンディング用接着剤として機能しうる構成を有する。接着フィルム20は、樹脂成分として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有してもよいし、硬化剤と反応して結合を生じ得る熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む組成を有してもよい。このような接着フィルム20は、単層構造を有してもよいし、隣接層間で組成の異なる多層構造を有してもよい。
【0054】
接着フィルム20が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有する場合の当該熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、および熱硬化性ポリイミド樹脂が挙げられる。接着フィルム20は、一種類の熱硬化性樹脂を含有してもよいし、二種類以上の熱硬化性樹脂を含有してもよい。エポキシ樹脂は、ダイボンディング対象である半導体チップの腐食原因となりうるイオン性不純物等の含有量が少ない傾向にあることから、接着フィルム20中の熱硬化性樹脂として好ましい。また、エポキシ樹脂に熱硬化性を発現させるための硬化剤としては、フェノール樹脂が好ましい。
【0055】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型、ヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型、およびグリシジルアミン型の、エポキシ樹脂が挙げられる。フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、およびテトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂は、硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み且つ耐熱性に優れることから、接着フィルム20中のエポキシ樹脂として好ましい。
【0056】
エポキシ樹脂の硬化剤として作用しうるフェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、および、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレンが挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、およびノニルフェノールノボラック樹脂が挙げられる。接着フィルム20は、エポキシ樹脂の硬化剤として、一種類のフェノール樹脂を含有してもよいし、二種類以上のフェノール樹脂を含有してもよい。フェノールノボラック樹脂やフェノールアラルキル樹脂は、ダイボンディング用接着剤としてのエポキシ樹脂の硬化剤として用いられる場合に当該接着剤の接続信頼性を向上させる傾向にあるので、接着フィルム20中のエポキシ樹脂用硬化剤として好ましい。
【0057】
接着フィルム20がエポキシ樹脂とその硬化剤としてのフェノール樹脂とを含有する場合、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対してフェノール樹脂中の水酸基が好ましくは0.5~2.0当量、より好ましくは0.8~1.2当量である割合で、両樹脂は配合される。このような構成は、接着フィルム20の硬化にあたって当該エポキシ樹脂およびフェノール樹脂の硬化反応を十分に進行させるうえで好ましい。
【0058】
接着フィルム20における熱硬化性樹脂の含有割合は、接着フィルム20においてその熱硬化型接着剤としての機能を適切に発現させるという観点からは、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%である。
【0059】
接着フィルム20中の熱可塑性樹脂は例えばバインダー機能を担うものであり、接着フィルム20が熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂とを含む組成を有する場合の当該熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびフッ素樹脂が挙げられる。接着フィルム20は、一種類の熱可塑性樹脂を含有してもよいし、二種類以上の熱可塑性樹脂を含有してもよい。アクリル樹脂は、イオン性不純物が少なく且つ耐熱性が高いことから、接着フィルム20中の熱可塑性樹脂として好ましい。
【0060】
接着フィルム20が熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂を含有する場合の当該アクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。
【0061】
アクリル樹脂のモノマーユニットをなすための(メタ)アクリル酸エステル、即ち、アクリル樹脂の構成モノマーである(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、および(メタ)アクリル酸アリールエステルが挙げられる。そのような(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、粘着剤層12のためのアクリル系ポリマーの構成モノマーとして上記した(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。アクリル樹脂の構成モノマーとして、一種類の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよいし、二種類以上の(メタ)アクリル酸エステルが用いられてもよい。
【0062】
アクリル樹脂は、例えばその凝集力や耐熱性の改質の観点から、(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な一種類の又は二種類以上の他のモノマーに由来するモノマーユニットを含んでいてもよい。アクリル樹脂のモノマーユニットをなすための他の共重合性モノマー、即ち、アクリル樹脂の構成モノマーである他の共重合性モノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、酸無水物モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、窒素含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、スルホン酸基含有モノマー、およびリン酸基含有モノマーが挙げられる。これらモノマーについて、具体的には、粘着剤層12のためのアクリル系ポリマーの構成モノマーとして上記したものを挙げることができる。
【0063】
接着フィルム20が、熱硬化性官能基を伴う熱可塑性樹脂を含む組成を有する場合、当該熱可塑性樹脂としては、例えば、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂を用いることができる。この熱硬化性官能基含有アクリル樹脂をなすためのアクリル樹脂は、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルに由来するモノマーユニットを質量割合で最も多く含む。そのような(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、粘着剤層12のためのアクリル系ポリマーの構成モノマーとして上記したのと同様の(メタ)アクリル酸エステルを用いることができる。一方、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂をなすための熱硬化性官能基としては、例えば、グリシジル基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、およびイソシアネート基が挙げられる。これらのうち、グリシジル基およびカルボキシ基を好適に用いることができる。すなわち、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂としては、グリシジル基含有アクリル樹脂やカルボキシ基含有アクリル樹脂を好適に用いることができる。また、熱硬化性官能基含有アクリル樹脂における熱硬化性官能基の種類に応じて、それと反応を生じうる硬化剤が選択される。熱硬化性官能基含有アクリル樹脂の熱硬化性官能基がグリシジル基である場合、硬化剤としては、エポキシ樹脂用硬化剤として上記したのと同様のフェノール樹脂を用いることができる。
【0064】
ダイボンディングのために硬化される前の接着フィルム20について、ある程度の架橋度を実現するためには、例えば、接着フィルム20に含まれる上述の樹脂成分の分子鎖末端の官能基等と反応して結合を生じうる多官能性化合物を架橋剤として接着フィルム形成用樹脂組成物に配合しておくのが好ましい。このような構成は、接着フィルム20について、高温下での接着特性を向上させるうえで、また、耐熱性の改善を図るうえで、好適である。そのような架橋剤としては、例えばポリイソシアネート化合物が挙げられる。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、および、多価アルコールとジイソシアネートの付加物が挙げられる。接着フィルム形成用樹脂組成物における架橋剤含有量は、当該架橋剤と反応して結合を生じうる上記官能基を有する樹脂100質量部に対し、形成される接着フィルム20の凝集力向上の観点からは好ましくは0.05質量部以上であり、形成される接着フィルム20の接着力向上の観点からは好ましくは7質量部以下である。また、接着フィルム20における架橋剤としては、エポキシ樹脂等の他の多官能性化合物をポリイソシアネート化合物と併用してもよい。
【0065】
接着フィルム20は、フィラーを含有してもよい。接着フィルム20へのフィラーの配合は、接着フィルム20の弾性率や、降伏点強度、破断伸度などの物性を調整するうえで好ましい。フィラーとしては、無機フィラーおよび有機フィラーが挙げられる。フィラーは、球状、針状、フレーク状など各種形状を有していてもよい。また、接着フィルム20は、一種類のフィラーを含有してもよいし、二種類以上のフィラーを含有してもよい。
【0066】
上記の無機フィラーの構成材料としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素、結晶質シリカ、および非晶質シリカが挙げられる。無機フィラーの構成材料としては、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル等の単体金属や、合金、アモルファスカーボン、グラファイトなども挙げられる。接着フィルム20が無機フィラーを含有する場合の当該無機フィラーの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。また、同含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0067】
上記の有機フィラーの構成材料としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、およびポリエステルイミドが挙げられる。接着フィルム20が有機フィラーを含有する場合の当該有機フィラーの含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。また、同含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0068】
接着フィルム20がフィラーを含有する場合の当該フィラーの平均粒径は、好ましくは0.005~10μm、より好ましくは0.05~1μmである。当該フィラーの平均粒径が0.005μm以上であるという構成は、接着フィルム20において、半導体ウエハ等の被着体に対する高い濡れ性や接着性を実現するうえで好適である。当該フィラーの平均粒径が10μm以下であるという構成は、接着フィルム20において十分なフィラー添加効果を得るとともに耐熱性を確保するうえで好適である。フィラーの平均粒径は、例えば、光度式の粒度分布計(商品名「LA-910」,株式会社堀場製作所製)を使用して求めることができる。
【0069】
接着フィルム20は、熱硬化触媒を含有してもよい。接着フィルム20への熱硬化触媒の配合は、接着フィルム20の硬化にあたって樹脂成分の硬化反応を十分に進行させたり、硬化反応速度を高めるうえで、好ましい。そのような熱硬化触媒としては、例えば、イミダゾール系化合物、トリフェニルフォスフィン系化合物、アミン系化合物、およびトリハロゲンボラン系化合物が挙げられる。イミダゾール系化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-ウンデシルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-エチル-4'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、および2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールが挙げられる。トリフェニルフォスフィン系化合物としては、例えば、トリフェニルフォスフィン、トリ(ブチルフェニル)フォスフィン、トリ(p-メチルフェニル)フォスフィン、トリ(ノニルフェニル)フォスフィン、ジフェニルトリルフォスフィン、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、メチルトリフェニルホスホニウムブロマイド、メチルトリフェニルホスホニウムクロライド、メトキシメチルトリフェニルホスホニウムクロライド、およびベンジルトリフェニルホスホニウムクロライドが挙げられる。トリルフェニルフォスフィン系化合物には、トリフェニルフォスフィン構造とトリフェニルボラン構造とを併有する化合物も含まれるものとする。そのような化合物としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリボレート、ベンジルトリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、およびトリフェニルホスフィントリフェニルボランが挙げられる。アミン系化合物としては、例えば、モノエタノールアミントリフルオロボレートおよびジシアンジアミドが挙げられる。トリハロゲンボラン系化合物としては、例えばトリクロロボランが挙げられる。接着フィルム20は、一種類の熱硬化触媒を含有してもよいし、二種類以上の熱硬化触媒を含有してもよい。
【0070】
接着フィルム20は、必要に応じて、一種類の又は二種類以上の他の成分を含有してもよい。当該他の成分としては、例えば、難燃剤、シランカップリング剤、およびイオントラップ剤が挙げられる。
【0071】
接着フィルム20の25℃での破断強度は、好ましくは5N/10mm以下、より好ましくは3N/10mm以下、さらに好ましくは1.5N/10mm以下である。このような構成は、ダイシングテープ10にかかる負荷を軽減し、ダイシングテープ10の裂けを抑制する上で好適である。また、上記破断強度は、半導体ウエハの適度な割断性の観点から、好ましくは0.1N/10mm以上、より好ましくは0.2N/10mm以上、さらに好ましくは0.5N/10mm以上である。
【0072】
接着フィルム20の25℃での破断伸度は、好ましくは100%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは50%以下、最も好ましくは15%以下である。このような構成は、ダイシングテープ10にかかる負荷を軽減し、ダイシングテープ10の裂けを抑制する上で好適である。上記破断伸度は、半導体ウエハの適度な割断性の観点からは、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。
【0073】
以上のような接着フィルム付きダイシングテープXは、例えば以下のようにして製造することができる。
【0074】
接着フィルム付きダイシングテープXのダイシングテープ10については、用意した基材11上に粘着剤層12を設けることによって作製することができる。例えば樹脂製の基材11は、カレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出し法、ドライラミネート法などの製膜手法によって、作製することができる。製膜後のフィルムないし基材11には、必要に応じて所定の表面処理が施される。粘着剤層12の形成においては、例えば、粘着剤層形成用の粘着剤組成物を調製した後、まず、当該組成物を基材11上または所定のセパレータ上に塗布して粘着剤組成物層を形成する。粘着剤組成物の塗布手法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、およびグラビア塗工が挙げられる。次に、この粘着剤組成物層において、加熱によって、必要に応じて乾燥させ、また、必要に応じて架橋反応を生じさせる。加熱温度は例えば80~150℃であり、加熱時間は例えば0.5~5分間である。粘着剤層12がセパレータ上に形成される場合には、当該セパレータを伴う粘着剤層12を基材11に貼り合わせ、その後、セパレータが剥離される。これにより、基材11と粘着剤層12との積層構造を有する上述のダイシングテープ10が作製される。
【0075】
接着フィルム付きダイシングテープXの接着フィルム20の作製においては、まず、接着フィルム20形成用の接着剤組成物を調製した後、所定のセパレータ上に当該組成物を塗布して接着剤組成物層を形成する。セパレータとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、並びに、フッ素系剥離剤や長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙類などが、挙げられる。接着剤組成物の塗布手法としては、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、およびグラビア塗工が挙げられる。次に、この接着剤組成物層において、加熱によって、必要に応じて乾燥させ、また、必要に応じて架橋反応を生じさせる。加熱温度は例えば70~160℃であり、加熱時間は例えば1~5分間である。以上のようにして、セパレータを伴う形態で上述の接着フィルム20を作製することができる。
【0076】
上記で得られた接着フィルム20の2以上をさらに積層させてもよい。積層させる2以上の接着フィルム20は、同一組成のものであってもよく、異なる組成のものであってもよい。また、積層させる2以上の接着フィルム20の厚さは、同一であってもよく、異なっていてもよい。2以上の接着フィルム20の積層は、例えば、上記で得られたセパレータを伴う接着フィルム20のセパレータが密着していない面同士を貼り合わせてラミネートすることにより行うことができる。ラミネート温度は、例えば40~100℃であり、好ましくは60~90℃である。ラミネート圧力(線圧)は、例えば0.05~1.00MPaであり、好ましくは0.1~0.8MPaである。ラミネート速度は、例えば1~20mm/sであり、好ましくは5~15mm/sである。貼り合わせた接着フィルム20の積層物の一方のセパレータを剥離して、別のセパレータ付き接着フィルム20をさらに貼り合わせてもよい。
【0077】
接着フィルム付きダイシングテープXの作製においては、次に、セパレータを伴う接着フィルム20を所定の直径の円盤形に打ち抜き加工した後、ダイシングテープ10の粘着剤層12側に接着フィルム20を圧着して貼り合わせる。貼合わせ温度は、例えば30~50℃であり、好ましくは35~45℃である。貼合わせ圧力(線圧)は、例えば0.1~20kgf/cmであり、好ましくは1~10kgf/cmである。次に、このようにして接着フィルム20と貼り合わせられたダイシングテープ10を、ダイシングテープ10の中心と接着フィルム20の中心とが一致するように、所定の直径の円盤形に打ち抜き加工する。
【0078】
以上のようにして、接着フィルム付きダイシングテープXを作製することができる。接着フィルム付きダイシングテープXには、接着フィルム20側に、少なくとも接着フィルム20を被覆する形態でセパレータ(図示略)が設けられていてもよい。セパレータは、接着フィルム20や粘着剤層12が露出しないように保護するための要素であり、接着フィルム付きダイシングテープXを使用する際には当該フィルムから剥がされる。
【0079】
図3から
図9は、以上のような接着フィルム付きダイシングテープXが使用される半導体装置製造方法の一例を表す。
【0080】
本半導体装置製造方法においては、まず、
図3(a)および
図3(b)に示すように、半導体ウエハWに改質領域30aが形成される。半導体ウエハWは、第1面Waおよび第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。本工程では、粘着面T1aを有するウエハ加工用テープT1が半導体ウエハWの第1面Wa側に貼り合わされた後、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、ウエハ内部に集光点の合わせられたレーザー光がウエハ加工用テープT1とは反対の側から半導体ウエハWに対してその分割予定ラインに沿って照射され、多光子吸収によるアブレーションに因って半導体ウエハW内に改質領域30aが形成される。改質領域30aは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための脆弱化領域である。半導体ウエハにおいてレーザー光照射によって分割予定ライン上に改質領域30aを形成する方法については、例えば特開2002-192370号公報に詳述されているところ、本実施形態におけるレーザー光照射件は、例えば以下の条件の範囲内で適宜に調整される。
<レーザー光照射条件>
(A)レーザー光
レーザー光源 半導体レーザー励起Nd:YAGレーザー
波長 1064nm
レーザー光スポット断面積 3.14×10
-8cm
2
発振形態 Qスイッチパルス
繰り返し周波数 100kHz以下
パルス幅 1μs以下
出力 1mJ以下
レーザー光品質 TEM00
偏光特性 直線偏光
(B)集光用レンズ
倍率 100倍以下
NA 0.55
レーザー光波長に対する透過率 100%以下
(C)半導体基板が載置される載置台の移動速度 280mm/秒以下
【0081】
次に、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化され、これにより、
図3(c)に示すように、複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Aが形成される(ウエハ薄化工程)。研削加工は、研削砥石を備える研削加工装置を使用して行うことができる。
【0082】
次に、
図4(a)に示すように、ウエハ加工用テープT1に保持された半導体ウエハ30Aが、接着フィルム付きダイシングテープXの接着フィルム20側に対して貼り合わせられる。この後、
図4(b)に示すように、半導体ウエハ30Aからウエハ加工用テープT1が剥がされる。
【0083】
次に、接着フィルム付きダイシングテープXにおける接着フィルム20周りの粘着剤層12上に例えばSUS製のリングフレーム41が貼り付けられた後、
図5(a)に示すように、半導体ウエハ30Aを伴う当該接着フィルム付きダイシングテープXがリングフレーム41を介してエキスパンド装置の保持具42に固定される。
【0084】
次に、所定の低温条件下での第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)が、
図5(b)に示すように行われ、半導体ウエハ30Aが複数の半導体チップ31へと個片化されるとともに、接着フィルム付きダイシングテープXの接着フィルム20が小片の接着フィルム21に割断されて、接着フィルム付き半導体チップ31が得られる。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、接着フィルム付きダイシングテープXの図中下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、半導体ウエハ30Aの貼り合わされた接着フィルム付きダイシングテープXのダイシングテープ10が、半導体ウエハ30Aの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。
【0085】
このクールエキスパンド工程では、ダイシングテープ10において例えば15~32MPaの引張応力が生ずる条件で行われる。クールエキスパンド工程におけるダイシングテープ10の引張応力がこの範囲に制御されることにより、ダイシングテープ10が裂けることなく、半導体ウエハ30Aを改質領域30aにおいて良好に割断できる。
【0086】
クールエキスパンド工程における温度条件は、例えば0℃以下であり、好ましくは-20~-5℃、より好ましくは-15~-5℃、より好ましくは-15℃である。クールエキスパンド工程の温度条件をこの範囲に制御することにより、ダイシングテープ10が裂けることなく、半導体ウエハ30Aを改質領域30aにおいて良好に割断できる。
【0087】
クールエキスパンド工程におけるエキスパンド速度(突き上げ部材43が上昇する速度)は、例えば1~400mm/秒である。エキスパンド速度をこの範囲に制御することにより、ダイシングテープ10が裂けることなく、半導体ウエハ30Aを改質領域30aにおいて良好に割断できる。
【0088】
また、クールエキスパンド工程におけるエキスパンド量は、例えば3~16mmである。エキスパンド量をこの範囲に制御することにより、ダイシングテープ10が裂けることなく、半導体ウエハ30Aを改質領域30aにおいて良好に割断できる。
【0089】
クールエキスパン工程でのエキスパンドに関するこれら条件については、後記のクールエキスパン工程においても同様である。
【0090】
このようなクールエキスパンド工程により、接着フィルム付きダイシングテープXの接着フィルム20が小片の接着フィルム21に割断されて接着フィルム付き半導体チップ31が得られる。具体的に、本工程では、半導体ウエハ30Aにおいて脆弱な改質領域30aにクラックが形成されて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、本工程では、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着フィルム20において、半導体ウエハ30Aの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、ウエハのクラック形成箇所に対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生ずる引張応力が作用する。その結果、接着フィルム20において半導体チップ31間のクラック形成箇所に対向する箇所が割断されることとなる。本工程の後、
図5(c)に示すように、突き上げ部材43が下降されて、ダイシングテープ10におけるエキスパンド状態が解除される。
【0091】
次に、第2エキスパンド工程(常温エキスパンド工程)が、
図6(a)および
図6(b)に示すように行われ、接着フィルム付き半導体チップ31間の距離が広げられる。本工程では、エキスパンド装置の備えるテーブル44が上昇され、接着フィルム付きダイシングテープXのダイシングテープ10がエキスパンドされる。テーブル44は、テーブル面上のワークに負圧を作用させて当該ワークを真空吸着可能なものである。第2エキスパンド工程における温度条件は、例えば10℃以上であり、好ましくは15~30℃である。第2エキスパンド工程におけるエキスパンド速度(テーブル44が上昇する速度)は、例えば0.1~10mm/秒である。また、第2エキスパンド工程におけるエキスパンド量は例えば3~16mmである。本工程では、テーブル44の上昇によってダイシングテープ10がエキスパンドされ(これにより、接着フィルム付き半導体チップ31の離間距離が広げられる)、その後、テーブル44はダイシングテープ10を真空吸着する。そして、テーブル44によるその吸着を維持した状態で、
図6(c)に示すように、テーブル44がワークを伴って下降される。本実施形態では、この状態において、接着フィルム付きダイシングテープXにおける半導体ウエハ30A周り(半導体チップ31保持領域より外側の部分)が加熱されて収縮させられる(ヒートシュリンク工程)。その後、テーブル44による真空吸着状態が解除される。ヒートシュリンク工程を経ることにより、接着フィルム付きダイシングテープXにおいて、上述の第1エキスパンド工程や第2エキスパンド工程にて引き伸ばされて一旦弛緩したウエハ貼合わせ領域に所定程度の張力が作用しうる状態となり、前記真空吸着状態解除後であっても半導体チップ31間の離隔距離が固定される。
【0092】
本半導体装置製造方法では、次に、
図7に示すように、粘着剤層12において紫外線硬化を進めてその粘着力を低下させるための紫外線照射を行う(紫外線照射工程)。具体的には、例えば高圧水銀ランプを使用して、ダイシングテープ10の基材11の側から粘着剤層12に対してその全体にわたり紫外線照射Rを行う。照射積算光量は、例えば50~500mJ/cm
2であり、好ましくは100~300mJ/cm
2である。
【0093】
本半導体装置製造方法では、次に、接着フィルム付きダイシングテープXにおける半導体チップ31側を水などの洗浄液を使用して洗浄するクリーニング工程を必要に応じて経た後、ピックアップ機構とエキスパンド機構とを共に備えるダイシングボンディング装置を使用して、ピックアップ工程を行う。
【0094】
具体的には、まず、
図8(a)に示すように、複数の半導体チップ31を伴う接着フィルム付きダイシングテープXないしそのダイシングテープ10がリングフレーム41を介してダイボンディング装置の保持具45に固定された状態で、同装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材46が、ダイシングテープ10の図中下側においてダイシングテープ10に当接して上昇される。これにより、ダイシングテープ10がその径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる(ピックアップ前エキスパンド)。
【0095】
次に、
図8(b)に示すように、接着フィルム付き半導体チップ31をダイシングテープ10からピックアップする。例えば、ピックアップ対象の接着フィルム付き半導体チップ31について、ダイシングテープ10の図中下側においてピックアップ機構のピン部材47を上昇させてダイシングテープ10を介して突き上げた後、吸着治具48によって吸着保持する。このピックアップにおいて、ピン部材47の突き上げ速度は例えば1~100mm/秒であり、ピン部材47の突き上げ量は例えば50~3000μmである。
【0096】
次に、
図9(a)に示すように、ピックアップされた接着フィルム付き半導体チップ31が、所定の被着体51に対して接着フィルム21を介して仮固着される。被着体51としては、例えば、リードフレーム、TAB(Tape Automated Bonding)フィルム、および配線基板が挙げられる。
【0097】
次に、
図9(b)に示すように、半導体チップ31の電極パッド(図示略)と被着体51の有する端子部(図示略)とをボンディングワイヤー52を介して電気的に接続する(ワイヤーボンディング工程)。半導体チップ31の電極パッドや被着体51の端子部とボンディングワイヤー52との結線は、加熱を伴う超音波溶接によって実現され、接着フィルム21を熱硬化させないように行われる。ボンディングワイヤー52としては、例えば金線、アルミニウム線、または銅線を用いることができる。ワイヤーボンディングにおけるワイヤー加熱温度は、例えば80~250℃である。また、その加熱時間は数秒~数分間である。
【0098】
次に、
図9(c)に示すように、被着体51上の半導体チップ31やボンディングワイヤー52を保護するための封止樹脂53によって半導体チップ31を封止する(封止工程)。本工程では、接着フィルム21の熱硬化が進む。本工程では、例えば、金型を使用して行うトランスファーモールド技術によって封止樹脂53が形成される。封止樹脂53の構成材料としては、例えばエポキシ系樹脂を用いることができる。本工程において、封止樹脂53を形成するための加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば60秒~数分間である。本工程(封止工程)で封止樹脂53の硬化が充分には進行しない場合には、本工程の後に封止樹脂53を完全に硬化させるための後硬化工程が行われる。封止工程において接着フィルム21が完全に熱硬化しない場合であっても、後硬化工程において封止樹脂53と共に接着フィルム21の完全な熱硬化が可能となる。後硬化工程において、加熱温度は例えば165~185℃であり、加熱時間は例えば0.5~8時間である。
【0099】
以上のようにして、半導体装置を製造することができる。
【0100】
本半導体装置製造方法おいては、半導体ウエハ30Aが接着フィルム付きダイシングテープXに貼り合わされるという上述の構成に代えて、次のようにして作製される半導体ウエハ30Bが接着フィルム付きダイシングテープXに貼り合わされてもよい。
【0101】
半導体ウエハ30Bの作製においては、まず、
図10(a)および
図10(b)に示すように、半導体ウエハWに分割溝30bが形成される(分割溝形成工程)。半導体ウエハWは、第1面Waおよび第2面Wbを有する。半導体ウエハWにおける第1面Waの側には各種の半導体素子(図示略)が既に作り込まれ、且つ、当該半導体素子に必要な配線構造等(図示略)が第1面Wa上に既に形成されている。本工程では、粘着面T2aを有するウエハ加工用テープT2が半導体ウエハWの第2面Wb側に貼り合わされた後、ウエハ加工用テープT1に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWの第1面Wa側に所定深さの分割溝30bがダイシング装置等の回転ブレードを使用して形成される。分割溝30bは、半導体ウエハWを半導体チップ単位に分離させるための空隙である(図面において分割溝30bを模式的に太線で表す)。
【0102】
次に、
図10(c)に示すように、粘着面T3aを有するウエハ加工用テープT3の、半導体ウエハWの第1面Wa側への貼り合わせと、半導体ウエハWからのウエハ加工用テープT2の剥離とが、行われる。
【0103】
次に、
図10(d)に示すように、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、半導体ウエハWが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化される(ウエハ薄化工程)。このウエハ薄化工程によって、本実施形態では、複数の半導体チップ31に個片化可能な半導体ウエハ30Bが形成される。半導体ウエハ30Bは、具体的には、当該ウエハにおいて複数の半導体チップ31へと個片化されることとなる部位を第2面Wb側にて連結する部位(連結部)を有する。半導体ウエハ30Bにおける連結部の厚さ、即ち、半導体ウエハ30Bの第2面Wbと分割溝30bの第2面Wb側先端との間の距離は、例えば1~30μmである。以上のようにして作製される半導体ウエハ30Bが半導体ウエハ30Aの代わりに接着フィルム付きダイシングテープXに貼り合わされたうえで、
図5から
図9を参照して上述した各工程が行われてもよい。
【0104】
図11(a)および
図11(b)は、半導体ウエハ30Bが接着フィルム付きダイシングテープXに貼り合わされた後に行われる第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を具体的に表す。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、接着フィルム付きダイシングテープXの図中下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、半導体ウエハ30Bの貼り合わされた接着フィルム付きダイシングテープXのダイシングテープ10が、半導体ウエハ30Bの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。このようなクールエキスパンド工程により、半導体ウエハ30Bにおいて薄肉で割れやすい部位に割断が生じて半導体チップ31への個片化が生じる。これとともに、本工程では、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着フィルム20において各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝に対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生ずる引張応力が作用する。その結果、接着フィルム20において半導体チップ31間の分割溝に対向する箇所が割断されることとなる。こうして得られる接着フィルム付き半導体チップ31は、
図8を参照して上述したピックアップ工程を経た後、半導体装置製造過程における実装工程に供されることとなる。
【0105】
本半導体装置製造方法おいては、
図10(d)を参照して上述したウエハ薄化工程に代えて、
図12に示すウエハ薄化工程を行ってもよい。
図10(c)を参照して上述した過程を経た後、
図12に示すウエハ薄化工程では、ウエハ加工用テープT3に半導体ウエハWが保持された状態で、当該ウエハが所定の厚さに至るまで第2面Wbからの研削加工によって薄化されて、複数の半導体チップ31を含んでウエハ加工用テープT3に保持された半導体ウエハ分割体30Cが形成される。本工程では、分割溝30bそれ自体が第2面Wb側に露出するまでウエハを研削する手法(第1の手法)を採用してもよいし、第2面Wb側から分割溝30bに至るより前までウエハを研削し、その後、回転砥石からウエハへの押圧力の作用により分割溝30bと第2面Wbとの間にクラックを生じさせて半導体ウエハ分割体30Cを形成する手法(第2の手法)を採用してもよい。採用される手法に応じて、
図10(a)および
図10(b)を参照して上述したように形成される分割溝30bの、第1面Waからの深さは、適宜に決定される。
図12では、第1の手法を経た分割溝30b、または、第2の手法を経た分割溝30bおよびこれに連なるクラックについて、模式的に太線で表す。このようにして作製される半導体ウエハ分割体30Cが半導体ウエハ30Aや半導体ウエハ30Bの代わりに接着フィルム付きダイシングテープXに貼り合わされたうえで、
図5から
図9を参照して上述した各工程が行われてもよい。
【0106】
図13(a)および
図13(b)は、半導体ウエハ分割体30Cが接着フィルム付きダイシングテープXに貼り合わされた後に行われる第1エキスパンド工程(クールエキスパンド工程)を具体的に表す。本工程では、エキスパンド装置の備える中空円柱形状の突き上げ部材43が、接着フィルム付きダイシングテープXの図中下側においてダイシングテープ10に当接して上昇され、半導体ウエハ分割体30Cの貼り合わされた接着フィルム付きダイシングテープXのダイシングテープ10が、半導体ウエハ分割体30Cの径方向および周方向を含む二次元方向に引き伸ばされるようにエキスパンドされる。このようなクールエキスパンド工程により、エキスパンドされるダイシングテープ10の粘着剤層12に密着している接着フィルム20において、半導体ウエハ分割体30Cの各半導体チップ31が密着している各領域では変形が抑制される一方で、半導体チップ31間の分割溝30bに対向する箇所には、そのような変形抑制作用の生じない状態で、ダイシングテープ10に生ずる引張応力が作用する。その結果、接着フィルム20において半導体チップ31間の分割溝30bに対向する箇所が割断されることとなる。こうして得られる接着フィルム付き半導体チップ31は、
図8を参照して上述したピックアップ工程を経た後、半導体装置製造過程における実装工程に供されることとなる。
【実施例】
【0107】
〔実施例1~5、比較例1~3〕
〈ダイシングテープの作製〉
冷却管と、窒素導入管と、温度計と、撹拌装置とを備える反応容器内で、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA;ホモポリマーのTg:-70℃)と、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA;ホモポリマーのTg:-15℃)と、アクリロイルモルフォリン(ACMO;ホモポリマーのTg:145℃)を表1に示される割合(モル部)で使用し、重合開始剤である過酸化ベンゾイルと、重合溶媒であるトルエンとを含む混合物(ベース55wt%)を、60℃で10時間、窒素雰囲気下で撹拌した(重合反応)。この混合物において、過酸化ベンゾイルの含有量はモノマー成分100質量部に対して0.3質量部であり、トルエンの含有量はモノマー成分100質量部に対して60質量部である。この重合反応により、アクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液を得た。表1に、モノマー成分組成からFoxの式により算出されるアクリル系ポリマーP1のガラス転移温度(Tg)を示す。
【0108】
次に、このアクリル系ポリマーP1を含有するポリマー溶液と、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)と、付加反応触媒としてのジブチル錫ジラウリレートとを含む混合物を、50℃で60時間、空気雰囲気下で撹拌した(付加反応)。当該反応溶液において、MOIの配合量は、アクリル系ポリマーP1100質量部に対して1.4質量部である。また、当該反応溶液において、ジブチル錫ジラウリレートの配合量は、アクリル系ポリマーP1100質量部に対して0.1質量部である。この付加反応により、側鎖にメタクリロイル基を有するアクリル系ポリマーP2を含有するポリマー溶液を得た。次に、当該ポリマー溶液に、アクリル系ポリマーP2100質量部に対して1.1質量部のポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」,東ソー株式会社製)と、3質量部の光重合開始剤(商品名「イルガキュア184」,BASF社製)とを加えて混合し、且つ、当該混合物の室温での粘度が500mPa・sになるように当該混合物についてトルエンを加えて希釈し、粘着剤溶液を得た。次に、シリコーン離型処理の施された面を有するPETセパレータのシリコーン離型処理面上にアプリケーターを使用して粘着剤溶液を塗布して塗膜を形成し、この塗膜について120℃で2分間の加熱乾燥を行い、PETセパレータ上に厚さ10μmの粘着剤層を形成した。次に、ラミネーターを使用して、この粘着剤層の露出面にエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)製の基材(商品名「RB0103」,厚さ125μm,倉敷紡績株式会社製)を室温で貼り合わせた。以上のようにして実施例1~5、比較例1~3のダイシングテープを作製した。
【0109】
〈接着フィルムの作製〉
アクリル樹脂(商品名「テイサンレジンSG-280」,ナガセケムテック株式会社製)15質量部と、エポキシ樹脂(商品名「EPPN 501HY」,日本化薬株式会社製)29質量部と、フェノール樹脂(商品名「HF-1M」,明和化成株式会社製)16質量部と、無機フィラー(商品名「SE-2050MCV」,球状シリカ,株式会社アドマテックス製)40質量部とを、メチルエチルケトンに溶解して濃度40~50重量%の接着剤組成物溶液を調製した。
この接着剤組成物溶液を、剥離ライナとしてシリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなるPETセパレータ上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させることにより、厚さ60μmの接着フィルムを作製した。作製した60μmの接着フィルム同士を貼り合せることで、120μmの接着フィルムを作製した(ラミネート条件:80℃、0.15MPa、10mm/s)。
【0110】
〈接着フィルム付きダイシングテープの作製〉
PETセパレータを伴う上述の接着フィルムを直径330mmの円盤形に打ち抜き加工した。次に、当該接着フィルムからPETセパレータを剥離し且つ上述のダイシングテープからPETセパレータを剥離した後、当該ダイシングテープにおいて露出した粘着剤層と、接着フィルムにおいてPETセパレータの剥離によって露出した面とを、ロールラミネーターを使用して貼り合わせた。この貼り合わせにおいて、貼合わせ速度を10mm/分とし、温度条件を25℃とし、圧力条件を0.15MPaとした。その後、接着フィルムの貼り合せ部分のみに紫外線を照射した(300mJ/cm2)。以上のようにして、ダイシングテープと接着フィルムとを含む積層構造を有する実施例1~5、比較例1~3の接着フィルム付きダイシングテープを作製した。
【0111】
〈ダイシングテープの破断伸度、破断強度の測定〉
実施例1~5および比較例1~3の各ダイシングテープについて、以下のようにして破断伸度、破断強度を測定した。当該ダイシングテープからダイシングテープ試験片(幅10mm×長さ100mm)を切り出した。実施例1~5および比較例1~3のダイシングテープごとに、必要数のダイシングテープ試験片を用意した。そして、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-50NX」,株式会社島津製作所製)を使用して、ダイシングテープ試験片について引張試験を行い、所定の引張速度で伸張されるダイシングテープ試験片の破断伸度、破断強度を測定した。引張試験において、初期チャック間距離は50mmであり、温度条件は-15℃であり、引張速度は300mm/分である。測定結果を表1に示す。
【0112】
〈接着フィルムの破断伸度、破断強度の測定〉
実施例1~5および比較例1~3の各接着フィルムについて、以下のようにして破断伸度、破断強度を測定した。まず、接着フィルム試験片(幅10mm×長さ40mm)を切り出した。実施例1~5および比較例1~3の接着フィルムごとに、必要数の接着フィルム試験片を用意した。そして、引張試験機(商品名「オートグラフAGS-50NX」,株式会社島津製作所製)を使用して、接着フィルム試験片について引張試験を行い、所定の引張速度で伸張される接着フィルム試験片の破断伸度、破断強度を測定した。引張試験において、初期チャック間距離は10mmであり、温度条件は25℃であり、引張速度は300mm/分である。測定結果を表1に示す。
【0113】
〈ダイシングテープの裂け、割断性の評価〉
チップサイズ10×10mmで割断予定ライン(ブレードハーフカット;幅20μm,深さ100μm)の施された12インチウエハを40μmの厚みになるまでバックグラインドし、実施例1~5、比較例1~3で作成した接着フィルム付きダイシングテープとの貼り合せを行った(ウエハ貼り合せ温度:70℃、速度10mm/s)。
その後、ダイセパレート装置(商品名「ダイセパレータDDS2300」,株式会社ディスコ製)を用いて半導体ウエハ及び接着フィルムの割断、更にダイシングシートの熱収縮を行うことにより、ダイシングテープの裂け、割断性を評価した。
まず、クールエキスパンダーユニットで、エキスパンド温度-15℃、エキスパンド速度300mm/秒、エキスパンド量14mmの条件で半導体ウエハを割断した。
その後、ダイシングテープ裂けを評価した。テープ裂けが発生しなかったものを〇、発生したものをXとした。
また、半導体ウエハの割断率が80%以上のものを〇、90%以上のものを◎、80%未満のものを×とした。評価結果を表1に示す。
【0114】
【符号の説明】
【0115】
X 接着フィルム付きダイシングテープ
10 ダイシングテープ
11 基材
12 粘着剤層
20,21 接着フィルム
W,30A,30B 半導体ウエハ
30C 半導体ウエハ分割体
30a 改質領域
30b 分割溝
31 半導体チップ