(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】冷凍野菜の改善剤、冷凍野菜の製造方法および冷凍野菜を改善する方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/05 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
A23B7/05
(21)【出願番号】P 2020046589
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004392
【氏名又は名称】弁理士法人佐川国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】冨山 香里
(72)【発明者】
【氏名】柏倉 雄一
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-184537(JP,A)
【文献】特開平06-233651(JP,A)
【文献】特開2006-280309(JP,A)
【文献】月刊フードケミカル,2017年,vol.33, no.1,pp.35-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00-7/16
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の糖組成の還元水飴を有効成分とする、冷凍野菜
(ジュンサイを除く)の改善剤;
単糖が2~50質量%、
二糖が6~55質量%、
三糖が8~35質量%、
四糖が1~8質量%、
五糖以上が1~68質量%。
【請求項2】
デキストロース当量が26以上70以下の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とする、冷凍野菜
(ジュンサイを除く)の改善剤。
【請求項3】
前記還元水飴が、下記の糖組成の還元水飴である、請求項1または請求項2に記載の冷凍野菜
(ジュンサイを除く)の改善剤;
単糖が2~10質量%、
二糖が43~55質量%、
三糖が15~35質量%、
四糖が1~5質量%、
五糖以上が1~38質量%。
【請求項4】
前記還元水飴が、デキストロース当量が37以上45以下の水飴を還元してなる還元水飴である、請求項1~3のいずれかに記載の冷凍野菜
(ジュンサイを除く)の改善剤。
【請求項5】
食感および/または風味の改善のために用いられる、請求項1~4のいずれかに記載の冷凍野菜
(ジュンサイを除く)の改善剤。
【請求項6】
歩留まり向上のために用いられる、請求項1~5のいずれかに記載の冷凍野菜
(ジュンサイを除く)の改善剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の冷凍野菜
(ジュンサイを除く)の改善剤を含有する液体に野菜を浸漬する工程と、前記浸漬した野菜を冷凍する工程とを有する、冷凍野菜
(ジュンサイを除く)の製造方法。
【請求項8】
下記の糖組成の還元水飴を含有する液体に野菜(ジュンサイを除く)を浸漬する工程を有する、冷凍野菜(ジュンサイを除く)を改善する方法;
単糖が2~50質量%、
二糖が6~55質量%、
三糖が8~35質量%、
四糖が1~8質量%、
五糖以上が1~68質量%。
【請求項9】
デキストロース当量が26以上70以下の水飴を還元してなる還元水飴を含有する液体に野菜(ジュンサイを除く)を浸漬する工程を有する、冷凍野菜(ジュンサイを除く)を改善する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の還元水飴を有効成分とする冷凍野菜の改善剤、および、これを用いる冷凍野菜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食用ないし調理に適する大きさ・形に切断して冷凍した野菜は、保存性が高く、その後の調理等が効率的に行える等の理由から、近年、業務用および家庭用のいずれにおいても多く用いられている。しかしながら、野菜は一般に、凍結により細胞が破壊される等のダメージを受けるため、シャキシャキ感等の野菜本来の食感や風味が失われるという課題があった。そこで、冷凍野菜の劣化を抑制する技術が研究開発されており、例えば、特許文献1には、乳化剤添加油脂を野菜に接触処理した後に冷凍することで、喫食時に製品本来の食感を維持することができる技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術で用いられる乳化剤は、安全性への懸念などから近年は一般消費者に敬遠される場合があるため、食品業界でもその使用が避けられる傾向にある。すなわち、係る先行技術を鑑みても、安全性への懸念を生ずることなく冷凍野菜の劣化を抑制する技術は、十分に供給されている状況とはいえない。
【0005】
本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、安全性への懸念を生ずることなく冷凍野菜の劣化を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、単糖が2~50質量%、二糖が6~55質量%、三糖が8~35質量%、四糖が1~8質量%および五糖以上が1~68質量%である糖組成からなる還元水飴、または、デキストロース当量が26~70の水飴を還元してなる還元水飴が、冷凍野菜の歩留まりを向上できることを見出した。また、前記還元水飴が、冷凍野菜において、解凍後の軟化を抑制する等、食感を改善できることを見出した。さらに、前記還元水飴が、冷凍野菜において、食感や風味を改善できることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0007】
(1)本発明に係る冷凍野菜の改善剤の第1の態様は、下記の糖組成の還元水飴を有効成分とする;
単糖が2~50質量%、
二糖が6~55質量%、
三糖が8~35質量%、
四糖が1~8質量%、
五糖以上が1~68質量%。
【0008】
(2)本発明に係る冷凍野菜の改善剤の第2の態様は、デキストロース当量が26以上70以下の水飴を還元してなる還元水飴を有効成分とする。
【0009】
(3)本発明において、還元水飴の糖組成は、下記のものであってもよい;
単糖が2~10質量%、
二糖が43~55質量%、
三糖が15~35質量%、
四糖が1~5質量%、
五糖以上が1~38質量%。
【0010】
(4)本発明において、還元水飴は、デキストロース当量が37以上45以下の水飴を還元してなる還元水飴であってもよい。
【0011】
(5)本発明に係る冷凍野菜の改善剤は、食感および/または風味の改善のために用いられるものであってもよい。
【0012】
(6)本発明に係る冷凍野菜の改善剤は、歩留まり向上のために用いられるものであってもよい。
【0013】
(7)本発明に係る冷凍野菜の製造方法は、本発明に係る冷凍野菜の改善剤を含有する液体に野菜を浸漬する工程と、前記浸漬した野菜を冷凍する工程とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、冷凍野菜の解凍後(喫食時)の歩留まり低下、食感の劣化、あるいは、風味の低下等を抑制することができる。有効成分である所定の還元水飴は食品としても適格なほど安全性が高いものであるため、本発明によれば、安全性への懸念を全く生ずることなく、冷凍野菜を改善することができる。また、本発明によれば、冷凍前に、所定の還元水飴を含む液体に野菜を一定時間浸漬するという簡便な工程により、歩留まり、食感あるいは風味等が改善された冷凍野菜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】解凍した冷凍ハクサイ、冷凍ゴボウおよび冷凍モヤシの、素材に対する歩留まりを示す棒グラフである。
【
図2】解凍した冷凍ブロッコリーおよび冷凍キャベツの、素材に対する歩留まりを示す棒グラフである。
【
図3】解凍した冷凍ホウレンソウおよび冷凍チンゲンサイの、素材に対する歩留まりを示す棒グラフである。
【
図4】解凍した冷凍アスパラガスの素材に対する歩留まりを示す棒グラフである。
【
図5】解凍した冷凍ニンジンの破断荷重を示す棒グラフである。
【
図6】官能試験の評価項目(A~E)および評価基準を示す図である。
【
図7】解凍した冷凍キャベツの官能試験の採点結果を示す図である。
【
図8】解凍した冷凍ハクサイの官能試験の採点結果を示す図である。
【
図9】解凍した冷凍ゴボウの官能試験の採点結果を示す図である。
【
図10】解凍した冷凍アスパラガスの官能試験の採点結果を示す図である。
【
図11】冷凍キャベツ、冷凍ハクサイ、冷凍ゴボウおよび冷凍アスパラガスの、官能試験の評価点をまとめて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明において、「冷凍野菜」とは、冷凍した野菜、すなわち、低温下におくことにより凍らせた野菜をいう。
【0017】
本発明において「野菜」は、食用となる植物をいう。野菜は食用とする部位の違いから、根を食用部位とする根菜類(ダイコン、ニンジン、ゴボウなど)、地下あるいは地上の茎を食用部位とする茎菜類(タマネギ、アスパラガス、ウド、モヤシなど)、葉や葉柄を食用部位とする葉菜類(キャベツ、レタス、ホウレンソウ、ハクサイ、チンゲンサイなど)、花序や花弁を食用部位とする花菜類(ミョウガ、カリフラワー、ブロッコリー、食用菊など)、未熟果や熟果を食用部位とする果菜類(トマト、ナス、カボチャ、ピーマン、キュウリ、トウモロコシなど)に分けられる場合があるが、本発明は、これらのいずれにも適用可能である。
【0018】
「冷凍野菜を改善する」とは、冷凍野菜の解凍後ないし喫食時に見られる劣化の程度を小さくすることをいう。ここで、当該劣化としては、例えば、食感の軟化、風味の低下、水水しさの低下、水分流出などによる歩留まりの低下などを例示することができる。
【0019】
すなわち、本発明に係る冷凍野菜の改善剤(以下、「本剤」という場合がある。)は、冷凍野菜の食感や風味を改善するために用いることができる。ここで、食感や風味は野菜の種類によって異なり、多岐にわたるが、例えば、野菜の食感としては、シャキシャキとした食感(シャキシャキ感)や歯応え(ゴリゴリとした食感、ゴリゴリ感)、みずみずしさ、サクサクとした食感(サクサク感)、シャリシャリとした食感(シャリ感)、パリパリとした食感(パリパリ感)、ザクザクとした食感(ザクザク感)、ポリポリとした食感(ポリポリ感)、カリカリとした食感(カリカリ感)などを例示することができる。また、風味は、当該野菜の香りや味をいい、例えば、青臭さ、苦み、甘み、酸味、えぐ味、辛味、うま味、これらが複合した味や香りなどを例示することができる。
【0020】
冷凍野菜の食感や風味が改善されたか否かは、例えば、当該種類の冷凍していない野菜、あるいは、当該種類の本剤を用いずに製造した冷凍野菜と比較して、官能試験を行うことにより確認することができる。すなわち、同種の野菜について、本剤を用いて製造した冷凍野菜と、本剤を用いずに製造した冷凍野菜とを、それぞれ解凍して食感や風味を官能評価する。当該種類の野菜において望まれる食感や風味が、前者の方が高評価であれば、本剤により、冷凍野菜の食感や風味が改善したと判断することができる。
【0021】
また、本剤は、冷凍野菜の歩留まりを向上させるために用いることができる。ここで、歩留まりは、「冷凍前の野菜の重量」に対する、「解凍後の冷凍野菜の重量」の割合として評価することができる。例えば、本剤を用いて製造した冷凍野菜と、本剤を用いずに製造した冷凍野菜とで、それぞれ歩留まりを算出し、前者の方が歩留まりが大きければ、本剤により、冷凍野菜の歩留まりが向上したと判断することができる。
【0022】
本剤は、下記の還元水飴を有効成分とする:
第1の態様;単糖が2~50質量%、二糖が6~55質量%、三糖が8~35質量%、四糖が1~8質量%および五糖以上が1~68質量%の糖組成である還元水飴。
第2の態様;デキストロース当量が26以上70以下の水飴を還元してなる還元水飴。
【0023】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールの一種である。ここで、水飴は、デンプンを酸や酵素などで糖化して得られる物質であり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。よって、還元水飴もまた、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。
【0024】
本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0025】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、還元水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0026】
還元水飴の糖組成は、野菜の種類や所望の風味・食感に応じて適宜設定することができる。例えば、糖組成は、上記第1の態様で示すもののほか、下記の第3、第4または第5の態様としてもよい:
第3の態様;単糖が2~10質量%、二糖が43~55質量%、三糖が15~35質量%、四糖が1~5質量%および五糖以上が1~38質量%の糖組成である還元水飴。
第4の態様;単糖が2~50質量%、二糖が40~55質量%、三糖が8~35質量%、四糖が1~5質量%および五糖以上が1~38質量%の糖組成である還元水飴。
第5の態様;単糖が2~10質量%、二糖が6~55質量%、三糖が11~35質量%、四糖が1~8質量%および五糖以上が1~68質量%の糖組成である還元水飴。
【0027】
水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0028】
本発明において、還元水飴の原料となる水飴のDEは、野菜の種類や所望の風味・食感に応じて適宜設定することができる。例えば、還元水飴は、DEが26以上70以下の水飴の還元物(第2の態様)とすることができるほか、下記の第6、第7または第8の態様としてもよい:
第6の態様;DEが37以上45以下の水飴を還元してなる還元水飴。
第7の態様;DEが37以上70以下の水飴を還元してなる還元水飴。
第8の態様;DEが26以上45以下の水飴を還元してなる還元水飴。
【0029】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0030】
本発明において、還元水飴は、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。還元水飴の公知の製造方法としては、原料となる水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。
【0031】
水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の還元水飴を作ることができる。
【0032】
本剤は、水などの液体に添加して、当該液体に野菜を浸漬した後、当該野菜を冷凍することにより用いる。すなわち、本発明は、下記(a)および(b)の工程を有する冷凍野菜の製造方法も提供する;
(a)本剤を含有する液体に野菜を浸漬する工程、
(b)前記浸漬した野菜を冷凍する工程。
【0033】
本剤を含有する液体(以下、「浸漬液」という。)は、液体に本剤を添加して調製すればよい。液体は、食用可能なものであればよく、例えば、水や低濃度のエタノール水溶液などを例示することができる。浸漬液における還元水飴の濃度は、冷凍野菜の歩留まりをより向上させる観点からは1重量%以上が好ましく、歩留まりをより向上させるとともに食感をより改善させる観点からは、5重量%以上が好ましい。
【0034】
野菜を浸漬液に浸漬する時間および温度は、野菜の種類、大きさ、形、量、所望の食感・風味、浸漬液の量などに応じて適宜設定することができる。例えば、浸漬時間は10分~24時間、浸漬液を保管する温度は0~30℃などとすることができる。野菜は、浸漬液に浸漬した後、または、浸漬液に浸漬する前に、ブランチング(短時間の加熱、または短時間の加熱および冷却)を行ってもよい。
【0035】
野菜は、浸漬液から引き上げ、水分を切ってから冷凍してもよく、浸漬液等の液体に漬けたまま冷凍してもよい。冷凍温度は、野菜の種類、大きさ、形、量などに応じて適宜設定することができ、例えば、-18℃以下などとすることができる。
【0036】
製造した冷凍野菜は、従来の冷凍野菜と同様に用いることができる。すなわち、自然解凍、流水解凍または加熱解凍して食用あるいは調理に供することができるほか、解凍せず直接加熱調理に用いるなどしてもよい。
【0037】
本方法は、本発明の特徴を損なわない限り他の工程を含むものであってもよい。係る工程としては、例えば、野菜のカッティング工程、調味工程、ブランチング工程、冷却工程、加熱工程、液切り工程などを例示することができる。
【0038】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。本実施例では、特段の記載のない限り、百分率(%)は質量%を示す。
【実施例】
【0039】
<試験方法>
(1)還元水飴
還元水飴は、表1に示す市販品(固形分濃度70°Bxの液体)を用いた。
【表1】
【0040】
(2)浸漬液
浸漬液は、水、上白糖溶液または還元水飴溶液を用いた。上白糖溶液は、水:上白糖=80:20(重量比)で混合し、水に上白糖を溶解して調製した。還元水飴溶液は、水:還元水飴=80:20(重量比)で混合し、水に還元水飴を溶解して調製した。
【0041】
(3)冷凍野菜の製造手順
本実施例においては、特段の記載の無い限り、下記ア)~キ)の手順で冷凍野菜を製造して評価した。なお、野菜は通常食用とする部分を用いた。
ア)表2に示す形・大きさの小片になるように、野菜をカットした。カットした野菜の総重量を測定して、これを素材重量とした。
イ)表2に示す液量の浸漬液に、カットした野菜を浸漬し、約4℃で1時間、冷蔵保管した。
ウ)浸漬液から野菜を引き上げて液切りした後、湯に入れて98℃で5分間(ゴボウは10分間)茹でた。
エ)茹でた野菜を流水にさらして粗熱をとった。
オ)野菜をザルにあげて液切りした。
カ)-20℃で2週間以上、冷凍保管した。
キ)冷凍野菜を自然解凍した後、評価に供した。
【表2】
【0042】
<実施例1>歩留まりの評価
(1)ハクサイ、ゴボウ、モヤシ
ハクサイ、ゴボウおよびモヤシについて、試験方法(3)に記載の手順により冷凍野菜を製造した。浸漬液は、水または還元水飴溶液(高糖化還元水飴、中糖化還元水飴(スイートOL)、低糖化還元水飴)を用いた。製造した冷凍野菜を自然解凍した後、重量を測定して、これを解凍後重量とした。下記式1により、冷凍野菜の素材に対する歩留まりを算出した。その結果を
図1に示す。
式1:歩留まり(%)=(解凍後重量(g)/素材重量(g))×100
【0043】
図1に示すように、ハクサイ、ゴボウおよびモヤシのいずれについても、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍野菜は、水に浸漬して製造したものと比較して、歩留まりが大きかった。この結果から、還元水飴は、冷凍野菜の歩留まりを向上させる効果を有することが明らかになった。
【0044】
(2)ブロッコリー、キャベツ
ブロッコリーおよびキャベツについて、試験方法(3)に記載の手順により冷凍野菜を製造した。浸漬液は、上白糖溶液または還元水飴溶液(高糖化還元水飴、中糖化還元水飴(スイートOL))を用いた。製造した冷凍野菜を自然解凍した後、本実施例1(1)に記載の方法により歩留まりを求めた。その結果を
図2に示す。
【0045】
図2に示すように、ブロッコリーおよびキャベツのいずれについても、高糖化還元水飴および中糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍野菜は、水に浸漬して製造したものと比較して、歩留まりが大きかった。この結果から、還元水飴は、冷凍野菜の歩留まりを向上させる効果を有することが明らかになった。
【0046】
(3)ホウレンソウ、チンゲンサイ
ホウレンソウおよびチンゲンサイについて、試験方法(3)に記載の手順により冷凍野菜を製造した。浸漬液は、水、上白糖溶液または還元水飴溶液(中糖化還元水飴(スイートOL))を用いた。製造した冷凍野菜を自然解凍した後、本実施例1(1)に記載の方法により歩留まりを求めた。その結果を
図3に示す。
【0047】
図3に示すように、ホウレンソウおよびチンゲンサイのいずれについても、中糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍野菜は、水に浸漬して製造したものおよび上白糖溶液に浸漬して製造したものと比較して、歩留まりが最も大きかった。この結果から、還元水飴は、冷凍野菜の歩留まりを向上させる効果を有することが明らかになった。
【0048】
(4)アスパラガス
アスパラガスについて、試験方法(3)に記載の手順により冷凍野菜を製造した。浸漬液は、水、上白糖溶液または還元水飴溶液(低糖化還元水飴)を用いた。製造した冷凍野菜を自然解凍した後、本実施例1(1)に記載の方法により歩留まりを求めた。その結果を
図4に示す。
【0049】
図4に示すように、低糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍アスパラガスは、水に浸漬して製造したものおよび上白糖溶液に浸漬して製造したものと比較して、歩留まりが最も大きかった。この結果から、還元水飴は、冷凍野菜の歩留まりを向上させる効果を有することが明らかになった。
【0050】
<実施例2>破断強度の評価
ニンジンについて、試験方法(3)に記載の手順により冷凍野菜を製造した。ただし、工程ア)のカットした野菜として、市販のカット済み冷凍ニンジン(約3cm長さの乱切り)を自然解凍したものを用いた。浸漬液は、水または還元水飴溶液(中糖化還元水飴(エスイー57)、低糖化還元水飴)を用いた。イ)の浸漬工程は、冷蔵保管に代えて常温保管で行った。エ)の冷却工程は、流水にさらすことに代えて、水を張ったボールに5分間浸漬することにより冷却した。製造した冷凍野菜を、電子レンジにより600ワットで2分/小片10個あたり加熱して解凍した後、常温で10分放冷した。これを1cm角にカットしたものをサンプルとして、クリープメータ(山電)の直径3mm棒型のプランジャーを用いて、圧縮速度0.5mm/秒で100体積%圧縮変形するまで圧縮し、破断荷重(N)を測定した。その結果を
図5に示す。
【0051】
図5に示すように、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍ニンジンは、水に浸漬して製造したものと比較して、破断荷重が大きかった。すなわち、還元水飴を用いて製造した冷凍ニンジンの方が、硬いことが明らかになった。この結果から、還元水飴は、解凍した冷凍野菜における食感の軟化を抑制できることが明らかになった。
【0052】
<実施例3>食感、味ないし風味の官能評価
キャベツ、ハクサイ、ゴボウおよびアスパラガスについて、試験方法(3)に記載の手順により冷凍野菜を製造した。浸漬液は、水、上白糖溶液または還元水飴溶液(高糖化還元水飴、中糖化還元水飴(スイートOL)、低糖化還元水飴)を用いた。製造した冷凍野菜を自然解凍した後、5名(甲~戊)または7名(甲~庚)の分析型パネルにより官能試験を行った。官能試験の評価項目(A~E)および評価基準を
図6に示す。評価にあたっては、水に浸漬して製造した冷凍野菜を基準試料とした。
【0053】
図6の評価基準に従い、基準試料の食感、味ないし風味を3点として、各試料を、1~5点の5段階で各パネルが採点した。採点結果について、浸漬液の種類ごとに全パネルによる評点の平均値を求め、小数点第2位を四捨五入して評価点とした。また、各野菜において、A~Eのうち重視する評価項目を複数選択可としてアンケートを取った。当該アンケート結果において1位および2位であった項目を、「求められる食感等」とした。キャベツの採点結果を
図7に、ハクサイの採点結果を
図8に、ゴボウの採点結果を
図9に、アスパラガスの採点結果を
図10に、それぞれ示す。また、これら野菜の評価点をまとめて
図11に示す。
【0054】
図7および
図11に示すように、キャベツで求められる食感等は、「A.シャキシャキ感」および「C.水水しさ」であった。そして、A、Cのいずれについても、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍キャベツは評価点が3点以上であり、「E.総合評価」については3点よりも顕著に大きかった。特に、高糖化還元水飴および中糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍キャベツは、A、C、Eのいずれについても、水や上白糖溶液に浸漬して製造したものと比較して評価点が顕著に大きかった。すなわち、還元水飴溶液に浸漬して製造した冷凍キャベツは、食感、味ないし風味が優れることが明らかになった。なお、上白糖溶液に浸漬して製造した冷凍キャベツは、甘さが気になるとの評価であった。
【0055】
また、
図8および
図11に示すように、ハクサイで求められる食感等は、「A.シャキシャキ感」、「C.水水しさ」および「D.野菜の風味」であった。そして、A、C、Dおよび「E.総合評価」のいずれについても、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍ハクサイは、評価点が3点より大きかった。特に、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍ハクサイは、A、C、D、Eのいずれについても、水や上白糖溶液に浸漬して製造した冷凍ハクサイと比較して、評価点が顕著に大きかった。すなわち、還元水飴溶液に浸漬して製造した冷凍ハクサイは、食感、味ないし風味が優れることが明らかになった。
【0056】
また、
図9および
図11に示すように、ゴボウで求められる食感等は、「B.歯応え」および「D.野菜の風味」であった。そして、B、Dおよび「E.総合評価」のいずれについても、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍ゴボウは、評価点が3点より大きかった。特に、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍ゴボウは、B、D、Eのいずれについても、水や上白糖溶液に浸漬して製造した冷凍ゴボウと比較して、評価点が顕著に大きかった。すなわち、還元水飴溶液に浸漬して製造した冷凍ゴボウは、食感、味ないし風味が優れることが明らかになった。
【0057】
また、
図10および
図11に示すように、アスパラガスで求められる食感等は、「B.歯応え」および「D.野菜の風味」であった。Bについては、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍アスパラガスの評価点が、3点より大きかった。Dおよび「E.総合評価」については、高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍アスパラガスの評価点が、3点より大きかった。特に、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴の溶液に浸漬して製造した冷凍アスパラガスは、B、D、Eのいずれについても、水や上白糖溶液に浸漬して製造した冷凍アスパラガスと比較して、評価点が顕著に大きかった。すなわち、還元水飴を用いて製造した冷凍アスパラガスは、食感、味ないし風味が優れることが明らかになった。
【0058】
以上のキャベツ、ハクサイ、ゴボウおよびアスパラガスに係る官能評価の結果から、還元水飴は、冷凍野菜の食感、味ないし風味を改善する効果を有することが明らかになった。
【0059】
<実施例4>浸漬液における還元水飴濃度の検討
キャベツについて、試験方法(3)に記載の手順により冷凍野菜を製造した。ただし、浸漬液は、水または還元水飴溶液を用いた。本実施例4における還元水飴溶液は、水:中糖化還元水飴(スイートOL)=99:1、95:5、90:10、85:15、80:20(重量比)で混合・溶解したものを用いた。また、浸漬液の量は3倍量(対素材重量)とした。
【0060】
製造した冷凍キャベツについて、実施例1(1)に記載の方法により歩留まりを算出した。また、製造した冷凍キャベツの「シャキシャキした食感(シャキシャキ感)」について、表3に示す評価基準に従い3名の分析型パネルにより官能試験を行った。それらの結果を表4に示す。
【表3】
【表4】
【0061】
表4に示すように、浸漬液の配合が、水:中糖化還元水飴=99:1、95:5、90:10、85:15および80:20(重量比)の全てにおいて、浸漬液が水(水:中糖化還元水飴=100:0)の場合よりも、歩留まりが大きかった。すなわち、浸漬液に還元水飴(固形分濃度70°Bxの液体)を1重量%以上含有させることにより、歩留まり向上効果が得られることが明らかになった。
【0062】
また、浸漬液の配合が、水:中糖化還元水飴=95:5、90:10、85:15および80:20(重量比)において、浸漬液が水(水:中糖化還元水飴=100:0)の場合よりも、シャキシャキ感が改善した。すなわち、浸漬液に還元水飴(固形分濃度70°Bxの液体)を5重量%以上含有させることにより、食感改善効果が得られることが明らかになった。