(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】電池ケースの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/103 20210101AFI20240816BHJP
【FI】
H01M50/103
(21)【出願番号】P 2020058721
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】福永 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 和寛
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-051575(JP,A)
【文献】特許第6160185(JP,B2)
【文献】特開2019-166527(JP,A)
【文献】特開2003-208876(JP,A)
【文献】特開2014-233755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10
B21D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状をなすケース本体部の開口部に封口板を一体に取り付けて構成される電池ケースの製造方
法であって、
予め用意したブランクに絞り加工およびしごき加工を施して横断面形状が楕円形状若しくは長円形状をなす底部のある中間品を成形し、
前記中間品に更に絞り加工もしくはしごき加工を複数回施して、横断面形状が矩形状となるように四つのコーナー部の曲率半径を次第に小さくするとともに、前記コーナー部を形成する側壁部の肉厚を減じて前記ケース本体部とされる最終品に成形し、
前記中間品から前記最終品を成形する過程で、互いに隣り合う前記側壁部同士で挟まれた前記コーナー部の曲率半径が所定値未満となった後に、前記隣り合う側壁部のうちの一方の側壁部のしごき率と、前記隣り合う側壁部のうちの他方の側壁部のしごき率との差が所定差以下となるようにしごき加工を
行い、
前記コーナー部の曲率半径が前記所定値以上になっている状態で、
前記コーナー部を挟んだ前記一方の側壁部と前記他方の側壁部とのそれぞれを、それぞれの側壁部に応じて予め設定してある目標板厚もしくはしごき率となるようにしごき加工を行い、
前記所定差は、1%以下である
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の電池ケースの製造方
法であって、
前記コーナー部の曲率半径が前記所定値以上になっている状態で、
前記コーナー部を挟んだ前記一方の側壁部と前記他方の側壁部とのそれぞれを、前記一方の側壁部の高さと前記他方の側壁部の高さとの差が所定高さ差以下となるようにしごき加工を行う
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【請求項3】
有底筒状をなすケース本体部の開口部に封口板を一体に取り付けて構成される電池ケースの製造方法であって、
予め用意したブランクに絞り加工およびしごき加工を施して横断面形状が楕円形状若しくは長円形状をなす底部のある中間品を成形し、
前記中間品に更に絞り加工もしくはしごき加工を複数回施して、横断面形状が矩形状となるように四つのコーナー部の曲率半径を次第に小さくするとともに、前記コーナー部を形成する側壁部の肉厚を減じて前記ケース本体部とされる最終品に成形し、
前記中間品から前記最終品を成形する過程で、互いに隣り合う前記側壁部同士で挟まれた前記コーナー部の曲率半径が所定値未満となった後に、前記隣り合う側壁部のうちの一方の側壁部のしごき率と、前記隣り合う側壁部のうちの他方の側壁部のしごき率との差が所定差以下となるようにしごき加工を行い、
前記コーナー部の曲率半径が前記所定値以上になっている状態で、
前記コーナー部を挟んだ前記一方の側壁部と前記他方の側壁部とのそれぞれを、前記一方の側壁部の高さと前記他方の側壁部の高さとの差が所定高さ差以下となるようにしごき加工を
行い、
前記所定差は、1%以下である
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【請求項4】
請求
項2または3に記載の電池ケースの製造方
法であって、
前記所定高さ差は、前記コーナー部の曲率半径が前記所定値未満となった後のしごき加工による前記一方の側壁部と前記他方の側壁部との延伸量または延伸率が同等となるように定められている
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【請求項5】
請求項1ない
し4のいずれか一項に記載の電池ケースの製造方
法であって、
前記所定値は
、3mm以下である
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【請求項6】
有底筒状をなすケース本体部の開口部に封口板を一体に取り付けて構成される電池ケースの製造方法であって、
予め用意したブランクに絞り加工およびしごき加工を施して横断面形状が楕円形状若しくは長円形状をなす底部のある中間品を成形し、
前記中間品に更に絞り加工もしくはしごき加工を複数回施して、横断面形状が矩形状となるように四つのコーナー部の曲率半径を次第に小さくするとともに、前記コーナー部を形成する側壁部の肉厚を減じて前記ケース本体部とされる最終品に成形し、
前記中間品から前記最終品を成形する過程で、互いに隣り合う前記側壁部同士で挟まれた前記コーナー部の曲率半径が3mm未満となった後に、前記隣り合う側壁部のうちの一方の側壁部のしごき率と、前記隣り合う側壁部のうちの他方の側壁部のしごき率との差が1%以下となるようにしごき加工を行う
ことを特徴とする電池ケースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極板、負極板、セパレータ、および電解質などの電池の構成部材を収容する電池ケースの製造方法に関し、特に、横断面形状が矩形状のケース本体部と、その開口部を閉じる封口板とにより構成された電池ケースの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池などの単電池を複数積層してスタックとし、これを複数接続してモジュール化した大容量の二次電池(組電池)が知られている。このような組電池は、例えば、電気自動車の蓄電装置として採用されており、その搭載性を向上させるために、それぞれの単電池を方形状や矩形状に形成して積層することによりスタックや組電池としている。
【0003】
このような単電池を収容するケースは、一般的に、有底筒状のケース本体部の開口部にレーザー溶接などによって封口板を取り付けることにより成形される。そのケース本体部は、楕円形状の板部材(ブランク)を絞り加工やしごき加工することにより横断面形状が楕円形状になる有底筒状の中間品を成形し、その中間品を更に絞り加工やしごき加工して横断面形状を矩形状にするとともに、側壁の板厚を所望の板厚に減少させることにより成形されている。
【0004】
特許文献1には、絞り加工としごき加工とを一度のパンチの昇降動作によって行う絞りしごき加工(DI加工)により、横断面形状が楕円形状の中間品から、横断面形状が矩形状の最終品を成形する製造方法が記載されている。この特許文献1には、ケース本体部の側壁にしわや破断が生じることなく、上記の絞りしごき加工によって中間品から最終品を成形できる条件は、最終品の短辺側の板厚を長辺側の板厚よりも厚くすることと記載されている。
【0005】
また、横断面形状が楕円形状の中間品を、横断面形状が矩形状の最終品に絞り加工する場合には、しわが生じることを抑制するために、パンチと中間品との隙間を小さくすることが好ましい。そのため、特許文献2に記載された製造方法は、最終品の形状に応じた外形のパンチに、そのパンチにスリーブを嵌め合わせることにより、中間品を絞り加工し始める時点でのパンチと中間品との隙間をスリーブによって埋めている。そのようにスリーブをパンチに嵌め合わせることにより、中間品を絞り加工し始める時点で、パンチによって支えることができない部分での座屈や、それによるしわの発生を防止している。
【0006】
さらに、特許文献3には、外形が楕円形状に形成されたブランクを絞り加工して、横断面形状が矩形状の有底筒状の第1中間品を成形し、その第1中間品における側壁面と底面との間のコーナーを略垂直なコーナーに絞り加工するとともに、第1中間品の側壁面をしごき加工して第2中間品を成形し、その後に、第2中間品の側壁面をしごき加工することにより最終品を成形する製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4119612号
【文献】特許第5975573号
【文献】特開2019-166527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ケース本体部の内側に封口板を位置決めするための段差部は、一般的に、横断面形状が矩形状の最終品を成形した後に、その内面の開口端付近を内面側から押圧して板厚を減少させることにより成形する。そのため、段差部を成形する側壁は、段差部を形成するために減少される板厚分、厚く形成することが好ましい。したがって、短辺側の側壁に段差部を成形する場合には、特許文献1に記載された製造方法によりケース本体部を成形することで、段差部を形成するための板厚を確保することができる。一方、段差部は、短辺側の側壁に形成するものに限らず、長辺側の側壁に形成する場合がある。そのような場合には、特許文献1に記載された製造方法では、段差部を成形する分、長辺側の側壁の板厚を厚くすると、それに応じて短辺側の側壁の板厚も厚くすることになるため、ケース本体部の内容量が減少し、またはその内容量を確保するためにはケース本体部が大きくなる可能性がある。すなわち、ケース本体部の側壁の板厚を適宜設定することができる製造方法を開発する余地があった。
【0009】
また、特許文献2に記載された製造方法によれば、パンチの外壁面と中間品の内壁面との間にスリーブを挿入することにより、絞り加工の初期にパンチで支えることができない部分で座屈が生じることを防止している。一方、特許文献2に記載された製造方法は、絞り加工の初期にパンチと中間品との間にスリーブを埋め込んでいるものの、ダイス面に中間品の外壁面を押し当てる荷重を作用させていない。そのため、絞り量を増大させることはできず、横断面形状が楕円状の中間品から横断面形状が矩形状の最終品を成形するためには、一連の絞り加工が多段階に必要になる可能性がある。また、絞り加工の初期の段階でパンチにスリーブを嵌め合わせることができるものの、後工程では中間品の曲率半径が小さいコーナー部に対応したスリーブを用意するとすれば、そのスリーブの肉厚が薄くなるため、パンチと中間品との間にスリーブを埋め込むことが困難になる可能性がある。したがって、スリーブを使用することなく、絞り加工およびしごき加工を行うことができる製造方法を開発する余地があった。
【0010】
さらに、特許文献3に記載された製造方法では、横断面形状が矩形状の第2中間品を成形した後に、その側壁をしごき加工する。一方、二つの側壁に挟まれたコーナー部の曲率半径が小さい場合には、二つの側壁のしごき率が異なると、一方の側壁のしごき加工に伴う材料の塑性流動が他方の側壁に影響するなどによって、いずれかの側壁にしわが生じる可能性がある。すなわち、特許文献3に記載された製造方法は、短辺側の側壁と長辺側の側壁との板厚を異ならせて成形することができない可能性がある。
【0011】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、側壁の板厚などの成形条件の制約を受けることなく、横断面形状が矩形状のケース本体部を成形することができる電池ケースの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の目的を達成するために、有底筒状をなすケース本体部の開口部に封口板を一体に取り付けて構成される電池ケースの製造方法であって、予め用意したブランクに絞り加工およびしごき加工を施して横断面形状が楕円形状若しくは長円形状をなす底部のある中間品を成形し、前記中間品に更に絞り加工もしくはしごき加工を複数回施して、横断面形状が矩形状となるように四つのコーナー部の曲率半径を次第に小さくするとともに、前記コーナー部を形成する側壁部の肉厚を減じて前記ケース本体部とされる最終品に成形し、前記中間品から前記最終品を成形する過程で、互いに隣り合う前記側壁部同士で挟まれた前記コーナー部の曲率半径が所定値未満となった後に、前記隣り合う側壁部のうちの一方の側壁部のしごき率と、前記隣り合う側壁部のうちの他方の側壁部のしごき率との差が所定差以下となるようにしごき加工を行い、前記コーナー部の曲率半径が前記所定値以上になっている状態で、前記コーナー部を挟んだ前記一方の側壁部と前記他方の側壁部とのそれぞれを、それぞれの側壁部に応じて予め設定してある目標板厚もしくはしごき率となるようにしごき加工を行い、前記所定差は、1%以下であることを特徴とする電池ケースの製造方法である。
【0014】
本発明において、前記コーナー部の曲率半径が前記所定値以上になっている状態で、前記コーナー部を挟んだ前記一方の側壁部と前記他方の側壁部とのそれぞれを、前記一方の側壁部の高さと前記他方の側壁部の高さとの差が所定高さ差以下となるようにしごき加工を行ってよい。
また、本発明は、有底筒状をなすケース本体部の開口部に封口板を一体に取り付けて構成される電池ケースの製造方法であって、予め用意したブランクに絞り加工およびしごき加工を施して横断面形状が楕円形状若しくは長円形状をなす底部のある中間品を成形し、前記中間品に更に絞り加工もしくはしごき加工を複数回施して、横断面形状が矩形状となるように四つのコーナー部の曲率半径を次第に小さくするとともに、前記コーナー部を形成する側壁部の肉厚を減じて前記ケース本体部とされる最終品に成形し、前記中間品から前記最終品を成形する過程で、互いに隣り合う前記側壁部同士で挟まれた前記コーナー部の曲率半径が所定値未満となった後に、前記隣り合う側壁部のうちの一方の側壁部のしごき率と、前記隣り合う側壁部のうちの他方の側壁部のしごき率との差が所定差以下となるようにしごき加工を行い、前記コーナー部の曲率半径が前記所定値以上になっている状態で、前記コーナー部を挟んだ前記一方の側壁部と前記他方の側壁部とのそれぞれを、前記一方の側壁部の高さと前記他方の側壁部の高さとの差が所定高さ差以下となるようにしごき加工を行い、前記所定差は、1%以下であることを特徴とする電池ケースの製造方法である。
【0015】
本発明において、前記所定高さ差は、前記コーナー部の曲率半径が前記所定値未満となった後のしごき加工による前記一方の側壁部と前記他方の側壁部との延伸量または延伸率が同等となるように定められていてよい。
【0017】
本発明において、前記所定値は、3mm以下であってよい。
また、本発明は、有底筒状をなすケース本体部の開口部に封口板を一体に取り付けて構成される電池ケースの製造方法であって、予め用意したブランクに絞り加工およびしごき加工を施して横断面形状が楕円形状若しくは長円形状をなす底部のある中間品を成形し、前記中間品に更に絞り加工もしくはしごき加工を複数回施して、横断面形状が矩形状となるように四つのコーナー部の曲率半径を次第に小さくするとともに、前記コーナー部を形成する側壁部の肉厚を減じて前記ケース本体部とされる最終品に成形し、前記中間品から前記最終品を成形する過程で、互いに隣り合う前記側壁部同士で挟まれた前記コーナー部の曲率半径が3mm未満となった後に、前記隣り合う側壁部のうちの一方の側壁部のしごき率と、前記隣り合う側壁部のうちの他方の側壁部のしごき率との差が1%以下となるようにしごき加工を行うことを特徴とする電池ケースの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、絞り加工としごき加工とを繰り返し行うことにより、横断面形状が楕円形状もしくは長円形状の中間品から、横断面形状が矩形状の最終品を成形する。その中間品に複数回の絞り加工もしくはしごき加工を施して、四つのコーナー部の曲率半径を次第に小さくするとともに、そのコーナー部を形成する側壁部の肉厚を減じて最終品を成形する。上記のように中間品から最終品を成形する過程で、互いに隣り合う側壁部に挟まれたコーナー部の曲率半径が所定値未満となった後に、そのコーナー部を挟んだ一方の側壁部のしごき率と、他方の側壁部のしごき率との差が所定差以下となるようにしごき加工を行う。そのため、コーナー部の曲率半径が小さくなって板厚の変遷部としての機能が低下した場合に、一方の側壁部のしごき加工による材料の塑性流動が、他方の側壁部に作用することによるしわや破断の発生を抑制することができる。
【0019】
また、本発明によれば、コーナー部の曲率半径が所定値以上になっている状態、すなわち、板厚の変遷部としての機能が高い状態で、コーナー部を挟んだ両側の側壁部のそれぞれを、それぞれの側壁部に応じて予め設定してある目標板厚もしくはしごき率となるようにしごき加工を行う。つまり、コーナー部の曲率半径が所定値以上の状態で、各側壁部の板厚やしごき率、あるいは側壁部同士の板厚の差などを事前に調整することができる。したがって、コーナー部の曲率半径が小さくなった後に、各側壁部のしごき率に差を設けることなくしごき加工を行うとしても、一方の側壁部の板厚と他方の側壁部の板厚とが異なる最終品を成形するなど、最終品に要求されるそれぞれの側壁部の板厚や、その高さなどを充足することができる。
【0020】
さらに、コーナー部の曲率半径が所定値以上の状態で、各側壁部の高さの差が所定高さ差以下となるようにしごき加工を行うことにより、コーナー部の曲率半径が所定値未満となった後に各側壁部をしごき加工する場合に、中間品の高さ方向への材料の塑性流動のしやすさが異なることを抑制できる。その結果、一方の側壁部と他方の側壁部との中間品の周方向に対する材料の塑性流動の仕方が、高さ方向への材料の塑性流動の仕方に影響されて変化することを抑制でき、しごき加工することによるしわの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明で対象とすることができる電池ケースの一例を説明するための斜視図である。
【
図2】コイル材から中間品を成形するプレス機の構成の一例を説明するための模式図である。
【
図3】中間品の外形の変化の仕方の一例を説明するための上面図である。
【
図4】中間品の外形の変化の仕方の一例を説明するための斜視図である。
【
図5】トランスファプレス機における各工程での機構の一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明における電池ケースの一例を説明するための斜視図を
図1に示してある。
図1に示す電池ケース1は、正極板、負極板、セパレータ、および電解質などの電池の構成部材を収容するためのものであって、横断面形状が矩形状の有底筒状に形成されたケース本体部2と、ケース本体部2の開口部3を液密状に封止する長方形の板状の封口板4とにより構成されている。これらのケース本体部2と封口板4とは、ケース本体部2の内側に封口板4を位置決めして、レーザー溶接によって一体化される。そのため、
図1に示す例では、ケース本体部2の短辺側の側壁の内面に、封口板4を載置するための段差部5が形成されている。この段差部5は、矩形状のケース本体部2を成形した後に、短辺側の側壁のうちの開口部3側の部分を内側から押圧するなどして、その部分の板厚を底面側の板厚よりも薄くすることにより形成される。なお、ケース本体部2および封口板4は、例えば、JIS H 4140により規定されている合金番号が1050番系や3000番系のアルミニウム合金によって構成されている。
【0023】
上記のケース本体部2は、コイル材から楕円形状もしくは長円形状のブランクを切り出し、そのブランクを絞り加工やしごき加工を行って横断面形状が略楕円形状もしくは略長円形状の中間品を成形し、その中間品を複数回の絞り加工やしごき加工を行うことにより、横断面形状を所期の矩形状に次第に変形させ、かつ側壁に対応する部分(以下、側壁部と記す)の板厚を所期の板厚に次第に減少させることにより成形される。上記のように絞り加工およびしごき加工を行った後に、所期の高さとなるように上端部をトリミングする。なお、以下では、コイル材から楕円形状のブランクを切り出し、そのブランクを絞り加工およびしごき加工を行って横断面形状が略楕円形状の中間品を成形するものとして説明する。
【0024】
コイル材から楕円形状のブランクを切り出すとともに、そのブランクを絞り加工して横断面形状が略楕円形状の中間品を成形するためのプレス機6の一例を説明するための模式図を
図2に示している。
図2に示すプレス機6は、コイル材からブランク7を切り出すためのダイカッター8とパンチカッター9とを備えている。このダイカッター8の内形は、略楕円形状に形成されている。すなわち、成形するブランク7の外形と略同一に形成されている。そのダイカッター8の下方側には、ダイカッター8が下降することにより、ダイカッター8との間でコイル材に剪断力を作用させてコイル材を切断するためのパンチカッター9が設けられている。すなわち、パンチカッター9の外形は、ダイカッター8の内形と略同一に形成されている。
【0025】
また、パンチカッター9には、後述するパンチ10が貫通する貫通孔11が形成されている。さらに、ダイカッター8の内周側には、パンチカッター9の上面との間でブランク7を挟持して、後述する絞り加工時にしわが生じることを抑制するための板状の挟持部材12が設けられている。この挟持部材12は、プレス方向においてダイカッター8と相対的に移動することができるように設けられていて、その下面は、プレス加工を行う以前の上死点では、ダイカッター8の下面よりも下方側となるように設けられている。また、挟持部材12の内側には、パンチ10が貫通する貫通孔13が形成されている。すなわち、パンチカッター9の上面と挟持部材12の下面とが対向するように構成されている。そして、ダイカッター8と挟持部材12とを下降させて、挟持部材12とパンチカッター9との間でコイル材を挟持し、その後、ダイカッター8を更に下降させることによりコイル材を剪断するように構成されている。なお、上記のようにコイル材を剪断した後も、パンチカッター9の上面と挟持部材12の下面との間で、切り出されたブランク7を挟み込んで保持することができるように構成されている。
【0026】
さらに、ダイカッター8およびパンチカッター9の内側を貫通するように、ダイカッター8の上方側から下降するパンチ10が設けられている。このパンチ10は、切り出されたブランク7を絞り加工するためのものであって、その外形は、中間品14を成形するために略楕円形状に形成されている。またさらに、パンチカッター9は、ブランク7を絞り加工する際におけるダイスとして機能するものであり、したがって、パンチカッター9の貫通孔11は、成形するための中間品14の形状に応じた形状に形成されている。
【0027】
そして、絞り加工することによりパンチ10に圧着した中間品14をパンチ10から取り外すためのストリッパーフィンガー15が、パンチカッター9の下方側に設けられている。このストリッパーフィンガー15は、パンチ10側に接近および離隔することができるように水平に移動可能に構成されている。
図2に示す例では、ストリッパーフィンガー15をパンチ10側に押圧する圧縮バネ16が、ストリッパーフィンガー15を挟んでパンチ10とは反対側に設けられている。また、ストリッパーフィンガー15におけるパンチ10側の下端のエッジが鋭角に形成されている。したがって、パンチ10が下降した場合には、圧縮バネ16が圧縮されるようにストリッパーフィンガー15に荷重が作用することにより、ストリッパーフィンガー15は、パンチ10および絞り加工されているブランク7から後退し、ブランク7がストリッパーフィンガー15を通過した後に、パンチ10の外壁面にストリッパーフィンガー15の先端が接触するように構成されている。
【0028】
上述したプレス機6は、コイル材からブランク7を切り出す剪断加工と、その切り出されたブランク7の形状を変形させる絞り加工とを一連のプレス動作によって行うダブルアクションのプレス機である。具体的には、まず、コイル材をダイカッター8とパンチカッター9との間に送り込み、その状態でダイカッター8および挟持部材12により構成されたダイカッターアッセンブリを下降させて、パンチカッター9と挟持部材12との間でコイル材を挟持する。コイル材を上記のように挟持した状態で、ダイカッター8を更に下降させてダイカッター8とパンチカッター9とによりコイル材を剪断してブランク7を切り出す。さらに、パンチカッター9と挟持部材12との間で切り出されたブランク7を挟持した状態で、パンチ10を下降させる。なお、この際の挟持力は、ブランク7を絞り加工することによるしわの発生を抑制することができる荷重に設定される。
【0029】
そして、上記のようにパンチ10を下降させることにより、ブランク7を絞り加工して横断面形状が楕円形状の中間品14を成形する。ついで、パンチ10を所定の高さまで下降させた後に、パンチ10を待機位置(初期位置)まで上昇させる。このようにパンチ10を待機位置に上昇させる過程で、パンチ10の外壁面に圧着した中間品14の上端が、ストリッパーフィンガー15に接触することにより、パンチ10から中間品14が取り外される。すなわち、絞り加工された中間品14の上端が、ストリッパーフィンガー15を通過するまで、一旦、パンチ10を下降させる。そして、パンチ10から取り外された中間品14は、下方に設けられたコンベア17によって次工程に搬送される。
【0030】
上述したように成形された中間品14の上面図を
図3(a)に示し、斜視図を
図4(a)に示してある。このように成形された中間品14は、続いて、複数工程を同時に行うことができるトランスファプレス機によって、
図3(b)から(g)、および
図4(b)から(g)の順に示すように絞り加工により外形形状を次第に変形させるとともに、しごき加工により板厚を次第に減少させ、または側壁部を上方に引き延ばす。なお、
図3(g)および
図4(g)は、最終品の形状を示している。
【0031】
具体的には、第1工程で、
図3(b)および
図4(b)に示すように最終品における長辺となる側壁に対応する部分(以下、長辺部と記す)に、ストレート部18を成形する。続く第2工程および第3工程では、
図3(c)、
図3(d)、
図4(c)、および
図4(d)に示すように、ストレート部18を長く成形するとともに、ストレート部18同士の間隔を狭める。そして、第4工程では、
図3(e)および
図4(e)に示すように、最終品における短辺となる側壁に対応する部分(以下、短辺部と記す)に、ストレート部19を成形し、第5工程および第6工程では、
図3(f)、
図3(g)、
図4(f)、および
図4(g)に示すように、互いに隣り合うストレート部18,19に挟まれた四つのコーナー部20の曲率半径を次第に小さくする。なお、第1工程や第2工程などの比較的初期の工程では、絞り加工のみを行い、しごき加工を行わなくてもよい。
【0032】
そのトランスファプレス機における各工程での機構は、ほぼ同一であり、その機構(以下、便宜上、プレス機構と記す)の一例を説明するための模式図を
図5に示してある。なお、以下の説明では、当該プレス機構によって成形される以前の中間品14を、中間品14aと記し、当該プレス機構によって成形された中間品14を、中間品14bと記す。
図5に示すプレス機構21は、
図2に示すプレス機6によって成形された中間品14aまたは前工程で成形された中間品14aが搬送されて載置されるリフター22と、リフター22に載置された中間品14aを押圧するパンチ23と、中間品14aの外形を変形させるとともに、パンチ23との間で中間品14aを絞り加工し、またはしごき加工し、あるいは絞り加工およびしごき加工を同時に行う絞りしごき加工を行うためのダイス24とにより構成されている。
【0033】
リフター22は、パンチ23によって中間品14aが押圧されると、その押圧力に応じて下方側に移動するように構成されている。また、ダイス24の内形は、その工程で成形するべき中間品14bの外形とほぼ同じ形状に形成されている。さらに、パンチ23の外形は、その工程で成形するべき中間品14bの板厚に対応したダイス24とパンチ23とのクリアランスが空く形状に形成されている。
【0034】
したがって、
図5(b)に示すようにパンチ23を下降させると、中間品14aが絞り加工およびしごき加工される。この絞り加工としごき加工とを同時に行う加工法は、絞りしごき加工と称されている加工法である。そして、所定の深さまでパンチ23を下降させることにより、中間品14bが成形されると、パンチ23の外壁に中間品14bが圧着したまま、あるいはリフター22の上面とパンチ23の下面との間に、中間品14bの底面を挟んだまま、パンチ23を上昇させる。
図5(c)に示すように各工程には、パンチ23が上昇することによりパンチ23に圧着した中間品14bを取り外すストリッパーフィンガー25が設けられている。なお、このストリッパーフィンガー25は、上述したストリッパーフィンガー15と同様に構成できる。そのため、パンチ23の外壁に中間品14bが圧着している場合には、パンチ23を上昇させることにより、中間品14bの上端がストリッパーフィンガー25に接触して、パンチ23から中間品14bが取り外され、リフター22の上面に載置される。そして、図示しないキャッチフィンガーによって次工程に搬送される。なお、上述したように初期の工程でしごき加工を行わない場合には、パンチ23とダイス24とのクリアランスを中間品14aの板厚以上のクリアランスに設定する。
【0035】
上述したように複数回の絞り加工としごき加工とを行うことにより、横断面形状が略楕円形状の中間品14のうちのコーナー部20の曲率半径を次第に小さくして横断面形状を略矩形状に変形させ、かつそのコーナー部20を挟んだ両側の板厚(肉厚)を次第に減少させることにより最終品を成形する。
【0036】
上述したように中間品14を絞り加工してコーナー部20の曲率半径を次第に小さくしつつ、各側壁部をしごき加工する。そのしごき加工では、短辺部と長辺部とのしごき率が異なる場合には、コーナー部20が板厚の変遷部として機能すると考えられる。したがって、コーナー部20の曲率半径が小さい場合には、変遷部として機能する領域が小さいことにより、しごき率が小さい方の側壁部にしごき率が大きい方の側壁部の材料が流動するなどの影響が生じ、その結果、いずれかの側壁部にしわや破断が生じる可能性がある。
【0037】
そのため、本発明の電池ケースの製造方法は、コーナー部20の曲率半径が小さくなった時点以降では、短辺部のしごき率と長辺部のしごき率との差が所定差未満となるようにしごき加工を行う。より具体的には、
図3(d)および
図4(d)に示す中間品14となる以前の工程では、コーナー部20の曲率半径が所定値以上となっている中間品14をしごき加工するため、ストレート部18を含む長辺部と、ストレート部19を含む短辺部とは、それぞれの工程で長辺部と短辺部とのそれぞれに対して設定された目標板厚やしごき率(公称板厚減少率)に基づいてしごき加工を行う。すなわち、長辺部と短辺部との一方のしごき率を大きくし、他方のしごき率を小さくするなど、それぞれのしごき率が独立して設定されている。
【0038】
それに対して、
図3(e)および
図4(e)に示す中間品となった後の工程では、コーナー部20の曲率半径が所定値未満になっている中間品14をしごき加工するため、ストレート部18を含む長辺部をしごき加工する際のしごき率と、ストレート部19を含む短辺部をしごき加工する際のしごき率との差が所定差未満となるように、それぞれの側壁部をしごき加工する。
【0039】
上述したようにコーナー部20の曲率半径が所定値未満となった後は、長辺部と短辺部との一方のしごき率を大きくし、他方のしごき率を小さくするなど、コーナー部20を挟んだ側壁部のしごき率を大きくは異ならせない。そのため、コーナー部20の曲率半径が所定値未満となる以前における短辺部と長辺部との板厚の比が、最終品における短辺部と長辺部との板厚の比と同等になるようにするなど、最終品の形状と、コーナー部20の曲率半径が所定値未満となった後にしごき加工できる各側壁部のしごき率とから、短辺部と長辺部とのそれぞれの目標板厚やしごき率を定めている。
【0040】
また、短辺部と長辺部とをしごき加工することによる中間品14の周方向への材料の塑性流動は、短辺部と長辺部との高さに応じて変化すると考えられる。したがって、コーナー部20の曲率半径が所定値未満となった後における中間品14の周方向への材料の塑性流動のしやすさが、短辺部と長辺部とで異なることを抑制するため、言い換えると、短辺部と長辺部との高さ方向への延伸量(または延伸率)がほぼ同等になるように、コーナー部20の曲率半径が所定値以上になっている状態での短辺部と長辺部とのしごき率を定めている。具体的には、コーナー部20の曲率半径が所定値未満となった時点での、短辺部と長辺部との高さ差が所定高さ差以下となるように、コーナー部20の曲率半径が所定値以上の状態での短辺部と長辺部とのそれぞれのしごき率を定めている。
【0041】
短辺部および長辺部の上端は、しごき加工を行うことによる材料の塑性流動の仕方などにより、均等に延伸するとは限らないため、波形状になる。したがって、上記所定高さ差は、短辺部における各部位の高さの平均値と、長辺部における各部位の高さの平均値との差で定義され、その所定高さ差は、3mm以下であることが好ましい。
【0042】
または、コーナー部20の曲率半径が所定値未満となった後における中間品14の周方向への材料の塑性流動のしやすさを合わせるために、コーナー部20の曲率半径が所定値未満になる以前の絞り加工やしごき加工によって、短辺部と長辺部との高さ差が所定高さ差以下となるように、コイル材から切り出すブランクの形状を定めてもよい。
【0043】
なお、上述した短辺部と長辺部とのしごき率の差を所定差とするコーナー部20の曲率半径の所定値は、2mmであることが好ましい。また、コーナー部20の曲率半径が所定値未満となった場合における短辺部と長辺部とのしごき率の差は、1%以下であることが好ましい。
【0044】
本発明者は、
図3および
図4に示すように複数回の絞り加工およびしごき加工を行って横断面形状が楕円形状の中間品14から横断面形状が矩形状の最終品を成形する過程での、短辺部と長辺部とのしごき率を変更して、最終品の側壁にしわが生じるか否かを検証するための実験を行った。その実験条件およびその結果を以下に示す。
【0045】
本発明者による実験では、まず、アルミニウム合金1050番で、かつ板厚が1.5mmのコイル材を使用した。第1実験では、短辺部の長さが27.5mm、その壁厚が1.0mm、および長辺部の長さが148mm、その壁厚が1.2mm、ならびに高さが100mmの横断面形状が矩形状のケース本体部2を成形した。この第1実験では、コーナー部20の曲率半径が所定値未満となった後に、短辺部と長辺部とのしごき率の差が所定値未満となるように各工程でのしごき率を定めてケース本体部2を成形した。
【0046】
表1に、その実験結果を示してある。表1における絞り量は、前工程での絞り加工に使用したパンチの外形寸法と、続く工程での絞り加工に使用するパンチの外形寸法との差である。なお、表中には、パンチの中心からの寸法差で絞り量を示してある。
【表1】
【0047】
表1に示すように第1工程では、短辺部および長辺部をしごき加工していない。第2工程および第3工程では、短辺部のみをしごき加工している。そして、第4工程ないし第6工程では、短辺部および長辺部をしごき加工している。
【0048】
上記第1実験では、第2工程および第3工程での短辺部のしごき率と長辺部のしごき率との差を比較的大きく設定しているのに対して、コーナー部20の曲率半径が小さくなった第4工程ないし第6工程でのしごき率の差を比較的小さく設定している。言い換えると、コーナー部20の曲率半径が小さくなったことにより短辺部と長辺部とのしごき率を同等にしてしごき加工したとしても、最終品の板厚を充足できるように初期の工程で短辺部のしごき率を大きくしている。
【0049】
第1実験では、短辺部および長辺部にしわや破断が生じることなく、また高さを揃えて最終品を成形することができた。
【0050】
次に、第1実験の条件のうち長辺部の板厚を0.7mmに変更して同様の実験(第2実験)を行った。
【0051】
【0052】
第2実験では、最終品の長辺部の板厚を短辺部の板厚よりも厚く成形すること以外は、第1実験と同様であって、コーナー部20の曲率半径が小さくなった後の短辺部と長辺部とのしごき率を同等にするために、第1工程及び第2工程で、長辺部のみをしごき加工を行い、第3工程以降では、短辺部と長辺部とのしごき率がほぼ同等となるようにしごき加工を行った。
【0053】
第2実験においても第1実験と同様に、短辺部および長辺部にしわや破断が生じることなく、また高さを揃えて最終品を成形することができた。
【0054】
次に、第3実験として、第2実験と同様の最終品を成形する上で、第1工程から第6工程までのしごき率の差がほぼ一定となるように短辺部と長辺部とをしごき加工した。したがって、第3実験では、第1工程から第6工程での長辺部のしごき率を短辺部のしごき率よりも大きく設定している。
【0055】
【0056】
この第3実験では、第1工程から第4工程までは、短辺部および長辺部にしわや破断が生じることなく、しごき加工を行うことができた。一方、第5工程および第6工程では、短辺部にしわが生じた。
【0057】
さらに、第4実験として、第2実験と同様の最終品を成形する上で、第5工程および第6工程における短辺部のしごき率が、長辺部のしごき率よりも大きくなるようにしごき加工を行った。
【0058】
【0059】
この第4実験では、第1工程から第4工程までは、短辺部および長辺部にしわや破断が生じることなく、しごき加工を行うことができた。一方、第5工程および第6工程では、長辺部にしわが生じた。
【0060】
上述した第1実験から第4実験の結果、第1工程から第4工程までの間では、短辺部と長辺部とのしごき率に大きな差があったとしても、短辺部と長辺部とにしわや破断が生じることがなく、それに対して、第5工程および第6工程では、短辺部と長辺部とのしごき率に大きな差があると、しごき率が小さい方の側壁にしわが生じることが分かる。これは、短辺部と長辺部との間の領域であるコーナー部20の曲率半径が大きい場合には、しごき率が大きい方の側壁部の板厚の減少に伴う材料の塑性流動がコーナー部20で吸収できるためと考えられる。言い換えると、コーナー部20が板厚の変遷部として機能しているためと考えられる。それに対して、コーナー部20の曲率半径が小さい場合には、コーナー部20での板厚の変遷部としての機能が、曲率半径が大きい場合と比較して小さくなるため、しごき率が大きい方の材料の塑性流動が、しごき率が小さい方の壁面に作用して、その壁面にしわが生じていると考えられる。
【0061】
そのため、更に、コーナー部20の曲率半径と各側壁のしごき率の差との関係について検証した。具体的には、コーナー部20の曲率半径が1mm、2mm、3mmの中間品14をそれぞれ用意し、それらの中間品14で、短辺部のしごき率と長辺部のしごき率との差を1%、2%、3%となるようにしごき加工を行って、短辺部と長辺部とのいずれかにしわが生じるか否かを検証した。その検証結果を表5に示してあり、表5中には、しわが生じない場合を「○」で示し、しわが生じた場合を「△」で示し、破断が生じた場合を「×」で示してある。
【表5】
【0062】
上述した実験の結果から、コーナー部20の曲率半径が大きくなるほど、短辺部と長辺部とのしごき率の差を許容することができることが分かる。
【0063】
上述したように横断面形状が楕円形状の中間品から、横断面形状が矩形状の最終品を絞り加工によって成形するとともに、その外形形状が変化する過程で、しごき加工を行って側壁部の板厚を次第に減少させる場合に、互いに隣り合う側壁部に挟まれたコーナー部の曲率半径が所定値未満となった後に、そのコーナー部を挟んだ一方の側壁部のしごき率と、他方の側壁部のしごき率との差を所定差以下となるようにしごき加工を行うことにより、それぞれの側壁部にしわや破断が生じることなく、中間品または最終品の側壁部をしごき加工することができる。
【0064】
また、コーナー部の曲率半径が所定値以上になっている状態、すなわち、板厚の変遷部としての機能が高い状態で、コーナー部を挟んだ両側の側壁部のそれぞれを、それぞれの側壁部に応じて予め設定してある目標板厚もしくはしごき率となるようにしごき加工を行う。つまり、コーナー部の曲率半径が所定値以上の状態で、各側壁部の板厚やしごき率、あるいは側壁部同士の板厚の差などを事前に調整することができる。したがって、コーナー部の曲率半径が小さくなった後に、各側壁部のしごき率に差を設けることなくしごき加工を行うとしても、一方の側壁部の板厚と他方の側壁部の板厚とが異なる最終品を成形するなど、最終品に要求されるそれぞれの側壁部の板厚や、その高さなどを充足することができる。
【0065】
さらに、コーナー部の曲率半径が所定値以上の状態で、各側壁部の高さの差が所定高さ差以下となるようにしごき加工を行い、またはコーナー部の曲率半径が所定値未満となる時点で、各側壁部の高さの差が所定高さ差以下となるように切り出すブランクの形状を定めることにより、コーナー部の曲率半径が所定値未満となった後に各側壁部をしごき加工する場合に、中間品の高さ方向への材料の塑性流動のしやすさが異なることを抑制できる。その結果、一方の側壁部と他方の側壁部との中間品の周方向に対する材料の塑性流動の仕方が、高さ方向への材料の塑性流動の仕方に影響されて変化することを抑制でき、しごき加工することによるしわの発生を抑制できる。
【符号の説明】
【0066】
1 電池ケース
2 ケース本体部
3 開口部
4 封口板
5 段差部
6 プレス機
7 ブランク
8 ダイカッター
9 パンチカッター
10,23 パンチ
12 挟持部材
14 中間品
18,19 ストレート部
20 コーナー部
21 プレス機構
22 リフター
24 ダイス