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特許7539250変性共役ジエン系重合体及びその製造方法、ゴム組成物、並びにタイヤ。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】変性共役ジエン系重合体及びその製造方法、ゴム組成物、並びにタイヤ。
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/30 20060101AFI20240816BHJP
   C08F 36/04 20060101ALI20240816BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C08F8/30
C08F36/04
B60C1/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020069659
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021165356
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-02-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】当房 崇吏
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 孝顕
(72)【発明者】
【氏名】久村 謙太
(72)【発明者】
【氏名】角谷 省吾
(72)【発明者】
【氏名】関川 新一
(72)【発明者】
【氏名】荒木 祥文
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-349632(JP,A)
【文献】特開2011-089086(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014283(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/133097(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F、B60C1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐構造を有する共役ジエン系重合体鎖と、基「-CR1=N-A1」(式中、R1は水素原子又はヒドロカルビル基を示し、A1はアルコキシシリル基を有する1価の基を示す。)を有する変性剤に由来する変性剤残基と、を有する変性共役ジエン系重合体であって、
前記分岐構造は、アルコキシシリル基又はハロシリル基を含むビニル系単量体に由来する部分を有し、前記部分における分岐点で2分岐点以上であり、
前記変性剤は、下記式(A)で表される化合物であり、
粘度検出器付きGPC-光散乱法測定法による分岐度(Bn)が、3以上48以下である、変性共役ジエン系重合体。
【化1】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基を示し、R3は、炭素数1~20のアルカンジイル基を示し、R4及びR5は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を示し、nは、1~3の整数である。複数のR1及びR2のいずれかは、それらが互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
変性率が、50質量%以上である、請求項1に記載の変性共役ジエン系重合体。
【請求項3】
粘度検出器付きGPC-光散乱法測定法による絶対分子量が、40×104以上5000×104以下である、
請求項1又は2に記載の変性共役ジエン系重合体。
【請求項4】
下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される、請求項1~3のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体。
【化2】
【化3】
(式中、(A/B/C)はAとBとCとのブロック又はランダム共重合体鎖であることを示し、Aは、共役ジエン系重合体鎖又はそれの水素添加物を示し、Bは、芳香族ビニル化合物単位、Cは、下記式(3)又は下記式(4)で表される化合物に由来する構造単位を示し、nは、1~20の整数であり、R1は、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を示し、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を示し、mは、1~3の整数であり、lは、1~20の整数であり、oは、1から20の整数である。複数の場合のR1は、それらが互いに同一でも異なっていてもよい。)
【化4】
【化5】
(式中、Q1は、水素原子、並びにその一部分に分岐構造を有していてもよい、炭素数1~20のアルキル基及び炭素数6~20のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを示し、X1、X2、及びX3は、それぞれ独立して単結合、又は炭素原子、水素原子、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基を示し、Y1、Y2、及びY3は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。)
【請求項5】
その総量(100質量%)に対して、請求項1~4のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対して、充填剤を5.0質量部以上150質量部以下と、
を含有する、ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法であって、
アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用い、共役ジエン化合物、又は共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物、を重合又は共重合し、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得る重合工程と、
前記共役ジエン系重合体の前記活性末端に、スチレン誘導体を反応させて、分岐構造を導入する分岐化工程と、
分岐化工程後の活性末端に、下記式(A)で表される化合物を反応させる、変性工程と、を有する、製造方法。
【化6】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基を示し、R3は、炭素数1~20のアルカンジイル基を示し、R4及びR5は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を示し、nは、1~3の整数である。複数のR1及びR2のいずれかは、それらが互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項7】
前記スチレン誘導体は、下記式(3)及び/又は下記式(4)で表される化合物である、請求項6に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【化7】
【化8】
(式中、Q1は、水素原子、並びにその一部分に分岐構造を有していてもよい、炭素数1~20のアルキル基及び炭素数6~20のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを示し、X1、X2、及びX3は、それぞれ独立して単結合、又は炭素原子、水素原子、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基を示し、Y1、Y2、及びY3は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。)
【請求項8】
前記スチレン誘導体は、前記式(3)で表される化合物を含み、
前記式(3)中、Q1は、水素原子を示す、請求項7に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項9】
前記スチレン誘導体は、前記式(3)で表される化合物を含み、
前記式(3)中、Q1は、水素原子を示し、Y1は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示す、請求項7に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項10】
前記スチレン誘導体は、前記式(4)で表される化合物を含み、
前記式(4)中、Y2は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、Y3は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示す、請求項7に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項11】
前記スチレン誘導体は、前記式(3)で表される化合物を含み、
前記式(3)中、Q1は、水素原子を示し、Y1は、炭素数1~20のアルコキシ基を示す、請求項7に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項12】
前記スチレン誘導体は、前記式(3)で表される化合物を含み、
前記式(3)中、Q1は、水素原子を示し、X1は、単結合を示し、Y1は、炭素数1~20のアルコキシ基を示す、請求項7に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項13】
前記スチレン誘導体は、前記式(4)で表される化合物を含み、
前記式(4)中、X2は、単結合を示し、Y2は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、X3は、単結合を示し、Y3は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示す、請求項7に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項14】
請求項5に記載のゴム組成物を含有する、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役ジエン系重合体、共役ジエン系重合体の製造方法、ゴム組成物、及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車に対する低燃費化要求が高まっており、自動車用タイヤ、特に路面と接するタイヤトレッドに用いられるゴム材料の改良が求められている。
【0003】
近年、自動車に対する燃費規制要求の高まりから、部材の樹脂化等による自動車が軽量化している傾向にあり、タイヤに関しても軽量化の観点からタイヤ部材の薄肉化の要求が高まっている。
【0004】
タイヤを軽量化するためには、特に材料比率の高い路面と接するトレッド部の厚みを減らす必要があり、従来にも増して耐摩耗性に優れたゴム材料が求められている。
【0005】
また、走行時のタイヤによるエネルギーロスを低減するために、タイヤトレッドに用いられるゴム材料は、転がり抵抗が小さい、すなわち低ヒステリシスロス性を有する材料が求められている。
【0006】
上述したような要求に応えるゴム材料として、例えば、ゴム状重合体と、カーボンブラック、シリカ等の補強性充填剤とを含むゴム組成物が挙げられる。
【0007】
また、ゴム状重合体自体について改良したものとして、例えば共役ジエン系重合体の活性末端にメチレンアミノ基を含有する変性剤を反応させて得られる変性共役ジエン系重合体が提案されており、共役ジエン系共重合体とシリカの反応性を向上して低ヒステリシスロス性能を向上させつつ、耐摩耗性を向上させている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4111590号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、シリカを含むゴム組成物を用いると、低ヒステリシスロス性が向上する。また、運動性の高いゴム状重合体の分子末端部に、シリカとの親和性又は反応性を有する官能基を導入することによって、ゴム組成物中におけるシリカの分散性を改良して、さらには、シリカ粒子との結合でゴム状重合体の分子末端部の運動性を低減して、ヒステリシスロスを低減化しつつ、耐摩耗性を改良することができる。
【0010】
しかしながら、シリカ等の補強性充填剤を用いることだけでは十分ではなく、ゴム状重合体自体について改良することが必要である。ただし、特許文献1に記載するようなメチレンアミノ基を含有する変性剤を用いた変性分岐化共役ジエン系共重合体では、ムーニー粘度が高いと、加工性の悪化及び低ヒステリシスロスの発現が十分でなくなる。
【0011】
そこで、本発明においては、メチレンアミノ基を含有する変性剤に由来する残基を有しつつも、加硫物とする際の加工性に優れ、加硫物としたときにおける耐摩耗性及び低ヒステリシスロス性能に優れる変性共役ジエン系重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述した従来技術の課題を解決するために鋭意研究検討した結果、分岐構造を有する共役ジエン系重合体鎖と、所定の基を有する所定の変性剤に由来する変性剤残基と、を有する変性共役ジエン系重合体が、加硫物とする際の加工性に優れ、加硫物としたときにおける低ヒステリシスロス性及び耐摩耗性に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち本発明は以下の通りである。
〔1〕
分岐構造を有する共役ジエン系重合体鎖と、基「-CR1=N-A1」(式中、R1は水素原子又はヒドロカルビル基を示し、A1はアルコキシシリル基を有する1価の基を示す。)を有する変性剤に由来する変性剤残基と、を有する変性共役ジエン系重合体であって、
前記変性剤は、下記式(A)で表される化合物である、変性共役ジエン系重合体。
【化1】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基を示し、R3は、炭素数1~20のアルカンジイル基を示し、R4及びR5は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を示し、nは、1~3の整数である。複数のR1及びR2のいずれかは、それらが互いに同一でも異なっていてもよい。)
〔2〕
変性率が、50質量%以上である、〔1〕に記載の変性共役ジエン系重合体。
〔3〕
粘度検出器付きGPC-光散乱法測定法による絶対分子量が、40×104以上5000×104以下であり、
前記粘度検出器付きGPC-光散乱法測定法による分岐度(Bn)が、3以上である、
〔1〕又は〔2〕に記載の変性共役ジエン系重合体。
〔4〕
下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される、変性共役ジエン系重合体。
【化2】
【化3】
(式中、(A/B/C)はAとBとCとのブロック又はランダム共重合体鎖であることを示し、Aは、共役ジエン系重合体鎖又はそれの水素添加物を示し、Bは、芳香族ビニル化合物単位、Cは、下記式(3)又は下記式(4)で表される化合物に由来する構造単位を示し、nは、1~20の整数であり、R1は、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を示し、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を示し、mは、1~3の整数であり、lは、1~20の整数であり、oは、1から20の整数である。複数の場合のR1は、それらが互いに同一でも異なっていてもよい。)
【化4】
【化5】
(式中、Q1は、水素原子、並びにその一部分に分岐構造を有していてもよい、炭素数1~20のアルキル基及び炭素数6~20のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを示し、X1、X2、及びX3は、それぞれ独立して単結合、又は炭素原子、水素原子、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基を示し、Y1、Y2、及びY3は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。)
〔5〕
その総量(100質量%)に対して、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の変性共役ジエン系重合体を10質量%以上含むゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対して、充填剤を5.0質量部以上150質量部以下と、
を含有する、ゴム組成物。
〔6〕
アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用い、共役ジエン化合物、又は共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物、を重合又は共重合し、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得る重合工程と、
前記共役ジエン系重合体の前記活性末端に、スチレン誘導体を反応させて、分岐構造を導入する分岐化工程と、
分岐化工程後の活性末端に、下記式(A)で表される化合物を反応させる、変性工程と、を有する、変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【化6】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基を示し、R3は、炭素数1~20のアルカンジイル基を示し、R4及びR5は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を示し、nは、1~3の整数である。複数のR1及びR2のいずれかは、それらが互いに同一でも異なっていてもよい。)
〔7〕
前記スチレン誘導体は、下記式(3)及び/又は下記式(4)で表される化合物である、〔6〕に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【化7】
【化8】
(式中、Q1は、水素原子、並びにその一部分に分岐構造を有していてもよい、炭素数1~20のアルキル基及び炭素数6~20のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを示し、X1、X2、及びX3は、それぞれ独立して単結合、又は炭素原子、水素原子、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基を示し、Y1、Y2、及びY3は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。)
〔8〕
前記スチレン誘導体は、前記式(3)で表される化合物を含み、
前記式(3)中、Q1は、水素原子を示す、〔7〕に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
〔9〕
前記スチレン誘導体は、前記式(3)で表される化合物を含み、
前記式(3)中、Q1は、水素原子を示し、Y1は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示す、〔7〕に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
〔10〕
前記スチレン誘導体は、前記式(4)で表される化合物を含み、
前記式(4)中、Y2は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、Y3は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示す、〔7〕に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
〔11〕
前記スチレン誘導体は、前記式(3)で表される化合物を含み、
前記式(3)中、Q1は、水素原子を示し、Y1は、炭素数1~20のアルコキシ基を示す、〔7〕に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
〔12〕
前記スチレン誘導体は、前記式(3)で表される化合物を含み、
前記式(3)中、Q1は、水素原子を示し、X1は、単結合を示し、Y1は、炭素数1~20のアルコキシ基を示す、〔7〕に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
〔13〕
前記スチレン誘導体は、前記式(4)で表される化合物を含み、
前記式(4)中、X2は、単結合を示し、Y2は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、X3は、単結合を示し、Y3は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示す、〔7〕に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
〔14〕
〔5〕に記載のゴム組成物を含有する、タイヤ。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る変性共役ジエン系重合体によれば、加硫物とする際に優れた加工性を有し、加硫物としたときに優れた耐摩耗性及び低ヒステリシスロス性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0016】
本実施形態の変性共役ジエン系重合体は、分岐構造を有する共役ジエン系重合体鎖と、基「-CR1=N-A1」(式中、R1は水素原子又はヒドロカルビル基を示し、A1はアルコキシシリル基を有する1価の基を示す。)を有する変性剤に由来する変性剤残基と、を有する。また、変性剤は、下記式(A)で表される化合物である。
【化9】
式中、R1及びR2は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基を示し、R3は、炭素数1~20のアルカンジイル基を示し、R4及びR5は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を示し、nは、1~3の整数である。複数のR1及びR2のいずれかは、それらが互いに同一でも異なっていてもよい。
【0017】
変性共役ジエン系重合体は、本発明の作用効果を確実に奏する観点から、好ましくは下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される変性共役ジエン系重合体である。
【化10】
【化11】
式中、(A/B/C)はAとBとCとのランダム共重合体鎖であることを示し、Aは、共役ジエン系重合体鎖又はそれの水素添加物を示し、Bは、芳香族ビニル化合物単位、Cは、下記式(3)又は下記式(4)で表される化合物に由来する構造単位を示し、nは、1~20の整数であり、R1は、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を示し、R4及びR5は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を示し、mは、1~3の整数であり、lは、1~20の整数であり、oは、1から20の整数である。複数の場合のR1は、それらが互いに同一でも異なっていてもよい。
【0018】
式(1)及び/又は式(2)で表される変性共役ジエン系重合体において、(A/B/C)は、ブロック又はランダム共重合体を表す。共重合体中のA、B、Cの比率は任意に設定してよく、配列はランダムであればよく、特に限定されない。
【化12】
【化13】
式中、Q1は、水素原子、並びにその一部分に分岐構造を有していてもよい、炭素数1~20のアルキル基及び炭素数6~20のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを示し、X1、X2、及びX3は、それぞれ独立して単結合、又は炭素原子、水素原子、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基を示し、Y1、Y2、及びY3は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。
【0019】
変性共役ジエン系重合体は、式(1)で表される変性共役ジエン系重合体を含むことが好ましい。またその場合には、式(1)中、Cは、式(3)で表される構造単位を示すことがより好ましい。
【0020】
式(1)及び(2)中のAで示される共役ジエン系重合体鎖(以下、単に「共役ジエン系重合体」ともいう。)に用いられる共役ジエン化合物(以下、「共役ジエンモノマー」ともいう。)としては、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-ヘプタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、及び2-クロロ-1,3-ブタジエンが挙げられる。これらの中でも、1,3-ブタジエン、イソプレン、及び2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンが好ましい。
【0021】
式(1)及び(2)中のBで示される芳香族ビニル化合物(以下、「芳香族ビニルモノマー」ともいう。)としては、例えばスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、t-ブトキシスチレン、ビニルベンジルジメチルアミン、(4-ビニルベンジル)ジメチルアミノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、N,N-ジメチルアミノメチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン、2-t-ブチルスチレン、3-t-ブチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ビニルピリジン、ジフェニルエチレン、及び3級アミノ基含有ジフェニルエチレン(例えば、1-(4-N,N-ジメチルアミノフェニル)-1-フェニルエチレン等)が挙げられる。これらの中でもスチレン及びα-メチルスチレンが好ましい。
【0022】
Aで示される共役ジエン系重合体が、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体である場合、アニオン重合におけるリビング性が高い点で、共役ジエン系重合体は、1,3-ブタジエンとスチレンとをモノマー組成に含む共重合体であることが好ましい。上記共重合体は、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との分布が不規則なランダム共重合部分を有することが好ましい
【0023】
本実施形態の変性共役ジエン系重合体は、共役ジエンモノマーと式(3)又は式(4)で表される化合物(以下、「分岐化剤」又は「スチレン誘導体」ともいう。)との重合体であってもよいし、共役ジエンモノマー、分岐化剤及び芳香族ビニル化合物との共重合体であってもよい。また後述するように、共役ジエン系重合体の共役ジエン部を水素添加した水素添加であってよい。
【0024】
例えば、共役ジエンモノマーがブタジエン又はイソプレンで、これと芳香族ビニル部分を含む分岐化剤とを重合させた場合、重合鎖はいわゆるポリブタジエン又はポリイソプレンで、分岐部分に芳香族ビニル由来の構造を含む重合体となる。このような構造を有することで、重合体鎖の1本当たりの直線性の向上及び加硫後の架橋密度の向上が可能であり、重合体の耐摩耗性の向上という効果を奏する。そのため、タイヤ、樹脂改質、自動車の内装・外装品、防振ゴム、履物等の用途に好適である。
【0025】
共役ジエン系重合体をタイヤのトレッド用途に供する場合、共役ジエンモノマーと芳香族ビニルモノマーと分岐化剤との共重合体が好適であり、この用途の共重合体において結合共役ジエン量は40質量%以上100質量%以下であることが好ましく、55質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
また、本実施形態の変性共役ジエン系重合体中の結合芳香族ビニル量は、特に限定されないが、0質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
結合共役ジエン量及び結合芳香族ビニル量が上記範囲であると、加硫物としたときにおける加工性、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランス、耐摩耗性、及び破壊特性により優れる傾向にある。ここで、結合芳香族ビニル量は、フェニル基の紫外吸光によって測定でき、ここから結合共役ジエン量も求めることができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法に準じて測定することができる。
【0028】
本実施形態の変性共役ジエン系重合体において、共役ジエン結合単位中のビニル結合量は、特に限定されないが、10モル%以上75モル%以下であることが好ましく、20モル%以上65モル%以下であることがより好ましい。
【0029】
ビニル結合量が上記範囲であると、加硫物としたときにおける加工性と低ヒステリシスロス性、耐摩耗性により優れる傾向にある。ここで、変性ジエン系重合体がブタジエンとスチレンとの共重合体である場合には、ハンプトンの方法(R.R.Hampton,Analytical Chemistry,21,923(1949))により、ブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2-結合量)を求めることができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定する。
【0030】
本実施形態の共役ジエン系重合体のミクロ構造については、上記共役ジエン系重合体中の各結合量が上記範囲にあり、さらに、共役ジエン系重合体のガラス転移温度が-80℃以上-15℃以下の範囲にあるときに、低ヒステリシスロス性が優れた加硫物を得ることができる傾向にある。ガラス転移温度については、ISO 22768:2006に従い、所定の温度範囲で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflection point)をガラス転移温度とする。具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定する。
【0031】
本実施形態の変性共役ジエン系重合体が、共役ジエン-芳香族ビニル共重合体である場合、芳香族ビニル単位が30以上連鎖しているブロックの数が、少ないか又はないものであることが好ましい。より具体的には、本実施形態の変性共役ジエン系重合体がブタジエン-スチレン共重合体の場合、Kolthoffの方法(I.M.KOLTHOFF,et al.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)により重合体を分解し、メタノールに不溶なポリスチレン量を分析する公知の方法において、芳香族ビニル単位が30以上連鎖しているブロックが、変性共役ジエン系重合体の総量に対して、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下である。
【0032】
本実施形態の変性共役ジエン系重合体が、共役ジエン-芳香族ビニル共重合体である場合、低ヒステリシスロス性能向上の観点から、芳香族ビニル単位が単独で存在する割合が多い方が好ましい。
【0033】
具体的には、本実施形態の変性共役ジエン系重合体が、ブタジエン-スチレン共重合体の場合、田中らの方法(Polymer,22,1721(1981))として知られているオゾン分解による方法で、前記変性共役ジエン系重合体を分解し、GPCによりスチレン連鎖分布を分析した場合、全結合スチレン量に対し、単離スチレン量が40質量%以上であり、スチレンの連鎖が8個以上の連鎖スチレン構造が5.0質量%以下であることが好ましい。この場合、得られる加硫ゴムが特に低いヒステリシスロスである優れた性能となる傾向にある。
【0034】
(絶対分子量)
絶対分子量とは、粘度検出器付きGPC-光散乱法測定法により測定される。一般的に、分岐構造を有する重合体は、同一の分子量である直鎖状の重合体と比較した場合に、分子の大きさが小さくなる傾向にある。よって重合体の分子の大きさでふるい分け、標準ポリスチレン試料との相対比較法であるゲル浸透クロマトグラフィー(以下「GPC」ともいう。)測定により求められるポリスチレン換算分子量では分岐構造を有する重合体の分子量が過少に評価される傾向にある。光散乱法により分子の大きさを直接観測し、分子量(絶対分子量)を測定するため、高分子の構造やカラム充填剤との相互作用の影響を受けず、共役ジエン系重合体の分岐構造等のポリマー構造に影響されることなく、分子量を正確に測定できる傾向である。
【0035】
(分岐度(Bn))
本実施形態の共役ジエン系重合体は、加工性、耐摩耗性、破壊強度の観点から、粘度検出器付きGPC-光散乱法測定法による分岐度(Bn)(以下、単に分岐度(Bn)とも記す。)が3以上であるのが好ましい。
【0036】
当該分岐度(Bn)が3以上であるとは、本実施形態の変性共役ジエン系重合体が、実質的に最長の高分子主鎖に対して側鎖の高分子鎖が5本以上であることを意味する。
【0037】
変性共役ジエン系重合体の分岐度(Bn)は粘度検出器付きGPC-光散乱法測定法により測定される収縮因子(g’)を用いて、g'=6Bn/{(Bn+1)(Bn+2)}と定義される。
【0038】
一般的に、分岐を有する重合体は、同一の絶対分子量である直鎖状の重合体と比較した場合に、分子の大きさが小さくなる傾向にある。
【0039】
収縮因子(g’)は、想定上同一の絶対分子量である直鎖状重合体に対する、分子の占める大きさの比率の指標である。すなわち、重合体の分岐度が大きくなれば、収縮因子(g’)は小さくなる傾向にある。
【0040】
この収縮因子に対して本実施形態では、分子の大きさの指標として固有粘度を用い、直鎖状の重合体は、固有粘度[η]=-3.883M0.771の関係式に従うものとする。上記式中、Mは絶対分子量である。
【0041】
しかしながら、収縮因子は分子の大きさの減少率を表現しているもので、重合体の分岐構造を正確に表現しているものではない。
【0042】
そこで当該の変性共役ジエン系重合体の各絶対分子量のときの収縮因子(g’)の値を用いて共役ジエン系重合体の分岐度(Bn)を算出する。算出された「分岐度(Bn)」は、最長の主鎖構造に対して、直接的又は間接的に互いに結合している重合体の数を正確に表現するものである。
【0043】
算出された分岐度(Bn)は、変性共役ジエン系重合体の分岐構造を表現する指標となる。例えば、一般的な4分岐星形高分子(中央部に、4本の重合体鎖が接続)の場合、最長の高分岐主鎖構造に対して高分子鎖の腕が2本結合しており、分岐度(Bn)は2と評価される。
【0044】
一般的な8分岐星形高分子の場合、最長の高分岐主鎖構造に対して高分子鎖の腕が6本結合しており、分岐度(Bn)は6と評価される。
【0045】
本実施形態の変性共役ジエン系重合体は、分岐度(Bn)が3以上であるが、かかる場合、星形高分子構造として5分岐した星形高分子構造と同様の分岐を有する変性共役ジエン系重合体であることを意味する。
【0046】
ここで、「分岐」とは、1つの重合体に対して、他の重合体とが直接的又は間接的に結合することにより形成されるものである。また、「分岐度(Bn)」は、最長の主鎖構造に対して、直接的又は間接的に互いに結合している重合体の数である。
【0047】
分岐度(Bn)が3以上であることにより、本実施形態の変性共役ジエン系重合体は、加硫物とする際の加工性に極めて優れ、加硫物としたときに耐摩耗性、及び破壊強度に優れる。
【0048】
一般に絶対分子量が上昇すると加工性が悪化する傾向にあり、直鎖状の高分子構造で絶対分子量を上昇させた場合、加硫物とする際の粘度が大幅に上昇し、加工性が大幅に悪化する。
【0049】
そのため、重合体中に多数の官能基を導入し、充填剤として配合されるシリカとの親和性及び/又は反応性向上を図っていても、混練工程でシリカを十分に重合体中に分散させられない。その結果として、導入された官能基の機能が発揮されず、本来期待できるはずの官能基導入による低ヒステリシスロス性の向上という効果が発揮されないことになってしまう。
【0050】
一方、本実施形態の変性共役ジエン系重合体は、分岐度(Bn)を3以上であるものに特定したことで、絶対分子量の上昇に伴う加硫物とする際の粘度の上昇が大幅に抑制されるので、例えば、混練工程においてシリカ等と十分に混合するようになり、共役ジエン系重合体の周りにシリカを分散させることが可能となる。その結果、例えば、変性共役ジエン系重合体において、分子量の大きく設定することで耐摩耗性及び破壊強度の向上が可能になり、かつ、十分な混練によってシリカを重合体周りに分散させ、官能基が作用及び/又は反応することが可能となることで実用上十分な低ヒステリシスロス性を有するものとすることが可能になる。
【0051】
本実施形態の変性共役ジエン系重合体の分岐度(Bn)は3以上であり、好ましくは4以上であり、より好ましくは6以上である。
分岐度(Bn)がこの範囲である変性共役ジエン系重合体は、加硫物とする際の加工性に優れる傾向にある。
【0052】
また、分岐度(Bn)の上限値は特に限定されず、検出限界値以上であってもよいが、好ましくは48以下であり、より好ましくは40以下であり、さらに好ましくは32以下であり、さらにより好ましくは24以下である。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体は、分岐度(Bn)が48以下であることで加硫物とした際に、耐摩耗性に優れる傾向にある。
【0053】
本実施形態の共役ジエン系重合体は、加工性、耐摩耗性、及び低ヒステリシスロス性の観点から、粘度検出器付きGPC-光散乱法測定法による絶対分子量(以下、単に「絶対分子量」ともいう。)が40×104以上500×104以下であることが好ましく、100×104以上300×104以下であることがより好ましく、150×104以上200×104以下であることがさらに好ましい。
【0054】
変性共役ジエン系重合体の分岐度及び絶対分子量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0055】
変性共役ジエン系重合体の分岐度及び絶対分子量は、分岐化剤の添加量で制御してもよいし、分岐化剤の添加量と末端カップリング剤の添加量との組み合わせにより、3以上に制御してもよい。具体的には、分岐度の制御は、分岐化剤の官能基数、分岐化剤の添加量、分岐化剤の添加のタイミング及びカップリング剤若しくは、窒素原子含有の変性剤の官能数、カップリング剤若しくは、窒素原子含有の変性剤の添加量により制御することができる。より具体的には後述に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法に記載する。
【0056】
本実施形態の変性共役ジエン系重合体は、標準ポリスチレン試料との相対比較法であるゲル浸透クロマトグラフィー(以下「GPC」ともいう。)測定によりポリスチレン換算分子量として求められる数平均分子量及び重量平均分子量(以下、単に「数平均分子量」、「重量平均分子量」ともいう。)が求められる。数平均分子量が5×104以上100×104以下であることが好ましく、10×104以上60×104以下であることがより好ましく、20×104以上50×104以下であることがさらに好ましい。重量平均分子量が10×104以上200×104以下であることが好ましく、20×104以上125×104以下であることがより好ましく、30×104以上75×104以下であることがさらに好ましい。
【0057】
変性共役ジエン系重合体の数平均分子量及び重量平均分子量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。変性共役ジエン系重合体の数平均分子量及び重量平均分子量は、例えば重合工程における温度条件等の条件を制御することや、分岐化工程における分岐度を調整することにより、上記の範囲に制御することができる。より具体的には後述に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法に記載する。
【0058】
本実施形態の変性共役ジエン系重合体は、ムーニー粘度計を用いた測定によりムーニー粘度及びムーニー緩和率(以下、単に「ムーニー粘度」、「ムーニー緩和率」ともいう。)が求められる。ムーニー粘度が10以上150以下であることが好ましく、30以上120以下であることがより好ましく、50以上100以下であることがさらに好ましい。ムーニー緩和率が0.10以上1.00以下であることが好ましく、0.25以上0.80以下であることがより好ましく、0.30以上0.70以下であることがさらに好ましい。
【0059】
変性共役ジエン系重合体のムーニー粘度及びムーニー緩和率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。変性共役ジエン系重合体のムーニー粘度及びムーニー緩和率は、例えば重合工程における温度条件等の条件を制御することや、分岐化工程における分岐度を調整することにより、上記の範囲に制御することができる。より具体的には後述に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法に記載する。
【0060】
本明細書中、「変性率」は、共役ジエン系重合体の総量に対する窒素原子含有官能基を有する共役ジエン系重合体の質量比率を表す。
【0061】
例えば、窒素原子含有変性剤を終末端に反応させた場合、当該窒素原子含有変性剤による窒素原子含有官能基を有する共役ジエン系重合体の、共役ジエン系重合体の総量に対する質量比率が、変性率として表される。
【0062】
他方、窒素原子を含有する分岐化剤によって、重合体を分岐させた場合も、生成する共役ジエン系重合体に窒素原子含有官能基を有することになるので、この分岐した重合体も変性率の算出の際、カウントされることになる。
【0063】
すなわち、本明細書中、窒素原子含有官能基を有する変性剤による変性重合体及び/又は窒素原子含有官能基を有する分岐化剤による分岐化重合体であって、これらの合計の質量比率が、「変性率」である。
【0064】
本実施形態の共役ジエン系重合体は、少なくとも一端が、窒素原子含有基で変性されていることで、充填剤等を配合した組成物としたときの加工性、組成物を加硫物としたときの耐摩耗性、破壊強度を維持したままで、低ヒステリシスロス性が向上する傾向にある。
【0065】
本実施形態の共役ジエン系重合体は、加工性、耐摩耗性、及び低ヒステリシスロス性の観点から、共役ジエン系重合体の総量に対して、カラム吸着GPC法で測定される変性率(以下、単に「変性率」ともいう。)が50質量%以上であるのが好ましい。
【0066】
変性率は、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上、さらにより好ましくは70質量%以上である。変性率の上限は、特に限定されないが、例えば、98質量%である。
【0067】
変性率は、官能基含有の変性成分と非変性成分とを分離できるクロマトグラフィーによって測定することができる。
【0068】
このクロマトグラフィーを用いた方法としては、特定官能基を吸着するシリカ等の極性物質を充填剤としたゲル浸透クロマトグラフィー用のカラムを使用し、非吸着成分の内部標準を比較に用いて定量する方法(カラム吸着GPC法)が挙げられる。
【0069】
より具体的には、変性率は、試料及び低分子量内部標準ポリスチレンを含む試料溶液を、ポリスチレン系ゲルカラムで測定したクロマトグラムとシリカ系カラムで測定したクロマトグラムとの差分から、シリカカラムへの吸着量を測定することにより得られる。
さらに具体的には、変性率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0070】
本実施形態の共役ジエン系重合体において、変性率は、変性剤の添加量及び反応方法を調整するによって制御することができ、これにより50質量%以上に制御することができる。
【0071】
例えば、重合開始剤として、後述する分子内に少なくとも1つ窒素原子を有する有機リチウム化合物を用いて重合する方法、分子内に少なくとも1つ窒素原子を有する単量体を共重合する方法、後述する構造式の変性剤を用いる方法を組み合わせ、重合条件を制御することによって、上記変性率とすることができる。
【0072】
本実施形態の共役ジエン系重合体は、加工性と耐摩耗性とのバランスの観点から、3分岐以上の星形高分子構造を有する共役ジエン系重合体であって、少なくとも一つの星形構造の分岐鎖に、アルコキシシリル基又はハロシリル基を含むビニル系単量体に由来する部分を有し、当該アルコキシシリル基又はハロシリル基を含むビニル系単量体に由来する部分において、更なる分岐構造を有する共役ジエン系重合体であることが好ましい。
【0073】
分岐構造は、アルコキシシリル基又はハロシリル基を含むビニル系単量体に由来する部分における分岐点で2分岐点以上であり、3分岐点以上であることが好ましく、4分岐点以上であることがより好ましい。
【0074】
また、分岐構造を形成する分岐点は少なくとも2つ以上の高分子鎖を有していることが好ましく、より好ましくは主鎖ではない高分子鎖を3つ以上有しており、さらに好ましくは主鎖ではない高分子鎖を4つ以上有している。
【0075】
特にアルコキシシリル基又はハロシリル基を含むビニル系単量体からなる分岐構造では、29Si-NMRにてシグナル検出を行うと、-45ppmから-65ppmの範囲、さらに限定的には-50ppmから-60ppmの範囲に分岐構造由来のピークが検出される。
【0076】
〔変性共役ジエン系重合体の製造方法〕
本実施形態の変性共役ジエン系重合体の製造方法は、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用い、共役ジエン化合物、又は共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物、を重合又は共重合し、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得る重合工程と、得られた共役ジエン系重合体の活性末端に、スチレン誘導体を反応させて、分岐構造を導入する分岐化工程と、分岐化工程後の活性末端に、下記式(A)で表される化合物を反応させる、変性工程とを有する。
【化14】
式中、R1及びR2は、それぞれ独立して炭素数1~20のヒドロカルビル基を示し、R3は、炭素数1~20のアルカンジイル基を示し、R4及びR5は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を示し、nは、1~3の整数である。複数のR1及びR2のいずれかは、それらが互いに同一でも異なっていてもよい。
【0077】
変性共役ジエン系重合体を構成する共役ジエン系重合体は、単一の共役ジエン化合物の単独重合体、異なる種類の共役ジエン化合物の共重合体、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体のいずれであってもよい。
本実施形態によれば、主鎖に分岐点を導入することにより、変性剤のみを使用して共役ジエン系重合体に分岐構造を導入した場合よりも分岐度の高い変性共役ジエン系重合体を製造でき、また、主鎖や側鎖の長さを調整できる重合体設計自由度の高い製造方法を提供でき、これにより、優れた加工性及び耐摩耗性を発現する変性共役ジエン系重合体を提供できる。
【0078】
(重合工程)
本実施形態の変性共役ジエン系重合体の製造方法における重合工程は、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用い、共役ジエン化合物、又は共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を、重合又は共重合することで、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得る。
重合工程においては、リビングアニオン重合反応による成長反応による重合を行うことが好ましく、これにより、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得ることができる。
【0079】
<重合開始剤>
重合開始剤としては、有機リチウム系化合物を用いることが好ましく、有機モノリチウム化合物を用いることがより好ましい。
有機モノリチウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、低分子化合物、可溶化したオリゴマーの有機モノリチウム化合物が挙げられる。
また、有機モノリチウム化合物は、その有機基とそのリチウムの結合様式において、例えば、炭素-リチウム結合を有する化合物、窒素-リチウム結合を有する化合物、及び錫-リチウム結合を有する化合物のいずれも用いることができる。
【0080】
重合開始剤としての有機モノリチウム化合物の使用量は、目標とする共役ジエン系重合体の分子量によって決めることが好ましい。
重合開始剤の使用量に対する、共役ジエン化合物等の単量体の使用量が、目標とする共役ジエン系重合体の重合度に関係する。すなわち、数平均分子量及び/又は重量平均分子量に関係する傾向にある。
したがって、共役ジエン系重合体の分子量を増大させるためには、重合開始剤を減らす方向に調整するとよく、分子量を低下させるためには、重合開始剤量を増やす方向に調整するとよい。
【0081】
置換アミノ基とは、活性水素を有しない、又は活性水素を保護した構造の、アミノ基である。
活性水素を有しないアミノ基を有するアルキルリチウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、3-ジメチルアミノプロピルリチウム、3-ジエチルアミノプロピルリチウム、4-(メチルプロピルアミノ)ブチルリチウム、及び4-ヘキサメチレンイミノブチルリチウムが挙げられる。
活性水素を保護した構造のアミノ基を有するアルキルリチウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、3-ビストリメチルシリルアミノプロピルリチウム、及び4-トリメチルシリルメチルアミノブチルリチウムが挙げられる。
【0082】
ジアルキルアミノリチウムとしては、特に限定されないが、例えば、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジブチルアミド、リチウムジ-n-ヘキシルアミド、リチウムジへプチルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムジオクチルアミド、リチウム-ジ-2-エチルへキシルアミド、リチウムジデシルアミド、リチウムエチルプロピルアミド、リチウムエチルブチルアミド、リチウムエチルベンジルアミド、リチウムメチルフェネチルアミド、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘプタメチレンイミド、リチウムモルホリド、1-リチオアザシクロオクタン、6-リチオ-1,3,3-トリメチル-6-アザビシクロ[3.2.1]オクタン、及び1-リチオ-1,2,3,6-テトラヒドロピリジンが挙げられる。
【0083】
これらの置換アミノ基を有する有機モノリチウム化合物は、重合可能な単量体、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、スチレン等の単量体を少量反応させて、ノルマルヘキサン、シクロヘキサンに可溶化したオリゴマーの有機モノリチウム化合物として用いることもできる。
【0084】
有機モノリチウム化合物は、工業的入手の容易さ及び重合反応のコントロールの容易さの観点から、好ましくは、アルキルリチウム化合物である。この場合、重合開始末端にアルキル基を有する、共役ジエン系重合体が得られる。
前記アルキルリチウム化合物としては、特に限定されないが、例えば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、n-ヘキシルリチウム、ベンジルリチウム、フェニルリチウム、及びスチルベンリチウムが挙げられる。
アルキルリチウム化合物としては、工業的入手の容易さ及び重合反応のコントロールの容易さの観点から、n-ブチルリチウム、及びsec-ブチルリチウムが好ましい。
【0085】
これらの有機モノリチウム化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、他の有機金属化合物と併用してもよい。他の有機金属化合物としては、例えば、アルカリ土類金属化合物、他のアルカリ金属化合物、その他有機金属化合物が挙げられる。
アルカリ土類金属化合物としては、特に限定されないが、例えば、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、及び有機ストロンチウム化合物が挙げられる。また、アルカリ土類金属のアルコキサイド、スルフォネート、カーボネート、及びアミドの化合物も挙げられる。
有機マグネシウム化合物としては、例えば、ジブチルマグネシウム、及びエチルブチルマグネシウムが挙げられる。
その他有機金属化合物としては、例えば、有機アルミニウム化合物が挙げられる。
【0086】
重合工程において、重合反応様式としては、特に限定されないが、例えば、回分式(「バッチ式」ともいう。)、連続式の重合反応様式が挙げられる。
連続式においては、1個又は2個以上の連結された反応器を用いることができる。連続式の反応器は、例えば、撹拌機付きの槽型、管型のものが用いられる。連続式においては、好ましくは、連続的に単量体、不活性溶媒、及び重合開始剤が反応器にフィードされ、当該反応器内で重合体を含む重合体溶液が得られ、連続的に重合体溶液が排出される。
回分式の反応器は、例えば、攪拌機付の槽型のものが用いられる。回分式においては、好ましくは、単量体、不活性溶媒、及び重合開始剤がフィードされ、必要により単量体が重合中に連続的又は断続的に追加され、当該反応器内で重合体を含む重合体溶液が得られ、重合終了後に重合体溶液が排出される。
本実施形態の変性共役ジエン系重合体の製造方法においては、重合工程において、高い割合で活性末端を有する共役ジエン系重合体を得るには、重合体を連続的に排出し、短時間で次の反応に供することが可能な、連続式が好ましい。連続式においては、反応器の数は特に限定されず、1個又は2個以上の連結された反応器を用いることができる。反応器は、モノマーと重合開始剤を溶液中で十分に接触させられるものが好ましく、撹拌機付きの槽型、管型等のものが用いられる。反応器の数は適宜選択できるが、製造設備の省スペース化の観点から反応器は1個が好ましく、生産性向上の観点から2個以上が好ましい。2個以上反応器を用いる場合は、分岐化剤は2基目以降に添加する方がより好ましい。
【0087】
共役ジエン系重合体の重合工程は、不活性溶媒中で行うことが好ましい。
不活性溶媒としては、例えば、飽和炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素系溶媒が挙げられる。具体的な炭化水素系溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素及びそれらの混合物からなる炭化水素が挙げられる。
重合反応に供する前に、不純物であるアレン類、及びアセチレン類を有機金属化合物で処理することで、高濃度の活性末端を有する共役ジエン系重合体が得られる傾向にあり、高い変性率の変性共役ジエン系重合体が得られる傾向にあるため好ましい。
【0088】
重合工程においては、極性化合物を添加してもよい。これにより、芳香族ビニル化合物を共役ジエン化合物とランダムに共重合させることができるほか、極性化合物は、共役ジエン部のミクロ構造を制御するためのビニル化剤としても機能する傾向にある。また、重合反応の促進等にも効果がある傾向にある。
【0089】
極性化合物としては、特に限定されないが、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジメトキシベンゼン、2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパン等のエーテル類;テトラメチルエチレンジアミン、ジピペリジノエタン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジン等の第3級アミン化合物;カリウム-tert-アミラート、カリウム-tert-ブチラート、ナトリウム-tert-ブチラート、ナトリウムアミラート等のアルカリ金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物等を用いることができる。
これらの極性化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
極性化合物の使用量は、特に限定されず、目的等に応じて選択することができるが、重合開始剤1モルに対して、0.01モル以上100モル以下であることが好ましい。
このような極性化合物(ビニル化剤)は、共役ジエン系重合体の共役ジエン部分のミクロ構造の調整剤として、所望のビニル結合量に応じて、適量用いることができる。
多くの極性化合物は、同時に共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合において有効なランダム化効果を有し、芳香族ビニル化合物の分布の調整やスチレンブロック量の調整剤として用いることができる傾向にある。
共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とをランダム化する方法としては、例えば、特開昭59-140211号公報に記載されているように、スチレンの全量と1,3-ブタジエンの一部とで共重合反応を開始させ、共重合反応の途中で残りの1,3-ブタジエンを断続的に添加する方法を用いてもよい。
【0091】
重合工程における重合温度は、リビングアニオン重合が進行する温度であることが好ましく、生産性の観点から、0℃以上120℃以下であることがより好ましい。
このような範囲にあることで、重合終了後の活性末端に対する変性剤の反応量を充分に確保することができる傾向にある。さらにより好ましくは50℃以上100℃以下である。
【0092】
(分岐化工程)
本実施形態の分岐化工程は、共役ジエン系重合体の活性末端に、スチレン誘導体を反応させて、分岐構造を導入する工程である。そこで使用される分岐化剤であるスチレン誘導体は、重合の継続性とゲル化防止の観点から、分岐化反応後に分岐部位に活性末端が1つだけ残る骨格が主骨格となるものであることが好ましく、さらに、スチレン誘導体部分分岐化反応時に重合活性末端と十分に反応する反応性を有しているものであることが好ましい。
すなわち、スチレン誘導体がスチレンとして重合することで重合活性を維持しつつ主鎖にスチレン誘導体が取り込まれ、活性が維持されている末端にさらに別のモノマーが重合することでポリマー鎖がさらに伸びる。また取り込まれたスチレン誘導体の官能基に、他の重合体鎖の活性末端が反応し、結合を形成することで分岐構造ができる。この反応が繰り返し起こることで重合体鎖の分岐が増え、ポリマー構造はより複雑に、分子量はより大きくなる。
【0093】
重合の継続性やポリマー構造の制御性の観点から、別の重合体鎖の活性末端と反応した後に脱離する官能基が重合の阻害作用が少ないことも必要となる。ここで「重合の阻害作用が少ない」とは、アニオン重合の副反応である、連鎖移動反応、重合の途中失活、重合体の会合度上昇による活性低下等が少ないことが挙げられる。
スチレン誘導体が有する官能基は、重合活性を過度に向上させないものである必要があり、さらに重合活性を失活させないものである必要がある。リビングアニオン重合でポリマーを重合する場合、活性末端を失活させない官能基として水素原子を有しておらず、ピアソンのHASB則に基づく定義で言うところの硬い塩基であることが重要であり、より具体的にはアルコキシ基やハロゲン基が挙げられる。これらの中から、活性末端との反応性の他、脱離した官能基が重合を阻害しないという観点で、本実施形態の製造方法で用いる分岐化剤としてのスチレン誘導体の構造を選択することができる。
より具体的には、スチレン骨格を主骨格とする下記式(3)、又はジフェニルエチレン骨格を主骨格とする式(4)で表されるスチレン誘導体を用いることが、連鎖移動反応抑制及び活性末端の失活抑制、ゲル化防止の観点から好ましい。
【0094】
【化15】
【化16】
式中、Q1は、水素原子、並びにその一部分に分岐構造を有していてもよい、炭素数1~20のアルキル基及び炭素数6~20のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを示し、X1、X2、及びX3は、それぞれ独立して単結合、又は炭素原子、水素原子、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基を示し、Y1、Y2、及びY3は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。
【0095】
分岐化工程で使用される、分岐化剤であるスチレン誘導体は、重合の分岐度向上の観点から、式(3)で表される化合物を含むことが好ましい。また、式(3)中、Q1は、水素原子を示すことがより好ましい。
【0096】
また、本実施形態においては、分岐化工程で使用される、分岐化剤であるスチレン誘導体は、重合の継続性と分岐度向上の観点から、式(3)で表される化合物を含み、式(3)中、Q1は、水素原子を示し、Y1は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示すことがより好ましい。
【0097】
また、本実施形態においては、分岐化工程で使用される、分岐化剤であるスチレン誘導体は、重合の継続性と分岐度向上の観点から、式(4)で表される化合物を含み、式(4)中、Y2は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、Y3は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示すことがより好ましい。
【0098】
また、本実施形態においては、分岐化工程で使用される、分岐化剤であるスチレン誘導体は、重合の継続性と分岐度向上、変性率向上の観点から、式(3)で表される化合物を含み、式(3)中、Q1は、水素原子を示し、Y1は、炭素数1~20のアルコキシ基を示すことがさらに好ましい。
【0099】
また、本実施形態においては、分岐化工程で使用される、分岐化剤であるスチレン誘導体は、重合の継続性と分岐度向上、変性率の更なる向上の観点から、式(3)で表される化合物を含み、式(3)中、Q1は、水素原子を示し、X1は、単結合を示し、Y1は、炭素数1~20のアルコキシ基を示すことがよりさらに好ましい。
【0100】
また、本実施形態においては、分岐化工程で使用される、分岐化剤であるスチレン誘導体は、重合の継続性と分岐度向上、変性率の更なる向上の観点から、式(4)で表される化合物を含み、式(4)中、X2は、単結合を示し、Y2は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示し、X3は、単結合を示し、Y3は、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子を示すことがよりさらに好ましい。
【0101】
式(3)で表されるスチレン誘導体としては、特に限定されないが、例えば、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(2-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(2-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリエトキシ(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリブトキシ(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリメトキシ(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリエトキシ(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリブトキシ(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリメトキシ(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリエトキシ(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリブトキシ(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(4-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(3-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(2-イソプロぺニルフェニル)シラン、トリクロロ(4-ビニルフェニル)シラン、トリクロロ(3-ビニルフェニル)シラン、トリクロロ(2-ビニルフェニル)シラン、トリブロモ(4-ビニルフェニル)シラン、トリブロモ(3-ビニルフェニル)シラン、トリブロモ(2-ビニルフェニル)シラン、ジクロロメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジクロロメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジクロロメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジブロモメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジブロモメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジブロモメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルクロロ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルクロロ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルクロロ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブロモ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブロモ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブロモ(2-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(4-ビニルベンジル)シラン、トリエトキシ(4-ビニルベンジル)シラン、トリプロポキシ(4-ビニルベンジル)シラン、が挙げられる。
これらの中では、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(4-ビニルフェニル)シラントリイソプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、及びトリクロロ(4-ビニルフェニル)シランが好ましく、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(4-ビニルフェニル)シラントリイソプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(4-ビニルベンジル)シラン、及びトリエトキシ(4-ビニルベンジル)シランがより好ましく、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、及びトリエトキシ(4-ビニルフェニル)シランがさらに好ましい。
【0102】
式(4)で表されるスチレン誘導体としては、特に限定されないが、例えば、1-ビス(4-トリメトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリエトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリプロポキシシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリペントキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリイソプロポキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリメトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリエトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリプロポキシシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリペントキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリイソプロポキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(2-トリメトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(2-トリエトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリプロポキシシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(2-トリペントキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(2-トリイソプロポキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジメチルメトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジエチルメトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジプロピルメトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジメチルエトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジエチルエトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジプロピルエトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリメトキシシリルベンジル)エチレン、1,1-ビス(4-トリエトキシシリルベンジル)エチレン、1,1-ビス(4-トリプロポキシシシリルベンジル)エチレン、及び1,1-ビス(4-トリペントキシシリルベンジル)エチレン、が挙げられる。
これらの中では、1,1-ビス(4-トリメトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリエトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリプロポキシシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリペントキシシリルフェニル)エチレン、及び1,1-ビス(4-トリイソプロポキシシリルフェニル)エチレンが好ましく、1,1-ビス(4-トリメトキシシリルフェニル)エチレンがより好ましい。
式(3)及び式(4)で表されるスチレン誘導体を用いることにより、分岐数が向上し、耐摩耗性と加工性の向上の効果が得られる。
【0103】
本実施形態の変性共役ジエン系重合体の製造方法において、分岐化剤を添加するタイミングは、活性末端を有する共役ジエン系重合体が反応系内に存在する重合工程の継続中であれば、特に限定されず、目的等に応じて選択することができるが、共役ジエン系重合体の絶対分子量の向上、カップリング率向上の観点から、重合開始剤添加後、原料転化率が20%以上であるタイミングが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、65%以上であることがさらにより好ましく、75%以上であることがよりさらに好ましい。
【0104】
また、分岐化工程時、又はその後に、さらに所望の原料であるモノマーを追添加して、分岐化後に重合工程を継続してもよく、それらを繰り返してもよい。
【0105】
追加するモノマーは、特に限定されないが、共役ジエン化合物及び/又は芳香族ビニル化合物であることが好ましく、特に、分岐化工程時においてモノマーを追加する場合には、共役ジエン系重合体の分岐点での立体障害緩和による変性率向上の観点から、重合工程で使用される共役ジエン系単量体総量、例えばブタジエン総量の5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることがさらにより好ましく、25%以上、30%以下であることがよりさらに好ましい。かかる場合、特に、連続重合プロセスを用いて、分岐化工程時に、重合工程で使用される共役ジエン系単量体総量、例えばブタジエン総量の5%以上でモノマーの追加を行うことが変性率向上の観点から好ましい。
【0106】
追加するモノマー量が、上記の範囲内にあると分岐化剤による分岐点と変性剤による分岐点間の分子量が長くなり直線性の高い分子構造を取りやすい傾向となる。直線性の高い分子構造とすることで、加硫物とした際に共役ジエン系重合体の分子鎖同士の絡み合いが増して、耐摩耗性、操縦安定性及び破壊強度に優れたゴム組成物を得られ易い傾向にある。
【0107】
分岐化剤を添加するタイミング、追加するモノマーの量によって、主鎖や側鎖の長さを調整することができるため、重合体設計自由度が高い。
【0108】
本実施形態の変性共役ジエン系重合体の製造方法における分岐化工程で得られる、分岐構造が導入された共役ジエン系重合体の分岐構造は、3分岐以上24分岐以下であることが好ましく、より好ましくは4分岐以上20分岐以下であり、さらに好ましくは5分岐以上18分岐以下である。
【0109】
24分岐以下にすることで、後述する変性工程において官能基を有する変性剤と反応させて変性共役ジエン系重合体にしたり、カップリング反応により重合体鎖をさらに伸長させることが容易である傾向があり、3分岐以上にすることで、得られる重合体が加工性に優れる傾向にある。
【0110】
分岐化剤は共役ジエン系重合体の共役ジエン部分の分岐構造の分岐点として、所望の分岐点数に応じて、適量用いることができる。
【0111】
分岐化剤の添加量は、特に限定されず、目的等に応じて添加量を選択することができるが、共役ジエン系重合体の末端停止反応率の向上、カップリング率向上、分岐化後の重合の継続性の観点から、活性な重合開始剤量に対して、分岐化剤のモル比が2分の1以下であり100分の1以上であることが好ましく、3分の1以下であり50分の1以上であることがより好ましく、4分の1以下であり30分の1以上であることがさらに好ましく、6分の1以下であり25分の1以上であることがさらにより好ましく、8分の1以下であり12分の1以上であることがよりさらに好ましい。
【0112】
また、分岐構造を形成する分岐工程の、分岐化剤の添加量は、特に限定されず、目的等に応じて選択することができるが、重合開始剤1モルに対して、0モル以上0.5モル以下であることが好ましく、0.001モル以上0.4モル以下であることがより好ましく、0.005モル以上0.25モル以下であることがさらにこのましい。
【0113】
また、分岐化工程時及び/又はその後、さらにモノマーを追添加して、分岐化後に重合工程を継続してもよく、モノマーの追添加の後でさらに分岐化剤を投入し、モノマーを添加と繰り返してもよい。
【0114】
モノマーを追加することで、分岐点周辺の立体障害の緩和により、重合の継続性の向上とカップリング率及び変性率向上という効果が得られる。これにより、重合体の分子量を増加しつつ、所望の位置で分岐を形成することができる。
【0115】
追加するモノマーは、スチレン等の芳香族ビニルでもブタジエン等の共役ジエン化合物でもよく、これらの混合物でもよく、最初に重合させるモノマーの種類や比率と同じでも異なってもよいが、重合の継続性の観点からは共役ジエン化合物が好ましい。重合体の耐熱性の向上の観点からは芳香族ビニル化合物を追加することが好ましい。
【0116】
また、上述したように、分岐化工程時及び/又はその後、さらにモノマーを追添加して、分岐化後に重合工程を継続してもよく、モノマーの追添加の後でさらに分岐化剤を投入し、モノマーを添加と繰り返してもよい。
【0117】
モノマーを追加することで、分岐点周辺の立体障害の緩和により、重合の継続性の向上と変性率及び変性率向上という効果が得られる。これにより、重合体の分子量を増加しつつ、所望の位置で分岐を形成することができる。
【0118】
追加するモノマーは、スチレン等の芳香族ビニルでもブタジエン等の共役ジエン化合物でもこれらの混合物でもよく、最初に重合させるモノマーの種類や比率と同じでも異なってもよいが、重合の継続性の観点からは共役ジエン化合物が好ましい。重合体の耐熱性の向上の観点からは芳香族ビニル化合物を追加することが好ましい。
【0119】
変性共役ジエン系重合体を製造する場合、絶対分子量の範囲が100000以上1000000以下に到達するためには、分岐化剤の添加量を重合開始剤に対してモル比で3分の1以下であり50分の1以上の範囲で制御することで、分岐を形成させながらも重合開始剤が変性工程前にすべて消費されるのを防ぎつつ、変性剤の官能基数を2官能以上にすることが好ましく、重量平均分子量の範囲が200000以上900000以下に到達するためには、分岐化剤の添加量を重合開始剤に対してモル比で3分の1以下であり50分の1以上の範囲で制御することで達成できる。
【0120】
(変性工程)
本実施形態の変性共役ジエン系重合体の製造方法においては、上述した重合工程、分岐工程を経て得られた共役ジエン系重合体の活性末端に対して、1級又は2級のアミンを形成しうる保護化アミンを分子中に有する変性剤と反応させることを変性工程という。前述の変性剤と共にその他の変性剤又はカップリング剤を用いてもよい。その他の変性剤又はカップリング剤としては、上記重合工程及び分岐化工程により得られる共役ジエン系重合体の活性末端と反応し得る化合物であれば特に限定されず、共役ジエン系重合体の変性剤又はカップリング剤として公知の化合物を用いることができる。
【0121】
その他の変性剤又はカップリング剤を使用する場合、その使用割合は、10モル%以下とすることが好ましく、5モル%以下とすることがより好ましい。
当該変性工程によって重合体鎖の分岐数が多く、かつシリカと相互作用する基で変性された変性共役ジエン系重合体を得ることができる。
【0122】
1級又は2級のアミンを形成しうる保護化アミンをもつ変性剤として、不飽和結合と保護化アミンを分子中に有する化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、4,4’-ビニリデンビス〔N,N-ビス(トリメチルシリル)アニリン〕、4,4’-ビニリデンビス〔N,N-ビス(トリエチルシリル)アニリン〕、4,4’-ビニリデンビス〔N,N-ビス(t-ブチルジメチルシリル)アニリン〕、4,4’-ビニリデンビス〔N-メチル-N-(トリメチルシリル)アニリン〕、4,4’-ビニリデンビス〔N-エチル-N-(トリメチルシリル)アニリン〕、4,4’-ビニリデンビス〔N-メチル-N-(トリエチルシリル)アニリン〕、4,4’-ビニリデンビス〔N-エチル-N-(トリエチルシリル)アニリン〕、4,4’-ビニリデンビス〔N-メチル-N-(t-ブチルジメチルシリル)アニリン〕、4,4’-ビニリデンビス〔N-エチル-N-(t-ブチルジメチルシリル)アニリン〕、1-〔4-N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノフェニル〕-1-〔4-N-メチル-N-(トリメチルシリル)アミノフェニル〕エチレン、及び1-〔4-N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノフェニル〕-1-〔4-N,N-ジメチルアミノフェニル〕エチレン等が挙げられる。
【0123】
本実施形態においては、変性工程後、又は変性工程前に、縮合促進剤の存在下で縮合反応させる縮合反応工程をさらに行ってもよい。
【0124】
本実施形態の共役ジエン系重合体は、共役ジエン重合体鎖における共役ジエン部を水素化してもよい。共役ジエン系重合体の共役ジエン部を水素化する方法は、特に限定されず、公知の方法が利用できる。
【0125】
好適な水素化の方法としては、触媒の存在下、重合体溶液に気体状水素を吹き込む方法で水素化する方法が挙げられる。触媒としては、特に限定されないが、例えば、貴金属を多孔質無機物質に担持させた触媒等の不均一系触媒;ニッケル、コバルト等の塩を可溶化し有機アルミニウム等と反応させた触媒、チタノセン等のメタロセンを用いた触媒等の均一系触媒が挙げられる。これら中でも、マイルドな水素化条件を選択できる観点から、チタノセン触媒が好ましい。また、芳香族基の水素化は、貴金属の担持触媒を用いることによって行うことができる。
【0126】
水素化触媒としては、特に限定されないが、例えば、(1)Ni,Pt,Pd,Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水添触媒、(2)Ni,Co,Fe,Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒、(3)Ti,Ru,Rh,Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等が挙げられる。さらに、水素化触媒として、特に限定されないが、例えば、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特公昭63-4841号公報、特公平1-37970号公報、特公平1-53851号公報、特公平2-9041号公報、特開平8-109219号公報に記載された公知の水素化触媒も挙げられる。好ましい水素化触媒としては、チタノセン化合物と還元性有機金属化合物との反応混合物が挙げられる。
【0127】
本実施形態の共役ジエン系重合体の製造方法においては、変性工程の後、重合体溶液に、必要に応じて、失活剤、中和剤等を添加してもよい。
【0128】
失活剤としては、特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール等が挙げられる。
【0129】
中和剤としては、特に限定されないが、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、バーサチック酸(炭素数9~11個で、10個を中心とする、分岐の多いカルボン酸混合物)等のカルボン酸;無機酸の水溶液、炭酸ガスが挙げられる。
【0130】
本実施形態の共役ジエン系重合体の製造方法においては、重合後のゲル生成を防止する観点、及び加工時の安定性を向上させる観点から、ゴム用安定剤を添加することが好ましい。
【0131】
ゴム用安定剤としては、以下のものに限定されず、公知のものを用いることができるが、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(以下「BHT」ともいう。)、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェノール)プロピネート、2-メチル-4,6-ビス[(オクチルチオ)メチル]フェノール等の酸化防止剤が好ましい。
【0132】
本実施形態の共役ジエン系重合体の生産性、充填剤等を配合した組成物としたときの加工性をより改善するために、必要に応じて、ゴム用軟化剤を添加することができる。
【0133】
ゴム用軟化剤としては、特に限定されないが、例えば、伸展油、液状ゴム、樹脂等が挙げられる。
【0134】
ゴム用軟化剤を共役ジエン系重合体に添加する方法としては、特に限定されないが、ゴム用軟化剤を共役ジエン系重合体溶液に加え、混合して、ゴム用軟化剤含有の重合体溶液としたものを脱溶媒する方法が好ましい。
【0135】
好ましい伸展油としては、例えば、アロマ油、ナフテン油、パラフィン油等が挙げられる。これらの中でも、環境安全上の観点、並びにオイルブリード防止及びウェットグリップ特性の観点から、IP346法による多環芳香族(PCA)成分が3質量%以下であるアロマ代替油が好ましい。アロマ代替油としては、Kautschuk Gummi Kunststoffe 52(12)799(1999)に示されるTDAE(Treated Distillate Aromatic Extracts)、MES(Mild Extraction Solvate)等の他、RAE(Residual Aromatic Extracts)が挙げられる。
【0136】
好ましい液状ゴムとしては、特に限定されないが、例えば、液状ポリブタジエン、液状、スチレン?ブタジンゴム等が挙げられる。
【0137】
液状ゴムを添加した際の効果として、共役ジエン系重合体と充填剤等とを配合した組成物としたときの加工性を改善することに加え、組成物のカラス転移温度を低温側にシフトできることで、加硫物としたときにおける耐摩耗性、低ヒステリシスロス性、及び低温特性を改良する傾向にある。
【0138】
好ましい樹脂としては、特に限定されないが、例えば、芳香族系石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、テルペン系樹脂、ロジン誘導体(桐油樹脂を含む)、トール油、トール油の誘導体、ロジンエステル樹脂、天然及び合成のテルペン樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、混合脂肪族?芳香族炭化水素樹脂、クマリン?インデン樹脂、フェノール樹脂、p?tert?ブチルフェノール?アセチレン樹脂、フェノール?ホルムアルデヒド樹脂、キシレン?ホルムアルデヒド樹脂、モノオレフィンのオリゴマー、ジオレフィンのオリゴマー、芳香族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、水素化芳香族炭化水素樹脂、環式脂肪族炭化水素樹脂、水素化炭化水素樹脂、炭化水素樹脂、水素化桐油樹脂、水素化油樹脂、水素化油樹脂と単官能又は多官能アルコールとのエステル等が挙げられる。これら樹脂は、1種類で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。水素化する場合、不飽和基を全て水添してもよいし、一部残してもよい。
【0139】
樹脂を添加した際の効果として、共役ジエン系重合体と充填剤等とを配合した組成物としたときの加工性を改善することに加え、加硫物としたときにおける破壊強度を改良する傾向にあり、また組成物のカラス転移温度を高温側にシフトできることで、ウェットスキッド抵抗性を改良する傾向にある。
【0140】
ゴム用軟化剤としての、伸展油、液状ゴム又は樹脂等の添加量は、特に限定されないが、本実施形態の変性共役ジエン系重合体100質量部に対し、好ましくは1質量部以上60質量部以下、より好ましくは5質量部以上50質量部以下、さらに好ましくは10質量部以上37.5質量部以下である。
【0141】
ゴム用軟化剤を前記範囲内で添加すると、共役ジエン系重合体と充填剤等とを配合した組成物としたときの加工性が良好となり、加硫物としたときにおける破壊強度及び耐摩耗性が良好となる傾向にある。
【0142】
(脱溶媒工程)
本実施形態の共役ジエン系重合体の製造方法において、得られた共役ジエン系重合体を、重合体溶液から取得する方法としては、公知の方法を用いることができる。その方法として、特に限定されないが、例えば、スチームストリッピング等で溶媒を分離した後、重合体を濾別し、さらにそれを脱水及び乾燥して重合体を取得する方法、フラッシングタンクで濃縮し、さらにベント押出し機等で脱揮する方法、ドラムドライヤー等で直接脱揮する方法が挙げられる。
【0143】
(ゴム組成物)
本実施形態のゴム組成物は、ゴム成分と、当該ゴム成分100質量部に対して5.0質量部以上150質量部以下の充填剤とを含有する。
また、前記ゴム成分は、低ヒステリシスロス性能、加工性、耐摩耗性向上の観点から、当該ゴム成分の総量(100質量%)に対して、上述した共役ジエン系重合体を10質量%以上含む。
【0144】
充填剤は、シリカ系無機充填剤を含むことが好ましい。本実施形態のゴム組成物は、シリカ系無機充填剤を含むことで、加硫物とする際の加工性により優れる傾向にあり、加硫物としたときにおける耐摩耗性、破壊強度、及び低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスにより優れる傾向にある。
【0145】
本実施形態のゴム組成物が、タイヤ、防振ゴム等の自動車部品、靴等の加硫ゴム用途に用いられる場合にも、シリカ系無機充填剤を含むことが好ましい。
【0146】
本実施形態のゴム組成物は、上述の共役ジエン系重合体以外のゴム状重合体(以下、単に「ゴム状重合体」という。)を、上述の共役ジエン系重合体と組み合わせて使用できる。
【0147】
このようなゴム状重合体としては、特に限定されないが、例えば、共役ジエン系重合体又はその水素添加物、共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体又はその水素添加物、共役ジエン系化合物とビニル芳香族化合物とのブロック共重合体又はその水素添加物、非ジエン系重合体、天然ゴムが挙げられる。
【0148】
具体的なゴム状重合体としては、特に限定されないが、例えば、ブタジエンゴム又はその水素添加物、イソプレンゴム又はその水素添加物、スチレン-ブタジエンゴム又はその水素添加物、スチレン-ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物、スチレン-イソプレンブロック共重合体又はその水素添加物等のスチレン系エラストマー、アクリロニトリル-ブタジエンゴム又はその水素添加物が挙げられる。
【0149】
非ジエン系重合体としては、特に限定されないが、例えば、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴム、エチレン-ブテンゴム、エチレン-ヘキセンゴム、エチレン-オクテンゴム等のオレフィン系エラストマー、ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α、β-不飽和ニトリル-アクリル酸エステル-共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、及び多硫化ゴムが挙げられる。
【0150】
天然ゴムとしては、特に限定されないが、例えば、スモークドシートであるRSS3~5号、SMR、エポキシ化天然ゴムが挙げられる。
【0151】
上述した各種ゴム状重合体は、水酸基、アミノ基等の極性を有する官能基を付与した変性ゴムであってもよい。タイヤ用に用いる場合、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、天然ゴム、及びブチルゴムが好ましく用いられる。
【0152】
ゴム状重合体の重量平均分子量は、性能と加工特性とのバランスの観点から、2000以上2000000以下であることが好ましく、5000以上1500000以下であることがより好ましい。また、低分子量のゴム状重合体、いわゆる液状ゴムを用いることもできる。これらのゴム状重合体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0153】
本実施形態のゴム組成物を上述の共役ジエン系重合体とゴム状重合体とを含むゴム組成物とする場合において、ゴム状重合体に対する上述の共役ジエン系重合体の含有比率(質量比)は、(上述の共役ジエン系重合体/ゴム状重合体)として、10/90以上100/0以下が好ましく、20/80以上90/10以下がより好ましく、50/50以上80/20以下がさらに好ましい。
【0154】
したがって、ゴム成分は、該ゴム成分の総量(100質量部)に対して、上述の共役ジエン系重合体を、好ましくは10質量部以上100質量部以下含み、より好ましくは20質量部以上90質量部以下含み、さらに好ましくは50質量部以上80質量部以下含む。
【0155】
(上述の共役ジエン系重合体/ゴム状重合体)の含有比率が上記範囲であると、加硫物としたときにおける耐摩耗性、破壊強度に優れ、低ヒステリシスロス性とウェットスキッド抵抗性とのバランスも満足する。
【0156】
本実施形態のゴム組成物に含まれる充填剤としては、特に限定されないが、例えば、シリカ系無機充填剤、カーボンブラック、金属酸化物、金属水酸化物が挙げられる。これらの中でも、シリカ系無機充填剤が好ましい。
充填剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0157】
本実施形態のゴム組成物中の充填剤の含有量は、上述の共役ジエン系重合体を含むゴム成分100質量部に対して、5.0質量部以上150質量部であり、20質量部以上100質量部以下が好ましく、30質量部以上90質量部以下がより好ましい。
【0158】
本実施形態のゴム組成物において、充填剤の含有量は、充填剤の添加効果が発現する観点から、ゴム成分100質量部に対して、5.0質量部以上であり、充填剤を十分に分散させ、組成物の加工性及び機械強度を実用的に十分なものとする観点から、ゴム成分100質量部に対して、150質量部以下である。
【0159】
シリカ系無機充填剤としては、特に限定されず、公知のものを用いることができるが、SiO2又はSi3Alを構成単位として含む固体粒子が好ましく、SiO2又はSi3Alを構成単位の主成分として含む固体粒子がより好ましい。ここで、主成分とは、シリカ系無機充填剤中に50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有される成分をいう。
【0160】
具体的なシリカ系無機充填剤としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、クレイ、タルク、マイカ、珪藻土、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、ガラス繊維等の無機繊維状物質が挙げられる。また、表面を疎水化したシリカ系無機充填剤、シリカ系無機充填剤とシリカ系以外の無機充填剤との混合物も挙げられる。これらの中でも、強度及び耐摩耗性等の観点から、シリカ及びガラス繊維が好ましく、シリカがより好ましい。シリカとしては、例えば、乾式シリカ、湿式シリカ、合成ケイ酸塩シリカが挙げられる。これらのシリカの中でも、破壊強度の改良効果及びウェットスキッド抵抗性のバランスに優れる観点から、湿式シリカが好ましい。
【0161】
ゴム組成物の実用上良好な耐摩耗性及び破壊強度を得る観点から、シリカ系無機充填剤のBET吸着法で求められる窒素吸着比表面積は、100m2/g以上300m2/g以下であることが好ましく、170m2/g以上250m2/g以下であることがより好ましい。また必要に応じて、比較的比表面積が小さい(例えば、比表面積が200m2/g以下の)シリカ系無機充填剤と、比較的比表面積の大きい(例えば、200m2/g以上の)シリカ系無機充填剤)と、を組み合わせて用いることができる。本実施形態において、特に比較的比表面積の大きい(例えば、200m2/g以上の)シリカ系無機充填剤を用いる場合に、上述の共役ジエン系重合体を含む組成物は、シリカの分散性を改善し、特に耐摩耗性の向上に効果があり、良好な破壊強度と低ヒステリシスロス性とを高度にバランスさせることができる傾向にある。
【0162】
ゴム組成物中のシリカ系無機充填剤の含有量は、共役ジエン系重合体を含むゴム成分100質量部に対して、5.0質量部以上150質量部が好ましく、20質量部以上100質量部以下がより好ましい。本実施形態のゴム組成物において、シリカ系無機充填剤の含有量は、無機充填剤の添加効果が発現する観点から、ゴム成分100質量部に対して、5.0質量部以上であり、無機充填剤を十分に分散させ、組成物の加工性及び機械強度を実用的に十分なものとする観点から、ゴム成分100質量部に対して、150質量部以下である。
【0163】
カーボンブラックとしては、特に限定されないが、例えば、SRF、FEF、HAF、ISAF、SAF等の各クラスのカーボンブラックが挙げられる。これらの中でも、窒素吸着比表面積が50m2/g以上、かつ、ジブチルフタレート(DBP)吸油量が80mL/100g以下のカーボンブラックが好ましい。
【0164】
本実施形態のゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は、共役ジエン系重合体を含むゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上100質量部以下が好ましく、3.0質量部以上100質量部以下がより好ましく、5.0質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。本実施形態のゴム組成物において、カーボンブラックの含有量は、ドライグリップ性能、導電性等のタイヤ等の用途に求められる性能を発現する観点から、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上とすることが好ましく、分散性の観点から、ゴム成分100質量部に対して、100質量部以下とすることが好ましい。
【0165】
金属酸化物とは、化学式MxOy(Mは、金属原子を示し、x及びyは、各々独立して、1~6の整数を示す。)を構成単位の主成分とする固体粒子のことをいう。
【0166】
金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、及び酸化亜鉛が挙げられる。
【0167】
金属水酸化物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化ジルコニウムが挙げられる。
【0168】
本実施形態のゴム組成物は、シラン変性剤を含んでもよい。シラン変性剤は、ゴム成分と無機充填剤との相互作用を緊密にする機能を有しており、ゴム成分及びシリカ系無機充填剤のそれぞれに対する親和性又は結合性の基を有しており、硫黄結合部分とアルコキシシリル基又はシラノール基部分とを一分子中に有する化合物が好ましい。このような化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビス-[3-(トリエトキシシリル)-プロピル]-テトラスルフィド、ビス-[3-(トリエトキシシリル)-プロピル]-ジスルフィド、ビス-[2-(トリエトキシシリル)-エチル]-テトラスルフィドが挙げられる。
【0169】
本実施形態のゴム組成物において、シラン変性剤の含有量は、上述した無機充填剤100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下が好ましく、0.5質量部以上20質量部以下がより好ましく、1.0質量部以上15質量部以下がさらに好ましい。シラン変性剤の含有量が上記範囲であると、シラン変性剤による上記添加効果を一層顕著なものにできる傾向にある。
【0170】
本実施形態のゴム組成物は、その加工性の改良を図る観点から、ゴム用軟化剤を含んでもよい。
【0171】
ゴム用軟化剤の添加量は、上述の共役ジエン系重合体を含むゴム成分100質量部に対して、予め上述の共役ジエン系重合体や他のゴム状重合体に含有してある、ゴム用軟化剤を含んだ量と、ゴム組成物とする際に添加するゴム用軟化剤の総量で表される。
【0172】
ゴム用軟化剤としては、鉱物油、又は、液状若しくは低分子量の合成軟化剤が好適である。
【0173】
ゴムの軟化、増容、及び加工性の向上を図るために使用されているプロセスオイル又はエクステンダーオイルと呼ばれる鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族環、ナフテン環、及びパラフィン鎖の混合物であり、パラフィン鎖の炭素数が全炭素中50%以上を占めるものがパラフィン系と呼ばれ、ナフテン環炭素数が全炭素中30%以上45%以下を占めるものがナフテン系、芳香族炭素数が全炭素中30%を超えて占めるものが芳香族系と呼ばれている。本実施形態の共役ジエン系重合体が共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物との共重合体である場合、用いるゴム用軟化剤としては、適度な芳香族含量を有するものが共重合体との馴染みがよい傾向にあるため好ましい。
【0174】
本実施形態のゴム組成物において、ゴム用軟化剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0質量部以上100質量部以下が好ましく、10質量部以上90質量部以下がより好ましく、30質量部以上90質量部以下がさらに好ましい。ゴム用軟化剤の含有量がゴム成分100質量部に対して100質量部以下であることで、ブリードアウトを抑制し、ゴム組成物表面のベタツキを抑制する傾向にある。
【0175】
共役ジエン系重合体とその他のゴム状重合体、シリカ系無機充填剤、カーボンブラックやその他の充填剤、シラン変性剤、ゴム用軟化剤等の添加剤を混合する方法については、特に限定されないが、例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶解混合後、溶剤を加熱除去する方法が挙げられる。これらのうち、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機による溶融混練法が生産性、良混練性の観点から好ましい。また、ゴム成分とその他の充填剤、シラン変性剤、及び添加剤とを一度に混練する方法、複数の回数に分けて混合する方法のいずれも適用可能である。
【0176】
本実施形態のゴム組成物は、加硫剤により加硫処理を施した加硫組成物としてもよい。加硫剤としては、特に限定されないが、例えば、有機過酸化物及びアゾ化合物等のラジカル発生剤、オキシム化合物、ニトロソ化合物、ポリアミン化合物、硫黄、硫黄化合物が挙げられる。硫黄化合物には、一塩化硫黄、二塩化硫黄、ジスルフィド化合物、高分子多硫化合物等が含まれる。本実施形態のゴム組成物において、加硫剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましく、0.1質量部以上15質量部以下がより好ましい。加硫方法としては、従来公知の方法を適用でき、加硫温度は、120℃以上200℃以下が好ましく、より好ましくは140℃以上180℃以下である。
【0177】
加硫に際しては、必要に応じて加硫促進剤を用いてもよい。加硫促進剤としては、従来公知の材料を用いることができ、特に限定されないが、例えば、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、チオ尿素系、ジチオカルバメート系の加硫促進剤が挙げられる。また、加硫助剤としては、特に限定されないが、例えば、亜鉛華、ステアリン酸が挙げられる。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましく、0.1質量部以上15質量部以下がより好ましい。
【0178】
本実施形態のゴム組成物には、本発明の目的を損なわない範囲内で、上述した以外のその他の軟化剤及び充填剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、滑剤等の各種添加剤を用いてもよい。その他の軟化剤としては、公知の軟化剤を用いることができる。その他の充填剤としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウムが挙げられる。上記の耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、老化防止剤、着色剤、潤滑剤としては、それぞれ公知の材料を用いることができる。
【0179】
本実施形態のゴム組成物は、タイヤ用ゴム組成物として好適に用いられる。すなわち、本実施形態のタイヤは、本実施形態のゴム組成物を含有する。
【0180】
タイヤ用ゴム組成物としては、特に限定されないが、例えば、省燃費タイヤ、オールシーズンタイヤ、高性能タイヤ、スタッドレスタイヤ等の各種タイヤ:トレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部等のタイヤ各部位への利用が可能である。特に、タイヤ用ゴム組成物は、加硫物としたときに耐摩耗性能、及び低ヒステリシスロス性に優れているので、省燃費タイヤ、高性能タイヤのトレッド用として、好適に用いられる。
【実施例
【0181】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて、本実施形態を更に詳しく説明するが、本実施形態は以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。実施例及び比較例における各種の物性は下記に示す方法により測定した。
【0182】
(物性1)分子量
測定条件1:(変性)共役ジエン系重合体を試料として、ポリスチレン系ゲルを充填剤としたカラムを3本連結したGPC測定装置(東ソー社製の商品名「HLC-8320GPC」)を使用して、RI検出器(東ソー社製の商品名「HLC8020」)を用いてクロマトグラムを測定し、標準ポリスチレンを使用して得られる検量線に基づいて、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)と分子量分布(Mw/Mn)とを求めた。
溶離液は5mmol/Lのトリエチルアミン入りTHF(テトラヒドロフラン)を使用した。カラムは、東ソー社製の商品名「TSKgel SuperMultiporeHZ-H」を3本接続し、その前段にガードカラムとして東ソー社製の商品名「TSKguardcolumn SuperMP(HZ)-H」を接続して使用した。
測定用の試料10mgを10mLのTHFに溶解して測定溶液とし、測定溶液10μLをGPC測定装置に注入して、オーブン温度40℃、THF流量0.70mL/分の条件で測定した。
【0183】
(物性2)変性率
変性共役ジエン系重合体における変性率をカラム吸着GPC法で以下のとおり測定した。変性共役ジエン系重合体を試料として、シリカ系ゲルを充填剤としたGPCカラムに、変性した塩基性重合体成分が吸着する特性を応用することにより、測定した。
試料及び低分子量内部標準ポリスチレンを含む試料溶液を、ポリスチレン系カラムで測定したクロマトグラムと、シリカ系カラムで測定したクロマトグラムと、の差分よりシリカ系カラムへの吸着量を測定し、変性率を求めた。
具体的には、以下に示すとおりである。また、上記の(物性4)の測定条件1で測定、その分子量分布の値が1.6以上であった試料に対しては下記の測定条件2で測定した。
試料溶液の調製 : 試料10mg及び標準ポリスチレン5mgを20mLのTHFに溶解させて、試料溶液とした。
測定条件2 : ポリスチレン系カラムを用いたGPC測定条件:
東ソー社製の商品名「HLC-8320GPC」を使用して、5mmol/Lのトリエチルアミン入りTHFを溶離液として用い、試料溶液10μLを装置に注入し、カラムオーブン温度40℃、THF流量0.70mL/分の条件で、RI検出器を用いてクロマトグラムを得た。カラムは、東ソー社製の商品名「TSKgel SuperMultiporeHZ-H」を3本接続し、その前段にガードカラムとして東ソー社製の商品名「TSKguardcolumn SuperMP(HZ)-H」を接続して使用した。
変性率の計算方法 : ポリスチレン系カラムを用いたクロマトグラムのピーク面積の全体を100として、試料のピーク面積をP1、標準ポリスチレンのピーク面積をP2、シリカ系カラムを用いたクロマトグラムのピーク面積の全体を100として、試料のピーク面積をP3、標準ポリスチレンのピーク面積をP4として、下記式より変性率(%)を求めた。
変性率(%)=[1-(P2×P3)/(P1×P4)]×100
(ただし、P1+P2=P3+P4=100)
【0184】
(物性3)分岐度(Bn)
(変性)共役ジエン系重合体の分岐度(Bn)は、粘度検出器付きGPC-光散乱法測定法によって以下とおり測定した。(変性)共役ジエン系重合体を試料として、ポリスチレン系ゲルを充填剤としたカラムを3本連結したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定装置(Malvern社製の商品名「GPCmax VE-2001」)を使用して、光散乱検出器、RI検出器、粘度検出器(Malvern社製の商品名「TDA305」)の順番に接続されている3つの検出器を用いて測定し、標準ポリスチレンに基づいて、光散乱検出器とRI検出器結果から絶対分子量を、RI検出器と粘度検出器の結果から固有粘度を求めた。
直鎖ポリマーは、固有粘度[η]=-3.883M0.771に従うものとして用い、各分子量に対応する固有粘度の比としての収縮因子(g’)を算出した。なお、式中、Mは絶対分子量を表す。
その後、得られた収縮因子(g’)を用いてg’=6Bn/[(Bn+1)(Bn+2)]と定義される分岐度(Bn)を算出した。
溶離液は5mmol/Lのトリエチルアミン入りテトラヒドロフラン(以下「THF」とも記す。)を使用した。
カラムは、東ソー社製の商品名「TSKgel G4000HXL」、「TSKgel G5000HXL」、及び「TSKgel G6000HXL」を接続して使用した。
測定用の試料20mgを10mLのTHFに溶解して測定溶液とし、測定溶液100μLをGPC測定装置に注入して、オーブン温度40℃、THF流量1mL/分の条件で測定した。
【0185】
(物性4)GPC-光散乱法測定による分子量(絶対分子量)
(変性)共役ジエン系重合体を試料として、ポリスチレン系ゲルを充填剤としたカラムを3本連結したGPC-光散乱測定装置を使用して、クロマトグラムを測定し、溶液粘度及び光散乱法に基づいて重量平均分子量(Mw-i)を求めた(「絶対分子量」ともいう。)。
溶離液はテトラヒドロフランとトリエチルアミンの混合溶液(THF in TEA:トリエチルアミン5mLをテトラヒドロフラン1Lに混合させ調整した。)を使用した。
カラムは、ガードカラム:東ソー社製の商品名「TSKguardcolumn HHR-H」と、カラム:東ソー社製の商品名「TSKgel G6000HHR」、「TSKgel G5000HHR」、「TSKgel G4000HHR」とを接続して使用した。
オーブン温度40℃、THF流量1.0mL/分の条件で、GPC-光散乱測定装置(マルバーン社製の商品名「Viscotek TDAmax」)を用いた。測定用の試料10mgを20mLのTHFに溶解して測定溶液とし、測定溶液200μLをGPC測定装置に注入して測定した。
【0186】
(物性5)結合スチレン量
ゴム用軟化剤を含まない変性共役ジエン系重合体を試料として、試料100mgを、クロロホルムで100mLにメスアップし、溶解して測定サンプルとした。スチレンのフェニル基による紫外線吸収波長(254nm付近)の吸収量により、試料であるカップリング共役ジエン系重合体100質量%に対しての結合スチレン量(質量%)を測定した(測定装置:島津製作所社製の分光光度計「UV-2450」)。
【0187】
(物性6)ブタジエン部分のミクロ構造(1,2-ビニル結合量)
ゴム用軟化剤を含まない変性共役ジエン系重合体を試料として、試料50mgを、10mLの二硫化炭素に溶解して測定サンプルとした。溶液セルを用いて、赤外線スペクトルを600~1000cm-1の範囲で測定して、所定の波数における吸光度によりハンプトンの方法(R.R.Hampton,Analytical Chemistry 21,923(1949)に記載の方法)の計算式に従い、ブタジエン部分のミクロ構造、すなわち、1,2-ビニル結合量(mol%)を求めた(測定装置:日本分光社製のフーリエ変換赤外分光光度計「FT-IR230」)。
【0188】
(物性7)重合体ムーニー粘度
(変性)共役ジエン系重合体を試料として、ムーニー粘度計(上島製作所社製の商品名「VR1132」)を用い、JIS K6300に準拠し、L形ローターを用いてムーニー粘度を測定した。
測定温度は、未変性の共役ジエン系重合体を試料とする場合には110℃とし、変性共役ジエン系重合体を試料とする場合には100℃とした。
まず、試料を1分間試験温度で予熱した後、ローターを2rpmで回転させ、4分後のトルクを測定してムーニー粘度(ML(1+4))とした。
【0189】
(物性8)ムーニー緩和率
(変性)共役ジエン系重合体を試料として、ムーニー粘度計(上島製作所社製の商品名「VR1132」)を用い、ISO 289に準拠し、L形ローターを用いてムーニー粘度を測定した後に、即座にローターの回転を停止させ、停止後1.6秒間~5秒間の0.1秒ごとのトルクをムーニー単位で記録し、トルクと時間(秒)を両対数プロットした際の直線の傾きを求め、その絶対値をムーニー緩和率(MSR)とした。
【0190】
(実施例1)変性共役ジエン系重合体(試料1)
内容積が10Lで、内部の高さ(L)と直径(D)との比(L/D)が4.0であり、底部に入口、頂部に出口を有し、攪拌機付槽型反応器である攪拌機及び温度制御用のジャケットを有する槽型圧力容器を重合反応器として2基連結した。
予め水分除去した、1,3-ブタジエンを27.8g/分、スチレンを4.94g/分、n-ヘキサンを108.2g/分の条件で混合した。この混合溶液を反応器の入口に供給する配管の途中に設けたスタティックミキサーにおいて、残存不純物不活性処理用のn-ブチルリチウムを0.062mmol/分で添加、混合した後、反応器の底部に連続的に供給した。更に、極性物質として2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパンを0.067mmol/分の速度で、重合開始剤としてn-ブチルリチウムを0.151mmol/分の速度で、攪拌機で激しく混合する1基目反応器の底部へ供給し、反応器内温を75℃に保持した。
【0191】
1基目反応器頂部より重合体溶液を連続的に抜き出し、2基目反応器の底部に連続的に供給し80℃で反応を継続し、さらに2基目の頂部よりスタティックミキサーへ供給した。重合が十分に安定したところで、1,3-ブタジエンとスチレンとを共重合しながら、2基目の反応基の底部より、分岐化剤としてトリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン(表中、「BS-1」と略す。)を0.0172mmol/分の速度で添加し、分岐構造を有する共役ジエン系重合体を得る重合反応及び分岐化反応を行った。さらに重合反応と分岐化反応が安定した後(変性前)の共役ジエン系重合体溶液を少量抜出し、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように添加した後に溶媒を除去し、各種物性を測定した。測定結果を表1に示す。
次に、反応器の出口より流出した重合体溶液に、変性剤として、1-フェニル-N-(3-(トリエトキシシリル)プロピル)メタンイミン(表中、「a」と略す。)を0.086mmol/分の速度で連続的に添加し、スタティックミキサーを用いて混合し、変性反応した。このとき、反応器の出口より流出した重合体溶液に変性剤が添加されるまでの時間は4.8分、温度は78℃であり、重合工程における温度と、変性剤を添加するまでの温度との差は2℃であった。変性反応後の共役ジエン系重合体溶液を少量抜出し、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように添加した後に溶媒を除去した。
【0192】
次に、変性反応した重合体溶液に、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように0.033g/分(n-ヘキサン溶液)で連続的に添加し、変性反応を終了した。酸化防止剤と同時に、ゴム用軟化剤として重合体100gに対してSRAEオイル(JX日鉱日石エネルギー社製の商品名「JOMOプロセスNC140」)が25.0gとなるように連続的に添加し、スタティックミキサーで混合した。スチームストリッピングにより溶媒を除去して、一部の主鎖に下記式(3)で表される化合物である分岐化剤(以下「分岐化剤構造」とも記す。)由来の4分岐構造を有し、変性剤由来の2分岐星形高分子構造を有する、変性共役ジエン系重合体(試料1)を得た。得られた試料の各種物性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0193】
分岐化剤添加前の重合体、分岐化剤添加後変性前の重合体、及び変性後の各工程における重合体について、GPC測定による分子量と、粘度計付きGPC測定による分岐度との比較により、変性共役ジエン系重合体の構造を同定した。以下、同様に各試料の構造を同定した。
【0194】
【化17】
(式中、Q1は、水素原子、並びにその一部分に分岐構造を有していてもよい、炭素数1~20のアルキル基及び炭素数6~20のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを示し、X1は、単結合、又は炭素原子、水素原子、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基を示し、Y1は、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。)
【0195】
(実施例2~7)変性共役ジエン系重合体(試料2~7)
実施例1の製造条件から、表1に示す実施例2~7の製造条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、一部の主鎖に分岐化剤構造由来の4分岐構造を有し、変性剤由来の2分岐星形高分子構造を有する、変性共役ジエン系重合体(試料2~7)を得た。得られた試料の各種物性を測定した。測定結果を表1に示す。ここで、試料2~5及び7は、一部の主鎖に分岐化剤構造由来の4分岐構造を有し、変性剤由来の2分岐星形高分子構造を有する変性共役ジエン系重合体であり、試料6は、一部の主鎖に分岐化剤構造由来の4分岐構造を有し、変性剤由来の4分岐星形高分子構造を有する変性共役ジエン系重合体であった。表1中に変性剤として示す「b」、「c」、及び「d」はそれぞれ下記の化合物を示す。
「b」:1-〔3-(トリエトキシシリル)-プロピル〕-4-メチルピペラジン
「c」:2,2-ジメチル-N-(3-(トリエトキシシリル)プロピル)プロパン-1-イミン
「d」:N-エチリデンー3-(トリメトキシリル)-1-プロパンアミン
【0196】
(比較例1)共役ジエン系重合体(試料8)
内容積が10Lで、内部の高さ(L)と直径(D)との比(L/D)が4.0であり、底部に入口、頂部に出口を有し、攪拌機付槽型反応器である攪拌機及び温度制御用のジャケットを有する槽型圧力容器を重合反応器として2基連結した。
予め水分除去した、1,3-ブタジエンを16.3g/分、スチレンを10.1g/分、n-ヘキサンを106g/分の条件で混合した。この混合溶液を反応器の入口に供給する配管の途中に設けたスタティックミキサーにおいて、残存不純物不活性処理用のn-ブチルリチウムを0.054mmol/分で添加、混合した後、反応器の底部に連続的に供給した。更に、極性物質として2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパンを0.059mmol/分の速度で、重合開始剤としてn-ブチルリチウムを0.108mmol/分の速度で、攪拌機で激しく混合する1基目反応器の底部へ供給し、反応器内温を75℃に保持した。
【0197】
1基目反応器頂部より重合体溶液を連続的に抜き出し、2基目反応器の底部に連続的に供給し80℃で反応を継続し、さらに2基目の頂部よりスタティックミキサーへ供給した。重合が十分に安定したところで共役ジエン系重合体溶液を少量抜出し、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように添加した後に溶媒を除去した。
【0198】
少量抜き出した後に、酸化防止剤と同時に、ゴム用軟化剤として重合体100gに対してSRAEオイル(JX日鉱日石エネルギー社製の商品名「JOMOプロセスNC140」)が25.0gとなるように連続的に添加し、スタティックミキサーで混合し、共役ジエン系重合体(試料8)を得た。得られた試料の各種物性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0199】
(比較例2)変性共役ジエン系重合体(試料9)
内容積が10Lで、内部の高さ(L)と直径(D)との比(L/D)が4.0であり、底部に入口、頂部に出口を有し、攪拌機付槽型反応器である攪拌機及び温度制御用のジャケットを有する槽型圧力容器を重合反応器として2基連結した。
予め水分除去した、1,3-ブタジエンを27.8g/分、スチレンを5.45g/分、n-ヘキサンを108g/分の条件で混合した。この混合溶液を反応器の入口に供給する配管の途中に設けたスタティックミキサーにおいて、残存不純物不活性処理用のn-ブチルリチウムを0.062mmol/分で添加、混合した後、反応器の底部に連続的に供給した。更に、極性物質として2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパンを0.079mmol/分の速度で、重合開始剤としてn-ブチルリチウムを0.187mmol/分の速度で、攪拌機で激しく混合する1基目反応器の底部へ供給し、反応器内温を75℃に保持した。
【0200】
1基目反応器頂部より重合体溶液を連続的に抜き出し、2基目反応器の底部に連続的に供給し80℃で反応を継続し、さらに2基目の頂部よりスタティックミキサーへ供給した。重合が十分に安定したところで、変性剤添加前の共役ジエン系重合体溶液を少量抜出し、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように添加した後に溶媒を除去し、各種物性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0201】
次に、反応器の出口より流出した重合体溶液に、変性剤として、1-フェニル-N-(3-(トリエトキシシリル)プロピル)メタンイミン(表中、「a」と略す。)を0.086mmol/分の速度で連続的に添加し、スタティックミキサーを用いて混合し、変性反応した。このとき、反応器の出口より流出した重合体溶液に変性剤が添加されるまでの時間は4.8分、温度は78℃であり、重合工程における温度と、変性剤を添加するまでの温度との差は2℃であった。変性反応後の共役ジエン系重合体溶液を少量抜出し、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように添加した後に溶媒を除去した。
【0202】
次に、変性反応した重合体溶液に、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように0.033g/分(n-ヘキサン溶液)で連続的に添加し、変性反応を終了した。酸化防止剤と同時に、ゴム用軟化剤として重合体100gに対してSRAEオイル(JX日鉱日石エネルギー社製 JOMOプロセスNC140)が25.0gとなるように連続的に添加し、スタティックミキサーで混合し、変性共役ジエン系重合体(試料9)を得た。得られた試料の各種物性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0203】
(比較例3)変性共役ジエン系重合体(試料10)
内容積が10Lで、内部の高さ(L)と直径(D)との比(L/D)が4.0であり、底部に入口、頂部に出口を有し、攪拌機付槽型反応器である攪拌機及び温度制御用のジャケットを有する槽型圧力容器を重合反応器として2基連結した。
予め水分除去した、1,3-ブタジエンを25.7g/分、スチレンを5.04g/分、n-ヘキサンを116g/分の条件で混合した。この混合溶液を反応器の入口に供給する配管の途中に設けたスタティックミキサーにおいて、残存不純物不活性処理用のn-ブチルリチウムを0.062mmol/分で添加、混合した後、反応器の底部に連続的に供給した。更に、極性物質として2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパンを0.079mmol/分の速度で、重合開始剤としてn-ブチルリチウムを0.187mmol/分の速度で、攪拌機で激しく混合する1基目反応器の底部へ供給し、反応器内温を75℃に保持した。
【0204】
1基目反応器頂部より重合体溶液を連続的に抜き出し、2基目反応器の底部に連続的に供給し80℃で反応を継続し、さらに2基目の頂部よりスタティックミキサーへ供給した。重合が十分に安定したところで、変性剤添加前の共役ジエン系重合体溶液を少量抜出し、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように添加した後に溶媒を除去し、各種物性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0205】
次に、反応器の出口より流出した重合体溶液に、変性剤として、1-〔3-(トリエトキシシリル)-プロピル〕-4-メチルピペラジン(表中、「b」と略す。)を0.086mmol/分の速度で連続的に添加し、スタティックミキサーを用いて混合し、変性反応した。このとき、反応器の出口より流出した重合体溶液に変性剤が添加されるまでの時間は4.8分、温度は78℃であり、重合工程における温度と、変性剤を添加するまでの温度との差は2℃であった。変性反応後の共役ジエン系重合体溶液を少量抜出し、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように添加した後に溶媒を除去した。
【0206】
次に、変性反応した重合体溶液に、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように0.033g/分(n-ヘキサン溶液)で連続的に添加し、変性反応を終了した。酸化防止剤と同時に、ゴム用軟化剤として重合体100gに対してSRAEオイル(JX日鉱日石エネルギー社製 JOMOプロセスNC140)が25.0gとなるように連続的に添加し、スタティックミキサーで混合し、変性共役ジエン系重合体(資料11)を得た。得られた試料の各種物性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0207】
【表1】
【0208】
(実施例8~14及び比較例4~6)
表1に示す、試料1~10を原料ゴムとして、以下に示す配合に従い、それぞれの原料ゴムを含有するゴム組成物を得た。
【0209】
(ゴム成分)
・(変性)共役ジエン系重合体(試料1~10)
:70質量部(ゴム用軟化剤抜きの質量部)
・ハイシスポリブタジエン(宇部興産社製の商品名「UBEPOL BR150」)
:30質量部
【0210】
(配合条件)
各配合剤の添加量は、ゴム用軟化剤を含まないゴム成分100質量部に対する質量部数で示した。
・シリカ1(エボニック デグサ社製の商品名「Ultrasil 7000GR」
窒素吸着比表面積170m2/g):50.0質量部
・シリカ2(ローディア社製の商品名「Zeosil Premium 200MP」
窒素吸着比表面積220m2/g):25.0質量部
・カーボンブラック(東海カーボン社製の商品名「シーストKH(N339)」)
:5.0質量部
・シラン変性剤(エボニック デグサ社製の商品名「Si75」、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド):6.0質量部
・SRAEオイル(JX日鉱日石エネルギー社製の商品名「プロセスNC140」)
:32.0質量部
(予め、試料1~40中に含まれるゴム用軟化剤として添加した量を含む)
・亜鉛華:2.5質量部
・ステアリン酸:2.0質量部
・老化防止剤(N-(1,3-ジメチルブチル)-N‘-フェニル-p-フェニレンジアミン):1.5質量部
・硫黄:2.2質量部 26
・加硫促進剤1(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフィンアミド)
:1.7質量部
・加硫促進剤2(ジフェニルグアニジン):2.0質量部
・合計:229.9質量部
【0211】
(混練り方法)
上記した材料を次の方法により混練してゴム組成物を得た。温度制御装置を備える密閉混練機(内容量0.3L)を使用し、第一段の混練として、充填率65%、ローター回転数30~50rpmの条件で、原料ゴム(試料1~試料10)、充填剤(シリカ1、シリカ2、カーボンブラック)、シラン変性剤、SRAEオイル、亜鉛華及びステアリン酸を混練した。このとき、密閉混合機の温度を制御し、排出温度は155~160℃で各ゴム組成物(配合物)を得た。
次に、第二段の混練として、上記で得た配合物を室温まで冷却後、老化防止剤を加え、シリカの分散を向上させるため再度混練した。この場合も、混合機の温度制御により、配合物の排出温度を155~160℃に調整した。冷却後、第三段の混練として、70℃に設定したオープンロールにて、硫黄、加硫促進剤1、2を加えて混練した。その後、成型し、160℃で20分間、加硫プレスにて加硫した。下記(評価1)に対して加硫前のゴム組成物及び下記(評価2)~(評価4)に対して加硫後のゴム組成物を評価した。具体的には、下記の方法により評価した。その結果を表2に示す。
【0212】
(評価1)排出物まとまり性
実施例及び比較例に示す方法で製造した未加硫の変性共役ジエン系重合体又は共役ジエン系重合体に関し、加圧ニーダーから排出した直後(混練り1段目における加圧ニーダーによる混練りが終了し、排出された直後)のまとまり(形状)について目視で観察し、以下の基準に基づきパネラー一人当たり4点を満点とし、排出物まとまり性を評価した。このまとまり性は加硫物の加工性の指標である。
V :シートの端部分が50%以下平滑であり、加工性に非常に劣る。
IV :シートの端部分が50%超60%以下平滑であり、加工性に劣る。
III:シートの端部分が60%超80%以下平滑であり、加工性に問題はない。
II :シートの端部分が80%超90%以下平滑であり、加工性に優れる。
I :シートの端部分が90%超平滑であり、加工性に非常に優れる。
【0213】
(評価2)耐摩耗性
アクロン摩耗試験機(安田精機製作所社製)を使用し、JIS K6264-2に準拠して、荷重44.4N、1000回転の摩耗量を測定し、比較例4の結果を100として指数化した。指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
【0214】
(評価3)粘弾性パラメータ
レオメトリックス・サイエンティフィック社製の粘弾性試験機「ARES」を使用し、ねじりモードで粘弾性パラメータを測定した。各々の測定値は、比較例4のゴム組成物に対する結果を100として指数化した。
0℃において周波数10Hz、ひずみ1%で測定したtanδをウェットグリップ性の指標とした。指数が大きいほどウェットグリップ性が良好であることを示す。
また、50℃において周波数10Hz、ひずみ3%で測定したtanδを低ヒステリシスロス性の指標とした。指数が小さいほど低ヒステリシスロス性が良好であることを示す。
【0215】
(評価4)引張強度及び引張伸び
JIS K6251の引張試験法に準拠し、引張強度及び引張伸びを測定し、比較例41の結果を100として指数化した。指数が大きいほど引張強度及び引張伸び(破壊強度)が良好であることを示す。
【0216】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明に係る共役ジエン系重合体は、タイヤトレッド、自動車の内装及び外装品、防振ゴム、ベルト、履物、発砲体、各種工業用品用途等の分野において産業上の利用可能性がある。