(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】潤滑油添加剤
(51)【国際特許分類】
C10M 149/12 20060101AFI20240816BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20240816BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240816BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
C10M149/12
C10N40:25
C10N30:06
C10N20:04
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020089287
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-03-06
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500010875
【氏名又は名称】インフィニューム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー ジェイムズ ストロング
(72)【発明者】
【氏名】ベアトリス ニコル カトス
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ダグラス シュワルツ
(72)【発明者】
【氏名】レムジ ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】ベン ドレイン
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04120804(US,A)
【文献】特開2017-222858(JP,A)
【文献】特表2018-521167(JP,A)
【文献】米国特許第04702854(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0066891(US,A1)
【文献】特表2018-513262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油組成物であって、
前記組成物の質量に基づいて少なくとも50質量パーセントの潤滑粘度の油と、
前記組成物の質量に基づいて0.01~25質量パーセントのユニット(a)
および(c)を含み、並びにユニット(b)
を含
んでもよいポリマーと、を含み:
【化1】
ユニット(a)、(b)、および(c)の総数(n)は、4~500の整数であり;
x、y、およびzは独立して2または3であり;kは0または1であり;
前記ポリマーが、無機または有機求核重合停止基(t)と、ユニット(a)、(b)、または(c)のN原子に接続された開始基(i)とを有し
;
R
1は、1~50個の炭素原子を有し、一部若しくは全てが12~50個の炭素原子を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状ヒドロカルビル基の、または50個よりも多くの炭素原子を有する少なくとも1つのマクロモノマーヒドロカルビル基の、単一物または混合物を含み;
R
2は、1~30個の炭素原子を有する置換または非置換ヒドロカルビル基を含み、直鎖状若しくは分岐状若しくは環状、飽和若しくは不飽和、または芳香族であってもよい、前記潤滑油組成物。
【請求項2】
R
1は1~36個の炭素原子を含有する(但しR
1基の一部または全ては、12~36個の炭素原子を有する)、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記ポリマー中のR
1基の総数の少なくとも5%は、8~20個の炭素原子
の炭素原子を有する不飽和ヒドロカルビル基を含む、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
R
1基は、トール油脂肪酸および菜種油脂肪酸等の天然脂肪酸から得られる、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
R
2は、-(CH
2)
mCCH基(mは1から10までの整数である);1,2,3-トリアゾール基により末端が置換されているヒドロカルビル基;または1つ若しくは複数のチオエーテル基により末端が置換されているヒドロカルビル基である、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
R
2
は、1,2,3-トリアゾール基により末端が置換されたヒドロカルビル基を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
R
2
は、1~50個の炭素原子を有するヒドロカルビル基で置換された1,2,3-トリアゾール基により末端が置換されたヒドロカルビル基を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
ユニット(c)が、構造(II)を有し:
【化2】
式中、R
3
は、1~50個の炭素原子を有するヒドロカルビル基または置換ヒドロカルビル基である、請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
R
3
は、置換ヒドロカルビル基である、請求項8に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
R
3
は、ヘキサデシルまたは2-エチルヘキシルである、請求項8に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
前記ポリマーは、ユニット(b)を含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
nは、10
~300
である、請求項1~
11のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
前記ユニット(a)
および(c)を含み、並びにユニット(b)
を含
んでもよいポリマーとは異なる1つまたは複数の添加助剤を含み、前記1つまたは複数の添加助剤が、1つまたは複数のリン含有化合物;酸化防止剤または抗酸化剤;分散剤;金属含有界面活性剤;抗摩耗剤;摩擦調整剤;および粘度調整剤から選択される、請求項1~
12のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
前記組成物の質量に基づき少なくとも60質量%の
潤滑粘度の油を含む、請求項1~
13のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
内燃機関のクランクケースを潤滑するための方法であって、前記機関を稼働させるステップ、および請求項1~
14のいずれか一項に記載の潤滑油組成物で前記クランクケースを潤滑するステップを含む方法。
【請求項16】
ユニット(a)
および(c)を含み、並びにユニット(b)
を含
んでもよいポリマーの、内燃機関用の潤滑油組成物中における、前記機関の稼働時に摩擦低減特性を前記潤滑油組成物に与えるための使用であって:
【化3】
ユニット(a)、(b)、および(c)の総数(n)は、4~500の整数であり;
x、y、およびzは独立して2または3であり;kは0または1であり;
前記ポリマーが、無機または有機求核重合停止基(t)と、ユニット(a)、(b)、または(c)のN原子に接続された開始基(i)とを有し
;
R
1は、1~50個の炭素原子を有し、一部若しくは全てが12~50個の炭素原子を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状ヒドロカルビル基の、または50個よりも多くの炭素原子を有する少なくとも1つのマクロモノマーヒドロカルビル基の、単一物または混合物を含み;
R
2は、1~30個の炭素原子を有する置換または非置換ヒドロカルビル基を含み、直鎖状若しくは分岐状若しくは環状、飽和若しくは不飽和、または芳香族であってもよい、前記使用。
【請求項17】
ユニット(c)が、構造(II)を有し:
【化4】
式中、R
3
は、1~50個の炭素原子を有するヒドロカルビル基または置換ヒドロカルビル基である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
R
3
は、置換ヒドロカルビル基である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
R
3
は、ヘキサデシルまたは2-エチルヘキシルである、請求項17に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば火花点火式または圧縮点火内燃機関のクランクケースを潤滑するのに有用なポリマー添加剤を含有する潤滑油組成物に関する。さらに特に、添加剤は、潤滑油に摩擦調整特性を提供し、オキサゾリンモノマーまたはオキサジンモノマーに由来するユニットを含有するポリマーである。また、ポリマーは、基油への良好な溶解性を有し、潤滑剤粘度に対して悪影響を及ぼさない。
【背景技術】
【0002】
ガソリンおよびディーゼルエンジンの燃料経済性向上には多くの関心が寄せられている。これは、バルク流体の摩擦寄与を低減するか(油粘度を低下させることにより)または摩擦調整添加剤の介在により接触部分の摩擦を改善させるかのいずれかにより、潤滑剤エンジン油を介して行うことができる。
従って、低粘度油において低摩擦特性を有する添加剤に対する関心が寄せられている。
潤滑油に使用される添加剤は、油が長期保管下で安定を維持するために良好な溶解度を有することも重要である。
分散性粘度調整剤(DVM)添加剤は、摩擦調整を提供することが公知である。ポリマー技術に基づく当技術分野で公知の例は、オレフィンコポリマー(OCP)およびメタクリル酸コポリマーである。特に、0W-8、0W-16、0W-20等の超低粘度潤滑流体を必要とする応用におけるそのような添加剤に関する問題は、それらの増粘効率が高いことである。
【0003】
ポリ(2-オキサゾリン)は、当技術分野で公知である。例えば、当技術分野には、2-オキサゾリンのリビングカチオン開環重合が記載されている。非特許文献1を参照されたい。特許文献1には、スラッジの形成を防止若しくは低減するかまたは潤滑油中の酸性成分等を中和するための分散剤としての、2~15個の反復単位を有するポリ(2-オキサゾリン)の短鎖オリゴマーの使用が記載されている。重合開始剤は、分子量が250以上のポリマー材料であり、オキサゾリンは、1~18個の炭素原子のヒドロカルビル基で2-置換されている。摩擦調整や潤滑剤粘度の影響は言及されていない。
【0004】
ポリオキサジンも、当技術分野で公知である。非特許文献2を参照されたい。特許文献2には、一定のポリオキサジンが、水性廃棄物流からのフェノール化合物を除去するのに有用であると記載されている。
特許文献3には、オキサゾリン系コポリマーおよびオキサジン系コポリマーの両方の、プラスチック等の非電導性の材料を電導性にするための添加剤としての使用が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第4,120,804号明細書
【文献】米国特許第4,001,147号明細書
【文献】米国特許第5,439,978号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hoogenboomら、Angew.Chem.Int.Ed、2009年、48巻、7978~7994頁
【文献】Hoogenboomら、Macromol.,2011、3420
【発明の概要】
【0007】
第1の態様では、本発明は、潤滑油組成物であって、前記組成物の質量に基づいて少なくとも50質量パーセントの潤滑粘度の油と、前記組成物の質量に基づいて0.01~25質量パーセントのユニット(a)並びにユニット(b)および(c)の一方または両方を含むポリマーと、を含み:
【0008】
【化1】
ユニット(a)、(b)、および(c)の総数(n)は、4~500の整数であり、
x、y、およびzは独立して2または3であり、kは0または1であり、
前記ポリマーが、無機または有機求核重合停止基(t)と、ユニット(a)、(b)、または(c)のN原子に接続された開始基(i)とを有し、開始基(i)は、直鎖状、分岐状、または環状ヒドロカルビル部分の重合の開始に効果的であり、
R
1は、1~50個の炭素原子を有し、一部若しくは全てが12~50個の炭素原子を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状ヒドロカルビル基の、または50個よりも多くの炭素原子を有する少なくとも1つのマクロモノマーヒドロカルビル基の、単一物または混合物を含み、
R
2は、1~30個の炭素原子を有する置換または非置換ヒドロカルビル基を含み、直鎖状若しくは分岐状若しくは環状、飽和若しくは不飽和、または芳香族であってもよい、潤滑油組成物を提供する。
【0009】
好ましい実施形態では、R2基は、1つまたは複数のヘテロ原子、官能基を有していてもよい置換ヒドロカルビル基であるか、他の部分との反応により修飾されている置換ヒドロカルビル基である。これにより、ポリマーには、潤滑油組成物中で使用されると追加の利益を提供することができる化学的および/または物理的特性が提供される。好適なR2基の一部の非限定的な例は、以下の記載から明白になるだろう。
【0010】
第2の態様では、本発明は、内燃機関のクランクケースを潤滑するための方法であって、エンジンを稼働させるステップ、およびクランクケース潤滑剤の形態である本発明の第1の態様の潤滑組成物でクランクケースを潤滑するステップを含む方法を提供する。
【0011】
第3の態様では、本発明は、ユニット(a)並びにユニット(b)および(c)の一方または両方を含むポリマーの、内燃機関用の潤滑油組成物中における、前記機関の稼働時に摩擦低減特性を潤滑油組成物に与えるための使用であって:
【0012】
【化2】
ユニット(a)、(b)、および(c)の総数(n)は、4~500の整数であり、
x、y、およびzは独立して2または3であり、kは0または1であり、
前記ポリマーが、無機または有機求核重合停止基(t)と、ユニット(a)、(b)、または(c)のN原子に接続された開始基(i)とを有し、開始基(i)は、直鎖状、分岐状、または環状ヒドロカルビル部分の重合の開始に効果的であり、
R
1は、1~50個の炭素原子を有し、一部若しくは全てが12~50個の炭素原子を有する直鎖状、分岐状、若しくは環状ヒドロカルビル基の、または50個よりも多くの炭素原子を有する少なくとも1つのマクロモノマーヒドロカルビル基の単一物または混合物を含み、
R
2は、1~30個の炭素原子を有する置換または非置換ヒドロカルビル基を含み、直鎖状若しくは分岐状若しくは環状、飽和若しくは不飽和、または芳香族であってもよい、前記使用を提供する。
【0013】
欧州特許出願公開第3257921号明細書および同時係争中出願である欧州特許出願第18199179.5号明細書、欧州特許出願第18203212.8号明細書、および欧州特許出願第18199804.8号明細書に記載されているように、ポリマーのユニット(a)、(b)、および(c)は、x、y、若しくはzが2と等しい場合は、2-置換-2-オキサゾリンモノマーに由来してもよく、またはx、y、若しくはzが3と等しい場合は、2-置換-2-オキサジンモノマーに由来してもよい。2-置換-2-オキサゾリンモノマーおよび2-置換-2-オキサジンモノマーの混合物が使用される場合、x、y、およびzの値は、ある場合には2であり、他の場合では3だろう。
【0014】
下記でより詳細に記載されるように、ポリマーは、まず、1つ若しくは複数の2-置換-2-オキサゾリンモノマー、1つ若しくは複数の2-置換-2-オキサジンモノマー、または1つ若しくは複数の2-置換-2-オキサゾリンモノマーおよび1つ若しくは複数の2-置換-2-オキサジンモノマーの混合物を、例えばリビングカチオン開環重合により重合させて、ユニット(a)のみを含むポリマーを形成することにより調製することができる。次いで、その後の部分加水分解を使用して、一部のユニット(a)をユニット(b)に変換することができる。次いで、アクリレートまたはメタクリレート種と反応させることによりユニット(b)を変換して、ユニット(c)をポリマーに導入することができ、それを更に反応させて、追加の官能性を導入してもよい。幾つかの実施形態が可能であり、例えば、ユニット(b)をユニット(c)に変換するステップを省いてもよく、その場合、ポリマーは、ユニット(a)および(b)を含むが(c)を含まない。その代わりに、一部のユニット(b)を、ユニット(c)に変換してもよく、その場合、ポリマーは、ユニット(a)、(b)、および(c)を含む。更にその代わりに、全てのユニット(b)を、ユニット(c)に変換してもよく、その場合、ポリマーは、ユニット(a)および(c)を含むが(b)を含まない。
【0015】
ポリマー中のユニット(a)、(b)、および(c)の相対的割合は、任意の好適な値であってもよく、加水分解の程度、および存在する場合にはユニット(c)を生成するためのその後の更なる反応の程度の両方により決定されることになる。ユニット(c)が存在しない実施形態では、ポリマーは、60モル%までの、好ましくは、50、40、30、25、20、または10モル%までのユニット(b)を含有していてもよい。同様に、ユニット(b)が存在しない場合、ポリマーは、60モル%までの、好ましくは、50、40、30、25、20、または10モル%までのユニット(c)を含有していてもよい。ユニット(a)、(b)、および(c)が存在する実施形態では、ポリマーは、合わせて60モル%までの、好ましくは、50、40、30、25、20、または10モル%までのユニット(b)および(c)を含有していてもよく、ユニット(b):ユニット(c)のモル比は、1:10から10:1までの、好ましくは1:5から5:1までの、例えば1:2~2:1の範囲である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
定義
本明細書では、以下の単語および表現は、使用される場合があればおよび使用される際には、下記に示される意味を有する。
「活性成分」または「a.i.」は、希釈剤または溶媒ではない添加剤材料を指す。
「含む(comprising)」または任意の同種単語は、記載されている特徴、ステップ、または整数、または成分の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特徴、ステップ、整数、成分、またはそれらの群の存在または付加を排除しない。表現「からなる(consist of)」または「から本質的になる(consist essentially of)」または同種表現は、「含む(comprise)」または任意の同種単語内に包含され得る。表現「から本質的になる」は、それが適用される組成物の特徴に重大な影響を及ぼさない物質を含むことを許容する。表現「からなる」または同種表現は、その表現が指す、記載されている特徴、ステップ、整数、成分、またはそれらの群のみが存在することを意味する。
【0017】
「ヒドロカルビル」は、水素原子および炭素原子を含有し、炭素原子を介して化合物の残部に直接的に結合されている、化合物の化学基を意味する。修飾語「置換」の使用は、ヒドロカルビル基が、炭素および水素以外の1つまたは複数の原子(「ヘテロ原子」)を含有していてもよいことを意味する。当業者であれば、好適な基(例えば、ハロ、特にクロロおよびフルオロ、アミノ、アルコキシル、カルボキシ、エステル、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、スルホキシ等)を承知しているだろう。上記基は、不飽和であってもよく、および/またはポリマー性であってもよい。
【0018】
「油溶性」または「油分散性」または同種用語は、本明細書で使用される場合、化合物または添加剤が、可溶性、溶解性、混和性であること、またはあらゆる割合で油に懸濁することが可能であることを必ずしも示さない。しかしながら、こうした用語は、化合物または添加剤が、例えば、油が使用される環境においてそれらの意図されている効果を発揮するのに十分な程度に、油に可溶性であるかまたは安定に分散性であることを意味する。更に、他の添加剤の追加の組込みは、所望の場合、特定の添加剤のより高いレベルの組込みを許容することもできる。
【0019】
「無灰」は、添加剤に関する場合、添加剤が金属を含まないことを意味する。
「灰分含有」は、添加剤に関する場合、添加剤が金属を含むことを意味する。
「多量」は、組成物または混合物の50質量%を超過していることを意味する。
「少量」は、組成物または混合物の50質量%以下であることを意味する。
【0020】
「有効量」は、添加剤に関する場合、所望の技術的効果を提供するのに有効であり、且つそれを提供する、組成物中のそのような添加剤の量(例えば、添加剤濃縮物)を意味する。
「ppm」は、組成物の総質量に基づく質量百万分率を意味する。
組成物または添加剤成分の「金属含有量」、例えばモリブデン含有量、または添加剤濃縮物の総金属含有量(つまり、全ての個々の金属含有量の合計)は、ASTM D5185により測定される。
添加剤成分に関するまたは組成物の「TBN」は、ASTM D2896により測定される全塩基価(mg KOH/g)を意味する。
【0021】
「KV100」は、ASTM D445により測定される100℃での動粘度を意味する。
HTHSは、-CEC-L-36-A-90により測定される150℃での高温高剪断を意味する。
「リン含有量」は、ASTM D5185により測定される。
「硫黄含有量」は、ASTM D2622により測定される。
「硫酸化灰分含有量」は、ASTM D874により測定される。
Mnは、550~600,000g/モルの範囲にある直鎖状で狭い範囲のポリ(メタクリル酸メチル)標準物質を基準にしてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される数平均分子量を意味する。
Mwは、550~600,000g/モルの範囲にある直鎖状で狭い範囲のポリ(メタクリル酸メチル)標準物質を基準にしてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される質量平均分子量を意味する。
【0022】
「分散度」は、Mw/Mn(Dと標記される)を意味する。
また、必須の並びに最適なおよび慣用的な使用される種々の成分は、調合、保管、および使用の条件下で反応する場合があり、本発明は、任意のそのような反応により得ることができるまたは得られる産物も提供することが理解されるだろう。
更に、本明細書に示される任意の上限量および下限量、範囲または比の両端値は、独立して組み合わせ得ることが理解される。
【0023】
ポリマー
上記で考察されているように、本発明に有用なポリマーは、段階的に製造することができる。
第1のステップでは、ユニット(a)のみを有するポリマーを形成する。このポリマーは、ホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよい。ホモポリマーは、1つ若しくは複数の2-置換-2-オキサゾリンモノマーまたは1つ若しくは複数の2-置換-2-オキサジンモノマーを重合させることにより形成することができる。この状況でのホモポリマーは、1つのタイプまたはクラスのモノマーのみ、つまりオキサゾリンまたはオキサジンのいずれかが使用されることを意味し、使用される各モノマーが同一であることを必ずしも意味しないことが理解されるだろう(例として、ポリエチレンを参照されたい)。同じタイプまたはクラスのモノマーの混合物、例えば2つ以上の異なる2-置換-2-オキサゾリンモノマーまたは2つ以上の異なる2-置換-2-オキサジンモノマーから得られるポリマーは、ホモポリマーの説明に基づいて把握されることが意図されている。
【0024】
ユニット(a)のみを有するコポリマーは、1つ若しくは複数の2-置換-2-オキサゾリンモノマーおよび1つ若しくは複数の2-置換-2-オキサジンモノマーを重合させることにより形成することができる。この場合、当技術分野で公知のように、コポリマーは異なるタイプであってもよい。コポリマーの例としては、重合が、公知の統計的法則、例えばベルヌーイ(Bernouillian)統計またはマルコフ統計に従って形成される統計コポリマーを挙げることができる。ポリマー鎖の任意の特定の地点に特定のタイプのモノマー残基を見出す確率が、周囲のモノマーのタイプに依存しない統計コポリマーは、ランダムコポリマーと呼ばれる場合がある。統計およびランダムコポリマーは、交互コポリマー、周期的コポリマー、およびブロックコポリマー等のより規律正しいコポリマータイプと区別される場合がある。ブロックコポリマー、つまり2つ以上のポリマーサブユニットが共有結合により連結されているもの(例えば、ジブロックまたはトリブロックとして)を使用してもよい。任意のブロックコポリマー中のブロックは、等しいサイズであってもよくまたは異なるサイズであってもよく、コポリマーの構造は様々であってもよい。例えば、ブロックコポリマーは、各モノマーの単一ブロックのみ(つまり、「AB」配置)を有してもよく、または各モノマーの複数のブロック(つまり、「ABABAB..」配置)を有してもよく、ブロック「A」および「B」は、同じサイズであってもよくまたは異なるサイズであってもよい。
また特筆すべきは、分岐コポリマー、特に、幾つかの(3つ以上の)直鎖状ポリマー鎖(または「アーム」)が共有結合で中心コアに結合されている星形ポリマーである。
【0025】
ユニット(a)のみを有するポリマー(またはコポリマー)は、2-置換-2-オキサゾリンモノマーおよび/または2-置換-2-オキサジンモノマーを、開始剤を用いて重合させ、その後重合を停止させることにより都合よく形成される。任意のカチオン種で、2-オキサゾリンまたは2-オキサジンの重合を開始させることが可能である。例としては、H+(HClまたは他の酸に由来する);R+(例えば、RIまたはRBr等のハロゲン化アルキルに由来する);および金属カチオンおよび塩(例えば、Zr4+)が挙げられる。任意の求核種で、重合を停止させることが可能である(例えば、大気中の水分に由来するOH-、OT-(トシレート)、H2NR、HSR)。他の好適な開始剤基(i)および停止基(t)が当業者に公知であろう。星形構造を提供するためには、多官能性開始剤若しくは停止剤、架橋、またはカップリングを使用することができる。
【0026】
第2のステップでは、ユニット(a)のみを有するポリマーを部分的に加水分解して、一部のユニット(a)をユニット(b)に変換する。そのようなポリマーの加水分解は容易であり、好適な技法および方法が当業者に公知であろう。1つの好ましい方法は、塩酸水溶液およびTHFの混合物でポリマーを処理することであるが、他の選択肢としては、好適な溶媒との混合物中で水酸化ナトリウムの水溶液または水酸化ナトリウムのメタノール溶液を使用して塩基性条件下で反応させることが挙げられるだろう。本発明の状況では、全てのユニット(a)が反復ユニット(b)に変換されないことが重要であり、すなわち完全な加水分解は回避されるべきである。上記で考察されているように、任意の度合いの部分加水分解が可能である。しかしながら、実施形態では、加水分解は、60モル%までの、好ましくは50、40、30、25、20、または10モル%までのユニット(b)を含有するポリマーをもたらす。
【0027】
1つの実施形態では、第2のステップから得られるポリマーを、それ以上反応させない。しかしながら、好ましくは、別の実施形態では、ポリマーを第3のステップにて更に反応させて、ユニット(b)の一部または全てをユニット(c)に変換する。好ましくは、この第3のステップでは、マイケル付加反応を実施して、第2のステップからのポリマーを、アクリレートまたはメタクリレート種と反応させる。任意のアクリレートまたはメタクリレート種を使用することができるが、更なる反応または官能化を促進する種が好ましい。メタクリレートよりもアクリレートが好ましい。ユニット(c)で与えられる構造では、アクリレートが使用される場合は、k値が0であること、メタクリラートが使用される場合は、kは1に等しいことが理解されるだろう。好ましい種は、アクリル酸プロパルギル(プロパ-2-イン-1-イル-アクリレート)である。
【0028】
ポリマーがユニット(c)を含む好ましい実施形態では、好ましくは、R2は、構造-(CH2)mCCHのアルキニル基(mは1から10までの整数である)を含む。好ましくは、mは1であり、その場合R2はプロパ-1-イニルである。この場合、ユニット(c)は、構造(I)を有することになる。
【0029】
【化3】
更なる例は、R
2がプロパ-1-イニルよりも多くの炭素原子を有する、つまり、m>1であるアルカ-1-イニル基である類似構造(I)である。
上記の構造(I)中の末端アルキニル基は、R
2が置換ヒドロカルビル基であるユニット(c)を生成するための更なる反応を可能にする。
【0030】
好ましい実施形態では、R2は、1,2,3-トリアゾール基により末端が置換されたヒドロカルビル基を含む。好ましくは、1,2,3-トリアゾール基は、1~50個の炭素原子、好ましくは1~30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基で置換される。好ましくは、構造(I)を有するユニット(c)を含むポリマーを、アジド、例えばアルキルアジドと更に反応させる。アジド-アルキン「クリック」反応を使用して、構造(II):
【0031】
【化4】
を有するユニット(c)(式中、R
3は、好ましくは1~50個の炭素原子を有するヒドロカルビル基または置換ヒドロカルビル基、より好ましくは1~30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基または置換ヒドロカルビル基である。好ましくは、R
3は、置換ヒドロカルビル基である。)を生成することができる。
【0032】
別の好ましい実施形態では、R2は、1つまたは複数のチオエーテル基により末端が置換されたヒドロカルビル基を含む。好ましくは、構造(I)を有するユニット(c)を含むポリマーを、チオール、例えば第一級アルキルチオールと更に反応させる。チオール-イン「クリック」反応を使用して、構造(III):
【0033】
【化5】
を有するユニット(c)(式中、R
4およびR
5は、独立して、1~50個の炭素原子を有するヒドロカルビル基または置換ヒドロカルビル基、より好ましくは1~30個の炭素原子を有するヒドロカルビル基または置換ヒドロカルビル基である。好ましくは、R
4およびR
5は、独立して、置換ヒドロカルビル基である。)を生成することができる。
【0034】
好ましくは、ポリマー中のユニット(a)、(b)、および(c)の総数(n)は、10から300、好ましくは25~300、より好ましくは25~100である。
好ましくは、ポリマーは、2,000~500,000g/モルの数平均分子量(Mn)を有する。より好ましくは、ポリマーは、4,000~100,000g/モルの数平均分子量(Mn)を有する。更により好ましくは、ポリマーは、8,000~20,000g/モルの数平均分子量(Mn)を有する。分子量は全て、550~600,000g/モルの範囲にある直鎖状で狭い範囲のポリ(メタクリル酸メチル)標準物質を基準にしてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されるものである。
一実施形態では、コポリマーは、3つ以上のアームを有する星形構造、および10,000~500,000g/モルの数平均分子量(Mn)を有し、R1および/またはR2は、少なくとも1つのアームに12~50個の炭素原子の少なくとも幾つかの基を有する。分子量は全て、550~600,000g/モルの範囲にある直鎖状で狭い範囲のポリ(メタクリル酸メチル)標準物質を基準にしてゲル浸透クロマトグラフィーにより測定されるものである。
【0035】
R1がマクロモノマーヒドロカルビル基である場合、それは、
(a)R1前駆体の反応基からの重合、または
(b)R1前駆体のヒドロカルビル基への事前に形成されたマクロモノマーの組込み
により提供することができる。
12~50個の炭素原子を有するR1基の存在の意義は、コポリマーを十分に親油性にして、基油等の極性溶媒への溶解度を付与することである。
好ましくは、R1は、1~36個の、より好ましくは1~20個の炭素原子を含有し、但しR1基の一部または全ては、12~75個の、好ましくは12~50個の、例えば12~36個の炭素原子を有する。
R1中の炭素原子の数の例としては、1、2、8、12、17、および24を挙げることができる。
好ましい実施形態では、R1は、8~20個の炭素原子を有する不飽和ヒドロカルビル基を含む。
【0036】
好ましくは、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも5%は、8~20個の炭素原子を有する不飽和ヒドロカルビル基を含む。より好ましくは、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも10%または20%または30%または40%または50%は、8~20個の炭素原子を有する不飽和ヒドロカルビル基を含む。最も好ましくは、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも60%または70%は、8~20個の炭素原子を有する不飽和ヒドロカルビル基を含む。
好ましくは、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも5%は、15~20個の炭素原子を有する不飽和ヒドロカルビル基を含む。より好ましくは、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも10%または20%または30%または40%または50%は、15~20個の炭素原子を有する不飽和ヒドロカルビル基を含む。最も好ましくは、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも60%または70%は、15~20個の炭素原子を有する不飽和ヒドロカルビル基を含む。
好ましくは、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも5%は、17個の炭素原子を有する不飽和ヒドロカルビル基を含む。より好ましくは、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも10%または20%または30%または40%または50%または60%は、17個の炭素原子を有する不飽和ヒドロカルビル基を含む。更により好ましくは、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも70%は、17個の炭素原子を有する不飽和ヒドロカルビル基を含む。
一実施形態では、R1基は、ヘテロ原子を含有しない、すなわち炭化水素基である。好ましくは、R1基は炭化水素基である。
【0037】
好ましい実施形態では、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも50%は、一価、二価、若しくは三価不飽和C17アルケニル基またはそれらの任意の混合物を含む。より好ましくは、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも60%は、一価、二価、若しくは三価不飽和C17アルケニル基またはそれらの任意の混合物を含む。更により好ましくは、ポリマー中のR1基の総数の少なくとも70%は、一価、二価、若しくは三価不飽和C17アルケニル基またはそれらの任意の混合物を含む。
特に好ましい実施形態では、R1基は、一価、二価、または三価不飽和C17アルケニル基の混合物を含み、上記混合物は、一価および二価不飽和C17アルケニル基が圧倒的に多い。そのような混合物は、少ない量のより小さいでより長い分子を含んでいてもよい。
【0038】
R1の群の混合物に好適な供給源としては、トール油脂肪酸(TOFA)および菜種油脂肪酸等の天然脂肪酸に由来する2-オキサゾリンおよび2-オキサジンが挙げられる。他の好適な供給源が、当業者に公知だろう。
一実施形態では、R1は、ヘテロ原子(N、O、S、P、B、Si、F、Cl、Br、I等)を含有していてもよい。上記で考察されているように、用語「ヒドロカルビル」は、R1(およびR2)に適用される場合、限定的な数のヘテロ原子の存在を許容し、従って炭素および水素のみを含有する基に限定されない。
【0039】
ポリマーの合成は、本発明の別の態様を形成し、従って、第4の態様では、ポリマーを合成するための方法であって、
(i)1つ若しくは複数の2-置換-2-オキサゾリンモノマー、または1つ若しくは複数の2-置換-2-オキサジンモノマー、またはそれらの混合物を、開始剤の存在下で重合させるステップ、
(ii)ステップ(i)で形成された産物を部分的に加水分解するステップ、および
(iii)マイケル付加反応を実施して、1つまたは複数のアクリレートまたはメタクリレート種を、ステップ(ii)の産物と反応させるステップ
を含む方法が提供される。
【0040】
好ましい実施形態では、ステップ(iii)において、マイケル付加反応は、アルカ-2-イン-1-イル-アクリレート種をステップ(ii)の産物と反応させる。
より好ましい実施形態では、更なるステップ(iv)において、ステップ(iii)の産物を、アルキルアジドまたは第一級アルキルチオールと反応させる。好ましくは、アルカ-2-イン-1-イル-アクリレート種は、プロパ-2-イン-1-イル-アクリレート(アクリル酸プロパルギル)である。
【0041】
潤滑組成物
本発明の潤滑組成物は、多量の潤滑粘度の油と、ポリマー材料を含む少量の性能増強添加剤とを含む、自動車モーター油としての使用に好適な潤滑剤であってもよい。また、潤滑組成物は、潤滑粘度の油と配合して最終潤滑剤を製造するための添加剤濃縮物の形態であってもよい。
好ましくは、本発明の潤滑組成物は、組成物の質量に基づいて0.01~25質量パーセントの、より好ましくは組成物の質量に基づいて0.01~10質量パーセントの、例えば、0.5、1、2、3、4、または5質量パーセントまでのポリマーを含有するだろう。添加剤濃縮物の形態の場合、典型的には、ポリマーは、組成物の質量に基づいて30~50質量パーセントの量で潤滑粘度の油中に存在することになる。
【0042】
潤滑粘度の油(「ベースストック(base stock)」または「基油」と呼ばれることもある)は、例えば、最終潤滑剤(または潤滑剤組成物)を生産するために添加剤および恐らくは他の油がそれに配合される、潤滑剤の主要液体成分である。基油は、添加剤濃縮物を製造するために並びにそれから潤滑油組成物を製造するために有用であり、天然油(植物、動物、または鉱物)および合成潤滑油およびそれらの混合物から選択することができる。
【0043】
本発明におけるベースストックおよび基油の定義は、米国石油協会(API)刊行物「Engine Oil Licensing and Certification System」、Industry Services Department、第14版、1996年12月、付録1、1998年12月に見出されるものと同じであり、それによると、ベースストックは、以下のように分類される。
(a)第I群ベースストックは、90パーセント未満の飽和物および/または0.03パーセントよりも多くの硫黄を含有し、表E-1で指定されている試験方法を使用して80以上および120未満の粘度指数を示す。
(b)第II群ベースストックは、90パーセント以上の飽和物および0.03パーセント以下の硫黄を含有し、表E-1で指定されている試験方法を使用して80以上および120未満の粘度指数を示す。
(c)第III群ベースストックは、90パーセント以上の飽和物および0.03パーセント以下の硫黄を含有し、表E-1で指定されている試験方法を使用して120以上の粘度指数を示す。
(d)第IV群ベースストックは、ポリアルファオレフィン(PAO)である。
(e)第V群ベースストックは、第I群、第II群、第III群、または第IV群に含まれない他の全てのベースストックを含む。
【0044】
典型的には、ベースストックは、100℃にて、好ましくは3~12mm2/秒、より好ましくは4~10mm2/秒、最も好ましくは4.5~8mm2/秒の粘度を有する。
【0045】
【0046】
好ましくは、潤滑粘度の油は、潤滑粘度の油の総質量に基づいて、10質量%以上の、より好ましくは20質量%以上の、更により好ましくは25質量%以上の、更により好ましくは30質量%以上の、更により好ましくは40質量%以上の、更により好ましくは45質量%以上の第II群または第III群ベースストックを含む。更に好ましくは、潤滑粘度の油は、潤滑粘度の油の総質量に基づいて、50質量%よりも多くの、好ましくは60質量%以上の、より好ましくは70質量%以上の、更により好ましくは80質量%以上の、更により好ましくは90質量%以上の第II群または第III群ベースストックを含む。最も好ましくは、潤滑粘度の油は、第II群および/または第III群ベースストックから本質的になる。一部の実施形態では、潤滑粘度の油は、第II群および/または第III群ベースストックのみからなる。後者の場合、潤滑油組成物に含まれる添加剤は、第II群または第III群ベースストックでないキャリア油を含んでいてもよいことが理解される。
【0047】
潤滑油組成物に含まれていてもよい他の潤滑粘度の油は、以下のように詳述される。
天然油としては、動物油および植物油(例えば、ヒマシ油およびラード油)、液状石油、並びにパラフィン型、ナフテン型、およびパラフィン-ナフテン混合型の水素化精製され溶媒処理された鉱物潤滑油が挙げられる。石炭または頁岩に由来する潤滑粘度の油も、有用な基油である。
合成潤滑油としては、重合されたおよび相互重合されたオレフィン等の炭化水素油(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン-イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン));アルキルベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)ベンゼン);ポリフェノール(例えば、ビフェニル、テルフェニル、アルキル化ポリフェノール);並びにアルキル化ジフェニルエーテルおよびアルキル化ジフェニルスルフィド、並びにそれらの誘導体、類似体、および同族体が挙げられる。
【0048】
別の好適なクラスの合成潤滑油は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸およびアルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸)と様々なアルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール)とのエステルを含む。こうしたエステルの具体的な例としては、アジピン酸ジブチル、セバシン酸ジ(2-エチルヘキシル)、フマル酸ジ-n-ヘキシル、セバシン酸ジオクチル、アゼライン酸ジイソオクチル、アゼライン酸ジイソデシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジデシル、セバシン酸ジエイコシル、リノール酸二量体の2-エチルヘキシルジエステル、並びに1モルのセバシン酸を2モルのテトラエチレングリコールおよび2モルの2-エチルヘキサン酸と反応させることにより形成される複合エステルが挙げられる。
【0049】
合成石油として有用なエステルとしては、C5~C12モノカルボン酸およびポリオールから作られるもの、並びにネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、およびトリペンタエリトリトール等のポリオールエーテルも挙げられる。
【0050】
未精製油、精製油、および再精製油を、本発明の組成物に使用することができる。未精製油は、更なる精製処理を行わずに天然供給源または合成供給源から直接得られるものである。例えば、乾留操作から直接得られるシェール油、蒸留から直接得られる石油、またはエステル化工程から直接得られ、更なる処理を行わずに使用されるエステル油は、未精製油であろう。精製油は、1つまたは複数の特性を向上させるために1つまたは複数の精製ステップにて更に処理されている以外は未精製油と同様である。蒸留、溶媒抽出、酸または塩基抽出、ろ過、およびパーコレーション等の多くのそのような精製技法が当業者に公知である。再精製油は、用務で既に使用されている精製油に適用された、精製油を得るために使用されたものと同様の工程により得られる。そのような再精製油は、再生油または再処理油としても知られており、廃添加剤および油分解産物を処理するための技法により更に処理されることが多い。
【0051】
基油の他の例は、天然ガス液化(「GTL」)基油であり、つまり、この基油は、フィッシャー・トロプシュ触媒を使用してH2およびCOを含有する合成ガスから製造されるフィッシャー・トロプシュ合成炭化水素に由来する油であってもよい。こうした炭化水素は、典型的には、基油として有用であるために更なる処理を必要とする。例えば、それらは、当技術分野で公知の方法により、水素化異性化されていてよく、水素化分解および水素化異性化されていてもよく、脱蝋されていてもよく、または水素化異性化および脱蝋されていてもよい。
また、潤滑粘度の油は、第I群、第IV群、若しくは第V群ベースストック、または前述のベースストックの基油配合物を含んでいてもよい。
本発明の潤滑組成物は、好ましくは、組成物の質量に基づき、少なくとも60重量%の、例えば70重量%以上の潤滑粘度の油を含む。
【0052】
添加助剤
本発明の全ての態様の潤滑油組成物は、1つまたは複数のリン含有化合物、酸化防止剤または抗酸化剤、分散剤、金属界面活性剤、および他の添加助剤を更に含んでいてもよいが、但しそれらは、ユニット(a)並びにユニット(b)および(c)の一方または両方を含むポリマーとは異なる。それらは、下記でより詳細に考察されるだろう。
【0053】
好適なリン含有化合物としては、抗摩耗剤および抗酸化剤として頻繁に使用されるジチオリン酸ジヒドロカルビル金属塩が挙げられる。上記金属は、好ましくは亜鉛であるが、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属、またはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、または銅であってもよい。亜鉛塩は、最も一般的には、潤滑油組成物の総質量に基づき0.1~10質量%、好ましくは0.2~2質量%の量で潤滑油に使用される。亜鉛塩は、まず、通常は1つ若しくは複数のアルコールまたはフェノールをP2S5と反応させることによりジヒドロカルビルジチオリン酸(DDPA)を形成し、次いで形成されたDDPAを亜鉛化合物で中和することにより、公知の技法に従って調製することができる。例えば、ジチオリン酸は、第一級アルコールおよび第二級アルコールの混合物を反応させることにより製造することができる。その代わりに、一方にあるヒドロカルビル基は特徴が完全に第二級であり、他方にあるヒドロカルビル基は特徴が完全に第一級である複数のジチオリン酸を調製することができる。亜鉛塩の製造には、任意の塩基性または中性亜鉛化合物を使用することができるが、酸化物、水酸化物、および炭酸塩が最も一般に使用される。市販の添加剤は、中和反応において塩基性亜鉛化合物を過剰に使用するため、過剰の亜鉛を含有する。
【0054】
好ましいジチオリン酸ジヒドロカルビル亜鉛は、ジヒドロカルビルジチオリン酸の油溶性塩であり、下記式:
【0055】
【化6】
(式中、RおよびR’は、1~18個、好ましくは2~12個の炭素原子を含有し、アルキル、アルケニル、アリール、アリールアルキル、アルカリル、および脂環式ラジカル等のラジカルを含有する同じまたは異なるヒドロカルビルラジカルであってもよい。2~8個の炭素原子のアルキル基が、RおよびR’基として特に好ましい。)により表すことができる。従って、上記ラジカルは、例えば、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、アミル、n-ヘキシル、i-ヘキシル、n-オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシル、2-エチルヘキシル、フェニル、ブチルフェニル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、プロペニル、ブテニルであってもよい。油溶性を得るために、ジチオリン酸中の炭素原子(つまりRおよびR’)の総数は、一般に5個以上だろう。従って、ジチオリン酸ジヒドロカルビル亜鉛(ZDDP)は、ジチオリン酸ジアルキル亜鉛を含むことができる。本発明の潤滑油組成物は、好適には、約0.08質量%(800ppm)以下のリン含有量を有していてもよい。好ましくは、本発明の実施では、ZDDPは、許容される最大量に近いかまたは等しい量で、好ましくは、リンの最大許容量である100ppm以内のリン含有量をもたらす量で使用される。従って、本発明の実施に有用な潤滑油組成物は、好ましくは、潤滑油組成物の総質量に基づいて、0.04から0.08質量%までのリン、好ましくは0.05から0.08質量%までのリン等の、0.01から0.08質量%までのリンを導入する量のZDDPまたは他の亜鉛-リン化合物を含有する。
【0056】
酸化防止剤または抗酸化剤は、鉱油が使用中に劣化する傾向を低減する。酸化による劣化は、潤滑剤中のスラッジ、金属表面のワニス様沈殿物により、および粘度増大により明らかになる場合がある。そのような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、好ましくはC5~C12アルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、硫化ノニルフェノールカルシウム、油溶性フェネートおよび硫化フェネート、ホスホ硫化または硫化炭素水素またはエステル、リンエステル、金属チオカルバメート、米国特許第4,867,890号明細書に記載の油溶性銅化合物、並びにモリブデン含有化合物が挙げられる。
【0057】
窒素に直接的に結合されている少なくとも2つの芳香族基を有する芳香族アミンは、抗酸化性のために頻繁に使用される別のクラスの化合物を構成する。1つのアミン窒素に直接的に結合されている少なくとも2つの芳香族基を有する典型的な油溶性芳香族アミンは、6から16個までの炭素原子を含有する。上記アミンは、2つよりも多くの芳香族基を含有していてもよい。2つの芳香族基が共有結合によりまたは原子若しくは基(例えば、酸素原子若しくは硫黄原子、または-CO-、-SO2-、またはアルキレン基)により連結され、2つが1つのアミン窒素に直接的に結合されている合計で少なくとも3つの芳香族基を有する化合物も、窒素に直接的に結合されている少なくとも2つの芳香族基を有する芳香族アミンであるとみなされる。芳香族環は、典型的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アシルアミノ基、ヒドロキシ基、およびニトロ基から選択される1つまたは複数の置換基により置換されている。1つのアミン窒素に直接的に結合されている少なくとも2つの芳香族基を有する任意のそのような油溶性芳香族アミンの量は、好ましくは、0.4質量%を超過するべきでない。
【0058】
分散剤は、その主な機能が、固体夾雑物および液体夾雑物を懸濁系中に保持し、それにより夾雑物を不動態化し、スラッジ沈殿を低減すると同時にエンジン付着物を低減することである添加剤である。例えば、分散剤は、潤滑剤の使用中の酸化に起因する油不溶性物質を懸濁系中に維持し、従ってエンジンの金属部分におけるスラッジ凝集および析出または沈殿を防止する。
【0059】
本発明における分散剤は、好ましくは、金属を含有するため灰分形成性である材料とは対照的に、上記で言及したような「無灰」であり、燃焼時に灰分を実質的に形成しない非金属有機材料である。それらは、極性頭部を有する長鎖炭化水素鎖を含み、極性は、例えばO原子、P原子、またはN原子の介在に由来する。上記炭化水素は、例えば40~500個の炭素原子を有し、油溶性を付与する親油基である。従って、無灰分散剤は、油溶性ポリマー骨格を含んでいてもよい。
オレフィンポリマーの好ましいクラスは、C4製油流の重合により調製することができるもの等の、ポリブテン、具体的にはポリイソブテン(PIB)またはポリ-n-ブテンにより構成される。
【0060】
分散剤としては、例えば、長鎖炭化水素置換カルボン酸の誘導体が挙げられ、例は、高分子量ヒドロカルビル置換コハク酸の誘導体である。分散剤の注目すべき群は、例えば、上記の酸(または誘導体)を窒素含有化合物、有利にはポリエチレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミンと反応させることにより製造される炭化水素置換スクシンイミドにより構成される。特に好ましいものは、米国特許出願公開第3,202,678号明細書、第3,154,560号明細書、第3,172,892号明細書、第3,024,195号明細書、第3,024,237号明細書、第3,219,666号明細書、および第3,216,936号明細書に記載されているもの等の、ポリアルキレンポリアミンとアルケニル無水コハク酸との反応産物であり、それらに、ホウ素化(米国特許出願公開第3,087,936号明細書および第3,254,025号明細書に記載のような)、フッ素化、またはオキシレート化(oxylated)等の後処理を施して、それらの特性を向上させてもよい。例えば、ホウ素化は、アシル窒素含有分散剤を、酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ素酸、およびホウ素酸のエステルから選択されるホウ素化合物で処理することにより達成することができる。
好ましくは、分散剤は、存在する場合、1000~3000の、好ましくは1500~2500の範囲の数平均分子量であり、官能性が中程度であるポリイソブテンに由来するスクシンイミド分散剤である。上記スクシンイミドは、好ましくは高度に反応性のポリイソブテンに由来する。
使用することができる分散剤タイプの別の例は、欧州特許出願公開第2090642号明細書に記載のもの等の、連結された芳香族化合物である。
【0061】
界面活性剤は、ピストン付着物、例えばエンジンにおける高温ワニス沈殿物およびラッカー沈殿物の形成を低減する添加剤であり、通常は、酸中和特性を有し、微粉砕固体を懸濁系中に維持することが可能である。ほとんどの界面活性剤は、酸性有機化合物の金属塩である金属「石鹸」に基づく。
界面活性剤は、一般に、長い疎水性尾部を有する極性頭部を含み、極性頭部は、酸性有機化合物の金属塩を含む。上記塩は、通常は正塩または中性塩と評され、典型的には100%活動量における総塩基価またはTBNが0から80までである場合(ASTM D2896により測定し得るような)、実質的に化学量論量の金属を含有してもよい。酸化物または水酸化物等の金属化合物の過剰量を二酸化炭素等の酸性ガスと反応させることにより、大量の金属塩基を含ませることができる。
得られる過塩基化界面活性剤は、金属塩基(例えば炭酸塩)ミセルの外層として中和された界面活性剤を含む。そのような過剰塩基化界面活性剤は、150以上の、典型的には200から500までまたはそれよりも大きな、100%活動量でのTBNを有してもよい。
【0062】
適切には、使用することができる界面活性剤としては、油溶性で中性の過塩基化されたスルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリシレート、およびナフテネート、並びに金属、特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属、例えば、Na、K、Li、Ca、およびMgの他の油溶性カルボキシレートが挙げられる。最も一般的に使用される金属は、CaおよびMg、並びにCaおよび/またはMgとNaとの混合物であり、CaおよびMgの両方が、潤滑組成物中に使用される界面活性剤中に存在してもよい。界面活性剤は、種々の組合せで使用してもよい。
【0063】
追加の添加剤を本発明の組成物に組み込んで、特定の性能要求が満たされることを可能にしてもよい。本発明の潤滑油組成物に含まれていてもよいそのような添加剤の例は、金属防錆剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、酸化防止剤、他の摩擦調整剤、消泡剤、抗摩耗剤、および流動点降下剤である。一部は、下記で更に詳細に考察されている。
【0064】
また、最終油の他の成分と相溶性である摩擦調整剤および燃料節約剤が含まれていてよい。そのような材料の例としては、高級脂肪酸のグリセリルモノエステル、例えば、モノオレイン酸グリセリル;長鎖ポリカルボン酸とジオールとのエステル、例えば、二量体化不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;並びにアルコキシル化アルキル置換モノアミン、ジアミン、およびアルキルエーテルアミン、例えば、エトキシル化獣脂アミンおよびエトキシル化獣脂エーテルアミンが挙げられる。
【0065】
他の公知の摩擦調整剤は、油溶性有機モリブデン化合物を含む。そのような有機モリブデン摩擦調整剤も、抗酸化信頼性および抗摩耗信頼性を潤滑油組成物に提供する。そのような油溶性有機モリブデン化合物の例としては、ジチオカルバメート、ジチオホスフェート、ジチオホスフィネート、キサンテート、チオキサンテート、およびスルフィド等、およびそれらの混合物が挙げられる。特に好ましいものは、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジアルキルジチオホスフェート、キサントゲン酸アルキル、およびチオキサントゲン酸アルキルである。
【0066】
加えて、モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であってもよい。そうした化合物は、ASTM試験D-664またはD-2896滴定手順により測定されるように塩基性窒素化合物と反応することになり、典型的には6価である。モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、並びに他のモリブデン酸アルカリ金属および他のモリブデン塩、例えば、モリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデン、または類似の酸性モリブデン化合物が含まれる。
【0067】
本発明の組成物に有用なモリブデン化合物中には、下記式:
Mo(R’’OCS2)4および
Mo(R’’SCS2)4
(式中、R’’は、一般には1~30個までの炭素原子の、好ましくは2~12個の炭素原子のアルキル、アリール、アラルキル、およびアルコキシアルキルからなる群から選択される有機基であり、最も好ましくは2~12個の炭素原子のアルキルである。)の有機モリブデン化合物がある。特に、モリブデンのジアルキルジチオカルバメートが好ましい。
【0068】
本発明の潤滑組成物に有用な有機モリブデン化合物の別の群は、三核モリブデン化合物、特に式Mo3SkLnQ2(式中、Lは、化合物を油に可溶性または分散性とするのに十分な数の炭素原子を有する有機基を有する独立して選択されるリガンドであり、nは1から4までであり、kは4から7まで変化し、Qは、水、アミン、アルコール、ホスフィン、およびエーテル等の中性電子供与性化合物の群から選択され、zは0から5までの範囲であり、非化学量論値を含む。)のものおよびそれらの混合物である。全てのリガンド有機基には、少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも35個の炭素原子等の、少なくとも21個の炭素原子が存在するべきである。
【0069】
本発明の全ての態様で有用な潤滑油組成物は、好ましくは、少なくとも10ppm、少なくとも30ppm、少なくとも40ppm、およびより好ましくは少なくとも50ppmのモリブデンを含有する。適切には、本発明の全ての態様で有用な潤滑油組成物は、1000ppm以下、750ppm以下、または500ppm以下のモリブデンを含有する。本発明の全ての態様で有用な潤滑油組成物は、好ましくは、30~750ppmまたは40~500ppm等の、10から1000ppmまでのモリブデンを含有する(モリブデンの原子として測定して)。
【0070】
ベースストックの粘度指数は、粘度調整剤(VM)または粘度指数向上剤(VII)として機能するあるポリマー材料をそこに組み込むことにより、増加または向上される。一般に、粘度調整剤として有用なポリマー材料は、5,000から250,000までの、好ましくは15,000から200,000までの、より好ましくは20,000から150,000までの数平均分子量(Mn)を有するものである。こうした粘度調整剤は、例えば、無水マレイン酸等のグラフト材料でグラフトしてもよく、グラフトされた材料を、例えば、アミン、アミド、窒素含有複素環化合物、またはアルコールと反応させて、多官能性粘度調整剤(分散粘度調整剤)を形成してもよい。
【0071】
ジオレフィンで調製されたポリマーは、エチレン性不飽和を含有することになる。そのようなポリマーは、好ましくは水素化される。ポリマーを水素化する場合、水素化は、従来技術で公知である技法のいずれかを使用して達成することができる。例えば、水素化は、エチレン性不飽和および芳香族性不飽和が両方とも、例えば、米国特許第3,113,986号明細書および第3,700,633号明細書に教示されているもの等の方法を使用して変換(飽和)されるように達成してもよく、或いは水素化は、例えば、米国特許第3,634,595号明細書、第3,670,054号明細書、第3,700,633号明細書、および米国再発行特許発明27,145号明細書(Re27,145)に教示されているように、芳香族性不飽和をほとんどまたは全く変換せずに、エチレン性不飽和のかなりの部分を変換するように選択的に達成してもよい。こうした方法のいずれかを使用して、エチレン性不飽和のみを含有し、芳香族性不飽和を含まないポリマーを水素化することもできる。
【0072】
流動点降下剤(PPD)は、別様には潤滑油流動性向上剤(LOFI)としても知られており、潤滑油が流動する最低温度を低下させる。LOFIは、VMと比較して、一般により低い数平均分子量を有する。VMと同様に、LOFIは、例えば、無水マレイン酸等のグラフト材料でグラフトしてもよく、グラフトされた材料を、例えば、アミン、アミド、窒素含有複素環化合物、またはアルコールと反応させて、多官能性添加剤を形成することができる。
【0073】
本発明では、配合物の粘度の安定性を維持する添加剤を含むことが必要であってもよい。従って、極性基含有添加剤は、配合前の段階では適切に低い粘度を達成するが、長期間保存した場合、一部の組成物が粘度を上昇させることが観察されている。この粘度上昇の制御に効果的な添加剤としては、上記で開示した通りの無灰分散剤の調製に使用されるモノ-またはジカルボン酸または酸無水物との反応により官能性化された長鎖炭化水素が挙げられる。
【0074】
潤滑組成物が、上述の添加剤の1つまたは複数を含有する場合、各添加剤は、典型的には、添加剤がその所望の機能を提供することを可能にする量で基油に配合される。クランクケース潤滑剤に使用される場合の、そのような添加剤の代表的な有効量は、下記に列挙されている。列挙された全ての値(界面活性剤は油中ではコロイド状分散剤の形態で使用されるため、界面活性剤値は除く)は、質量パーセント活性成分(A.I.)として表記されている。
【0075】
【0076】
好ましくは、完全に調合された潤滑油組成物(潤滑粘度の油+全ての添加剤)のノアク揮発性は、14質量%以下等の18質量%以下、好ましくは10質量%以下である。本発明の実施に有用な潤滑油組成物は、0.7から1.4質量%まで等の0.5から2.0質量%まで、好ましくは0.6から1.2質量%までの全体的硫酸化灰分含有量を有してもよい。
【0077】
必須ではないが、添加剤を含む1つまたは複数の添加剤濃縮物(濃縮物は添加剤パッケージと呼ばれることもある)を調製することが望ましい場合があり、それにより、幾つかの添加剤を同時に油に加えて、潤滑油組成物を形成することができる。
【実施例】
【0078】
これから、本発明を、以下の非限定的な例で詳細に説明するものとする。
ポリマーの合成
第1のステップでは、2-置換-2-オキサゾリンポリマーを形成する。合成は、例えば、欧州特許出願公開第3257921号明細書に示されている通りとした。2-置換2-オキサゾリンモノマー(置換基は、一価、二価、および三価不飽和C17アルケニル基(菜種油に由来する)の混合物を含有する脂肪酸に由来する)を反応フラスコに投入し、50:1のモノマー対開始剤比でトシル酸メチルを添加した。この反応混合物を、140℃で1時間10分間撹拌した。ポリマーは、狭い範囲のPMMA標準物質を用いてGPCを使用して測定したところ、10500g/モルの数平均分子量(Mn)および1.36の分散度(D)を有していた。ポリマーの構造は以下の通りだった。
【0079】
【0080】
第2のステップでは、第1のステップで得られたポリマーを、マイクロ波シンセサイザにおいて密封したバイアル中にて1時間120℃で、35%HCl(aq)およびTHFの2:8(容積/容積)混合物で処理することにより部分的に加水分解した。得られた溶液をアセトンで沈殿させた。次いで、混合物をTHFに溶解し、pHが<9になるまで4M NaOHを添加した。THFを減圧下で除去し、得られた沈殿物をろ過し、水で洗浄した。これにより、下記の構造:
【0081】
【化8】
を有する部分的に加水分解されたポリマーが生成された。
【0082】
第3のステップでは、第2のステップで得られたポリマーを、アクリル酸プロパルギル(3当量)およびトリメチルアミン(3当量)のTHF溶液が入ったバイアルに密封した。バイアルをマイクロ波シンセサイザに設置し、3時間130℃に加熱した。産物を、弱酸性メタノールで2回沈殿させて、過剰トリメチルアミンおよびアクリル酸プロパルギルを除去した。これによりマイケル付加反応が促進され、以下の構造:
【0083】
【0084】
次いで、2つの選択的な第4のステップを、第3のステップから得られたポリマーに対して実施した。
1つの合成では、ポリマーを、THF中でCu(0)ワイヤーの存在下にて一晩50℃でヘキサデシルアジドと反応させることによるアジドアルキン「クリック」反応に供した。得られたポリマーは、下記の構造:
【0085】
【化10】
を有していた。
別の合成では、第3のステップからのポリマーを、THF中AIBN(25モル%)の存在下で一晩75℃にて、ドデカンチオール(2当量)を有する密閉脱気バイアル中で反応させることによるチオール-イン「クリック」反応に供した。得られたポリマーは、下記の構造:
【0086】
【0087】
試験および結果
2つの実施例油を調製した(量は質量割合として表されている)。
【0088】
【0089】
溶解度
実施例1および2は、配合後4か月間を超える期間にわたって透明であり鮮やかで均質のままだった。
【0090】
粘度
150℃で実施した高温高剪断(HTHS)粘度測定は、標準油と比較して、本発明の実施例の粘度寄与が非常に低いことを示している。
【0091】
【0092】
界面張力
ペンダントドロップ法を使用してクリュスDSA100で界面張力の測定を実施した。
実施例は両方とも、基準と比べて界面張力の著しい減少を提供する。これは、摩耗保護に望ましい表面活性を示す。
【0093】
【0094】
摩擦
摩擦係数を、AISI 52100鋼基板を取り付けたPCS Instruments社製ミニトラクションマシン(MTM)で測定した。
両方の実施例とも、基油に対する摩擦の低減を示し、このことは表面活性であることを示し、燃料経済性のために望ましい。
【0095】