(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ゴム組成物の製造方法、ゴム組成物、再架橋ゴムの製造方法、再架橋ゴム、タイヤ及びゴム工業用品
(51)【国際特許分類】
C08C 19/08 20060101AFI20240816BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240816BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C08C19/08
B60C1/00 Z
B60C19/00 L
(21)【出願番号】P 2020183037
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正幸
(72)【発明者】
【氏名】戸田 匠
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-512446(JP,A)
【文献】特開昭55-036256(JP,A)
【文献】特開2001-329109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C19/00-19/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ゴムを、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物を含む反応溶媒下において、150℃以上300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得るゴム組成物の製造方法であって、
前記化合物が、アネトール、エストラゴール、リモネン、カレン、
及びカンフェンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記化合物が、アネトール
である請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記反応溶媒が、アネトール
を含む請求項1に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記架橋ゴムが、ジエン系ゴムを50~100質量%含むゴム成分の架橋物である請求項1~3のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
前記架橋ゴムが、加硫ゴムを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のゴム組成物を1~100質量%含むゴム成分を再架橋する再架橋ゴムの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載のゴム組成物を1~100質量%含むゴム成分を再架橋してなる再架橋ゴム。
【請求項9】
請求項8に記載の再架橋ゴムからなるタイヤ。
【請求項10】
請求項8に記載の再架橋ゴムからなるゴム工業用品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の製造方法、ゴム組成物、再架橋ゴムの製造方法、再架橋ゴム、タイヤ及びゴム工業用品に関する。
【背景技術】
【0002】
環境及び省資源化の視点から、架橋ゴムを再生し、新たな架橋ゴムとして再利用することが検討されている。
例えば、特許文献1には、架橋ゴムを、炭素数2以上の第一級アルコールを含む反応溶媒下において300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法では、温和な条件下であっても、液状炭化水素を高い収率で回収できるが、高い分子量の液状炭化水素を得るには更なる検討が必要である。
【0005】
本発明は、穏和な条件下においても、より分子量の高い液状炭化水素を高分解率で製造することができるゴム組成物の製造方法、並びに、該製造方法により製造されたゴム組成物、該ゴム組成物を用いる再架橋ゴムの製造方法、該ゴム組成物から得られる再架橋ゴム、タイヤ及びゴム工業用品を提供することを目的とし、該目的を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1> 架橋ゴムを、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物を含む反応溶媒下において、150℃以上300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得るゴム組成物の製造方法。
【0007】
<2> 前記化合物の炭素数が、4~18である<1>に記載のゴム組成物の製造方法。
<3> 前記化合物が、アネトール、ピネン、エストラゴール、リモネン、カレン、及びカンフェン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含む<1>又は<2>に記載のゴム組成物の製造方法。
<4> 前記化合物が、アネトール、ピネン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
<5> 前記反応溶媒が、アネトール及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
【0008】
<6> 前記架橋ゴムが、ジエン系ゴムを50~100質量%含むゴム成分の架橋物である<1>~<5>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
<7> 前記架橋ゴムが、加硫ゴムを含む<1>~<6>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法。
【0009】
<8> <1>~<7>のいずれか1つに記載のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物。
【0010】
<9> <8>に記載のゴム組成物を1~100質量%含むゴム成分を再架橋する再架橋ゴムの製造方法。
<10> <8>に記載のゴム組成物を1~100質量%含むゴム成分を再架橋してなる再架橋ゴム。
【0011】
<11> <10>に記載の再架橋ゴムからなるタイヤ。
<12> <10>に記載の再架橋ゴムからなるゴム工業用品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、穏和な条件下においても、より分子量の高い液状炭化水素を高分解率で製造することができるゴム組成物の製造方法、並びに、該製造方法により製造されたゴム組成物、該ゴム組成物を用いる再架橋ゴムの製造方法、該ゴム組成物から得られる再架橋ゴム、タイヤ及びゴム工業用品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ゴム組成物の製造方法>
本発明のゴム組成物の製造方法は、架橋ゴムを、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物を含む反応溶媒下において、150℃以上300℃以下で加熱して液状炭化水素を含むゴム組成物を得る工程(以下、「分解工程」と称することがある)を有する。
本発明のゴム組成物の製造方法は、分解工程に加え、分解工程で得られた反応物を乾燥する乾燥工程を有していてもよい。
また、本発明の製造方法により製造されるゴム組成物に含まれる液状炭化水素は、架橋ゴムを構成するゴム分子であり、架橋ゴムの構成により異なるが、廃タイヤ由来の架橋ゴムを用いた場合、通常、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム等を含む。なお、液状とは、室温(25℃)かつ大気圧(0.1MPa)の下で液体状態あるいは石油成分(アルコール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)に容易に可溶化し液体状態になることをいう。
【0014】
反応溶媒として脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物を含む反応溶媒を用いることで、架橋ゴムの架橋点は分解されるが、ゴム分子の主鎖の切断が抑えられ、回収した液状炭化水素の分子量を高く維持することができ、かつ液状炭化水素を高い収率で得ることができる。これは、脂肪族炭素間二重結合により、化合物のラジカル反応性が高いことが理由として考えられる。
以下、本発明のゴム組成物の製造方法の詳細について説明する。
【0015】
〔架橋ゴム〕
架橋ゴムは、ゴム成分の架橋物である。
架橋ゴムの原料であるゴム成分としては、ジエン系ゴム、非ジエン系ゴムのいずれでもよい。
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
合成ジエン系ゴムは、例えば、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニリトル-ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。
非ジエン系ゴムは、例えば、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム等が挙げられる。
これらゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0016】
以上の中でも、タイヤ等のゴム製品は、一般に、ジエン系ゴムが用いられていることから、ゴム成分は、ジエン系ゴムを50質量%以上含むことが好ましい。すなわち、架橋ゴムは、ジエン系ゴムを50~100質量%含むゴム成分の架橋物であることが好ましい。ゴム成分は、ジエン系ゴムを70質量%以上含むことがより好ましく、ジエン系ゴムを90質量%以上含むことが更に好ましい。また、ジエン系ゴムは、天然ゴム、ポリイソプレンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0017】
ゴム成分の架橋剤は、特に制限されず、例えば、硫黄系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤、酸架橋剤、ポリアミン架橋剤、樹脂架橋剤、硫黄化合物系架橋剤、オキシム-ニトロソアミン系架橋剤等が挙げられる。
タイヤ等のゴム成分は、通常、硫黄系架橋剤(加硫剤)が用いられることから、架橋ゴムは、加硫剤で加硫された加硫物、すなわち、加硫ゴムを含むことが好ましい。
加硫ゴムを、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物を含む反応溶媒下において、150℃以上300℃以下で加熱することで、架橋ゴムの架橋点を分解しつつ、ゴム分子の主鎖の切断を抑える。
架橋ゴム中の加硫ゴムの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、架橋ゴムが加硫ゴムである(含有量が100質量%である)ことが特に好ましい。
【0018】
(充填剤)
架橋ゴムは、充填剤を含んでいてもよい。
タイヤは、一般に、タイヤの耐久性、耐摩耗性等の諸機能を上げるために、カーボンブラック、シリカ等の補強性充填剤を含む。
充填剤は、シリカ及びカーボンブラックのいずれか一方を単独で用いてもよいし、シリカ及びカーボンブラックの両方を用いてもよい。
【0019】
シリカは特に限定されず、一般グレードのシリカ、シランカップリング剤などで表面処理を施した特殊シリカなど、用途に応じて使用することができる。シリカは、例えば、湿式シリカを用いることが好ましい。
カーボンブラックは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのものが好ましい。
架橋ゴム中の充填剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、20~100質量部であることが好ましく、30~90質量部であることがより好ましい。
【0020】
架橋ゴムは、ゴム成分及び上記充填剤のほか、必要に応じて、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛、加硫促進剤等を含むゴム組成物を架橋した架橋物であってもよい。タイヤは、一般に、これらの配合剤を含むゴム組成物を加硫した加硫ゴムを含む。
【0021】
〔反応溶媒〕
反応溶媒は、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合物を含む。
以下、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含み、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である化合を、本発明における化合物と称することがある。
反応溶媒として本発明における化合物を選択することで、架橋ゴムの架橋点は分解されるが、ゴム分子の主鎖の切断が抑えられ、回収される液状炭化水素の分子量を高く維持することができる。
本発明における化合物は、分子鎖に脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含む。脂肪族炭素間二重結合とは、炭素間二重結合(-C=C-)が芳香環を形成する二重結合ではなく、脂肪族炭化水素鎖中の二重結合であること、換言すると、不飽和炭化水素鎖としての二重結合であることを意味する。なお、本発明における化合物は、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含む構造であれば、更に、芳香環を有していてもよい。換言すると、本発明における化合物は、脂肪族炭素間二重結合を少なくとも1つ含む芳香族化合物であってもよい。
また、本発明における化合物は、ヒドロキシ基及びアルデヒド基の数がそれぞれ0である。これは、本発明における化合物がヒドロキシ基及びアルデヒド基を共に有しないことを意味する。
反応溶媒が、脂肪族炭素間二重結合を有しないと、分子量の高い液状炭化水素を高分解率で製造することができない。
【0022】
本発明における化合物は、回収される液状炭化水素の分子量をより高く維持し、液状炭化水素を高分解率で製造する観点から、炭素数が4~18であることが好ましく、4~16であることがより好ましく、5~14であることが更に好ましく、5~12であることがより更に好ましく、5~10であることがより更に好ましい。
本発明における化合物は、具体的には、アネトール(炭素数10)、ピネン(炭素数10)、エストラゴール(炭素数10)、リモネン(炭素数10)、カレン(炭素数10)、カンフェン(炭素数10)及びこれらの誘導体等が挙げられる。異性体がある場合は、異性体を含む。
【0023】
誘導体としては、本発明における化合物の水素原子の1つ以上がアルキル基等の置換基により置換された構造が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、アミル基(プロピル基)、ブチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
これらの化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
本発明における化合物は、回収される液状炭化水素の分子量をより高く維持し、液状炭化水素を高分解率で製造する観点から、アネトール、ピネン、エストラゴール、リモネン、カレン、カンフェン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アネトール、ピネン、及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、アネトール及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが更に好ましい。
【0025】
本発明における化合物は、東京化成工業社製、富士フイルム和光純薬社製等の各社試薬メーカーの溶媒を用いてもよい。
【0026】
反応溶媒は、本発明における化合物からなってもよいし、該アルデヒドに加え、他の溶媒を含んでいてもよいが、液状炭化水素の分解率を高める観点から、本発明における化合物が反応溶媒の主成分であることが好ましい。
ここで、主成分とは、反応溶媒中の本発明における化合物の含有量が50体積%を越えることをいい、本発明における化合物の含有量は、70体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましく、100体積%であってもよい。
【0027】
分解工程では、反応溶媒を、反応溶媒の体積[mL](Vs)と架橋ゴムの質量[mg](Wg)との比(Vs/Wg)が、好ましくは0.001/1~1/1、より好ましくは0.005/1~0.1/1となる範囲で用いることが好ましい。
反応溶媒を上記範囲で用いることで、加溶媒分解反応がより促進されたり、架橋ゴムに十分な水素原子が供給され、熱分解で生成したラジカルの再結合を抑制し、架橋ゴムを効率よく分解することができる。
【0028】
〔分解工程の反応条件〕
(温度)
分解工程において、架橋ゴムと反応溶媒は150℃以上300℃以下で加熱される。
加熱温度が150℃未満では、架橋ゴムの架橋点を分解することができず、高分解率で液状炭化水素を製造することができない。また、加熱温度を300℃以下とすることで、省エネルギー化に優れ、また、副反応等による分解率低下を抑制することができる。なお、分解工程における加熱温度を分解温度と称することもある。架橋ゴムをより低温で加熱することで、溶媒が関与する反応を優先させて架橋ゴムを分解することができる。
加熱温度は、150℃より高いことが好ましく、155℃以上がより好ましく、160℃以上が更に好ましく、180℃を超えることがより更に好ましく、また、250℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、230℃以下が更に好ましく、220℃以下がより更に好ましく、210℃以下がより更に好ましい。
【0029】
(分解時間)
分解工程において、架橋ゴムを加熱する時間(分解時間)は、架橋ゴムの分解反応を十分に進める観点から、30分~20時間であることが好ましく、60分~18時間であることがより好ましい。また、架橋ゴムが充填剤を含まない場合は、分解時間を240分以下、好ましくは180分以下とすることができる。
【0030】
(圧力)
分解工程において、架橋ゴムと反応溶媒に与えられる圧力は特に制限されない。
架橋ゴムの分解反応の反応速度と、省資源及び省エネルギー化の観点から、0.1~2.0MPa(G)とすることが好ましく、0.1~1.5MPa(G)とすることがより好ましい。単位「MPa(G)」は圧力がゲージ圧であることを意味する。
圧力は、2.0MPa(G)以下であることで、液状炭化水素の分子量を低下させにくく、0.1MPa(G)以上であることで、架橋ゴムに反応溶媒が浸透し易く、反応速度を上げやすい。
【0031】
(雰囲気)
150℃以上300℃以下の分解工程における反応雰囲気は、特に制限されず、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスからなる気体の雰囲気(以下、単に不活性ガス雰囲気という)下で反応を進めてもよいし、空気からなる気体の雰囲気(以下、単に空気雰囲気という)下で反応を進めてもよいし、空気と不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で反応を進めてもよい。不活性ガスを用いる場合、2種以上の不活性ガスを混合して用いてもよい。
架橋ゴムの分解をより軽微な設備で行い、また、低エネルギー化を進める観点から、架橋ゴムは、好気環境下、即ち、酸素含有雰囲気下で加熱することが好ましく、空気を含む気体の雰囲気下で加熱することがより好ましく、空気雰囲気下で加熱することが更に好ましい。
【0032】
〔乾燥工程〕
本発明のゴム組成物の製造方法は、分解工程で得られた反応物(液状炭化水素を含むゴム組成物)を乾燥する乾燥工程を有することが好ましい。
反応物は、例えば100~150℃の温風を吹き付ければよい。温風は空気であってもよいし、窒素ガスのような不活性ガスであってもよい。
【0033】
以上のように、架橋ゴムを、本発明における化合物を含む反応溶媒下において、150℃以上300℃以下で加熱することで、液状炭化水素を含むゴム組成物が得られる。このようにして得られるゴム組成物を「分解生成有機物」と称することがある。ゴム組成物(分解生成有機物)は、一般に、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素を含む液体生成物の他に、分解せずに残存する固形分を含む。更に、架橋ゴムとして、廃タイヤを用いた場合、タイヤには、通常、充填剤が含まれることから、固形分には、充填剤も含まれる。
加硫前の生ゴムは、イソプレンゴム(IR)の場合、一般に、重量平均分子量(Mw)が120万程度、数平均分子量(Mn)が40万程度であり、また、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)の場合、一般に、重量平均分子量(Mw)が40万程度、数平均分子量(Mn)が10万程度である。得られた液状炭化水素のMw及びMnがこれらの値に近いほど、原料ゴムに近い分子鎖のゴムが得られたことを意味する。
液状炭化水素のMw及びMnは、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0034】
以上の方法によって製造された液状炭化水素は、架橋ゴムの再生に用いることができる。
また、架橋ゴムの再生には、液状炭化水素単独を原料とするのみならず、液状炭化水素と、分解工程で得られる固形分とを混合した状態で、すなわち、分解工程で得られるゴム組成物から液状炭化水素を分離することなく、ゴム組成物のまま再生ゴムの原料として用いてもよい。
このように、本発明のゴム組成物の製造方法により得られるゴム組成物は、架橋ゴム(再架橋ゴム)を再生可能なリサイクルゴムであり、本発明のゴム組成物の製造方法は、リサイクルゴムの製造方法である。
【0035】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、本発明のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物である。
既述のように、本発明のゴム組成物は、架橋ゴムを本発明における化合物を含む反応溶媒で分解して得られるゴム組成物である。
【0036】
<再架橋ゴム>
本発明の再架橋ゴムは、本発明のゴム組成物を1~100質量%含むゴム成分を再架橋してなる。
本発明の再架橋ゴムは、本発明のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物、すなわち、本発明のゴム組成物をゴム成分として用い、当該ゴム成分を再架橋してなる再架橋ゴムであって、ゴム成分中の本発明のゴム組成物の含有量が1~100質量%である。
つまり、本発明の再架橋ゴムは、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素を含むゴム組成物の再架橋物であって、ゴム成分は本発明のゴム組成物を少なくとも1質量%含み、100質量%であってもよい。ゴム成分中の本発明のゴム組成物の含有量は、5質量%以上であってもよいし、10質量%以上であってもよいし、15質量%以上であってもよいし、20質量%以上であってもよい。また、ゴム成分中の本発明のゴム組成物の含有量は、70質量%以下であってもよいし、60質量%以下であってもよいし、50質量%以下であってもよい。
【0037】
ゴム成分中の本発明のゴム組成物の含有量が100質量%未満の場合、本発明のゴム組成物と共に用いられる他のゴム成分は特に制限されない。なお、本発明のゴム組成物と共に用いられる他のゴム成分を純ゴム成分と称することがある。
純ゴム成分としては、架橋ゴムの原料であるゴム成分として挙げた既述のゴム成分である。中でも、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0038】
本発明の再架橋ゴムの原料となる原料ゴム組成物は、本発明のゴム組成物を含むゴム成分の他に、充填剤、加硫剤、加硫促進剤、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華等を含んでいてもよい。
既述のように、本発明のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物は、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素を含む液体生成物の他に、分解せずに残存する固形分を含み、固形分には、充填剤も含まれる場合もある。
再架橋ゴムの原料となる原料ゴム組成物が、そのような固形分を含む本発明のゴム組成物をゴム成分として含み、再架橋ゴムを製造することにより、環境負担をより低減することができる。
本発明のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物の再架橋の条件は特に制限されない。
本発明の再架橋ゴムは、本発明のゴム組成物を含むゴム成分が加硫剤によって加硫された再加硫ゴムであってもよい。
【0039】
<再架橋ゴムの製造方法>
本発明の再架橋ゴムの製造方法は、本発明のゴム組成物を1~100質量%含むゴム成分を再架橋する工程を有する。
具体的には、本発明のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物を、ゴム成分として、該ゴム成分中1~100質量%の範囲で用い、各種架橋剤でゴム成分を架橋する。
各種架橋剤としては、硫黄系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤、酸架橋剤、ポリアミン架橋剤、樹脂架橋剤、硫黄化合物系架橋剤、オキシム-ニトロソアミン系架橋剤等が挙げられ、通常、硫黄系架橋剤、硫黄化合物系架橋剤等の加硫剤が用いられる。
ゴム成分中の本発明のゴム組成物の含有量が100質量%未満の場合における、本発明のゴム組成物と共に用いられる他のゴム成分;再架橋ゴムの原料となる原料ゴム組成物が含み得るゴム成分以外の成分は、本発明の再架橋ゴムの項目において説明した成分が用いられる。
【0040】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、本発明の再架橋ゴムからなる。
タイヤを、架橋ゴムの加熱分解により得られる液状炭化水素を含むゴム組成物を再架橋して得られる再架橋ゴムを用いて構成することで、環境負荷の小さいタイヤとすることができる。
タイヤは、適用するタイヤの種類や部材に応じ、未架橋のゴム組成物を用いて成形後に架橋して得てもよく、または予備架橋工程等を経て、一旦未架橋のゴム組成物から半架橋ゴムを得た後、これを用いて成形後、さらに本架橋して得てもよい。タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0041】
<ゴム工業用品>
本発明のゴム工業用品は、本発明の再架橋ゴムからなる。
ゴム工業用品は、例えば、上記タイヤを除く自動車部品、ホースチューブ類、防振ゴム類、コンベアベルト、クローラー、ケーブル類、シール材等、船舶部品、建材等が挙げられる。ゴム工業用品を、本発明の再架橋ゴムを用いて構成することで、環境負荷の小さい工業用品とすることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0043】
<加硫ゴムの用意>
加硫ゴムとして、下記加硫ゴムを用意した。
加硫ゴム(IR):ポリイソプレンゴムを加硫して得られた加硫ゴム
加硫ゴム(A):ゴム成分として、天然ゴム(NR)とポリブタジエンゴム(BR);フィラー成分としてカーボンブラックを少なくとも含むゴム組成物の加硫ゴム
【0044】
<液状炭化水素の製造A>
〔比較例1〕
(分解工程)
オートクレーブ(EYELA社製、耐圧容器、商品名「HIP-30L」)に、1mm程度の小片状にした加硫ゴム(IR)0.4gと、5mLの1-ヘプタノールとを投入した。オートクレーブ内を密閉し、オートクレーブを加熱容器(EYELA社製、パーソナル有機合成装置ケミステーション、商品名「PPV-CTRL1」)に入れ、投入物を空気雰囲気下において200℃で2時間加熱した。加熱終了後、加熱容器を冷却水によって常温(25℃)まで戻し、反応物を常温にした。
【0045】
(乾燥工程)
分解工程で得られた反応物を、吹付式試験管濃縮装置(EYELA社製、商品名「MGS-3100」)を用い、130℃における窒素フローの条件で乾燥し、比較例1の分解生成有機物を得た。
【0046】
〔比較例2~4、実施例1~5〕
反応溶媒を表1の「○」で示される溶媒に代え、分解温度(加熱温度)を表1の「○」で示される温度に代えた他は、比較例1と同様にして、分解工程と乾燥工程を進め、比較例2~4、及び実施例1~5の分解生成有機物を得た。例えば、実施例1は反応溶媒としてアネトールを用い、分解温度は180℃とした。
【0047】
<分解生成有機物の分析>
実施例及び比較例で得られた分解生成有機物を、テトラヒドロフランで溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分析した。分析結果から、分解生成有機物の可溶化率、重量平均分子量(Mw)を測定した。また、濃度の異なる純ゴム成分のテトラヒドロフラン溶液を用いて検量線を作成した。検量線を利用してテトラヒドロフラン中の液状炭化水素を定量し、分解率を算出し、有効数字3桁として表1に示した。
表1に示す分子量は、例えば、比較例1の場合、296×103、すなわち、296,000であることを意味する。なお、比較例2、3及び4は、分解反応が進まずテトラヒドロフランに溶解する成分が得られなかったため、測定したが分子量に関する結果が得られなかった。
表1において、許容範囲は、重量平均分子量(Mw)が300×103以上、かつ分解率が40%以上である。
【0048】
GPC測定の条件は次のとおりである。
・カラム:東ソー(株)製造:TSKgel GMHXL
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1mL/min
・温度:40℃
・検出器:RI
【0049】
【0050】
<液状炭化水素の製造B>
〔実施例6、実施例7、比較例6〕
実施例1の分解工程において、加硫ゴム(IR)を加硫ゴム(A)に;1-ヘプタノールを表2に示す溶媒に;加硫ゴム及び溶媒の加熱時間(分解時間)を表2に示す時間に、それぞれ変更した他は同様にして、分解工程を行った。その後、溶媒除去のための精製を行い、乾燥工程を進め、実施例6、実施例7及び比較例6の分解生成有機物を得た。
【0051】
<分解生成有機物の分析>
製造した分解生成有機物について、比較例1の分解生成有機物と同様の方法で分析して、重量平均分子量(Mw)及び分解率を測定し、有効数字3桁として表2に示した。
表2に示す分子量は、例えば、実施例5の場合、210×103、すなわち、210,000であることを意味する。
表2において、許容範囲は、重量平均分子量(Mw)が210×103以上、かつ分解率が70%以上である。
なお、表1は脱硫前の加硫ゴムが加硫ゴム(IR)であり、ゴム成分がポリイソプレンゴム(IR)であるため、許容範囲の分子量を300×103以上と設定した。表2では脱硫前の加硫ゴムが加硫ゴム(A)であり、ゴム成分としてポリブタジエンゴム(BR)が含まれているため、許容範囲の分子量を210×103と設定した。
【0052】
【0053】
<再加硫ゴムの製造>
〔実施例8~13、比較例7~8〕
実施例6、実施例7、及び比較例6で製造した分解生成有機物を用い、又は用いずに、表3に示す組成で各成分を配合し、ゴム組成物を調製した。得られたゴム組成物をそれぞれ加硫して加硫ゴムを得た。
【0054】
なお、表3に示す成分の詳細は下記のとおりである。
NR:天然ゴム
BR:ハイシスポリブタジエン、宇部興産社製、商品名「UBEPOL BR150L」
カーボンブラック:SAFグレード
老化防止剤:大内新興化学工業社製、商品名「ノクラック 6C」を含む老化防止剤
加硫パッケージ:硫黄を含む。
表3に示す以外に、その他薬品トータル7.9質量部を含む。
【0055】
<加硫ゴムの特性評価>
実施例8~13及び比較例7~8の加硫ゴムを用いて、各加硫ゴムの引張強度を評価した。
【0056】
1.引張強度
各加硫ゴムの引張強度は、破断強度(TB;Tensile strength at Break)の観点から評価した。破断強度は、JIS K 6251(2017年)に基づいて、加硫ゴムを室温(23℃)で100%伸長し、破断させるのに要した最大の引張り力として測定した。結果を表3に示す。
得られた破断強度の値は、比較例7の破断強度の値を100として指数表示した。指数値が大きい程、加硫ゴムは、破断強度が大きいことを意味する。
【0057】
【0058】
表1~2からわかるように、実施例では、比較例に比べ、より高い分子量の液状炭化水素を含むゴム組成物を、より高い分解率で製造することができる。
また、表3からわかるように、実施例の液状炭化水素を含むゴム組成物から製造された加硫ゴムは、比較例の液状炭化水素を含むゴム組成物から製造された加硫ゴムに比べ、引張強度が大きく、ゴム組成物中の含有量が増えても引っ張り強度が悪化しにくく、性能を維持していることがわかる。