(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】プレス部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20240816BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20240816BHJP
B21D 28/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/26 D
B21D22/20 E
B21D28/00 A
(21)【出願番号】P 2020204190
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000219233
【氏名又は名称】東プレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】竹内 紀勝
【審査官】飯田 義久
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-190929(JP,A)
【文献】国際公開第2014/106931(WO,A1)
【文献】特開2020-062664(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/194963(JP,A1)
【文献】再公表特許第2015/053036(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 22/20
B21D 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に対して直交する平面による
断面がハット形状に形成されているハット状部と、前記ハット状部の長手方向で見て前記ハット形状の一方の端から他方の端にわたり前記ハット状部の凸部側で、前記ハット状部の長手方向に対して交差する方向に前記ハット状部の長手方向の一方の端部から展開しているフランジ部とを備えており、ハイテン材で構成されているプレス部品の製造方法であって、
前記ハット状部の深さが途中の深さになるまで、平板状の所定形状の材料を成形する第1フォーム工程と、
前記ハット状部の深さが目標の深さになるまで、前記第1フォーム工程で成形された材料を成形する第2フォーム工程と、
前記第1フォーム工程と前記
第2フォーム工程での成形で形成されたハット状部を除く部位であるフランジ形成部位の外周部にある余剰部位を取り除くトリム工程と、
前記トリム工程で余剰部位を取り除いた後に、前記フランジ形成部位が前記ハット状部の長手方向に対して交差する方向に展開するように曲げて前記フランジ部を成形するフランジ部成形工程と、
を有するプレス部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス部品の製造方法であって、
前記第2フォーム工程では、前記フランジ形成部位と前記余剰部位との境界部で折り曲げをする請求項1記載のプレス部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプレス部品の製造方法であって、
前記フランジ部成形工程は、前記フランジ形成部位の中央部の曲げの開始タイミングを、前記フランジ形成部位の両端部の曲げの開始タイミングよりも遅くしている請求項1または2記載のプレス部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のプレス部品の製造方法であって、
前記プレス部品は、前記フランジ部の反対側に設けられている順送加工用桟を用い、連続プレス加工で成形されるプレス部品の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のプレス部品の製造方法であって、
前記プレス部品は、前記順送加工用桟の両側に配置されているプレス部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のプレス部品の製造方法であって、
前記フランジ形成部位の厚さ方向で見ると、前記トリム工程で除かれる余剰部位は、「C」字状形に形成されており、前記フランジ形成部位の先端部に位置しているプレス部品の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のプレス部品の製造方法であって、
前記フランジ形成部位の厚さ方向で見ると、前記トリム工程で除かれる余剰部位は、「C」字の両端部で、「C」字の端に向かうにしたがって幅が次第に狭くなっており、「C」字の両端が尖っているプレス部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス部品の製造方法に係り、特に、プレス部品がハット状部とフランジ部とを備えているものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両の車体には、高強度が求められている。この要求に応えるため、材料として高張力鋼鈑(ハイテン材)が採用されている。ハイテン材を用いることで、車体の構成部材(車体部品)の超高張力化が進んでいる。
【0003】
たとえば、車体部品の中でも、フレームと呼ばれる部品は、断面がいわゆるハット形状またはコの字形状の形状をしたものが多用されている。これら部品(ハット形状部)の端部にはフランジ部が設けられており、相手部品と溶接等により結合される場合がある。従来、このフランジ部は成形を容易にするため、切り欠きにより複数に分割されていた。ところが、衝突時の変形強度を向上させるため、ハット形状部の端部のフランジ部が、ハット形状部の下部の一方の部位から他方の部位まで連続しており、ハット形状部位と一体で成形されている場合がある。
【0004】
ハット形状部とこの端部のフランジ部とを備えたプレス部品の製造方法として(たとえば特許文献1に記載されたものが知られている。
【0005】
特許文献1に記載のプレス部品の製造方法では、ハット形状部の成形途中に、フランジ部となる部分に波形状をなすギャザー部を成形し、次にギャザー部を引き延ばしてフランジ部を成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載のプレス部品の製造方法は、普通鋼鈑であれば実施(成形)可能である。しかし、ハイテン材では、材料の延び量(破断時の延び量)が、たとえば980MPa材なら約10%になっている。したがって、ハイテン材では、特許文献1に記載のプレス部品の製造方法を実施しても、成形途中で割れ(破断、亀裂)を起こして加工できない。
【0008】
本発明は、ハイテン材で構成されており、ハット状部とフランジ部とを備えているプレス部品およびプレス部品の製造方法において、成形途中での割れ(破断、亀裂)を起こすことなく加工することができるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、長手方向に対して直交する平面による断面がハット形状に形成されているハット状部と、前記ハット状部の長手方向で見て前記ハット形状の一方の端から他方の端にわたり前記ハット状部の凸部側で、前記ハット状部の長手方向に対して交差する方向に前記ハット状部の長手方向の一方の端部から展開しているフランジ部とを備えており、ハイテン材で構成されているプレス部品の製造方法であって、
前記ハット状部の深さが途中の深さになるまで、平板状の所定形状の材料を成形する第1フォーム工程と、前記ハット状部の深さが目標の深さになるまで、前記第1フォーム工程で成形された材料を成形する第2フォーム工程と、前記第1フォーム工程と前記第2フォーム工程での成形で形成されたハット状部を除く部位であるフランジ形成部位の外周部にある余剰部位を取り除くトリム工程と、前記トリム工程で余剰部位を取り除いた後に、前記フランジ形成部位が前記ハット状部の長手方向に対して交差する方向に展開するように曲げて前記フランジ部を成形するフランジ部成形工程とを有するプレス部品の製造方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプレス部品の製造方法であって、前記第2フォーム工程では、前記フランジ形成部位と前記余剰部位との境界部で折り曲げをする請求項1記載のプレス部品の製造方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のプレス部品の製造方法であって、前記フランジ部成形工程は、前記フランジ形成部位の中央部の曲げの開始タイミングを、前記フランジ形成部位の両端部の曲げの開始タイミングよりも遅くしている請求項1または2記載のプレス部品の製造方法である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のプレス部品の製造方法であって、前記プレス部品は、前記フランジ部の反対側に設けられている順送加工用桟を用い、連続プレス加工で成形されるプレス部品の製造方法である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のプレス部品の製造方法であって、前記プレス部品は、前記順送加工用桟の両側に配置されているプレス部品の製造方法である。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のプレス部品の製造方法であって、前記フランジ形成部位の厚さ方向で見ると、前記トリム工程で除かれる余剰部位は、「C」字状形に形成されており、前記フランジ形成部位の先端部に位置しているプレス部品の製造方法である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のプレス部品の製造方法であって、前記フランジ形成部位の厚さ方向で見ると、前記トリム工程で除かれる余剰部位は、「C」字の両端部で、「C」字の端に向かうにしたがって幅が次第に狭くなっており、「C」字の両端が尖っているプレス部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ハイテン材で構成されており、ハット状部とフランジ部とを備えているプレス部品およびプレス部品の製造方法において、成形途中での割れ(破断、亀裂)を起こすことなく加工することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係るプレス部品の製造方法における各工程を概略的に示した図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るプレス部品の使用態様を示す図であり、(b)は(a)におけるIIB部の拡大図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るプレス部品の製造方法の前工程で得られたものを示す平面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るプレス部品の製造方法の第1フォーム工程で得られたものを示す斜視図である。
【
図7】
図6におけるVII―VII断面を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るプレス部品の製造方法の第2フォーム工程で得られたものを示す斜視図である。
【
図12】本発明の実施形態に係るプレス部品の製造方法のトリム工程で得られたものを示す斜視図である。
【
図16】本発明の実施形態に係るプレス部品の製造方法のフランジ部成形工程と後工程とで得られたプレス部品1を示す斜視図である。
【
図19】
図18におけるXIX―XIX断面矢視図であり、フランジ部も表している図である。
【
図20】本発明の実施形態に係るプレス部品の製造方法のフランジ部成形工程におけるプレス部品の挙動を示す図である。
【
図21】本発明の実施形態に係るプレス部品の製造方法の第2フォーム工程での、フランジ形成部位と余剰部位との境界部での折り曲げを示す図である。
【
図22】本発明の実施形態に係るプレス部品の製造方法のフランジ部成形工程におけるプレス部品と金型とを示す図である。
【
図23】本発明の実施形態に係るプレス部品の製造方法のトリム工程における余剰部位等を示す図であり、(b)は(a)におけるXXIIIB―XXIIIB断面を示す図である。
【
図24】本発明の実施形態に係るプレス部品における応力の発生状態を示す図である。
【
図25】比較例に係るプレス部品における応力の発生状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係るプレス部品(プレス製品)1は、
図2で示すように、たとえば、自動車等のフレーム3の一部を構成する部品であり、たとえば、ブレース・ルーフ・フロントR/Lとして採用される。ブレース・ルーフ・フロントRと、ブレース・ルーフ・フロントLとはお互いが対称な形状になっている。
【0020】
ブレース・ルーフ・フロントは、ルーフ・フロント5と供にフロントガラスとルーフパネルを固定する車体の一部を構成している。ルーフ・フロントとブレース・ルーフ・フロントR/Lとの両端部(両端部のプレス部品1)はフロントピラー7に接続され、車体の主要な骨格となっている。
【0021】
プレス部品1は、ハイテン材(高張力鋼)を、金型等を用いてプレス成形することで形成されており、
図16~
図19で示すように、ハット状部9とフランジ部11とを備えている。フランジ部11とハット状部9の一部とがフロントピラー7にたとえば溶接接続されている。
【0022】
ここで説明の便宜のために空間における所定の一方向をX方向とし、このX方向に対して直交する所定の一方向をY方向とし、X方向とY方向とに対して直交する方向をZ方向とする。
【0023】
ハット状部9は、長手方向(Z方向)に対して直交する平面による断面形状がハット状に形成されている。
【0024】
ハット状部9についてさらに説明する。なお、プレス部品1は、フレーム3を構成しているので、実際には、完全な平板になっている箇所はほとんど無く、若干湾曲した板を適宜つなげた複雑な形状になっている。したがって、プレス部品1の説明におけるX方向、Y方向、およびZ方向のそれぞれは、厳格なものではなく、大まかな方向として解釈する必要がある。さらに応力集中等を避けるために、プレス部品1において板が曲がっている部位(ハット状部9とフランジ部11との境界等)や角部は円弧状に丸められている。
【0025】
ハット状部9は、
図19等で示すように、天板部13と第1の側壁部15と第1の底板部17と第2の側壁部19と第2の底板部21とを備えて構成されている。
【0026】
天板部13は、Y方向が厚さ方向になっており、X方向に所定の長さ延びている。第1の側壁部15は、X方向が厚さ方向になっており、天板部13のX方向の一方の端からY方向に所定の長さ延びている。第1の底板部17は、Y方向が厚さ方向になっており、第1の側壁部15のY方向の先端(天板部13とは反対側の端)からX方向であって天板部13から離れる方向に所定の長さ延びている。
【0027】
第2の側壁部19は、X方向が厚さ方向になっており、天板部13のX方向の他方の端からY方向であって第1の側壁部15と同じ側に所定の長さ延びている。第2の底板部21は、Y方向が厚さ方向になっており、第2の側壁部19のY方向の先端(天板部13とは反対側の端)からX方向であって天板部13から離れる方向に所定の長さ延びている。
【0028】
フランジ部11は、
図19で示すように、ハット状部9の長手方向(Z方向)で見てハット形状の一方の端から他方の端にわたりハット状部9の凸部側に設けられている。
【0029】
さらに説明すると、Z方向で見て、フランジ部11は、概ね矩形状に形成されており、X方向では、第1の底板部17の先端(第1の側壁部15とは反対側の端)から第2の底板部21の先端(第2の側壁部19とは反対側の端)にわたって設けられている。
【0030】
Z方向で見て、フランジ部11は、Y方向では、ハット状部9(天板部13、第1の側壁部15、第1の底板部17、第2の側壁部19、第2の底板部21)の一方の側であって、第1の底板部17、第2の底板部21から天板部13、第1の側壁部15、第2の側壁部19が突出している側(凸部側)に設けられている。
【0031】
また、フランジ部11は、ハット状部9の凸部側で、ハット状部9のハット形状の道のりの全長にわたって連続している。また、フランジ部11は、ハット状部9の長手方向に対して交差する方向に、ハット状部9の長手方向の一方の端から展開している。これにより、ハット状部9の長手方向(Z方向)で見ると、フランジ部11は所定の幅寸法を備えた「コ」字状に形成されているといも言える。
【0032】
また、フランジ部11は、
図18等で示すように、ハット状部9の長手方向(Z方向)に対して直角に近い角度で交差する方向(概ねY方向)に、ハット状部9の長手方向(Z方向)の一方の端部から展開している。すなわち、ハット状部9とフランジ部11との交差角度θ1は、100°程度の角度になっている。この角度θ1が、90°~120°の範囲内で変更されていてもよい。
【0033】
フランジ部11のハット状部9の天板部13からの展開高さHAの最大値HA1は、ハット状部9の深さ(高さ寸法)HBの最大値HB1よりも大きくなっている。ハット状部9の深さHBは、Z方向で、ハット状部9の端(フランジ部11とは反対側の端)からフランジ部11に向かうにしたがって次第に小さくなっている。
【0034】
図19で示すように、Z方向で見て、第1の側壁部15の延出長さの値と第1の底板部17の延出長さの値と第2の底板部21の延出長さの値とは、お互いがほぼ等しくなっている。第2の側壁部19の延出長さの値は、第1の側壁部15の延出長さの値よりも大きくなっており、天板部13の延出長さの値は、第2の側壁部19の延出長さの値よりも大きくなっている。
【0035】
さらに、Z方向で見て、天板部13に対する第1の側壁部15の曲げ角度は、90°に近い鈍角になっており、天板部13に対する第2の側壁部19の曲げ角度も、90°に近い鈍角になっている。また、Z方向で見て、第1の側壁部15に対する第1の底板部17の曲げ角度も、90°に近い鈍角になっており、第2の側壁部19に対する第2の底板部21の曲げ角度も、90°に近い鈍角になっている。
【0036】
また、プレス部品1では、天板部13の、フランジ部11近傍の部位には、円形状の貫通孔22が設けられている。貫通孔22は、プレス部品1をフロントピラー7や図示しない別部品に溶接接合するときに使用されるものである。なお、貫通孔22は、第1フォーム工程で形成されるが、他の工程で形成されてもよい。
【0037】
次に、プレス部品1の製造方法について説明する。
【0038】
プレス部品1の製造では、たとえば、プログレ(連続順送)加工による量産工法を採用している。また、材料としてハイテン材のコイル材25(
図3参照)を使用している。したがって、プレス部品1の製造方法は、まず、所定形状にされた平板状の素材23を得る前工程を有する(
図1(a)、
図3参照)。前工程では、コイル材25から予め不要部分をカット(切断削除)して、所定形状の素材23を得る。前工程では、フランジ部11となる部位のところに余剰部位27(
図21、
図23参照)が設けられている。なお、
図3に参照符号49で示すものは、パイロット孔である。
【0039】
プレス部品1の製造方法では、前工程(
図1(a))で得られた素材23を、第1フォーム工程(
図1(b))と第2フォーム工程(
図1(c))とトリム工程(
図1(d))とフランジ部成形工程(
図1(e))とで成形(たとえばプレス成形)している。さらに、フランジ部成形工程されたものに後工程(
図1(f))を施すことで、プレス部品1を得ている。
【0040】
図1(b)、
図4~
図7は、第1フォーム工程で得られた中途成形品28を示しており、
図1(c)、
図8~
図11は、第2フォーム工程で得られた中途成形品28を示しており、
図1(d)、
図12~
図15は、トリム工程で得られた中途成形品28を示しており、
図1(e)は、フランジ部成形工程で得られた中途成形品28を示しており、
図1(f)、
図16~
図19は、後工程で得られたプレス部品1を示している。
【0041】
第1フォーム工程では、
図7等で示すように、ハット状部9(ハット状部9になる部位)の深さHCが途中(中途)の深さになるまで、前工程で得られた平板状の所定形状の材料(素材)23を成形する。
【0042】
第2フォーム工程では、
図11等で示すように、ハット状部9(ハット状部9になる部位)の深さHDが目標の深さ(最終の深さ;プレス部品1としての深さ)になるまで、第1フォーム工程で成形された材料(中途成形品)28を成形する。なお、第1フォーム工程、第2フォーム工程でも、余剰部位27が存在しているとともに、フランジ部11になる部位と余剰部位27とは、第1フォーム工程、第2フォーム工程でのプレスによるハット状部9の成形に応じて変形している(成形されている)。
【0043】
トリム工程では、
図12、
図23等で示すように、第1フォーム工程と第2のフォーム工程での成形で形成されたハット状部9なる部位を除く部位であるフランジ形成部位(29の外周部にある余剰部位27を切断して取り除く。余剰部位27は、ハット状部9とは反対側でフランジ形成部位29の外周に存在している。
【0044】
フランジ部成形工程では、
図1(e)、
図16等で示すように、トリム工程で余剰部位27を取り除いた後に、フランジ形成部位29がハット状部9の長手方向に対して交差する方向に展開するように曲げてフランジ部11を成形する。
【0045】
なお、第2フォーム工程では、
図21、
図23(b)で示すように、フランジ形成部位29と余剰部位27との境界部31で折り曲げをしている(
図21の矢印参照)。すなわち、境界部31で折り曲げをしないと、余剰部位27が
図21に実線で示すようになっているが、境界部31で折り曲げをすることで、余剰部位27が
図21に二点鎖線で示すようになる。
【0046】
また、フランジ部成形工程では、
図22で示すように、フランジ形成部位29の中央部29Aの曲げの開始タイミングを、フランジ形成部位29の両端部29B、29Cの曲げの開始タイミングよりも遅くしている。
【0047】
すなわち、金型33のうちの、フランジ形成部位29の中央部29Aを成形する部位33Aを、金型33のうちの、フランジ形成部位29の両端部29B、29Cを成形する部位33B、33Cよりも凹ましている。そして、フランジ部11を成形するときに、先に、金型33の部位33B、33Cでフランジ形成部位29の両端部29B、29Cを成形し、これに続いて、金型33の部位33Aでフランジ形成部位29の中央部29Aを成形している。
【0048】
なお、フランジ形成部位29の両端部29B、29Cを先に成形しこれに続いてフランジ形成部位29の中央部29Aを成形するために、
図20で示すように、トリム工程とフランジ部成形工程の間で中途成形品28を、詳しくは後述する順送加工用桟35を回動中心にして回動している。
図20に実線で示す中途成形品28は、フランジ部成形工程での成形をする前の中途成形品28の位置を示しており、二点鎖線で示す中途成形品28は、フランジ部成形工程での成形後の中途成形品28の位置を示している。中途成形品28を回動することにより、金型33がフランジ成形部29を曲げるとき、フランジ成形部29を扱かれること(摩擦力)を軽減する作用がある。
【0049】
また、プレス部品1の製造方法では、プレス部品1が、フランジ部11の反対側に設けられている順送加工用桟35(
図1、
図3等参照)を用い、連続プレス加工で成形されるようになっている。
【0050】
さらに説明すると、
図3で示すコイル材25から前工程で素材23を得るときに、
図3で示す素材23A、素材23B、素材23Cをこれらの順に一対ずつ(2つずつ)得ている。すなわち、素材23、中途成形品28、プレス部品1が、順送加工用桟35の両側に、順送加工用桟35を間にして対称に配置されている。そして、プレス部品1等を2つずつ得ることができるようになっている。なお、
図3で示す一方の側の素材23Aa、素材23Ba、素材23Caを得ることなく、素材23A、素材23B、素材23Cをこれらの順に1つずつ得るようにしてもよい。
【0051】
プレス部品1の製造方法では、所定の幅と厚さとを備えてX方向に長く延びている順送加工用桟35に、プレス成形の対象となる複数のプレス部品等を配置している。プレス部品等とは、前工程と第1フォーム工程と第2フォーム工程とトリム工程とフランジ部成形工程で成形の対象となる成形途中の材料(素材23、中途成形品28)とプレス部品1である。
【0052】
順送加工用桟35の厚さ方向(Y方向)で見ると、
図3で示すように、順送加工用桟35の幅方向(Z方向)の一方の側に複数のプレス部品等が配置されることになる。これらの複数のプレス部品等は、順送加工用桟35から僅かに離れて、順送加工用桟35の長手方向(X方向)でお互いが所定の間隔をあけてならんでいる。プレス部品等におけるハット状部9の長手方向は、順送加工用桟35の幅方向と一致している。また、プレス部品等は、フランジ部11(フランジ形成部位29)が、順送加工用桟35とは反対側に位置している。さらに、プレス部品等と順送加工用桟35とは、細い連結部37でつながっている。後工程では、連結部37を除去し、プレス部品1を順送加工用桟35から分離している。
【0053】
連続プレス加工では、複数のプレス部品等に対してこのならび順に、第1フォーム工程での加工、第2フォーム工程での加工、トリム工程での加工、フランジ部成形工程での加工をこの順に施す。
【0054】
たとえば、長手方向で、1つ目のプレス部品等(素材)23が、順送加工用桟に沿って5つならんでいるとする。これらのプレス部品等をこのならび順に、1つ目のプレス部品等、2つ目のプレス部品等、3つ目のプレス部品等、4つ目のプレス部品等、5つ目のプレス部品等とする。
【0055】
1回目の成形では、1つ目のプレス部品等に対して第1フォーム工程での成形を施す。2回目の成形では、5つのプレス部品等を順送加工用桟の長手方向で適宜移動し、2つ目のプレス部品等に対して第2フォーム工程での成形を施すとともに、1つ目のプレス部品等に対して第1フォーム工程での成形を施す。
【0056】
3回目の成形では、5つのプレス部品等を順送加工用桟の長手方向でさらに適宜移動し、3つ目のプレス部品等に対して第1フォーム工程での成形を施し、2つ目のプレス部品等に対して第1フォーム工程での成形を施すとともに、1つ目のプレス部品等に対して第2フォーム工程での成形を施す。
【0057】
4回目の成形では、5つのプレス部品等を順送加工用桟の長手方向でさらに適宜移動し、4つ目のプレス部品等に対して第1フォーム工程での成形を施し、3つ目のプレス部品等に対して第1フォーム工程での成形を施し、2つ目のプレス部品等に対して第2フォーム工程での成形を施すとともに、1つ目のプレス部品等に対してトリム工程での成形を施す。
【0058】
5回目の成形では、5つのプレス部品等を順送加工用桟の長手方向でさらに適宜移動し、5つ目のプレス部品等に対して第1フォーム工程での成形を施し、4つ目のプレス部品等に対して第1フォーム工程での成形を施し、3つ目のプレス部品等に対して第2フォーム工程での成形を施し、2つ目のプレス部品等に対してトリム工程での成形を施すとともに、1つ目のプレス部品等に対してフランジ部成形工程での成形を施す。
【0059】
このような動作をさらに続けることで、プレス部品をたとえば2つずつ連続して得ることができる。なお、前工程で得られる素材23も、コイル材25から、一対ずつ成形されるようになっている。
【0060】
フランジ形成部位29をこの厚さ方向で見ると、トリム工程で除かれる余剰部位27は、
図23で示すように、「C」字状形に形成されており、フランジ形成部位29の先端部に位置しており、フランジ部11となる部分を囲んでいる。また、フランジ形成部位29をこの厚さ方向で見ると、トリム工程で除かれる余剰部位27は、「C」字の両端部で、「C」字の端に向かうにしたがって幅が次第に狭くなっており、「C」字の両端が尖っている。
【0061】
プレス部品1の製造方法によれば、第1フォーム工程と第2フォーム工程とトリム工程とフランジ部成形工程とを経てプレス部品1を製造しているので、成形途中での割れ(破断、亀裂)の発生を起こすことなくプレス部品1を得ることができる。
【0062】
すなわち、プレス部品1の製造方法では、フランジ部11を形成する部分に、予め余剰に大きく材料を確保しているので(余剰部位27を設けているので)、成形時に発生する応力が分散してはたらくようになっている。これにより、成形途中で割れが発生する部分での応力集中を緩和することができ、プレス部品1の成形時におけるプレス部品1での割れを抑制できる。
【0063】
また、フランジ部11の外方向に余剰な材料(余剰部位27)を保持させた状態で、第2フォーム工程でハット状部9を成形し、トリム工程で余剰部位27を削除している。これより、フランジ部11の成形途中の応力分布を変えることができ、フランジ部成形工程での割れの発生を抑制することができる。
【0064】
すなわち、成形をするときに、
図24に参照符号39で示す部位に、ある程度の大きさの応力が発生するが、この応力では、プレス部品1に割れ等が発生することがない。
【0065】
また、第1フォーム工程と第2フォーム工程とに分けてハット状部9を成形しているので、これによっても、割れ等の発生を抑制することができる。
【0066】
これに対して、ハット状部9とフランジ部11とを従来工法で同時に成形すると、
図25に参照符号41で示す部位に大きな応力が発生してしまい。プレス部品43に割れ等が発生してしまう。すなわち、
図25で示す部位41で示す所にエッジ割れ(材料端部から内部に向かう亀裂)が発生してしまう。さらに説明すると、ハット状部9の上部(天板部)13をパッド(図示せず)で押さえて(拘束して)ハット状部9の底板部17、21を成形する(深く絞る、ハットの高さを増す)と、端部のフランジ部11に矢印A1で示す応力が発生する。
【0067】
また、同時にフランジ部11を正規の形状に曲げる工程を行うと、フランジ部11の先端部に矢印A2で示す応力が発生する。矢印A1で示す応力と矢印A2で示す応力は相反する方向であるので、材料(中途成形品)28の延び限界を超え、
図25の参照符号41で示す所にエッジ割れが発生する(X方向で、参照符号41で示すところの反対側も同様に割れが発生する)。
【0068】
なお、
図25に参照符号45で示す部位に発生する応力の値は、参照符号41で示す部位に発生する応力の値よりも小さくなっている。
【0069】
また、プレス部品1の製造方法によれば、第2フォーム工程でフランジ形成部位29と余剰部位27との境界部31で折り曲げをしている(材料端部の折り曲げをしている)ので、
図25に矢印A1で示す応力の値を小さくすることができる。
【0070】
すなわち、第1フォーム工程で浅く成形しておいたハット状部(プレス部品1でハット状部9になる部位)を、ハットの断面形状が正規(最終)形状まで成形すると同時に、フランジ形成部位29の端部(余剰部位27)を曲げるので、ハット断面に成形によるハット断面方向への応力(
図25に矢印A1で示す応力)が低減される。
【0071】
さらに説明すると、材料端部(フランジ形成部位29の端部)を折り曲げることにより材料端部の材料剛性が高まり、材料端部の応力(引張応力)が分散し、割れ発生の可能性を抑制すると考えられる。また、正規形状による必要な材料に加えて余剰部位27を持たせておき成形をするので、さらなる応力の分散の効果もある。
【0072】
また、プレス部品1の製造方法では、フランジ部成形工程で、フランジ形成部位29の中央部29Aの曲げの開始タイミングを、フランジ形成部位29の両端部29B、29Cの曲げの開始タイミングよりも遅くしている。すなわち、割れ発生部の左右隣りのフランジ形成部位29を曲げる曲げ刃が凸形状、割れ発生部(中央部)が凹形状となっているので、凸状曲げ刃が凹状曲げ刃より先にフランジ形成部位29の端部29B、29Cを曲げ始め、遅れて、フランジ中央部29Aが曲がり始める。フランジ形成部位29の中央部29Aの曲げ加工を遅らせることにより水平左右方向に発生する応力を緩和し割の発生が抑制される。
【0073】
さらに説明すると、フランジ部成形工程のときに、金型の曲げパンチを中央部が凹(左右両端部が凸)形状としている。この金型の曲げパンチを使用して曲げると、左右両端部が被曲げフランジ(被加工パネル)に先に当接し曲げ加工が始まる。フランジ中央部の曲げ加工は時間的に遅れて曲げ始まる。結果的にフランジの左右端部と中央部の曲げ始めのタイミングがずれていることでフランジ部中央部が左右水平方向に開く応力(
図25の矢印A3で示す応力)が緩和され割れが防止される。
【0074】
これに対して、曲げパンチが(水平方向に)直線であると(曲げ開始タイミングをずらさないと)、フランジ形成部位29の中央部29Aに水平左右方向に向かう応力A3が発生する。すなわち、フランジ形成部位29の左右部(コーナー部)29B、29Cは、ハット状部9の底板部17、21から連続しているので、
図25に矢印A1、A2で示す応力により、フランジ形成部位29の参照符号47で示す部位に応力が発生する。部位47での応力は左右に発生するのでフランジ形成部位29の中央部29Aでは水平方向に引く応力となり、割れの要因となる。
【0075】
また、プレス部品1の製造方法によれば、フランジ部11の反対側に設けられている順送加工用桟35を用い、プレス部品1を連続プレス加工で成形しているので、ハイテン材(難加工材)の加工であっても生産効率が向上している。
【0076】
また、プレス部品1の製造方法では、プレス部品1が順送加工用桟35の両側に配置されている。すなわち、順送加工用桟35を挟んで両側にプレス部品1を配置し順送加工可能としたので、生産効率がさらに向上している。また、プレス部品1が順送加工用桟の両側に配置されているので、力のバランスをとってプレス部品1を効率よく成形することができる。
【0077】
また、プレス部品1の製造方法によれば、フランジ形成部位29の厚さ方向で見ると、トリム工程で除かれる余剰部位27が、「C」字状形に形成されており、フランジ形成部位29の先端部に位置しているので、材料の使用量を極力削減しつつプレス成形での割れ等の発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 プレス部品
9 ハット状部
11 フランジ部
29 フランジ形成部位
27 余剰部位
31 境界部
29A 中央部
29B、29C 両端部
35 順送加工用桟
HA1 フランジ部の展開高さ
HB1 ハット状部の深さ