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特許7539321ヒト肝細胞が移植された非ヒト脊椎動物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ヒト肝細胞が移植された非ヒト脊椎動物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20240816BHJP
   A01K 67/027 20240101ALI20240816BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240816BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240816BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240816BHJP
   C12N 15/38 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
A01K67/027
C12N15/12
C12N5/10
C12N15/54
C12N15/38
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021006337
(22)【出願日】2021-01-19
(62)【分割の表示】P 2020554560の分割
【原出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2021074004
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2018234945
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年7月2日 掲載アドレス:https://www.ciea.or.jp/about/reports/report.phpにおいて電気通信回線により発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「事業名 感染症実用化研究事業 肝炎等克服実用化研究事業 肝炎等克服緊急対策研究事業」「研究開発課題名 C型肝炎ウイルス感染モデル及び臨床情報・試料を用いたウイルス排除後の病態に関する研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390016470
【氏名又は名称】公益財団法人実中研
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末水 洋志
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-082908(JP,A)
【文献】国際公開第2017/075432(WO,A1)
【文献】ITO, R., et al.,Current advances in humanized mouse models,Cellular & Molecular Immunology [online],2012年,Vol. 9,p. 208-214,https://doi.org/10.1038/cmi.2012.2,[検索日2020.02.25]
【文献】GUNAWAN, M., et al.,A Novel Human Systemic Lupus Erythematosus Model in Humanised Mice,Scientific Reports [online],2017年11月30日,volume 7, Article number: 16642,https://doi.org/10.1038/s41598-017-16999-7,[検索日 2020.02.25]
【文献】ITO, R., et al.,Humanized mouse models: Application to human diseases,Journal of Cellular Physiology [online],2017年06月09日,Vol. 233,pp. 3723-3728,https://doi.org/10.1002/jcp.26045,[検索日 2020.02.25]
【文献】公益財団法人実験動物中央研究所事業報告書(事業年度 第61期 自平成29年4月1日 至平成30年3月,2018年07月02日,pp. 1-65,https://www.ciea.or.jp/about/pdf/report/61_report.pdf,[検索日 2020.02.25]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
A01K 67/027
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(4)の特徴を有する遺伝子改変マウスであって、IL-2受容体γ鎖遺伝子またはJak3遺伝子に変異が導入され、T細胞及びB細胞の抗原受容体遺伝子の再構成に関わる遺伝子の変異が両対立遺伝子座位にある、免疫不全遺伝子改変マウスに移植されたヒト肝細胞が、該遺伝子改変マウスに生着して増殖した後に採取されたヒト肝臓:
(1)遺伝子改変マウスの肝細胞の90%以上100%未満の細胞がヒトの肝細胞に置換され、ヒト肝臓が再構築され該肝臓がヒト肝臓の3次元的構造及びヒト肝臓の機能を有しており、生体内にヒトIL-6が存在している;
(2)遺伝子改変マウスの肝細胞が傷害されている;
(3)ヒト肝臓の肝胆管システムが構築され、ヒト肝臓の機能的小葉構造を有し、肝臓の異物排泄機能が正常に働いている;及び
(4)ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子がその肝臓において特異的に発現可能に保持されている。
【請求項2】
免疫不全遺伝子改変マウスが、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Alb-UL23)7-2/ShiJic、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)4-9/ShiJic、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)5-2/ShiJicマウス及びNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)10-15/ShiJicからなる群から選択される遺伝子記号で表される免疫不全遺伝子改変マウスである、請求項1記載のヒト肝臓。
【請求項3】
ヒト肝細胞を下記(1)および(2)の特徴を有する遺伝子改変マウスであって、IL-2受容体γ鎖遺伝子またはJak3遺伝子に変異が導入され、T細胞及びB細胞の抗原受容体遺伝子の再構成に関わる遺伝子の変異が両対立遺伝子座位にある、免疫不全遺伝子改変マウスに移植し、該遺伝子改変マウスに生着し増殖させることにより、ヒト肝細胞を移植後5週間で、40倍以上370倍まで、増加させ、その結果遺伝子改変マウスが下記(3)および(4)の特徴を有するようになる、ヒト肝細胞の生産方法:
(1)遺伝子改変マウスの肝細胞の90%以上100%未満の細胞がヒトの肝細胞に置換され、ヒト肝臓が再構築され該肝臓がヒト肝臓の3次元的構造及びヒト肝臓の機能を有しており、生体内にヒトIL-6が存在している;
(2)遺伝子改変マウスの肝細胞が傷害されている;
(3)ヒト肝細胞が移植されたヒト肝臓の肝胆管システムが構築され、ヒト肝臓の機能的小葉構造を有し、肝臓の異物排泄機能が正常に働くようになる;及び
(4)ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子がその肝臓において特異的に発現可能に保持されるようになる
【請求項4】
免疫不全遺伝子改変マウスが、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Alb-UL23)7-2/ShiJic、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)4-9/ShiJic、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)5-2/ShiJicマウス及びNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)10-15/ShiJicからなる群から選択される遺伝子記号で表される免疫不全遺伝子改変マウスである、請求項3記載のヒト肝細胞の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト肝細胞が移植された非ヒト脊椎動物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトに特異的な肝炎ウイルスの感染や、投与された薬剤の代謝、又は、ヒト肝臓の増殖を解析することを目的とする、ヒト肝細胞を保持する免疫寛容マウスがいくつかのグループによってこれまでに作出されてきている。この中でも、外来チミジンキナーゼ遺伝子がその肝臓において特異的に発現可能に保持され、ヒトの肝細胞が移植されたマウスにおいて、マウスの肝細胞がヒトの肝細胞に置換され、ヒト肝細胞置換率が80%程度と良好であった(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5073836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来存在していたヒト肝臓移植非ヒト脊椎動物よりもヒト肝細胞の増殖速度が速く、ヒト肝細胞の置換率や組織学的・生理学的ヒト再建性も高い非ヒト脊椎動物及びその製造方法を提供し、その効果的な作用によって、よりヒト肝組織の構造・生理を再構築した非ヒト脊椎動物の作出及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、従来存在していたヒト肝臓移植マウスよりもヒト肝細胞の増殖速度が速く、ヒト肝細胞の置換率も高い、ヒトの肝細胞が移植されたマウスの製造方法について鋭意検討を行った。
【0006】
本発明者らは、免疫不全マウスにヒト肝細胞を移植するときに、ヒトIL-6を存在させることにより、ヒト肝細胞の増殖速度が速く、ヒト肝細胞の置換率も高い、ヒトの肝細胞が移植されたマウスを製造し得ることを見出した。さらに、このようなヒト肝細胞の置換が早くまた置換率も高いマウスの肝臓では、組織学的にも生理学的にもヒト肝組織をより再建するきわめてヒト肝臓に類似する肝臓を有するマウスモデルであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] ヒト肝細胞が移植された遺伝子改変非ヒト脊椎動物の製造方法であって、ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物に、生体内にヒトIL-6が存在する状態で、ヒト肝細胞を移植することを含む製造方法。
[2] ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物が免疫不全動物である、[1]の製造方法。
[3] ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物の肝臓に、肝傷害誘導法により肝傷害を引き起こさせ、非ヒト脊椎動物の肝細胞に代わって、移植されたヒトの肝細胞を非ヒト脊椎動物の肝臓に生着させる、[1]又は[2]の製造方法。
[4] 肝傷害が以下のいずれかの方法により誘導される、[3]の製造方法:
(i) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物の肝臓において、チミジンキナーゼ遺伝子が発現可能に保持されており、非ヒト脊椎動物にヒト肝細胞と自殺基質を投与することにより肝傷害を誘導する方法;
(ii) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物の肝臓において、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子を発現可能に保持させることにより肝傷害を誘導する方法;
(iii) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物のフマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(Fah)遺伝子を欠損させることにより肝傷害を誘導する方法;
(iv) 以下の(a)~(e)のいずれかの化合物を投与することにより肝傷害を誘導する方法
(a) 四塩化炭素
(b) アセトアミノフェン
(c) d-ガラクトサミン
(d) チオアセトアミド
(e) 抗Fas抗体;及び
(v) 上記の(i)~(iv)のうちの2種類、3種類又は4種類を併用する方法。
[5] ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物の肝臓において、チミジンキナーゼ遺伝子が発現可能に保持されており、非ヒト脊椎動物にヒト肝細胞と自殺基質を投与することにより肝傷害を誘導する、[4]の製造方法。
[6] 非ヒト脊椎動物に、ヒトIL-6遺伝子を導入し発現させることにより、生体内にヒトIL-6を存在させる、[1]~[5]のいずれかの製造方法。
[7] 非ヒト脊椎動物に、ヒトIL-6を投与することにより、生体内にヒトIL-6を存在させる、[1]~[5]のいずれかの製造方法。
[8] 非ヒト脊椎動物に、ヒトIL-6遺伝子発現培養細胞、又は、同遺伝子を発現するベクター分子を投与し発現させることにより、生体内にヒトIL-6を存在させる、[1]~[5]のいずれかの製造方法。
[9] 非ヒト脊椎動物が、
(i) ヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子をNOD/Shiマウスの受精卵にマイクロインジェクトする工程、及び
(ii) (i)の工程で得られた、ヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子を有するNOD/ShiマウスをNOG(NOD/SCID/γcnull)マウスと交配させる工程により作製された、TK-NOGマウスである、[4]~[8]のいずれかの製造方法。
[10] TK-NOGマウスが、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Alb-UL23)7-2/ShiJic、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)4-9/ShiJic、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)5-2/ShiJicマウス及びNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)10-15/ShiJicからなる群から選択される遺伝子記号で表されるマウスである、[9]の製造方法。
[11] [9]又は[10]のマウスであって、生体内にヒトIL-6を存在させたTK-NOGマウスに、自殺基質、及びヒトより単離された肝細胞を投与し、マウス肝細胞を傷害しマウス肝細胞をヒト肝細胞で置換する工程を含む、[9]又は[10]の製造方法。
[12] [9]又は[10]のマウスであって、生体内にヒトIL-6を存在させたTK-NOGマウスが、
(i) ヒトIL-6 cDNAを含むDNA断片を雌性NODマウスと雄性NOGマウスで作製した受精卵にマイクロインジェクトし、ヒトIL-6トランスジェニックファウンダーマウスを取得する工程、
(ii) ヒトIL-6トランスジェニックファウンダーマウスをNOGマウスと交配することによりscid及びIL2Rg nullの変異体を得る工程、及び
(iii) (ii)で得られたNOG-IL-6マウスとTK-NOGマウスを交配する工程、
により得られるTK-NOG-IL-6マウスである、[9]又は[10]の製造方法。
[13] 得られるTK-NOG-IL-6マウスが、N NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg ((Alb-UL23 )7-2, CMV-IL-6)/ShiJic、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)4-9, CMV-IL-6/ShiJic、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)5-2, CMV-IL-6/ShiJic及びNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)10-15, CMV-IL-6/ShiJicからなる群から選択される遺伝子記号で表される[12]の製造方法。
[14] 自殺基質がチミジンキナーゼにより毒性物質に代謝される物質である[4]~[13]のいずれかの製造方法。
[15] 毒性物質に代謝される物質がアシクロビル、又はガンシクロビルである[14]の製造方法。
[16] ヒト肝細胞がヒト肝細胞株である[1]~[15]のいずれかの製造方法。
[17] ヒト肝細胞株が、HepG2、Hep3B、又はHuH-7である[16]の製造方法。
[18] ヒト肝細胞が初代培養された肝細胞である[1]~[15]のいずれかの製造方法。
[19] ヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子がアルブミンプロモーター、トランスサイレチンプロモーター、サイロキシン結合グロブリンプロモーター、LST-1プロモーター、αフェトプロテインプロモーター、又はα-TTPプロモーターの制御下に配置されることによりヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子がその肝臓において特異的に発現可能に保持されることを特徴とする[4]~[18]のいずれかの製造方法。
[20] マウスの肝細胞の90%以上がヒトの肝細胞に置換され、ヒト肝臓が再構築され該肝臓がヒト肝臓の3次元的構造及びヒト肝臓の機能を有しており、生体内にヒトIL-6が存在している、ヒトの肝細胞が移植されたマウス。
[21] マウスの肝細胞が以下のいずれかの方法により傷害された、[20]のマウス:
(i) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物の肝臓において、チミジンキナーゼ遺伝子が発現可能に保持されており、非ヒト脊椎動物にヒト肝細胞と自殺基質を投与することにより肝傷害を誘導する方法;
(ii) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物の肝臓において、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子を発現可能に保持させることにより肝傷害を誘導する方法;
(iii) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物のフマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(Fah)遺伝子を欠損させることにより肝傷害を誘導する方法;
(iv) 以下の(a)~(e)のいずれかの化合物を投与することにより肝傷害を誘導する方法
(a) 四塩化炭素
(b) アセトアミノフェン
(c) d-ガラクトサミン
(d) チオアセトアミド
(e) 抗Fas抗体;及び
(v) 上記の(i)~(iv)のうちの2種類、3種類又は4種類を併用する方法。
[22] ヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子がその肝臓において特異的に発現可能に保持され、マウスの肝細胞の90%以上がヒトの肝細胞に置換され、ヒト肝臓が再構築され該肝臓がヒト肝臓の3次元的構造及びヒト肝臓の機能を有しており、生体内にヒトIL-6が存在している、[21]のヒトの肝細胞が移植されたマウス。
[23] ヒト肝臓の肝胆管システムが構築され、ヒト肝臓の機能的小葉構造を有し、肝臓の異物排泄機能が正常に働いている、[20]~[22]のいずれかのマウス。
[24] (i) ヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子をNOD/Shiマウスの受精卵にマイクロインジェクトする工程、
(ii) (i)の工程で得られた、ヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子を有するNOD/ShiマウスをNOG(NOD/SCID/γcnull)マウスと交配させることによりNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Alb-UL23)7-2/ShiJicマウスを作製する工程、
(iii) ヒトIL-6 cDNAを含むDNA断片を雌性NODマウスと雄性NOGマウスで作製した受精卵にマイクロインジェクトし、ヒトIL-6トランスジェニックファウンダーマウスを取得する工程、
(iv) ヒトIL-6トランスジェニックファウンダーマウスをNOGマウスと交配することによりscid及びIL2Rg nullの変異体を得る工程で得られたNOG-IL-6マウスを(ii)のマウスと交配する工程、
により得られるマウス(NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg ((Alb-UL23 )7-2, CMV-IL-6 ) /ShiJic)である、[22]又は[23]のマウス。
[25] ヒトの肝細胞がヒト肝細胞株である[20]~[24]のいずれかのヒトの肝細胞が移植されたマウス。
[26] ヒト肝細胞株が、HepG2、Hep3B、又はHuH-7である[25]のヒトの肝細胞が移植されたマウス。
[27] ヒトの肝細胞が初代培養された肝細胞である[20]~[24]のいずれかのヒトの肝細胞が移植されたマウス。
[28] ヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子がアルブミンプロモーター、トランスサイレチンプロモーター、サイロキシン結合グロブリンプロモーター、LST-1プロモーター、αフェトプロテインプロモーター、又はα-TTPプロモーターの制御下に配置されることによりヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子がその肝臓において特異的に発現可能に保持される[20]~[27]のいずれかのヒトの肝細胞が移植されたマウス。
[29] さらに、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子がその肝臓において特異的に発現可能に保持された[20]~[28]のいずれかのヒトの肝細胞が移植されたマウス。
[30] 移植されたヒト肝細胞の移植後の増殖速度が、生体内にヒトIL-6が存在しない場合と比較して、少なくとも1.5倍速い、[1]~[19]のいずれかの製造方法。
[31] さらに、ヒト肝細胞を移植した後に、ヒト抗IL-6抗体を投与することを含む、[1]~[19]のいずれかの製造方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-234945号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0008】
ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物に、ヒト肝細胞を移植するときに、ヒトIL-6を存在させることにより、ヒト肝細胞の増殖速度が速く、ヒト肝細胞の置換率も高い、ヒトの肝細胞が移植された非ヒト脊椎動物を製造することができる。
【0009】
このことから、ヒトIL-6には生体内に移植されたヒト肝細胞の増殖を著しく促進する効果が有ることが明らかとなり、ヒト以外の動物の体内でヒト肝細胞を増殖させる方法として有用である。このようにして作製されたヒト肝細胞を保有する動物は、薬剤代謝や肝臓研究に有用である他、ヒト肝細胞を使用したin vitro研究用の肝細胞提供資源として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ヒトインターロイキン6遺伝子発現ユニットの構造を示す図である。
図2】HSV-tk mutant30 (TKmut30)遺伝子発現ユニットの構造を示す図である。
図3】ヒト肝細胞LHum17003を移植したTK-NOG-IL-6マウス、及びTK-NOGマウス血清中のヒトアルブミン濃度の経時的変化(平均値)を示す図である。
図4】ヒト肝細胞LHum17003を移植したTK-NOG-IL-6マウス、及びTK-NOGマウスの各個体について推定置換インデックスの経時的変化を示す図である。
図5】ヒト肝細胞移植後のTK-NOG-IL-6 マウスから単離精製した肝臓細胞をタイプ1コラーゲンコートディッシュに播種し、48時間経過後の肝臓細胞の形態を示す図である。
図6】ヒト肝細胞HUM4122Bを移植したTK-NOG-IL-6マウス、及びTK-NOGマウス血清中のヒトアルブミン濃度を経時的に測定した平均値を示す図である。
図7】ヒト肝細胞HUM4122Bを移植したTK-NOG-IL-6マウス、及びTK-NOGマウスの各個体について推定置換インデックスを経時的に測定した値を示す図である。
図8】LHum17003ドナー細胞移植2週後のTK-NOG-IL-6マウスとTK-NOGマウスの染色結果(A:H&E染色、B:HLA染色)を示す図である。
図9】LHum17003ドナー細胞移植3週後のTK-NOG-IL-6マウスとTK-NOGマウスの染色結果(A:H&E染色、B:HLA染色)を示す図である。
図10】LHum17003ドナー細胞移植4週後のTK-NOG-IL-6マウスとTK-NOGマウスの染色結果(A:H&E染色、B:HLA染色)を示す図である。
図11】HUM4122Bドナー細胞移植2週後のTK-NOG-IL-6マウスとTK-NOGマウスの染色結果(A:H&E染色、B:HLA染色)を示す図である。
図12】HUM4122Bドナー細胞移植3週後のTK-NOG-IL-6マウスとTK-NOGマウスの染色結果(A:H&E染色、B:HLA染色)を示す図である。
図13】HUM4122Bドナー細胞移植4週後のTK-NOG-IL-6マウスとTK-NOGマウスの染色結果(A:H&E染色、B:HLA染色)を示す図である。
図14】移植8週後のTK-NOG-IL-6マウス(A)とTK-NOGマウス(B)の肝組織像(H&E染色及びHLA染色)を示す図である。
図15】ヒト肝細胞LHum17003を移植したTKmut30-NOG-IL-6マウスとTKmut30-NOGマウスの血清中のヒトアルブミン濃度の経時的変化を示す図である。
図16】ヒト肝細胞LHum17003を移植したTKmut30-NOG-IL-6マウスとTKmut30-NOGマウスの各個体について推定置換インデックスの経時的変化を示す図である。
図17】ヒト肝細胞LHum17003移植7週後のTKmut30-NOG-IL-6マウスの肝組織像(H&E染色(A)及びHLA染色(B))を示す図である。
図18】ヒト肝細胞移植後のTKmut30-NOG-IL-6マウス及びTK-NOG-IL-6マウス血清中ヒトアルブミン濃度を測定した結果を示す図である。
図19】TK-NOG-IL-6マウス(A)及びTK-NOGマウス(B)におけるヒト肝細胞の倍化時間を示す図である。
図20】TK-NOG-IL-6マウスにヒト肝細胞を移植した後に、抗IL-6抗体を投与した場合の、血中ヒトアルブミン濃度(A)及びコリンエステラーゼ活性(B)を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、ヒト肝細胞が移植された非ヒト脊椎動物及びその製造方法である。
【0013】
本発明のヒト肝細胞が移植された遺伝子改変脊椎動物はヒトインターロイキン6(以下、ヒトIL-6という)を投与した脊椎動物か、又はヒトIL-6遺伝子を体内で発現可能に保持している脊椎動物にヒト肝細胞を移植し、肝臓においてヒト肝細胞が生着した動物である。
【0014】
脊椎動物は、限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ミニブタ、ブタ、サル等が挙げられる。サルは、マーモセット等を含む。
【0015】
本発明で用いるヒト肝細胞を移植する動物は、ヒトIL-6及びヒト肝細胞を免疫により排除しない動物、すなわち、ヒトに対する免疫反応が不活化した動物である。そのような動物として、免疫機能が低下又は欠損しており、ヒトに対する免疫反応が不活化した動物が挙げられ、例えば、免疫不全動物や免疫寛容動物を用いることができる。
【0016】
免疫不全動物は、免疫機能が低下又は欠損した動物であり、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、マクロファージの一部又は全てを欠損している動物である。免疫不全動物は、全身にX線を照射することにより作製することができ、又は遺伝的に免疫機能が欠損した動物を用いることもできる。免疫寛容動物は、特定抗原に対する特異的免疫反応が欠損又は抑制された動物をいい、本発明において、ヒトIL-6及びヒト肝細胞に対して免疫寛容が成立した動物である。ヒトIL-6及びヒト肝細胞に対する免疫寛容は、ヒトIL-6やヒト肝細胞を動物に投与して免疫寛容を獲得させる。免疫寛容を獲得させるには、ヒトIL-6やヒト肝細胞を動物に皮下注射してもよいし、経口投与してもよい。
【0017】
本発明において、免疫不全動物及び免疫寛容動物を含めてヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した動物と呼ぶ。
【0018】
免疫不全動物の動物種は限らないが、免疫不全マウス、免疫不全ラット、免疫不全ブタ等を好適に用いることができる。
【0019】
免疫不全マウスとして、ヌードマウス、NOD/SCIDマウス、Rag2ノックアウトマウス、SCIDマウスにアシアロGM1抗体やTMβ1を投与したマウス、X線照射マウス等が挙げられる。また、これらのNOD/SCIDマウスやRag2ノックアウトマウスにIL-2Rγノックアウトを掛け合わせたノックアウト動物(以下、dKO(ダブルノックアウト)動物)も使用され得る。例えば、dKOマウス(Rag2 KO、IL-2Rnull)を用いることができる。本発明において、遺伝背景をBalb/cとするdKOマウスをBalb/c dKOマウスといい、遺伝背景をNODとするマウスをNOD dKOマウスという。また、マウスの遺伝背景はこれらに限らず、C57BL/6、C3H、DBA2やIQI系統でも、SCID変異とIL-2Rγノックアウト、又はRag2ノックアウトとIL-2Rγノックアウト変異を持つ系統でも、また、IL-2受容体の共通γ鎖の下流でシグナル伝達を担うJak3タンパクの欠損もIL2Rγnullと表現型が同様であることから、Rag2ノックアウトマウスにJak3ノックアウトを掛け合わせたノックアウトマウスや、SCID変異とJak3ノックアウトを掛け合わせたノックアウトマウス、それらを交配して得た近交系、非近交系、交雑系(F1ハイブリッド)マウスでもよい。
【0020】
さらに、該マウス中で認められるNK細胞等の免疫細胞による影響を除外するために、前記のようにSCIDマウスにアシアロGM1抗体が投与されて使用される態様の他に、本発明において使用される別のマウスとして、IL-2受容体γ鎖遺伝子に変異が導入されて、IL-2受容体γ鎖が欠損し、かつ、T細胞及びB細胞の抗原受容体遺伝子の再構成に関わる遺伝子のSCID変異が両対立遺伝子座位にある遺伝子改変免疫不全マウスが挙げられる。このようなマウスとしてNOD/SCIDマウス由来でIL-2受容体の共通γ鎖をノックアウトしたマウスであるNOGマウス(NOD/SCID/γcnull(NOD/Shi-scid,IL-2RγKOマウス))、NSGマウス(NOD/Scid/IL2Rγnull(NOD.Cg-PrkdcscidIL2rgtm1Wjl/SzJ))、NCGマウス(NOD-Prkdcem26Cd52IL2rgem26Cd22/NjuCrl)等が挙げられる。さらにJak3遺伝子に変異が導入されて、Jak3が欠損し、かつ、T細胞及びB細胞の抗原受容体遺伝子の再構成に関わる遺伝子のSCID変異が両対立遺伝子座位にある遺伝子改変免疫不全マウスNOJマウス(NOD/Scid/Jak3null(NOD.Cg-PrkdcscidJal3tm1card)も使用できる。以下、scid 変異などによりPrkdc 遺伝子、及びその遺伝子産物の機能が欠損し、IL2Rγ遺伝子の欠損や変異、又はシグナル伝達下流にある遺伝子、及びその産物の機能欠損によりIL2Rγ遺伝子産物の正常な機能が喪失したこれらの動物をNOGマウス(「NOG mouse」は登録商標)と指称し、宿主として使用することもできる。これらのマウスにおいてはリンパ球の存在が認められないため、NOGマウスはNK活性を示さず樹上細胞機能も欠損している。NOGマウスの作出方法は、WO2002/043477に記載されている。NSGマウスの作出方法は、Ishikawa F. et al., Blood 106:1565-1573, 2005に、NCGマウスの作出方法は、Zhou J. et al. Int J Biochem Cell Biol 46:49-55, 2014に、NOJマウスの作出方法は、Okada S.et al.,Int J Hematol 88:476-482, 2008に記載されている。
【0021】
本発明の方法で用いる免疫不全動物等の免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物は、種々の肝傷害誘導法により、肝傷害が引き起こされる動物であることが好ましい。このような動物において、肝傷害が引き起こされた非ヒト脊椎動物の肝細胞に代わって、該非ヒト脊椎動物中に移植されたヒトの肝細胞が非ヒト脊椎動物の肝臓に生着する。
【0022】
種々の肝傷害誘導法として以下の方法が挙げられる。
(i) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物の肝臓において、チミジンキナーゼ遺伝子が発現可能に保持されており、非ヒト脊椎動物にヒト肝細胞と自殺基質を投与することにより肝傷害を誘導する方法。
(ii) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物の肝臓において、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子を発現可能に保持させることにより肝傷害を誘導する方法。
(iii) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物のフマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(Fah)遺伝子を欠損させることにより肝傷害を誘導する方法。
(iv) 以下の(a)~(e)のいずれかの化合物を投与することにより肝傷害を誘導する方法
(a) 四塩化炭素
(b) アセトアミノフェン
(c) d-ガラクトサミン
(d) チオアセトアミド
(e) 抗Fas抗体。
【0023】
以下、それぞれの方法について詳述する。
【0024】
(i) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物の肝臓において、チミジンキナーゼ遺伝子が発現可能に保持されており、非ヒト脊椎動物にヒト肝細胞と自殺基質を投与することにより肝傷害を誘導する方法
該方法においては、チミジンキナーゼ遺伝子を非ヒト脊椎動物の肝臓において発現可能に保持させる。
【0025】
以下、非ヒト脊椎動物がマウスの場合について説明するが、マウスの例を他の非ヒト脊椎動物に適用することが可能である。本発明の方法で用いる免疫不全マウスは、チミジンキナーゼ遺伝子がマウス肝臓において発現可能に保持されている。「チミジンキナーゼ遺伝子がマウスの肝臓において発現可能に保持される」とは、上記のチミジンキナーゼ遺伝子がマウスの肝細胞に含まれ、該細胞中で発現することをいう。すなわち、外来のチミジンキナーゼ遺伝子をマウス肝臓で特異的に発現するように導入する。チミジンキナーゼ遺伝子の由来する生物種は、ヒトや哺乳類であってもよいし、さらに原核細胞やウイルスであってもよく、その由来する生物種は限定されないが、好ましくはヒト単純ヘルペスウイルス1型―チミジンキナーゼ(HSV-tk)である。また、これらのチミジンキナーゼ遺伝子の変異体でもよい。変異体として、例えば、HSV-tk mutant clone #30が挙げられる。HSV-tk mutant clone #30については、PNAS 1996, Vol93, pp3525-3529に記載されている。HSV-tk mutant clone #30をTK mutant30と呼ぶ。HSV-tkの野生型の塩基配列を配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に、TK mutant30の塩基配列を配列番号3に、アミノ酸配列を配列番号4に示す。本発明において、HSV-tkという場合、TK mutant30やその他の変異体も含まれる。チミジンキナーゼによって代謝されることにより毒性を奏する自殺基質は、チミジンキナーゼのトランス遺伝子が導入され、チミジンキナーゼ活性を有する細胞に対してのみ細胞毒性を発揮することから標的細胞のみに細胞傷害を与える選択的治療剤として用いられている。このような自殺基質として、グアノシンアナログが使用され得る。より好ましくは、そのようなグアノシンアナログとして、抗ウイルス薬として汎用されているガンシクロビル(ganciclovir;GCV)、バルガンシクロビル(Valganciclovir; Val GCV)、アシクロビル(acyclovir)が挙げられる。
【0026】
「チミジンキナーゼ遺伝子がマウスの肝臓において発現可能に保持される」とは、上記のチミジンキナーゼ遺伝子がマウスの肝細胞に含まれ、該細胞中で発現することをいう。
【0027】
本発明のチミジンキナーゼ遺伝子がマウスの肝臓において発現可能にするために、肝臓において機能している調節遺伝子が適宜使用され得る。該調節遺伝子としては、肝細胞で機能しているタンパク質をコードしている遺伝子の調節遺伝子が使用される。ここで「調節遺伝子」とは、遺伝子転写効率の増減に働くDNA上の配列をいい、プロモーター、並びに、エンハンサー、上流活性化配列、サイレンサー、上流抑制配列、及びアテニュエーター等が含まれるが、これらに限定されない。前記調節遺伝子の由来する生物種は、特定の生物種に限定されるものではない。マウスの肝臓においてより適切に発現可能とするために、マウス由来の調節遺伝子が使用され得る。
【0028】
上記のプロモーターとしては、チミジンキナーゼ遺伝子が肝臓で発現されるプロモーターであれば特に限定されない。例えば、アルブミンのプロモーター、トランスサイレチンプロモーター、サイロキシン結合グロブリンプロモーター、有機アニオントランスポーターLST-1のプロモーター、αフェトプロテインのプロモーター、α-トコフェロール輸送タンパク質(α-TTP)遺伝子のプロモーターなどが例示できる。
【0029】
肝臓特異的に発現する遺伝子の発現機構(遺伝子のプロモーター解析)は非常に良く研究されている。すなわち、肝臓特異的に発現する遺伝子の転写開始点の5’上流域に、遍在性の転写調節因子の結合部位や肝臓に豊富に存在する肝臓特異的転写因子の結合部位、ホルモンなどの細胞外刺激に応答する上流活性化配列が、比較的狭い領域に詰め込まれていることが知られている。こうした転写因子の例として、HNF-1、HNF-3、HNF-4、HNF-6、C/EBP、DBP等が好適に挙げられる。本発明においては、チミジンキナーゼ遺伝子がマウスの肝臓において発現可能に保持されるために、マウスの肝臓で機能する上流活性化配列にチミジンキナーゼ遺伝子が連結される。
【0030】
したがって、例えば上述のアルブミンのプロモーター、トランスサイレチンプロモーター、サイロキシン結合グロブリンプロモーター、有機アニオントランスポーターLST-1のプロモーター、αフェトプロテインのプロモーター、α-トコフェロール輸送タンパク質(α-TTP)遺伝子のプロモーター領域の一定の領域が上述した連結に用いられることにより潜在的に含まれる肝臓特異的な転写因子の結合する上流活性化配列が使用され得る。また、別の態様では、既にその配列が同定された肝臓特異的な上流活性化配列が外来性の遺伝子として遺伝子組換え手法により組み込まれ得る。
【0031】
また、プロモーターからの転写レベルを増大させるエンハンサーとしては、上流活性化配列だけでなく転写開始点より下流にも存在することが明らかとなっている。例えば、5’上流1.3kb及び3’下流領域を含む全長14kbのヒトアンギオテンシノーゲン遺伝子を持つトランスジェニックマウスにおいて、肝臓で当該遺伝子の高い発現が認められている。さらに、ヒト肝臓癌由来のHepG2細胞において、前記遺伝子の転写開始点より下流領域である3.8kbのDNA断片にエンハンサーの存在が確認された。本発明において、チミジンキナーゼ遺伝子を肝臓特異的に発現させるためにそのようなエンハンサーも好適に使用され得る。
【0032】
さらに、本発明において、チミジンキナーゼ遺伝子を肝臓特異的に発現させるためにポリA付加シグナルを含む3’非翻訳配列も使用され得る。
【0033】
本発明においては、チミジンキナーゼ遺伝子がマウスの肝臓において発現可能に保持されるために、マウスの肝臓で機能する上流活性化配列にチミジンキナーゼ遺伝子が連結される。さらにエンハンサーやポリA付加シグナルを含む3’非翻訳配列等が連結され得る。このように連結された遺伝子群は薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子を含むベクターに挿入されることによって、チミジンキナーゼ遺伝子が宿主の肝臓において発現可能に保持するための遺伝子発現ユニットを調製する組込みベクターが作製される。
【0034】
当該組込みベクターより調製された遺伝子発現ユニットが導入されたトランスジェニックマウスを作製することができる。例えば、トランスジェニックマウスは公知の方法に従って作製され得る(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1980)77,7380-4)。
【0035】
具体的には、目的のチミジンキナーゼ遺伝子が宿主の肝臓において発現可能に保持されるために作製された遺伝子発現ユニットが、マウスの全能細胞に導入される。遺伝子が導入される全能細胞としては、受精卵や初期胚のほか、多分化能を有するES細胞、iPS細胞のような培養細胞等が好適に挙げられる。例えば、排卵誘発剤が投与されたメスのマウスに正常なオスのマウスを交配させることにより、当該遺伝子発現ユニットの導入が可能な受精卵が好適に回収され得る。マウス受精卵には一般に雄性前核へのマイクロインジェクションにより遺伝子発現ユニットが導入される。受精卵細胞の体外での培養の後に遺伝子発現ユニットの導入に成功したと考えられる細胞がスクリーニングされる。スクリーニングされた細胞は、代理母の卵管に移植され、その後トランスジェニックキメラマウスが誕生する。代理母としては、通常は、精管が切断されたオスと交配させて偽妊娠状態としたメスが使用される。
【0036】
得られた複数の個体から体細胞及び生殖細胞中に導入遺伝子が組み込まれた個体を選別することによって、目的とするトランスジェニックマウスが作製され得る。
【0037】
チミジンキナーゼ遺伝子がその肝臓において発現可能に保持されたマウスとして、目的のチミジンキナーゼ遺伝子が宿主の肝臓において発現可能に保持するために設計された遺伝子が前記の免疫不全マウスの受精卵に導入された結果生じるトランスジェニックマウスが挙げられる。その他、前記の免疫不全マウスと当該マウスの近交系であって免疫機能が欠損していないマウスの受精卵に当該遺伝子が導入された結果生じるトランスジェニックマウスとの交配の結果誕生する子孫から、免疫不全マウスの形質を保持し、かつ、目的のチミジンキナーゼ遺伝子が宿主の肝臓において発現可能に保持するものとして選択される免疫不全マウスも用い得る。本発明において、NOGマウスの形質を保持し、かつ、目的のチミジンキナーゼ遺伝子が宿主の肝臓において発現可能に保持するものとして選択されるマウスをTK-NOGマウスという。TK-NOGマウスの作出法については、特許第507836号公報に記載されている。TK-NOGマウスが保持するチミジンキナーゼ遺伝子として、ヒト単純ヘルペスウイルス1型―チミジンキナーゼ(HSV-tk)やその変異体が挙げられる。変異体として、例えば、前記のHSV-tk mutant clone #30(TK mutant30)が挙げられる。TK mutant30を保持しているマウスをTKmut30-NOGマウスと呼ぶ。本発明において、TK-NOGマウスという場合、TKmut30-NOGマウスを含む。TKmut30-NOGマウスは、TK-NOGマウスと同様の方法で作製することができる。すなわち、TK-NOGマウス作製に使用した発現ユニットのAlbプロモーターをトランスサイレチンプロモーターと入れ替え、HSV-tk遺伝子cDNA(開始コドンから終止コドンまで)をHSV-tk mutant 30遺伝子cDNA(開始コドンから終止コドンまで)に入れ替えて作製すればよい。TK-NOGマウスの遺伝子型として、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Alb-UL23)7-2/ShiJicマウス(TK-NOG)、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)4-9/ShiJicマウス(TKmut30-4-9-NOG)、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug Tg(Ttr-UL23 mutant30)5-2/ShiJicマウス(TKmut30-5-2-NOG)及びNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug Tg(Ttr-UL23 mutant30)10-15/ShiJicマウス(TKmut30-10-15-NOG)が挙げられる。
【0038】
さらに、前記の免疫不全マウスと当該マウスの近交系であって免疫機能が一部欠損するマウスの受精卵に当該遺伝子が導入された結果生じるトランスジェニックマウスとの交配の結果誕生する子孫から、免疫不全マウスの形質を保持し、かつ、目的のチミジンキナーゼ遺伝子が宿主の肝臓において発現可能に保持するものとして選択される免疫不全マウスも用い得る。より具体的には、NOGマウスとNOD/SCIDマウスの受精卵に当該遺伝子が導入された結果生じるNOD/SCIDトランスジェニックマウスとの交配の結果誕生する子孫から、NOGマウスの形質を保持し、かつ、目的のチミジンキナーゼ遺伝子が宿主の肝臓において発現可能に保持するものとして選択されるマウス、TK-NOGマウスとBalb/cA dKOマウス(RAG-2KO,IL-2Rnull)を交配し、更にBalb/cA dKOマウスと交配を繰り返すことで作製されるTK-Balb/cA dKOマウス(HSV-Tk(+),SCID wild,RAG-2 KO,IL-2Rnull)、又は、TK-NOGマウスとNOD dKOマウス(RAG-2 KO,IL-2Rnull)を交配し更にNOD dKOマウスと交配を繰り返すことで作製されるTK-NOD dKOマウス(HSV-Tk(+),SCID wild,RAG-2 KO,IL-2Rnull)、TK-NOGマウスとIQI/SCID, IL-2Rnull マウスを交配して作製される、TK-IQI/NOG F1マウス(HSV-Tk(+),SCID, IL-2Rnull)、更にIQI/SCID, IL-2Rnullマウスと交配を繰り返すことで作製されるTK-IQI SCID, IL-2Rnullマウス等が好ましい例として挙げられる。
【0039】
本発明のチミジンキナーゼ遺伝子がその肝臓において発現可能に保持されたマウスに対して前記のグアノシンアナログが投与されることにより、グアノシンアナログが当該マウスの肝細胞中において毒性物質に代謝される結果、当該マウスに肝傷害が生じる。前記グアノシンアナログの好適な例として挙げられるガンシクロビルは、マウスの肝細胞中においてガンシクロビル-三リン酸に代謝されマウスに肝傷害を引き起こす。当該マウスへのグアノシンアナログの投与方法は自由に選択され得る。例えば、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、さらには皮膚上への塗布等が適宜選択され得る。これら通常の経路によりマウス体内に投与される他、給餌中や給水中に混合することによってもマウス体内に投与され得る。グアノシンアナログの投与量も限定されないが、0.1~10mg/Kg体重、好ましくは0.5~1.5mg/Kg体重である。また、給水に0.05~0.5mg/mLの濃度で添加し、1日から1週間自由摂水させても良い。
【0040】
上記の他、本発明のチミジンキナーゼ遺伝子がその肝臓において発現可能に保持されたマウスに対して肝傷害を引き起こす方法としては、前記のガンシクロビルの投与の他、四塩化炭素、D-ガラクトサミン、ピロロジンアルカロイド、又は2-アセチルアミノフルオレン等の公知の肝傷害誘発物質による処置や外科的肝切除等の外科的処置も挙げられる。さらに、別の態様では、当該マウスに抗マウスFas抗体を投与することによってもマウスに肝傷害を引き起こすことが可能である。抗マウスFas抗体は、ヒトの肝細胞において発現するFas抗原には結合せず、マウスの肝細胞において発現するFas抗原に結合することによって、マウス肝細胞に特異的にアポトーシスを引き起こす。
【0041】
(ii) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物の肝臓において、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子を発現可能に保持させることにより肝傷害を誘導する方法
上記のチミジンキナーゼ遺伝子の代わりにウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子がその肝臓において発現可能に保持されたNOG変異を有するマウスも用い得る。すなわちウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子を宿主の肝臓において発現可能に保持するために作製された遺伝子発現ユニットが前記のNOG変異を有するマウスの全能細胞に導入された結果生じるトランスジェニックマウスを用い得る。ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子としては、マウスのウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子をコードするポリヌクレオチドを使用することができる。このようなマウスをuPA-NOGマウスといい、Suemizu H. et al., Biochme Biophys Res Commun, 377, 248, 2008の記載に従い作製することができる。
【0042】
さらに、チミジンキナーゼ遺伝子とウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子の両者がその肝臓において発現可能に保持されたNOG変異を有するマウスも用い得る。チミジンキナーゼの作用により肝傷害が与えられる時期とウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子の作用により肝傷害が与えられる時期を適宜選択することによって投与されたヒト肝細胞の生着を最適化することができる。
【0043】
当該マウスは、例えば、チミジンキナーゼ遺伝子がその肝臓において発現可能に保持されたマウスとウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子がその肝臓において発現可能に保持されたNOG変異を有するマウス等を適宜組み合わせて繁殖させ所望の形質、すなわちチミジンキナーゼ遺伝子とウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子の両者がその肝臓において発現可能に保持されかつNOG変異を有する子孫のマウスを選択することによって得られる。また、例えば、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子遺伝子が宿主の肝臓において発現可能に保持されるために作製された遺伝子発現ユニットを、チミジンキナーゼ遺伝子が宿主の肝臓において発現可能に保持されたマウスの全能細胞に導入する等の操作によっても作製され得る。
【0044】
(iii) ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物のフマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(Fah)遺伝子を欠損させることにより肝傷害を誘導する方法
Fah遺伝子を欠損させることにより肝傷害を誘導する方法については、Azuma H. et al., Nat Biotechnol, 25, 8, 2007に記載されている。また、Faysal Elgilano et al., Am J Pathol, 187, 1, 2017には、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術によりブタでFah遺伝子欠損動物を作製したことが記載されている。
例えば、免疫抑制剤使用、あるいは免疫にかかわる遺伝子をCRISPR/Cas9ゲノム編集技術で欠損させることより、容易にヒト肝キメラブタを作製することが可能である。
【0045】
(iv) 以下の(a)~(e)のいずれかの化合物を投与することにより肝傷害を誘導する方法
(a) 四塩化炭素
(b) アセトアミノフェン
(c) d-ガラクトサミン
(d) チオアセトアミド
(e) 抗Fas抗体。
上記の化合物は、肝臓に傷害を与える化学物質として知られている。
【0046】
ヒト肝細胞に対して免疫が低下した動物(遺伝的に免疫不全、胎児期・新生児期に感作され免疫寛容を獲得、あるいは免疫抑制剤)にこれらの化学物質を投与することでも肝傷害を誘導することができ、ヒト肝細胞を移植することにより生着させることが可能になる。
【0047】
上の(i)~(iv)の方法を単独で行ってもよいが、2種類、3種類又は4種類の方法を併用してもよい。
【0048】
本発明のヒト肝細胞が移植された脊椎動物を作製するための脊椎動物は、上記の免疫不全動物において、ヒトIL-6を生体内に存在させればよい。
【0049】
ヒトIL-6を生体内に存在させる方法として、
1.上記の免疫不全動物にヒトIl-6遺伝子を発現可能に導入し、発現させる方法、及び
2.ヒトIL-6を上記の免疫不全動物に投与する方法が挙げられる。
【0050】
1.の方法としては、さらに、
(1) 免疫不全動物を該免疫不全動物にヒトIL-6遺伝子を発現可能に導入したヒトIL-6トランスジェニック動物と交配する方法、
(2) ヒトIL-6遺伝子発現培養細胞を、上記の免疫不全動物に投与することにより保有させる方法、及び
(3) ヒトIL-6遺伝子発現ベクターを、上記の免疫不全動物に接種する方法が挙げられる。
【0051】
(1)の免疫不全動物を該免疫不全動物にヒトIL-6遺伝子を発現可能に導入したヒトIL-6トランスジェニック動物と交配する方法は、例えば、以下の工程で行うことができる。
【0052】
ヒトIL-6遺伝子を発現可能に導入したヒトIL-6トランスジェニック動物には、ヒトIL-6遺伝子発現ユニットを導入すればよい。ヒトIL-6遺伝子発現ユニットは、プロモーター、エンハンサーが含まれており、さらにポリA付加配列等のエレメントが含まれていてもよい。ヒトIL-6発現ユニットの例を図1に示す。
【0053】
(i) 免疫不全動物の受精卵にヒトIL-6 cDNAを含むDNA断片を注入する工程
該工程において、ヒトIL-6 cDNAを含むDNA断片を導入したベクターを用いてもよい。DNA断片の注入は、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション等により行えばよい。
【0054】
(ii) (i)で得られたDNA断片注入受精卵を培養して新生仔動物を得る工程
この工程で得られた動物をヒトIL-6トランスジェニックファウンダー動物と呼ぶ。受精卵から新生仔動物を得る方法として、例えば、DNA断片を注入した受精卵を体外で18~24時間30~40℃で培養した後、仮親の子宮に移植し着床させて得る方法が挙げられる。
【0055】
(iii) (ii)で得られたファウンダー動物を免疫不全動物と交配する工程
TK遺伝子を導入する場合、さらに、TK遺伝子を導入した動物を交配すればよい。
このようにして得られた動物は、生体内でヒトIL-6を発現する免疫不全動物である。
【0056】
例えば、免疫不全動物として、TK-NOGマウスを用いる場合、以下のようにして作出する。
(i) ヒトIL-6 cDNAを含むDNA断片を雌性NODマウスと雄性NOGマウスで作製した受精卵にマイクロインジェクトし、ヒトIL-6トランスジェニックファウンダーマウスを取得する。
(ii) ヒトIL-6トランスジェニックファウンダーマウスをNOGマウスと交配することによりscid及びIL2Rg nullの変異体を得る。該マウスをNOG-IL-6と呼ぶ。
(iii) NOG-IL-6マウスとTK-NOGマウスを交配する。得られたマウスのうち、ヒトIL-6トランスジーン、及び、HSVtkトランスジーンの両方を保有するマウスをTK-NOG-IL-6マウスと呼ぶ。該マウスは、例えば、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug Tg ((Alb-UL23 )7-2, CMV-IL-6)/ShiJic (TK-NOG-IL-6)、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1SugTg(Ttr-UL23 mutant30)4-9, CMV-IL-6/ShiJicマウス(TKmut30-4-9-NOG-IL-6)、NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug Tg(Ttr-UL23 mutant30)5-2, CMV-IL-6/ShiJicマウス(TKmut30-5-2-NOG-IL6)及びNOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug Tg(Ttr-UL23 mutant30)10-15, CMV-IL-6/ShiJicマウス(TKmut30-10-15-NOG-IL6)という遺伝子記号で表される。
【0057】
このようにして得られた、ヒトIL-6を生体内に有する非ヒト脊椎動物に、ヒト肝細胞を移植することにより、ヒト肝細胞が移植された非ヒト脊椎動物を作製することができる。非ヒト脊椎動物に遺伝子改変を伴う場合、遺伝子改変非ヒト脊椎動物と呼ぶ。
【0058】
ヒトの肝細胞を非ヒト脊椎動物に移植する方法としては、非ヒト脊椎動物の脾臓を経由して肝臓へ移植する方法のほか、直接門脈から移植する方法も適宜採用され得る。また、腹腔内や静脈内に移植してもよい。一度に移植されるヒトの肝細胞の細胞数は1から2,000,000(2×106)細胞の中から適宜選択され得る。
【0059】
肝細胞は、血清(例えば、ウシ胎児血清)の存在下で維持(培養、継代、保存を含む)された通常の肝細胞、初代肝細胞、好ましくは株化された肝細胞が好適に使用され得る。移植に供するヒトの肝細胞としては、ヒト肝実質細胞を始めヒト肝臓中の細胞であればいかなる種類の細胞から由来する肝細胞も用い得る。通常の肝細胞が使用される場合には、被験体の肝組織から得られた肝細胞を用い得る。肝組織を採取する方法としては、手術の際の切除のほか、公知の方法である生検(バイオプシー)が挙げられる。肝生検とは細く長い針を皮膚の表面から直接肝臓に刺し、肝臓の組織を採取する方法をいう。通常、針が穿刺される部位は右胸下部の肋間である。術前に超音波検査装置を用いて穿刺部の安全性が確認された上で、穿刺部が消毒される。更に皮膚から肝臓の表面までが麻酔の対象となり、穿刺部の皮膚が小切開された後に穿刺針が穿刺される。さらに、市販の凍結ヒト肝細胞を用いることもできる。
【0060】
初代肝細胞が使用される場合には、採取された肝臓又は肝組織から肝細胞が、灌流法又は浸透法等の公知技術を用いて氷冷したハンクス液等に分散された細胞懸濁液を遠心分離等により分画することによって適宜単離される。得られた肝細胞は、適宜ウシ血清が添加されたWilliams’E等の培地で5%のCO2存在下、37℃において24時間培養される。さらに、3日毎に培地がASF104培地(味の素)等に交換され1週間程度まで培養された細胞が使用され得る。培地にはHGFやEGF等の細胞増殖因子が添加され得るほか、培養マトリックスや三次元培養等が適宜改変され得る。
【0061】
株化された肝細胞が使用される場合には、肝細胞の種類は特に制限されないが、例えば、SSP-25,RBE,HepG2,TGBC50TKB,HuH-6,HuH-7,ETK-1,Het-1A,PLC/PRF/5,Hep3B,SK-HEP-1,C3A,THLE-2,THLE-3,HepG2/2.2.1,SNU-398,SNU-449,SNU-182,SNU-475,SNU-387,SNU-423,FL62891,DMS153等が挙げられる。これらの細胞はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)などから入手することができる。例えば、Hep3B及びHepG2はATCCにそれぞれHB-8064及びHB-8065の登録番号で、HuH-7は国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンクにJCRB0403の登録番号で登録されている。
【0062】
ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物を用いる場合、肝傷害誘導法により、該動物に肝傷害を引き起こせばよい。ヒト肝細胞を投与した場合、肝傷害を引き起こした動物の肝細胞に代わって、当該動物中に移植されたヒトの肝細胞が動物の肝臓に生着する。動物の肝細胞が死滅するのとは反対に、動物肝臓に生着したヒトの肝細胞が増殖することによりヒトの肝細胞が一定以上の数を占めるキメラ動物を作製することができる。当該キメラ動物としては動物肝臓の50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、96%以上若しくは97%以上の動物肝臓がヒトの肝細胞で置換され占有された動物が挙げられる。この置換率をキメラ率とも呼ぶ。
【0063】
TK遺伝子を導入した免疫不全動物又はIL-6に対して免疫寛容を獲得した動物を用いる場合、グアノシンアナログ等を投与すればよい。グアノシンアナログとヒト肝細胞は、同時に動物に投与してもよいし、別々に投与してもよい。例えば、グアノシンアナログを動物の腹腔内に投与、あるいは給水に混ぜて摂水させた後、ヒト肝細胞を脾臓や静脈から移植してもよい。
【0064】
動物の肝細胞をヒトの肝細胞に置換することをヒトの肝細胞又は肝臓の再構築(repopulation)と呼び、動物の肝細胞をヒトの肝細胞で置換し、肝臓を再建した動物をヒト肝細胞再構築キメラ動物又はヒト肝臓再構築キメラ動物と呼ぶ。動物がマウスの場合は、ヒト肝細胞再構築キメラマウス又はヒト肝臓再構築キメラマウスと呼ぶ。また、肝細胞がヒト肝細胞に置換した肝臓をヒト化肝臓(humanized liver)と呼ぶ。
【0065】
本発明は上記のマウス等の動物中で再構築されたヒト肝臓組織をも包含する。当該肝臓組織には、ヒト肝臓の3次元的構造又は機能を有しており、非ヒト脊椎動物の肝細胞の75%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、96%以上若しくは97%以上がヒトの肝細胞に置換されて再構築されている。また、ヒト肝臓の肝胆管システムが構築され、ヒト肝臓の機能的小葉構造を有し、肝臓の異物排泄機能が正常に働いている。
【0066】
例えば、ヒトIL-6が存在する場合と存在しない場合を比較した場合、すなわち、TK-NOG-IL-6マウスを用いた場合、ヒトIL-6を存在させないでTK-NOGマウスを用いた場合に比較して、ヒト肝細胞の増殖が速く、ヒト肝細胞のキメラ率(生着率)も高い。例えば、マウス中のヒト肝細胞数とマウス血中のヒトアルブミン濃度は相関するため、ヒト肝細胞を移植したマウスの血中のヒトアルブミン濃度を指標として、ヒト肝細胞の増殖性を比較した場合、TK-NOG-IL-6マウスにおける増殖速度は、移植2週目でTK-NOGマウスにおける増殖速度の2倍となり、移植4週目以降でTK-NOGマウスにおける増殖速度の1.2倍以上、好ましくは1.3倍以上、さらに好ましくは1.4倍以上である。また、肝細胞を移植したマウス個体数に対するキメラ率が70%(置換インデックス70%)を超えたマウス個体数の割合は、TK-NOG-IL-6マウスにおいては、移植4週目以降で80%以上であるのに対して、TK-NOGマウスでは、10%以下、あるいは50%以下である。キメラ率が70%以上であるマウス個体数の割合を指標とした場合、TK-NOG-IL-6マウスにおけるヒト肝細胞のキメラ率(生着率)は、TK-NOGマウスの1.3倍以上、好ましくは1.4倍以上である。
【0067】
また、ヒトIL-6が生体内に存在する状態で、遺伝子改変非ヒト脊椎動物にヒト肝細胞を移植した場合、非ヒト脊椎動物体内におけるヒト肝細胞の倍化時間は、IL-6が存在しない遺伝子改変非ヒト脊椎動物にヒト肝細胞を移植した場合に比べ短い。
【0068】
例えば、TK-NOG-IL-6マウスにヒト肝細胞を移植した場合、マウス体内におけるヒト肝細胞の倍化時間は、IL-6が存在しないTK-NOGマウスにヒト肝細胞を移植した場合に比べ短い。
ヒト肝キメラマウスを用いた場合のヒト肝細胞の倍化時間は以下の方法により求めることができる。
【0069】
最初に、ヒト肝キメラマウスの肝臓をコラゲナーゼ灌流することにより全肝細胞を回収する。回収した細胞数をトリパンブルー染色により計数する。フローサイトメトリー解析によりHLA陽性細胞率(ヒト細胞率)を求める。回収した細胞数 x HLA陽性率で回収したヒト細胞数を算出する。以下の式により、倍化時間等を算出することができる。
細胞移植後経過時間(日)= 肝細胞単離回収日 - 肝細胞移植実施日
増幅率(倍)=(回収した細胞数 ×HLA陽性率)÷ 移植した細胞数
細胞分裂した回数(回)= LOG (増幅率, 2)
倍加時間(日)= 細胞移植後経過時間 ÷ 細胞分裂した回数
【0070】
TK-NOG-IL-6マウスにヒト肝細胞を移植した場合のマウス体内でのヒト肝細胞の倍化時間は、最も短くて2.4日(56.9時間)以内、好ましくは3日(72.0時間)以内である。TK-NOG-IL-6マウスにヒト肝細胞を移植した場合のマウス体内でのヒト肝細胞の倍化時間は、TK-NOGマウスにヒト肝細胞を移植した場合のマウス体内でのヒト肝細胞の倍化時間の少なくとも1.2倍、好ましくは少なくとも1.3倍、さらに好ましくは少なくとも1.4倍、特に好ましくは少なくとも1.5倍小さい。すなわち、TK-NOG-IL-6マウスにヒト肝細胞を移植した場合の増殖速度はTK-NOGマウスにヒト肝細胞を移植した場合のマウス体内でのヒト肝細胞の増殖速度の少なくとも1.2倍、好ましくは少なくとも1.3倍、さらに好ましくは少なくとも1.4倍、特に好ましくは少なくとも1.5倍速い。
【0071】
組織学と免疫組織化学により、TK-NOG-IL-6マウスにおいて、移植4週後には増殖巣が消失し、肝細胞のほとんどがヒト肝細胞で置換される。TK-NOGマウスで見られた肝細胞の増殖巣の構造は培養細胞が増殖した形態であるのに対し、TK-NOG-IL-6、及び、Tkmut30-NOG-IL-6マウスで見られる肝細胞の増殖巣の構造は培養細胞が増殖した形態とは明らかに異なり、類洞様構造が認められる上、肝小葉構造がヒトの小葉構造に近く、門脈三つ組と呼ばれる小葉間動脈・小葉間静脈・小葉間胆管構造も極めて良く保存される特徴を有する。このように、本発明によるキメラ効率の高さすなわち逆に言うとマウス肝細胞のより早期の消滅は、結果的にヒト肝組織の組織学的な再建を実現する成績を招来するという思いもよらない効果を発揮したと考えられ、アルブミンの生産という生理学的な側面においてもヒト肝臓の再構築(repopulation)をより効率的に提供する発明となった。
【0072】
これらのヒト肝細胞を有するキメラ動物は、例えば、ヒトの肝細胞の移植から60日程度後に被験物質の投与に供される。被験物質としては、例えば、医薬候補物質が挙げられる。医薬候補物質としては、医薬品開発の過程にある物質であり、ヒトにおける薬物相互作用の予測を必要とする物質が好適に挙げられる。このような物質は、医薬品の薬効に対する主成分物質であり得るし、あるいは主成分物質を含む組成物であり得る。医薬候補物質の投与量は、その物質が対象とする疾患の種類や物質組成の種類、あるいは投与経路等によって異なるが、0.1mg/kg体重から2000mg/kg体重程度の範囲から適宜選択され得る。また投与経路は、医薬候補物質の種類やその適した剤型等に応じて、経口、経皮、皮下、静脈内又は腹腔内投与等から適宜選択され得る。
【0073】
キメラ動物の肝臓内における医薬候補物質等の被験物質の代謝の程度、及び代謝物は、マウス血漿における医薬候補物質の濃度を、クロマトグラフ法等の当該技術分野における定法によって適宜測定、及び、同定され得る。また、測定は、候補物質の投与から30分から24時間程度までの間から適宜選択された、1又は複数のタイムポイントで測定される経時測定によって実施され得る。
【0074】
そして、この血漿中の医薬候補物質の濃度、及び、肝臓において薬物代謝酵素によって代謝された物質の濃度によって、医薬候補物質が、例えば、CYP2D6、CYP2C9、又はCYP2C19欠損者で代謝されやすい物質か代謝されにくい物質かが判定され得る。
【0075】
ヒトの薬物代謝酵素は、CYP群酵素に属するCYP1A1、CYP1A2、CYP1B1、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C10、CYP2C18、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A3、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、CYP4F1、CYP4A2、CYP4A3等であり、それぞれの指標化合物は、例えば、CYP1A2で代謝される指標化合物はカフェイン、CYP2C9はトルブタミド、CYP2D6はデキストロメトルファン、CYP2C19はオメプラゾール、CYP3A4はエリスロマイシン等である。
【0076】
本発明のキメラ動物に医薬候補物質が投与された後、これらの指標化合物の混合物が投与され、経時的に各化合物の血漿中濃度を測定することによって、医薬候補物質が各酵素の活性を促進する物質か、あるいは阻害する物質であるかが判定され得る。例えば、医薬候補物質を投与した場合にカフェインの代謝が促進して血漿中濃度が減少していれば、当該医薬候補物質はCYP1A2の活性を特異的に促進する物質であると判定され得る。
【0077】
すなわち、本発明の動物を用いてヒトに投与される医薬がヒトの肝臓においてどのように代謝され、どのような代謝物質が生成されるか、すなわち医薬の血漿中動態、代謝物の同定、代謝速度等の評価を行うことができる。代謝の観点から人に投与することが適切な医薬のスクリーニング、及び人に投与される適切な医薬用量の予想が可能になる。また、ヒト肝臓の増殖、再生等の研究に用いることができる。
【0078】
候補薬剤は、任意の多くの所望の方法、及び/又は薬剤送達に適切な方法で投与することができる。例えば候補薬剤は、注射(例えば、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、又は所望の作用を達成するための組織への直接注射)、経口投与、又は他の任意の望ましい方法で好適に投与され得る。通常、インビボにおけるスクリーニング法には、さまざまな量及び濃度の候補薬剤(薬剤非投与から、動物に良好に送達されうる量の上限に至る薬剤量まで)を受ける数種の動物を対象とし、多様な剤形及び経路による薬剤の送達法が含まれる。薬剤は単独で投与することができるほか、特に薬剤の併用投与が相乗効果を生む場合は、2種又はそれ以上の薬剤と組み合わせて投与され得る。
【0079】
スクリーニングされる候補薬剤としては、合成分子、天然分子、又は組換え的に作製された分子(例えば低分子量の分子;薬物;ペプチド;抗体(抗原結合性の抗体断片、例えば受動免疫をもたらすものを含む)、又は他の免疫療法薬:真核細胞又は原核細胞に含まれる内因性因子(例えばポリペプチドや植物抽出物など)など)が用いられる。ヒト細胞に対する毒性が低い薬剤のスクリーニングアッセイ法は特に重要である。
【0080】
さらに、本発明の別の目的として、細胞移植治療等に用いられる将来肝臓になることが可能な細胞、例えば、肝幹細胞の探索、検出、同定に使用され得るマウスモデルを提供することが挙げられる。肝幹細胞は、将来的に肝細胞に分化すればよく、肝細胞に分化するために必要な世代数等は特に特定されない。すなわち、本発明は、マウスモデルに、ヒト肝組織から取得した初代分離細胞の経脾門脈的移植を行い、生着した肝組織の中からヒト肝幹細胞等の細胞移植治療等に用いられる将来肝臓になることが可能な細胞を探索し、あるいはさらに同定する方法をも提供する。さらに、生着した肝組織の中からヒト肝幹細胞等の細胞移植治療等に用いられる将来肝臓になることが可能な細胞を含む細胞集団を採取することができる。本発明は、この肝幹細胞等の細胞移植治療等に用いられる将来肝臓になることが可能な細胞を含む細胞集団を採取する方法をも提供する。経脾門脈的移植の代わりに同所移植する方法も適宜使用され得る。初代分離細胞の代わりに試験管内で適切な条件下で培養され肝細胞への分化を誘導づけられた幹細胞も本目的のために適宜使用され得る。そのような幹細胞を用いて肝細胞への分化を誘導づける方法は例えば、Gastroenterology(2009)136,990-999等に記載されている。肝組織の中から増殖性を指標として肝幹細胞を探索し、同定するために、肝細胞を検出するマーカーを認識する抗原、及び/又は、増殖性細胞を認識する抗体を用いて組織免疫染色を行うことができる。肝細胞を検出するマーカーとして、アルブミン、tyrosine aminotransferase、glucose-6-phosphatase、coagulation factor(CF)VII、asialoglycoprotein receptor、Cytokeratin 8/18等から適宜選択され得る。細胞増殖マーカーとして、Ki-67抗原、5-bromo-2’-deoxyuridine取り込み能、PCNA等から適宜選択され得る。これらのマーカーを用いることによりヒト肝幹細胞を含む細胞集団を取得することができ、さらに、こうしたマーカーを発現する肝細胞はFACS Calibur(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)等を用いて適宜単離され、単離された肝幹細胞が細胞移植治療等に適宜供され得る。
【0081】
上記のように、遺伝子改変非ヒト脊椎動物に移植したヒト肝細胞が生着し増殖したか否かは、非脊椎動物の血中ヒトアルブミン濃度をヒト肝細胞生着マーカーとして用いることにより確認することができる。また、マウス等の血液中にはコリンエステラーゼ活性がほとんど認められない。従って、血中コリンエステラーゼ活性をヒト肝細胞生着マーカーとして、非ヒト脊椎動物に移植したヒト肝細胞が生着し増殖したか否かを確認することができる。実際、ヒト肝細胞を移植したマウスにおいて、血中ヒトアルブミン濃度と血中コリンエステラーゼ活性はよく相関している。
【0082】
ヒト肝細胞が移植された遺伝子改変脊椎動物中で構築されたヒト肝臓を取り出してスクリーニング等に利用することもでき、ヒト肝細胞が移植された遺伝子改変脊椎動物及び織り出したヒト肝臓を用いることにより、in vivoとin vitroの両方でスクリーニングを行うことができる。
【0083】
生体内にヒトIL-6が存在する状態で、ヒト肝細胞を移植した遺伝子改変非ヒト脊椎動物に、さらに抗ヒトIL-6抗体を投与した場合、投与しない場合に比べ、さらに生体内でのヒト肝細胞の増殖が早くなる。すなわち、ヒト肝細胞を移植した遺伝子改変非ヒト脊椎動物に抗ヒトIL-6抗体を投与することにより、ヒト肝細胞移植後の生着及び増殖を促進することができる。これは、抗IL-6抗体が、ヒトIL-6が存在する非ヒト脊椎動物中でヒトIL-6のキャリアータンパクとして働き、分解から保護することにより長期間作用するためであると考えられる。抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよいが、好ましくはポリクローナル抗体である。投与する抗ヒトIL-6抗体の量は、例えば、個体あたり、数μg~数百μg投与すればよい。非ヒト脊椎動物がマウスの場合、個体あたり、1μg~100μg、好ましくは2μg~20μg、さらに好ましくは2μg~10μg、特に好ましくは2μg~5μgを投与すればよい。
【0084】
本発明は、ヒト肝細胞が移植された遺伝子改変非ヒト脊椎動物の製造方法であって、ヒトに対する免疫反応が欠損又は低下した非ヒト脊椎動物に、生体内にヒトIL-6が存在する状態で、ヒト肝細胞を移植し、さらに抗ヒトIL-6を投与することを含む製造方法も包含する。
【実施例
【0085】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0086】
[実施例1] TK-NOG-IL-6マウス中でのヒト肝臓細胞の増殖
ヒトインターロイキン6(Human Interleukin-6)/TK-NOGダブルトランスジェニックマウス(TK-NOG-IL-6マウス)を用いることでマウス生体内に移植したヒト肝臓細胞を著しく増殖させることができた実施例を示す。
【0087】
ヒトインターロイキン6(Human Interleukin-6: human IL-6)遺伝子発現ユニットは既報(PMID: 29456539, Hanazawa A, Ito R, Katano I, Kawai K, Goto M, Suemizu H, Kawakami Y, Ito M, Takahashi T. (2018). Generation of Human Immunosuppressive Myeloid Cell Populations in Human Interleukin-6 Transgenic NOG Mice. Front Immunol, 9, 152.)の通りである(図1)。すなわち、Human cytomegalovirus (CMV) immediate early enhancer and promoteにより発現制御されるhuman IL-6 cDNAを含むDNA断片を雌性NODマウスと雄性NOGマウスで作製した受精卵にマイクロインジェクトし、ヒトIL-6トランスジェニックファウンダーマウスを取得した。ヒトIL-6トランスジェニックファウンダーマウスをNOGマウスと交配することによりscid及びIL2Rg nullの変異体を得た。樹立したマウスの系統は公式には、NOD.Cg-Prkdcscid Il2rg tm1Sug Tg (CMV-IL-6)/ShiJicという遺伝子記号で表され、これはNOG-IL-6と略される。NOG-IL-6マウスとTK-NOGマウスとの交配で生まれた仔のうち、Human Interleukin-6トランスジーン、及び、HSVtkトランスジーンの両方を保有するマウスはNOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Sug Tg ((Alb-UL23)7-2, CMV-IL-6)/ShiJicという遺伝子記号で表され、これをTK-NOG-IL-6マウスと略す。
【0088】
肝臓傷害の誘発
蒸留水に溶解したガンシクロビル(GCV)ナトリウム(Denosine-IV; Mitsubishi Tanabe Pharma)を単回、あるいは1日おきに計2回、マウス腹腔内に投与した。また、GCVの代替としてバルガンシクロビル(ValGCV)(Valganciclovir Hydrochloride; Sigma-Ardrich, Merck)を飲用水に溶解し経口投与した。肝傷害の程度は生化学的血清検査値及び病理学的分析により調べた。GCV、あるいはValGCV投与1週間後にヘパリン採血を行い、血漿分離後、FUJI DRI-CHEM7000(Fujifilm)により臨床化学分析(Alanine amino transferase; ALT)を行った。
【0089】
ヒト肝細胞の移植
市販の凍結ヒト肝細胞(Biopredic社:31歳男性LHum170003、Lonza社:35歳 HUM4122B)をドナー細胞として用いた。以下の方法でTK-NOG-IL-6、及び、TK-NOGに移植した。6~8週齢の成体TK-NOG-IL-6、及び、TK-NOGレシピエントマウスにValGCV溶液(0.06~0.08 mg/mL)を48時間、飲用水として与え、投与開始から1週間後採血し血漿ALT値を測定した。血漿ALT値が600U/L以上を示した個体をヒト肝細胞移植のレシピエントとした。ヒト肝細胞数及びその生存率はトリパンブルー排除法によりヘマトサイトメーターを用いて算定した。40μLのWilliam's medium E培地に浮遊させた約1×106の生肝細胞をインスリン皮下投与用29ゲージ針付き注射筒(マイジェクター)を用いて脾臓内に投与した。
【0090】
ヒトアルブミン測定
ヒト肝細胞移植の1週間後から毎週、眼底静脈叢からポリエチレンチューブを用いて小量の血液を採取した。1%ウシ血清アルブミン/0.05%Tween20を含むTBS(Tris-buffered saline)で5,000~250,000倍に希釈し、ヒトアルブミンELISA Quantitation Kit(Bethyl Laboratories)を用いてヒトアルブミン濃度を測定した。閾値濃度は0.016 mg/mLであった。
【0091】
組織学及び免疫組織化学
ホルマリン固定した肝臓をパラフィンに包埋し5μm厚切片を作製し、ヘマトキシリン&エオジン染色を行った。免疫組織化学染色に供する切片はtarget retrieval solution (0.1 M citrate buffer, pH 6.0; 1 mM EDTA, pH 9.0)に入れ10分間オートクレーブにかけた後に20分間室温に置いた。モノクローナルマウス抗ヒトHLA-classI-A, B, C抗体(clone EMR8-5; Hokudo)を1次抗体として用いた。明視野免疫組織化学のためにマウスIgをアミノ酸ポリマー/ペルオキシダーゼ複合体標識抗体(Histofine Simple Stain Mouse MAX PO (M); Nichirei Bioscience)及びジアミノベンジジン(DAB; Dojindo Laboratories)基質(0.2 mg/mL 3,3'-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド, 0.05 M Tris-HCl, pH 7.6, and 0.005% H2O2)を用いて可視化した。切片はヘマトキシリンを用いて対比染色がなされた。AxioCam HRm及びAxioCam MRc5 CCD cameras(Carl Zeiss)を備えた直立顕微鏡Axio Imager (Carl Zeiss)を用いて撮像した。
【0092】
ヒト肝細胞の単離精製
ヒト肝細胞移植5週後のTK-NOG-IL-6マウスから二段階コラゲナーゼ灌流法により肝細胞単離を行った。簡単に説明すると、27Gの翼状針を下大静脈に挿入し、接着剤で固定した後で門脈を切断した。次いで、37℃の1×肝臓灌流培地(Thermo Fisher Scientific社製)で肝臓を7分間(6mL/分)灌流した。次いで、灌流培地を、0.15%コラゲナーゼ培地[360U/mLコラゲナーゼIV型(CLSS4; Worthington Biochemical Corporation、米国ニュージャージー州レイクウッド)、140U/mLコラゲナーゼIV型(C1889; Sigma-Aldrich)/mL、0.6mg/mLのCaCl2、10mMのHEPES(pH7.4)、及び10mg/mLのゲンタマイシン]に交換し、1.5mL/分で10分間灌流した。肝臓を摘出し、1%ウシ胎児血清(FBS; Thermo Fisher Scientific)を含む50mLのリン酸緩衝食塩水(PBS)を含む培養皿に移し、穏やかに揺すり、コラゲナーゼ消化された肝臓から細胞を分散させた。肝臓細胞を100μmナイロンフィルターで濾過し、50×g, 4℃で4分間遠心した。さらに1%FBSを含有する氷冷PBS 50mLで2回細胞を洗浄した。27%Percoll(GE Healthcare、Buckinghamshire、UK)の密度勾配遠心分離(60×g、7分間)で死細胞の除去を行い、1%FBSを含有する氷冷PBS 50mLで50×g, 4分間の洗浄を3回繰り返した。3回の洗浄の後、細胞を10%FBS、44mM NaHCO3、1mMピルビン酸ナトリウム、及び2種の抗生物質(50単位/mLペニシリンG及び50μg/mLストレプトマイシン; Sigma-Aldrich)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM; Sigma-Aldrich))に浮遊させた。調製した肝臓細胞(Hu-Liver細胞)の細胞数及び生存率をトリパンブルー排除試験で決定した。
【0093】
フローサイトメトリー分析
単離精製したHu-Liver細胞の総数に対するヒト白血球抗原(HLA)発現ヒト細胞とマウスH-2kd発現マウス細胞の比率をBD FACSCanto(BD Biosciences)を用いたフローサイトメトリー解析により求めた。簡単に説明すると細胞を抗HLAマウスモノクローナル抗体(クローンG46-2.6; BD Biosciences)、及び抗マウスH-2kdマウスモノクローナル抗体(クローンSF1-1.1; BD Biosciences)で染色を行うと同時に、ヨウ化プロピジウム(BD Biosciences)にて細胞生存率の評価を行った。データ分析にはBD FACSDivaソフトウェアプログラム(BD Biosciences)、及びFlowJoプログラム(Tree Star、San Carlos、CA、USA)を使用した。
結果は以下のとおりであった。
【0094】
TK-NOG-IL-6マウスへのヒト肝細胞移植(LHum17003ドナー細胞)
TK-NOG-IL-6マウス、及び、TK-NOGマウスの血清中のヒトアルブミンをヒト肝細胞移植の翌週から毎週、移植5週後までELISA法により測定した。結果を図3に示す。ヒト肝細胞が移植されたTK-NOGマウスの肝臓において、ヒト肝細胞により置換された割合(推定置換インデックス(RI))、すなわちヒト肝細胞数は血清中のヒトアルブミン濃度と強く相関することを特許第5073836号公報で明らかにしている。また、TK-NOGマウスの肝臓において、ヒト肝細胞により置換された割合(推定置換インデックス(RI))、すなわちヒト肝細胞数は血清中のブチルコリンエステラーゼ(CHE)活性とも強く相関することをSuemizu H. et al., Pest Management Science, 74, 1424, 2018 で明らかにしている。肝細胞移植1週後、既にTK-NOG-IL-6マウスの血中ヒトアルブミン濃度がTK-NOGマウスに比し有意に高く、移植2週後にはTK-NOG-IL-6マウスの血中ヒトアルブミン濃度はTK-NOGマウスの2倍に達していた。その後、3週、4週時においてもTK-NOG-IL-6マウスではTK-NOGマウスで比し有意に高い血中ヒトアルブミン濃度を示した。TK-NOG-IL-6マウスでは移植後5週でも高い傾向にあるが血中ヒトアルブミン濃度に有意な差はなくなることから、ヒト肝細胞の急速な増殖は移植5週でプラトーに達することが示された。
【0095】
薬物代謝実験の用途には推定置換インデックス70%以上のヒト肝細胞を保有するマウスを一般に使用する。ヒト肝細胞が移植されたマウスの各個体について血中ヒトアルブミン濃度を図4に示す。ヒト肝細胞が移植されたTK-NOG-IL-6マウスでは移植4週後に大部分のマウス(13匹中10匹, 76.9%)が置換インデックス70%を超えたのに対し、ヒト肝細胞を保有するマウス(TK-NOGマウス)で置換インデックス70%を超えたのはごく僅かであった(17匹中2匹, 11.8%)。移植後5週時、TK-NOGマウスでは16匹中9匹(56.2%)であるのに対し、TK-NOG-IL-6マウスでは9匹中8匹(88.9%)のマウスが置換インデックス70%を超えている。この事から、TK-NOG-IL-6では移植したヒト肝細胞の増殖が早まる上、置換インデックス70%以上のヒト肝細胞保有マウスを高効率で取得することが可能になると予想される。
【0096】
TK-NOG-IL-6マウスへのヒト肝細胞移植(HUM4122Bドナー細胞)
TK-NOG-IL-6マウス、及び、TK-NOGマウスの血清中のヒトアルブミンをヒト肝細胞移植の翌週から毎週、移植5週後までELISA法により測定した。結果を図6に示す。ヒト肝細胞が移植されたTK-NOGマウスの肝臓において、ヒト肝細胞により置換された割合(推定置換インデックス(RI))、すなわちヒト肝細胞数は血清中のヒトアルブミン濃度と強く相関することを特許第5073836号公報で明らかにしている。ヒト肝細胞移植5週後までの期間を通じて、血中ヒトアルブミン濃度をTK-NOG-IL-6マウスとTK-NOGマウスで比較すると、常にTK-NOG-IL-6マウスで有意に高く、特にヒト肝細胞移植3週後には血中ヒトアルブミン濃度はTK-NOGマウスの3倍に達していた。その後、4週、5週時においてもTK-NOG-IL-6マウスではTK-NOGマウスで比し有意に高い血中ヒトアルブミン濃度を示した。
【0097】
薬物代謝実験の用途には推定置換インデックス70%以上のヒト肝細胞を保有するマウスを一般に使用する。ヒト肝細胞が移植されたマウスの各個体について血中ヒトアルブミン濃度を図7に示す。ヒト肝細胞が移植されたTK-NOG-IL-6マウスでは移植4週後に大部分のマウス(6匹中5匹, 83.3%)が置換インデックス70%を超えたのに対し、特許ヒト肝細胞を保有するマウス(TK-NOGマウス)で置換インデックス70%を超えたのはいなかった(4匹中0匹, 0.0%)。移植後5週時にもTK-NOGマウスでは3匹中0匹(0.0%)であるのに対し、TK-NOG-IL-6マウスでは3匹中3匹(100%)のマウスが置換インデックス70%を超えている。この事から、TK-NOG-IL-6では移植したヒト肝細胞の増殖が早まる上、TK-NOGマウスでは生着性が悪い細胞を効率良く生着させることが示され、幅広いロットの細胞を使用可能にし、また、置換インデックス70%以上のヒト肝細胞保有マウスを高効率で取得することが可能になると予想される。
【0098】
ヒト肝細胞移植後、それぞれ2、3及び4週後に得られたTK-NOG-IL-6マウスの肝臓の組織学と免疫組織化学の結果を示す。連続切片はH&E、及びHuma Leukocyte Antigen (HLA)で染色され、その結果を図8~13に示す。図8はLHum17003ドナー細胞移植2週後のTK-NOG-IL-6 マウスとTK-NOGマウスの染色結果を示し、図9は移植3週後、図10は移植4週後の染色結果を示す。ほとんどのヒト肝細胞が移植後2週間でホスト肝組織の中に大型の増殖巣として存在していた(図8)。移植3週間ではヒト肝細胞の増殖巣大型コロニーが接合し、ホスト肝組織の半分以上を占めた(図9)。更に移植4週後には、血清中ヒトアルブミン濃度から推定されるヒト肝細胞による置換インデックスは70%を超えており、実際に移植3週後まで見られた大型の増殖巣は消失し、ホスト肝組織のほとんどがヒト肝細胞により置換されていた(図10)。図11はHUM4122Bドナー細胞移植2週後のTK-NOG-IL-6 マウスとTK-NOGマウスの染色結果を示し、図12は移植3週後、図13は移植4週後の染色結果を示す。ほとんどのヒト肝細胞が移植後2週間でホスト肝組織の中に大型の増殖巣として存在していた(図11)。移植3週間ではヒト肝細胞の増殖巣大型コロニーが接合し、ホスト肝組織の半分以上を占めた(図12)。更に移植4週後には、血清中ヒトアルブミン濃度から推定されるヒト肝細胞による置換インデックスは70%を超えており、実際に移植3週後まで見られた大型の増殖巣は消失し、ホスト肝組織のほとんどがヒト肝細胞により置換されていた(図13)。移植8週後のTK-NOG-IL-6マウスとTK-NOGマウスの肝組織像を図14に示す。TK-NOGマウスの肝組織H&E染色ではヒト肝細胞が隙間なく増殖し、多くのヒト肝細胞には空泡が見られるのに対し、TK-NOG-IL-6マウスの肝組織H&E染色では肝小葉内に索状構造が見られるのに加え、門脈三つ組と呼ばれる小葉間動脈・小葉間静脈・小葉間胆管構造も極めてヒトに近い構造を示す特徴を有する。
【0099】
TK-NOG-IL-6マウスを用いることにより短期間で作製することが可能となった高置換インデックスのヒト肝細胞保有マウスがin vitro研究用の肝細胞提供資源として有用かを検証した。すなわち、ヒト肝細胞が急速に増殖した移植後5週までのTK-NOG-IL-6マウス3匹から二段階コラゲナーゼ灌流法にて肝臓細胞の単離を行った。ヒト肝細胞移植後のTK-NOG-IL-6マウスから肝臓細胞を単離精製した際の情報を表1に示す。回収した肝臓細胞数は1匹あたり平均3.9×107個、平均生存率は90.8%と高値を示した。ヒト細胞のポジティブセレクションやマウス細胞のネガティブセレクションを実施していないにもかかわらず、マウス細胞混入率平均2.3%に対し、ヒト細胞率は平均94.4%とヒト細胞が圧倒的に優位であった。タイプ1コラーゲンコートディッシュに播種し、48時間経過後の肝臓細胞の形態を示す(図5)。多角形の細胞が敷石状にシートを形成し、また、肝細胞に特徴的な二核の細胞も多数見られ、一般的なヒト肝細胞と類似の形態を示した。
【0100】
1匹に移植した細胞数は0.1×107個であり、回収できた細胞数が約4×107個に達することから、本発明は試験管内では決して増殖させることができないヒト肝細胞を僅か5週間で実に40倍も増幅させることができる画期的な技術であることを明らかにしたものである。従来、定期的に得ることができないヒト臨床材料では新鮮ヒト肝細胞を計画的に供給することは不可能であったが、本発明で作製した動物をin vitro研究用の肝細胞提供資源とすることにより、新鮮ヒト肝細胞の計画的、且つ、オンデマンドな供給が可能となる。
【0101】
【表1】
【0102】
さらに、TK-NOG-IL-6マウスを用いることにより短期間で作製することが可能となった高置換インデックスのヒト肝細胞保有マウスがin vitro研究用の肝細胞提供資源として有用かの検証を症例を追加して行った。すなわち、ヒト肝細胞(Biopredic社:31歳男性LHum170003、5歳男性 LHum170003、Lonza社:30歳女性HUM4119F、0.9歳男性 HUM4282、12歳女性HUM181001B)が急速に増殖した移植後5週までのTK-NOG-IL-6マウス43匹から二段階コラゲナーゼ灌流法にて肝臓細胞の単離を行った。ヒト肝細胞移植後のTK-NOG-IL-6マウスから肝臓細胞を単離精製した際の情報(代表的な5例)を表2に示す。43匹から回収した肝臓細胞数は1匹あたり平均11.7×107個、平均生存率は87.8%と高値を示した。ヒト細胞のポジティブセレクションやマウス細胞のネガティブセレクションを実施していないにもかかわらず、マウス細胞混入率平均2.9%に対し、ヒト細胞率は平均95.3%とヒト細胞が圧倒的に優位であった。
【0103】
1匹に移植した細胞数は0.03×107個であり、回収できた細胞数が約11.6×107個に達することから、本発明は試験管内では決して増殖させることができないヒト肝細胞を僅か5週間で実に370倍も増幅させることができる画期的な技術であることを明らかにしたものである。
【0104】
【表2】
【0105】
TKmut30-NOG-IL-6マウスへのヒト肝細胞移植(LHum17003ドナー細胞)
さらにヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子の変異株TK mutant30をトランスサイレチンプロモーターに制御下に配置したTKmut30-NOGマウスとヒトインターロイキン6(Human Interleukin-6)のダブルトランスジェニックマウス(TKmut-NOG-IL-6マウス)を用いることでマウス生体内に移植したヒト肝臓細胞が著しく増殖させることができた実施例を示す。
【0106】
ヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ遺伝子変異株(HSV-TK mutant30)発現ユニット(図2)はマウストランスサイレチン遺伝子プロモーターにより発現制御されるHSV-TKmutant30 cDNAを含むDNA断片を雌性NODマウスと雄性NOGマウスで作製した受精卵にマイクロインジェクトし、HSV-TKmutant30トランスジェニックファウンダーマウスを取得した。HSV-TKmutant30トランスジェニックファウンダーマウスをNOGマウスと交配することによりscid及びIL2Rg nullの変異体を得た。樹立したマウスの系統は公式には、NOD.Cg-Prkdcscid Il2rg tm1Sug Tg (Ttr-UL23(通称tk) mutant30)/ShiJicという遺伝子記号で表され、これはTKmut30-NOGと略される。TKmut30-NOGマウスとNOG-IL-6マウスとの交配で生まれた仔のうち、Human Interleukin-6トランスジーン、及び、HSVtk mutant30トランスジーンの両方を保有するマウスはNOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Sug Tg ((Ttr-UL23 mutant30 ), CMV-IL-6)/ShiJicという遺伝子記号で表され、これをTKmut30-NOG-IL-6マウスと略される。
【0107】
肝臓傷害の誘発
蒸留水に溶解したバルガンシクロビル(ValGCV)(Valganciclovir Hydrochloride; Sigma-Ardrich,Merck)を飲用水に0.05~0.5 mg/mLの濃度で添加し、24~72時間、自由摂水により経口投与した。また、ValGCVの代替としてガンシクロビル(GCV)ナトリウム(Denosine-IV; Mitsubishi Tanabe Pharma)を単回、あるいは1日おきに計2回、マウス腹腔内に投与した。肝傷害の程度は生化学的血清検査値及び病理学的分析により調べた。GCV、あるいはValGCV投与1週間後にヘパリン採血を行い、血漿分離後、FUJI DRI-CHEM7000(Fujifilm)により臨床化学分析(Alanine amino transferase; ALT)を行った。
【0108】
ヒト肝細胞の移植
市販の凍結ヒト肝細胞(Biopredic社:31歳男性 LHum170003)をドナー細胞として用いた。以下の方法でTKmut30-NOG-IL-6、及び、TKmut30-NOGに移植した。6~8週齢の成体TKmut30-NOG-IL-6、及び、TKmut30-NOGレシピエントマウスにValGCV溶液(0.4 mg/mL)を72時間、飲用水として与え、投与開始から1週間後採血し血漿ALT値を測定した。血漿ALT値が600U/L以上を示した個体をヒト肝細胞移植のレシピエントとした。ヒト肝細胞数及びその生存率はトリパンブルー排除法によりヘマトサイトメーターを用いて算定した。40μLのWilliam's medium E培地に浮遊させた約1×106の生肝細胞をインスリン皮下投与用29ゲージ針付き注射筒(マイジェクター)を用いて脾臓内に投与した。
【0109】
ヒトアルブミン測定
ヒト肝細胞移植の1週間後から毎週、適宜、眼底静脈叢からポリエチレンチューブを用いて小量の血液を採取した。1%ウシ血清アルブミン/0.05%Tween20を含むTBS(Tris-buffered saline)で5,000~250,000倍に希釈し、ヒトアルブミンELISA Quantitation Kit(Bethyl Laboratories)を用いてヒトアルブミン濃度を測定した。閾値濃度は0.016 mg/mLであった。
【0110】
TKmut30-NOG-IL-6マウスの血清中のヒトアルブミンをヒト肝細胞移植の4週後にELISA法により測定した。また、TKmut30-NOGマウスの血清中のヒトアルブミンはヒト肝細胞移植の4.7週後にELISA法により測定した。結果を図15に示す。ヒト肝細胞が移植されたTK-NOGマウスの肝臓において、ヒト肝細胞により置換された割合(推定置換インデックス(RI))、すなわちヒト肝細胞数は血清中のヒトアルブミン濃度と強く相関することを特許第5073836号公報で明らかにしており、TKmut30-NOGマウスにおいてヒト肝細胞数は血清中のヒトアルブミン濃度と強く相関すると考えることが妥当である。ヒト肝細胞移植5週後までの時点で、血中ヒトアルブミン濃度をTKmut30-NOG-IL-6マウスとTKmut-NOGマウスで比較すると、実施数が少ないため有意差検定は行えないが、TKmut30-NOG-IL-6マウスではTK-NOG-IL-6と同等の高い生着性を示し、TKmut30-NOGマウスの5倍に達していた。
【0111】
薬物代謝実験の用途には推定置換インデックス70%(図16, 70%chimeric)以上のヒト肝細胞を保有するマウスを一般に使用する。ヒト肝細胞が移植されたマウスの各個体について推定置換インデックスを図16に示す。ヒト肝細胞が移植されたTKmut30-NOG-IL-6マウスでは移植4.7週後に移植した全てのマウス(2匹中2匹, 100%)が置換インデックス70%を超えたのに対し、ヒトIL-6を発現しないTKmut30-NOGマウスで置換インデックス70%を超えたマウスはいなかった(22匹中0匹, 0.0%)。
【0112】
図17はLHum17003ドナー細胞移植7週後のTKmut30-NOG-IL-6マウスの染色結果を示す。ホスト肝組織のほとんどがヒト肝細胞により置換されていた(図17)。さらにH&E染色ではTK-NOG-IL-6マウスと同様に肝小葉内に索状構造が見られるのに加え、門脈三つ組と呼ばれる小葉間動脈・小葉間静脈・小葉間胆管構造も極めてヒトに近い構造を示す特徴を有する。
【0113】
図18にヒトIL-6を発現するTKmut30-NOGマウス(TKmut30-NOG-IL-6)、及びTK-NOGマウス(TK-NOG-IL-6)血清中のヒトアルブミンをヒト肝細胞移植の翌週から毎週、移植5週後までELISA法により測定した結果を示す。ヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ遺伝子としてヒト単純ヘルペスウイルス1型-チミジンキナーゼ遺伝子変異株(HSV-TK mutant30)でも、かつ、マウストランスサイレチン遺伝子プロモーターで発現制御するマウスにおいても、TK-NOGマウス同様にヒトIL-6の存在により、同様の効果が得られることを示した。なお、TKmut30-NOGマウスについては、2、3及び4週経過時のデータは取得していない。
【0114】
このような短期間でのヒト肝細胞による置換は、ヒトIL-6が体内に存在するマウスに特有の現象であり、ヒトIL-6 Tgを有しないTK-NOGマウスやTKmut30-NOGマウスでは見られない。このことから、ヒトIL-6には生体内に移植されたヒト肝細胞の増殖を著しく促進する効果が有ることが明らかとなり、ヒト以外の動物の体内でヒト肝細胞を増殖させる方法として有用である。このようにして作製されたヒト肝細胞を保有する動物は、薬剤代謝や肝臓研究に有用である他、ヒト肝細胞を使用したin vitro研究用の肝細胞提供資源として有用である。
【0115】
[実施例2] TK-NOG-IL-6マウスに移植したヒト肝細胞の倍化時間の測定
マウスに移植したヒト肝細胞は増殖の後、肝臓が一定の大きさに達すると増殖は停止する。細胞増殖停止以降は経過時間と増殖細胞数が相関しなくなることから、細胞増殖停止以前に取得する必要があり、最少の倍加時間がその細胞の最大増殖速度となる。そこで、ヒト肝細胞移植後の様々な経過日数において、TK-NOG-IL-6マウス、TK-NOGマウスより上記方法にて肝細胞単離を行い、細胞数及び生存率をトリパンブルー排除試験で決定した。更にフローサイトメトリー解析によりHLA陽性細胞率(ヒト細胞率)を決定した。以下の式からマウスに移植したヒト肝細胞の倍加時間を決定し、横軸に細胞移植後経過時間、縦軸に倍加時間をプロットした図より、最少倍加時間を決定した。
倍加時間(日)= 細胞移植後経過時間 ÷ 細胞分裂した回数
細胞移植後経過時間(日)= 肝細胞単離回収日 - 肝細胞移植実施日
細胞分裂した回数(回)= LOG (増幅率, 2)
増幅率(倍)=(回収した細胞数 ×HLA陽性率)÷ 移植した細胞数
【0116】
1.材料と方法
(1)ヒト肝細胞の単離精製
ヒト肝細胞移植7日目以降のTK-NOG-IL-6マウス、TK-NOGマウスから二段階コラゲナーゼ灌流法により肝細胞単離を行った。簡単に説明すると、27Gの翼状針を下大静脈に挿入し、接着剤で固定した後で門脈を切断した。次いで、37℃の1×肝臓灌流培地(Thermo Fisher Scientific社製)で肝臓を7分間(6mL/分)灌流した。次いで、灌流培地を、0.15%コラゲナーゼ培地[360U/mLコラゲナーゼIV型(CLSS4;Worthington Biochemical Corporation、米国ニュージャージー州レイクウッド)、140U/mLコラゲナーゼIV型(C1889; Sigma-Aldrich)/mL、0.6mg/mLのCaCl2、10mMのHEPES(pH7.4)、及び10mg/mLのゲンタマイシン]に交換し、1.5mL/分で10分間灌流した。肝臓を摘出し、1%ウシ胎児血清(FBS; Thermo Fisher Scientific)を含む50mLのリン酸緩衝食塩水(PBS)を含む培養皿に移し、穏やかに揺すり、コラゲナーゼ消化された肝臓から細胞を分散させた。肝臓細胞を100μmナイロンフィルターで濾過し、50×g, 4℃で4分間遠心した。さらに1%FBSを含有する氷冷PBS 50mLで2回細胞を洗浄した。調製した肝臓細胞(Hu-Liver細胞)の細胞数及び生存率をトリパンブルー排除試験で決定した。生存率が70%未満の場合、27% Percoll(GE Healthcare、Buckinghamshire、UK)の密度勾配遠心分離(60×g、7分間)で死細胞の除去を行い、1%FBSを含有する氷冷PBS 50mLで50×g, 4分間の洗浄を3回繰り返した。3回の洗浄の後、細胞を10%FBS、44mM NaHCO3、1mMピルビン酸ナトリウム、及び2種の抗生物質(50単位/mLペニシリンG及び50μg/mLストレプトマイシン; Sigma-Aldrich)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM; Sigma-Aldrich))に浮遊させた。調製した肝臓細胞(Hu-Liver細胞)の細胞数及び生存率をトリパンブルー排除試験で決定した。
【0117】
(2)フローサイトメトリー分析
単離精製したHu-Liver細胞の総数に対するヒト白血球抗原(HLA)発現ヒト細胞とマウスH 2 kd発現マウス細胞の比率をBD FACSCanto(BD Biosciences)を用いたフローサイトメトリー解析により求めた。簡単に説明すると細胞を抗HLAマウスモノクローナル抗体(クローンG46-2.6; BD Biosciences)、及び抗マウスH-2kdマウスモノクローナル抗体(クローンSF1-1.1; BD Biosciences)で染色を行うと同時に、ヨウ化プロピジウム(BD Biosciences)にて細胞生存率の評価を行った。データ分析にはBD FACSDivaソフトウェアプログラム(BD Biosciences)、及びFlowJoプログラム(Tree Star、San Carlos、CA、USA)を使用した。
【0118】
2.結果
図19AはTK-NOG-IL-6マウス、図19BはTK-NOGマウスに移植したヒト肝細胞の倍加時間の測定結果を示す。
【0119】
TK-NOG-IL-6マウスにおけるヒト肝細胞の最少倍加時間は2.4日であり、一方、TK-NOGマウスにおけるヒト肝細胞の最少倍加時間は3.6日であった。このことから、TK-NOG-IL-6マウスを使用することにより、ヒト肝細胞を約1.5倍早く増殖させられることが判明した。
【0120】
本実施例では、非ヒト脊椎動物として免疫不全マウスを用いているが、ヒト肝細胞の生着のメカニズムを考慮すれば、ヒトIL-6の効果は、マウス以外の免疫不全非ヒト脊椎動物を用いた場合もマウスを用いた場合と同様にヒトIL-6の効果を奏することができることが予測される。
【0121】
[実施例3] TK-NOG-IL-6マウス中でのヒト肝細胞の増殖に対する抗IL-6中和抗体の影響
実施例1に示すように、ヒト以外のほ乳類においてヒト肝細胞を増殖させる際にヒトIL-6が効果的に作用し、TK-NOG-IL-6マウスにおいて移植したヒト肝細胞の増殖が早くなった。
【0122】
「抗サイトカイン抗体にはin vivoにおいて、サイトカインのキャリアータンパクとして働き、分解から保護することにより長期間作用することがある」という報告(FD Finkelman et al., J Immunol, 1993 Aug 1, 151(3), 1993, pp.1235-44: May LT. et al., J Immunol, 1993 Sep 15, 151(6), pp.3225-36)があることから、TK-NOG-IL-6マウスにヒト肝細胞を移植した後、ヒトIL-6に対する中和抗体を投与することによりヒトIL-6の効果が増強できるか検討した。
【0123】
1.材料と方法
(1)肝臓傷害の誘発とヒト肝細胞の移植
実施例1に記載したとおり、TK-NOG-IL-6マウスにガンシクロビルを投与し、投与1週間後にヘパリン採血を行い、血漿分離後、FUJI DRI-CHEM7000(Fujifilm)により臨床化学分析(Alanine amino transferase; ALT)を行った。
【0124】
市販の凍結ヒト肝細胞(Lonza社:11ヶ月例 HUM4282)をドナー細胞として用いた。該ドナー細胞を以下の方法でTK-NOG-IL-6に移植した。6~8週齢の成体TK-NOG-IL-6レシピエントマウスにValGCV溶液(0.27 mg/mL)を72時間、飲用水として与え、投与開始から1週間後採血し血漿ALT値を測定した。血漿ALT値が300U/L以上を示した個体をヒト肝細胞移植のレシピエントとした。ヒト肝細胞数及びその生存率はトリパンブルー排除法によりヘマトサイトメーターを用いて算定した。40μLのWilliam's medium E培地に浮遊させた約1×106の生肝細胞をインスリン皮下投与用29ゲージ針付き注射筒(マイジェクター)を用いて脾臓内に投与した。
【0125】
(2)抗ヒトIL-6抗体の投与群と非投与群の群分け
ヒト肝細胞移植前に測定したALT活性を高い個体から並べ、交互に群分け(各群メス4匹)し、有意差検定(Mann-Whitney test)で2群間のALT活性平均値に差がないことを確認した。更にその2群間では抗体投与前の平均体重にも有意な差がないことを確認した(Mann-Whitney test)。任意に選択した群を抗体投与群とした。
【0126】
(3)抗ヒトIL-6抗体の投与と採血スケジュール
ヒト肝細胞移植の1週間後の火曜日に抗ヒトIL-6抗体(2種類の抗体を等量混合:2μgのSino Biological, IL6/IL-6 Neutralizing Antibody, Clone mhk23, と2μgのInvitrogen IL-6 Antibody, Monoclonal, 505E9A12A3)を1匹あたり4μgで1日1回、4日間連続(火水木金)で皮下投与し、2日間(土日)の休薬の後、同用量で5日間連続(月火水木金)で皮下投与、2日間(土日)の休薬の後、更に同用量で5日間連続(月火水木金)で皮下投与、2日間(土日)の休薬の後、同用量で1回(月)皮下投与を行った(計15回)。採血は移植2週後の火曜日から毎火曜日に移植5週目まで行った。
【0127】
(4)ヒトアルブミン測定
眼底静脈叢からポリエチレンチューブを用いて小量の血液を採取し、血漿分離した。血漿を1%ウシ血清アルブミン/0.05%Tween20を含むTBS(Tris-buffered saline)で5,000~250,000倍に希釈し、ヒトアルブミンELISA Quantitation Kit(Bethyl Laboratories)を用いてヒトアルブミン濃度を測定した。
【0128】
(5)コリンエステラーゼ活性測定
眼底静脈叢からポリエチレンチューブを用いて小量の血液を採取し、血漿分離した。血漿をFUJI DRI-CHEM7000(Fujifilm)により臨床化学分析(Cholinesterase; CHE)を行った。マウス血漿中にはコリンエステラーゼ活性がほとんどないため、検出されるコリンエステラーゼ活性はヒト肝細胞から産生分泌されたものであり、その酵素活性はヒトアルブミン濃度と良く相関し、ヒトアルブミンに代わるヒト肝細胞生着マーカーとなることを報告している(Suemizu et al. 2018, Pest Manage Sci, 74, 1424-1430)。
【0129】
2.結果
【0130】
図20Aに血中ヒトアルブミン濃度の測定結果を示し、図20Bにコリンエステラーゼ活性の測定結果を示す。
【0131】
図20Aに示すように、ヒト抗IL-6抗体投与群ではヒト肝細胞移植2週後から5週後までヒトアルブミン量が抗体非投与群に比し高値であった。中でもヒト肝細胞移植3週後、4週後には統計学的有意差を持って高値であった。コリンエステラーゼにおいては、図20Bに示すように、ヒト抗IL-6抗体投与群ではヒト肝細胞移植2週後から5週後までの全ての期間において統計学的有意差を持って抗体非投与群に比し高値であった。このことからヒト抗IL-6抗体投与には、ヒト肝細胞移植後の生着、及び増殖を促進することがあることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の非ヒト脊椎動物は肝臓細胞がヒト肝臓細胞に置換された非ヒト脊椎動物であり、ヒトの肝臓の構造又は機能を有する非ヒト動物である。本発明の非ヒト動物を用いて、ヒトの肝臓疾患に対する医薬の開発、ヒト肝細胞の回収が可能になる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【配列表】
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