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  • 特許-塩素バイパスシステム及びその運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】塩素バイパスシステム及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/60 20060101AFI20240816BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20240816BHJP
   B01D 53/68 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C04B7/60
F27D17/00 104A
B01D53/68 100
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021026546
(22)【出願日】2021-02-22
(65)【公開番号】P2022128169
(43)【公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浜田 航綺
(72)【発明者】
【氏名】北澤 健資
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-035354(JP,A)
【文献】特開2017-141132(JP,A)
【文献】特開2006-137644(JP,A)
【文献】特開2012-041223(JP,A)
【文献】特開2010-116298(JP,A)
【文献】特開2022-099641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B01D 53/34-53/73
B01D 53/74-53/85
B01D 53/92
B01D 53/96
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一のセメントキルンの窯尻に設けられ、前記セメントキルン内の燃焼ガスの一部が抽気された抽気ガスがそれぞれ通過する第1の抽気プローブ及び第2の抽気プローブと、
前記第1の抽気プローブで抽気ガスを吸引するための第1の抽気ガス吸引手段と、
前記第1の抽気プローブで抽気した前記抽気ガス中のダストの粗粉を分離する第1の分級手段と、
前記第1の分級手段に導入される前記抽気ガス中のダスト濃度を測定する第1のダスト濃度測定手段と、
前記第1の分級手段によって前記粗粉を分離した後の前記抽気ガス中のダストの微粉を集塵する第1の集塵手段と、
前記第2の抽気プローブで抽気ガスを吸引するための第2の抽気ガス吸引手段と、
前記第2の抽気プローブで抽気した前記抽気ガス中のダストの粗粉を分離する第2の分級手段と、
前記第2の分級手段に導入される前記抽気ガス中のダスト濃度を測定する第2のダスト濃度測定手段と、
前記第2の分級手段によって前記粗粉を分離した後の前記抽気ガス中のダストの微粉を集塵する第2の集塵手段と、
前記第1のダスト濃度測定手段が測定した第1のダスト濃度と前記第2のダスト濃度測定手段が測定した第2のダスト濃度との比が0.6~1.8の範囲となるように前記第1の抽気ガス吸引手段及び前記第2の抽気ガス吸引手段の少なくとも何れかの前記抽気ガスの吸引流量を制御する制御手段とを備えることを特徴とする塩素バイパスシステム。
【請求項2】
単一のセメントキルンの窯尻に設けられ、前記セメントキルン内の燃焼ガスの一部が抽気された抽気ガスがそれぞれ通過する第1の抽気プローブ及び第2の抽気プローブと、
前記第1の抽気プローブで抽気ガスを吸引するための第1の抽気ガス吸引手段と、
前記第1の抽気プローブで抽気した前記抽気ガス中のダストの粗粉を分離する第1の分級手段と、
前記第1の分級手段に導入される前記抽気ガス中のダスト濃度を測定する第1のダスト濃度測定手段と、
前記第1の分級手段によって前記粗粉を分離した後の前記抽気ガス中のダストの微粉を集塵する第1の集塵手段と、
前記第2の抽気プローブで抽気ガスを吸引するための第2の抽気ガス吸引手段と、
前記第2の抽気プローブで抽気した前記抽気ガス中のダストの粗粉を分離する第2の分級手段と、
前記第2の分級手段に導入される前記抽気ガス中のダスト濃度を測定する第2のダスト濃度測定手段と、
前記第2の分級手段によって前記粗粉を分離した後の前記抽気ガス中のダストの微粉を集塵する第2の集塵手段とを備えた塩素バイパスシステムの運転方法であって、
前記第1のダスト濃度測定手段が測定した第1のダスト濃度と前記第2のダスト濃度測定手段が測定した第2のダスト濃度との比が0.6~1.8の範囲となるように前記第1の抽気ガス吸引手段及び前記第2の抽気ガス吸引手段の少なくとも何れかの前記抽気ガスの吸引流量を調整するように運転することを特徴とする塩素バイパスシステムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素バイパスシステム及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩素バイパスシステムは、塩素に起因するキルン内又はプレヒータ内のコーティングトラブルを防止して、キルンの安定運転を図るために導入される。廃棄物の原燃料代替の推進に従い、塩素バイパスシステムの処理能力の増強が図られている。特に、近年、廃プラスチックなどの廃棄物の処理量増加などによって、キルン内に持ち込まれる塩素量が増大しているので、塩素のバイパス量向上を図ることが検討されている。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、塩素バイパス設備(塩素バイパスシステム)において、抽気プローブとサイクロンとをそれぞれ並列に2系統に配置することが開示されている。そして、バイパス率(抽気量)が最大バイパス率の50%より高い場合には、2系統の抽気プローブの双方から抽気して2系統のサイクロンで分級を行い、バイパス率が最大バイパス率の50%以下の場合には、1系統の抽気プローブのみで抽気して1系統のサイクロンのみで分級を行っている、
【0004】
また、特許文献2には、クリンカ焼成装置において、キルンの異なる2か所にそれぞれ抽気管が接続され、各抽気管が抽気した抽気ガスを冷却器で冷却した後に、単一の混合器に導入することが開示されている。抽気ガスの抽気量はダンパにより調整可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3115545号公報
【文献】特許第6631293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、各系統における抽気ガスの増加により、ダスト量が増加し、塩素バイパス効率が低下するという課題がある。また、上記特許文献2に記載の技術では、塩素バイパス系統自体は1系統であるので、従来と同様に、ダスト量が増加し、塩素バイパス効率が低下するという課題がある。
【0007】
本発明は、塩素バイパス効率の向上を図ることが可能な塩素バイパスシステム及びその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の塩素バイパスシステムは、単一のセメントキルンの窯尻から燃焼ガスの一部をそれぞれ抽気する第1の抽気プローブ及び第2の抽気プローブと、前記第1の抽気プローブで抽気ガスを吸引するための第1の抽気ガス吸引手段と、前記第1の抽気プローブで抽気した前記抽気ガス中のダストの粗粉を分離する第1の分級手段と、前記第1の分級手段に導入される前記抽気ガス中のダスト濃度を測定する第1のダスト濃度測定手段と、前記第1の分級手段によって前記粗粉を分離した後の前記抽気ガス中のダストの微粉を集塵する第1の集塵手段と、前記第2の抽気プローブで抽気ガスを吸引するための第2の抽気ガス吸引手段と、前記第2の抽気プローブで抽気した前記抽気ガス中のダストの粗粉を分離する第2の分級手段と、前記第2の分級手段に導入される前記抽気ガス中のダスト濃度を測定する第2のダスト濃度測定手段と、前記第2の分級手段によって前記粗粉を分離した後の前記抽気ガス中のダストの微粉を集塵する第2の集塵手段と、前記第1のダスト濃度測定手段が測定した第1のダスト濃度と前記第2のダスト濃度測定手段が測定した第2のダスト濃度との比が0.6~1.8の範囲となるように前記第1の抽気ガス吸引手段及び前記第2の抽気ガス吸引手段の少なくとも何れかの前記抽気ガスの吸引流量を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の塩素バイパスシステムの運転方法は、単一のセメントキルンの窯尻から燃焼ガスの一部をそれぞれ抽気する第1の抽気プローブ及び第2の抽気プローブと、前記第1の抽気プローブで抽気ガスを吸引するための第1の抽気ガス吸引手段と、前記第1の抽気プローブで抽気した前記抽気ガス中のダストの粗粉を分離する第1の分級手段と、前記第1の分級手段に導入される前記抽気ガス中のダスト濃度を測定する第1のダスト濃度測定手段と、前記第1の分級手段によって前記粗粉を分離した後の前記抽気ガス中のダストの微粉を集塵する第1の集塵手段と、前記第2の抽気プローブで抽気ガスを吸引するための第2の抽気ガス吸引手段と、前記第2の抽気プローブで抽気した前記抽気ガス中のダストの粗粉を分離する第2の分級手段と、前記第2の分級手段に導入される前記抽気ガス中のダスト濃度を測定する第2のダスト濃度測定手段と、前記第2の分級手段によって前記粗粉を分離した後の前記抽気ガス中のダストの微粉を集塵する第2の集塵手段とを備えた塩素バイパスシステムの運転方法であって、前記第1のダスト濃度測定手段が測定した第1のダスト濃度と前記第2のダスト濃度測定手段が測定した第2のダスト濃度との比が0.6~1.8の範囲となるように前記第1の抽気ガス吸引手段及び前記第2の抽気ガス吸引手段の少なくとも何れかの前記抽気ガスの吸引流量を調整するように運転することを特徴とする。
【0010】
本発明の塩素バイパスシステム及びその運転方法においては、後述する本発明のシミュレーション結果から分かるように、第1のダスト濃度と第2のダスト濃度との比が0.6~1.8の範囲となるように第1の抽気ガス吸引手段及び第2の抽気ガス吸引手段の少なくとも何れかの抽気ガスの吸引流量を制御又は調整することによって、第1及び第2の集塵手段によって集塵される微粉が減少し、塩素バイパス効率の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る塩素バイパスシステムを示す模式図。
図2】シミュレーションで使用するために作成したセメントキルンの窯尻付近の形状モデルの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る塩素バイパスシステム100について説明する。この塩素バイパスシステム100は、図1を参照して、セメントキルン設備におけるセメントキルン10の窯尻11から燃焼ガスの一部を抽気し、この抽気ガスから塩素をバイパス(除去)する2系統の塩素バイパス系統20,30を備えている。各塩素バイパス系統20,30は従来と同様の構成である。
【0013】
ここでは、第1の塩素バイパス系統20は、第1の抽気プローブ21、第1の抽気ガス吸引手段22、第1の冷却手段23、第1の分級手段24、第1のダスト濃度測定手段25、第1の集塵手段26、第1の排気手段27などを第1のキルン抽気ガス流路28上に備えている。
【0014】
ここでは、第1の塩素バイパス系統20において、第1の抽気プローブ21は、セメントキルン10の窯尻11に設けられ、セメントキルン10内の燃焼ガスの一部が抽気された抽気ガスが通過するものであり、例えば、円筒状に形成されている。第1の抽気ガス吸引手段22は、第1の抽気プローブ21を介して抽気ガスを吸引するために設けられたものであり、例えば、吸引ファンである。第1の抽気プローブ21に送り込まれた抽気ガスは、冷却ファンなどの第1の冷却手段23によって、例えば、550℃以下に急冷される。これにより、塩素化合物の微結晶が生成される。
【0015】
第1の分級手段24は、第1の抽気プローブ21で抽気した抽気ガス中のダストの粗粉P1(原料ダスト)を分離するものであり、例えば、サイクロン式の分級機である。第1の分級手段24は、例えば、粒径12μmを超えるものを粗粉P1として分離する。
【0016】
第1のダスト濃度測定手段25は、第1の分級手段24に導入される抽気ガス中のダスト濃度W1を測定する。第1のダスト濃度測定手段25は、例えば、光散乱方式によるダスト濃度を測定する市販の濃度計である。また、作業者が抽気ガスをサンプリングすることにより直接的にダスト濃度W1を測定してもよい。
【0017】
第1の集塵手段26は、第1の分級手段24によって粗粉P1を分離され、さらに第1の冷却器29により冷却された抽気ガス中からのダストから微粉(塩素バイパスダスト)P2を集塵するものであり、例えば、各種の電気集塵機やバグフィルターなどの固気分機などである。第1の集塵手段26から排出される抽気ガス(排出ガス)は、排気ファンなどの第1の排気手段27によって誘引して、図示しないが、セメントキルンの排ガス系、すなわち、セメントキルンの排ガスを誘引するファンの出口側やセメントキルンに付設されるプレヒータに戻される。
【0018】
ここでは、第2の塩素バイパス系統30は、第1の塩素バイパス系統20と同様に、第2の抽気プローブ31、第2の抽気ガス吸引手段32、第2の冷却手段33、第2の分級手段34、第2のダスト濃度測定手段35、第2の集塵手段36、第2の排気手段37などを第2のキルン抽気ガス流路38上に備上に備えている。第2の塩素バイパス系統30の構成要素31~38は、第1の塩素バイパス系統20の構成要素21~28と同等であるので、これらの説明は省略する。
【0019】
さらに、塩素バイパスシステム100は、第1及び第2のダスト濃度測定手段25,35が測定したダスト濃度の比W1/W2などに基づいて、第1及び第2の抽気ガス吸引手段22,32の吸引流量(吸引力)を制御する制御手段40を備えている。制御手段40は、CPU、記憶装置などを有するコンピュータ等から構成されている。
【0020】
第1及び第2の分級手段24、34で分離される粗粉P1は、相対的に塩素含有量が低く、セメントキルン系に戻すことができる。そこで、粗粉P1はセメントキルンに付設された図示しないプレヒータなどにセメント原料として戻す。一方、第1及び第2集塵手段26、36で集塵される微粉P2は、前記塩素化合物の微結晶が含まれており、相対的に塩素含有量が高い。そこで、微粉P2を回収することにより抽気ガスから塩素をバイパスすることが可能となる。
【0021】
なお、第1及び第2の抽気プローブ21,31は、セメントキルン10の窯尻11において、窯尻11の中心軸に対して回転対称に設けられることが好ましい。これにより、窯尻11に存在するダストの偏りが生じることをさらに抑制することが可能となる。
【0022】
以上説明したように、塩素バイパスシステム100においては、2系統の塩素バイパス系統20,30を備えている。そのため、塩素バイパス系統を1系統しか備えていない場合と比較して、窯尻11内のダストに偏りが生じることを抑制するとともに、1系統の塩素バイパス系統によって抽気されるダスト量の低減を図ることが可能であるので、抽気ガスのダスト濃度を低減させることにより、塩素バイパス効率の向上を図ることが可能となる。
【0023】
ただし、窯尻11内のセメントクリンカ原料やガス流の偏りなどによって、塩素バイパス系統20,30内の抽気ガス流量やダスト量が変動すると、抽気ダスト量の増加などによって、塩素バイパス効率が低下する可能性がある。例えば、従来のように1系統の塩素バイパス系統しか備えていない場合、抽気速度が上昇するほど抽気ガスと共に微粉P2も抽気プローブ側へ片寄るため、抽気プローブ近傍のダスト濃度が上昇し、結果として抽気ガス中のダスト濃度も上昇する。
【0024】
そこで、発明者は、塩素バイパス効率を向上させるためには、第1のダスト濃度W1と第2のダスト濃度W2との比W1/W2が0.6(≒1/1.8)≦W1/W2≦1.8の範囲内であることが必要であることを、後述するシミュレーション結果から新たに見出した。
【0025】
そこで、制御手段40は、ダスト濃度比W1/W2が0.6≦W1/W2≦1.8の範囲内となるように、第1又は第2の抽気ガス吸引手段22,32、あるいは、第1及び第2の抽気ガス吸引手段22,32の吸引流量を制御する。
【0026】
具体的には、例えば、ダスト濃度比W1/W2が1.8を超えた場合、塩素バイパス系統20側にダストが片寄っていると判断し、塩素バイパス系統30側の抽気ファン33の吸引流量を増加させる、または、塩素バイパス系統20側の抽気ファン23の吸引流量を減少させる、もしくは、これら両方の抽気ファン23,33の吸引流量の変更を行って、窯尻11内のダストを塩素バイパス系統30側に引き寄せることにより、ダスト濃度比W1/W2が0.6≦W1/W2≦1.8となるように制御する。
【0027】
なお、塩素バイパス効率を向上させるためには、ダスト濃度比W1/W2が1.0であることが最も好ましいので、制御手段40は、ダスト濃度比W1/W2が1.0に近づくように、又は、ダスト濃度比W1/W2が0.7(≒1/1.4)≦W1/W2≦1.4など、さらに狭い範囲内となるように制御することも好ましい。
【0028】
さらに、ダスト濃度比W1/W2だけでなく、回収される微粉P2の量及び塩素濃度から各塩素バイパス系統20,30における塩素バイパス効率を求め、これに応じて、制御手段40により、第1及び第2の抽気ガス吸引手段22,32の吸引力を制御してもよい。
【0029】
例えば、ダスト濃度W1,W2と第1及び第2の抽気ガス吸引手段22,32の抽気ガス流量から計算される各塩素バイパス系統20,30内のダスト量X1,X2と、第1及び第2の分級手段24,34によってそれぞれ回収される粗粉P1の測定量M1,M2との比M1/X1,M2/X2がともに0.8以上0.95以下の範囲に収まるように第1及び第2の抽気ガス吸引手段22,32の吸引力を制御することが好ましい。これにより、第1及び第2の分級手段24,34の分級性能を良好に維持することができ、高い塩素バイパス効率を維持することが可能となる。
【0030】
なお、窯尻11内の原料に片寄りが生じておらず、かつ、第1及び第2の塩素バイパス系統20,30から均等に抽気されると、窯尻11内のガス流は均一になる。このような場合に、ダスト濃度比W1/W2が1.0となり、ダスト(微粉P2)の合計量X(X1+X2)が最小化し、塩素バイパス効率が最大になる。しかしながら、実際のセメントキルンにおいては、原料の投入量や種類などの変動及びキルン内部の固結状況などにより窯尻11のガス流れは常に変動しており、均一な流れであることは稀である。
【0031】
本発明は、そのような場合であっても、ダスト濃度比W1/W2を0.6以上1.8以下の範囲内となるように制御することにより、ダスト量Xを低減して、塩素バイパス効率の向上を図るものである。
【0032】
なお、本発明は、上述した実施形態に具体的に記載した塩素バイパスシステム100に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内であれば適宜変更することができる。
【0033】
例えば、上述した実施形態においては、第1及び第2のダスト濃度測定手段25,35が測定したダスト濃度W1/W2などに基づいて、第1及び第2の抽気ガス吸引手段22,32の吸引力を制御する制御手段40を備えている。しかし、これに限定されず、このような制御手段40を備えておらず、作業員が、第1及び第2のダスト濃度測定手段25,35が測定したダスト濃度W1/W2などに基づいて、第1及び第2の抽気ガス吸引手段22,32の吸引力を手動などによって調整してもよい。
【0034】
また、上述した実施形態においては、2系統の塩素バイパス系統20,30を備えている場合について説明した。しかし、これに限定されず、3系統以上の塩素バイパス系統を備えていてもよい。この場合、各塩素バイパス系統の抽気プローブは、セメントキルン10の窯尻11において、窯尻11の中心軸に対して回転対称に設けられることが好ましいが、これに限定されない。そして、ダスト濃度が全ての系統において0.6≦W1/W2≦1.8の関係が成立するように制御すればよい。
【実施例
【0035】
上述した塩素バイパスシステム100における微粉(抽気ダスト)P2の低減効果を確認するために、ANSYS JAPAN社製のFluent Ver.19.0を用いて、シミュレーション解析を行った。
【0036】
シミュレーションで使用するために作成したセメントキルン10の窯尻11付近の形状モデルは、図2に示すように、窯尻11に左右対称に第1及び第2の抽気プローブ21,31が設けられている。さらに、第1の抽気プローブ21の側の窯尻11に第1の原料投入口12が、第21の抽気プローブ31の側の窯尻11に第2の原料投入口13がそれぞれ設けられている。
【0037】
第1及び第2の原料投入口12、13からそれぞれ投入するセメントクリンカ原料の投入量G1,G2[kg/s]、第1及び第2の塩素バイパス系統20,30によりそれぞれ抽気する窯尻11内の燃焼ガスに対する抽気ガスの割合である抽気率C1,C2[%]及び第1及び第2の塩素バイパス系統20,30にそれぞれ抽気される抽気ガスの速度S1,S2[m/s]は表1に示す通りであった。
【0038】
なお、第1及び第2の原料投入口12,13からのセメントクリンカ原料の合計供給量は330[t/時間]を想定したものである。また、窯尻11における燃焼ガスの通気量は160000[Nm/時間]、その温度は1050[℃]を想定し、第1及び第2の塩素バイパス系統20,30による抽気ガスの合計抽気量は160000[Nm/時間](抽気率は10[%])を想定している。
【0039】
なお、比較例1は、第2の塩素バイパス系統30が存在しない、従来の塩素バイパス系統が1系統である場合を示している。また、第1及び第2の原料投入口12,13からの原料投入量G1,G2を相違させることにより、窯尻11内の原料に片寄りを生じさせていている。さらに、抽気率C1,C2及び抽気ガス速度S1,S2は第1及び第2のガス吸引手段26,36による吸引流量に応じて定まる。
【0040】
【表1】
【0041】
第1及び第2のダスト濃度測定手段25,35でそれぞれ測定されるダスト濃度W1,W2[%]並びのその比W1/W2、及び、第1及び第2の集塵手段26,36で集塵される微粉(ダスト)P2の量X1,X2[kg/s]並びにその合計量X(=X1+X2)[kg/s]を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2から分かるように、塩素バイパス系統が2系統である実施例1~4及び比較例2においては、塩素バイパス系統が1系統である比較例1と比べて、ダスト量Xが減少しており、塩素バイパス効率が向上していることが分かる。なお、セメントクリンカ原料が同量である場合、ダスト量Xの増加は、ダストにセメント成分などの塩素成分以外の成分が多く含まれており、除去効率が悪化することを意味する。
【0044】
さらに、ダスト濃度比W1/W2が1.0である実施例1はダスト量Xが2.9[kg/s]と最も小さく、ダスト濃度比W1/W2が1.4である実施例2,4はそれぞれダスト量Xが3.3,3.4[kg/s]と次に小さく、ダスト濃度比W1/W2が1.8である実施例3はダスト量Xが3.5[kg/s]と次に小さく、ダスト濃度比W1/W2が2.4である比較例2はダスト量Xが3.8[kg/s]であった。
【0045】
このように、ダスト濃度比W1/W2が1.0に近いほど、ダスト量Xが小さく、塩素バイパス効率が優れていることが分かる。ダスト濃度比W1/W2が2.4である比較例2においては、ダスト量Xが3.8[kg/s]であり、塩素バイパス系統が1系統である比較例1である場合と比べてダスト量Xが減少しているものの、その減少量は0.2[kg/s]と1割を超える減少率ではなく、塩素バイパス効率の向上は左程見られなかった。
【0046】
一方、ダスト濃度比W1/W2が1.8以下である実施例1~4においては、ダスト量Xが最大3.5[kg/s]であり、塩素バイパス系統が1系統である比較例1である場合と比べてダスト量Xが0.5[kg/s]以上と1割を超えて減少しており、塩素バイパス効率の向上が顕著に見られた。
【0047】
なお、実施例1は、第1及び第2の原料投入口12,13からの原料投入量G1,G2が同じであって、窯尻11内の原料に片寄りが生じておらず、かつ、第1及び第2の塩素バイパス系統20,30からの抽気率C1,C2及び抽気ガス速度S1,S2が同じであり、均等に抽気されている。このように、実施例1は理想的な条件であり、実際にこのような状態となることは稀である。
【符号の説明】
【0048】
10…セメントキルン、 11…窯尻、 12…第1の原料投入口、 13…第2の原料投入口、 20…第1の塩素バイパス系統、 21…第1の抽気プローブ、 22…第1の抽気ガス吸引手段、 23…第1の冷却手段、 24…第1の分級手段、 25…第1のダスト濃度測定手段、 26…第1の集塵手段、 27…第1の排気手段、 28…第1のキルン抽気ガス流路、 29…第1の冷却器、 30…第2の塩素バイパス系統、 31…第2の抽気プローブ、 32…第2の抽気ガス吸引手段、 33…第2の冷却手段、 34…第2の分級手段、 35…第2のダスト濃度測定手段、 36…第2の集塵手段、 37…第2の排気手段、 38…第2のキルン抽気ガス流路、 39…第2の冷却器、 100…塩素バイパスシステム, P1…粗粉、 P2…微粉。
図1
図2