IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-プラント環境の改善方法 図1
  • 特許-プラント環境の改善方法 図2
  • 特許-プラント環境の改善方法 図3
  • 特許-プラント環境の改善方法 図4
  • 特許-プラント環境の改善方法 図5
  • 特許-プラント環境の改善方法 図6
  • 特許-プラント環境の改善方法 図7
  • 特許-プラント環境の改善方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】プラント環境の改善方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/30 20060101AFI20240816BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G21F9/30 T
G21F9/30 535A
G21F9/28 501A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021062243
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022157806
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】南山 彰男
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-052244(JP,A)
【文献】特開2016-109574(JP,A)
【文献】特開2015-059765(JP,A)
【文献】特開2014-059159(JP,A)
【文献】東京電力株式会社,1~3号機 原子炉建屋1階 除染・遮へい作業の実施について(除染効果の検証を含む),2013年12月26日,https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/131226/131226_01qq.pdf,経済産業省 廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議(第1回) 資料4-6 燃料デブリ取り出し準備
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00-9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線によって汚染されたプラント環境の改善方法であって、
建屋内部で、高所から低所にかけて除染を行うステップと、
前記除染が完了した後に、環境の改善度を確認するステップと、
前記環境の改善度を確認した後に、前記建屋内部で低所から高所にかけてプラント機器を撤去するステップと、
を含み、
前記除染を行うステップでは、汚染物質を含む塵埃を蒸気の噴霧によって払拭した後、吸引し、
前記除染を行うステップでは、
配管、及びケーブルの表面に追従するように弾性変形可能なパッドと、
該パッドを介して前記蒸気を前記表面に噴霧する蒸気供給部と、
前記パッドに隣接して設けられ、払拭された前記塵埃を吸引する吸引部と、
を備える除去ツールを用いるプラント環境の改善方法。
【請求項2】
前記環境の改善度を確認するステップでは、前記建屋内部の放射線量を測定し、
前記放射線量が予め定められた閾値以下となった場合に前記プラント機器を撤去するステップを実行する請求項に記載のプラント環境の改善方法。
【請求項3】
前記プラント機器を撤去するステップでは、前記プラント機器である配管、及びケーブルを下方から支持しつつ、上方から前記配管、及びケーブルを切断する請求項1又は2に記載のプラント環境の改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラント環境の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントで有害事象が発生した場合、当該プラントを撤去する際には、放射線による各部の汚染に考慮して作業を行う必要がある。この種の作業に係る技術として、例えば下記特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に原子炉格納容器の構造物の撤去作業に関する技術が記載されている。この技術では、まず原子炉格納容器の構造物を細断し、細断片を収納容器に入れてプールに保管する。その後、遮蔽容器内に収納容器を密封する。これにより、作業員の被ばく量を低減できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-21689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有害事象が発生したプラントには原子炉格納容器以外にも汚染されている機器や設備が多数配置されている。これら機器や設備を安全に撤去する技術や方法に関しては従来検討されていなかった。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、安全に作業を進めることが可能なプラント環境の改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示に係るプラント環境の改善方法は、放射線によって汚染されたプラント環境の改善方法であって、建屋内部で、高所から低所にかけて除染を行うステップと、前記除染が完了した後に、環境の改善度を確認するステップと、前記環境の改善度を確認した後に、前記建屋内部で低所から高所にかけてプラント機器を撤去するステップと、を含み、前記除染を行うステップでは、汚染物質を含む塵埃を蒸気の噴霧によって払拭した後、吸引し、前記除染を行うステップでは、配管、及びケーブルの表面に追従するように弾性変形可能なパッドと、該パッドを介して前記蒸気を前記表面に噴霧する蒸気供給部と、前記パッドに隣接して設けられ、払拭された前記塵埃を吸引する吸引部と、を備える除去ツールを用いる。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、安全に作業を進めることが可能なプラント環境の改善方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態に係るプラント環境の改善方法の工程を示すフローチャートである。
図2】建屋内部の構成の一例を示す模式図である。
図3】本開示の実施形態に係る除染ツールの構成を示す平面図である。
図4】本開示の実施形態に係る除染ツールを配管の表面に追従させた状態を示す断面図である。
図5】本開示の実施形態に係る除染ツールをケーブルの表面に追従させた状態を示す断面図である。
図6】本開示の実施形態に係る切断ツールの構成を示す平面図である。
図7】本開示の実施形態に係る切断ツールの変形例を示す平面図である。
図8】本開示の実施形態に係る切断ツールによる配管の切断の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(プラント環境の改善方法と建屋の構成)
以下、本開示の第一実施形態に係るプラント環境の改善方法について、図1から図8を参照して説明する。この改善方法は、有害事象が発生した原子力発電プラントの撤去作業(廃炉作業)に特に好適に用いられる。
【0010】
図1に示すように、この改善方法は、建屋内部を除染するステップS1と、環境の改善度を確認するステップS2と、プラント機器を撤去するステップS3と、を含む。
【0011】
ここで、図2に示すように、本実施形態では建屋内部の壁面1を高さごとに3つの区画に分けて作業を行う。建屋内部は1フロアの高さが一例として8m程度である。床面を基準として0~2mの領域は「低所」とされる。2m~4mの領域は「中所」とされる。さらに、4m~8mの領域は「高所」とされる。それぞれの領域には、プラント機器としての配管、及びケーブル(干渉物2と呼ぶ。)が敷設されている。
【0012】
上記の除染を行うステップS1では、高所から低所にかけて順次除染を行う。この場合、全ての高所の作業を終えてから中所、低所の除染を行ってもよいし、ある一定のエリアのみを対象に高所から低所にかけて作業した後、他のエリアで再び高所から低所にかけて作業を行ってもよい。
【0013】
(除染ツールの構成)
ステップS1で除染を行う際は、図3から図5に示すような除染ツール80が好適に用いられる。この除染ツール80は、パッド10と、蒸気供給部11と、吸引部12と、吸引管13と、除染ツール本体部14と、を有している。パッド10は例えばスポンジやウレタンのように弾性変形可能な発泡樹脂で形成されている。パッド10を干渉物2に押し付けることで、当該パッド10の裏面10aを干渉物2の表面2aの凹凸に追従させることが可能とされている(図4、又は図5参照)。
【0014】
パッド10の裏面10aとは反対側には、蒸気供給部11が設けられている。蒸気供給部11は、外部から導かれた高温高圧の蒸気をパッド10に供給する。パッド10の内部の孔を通過した蒸気は、裏面10aから干渉物2に向かって噴霧される。噴霧された蒸気は、干渉物2に付着している放射性物質を含む塵埃を捕捉する。
【0015】
吸引部12、及び吸引管13は、パッド10に隣接して設けられている。吸引部12は、蒸気の噴霧によって払拭された塵埃を負圧によって吸い込む。吸引部12によって吸い込まれた塵埃は、外部に設けられたフィルター、及びストレーナーによって除去・蓄積される。除染ツール本体部14は、これらパッド10、及び吸引部12を一体に支持している。なお、この除染ツール80を使用する際には、図3中の矢印で示すように、干渉物2に沿わせた状態で、パッド10が前方に位置し、吸引部12が後方に位置するように除染ツール80を移動させる。これにより、前方のパッド10によって払拭された塵埃が、後方の吸引部12によって順次吸引される。
【0016】
また、上記の除染ツール80による除染作業は、遠隔操作が可能なロボットアームの先端に当該除染ツール80を取り付けた状態で遠隔地から行われることが望ましい。
【0017】
(環境の改善度の確認)
ステップS1の次に、環境の改善度を確認するステップS2を実行する。このステップS2では、除染後の建屋内部の放射線量を測定する。ステップS2で放射線量が予め定められた閾値以下であると認められた場合には、後続のステップS3を実行する。一方で、放射線量が閾値以上である場合には、ステップS1を再度実行することでさらなる除染を行う。
【0018】
(プラント機器の撤去)
ステップS3では、配管やケーブルを含む干渉物2を建屋内部から撤去する。干渉物2を撤去するに当たっては、ステップS1とは反対に、低所から高所にかけて順次作業を行う。この場合も、全ての低所の作業を終えてから中所、高所の撤去作業を行ってもよいし、ある一定のエリアのみを対象に低所から高所にかけて作業した後、他のエリアで再び低所から高所にかけて作業を行ってもよい。
【0019】
ステップS3では、図6図7に示す切断ツール90,90b、及び図8に示す支持装置100が好適に用いられる。切断ツール90は、電動機等を収容する切断ツール本体部20と、この切断ツール本体部20から突出する一対の切断部21、及び把持部22と、を有している。切断部21は例えばワイヤーソーやバンドソーであり、切断ツール本体部20内の回転軸を中心として干渉物2に交差する方向(一例として上下方向)に回動可能とされている。把持部22は、干渉物2を上下方向から把持することが可能である。一対の切断部21は把持部22を両側から挟むようにして配置されている。
【0020】
把持部22によって干渉物2を把持した状態で、一対の切断部21を回動させることにより、干渉物2の一部分が切断され、撤去される。
【0021】
なお、変形例として示す切断ツール90bのように、一対の把持部23が1つの切断部21を挟むように配置されている構成を採ることも可能である。この切断ツール90bは比較的に大径の配管を切断する際に好適に用いられる。また、このように大径の配管を切断する際には、切断時の反力に抗するために、図8に示すような支持装置100が用いられる。
【0022】
支持装置100は、床面上に固定された脚部30と、脚部30の上端に配置されたベース31と、このベース31から上方に向かって突出するとともに干渉物2を直径方向から挟み込むことが可能な支持部32と、を有している。この支持装置100によって干渉物2を下方から支持した状態で、上記の切断ツール90、又は切断ツール90bを用いて、図8中の破線で示す位置で切断作業を行う。これにより、干渉物2の一部分が撤去される。このような作業を連続的に繰り返すことによって干渉物2が撤去される。
【0023】
なお、上記の切断ツール90,90bによる撤去作業は、遠隔操作が可能なロボットアームの先端に当該切断ツール90,90bを取り付けた状態で遠隔地から行われることが望ましい(但し、切断ツールの剛性及び重量を考慮し、ロボットアームを介さない可能性もある)。一方で、低所に限っては作業者が直接的に撤去作業を行うことも可能である。
【0024】
(作用効果)
【0025】
上記方法によれば、まず高所から低所にかけて除染を行うことで、放射性物質を含む塵埃を低所に向かって予め払い落とした上で作業を進めることができる。これにより、周囲に飛散する塵埃の量を最小限に抑えることができる。さらに、その後、低所から高所にかけてプラント機器(干渉物2)を撤去することで、作業機器のアクセスのしやすさや作業の効率性を高めることができる。
【0026】
また、除染を行うステップS1では、汚染物質を含む塵埃を蒸気の噴霧によって払拭した後、吸引する。
【0027】
上記方法によれば、蒸気の噴霧によって塵埃が干渉物2の表面から浮き上がった状態で払拭・吸引される。このため、汚染物質を含む塵埃を周囲に飛散させることなく払拭・吸引することができる。
【0028】
さらに、上記の除染ツール80を用いることにより、配管、及びケーブルの表面にパッド10を追従させながら蒸気を噴霧することで、大きな面積を一度に除染することが可能となる。また、パッド10が干渉物2の凹凸に追従しやすいことから、塵埃が周囲に飛散する可能性をさらに低減することもできる。
【0029】
また、環境の改善度を確認するステップS2では、建屋内部の放射線量を測定し、放射線量が予め定められた閾値以下となった場合にプラント機器を撤去するステップS3を実行する。
【0030】
上記方法によれば、放射線量が十分に下がり、安全が確認された後にプラント機器を撤去する。これにより、作業の安全性・効率性をさらに高めることができる。
【0031】
加えて、プラント機器を撤去するステップS3では、プラント機器(干渉物2)である配管、及びケーブルを下方から支持しつつ、上方から配管、及びケーブルを切断する。
【0032】
上記方法によれば、配管、及びケーブルを下方から支持しつつ、上方から切断する。これにより、切断時の反力によって配管やケーブルが不安定な状態となることを回避することができる。その結果、作業の安全性・効率性をさらに高めることができる。
【0033】
以上、本開示の実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の方法や構成に種々の変更と改修を施すことが可能である。例えば、上記実施形態では、床面を基準として0~2mの領域は「低所」とし、2m~4mの領域は「中所」とし、4m~8mの領域は「高所」とした例について説明した。しかしながら、これら高さの分類や基準は一例であり、場所によっては低所と高所の2種類のみに分類してもよいし、高さによって4種類以上の分類を用いることも可能である。また、高さを示す各数値も一例であり、作業の効率性や安全性を考慮して適宜変更することが可能である。
【0034】
<付記>
各実施形態に記載のプラント環境の改善方法は、例えば以下のように把握される。
【0035】
(1)第1の態様に係るプラント環境の改善方法は、放射線によって汚染されたプラント環境の改善方法であって、建屋内部で、高所から低所にかけて除染を行うステップS1と、前記除染が完了した後に、環境の改善度を確認するステップS2と、前記環境の改善度を確認した後に、前記建屋内部で低所から高所にかけてプラント機器を撤去するステップS3と、を含む。
【0036】
上記方法によれば、まず高所から低所にかけて除染を行うことで、塵埃を低所に向かって予め払い落とした上で作業を進めることができる。さらに、その後、低所から高所にかけてプラント機器を撤去することで、作業機器のアクセスのしやすさや作業の効率性を高めることができる。
【0037】
(2)第2の態様に係るプラント環境の改善方法において、前記除染を行うステップS1では、汚染物質を含む塵埃を蒸気の噴霧によって払拭した後、吸引する。
【0038】
上記方法によれば、蒸気の噴霧によって、汚染物質を含む塵埃を周囲に飛散させることなく払拭・吸引することができる。
【0039】
(3)第3の態様に係るプラント環境の改善方法において、前記除染を行うステップS1では、配管、及びケーブルの表面に追従するように弾性変形可能なパッド10と、該パッド10を介して前記蒸気を前記表面に噴霧する蒸気供給部11と、前記パッド10に隣接して設けられ、払拭された前記塵埃を吸引する吸引部12と、を備える。
【0040】
上記方法によれば、配管、及びケーブルの表面にパッド10を追従させながら蒸気を噴霧することで、大きな面積を一度に除染することが可能となる。また、塵埃が周囲に飛散する可能性をさらに低減することもできる。
【0041】
(4)第4の態様に係るプラント環境の改善方法において、前記環境の改善度を確認するステップS2では、前記建屋内部の放射線量を測定し、前記放射線量が予め定められた閾値以下となった場合に前記プラント機器を撤去するステップS3を実行する。
【0042】
上記方法によれば、放射線量が十分に下がり、安全が確認された後にプラント機器を撤去する。これにより、作業の安全性・効率性をさらに高めることができる。
【0043】
(5)第5の態様に係るプラント環境の改善方法において、前記プラント機器を撤去するステップS3では、前記プラント機器である配管、及びケーブルを下方から支持しつつ、上方から前記配管、及びケーブルを切断する。
【0044】
上記方法によれば、配管、及びケーブルを下方から支持しつつ、上方から切断する。これにより、切断時の反力によって配管やケーブルが不安定な状態となることを回避することができる。その結果、作業の安全性・効率性をさらに高めることができる。
【符号の説明】
【0045】
1 壁面
2 干渉物
2a 表面(干渉物の表面)
10 パッド
10a 裏面(パッドの裏面)
11 蒸気供給部
12 吸引部
13 吸引管
14 除染ツール本体部
20 切断ツール本体部
21 切断部
22,23 把持部
30 脚部
31 ベース
32 支持部
80 除染ツール
90,90b 切断ツール
100 支持装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8