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  • 特許-半導体発光素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20240816BHJP
【FI】
H01L33/32
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021069026
(22)【出願日】2021-04-15
(65)【公開番号】P2022163904
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】稲津 哲彦
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-123969(JP,A)
【文献】特開2013-069900(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0194610(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/46
H01S 5/00- 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型コンタクト層と、
前記n型コンタクト層の第1上面に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成され、5nm以下の厚さを有するn側挿入層と、
前記n側挿入層上に設けられ、n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型クラッド層と、
前記n型クラッド層上に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成される井戸層および障壁層を含む活性層と、
前記活性層上に設けられ、p型AlGaN系半導体材料から構成されるp型クラッド層と、
前記p型クラッド層上に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成され、5nm以下の厚さを有するp側挿入層と、
前記p側挿入層上に設けられ、p型AlGaN系半導体材料から構成されるp型コンタクト層と、
前記n型コンタクト層の前記第1上面とは異なる第2上面に設けられるn側コンタクト電極と、
前記p型コンタクト層の上面に設けられるp型コンタクト電極と、を備え、
前記n側挿入層および前記p側挿入層のそれぞれのAlN組成は、前記障壁層のAlN組成よりも高い半導体発光素子。
【請求項2】
n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型コンタクト層と、
前記n型コンタクト層の第1上面に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成され、5nm以下の厚さを有するn側挿入層と、
前記n側挿入層上に設けられ、n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型クラッド層と、
前記n型クラッド層上に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成される井戸層および障壁層を含む活性層と、
前記活性層上に設けられ、p型AlGaN系半導体材料から構成されるp型クラッド層と、
前記p型クラッド層上に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成され、5nm以下の厚さを有するp側挿入層と、
前記p側挿入層上に設けられ、p型AlGaN系半導体材料から構成されるp型コンタクト層と、を備え、
前記n側挿入層および前記p側挿入層のそれぞれのAlN組成は、前記障壁層のAlN組成よりも高く、
前記活性層は、複数の井戸層および複数の障壁層が交互に積層された多重量子井戸構造を有し、
前記複数の井戸層のうち前記n型クラッド層に最も近い最初の井戸層から前記n側挿入層までの第1距離と、前記複数の井戸層のうち前記p型クラッド層に最も近い最後の井戸層から前記p側挿入層までの第2距離の差は、前記第1距離または前記第2距離の10%以下である半導体発光素子。
【請求項3】
前記第1距離および前記第2距離のそれぞれは、前記活性層の厚さよりも大きい、請求項2に記載の半導体発光素子。
【請求項4】
前記第1距離および前記第2距離のそれぞれは、100nm以下である、請求項2または3に記載の半導体発光素子。
【請求項5】
前記n側挿入層および前記p側挿入層の少なくとも一方は、アンドープである、請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【請求項6】
前記n側挿入層および前記p側挿入層の少なくとも一方は、AlNから構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子は、基板上に積層されるn型半導体層、発光層およびp型半導体層を有する。半導体発光素子の静電耐圧(ESD耐圧)を高めるため、n型半導体層と発光層の間に、n型不純物濃度の異なる層を積層させた第1のESD対策層と、アンドープ超格子構造を含む第2のESD対策層とを挿入した構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-183126号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1のESD対策層および第2のESD対策層を設けた場合、素子構造が複雑化し、結晶成長時間が長くなる。より簡易な構成によってESD耐圧を向上できることが好ましい。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、より簡易な構成によってESD耐圧を向上できる半導体発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の半導体発光素子は、n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型コンタクト層と、n型コンタクト層の第1上面に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成され、5nm以下の厚さを有するn側挿入層と、n側挿入層上に設けられ、n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型クラッド層と、n型クラッド層上に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成される井戸層および障壁層を含む活性層と、活性層上に設けられ、p型AlGaN系半導体材料から構成されるp型クラッド層と、p型クラッド層上に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成され、5nm以下の厚さを有するp側挿入層と、p側挿入層上に設けられ、p型AlGaN系半導体材料から構成されるp型コンタクト層と、を備える。n側挿入層およびp側挿入層のそれぞれのAlN組成は、障壁層のAlN組成よりも高い。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、より簡易な構成によって半導体発光素子のESD耐圧を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る半導体発光素子の構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、説明の理解を助けるため、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の発光素子の寸法比と一致しない。
【0010】
本実施の形態に係る半導体発光素子は、中心波長λが約360nm以下となる「深紫外光」を発するように構成され、いわゆるDUV-LED(Deep UltraViolet-Light Emitting Diode)チップである。このような波長の深紫外光を出力するため、バンドギャップが約3.4eV以上となる窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料が用いられる。本実施の形態では、特に、中心波長λが約240nm~320nmの深紫外光を発する場合について示す。
【0011】
本明細書において、「AlGaN系半導体材料」とは、少なくとも窒化アルミニウム(AlN)および窒化ガリウム(GaN)を含む半導体材料のことをいい、窒化インジウム(InN)などの他の材料を含有する半導体材料を含むものとする。したがって、本明細書にいう「AlGaN系半導体材料」は、例えば、In1-x-yAlGaN(0<x+y≦1、0<x<1、0<y<1)の組成によって表すことができ、AlGaNまたはInAlGaNを含む。
【0012】
図1は、実施の形態に係る半導体発光素子10の構成を概略的に示す断面図である。半導体発光素子10は、基板12と、ベース層14と、n型コンタクト層16と、n側挿入層18と、n型クラッド層20と、活性層22と、電子ブロック層24と、p型クラッド層26と、p側挿入層28と、p型コンタクト層30と、n側コンタクト電極32と、p側コンタクト電極34とを備える。
【0013】
図1において、矢印Aによって示される方向を「上下方向」または「厚み方向」ということがある。また、基板12から見て、基板12から離れる方向を上側、基板12に向かう方向を下側ということがある。
【0014】
基板12は、第1主面12aと、第1主面12aとは反対側の第2主面12bとを有する。第1主面12aは、ベース層14からp型コンタクト層30までの各層を成長させるための結晶成長面である。基板12は、半導体発光素子10が発する深紫外光に対して透光性を有する材料から構成され、例えば、サファイア(Al)から構成される。第2主面12bは、活性層22が発する深紫外光を外部に取り出すための光取り出し面である。基板12は、AlNから構成されてもよいし、AlGaNから構成されてもよい。
【0015】
ベース層14は、基板12の第1主面12aの上に設けられる。ベース層14は、n型コンタクト層16を形成するための下地層(テンプレート層)である。ベース層14は、アンドープのAlGaN系半導体材料から構成され、例えば、アンドープのAlN層と、AlN層上に設けられるアンドープのAlGaN層とを含む。基板12がAlN基板またはAlGaN基板である場合、ベース層14は、アンドープのAlGaN層のみで構成されてもよい。
【0016】
n型コンタクト層16は、ベース層14の上に設けられる。n型コンタクト層16は、n型のAlGaN系半導体材料から構成され、n型の不純物として例えばSiがドープされる。n型コンタクト層16は、例えば、AlN組成が25%以上、40%以上または50%以上となるn型AlGaNから構成される。n型コンタクト層16は、例えば、AlN組成が80%以下または70%以下となるn型AlGaNから構成される。n型コンタクト層16は、例えば、1μm以上3μm以下の厚さを有する。
【0017】
n側挿入層18は、n型コンタクト層16の第1上面16aに設けられる。n側挿入層18は、n型コンタクト層16とn型クラッド層20の間に設けられる。n側挿入層18は、アンドープまたはn型のAlGaN系半導体材料から構成される。n側挿入層18は、n型コンタクト層16およびn型クラッド層20のAlN組成よりも高いAlN組成を有する。n側挿入層18は、活性層22に含まれる障壁層38のAlN組成よりも高いAlN組成を有してもよい。n側挿入層18のAlN組成は、例えば80%以上または90%以上である。n側挿入層18は、AlNから構成されてもよい。n側挿入層18は、5nm以下の厚さを有し、例えば、1nm以上3nm以下の厚さを有する。
【0018】
n型クラッド層20は、n側挿入層18の上に設けられる。n型クラッド層20は、n型のAlGaN系半導体材料から構成され、n型の不純物として例えばSiがドープされる。n型クラッド層20は、n型コンタクト層16のAlN組成と同じか、n型コンタクト層16のAlN組成よりも高いAlN組成を有する。n型コンタクト層16のAlN組成は、25%以上、40%以上または50%以上である。n型コンタクト層16のAlN組成は、80%以下または70%以下である。n型クラッド層20は、50nm以上100nm以下の厚さを有する。n型クラッド層20の厚さは、活性層22の厚さより大きくてもよい。
【0019】
活性層22は、n型クラッド層20の上に設けられる。活性層22は、単層または多層の量子井戸構造を有し、アンドープのAlGaN系半導体材料から構成される井戸層36と、アンドープのAlGaN系半導体材料から構成される障壁層38とを含む。井戸層36は、n型クラッド層20およびp型クラッド層26のAlN組成よりも低いAlN組成を有する。障壁層38は、n型クラッド層20またはp型クラッド層26のAlN組成と同じか、n型クラッド層20およびp型クラッド層26のAlN組成よりも高いAlN組成を有する。
【0020】
活性層22は、複数の井戸層36および複数の障壁層38を含み、複数の井戸層36と複数の障壁層38が交互に積層された多重量子井戸構造を有する。図示する例において、活性層22は、四つの井戸層36および三つの障壁層38を含むが、井戸層36および障壁層38の層数は、図示する例に比べて多くてもよいし、少なくてもよい。複数の井戸層36は、n型クラッド層20に最も近い最初の井戸層36aと、p型クラッド層26に最も近い最後の井戸層36bとを有する。最初の井戸層36aは、n型クラッド層20と接触して設けられ、最後の井戸層36bは、電子ブロック層24と接触して設けられる。各障壁層38は、隣接する二つの井戸層36の間に設けられる。なお、最初の井戸層36aとn型クラッド層20の間に追加の障壁層38が設けられてもよい。また、最後の井戸層36bと電子ブロック層24の間に追加の障壁層38が設けられてもよい。
【0021】
各井戸層36は、1nm以上10nm以下の厚さを有し、例えば2nm以上5nm以下の厚さを有する。各障壁層38は、5nm以上30nm以下の厚さを有し、例えば10nm以上20nm以下の厚さを有する。活性層22の全体の厚さは、井戸層36および障壁層38の積層数にも依存するが、例えば20nm以上80nm以下であり、例えば30nm以上60nm以下である。
【0022】
電子ブロック層24は、活性層22の上に設けられる。電子ブロック層24は、アンドープまたはp型のAlGaN系半導体材料から構成される。電子ブロック層24は、障壁層38のAlN組成と同じか、障壁層38のAlN組成よりも高いAlN組成を有する。電子ブロック層24のAlN組成は、例えば80%以上または90%以上である。電子ブロック層24は、AlNから構成されてもよい。電子ブロック層24は、1nm以上10nm以下の厚さを有し、例えば2nm以上5nm以下の厚さを有する。
【0023】
p型クラッド層26は、電子ブロック層24の上に設けられる。p型クラッド層26は、p型のAlGaN系半導体材料から構成され、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされる。p型クラッド層26は、50nm以上100nm以下の厚さを有する。p型クラッド層26の厚さは、活性層22の厚さより大きくてもよい。
【0024】
p型クラッド層26は、第1p型クラッド層40および第2p型クラッド層42を有してもよい。第1p型クラッド層40は、電子ブロック層24に接触して設けられる。第2p型クラッド層42は、第1p型クラッド層40に接触して設けられ、第1p型クラッド層40とp側挿入層28の間に設けられる。
【0025】
第1p型クラッド層40は、n型クラッド層20のAlN組成と同じか、n型クラッド層20のAlN組成よりも高いAlN組成を有する。第1p型クラッド層40は、40%以上のAlN組成を有し、例えば70%以上または80%以上のAlN組成を有する。第1p型クラッド層40は、10nm以上100nm以下の厚さを有し、例えば15nm以上80nm以下の厚さを有する。第1p型クラッド層40の厚さは、第2p型クラッド層42の厚さより大きくてもよい。
【0026】
第2p型クラッド層42は、第1p型クラッド層40のAlN組成よりも低いAlN組成を有する。第2p型クラッド層42は、25%以上、40%以上または50%以上のAlN組成を有し、80%以下または70%以下のAlN組成を有する。第2p型クラッド層42のAlN組成は、n型コンタクト層16またはn型クラッド層20のAlN組成の±10%以内であってもよい。第2p型クラッド層42は、5nm以上50nm以下の厚さを有し、例えば10nm以上30nm以下の厚さを有する。
【0027】
p側挿入層28は、p型クラッド層26の上に設けられる。p側挿入層28は、p型クラッド層26とp型コンタクト層30の間に設けられる。p側挿入層28は、アンドープまたはp型のAlGaN系半導体材料から構成される。p側挿入層28は、p型クラッド層26およびp型コンタクト層30のAlN組成よりも高いAlN組成を有する。p側挿入層28は、障壁層38のAlN組成よりも高いAlN組成を有してもよい。p側挿入層28のAlN組成は、例えば80%以上または90%以上である。p側挿入層28は、AlNから構成されてもよい。p側挿入層28は、5nm以下の厚さを有し、例えば、1nm以上3nm以下の厚さを有する。p側挿入層28のAlN組成および厚さは、それぞれ、n側挿入層18のAlN組成および厚さと同じであってもよい。
【0028】
n側挿入層18およびp側挿入層28は、活性層22から見て上下対称となる位置に設けられてもよい。言い換えると、活性層22からn側挿入層18までの第1距離d1は、活性層22からp側挿入層28の第2距離d2と実質的に同じであってもよい。例えば、第1距離d1および第2距離d2の差は、第1距離d1または第2距離d2の10%以内であってもよい。例えば、第1距離d1が70nmであれば、第2距離d2は63nm以上77nm以下である。本実施の形態において、第1距離d1は、n型クラッド層20と最初の井戸層36aの界面からn型クラッド層20とn側挿入層18の界面までの距離であり、n型クラッド層20の厚さと一致する。また、第2距離d2は、電子ブロック層24と最後の井戸層36bの界面からp型クラッド層26とp側挿入層28の界面までの距離であり、電子ブロック層24とp型クラッド層26の厚さの合計と一致する。第1距離d1および第2距離d2は、活性層22の厚さよりも大きいことが好ましい。第1距離d1および第2距離d2は、100nm以下であることが好ましい。
【0029】
p型コンタクト層30は、p側挿入層28の上に設けられる。p型コンタクト層30は、p型のAlGaN系半導体材料から構成される。p型コンタクト層30は、p型クラッド層26のAlN組成よりも低いAlN組成を有する。p型コンタクト層30は、20%以下、10%以下または5%以下のAlN組成を有する。p型コンタクト層30は、AlN組成が0%であってもよく、p型GaNから構成されてもよい。p型コンタクト層30は、1nm以上30nm以下の厚さを有し、例えば5nm以上20nm以下の厚さを有する。
【0030】
n側コンタクト電極32は、n型コンタクト層16の第2上面16bに設けられる。n側コンタクト電極32は、n型コンタクト層16とオーミック接触する。n側コンタクト電極32は、例えば、n型コンタクト層16に接触するTi層と、Ti層上に設けられるAl層とを有する。n側コンタクト電極32は、Al層上に設けられるTi層、Ni層、Rh層、Au層などをさらに含んでもよい。
【0031】
p側コンタクト電極34は、p型コンタクト層30の上面30aに設けられる。p側コンタクト電極34は、p型コンタクト層30とオーミック接触する。p側コンタクト電極34は、例えば、p型クラッド層26に接触するRh層と、Rh層上に設けられるAl層とを有する。p側コンタクト電極34は、Al層上に設けられるTi層、Ni層、Rh層、Au層などをさらに含んでもよい。
【0032】
本実施の形態によれば、n側挿入層18およびp側挿入層28を設けることにより、半導体発光素子10のESD耐圧を向上できる。図1に示されるような水平型の素子構造の場合、n側コンタクト電極32およびp側コンタクト電極34の端部に電流および電界が集中しやすく、局所的に大きな電界が生じるためにESD破壊が発生しやすくなる。本実施の形態によれば、障壁層38のAlN組成よりも高いAlN組成を有するn側挿入層18およびp側挿入層28を設けることにより、高抵抗のn側挿入層18およびp側挿入層28において横方向に電流を拡散させることができ、活性層22における電流および電界の局所的な集中を緩和できる。その結果、n側挿入層18およびp側挿入層28が設けられない場合に比べて、半導体発光素子10のESD耐圧を向上できる。
【0033】
本実施の形態によれば、n側挿入層18およびp側挿入層28を設けることにより、活性層22における局所的な電流集中を緩和できるため、より大きな駆動電流を半導体発光素子10に与えることができる。その結果、半導体発光素子10の発光効率を高めることができる。
【0034】
本実施の形態によれば、活性層22からn側挿入層18までの第1距離d1と、活性層22からp側挿入層28までの第2距離d2とを実質的に同じにすることにより、活性層22の下部(n側)および上部(p側)における電流集中の緩和効果を均一化できる。例えば、最初の井戸層36aにおける横方向の電流密度分布と、最後の井戸層36bにおける横方向の電流密度分布を同等にすることができ、活性層22における局所的な電流集中をより好適に緩和できる。
【0035】
本実施の形態によれば、活性層22からn側挿入層18までの第1距離d1と、活性層22からp側挿入層28までの第2距離d2とを活性層22の厚さよりも大きくすることにより、活性層22における電流集中をより好適に緩和できる。仮に、第1距離d1および第2距離d2が活性層22の厚さよりも小さい場合、電流を横方向に拡散させるための距離を不十分となり、電流集中を緩和させる効果が低減しうる。
【0036】
本実施の形態によれば、活性層22からn側挿入層18までの第1距離d1と、活性層22からp側挿入層28までの第2距離d2とを100nm以下にすることにより、電流集中の緩和効果を確保しつつ、結晶成長時間が長くなることを防止できる。また、p型クラッド層26の厚みが大きくなることによる直列の抵抗成分の増加を抑制できるため、電流集中の緩和効果をより高めることができる。
【0037】
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上述の実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0038】
以下、本発明のいくつかの態様について説明する。
【0039】
本発明の第1の態様は、n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型コンタクト層と、前記n型コンタクト層の第1上面に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成され、5nm以下の厚さを有するn側挿入層と、前記n側挿入層上に設けられ、n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成される井戸層および障壁層を含む活性層と、前記活性層上に設けられ、p型AlGaN系半導体材料から構成されるp型クラッド層と、前記p型クラッド層上に設けられ、AlGaN系半導体材料から構成され、5nm以下の厚さを有するp側挿入層と、前記p側挿入層上に設けられ、p型AlGaN系半導体材料から構成されるp型コンタクト層と、を備え、前記n側挿入層および前記p側挿入層のそれぞれのAlN組成は、前記障壁層のAlN組成よりも高い半導体発光素子である。第1の態様によれば、障壁層のAlN組成よりも高いAlN組成を有するn側挿入層およびp側挿入層を設けるというシンプルな構造によって、半導体発光素子のESD耐性を向上できる。
【0040】
本発明の第2の態様は、前記活性層は、複数の井戸層および複数の障壁層が交互に積層された多重量子井戸構造を有し、前記複数の井戸層のうち前記n型クラッド層に最も近い最初の井戸層から前記n側挿入層までの第1距離と、前記複数の井戸層のうち前記p型クラッド層に最も近い最後の井戸層から前記p側挿入層までの第2距離の差は、前記第1距離または前記第2距離の10%以下である、第1の態様に記載の半導体発光素子である。第2の態様によれば、第1距離と第2距離の差を第1距離または第2距離の10%以内とし、第1距離と第2距離を実質的に同じにすることにより、最初の井戸層における電流集中の緩和効果と、最後の井戸層における電流集中の緩和効果とを同等にすることができ、活性層における局所的な電流集中を好適に抑制できる。
【0041】
本発明の第3の態様は、前記第1距離および前記第2距離のそれぞれは、前記活性層の厚さよりも大きい、第2の態様に記載の半導体発光素子である。第3の態様によれば、第1距離および第2距離のそれぞれを活性層の厚さよりも大きくすることにより、電流を横方向に拡散させるための距離を十分に確保でき、活性層における局所的な電流集中を好適に抑制できる。
【0042】
本発明の第4の態様は、前記第1距離および前記第2距離のそれぞれは、100nm以下である、第2または第3の態様に記載の半導体発光素子である。第4の態様によれば、電流集中の緩和効果を確保しつつ、結晶成長時間が長くなることを防止できる。
【0043】
本発明の第5の態様は、前記n側挿入層および前記p側挿入層の少なくとも一方は、アンドープである、第1から第4のいずれか一つの態様に記載の半導体発光素子である。第5の態様によれば、n側挿入層およびp側挿入層をアンドープにして高抵抗化することにより、電流集中の緩和効果を高めることができる。
【0044】
本発明の第6の態様は、前記n側挿入層および前記p側挿入層の少なくとも一方は、AlNから構成される、第1から第5のいずれか一つの態様に記載の半導体発光素子である。第6の態様によれば、n側挿入層およびp側挿入層をAlN層にして高抵抗化することにより、電流集中の緩和効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0045】
10…半導体発光素子、12…基板、14…ベース層、16…n型コンタクト層、16a…第1上面、16b…第2上面、18…n側挿入層、20…n型クラッド層、22…活性層、24…電子ブロック層、26…p型クラッド層、28…p側挿入層、30…p型コンタクト層、32…n側コンタクト電極、34…p側コンタクト電極、36…井戸層、38…障壁層、40…第1p型クラッド層、42…第2p型クラッド層。
図1