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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ガスエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 19/12 20060101AFI20240816BHJP
   F02B 19/18 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
F02B19/12 C
F02B19/12 A
F02B19/18
F02B19/18 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021100054
(22)【出願日】2021-06-16
(65)【公開番号】P2022191683
(43)【公開日】2022-12-28
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】古賀 智大
(72)【発明者】
【氏名】今森 祐介
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和郎
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-113256(JP,A)
【文献】特開2006-329092(JP,A)
【文献】特表2018-512710(JP,A)
【文献】特開2007-198244(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0028239(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00-23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
副室内で点火プラグによって混合気を燃焼させてトーチジェットとして主燃焼室に噴出させる副室式のガスエンジンであって、
前記主燃焼室と連通された第一副室を形成する第一副室形成部と、
前記第一副室と前記主燃焼室とを連通させる噴孔を形成する噴孔形成部と、
前記第一副室を挟んで前記噴孔の反対側に形成され、前記第一副室と連通された第二副室を形成する第二副室形成部と、
前記第一副室と前記第二副室とを連通させるスロートを形成するスロート形成部と、を備え、
前記スロート形成部は、前記点火プラグの点火部が前記スロートの延長上に位置しないスロート角度で前記スロートを形成している
スエンジン。
【請求項2】
前記スロート形成部は、
ピストンの圧縮行程で前記主燃焼室から前記第一副室へ流入して旋回流となる前記混合気の旋回する方向に沿うように前記スロートを形成している
請求項1に記載のガスエンジン。
【請求項3】
副室内で点火プラグによって混合気を燃焼させてトーチジェットとして主燃焼室に噴出させる副室式のガスエンジンであって、
前記主燃焼室と連通された第一副室を形成する第一副室形成部と、
前記第一副室と前記主燃焼室とを連通させる噴孔を形成する噴孔形成部と、
前記第一副室を挟んで前記噴孔の反対側に形成され、前記第一副室と連通された第二副室を形成する第二副室形成部と、
前記第一副室と前記第二副室とを連通させるスロートを形成するスロート形成部と、を備え、
前記スロート形成部は、
ピストンの圧縮行程で前記主燃焼室から前記第一副室へ流入して旋回流となる前記混合気の旋回する方向に沿うように前記スロートを形成している
ガスエンジン。
【請求項4】
前記第二副室形成部は、複数の前記第二副室を形成しており、
前記スロート形成部は、複数の前記第二副室をそれぞれ前記第一副室に連通させる複数の前記スロートを形成している
請求項1から3の何れか一項に記載のガスエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、ガスエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、天然ガスを燃料ガスとして運転するガスエンジンが記載されている。この特許文献1に記載されたガスエンジンは、シリンダヘッドに主燃焼室よりも容量の小さい副室を備えている。このようなガスエンジンの副室には、燃料ガスと空気とを混合した混合気が噴孔を介して主燃焼室より供給される。この混合気に点火すると、混合気が燃焼し、副室内部の圧力が上昇して、主燃焼室と副室との差圧により副室内部の高温ガスがトーチジェットとして主燃焼室に噴出される。そして、このトーチジェットにより主燃焼室内の混合ガスが燃焼して、ガスエンジンの燃焼運転が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-66369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているようなガスエンジンにおいては、トーチジェットの噴出力が大きいほど主燃焼室内に多くの火種ができることになる。そして、このようなトーチジェットの噴出力増大により、燃焼期間短縮による効率向上や主燃焼室の着火安定化による燃焼変動低減が期待されている。
例えば、トーチジェットを強化するには副室内部のエネルギーを増やしたり、副室内部の圧力上昇率を大きくしたりする必要がある。しかし、単純に副室容積を増加させるだけでは、火炎伝播中に副室内部の未燃ガスが主燃焼室に押し出され、副室内部のエネルギーを有効活用できずにトーチジェットの噴出力が狙いよりも大きくならないという課題がある。
この開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、副室内部のエネルギーを有効活用してトーチジェットの噴出力を増大させることが可能なガスエンジンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために以下の構成を採用する。
この開示の第一態様によれば、ガスエンジンは、副室内で点火プラグによって混合気を燃焼させてトーチジェットとして主燃焼室に噴出させる副室式のガスエンジンであって、前記主燃焼室と連通された第一副室を形成する第一副室形成部と、前記第一副室と前記主燃焼室とを連通させる噴孔を形成する噴孔形成部と、前記第一副室を挟んで前記噴孔の反対側に形成され、前記第一副室と連通された第二副室を形成する第二副室形成部と、前記第一副室と前記第二副室とを連通させるスロートを形成するスロート形成部と、を備える。前記スロート形成部は、前記点火プラグの点火部が前記スロートの延長上に位置しないスロート角度で前記スロートを形成している。
【発明の効果】
【0006】
上記ガスエンジンによれば、副室内部のエネルギーを有効活用してトーチジェットの噴出力を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】この実施形態のガスエンジンの概略構成を示す断面図である。
図2】この実施形態に係るガスエンジンの副室周りの構成を示すシリンダー中心軸に沿う断面図である。
図3】この開示の第二実施形態の副室形成部におけるシリンダー中心軸と垂直な断面図である。
図4】この開示の第二実施形態の変形例における図3に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<第一実施形態>
次に、この開示の第一実施形態におけるガスエンジンを図面に基づき説明する。
図1は、この実施形態のガスエンジンの概略構成を示す断面図である。
図1に示すように、ガスエンジン10は、副室式ガスエンジンであって、シリンダブロック20と、シリンダヘッド30と、副室形成部40と、を少なくとも備えている。
【0009】
シリンダブロック20には、円筒状のシリンダー21が形成されている。シリンダー21内には、シリンダー21の中心軸Cに沿って直線往復動可能に、ピストン22が収納されている。ピストン22は、コンロッド23を介して、クランクケース(図示せず)内に収容されたクランクシャフト24に連結されている。コンロッド23の一端部は、ピン25を介してピストン22に回動自在に連結されている。コンロッド23の他端部は、クランクシャフト24に回動自在に連結されている。これにより、ピストン22がシリンダー21内で中心軸Cに沿った方向に直線運動すると、このピストン22の運動がコンロッド23によってクランクシャフト24の回転運動に変換される。
【0010】
シリンダヘッド30は、シリンダブロック20のうちシリンダー21が開口した端面20aに連結され、シリンダー21の開口を閉塞している。シリンダヘッド30のうちシリンダブロック20側を向く面には、シリンダー21に対向する領域に、シリンダー21の中心軸Cに直交する平坦状、あるいは半球面状、湾曲面状をなすルーフ面31が形成されている。上記のシリンダブロック20とシリンダヘッド30とピストン22によって主燃焼室33が画成されている。
【0011】
シリンダヘッド30には、吸気ポート34、排気ポート35が形成されている。吸気ポート34の一方の端部34a、および、排気ポート35の一方の端部35aは、ルーフ面31に開口して主燃焼室33に臨むように位置している。主燃焼室33とは反対側の吸気ポート34の端部(図示せず)には、混合ガス供給源(図示せず)が接続されている。つまり、吸気ポート34には、混合ガス供給源から空気と燃焼ガスとの混合ガスGが供給可能となっている。吸気ポート34には、その主燃焼室33側の端部34aに、吸気弁36が設けられている。吸気弁36は、弁駆動機構(図示せず)により閉位置から開位置に変位可能とされており、混合ガス供給源から供給された混合ガスGは、吸気弁36が開位置のときに、吸気ポート34から主燃焼室33へと流入する。
【0012】
排気ポート35のうち主燃焼室33とは反対側の端部(図示せず)には、排気ガス流路(図示せず)が接続されている。排気ポート35には、その主燃焼室33側の端部35aに、排気弁37が設けられている。排気弁37は、弁駆動機構(図示せず)により閉位置から開位置に変位可能とされており、主燃焼室33内の排気ガスは、排気弁37が開位置の時に、主燃焼室33から排気ポート35へと排出される。
【0013】
図2は、この実施形態に係るガスエンジンの副室周りの構成を示すシリンダー中心軸に沿う断面図である。
図1図2に示すように、この実施形態における副室形成部40は、シリンダヘッド30に設けられている。この副室形成部40は、シリンダヘッド30に固定されている。副室形成部40は、第一副室形成部41と、噴孔形成部42と、第二副室形成部43と、スロート形成部44と、を備えている。この実施形態における副室形成部40には、更に、点火プラグ45が固定される点火プラグ固定部46が設けられている。以下の説明においては、シリンダー21の中心軸Cの延びる方向を軸線方向Daと称し、第一副室51の位置を基準に主燃焼室33側を軸線方向第一側Da1、その反対側を軸線方向第二側Da2と称する。また、軸線方向Daと垂直な方向をルーフ面方向Dhと称し、その中心軸Cに近い側をルーフ面方向内側Dhi、その反対側をルーフ面方向外側Dhoと称する。
【0014】
第一副室形成部41は、主燃焼室33と連通された第一副室51を形成している。第一副室51は、シリンダヘッド30のルーフ面31の中心から主燃焼室33側に突出するように設けられている。第一副室形成部41は、第一副室51を画成する第一面部52と第一周面部53と第二面部54とをそれぞれ備えている。
【0015】
第一面部52は、軸線方向第二側Da2に位置してルーフ面方向Dhに広がるように形成されている。第一周面部53は、第一面部52の外縁から軸線方向第一側Da1に向かって延びている。第二面部54は、第一周面部53の軸線方向第一側Da1を塞ぐように形成され、ルーフ面31よりも主燃焼室33側に位置している。第一面部52には、点火プラグ45の点火部45sを挿通するための貫通孔46hの開口が形成されている。点火プラグ45の点火部45sは、この貫通孔46hを通じて、第一副室51の軸線方向第二側Da2に配置されている。
【0016】
噴孔形成部42は、第一副室51と主燃焼室33とを連通させる噴孔56を形成している。噴孔56は、複数設けられている。これら噴孔56は、それぞれ軸線方向第一側Da1に向かうほどルーフ面方向外側Dhoに向かうように傾斜している。この実施形態において例示する噴孔56は、孔径が一定に形成されている。また、この実施形態における噴孔56は、第一副室形成部41の第一周面部53と第二面部54との交わるコーナー部55から主燃焼室33に向けて延びている。
【0017】
第二副室形成部43は、第一副室51と連通された第二副室57を形成している。この第二副室57は、第一副室51を挟んで噴孔56の反対側、すなわち第一副室51よりも軸線方向第二側Da2に配置されている。この実施形態における第二副室57の容積は、第一副室51の容積よりも小さく形成されている。そして、この第二副室57は、点火プラグ45よりもルーフ面方向外側Dhoに形成されている。
【0018】
この実施形態における第二副室57の軸線方向Daの寸法は、第一副室51の軸線方向Daの寸法よりも小さく、第二副室57のルーフ面方向Dhの寸法は、第一副室51のルーフ面方向Dhの寸法よりも小さい。また、この実施形態における第二副室57は、略立方体状に形成され、そのアスペクト比が1:1又は1:1に近い値となっている。
【0019】
この実施形態における第二副室57は、軸線方向第一側Da1においてルーフ面方向Dhに広がる第三面部61と、ルーフ面方向Dhにおける第三面部61の縁部から軸線方向第二側Da2に向かって延びる第二周面部62と、第二周面部62の軸線方向第二側Da2の縁部に接続されてルーフ面方向Dhに広がる第四面部63とを備えている。なお、後述する旋回流を円滑に生じさせるために、第二副室57には、第一副室51とは反対側すなわち軸線方向第二側Da2に配置された第四面部63に凹状の曲面63aを設けてもよい。
【0020】
スロート形成部44は、第一副室51と第二副室57とを連通させるスロート65を形成している。スロート65は、混合ガスGや燃焼したガスが通る流路であり、この実施形態におけるスロート65は、一定の孔径を有している。また、この実施形態におけるスロート65は、第一副室51を画成する第一面部52から第二副室57を画成する軸線方向第一側Da1の面である第三面部61に渡るように形成されている。
【0021】
より具体的には、スロート65の軸線方向第一側Da1の第一端部65aは、第一面部52のうち、ルーフ面方向Dhにおいて点火プラグ45の電極よりも第一周面部53に近い位置の第一面部52に接続されている。さらに、スロート65の軸線方向第二側Da2の第二端部65bは、第二副室57の第三面部61のうち、ルーフ面方向Dhにおける第三面部61の中央部よりも第二周面部62に近い位置の第三面部61に接続されている。第三面部61におけるスロート65の開口面積は、少なくとも第三面部61の表面積の半分よりも小さく設定されている。
【0022】
この実施形態におけるスロート65は、第一副室51から第二副室57へ向かうほど、ルーフ面方向外側Dhoに向かうように傾斜している。
また、スロート形成部44は、スロート65の延長上に点火プラグ45の電極が位置しないスロート角度でスロート65を形成している。例えば、第二副室57から第一副室51へスロート65を介して燃焼ガスが流れ込む際に、この燃焼ガスが直接電極に衝突しないようになっている。また、この実施形態におけるスロート65の流路断面積は、噴孔56の流路断面積と同等とされている。
【0023】
<作用効果>
上述した第一実施形態のガスエンジン10は、主燃焼室33と連通された第一副室51を形成する第一副室形成部41と、第一副室51と主燃焼室33とを連通させる噴孔56を形成する噴孔形成部42と、第一副室51を挟んで噴孔56の反対側に形成され、第一副室51と連通された第二副室57を形成する第二副室形成部43と、第一副室51と第二副室57とを連通させるスロート65を形成するスロート形成部44と、を備えている。
そのため、ピストン22の圧縮行程では、主燃焼室33の混合ガスGが噴孔56を介して主燃焼室33から第一副室51へ流入する。さらに、第一副室51へ流入した混合ガスGの一部は、スロート65を介して第二副室57へ流入する。このスロート65を介して第二副室57へ流入した混合ガスGは、第二副室57内で、軸線方向第二側Da2においてルーフ面方向外側Dhoからルーフ面方向内側Dhiに向かう旋回流となる。そして、点火プラグ45により第一副室51の混合ガスGに点火されると、その火炎がスロート65を介して第二副室57に伝播する。第二副室57内の混合ガスGは旋回流となっているため、混合ガスGが旋回流でない場合と比較して混合ガスGの燃焼速度が増加する。さらに、第二副室57における燃焼速度が増加していることで、第二副室57内部の圧力上昇率dp/dtも大きくなるので、この第二副室57とスロート65で連通された第一副室51内の圧力上昇率dp/dtをも大きくすることができる。そして、第一副室51と主燃焼室33との差圧により、第一副室51内部の高温ガスをトーチジェットとして主燃焼室33に噴出させることができる。また、第二副室57が第一副室51を挟んで主燃焼室33とは反対側に配置されるため、第二副室57における未燃ガスが主燃焼室33へ流出することを抑制できる。したがって、副室内部のエネルギーを有効活用して、トーチジェットの噴出力を増大させることができる。さらに、トーチジェットの噴出力を増大できるため、ガスエンジン10の効率向上及び燃焼変動低減することが可能となる。
【0024】
上述した第一実施形態のガスエンジン10におけるスロート形成部44は、更に、スロート65の延長上に点火プラグ45の点火部45sが配置されないスロート角度でスロート65を形成している。
このように構成することで、スロート65を介して第二副室57から第一副室51へ流入する高温ガスが、点火部45sに接触することを抑制できる。したがって、点火部45sへの入熱を低減して、点火プラグ45の寿命を延ばすことができる。
【0025】
<第二実施形態>
次に、この開示の第二実施形態におけるガスエンジンを図面に基づき説明する。この第二実施形態のガスエンジンは、上述した第一実施形態のガスエンジン10と、副室形成部が形成する噴孔及び、スロートの構成のみ異なる。したがって、第一実施形態と同一部分に同一符号を付して説明するとともに、重複する説明を省略する。なお、ガスエンジンの全体構成については、図1を援用して説明する。
【0026】
図3は、この開示の第二実施形態の副室形成部におけるシリンダー中心軸と垂直な断面図である。
図3に示すように、この第二実施形態における副室形成部140は、上述した第一実施形態の副室形成部40と同様に、第一副室形成部41と、噴孔形成部42と、第二副室形成部43と、スロート形成部44と、を備えている。
【0027】
図1図3に示すように、第一副室形成部41は、第一実施形態と同様に、主燃焼室33と連通された第一副室51を形成している。第一副室51は、シリンダヘッド30のルーフ面31の中心から主燃焼室33内に突出するように設けられ、第一副室51を画成する第一面部52と第一周面部53と第二面部54とをそれぞれ備えている。第一周面部53は、軸線方向Daから見て円形をなしている。第一面部52には、点火プラグ45の点火部45sを挿通するための貫通孔46hが形成されている。第一副室51内の軸線方向第二側Da2には、点火プラグ45の点火部45sが配置されている。
【0028】
噴孔形成部42は、第一副室51と主燃焼室33とを連通させる噴孔56を形成している。噴孔56は、複数設けられている。この第二実施形態における複数の噴孔56は、それぞれ第一周面部53の中心軸(中心軸Cと等しい)を基準として回転対称に形成されている。この第二実施形態では、四つの噴孔56が設けられており、これら四つの噴孔56が第一周面部53の中心軸Cを中心とした周方向Dcに等間隔で設けられている。これら噴孔56は、第一実施形態の噴孔56と同様に、軸線方向第一側Da1に向かうほどルーフ面方向外側Dhoに向かうように傾斜している。第二実施形態における噴孔56も、一定の孔径で形成され、第一副室形成部41の第一周面部53と第二面部54との交わるコーナー部から主燃焼室33に向けて延びている。
【0029】
そして、噴孔56は、軸線方向Daから見た(図3参照)噴孔56の延長上に第一周面部53の中心軸が配置されないような角度で形成されている。言い換えれば、例えば、複数の噴孔56のうち、一つの噴孔56Aを一例として説明すると、図3に示す軸線方向Daから見た噴孔56の延びる方向D56Aと垂直な方向Dvにおける噴孔56Aの位置は、方向Dvにおける第一周面部53の中心軸Cと第一周面部53の端部53tとの間になっている。さらに、この第二実施形態における噴孔56Aは、軸線方向Daから見て噴孔56Aの延びる方向D56Aと垂直な方向Dvにおいて、第一周面部53の中心軸Cと、第一周面部53の端部53tとの間のうち、第一周面部53の端部53tに近い側に位置している。
【0030】
上記のような複数の噴孔56を設けることで、ピストン22の圧縮行程で主燃焼室33から第一副室51へ流入した混合ガスGは、それぞれ中心軸Cを中心として、図3に矢印で示す同一方向に旋回することとなる。したがって、第一副室51内に効率よく旋回流を形成することが可能となる。なお、四つの噴孔56が設けられる場合を例示したが、噴孔56は、一つだけ設けたり、五つ以上設けたりしてもよい。
【0031】
第二副室形成部43は、第一実施形態と同様に、第一副室51と連通された第二副室57を形成している。この第二副室57は、第一実施形態の第二副室57と同様の構成であり、第三面部61、第四面部63、及び、第二周面部62により画成され、第一副室51を挟んで噴孔56の反対側、すなわち第一副室51よりも軸線方向第二側Da2に配置されている。
【0032】
スロート形成部44は、第一副室51と第二副室57とを連通させるスロート65を形成している。スロート65は、混合ガスGや燃焼したガスが通る流路であり、この第二実施形態におけるスロート65も第一実施形態と同様に、一定の孔径で形成され、第一副室51を画成する第一面部52から第二副室57を画成する軸線方向第一側Da1の面である第三面部61に渡るように形成されている。
【0033】
スロート65は、第一副室51から第二副室57へ向かうほど、ルーフ面方向外側Dhoに向かうように傾斜している。また、スロート形成部44は、第一実施形態のスロート形成部44と同様に、スロート65の延長上に点火プラグ45の電極が位置しないスロート角度でスロート65を形成している。また、この実施形態におけるスロート65の流路断面積は、噴孔56の流路断面積と同等とされている。
【0034】
第二実施形態におけるスロート形成部44は、ピストン22の圧縮行程で主燃焼室33から第一副室51へ流入した際に旋回流となる混合気の旋回方向に沿うようにスロート65を形成している。言い換えれば、図3に示すように軸線方向Daから見た場合に、第一副室51側のスロート65の開口は、第一副室51内の旋回流の流れ方向の上流側を向くように配置されている。
【0035】
<作用効果>
上述した第二実施形態のガスエンジン10によれば、ピストン22の圧縮行程で主燃焼室33から第一副室51へ流入して旋回流となる混合気の旋回する方向に沿うようにスロート65を形成していることで、第一副室51内の旋回流をスロート65に円滑に流入させることができる。そのため、ピストン22の圧縮行程におけるスロート65内部の流れに起因する第二副室57内部の旋回流を強化し第二副室57内部の燃焼促進効果を向上させることができる。したがって、トーチジェットの噴出力を更に増加させることが可能となる。
【0036】
さらに、吸排気行程においては、第二副室57からスロート65を介して第一副室51に流入した既燃ガスが旋回流となり、この旋回流の旋回方向に沿う噴孔56から主燃焼室33に既燃ガスを効率よく排出させることができる。その結果、第二副室57の既燃ガスを効率よく排気ポートから排出させることができる。
【0037】
この開示は上述した各実施形態の構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
例えば、上述した各実施形態では、第一副室51内に主燃焼室33から混合ガスGを流入させるいわゆるパッシブ式の副室ガスエンジンを一例にして説明したが、第一副室51内に直接的に燃料ガスを噴射可能なアクティブ式の副室ガスエンジンであってもよい。
【0038】
また、上述した第二実施形態では、第二副室57及びスロート65を一つずつ設ける場合について説明した。しかし、第二副室57及びスロート65は、図4に示す変形例の副室形成部240のように、回転対称となるように複数設けてもよい。このようにすることで、複数の第二副室57により、副室全体の容積を更に増大させることができるとともに、複数の第二副室57においてそれぞれ旋回流により燃焼速度を高めることができるため、副室内のエネルギー増やしつつ、この増やしたエネルギーを有効活用することができる。したがって、トーチジェットの噴出力を更に増大させることができる。
【0039】
さらに、第二実施形態では、軸線方向Daから見て噴孔56を周方向Dcで等間隔に配置して噴孔56を回転対称に設ける場合について説明したが、噴孔56の配置は、等間隔や回転対称に限られない。
【0040】
また、第二実施形態では、一つの第二副室57に対して一つのスロート65を設ける場合について説明したが、一つの第二副室57に対して二つ以上のスロート65を設けるようにしてもよい。
さらに、第二副室57の形状及び配置は、上記各実施形態の形状に限られない。第二副室57の形状は、その内部に旋回流を生じさせることが可能な形状であれば良く、例えば、円柱状、球状、円環状等、種々の形状としてもよい。
【0041】
<付記>
実施形態に記載のガスエンジンは、例えば以下のように把握される。
【0042】
(1)第1の態様に係るガスエンジン10は、副室内で点火プラグ45によって混合気を燃焼させてトーチジェットとして主燃焼室33に噴出させる副室式のガスエンジン10であって、前記主燃焼室33と連通された第一副室51を形成する第一副室形成部41と、前記第一副室51と前記主燃焼室33とを連通させる噴孔56を形成する噴孔形成部42と、前記第一副室51を挟んで前記噴孔56の反対側に形成され、前記第一副室51と連通された第二副室57を形成する第二副室形成部43と、前記第一副室51と前記第二副室57とを連通させるスロート65を形成するスロート形成部44と、を備える。
【0043】
このように構成することで、ピストン22の圧縮行程では、主燃焼室33の混合ガスGが噴孔56を介して主燃焼室33から第一副室51へ流入する。さらに、第一副室51へ流入した混合ガスGの一部は、スロート65を介して第二副室57へ流入する。このスロート65を介して第二副室57へ流入した混合ガスGは、第二副室57内で旋回流となる。そして、点火プラグ45により第一副室51の混合ガスGに点火されると、その火炎がスロート65を介して第二副室57に伝播する。第二副室57内の混合ガスGは旋回流となっているため、旋回流でない場合と比較して混合ガスGの燃焼速度が増加する。また、第二副室57における燃焼速度が増加していることで、第二副室57内部の圧力上昇率dp/dtも大きくなるので、この第二副室57とスロート65で連通された第一副室51内の圧力上昇率dp/dtをも大きくすることができる。そして、第一副室51と主燃焼室33との差圧により、第一副室51内部の高温ガスをトーチジェットとして主燃焼室33に噴出させることができる。また、第二副室57が第一副室51を挟んで主燃焼室33とは反対側に配置されるため、第二副室57における未燃ガスが主燃焼室33へ流出することを抑制できる。したがって、副室内部のエネルギーを有効活用して、トーチジェットの噴出力を増大させることができる。さらに、トーチジェットの噴出力を増大できるため、ガスエンジン10の効率向上及び燃焼変動低減することが可能となる。
【0044】
(2)第2の態様に係るガスエンジン10は、(1)のガスエンジン10であって、スロート形成部44が、前記点火プラグ45の点火部が前記スロート65の延長上に位置しないスロート角度で前記スロート65を形成している。
このように構成することで、スロート65を介して第二副室57から第一副室51へ流入する高温ガスが、点火部に接触することを抑制できる。したがって、点火部への入熱を低減して、点火プラグ45の寿命を延ばすことができる。
【0045】
(3)第3の態様に係るガスエンジン10は、(1)又は(2)のガスエンジン10であって、前記スロート形成部44は、ピストン22の圧縮行程で前記主燃焼室33から前記第一副室51へ流入して旋回流となる前記混合気の旋回する方向に沿うように前記スロート65を形成している。
このように構成することで、ピストン22の圧縮行程で主燃焼室33から第一副室51へ流入して旋回流となる混合気の旋回する方向に沿うようにスロート65を形成していることで、圧縮行程におけるスロート65内部の流れに起因する第二副室57内部の旋回流を強化し第二副室57内部の燃焼促進効果を向上させることができる。したがって、トーチジェットの噴出力を更に増加させることが可能となる。
【0046】
さらに、吸排気行程においては、第二副室57からスロート65を介して第一副室51に流入した既燃ガスが旋回流となり、この旋回流の旋回方向に沿う噴孔56から主燃焼室33に既燃ガスを効率よく排出させることができる。その結果、第二副室57の既燃ガスを効率よく排気ポートから排出させることができる。
【0047】
(4)第4の態様に係るガスエンジン10は、(1)から(3)の何れか一つのガスエンジン10であって、前記第二副室形成部43は、複数の前記第二副室57を形成しており、前記スロート形成部44は、複数の前記第二副室57をそれぞれ前記第一副室51に連通させる複数の前記スロート65を形成している。
このように構成することで、複数の第二副室57により、副室全体の容積を更に増大させることができるとともに、複数の第二副室57においてそれぞれ旋回流により燃焼速度を高めることができるため、副室内のエネルギー増やしつつ、この増やしたエネルギーを有効活用することができる。したがって、トーチジェットの噴出力を更に増大させることができる。
【符号の説明】
【0048】
10…ガスエンジン 20…シリンダブロック 20a…端面 22…ピストン 23…コンロッド 24…クランクシャフト 30…シリンダヘッド 31…ルーフ面 33…主燃焼室 34…吸気ポート 34a…端部 35…排気ポート 35a…端部 36…吸気弁 37…排気弁 40,140,240…副室形成部 41…第一副室形成部 42…噴孔形成部 43…第二副室形成部 44…スロート形成部 45…点火プラグ 45s…点火部 46…点火プラグ固定部 51…第一副室 52…第一面部 53…第一周面部 54…第二面部 55…コーナー部 56…噴孔 57…第二副室 61…第三面部 62…第二周面部 63…第四面部 65…スロート C…中心軸 G…混合ガス
図1
図2
図3
図4