(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】光信号を補正するための方法およびデバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1459 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
A61B5/1459
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021126566
(22)【出願日】2021-08-02
(62)【分割の表示】P 2018239322の分割
【原出願日】2014-03-06
【審査請求日】2021-09-01
(32)【優先日】2013-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515247783
【氏名又は名称】プロフサ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】キンツ,グレゴリー,ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】マクミラン,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ウィスニーウスキー,ナタリー
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0028806(US,A1)
【文献】特開2007-044512(JP,A)
【文献】特表2007-537805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/145-5/1495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物体の皮膚上に配置された光学デバイスの第1発光ダイオード(LED)から励起波長範囲で第1生成光を送ることであって、前記第1生成光は、哺乳動物体の組織を介して前記組織内に埋め込まれた埋め込み片に送られ、前記埋め込み片は、励起波長範囲の光を吸収することに応答して発光波長範囲で分析物依存光信号を発光するように構成される、送ることと、
前記哺乳動物体の皮膚上に配置された前記光学デバイスの少なくとも1つの検出器を用い、前記組織を通して送られる前記第1生成光に応答して、前記発光波長範囲で前記組織内に埋め込まれた前記埋め込み片から発光される第1光信号を受信することと、
前記哺乳動物体の皮膚上に配置された前記光学デバイスのプロセッサを用い、前記第1光信号に基づく分析物の濃度を示す初期値を計算することと、
前記哺乳動物体の皮膚上に配置された前記光学デバイスから前記組織内に、前記発光波長範囲で光を発光するように予め構成された第2LEDから第2生成光を送ることと、
前記少なくとも1つの検出器を用い、前記第2生成光に応答して、前記発光波長範囲で前記組織から発光される第2光信号を受信することと、
前記プロセッサを用い、第2光信号に基づき且つ前記発光波長範囲の背景値を示す補正係数を計算することと、
前記プロセッサを用い、前記分析物の濃度を示す初期値に前記補正係数を適用することにより、前記分析物の濃度を計算することと、
を含む方法。
【請求項2】
前記第2光信号は、前記埋め込み片が埋め込まれる深さに実質的に等しい前記組織内の深さまで延びる光路を進む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記埋め込み片が埋め込まれる深さが、皮膚表面下1~5mmの範囲である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2光信号は、前記埋め込み片が埋め込まれる深さよりも大きい前記組織内の深さまで延びる光路を進む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記補正係数は、第1補正係数であり、前記第1生成光、前記埋め込み片、及び前記第1光信号は、第1光路の少なくとも一部を集合的に画定し、
前記方法は、
前記励起波長範囲にある第3生成光を、前記光学デバイスから前記組織に送ることと、
前記少なくとも1つの検出器を用い、前記第3生成光に応答して、前記発光波長範囲で前記組織から発光される第3光信号を受信することと、
前記プロセッサを用い、前記第3光信号に基づいて、前記組織の自己蛍光に関連する第2補正係数を計算することであって、前記第3生成光、及び、前記第3光信号は、第2光路の少なくとも一部を集合的に画定し、且つ、前記第1光路の対応する部分から横方向に離間した前記第2光路の少なくとも一部を画定し、前記分析物の濃度は、第1補正係数及び第2補正係数前記分析物の濃度を示す初期値に適用することによって計算される、計算することと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記埋め込み片は皮下組織に埋め込まれており、
前記第2生成光は、皮膚の表面下2mm以上前記組織の深さまで延びる光路を進む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
第1光路が前記埋め込み片と交差するように、且つ、第1光源及び少なくとも1つの検出器が集合的に構成されるように、前記第1LEDを前記哺乳動物体の皮膚上に配置することであって、前記第1LEDが前記埋め込み片の上方に配されるように、第2LEDが前記第1LEDから離間し、前記第1LEDが前記埋め込み片上に配置されたときに、前記埋め込み片が、前記第1生成光の量に対してより少ない量の前記第2生成光によって照明されるように、配置すること、を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記埋め込み片は、前記組織内の第1深さに埋め込まれ、前記第2光信号は、前記組織内の第2深さまで延びる第1光路を進み、前記補正係数は、第1補正係数であり、
前記方法は、
前記第1深さ及び前記第2深さとは異なる前記組織内の第3深さまで延びる第2光路を第3生成光が進むように、前記光学デバイスから前記第3生成光を組織内に送ることと、
前記少なくとも1つの検出器を用い、第3生成光に応答して、前記組織から発光される第3光信号を受信することと、
前記プロセッサを用い、前記第2光路に関連する第2補正係数を、前記第3光信号に基づいて計算することであって、前記分析物の濃度は、前記分析物の濃度を示す初期値に、前記第1補正係数及び前記第2補正係数を適用することにより計算される、計算することと、
更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記補正係数は、第1補正係数であり、
前記方法は;
前記少なくとも1つの検出器を用い、前記埋め込み片から発光される分析物非依存光信号を受信すること;
前記プロセッサを用い、前記埋め込み片から発光された分析物非依存光信号に基づいて、第2補正係数を計算することであって、前記分析物の濃度は、前記分析物の濃度を示す初期値に、前記第1補正係数及び前記第2補正係数を適用することにより計算される、計算することと、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記励起波長範囲は、第1励起波長範囲であり、前記発光波長範囲は、第1発光波長範
囲であり、前記埋め込み片は、第2励起波長範囲の励起信号を受信することに応答して、
第2発光波長範囲を有する信号を発光するように構成され、前記初期値は、第1初期値で
あり、前記補正係数は、第1補正係数であり、
前記方法は、
前記第2励起波長範囲の光を、前記組織を介して前記埋め込み片へ送るように予め構成された光学デバイスの第3LEDから第3生成光を送ることと、
少なくとも1つの検出器を用い、前記第3生成光に応答して、前記第2発光波長範囲で前記組織内に埋め込まれた前記埋め込み片から発光された第3光信号を受信することと、
前記プロセッサを用い、前記第3光信号に基づいて、前記第3生成光による前記埋め込み片の励起を示す第2初期値を計算することと、
第4生成光を、前記光学デバイスの第4LEDから前記組織内に送ることであって、第4LEDは、前記第2発光波長範囲の光を発光するように予め構成されている、送ることと、
前記少なくとも1つの検出器を用い、前記第4生成光に応答して、前記組織から発光される第4光信号を受信することと、
前記プロセッサを用い、前記分析物の濃度を、前記第1初期値、前記第2初期値、前記第1補正係数、及び、前記第4光信号に基づく第2補正係数に基づいて計算することと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの検出器は、第1検出器であり、
前記補正係数は、第1補正係数であり、
前記方法は、
第3生成光を、前記光学デバイスの第3LEDから前記組織内に送ることであって、前記第3LEDは、前記励起波長範囲で光を発光するように予め構成されている、送ることと、
第2検出器を用い、前記第3生成光に応答して、前記励起波長範囲で前記組織から発光された第3光信号を受信することであって、前記第3LED及び前記第2検出器は、前記第1LEDが前記第1生成光を前記埋め込み片に送るときに、前記第3LEDが前記埋め込み片から離間され、且つ、前記第3光信号が前記埋め込み片に送られないように、前記光学デバイスのハウジング内で、前記第1LED及び前記第1検出器から離間される、受信することと、
前記プロセッサを用い、前記第3光信号に基づく第2補正係数であって、前記組織の自己蛍光に関連する第2補正係数、並びに、第1補正係数及び前記第2補正係数を前記分析物の濃度を示す前記初期値に適用することによって計算される前記分析物の濃度を計算することと、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記励起波長範囲及び前記発光波長範囲は、互いに排他的である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記励起波長範囲は、600~650nmであり、
前記発光波長範囲は、670~750nmである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
哺乳動物体の組織を介して光学デバイスのケース内に配置された第1光源からの第1生成光を、組織内に埋め込まれた埋め込み片に送ることであって、前記第1光源は、励起波長範囲で第1生成光を発光するように予め構成されており、前記埋め込み片は、前記励起波長範囲で光を吸収し、前記励起波長範囲で光を吸収することに応答して発光波長範囲で分析物依存光信号を発光するように構成されている、送ることと、
前記光学デバイスのケース内に配置された少なくとも1つの検出器を用い、前記第1生成光に応答して、前記組織内に埋め込まれた前記埋め込み片から、前記発光波長範囲で発光された第1光信号を測定し、分析物の濃度を示す値を生成することと、
前記励起波長範囲の第2生成光を、第2光源から前記組織に送ることと、
前記第2生成光に応答して、前記発光波長範囲で前記組織から発光された第2光信号を測定し、組織自己蛍光を示す値を生成し、前記第2光信号が前記埋め込み片からの顕著な影響を含まないように、前記第1光源が前記第1生成光を前記埋め込み片に送るときに、
前記埋め込み片から横方向に離間する光路を、前記第2光信号が進むように、前記第2光源は、前記ケース内で前記第1光源から離間されることと、
組織自己蛍光を示す前記値を用いて補正係数を計算することと、
前記分析物の濃度を示す前記値に前記補正係数を適用することにより前記分析物の濃度を計算することと、
を含む
方法であって、
前記光路は、第1光路であり、
前記方法は、
前記発光波長範囲の光を発光するように予め構成された第3光源から、前記組織内に第3生成光を送ることと、
前記少なくとも1つの検出器を用いて、前記第3生成光に応答して、前記組織から発光され、前記組織内の拡散反射率に関連する値を生成する前記発光波長範囲の第3光信号を測定することであって、前記第3光源は、前記第3生成光、及び、第2光路からの前記第3光信号が、前記埋め込み片から横方向に離間するように、且つ、前記第1生成光を前記埋め込み片に送る際に、前記第1生成光と前記第3光信号が、前記第3光信号が前記埋め込み片からの顕著な影響を含まないように、前記第1光源から離間され、前記補正係数は、前記第3光信号に関連する前記値を用いて計算される、測定することと、
を更に含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
[0001] 本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2013年3月14日出願の米国仮特許出願第61/785,087号(発明の名称「光信号を補正するための方法およびデバイス」の)利益を主張する、2014年3月6日出願の米国分割特許出願第14/199,497号(発明の名称「光信号を補正するための方法およびデバイスの」)利益を主張する。
【0002】
[0002] 本発明は、埋め込み片を監視するための方法およびデバイス、特に、埋め込み片から放出されるルミネッセンス信号を補正するための方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
[0003] 特定の個人において、グルコース、乳酸塩、または酸素などの分析物の濃度を監視することは、その人の健康にとって重要である。グルコースや他の分析物の濃度が高い、または低いことは、有害な影響を及ぼしたり、特定の健康状態を示したりする場合がある。グルコースの監視は、糖尿病を患う人々にとって特に重要であり、そのような人々の一部は、個々の体内のグルコース値を下げるためにいつインシュリンが必要であるか、または個々の体内のグルコース値を上げるために追加のグルコースがいつ必要になるかを判断しなくてはならない。
【0004】
[0004] 多くの糖尿病患者によって、自身の血糖値を監視するために使用されてきた従来の技術は、定期的に血液を採取すること、その血液を試験紙に塗布すること、および、熱量検出、電気化学的検出、または光度検出を使用して血糖値を特定することを含む。この技術では、体内のグルコース値を連続的または自動的に監視することはできず、通常は定期的に手動で実行されなくてはならない。残念ながら、グルコース値チェックの一貫性は、個人間で大きなばらつきがある。糖尿病を患う多くの人々は、定期的な検査を不便に感じ、グルコース値の検査を忘れてしまったり、適切な検査を行う時間が無かったりする場合がある。さらに、一部の人々は、検査に付随する痛みを避けようとする。グルコースを監視しなければ、結果的に、高血糖症または低血糖症の発症につながるおそれがある。個人の分析物濃度を監視する埋め込みセンサがあれば、個々の体内のグルコースや他の分析物の濃度はより簡単に監視できるようになる。
【0005】
[0005] 血流内または様々な組織の組織液内の分析物(例えば、グルコース)を監視するために、多様なデバイスが開発されてきた。これらデバイスの多くは、患者の血管内または皮下に挿入されるセンサを使用する。皮膚状態(例えば、血中濃度および水和)の動的変化に起因する高散乱の存在下では蛍光レベルが低いため、これらの埋め込みセンサでは光学的な読み取りまたは監視を行うことが難しいことが多い。皮膚は、散乱性が高く、この散乱は、光の伝播を抑制し得る。散乱は、組織内の屈折率の変化によって引き起こされ、皮膚内の散乱の主要成分は、脂質、コラーゲン、および他の生物学的成分によるものである。主要な吸収は、血液、メラニン、水分、および他の成分によって生じる。
【0006】
[0006] Yuによる米国特許出願公開公報第20090221891号において開示されるデバイスは、グルコースを分析するための構成要素を含む。センサが生体内に埋め込まれると、外部の光学素子により光信号が経皮で読み取られる。蛍光計は、ドナー発色団およびアクセプタ発色団について、励起光強度、周辺光強度、および、発光と周辺光との組み合わせ強度を、別々に測定する。測定は、蛍光計を皮膚の近くに、かつセンサと整列させて保持することによって行われる。最終的に得られる出力は、2つの蛍光体からのルミネッセンス強度を正規化した比率であり、この比率が、較正データを使用して分析物濃度に変換され得る。較正曲線は、グルコース濃度に対する応答を測定することによって経験的に確立される。このデバイスはいくらかの光信号補正を行うものの、埋め込み片から放出される光の光学的散乱および吸収を引き起こす動的な皮膚変化により、正確な読み取り値を得ることは依然として困難である。
【0007】
[0007] Merrittによる米国特許出願公開公報第20110028806号は、血糖値を測定するための別の手順およびシステムを開示している。一組のフォトダイオードは、1つ以上の発光体(LEDなど)から患者の皮膚内へと放出される光エネルギのルミネッセンスおよび反射率を検出する。グルコースに結合する低分子代謝物レポータ(SMMRs:Small Molecule Metabolite Reporters)は、角質層および表皮の組織に導入され、より容易に検出されるルミネッセンスを提供する。試験結果は、励起波長で得られた反射率強度の測定値を使用して較正される。さらに、この方法は、第2のルミネッセンスおよび反射率強度を測定して、第1組の測定値からデータを正規化することを含む。第1のルミネッセンスおよび反射率強度測定は、SMMRで処理された部位で行われる。第2のルミネッセンスおよび反射率強度は、未処理の背景部位で行われる。その後、背景測定値を利用して、波長の正規化により、背景組織のルミネッセンスおよび吸収が補正される。この方法は、背景のルミネッセンスおよび反射率について、光信号をいくらか補正するものの、表皮内のグルコースに結合した分子から正確で、かつ/または一貫した読み取り値を得るのは依然として困難な場合がある。
【0008】
[0008] 患者の動作および行動を実質的に制限することなく、埋め込みセンサを正確かつ一貫して監視し、分析機に信号を提供することが可能な小型デバイスに対する需要が依然として存在する。分析物を連続的および/または自動的に監視することで、その分析物の濃度が閾値濃度に達した時、あるいは閾値濃度に近づいた時に、患者に警告を発することができる。例えば、グルコースが分析物の場合、監視デバイスは、高血糖または低血糖が現在起こっていること、または起こりつつあることを患者に警告するように構成することができる。それにより、患者が適切な処置を取ることができる。
【発明の概要】
【0009】
[0009] 一態様では、埋め込み片から放出される少なくとも1つの分析物依存光信号を補正するための方法が提供される。埋め込み片は、典型的には、哺乳動物体内の組織に埋め込まれる。埋め込み片は、励起波長範囲の励起光に応答して、発光波長範囲の分析物依存光信号を放出することができる。この方法は、励起波長範囲の第1励起光を、組織を介して埋め込み片へと透過させることと、第1励起光に応答して、発光波長範囲で組織から放出される第1光信号を測定することを含む。方法は、また、発光波長範囲内の第2励起光を組織内へと透過させることと、第2励起光に応答して、発光波長範囲で組織から放出される第2光信号を測定することを含む。測定された信号に従って、少なくとも1つの補正信号値が計算される。
【0010】
[0010] 別の態様では、哺乳動物体内の組織内に埋め込まれた埋め込み片を監視するための光学検出デバイスが提供される。埋め込み片は、励起波長範囲の励起光に応答して、発光波長範囲の少なくとも1つの分析物依存光信号を放出することができる。このデバイスは、励起波長範囲の第1励起光を、組織を介して前記埋め込み片へと透過させるように構成された第1光源を備える。第2光源は、発光波長範囲内の第2励起光を前記組織内へと透過させるように構成される。少なくとも1つの検出器は、第1励起光に応答して、発光波長範囲で組織から放出される第1光信号を測定するように構成され、第2励起光に応答して、発光波長範囲で組織から放出される第2光信号を測定するように構成される。
【0011】
[0011] 別の態様では、哺乳動物体内の組織内に埋め込まれた埋め込み片から放出される少なくとも1つの分析物依存光信号を補正するための方法が提供される。埋め込み片は、励起波長範囲の励起光に応答して、発光波長範囲の分析物依存光信号を放出することができる。この方法は、励起波長範囲の第1励起光を、前記組織を介して前記埋め込み片へと透過させることと、第1励起光に応答して、発光波長範囲で組織から放出される第1光信号を測定することと、を含む。この方法は、励起波長範囲の第2励起光を前記組織内へと透過させることと、第2励起光に応答して、発光波長範囲で組織から放出される第2光信号を測定することと、を含む。第2励起光および該第2励起光に応答して放出された光は、埋め込み片レポータ(例えば、ルミネッセンス、バイオルミネッセンス、リン光)からの顕著な影響を避けるのに十分な距離だけ埋め込み片から水平方向に間隔を空けた光路を形成する。測定された光信号に従って、少なくとも1つの補正信号値が計算される。
【0012】
[0012] 別の態様では、哺乳動物体内の組織内に埋め込まれた埋め込み片を監視するための光学検出デバイスが提供される。埋め込み片は、励起波長範囲の励起光に応答して、発光波長範囲の少なくとも1つの分析物依存光信号を放出することができる。このデバイスは、励起波長範囲の第1励起光を、組織を介して前記埋め込み片へと透過させるように構成された第1光源を備える。第1検出器は、第1励起光に応答して、発光波長範囲で組織から放出される第1光信号を測定するように構成される。た第2光源は、励起波長範囲の第2励起光を組織内へと透過させるように構成される。第2検出器は、第2励起光に応答して、発光波長範囲で前記組織から放出される第2光信号を測定するように構成される。第2光源および第2検出器は、第2励起光と、第2励起光に応答して放出される光とが、埋め込み片レポータからの顕著な影響を避けるのに十分な距離だけ埋め込み片から水平方向に間隔を空けた光路を形成するように、互いに対して位置決めされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
[0013] 本発明の上述した態様および効果は、以下の詳細な説明を読み、図面を参照することにより、より深く理解されるであろう。
【0014】
【
図1】[0014]
図1は、本発明の一実施形態に係る埋め込み片を監視するための光学検出デバイスの概略的な側面図を示す。
【
図2】[0015]
図2は、本発明の別の実施形態に係る埋め込み片を監視するための光学検出デバイスの概略的な側面図を示す。
【
図3】[0016]
図3は、本発明の別の実施形態に係る光学検出デバイスの態様の概略的な側面図を示す。
【
図4】[0017]
図4は、本発明の別の実施形態に係る光学検出デバイスの概略的な平面図を示す。
【
図5】[0018]
図5は、
図4のデバイスの概略的な断面図を示す。
【
図6】[0019]
図6は、本発明のいくつかの実施形態に係る光学検出デバイスの概略的な側面図を示す。
【
図7】[0020]
図7は、本発明のいくつかの実施形態に係る光学検出デバイスの概略的な平面図を示す。
【
図8】[0021]
図8は、
図7のデバイスの概略的な断面図を示す。
【
図9】[0022]
図9は、本発明のいくつかの実施形態に係る光学検出デバイスの概略的な平面図を示す。
【
図11】[0024]
図11は、本発明のいくつかの実施形態に係る光学検出デバイスの概略的な平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[0026] 以下の説明において記載される構造物間の接続は、全て、直接的な動作接続または中間構造物を介した間接的な動作接続であり得ることを理解されたい。一組の要素には、1つ以上の要素が含まれる。ある要素が記載される場合、少なくとも1つの要素に言及するものであると理解される。複数の要素には、少なくとも2つの要素が含まれる。特段の要件がない限り、記載される方法の工程は、必ずしも図示された特定の順序で実行される必要はない。第2要素から導出される第1要素(例えば、データ)は、第2要素に等しい第1要素、ならびに、第2要素および任意の他のデータを処理することによって生成される第1要素を包含する。あるパラメータに従って判断または決定を下すことは、そのパラメータと、任意の他のデータとに従って判断または決定を下すことを包含する。特段の特定がなされない限り、何らかの数量/データの指標は、その数量/データ自体である場合もあり、あるいは、その数量/データ自体とは異なる指標である場合もある。本発明のいくつかの実施形態において記載されるコンピュータプログラムは、スタンドアロン型のプログラムエンティティ、または他のコンピュータプログラムの下位エンティティ(例えば、サブルーチン、コードオブジェクトなど)であり得る。コンピュータ可読媒体は、磁気記憶媒体、光記憶媒体、および半導体記憶媒体(例えば、ハードドライブ、光ディスク、フラッシュメモリ、DRAM)などの非一時的な記憶媒体や、導電性ケーブルや光ファイバーリンクなどの通信リンクを包含する。いくつかの実施形態において、本発明は、とりわけ、本明細書に記載された方法を実行するようにプログラムされたハードウェア(例えば、1つ以上のプロセッサおよび関連メモリ)や、本明細書に記載の方法を実行するための命令をコード化したコンピュータ可読媒体を備えるコンピュータシステムを提供する。
【0016】
[0027] 以下の記載は、限定ではなく例示を目的として本発明の実施形態を説明するものである。
【0017】
[0028]
図1は、本発明の第1実施形態に係る埋め込みセンサまたは埋め込み片12を監視するための光学検出デバイス10の概略的な側面図を示す。埋め込み片12は、哺乳動物体内の組織(実施形態によって、体の他の部分に付着した組織の一部の場合もあれば、または付着していない組織の一部の場合もある)に埋め込まれる。埋め込み片12は、通常、皮膚表面14の下に埋め込まれる。埋め込み片12は、皮膚表面14から第1の深さに埋め込まれる。この第1の深さは、埋め込み片を皮下組織内に位置決めするのに十分な深さ(例えば、皮膚表面14下1~5mmの範囲内)であることが好ましい。いくつかの実施形態では、埋め込み片12は、皮膚表面14下2mm以上の深さにある組織内に埋め込まれ、他の実施形態では、埋め込み片12は、皮膚表面下4mm以上の深さにある組織内に埋め込まれる。
【0018】
[0029] 埋め込み片12は、励起波長範囲の励起光に応答して、発光波長範囲の少なくとも1つの分析物依存光信号を放出することができる。分析物には、例えば、個体体内のグルコースまたは他の分析物が含まれ得る。適切な光信号としては、ルミネッセンス信号、バイオルミネッセンス信号、リン光信号、オートルミネッセンス信号、および拡散反射率信号が挙げられるが、これらに限定されない。好適な実施形態では、埋め込み片12は、個体の体内の対象分析物の量または存在に応じてルミネッセンス発光強度が変化する1つ以上の発光染料を含む。
【0019】
[0030] 第1光源16は、皮膚表面14から埋め込み片12へと励起波長範囲の第1励起光を透過させるように構成される。第2光源18は、皮膚表面14から組織15内へと第2励起光を透過させるように構成される。第2励起光は、分析物依存ルミネッセンス信号の発光波長範囲(例えば、発光ピーク)の光であることが好ましい。適切な光源には、レーザ、半導体レーザ、発光ダイオード(LED)、有機LEDが含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
[0031] 少なくとも1つの検出器、より好ましくは、少なくとも2つの検出器20、22が、光源16、18と共に配置される。第1検出器20は、第1光源16からの第1励起光に応答して、発光波長範囲で皮膚表面14において放出された第1光信号(例えば、光の強度)を測定するように位置決めされる。検出器20は、第2励起光に応答して、発光波長範囲で皮膚表面14を介して組織15から放出された第2光信号を測定するように位置決めされる。適切な検出器には、フォトダイオードまたはCCDが含まれるが、これらに限定されない。実施形態によっては、複数の検出器が望ましいが、単一の共通検出器を使用してもよい。検出器20、22は、それぞれの波長範囲で放出される光信号を測定するようにフィルタ処理されてもよい(例えば、ダイクロイックフィルタまたは他の適切なフィルタ)。本例において、グルコース濃度に対して高感度を示す適切な発光染料として、約600~650nmの範囲(吸収ピーク:647nm)内の励起光(吸収)に応答性があり、かつ、発光波長範囲が約670~750nm(発光ピーク:約680nm)であるAlexa647がある。
【0021】
[0032] デバイス10の動作において、埋め込み片12から放出された分析物依存ルミネッセンス信号は、拡散反射率および/または自己蛍光について補正される。光源16は、作動すると、励起波長範囲の第1励起光を皮膚表面14から埋め込み片12へと透過させる。第1検出器20は、光源16から埋め込み片12を通って第1検出器20までの第1光路24により示されるように、第1励起光に応答して、発光波長範囲で皮膚表面14において組織15から放出される第1光信号を測定する。光路24は、一次の分析物依存光信号を提供する。第2光源18は、作動すると、皮膚表面14から、皮膚表面14より下方の組織15内の第2の深さまで第2励起光を透過させる。第2励起光は、実質的に分析物依存ルミネッセンス信号の発光波長範囲(例えば、発光ピーク)内の光である。第1検出器20は、第2光路26によって示されるように、第2励起光に応答して、発光波長範囲で皮膚表面14を介して組織15から放出される第2光信号を測定する。
【0022】
[0033] 第2光信号は、一次分析物依存光信号を、組織15内の拡散反射率および光の散乱について補正するための参照信号として使用することができる。いくつかの実施形態において、光路26が達する皮膚表面14下の第2の深さは、埋め込み片12が埋め込まれる第1の深さ(例えば、皮膚表面14下1~5mmの深さにある皮下組織内)と実質的に等しい場合がある。いくつかの実施形態では、第2光信号の光路26は、皮膚表面14下2mm以上の深さまで達し、他の実施形態では、第2光信号の光路26は、皮膚表面下4mm以上の深さまで達する。
【0023】
[0034] 任意で、第1光源16を作動させて、励起波長範囲の第3励起光を皮膚表面14から組織15内の第3の深さまで透過させることにより、追加の補正係数を得てもよい。いくつかの実施形態において、第3の深さは、第1および第2の深さとは異なってもよく、第3の深さは、皮膚表面14下1~5mmの範囲内であり得る。第2検出器22は、第3光路28によって示されるように、第3励起光に応答して、励起波長範囲で皮膚表面14を介して組織15から放出された第3光信号を測定する。少なくとも1つの補正信号値は、測定された光信号に従って計算される。一例において、埋め込み片からの一次分析物依存信号は、以下のように補正され得る。
[0035] 補正信号=S(LS1,D1)*C(LS2,D1)*C(LS1,D2) (1)
【0024】
[0036] 上記式(1)において、S(LS1,D1)の項は、第1光源16から埋め込み片12を経て第1検出器20までの第1光路24から測定される一次分析物依存光信号である第1光信号を表す。C(LS2,D1)の項は、第2光源18から第1検出器20までの第2光路26から測定された補正係数信号である第2光信号を表す。C(LS1,D2)の項は、第1光源16から第2検出器22までの第3光路28からから測定された追加の補正係数信号である任意の第3光信号を表す。
【0025】
[0037] したがって、埋め込み片12から放出された一次分析物依存光信号は、組織15内の信号の光散乱または光吸収を考慮して、この分析物依存光信号の発光波長範囲内の拡散反射率または散乱について補正され得る。任意で、分析物依存光信号は、皮膚特性の動的な変化を考慮して、励起波長範囲内の散乱、反射率または減衰について補正されてもよい。1つ以上の参照信号により分析物依存信号を補正する利点の1つとして、皮下組織領域など、組織内の比較的深くに位置する埋め込み片から放出された光の測定値から正確かつ/または一貫したグルコース値を特定することができる点が挙げられる。埋め込み片12から放出された光は、この埋め込み片と皮膚表面14との間の組織15によって強力に変調され得る。本発明の実施形態は、必要に応じて、励起光および背景光または周辺光に対する補正に加えて、組織15から放出された光の変調を補正する手段を提供する。
【0026】
[0038] 別の利点として、(拡散反射率、自己蛍光、および/または背景光などの)補正係数に使用される複数の参照光信号は、埋め込み片12が埋め込まれた組織15内の同一領域において、数秒以内の時間間隔で測定されるため、体内の領域によって変化し得る動的な皮膚特性または組織特性は、測定時の一次分析物依存信号に対する複数の補正信号間で実質的に同一である。分析物依存信号、拡散反射率補正信号および/または自己蛍光補正信号の光学的な読み取りを実行する前に、背景光または周辺光を考慮に入れて暗黒読み取りを行い、この読み取り値を使用して、例えば、背景減算法により、信号をさらに補正してもよい。補正係数用の光学的な読み取りは、背景減算、自己蛍光補正、拡散反射率補正の順序で行われることが好ましいが、特定の順序である必要はない。
【0027】
[0039] いくつかの実施形態において、分析物濃度(例えば、グルコース値)は、補正信号値から特定される。好ましくは、ルックアップテーブルまたは較正曲線を使用して、補正信号値に従って分析物濃度を決定する。ルックアップテーブルまたは較正曲線は、光学素子に付属のマイクロプロセッサ内に存在し得る。いくつかの実施形態において、マイクロプロセッサは、測定された信号値を記憶し、かつ/または、補正信号値を計算するようにプログラムされる。あるいは、これらの機能は、光学デバイスと通信する別個のプロセッサまたは外部のコンピュータによって実行されてもよい。外部のプロセッサまたはコンピュータは、測定された光信号を示すデータを受信し、補正信号値および分析物濃度を計算する。あるいは、1つ以上の外部のプロセッサもしくはコンピュータと(無線または有線で)通信する1つ以上のプロセッサを光学デバイス内に設けるなど、複数のプロセッサを設けてもよい。
【0028】
[0040]
図2は、埋め込み片12を監視するための光学検出デバイス30の別の実施形態を示す。本実施形態では、埋め込み片12は、さらに、(第1発光波長範囲と共通、または部分的に共通であり得る)第2励起波長範囲の励起光に応答して、第2発光波長範囲の少なくとも1つの分析物非依存光信号を放出することができる。埋め込み片12は、レポータ染料(例えば、光退色またはpH)に対する分析物以外の物理的または化学的影響を制御する機能を有する分析物非依存発光染料を含むことが好ましい。複数の染料が使用され得る。分析物非依存光信号は、組織15内に存在する分析物によって変調されず、正規化、オフセット補正、または内部較正用のデータを提供する。分析物非依存信号は、分析物以外の、化学的または生物学的(例えば、酸素、pH、酸化還元条件)または光学的(例えば、水、光吸収/散乱化合物、ヘモグロビン)影響を補償し得る。あるいは、分析物非依存信号は、埋め込み片12内の安定参照染料によって提供されてもよい。適切な安定参照材料には、ランタニドがドープされた結晶、ランタニドがドープされたナノ粒子、量子ドット、キレートランタニド染料、および金属(例えば、金または銀)ナノ粒子が含まれるが、これらに限定されない。安定参照染料は、他の信号用の(例えば、光退色を特定するための)参照信号を提供し得る。
【0029】
[0041]第2実施形態は、デバイス30が、皮膚表面14を介して組織15内へと励起光を透過させるための第3光源40を備える点で、上述した第1実施形態とは異なる。デバイス30の動作において、埋め込み片12から放出された分析物依存ルミネッセンス信号は、3つの参照信号を使用して補正される。第1光源32は、作動すると、第1励起波長範囲の励起光を皮膚表面14から組織15を介して埋め込み片12へと透過させる。第1検出器34は、第1光源32から埋め込み片12を経て第1検出器34までの第1光路42によって示されるように、第1励起光に応答して、第1発光波長範囲で皮膚表面14において組織15から放出される第1光信号を測定する。この第1光信号は、一次分析物依存光信号である。
【0030】
[0042] 第2光源38は、作動すると、皮膚表面14から組織15内の第2の深さまで第2励起光を透過させる。第2励起光は、一次分析物依存光信号の第1発光波長範囲(例えば、発光ピーク)の光であることが好ましい。第1検出器34は、第2光路44によって示されるように、第2励起光に応答して、発光波長範囲で皮膚表面14において組織15から放出される第2光信号を測定する。第2光信号を使用して、埋め込み片12と皮膚表面14との間の組織15内の拡散反射率または光の散乱を補正することができる。いくつかの実施形態において、第2光路44の深さは、埋め込み片12が埋め込まれる第1の深さ(好ましくは、皮膚表面14下1~5mmの皮下組織内)に実質的に等しくてよい。いくつかの実施形態において、第2光信号の光路44は、皮膚表面14下2mm以上の深さまで達し、別の実施形態では、第2光信号の光路44は皮膚表面下4mm以上の深さまで達する。
【0031】
[0043] 次に、光源38は、作動すると、第2励起波長範囲の第3励起光を皮膚表面14から埋め込み片12へと透過させる。第2検出器36は、第3光路46によって示されるように、第3励起光に応答して、第2発光波長範囲で皮膚表面14において組織15から放出される第3光信号を測定する。本実施形態において、第3光信号は分析物非依存ルミネッセンス信号である。次に、第3光源40は、作動すると、皮膚表面14から組織15内へと第4励起光を透過させる。第4励起光は、分析物非依存ルミネッセンス信号の発光波長範囲の光であることが好ましい。検出器36は、第4光路48によって示されるように、第4励起光に応答して、この発光波長範囲で皮膚表面14において組織15から放出される第4光信号を測定する。少なくとも1つの補正信号値は、測定された光信号に従って計算される。一例において、埋め込み片12からの一次分析物依存信号は、以下の通り補正することができる。
[0044] 補正信号=S(LS1,D1)*C(LS2,D1)/[S(LS2,D2)*C(LS3,D2)] (2)
【0032】
[0045] 上記式(2)において、S(LS1,D1)の項は、第1光源32から埋め込み片12を経て第1検出器34までの第1光路42から測定された一次分析物依存光信号である第1光信号を表す。C(LS2,D1)の項は、第2光源38から第1検出器34までの第2光路44から測定された補正係数信号である第2光信号を表す。S(LS2,D2)の項は、第2光源38から埋め込み片12を経て第2検出器36まで達する第3光路46から測定された分析物非依存信号である第3信号を表す。C(LS3,D2)の項は、第3光源40から第2検出器36まで達する第4光路48から測定された補正係数信号である第4光信号を表す。
【0033】
[0046] 2つの埋め込み片レポータ(例えば、発光染料)が利用されるいくつかの実施形態では、それらの埋め込み片レポータが、共通の、または部分的に共通の励起(吸収)波長範囲または発光波長範囲を有し得る。例えば、
図2の実施形態において、分析物依存ルミネッセンス信号を提供する第1染料の発光波長範囲は、分析物非依存ルミネッセンス信号を提供する第2染料の励起波長範囲と共通または部分的に共通している。別の実施形態では、第1染料および第2染料は、(共通の光源が使用できるように)共通の、または部分的に共通の励起波長範囲を有し、かつ、それぞれ異なる発光波長範囲の光信号を放出することもある。別の実施形態では、第1染料および第2染料は、それぞれ異なる励起波長範囲の光により励起され、かつ、同一の、または部分的に共通の発光波長範囲の光信号を放出してもよい。
【0034】
[0047]
図3は、皮膚表面14から第1の深さD1の埋め込み片12に対し、組織15内の異なる深さD2、D3、D4における光学検査を示している。検出器52、54、56の配置と光源50との間の間隔S1、S2、S3により、それぞれの光路の深さD2、D3、D4が決まる。いくつかの実施形態において、光信号補正用の読み取りは、それぞれの光路によって表されるように複数の深さで実施され、補正に使用される参照光信号の測定値は、補正係数について平均化される。いくつかの実施形態において、参照光信号の光路は、埋め込み片12が埋め込まれた深さD1よりも深い組織15内の深さD2まで達する。参照光信号の光路は、埋め込み片12を通過するように、組織15内の深さD3まで達してもよい。
【0035】
[0048]
図3~9に示すように、光学デバイスにおいて、光源と検出器との間の間隔に複数の組み合わせが可能である場合、埋め込み片12の深さを特定用途向けにすることができるため、実施はより柔軟になり得る。一実施形態において、安定参照染料から放出され得る少なくとも1つの分析物非依存信号を使用して、光路の適切な深さを決定し、結果として得られる光信号を測定して、分析物依存信号を拡散反射率および/または自己蛍光について補正する。好ましくは、ルックアップテーブルを使用して、埋め込み片から放出された分析物非依存ルミネッセンス信号の測定強度に基づき、正規化光信号用として可能な深さのうちいずれの深さを使用すべきか、より具体的には、いずれの光源/検出器の組み合わせを使用するべきかを決定する。ルックアップテーブルは、光学デバイスに付属のマイクロプロセッサ内に存在してもよく、あるいは、測定された光信号を表すデータ(例えば、選択された波長範囲で測定された光の強度)を受信する光学デバイスと通信する別個のプロセッサまたは外部のコンピュータ内に存在してもよい。
【0036】
[0049] いくつかの実施形態において、プロセッサは、1つ以上の拡散反射率信号の測定値に割り当てられる数量または重みを(例えば、計算またはルックアップテーブルにより)決定するようにプログラムされる。続いて、拡散反射率信号の測定に割り当てられた数量または重みは、補正信号値を計算するために、1つ以上の埋め込み片レポータ信号(例えば、埋め込み片から放出された一次分析物依存信号)の補正または正規化に使用され得る。数量または重みは、(例えば、安定参照染料からの)分析物非依存光信号の強度に従って決定されることが好ましい。分析物非依存光信号の強度は、組織内の埋め込み片の深さに応じて変化し得る。例えば、埋め込み片が皮膚表面下2mmの深さの組織内に埋め込まれている場合、組織内の光減衰量は、埋め込み片が4mmの深さに埋め込まれている場合よりも小さくなると考えられる。より浅い埋め込み片から放出されたレポータ光信号は、より深くに埋め込まれた埋め込み片から放出される信号よりも、拡散反射率および/または自己蛍光用の補正係数が小さくて済み得る。いくつかの実施形態において、分析物依存信号を補正または正規化するために使用される拡散反射率補正係数は深さに比例し、拡散反射率測定に割り当てられる数量または重みは、測定物非依存信号の測定値に従って決定される。
【0037】
[0050]
図4は、追加の光源および検出器を有し、これら光源と検出器との間の間隔に複数の組み合わせが可能な光学デバイス60の別の実施形態を示す。光源および検出器は、皮膚表面上に置かれるように適合されたセンサパッチ62(詳細は後述)内に配置される。少なくとも1つ、好ましくは3つの中心励起子光源64A、64B、および64Cは、パッチ62内の中心ビア66を介して励起光を透過させるように位置決めされる。中心ビア66は、1つ以上の光導波路を含み得る。少なくとも1つの検出器、好ましくは3つの中心検出器68A、68B、および68Cから成る内側リングが、中心ビア66の周りに配置される。また、外側リング70は、実質的にリング状のパターンに配置される複数の外側リング励起子光源および外側リング検出器(本例では、25個の外側リング光源および検出器)を有することが好ましく、これにより、実現可能な光チャネルの多数の配列を提供することができる。励起光源と検出帯域との組み合わせが光チャネルである。1つの実現可能な光学デバイス60の例として、
図4~11および表1を参照して、12個の光チャネルを有するものを説明する。
【0038】
【0039】
[0051] 表1に示すように、光チャネル1~3は、分析物特有信号、分析物非依存信号、および安定参照染料信号を含む、埋め込み片からの3つのレポータ染料信号を測定する機能を有する。光チャネル1は、埋め込み片からの分析物特有ルミネッセンス信号(グルコース値に応じて強度が変化する光信号など)を測定する機能を有する。他の実施形態は、埋め込み片からの複数の分析物依存信号を含むこともある。光チャネル2は、レポータ染料(例えば、光退色またはpH)に対する分析物以外の物理的または化学的影響について、分析物に依存しない制御を測定する機能を有する。光チャネル3は、安定参照染料(例えば、ランタニド)を測定する機能を有する。
【0040】
[0052] 表1に記載され、かつ
図4に示されるように、光チャネル1~3のそれぞれは、3つの中心励起子光源64A、64Bおよび64Cのうちの1つと、3つの中心検出器68A、68Bおよび68Cのうちの対応する1つとの各対を備える。
図6は、埋め込み片レポータの光学検出用光路の概略的な側面図を示す。励起光は、(好ましくは一体的な導波路を含む)中心ビア66を通り、皮膚表面14から組織15を経て埋め込み片12まで透過させられる。中心検出器68A、68Bおよび68Cは、この励起光に応答して、各発光波長範囲で皮膚表面14において組織15から放出される光信号を測定する。
【0041】
[0053] 分析物依存信号に適切な染料は、約600~650nmの励起波長範囲(励起ピーク:647nm)の励起光に応答性を有し、発光波長範囲が約670~750nm(発光ピーク:約680nm)であるAlexa647である。分析物非依存信号に適切な染料は、約700~760nmの励起波長範囲(励起ピーク:750nm)の励起光に応答性を有し、発光波長範囲が約770~850nm(発光ピーク:約780nm)であるAlexa750である。適切な安定参照染料は、約650~670nmの第1励光起波長範囲(励起ピーク:約650nm)と、約800~815nmの第2励起光波長範囲(励起ピーク:約805nm)と、約980~1050nmの発光波長範囲(発光ピーク:約1020nm)を有するエルビウムである。別の実施形態では、エルビウムおよびAlexa647は、同一光源から励起されてもよく、この実施形態は、複数の光源間で出力を正規化するための任意の工程を減少または省略することができるといった利点を有する。
【0042】
[0054] 表1に戻り、光チャネル4~6は、励起子出力正規化信号を提供する。これは、2つ以上の光源が使用される実施形態において好ましい。励起子出力正規化信号は、各光源による励起光出力の電力差を正規化するのに使用される。この出力電力は、各光源間でわずかにばらつき得る。
図4~5に示すように、中心ビア66から外側リング70に進行する励起光の減衰が測定されることにより、埋め込み片12のレポータ(例えば、蛍光体)による影響が減少または除去される。光チャネル4~6は、3つの中心励起子光源64A、64Bおよび64Cと、外側検出器6とを組み合わせた3組の対を含む。あるいは、複数の検出器(好ましくは、外側検出器)を使用して、励起子出力正規化信号の強度を検出してもよい。励起子出力正規化信号としては、埋め込み片レポータの励起波長範囲の励起光が組織15内に透過される。組織15から放出された励起波長範囲の光信号は、検出器6によって測定される。埋め込み片レポータの補正信号値は、例えば、レポータについて測定された光信号を、励起波長範囲の励起光の測定された強度で除算することによって、それぞれの光源の励起子出力について正規化され得る。
【0043】
[0055] 光チャネル7~9(表1)は、埋め込み片からの発光染料レポータ信号を補正するために、拡散反射測定を行う。
図7~8に示すように、外側検出器6は、埋め込み片12の発光レポータ染料の発光波長範囲における組織15による光信号の減衰を測定する。光チャネル7~9は、外側リング70内に配置された3つの外側励起子光源71A、71Bおよび71C含み、各励起子光源は、本例では検出器6と対を形成し、かつ、好ましくは、各光源/検出器間に一定の間隔が空くように位置決めされる。光チャネル7~9は、埋め込み片12の各発光レポータ染料に対する拡散反射補正値を演算する。別の実施形態では、3つの光信号の全てを測定するために1つの検出器6を使用する代わりに、複数の検出器を使用することもできる。
【0044】
[0056] 光チャネル10~12(表1)は、埋め込み片からの発光染料レポータ信号を補正するために、自己蛍光および周辺光の測定を行う。
図9~10に示すように、光チャネル10~12は、外側リング70に配置された外側励起子光源と外側リング検出器との3つの対73A、73Bおよび73Cを含む。外側励起子光源と外側検出器との3つの対73A、73Bおよび73Cは、埋め込み片12の3つのレポータ発光染料の同一の励起スペクトルおよび発光スペクトルを提供し、埋め込み片12から離れた外側リング70上に位置付けられる。特に、自己蛍光測定用の外側励起子光源と検出器との各対は、励起光と励起光に応答して放出される光とが、埋め込み片12から、埋め込み片蛍光体からの顕著な影響を避けるのに十分な距離だけ水平方向に間隔を空けた光路78を形成するように位置決めされる。
【0045】
[0057] 上記水平方向の間隔S4は0.25cm以上が好ましく、0.5cmより大きいことがさらに好ましく、1cmより大きいことが最も好ましい。また、光路78の深さは、皮膚表面14から約1~5mmの組織15内に達することが好ましい。複数対が使用される場合、各光路の深さは同一でも異なってもよく、自己蛍光光信号の測定された強度を平均化して補正係数を得ることができる。埋め込み片レポータ(例えば、蛍光体)から自己蛍光測定への影響は、測定された強度の30%未満であることが好ましく、より好ましくは20%未満であり、最も好ましくは10%未満である。
【0046】
[0058]
図11は、励起光用の中心ビア66を有するセンサパッチ62の平面図を示す。パッチ62の好ましい寸法としては、例えば、直径が約16mm、厚さTが約1.6mmである。
図12は、積層された複数層を含むパッチ62の概略的な分解図を示す。いくつかの実施形態において、これらの層は、好ましくは約200μmの厚さを有するプラスチックカバー80と、好ましくは約100μmの厚さを有する光制御膜82と、好ましくは約200μmの厚さを有するフィルタ84と、好ましくは約100μmの厚さを有する別の光制御膜86と、好ましくは約200μmの厚さを有するシリコン層88と、好ましくは約400μmの厚さを有するプリント回路基板(PCB)90と、好ましくは約300μmの厚さを有する電池92と、好ましくは約200μmの厚さを有するケース94と、を含み得る。PCB90は、上述したように測定値を記憶し、かつ/または、補正信号値を計算するようにプログラムされたマイクロプロセッサを備え得る。光制御膜は、裏面側に開口アレイを有するレンズアレイである。
【0047】
[0059] 当業者には当然のことながら、本明細書に記載される本発明の実施形態には、有線もしくは無線の手持式リーダ、無線のスキンパッチリーダ、卓上計器、撮像システム、手持式デバイス(例えば、携帯電話もしくはモバイル通信デバイス)、スマートフォンの付属品およびアプリケーション、または本明細書に開示される光学素子およびアルゴリズムを利用する任意の他の構成が含まれ得る。
【0048】
[0060] 組織の光学的不均一性は、場合によっては顕著なことがある。したがって、単一の光源および単一の検出器を使用し、組織中を通る同一の光学通路を全ての色が確実に通過するようにすることが効果的な場合がある。一実施形態において、光源は、この光源と皮膚表面との間に一組の移動可能なフィルタを設けて位置決めされ得る。同様に、複数の個別の検出器要素を用いる代わりに、単一の光検出器を用いてもよい。検出器は、移動可能もしくは交換可能なフィルタを使用して複数波長の測定を可能にすることにより、異なる色の検出に使用することもできる。フィルタの交換または移動は、回転ディスク、フィルタ片、もしくは他の手段を制御する機械式アクチュエータによって実現することができる。あるいは、光フィルタは、電流、電位、温度、または別の制御可能な影響力を印加された際に、光フィルタリング特性が変化する材料により被覆され、単一の光検出器が複数の色を検出できるように機能させてもよい。
【0049】
[0061] 上述した実施形態は、本発明の範囲から逸脱することなく、多様に変更可能であることが当業者には明らかであろう。例えば、1つ以上の光源、1つ以上の検出器、フィルタ、および/または光学コンポーネントを接続するファイバの多くの様々な置換および配置を利用して、本発明のデバイスおよび方法を実現することができる。例えば、いくつかの実施形態では、光源および検出器を個体の皮膚上に直接置く必要がないように、光源および検出器は、励起光を皮膚内に透過させ、かつ皮膚から放出された光信号を測定するための光ファイバまたは光ケーブルを設けるように構成されてもよい。デバイスの寸法、および/または波長範囲の好ましい値は、実施形態に応じて変わることもある。したがって、本発明の範囲は、以下請求の範囲および法的な均等物によって決定されるべきである。