(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】電力用スイッチギア
(51)【国際特許分類】
H02B 13/055 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
H02B13/055 A
(21)【出願番号】P 2021200021
(22)【出願日】2021-12-09
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀之内 克彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰規
(72)【発明者】
【氏名】横水 康伸
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 直人
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/100194(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/144907(WO,A1)
【文献】特開2003-348721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02B 13/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクと、
前記タンクの内部に封入された絶縁消弧ガスと、
前記タンクの内部に接離可能に設けられた一組の接点と、
前記一組の接点のそれぞれに電流を通電させるための導体と、
を備え、
前記絶縁消弧ガスは、トリフルオロメタノールおよび酸素を含む、電力用スイッチギア。
【請求項2】
前記絶縁消弧ガスに含まれる酸素の比率が30体積%以下に維持される、請求項1に記載の電力用スイッチギア。
【請求項3】
前記絶縁消弧ガスに含まれる不純物の比率が500ppm以下に維持される、請求項1または2に記載の電力用スイッチギア。
【請求項4】
前記絶縁消弧ガスに含まれる水分の比率が500ppm以下に維持される、請求項1~3のいずれか1項に記載の電力用スイッチギア。
【請求項5】
前記絶縁消弧ガスに含まれるトリフルオロメタノールの圧力が0.01~0.1MPaの範囲に維持される、請求項1~4のいずれか1項に記載の電力用スイッチギア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、SF6代替ガスを用いた電力用スイッチギア(ガス絶縁開閉装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス遮断器は、電流遮断時に接点間に発生するアークをパッファ室からのガス流によって冷却し、消弧することによって、電流を遮断する。
【0003】
なお、ガス断路器にはパッファ室が無い場合もあるが、接点間距離を長くすることによりアーク電圧を高くしたり、絶縁性能を高めたりすることにより、電流を遮断することができる。真空遮断器では、接点が真空容器内部に設置されており、その真空容器自体がガスによって絶縁が保たれている。
【0004】
ガス遮断器、断路器などの開閉器と、を組み合わせて構成されるガス絶縁開閉装置(電力用スイッチギア)も知られている。電力用スイッチギアには、絶縁性の高いガスが充填されており、ガスによって絶縁されている。
【0005】
電力用スイッチギアに使用されるガス(絶縁消弧ガス)として、従来は六フッ化硫黄(SF6)ガスが多く使用されてきた。しかし、SF6ガスは地球温暖化係数が高い。
【0006】
このため、SF6ガスの代替ガス(SF6代替ガス)として、CO2、F-ニトリル(フルオロニトリル)などのガスが検討されている(例えば、特許文献1(特表2010-512639号公報)および特許文献2(特許第4660407号公報)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2010-512639号公報
【文献】特許第4660407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
F-ニトリルおよび特許文献1に開示されるフッ素系ガスの大半は、絶縁性能(耐電圧性能)は比較的高いが、遮断によりガスが分解し、再結合時に他のガスになってしまう。このため、ガスの管理が必要である。また、これらのガスは、SF6ガスと比べると遮断性能が低い。
【0009】
特許文献1には、SF6代替ガスとして様々なガスが候補として列挙されている。しかし、全てのガスの絶縁性能がSF6と同等というわけではない。また、化学的特性などの面から、全てのガスが代替ガスとして適正であるわけではない。
【0010】
SF6代替ガスの別の候補として、ドライエア(乾燥空気)、CO2なども挙げられているが、これらは絶縁性能および遮断性能がSF6より劣ることがわかっている。
【0011】
特許文献2には、CO2とO2との混合ガスの例が開示されている。この混合ガスは、再結合時にほぼ同じガスになるため、ガスの管理が必要ない。しかし、この混合ガスは、SF6ガスと比べると絶縁性能および遮断性能が低い。このため、SF6ガスを用いたガス遮断器等を含む電力用スイッチギアと同等の絶縁性能を得るためには、電力用スイッチギアの機器のサイズを大きくする必要がある。
【0012】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであり、絶縁消弧ガスとしてSF6ガスを用いる場合と同等の高い絶縁性能(耐電圧性能)および遮断性能を有し、ガスの管理が容易である、SF6代替ガスを用いた電力用スイッチギアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
タンクと、
前記タンクの内部に封入された絶縁消弧ガスと、
前記タンクの内部に接離可能に設けられた一組の接点と、
前記一組の接点のそれぞれに電流を通電させるための導体と、
を備え、
前記絶縁消弧ガスは、トリフルオロメタノールおよび酸素を含む、
電力用スイッチギア。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、絶縁消弧ガスとしてSF6ガスを用いる場合と同等の高い絶縁性能(耐電圧性能)および遮断性能を有し、ガスの管理が容易である、SF6代替ガスを用いた電力用スイッチギアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1の電力用スイッチギアに用いられるガス遮断器を示す概略断面図である。
【
図2】実施の形態1のガス遮断器の消弧装置を示す概略断面図である。
【
図3】CF
3OH(
図3(a))、および、CF
3OHとO
2の混合ガス(
図3(b)の各々について、温度と粒子組成との関係を示す図である。
【
図4】実施の形態1のガス遮断器の変形例を示す概略断面図である。
【
図5】酸素濃度の違いによるゴム材料の寿命の変化を示すグラフである。
【
図6】絶縁材料の絶縁耐圧への水分の影響を示すグラフである。
【
図7】水分量(水分濃度)と、飽和水蒸気圧および露点と、の関係を示すグラフである。
【
図8】実施の形態4の電力用スイッチギアおよび変圧器を示す模式図である。
【
図9】実施の形態5の電力用スイッチギアに用いられる消弧装置を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について説明する。なお、図面において、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。
【0017】
実施の形態1.
<電力用スイッチギア>
図1を参照して、実施の形態1に係る電力用スイッチギア(または、それに用いられるガス遮断器)は、
タンク9と、
タンク9の内部に封入された絶縁消弧ガスと、
タンク9の内部に接離可能に設けられた一組の接点74(例えば、可動側メイン接点12および固定側メイン接点13)と、
一組の接点74のそれぞれに電流を通電させるための導体(第1導体2aおよび第2導体3a)と、
を備える。
絶縁消弧ガスは、トリフルオロメタノール(CF
3OH)および酸素(O
2)を含む。
【0018】
電力用スイッチギアは、さらに、電流遮断時に一組の接点74の間に生じるアークを消弧する絶縁消弧ガスを吹き付ける機構、アークによって生成された高温の絶縁消弧ガスである高温ガスを冷却する冷却筒などを更に備えることが好ましい。
【0019】
以下、主に
図1および
図2に基づいて、実施の形態1の電力用スイッチギアに用いられるガス遮断器の一例について、詳細に説明する。
【0020】
図1は、実施の形態1の電力用スイッチギアに用いられるガス遮断器100の主要構成を示す概略断面図である。
【0021】
図2は、実施の形態1のガス遮断器(
図1に示すガス遮断器)の消弧装置1の要部を示す概略断面図である。なお、
図2は、遮断動作の過程において開離された可動側アーク接点14の先端部と固定側アーク接点15の先端部との間にアークが発生した状態を示している。
【0022】
図1および
図2において、ガス遮断器100は、第1導体2aを収納する第1ブッシング2と、第2導体3aを収納する第2ブッシング3と、内部に絶縁消弧ガスを密封したタンク9と、駆動機構部4と、を備える。
【0023】
ここで、タンク9は、後で詳細を説明する電流遮断時に可動側アーク接点14および固定側アーク接点15の間に生じるアークを消弧するための消弧装置1などを気密に包囲し、内部に絶縁消弧ガスが気密に封入されている。
【0024】
第1ブッシング2とタンク9との間、第2ブッシング3とタンク9との間、および、摺動部品10とタンク9との間には、ゴム製のOリング(図示せず)が設けられている。
【0025】
駆動機構部4は、可動側メイン接点12および可動側アーク接点14を固定側メイン接点13および固定側アーク接点15に対して接離動作させる機構である。
【0026】
図1では、電流遮断時に接点間に発生するアークを消弧する主要構成部である消弧装置1は、点線で表されている。
図2は、この消弧装置1の要部を示す図である。
【0027】
図1の可動側シールド121は、消弧装置1を構成する一部であるが、
図2では見やすさのために省略されている。可動側シールド121は、円筒形状であり、電位勾配を緩和して、アークを消弧しやすくするために設けられている。なお、
図1では、可動側シールド121の左側に、駆動ロッド7aを覆うように可動側シールド121と連結された金属製円筒が設けられている。
【0028】
次に、駆動機構部4の構成、動作を説明する。
【0029】
駆動機構部4は、可動側メイン接点12および可動側アーク接点14を駆動する機構であり、例えば、バネ機構、油圧機構などによって動作する操作装置5と、リンク51、リンク52と、駆動ロッド7a、絶縁ロッド6などにより構成されている。
【0030】
可動側メイン接点12および可動側アーク接点14は、ロッド7と絶縁ロッド6と駆動ロッド7aを介してリンク51に連結されて、リンク51により
図2の左右方向に開閉極動作する。
【0031】
タンク9から駆動ロッド7aを引出す部分には、気密を保ったまま摺動できるように、例えばOリングなどを有する摺動部品10が設けられている。また、消弧装置1は、絶縁支持体8によってタンク9から絶縁支持されている。
【0032】
(ガス遮断器の変形例)
ガス遮断器の別の例として、
図4に示すガス遮断器を用いてもよい。
図4に示すガス遮断器は、タンクがタンク胴体9aと2つの蓋21,22から構成されている点で、
図1に示すガス遮断器とは異なる。それ以外の点は、
図1に示すガス遮断器と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0033】
図4に示すガス遮断器においては、タンクの内部の部品を組み立てたり、点検、消耗品の交換などでタンクの内部を開放したりする作業を容易に行うことができる。
【0034】
タンク胴体9aと蓋21との間には絶縁消弧ガスの漏れ防ぐためにOリング23が設けられている。同様にタンク胴体9aと蓋22との間にはOリング24が設けられている。Oリング23およびOリング24はゴムでできている。
【0035】
なお、実施の形態1と同様に、第1ブッシング2とタンク胴体9aとの間、第2ブッシング3とタンク胴体9aとの間、および、摺動部品10と蓋22との間には、ゴム製のOリング(図示せず)が設けられている。
【0036】
(絶縁消弧ガス)
本実施の形態で用いられる絶縁消弧ガスは、トリフルオロメタノール(CF3OH)および酸素(O2)を含む。絶縁消弧ガス中に含まれるトリフルオロメタノールおよび酸素の合計量の比率は、好ましくは10体積%以上であり、より好ましくは40体積%以上であり、さらに好ましくは70体積%以上であり、さらに好ましくは90体積%以上である。絶縁消弧ガスは、トリフルオロメタノールと酸素のみからなる混合ガスであってもよい。絶縁消弧ガスは、トリフルオロメタノールと、酸素と、CO2、N2、H2等とを含む混合ガスであってもよい。
【0037】
絶縁消弧ガス中に含まれるトリフルオロメタノールの量に対する酸素の量の比率(酸素含有率)は、好ましくは30体積%以下であり、より好ましくは20体積%以下である。
【0038】
CF3OHは、SF6と同等の絶縁性能を有する。また、CF3OHは、地球温暖化係数が100以下と低く、環境に負荷をかけないガスである。また、CF3OH単独でもSF6に近い遮断性能をもつが、O2を混合することにより更に遮断性能が向上する。
【0039】
絶縁消弧ガスの圧力(ガス遮断器内に充填された状態での絶縁消弧ガスの圧力)は、1.0MPa以下に維持されることが好ましい。CF3OHの沸点が0.1MPaのときに-20℃であることから、寒冷地など使用環境に応じて、絶縁消弧ガスに含まれるトリフルオロメタノール(CF3OH)の分圧が0.01~0.1MPaの範囲内となるようにしてもよい。もちろん、CF3OHとO2とを含む絶縁消弧ガスの圧力(全圧)を0.01~0.1MPaの範囲内としてもよい。
【0040】
(消弧装置)
次に、
図2に示される消弧装置1の一例の構成について説明する。
【0041】
図2に示されるように消弧装置1は、電流遮断に関わる主要構成要素として、可動側メイン接点12および固定側メイン接点13、並びに、可動側アーク接点14および固定側アーク接点15を備える。
【0042】
図2および
図1を参照して、可動側メイン接点12および可動側アーク接点14は、第1ブッシング2から伸びる第1導体2aに接続されている。固定側メイン接点13および固定側アーク接点15は、第2ブッシング3から伸びる第2導体3aに接続されている。
【0043】
消弧装置1は、アーク室19、ロッド7、パッファシリンダ20、パッファピストン17、パッファ室16、ノズル18、および冷却筒11を備えている。
【0044】
アーク室19では、可動側アーク接点14と固定側アーク接点15との間に発生するアーク(図中の点線部)が形成される。
【0045】
ロッド7は、アーク室19の可動側アーク接点14側に連通して設けられ、開閉極動作時においても可動側アーク接点14との相対的な位置を保持する。パッファシリンダ20は、ロッド7と同一軸でロッド7を囲むように配置され、ロッド7に固定されている。
【0046】
パッファピストン17は、パッファシリンダ20に挿入され、開閉極動作時にはパッファシリンダ20と摺動する。パッファ室16は、パッファシリンダ20とパッファピストン17との間の空間からなる。
【0047】
ノズル18は、パッファ室16からアーク室19へ絶縁消弧ガスを導く通路を形成する。すなわち、ノズル18は、アーク室19においてアークによって熱せられた高温ガスを冷却筒11へ導くように開口されている。冷却筒11は、固定側アーク接点15と略同軸に配置されている。
【0048】
図2において、棒状の固定側アーク接点15の中心線が、可動側アーク接点14の動作軸となる。可動側アーク接点14は、例えば、弾性的な複数の接触フィンガを備えた接触チューリップであり、この接触フィンガは、動作軸を中心軸として環状に配置され、スリット(図示せず)によって分割されている。可動側アーク接点14には、
図1における第1導体1aと摺動可能に電気的に接続されたパッファシリンダ20を通して電位が与えられる。この可動側アーク接点14は、固定側アーク接点15と接触子対(一組の接点)を構成している。
【0049】
パッファシリンダ20はロッド7を中心軸とする円筒である。パッファシリンダ20には、パッファピストン17が挿入されており、パッファシリンダ20とパッファピストン17とで囲まれた空間でパッファ室16が構成されている。実施の形態1では、パッファピストン17は消弧装置1を支える構造体に固定されており、可動側アーク接点14を開極方向へ駆動すると、パッファ室16内の絶縁消弧ガスが圧縮され圧力が上昇する。
【0050】
上記説明のように構成された実施の形態1においては、図示していない制御装置により開極指令が与えられ操作装置5が駆動されると、リンク51、リンク52、駆動ロッド7a、絶縁ロッド6およびロッド7を介して、可動側アーク接点14、パッファシリンダ20、可動側メイン接点12およびノズル18が
図2における左方向へ一体的に移動する。この結果、固定側アーク接点15と可動側アーク接点14とが開離して、アーク室19内にアークが発生し、同時にパッファ室16の体積が縮小されて内部の絶縁消弧ガスの圧力が上昇する。
【0051】
パッファ室16の圧力がアーク室19の圧力よりも大きくなると、パッファ室16からアークに絶縁消弧ガスが吹き付けられる。
【0052】
アークは、絶縁消弧ガスが高温になることで、絶縁消弧ガス中の成分が分解されてなる分子、原子、イオン、電子等である。絶縁消弧ガス中のCF3OHは、C原子、F原子、O原子、H原子、それらの原子がいくつかが組み合わされた分子、その分子が電子を放出したり吸着したりして生成されるイオン、Cイオン、Fイオン、Oイオン、Hイオンなどに分解される。
【0053】
図3は、CF
3OH(
図3(a))、および、CF
3OHとO
2の混合ガス(混合ガスの総量に対するO
2の比率:20体積%)(
図3(b)の各々について、温度と粒子組成(粒子の個数密度の割合)との関係を示す図である。
【0054】
図3から分かるように、遮断の過程でアークにパッファ室から絶縁消弧ガスが吹き付けられ冷却されていくと、温度が低下し、分解していた原子、分子、イオン、電子等が再結合していく。
【0055】
しかし、温度が常温となり消弧状態となったとき、CF3OHガス、および、CF3OHとO2との混合ガスにおいて、一度アークによって分解したCF3OH分子は元の分子にもどることはなく、CF4、CO2等が発生し、また、HF(フッ化水素)が発生する。このとき、CF3OHの比率に関係なく、固体炭素は発生しない。また、O2分子は元の分子にもどる。
【0056】
なお、他の代替ガスとして、例えば、CF3CFCH2も、アークによって分解すると元のCF3CFCH2には戻らず、CF4、HF等に分解する。このとき、タンク内にO2が存在する場合には、CO2が発生する。タンク内にO2が存在しない場合には、固体炭素が発生する。このように、元のCF3CFCH2が減少することと、固体炭素が発生する可能性と、に対するガス管理が必要である。
【0057】
従って、CF3OHガスにおいても、このような他の代替ガスと同様に、ガスの成分が変化してしまう。このため、電力用スイッチギアにCF3OHを用いるためには、ガス成分の管理、ガス濃度の計測などが必要である。ただし、他の代替ガスの場合はO2の管理も実施が必要であるが、CF3OHガスの場合は、O2の管理が不要であることから、ガス管理が容易である。CF3OHガスの場合は、特に、HFを吸着させる方法などにより、HFを適切に除去するようにしておけばよい。
【0058】
なお、本開示は、上記の電力用スイッチギアを用いて、例えば、短絡などによって生じる大電流、または、通常時の通電電流を遮断する際に、接点間に生じるアークに絶縁消弧ガスを吹き付けて遮断する、ガス遮断方法にも関する。
【0059】
実施の形態2.
実施の形態2では、絶縁消弧ガス(CF3OHとO2とを含むガス)に含まれるO2の比率(含有率)が30体積%以下に維持される。それ以外の点は実施の形態1と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0060】
絶縁消弧ガス中のO2の含有率を30体積%以下に維持することにより、電力用スイッチギアの内部において絶縁消弧ガスと接する材料(例えば、金属材料、および、Oリング等のゴム製品)の酸化劣化を抑制することができる。
【0061】
図5は、酸素濃度の違いによるゴム材料の寿命の変化を示すグラフ(「東芝レビュー、Vol.70,No.1」からの引用)である。
図5から、O
2濃度が10体積%増えることにより、ゴム材料の寿命が1/10になることが分かる。例えば、O
2濃度が20体積%の場合にゴム材料の寿命が30年であるとすれば、O
2濃度が30体積%の場合、同じ温度条件では、ゴム材料の寿命が約3年になってしまい、ゴム材料の使用環境に制限が生じる。なお、
図5中、Lnは寿命時間をtとしたときのアレニウスの式から求めた値を表しており、横軸下のTは使用環境の絶対温度(単位:K)、横軸上のTcは摂氏で表した温度(単位:℃)である。
【0062】
したがって、絶縁消弧ガス中のO2の含有率(O2濃度)を30体積%以下に維持することが好ましい。また、O2の含有率は、空気に近い比率である18~21体積%に維持されることがより好ましい。
【0063】
実施の形態3.
実施の形態3では、絶縁消弧ガス(CF3OHとO2とを含むガス)に含まれる不純物の比率(含有率)が500ppm以下に維持される。それ以外の点は実施の形態1および2と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0064】
不純物としては、例えば、電極、導体等の材料である銅、タングステン、銀、アルミ等の金属、PTFE等の絶縁材料、および、水分が挙げられる。
【0065】
金属材料および絶縁材料もアークの高温により蒸発してガス化し分解する。分解によって生じた成分が、アークが消弧されるときに、絶縁消弧ガスの分解物である原子、イオンおよび分子と、微かに結合し得る。
【0066】
実施の形態1で説明したとおり、絶縁消弧ガスであるCF3OHがアークで分解することによりHFが発生する。また、CF3OHが分解する際に、下記の反応式(1)に示される反応が起こることが知られている。
【0067】
【0068】
式(1)の右辺のHFは、絶縁材料に付着することにより絶縁性能を劣化させる恐れがある。式(1)の反応は、不純物が絶縁消弧ガス中に含まれる場合において、アークなどにより発生する可能性がある。従って、不純物の含有量を少なくするような管理が必要である。
【0069】
また、絶縁材料の周囲に水分が存在すると、HFに加え絶縁材料の加水分解などによって、さらに絶縁性能の劣化が顕著となる。したがって、不純物のうち、特に水分量の管理および監視が重要である。
【0070】
CF3OHの絶縁性能はSF6と同等である。また、SF6においても水分等の不純物が存在することによるHFの発生の可能性はあるため、同じ考えに基づいて水分等の不純物の管理を行うことは妥当である。このため、実施の形態3の電力用スイッチギアにおいては、従来のSF6の不純物管理(例えば、水分管理)に準じて、不純物(例えば、水分)含有率の許容範囲の閾値を設定すればよい。したがって、水分等の不純物の含有率の管理は、特に新たな手法、設備等を必要とせず、従来と同様にして容易に実施することができる。
【0071】
図6は、絶縁材料の絶縁耐圧への水分の影響を示すグラフ(「電気協同研究、第33巻4号」からの引用)である。
図6より、絶縁材料が絶縁破壊を起こす電圧が、商用の系統電圧(基準化された商用周波数破壊ストレス)の100%以上となる場合は、露点が0℃以下の場合であることが分かる。
【0072】
一方、
図7は、水分量(水分濃度)と、飽和水蒸気圧および露点と、の関係を示すグラフ(「電気協同研究、第33巻4号」からの引用)である。
図7によれば、例えば、ガスの圧力(絶対圧力:P)が、0.6MPa(abs)〔約5.9kgf/cm
2(abs)〕であり、該ガスの露点が0℃である場合、該ガス中の水分量は約1000ppm(体積ppm)であることが分かる。なお、0.6MPa(abs)は、SF
6ガスを用いた遮断器で一般的に用いられている、絶縁性能または遮断性能およびタンク9の耐圧力強度設計において、経済的かつ技術的にバランスがとれている圧力である。
【0073】
従って、ガス中の水分量の許容上限値を約1000ppmとしてとらえ、ばらつきなどを考慮して500ppmを水分量の管理値の上限とすることができる。さらには、上述したようにHFの発生が懸念される場合においては、露点が-5℃(圧力が0.6MPa)であるガスの水分量である約800ppmを許容上限値として、ばらつきなどを考慮して400ppmを水分量の管理値の上限としてもよい。
【0074】
実施の形態4.
実施の形態4に係る電力用スイッチギアは、ガス遮断器と共に、または、ガス遮断器の代わりに、断路器などの開閉器を含み得る。
【0075】
図8は、実施の形態4の電力用スイッチギア30および変圧器40を示す模式図である。電力用スイッチギア30は、断路器31a,31b,31c、遮断器32、変流器33a、33b、ガス絶縁母線34、接地開閉器35a,35b、主母線36a,36bなどの開閉機器によって構成されている。これらの開閉機器の各々は、ガスを封入するタンク(筐体)を備え、その筐体の内部に各々の機能を果たす機器が設置されている。
【0076】
例えば、遮断器32の内部には、
図2に示すような接離可能な1対の接点が設置されており、電流を遮断する機能を持った機器が設置されている。また、断路器31a,31b,31cおよび接地開閉器35a,35bの内部においても、
図2を簡略化した機器が設置されており、接離可能な1組の接点が開閉することで電流を遮断する。その際にはアークが点弧する場合もある。
【0077】
開閉機器のタンクの内部には上述の絶縁消弧ガスが封入されている。従って、SF6ガスを用いる場合と同等な絶縁性能を得ることができる。また、上記のように遮断器、断路器、接地開閉器等の内部に接点が設置されている機器においても、実施の形態1および実施の形態2と同じ遮断性能を得ることが可能である。さらに、ガスの管理についても実施の形態3と同様の効果を奏することができる。なお、接点以外の金属部分において部分放電などが発生し、一時的に絶縁消弧ガスが分解しても、同様な効果を得ることができる。
【0078】
実施の形態5.
実施の形態5に係る電力用スイッチギアは、ガス遮断器と共に、または、ガス遮断器の代わりに、ガス遮断器以外の遮断器(例えば、真空遮断器)などの開閉器を含み得る。
【0079】
実施の形態5では、例えば、
図1に示す実施の形態1のガス遮断器、または、
図8に示す実施の形態4の遮断器32(ガス遮断器)の内部で用いられる消弧装置として、
図2の消弧装置とは別の形態である
図9に示す消弧装置が用いられる。すなわち、遮断器として、真空遮断器が用いられる。この実施の形態5においては、絶縁消弧ガスのガス圧力が、例えば、0.1MPaまたは0.05MPaである場合もある。
【0080】
図9に示される消弧装置においては、真空容器70内に切離可能な一組の接点74が設置されている。また、該消弧装置は、セラミック部材71、シールド部材72、導体73などを備える。セラミック部材71は、内部を真空に保つため、および絶縁のために使われる。シールド部材72は、内部の電界分布の形状を整えるとともに、アークによって生じる電極からの飛散物がセラミック部材71に付着して絶縁性能が劣化するのを防ぐために、設けられている。導体73は、消弧装置の外部の回路から消弧装置の接点74に電流を導くための電路である。
【0081】
図9に示される消弧装置は、
図1に示される絶縁消弧ガスで満たされたタンク9の内部に置かれている場合もある。この場合には、一組の接点74が開閉してアークが点弧しても、アークは絶縁消弧ガスには触れないため、絶縁消弧ガスが分解することはない。
【0082】
ただし、真空容器70で構成される消弧装置の周辺の金属部分において部分放電などが発生し、一時的に絶縁消弧ガスが分解する可能性がある。このような場合でも、CF3OHおよびO2を含む絶縁消弧ガスを用いているため、ガスの管理およびOリングの劣化について、実施の形態2および実施の形態3と同様の効果を奏することができる。
【0083】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
1 消弧装置、2a 第1導体、2 第1ブッシング、3 第2ブッシング、3a 第2導体、4 駆動機構部、5 操作装置、51,52 リンク、6 絶縁ロッド、7 ロッド、7a 駆動ロッド、8 絶縁支持体、9 タンク、9a タンク胴体、10 摺動部品、11 冷却筒、12 可動側メイン接点、121 可動側シールド、13 固定側メイン接点、14 可動側アーク接点、15 固定側アーク接点、16 パッファ室、17 パッファピストン、18 ノズル、19 アーク室、20 パッファシリンダ、21,22 蓋、23,24 リング、30 電力用スイッチギア、31a 断路器、32 遮断器、33a 変流器、34 ガス絶縁母線、35a 接地開閉器、36a 主母線、40 変圧器、70 真空容器、71 セラミック部材、72 シールド部材、73 導体、74 接点、100 ガス遮断器。