(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ポリアミド酸組成物およびその製造方法、ポリアミド酸溶液、ポリイミド、ポリイミド膜、積層体およびその製造方法、ならびにフレキシブルデバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20240816BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240816BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240816BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240816BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C08K3/36
C08G73/10
B32B27/34
H05K1/03 610N
H05K1/03 670Z
(21)【出願番号】P 2021507418
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012329
(87)【国際公開番号】W WO2020189759
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019052180
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 博文
(72)【発明者】
【氏名】宇野 真理
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/138447(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/021646(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/057281(WO,A1)
【文献】特許第7292260(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08K 3/36
C08G 73/10
B32B 27/34
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位、および下記一般式(2)で表される構成単位を含むポリアミド酸と;平均一次粒子径が
5~200n
mのシリカ粒子とを含み、
【化1】
前記ポリアミド酸は、前記一般式(1)で表される構造単位として、下記一般式(3)で表される構造単位を含み、
【化2】
前記ポリアミド酸における一般式(3)で表される構造単位の含有量が60~99.7mol%である、
ポリアミド酸組成物:
複数のR
1は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基またはアリール基であり、
複数のR
2およびR
3は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基、またはアリール基であり、
Xは4価の有機基であり、
Zはシリコン原子を含まない2価の有機基であり、
複数のYは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキレン基、またはアリーレン基であり、
mは1以上
300未満の整数である。
【請求項2】
前記ポリアミド酸における一般式(2)で表される構造単位の含有量が0.3~7mol%である、請求項1に記載のポリアミド酸組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)および前記一般式(2)において、Xが、下記の式(A)、(B)および(C)で表される4価の有機基からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1
または2に記載のポリアミド酸組成物。
【化3】
【請求項4】
前記ポリアミド酸100重量部に対して前記
シリカ粒子を1~30重量部含有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載のポリアミド酸組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のポリアミド酸組成物の製造方法であって、
前記
シリカ粒子が分散している有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させる、ポリアミド酸の製造方法。
【請求項6】
有機溶媒中でテトラカルボン酸二無水物と第一ジアミンとを反応させてポリアミド酸セグメントを形成した後、第二ジアミンを添加し、
前記第一ジアミンは2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンを含み、前記第二ジアミンが下記一般式(4)で表されるシリコーンジアミンである、請求項
5に記載のポリアミド酸組成物の製造方法:
【化4】
ただし、一般式(4)におけるR
2、R
3、Y、およびmは、前記一般式(2)におけるR
2、R
3、Y、およびmと同一である。
【請求項7】
前記テトラカルボン酸二無水物の総モル数が、前記第一ジアミンの総モル数の1.001倍以上、1.100倍未満である、請求項
6に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のポリアミド酸組成物と有機溶媒とを含有するポリアミド酸溶液。
【請求項9】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のポリアミド酸組成物における前記ポリアミド酸が脱水環化した、
シリカ粒子含有ポリイミド。
【請求項10】
請求項
9に記載の
シリカ粒子含有ポリイミドを含むポリイミド膜。
【請求項11】
支持体上に請求項
10に記載のポリイミド膜が設けられた積層体。
【請求項12】
請求項
8に記載のポリアミド酸溶液を支持体に塗布して、支持体上に膜状のポリアミド酸を形成し、加熱によりポリアミド酸をイミド化して、前記支持体上にポリイミド膜を形成する、積層体の製造方法。
【請求項13】
請求項
10に記載のポリイミド膜と、前記ポリイミド膜上に形成された電子素子とを有するフレキシブルデバイス。
【請求項14】
請求項
12に記載の方法により積層体を形成し、前記積層体の前記ポリイミド膜上に電子素子を形成した後、前記支持体から前記ポリイミド膜を剥離する、フレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸組成物、ポリアミド酸溶液、ポリイミドおよびポリイミド膜、ならびにポリイミド膜を用いたフレキシブルデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶、有機EL、電子ペーパー等のディスプレイや、太陽電池、タッチパネル、照明装置等のデバイスにおいて、薄型化、軽量化、およびフレキシブル化が要求されており、ガラス基板に代えてプラスチックフィルム基板の利用が検討されている。電子デバイスの製造プロセスでは、基板上に、薄膜トランジスタや透明電極等の電子素子が設けられる。電子素子の形成は高温プロセスを要し、プラスチックフィルム基板には高温プロセスに適応可能な耐熱性が要求されるため、プラスチックフィルム基板の材料として、ポリイミドの使用が検討されている。
【0003】
電子デバイスの製造プロセスは、バッチタイプとロール・トゥ・ロールタイプに分けられる。バッチプロセスでは、ガラス支持体上に樹脂溶液を塗布、乾燥して、ガラス支持体とフィルム基板との積層体を形成し、その上に素子を形成した後、ガラス支持体からフィルム基板を剥離すればよく、現行のガラス基板用プロセス設備を利用できる。フィルム基板がポリイミドである場合は、支持体上にポリイミド前駆体としてのポリアミド酸溶液を塗布し、支持体とともにポリアミド酸を加熱してイミド化を行うことにより、支持体とポリイミド膜との積層体が得られる。
【0004】
ディスプレイ等の光学デバイスでは、素子から発せられる光がフィルム基板を通って出射するため、基板材料に透明性が求められる。剛直な構造のモノマーやフッ素系モノマーを用いたポリイミドは、透明性が高く、かつ低熱膨張性を示すことが知られている(特許文献1、2)。ポリイミドの材料として、シリコーンを用いることにより、ガラス支持体とポリイミド膜との界面の応力が低下することが知られている(特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-161136号公報
【文献】特開2012-41530号公報
【文献】特開2017-226847号公報
【文献】特許第5948545号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
支持体とポリイミド膜との界面における応力を低下させるためにシリコーン骨格(ポリオルガノシロキサン構造)を導入したポリイミドは、熱分解温度が低く、電子素子形成時に、ポリイミド膜からのアウトガス等に起因する生産性の低下や製造装置の汚染等の懸念がある。本発明は、基板との界面での応力を低減可能であり、かつ耐熱性に優れ熱分解温度の高いポリイミド膜、およびその前駆体としてのポリアミド酸組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、下記一般式(1)で表される構造単位、および下記一般式(2)で表される構成単位を含むポリアミド酸と、無機微粒子とを含むポリアミド酸組成物である。
【0008】
【0009】
ポリアミド酸は、上記一般式(1)で表される構造単位として、下記一般式(3)で表される構造単位を含んでいることが好ましい。
【0010】
【0011】
無機微粒子の平均一次粒子径は200nm以下である。無機微粒子はシリカ微粒子であってもよい。無機微粒子は表面処理されていてもよい。
【0012】
ポリアミド酸は、例えば、有機溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得られる。無機微粒子が分散している有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させてもよい。無機微粒子の分散液で重合反応を行うことにより、ポリアミド酸と無機微粒子とが複合化(コンポジット化)したポリアミド酸組成物が得られる。
【0013】
ジアミンとして、下記一般式(4)で表されるシリコーンジアミンを用いることにより、一般式(2)で表される構造単位を有するポリアミド酸が得られる。
【0014】
【0015】
一般式(2)および一般式(4)において、複数のR2およびR3は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基、またはアリール基である。複数のYは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキレン基、またはアリーレン基である。mは1以上の整数であり、30以上300未満が好ましい。
【0016】
一般式(1)~(3)において、複数のR1は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基であり、水素原子であることが好ましい。4価の有機基Xは、テトラカルボン酸二無水物の残基である。ポリアミド酸は、有機基Xとして、例えば、下記の(A)、(B)または(C)の構造を含んでいてもよい。
【0017】
【0018】
有機溶媒中でテトラカルボン酸二無水物と第一ジアミンとを反応させてポリアミド酸セグメントを形成した後、第二ジアミンを添加することにより、ブロック共重合体が得られる。第一ジアミンがシリコン原子を含まないジアミンであり、第二ジアミンがシリコーンジアミンであれば、シリコン原子を含まない第一セグメントの両末端に、ポリオルガノシロキサン構造を有する第二セグメントが結合したABA型トリブロック共重合体が得られる。テトラカルボン酸二無水物と第一ジアミンとの反応によりポリアミド酸セグメント(第一セグメント)を形成する際のテトラカルボン酸二無水物の仕込み量(モル数)は、第一ジアミンの仕込み量(モル数)の1.001倍以上、1.100倍未満が好ましい。
【0019】
ポリアミド酸溶液は、上記のポリアミド酸組成物と有機溶媒とを含有する。ポリアミド酸の脱水環化によりポリイミドが得られる。一実施形態では、ポリアミド酸溶液を支持体に塗布して、支持体上に膜状のポリアミド酸が設けられた積層体を形成し、積層体を加熱してポリアミド酸をイミド化することにより、ポリイミド膜が得られる。
【0020】
ポリイミド膜の1%重量減少温度は450℃以上が好ましい。ポリイミド膜のガラス転移温度は300℃以上が好ましい。支持体とポリイミド膜との積層体は、室温における内部応力が25MPa以下であることが好ましい。
【0021】
ポリイミド膜上に電子素子を形成することによりフレキシブルデバイスが得られる。支持体上にポリイミド膜が設けられた積層体のポリイミド膜上に電子素子を形成し、電子素子を形成後に支持体からポリイミド膜を剥離してもよい。
【発明の効果】
【0022】
上記のポリイミド膜は、無機支持体との積層体の内部応力が小さく、かつ耐熱性に優れ、電子デバイス用の基板材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例2および比較例2のポリイミド膜の加熱重量変化を示すグラフである。
【
図2】実施例3および比較例3のポリイミド膜の加熱重量変化を示すグラフである。
【
図3】比較例1Bおよび比較例1Cのポリイミド膜の加熱重量変化を示すグラフである。
【
図4】無機微粒子を含まないポリイミド膜(比較例2)の断面TEM像である。
【
図5】シリカ粒子を含むポリイミド膜(実施例2)の断面TEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
[ポリアミド酸組成物]
本発明の一実施形態は、ポリアミド酸と無機微粒子とを含むポリアミド酸組成物である。ポリアミド酸組成物において、ポリアミド酸と無機微粒子とは複合化していてもよい。ポリアミド酸はポリイミドの前駆体であり、ポリアミド酸の脱水閉環反応によりポリイミドが得られる。
【0026】
<ポリアミド酸>
本実施形態のポリアミド酸組成物に含まれるポリアミド酸は、下記一般式(1)で表される構造単位(以下、「構造単位1」と記載する場合がある)と、下記一般式(2)で表される構造単位(以下、「構造単位2」と記載する場合がある)を含む。
【0027】
【0028】
構造単位1は、シリコン原子を含まない2価の有機基Zを有するジアミンと、4価の有機基Xを有するテトラカルボン酸二無水物との反応により形成される。一般式(1)において、Zは2価の有機基であり、ジアミンの残基である。例えば、ジアミンが2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)である場合、構造単位1は、下記の一般式(3)で表される。
【0029】
【0030】
構造単位2は、下記一般式(4)で表されるシリコーンジアミンと4価の有機基Xを有するテトラカルボン酸二無水物との反応により形成される。
【0031】
【0032】
一般式(1)および一般式(2)において、Xは4価の有機基であり、テトラカルボン酸二無水物の残基である。複数のR1は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基またはアリール基である。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応により得られるポリアミド酸では、R1は、水素原子である。ポリアミド酸のカルボキシ基をエステル化することによりR1がアルキル基またはアリール基であるポリアミド酸(ポリアミド酸エステル)が得られる。ポリアミド酸エステルは、加水分解が生じ難く、溶液の安定性に優れている。
【0033】
一般式(2)および一般式(4)において、複数のR2およびR3は、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキル基、またはアリール基である。複数のYは、それぞれ独立に、炭素数1~3のアルキレン基、またはアリーレン基である。mは1以上の整数である。
【0034】
構造単位2を含むことにより、ポリアミド酸のイミド化により得られるポリイミド膜の内部応力が低減する傾向がある。ポリアミド酸における一般式(2)で表される構造単位の含有量は、0.3~7mol%が好ましく、0.5~5mol%がより好ましく、0.7~4mol%がさらに好ましい。
【0035】
ポリアミド酸の重量平均分子量は、例えば10,000~1,000,000であり、30,000~500,000が好ましく、40,000~100,000がより好ましい。重量平均分子量が10,000以上であれば、ポリイミド膜の機械強度を確保できる。重量平均分子量が1,000,000以下であれば、ポリアミド酸が溶媒に対して十分な溶解性を示し、表面が平滑で膜厚が均一な塗膜またはフィルムが得られる。分子量は、ゲルパーミレーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレンオキシド換算の値である。
【0036】
<テトラカルボン酸二無水物>
一般式(1)~(3)において、有機基Xはテトラカルボン酸二無水物の残基であり、ポリアミド酸の重合に用いられるテトラカルボン酸二無水物に由来する4価の有機基である。
【0037】
テトラカルボン酸二無水物の具体的としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、1,4-フェニレンビス(トリメリテート酸二無水物)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2’-オキソジスピロ[2.2.1]ヘプタン-2,1”-シクロヘプタン-3,2”-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5,5’-6,6’-テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。複数のテトラカルボン酸二無水物を用いた場合、複数種の有機基Xを有するポリアミド酸が得られる。
【0038】
例示のテトラカルボン酸二無水物の中でも、ピロメリット酸二無水物(PMDA)および3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)が、ポリイミド膜の耐熱性および機械強度向上の観点で好ましい。ポリイミド膜の透明性向上(黄色度低減)の観点から、テトラカルボン酸二無水物として、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン酸二無水物(BPAF)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、4,4’-オキシフタル酸二無水物(OPDA)等の屈曲構造を有するテトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましい。これらの中でも、ポリイミド膜の複屈折を低減できることから、BPAFが好ましい。
【0039】
耐熱性に優れ、かつ低複屈折のポリイミド膜を得る観点からは、テトラカルボン酸二無水物として、PMDAおよび/またはBPDA、ならびにBPAFを用いることが好ましい。PMDAの残基は式(A)で表される4価の有機基であり、BPDAの残基は(B)で表される4価の有機基であり、BPAFの残基は(C)で表される4価の有機基である。
【0040】
【0041】
すなわち、ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物由来構造(一般式(1)~(3)における有機基X)として、式(A)で表される4価の有機基および式(B)で表される4価の有機基からなる群から選択される1種以上、ならびに式(C)で表される4価の有機基を含むことが好ましい。テトラカルボン酸二無水物の好ましい組み合わせは、PMDAとBPAFの組み合わせ、BPDAとBPAFの組合せ、およびPMDAとBPDAとBPAFの組合せである。
【0042】
ポリイミド膜の透明性および耐熱性の向上、ならびに複屈折および内部応力低減の観点から、PMDA、BPDAおよびBPAFの合計は、ポリアミド酸のテトラカルボン酸二無水物成分の全量100mol%に対して、60mol%以上が好ましく、70mol%がより好ましく、80mol%以上がさらに好ましい。PMDA、BPDAおよびBPAFの合計は、90mol%以上でもよく、100mol%でもよい。
【0043】
低複屈折のポリイミド膜を得る観点から、ポリアミド酸のテトラカルボン酸二無水物成分の全量100mol%に対するBPAFの量は、30mol%以上が好ましく、35mol%以上がより好ましく、40mol%以上がさらに好ましい。耐熱性に優れたポリイミド膜を得る観点から、ポリアミド酸のテトラカルボン酸二無水物成分の全量100mol%に対するPMDAおよびBPDAの合計は、10mol%以上が好ましく、20mol%以上がより好ましく、30mol%以上がさらに好ましい。
【0044】
テトラカルボン酸二無水物がPMDAとBPAFの組み合わせである場合、高透明かつ低複屈折のポリイミド膜を得る観点から、PMDAとBPAFの合計に対するBPAFの量は、30~90mol%が好ましく、35~70mol%がより好ましく、40~60mol%がさらに好ましい。耐アルカリ性の優れるポリイミド膜を得る観点からは、テトラカルボン酸二無水物は、BPDAとBPAFの組合せが好ましく、BPDAとBPAFの合計に対するBPAFの量は、30~90mol%が好ましく、35~70mol%がより好ましく、40~60mol%がさらに好ましい。
【0045】
<ジアミン>
ジアミンとしては、シリコン原子を含まないジアミン、およびシリコーンジアミンが用いられる。シリコン原子を含まないジアミンを用いることにより、2価の残基Zを有する構造単位1が形成される。
【0046】
ジアミンとして一般式(4)で表されるシリコーンジアミンを用いることにより、ポリオルガノシロキサン構造を有する構造単位2が形成される。一般式(4)で表されるシリコーンジアミンは、シリコーン化合物由来のジアミン(両末端アミノ変性シリコーン)である。一般式(2)および一般式(4)におけるYの具体例としては、エチレン基、プロピレン基およびフェニレン基が挙げられ、中でもプロピレン基が好ましい。R2およびR3としては、メチル基、エチル基、プロピル基およびフェニル基等が挙げられる。ポリイミドの耐熱性低下を抑制する観点から、R2およびR3の少なくとも一方はアルキル基であることが好ましく、中でもメチル基が好ましい。
【0047】
シロキサン構造の繰り返し単位数mは、30以上が好ましく、40以上がより好ましく、51以上がさらに好ましい。構造単位2が、繰り返し単位数mが30以上のポリオルガノシロキサン構造を含むことにより、ミクロドメインが形成されやすく、応力緩和効果により、ポリイミド膜の内部応力が低減する傾向がある。一方、繰り返し単位数mが過度に大きい場合は、構造単位1と構造単位2との相溶性が過度に低下して、ポリイミド膜のヘイズが大きくなる場合がある。そのため、繰り返し単位数mは、300未満が好ましく、250未満がより好ましく、200未満がさらに好ましい。mは、160未満、100未満または80未満であってもよい。
【0048】
シリコーンジアミンの具体例としては、両末端アミノ変性メチルフェニルシリコーン(例えば、信越化学製「X22-1660B-3」(数平均分子量4,400)、「X22-9409」(数平均分子量1,300))、両末端アミノ変性ジメチルシリコーン(例えば、信越化学製「X22-161A」(数平均分子量1,600)、「X22-161B」(数平均分子量3,000)、「KF-8010」(数平均分子量860)、「KF-8012」(数平均分子量4,400)、および「KF-8008」(数平均分子量11,400);ダウ製「BY16-835U」(数平均分子量900);ならびにチッソ製「サイラプレーンFM―3321」(数平均分子量5,000))等が挙げられる。ポリイミド膜と無機支持体との積層体における内部応力低減の観点から、両末端アミノ変性ジメチルシリコーンが好ましい。
【0049】
ポリアミド酸のジアミン成分の全量100mol%に対する一般式(4)で表されるシリコーンジアミンの量は、0.3~7mol%が好ましく、0.5~5mol%がより好ましく、0.7~4mol%がさらに好ましい。シリコーンジアミンの共重合割合は、ポリアミド酸の質量(テトラカルボン酸二無水物およびジアミンの合計仕込み量)に対して、2~30質量%の範囲が好ましく、5~25質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。シリコーンジアミンの量が上記範囲であれば、ポリアミド酸のイミド化により得られるポリイミド膜とガラス等の無機基板との積層体の内部応力が小さくなる傾向がある。
【0050】
構造単位1を含むことにより、ポリアミド酸のイミド化により得られるポリイミド膜の透明性、耐熱性、機械強度等の特性を制御できる。着色が少なく透明性の高いポリイミドを得る観点から、構造単位1における2価の有機基Zは、フッ素含有芳香族基が好ましい。フッ素含有芳香族基を有するジアミンとしては、フルオロアルキル置換ベンジジンが挙げられる。
【0051】
フルオロアルキル置換ベンジジンは、ベンジジン(4,4’ジアミノビフェニル)の一方または両方のベンゼン環上に、フルオロアルキル基を有する。フルオロアルキル基としてはトリフルオロメチル基が好ましい。フルオロアルキル置換ベンジジンの中でも、2つのベンゼン環のそれぞれに1以上のトリフルオロメチル基を有するトリフルオロメチル置換ベンジジンが好ましく、中でも、透明性が高いポリイミドが得られることから、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)が特に好ましい。前述のように、ジアミンとしてTFMBを用いたポリアミド酸は、構造単位1として、一般式(3)で表される構造を有する。
【0052】
ポリアミド酸のジアミン成分の全量100mol%に対するTFMBの量は、60~99.7mol%が好ましく、70~99.5mol%がより好ましく、80~99.3mol%がさらに好ましい。また、ポリアミド酸における一般式(3)で表される構造単位の含有量は、60~99.7mol%が好ましく、70~99.5mol%がより好ましく、80~99.3mol%がさらに好ましい。
【0053】
ポリアミド酸は、構造単位1として、一般式(3)以外の構造を含んでいてもよい。すなわち、ポリアミド酸のジアミン成分として、TFMB以外のシリコン原子を含まないジアミンを用いてもよい。シリコン原子を含まないジアミンとしては、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、4,4’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4’-アミノフェニル-4-アミノベンゼン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、m-トリジン、o-トリジン、4,4 ’-ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、2-(4-アミノフェニル)-6-アミノベンゾオキサゾール、3,5-ジアミノ安息香酸、4,4’-ジアミノ-3,3’ジヒドロキシビフェニル、4,4’-メチレンビス(シクロヘキサンアミン)等が挙げられる。
【0054】
<ポリアミド酸のシーケンス>
ポリアミド酸における構造単位1と構造単位2の並びはランダムでもブロックでもよい。ポリアミド酸は、構造単位1を含み構造単位2を含まない第一セグメントと、構造単位2を含む第二セグメントとを有するブロック共重合体でもよい。ブロック共重合体におけるブロックの並びとしては、第一セグメントの一方の末端に第二セグメントが結合しているAB型、第一セグメントの両末端に第二セグメントが結合しているABA型、第一セグメントと第二セグメントが交互に並んでいる(AB)n型等が挙げられる。ポリアミド酸の重合が容易でありブロック構造を形成しやすいことから、ブロック共重合体は、ABA型トリブロック構造が好ましい。
【0055】
第一セグメントは、構造単位1の繰り返しからなるセグメントである。ポリアミド酸のジアミン成分として、TFMBとシリコーンジアミンのみを用いる場合、第一セグメントは、一般式(3)の繰り返し単位からなるセグメントである。ジアミン成分として、TFMBおよびシリコーンジアミン以外のジアミンを用いる場合、第一セグメントにおける一般式(3)の構造の割合は、60mol%以上が好ましく、70mol%以上がより好ましく、80mol%以上がさらに好ましい。
【0056】
第二セグメントは、構造単位2のみからなるものでもよく、構造単位1と構造単位2を含んでいてもよい。シリコーンジアミンが高分子量(例えば、一般式(4)におけるmが30以上)である場合は、ポリマーシーケンスにおいて構造単位2が連続していない場合でも、ブロック構造と同様のミクロドメインを構成し得る。
【0057】
構造単位2として、ポリシロキサン構造を含むポリアミド酸をガラス等の無機支持体上でイミド化してポリイミド膜を形成すると、無機支持体とポリイミド膜との積層体における内部応力が小さくなる傾向がある。その詳細なメカニズムは明確ではないが、シリコーン(ポリオルガノシロキサン)に由来するドメインがポリイミド膜中に存在すると、ポリイミド膜に応力が生じた際に、シリコーン由来のドメインがミクロな塑性変形をすることにより応力を緩和するため、ポリイミド膜全体の内部応力が低減すると考えられる。
【0058】
特に、ポリアミド酸およびポリイミドがブロック共重合体であり、ドメイン(第二セグメント)と連続相(第一セグメント)を含み、ドメインと連続相が弾性率差を有する場合は、第二セグメントにより形成されるドメインに応力が集中し、効果的に応力が緩和されると考えられる。ドメインを構成する成分と連続相を構成する成分の相溶性が高い場合は、明確な界面が形成されず、部分的な相溶によりドメインへの応力集中が生じにくくなり、応力緩和効果が低減する傾向がある。また、シリコーンはガラス転移温度が低いため、第二セグメントのドメインが連続相と部分的に相溶すると、ガラス転移温度(Tg)が低温側にシフトする傾向がある。そのため、シリコーン由来のドメイン(第二セグメント)は、ポリアミド酸およびポリイミドの連続相との相溶性が低い方が好ましい。上記のように、ポリアミド酸が、構造単位2を含まない第一セグメントを有するブロック共重合体であれば、第一セグメントと第二セグメントとの相溶性が低く、ミクロドメインによる相分離構造が形成されやすいため、応力緩和が促進されると考えられる。
【0059】
[無機微粒子]
上記のように、ポリアミド酸にシリコーンジアミン由来の構造単位2を導入することにより、ポリイミド膜と基板との積層体における内部応力が小さくなる傾向がある。一方、ポリシロキサン構造の導入により、ポリイミドの耐熱性が低下し、熱分解温度が低くなる傾向がある。本実施形態では、シリコン原子を含まないジアミン由来の構造単位1およびシリコーンジアミン由来の構造単位2を有するポリアミド酸と平均一次粒子径が200nm以下の無機微粒子とを有するポリアミド酸組成物を調製し、当該組成物におけるポリアミド酸をイミド化することにより、ポリオルガノシロキサン構造を有するポリイミドの耐熱性を向上できる。
【0060】
無機微粒子の材料としては、シリカ、ジルコニア、チタニア、アルミナ、酸化マグネシウム、チタン酸バリウム、窒化ケイ素等の絶縁性材料が好ましい。無機微粒子は、モンモリロナイト、ベントナイト、層状ケイ酸塩等であってもよい。中でも、透明性が高く、ポリオルガノシロキサン構造を有するポリアミド酸との相互作用による耐熱性向上効果に優れることから、無機微粒子の材料としてはシリカが好ましい。
【0061】
ポリイミドの透明性を維持する観点から、無機微粒子の平均粒子径は200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましく、30nm以下であってもよい。一方、分散性を確保する観点から、無機微粒子の平均一次粒子径は、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。
【0062】
分散性向上や、ポリアミド酸およびポリイミドとの相互作用増大等を目的として、無機微粒子に表面処理を行ってもよい。表面処理としては、各種公知の処理を適用できる。例えば、ナノシリカ粒子は、シランカップリング剤等により表面処理を実施できる。ナノシリカの表面処理に用いるシランカップリング剤としては、官能基としてアミノ基またはグリシジル基等を持つアルコキシシラン化合物が好適に用いられ、中でも、ポリアミド酸およびポリイミドとの相互作用を高める観点から、アミノ基含有アルコキシシランが好ましい。アミノ基含有アルコキシシランとしては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノフェニルトリメトキシシランおよび3-アミノフェニルトリメトキシシラン等が挙げられる。中でも、原料の安定性の観点から3-アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。例えば、アモルファスナノシリカの分散液(オルガノシリカゾル)にシランカップリング剤を添加して、20~80℃で1~10時間程度撹拌することにより表面処理を行い得る。反応促進等を目的として触媒を用いてもよい。
【0063】
ポリアミド酸組成物における無機微粒子の含有量は、ポリアミド酸100重量部に対して1~30重量部が好ましく、3~20重量部がより好ましい。無機微粒子の含有量が1重量部以上であれば、耐熱性向上に寄与し得る。無機微粒子の含有量が30重量部以下であれば、ポリイミド膜の機械特性および透明性への悪影響を抑制できる。
【0064】
ポリアミド酸と無機微粒子を含むポリアミド酸組成物は、例えば、ポリアミド酸溶液に無機微粒子を添加することにより調製できる。有機溶媒中に無機微粒子が分散している分散液に、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物を添加して、分散液中でポリアミド酸の重合を行ってもよい。無機微粒子の分散液中で重合を行うことにより、ポリアミド酸と無機微粒子とが複合化したポリアミド酸組成物を調製できる。ポリアミド酸と無機微粒子とが複合化した組成物を用いることにより、ポリイミドの脱水により得られるポリイミドの耐熱性が向上する傾向がある。
【0065】
[ポリアミド酸の重合]
有機溶媒中でジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させることによりポリアミド酸が得られる。例えば、ジアミンを、有機溶媒中に溶解またはスラリー状に分散させて、ジアミン溶液とし、テトラカルボン酸二無水物を、有機溶媒に溶解もしくはスラリー状に分散させた溶液または固体の状態で、上記ジアミン溶液中に添加すればよい。テトラカルボン酸二無水物溶液中に、ジアミンを添加してもよい。
【0066】
ポリアミド酸の重合に使用する有機溶媒は特に限定されない。有機溶媒は、使用するテトラカルボン酸二無水物およびジアミンを溶解可能であり、かつ重合により生成するポリアミド酸を溶解可能であるものが好ましい。ポリアミド酸の重合に使用する有機溶媒の具体例としては、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルフォン等のスルホキシドあるいはスルホン系溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ―ブチロラクトン等のエステル系溶媒;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶媒:シクロペンタノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。通常これらの溶媒を単独で用いるが、必要に応じて2種以上を適宜組み合わせてもよい。ポリアミド酸の溶解性および反応性を高めるために、ポリアミド酸の重合に使用する有機溶媒は、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒およびエーテル系溶媒より選択されることが好ましく、特にDMF、DMAC、NMP等のアミド系溶媒が好ましい。溶液の安定性を高めるために、ジエチレングリコールやテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒を添加してもよい。
【0067】
上記のように、有機溶媒中に無機微粒子を分散させた分散液中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させてポリアミド酸を合成してもよい。この場合、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを溶解可能であることに加えて、無機微粒子の分散性に優れる有機溶媒を選択することが好ましい。
【0068】
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重合によりポリアミド酸を調製する場合、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物のいずれか一方または両方に、複数種を用い、その仕込み量を調整することにより、複数種の構造単位を有するポリアミド酸共重合体が得られる。例えば、ジアミンとしてTFMB等のシリコン原子を含まないジアミンとシリコーンジアミンとを用いることにより、構造単位1および構造単位2を有するポリアミド酸が得られる。ジアミンの比率を変更することにより、ポリアミド酸における構造単位1と構造単位2の比率を任意に調整できる。同様に、複数のテトラカルボン酸二無水物を用いることにより、複数種の有機基Xを有するポリアミド酸が得られる。例えば、テトラカルボン酸二無水物としてPMDAおよびBPAFを用いることにより、4価の有機基Xとして構造(A)および構造(C)を有するポリアミド酸が得られ、BPDAおよびBPAFを用いることにより、4価の有機基Xとして構造(B)および構造(C)を有するポリアミド酸が得られる。2種以上のポリアミド酸をブレンドして、複数のテトラカルボン酸二無水物およびジアミンを含有するポリアミド酸を得ることもできる。
【0069】
ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の溶解および反応は、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との反応の温度条件は、特に限定されないが、例えば、25℃~150℃であり、シリコーンジアミンの反応を十分に進め、かつポリアミド酸の分解を抑制する観点から、40~150℃が好ましく、60~120℃がより好ましい。反応時間は、例えば、10分~30時間の範囲で任意に設定すればよい。反応の進行に伴ってポリアミド酸の分子量が大きくなり、反応液の粘度が上昇する。
【0070】
TFMB等のフッ素含有ジアミンは、フッ素を含まない芳香族ジアミンに比べて反応速度が小さい。反応溶液におけるテトラカルボン酸二無水物およびジアミンの濃度を高めることにより、反応速度を上昇できる。反応溶液における原料(ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物)の仕込み濃度は、15~30重量%が好ましい。
【0071】
末端に酸無水物基を有する第一セグメントのポリアミド酸を調製し、シリコーンジアミンを添加することにより、第一セグメントの両末端に第二セグメントが結合したABA型トリブロック共重合体が得られる。まず、有機溶媒中でテトラカルボン酸二無水物と第一ジアミンとを反応させることにより、第一セグメントを形成する。第一ジアミンは、ポリアミド酸を構成するジアミンのうち、シリコーンジアミン以外の成分であり、シリコン原子を含まないジアミンである。第一ジアミンは例えばTFMBである。第一ジアミンは、TFMB以外のジアミンを含んでいてもよい。
【0072】
第一セグメント形成時のテトラカルボン酸二無水物類の投入量(総モル数)は、第一ジアミンの投入量(総モル数)よりも多いことが好ましい。テトラカルボン酸二無水物の投入量が多いことにより、末端に酸無水物基を有するポリアミド酸(第一セグメント)が形成される。一方、テトラカルボン酸二無水物の投入量が過度に大きいと、第一セグメントの分子量が十分に上昇しない場合がある。第一セグメントの形成において、テトラカルボン酸二無水物の総モル数は、第一ジアミンの総モル数の1.001倍以上、1.100倍未満が好ましく、1.01~1.09倍がより好ましく、1.03~1.08倍がさらに好ましい。
【0073】
テトラカルボン酸二無水物と第一ジアミンとの反応により第一セグメントを形成後に、第二ジアミンを添加すると、第一セグメントの末端の酸無水物基と第二ジアミンとが反応し、両末端に第二ジアミンの残基を有するポリアミド酸が得られる。第一セグメントの形成時にテトラカルボン酸二無水物の一部が未反応で残存している場合は、未反応のテトラカルボン酸二無水物と第二ジアミンとの反応により、第一セグメントの両末端で第二セグメントが伸長する。第一セグメントの形成後に、第二ジアミンに加えて、テトラカルボン酸二無水物を追加で添加してもよい。
【0074】
第二ジアミンがシリコーンジアミンを含んでいれば、構造単位2を含まない第一セグメントの両末端に、構造単位2を含む第二セグメントが結合したブロック共重合体が得られる。第二ジアミンは、シリコーンジアミンのみでもよく、シリコーンジアミン以外のジアミンを含んでいてもよい。第二セグメントは、シリコーンジアミン由来のポリシロキサン構造に加えて、第一セグメントの形成時に未反応で残存していた第一ジアミン由来の構造を含んでいてもよい。
【0075】
[ポリアミド酸溶液]
無機微粒子含有ポリイミドの調製に用いるポリアミド酸溶液は、上記のポリアミド酸組成物(ポリアミド酸および無機微粒子)と溶媒とを含む。無機微粒子の分散液中でジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させた溶液は、そのまま無機微粒子含有ポリアミド酸溶液として使用できる。ポリアミド酸溶液に無機微粒子を添加してもよい。重合溶液から溶媒の一部を除去したり、溶媒を添加することにより、ポリアミド酸の濃度および溶液の粘度を調整してもよい。添加する溶媒は、ポリアミド酸の重合に用いた溶媒と異なっていてもよい。また、重合溶液から溶媒を除去して得られた固体のポリアミド酸樹脂を溶媒に溶解してポリアミド酸溶液を調製してもよい。ポリアミド酸溶液の有機溶媒としては、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒およびエーテル系溶媒が好ましく、中でも、DMF、DMAC、NMP等のアミド系溶媒が好ましい。
【0076】
加工特性や各種機能の付与等を目的として、ポリアミド酸溶液に、有機または無機の低分子または高分子化合物を配合してもよい。添加剤としては、染料、顔料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、シリコーン、シランカップリング剤、増感剤、フィラー等が挙げられる。ポリアミド酸溶液は、ポリアミド酸以外に、光硬化性成分、熱硬化性成分、非重合性樹脂等の樹脂成分を含んでいてもよい。
【0077】
イミド化反応の促進等を目的として、ポリアミド酸溶液には、イミド化剤および/または脱水剤を添加してもよい。イミド化剤は特に限定されないが、第三級アミンを用いることが好ましく、中でも複素環式の第三級アミンが好ましい。複素環式の第三級アミンとしては、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン等が挙げられる。脱水触媒としては、無水酢酸、プロピオン酸無水物、n-酪酸無水物、安息香酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等が挙げられる。
【0078】
ポリアミド酸溶液に、イミダゾール類を添加してもよい。イミダゾール類とは、1H-イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル2-フェニルイミダゾール等の1,3-ジアゾール環構造を含有する化合物である。中でも、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル2-フェニルイミダゾールが好ましく、1,2-ジメチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾールが特に好ましい。
【0079】
イミダゾール類の添加量は、ポリアミド酸のアミド基1モルに対して0.005~0.1モル程度が好ましく、0.01~0.08モルがより好ましく、0.015~0.050モルがさらに好ましい。「ポリアミド酸のアミド基」とは、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の重付加反応によって生成したアミド基を意味する。イミダゾール類の添加量が上記範囲であれば、ポリアミド酸溶液の保存安定性向上に加えて、ポリイミド膜の耐熱性向上や、無機支持体とポリイミド膜との積層体の内部応力低減が期待できる。
【0080】
イミダゾール類を添加する場合は、ポリアミド酸を重合後に添加を行うことが好ましい。イミダゾール類は、そのままポリアミド酸溶液に添加してもよく、イミダゾール溶液としてポリアミド酸溶液に添加してもよい。
【0081】
[ポリイミドおよびポリイミド膜]
ポリアミド酸の脱水閉環により、ポリイミドが得られる。脱水閉環は、共沸溶媒を用いた共沸法、熱的手法または化学的手法によって行うことができる。ポリアミド酸からポリイミドへのイミド化は、1~100%の任意の割合をとることができ、一部がイミド化されたポリアミド酸を合成してもよい。
【0082】
ポリイミド膜を得るためには、ガラス板、金属板、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の支持体にポリアミド酸溶液を膜状に塗布し、加熱によりポリアミド酸を脱水閉環する方法が好ましい。加熱時間の短縮や特性発現のために、前述のように、イミド化剤および/または脱水触媒をポリアミド酸溶液に添加してもよい。バッチタイプのデバイス製造プロセスに適応させるためには、支持体としてガラス基板を用いることが好ましく、無アルカリガラスが好適に用いられる。
【0083】
支持体上へのポリイミド膜の形成においては、まず、支持体に無機微粒子含有ポリアミド酸溶液を塗布して塗膜を形成し、支持体とポリアミド酸の塗膜との積層体を40~200℃の温度で3~120分加熱して溶媒を除去する。例えば、50℃にて30分、続いて100℃にて30分のように、2段階以上の温度で乾燥を行ってもよい。
【0084】
支持体とポリアミド酸との積層体を、温度200~400℃で3分~300分加熱することにより、ポリアミド酸が脱水閉環して、支持体上に微粒子を含むポリイミド膜が設けられた積層体が得られる。このとき低温から徐々に高温にし、最高温度まで昇温することが好ましい。昇温速度は2~10℃/分が好ましく、4~10℃/分がより好ましい。最高温度は250~400℃が好ましい。最高温度が250℃以上であれば、十分にイミド化が進行し、最高温度が400℃以下であれば、ポリイミドの熱劣化や着色を抑制できる。イミド化のための加熱においては、最高温度に到達するまでに任意の温度で任意の時間保持してもよい。
【0085】
加熱雰囲気は、空気下、減圧下、または窒素等の不活性ガス中のいずれでもよい。より高い透明性を発現させるためには、減圧下、または不活性ガス中での加熱が好ましい。加熱装置としては、熱風オーブン、赤外オーブン、真空オーブン、イナートオーブン、ホットプレート等が挙げられる。
【0086】
[ポリイミドの特性および用途]
ポリイミドは、そのまま、製品や部材を作製するためのコーティングや成形プロセスに供してもよい。上記のように、ポリイミドは、フィルム状に成形されたポリイミド膜とすることもできる。ポリイミド膜の表面には、金属酸化物や透明電極等の各種無機薄膜を形成していてもよい。これら無機薄膜の製膜方法は特に限定されるものではなく、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等のPVD法が挙げられる。
【0087】
本実施形態のポリイミド膜は、耐熱性および透明性を有しているため、ガラスの代替材料としての利用が可能であり、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレイ、光学フィルム、液晶表示装置、有機ELおよび電子ペーパー等の画像表示装置、3Dディスプレイ、タッチパネル、透明導電膜基板、太陽電池等に適用可能である。これらの用途において、ポリイミド膜の厚みは、例えば1~200μm程度であり、5~100μm程度が好ましい。
【0088】
本実施形態のポリイミド膜はガラス支持体との積層体の内部応力が小さいため、支持体上にポリアミド酸溶液を塗布し、加熱してイミド化し、積層体のポリイミド膜上に電子素子等を形成した後、支持体からポリイミド膜を剥がす、バッチタイプのデバイス作製プロセスを適用できる。
【0089】
バッチタイプのデバイス作製プロセスにおいては、上記の方法により、支持体上へのポリアミド酸溶液の塗布、および加熱によるイミド化が行われ、支持体上にポリイミド膜が密着積層された積層体が形成される。この積層体のポリイミド膜上に、TFT等の電子素子を形成する。TFT素子の形成においては、一般に300℃以上の高温で酸化物半導体やアモルファスシリコン等が形成される。
【0090】
ポリイミド膜の熱分解温度が低い場合、素子形成時の加熱によりポリイミド膜からアウトガスが発生し、ポリイミド膜上に形成した素子の性能低下や剥離の原因となり得る。そのため、ポリイミド膜の1%重量減少温度Td1は450℃以上が好ましい。Td1は、460℃以上、または465℃以上、470℃以上または475℃以上であってもよい。
【0091】
ポリイミド膜のガラス転移温度が電子素子形成時のプロセス温度よりも低い場合は、素子形成中および素子形成後の冷却時の寸法変化により、支持体とポリイミド膜との界面に応力が生じ、反りや破損の原因となり得る。そのため、ポリイミド膜のTgは、300℃以上が好ましく、350℃以上がより好ましく、380℃以上がより好ましい。Tgは、390℃以上、395℃以上または400℃以上であってもよい。
【0092】
上記のように、シリコーンジアミン由来のポリオルガノシロキサン構造を有するポリイミドは、一般に、ポリオルガノシロキサン構造を含まないポリイミドに比べて耐熱性が低下する傾向があり、
図1(比較例2)および
図2(比較例3)の加熱重量変化に示すように、200~300℃付近から重量減少がみられる。
【0093】
図4は、無機微粒子を含まないポリイミド膜(後述の比較例2)の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)像であり、シリコーンのドメイン(白色の島状領域)が形成されていることが分かる。ポリオルガノシロキサン構造を有するポリイミドを加熱すると、近接したシロキサン結合間での縮合により環状シロキサンが生成しやすく、これが200~300℃付近での熱分解(熱重量減少)の一要因であると考えられる。
【0094】
図5は、シリカ微粒子を含むポリイミド膜(後述の実施例2)の断面TEM像であり、
図4と同様の白色の島状領域に加えて、黒色の領域が確認される。この黒色の領域がシリカ粒子であり、シリカ粒子が、シリコーンのドメイン間に入り込むように分散していることが分かる。このように、無機微粒子がシリコーンのドメイン間に分散していることにより、隣接するドメイン同士の近接が阻害されるため、加熱による環状シロキサンの生成が抑制されるために、熱分解温度が上昇すると推定される。
【0095】
前述のように、ポリオルガノシロキサンのドメインを有するポリイミド膜は、応力が分散されやすく、内部応力が低減する傾向がある。本実施形態では、ポリオルガノシロキサン構造を有するポリイミドと無機微粒子とが複合化していることにより、ポリオルガノシロキサンのドメインによる応力緩和効果を保持しながら、シロキサンの縮合環化等に起因する熱分解が抑制されるため、ポリイミド膜の内部応力が小さく、かつ耐熱性に優れていると考えられる。
【0096】
一般的に、ガラスの熱膨張係数は樹脂に比較して小さいため、電子素子形成時の加熱や、その後の冷却の温度変化により、支持体とポリイミド膜との積層体の界面に応力が発生する。支持体と支持体上に形成したポリイミド膜との界面の応力が残留していると、電子素子の形成プロセス等において高温に加熱した後、常温への冷却時にポリイミド膜が収縮すると、積層体の反りやガラス支持体の破損、フレキシブル基板(ポリイミド膜)のガラス支持体からの剥離等の問題が生じる場合がある。
【0097】
上記のように、本実施形態の無機微粒子含有ポリアミド酸溶液を用いて作製されるポリイミド膜は、耐熱性、透明性および低熱膨張性に加えて、ガラス支持体との積層体における内部応力を小さくできる。支持体とポリイミド膜との積層体の内部応力は、30MPa以下が好ましく、25MPa以下がより好ましく、20MPa以下がさらに好ましい。
【0098】
バッチタイプのデバイス作製プロセスにおいて、ポリイミド膜上に電子素子等を正確に形成または実装するために、支持体とポリイミド膜との密着性が高いことが好ましい。支持体上に密着積層されたポリイミド膜の支持体からの90℃ピール強度は、0.05N/cm以上が好ましく、0.1N/cm以上がより好ましい。一方で、実装後に支持体からポリイミド膜を剥離する際の作業性等の観点から、ピール強度は、0.25N/cm以下が好ましい。
【0099】
支持体からポリイミド膜を剥離する方法は特に限定されない。例えば、手で引き剥がしてもよく、駆動ロール、ロボット等の剥離装置を用いてもよい。支持体とポリイミド膜との密着性を低下させることにより剥離を行ってもよい。例えば、剥離層を設けた支持体上にポリイミド膜を形成してもよい。多数の溝を有する基板上に酸化シリコン膜を形成し、エッチング液を浸潤させることにより剥離を促進してもよい。レーザー光の照射より剥離を行ってもよい。
【0100】
レーザー照射により支持体からポリイミド膜を剥離する場合は、ポリイミド膜にレーザー光を吸収させる必要があるため、ポリイミド膜のカットオフ波長(透過率が0.1%以下となる波長)は、剥離に使用するレーザー光の波長よりも長波長であることが求められる。レーザー剥離には、波長308nmのXeClエキシマーレーザーが用いられることが多いため、ポリイミド膜のカットオフ波長は320nm以上が好ましく、330nm以上がより好ましい。一方、カットオフ波長が長波長であると、ポリイミド膜が黄色に着色する傾向があるため、カットオフ波長は390nm以下が好ましい。透明性(低黄色度合)とレーザー剥離の加工性とを両立する観点から、ポリイミド膜のカットオフ波長は、320~390nmが好ましく、330~380nmがより好ましい。
【0101】
ポリイミド膜の透明性は、JIS K7105-1981に従った全光線透過率およびヘイズで評価できる。ポリイミド膜の全光線透過率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。ポリイミド膜のヘイズは、1.5%以下が好ましく、1.2%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましい。ディスプレイ等の用途においては、可視光の全波長領域で透過率が高いことが要求される。ポリイミド膜の黄色度(YI)は、15以下が好ましく、10以下がより好ましい。YIは、JIS K7373-2006に従い測定できる。このように透明性の高いポリイミド膜は、ガラス代替用途等の透明基板として使用できる。
【0102】
ポリイミド膜を基板とするフレキシブルデバイスとして有機ELディスプレイや有機EL照明が挙げられる。有機ELデバイスは、基板側から光を取り出すボトムエミッション方式と、基板の反対面から光を取り出すトップエミッション方式の2種類がある。可視光の透過率が高くYIが小さい透明ポリイミド膜は、ボトムエミッション方式の有機ELデバイスの基板材料としても適している。
【0103】
ボトムエミッション方式の有機ELデバイスでは、基板を通して光が出射されるため、基板材料には、透明性に加えて、視認性向上の観点から、光学的な等方性を有し、複屈折に由来する厚み方向のレタデーション(Rth)が小さいことが要求される場合がある。同様に、タッチパネル用基板にもRthが小さいことが要求される場合がある。具体的には、ポリイミド膜の厚さ10μmを基準として、Rthは300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましくは、100nm以下がさらに好ましく、50nm以下が特に好ましい。Rthは、厚み方向の複屈折(面内の平均屈折率と厚み方向の屈折率との差)と厚みとの積である。すなわち、ポリイミド膜の厚み方向の複屈折は、0.03以下が好ましく、0.02以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましく、0.005以下が特に好ましい。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を示し具体的に説明するが、これらは説明のために記述されるものであり、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0105】
[評価方法]
<黄色度>
紫外可視近赤外分光光度計(日本分光製「V-650」)を用いて、ポリイミド膜の200~800nmにおける光透過率を測定し、JIS K7373記載の式から、黄色度(YI)を算出した。
【0106】
<ヘイズ>
積分球式ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製「HM-150N」)により、JIS K7136に記載の方法により測定した。
【0107】
<内部応力>
あらかじめ反り量を計測していたコーニング社製の無アルカリガラス(厚み0.7mm、100mm×100mm)上に実施例および比較例で調製したポリアミド酸溶液をスピンコーターで塗布し、空気中80℃で30分、窒素雰囲気下380℃で60分加熱し、ガラス基板上に膜厚10μのポリイミド膜を備える積層体を得た。ポリイミド膜の吸水の影響を排除するために、積層体を120℃で10分乾燥させた後、窒素雰囲気下25℃における積層体の反り量を、薄膜応力測定装置(テンコール製「FLX-2320-S」)を用いて測定し、ガラス基板とポリイミド膜の間の内部応力を評価した。
【0108】
<レターデーション(Rth)>
シンテック社製の位相差計「OPTIPRO」を用いて、波長590nmの光に対する厚み方向レターデーションRthを測定し、試料の膜厚D(μm)から、下記の式に基づいて、厚み10μmでの厚み方向レターデーションRth(10)を算出した。
Rth(10)=Rth×10/D
【0109】
<ガラス転移温度(Tg)>
熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス製「TMA/SS7100」)を用い、幅3mm、長さ10mmの試料に98.0mNの荷重をかけ、10℃/minで20℃から450℃まで昇温し、温度と歪量(伸び)をプロットした(TMA曲線)。傾きが変化する前後のTMA曲線の接線から外挿した交点をガラス転移温度とした。
【0110】
<1%重量減少温度(Td1)>
エスアイアイ・ナノテクノロジー製「TG/DTA/7200」を用い、窒素雰囲気下、20℃/minで25℃から500℃(比較例1Bおよび比較例1Cは550℃)まで昇温し、重量が1%減少した際の温度をポリイミド膜のTd1とした。
【0111】
[化合物および試薬類の略称]
以下において、化合物および試薬類は下記の略称で記載している。
<溶媒>
NMP:1-メチル-2-ピロリドン
DGDE:ジエチレングリコールジエチルエーテル
<テトラカルボン酸二無水物>
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPAF:9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン酸二無水物
BPDA:3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
<ジアミン>
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
<シリコーンジアミン:いずれも信越化学工業製の両末端変性シリコーン>
X-22-1660B-3:一般式(4)におけるR2がメチル基、R3がフェニルであり、フェニルの割合が25モル%、m=40の化合物;Mw=4400
KF-8012:一般式(4)におけるR2およびR3がメチル、m=57~65である化合物;Mw=4400~5000
<その他>
APS:3-アミノプロピルトリエトキシシラン
【0112】
[実施例1]
<ポリアミド酸溶液の調製>
(ナノシリカの表面処理)
ステンレス製撹拌棒を備えた撹拌機および窒素導入管を装着した300mLのガラス製セパラブルフラスコに、オルガノシリカゾル(日産化学製「NMP-ST-R2」、ナノシリカの平均一次粒子径:10~15nm、ナノシリカ含有量30wt%のNMP分散液):4.6gおよびNMP:37.1gを仕込み撹拌した。その後、APSの3wt%NMP溶液を4.2g添加し、25℃で1時間撹拌して、ナノシリカの表面処理を実施した。
【0113】
(ポリアミド酸の重合)
上記の表面処理ナノシリカ粒子のNMP溶液に、TFMB:7.012gを添加して攪拌した。この溶液に、PMDA:3.244gを加え、10分以上攪拌した後、BPAF:3.764gを加え、室温で12時間攪拌した。この溶液に、ポリアミド酸濃度が15重量%となるようにNMPを加えて希釈し、80℃のオイルバスで5分加熱した後、KF-8012の10%DGDE溶液:2.0gをゆっくりと滴下した。滴下後、80℃で30分攪拌し、氷水で急冷して、均一で透明なポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液は、テトラカルボン酸二無水物(PMDAおよびBPAF)とジアミン(TFMB)の仕込み量の合計100重量部に対して、10重量部のナノシリカを含んでいた。
【0114】
[比較例1A]
セパラブルフラスコに、溶媒としてNMP56.0gを仕込み、オルガノシリカゾルおよびAPSを添加しなかった。それ以外は実施例1と同様にして、無機微粒子を含まないポリアミド酸溶液を調製した。
【0115】
[比較例1B]
実施例1と同様にナノシリカの表面処理を行い、表面処理ナノシリカ粒子のNMP溶液に、TFMB、PMDAおよびBPAFを順に添加し、室温で12時間撹拌した後、NMPで希釈して、濃度15重量%のポリアミド酸溶液を調製した。シリコーンジアミンとの反応は実施しなかった。
【0116】
[比較例1C]
オルガノシリカゾルおよびAPSを添加せずに、NMP56.0gにTFMB、PMDAおよびBPAFを順に添加し、室温で12時間撹拌した後、NMPで希釈して、無機微粒子を含まないポリアミド酸溶液を調製した。シリコーンジアミンとの反応は実施しなかった。
【0117】
[実施例2,3および実施例4C]
ポリアミド酸の重合におけるテトラカルボン酸二無水物の種類および仕込み量、ならびにシリコーンジアミンの種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ナノシリカを含むポリアミド酸溶液を調製した。
【0118】
[実施例4A,4Bおよび4D]
ナノシリカの表面処理におけるオルガノシリカゾルの添加量を、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの合計100重量部に対するナノシリカの量が、3重量部、5重量部、20重量部となるように変更し、これにあわせてAPSの添加量を変更した。それ以外は、実施例4Cと同様にして、ナノシリカを含むポリアミド酸溶液を調製した。
【0119】
[比較例2~4]
ポリアミド酸の重合におけるテトラカルボン酸二無水物の種類および仕込み量、ならびにシリコーンジアミンの種類を表1に示すように変更したこと以外は、比較例1Aと同様にして、無機微粒子を含まないポリアミド酸溶液を調製した。
【0120】
[ポリイミド膜の作製]
上記の実施例および比較例のポリアミド酸溶液をスピンコーターでガラス板上にて塗布し、空気中80℃で30分、窒素雰囲気下380℃で1時間加熱して、膜厚10~15μmのポリイミド膜を得た。
【0121】
実施例および比較例のポリアミド酸の組成、およびポリイミド膜の特性の評価結果を表1に示す。また、実施例2および比較例2のポリイミド膜のTG-DTAチャートを
図1、実施例3および比較例3のポリイミド膜のTG-DTAチャートを
図2、比較例1Bおよび比較例1Cのポリアミド膜のTG-DTAチャートを
図3に示し、比較例2および実施例2のポリイミド膜の断面TEM像を
図4,5に示す。
【0122】
表1におけるテトラカルボン酸二無水物の量(mol%)は、ジアミンの合計を100mol%に対する値であり、シリコーンジアミンおよびナノシリカの量(phr)は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の仕込み量の合計100重量部に対する値である。いずれの実施例および比較例のポリイミド膜も、ヘイズは1%未満、YIは10以下であった。
【0123】
【0124】
シリコーンジアミンを含まない比較例1Cのポリイミド膜は、Td1が500℃以上であり、優れた耐熱性を示したが、積層体の内部応力が50MPaを超えていた。シリコーンジアミンとの反応により、ポリオルガノシロキサン構造を導入した比較例1Aでは、内部応力が比較例1Aの半分以下に低減されており、これに伴ってポリイミド膜の複屈折も小さくなっていた。しかしながら、比較例1Aでは、比較例1Cに比べてTd1が大幅に低下していた。これらの結果から、シリコーンジアミンとの反応によりポリシロキサン構造を導入したポリアミド酸を用いて作製したポリイミド膜は、基板との積層体における内部応力を低減可能であるものの、ポリシロキサン構造の導入により耐熱性が低下する傾向があることが分かる。
【0125】
ナノシリカの分散液中で比較例1Aと同一組成のポリアミド酸を合成した実施例1では、比較例1Aと同様の低内部応力を維持しており、比較例1Aに比べてTd1が20℃上昇していた。比較例2と実施例2との対比、比較例3と実施例3との対比、および比較例4と実施例4A~4Dとの対比からも、無機微粒子との複合化により、低内部応力を維持したまま、耐熱性が向上することが分かる。また、実施例4A~4Dでは、無機微粒子の添加量の増大に伴って、Td1およびTgが上昇する傾向がみられた。
【0126】
これらの結果から、シリコーンジアミンとの反応によりポリシロキサン構造を導入し、無機微粒子と複合化したポリアミド酸を用いて作製したポリイミド膜は、基板との積層体の内部応力が小さく、かつ耐熱性に優れることが分かる。
【0127】
図1において、比較例2では、210℃~300℃で重量減少が確認されたのに対して、無機微粒子を含む実施例2では、この温度領域での重量減少が抑制されている。
図2において、比較例3では、270℃付近から重量減少が生じているのに対して、無機微粒子を含む実施例3では、400℃付近まで重量減少がほとんどみられず、比較例3に比べて1%重量減少温度Td1が上昇している。これらの結果から、無機微粒子を含むことにより、低温での熱分解が抑制され、1%重量減少温度Td1が上昇することが分かる。また、実施例2,3は、比較例2,3と比べて、400℃以上の高温領域においても、重量減少(熱分解)が抑制されていることが分かる。
【0128】
ポリシロキサン構造を含まないポリイミドについて、無機微粒子の有無の対比を行った比較例1Bと比較例1Cでは、比較例1Bが比較例1CよりもわずかにTd1が高かったものの、
図3では、両者の重量減少の傾向に明確な差はなく、無機微粒子を含まない比較例1Cにおいても、比較例2(
図1)や比較例3(
図2)のような、200~300℃付近での熱重量減少はみられなかった。これらの結果から、無機微粒子の使用による耐熱性の向上は、ポリシロキサン構造を有するポリイミドに特異的な効果であるといえる。
【0129】
比較例1Aと比較例1Cとの対比(シリコーンジアミンの有無による耐熱性の相違)および
図1~3に示す重量減少のグラフから、無機微粒子を含まないポリイミドにおける200~300℃付近の熱重症減少、およびこれに伴うTd1の低下は、ポリシロキサン構造の導入に起因するものであると考えられる。各実施例と比較例との対比に示されるように、ポリシロキサン構造を導入したポリイミドと無機微粒子とを複合化することにより、ポリシロキサン構造に起因する熱分解が抑制されるため、ポリシロキサン構造を有するポリイミドと無機微粒子との組み合わせにより、特異的に耐熱性が向上すると考えられる。
【0130】
図4(比較例2のポリイミド膜の断面TEM像)では、白色の島状領域が観測された。これは、シリコーン(ポリシロキサン構造)のドメインであると考えられ、このドメインが内部応力低減作用を有する反面、200~300℃付近での重量減少の要因であると推定される。
図5(実施例2のポリイミド膜の断面TEM像)では、白色のドメインに加えて、黒色の領域が観測された。この黒色の領域は、シリカ粒子であると考えられる。この黒色の領域(シリカ粒子)は、白色のドメイン(シリコーンのドメイン)の間に入り込むように分散しており、シリカ粒子が、ドメイン間の相互作用(例えば、加熱によるシロキサン同士の反応による環状シロキサンの生成)を阻害または抑制する作用を有することが、耐熱性向上に寄与していると考えられる。