(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240816BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240816BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 A
H01M4/36 E
(21)【出願番号】P 2021542908
(86)(22)【出願日】2020-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2020031919
(87)【国際公開番号】W WO2021039750
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019157582
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 なつみ
(72)【発明者】
【氏名】神 貴志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慎也
(72)【発明者】
【氏名】新名 史治
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 翔
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/117506(WO,A1)
【文献】特開平09-330720(JP,A)
【文献】特開2013-187033(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0009557(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liを除く金属元素の総モル数に対して80モル%以上のNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、少なくとも当該リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面にBが存在する正極活物質であって、
粒径が体積基準の70%粒径(D70)より大きな粒子を第1粒子、粒径が体積基準の30%粒径(D30)より小さな粒子を第2粒子としたとき、
前記第1粒子におけるLiを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率は、前記第2粒子におけるLiを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率よりも大きい、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一般式Li
aNi
bCo
cMn
dMe
eB
fO
g(式中、0.8≦a≦1.2、b≧0.80、c≦0.10、0.03≦d≦0.12、0≦e≦0.05、0.001≦f≦0.020、1≦g≦2、b+c+d+e+f=1、Meは第4族~第6族から選ばれる少なくとも1種以上の元素)で表される複合酸化物である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記第1粒子の表面及び前記第2粒子の表面において、Liを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率は80%以下である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記第1粒子及び前記第2粒子の表面において、Bは、Li及びBを含有するホウ素化合物の状態で存在する、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極と、
負極と、
非水電解質と、
を備えた、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用正極活物質、及び当該正極活物質を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Ni含有量の多いリチウム遷移金属複合酸化物が、高エネルギー密度の正極活物質として注目されている。例えば、特許文献1には、充電状態の正極活物質表面における電解質の分解によるガスの発生を抑制する目的で、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面にホウ酸化合物を被着させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
しかし、リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池において、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面に、ホウ酸化合物等の状態でホウ素を存在させると、高温での充放電に伴う電池容量の低下を抑制できるが、電池の抵抗値が上昇して、レート特性が低下してしまう。特許文献1に開示された技術は、高温での充放電に伴う電池容量の低下の抑制と、レート特性の低下の抑制との両立について未だ改良の余地がある。
【0005】
本開示の目的は、高エネルギー密度の正極活物質を含む非水電解質二次電池において、高温での充放電に伴う電池容量の低下の抑制と、レート特性の低下の抑制とを両立させることである。
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池用正極活物質は、Liを除く金属元素の総モル数に対して80モル%以上のNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物を含み、少なくとも当該複合酸化物の粒子表面にBが存在する正極活物質である。粒径が体積基準の70%粒径(D70)より大きな粒子を第1粒子、粒径が体積基準の30%粒径(D30)より小さな粒子を第2粒子としたとき、第1粒子における、Liを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率は、第2粒子における、Liを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率よりも大きいことを特徴とする。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、上記正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備える。
【0008】
本開示の一態様である正極活物質によれば、高温での充放電に伴う電池容量の低下抑制と、レート特性の低下の抑制とが両立した非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、粒径が大きな上記第1粒子におけるBのモル分率を、粒径が小さな上記第2粒子におけるBのモル分率より高くすることで、高温での充放電に伴う電池容量の低下と、レート特性の低下とが特異的に抑制されることを見出した。第1粒子及び第2粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物の一次粒子が集合した二次粒子であって、リチウム遷移金属複合酸化物は、高温での充放電時に電解質と副反応を起こすことで表面のNiO化が進行して二次粒子が割れる、いわゆる二次粒子割れという現象を起こしやすい。二次粒子割れの発生により、二次粒子の内部で一次粒子同士の間の導電パスが切れるので、電池容量が低下してしまうが、上述の特許文献1に記載のように、リチウム遷移金属複合酸化物の二次粒子の表面にBを存在させることで、高温での電解質とリチウム遷移金属複合酸化物との副反応を抑制して、二次粒子割れの発生を抑制できる。しかし、リチウム遷移金属複合酸化物の表面にBを存在させると、電池の抵抗が大きくなってしまうため、レート特性が低下するという問題があった。そこで、粒径の大きな第1粒子と粒径の小さな第2粒子におけるBのモル分率を調整し、第1粒子におけるBのモル分率を高くすることで、第1粒子の二次粒子割れを抑制しつつ、第2粒子におけるBのモル分率を低くすることで、リチウム遷移金属複合酸化物の全体に存在するBのモル分率を低くしてレート特性の低下を抑制することに成功した。
【0011】
以下、本開示に係る非水電解質二次電池用正極活物質、及び当該正極活物質を用いた非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。以下では、巻回型の電極体14が有底円筒形状の外装缶16に収容された円筒形電池を例示するが、外装体は円筒形の外装缶に限定されず、例えば角形の外装缶であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体であってもよい。また、電極体は複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層された積層型の電極体であってもよい。
【0012】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面図である。
図1に例示するように、非水電解質二次電池10は、巻回型の電極体14と、非水電解質と、電極体14及び電解質を収容する外装缶16とを備える。電極体14は、正極11、負極12、及びセパレータ13を有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻き状に巻回された巻回構造を有する。外装缶16は、軸方向一方側が開口した有底円筒形状の金属製容器であって、外装缶16の開口は封口体17によって塞がれている。以下では、説明の便宜上、電池の封口体17側を上、外装缶16の底部側を下とする。
【0013】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。電解質塩には、例えばLiPF6等のリチウム塩が使用される。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0014】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状の長尺体であって、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11よりも長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。2枚のセパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、例えば正極11を挟むように配置される。電極体14は、溶接等により正極11に接続された正極リード20と、溶接等により負極12に接続された負極リード21とを有する。
【0015】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置される。
図1に示す例では、正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の内部端子板23の下面に溶接等で接続され、内部端子板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0016】
外装缶16と封口体17の間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性が確保される。外装缶16には、側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22が形成されている。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。封口体17は、溝入部22と、封口体17に対して加締められた外装缶16の開口端部とにより、外装缶16の上部に固定される。
【0017】
封口体17は、電極体14側から順に、内部端子板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。異常発熱で電池の内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0018】
以下、電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13について、特に正極11を構成する正極活物質について詳説する。
【0019】
[正極]
正極11は、正極芯体と、正極芯体の表面に設けられた正極合材層とを有する。正極芯体には、アルミニウムなどの正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層は、正極活物質、結着材、及び導電材を含み、正極リード20が接続される部分を除く正極芯体の両面に設けられることが好ましい。正極11は、例えば正極芯体の表面に正極活物質、結着材、及び導電材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0020】
正極合材層に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0021】
正極活物質は、Liを除く金属元素の総モル数に対して80モル%以上のNiを含有するリチウム遷移金属複合酸化物の粒子を含む。Niの含有量を80モル%以上とすることで、高エネルギー密度の電池が得られる。また、リチウム遷移金属複合酸化物には、少なくとも粒子表面にBが存在する。以下、説明の便宜上、当該リチウム遷移金属複合酸化物を「複合酸化物(Z)」とする。正極活物質は、複合酸化物(Z)を主成分とし、実質的に複合酸化物(Z)のみで構成されていてもよい。正極活物質には、本開示の目的を損なわない範囲で、複合酸化物(Z)以外の複合酸化物、或いはその他の化合物が含まれてもよい。
【0022】
複合酸化物(Z)は、Li、Ni、B以外の金属元素を含有していてもよい。当該金属元素としては、Co、Mn、Al、Zr、B、Mg、Fe、Cu、Zn、Sn、Na、K、Ba、Sr、Ca、W、Mo、Nb、Ti、Si等が例示できる。好適な複合酸化物(Z)の一例は、一般式LiaNibCocMndMeeBfOg(式中、0.8≦a≦1.2、b≧0.80、c≦0.10、0.03≦d≦0.12、0≦e≦0.05、0.001≦f≦0.020、1≦g≦2、b+c+d+e+f=1、Meは第4族~第6族から選ばれる少なくとも1種以上の元素)で表される複合酸化物である。即ち、Liを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率は、0.001~0.020であることが好ましく、0.005~0.015であることがより好ましい。複合酸化物(Z)の粒子全体の金属元素のモル分率は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定される。
【0023】
複合酸化物(Z)は、例えば、複数の1次粒子が凝集してなる2次粒子である。2次粒子を構成する1次粒子の粒径は、例えば0.05μm~1μmである。一次粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される粒子画像において外接円の直径として測定される。Bは、複合酸化物(Z)の2次粒子の表面に存在すると共に、2次粒子内部の1次粒子の表面や粒界部にも存在していてもよい。また、Bの一部は1次粒子の内部にも存在し、複合酸化物(Z)に含有される他の金属元素と共に固溶体を形成していてもよい。
【0024】
複合酸化物(Z)は、体積基準のメジアン径(D50)が、例えば3μm~30μm、好ましくは5μm~25μm、特に好ましくは7μm~15μmの粒子である。D50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。複合酸化物(Z)の粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用い、水を分散媒として測定できる。
【0025】
複合酸化物(Z)は、体積基準の粒径が70%粒径(D70)より大きな粒子を第1粒子、体積基準の粒径が30%粒径(D30)より小さな粒子を第2粒子としたとき、第1粒子におけるBのモル分率が、第2粒子におけるBのモル分率より高いことを特徴とする。これにより、高温での充放電に伴う電池容量の低下の抑制と、レート特性の低下の抑制とを両立させることができる。Bは第1粒子及び第2粒子のいずれにも含まれる。
【0026】
ここで、D70とは、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から70%となる粒径を意味する。同様に、D30とは、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から30%となる粒径を意味する。例えば、D70は9μm~19μmであり、D30は3μm~13μmである。また、複合酸化物(Z)の粒子表面に存在する金属元素のモル分率は、X線光電子分光分析(XPS)により測定される。X線の照射スポット径を1mmΦ以上とすることで、照射スポット内に数百個の複合酸化物(Z)の粒子が含まれるようになるので、複合酸化物(Z)の表面におけるBのモル分率を平均的に測定することができる。
【0027】
第2粒子におけるBのモル分率に対する、第1粒子におけるBのモル分率は、1.1以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、3以上であってもよい。第2粒子におけるBのモル分率に対する、第1粒子におけるBのモル分率の上限は、特に限定されないが、例えば、10である。
【0028】
第1粒子及び第2粒子の表面において、Bは、Li及びBを含有するホウ素化合物の状態で存在してもよい。B源としてはホウ酸(H3BO3)、酸化ホウ素(B2O3)、ホウ酸リチウム(LiBO2、Li2B4O7)等のホウ素化合物が使用される。B源としてホウ酸や酸化ホウ素を用いた場合、焼成時に粒子表面に存在するLiや別途添加されるLi源と反応してLi及びBを含有するホウ素化合物が生成する場合がある。
【0029】
当該ホウ素化合物は、二次粒子の表面全域を覆うように形成されていてもよく、粒子表面に点在していてもよい。粒子状の場合、ホウ素化合物の粒径は、一般的に、複合酸化物(Z)を構成する1次粒子の粒径よりも小さい。なお、ホウ素化合物の粒子はSEMで確認できる。ホウ素化合物は、複合酸化物(Z)を構成する2次粒子の表面の一部に偏在することなく、広範囲に付着していることが好ましい。
【0030】
また、第1粒子の表面及び第2粒子の表面におけるホウ素化合物の厚みは、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。この範囲であれば、レート特性の低下をより抑制しつつ、電池容量の低下についても許容範囲内に抑制することができる。また、ホウ素化合物の厚みは、10nm以上であることがより好ましい。この範囲であれば、電池容量の低下をより好ましい範囲内に抑制することができる。
【0031】
複合酸化物(Z)には、上述のように、Bが1次粒子の内部にも存在し、Ni等の遷移金属元素と固溶していてもよい。固溶している金属元素に対するBのモル分率は、一次粒子の断面において、エネルギー分散型X線分光法(EDS)により確認できる。複合酸化物(Z)は、固溶状態のB及び表面に存在するホウ素化合物の状態のBのトータルのモル数が、Liを除く金属元素の総モル数に対して0.001~0.020であることが好ましい。
【0032】
複合酸化物(Z)は、例えば以下の手順で作製できる。
(1)D50が異なる2種のLiを含有しない複合化合物(X1)及び(X2)に、それぞれ水酸化リチウム等のLi源を添加して焼成し、D50の異なるリチウム複合酸化物(Y1)及び(Y2)を合成する。複合化合物の一例は、Ni、Co、Mnを含有する複合酸化物や水酸化物である。このとき、1種のリチウム複合酸化物を分級して、2種の平均粒子径を持つリチウム複合酸化物を得てもよい。分級には、従来公知の方法を適用できる。また、得られたリチウム複合酸化物(Y1)及び(Y2)は水洗してもよい。水洗することにより、リチウム複合酸化物(Y1)及び(Y2)の表面に存在するLiの量だけでなく、Y1及びY2の内部に存在するLiの量も減少し、水洗したY1及びY2の内部には空隙が生じる。
(2)複合酸化物(Y1)及び(Y2)のそれぞれにB源を添加、粒子表面にBを複合化させた後、焼成し、複合酸化物(Z1)と(Z2)を合成する。その後、複合酸化物(Z1)と(Z2)を混合して複合酸化物(Z)を得ることができる。B源の一例は、ホウ酸(H3BO3)である。複合化には、乾式粒子複合化装置(例えば、ホソカワミクロン株式会社製、NOB-130)などを用いる。このとき、B源と共に、水酸化リチウム等のLi源を添加させてもよい。
【0033】
上記工程(2)において、複合酸化物(Y1)に対するH3BO3の添加量を、複合酸化物(Y2)に対するH3BO3の添加量よりも多くすることで、複合酸化物(Z1)におけるBのモル分率を複合酸化物(Z2)におけるBのモル分率よりも大きくすることができる。
【0034】
また、上記工程(2)における焼成温度は、例えば200℃~500℃である。複合酸化物(Y1)及び(Y2)の水洗の有無及び焼成温度の調整によって、第1粒子及び第2粒子におけるBの表面被覆率及びホウ素化合物の厚みを調整することができる。水洗したY1及びY2を高温でB源と共に焼成することで、Bの表面被覆率が低い複合酸化物(Z1)と(Z2)を合成することができる。なお、水洗したY1及びY2であっても低温で焼成するとBは粒子内部の空隙に入らず、粒子表面におけるBの表面被覆率及びホウ素化合物の厚みは、水洗しなかった場合と略同等である。高温とは、例えば、350℃~500℃であり、低温とは、例えば、200℃~325℃である。
【0035】
[負極]
負極12は、負極芯体と、負極芯体の表面に設けられた負極合材層とを有する。負極芯体には、銅などの負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層は、負極活物質及び結着材を含み、例えば負極リード21が接続される部分を除く負極芯体の両面に設けられることが好ましい。負極12は、例えば負極芯体の表面に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層を負極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0036】
負極合材層には、負極活物質として、例えばリチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素系活物質が含まれる。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。また、負極活物質には、Si及びSi含有化合物の少なくとも一方で構成されるSi系活物質が用いられてもよく、炭素系活物質とSi系活物質が併用されてもよい。
【0037】
負極合材層に含まれる結着材には、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。また、負極合材層は、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などを含むことが好ましい。中でも、SBRと、CMC又はその塩、PAA又はその塩を併用することが好適である。
【0038】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、セルロースなどが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータの表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
<実施例1>
[正極活物質の合成]
共沈により得られた、D50が12μmで組成がNi0.85Co0.08Mn0.07(OH)2のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物と、D50が8μmで組成がNi0.85Co0.08Mn0.07(OH)2のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物をそれぞれ500℃で焼成して、平均粒子径の大きいニッケルコバルトマンガン複合酸化物(X1)と、平均粒子径の小さいニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Y1)を得た。
【0041】
次に、水酸化リチウムと、平均粒子径の大きいニッケルコバルトマンガン複合酸化物(X1)を、Liと、Ni、Co、Mnの総量のモル比が、1.08:1になるようにそれぞれ混合した。この混合物を酸素雰囲気中にて700℃で8時間焼成した後、粉砕することにより、平均粒子径の大きいリチウム複合酸化物(X2)を得た。得られたリチウム複合酸化物(X2)について、水洗は行わなかった。
【0042】
次に、水酸化リチウムと、平均粒子径の小さいニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Y1)を、Liと、Ni、Co、Mnの総量のモル比が、1.08:1になるようにそれぞれ混合した。この混合物を酸素雰囲気中にて700℃で8時間焼成した後、粉砕することにより、平均粒子径の小さいリチウム複合酸化物(Y2)を得た。得られたリチウム複合酸化物(Y2)について、水洗は行わなかった。
【0043】
次に、平均粒子径の大きいリチウム複合酸化物(X2)と、ホウ酸(H3BO3)を、Ni、Co、Mnの総量と、H3BO3中のBのモル比が、1:0.015になるように乾式混合し、この混合物を大気中にて300℃で3時間焼成した後、粉砕することにより、粒子表面にBが存在したリチウム複合酸化物(X3)を得た。
【0044】
次に、平均粒子径の小さいリチウム複合酸化物(Y2)と、H3BO3を、Ni、Co、Mnの総量と、H3BO3中のBのモル比が、1:0.005になるように乾式混合し、この混合物を大気中にて300℃で3時間焼成した後、粉砕することにより、粒子表面にBが存在したリチウム複合酸化物(Y3)を得た。
【0045】
次に、リチウム複合酸化物(X3)と(Y3)を1:1の質量比で混合し、正極活物質とした。粒子表面及び粒子内部に存在するBはICPにより定量できる。粒子表面においてBが、Li及びBを含有するホウ素化合物の状態で存在することはXRD、XPS、XAFSなどで確認できる。
【0046】
ICPにより正極活物質の組成を分析した結果、Li1.01Ni0.84Co0.08Mn0.07B0.01O2であった。よって、ICPの結果から、Liを除く金属元素(Ni、Co、Mn、B)の総モル数に対するBのモル分率は、1.0%であった。また、ICPにより、リチウム複合酸化物(X3)と(Y3)の組成を分析した結果、Liを除く金属元素(Ni、Co、Mn、B)の総モル数に対するBのモル分率は、各々、1.5%と0.5%であった。
【0047】
Bの表面被覆率は、XPSで二次粒子表面におけるNi、Co、Mn、及びBのモル数を測定し、Ni、Co、及びMnの総モル数に対するBのモル分率から算出した。Bの表面被覆率は、リチウム複合酸化物(X3)と(Y3)で、いずれも96%であった。なお、正極活物質の粒度分布は、D50は12μm、D70は14μm、D30は10μmであった。
【0048】
[正極の作製]
上記正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、96.3:2.5:1.2の固形分質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えた後、これを混練して正極合材スラリーを調製した。当該正極合材スラリーをアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を得た。なお、正極の一部に正極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0049】
[負極の作製]
負極活物質として天然黒鉛を用いた。負極活物質と、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)と、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を、100:1:1の固形分質量比で水溶液中において混合し、負極合材スラリーを調製した。当該負極合材スラリーを銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーを用いて塗膜を圧延し、所定の電極サイズに切断して、負極芯体の両面に負極合材層が形成された負極を得た。なお、負極の一部に負極芯体の表面が露出した露出部を設けた。
【0050】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)を、3:3:4の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1.0モル/リットルの濃度で溶解した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を上記混合溶媒に対して2.0質量%の濃度で溶解させた非水電解質を調製した。
【0051】
[電池の作製]
上記正極の露出部にアルミニウムリードを、上記負極の露出部にニッケルリードをそれぞれ取り付け、ポリオレフィン製のセパレータを介して正極と負極を渦巻き状に巻回した後、径方向にプレス成形して扁平状の巻回型電極体を作製した。この電極体をアルミラミネートシートで構成される外装体内に収容し、上記非水電解質を注入した後、外装体の開口部を封止して、設計容量650mAhの非水電解質二次電池を得た。
【0052】
<実施例2>
X2とY2の各々に対して、水洗を行ったこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0053】
<実施例3>
X2とH3BO3の混合物、及びY2とH3BO3の混合物の焼成温度を、各々400℃としたこと以外は、実施例2と同様に作製した。
【0054】
<比較例1>
X2と、H3BO3を、Ni、Co、Mnの総量と、H3BO3中のBのモル比が、1:0.010となるように混合し、Y2と、H3BO3を、Ni、Co、Mnの総量と、H3BO3中のBのモル比が、1:0.010となるように混合したこと以外は、実施例1と同様に作製した。
【0055】
<比較例2>
X2と、H3BO3を、Ni、Co、Mnの総量と、H3BO3中のBのモル比が、1:0.010となるように混合し、Y2と、H3BO3を、Ni、Co、Mnの総量と、H3BO3中のBのモル比が、1:0.010となるように混合したこと以外は、実施例2と同様に作製した。
【0056】
<比較例3>
X2と、H3BO3を、Ni、Co、Mnの総量と、H3BO3中のBのモル比が、1:0.010となるように混合し、Y2と、H3BO3を、Ni、Co、Mnの総量と、H3BO3中のBのモル比が、1:0.010となるように混合したこと以外は、実施例3と同様に作製した。
【0057】
実施例及び比較例の各電池について、レート特性、及び高温サイクル試験後の容量維持率を評価した。評価結果を表1に示す。さらに、表1には、第1粒子及び第2粒子におけるLiを除く金属元素の総モル数に対するBのモル分率、及びBの表面被覆率を示す。
【0058】
[レート特性の評価]
実施例及び比較例の各電池を、25℃の温度環境下、0.5Itの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電を行い、4.2Vで電流値が0.02Itになるまで定電圧充電を行った。その後、電池を15分放置した。次に、0.05Itで電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行い、0.05Itにおける放電容量C1を測定した。次に、4.2Vで電流値が0.02Itになるまで定電圧充電した後、電池を15分放置した。その後、2Itで電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行い、2Itにおける放電容量C2を測定した。レート特性は、以下の式より算出した。
【0059】
レート特性(%)=C2/C1×100
[高温サイクル試験後の容量維持率の評価]
実施例及び比較例の各電池について、下記サイクル試験を行なった。サイクル試験の1サイクル目の放電容量と、150サイクル目の放電容量を求め、下記式により容量維持率を算出した。
【0060】
容量維持率(%)=(150サイクル目放電容量÷1サイクル目放電容量)×100
<高温サイクル試験>
試験セルを、60℃の温度環境下、0.5Itの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電を行い、4.2Vで電流値が1/50Itになるまで定電圧充電を行った。その後、0.5Itの定電流で電池電圧が2.5Vになるまで定電流放電を行った。この充放電サイクルを150サイクル繰り返した。
【0061】
【0062】
表1に示すように、実施例の電池はいずれも、比較例の電池と比べて、レート特性及び容量維持率が高かった。つまり、実施例の電池では、高温での充放電に伴う容量の低下の抑制と、レート特性の低下の抑制とが両立されていることが分かる。実施例1と2は、正極活物質の合成の際の水洗の有無が異なったが、第1粒子及び第2粒子の表面におけるBの表面被覆率は略同等であり、レート特性及び容量維持率も略同じであった。また、第1粒子の表面及び第2粒子の表面におけるBの表面被覆率が80%以下の場合(実施例3)に、特に優れた効果が得られた。実施例3では実施例2よりも焼成温度を高くすることで、第1粒子及び第2粒子の表面におけるBの表面被覆率が低くなっていた。
【符号の説明】
【0063】
10 二次電池
11 正極
12 負極
13 セパレータ
14 電極体
16 外装缶
17 封口体
18,19 絶縁板
20 正極リード
21 負極リード
22 溝入部
23 内部端子板
24 下弁体
25 絶縁部材
26 上弁体
27 キャップ
28 ガスケット