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特許7539406制御された熱プロファイルを備えた電解システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】制御された熱プロファイルを備えた電解システム
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/023 20210101AFI20240816BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20240816BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20240816BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20240816BHJP
   C25B 9/77 20210101ALI20240816BHJP
   C25B 15/00 20060101ALI20240816BHJP
   H02J 15/00 20060101ALI20240816BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALN20240816BHJP
【FI】
C25B15/023
C25B1/042
C25B1/23
C25B9/65
C25B9/77
C25B15/00 302A
H02J15/00 G
H01M8/04858
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021560429
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2020059508
(87)【国際公開番号】W WO2020201485
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】19167612.1
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521441755
【氏名又は名称】ダインエレクトロ エーピーエス
【住所又は居所原語表記】Syvvejen 10,Hal 3 4130 Viby Sjaelland Denmark
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】イェンセン,セーレン ホイゴー
(72)【発明者】
【氏名】グレーブス,クリストファー ロナルド
(72)【発明者】
【氏名】モーゲンセン,モーゲンズ ビイェルグ
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037643(JP,A)
【文献】特開2017-203203(JP,A)
【文献】特開2020-041202(JP,A)
【文献】国際公開第2018/033948(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0263681(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0325014(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0003552(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102683721(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 15/08
H01M 8/00 - 8/0297
8/04 - 8/0668
8/08 - 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の電解セルを作動させるシステムであって、
1つ以上の電解セルと少なくとも1つの電力変換ユニットを備え、
前記電力変換ユニットは前記電解セルに1つ以上の電圧変動を供給するように構成され、
前記電圧変動は、前記セル内の全ジュール熱生成を全反応熱消費に合わせることによって、部分負荷での熱中性に近い作動が可能となるように構成されており、
前記熱中性に近い作動は、必要な反応熱のバランスをとるためにジュール熱を使用する、電熱平衡操作であり、
前記電圧変動は、10mHzから100kHzの範囲の周波数を有するセル電圧の周期的変化であり、
前記セル電圧は周期的に変化し、セルが電解と燃料電池モード運転の間で切り替わる、システム。
【請求項2】
1つ以上の電解セルが120℃を超えて作動するよう構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
1つ以上の電解セルが、固体酸化物形電解セル/固体酸化物形燃料電池(SOEC/SOFC)、溶融炭酸塩形電解セル/溶融炭酸塩形燃料電池(MCEC/MCFC)、高温高圧アルカリ電解セル/高温高圧アルカリ燃料電池、およびプロトン伝導形セラミック電解セル/プロトン伝導形セラミック燃料電池(PCEC/PCFC)から選択される、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
スタックに出入りする流体の入口と出口の温度の測定値に基づいて、電圧変動を制御する少なくとも1つのPIDシステムをさらに有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のシステム
【請求項5】
電力変換ユニットが、パルス幅変調(PWM)モータ制御装置付きの直流電源、双方向電源、または電子負荷と組み合わされた電源を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
電圧変動の範囲が0.2Vから2.0Vの間である、請求項1から5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
電圧変動の範囲が0.5Vから1.9Vの間である、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記1つ以上の電解セルが、H2Oおよび/またはCO2の電気分解を行う、請求項1から7のいずれか1項に記載のシステム
【請求項9】
1つ以上の電解セルを作動させる方法であって、
少なくとも1つの電力変換ユニットにより、前記電解セルに1つ以上の電圧変動を供給することを含み、
前記電圧変動は前記セル内の全ジュール熱生成を全反応熱消費に合わせることによって、部分負荷での熱中性に近い作動が可能となるように構成されており、
前記熱中性に近い作動は、必要な反応熱のバランスをとるためにジュール熱を使用する電熱平衡操作であり、
前記電圧変動は、10mHzから100kHzの範囲の周波数を有するセル電圧の周期的変化であり、
前記セル電圧は周期的に変化し、セルが電解と燃料電池モード運転の間で切り替わる、方法。
【請求項10】
1つ以上の電解セルが少なくともCO2の電気分解を行う、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ以上の電解セルと、セルに変動電圧を供給する少なくとも1つの電力変換ユニット(power electronic unit)を含むシステム、および少なくとも1つの電力変換ユニットによる電解セルへの1つ以上の電圧変動(voltage fluctuation)を含み、電解セルの作動中の改善された熱管理を可能とする1つ以上の電解セルを操作するための方法に関する。
【0002】
本発明は、電圧変動の大きさおよび形状(波状)を制御することにより、電解セルおよびスタック内の温度分布の改善された制御を可能にする。
【0003】
本発明は、動的負荷条件下での等温運転を可能にし、熱機械的応力を低減し、電極の活性部位に吸着した不純物を脱着することにより、セルの寿命を延ばす。具体的には、CO2電解の場合、本発明は、得られる一酸化炭素出口ガス濃度の最大量を増加させる。
【背景技術】
【0004】
商業的な電解システムでは、セルは通常、セル間のインターコネクトにより積層される。スタックの単一反復ユニット(SRU)は、セル及びインターコネクトからなる。電気エネルギーの化学エネルギーへの変換に本来備わっている性質により、電解システムは再生可能エネルギー経済のための主要技術と見なされている。
【0005】
例えば、高温電解セル(例えば、固体酸化物形電解セル(SOEC)など)を使用して、CO2とH2Oを、CO、H2およびO2に変換することができる。SOECは通常、600~900℃で作動する。電気分解反応は吸熱反応であるため、セルに熱を供給する必要があるが、これは、入口ガス(CO2および/またはH2O)を予熱することで実現できる。あるいは、電解スタックは、熱中性電圧(thermo-neutral potential)で作動させることができる。熱中性電圧とは、ジュール熱(すなわち、SRUの内部抵抗を流れる電流によって生成される熱)が、電解反応に必要な熱と一致し、そのため外部から入力する又は外部へ出力するエネルギーを最小限にし、電解効率を向上させることができるSRU電圧を表す。
【0006】
水蒸気電解の場合、熱中性電圧(Etn)は約1.3V、CO2電解の場合は約1.5Vである。高温電解セルでは、Etnは開回路電圧(OCV)、すなわち電解セルの端子間の、外部電流が流れていない電圧よりも大幅に高い。典型的な常圧でのSOECの作動温度およびガス組成の場合、OCVは1Vをわずかに下回る。このような電解システムでは、EtnでのSRUの作動(運転)は、通常、SRU内の高い電極の過電圧および/または電極内の電気化学的活性部位での不純物の吸着により、過度の劣化を引き起こす。SRU電圧をEtnより高くすると(そのようにして電解電流密度をさらに高めると)、劣化が加速し、変換効率が低下し、そして過剰なジュール熱を放散するための熱制御の必要性が高まる。
【0007】
SRU電圧と電流が変化すると、反応の変化とジュール熱の生成により、スタック内の温度分布が徐々に変化する。これにより、熱機械的応力が発生し、スタック内のさまざまな層の間(典型的にはスタックと二極連結板の間)の界面で接触が失われることがある。したがって、SRU電圧と電流を繰り返し変化させる動的作動(dynamic operation)は、寿命を縮めることがある。一方、C. Graves et al., Nature Materials 2015, 14, 239-244には、-1A・cm-2での定電流の電解操作では、電圧が急激に1.3Vを超えるが、定期的に電流を逆方向に流すと(-1/+0.5A・cm-2)、劣化が軽減され、セル電圧がより安定し、セルの寿命が延びることが開示されている。しかし、その有益な効果は、外側から加熱されたエンクロージャに取り付けられた単セルのテストにて観察された。より大きなスタックの動的試験では、熱応力による高い劣化率を引き起こす可能性のあるはるかに大きな温度変動となり、その有益な効果が見劣りする(“Solid oxide electrolysis for grid balancing”, Final Report for Energinet.dk, project no. 2013-1-12013, Fig. 27. Pp. 35)。
【0008】
高温電解セルスタックがOCVとEtnの間のSRU電圧で作動している場合、スタック内のガスは入口から出口に向かって冷却される。この例を図1に示しており、1.228ボルトのSRU電圧(一般的なSOECのSRU電圧)のスタック内でのCO2電解に関するものである。過剰量の酸素が正極をスイープしてスタック内の温度低下を制限するが、ガス入口からガス出口までの温度は大幅に低下する。温度が低下するほど内部抵抗が増加し、そして徐々にスタック出口での絶対電流密度が減少し、スタック内の電流分布が不均一となる。
【0009】
高温CO2電解の場合、出口温度が低下すると、炭素堆積(沈着)の開始の閾値が低下する。これにより、電極での有害な炭素形成のリスクを冒さずに得られる出口ガスの一酸化炭素の最大含有量が減少し、ガス分離にかかる費用が増加することになる。CO2電解のためEtnのSRU電圧で作動すると、入口から出口までの温度降下がなくなる。残念ながら、最新式のセルを使用したEtnでの作動(運転)は、通常、高い劣化率となる。
【0010】
スタック内の局所的な温度低下も、インターコネクト/セル境界面での引張応力を引き起こす。それは、セルの内部抵抗を再び増加させる、層間剥離及び接触の喪失につながる可能性をはらんでいる。電流密度の均一性の低下と反応気体の変換により、劣化がさらに加速する。スタックが小さい場合は、スイープガス(空気のオーバーブローなど)を用いることにより熱機械的応力を制限できる。しかし、これにより、特にシステムが高圧で作動している場合、システムが複雑になり、コストが増大する。
【0011】
負荷追従能(load-following capabilities)、すなわち電力網事業者に販売できるサービスを提供するため、電解セルの動的作動(dynamic operation)は、一般的に特に重要である。これに加えて、運用コストを削減できる寿命の延長と不純物耐性の改善が望まれる。
【0012】
SOECシステムに負荷追従能を与えるために、先行技術において異なる方法が提案されている。
【0013】
1つの方法は、OCVとEtnの間のSRU電圧を用いた定電流での作動である。SRU電圧がEtnを下回ると、SRUの内部抵抗がSRU電圧をEtnにまで上げるのに十分な高さになるまで、スタックが冷却される。このようにして、スタックは、電流が高かった以前の設定値と比較して、低電力で(低電流のため)作動する。より高い電力が必要な場合、電流が増加する。これによりSRU電圧はEtnを超えて上昇する。そして内部抵抗がEtnでの作動を確保するのに十分低くなるまで、スタック温度が再び上昇する。しかし、この方法は、SRU電圧が変化するとスタック内の熱プロファイルが変化するため不利である。そしてSRU内で熱機械的応力が発生し、弱いIC/セル境界面を危険にさらす。さらに、応答時間は、新しい設定値での安定した運転が達成されるまでに数分から数時間かかる。
【0014】
さらに既知の方法は、マルチスタックシステムをカスケードモードで作動させることであり、スタックは、OCVまたは熱中性電圧のいずれかで作動する。熱中性電圧で作動するスタックの数をスタックの総数で割ると、負荷率となる。この運転戦略では、複数のスタックに個別の電力とガスを供給する必要があるため、システムの複雑さとコストが大幅に増加する。
【0015】
米国特許出願公開第2009/0325014号明細書は、セルに供給される反応ガスの濃度が、セルに供給される電流の変動に応じて変化し、それによって熱中性電圧に到達するために必要な電流を変化させる方法を開示している。
【0016】
国際公開第2018/033948号明細書は、温度制御機構によって、水素製造のための電解セルスタックの作動を制御する方法を開示している。これは、電解セルスタックの温度が、設定された上限温度閾値を超えた場合は下限目標値になり、設定された下限温度閾値を下回った場合は初期目標値になるように電圧(定電圧モードの場合)または電流(定電流モードの場合)を調整することを目的とする。これにより、熱中性に近い作動が可能となる。米国特許出願公開第2009/263681号明細書は、同様に、電解槽スタックの温度を監視し、熱中性電圧付近の入力電圧を繰り返す方法を含むシステムを開示している。しかし、これらの方法は、本質的に、温度監視システムと、電圧(または電流)が2つの閾値の間で繰り返されることを保証する制御システムを必要とする。
【0017】
最後に、米国特許出願公開第2016/0040310号明細書は、再生可能電源から電力エネルギーを入力して蓄電するキャパシタ、キャパシタで蓄電された電力を用いて、設定された振幅および繰り返し周期となるパルス電圧を生成するパルス電圧発生部、生成されたパルス電圧を印加して、流入させた水蒸気を用いて高温水蒸気電解により水素を生成する電解セルを備えた水素製造システムを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】米国特許出願公開第2009/0325014号明細書
【文献】国際公開第2018/033948号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/263681号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0040310号明細書
【非特許文献】
【0019】
【文献】C. Graves et al., Nature Materials 2015, 14, 239-244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、提案された方法は、高速応答動的作動(fast-response dynamic operation)、電解効率の改善、寿命の延長および高い不純物耐性を同時に可能にする低コストの電解システムを提供するという課題を十分に解決しない。
【0021】
このことから、上記課題に対処する電解システム及びその作動方法を提供する必要性が依然として存在する。
【0022】
本発明は、本書において規定される請求項に記載の主題により、これらの課題について解決するものである。本発明のさらなる利点については以下の段落で更に詳細に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0023】
概して、本発明は、1つ以上の電解セルを作動させるシステムであって、1つ以上の電解セルと少なくとも1つの電力変換ユニット(power electronic unit)を備え、前記電力変換ユニットは前記電解セルに1つ以上の電圧変動を供給し、前記電圧変動は、前記セル内の全ジュール熱生成を全反応熱消費に合わせる(マッチングさせる)こと(matching)によって、部分負荷(part load)での熱中性に近い運転(near thermoneutral operation)が可能となるように構成されるシステムに関する。
【0024】
さらなる実施形態において、本発明は、1つ以上の電解セルを作動させる方法であって、少なくとも1つの電力変換ユニット(power electronic unit)により電解セルに1つ以上の電圧変動を供給し、前記電圧変動は、前記セル内の全ジュール熱生成を全反応熱消費に合わせる(マッチングさせる)こと(matching)によって、部分負荷(part load)での熱中性に近い運転(near thermoneutral operation)が可能となるように構成されている方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、電解システムの動的作動(dynamic operation)、寿命の延長、不純物耐性および出口ガス内の炭素活量(carbon activity)を増やすことを可能にする。
【0026】
1つ以上の電解セルの作動システムの好ましい実施形態および関連する方法、ならびに本発明の他の態様を以下の説明及び請求項に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、5倍の酸素オーバーブロー(5x oxygen overblow)を使用した従来型のCO2電解の作動プロファイルの模擬OCV、温度および電流密度を示すグラフ(すなわち、100cm2のセルフットプリント、ガス入口の5%のCOとガス出口の28%のCO、バッファーガスとしてのCO2、1.228VのSRU電圧、および50Aの合計電流)である。
図2図2(A)は、電解セルを概略的に示す図であり、(B)は、連続して積層した2つのセルを含む電解システムを示す図である。
図3図3(A)および(B)は、正弦波状の変動を持つ電圧を使用した水蒸気電解の例を示す図である。対応する平均電圧は平行な横線で示す。
図4図4は、Etn80%(時間)とOCV20%(時間)(太線)で変動電圧作動を使用した水蒸気電解の例を示す図である。平均電圧は細線で示す。EtnとOCVは点線で示す。
図5図5は、平均セル電圧がそれぞれ1.18Vと1.32V(細線)である角形(方形)波状の(square wave-shaped)変動電圧(太線)を用いたCO2電解の例を示す図である。EtnとOCVは点線で示す。
図6図6は、平均セル電圧が1.114Vである角形(方形)波状の(square wave-shaped)変動電圧のOCV、温度および電流密度を示す図である。温度プロファイルは、5倍の酸素オーバーブロー(5x oxygen overblow)(100cm2のセルフットプリント、ガス入口の5%のCOとガス出口の28%のCO、バッファーガスとしてのCO2、1.3Vが74%(時間)と0.7Vが26%(時間)のセル電圧、および53Aの合計電流)について示す。
図7図7は、酸素オーバーブローの省略を除き、図6の条件下でのOCV、温度および電流密度を示す図である。
図8図8は、実施例3について計算されたOCV、温度および電流密度を示す図である。
図9図9は、交流/直流H2O電解中の時間の関数としてのセルの面積比抵抗、電流および電圧を示す図である。
図10図10は、H2O電解における直流と交流/直流試験の面積比抵抗の比較を示す図である。
図11図11は、実施例4について計算されたOCV、温度および電流密度プロファイルを示す図である。
図12図12は、CO2電解とガス洗浄効果における直流と交流/直流試験の面積比抵抗の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の完全な理解のために、その例示的実施形態を以下に説明する。
【0029】
第1の実施形態では、本発明は、1つ以上の電解セルを作動させるシステムであって、1つ以上の電解セルと少なくとも1つの電力変換ユニット(power electronic unit)を備え、前記電力変換ユニットは前記電解セルに1つ以上の電圧変動を供給し、前記電圧変動は、前記セル内の全ジュール熱生成(integral Joule heat production)を全反応熱消費(integral reaction heat consumption)に合わせること(matching)によって、部分負荷(part load)での熱中性に近い作動(運転)(near-thermoneutral operation)が可能となるように構成されているシステムに関する。
【0030】
実際には、現実の電解システムは通常、完全に等温でも完全に断熱でもない条件で作動する。本明細書で使用される「熱中性に近い作動(near-thermoneutral operation)」という用語は、全ジュール熱生成(integral Joule heat production)と全反応熱消費(integral reaction heat consumption)の差の絶対値(両方とも3,600秒以上の時間にわたって積算される)が、全熱消費の絶対値もしくは全熱生成の絶対値、またはその両方よりも少ない電解作動を意味する。好ましい実施形態では、「熱中性に近い作動」は、電熱平衡操作(運転)として理解される。そこでは、必要な反応熱のバランスのため電気(ジュール)熱を使用し、電解セルとスタックの温度変化を抑えるために過剰な空気流の熱容量が使用される従来の熱バランス操作と区別することが可能である。
【0031】
さまざまな種類の反応物(reactant material)を目的の反応生成物に電解するために構築された例示的な電解セルの概略図を図2aに示す。セル10は、第1の電極11と第2の電極13、および第1の電極11と第2の電極13との間に設けられた電解質12からなる。電解操作(運転)中、電力は電力変換ユニット(power electronic unit)16を介してセル10に供給される(すなわち、第1の電極11と第2の電極13を横切って)。そして 第1の電極11を通過した反応物(reactant)14は、第2の反応生成物15aのイオン15と、第1の反応生成物と未反応の反応物(reactant)との混合物15bに分離する。イオン15は電解質12を通過し、第2の反応生成物15aが第2の電極13で生成する。本発明によれば、電力変換ユニット16は、1つ以上の電圧変動を電解セルへ供給する。好ましい実施形態では、本発明によるシステムは、電解セルあるいは電解セルスタックに出入りする流体(気体または液体)の入口と出口の温度の測定値に基づいて、またはセルコンパートメント(図示せず)内の温度を直接測定することによって、電圧変動を制御する少なくとも1つの比例積分微分(PID)システム17をさらに含む。それぞれの温度測定は温度検出手段18により行ってもよい。PIDコントローラーは、接続された電力変換ユニット(power electronic unit)が比例、積分、および微分項に基づいて電圧変動の補正がかけられるように、望ましい温度設定値と測定された温度との差としての誤差値を継続的に計算するように構成されている。
【0032】
反応物(reactant material)は特に限定されない。好ましい実施形態では、1つ以上の電解セルがH2O、CO2の電気分解、またはH2OとCO2の共電解を行う。
【0033】
セル10が水を電気分解するように設計された固体酸化物形電解セル(SOEC)である場合、第1の電極11は水素電極を表し、第2の電極13は酸素電極とされうる。そして反応物14は高温水蒸気となる。水素電極内の触媒は、水蒸気14の、酸素イオン15と、水素ガス及び未反応水蒸気15bの混合物との分離を容易にする。酸素イオン15が電解質10を通過すると、酸素ガス15aが酸素電極13内の触媒で生成する。しかし、図2aは例示的な電解システムを概略的に示すものであり、本発明はそのよう構成(またはSOEC)に限定されず、電解セルが電解運転を行える限り、さらなる層(膜やダイアフラムなど)および構成要素を含んでもよい。実施形態では、電解セルは、電解モードで作動する燃料電池(可逆型燃料電池)から構築されていてもよい。さらに、電解セルは、平板型のスタック構成に限定されることはなく、他の設計(例えば円筒状の構成を含む)を組み込んでもよい。図2bは、2つの電解セル10から構築された電解スタック20を示す。電解製造の必要に応じて、追加セルをスタック20に追加することもできる。特記しない限り、本明細書で使用される「電解セル」という用語は、図2aに示すセル10などの単セルと、図2bに示すスタック20などの2つ以上のセルのスタックの両方を包含する。
【0034】
なお、電解セルの材料及び構成技術に関する詳細は、当業者に周知であり、本明細書では説明しない。
【0035】
一般的に、低温電解と高温電解を区別することができる。高温電解では、1つ以上の電解セルは、例えば200℃から1100℃、または650℃から1000℃など、120℃以上で操作されるように構成される。それらに限定されないが、高温電解用の1つ以上の電解セルは、好ましくは、固体酸化物形電解/固体酸化物形燃料電池(SOEC/SOFC)、溶融炭酸塩形電解/溶融炭酸塩形燃料電池(MCEC/MCFC)、高温高圧アルカリ電解/高温高圧アルカリ燃料電池、およびプロトン伝導形セラミック電解/プロトン伝導形セラミック燃料電池(PCEC/PCFC)から選択される。
【0036】
上記より、本明細書で使用される「電解セル」という用語は、燃料電池、すなわち、燃料電池モードでのみで作動するセルも包含する。したがって、本発明のシステム及び方法はまた、燃料電池及び燃料電池スタックの寿命を延ばすために使用することができる。
【0037】
電解モードでは、電解反応は一般に吸熱反応である。すなわち、反応熱は負である。必要な過電圧(overpotential)と電流によるジュール熱は、燃料電池モードと電解モードの両方で正である。高温電解では、最適な性能のためには、Etnを下回る作動電圧(operating voltage)での熱中性に近い作動(near-thermoneutral operation)が望ましい。OCVとEtnの間の作動電圧の場合、熱中性に近い作動では、電解プロセス中に熱を加える必要がある。このようなシステムでは、インターコネクト/セルの境界面での引張応力を低減するために、さらにまた熱を加える必要がある。これにより、層間剥離や接触の喪失、パフォーマンスの低下や劣化が発生する可能性がある。従来、熱は、例えば、加熱されたスイープガスまたは能動的加熱装置を使用して供給される。対照的に、本発明では、ジュール熱は、1つ以上の電力変換ユニット(power electronic unit)を介して電解セルに1つ以上の電圧変動を供給することによって、反応熱(および周囲への熱損失)と釣り合っている。したがって、本電解システムは、外部の熱源を必要とせずに、熱中性に近い状態で運転できる。
【0038】
電圧変動(voltage variation)を調整することにより、ジュール熱が反応熱と釣り合うか反応熱をわずかに超えるように設定することができる。これにより、出口ガスの温度が入口ガスの温度と同じかわずかに高い状態で、OCVとEtnの間の平均(全)SRU電圧にて、熱中性に近い作動(運転)またはわずかな発熱性の作動(運転)が可能となる。したがって、電圧変動を伴う作動(運転)により、SRUの熱プロファイルの制御を改善できる。平均(全)SRU電圧と熱プロファイルを最適化することで、電極での有害な炭素形成のリスクを冒すことなく、電解スタック内の炭素質ガスの炭素活性(carbon activity)を高めることができる。CO2電解の場合、これは出口ガスのCO濃度が高くなることを意味し、またガス分離費用の削減を意味する。
【0039】
本明細書で使用される「電圧変動(voltage fluctuation)」という用語は、セル電圧の所定の変動を示し、これは、所定の間隔で繰り返される周期的な電圧変動の形で適用できる。各電圧変動の持続時間は、例えば、1マイクロ秒から1000秒の範囲である。機械的張力を低減する観点から、各電圧変動の持続時間は、好ましくは1マイクロ秒から100秒の範囲に設定される。それに応じて電解システムを作動(運転)することにより、各変動の持続時間は非常に短く、流体(例えば、ガス)およびセルとスタックの温度変化はごくわずかである。このようにして、スタック内の弱い界面での機械的張力の蓄積を回避することができ、可逆的作動(reversible operation;リバーシブル操作)によって寿命の延長を達成できる。さらに好ましい実施形態では、電圧変動の周波数(frequency)は、10mHzから100kHzの範囲である。
【0040】
好ましい実施形態では、電圧変動の範囲は、0.2Vから2.0Vの間、特に好ましくは0.5Vから1.9Vの間である。
【0041】
本発明の好ましい実施形態では、電力変換ユニット(power electronic unit)は、パルス幅変調(PWM)モータ制御装置付きの直流電源、双方向電源、または電子負荷(e負荷)と組み合わされた電源を含む。
【0042】
好ましい実施形態では、電圧変動は、例えば、前記副反応化合物の酸化状態の増加(酸化)または酸化状態の減少(還元)により、セルの電極に吸着、沈殿、または他の方法で形成された副反応化合物の揮発、脱離、または溶解をもたらすように構成される。これにより、劣化が軽減し、よりセル電圧がより安定し、セルの寿命が延びることになる。その生成が可逆的である限り限定されないが、そのような副反応化合物は、望ましくない中間体であるか、反応物中の不純物(例えば、アルカリ土類金属から生成する水酸化物、炭化水素、硫黄系化合物、ホルムアルデヒド、ギ酸アンモニア、ハロゲン化合物)または電解セル材料(ガラス成分からのSi系不純物など)に起因するものである。副反応化合物の脱離または溶解は、例えば、電気化学セルが電気分解と燃料電池モード運転の間で切り替わるように、セル電圧を周期的に変化させることによって達成できる。
【0043】
Niマイグレーションは、従来の直流電解に使用されるNi/YSZ電極における主要な劣化メカニズムの1つであることが知られており、H2OとCO2電解の両方で観察される。硫黄などの不純物はニッケル表面に強く結合し、ニッケル粒子の粗大化を促進することが知られている。したがって、硫黄(およびその他の)不純物の脱離は、Niマイグレーションを妨げることができる。
【0044】
理論に拘束されないが、劣化速度の低下は、Ni/YSZ電極の陰極分極中に電気化学的活性部位に吸着した不純物の脱離に、ある程度関係しうると推測される。その例として、Ni/YSZ電極の陰極分極中の活性部位でのSiO2の生成に言及することができる。これは、A. Hauch et al., J Electrochem Soc. 2007;154(7):A619-A26に以前に記載されたように、反応Si(OH)4(g)->H2O(g)+SiO2(l)を介して起こると予想される。短い陽極分極の間に、H2Oを生成させることができ、SiO2を脱離することができる。電圧変動の形状は、原理的にどのタイプでもよいが、正弦波状および/または方形(角形)波状の電圧変動プロファイルを含む電圧変動が好ましい。正弦形と角形(方形)の電圧変動の混合は、ピーク電圧を最小限に抑え、誘導現象に関連する誤作動条件を最小限に抑えるために特に好ましい。正弦波状および/または角形(方形)波状の電圧変動プロファイルを使用した熱中性に近い作動(運転操作)条件の計算について、下記の実施例を用いて説明する。
【0045】
第2の実施形態では、本発明は、少なくとも1つの電力変換ユニット(power electronic unit)によって電解セルに1つ以上の電圧変動を供給することを含む1つ以上の電解セルを作動させる方法であって、前記電圧変動は、前記セル内の全ジュール熱生成(integral Joule heat)を全反応熱消費(integral reaction heat consumption)に合わせること(matching)によって、部分負荷(at part load)での熱中性に近い作動(near-thermoneutral operation)が可能となるように構成されている方法に関するものである。
【0046】
好ましい実施形態では、電圧変動の時間のわずかな間、セルで逆電流が生じ、その結果、セルは燃料電池モードで作動する。有利なことに、このプロセスは、電極の微細構造へのダメージを低減および/またはセルの電極に吸着、沈殿、あるいは他の方法で形成された副反応化合物の脱離または溶解をもたらすことができる。さらに、そのわずかな逆電流の間、セル内にまだ存在する全電気化学反応からの全ての生成物が反応物に戻るわけではない。したがって、従来の(直流電圧)作動(運転)とは対照的に、流体(ガスなど)の組成を変更する必要がない。
【0047】
固体酸化物形燃料電池では、Cr被毒がSOFCの空気極の寿命を制限することが知られているため、一般的に給気にはアルミナ被覆鋼管が必要である。Cr被毒は、ガス状のCrO2(OH)2と、ストロンチウムが豊富な空気極の反応部位に存在する固体の酸化ストロンチウム(SrO)との反応によって進行し、その結果SrCrO4とH2Oが生成すると予想される。燃料電池の作動中に、本発明による電圧変動(voltage fluctuation)を加えることにより、SrCrO4の脱離を行うことができる。
【0048】
第1の実施形態の好ましい特徴は、特徴の少なくともいくつかが相互に排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで第2の実施形態と自由に組み合わせることができることである。
【実施例
【0049】
実施例1:正弦波状(sine-wave shape)の電圧変動
一般に、電解セルに供給される電圧変動(voltage fluctuation)は、より小さな交流電圧(交流/直流電圧)が重畳した直流電圧と見なすことができる。
【0050】
【数1】
【0051】
【数2】
【0052】
【数3】
【0053】
【数4】
【0054】
図3(A)および(B)は、50Hzで作動する例示的な正弦状の変動を示す。図3(A)のグラフは式(4)の最後の行の+記号を、(B)のグラフは式(4)の最後の行の-記号を参照。対応する平均電圧は水平線で示す。
【0055】
実施例2:角形波状(square-wave shape)の電圧変動
【数5】
【0056】
【数6】
【0057】
電圧変動(voltage variation)はどのような形状(波状)でもよい。正弦波状(sine-wave shape)及び角形(方形)波状(square-wave shape)は、数学上の簡潔性ために提供されている。重要な側面は、全ジュール熱が全反応熱と釣り合うことである。SRU内の浮遊インダクタンスと渦電流を最小限にするために、角形波状の曲線よりも滑らかな曲線が好ましい。
【0058】
図4は、水蒸気(H2O)電解の角形の電圧変動を使用した例を示している。ここで、電圧はOCVとEtnの間で変動する。これらの電圧では、セルは熱中性に近い作動(運転)となる。
【0059】
図5は、熱中性CO2電解中の角形の電圧変動を使用した例を示している。ここで、角形波状のセル電圧変動は、OCVを下回るセル電圧を印加すると、電解モードと燃料電池モードとの間の切り替えを引き起こし、セルの電極で生成した副反応化合物の脱離又は溶解が促進される。さらに、燃料電池モードでの作動中に発生する熱(すなわち、セル電圧がOCVを下回る20%(時間))は、電解モードでの作動中に消費される熱(すなわち、セル電圧がOCVを超える80%(時間))と釣り合う。平均セル電圧は、それぞれ1.18Vと1.32V(細線)である。図4及び図5に示す2つの例は、両方とも1kHzで作動する。
【0060】
図6に示すさらなる実験において、図4にかかる電圧変動が適用されること(変動期間の74%で1.3Vと変動期間の26%で0.7V;積算電流(integral current)=53A)を例外として、OCV/温度/電流密度プロファイルは、図1に沿って計算された(すなわち、100cm2のセルフットプリント、ガス入口の5%のCOとガス出口の27.8%のCO、緩衝ガスとしてのCO2、5倍の酸素オーバーブロー(5x oxygen overblow)を使用して)。図6は、従来の電解作動(運転)(図1参照)とは対照的に、スタック内で平坦な温度プロファイルが達成され、ガス入口(gas inlet)とガス出口(gas outlet)の間の電流密度の変化が最小限に抑えられることを示している。
【0061】
図7は、酸素オーバーブローの省略を除いて、図6の条件下でのOCV、温度および電流密度を示している。図6と比較して、より大きな温度変化が観察される。しかし、電流密度は同様に安定したレベルに維持することができる。
【0062】
本発明が、電圧変動(voltage fluctuation)のサイズと波形状を制御することにより、電解セルとスタックの熱中性に近い作動(near-thermoneutral operation)を可能にすることを示している。スタック内の熱機械的応力を低減することにより、電解セルとスタックの寿命をさらに延長できる。
【0063】
したがって、高速応答動的操作(fast-response dynamic operation)、電解効率の改善、寿命の延長と高い不純物耐性、およびCO生成条件の改善を同時に可能にする、低コストの電解システムを提供することが可能である。
【0064】
実施例3:H 2 /H 2 O電解テスト
2/H2O電解用の電解システムは、下記の通り設定された。非対称の角形(方形)の波動関数を関数発生器(Wavetekモデル145)に設定した。このようにして生成された信号は、バイポーラ電源(Kepco BOP 20-20D)によって増幅され、C. Graves et al., Nature Materials 2015, 14, 239-244に従って試験設定に転送された。オシロスコープ(Philips PM 3384)を使用して、セル電圧および関数発生器からの信号を監視した。交流/直流モードでは、電解セルは、1.27V(~90%(時間))と0.8V(~10%(時間))の間での30Hz変動、すなわちデューティ比90%で運転され、平均電圧は1.22Vとなった。比較のために、電解セルを、以下の表1に示すH2O電解テストの作動条件で、直流モードでも作動させた。両方の電解テストで、負極へのガス流量はH2:H2O(0.5:0.5の比率)で24l/hであり、入口温度は700℃であった。
【0065】
【表1】
【0066】
電流密度が約-0.55A/cm2での交流/直流テストでは、H2O利用率は30%、空気オーバーブローファクター(air overblow factor)は16であった。ネルンスト電圧対空気は、入口と出口でそれぞれ941mVと965mVと計算された。計算された出口温度とガス組成は、701℃、65%のH2+35%のH2Oであった。入口から出口までの温度、ネルンスト電圧および電流密度のプロファイルを図8(並行流構成の場合)に示す。 図9は、交流/直流H2O電解中の時間の関数としての、セルの面積比抵抗(cell area specific resistance)、電流および電圧を示す。
【0067】
図10において、交流/直流および直流H2O電解試験におけるセルの面積比抵抗の発生を比較する。これにより本発明にかかる電圧変動の適用は、セル作動中のセル抵抗の増加を効果的に防止することが示される。交流/直流試験において測定された面積比抵抗は、最初は直流試験における面積比抵抗よりも高い。交流/直流試験の前後に記録されたインピーダンススペクトルは、この効果が、参照セルの抵抗の正極抵抗と比べると、より高い正極抵抗に基づいていることを示した。
【0068】
実施例4:CO/CO 2 電解テスト
実施例3に記載した試験設定を使用し、CO/CO2電解モードで3つのセルの試験を行った。
【0069】
試験を行ったセルは全て、CGO(セリウムガドリニウム酸化物)バリア層、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)-CGO酸素電極、およびLSC接触層を備えた多層テープキャストセル(MTC)であった。
【0070】
以下の条件でセルの試験を行った。
1.ガス洗浄なしの直流試験:総流量が18L/h(入口のCO:CO2の比率が0.13:0.87)、平均セル電流密度が0.31A/cm2、入口温度が~695℃、燃料使用率が13.3%(出口CO:CO2(0.24:0.76))、総燃料流量が18L/h、酸素電極への空気流量が50L/h。
2.ガス洗浄ありの直流試験:出口ガスの再循環を伴う入口流量が10.5L/h(20%のCOを含む)、総燃料流量が21L/h(入口のCO:CO2の比率が0.1:0.9)、平均セル電流密度が0.31A/cm2、入口温度が~695℃、燃料使用率が11%(出口のCO:CO2の比率が0.20:0.80)、酸素電極への空気流量が50L/h。
3.交流/直流試験:総流量が16L/h(CO:CO2の比率が0.11:0.89)、平均セル電流密度が~0.3A/cm2、入口温度が~695℃、燃料使用率が~14.7%(出口のCO:CO2の比率が~0.24:0.76)、総燃料流量が16L/h、および酸素電極への空気流量が140L/h。250時間の試験後にガス浄化装置のスイッチを切った。セルを、1.30V(~60%時間)から0.75V(~40%時間)の間での30Hz変動、すなわち60%のデューティ比で作動させ、1.09Vの平均電圧が得られた。
【0071】
燃料および空気の入口から出口までの交流/直流試験において、算出した温度、電流密度、およびネルンスト電圧のプロファイルを図11に示す。実際のセル試験には向流試験の設定が使用され、一方で提示された計算には並行流の構成が使用されたが、どちらの場合も温度プロファイルは比較的平坦である。入口と出口のネルンスト電圧(OCV)は、それぞれ877mVと913mVであった。入口から出口まで、695℃から696℃へのわずかな温度上昇が測定される。
【0072】
2つの直流試験と交流/直流試験それぞれのセルの面積比抵抗のプロファイルの比較を図12に示す。面積比抵抗の経時的変化(mΩ・cm2・kh-1)として算出される図12に示す分解速度は、洗浄されたガスでの作動の場合、従来の直流作動と比べて交流/直流作動は劣化率を約3.7倍減少させることを示す。これらの結果は、CO:CO2電解セルにおいて、セル作動中のセルの面積比抵抗の増加もまた効果的に抑制できることを示す。これにより、セル寿命の延長、効率の向上および安定的なセル作動が可能となる。
【0073】
上記の開示により、多くの他の特徴、改変点、および改良点が当業者に明らかになるであろう。
【符号の説明】
【0074】
10 電解セル
11 第1の電極
12 電解質
13 第2の電極
14 反応物(reactant)
15 イオン
15a 第2の反応生成物
15b 第1の反応生成物と未反応の反応物との混合物
16 電力変換ユニット(power electronic unit)
17 任意のPIDシステム
18 温度検出手段
10 電解セルスタック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12