(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】注射モニタリングモジュール
(51)【国際特許分類】
A61M 5/31 20060101AFI20240816BHJP
A61M 5/20 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A61M5/31 520
A61M5/20
(21)【出願番号】P 2021563200
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(86)【国際出願番号】 IB2019000493
(87)【国際公開番号】W WO2020217076
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】518021849
【氏名又は名称】バイオコープ プロダクション エス.アー.
【氏名又は名称原語表記】BIOCORP PRODUCTION S.A.
【住所又は居所原語表記】P.I.T. Lavaur La Bechade, F-63500 Issoire (FR)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】マルコス, アラン
(72)【発明者】
【氏名】アルドン,ライオネル
【審査官】田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/057911(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0276583(US,A1)
【文献】特表2016-514249(JP,A)
【文献】国際公開第2019/001919(WO,A1)
【文献】特表2018-517502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/31
A61M 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射モニタリングモジュールであって、
前記注射モニタリングモジュールは、薬物を送達するためのペン型注射システムの近位端に取り外し可能に取り付けられるように適合及び構成され、
前記ペン型注射システムは、近位に配置された用量設定ホイール及び注射作動装置を備え、
前記用量設定ホイールは、用量設定の間及び注射中に前記ペン型注射システムの長手方向の中心軸を中心に回転可能であり、
前記注射モニタリングモジュールは、中空の本体、注射モニタリングシステム、磁場生成手段、及び単一の磁場センサを備え、
前記中空の本体は、前記ペン型注射システムの近位端の前記用量設定ホイールと同軸上に取り付けられ、これと共に回転し係合するように適合及び構成されており、
前記中空の本体は、近位端及び遠位端を有する長手方向中央腔を備え、
前記注射モニタリングシステムは、前記本体の長手方向中央腔内に、その近位端に配置され、前記近位端を超えて前記長手方向
の中心軸に沿って近位方向に延在し、
前記磁場生成手段は、前記中空の本体の腔内に、前記長手方向の中心軸の周りに移動不可能に収容され、
前記単一の磁場センサは、長手方向の中心軸上に配置され、前記
長手方向の中心軸に沿って第1の近位位置から第2の遠位位置まで前記
長手方向の中心軸に沿って前記磁場生成手段に対して移動可能であり、
前記注射モニタリングシステムが、選択的に係合可能で、それぞれ係合解除可能な、クラッチアセンブリ内に取り付けられており、前記本体の長手方向中央腔内で、長手方向の中心軸に沿って、第1モニタリング位置から第2モニタリング位置まで移動可能であって、
前記第1モニタリング位置では、前記注射モニタリングシステムが、前記注射作動装置の近位表面と当接しておらず、
前記第2モニタリング位置では、前記注射モニタリングシステムが、前記注射作動装置の近位表面と当接しており、
前記注射モニタリングモジュールは、前記単一の磁場センサの前記磁場生成手段に対する
前記長手方向の中心軸に沿った並進移動
により生成される磁場の測定に基づき、注射された用量を決定するように構成される、
注射モニタリングモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記磁場生成手段は、直径方向に整列している、2つの単一双極子磁石を備える、注射モニタリングモジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記注射モニタリングシステムが電子部品基板を備える、注射モニタリングモジュール。
【請求項4】
請求項3に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記単一の磁場センサは、前記電子部品基板に電気的に接続されている、注射モニタリングモジュール。
【請求項5】
請求項3に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記電子部品基板は、少なくとも1つのマイクロコントローラを備え、前記少なくとも1つのマイクロコントローラは、前記磁場センサと電気的に接続されている、注射モニタリングモジュール。
【請求項6】
請求項3に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記磁場センサは、前記電子部品基板の近位面に配置されている、注射モニタリングモジュール。
【請求項7】
請求項5に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記電子部品基板は、通信ユニットを備え、前記通信ユニットは、前記少なくとも1つのマイクロコントローラと電気的に接続されている、注射モニタリングモジュール。
【請求項8】
請求項
3に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記クラッチアセンブリは、第1の遠位体と第2の近位体とを備え、前記第1の遠位体と前記第2の近位体との間に位置するバイアス部材をさらに備える、注射モニタリングモジュール。
【請求項9】
請求項8に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記第1の遠位体は、電子部品基板支持体であり、前記電子部品基板支持体には、前記電子部品基板が配置されている、注射モニタリングモジュール。
【請求項10】
請求項
8又は請求項9に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記注射モニタリングシステムが、取り外し可能及び/又は充電可能な電源を備えている、注射モニタリングモジュール。
【請求項11】
請求項
10に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記第2の近位体は、電源支持体であり、前記電源は前記電源支持体に配置されている、注射モニタリングモジュール。
【請求項12】
請求項
10又は請求項11に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記第1の遠位体と、前記第2の近位体とが、細長い中空の接続部材を介して、長手方向の中心軸に沿って互いに接続されている、注射モニタリングモジュール。
【請求項13】
請求項12に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記電子部品基板と前記電源が、前記細長い中空の接続部材を介して、電気的に接続されている、注射モニタリングモジュール。
【請求項14】
請求項8に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記第1の遠位体は、前記磁場生成手段の遠位に配置されている、注射モニタリングモジュール。
【請求項15】
請求項8に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記第2の近位体は、前記磁場生成手段の近位に配置されている、注射モニタリングモジュール。
【請求項16】
請求項8に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記バイアス部材は、前記磁場生成手段の近位に配置され、前記第2の近位体の遠位に配置されている、注射モニタリングモジュール。
【請求項17】
請求
項9に記載の注射モニタリングモジュールであって、前記クラッチアセンブリが第1の係合位置にあるとき、前記磁場生成手段は、前記電子部品基板支持体の近位面と接触する遠位面を有し、前記クラッチアセンブリが第2の非係合位置にあるとき、前記電子部品基板支持体の前記近位面は、前記長手方向の中心軸に沿って、前記磁場生成手段の前記遠位面から、軸方向に間隔をあけて離れている、注射モニタリングモジュール。
【請求項18】
ペン型注射システムから放出された薬物の実際の量を計算するための、請求項1に記載の注射モニタリングモジュールの作動方法であって、
前記
作動方法は、放出された用量を決定するステップを備え、
前記放出された用量を決定するステップでは、前記注射モニタリングシステムが、前記注射作動装置の近位表面に当接していない第1モニタリング位置から、前記注射モニタリングシステムが前記注射作動装置の近位表面に当接している第2モニタリング位置までに、前記注射作動装置の作動によって生じる前記注射モニタリングシステムの並進移動から注射された用量を決定する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、注射可能な薬物の送達デバイスのモニタリングシステムに関し、特に注射ペンシステムの注射モニタリングに関するものである。
【0002】
注射モニタリングは、注射可能な薬物送達デバイスに関連して、特には例えば注射システムに関して、よく知られる分野である。時がたつにつれ、このようなモニタリングシステムは、最近では、薬物を送達するための注射ペンシステムに導入され、このようなペン型注射システムのユーザーや、このような患者の治療やフォローアップに携わる医療従事者が、彼らの注射レジームや、多くの場合、実際に投与された用量をより詳細にモニタリングできるようになり、より良い医療結果を導くような試みがなされている。これらの開発に伴い、関連するソフトウェア、及び、タブレット又はスマートフォン等の携帯型通信機器の使用が増加しており、これら携帯型通信機器は、ユーザーや医療従事者に、実行中に、又は一定の間隔で、モニタリングシステムに含まれる適切な通信ユニットを介して、情報を提供するために、モニタリングシステムから情報を受信したり、モニタリングシステムと相互作用するようにプログラムされている。
【0003】
特にペン型注射器に関する課題の一つは、例えば、様々な異なる変形型の、このような市販されているペン型注射器(多く存在する)に適合することができる、使いやすく、信頼性が高く、非常にフェイルセーフ性の高いシステムを提供することである。このようなモニタリングシステムを提供する以前の試みは、通常、ペン型注射器の本体を、電子部品を備えつけ、そこに1又は複数のセンサを共に備えつけることにより適合することを必要とした。しかしながら、このようなシステムの主な欠点の1つは、すべての電子部品を一度に集積した最終製品が、非常にかさばって扱いにくいものになる傾向があり、したがって、ユーザーの観点からは使用がより困難になることである。また、このような改造システムは、特定のブランドやメーカーに極めて特化したものとなる傾向があり、したがって、他のメーカーではほとんど、又は、全く使用できない。さらに、改造されたペン型注射器のかさばりや扱いにくさの問題を解消するために、複雑な電子部品を小型化することによって、注射ペン型本体の全体の体積を可能な限り小さくしようとする試みる傾向があるが、そのようにすることは、それ自体問題をもたらし、特には、必要とされる又は所望の集積された機能を提供する回路が近接していることにより、様々な部品間の電磁干渉に関する問題をもたらす。このようなモニタリングシステムにおいて、センサを電磁干渉源からさらに遠ざけると、問題はさらに複雑になるだけであり、誤った測定値を導く可能性があり、又は、センサが他の電子部品(例えば、さまざまな部品を制御し、さまざまな部品に命令を出し、それらの相互作用を管理するように設計されたマイクロコントローラー)からの物理的に離れることを補うために、さらなるシステムが必要になる。
【0004】
議論されているペン型注射器はそれ自体よく知られており、一般的には、近位に配置された用量設定ホイールと注射作動装置を備えており、用量設定ホイールはペン型注射器の長手方向の中心軸を中心に回転可能である。ホイールを、投与する薬物の用量を選択するために、ユーザーによって回転される。ペンは一般的に、注射作動装置の作動により注射を行うよう、機械的又は電気機械的に構成されている。このような注射作動装置は、ごく一般的には単純なプレスボタン又はプッシュボタンであり、ペン型注射システム内に配置された吐出機構と機械的又は電気的に接触しており、このボタンを押すことにより、注射機構が作動し、ペン型注射システム内に含まれる薬物が注射される。いくつかのペン型注射器システムでは、用量設定ホイールは、用量設定時だけでなく、注射時にも回転するように構成されている。これは、1つ又は複数の金属部品を含めることによって達成され、金属部品は、例えば、注射ペンシステムの筐体内に配置され、用量設定ホイールに物理的に結合した、らせん状に巻かれた駆動バネである。このような金属製の要素は、今日の多くのペン型注射器に搭載されている電子部品システムと比較して、比較的大きな物体であるため、このような大きな金属製の物体は、このような電子部品システムのセンサが、補足し、拾い上げよう設計している信号をさらに乱す可能性があり、システムの精度を低下させる可能性があり、及び/又は、計算エラーを回避するために複雑な補正機構の導入を要する。
【0005】
いくつかの、電子部品の集積の困難性を解消する試みが、すでに特許文献に記載されている。
【0006】
例えば、公開されているPCT特許出願WO2014128156A1は、パターン状に配置された複数の個別の導電性センサ領域を有する第1の回転センサ部品と、第1の部品に対して回転可能に配置された第2の回転センサ部品とを有するセンサアセンブリであって、第1のセンサ回転部品上の導電性センサ領域と接触するように適合された複数の接触構造体を備えるセンサアセンブリに関する。接触構造体は、回転センサの第1及び第2の部品がそれぞれに対して回転する際に、異なるセンサ領域と係合し、接続するように構成されており、形成された接続は、第1の部分と第2の部分の間の回転位置を示す。接触構造体の1つは、第1の部分に対して軸方向に移動可能な作動可能接触構造体であり、作動可能接触構造体がセンサ領域と接触している接続位置と、作動可能接触構造体がセンサ領域と接触していない非接続位置とを有する。このシステムは、ペン型注射器本体内に収容され、少なくとも一部が用量設定ホイール内の空間内に収納されている。また、このシステムは、注射作動ボタンの上、又は、注射作動ボタンの代わりに配置されたLCDディスプレイ等の視覚的表示装置を備えている。
【0007】
比較すると、公開されているPCT出願WO2018013419A1は、アクチュエータに取り付けられ、用量設定部材に取り付けられた結合部材に対して回転方向に及び軸方向に移動可能な投与部材を含む用量検出システムであって、結合部材と投与部材の相対的な回転を検出し、薬物送達デバイスによって送達される用量を検出するように動作する電子センサを含むモジュールを備える用量検出システムに関する。用量検出モジュールは、ペン型注射システムの近位端に取り外し可能に結合されており、ペン型注射システムに取り付けられた状態で、ペン型注射システムによって吐出された薬物の量を検出し、検出された用量をメモリに格納し、検出された用量を表す信号を離れた通信デバイスに送信する手段として機能することを目的としている。システムは、シリンダ表面に設けられた電気接点を介して相互に作用し、用量設定を含む注射投与プロセスの様々な状態又は位置を示す一対の回転可能及び並進可能なシリンダを備えており、電気接点は、柔軟なプリント回路基板上に収容された電子部品の集合体に接続されている。このプリント回路基板は、取り外し可能な結合体の中で重なり合った折り目を有するアコーディオン式形態で配置されており、回路基板の重なり合った層の間は電気的に非導電性のスペーサー層によって絶縁され、潜在的な電気的、電子的及び電磁的干渉を防止している。
【0008】
上述の構成を見てすぐに分かることは、折り畳まれた柔軟なプリント回路基板を使用し、複数の表面を提供し、その上に電子部品を配置しているにもかかわらず、これらの相対的な空間密度と互いに対する位置関係は、電子部品の層の間に非導電性のスペーサーを設けることを要するということである。これに直結する結果として、モジュールの高さが高くなり、該明細書に記載されているクリップオン式線用量検出モジュールの複雑度が必然的に増加する。
【0009】
したがって、本発明の1つの目的は、薬物を送達するための注射ペンシステムの近位端に取り外し可能に取り付けられるように、適合及び構成された注射モニタリングモジュールを提供することであり、注射ペンシステムは、注射する薬物の用量を設定するために回転可能な用量設定ホイールを有し、前記用量設定ホイールは注射中にも回転し、前記注射モニタリングモジュールは、はるかに単純な構成であり、同時に、モニタリングモジュール内の電子部品が比較的高密度であることによって生じる、望まれない電気的、電子的又は電磁的影響に対抗するための複雑なシールドや保護解決策の必要性を排除する。
【0010】
本発明の別の目的は、上記のような注射モニタリングモジュールを提供することであり、前記モジュールは、注射中に回転する回転用量設定ホイールを有するペンシステムにおいて、注射終点を検出するように適合及び構成されている。本発明の対象のために、本明細書で使用される表現「注射終点(injection end point)」は、薬物等の注射可能物質の一用量の注射の完了(ユーザが必要な用量の注射可能物質を1回の操作で注射する場合)を意味するだけでなく、注射モニタリングモジュールがペン型注射システムに取り付けられているときに、ペン型注射システムによって実際に放出される薬物の任意の量を含む。これは、ユーザーが、例えば、注射作動装置の連続的な作動を繰り返すことによって、一連の小さな繰り返しの注射操作を行う場合、各注射ステップに対して対応する終点が登録され、ペン型注射システムから注射又は放出されたと計算される注射可能物質の対応する量が登録されることを意味する。
【0011】
本発明のこれら及びその他の対象は、本明細書をすべて読むことより、容易に明らかになるであろう。
【0012】
したがって、上記の目的のいずれかによれば、薬物送達のための注射ペンシステムの近位端に取り外し可能に取り付けられるように適合及び構成された注射モニタリングモジュールが提供され、該注射ペンシステムは、近位に配置された用量設定ホイール及び注射作動装置を備え、用量設定ホイールは、用量設定の間及び注射中にペン型注射システムの長手方向の中心軸を中心に回転可能であり、注射モニタリングモジュールは、中空の本体及び注射モニタリングシステムを備え、
前記中空の本体は、前記ペン型注射システムの近位端の前記用量設定ホイールと同軸上に取り付けられ、これと共に回転し係合するように適合及び構成されており、
前記中空の本体は、近位端及び遠位端を有する長手方向中央腔を備え、
前記注射モニタリングシステムは、前記本体の長手方向中央腔内に、その近位端に配置され、前記近位端を超えて前記長手方向軸に沿って近位方向に延在し、
前記注射モニタリングシステムが、前記本体の長手方向中央腔内で、長手方向の中心軸に沿って、第1モニタリング位置から第2モニタリング位置まで移動可能であって、前記第1モニタリング位置では、前記注射モニタリングシステムが、前記注射作動装置の近位表面と当接しておらず、前記第2モニタリング位置では、前記注射モニタリングシステムが、前記注射作動装置の近位表面と当接している。
【0013】
本明細書で使用されるように、「ペン型注射システム(pen injection system)」及び「注射ペンシステム(injection pen system)」という用語を互換的に使用して、一般的な手持ちのペン型注射システムを示しており、このようなシステムはそれ自体が容易によく知られており、多くの様々な医学的適応症の治療に使用するために市販されている。また、これらのシステムは、一般的に、よく、所与の医学的適応症のための治療を必要としているユーザーによって、薬物の自己注射のために設計される。これは、例えば、糖尿病に伴う治療を目的としたインスリンの場合であり、このような一例は、サノフィ・アベンティス社のLantus(登録商標)、SoloSTAR(登録商標)というブランド名で販売されているペン型注射器である。しかし、その他の薬物についてもまた、このカテゴリーに入り、例えば、生命を脅かす可能性がある状況に対処し、必要な薬物(例えば、アナフィラキシーショック治療薬、抗凝固剤、オピオイド受容体作動薬及び拮抗薬等)を即座に緊急注射することを可能にすることが要され、このような疾患に苦しむ、あるいはこのような疾患に罹患しやすい患者にとっては、これらのデバイスを持ち歩くことは、一般的なこととなっている。
【0014】
本発明に係る注射モニタリングモジュールが適合され、取り外し可能に取り付けられるように構成された注射ペンシステムは、近位に配置された用量設定ホイールと注射作動装置を備えている。用量設定ホイールは、ペン型注射器の長手方向の中心軸を中心に回転し、ユーザーが注射する薬の用量を設定することを可能にする。用量設定ホイールは、通常時計回りと反時計回りの両方向に回転可能であり、これらの方向は通常それぞれ、投与すべき、選択された用量の増加と、選択された用量の低減に対応している。注射作動装置は、プッシュボタンとされることが多い。注射システムのユーザーが注射作動装置を遠位方向に押すと、薬物を、注射ペン本体内のチャンバーから、ユーザーが適切な注射部位(例えば、投与する薬物の種類に応じて皮膚、脂肪組織、筋肉等)に挿入した針を介して、放出するために、プランジャーに接続されたピストンが駆動する。用量設定ホイールは、注射駆動機構に連結されており、これにより、薬物の注射が進むにつれて、用量設定ホイールもまた回転する。このような注射システムの機能それ自体は、当技術分野ではよく知られている。
【0015】
したがって、本発明に係る注射モニタリングモジュールは、そのような注射ペンシステムの近位端に取り外し可能に取り付けられるように適合及び構成されている。本明細書で使用される可能性のある「取り外し可能に取り付けられた(removably attached)」又は「取り外し可能に取り付けられる(removably attachable)」という表現は、例えば、注射モニタリングモジュールを別のペン型注射システムに移す場合や、例えば、モニタリングモジュールが使用中に破損して交換が必要になった場合等に、注射モニタリングモジュールを取り付け、その後に取り外す可能性を指すと理解されたい。このような取り付けとその後の取り外しは、モニタリングモジュールにペン型注射システムの近位端と解放可能な態様で係合する結合手段を設けることによって実現でき、例えば、摩擦や弾性による係合や、クリップ、ストラップ、ねじ山とそれに対応する締め付けリング等の他の解放可能な締め付け手段を介して、用量設定ホイール若しくは注射作動装置のいずれか、又は両方と係合する。
【0016】
したがって、上記の観点から、取り外し可能に取り付けられる注射モニタリングモジュールは、中空の本体を備え、中空の本体は、ペン型注射システムの近位端にある用量設定ホイールと同軸上に取り付けられ、これと共に回転し係合するよう、適合及び構成される。
【0017】
注射モニタリングモジュールの中空の本体は、近位端と遠位端を有する長手方向中央腔を備える。腔の遠位端は、好ましくは、例えば摩擦を介して弾性的に係合し、ペン型注射システムの用量設定ホイールの外側面を取り囲むように構成され、及び、寸法設計され、これにより、中空の本体が回転すると、次に用量設定ホイールも同じ方向に、実質的に同じ又は同一の回転度合いまで回転し、逆に、用量設定ホイールが回転すると、中空の本体も回転する。このように、中空の本体は、用量設定ホイールと共に回転すると言える。中空の本体は、任意の適切な材料、例えば耐久性のあるポリマーやプラスチック材料で適切に作られる。有利には、中空の本体は透明、半透明、又は不透明な材料で作られ、これは、ユーザーが、発光ダイオード等の任意の視覚的な手がかりを把握して認識できるようにするためであり、これは、注射モニタリングシステムのさまざまな作動状態を示すために任意選択で使用することができる。
【0018】
また、注射モニタリングモジュールは、本体の長手方向中央腔内に、その近位端に配置され、前記長手方向軸に沿って前記近位端を超えて近位方向に延在する注射モニタリングシステムもまた備えている。注射モニタリングシステムについては、以下でさらに詳しく説明するが、基本的には、注射モニタリングシステムは、例えば、以下のような注射状態のモニタリングを提供する複数の異なる構成要素及び手段を備える。
-注射操作の開始。
-注射操作の終了(ここで、注射操作の終了とは、注射されるべき物質の選択された用量のすべての投与、又はユーザーが用量の一部のみを注射するか、若しくは、選択された用量の一部をペン型注射システムから放出させる、不連続の注射操作の両方を含むと理解される)。
【0019】
さらに、本発明の対象によれば、注射モニタリングシステムは、本体の長手方向中央腔内で、長手方向の中心軸に沿って、注射モニタリングシステムが注射作動装置の近位表面と当接していない第1モニタリング位置から、注射モニタリングシステムが注射作動装置の近位表面と当接している第2モニタリング位置まで移動可能である。
【0020】
以上より、注射モニタリングシステムは、モニタリングシステムと作動ボタンとの間に物理的な接触がない初期位置から、モニタリングシステムと注射作動装置の近位面との間に物理的な接触が確立される異なる位置に移動可能であることが理解されるであろう。このような移動は、一般的に、中空の本体の腔内の長手方向の中心軸に沿った、第1の位置から第2の位置へのモニタリングシステムの並進移動となる。
【0021】
本発明の別の対象によれば、本発明のモニタリングモジュールは、磁場生成手段を備える。磁場を生成する手段は様々なものが知られており、例えば、古典的な磁石、電磁石、混合材料の磁石等がある。このような磁石は、通常、磁気特性又は常磁性特性を有する磁化可能な材料から作られ、これは、自然に、又は、電気若しくはその他の通電流が、前記材料を通過するか、若しくは、前記材料に影響を及ぼして、前記材料に磁場を生成若しくは誘導する。
適切な材料は、以下から適宜選択できる。
-フェライト磁石、特に鉄、酸素、ストロンチウムの結晶性化合物を含む焼結フェライト磁石。
-熱可塑性マトリックスと等方性ネオジム-鉄-ボロン粉末からなる複合材料。
-熱可塑性樹脂マトリックスとストロンチウム系ハードフェライト粉末で作られる複合材料で、得られる磁石は等方性、すなわち配向していないフェライト粒子と、異方性、すなわち配向したフェライト粒子を含むことができる。
-熱硬化性プラスチックマトリックスと等方性ネオジム-鉄-ボロン粉末で作られる複合材料。
-例えば、ストロンチウムフェライト粉末を高度に充填し、合成ゴム又はPVCと混合し、続いて、所望の形状に押し出すか、微細なシート状にカレンダー加工することで製造される磁性エラストマー。
-柔軟性のあるカレンダー加工された複合材料であって、一般的には茶色のシートの外観を有し、その厚さと組成に応じて、多かれ少なかれ柔軟性を有する。これらの複合材料は、ゴムのような弾性はなく、ショア硬度がANSIのショアDで60~65の範囲となる傾向がある。このような複合材料は、一般的にストロンチウムフェライト粒子を充填した合成エラストマーから形成される。得られる磁石には異方性や等方性があり、種々のシートは一般的にカレンダー加工に応じた磁性粒子の配列を有する。
-一般的には、軟鉄の極板を共に積層した、上記のような柔軟な複合材料を備える、積層複合材料。
-ネオジム-鉄-ボロン磁石。
-アルミニウム-ニッケル-コバルト合金から作られ、磁化された鋼。
-サマリウムとコバルトの合金。
【0022】
本発明で使用するために適した磁場生成手段の上記のリストのうち、ネオジム-鉄-ボロン永久磁石、磁気エラストマー、熱可塑性プラスチックマトリックスとストロンチウム系ハードフェライト粉末から作られる複合材料、及び熱硬化性プラスチックマトリックスと等方性ネオジム-鉄-ボロン粉末から作られる複合材料からなる群から選択されたものが好ましい。このような磁石は、比較的高い磁場強度を維持しながら、これらを比較的小さなサイズに寸法設計可能であることで知られている。
【0023】
磁場生成手段は、例えば、円形、楕円形、その他の任意の適切な多角形を含む円盤形状等の、任意の適切な一般的形状であることができるが、好ましくは、単一の双極子のみを有し、直径方向に対向する1対のN磁極とS磁極を有する。磁場生成手段は実質的に円盤形状とすることができるが、そのような円盤形状は、磁石を含むことができ、磁石は、実質的に円盤の中心にオリフィスを有し、リング状又は環状の磁石を形成する。
【0024】
本発明の1つの有利な対象によれば、磁場生成手段は、直径方向に整列した2つの単一双極子磁石を備え、磁石は、中空腔の直径を前記直径の対抗する位置で横切り、実質的に前記腔の円周に沿って位置合わせされている。本明細書で使用される用語「整列、位置合わせ(alignment)」又は「整列した(整列された)、位置合わせした(位置合わせされた)(aligned)」は、磁石の極が各磁石の長手方向の軸に沿って整列(位置合わせ)されていることを意味する。このような構成は、例えば、第1及び第2の端部を有する棒状又は円筒状の磁石を使用することで得ることができ、第1の極は、実質的に第1の端部に位置し、第2の極及び反対側の極は、棒状の磁石の第2の端部に位置する。さらに、各磁石は、中空腔の円周上の対向する位置に配置され、これにより、棒は一端を他端に対して長手方向に整列する。各磁石の磁極は、例えば、N-S/S-N配列、又は、S-N/N-S配列のように、他端に対して一端を反対にしてそれぞれ配置することができるが、好ましくは、かつ、有利には、磁極は繰り返しの構成で配置され、極は、N-S/N-S配列、又は、S-N/S-N配列で整列される。
【0025】
本発明のさらなる対象において、磁場生成手段は、中空の本体の腔内で、長手方向の中心軸の周りに移動不可能に収容される。ここで、「移動不可能」という用語は、磁場生成手段が中空の本体の腔に対して長手方向の中心軸に沿った固定された位置に配置されていることを意味すると理解することができ、これはまた、磁場生成手段が、注射モニタリングモジュール内でいかなる長手方向の並進移動をも経ないことを意味する。例えば、磁場生成手段は、中空の本体を形成する材料に配置するか、又は、組み込むことができ、前記中空の本体の腔内に少なくとも部分的に延在する磁場を生成する効果を有する。
【0026】
あるいは、有利には、本発明のさらに別の対象によれば、磁場生成手段は、別個の磁場生成手段支持体に集積、挿入、又はその他の方法で導入される。この場合、支持体は、有利には、円盤、又は、環状の円盤(すなわち、実質的にその中央に穴のある円盤を形成するように構成された円盤)を形成するよう構成及び寸法設計されている。環状の円盤は、中空の本体の腔内に導入され、そこに配置され、長手方向の中心軸と同軸に位置合わせされ、固定された長手方向の位置に配置される。このような構成の円盤は、環状の円盤として形成されている場合、有利には、腔の内周面から腔内に半径方向内側に突出し、そのような突起の半径方向最内側の端部で、腔径が狭められた状態を形成する。
【0027】
磁場生成手段が、例えば、上述した態様及び構成で、中空の本体の腔内に移動不可能に(すなわち、長手方向の並進移動の観点から移動不可能に)配置されるとき、磁場生成手段は、それにも関わらず、中空の本体及び長手方向の中心軸に関して、固定された長手方向位置を中心にではあるが、前記中空の本体と共に回転することができる自由度を維持していることが理解されるであろう。これは、用量設定ホイール又は中空の本体のいずれかが回転すると、磁場生成手段もまた同じ程度、長手方向の中心軸を中心に回転することを意味する。
【0028】
本発明の別の対象によれば、注射モニタリングシステムは、選択的に係合可能で、それぞれ係合解除可能なクラッチアセンブリ内に取り付けられている。本明細書で使用される「クラッチアセンブリ」という表現は、注射モニタリングシステムを第1の係合位置から第2の非係合位置に選択的に移動させるように構成されたアセンブリを意味し、本発明の文脈で捉えると、注射モニタリングシステムが注射作動装置の近位表面と当接していない第1モニタリング位置と、注射モニタリングシステムが注射作動装置の近位表面と当接している第2モニタリング位置とにそれぞれ対応する。本明細書中で使用されている「係合(engagement)」、「係合可能(engageable)」、「係合解除(disengagement)」、「係合解除可能(disengageable)」の概念は、クラッチアセンブリがそこに取り付けられた注射モニタリングシステムに対してどのように機能するかを理解しやすくするために供されているものであり、そのさらなる詳細については後述する。
クラッチアセンブリの目的の1つは、中央の長手方向軸に沿った注射モニタリングシステムの長手方向の並進移動を達成することができる方法又は手段を提供することである。
【0029】
本発明のさらに別の対象によれば、クラッチアセンブリは、第1の遠位体と第2の近位体とを備え、第1の遠位体と第2の近位体との間に位置するバイアス部材をさらに備えている。第1及び第2の体は、第1の遠位体と第2の近位体の適切な位置で、例えば超音波溶接によって互いに物理的に接続又は結合されている。第1及び第2の体は、有利には、本体の中空腔内に適合し、その中で長手方向の中心軸に沿って並進移動できるように寸法設計され、構成されている。
【0030】
本発明のさらに別の対象によれば、クラッチアセンブリの第1の遠位体と第2の近位体は、細長い中空の接続部材を介して、長手方向の中心軸に沿って共に接続されている。この構成では、細長い中空の接続部材が、第1の遠位体と第2の近位体の間にチューブを形成する。接続部材は、第1の遠位体又は第2の近位体のいずれかと一体的に形成することができるか、又は、代わりに第1の遠位体及び第2の近位体の両方と一部一体的に形成でき、共に結合されるか、又は、第1の遠位体のその近位端部及び第2の近位体のその遠位端部の両方に接合される別個の中空の細長い接続部材として形成することができる。このような結合は、例えば、遠位体及び近位体のそれぞれを超音波溶接することによって、又は、接続部材が、第1又は第2の体のいずれとも一体的に形成されていない場合、遠位体及び近位体のそれぞれを接続部材とともに組み立て、溶接することによって得ることができる。
【0031】
本発明のさらに別の対象によれば、クラッチアセンブリの第1の遠位体は、磁場生成手段の遠位に配置される。
【0032】
本発明のさらに別の対象によれば、第2の近位体は、磁場生成手段の近位に配置される。
【0033】
以上から、第1の遠位体と第2の近位体は、磁場生成手段の両側に最適に配置されており、また、細長い中空の接続部材を介してそれぞれにも接続されており、前記第1の遠位体と前記第2の近位体の間は固定された距離関係となることが理解されよう。上述したように、磁場生成手段は、注射モニタリングモジュールの中空の本体内に固定された関係で配置されており、第1及び第2の体は、その両側に配置されており、これは、第1及び第2の体は、一方又は他方が磁場生成手段の環状の円盤の半径方向内側に突出した表面に接触する前に、第1の位置から第2の位置まで、前記長手方向の中心軸に沿って、所定の移動距離の間で、遠位又は近位のいずれかに長手方向に並進することができるのみであることを意味する。
【0034】
バイアス部材は、第1の遠位体と第2の近位体との間に配置されており、好ましくかつ有利には、さらに磁場生成手段の近位に、かつ、第2の近位体の遠位に配置されている。バイアス部材は、一般的には、バネ等の予め圧縮されたバイアス部材であり、所望の用途に合わせて当業者が適切な選択を行うことができる。しかしながら、本発明の目的のためには、そのような予め圧縮されたバイアス部材は、平らな圧縮線バネ又は波型バネ(ウェーブスプリング)であることが有利であることがわかっている。このような圧縮線バネや波型バネは、当該技術分野で一般的に知られており、例えば、Smalley Steel Ring Companyから入手可能であり、CMやCMSの標識の範囲で販売されている(CMはプレーンエンドの波型バネ、CMSはシムエンドの波型バネ)。このようなバネは、一般的に炭素鋼又はステンレス鋼で作られている。
【0035】
バイアス部材は、第2の近位体を係合位置に偏らせるよう設計されており、すなわち、ペン型注射システムに取り付けた後に注射モニタリングモジュールが静止しているときの位置、及び/又は、用量設定ホイールを回転させて投与する薬物の量を設定している用量設定時の位置であり、バイアス部材は、相対的に圧縮していない構成を採用しているときの位置である。この位置は、バイアス部材が近位体の遠位面を押し、第1の遠位体の対応する近位面が磁界生成手段の遠位面と接触し面が当接しているため、係合位置であると考えられる。
【0036】
バイアス部材が遠位方向に圧縮されると(例えば、第2の近位体の遠位面が長手方向及び遠位方向に動かされ、又は移動されると)、これはバイアス部材を押し下げ、バイアス部材を圧縮された構成に移行し、第2の近位体と第1の遠位体との間の固い接続部材により、前記第1の遠位体が同程度移動し、両者の間の固定された関係により、係合解除位置(前記第1の遠位体が、近位面が磁場生成手段の遠位面と、もはや接触していない)に移動する。
【0037】
本発明のさらに別の対象によれば、注射モニタリングシステムは、単一の磁場センサを備える。
【0038】
本発明の別の対象によれば、単一の磁場センサは、長手方向の中心軸上に配置され、前記軸に沿って第1の近位位置から第2の遠位位置まで移動可能である。
【0039】
本発明のさらに別の対象によれば、単一の磁場センサは、第1の遠位体上に、又はその中に配置されている。前記第1の遠位体、第2の近位体、バイアス手段、及び磁場生成手段に関する上述の説明から容易に明らかになるように、これは、磁場センサが、磁場生成手段に隣接する第1の近位位置から、前記第1の位置から離れて配置される第2の遠位位置まで、長手方向の中心軸に沿って長手方向に移動可能であることを意味する。
【0040】
磁場センサは、磁場生成手段で生成された磁場を測定するために用いる。長手方向の中心軸に沿った、固定された磁場生成手段に対するセンサの移動は、前記長手方向の中心軸に沿った基準点の並進位置を計算するために使用され、基準点は、本発明に係る、ゼロ点、注射モニタリングシステムの、初期化点、注射開始点、注射終点、及び/又は、薬物等の注射可能物質の任意の投与される量に対応する点に相関するために使用することができる。
【0041】
磁場を測定して判定する手段は、当技術分野で一般に知られている。例えば、磁気抵抗器はよく知られた手段である。このような磁気抵抗器は、例えば、AMR、GMR、TMRセンサ等のこれらの略称で呼ばれることが多く、これは、これらのセンサ部品が機能することによる物理的な機構を表している。巨大磁気抵抗(GMR)は、強磁性体と非磁性体の導電層の交互の層で構成される、薄膜構造で観測される量子力学的な磁気抵抗効果である。異方性磁気抵抗すなわちAMRは、電流方向と磁化方向との間の角度への、電気抵抗の依存性が観測される物質に存在する。トンネル磁気抵抗(TMR)は、磁気トンネル接合(MTJ)で生じる磁気抵抗効果であり、薄い絶縁体で隔てられた2つの強磁性体で構成される構成要素である。このようなさまざまな特性を利用した抵抗器は、それ自体知られている。
【0042】
上記の観点から、本発明に係る注射モニタリングモジュール及び/又はシステムは、好ましくは、磁場センサとして磁力計を用いる。このような磁力計は、GMR、AMR又はTMRセンサとは、それが磁場強度を直接的に測定するという点で、異なる。磁力計は、主に2つの方法で磁場を測定し、ベクトル磁力計は磁場のベクトル成分を測定し、全磁場又はスカラー磁力計はベクトル磁場の大きさを測定する。別のタイプの磁力計は、絶対磁力計であり、これは、内部校正や磁気センサの既知の物理定数を用いて、絶対的な大きさ又はベクトル磁場を測定する。相対磁力計は、固定されているが校正されていないベースラインに対する相対的な磁場の大きさ又はベクトルを測定するもので、バリオメーターとも呼ばれ、磁場の変動を測定するために使用される。
【0043】
したがって、本発明に係る注射モニタリングモジュールで使用するための、好ましい磁力計は、超低電力高性能3軸ホール効果磁力計である。磁力計は、互いに垂直である又は直交する3つの軸について磁場を測定するように構成することが可能でり、本ケースでは、磁場センサは、3つの直交する軸のうちただ2つの軸(例えば、X軸及びZ軸)について、磁場を測定するように構成されることが好ましく、ここで、Y軸は、長手方向の中心軸と同軸であり、それにより、法線に対応し、法線に沿う、前記長手方向軸に沿う磁場センサの並進移動に関する距離測定値は、上述のように、前記軸上の基準点の位置に対して、計算できる。
【0044】
本発明のさらに別の対象によれば、注射モニタリングシステムは、電子部品基板を備える。
【0045】
有利には、本発明のさらなる対象によれば、単一の磁場センサは電子部品基板に電気的に接続されている。
【0046】
さらに有利には、電子部品基板は、例えば、少なくとも1つのマイクロコントローラー等の、集積された制御及びデータ処理ユニットを備え、これは磁場センサから受け取った情報を処理するために、磁場センサに電気的に接続されている。したがって、電子部品基板は、好適には、例えば、対応する適切な寸法のプリント回路基板とすることができる。本発明で想定している構成では、そのようなプリント回路基板は、有利には円盤形状である。
【0047】
電子部品基板は、有利には、クラッチアセンブリの第1の遠位体上に配置されるか、一体化されるか、又はその中に収容されている。少なくとも1つのマイクロコントローラーを備える集積された制御及びデータ処理ユニットは、電子部品基板の様々な電子部品と磁場センサとの間のすべての電気通信と信号を処理する。また、電子部品基板は、計算の実行にもまた関与し、磁場センサの正確な配置位置を計算及び決定することを可能にし、また、注射モニタリングシステムに組み込まれた自立型電源と通信手段からの信号を処理し、ローカル又はリモートのデータ処理システム(例えばスマートフォン)と通信する。電子部品基板は、最初の使用時にリモートでプログラムするか、又は、情報やアップデートを受け取ったりすることができ、今日の他の電子機器と同様に、集積された、制御及びデータ処理装置を含む。このような集積された制御及びデータ処理ユニットはそれ自体既知であり、多くの場合、中央処理ユニット、リアルタイムクロック、1つ又は複数のメモリストレージシステム、及び任意選択で通信システム又はサブシステムを、他の所望のコンポーネントとともに集積している。
【0048】
本発明のさらに別の対象によれば、磁場センサは、電子部品基板の近位面に配置されている。このような態様及び構成では、注射モニタリングモジュールがペン型注射システムに最初に取り付けられたとき、磁場センサは、磁場生成手段とほぼ当接している。さらに、有利には、磁場センサは、電子部品基板の近位面に、物理的に可能な限り長手方向の中心軸の近くに、配置されており、好ましくは前記長手方向の中心軸上に配置されている。このような位置決めの目的は、磁場センサが長手方向の中心軸から半径方向に変位することによる、集積された制御及びデータ処理ユニットにより実行される補正計算の必要性を、可能な限り回避するよう試みることであり、これにより、対応する計算の精度と、前記軸に沿って並進基準点を決定する際の精度が増す。
【0049】
前述の説明から推測されるように、本発明の別の対象は、モニタリングシステムにおいて、第1の遠位体が電子部品基板支持体であり、結果的に電子部品基板が部品基板支持体内に配置されている、注射モニタリングモジュールである。
【0050】
簡単に上記したように、電子部品基板には自立型電源により電源が供給される。したがって、本発明の1つの対象によれば、注射モニタリングシステムは、取り外し可能及び/又は充電可能な電源を備える。このような取り外し可能な自立型電源は、例えば、リチウムイオン電池のように、消耗したら簡単に交換でき、又は充電式電池のように、消耗したら、例えば、注射モニタリングモジュールに設けられた対応する充電ポートを介して、充電式電池に接続して充電できるものが有用であり、両タイプの電池は、一般に当業者に知られている。
【0051】
したがって有利には、本発明のさらに別の対象によれば、第2の近位体は、電源支持体であり、電源は、好ましくは電源支持体内に配置される。ここでは電源支持体として例示されているような、第2の近位体は、有用かつ有利には、その近位端で取り外し可能なキャップによって閉じられており、注射モニタリングシステムを作動する際にユーザの親指又は他の指によって押されるように構成及び寸法設計されている。キャップは、有用に電源を覆い、埃及び/又は水又は湿気の侵入を防ぎ、第2の近位体と押し嵌められるよう、又は弾性的に係合するように作られているが、同様に、例えば、バッテリーを交換するために電源にアクセスできるように、取り外しも可能である。
【0052】
上記及び前段落から、電源が第2の近位体にあり、電子部品基板が第1の遠位体にあることが明らかであろう。両者は、有利には、細長い中空の接続部材を介して電気的に接続されており、例えば、標準的な銅配線等の電気的接続は、中空の細長い接続部材内に配置されている。電源と電子部品基板との間の電気的接続は、注射モニタリングシステムが用量設定ホイールと同軸回転で回転している場合であっても、電気的接続の乖離や中断を回避するように、細長い接続部材内に、構成及び寸法設計されている。したがって、細長い接続部材を前記電気的接続のための導管として使用することは、前記細長い接続部材が長手方向の中心軸に沿って配置されている際、非常に有利であり、ユーザーが用量設定ホイールと、対応する取り付けられた注射モニタリングシステムを、交互に又は連続して様々な回転でねじったり回したりしても、電気的接続は任意の実質的な回転から保護されることを意味し、破損や切断のリスクが低減される。
【0053】
本発明の別の対象によれば、また、様々な構成要素の相対的な動きと位置に関する前述の説明から明らかなように、注射モニタリングシステムは、クラッチアセンブリが第1の係合位置にあるときに、磁場生成手段が電子部品基板体の近位面と接触する遠位面を備える配置を有し、クラッチアセンブリが第2の非係合位置にあるときに、電子部品基板本体の前記近位面が、長手方向の中心軸に沿って、磁場生成手段の前記遠位面から、軸方向に間隔を空けている。
【0054】
さらに、有利には、第1モニタリング位置は、電子部品基板体の近位面が磁場生成手段の遠位面と当接する位置であり、第2モニタリング位置は、注射モニタリングシステムの遠位面がペン型注射システムの注射作動装置の近位面と当接する位置である。このような構成では、バイアス部材が長手方向軸に沿って遠位方向に圧縮されると、電子部品基板本体の近位面は、磁場手段の遠位面との当接から遠位方向に離れるにように移動し、すなわち第1の位置から離れて、電子部品基板体の遠位面がペン型注射システムの注射作動装置の近位面と接触する、及び/又は当接する点まで、移動する。磁気センサは、センサが長手方向の中心軸に沿って磁場生成手段から離れ、注射作動装置と当接するまで移動し、この距離が数ミリメートル、例えば約15ミリメートルであるとき、測定された磁場の変化を集積された制御及びデータ処理ユニットに中継する。したがって、注射モニタリングモジュール全体は、中空の本体の遠位端からプッシュキャップカバーの近位端までの全長が、数十ミリメートル、例えば、全長約20~30ミリメートルとなるように製造することができる。
【0055】
本発明のさらに別の対象によれば、注射モニタリングモジュールを取り付けるステップ、用量を設定するステップ、注射器を作動するステップ、注射された用量を決定するステップを備える、ペン型注射システムから放出又は注射された薬物の実際の量を計算するためのプロセスが提供される。
前記注射モニタリングモジュール取り付けステップでは、実質的に本明細書に記載されているような注射モニタリングシステムを備える注射モニタリングモジュールを、薬物を送達するためのペン型注射システムの近位端に取り付け、
前記ペン型注射システムは、近位に配置された用量設定ホイール及び注射作動装置を備え、前記用量設定ホイールは、用量設定の間及び注射の間、前記ペン型注射システムの長手方向の中心軸を中心に回転可能であり、
前記用量を設定するステップでは、前記用量設定ホイールの回転により用量を設定し、
前記注射器を作動させるステップでは、注射を行うために注射器を作動させ、
前記注射された用量を決定するステップでは、前記注射モニタリングシステムが前記注射作動装置の近位表面に当接していない第1モニタリング位置から、前記注射モニタリングシステムが前記注射作動装置の近位表面に当接している第2モニタリング位置までに、前記注射作動装置の作動によって生じる前記注射モニタリングシステムの並進移動から注射された用量を決定する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
次に、本発明を、説明及び例示の目的で提供される添付の図を参照して、より詳細に説明する。
【0057】
【
図1】
図1は、手持ちペン型注射システム用である本発明に係る注射モニタリングモジュールの概略的な透視図である。
【0058】
【
図2】
図2は、
図1の注射モニタリングモジュールの遠位端から見た、その端部の概略図である。
【0059】
【
図3】
図3は、第1モニタリング位置にある、
図1の注射モニタリングモジュールの概略的な断面図である。
【0060】
【
図4】
図4は、第1モニタリング位置にある、90°回転させた、
図1の注射モニタリングモジュールの概略的な断面図である。
【0061】
【
図5】
図5は、本発明に係る注射モニタリングモジュールの、概略的な分解図であり、前記モジュールの近位端から前記モジュールの遠位端に向かう視線に沿う。
【0062】
【
図6】
図6は、本発明に係る注射モニタリングモジュールの、概略的な分解図であり、前記モジュールの遠位端から前記モジュールの近位端に向かう視線に沿う。
【0063】
【
図7】
図7A及び7Bは、本発明に係る注射モニタリングモジュールの概略的な断面図であり、第1モニタリング位置(7A)におけるモジュール及び第2モニタリング位置(7B)におけるモジュールそれぞれ示している。
【0064】
【
図8】
図8は、本発明に係る注射モニタリングモジュールの概略的な断面図であり、第2モニタリング位置にあるモジュールを示している。
【0065】
詳細な説明
ここで
図1を参照すると、本発明に係る注射モニタリングモジュール(1)の概略的な透視図が示されている。この注射モニタリングモジュールは、遠位端(3)と近位端(4)とを有する中空の本体(2)を備える。中空の本体(2)は、内側面(6)及び外側面(7)を有する周壁(5)を有し、それにより、遠位端(3)から近位端(4)まで延在する中空の本体(2)の中央腔(8)を規定する。遠位端(3)は、開いており、注射モニタリングモジュール(1)は、用量設定ホイール(11)及び注射作動ボタン(12)を有するペン型注射システム(10)の近位端(9)の上に挿入され、それを取り囲むことができるようになっている。中空の本体(2)は、本体(2)とペン型注射システム(10)の用量設定ホイール(11)上の対応するゼロ点位置との位置合わせを容易にするために、中空の本体(2)の外側面(7)上に指標ショルダー(13)を備え、ゼロの用量設定に対応する。指標ショルダー(13)は、本体(2)を構成する材料の隆起した領域を備え、前記本体材料の厚みが近位端(15)から遠位端(16)に向かって増加する斜面(14)に延在している。本体(2)の近位端(4)では、腔(8)がクラッチアセンブリ(17)によって実質的に閉じられており、このうち、注射モニタリングシステム(20)の一部を形成する近位体(18)とカバーリングキャップ(19)のみが見える。
【0066】
図2は、本体(2)の遠位端(3)から見た、注射モニタリングモジュールの端部の図である。本体(2)の周壁(5)の外側面(7)から上向きに突出している、本体材料が隆起した指標ショルダー(13)が見られる。環状フランジ(21)は、本体(2)の内側面(6)から半径方向内側に突出し、それによって腔(8)の直径を狭められ、本体がペン型注射システム(10)の近位端(9)の上及び周囲をスライドするとき、突出した環状のフランジ(21)が、用量設定ホイール(11)の近位面(23)の少なくとも一部と当接係合する遠位面(22)を有しているため、注射モニタリングモジュール(1)のあらゆる近位の動きを制限するための手段を提供している。
図1と
図2の両方から分かるように、本体(2)は、半径方向に間隔を空け、隆起し、傾斜した本体材料の一連のショルダー(24)を備えており、これらショルダーは、内側面(6)から腔(8)内に内向きに突出し、遠位方向に内側面(6)に沿って、突出した環状フランジ(21)の遠位位置から本体(2)の遠位端(3)まで、厚みが減少するように延在している。交互に突出するショルダーは、対応する一連の交互の谷部(25)を形成している。これらの内向きに突出する傾斜しているショルダー(24)及び対応する谷部(25)により、本体(2)がペン型注射システムの用量設定ホイール(11)と弾性的に、又は摩擦的に係合することが可能になる。特に、このようなペン型注射システムの用量設定ホイールは、その外側面に対応する、外向きに、突出したショルダー及び対応する交互の谷部を備えることが多いためである。したがって、2組の突出したショルダー及び谷部は、互いに摩擦的に係合することができ、用量設定ホイール(11)又は代わりに本体(2)の回転が、他方を同じ程度かつ同じ回転方向に回転させることを確実なものにする。別の取り付け配置では、腔の内側面(6)は、主本体(2)の遠位端(3)に隣接した適切に配置された位置に、前記表面を覆うエラストマーの層を有するものとでき、前記エラストマー層は、主本体(2)の遠位端(3)の外側面(7)に取り付けられ、その周囲に配置された、ねじ付き締め付けリング又はスライドフィット締め付けリングの回転により、用量設定ホイールの外側面と摩擦的又は弾性的に係合することとなる。
【0067】
図3及び
図4は、それぞれ線A-A'及び線B-B'に沿って見た注射モニタリングモジュールの概略的な断面図であり、注射モニタリングモジュールをより詳細に示しており、線B-B'に沿った
図4は、本体(2)の長手方向の中心軸26を中心に90°回転したものである。
図3及び
図4は、様々な構成要素をペン型注射システムに取り付けた直後の、又は、例えば用量設定中の、第1の位置における様々な構成要素を備えた注射モニタリングモジュールを示している。注射モニタリングモジュールの様々な構成要素のこの相対的な配置は、第1モニタリング位置にも対応しており、また、本明細書に記載の「係合」位置にも対応している。第1モニタリング位置は、本明細書で以降詳細に説明する注射モニタリングシステムの第1モニタリング位置に関し、「係合」位置は、同じく本明細書で以降詳細に説明するクラッチアセンブリに関連する。
【0068】
図3及び
図4を参照すると、磁場生成手段(27)が、腔(8)の円周の周辺の腔(8)内に配置され、本体の内側表面(6)と接触している。磁場生成手段(27)は、例えば、実質的に環状形状の円盤として形成されたプラスチックマグネットであるか、又は、代替的に、好ましくは、環状形状の円盤の成形中に一対の単一双極永久磁石(28、
図4)が導入された、又は封入された、プラスチックの成形された環状の円盤とできる。磁石(28、
図4)は、好ましくは、環状形状の円盤内に、直径方向に対向するN-S/N-S極配置で配置され、それによって、極が環状形状の円盤全体で位置合わせされる。また、円盤は、腔(8)の直径よりも小さい直径の中心孔(29)を備える。磁場生成手段(27)の環状形状の円盤は、本体(2)の環状のフランジ(12)に近接した位置で本体(2)内に収容され、様々な異なる手段、例えば、本体(2)の内側面(6)に形成された1つ又は複数の内側近位部(30)の突起によって、所定の位置に保持することができる。ここで、突起は、前記内側面(6)から半径方向に少なくとも一部が腔(8)内へと腔(8)の長手方向に沿って突出し、近位傾斜ショルダー(30a)及び突出ショルダー(30a)の両側に延在する遠位フランジ部(30b)を形成する。環状の円盤(27)には、円盤(27)の周縁部(32)に位置する対応する凹部(31a、31b、31c、31d)が設けられており、この凹部は、注射モニタリングモジュール(1)の製造組み立て時に、円盤(27)が長手方向の中心軸(26)と同軸に腔(8)に挿入されると、弾性的又は摩擦的に係合して入る。凹部(31a、31b、31c、31d)は、内側の傾斜ショルダーと協働し、円盤(27)の遠位面(33)の少なくとも一部は、近位傾斜ショルダー(30a)のフランジ(30b)と当接して停止する。一方では凹部(31a、31b、31c、31d)と傾斜ショルダー(30a)との間の摩擦的接触、他方では遠位面(33)とフランジ(30b)との間の摩擦的接触により、環状の円盤(27)は長手方向軸に沿ういかなる方向にも動くことができず、あらゆる意図及び目的に対し、本体(2)の腔(8)内に移動不可能に収容されている。
【0069】
また、
図3及び
図4には、本体(2)の腔(8)内に位置するクラッチアセンブリ(17)が示されており、これは、長手方向軸(26)に沿い、少なくとも部分的に本体の近位端(4)を超え、腔(8)の外側に延在する。クラッチアセンブリは、第1の遠位体(34)と、第2の近位体(18)と、を備えている。第1の遠位体(34)及び第2の近位体(18)は両方、長手方向の中心軸(26)に沿って固定された空間的な関係で互いに接続されており、第1及び第2の本体が腔(8)内で長手方向の中心軸に沿って長手方向にスライド、又は移動できるような寸法に設定されている。第1の遠位体(34)と第2の近位体(18)は、それぞれ突出した脚(35、37)とカップ(36、38)を備える、一般的なゴブレットの形状を有しており、第1の遠位体は第2の近位体(18)と比較して反転している。脚(35,37)は、実質的に中空であり、それぞれ、カップ(36,38)のそれぞれ対応する基部(39,40)から離れるように突出する少なくとも1つの環状の壁として形成されている。第2の近位体(18)の場合、脚は、第1の遠位体の脚(35)が挿入される環状チャネルを形成する、一対の同心円状の環状壁(37、37')によって形成されている。脚(35、37)は、例えば、接着剤や超音波溶接等により、固定された関係で共に保持されている。
図3及び
図4からわかるように、脚は、それによって、第1の遠位体(34)と第2の近位体(18)との間に細長い中空接続部材を形成し、カップ(36)の基部(39)に開口する細長い接続部材の遠位端と、カップ(38)の基部(40)に開口する細長い接続部材の近位端を有する。脚(35,37)によって形成された細長い接続部材は、磁場生成手段(27)の中心孔(29)を横断し、その結果、第1の遠位体(34)が磁場生成手段(27)の遠位に位置し、第2の近位体(18)が前記磁場生成手段(27)の近位に位置している。脚(35、37)によって形成された細長い接続部材は、第1の遠位体(34)及び第2の近位体(18)の長手方向の中心軸(26)に沿ったスライド、又は並進移動を可能にするように寸法設計されており、そのような可能である長手方向の並進の最大の所定長さは、例えば、合計で約15ミリメートルである。
【0070】
バイアス部材(41)、例えば、平らな線ばねは、第2の近位体(18)のカップ(38)の基部(40)の遠位に配置されるが、磁場生成手段(27)の近位に配置される。磁場生成手段には、バイアス部材(41)を収容するための収容突起(42)が設けられており、例えば、円盤(27)の近位面から腔(8)に沿って近位方向に延在する。バイアス部材(41)は、相対的に押されている構成又は圧縮された構成と、相対的に押されていない構成、緩和された構成又は広がっている構成とを採用できるように選択される。デフォルトでは、また、注射モニタリングモジュールがペン型注射システムに最初に取り付けられたときも同様に、バイアス部材は、相対的に押されていない、すなわち、緩和された構成である。バイアス部材(41)が磁場円盤(27)の近位面の収容突起(42)上に収容され、円盤が中空の本体(2)の腔(8)内で移動不可能にブロックされると、バイアス部材は、自然に第2の近位体のカップ(38)の基部(40)の遠位面(43)に対する押圧する力を発揮し、それと係合する傾向となる。これは、本明細書に関して、「係合」位置として理解されるべきものである。この位置はまた、注射モニタリングモジュールの第1モニタリング位置に相当する。バイアス部材(41)が相対的に押されていない、広がっている、又は緩和された構成を採用することに対応して、バイアス部材(41)のバイアス効果はまた、脚(35、37)によって形成された固定された長さの細長い接続部材により、第1の遠位体(34)のカップ(36)の基部(39)を、長手方向の中心軸(26)に沿って近位方向に移動させることをも引き起こす。その結果、第1の遠位体の基部(39)の近位面(44)が、磁場生成手段(27)の円盤の遠位面(33)と当接するようになる。
【0071】
図3と
図4には、注射モニタリングシステムも示されている。このシステムは、実質的にクラッチアセンブリの様々な構成要素の中に収容されている。第1の遠位体(34)は、電子部品基板支持体として機能し、電子部品基板支持体には、プリント回路基板等の電子部品基板(45)が、実質的にカップ(36)内に配置されている。電子部品基板は、いくつかの電気的に接続された構成要素を有し、いくつかの電気的に接続された構成要素は、電子部品基板の遠位面に配置されたマイクロコントローラ(46)と、電子部品基板(45)の近位面の実質的に中央に配置され、それによって、長手方向の中心軸(26)と位置合わせされた磁力計(47)とを含む。
図3及び
図4に示すそれぞれの構成要素位置において、磁力計(47)は、円盤(27)内に配置された永久磁石(28)によって生成される磁場を感知して測定し、対応する電気信号をマイクロコントローラ(46)に送り、マイクロコントローラは、一連の基準点を計算する役割を果たし、中空の本体(2)内の固定された位置にある磁場生成手段(27)に対する磁力計の相対位置及び絶対位置を導き出す。また、電子部品基板(45)は、例えばBluetooth(登録商標) Low Energy回路等の通信ユニット(48)をも備えており、これによって、電子部品基板と、適切に備え付けられたスマートフォン、リモートコンピューティングシステム、又は分散型コンピューティングシステム等のリモート端末デバイスとの間で、それぞれにデータを送受信することができるようになる。第2の近位体(18)は、注射モニタリングシステムの電源支持体として機能し、そのために、そのカップ(38)内に自律型電源(49)、例えば、図に示すように、交換可能なリチウムイオン電池又は取り外し可能な充電式電池を収容し、配置する。電源(49)は、カップ(38)内に配置された電気コネクタ(50、50')(例えば、電池の正極端子及び負極端子のために適切に配置された接続プレート)を介して、さらなる一連の柔軟な電気コネクタ(51、51')(例えば、プラスチック被覆銅配線、又はリボンコネクタ)に接続され、フレキシブルな電気コネクタは、接続プレート(50、50')から、脚(35、37)によって形成された細長い接続部材を経て、電子部品基板(45)まで延在する。柔軟な電気コネクタ(51、51')は、損傷を受けたり、電子部品基板(45)と電源(49)との間の電気的接続を切断することなく、長手方向の中心軸(26)の周りのクラッチアセンブリの任意の可能な回転運動を可能にするように設計されている。取り外し可能なカバーリングキャップ(19)(例えばプッシュフィットキャップ)は、第2の近位体(18)のカップ(38)の開放端と係合する。
図3及び
図4では、これは、キャップ(19)の内部周壁(53)の周囲に設けられた半径方向内側に突出する環状の隆起部(52)として示されており、この隆起部は、第2の近位体のカップ(38)の外側面に設けられた対応する外周溝と弾性的及び/又は摩擦的に係合して、カップ(38)の開口部を封止し、部品基板への電力供給に影響を及ぼす可能性のある異物のカップ内への侵入を防止する。さらに、キャップ(19)は外側近位面(55)を供し、ユーザーが指(例えば、親指やそれ以外の指)で外側近位面を押したり、押し下げたりすることで、モニタリングシステムやクラッチアセンブリを作動させることができるようにする。第1の遠位体(34)には、また、遠位接触面(56)が設けられ、遠位接触面は、カップ(36)の閉鎖をもたらし、それによって電子部品基板(45)を前記第1の遠位体(34)内に封入する。この遠位面(56)は、注射モニタリングモジュールの動作中に、注射作動ボタンの近位面と当接する。
【0072】
図5及び
図6は、概略的なそれぞれ別の視点からの態様の図面を示し、注射モニタリングシステムの様々な構成要素が長手方向の中心軸(26)に沿って又はその周りに配置されている。同様の符号番号は、前の図に関して説明された、既に説明された注射モニタリングモジュールの特徴及び構成要素を参照する。
【0073】
図7A及び
図7Bは、後述するように、動作中の注射モニタリングモジュールの、その様々な構成要素の相対的な位置を示している。
【0074】
図7Aは、ペン型注射システム(10)の近位端(9)に取り付けられたときの注射モニタリングモジュールの図である。中空の本体(2)は、本体の遠位端(3)で用量設定ホイール(11)を囲み、これと係合する。本体は、本体(2)の環状フランジ(21)の遠位面が用量設定ホイール(11)の近位面(57)と当接し、面接触するまで、ペン型注射システム(10)の近位端(9)上で長手方向の中心軸に沿ってスライドする。この位置では、注射作動ボタン(12)が、本体(2)の環状フランジ(21)によって形成された狭められた直径を通って近位方向に延在しているが、注射作動ボタンの近位面(58)は、第1の遠位体(34)の遠位面(56)と当接していないことが分かる。実際、バイアス要素(41)は、クラッチアセンブリ(17)の第1の遠位体(34)と第2の近位体(18)との間の固定長接続により、第1の遠位体(34)を前記近位面(58)から離れるように、積極的に押し出す。本体(2)は、用量設定ホイール(11)と共に回転し、長手方向の中心軸(26)の周りを自由に回転することができ、ユーザは投与する用量を設定することができる。この位置では、注射モニタリングモジュールは、第1モニタリング位置にあるとみなされ、マイクロコントローラによって登録され、マイクロコントローラ内又は電子部品基板上のいずれかに設けられた揮発性又は不揮発性のメモリストレージに保存され、それによって、その後通信ユニットを介して、適切に装備されたスマートフォン、リモートコンピュータ、又は分散型コンピューティングシステム等のリモートコンピュータティングデバイスに通信される。
【0075】
ユーザは、キャップカバー(19)の近位面(55)を遠位方向に押すことで、注射を作動させることができる。キャップカバー(19)は、第2の近位体(18)のカップ(38)に結合されているので、任意の並進力がカップ(38)に付与され、カップ基部(40)の遠位面の当接を介して、バイアス部材(41)に付与される。このようにして、第2の近位体(18)は、バイアス部材の圧縮限界に達するまで遠位方向に移動、すなわち、長手方向の中心軸(26)に沿って移動する。この圧縮限界は、第1の遠位体と第2の近位体との間の固定長接続により、第1の遠位体(34)のカップ基部(39)が、磁場生成手段の遠位面(33)との当接から離れて、第1の遠位体(34)のカップ(39)の遠位接触面(56)と注射作動ボタン(12)の近位面(58)との間の当接に移行することを可能にし、長手方向の中心軸に沿う前記軸方向の移動に追随して、注射作動ボタン(12)の正常な機能を可能にし、ペン型注射システム(10)からの薬物の注射を遂行するように構成されている。
【0076】
長手方向の中心軸に沿った変位の結果、磁力計(47)を搭載した電子部品基板は、遠位方向に離れるように、磁場生成手段に近い位置から、そこから間隔をあけた離れた位置へと移動する。磁力計が長手方向の中心軸に沿って変位、すなわち長手方向移動することは、磁力計が捉える磁場の値や、マイクロコントローラに送信される信号に影響を与える。しかしながら、電子部品基板上の磁力計は長手方向の中心に配置されているため(長手方向の中心軸に中心を位置合わせされている)、測定値はマイクロコントローラによるオフセット補正計算を必要としない。さらに、磁力計が移動する距離は合計で約15mmのオーダーであり、比較的小さく、たいていの一般的なペン型注射器に備えられている他の可動金属部品が、そうでない場合に引き起こし得る潜在的な干渉磁場の影響を受けない程度に小さい。その結果、様々な計算を行うための適切な論理と命令がプログラムされたマイクロコントローラは、複雑な補正計算を必要とせず、関連する測定及び報告された磁場から様々な基準点を計算し、そこから絶対的及び相対的な位置を導き出すことができ、それによって、適切な信号(例えば、電子部品基板に適切に配置された点灯するLEDや、同様に電子部品基板に配置された適切な回路によって生成される可聴信号等)を介して、所望の注射終点が正常に達成されたこと(例えば、選択された用量がすべて注射されたこと)を示すことができる。また、マイクロコントローラは、ユーザがキャップカバー(19)への圧力を開放して、バイアス要素が第2の近位体(18)をクラッチアセンブリの係合位置に向けて戻すように近位方向に移動させた場合であっても、任意の放出された又は注射された薬物の量を計算し、上述のLED又は可聴信号システム等の適切な信号によってユーザにその通知をすることができる。また、通信ユニットは、この時点で、又は他の適切な時点で、マイクロコントローラによって作動され、上述したように、対応する情報又は計算結果をリモートデバイスに送信することができる。このようにして、注射モニタリングシステムは、長手方向の中心軸に沿った任意の所与の並進点において、任意の薬物が実際に注射されたかどうか、もし注射された場合には、注射された又は放出された薬物の実際の正確な量を決定する手段を提供する。
【0077】
図8は、本発明に係る注射モニタリングモジュールが一旦第2モニタリング位置に到達した後の、注射モニタリングモジュールの断面図である。この図では、キャップカバー(19)が押し下げられ、これよって、第2の近位体(18)を中央長手軸に沿って遠位方向に移動させ、バイアス部材(41)を押された構成に圧縮し、それによって第1の遠位体(34)のカップ基部(39)を、磁場生成手段(27)の遠位面(33)との接触から離れ、クラッチアセンブリ非係合位置に移動させ、その位置では、第1の遠位体のカップ(36)の遠位接触面(56)が注射作動ボタン(12)の近位面(58)に当たり面接触していることが分かる。
【0078】
キャップへのデジタル圧力が、ユーザによって、注射の終了時にもう一度解放されると、バイアス部材(41)は、相対的に押されていない、又は緩和した構成をとるので、第2の近位体(18)のカップ基部(40)を長手方向の中心軸(26)に沿って近位方向に偏らせ、第1の遠位体のカップ基部(39)が磁場生成手段(17)の円盤の遠位面(33)と再び当接するまで、第1の遠位体(34)のカップ(36)の遠位接触面(56)を、注射作動装置の近位面(58)との当たる面接触から離れるように、移動させる。この戻り位置は、磁力計とマイクロコントローラの相互作用を介して、検出及び計算することもでき、ユーザに、所望する場合に適切な信号(例えば、システムが、次の注射操作のために、新たな用量設定のための準備がもう一度できたことを示す)を提供する。