IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 昭和電線ホールディングス株式会社の特許一覧

特許7539442超電導線とその製造装置と製造方法、および超電導線を備える超電導ケーブル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】超電導線とその製造装置と製造方法、および超電導線を備える超電導ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/16 20060101AFI20240816BHJP
   H01B 12/12 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
H01B12/16
H01B12/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022146440
(22)【出願日】2022-09-14
(65)【公開番号】P2024041561
(43)【公開日】2024-03-27
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】三堂 信博
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-507052(JP,A)
【文献】特公昭49-7398(JP,B1)
【文献】特開2016-195485(JP,A)
【文献】国際公開第2007/119654(WO,A1)
【文献】特開平11-250750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/16
H01B 12/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管形状を形成するようにらせん状に巻かれた超電導テープ、および
前記超電導テープと接し、前記超電導テープを囲む絶縁層を備え、
前記絶縁層の一部は、隣接する前記超電導テープの間の隙間に位置する、超電導線。
【請求項2】
前記絶縁層の他の一部は、前記超電導テープの内表面の少なくとも一部を覆う、請求項1に記載の超電導線。
【請求項3】
少なくとも一つの超電導線、
前記少なくとも一つの超電導線を囲む内部冷却管、および
前記内部冷却管を囲む外部冷却管を備え、
前記少なくとも一つの超電導線は、
管形状を形成するようにらせん状に巻かれた超電導テープ、および前記超電導テープと接し、前記超電導テープを囲む絶縁層を備え、
前記絶縁層の一部は、隣接する前記超電導テープの間の隙間に位置する、超電導ケーブル。
【請求項4】
液体窒素が、前記絶縁層の他の一部が前記超電導テープの内表面の少なくとも一部を覆う場合の前記絶縁層および/または前記超電導テープの内表面と接触するように前記管形状内を流れるように構成される、請求項3に記載の超電導ケーブル。
【請求項5】
前記少なくとも一つの超電導線は大きさの異なる複数の超電導線を含み、
前記複数の超電導線の各々は、同心円状に配置される、請求項3に記載の超電導ケーブル。
【請求項6】
前記少なくとも一つの超電導線は複数の超電導線を含み、
前記内部冷却管の中に前記複数の超電導線が前記超電導線それぞれの中心軸が異なる位置に配置される、請求項3に記載の超電導ケーブル。
【請求項7】
少なくとも一つの超電導線、
前記少なくとも一つの超電導線を囲む内部冷却管、および
前記内部冷却管を囲む外部冷却管を備え、
前記少なくとも一つの超電導線は、
管形状を形成するようにらせん状に巻かれた超電導テープ、および前記超電導テープと接し、前記超電導テープを囲む半導電層を備え、
前記半導電層の外周に絶縁層を備え、
前記半導電層の一部は、隣接する前記超電導テープの間の隙間に位置する、超電導ケーブル。
【請求項8】
超電導テープを直線状のコア上でスライドさせながら前記コア上にらせん状に巻く工程、
絶縁層を形成するために前記超電導テープを溶融した絶縁材料で被覆する工程、
前記コア、前記超電導テープ、および前記絶縁層を同時に冷却する工程、および
前記コアから取り除かれた前記超電導テープと前記絶縁層を巻き取りリールに巻き付ける工程を含む、超電導線の製造方法。
【請求項9】
前記超電導テープは、互いに接しないように前記コア上に巻かれる、請求項8に記載の超電導線の製造方法。
【請求項10】
前記コアから取り除かれた前記超電導テープと前記絶縁層を冷却することをさらに含む、請求項8に記載の超電導線の製造方法。
【請求項11】
直線状のコア、
それぞれ超電導テープが巻きつけられ、前記コアの延伸方向を中心に回転して前記超電導テープを前記コア上にらせん状に巻き付けるように構成される複数のフィードリール、
前記コアが挿入され、絶縁層を形成するための溶融した絶縁層を前記超電導テープ上に供給するように構成される押出機、
前記コア、前記超電導テープ、および前記絶縁層を同時に冷却するように構成される第1の冷却装置、
前記フィードリールから前記超電導テープを引っ張り、前記コアから取り除かれた前記超電導テープと前記絶縁層を搬送するための引き取り装置、および
前記コアから取り除かれた前記超電導テープと前記絶縁層を巻き取るように構成される巻き取りリールを備える、超電導線の製造装置。
【請求項12】
前記コアから取り除かれた前記超電導テープと前記絶縁層を冷却するように構成される第2の冷却装置をさらに備える、請求項11に記載の超電導線の製造装置。
【請求項13】
前記コアは、前記押出機に対して静止している、請求項11に記載の超電導線の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、超電導線とその製造装置と製造方法、および超電導線を備える超電導ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導体を有する導電線を電力ケーブルに用いることで、銅を主成分とする既存の電力ケーブルと比較して大電流を低損失で送電することが可能となる。このような超電導ケーブルは、例えば、液体窒素などの冷却材を流すための芯材(フォーマ)を備え、フォーマの周りに1層または複数層の超電導層を有している。各超電導層は、らせん状に巻かれた複数の超電導テープによって構成される(特許文献1から3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-162367号公報
【文献】特開2016-4612号公報
【文献】特開2020-114088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、新規な構造を有する超電導線、当該超電導線の製造装置と製造方法、および当該超電導線を備える超電導ケーブルを提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、冷却効率の高い、フォーマレスの超電導線、当該超電導線の製造装置と製造方法、および当該超電導線を備える超電導ケーブルを提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、超電導線である。この超電導線は、管形状を形成するようにらせん状に巻かれた超電導テープ、および超電導テープと接し、超電導テープを囲む絶縁層を備える。絶縁層の一部は、隣接する超電導テープの間の隙間に位置する。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、超電導ケーブルである。この超電導ケーブルは、少なくとも一つの超電導線を備える。少なくとも一つの超電導線は、管形状を形成するようにらせん状に巻かれた複数の超電導テープ、および複数の超電導テープと接し、複数の超電導テープを囲む絶縁層を備える。絶縁層の一部は、隣接する超電導テープの間の隙間に位置する。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、超電導ケーブルである。この超電導ケーブルは、少なくとも一つの超電導線を備える。少なくとも一つの超電導線は、管形状を形成するようにらせん状に巻かれた複数の超電導テープ、および複数の超電導テープと接し、複数の超電導テープを囲む半導電層を備える。超電導ケーブルは、半導電層の外周に絶縁層を備える。半導電層の一部は、隣接する超電導テープの間の隙間に位置する。
【0008】
本発明の実施形態の一つは、超電導線を製造するための方法である。この方法は、複数の超電導テープを直線状のコア上でスライドさせながらコア上にらせん状に巻く工程、複数の超電導テープを溶融した絶縁層で被覆する工程、コア、複数の超電導テープ、および絶縁層を同時に冷却する工程、およびコアから取り除かれた複数の超電導テープと絶縁層を巻き取りリールに巻き付ける工程を含む。
【0009】
本発明の実施形態の一つは、超電導線の製造装置である。この製造装置は、直線状のコア、複数のフィードリール、押出機、第1の冷却装置、引き取り装置、および巻き取りリールを備える。複数のフィードリールは、それぞれ超電導テープが巻きつけられ、コアの延伸方向を中心に回転して超電導テープをコア上にらせん状に巻き付けるように構成される。押出機は、コアが挿入され、溶融した絶縁層を超電導テープ上に供給するように構成される。第1の冷却装置は、コア、超電導テープ、および絶縁層を同時に冷却するように構成される。引き取り装置は、フィードリールから超電導テープを引っ張り、コアから取り除かれた超電導テープと絶縁層を搬送するように構成される。巻き取りリールは、コアから取り除かれた超電導テープと絶縁層を巻き取るように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の実施形態に係る超電導線の模式的斜視図。
図1B】本発明の実施形態に係る超電導線に含まれる超電導テープの模式的端面図。
図1C】本発明の実施形態に係る超電導線の模式的端面図。
図2A】本発明の実施形態に係る超電導線の模式的端面図。
図2B】本発明の実施形態に係る超電導線の模式的端面図。
図2C】本発明の実施形態に係る超電導線の模式的端面図。
図3A】本発明の実施形態に係る超電導ケーブルの模式的端面図。
図3B】本発明の実施形態に係る超電導ケーブルの模式的端面図。
図4】本発明の実施形態に係る超電導線を製造するための装置の模式的上面図。
図5A】本発明の実施形態に係る超電導線を製造するための装置の一部の模式的端面図。
図5B】本発明の実施形態に係る超電導線を製造するための装置の一部の模式的端面図。
図6A】本発明の実施形態に係る超電導線を製造するための装置の一部の模式的端面図。
図6B】本発明の実施形態に係る超電導線を製造するための装置の一部の模式的端面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0012】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。同一、あるいは類似する複数の構造を総じて表す際にはこの符号が用いられ、これらを個々に表す際には符号の後にハイフンと自然数が加えられる。また、一つの構造の一部を示す際には、符号の後に小文字のアルファベットを付すことがある。
【0013】
以下、本発明の実施形態の一つに係る超電導線とその製造装置と製造方法、および超電導線を備える超電導ケーブルについて説明する。
【0014】
1.超電導線の構造
図1Aに本発明の実施形態の一つに係る超電導線100の模式的側面図を示す。図1Aに示すように、超電導線100は、超電導テープ102、超電導テープ102と接し、超電導テープ102を取り囲むように設けられる絶縁層104を基本的な構成として備える。超電導線100は可撓性を有しており、図1Aに示すように一端から他端まで屈曲せずに直線状に配置することも可能であり、あるいは、任意の形状に変形することも可能である。図1Bに示すように、超電導線100の延伸方向に垂直な端面において、その外周形状は円、または実質的に円である。超電導線100の長さ(延伸方向の長さ)、超電導線100の外径(延伸方向に垂直な方向の長さ)に制約はない。以下、上記構成について説明する。
【0015】
(1)超電導テープ
超電導テープ102は、らせん状に巻かれることで管形状を形成する。超電導線100において、超電導テープ層を構成する超電導テープ102の数に制約はなく、例えば10本以上で構成してもよく、少なくとも1本以上であればよい。図1Aに示す例では、複数の超電導テープ102を用いて超電導線100における超電導テープ層を1層形成しており、複数の超電導テープ102の各々は、らせん形状を取り、らせんの巻方向は同一である。また、らせんのピッチと半径は、いずれも複数の超電導テープ102間で互いに同一または実質的に同一である。図1Aに示すように、隣接する超電導テープ102の間には隙間が存在し、隣接する超電導テープ102は互いに直接接触しない。隙間の幅(すなわち、隣接する超電導テープ102間の間隔)は、500μm以上5mm以下の範囲で適宜調整すればよい。なお、図1Aに示す例では、複数の超電導テープ102を用いて超電導テープ層を1層設けた場合について説明しているが、超電導テープ102を2層重ねてもよい。
【0016】
超電導テープ102の端面の模式図の一例を図1Cに示す。図1Cに示すように、超電導テープ102は、基板110、基板110上の中間層112、中間層112上の超電導層114、および超電導層114上の保護層116を備えることができる。基板110は金属を含み、例えば、鉄、ニッケル、モリブデン、クロム、モリブデンンなどを含む金属基板または合金基板が例示される。合金としては、ステンレス、インバー、インコネルなどが挙げられる。中間層112は、例えば結晶方位が制御された複数の酸化物の積層体として構成することができ、酸化物としては、CeO、LaMnO、MgO、Y、GdZrなどが挙げられる。超電導層114は、Y、Ba、Cu、Oを成分とする酸化物系超電導体を含む膜であり、超電導テープ102の導電経路を形成する。保護層116は銅や銀などの金属を含む薄膜である。超電導テープ102の厚さは、例えば100μm以上500μm以下である。超電導テープ102は、保護層116が管形状の内側に配置されるように巻かれてもよく、逆に保護層116が管形状の外側に配置されるように巻かれてもよい。後述するように、超電導テープ102によって形成される管形状の内部に液体窒素を供給して超電導線100を冷却することができる。このため、超電導テープ102は、熱伝導性の高い保護層116側が液体窒素と接触するよう、すなわち、保護層116が管形状の内側に配置されるように巻かれることが好ましい。
【0017】
上述した超電導テープ102はイットリウム系の超電導体が形成されたテープであるが、Bi、Sr、Ca、Cu、Oを含むビスマス系超電導体を含むテープを超電導テープ102として用いてもよい。この場合には、図示しないが、超電導テープ102は、例えばビスマス系超電導体のフィラメントが銀を含む合金内に配置された構造を有することができる。なお、図1Cに示す超電導テープ102の構造は一例であってこれに限定されず、超電導線100を構成する超電導テープ102は、既知の超電導テープを用いることができる。
【0018】
(2)絶縁層
絶縁層104は、熱可塑性樹脂を含む。また、後述するように、絶縁層104は、超電導線100を冷却する液体窒素と直接接することができる。このため、液体窒素の温度においても十分な強度を示す絶縁材料が用いられる。特に液体窒素の温度でも弾性が残っている材料が好ましく、このような材料としては、具体的には、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、およびポリフェニルスルフォンなどの主鎖にスルホニル基と芳香環を含む樹脂が例示される。あるいは、ポリアミドやポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトンなどの所謂エンジニアリングプラスチックまたはスーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれる熱可塑性樹脂でもよい。絶縁層104に用いられる材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系の樹脂やゴムでもよい。また、絶縁層104には異なる構造を有する絶縁材料が複数含まれてもよい。
【0019】
図1Bに示すように、絶縁層104は超電導テープ102を被覆する管形状を有し、その厚さは、耐電圧性能を有する所定の厚さを有していればよく、例えば数mm程度である。このような厚さで絶縁層104を設けることで、超電導線100に可撓性を付与することができる。
【0020】
図1Bの領域Rの拡大図(図2A)に示すように、絶縁層104の一部、すなわち、絶縁層104に含まれる樹脂の一部は、隣接する超電導テープ102間の隙間にも存在する。このため、絶縁層104によって超電導テープ102の側面同士も固定することができ、超電導テープ102をより強固に絶縁層104に固定することができる。なお、図2B図2Cに示すように、絶縁層104の樹脂の一部は、複数の超電導テープ102の内表面の全体または一部をさらに覆ってもよい。
【0021】
上述したように、超電導線100は、らせん状に巻かれた超電導テープ102の外表面が絶縁層104によって被覆・固定される。このため、超電導線100は自立可能な強度を有することができるだけでなく、絶縁層104の厚さおよび材質に起因する軟らかさにより、可撓性を有することができる。さらに、絶縁層104に含まれる樹脂としてエンジニアリングプラスチックまたはスーパーエンジニアリングプラスチックを用いることができるため、超電導線100は高い強度を備え、内部に液体窒素を流しても破損することが無い。このような特性を有するため、以下に述べるように、超電導線100を備える超電導ケーブルでは、液体窒素を流すためのフォーマを配置する必要がない。この特徴は、超電導ケーブルをより細く形成すること(小径化)を可能にするとともに、部品点数の軽減による製造コストの低減に寄与する。なお、超電導線100を3300V以上の電圧で使用する場合には、絶縁層104に代えて半導電層を設けてもよい。半導電層は、絶縁層104と同様の材料にカーボン等を含まれる材料にて形成される。この場合、半導電層の外周に、絶縁テープの巻き付けや押出成形などで絶縁層を形成してもよい。また、この場合、半導電層の一部が、隣接する超電導テープ102の間の隙間に位置する。
【0022】
2.超電導ケーブル
本発明の実施形態の一つは、超電導線100を少なくとも一つ備える超電導ケーブルである。超電導ケーブルは、複数の超電導線100を備えてもよい。本発明の実施形態の一つに係る超電導ケーブル120、121の延伸方向に垂直な端面の模式図を図3A図3Bにそれぞれ示す。これらの図では、見やすさを考慮し、各超電導線100は、超電導テープ102と絶縁層104が一体化されて示されている。
【0023】
図3Aに示す超電導ケーブル120は、大きさの異なる三つの超電導線100(第1の超電導線100-1A、第2の超電導線100-2A、第3の超電導線100-3A)を同心円状に有する三相同軸の超電導ケーブルである。第1の超電導線100-1A(例えばU相)は第2の超電導線100-2A(例えばV相)内に挿入・配置され、第2の超電導線100-2A(例えばV相)は第3の超電導線100-3A(例えばW相)内に挿入・配置される。隣接する超電導線100の間、および最も外側の第3の超電導線100-3A(例えばW相)の外側には、電気的絶縁を確立するためのケーブル絶縁層122が設けられる。図3Aに示す超電導ケーブル120では、ケーブル絶縁層122を設けているが、超電導線100の絶縁性能で超電導ケーブル120としての絶縁強度が十分得られる場合は、ケーブル絶縁層122を設けなくてもよい。なお、同心円状に有する超電導ケーブルとは、1条の超電導ケーブルに例えばU相、V相、W相の三相を形成する超電導線が設けられていればよく、三相の超電導線のすべてが厳密に同軸でなくてもよい。ケーブル絶縁層122には、例えばポリプロピレン半合成紙、その他プラスチックラミネート紙、クラフト紙などの絶縁紙、あるいは、プラスチックテープが層状に巻かれた構造を採用すればよく、絶縁材料の押出により形成してもよい。最も外側のケーブル絶縁層122の外側には、超電導テープ102がらせん状に巻かれることで形成される遮蔽層124を配置することができる。なお、遮蔽層124は、高電圧で使用しない場合、具体的には3300V未満の電圧階級の超電導ケーブルとして使用する場合には、省略してもよい。また、3300V以上の電圧階級の超電導ケーブルとして使用する場合には、図示しないが遮蔽層124の内側に接するようにケーブル絶縁層122の外側にケーブル半導電層を設けてもよい。このケーブル半導電層は、超電導ケーブルのケーブル半導電層として既知のもので構成すればよい。
【0024】
三つの超電導線100の外側(図3Aでは遮蔽層124の外側)には、第3の超電導線100-3Aを取り囲む(図3Aでは遮蔽層124を取り囲む)内部冷却管126、および内部冷却管126を取り囲む外部冷却管128が設けられる。内部冷却管126と外部冷却管128は、例えばアルミニウムを含むコルゲート管でもよい。内部冷却管126と外部冷却管128の間は減圧下に保たれ、これにより、超電導ケーブル120内に流される液体窒素の温度上昇が抑制される。なお、液体窒素は、第1の超電導線100-1Aが形成する内部空間100a、および遮蔽層124と内部冷却管126の間の空間に供給される。
【0025】
図3Bに示す超電導ケーブル121では、図3Aに示す同心円状の超電導ケーブル120と異なり、複数の超電導線100が同軸でない形で遮蔽層124内に配置される。図3Bに示す例では、同様の大きさの三つの超電導線100(第1の超電導線100-1B、第2の超電導線100-2B、第3の超電導線100-3B)が1つの超電導ケーブル121内に配置される三相一括(三心一括)の超電導ケーブル121の構造を示す。三つの超電導線100(第1の超電導線100-1B、第2の超電導線100-2B、第3の超電導線100-3B)のそれぞれは同様の大きさでなくても、異なる大きさでもよい。図3Bでは、各超電導線100(第1の超電導線100-1B、第2の超電導線100-2B、第3の超電導線100-3B)の中心軸が正三角形の頂点に位置するように配置されているが、各超電導線100の中心軸が異なる位置に配置されていれば配置の仕方は限定されない。図3Bでは示されていないが、各超電導線100の周りには、超電導線100間の絶縁のための絶縁層を設けてもよい。また、任意の構成として、図3Bに示すように超電導線100間を物理的に離隔するためのスペーサ132を配置してもよく、スペーサ132がなくてもよい。スペーサ132がない場合は、各超電導線100-1B、100-2B、100-3B同士が接するような構造とすることが好ましい。
【0026】
その他の構成は超電導ケーブル120のそれと同様であり、複数(図3Bでは3つ)の超電導線100を取り囲むようにケーブル絶縁層122が設けられ、さらにケーブル絶縁層122を取り囲む遮蔽層124、ならびに複数の超電導線を取り囲む(図3Bでは遮蔽層124を取り囲む)内部冷却管126と外部冷却管128が設けられる。図3Bに示す超電導ケーブル121では、ケーブル絶縁層122を設けているが、超電導線100の絶縁性能で超電導ケーブル121としての絶縁強度が十分得られる場合は、ケーブル絶縁層122を設けなくてもよい。超電導ケーブル121において、ケーブル絶縁層122を設けない場合は、三つの超電導線100の外周に押さえテープが巻かれる。また、遮蔽層124は、高電圧で使用しない場合、具体的には3300V未満の電圧階級の超電導ケーブルとして使用する場合には、省略してもよい。また、3300V以上の電圧階級の超電導ケーブルとして使用する場合には、図示しないが遮蔽層124の内側に接するようにケーブル絶縁層122の外側にケーブル半導電層を設けてもよい。このケーブル半導電層は超電導ケーブルのケーブル半導電層として既知のもので構成すればよい。液体窒素は、各超電導線100が形成する内部空間100aと遮蔽層124と内部冷却管126の間に流すことができ、さらに、ケーブル絶縁層122の内部にも液体窒素を流すことができる。液体窒素を流す際、例えば、図3Aに示す超電導ケーブル120においては、内部空間100aを往路として、遮蔽層124と内部冷却管126の間を復路として使用することができ、図3Bに示す超電導ケーブル121においては、内部空間100aを往路として、ケーブル絶縁層122の内部であって各超電導線100の外側、および遮蔽層124と内部冷却管126の間を復路として使用することができる。ケーブル絶縁層122および遮蔽層124を備えない場合は、各超電導線100の外側全体(超電導線100の外側で押さえテープの内側、および押さえテープと内部冷却管126との間)を復路として使用することができる。したがって、効率の高い冷却が可能となる。
【0027】
上述したように、超電導ケーブル120、121では、超電導線100を冷却するための液体窒素は、各超電導線100を構成する超電導テープ102が形成する管形状の内部を流れ、超電導テープ102を直接冷却する、または絶縁層104の樹脂を介して冷却することができる。したがって、より効率良く超電導線100を冷却することができ、通電中の僅かな温度上昇も確実に抑制することができる。さらに、超電導線100は、絶縁層104によって自立するための十分な強度が与えられるため、液体窒素を流すためのフォーマを超電導線100内に形成する必要が無い。このことは、部品点数の軽減と製造コストの低減に寄与するとともに、超電導ケーブルの小径化を可能とする。
【0028】
また、超電導線100には、絶縁層104を、樹脂により数mm程度の厚さで薄く形成、あるいは弾性のあるゴムで形成されるため絶縁層104は柔軟性を有し、このため、超電導線100は可撓性を有する。したがって、設置する場所の形状に適合するように超電導線100を変形することが可能であるため、配線に対して大きな自由度を提供することができる。
【0029】
3.超電導線の製造装置と製造方法
超電導線100の製造装置140とこれを利用する超電導線100の製造方法を図4から図6Bの模式図を用いて説明する。ここでは、複数の超電導テープ102を用いた超電導線100を製造する場合を示す。
【0030】
一般的な電線・ケーブルなどの押出工程に用いる製造装置としては、線材の供給リール(サプライとも呼ばれる)、押出機、冷却装置(例えば水槽)、引き取り装置、巻き取りリールで構成されるが、図4に示す超電導線100の製造装置140では、治具としてコア144を用いており、かつ、押出機150の直後に補助冷却装置170を用いている。具体的には、図4に示すように、製造装置140は、基本的な構成として、複数のフィードリール142、コア144、押出機150、補助冷却装置170、引き取り装置190、および巻き取りリール200を備える。以下、これらの構成について説明する。
【0031】
(1)コア
コア144は、外側に複数の超電導テープ102を巻き付け、巻かれた超電導テープ102を滑らせながら押出機150のヘッドで樹脂を超電導テープ102の外側に被覆するための治具として機能する。コア144は、端面が円形の直線状のロッドまたはパイプである。後述するように、絶縁層104は、押出機150で溶融され押し出された樹脂がコア144上に巻かれた超電導テープ102を被覆する。したがって、溶融した樹脂の温度に対して耐熱性のある材料でコア144が形成される。例えば、コア144は、鉄や銅、アルミニウムなどの金属、ステンレスなどの合金、あるいはガラスや石英などを含むように構成すればよい。以下、コア144が延伸する方向をx方向とし、x方向に垂直であり、かつ、互いに直交する方向をy方向とz方向とする。z方向は鉛直方向でもよい。
【0032】
(2)フィードリール
複数のフィードリール142は、それぞれ超電導テープ102が巻かれるように構成される。一つのフィードリール142に巻き付けられる超電導テープ102の長さに制約はない。超電導テープ102は、保護層116が内側に配置されるようにフィードリール142に巻かれてもよく、逆に保護層116が外側に配置されるようにフィードリール142に巻かれてもよい。フィードリール142の数は、超電導線100に含まれる超電導テープ102の数と一致する。
【0033】
複数のフィードリール142は、図4に示すように、コア144の延伸方向(x方向)を中心として回転するように構成される(点線の曲線矢印参照。)。また、複数の超電導テープ102は引き取り装置190によって生じる駆動力によってフィードリール142から超電導テープ102が引き出され、供給される。このため、複数の超電導テープ102をコア144上をスライドさせながらコア144上にらせん状に巻き付けることができる。超電導テープ102は、互いに接しないようにコア上に巻かれる。
【0034】
(3)押出機
押出機150は複数のフィードリール142と巻き取りリール200の間に配置される。図5Aに押出機150の模式的端面図を示す。図5Aに示すように、押出機150は、ヘッド152、およびヘッド152内部に設けられるニップル154とダイス156を備え、ヘッド152内部、およびニップル154とダイス156の間に絶縁層104を構成する樹脂の流路が形成される。ヘッド152の流路の上流側には可塑化機能としてヒータ(図示しない)とスクリュー158が設けられ、スクリュー158を用いて樹脂に圧力を加えることで溶融した樹脂を流路に導入することができる。樹脂は流路を通過した後、流路の先端側のダイス156の端部から押し出される。なお、樹脂に代えてゴムを用いてもよい。
【0035】
ここで、図4図5Aから理解されるように、押出機150は、ヘッド152にコア144が挿入されるように構成される。コア144と押出機150は、相対的に固定されており、互いの位置は相対的に変化しないように配置される。したがって、コア144は押出機150に対して静止した状態を維持する。また、コア144は、両端が押出機150のヘッド152から露出するように配置される。このため、コア144の一端(図4における右端)において複数の超電導テープ102の巻きつけが開始され、超電導テープ102は、コア144にらせん状に巻きつけられた状態でヘッド152の内部でコア144上を他端に向けてスライドする。
【0036】
また、図4の鎖線A-A´に沿った端面の模式図(図5B)に示すように、ヘッド152内の流路は、コア144を囲む円形の端面を有しており、ダイス156もコア144を囲む円形の開口を備える。このため、溶融した樹脂をダイス156から押し出すことで、コア144上にらせん状に巻きつけられた複数の超電導テープ102を樹脂で被覆することができる(図5A)。ダイス156から押出された直後の樹脂は完全に固化していないため、流動性を示す。このため、樹脂の一部が隣接する超電導テープ102の間の隙間に入り込むことができる。また、コア144と超電導テープ102の間の隙間に生じる毛細管現象により、樹脂の一部がさらに超電導テープ102の内側の一部または全体を覆うことができる。
【0037】
(4)補助冷却装置
補助冷却装置170(第1の冷却装置)は、押出機150と巻き取りリール200の間に配置される。補助冷却装置170は、コア144、コア144上に巻かれた複数の超電導テープ102、および複数の超電導テープ102を被覆する絶縁層104を同時に冷却する機能を有する装置である。この機能が発現されるのであれば、補助冷却装置170の構成は任意であり、例えば冷却水や冷却された空気または窒素を冷却媒体(チラー)として用いることができる。例えば図6Aの模式的端面図に示すように、補助冷却装置170は、コア144の一部を収容するチャンバ172を有することができ、チャンバ172にはチラーの供給源(図示しない)が接続される。チャンバ172には、例えばチラーを吹き出すまたは散布するヘッド174を備えることができ、コア144、コア144上に巻かれた複数の超電導テープ102、および複数の超電導テープ102を被覆する絶縁層104に対してヘッド174からチラーを供給することで、これらを急速に冷却して樹脂を固化することができる。
【0038】
あるいは、図6Bに示すように、補助冷却装置170は、コア144の一部を収容する水槽176、および水槽176に接続される水冷却装置(図示しない)で構成してもよい。水槽176には、コア144とその周りの複数の超電導テープ102と絶縁層104を囲む一つまたは複数のシール178が設けられる。シール178は、コア144との隙間からチラーが流出しないように設けてもよく、チラーの流出を許容するように構成してもよい。
【0039】
なお、コア144の端部は、適切に冷却されるならどこに配置してもよく、チャンバ172若しくは水槽176内に配置してもよく、あるいはチャンバ172若しくは水槽176の外部に配置してもよい。ただ、チャンバ172若しくは水槽176の外部に配置するように、コア144を長く形成すると、コアと樹脂(またはゴム)が貼り付いて剥がすことが困難になるおそれがあるため、コアの端部は、チャンバ172若しくは水槽176内に配置するのが好ましい。補助冷却装置170で冷却された複数の超電導テープ102と絶縁層104は、さらにコア144上をスライドし、コア144から除去される。これにより、超電導線100が得られる。よって、補助冷却装置170より後の工程では、コア144は使用されない。
【0040】
このように、補助冷却装置170を用いることで、コア144、複数の超電導テープ102、および絶縁層104を同時に冷却することができる。このため、絶縁層104は、その端面において外周が円形形状を維持した状態で固化する。その結果、端面の外周が円形形状である超電導線100を製造することができる。
【0041】
(5)引き取り装置
引き取り装置190は、フィードリール142から超電導テープ102を引っ張り、補助冷却装置170などで冷却された超電導線100を補助冷却装置170から(必要に応じて主冷却装置180を介して)巻き取りリール200へ搬送するための装置である。引き取り装置190においても公知の構造を適用できるため、詳細な説明は割愛するが、例えば一対のローラ、一対の回転ベルトなどで引き取り装置190を構成すればよい。なお、補助冷却装置170の段階で超電導線100はコア144から除去されているため、引き取り装置190にはコア144は通過しない。
【0042】
(6)巻き取りリール
巻き取りリール200は、超電導線100を巻き取ってコンパクトな形状での保管を可能にするための治具である。巻き取りリール200は、図4の実線の曲線矢印に示すように回転することで、コア144から取り除かれた超電導テープ102と絶縁層104で形成される超電導線100を巻き取る。巻き取りリール200としては、公知のリール(例えば、ドラム、ボビンなど)を用いればよい。なお、図4に示すように、巻き取りリール200は、その回転軸に沿って可逆的に移動できるように構成してもよい。これにより、超電導テープ102を整然と巻き取りリール200上に巻き付けることができる。なお、引き取り装置190の機能と巻き取りリール200が一体となった装置を用いてもよい。
【0043】
(7)主冷却装置
任意の構成である主冷却装置180(第2の冷却装置)は、補助冷却装置170と巻き取りリール200の間に配置される。主冷却装置180は、補助冷却装置170によって絶縁層104を硬化・冷却するが、補助冷却装置170から出てくる、コア144から取り除かれた超電導テープ102と絶縁層104で形成される超電導線100は余熱を持っている場合があるため、コア144から除去された超電導線100を、余熱を取って確実に冷却するために設けられる。ただし、補助冷却装置170により超電導線100が十分に冷却される場合は、主冷却装置180を省略してもよい。主冷却装置180としては、公知の冷却装置を用いることができるので詳細な説明は割愛するが、例えば水槽で構成すればよい。
なお、主冷却装置180を用いる場合、補助冷却装置170の段階で超電導線100はコア144から除去されているため、主冷却装置180にはコア144は通過しない。
【0044】
本発明の実施形態の一つである超電導線100の製造装置、およびこれを用いる製造方法を適用することで、連続的に超電導線100を製造することができる。また、各フィードリール142に巻かれた超電導テープ102がすべて供給された場合でも、フィードリール142を交換して新たに超電導テープ102を供給することで、フィードリール142に巻かれた超電導テープ102の長さによる制約を受けること無く、例えば1000m以上といった極めて長い超電導線100を製造することが可能となる。このことは、任意の長さの超電導線を提供することを可能にするだけでなく、超電導線の製造コストの低減にも寄与するものである。
【0045】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態の表示装置を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0046】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0047】
100:超電導線、100-1A、100-1B:第1の超電導線、100-2A、100-2B:第2の超電導線、100-3A、100-3B:第3の超電導線、102:超電導テープ、104:絶縁層、110:基板、112:中間層、114:超電導層、116:保護層、120:超電導ケーブル、121:超電導ケーブル、122:ケーブル絶縁層、124:遮蔽層、126:内部冷却管、128:外部冷却管、132:スペーサ、140:製造装置、142:フィードリール、144:コア、150:押出機、152:ヘッド、154:ニップル、156:ダイス、158:スクリュー、170:補助冷却装置(第1の冷却装置)、172:チャンバ、174:ヘッド、176:水槽、178:シール、180:主冷却装置(第2の冷却装置)、190:装置、200:巻き取りリール
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B