(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】硬化性組成物調製用キット、硬化物及び歯科材料
(51)【国際特許分類】
C08F 20/10 20060101AFI20240816BHJP
C08F 4/40 20060101ALI20240816BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240816BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20240816BHJP
A61K 6/79 20200101ALI20240816BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20240816BHJP
【FI】
C08F20/10
C08F4/40
C08F2/44 A
A61K6/70
A61K6/79
A61K6/887
(21)【出願番号】P 2022536323
(86)(22)【出願日】2021-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2021025955
(87)【国際公開番号】W WO2022014492
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2020121716
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一生
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-002649(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082964(WO,A1)
【文献】特表昭63-500460(JP,A)
【文献】米国特許第02558139(US,A)
【文献】特開2014-152107(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086189(WO,A1)
【文献】EPPELBAUM.I et al.,The role of an anaerobic accelerator in dental adhesives,Journal of Adhesion Science and Technology,1996年,Volume 10, Issue 10,Pages 1075-1087,https://doi.org/10.1163/156856196X00111
【文献】WELLMANN St.,New aspects of the curing mechanism of anaerobic adhesives,International Journal of Adhesion and Adhesive,1994年,Volume 14, Issue 1,Pages 47-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00- 4/82
C08F 20/00- 20/70
A61K 6/00- 6/90
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー(A)を含む第1剤と、
モノマー(B)を含む第2剤と、を備え、
遷移金属化合物、含窒素化合物及び含スルホニル基化合物を含む重合開始剤に含まれる前記遷移金属化合物、前記含窒素化合物、及び前記含スルホニル基化合物が、それぞれ独立に、前記第1剤及び前記第2剤の少なくとも一方に含有されている硬化性組成物調製用キットであり、
前記含スルホニル基化合物が、下記一般式(1)で表される構造を含み、
前記含窒素化合物が、芳香族アミン化合物を含み、
前記第1剤が前記含スルホニル基化合物を含み、前記第2剤が前記含窒素化合物を含
み、
前記モノマー(A)及び前記モノマー(B)は、分子量が100~2000である(メタ)アクリルモノマー(C)を含み、
前記モノマー(A)及び前記モノマー(B)の総含有量に対する前記(メタ)アクリルモノマー(C)の含有量が、70質量%以上である、
硬化性組成物調製用キット。
【化1】
(一般式(1)中、X
1及びX
2は、それぞれ独立に、スルホニル基又はカルボニル基であり、X
1及びX
2のうち少なくとも一方はスルホニル基である。
一般式(1)中、Yは、酸素原子、-NH-、-NNa-又は硫黄原子である。*は結合位置を表す。)
【請求項2】
前記含スルホニル基化合物が、芳香環を含む請求項1に記載の硬化性組成物調製用キット。
【請求項3】
前記遷移金属化合物が、銅化合物を含む請求項1又は請求項2に記載の硬化性組成物調製用キット。
【請求項4】
前記含窒素化合物が、複素環式アミン化合物をさらに含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の硬化性組成物調製用キット。
【請求項5】
前記複素環式アミン化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である請求項4に記載の硬化性組成物調製用キット。
【化2】
(一般式(2)中、X
3は、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子であり、X
4は、-N=又は-CH=である。)
【請求項6】
前記第2剤が含窒素化合物とスルフィン酸とを含み、
前記含窒素化合物が芳香族アミン化合物と複素環式アミン化合物とを含む請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の硬化性組成物調製用キット。
【請求項7】
前記第1剤及び前記第2剤に含まれる有機過酸化物の総含有量が、調製される硬化性組成物の全質量に対して、0.10質量%以下である請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の硬化性組成物調製用キット。
【請求項8】
前記第1剤及び前記第2剤の少なくとも一方が、非導電性フィラーを含む請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の硬化性組成物調製用キット。
【請求項9】
前記第1剤が前記非導電性フィラーを含み、かつ、前記第1剤の全質量に対する前記非導電性フィラーの含有量が10質量%以上であり、
前記第2剤が前記非導電性フィラーを含み、かつ、前記第2剤の全質量に対する前記非導電性フィラーの含有量が10質量%以上である請求項8に記載の硬化性組成物調製用キット。
【請求項10】
歯科材料用である請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載の硬化性組成物調製用キット。
【請求項11】
請求項1~請求項
10のいずれか1項に記載の硬化性組成物調製用キットを用いて得られた硬化物。
【請求項12】
請求項
11に記載の硬化物を含む歯科材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、重合開始剤、硬化性組成物調製用キット、硬化性組成物、硬化物及び歯科材料に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野において、歯の欠損を修復するために、合成樹脂成型物などが用いられている。例えば、歯の大きな欠損の修復の為に、歯代替物として所謂セメントと呼ばれる硬化性組成物が用いられている。近年、セメントの使用範囲が拡大してきている。
【0003】
セメントなどの歯科材料用硬化性組成物の重合には、光重合開始剤、化学重合開始剤等が使用され得る。
例えば、一般的な化学重合開始剤系のひとつに、酸化剤と還元剤を組み合わせたレドックス型重合開始剤がある。レドックス型重合開始剤として、例えば、酸化剤として有機過酸化物、還元剤として芳香族アミン化合物とを用いる重合開始剤系が知られている。
【0004】
特許文献1には、(a)(メタ)アクリレート化合物:15~100重量部、(b)フィラー:0~85重量部、(c)過硫酸塩,ヒドロペルオキシド,ペルオキシエステルから選ばれる1種または2種以上:(a)成分及び(b)成分の合計100重量部に対して0.01~3重量部、(d)過酸化ベンゾイル:(a)成分及び(b)成分の合計100重量部に対して0.1~3重量部とから成る第1ペーストと(a’)(メタ)アクリレート化合物:15~100重量部、(b’)フィラー:0~85重量部、(e)芳香族第3級アミン:(a’)成分及び(b’)成分の合計100重量部に対して0.1~5重量部とから成る第2ペーストとから構成されることを特徴とするペースト状重合性組成物が記載されている。
【0005】
特許文献1:特開2013-209598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の重合開始剤を用いてモノマーを重合させる場合、得られる硬化物がしばしば黄色に変色する。例えば、硬化物を歯科材料として使用する場合には、硬化物の色味の点で改善の余地がある。
【0007】
特許文献1は、モノマーの重合性と、得られる硬化物の色味とを両立することについて充分に検討されていない。
【0008】
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、モノマーの重合性を良好に向上させることができ、かつ、得られる硬化物の変色を抑制できる重合開始剤、上記重合開始剤を含む硬化性組成物調製用キット、硬化性組成物、上記硬化性組成物の硬化物及び歯科材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の態様を含む。
<1> 遷移金属化合物、含窒素化合物及び含スルホニル基化合物を含む重合開始剤。
<2> 前記含スルホニル基化合物が、芳香環を含む<1>に記載の重合開始剤。
<3> 前記含スルホニル基化合物が、下記一般式(1)で表される構造を含む<1>又は<2>に記載の重合開始剤。
【0010】
【0011】
(一般式(1)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、スルホニル基又はカルボニル基であり、X1及びX2のうち少なくとも一方はスルホニル基である。
一般式(1)中、Yは、酸素原子、-NH-、-NNa-又は硫黄原子である。*は結合位置を表す。)
<4> 前記遷移金属化合物が、銅化合物を含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の重合開始剤。
<5> 前記含窒素化合物が、芳香族アミン化合物を含む<1>~<4>のいずれか1つに記載の重合開始剤。
<6> 前記含窒素化合物が、複素環式アミン化合物をさらに含む<5>に記載の重合開始剤。
<7> 前記複素環式アミン化合物が、下記一般式(2)で表される化合物である<6>に記載の重合開始剤。
【0012】
【0013】
(一般式(2)中、X3は、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子であり、X4は、-N=又は-CH=である)
<8> モノマー(A)を含む第1剤と、モノマー(B)を含む第2剤と、を備え、<1>~<7>のいずれか1つに記載の重合開始剤に含まれる遷移金属化合物、含窒素化合物、及び含スルホニル基化合物が、それぞれ独立に、前記第1剤及び前記第2剤の少なくとも一方に含有されている硬化性組成物調製用キット。
<9> 前記第1剤が含スルホニル基化合物を含み、前記第2剤が含窒素化合物を含む<8>に記載の硬化性組成物調製用キット。
<10> 前記第2剤が含窒素化合物とスルフィン酸とを含み、前記含窒素化合物が芳香族アミン化合物と複素環式アミン化合物とを含む<8>又は<9>に記載の硬化性組成物調製用キット。
<11> 前記第1剤及び前記第2剤に含まれる有機過酸化物の総含有量が、調製される硬化性組成物の全質量に対して、0.10質量%以下である<8>~<10>のいずれか1つに記載の硬化性組成物調製用キット。
<12> 前記第1剤及び前記第2剤の少なくとも一方が、非導電性フィラーを含む<8>~<11>のいずれか1つに記載の硬化性組成物調製用キット。
<13> 前記第1剤が前記非導電性フィラーを含み、かつ、前記第1剤の全質量に対する前記非導電性フィラーの含有量が10質量%以上であり、前記第2剤が前記非導電性フィラーを含み、かつ、前記第2剤の全質量に対する前記非導電性フィラーの含有量が10質量%以上である<12>に記載の硬化性組成物調製用キット。
<14> 前記モノマー(A)及び前記モノマー(B)は、分子量が100~2000である(メタ)アクリルモノマー(C)を含む<8>~<13>のいずれか1つに記載の硬化性組成物調製用キット。
<15> 前記モノマー(A)及び前記モノマー(B)の総含有量に対する前記(メタ)アクリルモノマー(C)の含有量が、50質量%以上である<14>に記載の硬化性組成物調製用キット。
<16> 歯科材料用である<8>~<15>のいずれか1つに記載の硬化性組成物調製用キット。
<17> <1>~<7>のいずれか1つに記載の重合開始剤と、モノマーと、を含む硬化性組成物。
<18> <17>に記載の硬化性組成物の硬化物。
<19> <18>に記載の硬化物を含む歯科材料。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一実施形態によれば、モノマーの重合性を良好に向上させることができ、かつ、得られる硬化物の変色を抑制できる重合開始剤、上記重合開始剤を含む硬化性組成物調製用キット、硬化性組成物、上記硬化性組成物の硬化物及び歯科材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及びメタクリロイルを意味する。
【0016】
≪重合開始剤≫
本開示の重合開始剤は、遷移金属化合物、含窒素化合物及び含スルホニル基化合物を含む。
本開示の重合開始剤は、上記の各化合物を含むことで、モノマーの重合性を良好に向上させることができ、かつ、得られる硬化物の変色を抑制できる。
【0017】
<含窒素化合物>
含窒素化合物は、窒素を含有する化合物である。
なお、本開示における含窒素化合物は、塩の形態も含む。
また、本開示における含窒素化合物には、本開示における含スルホニル基化合物は含まれない。
本開示において、例えば、窒素を含有し、かつ、スルホニル基も含有する化合物は、含スルホニル基化合物に該当する。
【0018】
本開示における含窒素化合物としては、アミノ基を含む化合物が挙げられる。
本開示におけるアミノ基を含む化合物としては、1個の窒素原子を含有するアミン化合物、2個の窒素原子を含有するアミン化合物、及び3個以上の窒素原子を含有するアミン化合物が挙げられる。
アミノ基を含む化合物としては、芳香族アミン化合物、脂肪族アミン化合物、複素環式アミン化合物等が挙げられる。
【0019】
本開示における含窒素化合物は、重合性が向上する観点から、芳香族アミン化合物を含むことが好ましい。
本開示における芳香族アミン化合物は、構造中に芳香族炭化水素基を含む。また、本開示における芳香族アミン化合物には、複素環式芳香族化合物は含まれない。
【0020】
本開示における含窒素化合物は、保存安定性を向上させる観点から、脂肪族アミン化合物又は複素環式アミン化合物をさらに含むことが好ましい。
脂肪族アミン化合物及び複素環式アミン化合物は、遷移金属化合物の金属イオンと配位して金属を捕捉することにより、遷移金属化合物及び含窒素化合物を含む組成物の反応性を抑制することができる。その結果、遷移金属化合物及び含窒素化合物を含む組成物は保存安定性を維持することができる(すなわち、遷移金属化合物及び含窒素化合物を同一の剤に含めることができる)。
【0021】
上記同様の観点から、組成物が遷移金属化合物及び芳香族アミンを含む場合において、含窒素化合物として脂肪族アミン化合物をさらに含むことが好ましい。
【0022】
上記同様の観点から、本開示における含窒素化合物は、複素環式アミン化合物をさらに含むことが好ましい。
【0023】
芳香族アミン化合物としては、例えば、アニリン、トルイジン等の芳香族第1級アミン化合物;
N-メチルアニリン、N-メチル-p-トルイジン、N-フェニルグリシン(NPG)、N-トリルグリシン(NTG)、N,N-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)フェニルグリシン(NPG-GMA)等の芳香族置換グリシン又はそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩、アンモニウム塩などに代表される芳香族置換アミノ酸化合物又はその塩等の芳香族第2級アミン化合物;
N,N-ジメチルアニリン(DMA)、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン(DMPT)、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン(DEPT)、N,N-ジメチル-p-エチルアニリン、N,N-ジメチル-p-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-p-tert-ブチルアニリン、N,N-ジメチルアニシジン、N,N-ジメチルキシリジン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-p-クロルアニリン、N,N-ジメチル-p-フルオロアニリン等の芳香族第3級アミン化合物又はこれらの塩が挙げられる。
【0024】
脂肪族アミン化合物としては、第一級、第二級及び第三級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1つを含む脂肪族アミン化合物が好ましく、第三級アミノ基のみを含む脂肪族アミン化合物がより好ましい。
複素環式アミン化合物としては、第一級、第二級及び第三級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1つを含む複素環式アミン化合物が好ましく、第三級アミノ基のみを含む複素環式アミン化合物がより好ましい。
【0025】
脂肪族アミン化合物としては、例えば、EDTA系(エチレンジアミン四酢酸)、NTA系(ニトリロ四酢酸)、DTPA系(ジエチレントリアミン五酢酸)、HEDTA系(ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸)、TTHA系(トリエチレンテトラミン六酢酸)、PDTA系(1,3-プロパンジアミン四酢酸)、DPTA-OH系(1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸)、HIDA系(ヒドロキシエチルイミノ二酢酸)、DHEG系(ジヒドロキシエチルグリシン)、GEDTA系(グリコールエーテルジアミン四酢酸)、CMGA系(ジアルボキシメチルグルタミン酸)、EDDS系((S,S)-エチレンジアミンジコハク酸)及びEDTMP系(エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸))、N,N-ジメチル-N’,N’-ビス(2-ジメチルアミノエチル)エチレンジアミン(Me6TREN)、N,N’-ジメチル-1,2-フェニレンジアミン、2-(メチルアミノ)フェノール、3-(メチルアミノ)-2-ブタノール、N,N’-ビス(1,1-ジメチルエチル)-1,2-エタンジアミン又はN,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)又はこれらの塩等が挙げられる。
【0026】
複素環式アミン化合物としては、例えば、単座、二座又は三座ヘテロ環式電子供与配位子として機能できる複素環式アミン化合物が挙げられる。
具体的には、フラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、ビピリジン、ピコリルイミン、γ-ピラン、γ-チオピラン、フェナントロリン、ピリミジン、ビス-ピリミジン、ピラジン、インドール、クマリン、チオナフテン、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ビス-チアゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、キノリン、ビキノリン、イソキノリン、ビイソキノリン、アクリジン、クロマン、フェナジン、フェノキサジン、フェノチアジン、トリアジン、チアントレン、プリン、ビスミダゾール及びビスオキサゾリン等の非置換又は置換へテロアレーンから誘導された複素環式アミン化合物又はこれらの塩などが挙げられる。
【0027】
脂肪族アミン化合物又は複素環式アミン化合物としては、好ましくはN,N-ジメチル-N’,N’-ビス(2-ジメチルアミノエチル)エチレンジアミン、2,2’-ビピリジン、N-ブチル-2-ピリジルメタンイミン、4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ジピリジン、4,4’-ジメチル-2,2’-ジピリジン、4,4’-ジノニル-2,2’-ジピリジン、N-ドデシル-N-(2-ピリジルメチレン)アミン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチル-トリエチレンテトラミン、N-オクタデシル-N-(2-ピリジルメチレン)アミン、N-オクチル-2-ピリジルメタンイミン、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチル-ジエチレントリアミン、1,4,8,11-テトラシクロテトラデカン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン、1,4,8,11-テトラメチル-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン、トリス[2-(ジエチルアミノ)エチル]アミン又はトリス(2-メチルピリジル)アミンであり、より好ましくはN,N-ジメチル-N’,N’-ビス(2-ジメチルアミノエチル)エチレンジアミン(Me6TREN)である。
【0028】
複素環式アミン化合物が、保存安定性が向上する観点から、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0029】
【0030】
(一般式(2)中、X3は、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子であり、X4は、-N=又は-CH=である)
【0031】
<含スルホニル基化合物>
含スルホニル基化合物は、スルホニル基を含有する化合物である。
本開示の重合開始剤は、含スルホニル基化合物を含むことで、重合性を向上させることができる。
【0032】
含スルホニル基化合物が、カルボニル基を含むこと、及び、2つ以上のスルホニル基を含むことの少なくとも一方を満たすことが好ましい。
また、含スルホニル基化合物が、カルボニル基を含むこと、及び、2つ以上のスルホニル基を含むことを満たすことがより好ましい。
【0033】
含スルホニル基化合物が、下記一般式(1)で表される構造を含む請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の重合開始剤。
【0034】
【0035】
(一般式(1)中、X1及びX2は、それぞれ独立に、スルホニル基又はカルボニル基であり、X1及びX2のうち少なくとも一方はスルホニル基である。一般式(1)中、Yは、酸素原子、-NH-、-NNa-又は硫黄原子である。*は結合位置を表す。)
【0036】
X1及びX2は、一方はスルホニル基であり、他方はカルボニル基であることが好ましい。
Yは、-NH-又は-NNa-であることが好ましく、-NH-であることがより好ましい。
一般式(1)中、*で表される結合部位は、芳香環に直接結合していてもよく、連結基を介して芳香環に結合してもよい。
一般式(1)中、*で表される2つの結合部位は、芳香環を介して互いに結合していてもよい。例えば、一般式(1)中、*で表される2つの結合部位が芳香環を介して互いに結合し、一般式(1)で表される構造が縮合環(5員環等)を有していてもよい。
【0037】
含スルホニル基化合物は、芳香環を含むことが好ましい。
含スルホニル基化合物に含まれる芳香環の数としては、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1がさらに好ましい。
芳香環は、置換基を含んでもよく無置換でもよいが、無置換が好ましい。
芳香環が置換基を含む場合、置換基としては、アルキル基、カルボキシ基等が挙げられる。上記の中でも、置換基としては、アルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
芳香環としては、例えば、ベンゼン環が挙げられる。
なお、置換基には、スルホニル基を含む基(例えば、一般式(1)で表される基等)は含まれない。
【0038】
含スルホニル基化合物としては、例えば以下の化合物が挙げられるが、本開示における含スルホニル基化合物はこれらに限定されない。
【0039】
【0040】
上記の中でも、含スルホニル基化合物としては、サッカリン及びサッカリンナトリウムが好ましく、サッカリンがより好ましい。
【0041】
<遷移金属化合物>
本開示の重合開始剤は、遷移金属化合物を含む。
遷移金属化合物としては、後述の硬化性組成物調製用キットにおけるモノマー成分に可溶な化合物が好ましい。
【0042】
遷移金属化合物としては、銅化合物、バナジウム化合物、モリブデン化合物、スカンジウム化合物、チタン化合物、クロム化合物、マンガン化合物、鉄化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物等が挙げられる。
上記の中でも、遷移金属化合物が、銅化合物及びバナジウム化合物の少なくとも一方を含むことが好ましく、銅化合物を含むことがより好ましい。
【0043】
銅化合物としては、カルボン酸銅として、酢酸銅、イソ酪酸銅、グルコン酸銅、クエン酸銅、フタル酸銅、酒石酸銅、オレイン酸銅、オクチル酸銅、オクテン酸銅、ナフテン酸銅、メタクリル酸銅、4-シクロヘキシル酪酸銅;β-ジケトン銅として、アセチルアセトン銅、トリフルオロアセチルアセトン銅、ヘキサフルオロアセチルアセトン銅、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト銅、ベンゾイルアセトン銅;β-ケトエステル銅として、アセト酢酸エチル銅;銅アルコキシドとして、銅メトキシド、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、銅2-(2-ブトキシエトキシ)エトキシド、銅2-(2-メトキシエトキシ)エトキシド;ジチオカルバミン酸銅として、ジメチルジチオカルバミン酸銅;銅と無機酸の塩として、硝酸銅;及び塩化銅が挙げられる。
これらは単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
これらの内でも、モノマーに対する溶解性及び反応性の観点から、カルボン酸銅、β-ジケトン銅、β-ケトエステル銅が好ましく、酢酸銅、アセチルアセトン銅がより好ましい。
【0044】
バナジウム化合物としては、バナジルアセチルアセトナート、ナフテン酸バナジウム(III)、バナジルステアレート、バナジウムベンゾイルアセトネート、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム(IV)等が挙げられる。
【0045】
遷移金属化合物の配合量は、硬化性の観点から、本開示の硬化性組成物調製用キットにおけるモノマー成分の総量100質量部に対して、0.00005質量部~0.1質量部であることが好ましく、0.0001質量部~0.05質量部であることがより好ましく、0.001質量部~0.03質量部であることがさらに好ましい。
【0046】
≪硬化性組成物調製用キット≫
本開示の硬化性組成物調製用キットは、モノマー(A)を含む第1剤と、モノマー(B)を含む第2剤と、を備え、本開示の重合開始剤に含まれる遷移金属化合物、含窒素化合物、及び含スルホニル基化合物が、それぞれ独立に、第1剤及び第2剤の少なくとも一方に含有されている。
【0047】
<モノマー>
本開示の硬化性組成物調製用キットにおいて、第1剤はモノマー(A)を含み、第2剤はモノマー(B)を含む。
モノマー(A)とモノマー(B)とは、同一のモノマーであってもよく、異なるモノマーであってもよい。
モノマー(A)及びモノマー(B)としては、公知のモノマーを用いることができる。 モノマー(A)及びモノマー(B)は、酸性基を含まないモノマーであってもよく、酸性基を含むモノマーであってもよい。
モノマー(A)及びモノマー(B)は、酸性基を含まないモノマーを含むことが好ましい。
【0048】
モノマーは、本開示の重合開始剤によりラジカル重合反応が進行して高分子化するモノマーである。
本開示におけるモノマーを構成するモノマーは1種に限定されず2種以上でもよい。酸性基を含まないモノマーとして、酸性基を含まない(メタ)アクリレートモノマーが挙げられる。酸性基を含まない(メタ)アクリレートモノマーとしては、単管能モノマー、二官能モノマー、三官能以上のモノマーが挙げられる。
【0049】
本開示において、モノマーの含有量(すなわち、調製される硬化性組成物中のモノマー(A)とモノマー(B)との総量)は、調製される硬化性組成物の全質量に対して、10質量%~90質量%であることが好ましく、20質量%~75質量%であることがより好ましく、30質量%~60質量であることがさらに好ましい。
【0050】
単管能モノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが例示される。これらの中でも、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)が好ましい。
【0051】
芳香族化合物系の二官能モノマーの例としては、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリプルポキシフェニル)プロパン、等が挙げられる。
これらの中でも、2,2-ビス〔4-(3-(メタクリロイルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0052】
脂肪族化合物系の二官能モノマーの例としては、エリスリトールジ(メタ)アクリレート、ソルビトールジ(メタ)アクリレート、マンニトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(UDMA)、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)エタン等が挙げられる。
これらの中でも、グリセロールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタアクリレート(TEGDMA)、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(HexDMA)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(NPG)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(UDMA)及び1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)エタンが好ましい。
【0053】
三官能以上のモノマーの例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタン等が挙げられる。
【0054】
上記のモノマーは、いずれも1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。
【0055】
上述の酸性基を含まないモノマーの配合量としては、本開示の硬化性組成物調製用キットにおけるモノマー成分の総量100質量部に対して、10質量部~100質量部の範囲が好ましく、20質量部~100質量部の範囲がより好ましく、50質量部~100質量部の範囲がさらに好ましい。
また、本開示の硬化性組成物調製用キットにおけるモノマー成分が後述の酸性基含有モノマーを含む場合、酸性基を含まないモノマーの配合量は、本開示の硬化性組成物調製用キットにおけるモノマー成分の総量100質量部に対して、10質量部~99質量部であることが好ましく、30質量部~97質量部であることがより好ましく、50質量部~95質量部であることがさらに好ましい。
【0056】
モノマー(A)及びモノマー(B)は、分子量が100~5000である(メタ)アクリルモノマー(C)を含むことが好ましい。
(メタ)アクリルモノマー(C)の分子量としては、120~3000であることがより好ましく、150~2000であることがさらに好ましく、特に200~1000であることが好ましい。
【0057】
モノマー(A)及びモノマー(B)の総含有量に対する(メタ)アクリルモノマー(C)の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
モノマー(A)及びモノマー(B)の総含有量に対する(メタ)アクリルモノマー(C)の含有量は、98質量%以下であってもよく、95質量%以下であってもよい。
【0058】
<酸性基含有モノマー>
本開示の硬化性組成物調製用キットは、酸性基含有モノマーが、第1剤及び第2剤の少なくとも一方に含有されていてもよい。
第1剤及び第2剤の少なくとも一方に酸性基含有モノマーが含有されていることで、例えば本開示の硬化性組成物調製用キットが歯科用途に用いられる場合に、良好な歯質、及び歯科用補綴材料に対する高い接着性を付与することが出来る。
【0059】
酸性基含有モノマーとしては、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチレン基等の重合性基を少なくとも1個含むモノマーが挙げられる。
酸性基含有モノマーは、被着体との親和性を有するとともに、歯質に対しては脱灰作用を有する。
【0060】
リン酸基含有モノマーとしては、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(MDP)等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
【0061】
ピロリン酸基含有モノマーとしては、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
【0062】
チオリン酸基含有モノマーとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
【0063】
ホスホン酸基含有モノマーとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が例示される。
【0064】
スルホン酸基含有モノマーとしては、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレートが例示される。
【0065】
カルボン酸基含有モノマーとしては、分子内に1つのカルボキシ基を含むモノマーと、分子内に複数のカルボキシ基を含むモノマーとが挙げられる。
【0066】
分子内に1つのカルボキシ基を含むモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、p-ビニル安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート及びこれらの酸ハロゲン化物が例示される。
【0067】
分子内に複数のカルボキシ基を含むモノマーとしては、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-(メタ)アクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、ジヒドロキシエチルメタアクリレートトリメチルヘキシルジカルバメート及びこれらの酸無水物又は酸ハロゲン化物が例示される。
【0068】
上記の酸性基含有モノマーの中でも、被着体に対する接着強度が大きい点で、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(MDP)、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、及びジヒドロキシエチルメタアクリレートトリメチルヘキシルジカルバメートが好ましい。
上記の酸性基含有モノマーは、1種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
【0069】
酸性基含有モノマーの配合量は、本開示の硬化性組成物調製用キットにおけるモノマー成分の総量100質量部に対して、1質量部~50質量部であることが好ましく、3質量部~40質量部であることがより好ましく、5質量部~30質量部であることがさらに好ましい。
酸性基含有モノマーの配合量が1質量部以上であると、各種被着体に対する高い接着性を得ることが容易である。
また、酸性基含有モノマーの配合量が50質量部以下であると、重合性と接着性のバランスを保ちやすい。なお、モノマー成分の総量とは、酸性基含有モノマーと、上述の酸性基を含まないモノマーの合計量を意味する。
【0070】
本開示におけるモノマーについては、例えば、国際公開2012/157566号、国際公開第2015/015220号、国際公開第2015/015221号、特開2016-094482号等の公知の文献に記載のモノマーを使用することができる。
【0071】
<過酸化物>
本開示の硬化性組成物調製用キットは、過酸化物が、第1剤及び第2剤の少なくとも一方に含有されていてもよい。
過酸化物としては、有機過酸化物及び無機過酸化物が挙げられ、本開示における過酸化物は有機過酸化物を含むことが好ましい。
【0072】
有機過酸化物は、特に制限されることなく公知のものが使用できる。代表的な有機過酸化物として、ハイドロパーオキサイド、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、硬化性組成物を分包型として提供して長期保存しても操作可能時間の変動が小さいことから、ハイドロパーオキサイドが好ましい。有機過酸化物は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
【0073】
より具体的には、ハイドロパーオキサイドとしては、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0074】
パーオキシエステルとしては、パーオキシ基(-OO-基)の一方にアシル基、もう一方に炭化水素基(又はそれに類する基)を含むものであれば公知のものを何ら制限なく使用することができる。具体例としては、α,α-ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイックアシッド、t-ブチルパーオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルパーオキシ)イソフタレート等が例示される。これらは単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
【0075】
ケトンパーオキサイドとしては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等が挙げられる。
【0076】
パーオキシケタールとしては、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロデカン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、n-ブチル4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン等が挙げられる。
【0077】
ジアルキルパーオキサイドとしては、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン-3等が挙げられる。
【0078】
ジアシルパーオキサイドとしては、イソブチリルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、スクシニックアシッドパーオキサイド、m-トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド類が挙げられる。
【0079】
パーオキシジカーボネートとしては、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-2-メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0080】
有機過酸化物の配合量は、硬化性の観点から、本開示の硬化性組成物におけるモノマー成分の総量100質量部に対して、0.01質量部~1質量部であることが好ましく、0.05質量部~0.5質量部であることがより好ましい。
【0081】
無機過酸化物としては、ペルオキソ二硫酸塩及びペルオキソ二リン酸塩などが挙げられ、これらの中でも、硬化性の点で、ペルオキソ二硫酸塩が好ましい。ペルオキソ二硫酸塩の具体例としては、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アルミニウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウムが挙げられる。
【0082】
上記のペルオキソ二硫酸塩は、一種類単独を用いてもよく、複数種類を併用してもよい。上記のペルオキソ二硫酸塩の中でも、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、及びペルオキソ二硫酸アンモニウムが好ましい。
【0083】
<フィラー>
本開示の硬化性組成物調製用キットは、フィラーが、第1剤及び第2剤の少なくとも一方に含有されていてもよい。
フィラーは、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。フィラーとしては、無機系フィラー、有機系フィラー、及び無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーが挙げられる。
【0084】
無機系フィラーとしては、シリカ;カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、BaO、La2O3、SrO、ZnO、CaO、P2O5、Li2O、Na2Oなどを含有する、セラミックス及びガラス類が例示される。
ガラス類としては、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが好適に用いられる。
結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムも好適に用いられる。
具体的には、接着力、取り扱い性の点で、一次粒子径が0.001μm~0.1μmの微粒子シリカが好ましく使用される。市販品としては、「アエロジルOX50」、「アエロジル50」、「アエロジル200」、「アエロジル380」、「アエロジルR972」、「アエロジル130」(以上、いずれも日本アエロジル社製)が挙げられる。
【0085】
有機系フィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴムが例示される。
【0086】
無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーとしては、有機系フィラーに無機系フィラーを分散させたもの、無機系フィラーを種々の重合体にてコーティングした無機/有機複合フィラーが例示される。
【0087】
硬化性、機械的強度、取り扱い性を向上させるために、フィラーをシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランが例示される。
【0088】
フィラーの配合量は、本開示の硬化性組成物の全質量に基づいて、10質量%~80質量%の範囲が好ましく、30質量%~80質量%の範囲がより好ましく、50質量%~75質量%の範囲がさらに好ましい。
【0089】
(非導電性フィラー)
本開示の硬化性組成物調製用キットにおいて、第1剤及び第2剤の少なくとも一方が、非導電性フィラーを含むことが好ましい。
非導電性フィラーとは、抵抗値が1.00×10-4Ωm以上のフィラーを意味する。
非導電性フィラーの抵抗値の上限は特に限定されないが、例えば、1.00×1020Ωmであってもよい。
非導電性フィラーの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機物;シリカ(ジメチルシリル化シリカ等)、シリケート(ボロシリケートガラス(バリウムボロシリケートガラス等)、アルミノシリケートガラス(ボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、バリウムアルミノシリケートガラス等))、セラミック、窒化ホウ素、窒化バリウム等の無機物などが挙げられる。
【0090】
上記の中でも、非導電性フィラーの材料としては、シリカ及びシリケートが好ましく、ジメチルシリル化シリカ及びバリウムアルミノシリケートがより好ましい。
【0091】
第1剤が非導電性フィラーを含み、かつ、第1剤の全質量に対する非導電性フィラーの含有量が、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
第1剤の全質量に対する非導電性フィラーの含有量が、99質量%以下であってもよく、95質量%以下であってもよい。
非導電性フィラーが第2剤に含まれる場合に、第2剤が非導電性フィラーを含み、かつ、第2剤の全質量に対する非導電性フィラーの含有量が、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
第2剤の全質量に対する非導電性フィラーの含有量が、99質量%以下であってもよく、95質量%以下であってもよい。
本開示の硬化性組成物調製用キットにおいて、非導電性フィラーが第1剤に含まれる場合に、第1剤の全質量に対する非導電性フィラーの含有量が10質量%以上であり、非導電性フィラーが第2剤に含まれる場合に、第2剤の全質量に対する非導電性フィラーの含有量が10質量%以上であることが好ましい。
【0092】
第1剤が非導電性フィラーを含み、かつ、第1剤の全質量に対する非導電性フィラーの含有量が10質量%以上であり、
第2剤が非導電性フィラーを含み、かつ、第2剤の全質量に対する非導電性フィラーの含有量が10質量%以上であることも好ましい。
【0093】
<還元剤>
本開示の硬化性組成物調製用キットは、還元剤が、第1剤及び第2剤の少なくとも一方に含有されていてもよい。
還元剤としては、例えば、スルフィン酸化合物又はその塩、ヒドラジン化合物又はその塩、アスコルビン酸化合物又はその塩等が挙げられる。
【0094】
(スルフィン酸化合物)
スルフィン酸化合物又はその塩としては、例えば、アルカンスルフィン酸又はその塩、脂環族スルフィン酸又はその塩、芳香族スルフィン酸又はその塩が挙げられる。
スルフィン酸化合物の塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、鉄塩、亜鉛塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩が例示される。
【0095】
アルカンスルフィン酸としては、メタンスルフィン酸などが例示される。
脂環族スルフィン酸としては、シクロヘキサンスルフィン酸、シクロオクタンスルフィン酸などが例示される。
芳香族スルフィン酸としては、ベンゼンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸、o-トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸などが例示される。
【0096】
本開示において、第1剤又は第2剤にスルフィン酸化合物を含む場合、保存安定性を向上させる観点から、第1剤又は第2剤は上述の複素環式アミン化合物を含むことが好ましい。
複素環式アミン化合物は、保存時において、第1剤又は第2剤中のスルフィン酸化合物による不要な反応を抑制することができる。
そのため、第1剤又は第2剤が複素環式アミン化合物を含むことにより、スルフィン酸化合物を含む第1剤又は第2剤は、保存安定性を維持することができる。
【0097】
第1剤又は第2剤にスルフィン酸化合物を含む場合、複素環式アミン化合物としては、第二級又は第三級アミノ基の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0098】
第1剤又は第2剤にスルフィン酸化合物を含む場合、複素環式アミン化合物としては、イミダゾール、トリアゾール、メルカプトトリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、ベンゾキサゾール、ベンゾチアジアゾール等のアゾール系化合物を用いてもよい。
これらのうち、第1剤又は第2剤にスルフィン酸化合物を含む場合における複素環式アミン化合物としては、ベンズイミダゾール及びベンゾトリアゾールが好ましく、ベンゾトリアゾールがより好ましい。
【0099】
(ヒドラジン化合物)
ヒドラジン化合物又はその塩としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、アセトヒドラジド、ベンゾイルヒドラジン、2-メチルカルバジン酸tert-ブチル、カルボヒドラジド、N,N’-ジベンゾイルヒドラジン、マロン酸ヒドラジド、フタル酸ヒドラジド、アセチルフェニルヒドラジン、又は、これらのヒドラジン化合物の塩等が挙げられる。
【0100】
(アスコルビン酸化合物)
アスコルビン酸化合物又はその塩としては、例えば、アスコルビン酸パルミトイル等が挙げられる。
【0101】
<ボレート化合物>
本開示の硬化性組成物は、ボレート化合物を含んでもよい。
本開示の硬化性組成物は、ボレート化合物を含むことで、重合性をより向上させることができる。
なお、本開示におけるボレート化合物には、上述の含窒素化合物は含まれない。
例えば、上述の含窒素化合物に該当し、かつ、ホウ酸塩でもある化合物は、ボレート化合物ではなく上述の含窒素化合物に該当する。
【0102】
ボレート化合物としては、例えば、テトラアルキルボレート、テトラアルキルアンモニウムボレート、及びこれらの塩等が挙げられる。
上記の中でも、ボレート化合物としては、テトラアルキルボレート及びその塩が好ましく、テトラフェニルボレート及びその塩がより好ましく、テトラフェニルボレートナトリウムがさらに好ましい。
【0103】
本開示において、第1剤及び第2剤の少なくとも一方が、スルフィン酸化合物及びボレート化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0104】
本開示の硬化性組成物調製用キットは、保存安定性が向上する観点から、第1剤が含スルホニル基化合物を含み、第2剤が含窒素化合物を含むことが好ましい。
【0105】
本開示の硬化性組成物調製用キットは、第2剤が含窒素化合物とスルフィン酸とを含み、含窒素化合物が芳香族アミン化合物と複素環式アミン化合物とを含むことが好ましい。
本開示の硬化性組成物調製用キットは、第2剤が芳香族アミン化合物と複素環式アミン化合物とスルフィン酸とを含むことで、第2剤が複素環式アミン化合物を含まない場合と比較して、保管安定性により優れる。
【0106】
本開示の硬化性組成物調製用キットは、第1剤及び第2剤に含まれる有機過酸化物の総含有量が、調製される硬化性組成物の全質量に対して、0.10質量%以下(含有量が0質量%である場合を含む)であることが好ましい。上記総含有量が0.10質量%以下であることで、硬化性組成物が保管時に熱を帯びる等により取扱性が低下することを防ぐことができる。
上記同様の観点から、第1剤及び第2剤に含まれる有機過酸化物の総含有量が、調製される硬化性組成物の全質量に対して、0.05質量%以下であることがより好ましい。
第1剤及び第2剤に含まれる有機過酸化物の総含有量が、調製される硬化性組成物の全質量に対して、0質量%超であってもよく、0.01質量%以上であってもよい。
【0107】
<添加剤>
本開示の硬化性組成物は、光重合開始剤、安定剤(重合禁止剤)、着色剤、蛍光剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含んでもよい。
光重合開始剤としては、公知の光重合開始剤を用いることができ、例えば、カンファーキノン(CQ)、ジメチルアミノ安息香酸エチル(EDB)等が挙げられる。
また、セチルピリジニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、トリクロサン等の抗菌性物質を配合してもよい。
本開示の硬化性組成物に、公知の染料、顔料を配合してもよい。
【0108】
本開示の硬化性組成物調製用キットは、歯科材料用であることが好ましい。
【0109】
<硬化性組成物>
本開示の硬化性組成物は、本開示の重合開始剤と、モノマーと、を含む。本開示の硬化性組成物が上記の構成を含むことで、重合性を良好に向上させることができる。
硬化性組成物におけるモノマーの具体例、好ましい態様等は、上述のモノマーと同様である。
本開示の硬化性組成物は、さらに、非導電性フィラーを含むことが好ましい。
硬化性組成物における非導電性フィラーの具体例、好ましい態様等は、上述の非導電性フィラーと同様である。
【0110】
<硬化物>
本開示の硬化物は、本開示の硬化性組成物の硬化物、又は、本開示の硬化性組成物調製用キットを用いて得られる硬化物である。
本開示の硬化物は、歯科材料として好適に用いることができる。即ち、本開示の歯科材料は、本開示の硬化物を含むことが好ましい。
【実施例】
【0111】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例によって制限されるものではない。
本実施例において使用した各成分について、以下に示す。
【0112】
<モノマー>
ジヒドロキシエチルメタアクリレートトリメチルヘキシルジカルバメート(分子量:470)
ネオペンチルグリコールジメタアクリレート(分子量:240)
【0113】
<フィラー>
バリウムアルミニウムシリケート(非導電性フィラー)
ジメチルシリル化シリカ(非導電性フィラー、日本アエロジル株式会社製、商品名「アエロジルR812」)
【0114】
<遷移金属化合物>
酢酸銅
エチルヘキサン酸銅
アセチルアセトン銅
臭化銅(II)
塩化銅(II)
【0115】
<スルフィン酸化合物>
p-トルエンスルフィン酸ナトリウム
【0116】
<ボレート化合物>
テトラフェニルボレートナトリウム
【0117】
<アスコルビン酸化合物>
アスコルビン酸パルミトイル
【0118】
<添加剤>
ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート
【0119】
<含窒素化合物>
ジメチルアニリン
ジメチル-p-トルイジン
ジエチル-p-トルイジン
ジエタノール-p-トルイジン
テトラメチル-1,3-フェニレンジアミン
ジメチルアミノ-1,4-フェニルエタノール
テトラフェニルボレート・ジメチル-p-トルイジン
テトラフェニルボレート・トリブチルアンモニウム塩
テトラフェニルボレート・トリエタノールアンモニウム塩
ベンゾチアゾール
ベンゾオキサゾール
ベンズイミダゾール
ベンゾトリアゾール
【0120】
<含スルホニル基化合物>
サッカリン
スルホ安息香酸無水物
ベンゾジチオールオンジオキシド
メチルトシルベンゼンスルホアミド
サッカリンナトリウム
上記含スルホニル基化合物の構造を以下に示す。
【0121】
【0122】
<重合禁止剤>
MEHQ:メトキシフェノール
ジ-tert-ブチルヒドロキシトルエン
【0123】
<過酸化物>
ベンゾイルパーオキサイド
【0124】
〔実施例1~34及び比較例1~4〕
<モノマーの重合性の評価>
表1~表9に示す通りに、各成分を用いて実施例1~34及び比較例1~4の第1剤及び第2剤を調製した。
【0125】
調製した第1剤及び第2剤を混合して実施例1~34及び比較例1~4の硬化性組成物を調製した。
調製した硬化性組成物について、それぞれ、以下のようにしてモノマーの重合性の評価を行った。
RETSCH社製DSCを用い、混合直後の硬化性組成物をアルミパンに充填し、速やかにアルミパン内部の温度を37℃条件とし、硬化性組成物を硬化させて硬化物の製造を行った。その際、硬化性組成物の温度を経時的に測定し、硬化性組成物の最高温度(ピークの最大値)及び最高温度に達した時間(即ち、最高温度到達時間)を測定した。結果を表1~表9に示す。
表1~表9に示す「重合性」の温度(℃)は、硬化性組成物の温度ピークの最大値を意味する。上記温度ピークの最大値が低い程、硬化性組成物中のモノマーの重合性に優れる。
表1~表9に示す「重合性」の時間(分)は、上記温度ピークの最大値が得られた時間を意味する。上記温度ピークの最大値が得られた時間が短い程、硬化性組成物中のモノマーの重合性に優れる。
【0126】
<変色性の評価>
<モノマーの重合性の評価>において製造された硬化物の色を目視にて確認した。結果を表1~表9に示す。
【0127】
<保管安定性の評価>
<モノマーの重合性の評価>において調製した実施例31~34及び比較例4の第1剤及び第2剤を、それぞれ80℃の恒温槽に入れて1時間保管した。
1時間が経過した後、<モノマーの重合性の評価>に記載の方法と同様の方法により、硬化性組成物が最高温度に達した時間(即ち、最高温度到達時間)を測定した。
保管後の最高温度到達時間と保管を行わなかった場合の最高温度到達時間との差を算出し、以下の基準にて保管安定性を評価した。結果を表9に示す。
~評価基準~
A:保管後の最高温度到達時間と保管を行わなかった場合の最高温度到達時間との差が1分未満であった。
B:保管後の最高温度到達時間と保管を行わなかった場合の最高温度到達時間との差が1分以上であった。
C:保管後に既に硬化物が確認されたため、保管後の最高温度到達時間を測定できなかった。
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
表1~表9に示す各組成又は成分欄の数字は、第1剤又は第2剤全体の質量に対する各組成又は成分の量(質量部)を意味する。
なお、表1~表9における「基本組成1」は、該当する各実施例及び比較例において共通する組成である。基本組成1における各成分の種類及び含有量は表10に示す通りである。
【0138】
【0139】
表10に示す基本組成又は成分欄の数字は、基本組成全体の質量に対する各組成又は成分の量(質量部)を意味する。
【0140】
表1~表9に示す通り、遷移金属化合物、含窒素化合物及び含スルホニル基化合物を含む重合開始剤を用いた実施例は、硬化性における時間が短くかつ温度が高かったため、モノマーの重合性に優れていることが示された。また、変色も抑制できていたため、歯科材料に適していることが示された。
一方、含窒素化合物を含まない重合開始剤を用いた比較例1、遷移金属化合物を含まない重合開始剤を用いた比較例2、及び含スルホニル基化合物を含まない重合開始剤を用いた比較例3は、重合することができず、硬化物が得られなかった。
過酸化物を含み、遷移金属化合物及び含スルホニル基化合物を含まない重合開始剤を用いた比較例4は、硬化物が黄色に変色した。
表9に示す通り、スルフィン酸化合物、及び含窒素化合物である複素環式芳香族化合物を含む実施例31~34は、スルフィン酸化合物及び複素環式芳香族化合物を含まない比較例4と比較して、保管安定性に優れていた。
特に、複素環式芳香族化合物として、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール、又はベンゾトリアゾールを含む実施例31、33及び34は、より保存安定性に優れていた。
【0141】
〔実施例35~37〕
<モノマーの重合性の評価>
表11に示す通りに、各成分を用いて実施例35~37の第1剤及び第2剤を調製した。
【0142】
調製した第1剤及び第2剤を混合して実施例35~37の硬化性組成物を調製した。
調製した硬化性組成物について、それぞれ、上述の<モノマーの重合性の評価>の項に記載の方法と同様の方法により、モノマーの重合性の評価を行った。また、製造された硬化物について、上述の<変色性の評価>の項に記載の方法と同様の方法により、変色性の評価を行った。結果を表11に示す。
【0143】
<接着性の評価>
牛下顎前歯を、歯根切断、抜髄処理し、これを直径25mm、深さ25mmのプラスチック製円筒容器に設置し、アクリル樹脂中に包埋した。これを牛歯被着体とする。牛歯被着体は、使用直前に耐水エメリー紙(P400)にて研磨し、牛歯象牙質の平滑面を削り出して使用した。接着強さの測定に使用する試験体として<モノマーの重合性の評価>において調製した各実施例及び比較例の第1剤及び第2剤を用い、ISO16506に準じて、接着性評価を実施した。
【0144】
具体的には、牛歯被着体の被着面をキムワイプで余剰の水分を拭き取り、一滴水滴を垂らす。次に、20秒間混合した表11に記載の第1剤及び第2剤を、あらかじめ調製しておいた充填材組成物の円筒柱硬化物(Vinus Diamond、Kulzer製、被着面を事前に耐水エメリー紙P180で研磨したもの)の被着面に適量塗布して、牛歯被着体に垂直に設置した。その後、専用冶具を使用して5Nの力で圧接した。
適用した組成物の余剰分を除去した後、化学重合の場合は、37℃で90分静置後に接着強さを測定した。光重合の場合は、LED可視光線照射器(Translux 2Wave、Kulzer社製)を用いて2方向から10秒間ずつ光照射して硬化させた後、37℃で30分静置後に接着強さを測定した。
接着強さは牛歯被着体に平行、かつ表面に接して1.0mm/minのクロスヘッド速度で剪断負荷を掛け、牛歯被着体に接着させた円筒状硬化物が表面から剥離する際の剪断負荷より求めた。結果を表11に示す。
【0145】
【0146】
表11中、各項目の詳細は以下の通りである。
・MDP 10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
【0147】
なお、表11における「基本組成2」~「基本組成5」は、該当する各実施例及び比較例において共通する組成である。基本組成2~基本組成5における各成分の種類及び含有量は表12~表15に示す通りである。
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
表11に示す通り、酸性化合物を含む硬化性組成物に係る実施例は、接着性に優れていた。
【0153】
〔実施例38~実施例43〕
<モノマーの重合性の評価>
表16及び表17に示す通りに、各成分を用いて実施例38~実施例43の第1剤及び第2剤を調製した。
【0154】
調製した第1剤及び第2剤を混合して実施例38~実施例43の硬化性組成物を調製した。
調製した硬化性組成物について、それぞれ、上述の<モノマーの重合性の評価>の項に記載の方法と同様の方法により、モノマーの重合性の評価を行った。
【0155】
<保管安定性2の評価>
<モノマーの重合性の評価>において調製した表16及び17に記載の第1剤及び第2剤を、それぞれ80℃の恒温槽に入れて表に記載した時間で保管した。
保管時間が経過した後、<モノマーの重合性の評価>に記載の方法と同様の方法により、硬化性組成物が最高温度に達した時間(即ち、最高温度到達時間)を測定した。
保管後の最高温度到達時間と保管を行わなかった場合の最高温度到達時間との差を算出し、以下の基準により保管安定性を評価した。
A:保管後の最高温度到達時間と保管を行わなかった場合の最高温度到達時間との差が1分未満であった。
B:保管後の最高温度到達時間と保管を行わなかった場合の最高温度到達時間との差が1分以上であった。
C:保管後に既に硬化物が形成されていたため、保管後の最高温度到達時間を測定できなかった。
【0156】
【0157】
【0158】
表16及び17に示す通り、本開示の硬化性組成物に係る実施例は、80℃の熱による負荷をかけた状態での保管安定性に優れていた。
表16及び17に示す実施例は、製造された硬化物の色を目視にて確認したところ、すべて白色であった。そのため、硬化物の変色を抑制できていた。
【0159】
2020年7月15日に出願された日本国特許出願2020-121716号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。