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特許7539473ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂、樹脂組成物、成形品、及び樹脂用制振化剤
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  • 特許-ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂、樹脂組成物、成形品、及び樹脂用制振化剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂、樹脂組成物、成形品、及び樹脂用制振化剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20240816BHJP
   C08G 75/0213 20160101ALI20240816BHJP
   C08G 75/0231 20160101ALI20240816BHJP
   C08G 75/0254 20160101ALI20240816BHJP
【FI】
C08L81/02
C08G75/0213
C08G75/0231
C08G75/0254
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022537961
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 JP2021026578
(87)【国際公開番号】W WO2022019204
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2020125534
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】村野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】目代 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-225934(JP,A)
【文献】特開2005-225933(JP,A)
【文献】特開2011-223771(JP,A)
【文献】特開2006-166554(JP,A)
【文献】国際公開第2006/068161(WO,A1)
【文献】特開2005-264030(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111146(WO,A1)
【文献】CHEN Kang-yi et al.,Synthesis of a Series of Focally-Substituted Organothiol Dendrons,J. Org. Chem.,1996,Vol.61,p.9229-9235
【文献】JIKEI Mitsutoshi et al.,Synthesis of Hyperbranched Poly(phenylenesulfide) via a Poly(sulfonium cation) Precursor,Macromolecules,1996, Vol.29,p.1062-1064
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08L
C08K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂と、ポリアリーレンスルフィド樹脂とを含む、樹脂組成物であり、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、ポリp-フェニレンスルフィド樹脂を含み、
前記ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂の質量との合計に対する、前記ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の質量の比率が、1質量%以上30質量%以下であり、
前記ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂が、ハロゲン化ベンゼンと、アルカリ金属硫化物との重縮合体であり、
前記ハロゲン化ベンゼンが、ジハロベンゼン及びトリハロベンゼンであるか、トリハロベンゼンであり、
前記ハロゲン化ベンゼンが、ジハロベンゼン及びトリハロベンゼンであるときに、前記ハロゲン化ベンゼンの質量に対する前記トリハロベンゼンの質量の比率が50質量%以上であり、
前記ハロゲン化ベンゼンがフッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子からなる群より選択される1種~3種のハロゲン原子を有する、樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、ポリp-フェニレンスルフィド樹脂である、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1、又は2に記載の前記樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂と、当該ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂と他の樹脂とを含む樹脂組成物と、当該樹脂組成物からなる成形品と、前述のハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む樹脂用の制振化剤とに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形等の一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能である。このため、PPSは、電気機器、電子機器、自動車機器、包装材料等の広範な技術分野において汎用されている。
【0003】
上記のPASの用途の中でも、例えば、掃除機、冷蔵庫、エアーコンディショナーのような圧縮機やモーター等を備える家電製品や、電気自動車やハイブリッド自動車等におけるモーター部品やモーターの周辺部品についての静粛化の目的で制振性の向上が望まれている。
【0004】
制振性に優れる樹脂組成物としては、例えば、板状充填剤又は針状充填剤を含むポリアミド樹脂組成物(特許宇文献1を参照)や、制振材料用エマルジョン樹脂組成物(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-089149号公報
【文献】特開2012-126775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物は、充填剤を必須に含むためフィラーレスの用途には用いることができない。また、特許文献2に記載の制振材料用エマルジョン樹脂組成物には、エマルジョン樹脂組成物であるがゆえにプレス成形、押出成形、射出成形等の一般的な樹脂の成形方法への適用が困難である問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、樹脂に添加する場合に充填剤を用いなくても樹脂を制振化できる、ポリ(ハロフェニレン)スルフィド樹脂と、当該ポリ(ハロフェニレン)スルフィド樹脂と他の樹脂とを含む樹脂組成物と、当該樹脂組成物からなる制振材料と、前述の樹脂組成物又は前述の制振材料からなる成形品と、前述のポリ(ハロフェニレン)スルフィド樹脂を含む樹脂用の制振化剤とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、トリハロベンゼンと、アルカリ金属硫化物との重縮合体であるポリ(ハロフェニレン)スルフィド樹脂を、樹脂組成物において樹脂を制振化させるための成分として用いることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明にかかるハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂は、
ハロゲン化ベンゼンと、アルカリ金属硫化物との重縮合体であり、
ハロゲン化ベンゼンが、ジハロベンゼン及び/又はトリハロベンゼンであり、
ハロゲン化ベンゼンの質量に対するトリハロベンゼンの質量の比率が50質量%以上であり、
ハロゲン化ベンゼンがフッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子からなる群より選択される1種~3種のハロゲン原子を有する。
【0010】
本発明にかかる樹脂組成物は、前述のハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂と、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂以外の他の樹脂とを含む。
【0011】
上記の樹脂組成物において、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、熱可塑性樹脂の質量との合計に対する、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の質量の比率が、1質量%以上30質量%以下であってよい。
【0012】
上記の樹脂組成物において、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、他の樹脂の質量との合計に対する、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の質量の比率が、30質量%より大きく90質量%以下であってよい。
【0013】
上記の樹脂組成物において、他の樹脂が、熱可塑性樹脂であってよい。
【0014】
上記の樹脂組成物において、熱可塑性樹脂が、ポリアリーレンスルフィド樹脂であってよい。
【0015】
本発明にかかる成形品は、上記の樹脂組成物からなる。
【0016】
本発明の樹脂用の制振化剤は、上記のハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、樹脂に添加する場合に充填剤を用いなくても樹脂を制振化できる、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂と、当該ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂と他の樹脂とを含む樹脂組成物と、前述の樹脂組成物からなる成形品と、前述のハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む樹脂用の制振化剤とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で得たハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂のFT-IR測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂≫
ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂は、ハロゲン化ベンゼンと、アルカリ金属硫化物との重縮合体である。ハロゲン化ベンゼンは、ジハロベンゼン及び/又はトリハロベンゼンである。ハロゲン化ベンゼンの質量に対するトリハロベンゼンの質量の比率が50質量%以上である。
ハロゲン化ベンゼンは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子からなる群より選択される1種~3種のハロゲン原子を有する。
ハロゲン化ベンゼンにおけるハロゲン原子としては、ハロゲン化ハロベンゼンの重縮合の反応性や、ハロゲン化ハロベンゼンの入手の容易性の点から塩素原子が好ましい。つまり、ハロゲン化ベンゼンとしては、ジクロロベンゼン、及びトリクロロベンゼンが好ましい。
【0020】
ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂について、ハロフェニレン基又はフェニレン基と硫黄原子とが交互に連なって結合した直鎖型のポリマーには限定されない。典型的には、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂は、トリハロベンゼンが有する3つのハロゲン原子の全てがアルカリ金属硫化物と反応した分岐構造を分子鎖中に含む。
【0021】
トリハロベンゼンの好適な具体例としては、1,2,3-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、及び1,3,5-トリクロロベンゼンが挙げられる。これらの中では、重縮合の反応性の点で1,2,4-トリクロロベンゼンが好ましい。このため、トリハロベンゼンが、1,2,4-トリクロロベンゼンを含むのが好ましく、トリハロベンゼンの全量が1,2,4-トリクロロベンゼンであるのがより好ましい。
トリハロベンゼンが1,2,4-トリクロロベンゼンを含む場合の、トリハロベンゼンの質量に対する1,2,4-トリクロロベンゼンの質量の比率は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がさらにより好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0022】
ジハロベンゼンの好適な具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、及びo-ジクロロベンゼンが挙げられる。これらの中では、入手が容易で安価であることや、得られるハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の、成形加工性や機械的特定が良好であること等から、p-ジクロロベンゼンが好ましい。
なお、製造方法によっては、トリハロベンゼンが、不純物としてジハロベンゼンを含む場合がある。このような、ジハロベンゼンを不純物として含むトリハロベンゼンを、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィドの原料として好ましく用いることができる。
この場合、ジハロベンゼンを不純物として含むトリハロベンゼンにおける、トリハロベンゼンの純度が90質量%以上99.9質量%以下であり、ジハロベンゼンの含有量が0.1質量%以上10%以下であるのが好ましく、トリハロベンゼンの純度が95質量%以上99.9質量%以下であり、ジハロベンゼンの含有量が0.1質量%以上5質量%以下であるのがより好ましい。
【0023】
ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の制振性能が良好である点で、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造に使用される、トリクロロベンゼンの質量とジクロロベンゼンの質量との合計に対する、トリクロロベンゼンの質量の比率は、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量がさらに好ましい。
【0024】
アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、及び硫化セシウムが挙げられる。これらの中では、硫化ナトリウム、及び硫化カリウムが好ましく、硫化ナトリウムがより好ましい。硫黄源としてのアルカリ金属硫化物は、例えば、水性スラリー及び水溶液のいずれかの状態で扱うこともできる。
【0025】
ハロゲン化ベンゼンと、アルカリ金属硫化物との重縮合反応の方法は特に限定されず、従来知られるポリアリーレンスルフィドの製造方法と同様の方法を適宜採用できる。
好ましい方法としては、ハロゲン化ベンゼンとアルカリ金属硫化物とを、溶媒の存在下に加熱して重合させる方法が挙げられる。
【0026】
ハロゲン化ベンゼンと、アルカリ金属硫化物とを反応させる際のハロゲン化ベンゼンの使用量は、所望する性質のハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂が得られる限り特に限定されない。
ハロゲン化ベンゼンの使用量は、硫黄源としてのアルカリ金属硫化物の仕込み量1モルに対し、好ましくは1.30モル以上1.90モル以下であり、より好ましくは1.40モル以上1.80モル以下であり、さらにより好ましくは1.50モル以上1.70モル以下である。上記の量のトリハロベンゼンを用いることにより、所望する程度に高分子量化したハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を得やすい。
【0027】
溶媒としては、重縮合反応が良好に進行する限り特に限定されない。溶媒としては、原料化合物、オリゴマー、及び生成ポリマーの溶解性や分散性が良好であることから、有機極性溶媒が好ましい。
【0028】
有機極性溶媒としては、例えば、有機アミド溶媒;有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒;環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒が挙げられる。有機アミド溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N-メチル-ε-カプロラクタム等のN-アルキルカプロラクタム化合物;N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」とも称する。)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン等のN-アルキルピロリドン化合物又はN-シクロアルキルピロリドン化合物;1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン等のN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン等が挙げられる。環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、1-メチル-1-オキソホスホラン等が挙げられる。中でも、入手性、取り扱い性等の点で、有機アミド溶媒が好ましく、N-アルキルピロリドン化合物、N-シクロアルキルピロリドン化合物、N-アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物がより好ましく、NMP、N-メチル-ε-カプロラクタム、及び1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンがさらにより好ましく、NMPが特に好ましい。
【0029】
溶媒の使用量は、重合反応の効率等の観点から、硫黄源としてのアルカリ金属硫化物1モルに対し、1以上30モル以下が好ましく、3モル以上15モル以下がより好ましい。
【0030】
重縮合反応に供される反応液には、ハロゲン化ベンゼン、及びアルカリ金属硫化物とともに、アルカリ金属水酸化物を仕込んでもよい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられる。
硫黄源をアルカリ金属水酸化物の存在下にトリハロベンゼンと反応させる方法が、諸特性バランスの良好なハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を得るのに適していることが判明している。
アルカリ金属水酸化物の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルカリ金属水酸化物の使用量は、典型的には、硫黄源としてのアルカリ金属硫化物1モルに対して0.01モル以上0.1モル以下が好ましく、0.03モル以上0.08モル以下がより好ましい。
【0031】
重縮合反応に供される反応液には、ハロゲン化ベンゼン、及びアルカリ金属硫化物とともに、水を仕込んでもよい。水を用いることにより、アルカリ金属硫化物、及びアルカリ金属水酸化物を反応系内で溶液の状態にできる。
水の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。水の使用量は、典型的には硫黄源としてのアルカリ金属硫化物1モルに対して1.0モル以上2.5モル以下が好ましく、1.2モル以上2.3モル以下がより好ましい。
【0032】
以上説明した各成分を混合した後、得られた混合物を反応液として重縮合反応に供する。重縮合反応は、空気中で行われてもよいが、生成物の分解や着色の抑制、溶媒の劣化の抑制等の観点から、不活性ガス雰囲気中で行われるのが好ましい。不活性ガスとしては特に限定されず、窒素ガス、ヘリウムガス等が好ましく、窒素ガスがより好ましい。
重縮合反応はバッチ式で行われてもよく、連続式で行われてもよい。
【0033】
重縮合反応の効率等の観点から、重縮合反応行う温度は、140℃以上300℃以下が好ましく、150℃以上280℃以下がより好ましく、160℃以上265℃以下がさらに好ましい。
反応時間は特に限定されず、重縮合反応が所望する程度まで進行する時間が適宜選択される。典型的には、反応時間は0.5時間以上12時間以下が好ましく、1時間以上6時間以下がより好ましい。
【0034】
上記のようにして重縮合反応を行った後、反応液からハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂が回収される。
典型的には、反応液を例えば0℃以上50℃以下、好ましくは10℃以上40℃以下程度の室温付近の温度まで冷却した後、冷却された反応液に含まれるハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の粗製品を洗浄して回収する。
ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の粗製品は、公知の方法により洗浄される。洗浄方法としては、アセトン洗浄と、水による洗浄とをこの順で行う方法が挙げられる。この場合、洗浄に用いられるアセトンには、例えば、10質量%以下、好ましくは5質量%以下程度の水を含有させてもよい。アセトン、及び水による洗浄について、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を酢酸水溶液により洗浄するのが好ましい。酢酸水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば、0.05質量%以上5質量%以下であり、0.1質量%以上2質量%以下であってよい。
上記の洗浄を行う場合の温度条件は、所望する洗浄効果が得られる限り特に限定されない。上記の各洗浄操作を実施する温度は、例えば、0℃以上80℃以下であってよく、10℃以上60以下であってよく20℃以上50℃以下であってよい。
【0035】
上記のようにして洗浄されたハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を必要に応じて乾燥させることにより、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂が得られる。
【0036】
制振性能及び成形加工性の点で、上記の方法により得られるハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂について、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上130以下の範囲内であるのが好ましい。また、重量平均分子量(Mw)が1000以上5000以下であるのが好ましい。
【0037】
≪樹脂組成物≫
以上説明したハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂は、好ましくは、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂以外の他の樹脂と混合されて使用される。ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を、他の樹脂と混合して使用することにより、他の樹脂の制振性を向上させることができる。
【0038】
他の樹脂としては、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂のいずれを用いてもよい。ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂と、他の樹脂との均一な混合が容易であることから、他の樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましい。
【0039】
硬化性樹脂としては、未硬化の状態の硬化性樹脂の前駆体を用いることもできる。硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂であっても、光硬化性樹脂であってもよく、ある程度サイズの大きな成形品を製造しやすいこと等から熱硬化性樹脂が好ましい。
硬化性樹脂と、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂とを混合する方法としては、粉末又は粒子状のハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を、液状又は溶液状の未硬化の状態の硬化性樹脂の前駆体と混合させ、混合後、必要に応じて溶媒を除去する方法が挙げられる。この場合、硬化性樹脂の種類に応じて、混合物に、硬化剤を配合してもよい。
以上のようにして得られる混合物は、硬化性樹脂の種類に応じた方法で、加熱及び/又は露光により硬化され樹脂組成物とされる。
【0040】
硬化性樹脂の具体例としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びアルキド樹脂等の熱硬化性樹脂や、(メタ)アクリル樹脂等の光硬化性樹脂が挙げられる。
【0041】
他の樹脂が硬化性樹脂である場合の、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、他の樹脂の質量との合計に対する、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の質量の比率は、例えば1質量%以上90質量以下が好ましく、5質量%以上50質量%以下がより好ましい。
【0042】
他の樹脂が熱可塑性樹脂である場合、ポリ(ハロフェニレン)スルフィド樹脂と他の樹脂とは、典型的には、1軸押出機や2軸押出機等の溶融混錬装置を用いて混合される。混合条件は特に限定されず、ポリ(ハロフェニレン)スルフィド樹脂、及び他の樹脂の、融点、溶融粘度等を勘案して適宜決定される。
【0043】
他の樹脂が熱可塑性樹脂である場合の好適な例としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂等)、FR-AS樹脂、FR-ABS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、BT樹脂、ポリメチルペンテン、超高分子量ポリエチレン、FR-ポリプロピレン、及びポリスチレン等が挙げられる。
【0044】
これらの熱可塑性樹脂の中では、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂との相溶性に優れる点等から、ポリアリーレンスルフィド樹脂が好ましく、ポリフェニレンスルフィド樹脂がより好ましい。ポリフェニレンスルフィド樹脂としてはp-ジクロロベンゼンとスルフィド化剤(例えば、アルカリ金属硫化物やアルカリ金属水硫化物)との重縮合物であるポリp-フェニレンスルフィド樹脂が好ましい。
また、制振性に優れる樹脂組成物を得やすい点で、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、p-フェニレンスルフィド樹脂と、ポリm-フェニレンスルフィド樹脂との組み合わせであるのもの好ましい。ポリm-フェニレンスルフィド樹脂は、典型的には、m-ジクロロベンゼンとスルフィド化剤(例えば、アルカリ金属硫化物やアルカリ金属水硫化物)との重縮合物である。
ポリアリーレンスルフィド樹脂としては特に限定されず、従来知られるポリアリーレンスルフィド樹脂から適宜選択され得る。ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂と配合されるポリアリーレンスルフィド樹脂については、融点が270℃以上300℃以下であるのが好ましく、重量平均分子量(Mw)が1000以上100000以下であるのが好ましく、温度310℃、せん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度が100Pa・s以上250Pa・s以下であるのが好ましい。
【0045】
ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、他の樹脂(特に熱可塑性樹脂)の質量との合計に対する、ポリ(ハロフェニレン)スルフィド樹脂の質量の比率は、樹脂組成物の成形加工性の点から、1質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上25質量%以下がより好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0046】
ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の質量と、他の樹脂(特に熱可塑性樹脂)のとの合計に対する、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の質量の比率は、樹脂組成物の制振性の点から、30質量%より大きく90質量%以下が好ましく、50質量%以上85質量%以下がより好ましく、60質量%以上80質量%以下がさらに好ましい。
【0047】
以上説明した樹脂組成物は、必要に応じて、着色剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、離型剤、充填材、及び強化材等の、従来から種々の樹脂組成物に配合されている添加剤、又は添加材を含んでいてもよい。これらの添加剤又は添加材は、添加剤又は添加材の種類に応じた適切な範囲の量を使用される。
【0048】
≪制振材料≫
以上説明した樹脂組成物は、制振材料として好適に使用される。本出願の明細書及び特許請求の範囲において、具体的には、動的粘弾性測定に従って測定される損失係数(tanδ)として0.150以上の値を示す材料を制振材料とする。制振材料の損失係数は、0.170以上が好ましく、0.200以上がより好ましい。
【0049】
≪成形品≫
以上説明した樹脂組成物、又は制振材料は、他の樹脂の種類に応じた適切な方法により種々の形状の成形品とされ好適に使用される。
【0050】
他の樹脂が、硬化性樹脂である場合、例えば、所望する形状の凹部を有するモールド内に未硬化の状態の樹脂組成物を充填した後、モールド内で所望する形状に成形された樹脂組成物を硬化させてもよい。
また、未硬化の状態の硬化性樹脂を含む樹脂組成物が液状である場合、3Dプリンティング法により所望する形状の成形品を製造することもできる。この場合、樹脂組成物は、成形途中に適宜硬化されてもよく、所望する形状の成形品を得た後に成形品が硬化されてもよい。
【0051】
他の樹脂が熱可塑性樹脂である場合、典型的には、プレス成形、押出成形、射出成形のような常法により樹脂組成物が成形される。
【0052】
成形品の用途は特に限定されない。成形品の用途の具体例としては、自動車及び二輪車等の車両、船舶、鉄道、航空機のような輸送機における振動が発生する装置の部品、又は当該装置の周辺部品;前述の輸送機における、座席又は座席の周辺部品や、操縦装置等の振動の低減が望まれる装置の部品;各種家電機器部品;OA機器部品;建築材料;工作機械部品;産業機械部品が挙げられる。
以上説明した用途の中でも、成形品の用途としては、自動車等の内燃機関を備える輸送機におけるクーラント循環装置の部品が挙げられる。かかるクーラント循環装置の部品としては、ポンプ筐体やクーラント循環用のパイプ等が挙げられる。
成形品を上記の用途に用いることにより、各種製品の制振化を図ることができる。
【0053】
≪樹脂用の制振化剤≫
樹脂用の制振化剤は、前述のハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む。制振化剤は、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂のみからなってもよく、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂と、他の成分とからなってもよい。他の成分としては特に限定されず、着色剤、前述の熱可塑性樹脂、可塑剤、及び相溶化剤等が挙げられる。特に、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を、熱可塑性樹脂中に高濃度で混合することにより、制振化剤のマスターバッチとすることができる。マスターバッチには、必要に応じて、可塑剤や、相溶化剤を含めるのが好ましい。
【0054】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例
【0055】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に限られるものではない。以下に記す溶融粘度について、測定方法は前述の通りである。
【0056】
[実施例1]
撹拌機付の容量1Lオートクレーブに、硫化ナトリウム78.0g、水酸化ナトリウム2.5g、N―メチル-2-ピロリドン(NMP)374.8g、イオン交換水27.0g、及び1,2,4-トリクロロベンゼン195.4g(純度99.8質量%)を仕込んだ。次いで、オートクレーブ内を窒素ガス雰囲気に置換した後、オートクレーブを密封した。その後、オートクレーブ内の反応液を撹拌しながら、反応液を240℃まで約30分かけて徐々に加熱した。240℃を2時間保持して重縮合反応を行った後、反応液を室温近くまで冷却した。
オートクレーブの内容物を取り出した後、オートクレーブの内容物に3質量%の純水を含むアセトン1Lを加えて、室温にて30分間撹拌して洗浄した。洗浄された固形分(粗製品)をろ過により回収した後、前述のアセトンによる洗浄操作を2回繰り返した。
アセトンで洗浄された固形分を、室温にて純水1L中で30分間撹拌して洗浄した後、ろ過により回収した。回収された固形分に対して、前述の純水による洗浄操作を3回繰り返した後、ろ過により回収された固形分を120℃で4時間乾燥させて、精製されたハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂として、トリクロロベンゼンと硫化ナトリウムとの重縮合物を得た。
【0057】
得られた、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂について、KBr錠剤法によるFT-IR測定を行った。測定結果を図1に示す。
また、得られたハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量(Mw)は3500であり、ガラス転移温度は90℃であった。
【0058】
〔調製例1〕
撹拌機付の容量1Lオートクレーブに、硫化ナトリウム78.0g、水酸化ナトリウム2.5g、N―メチル-2-ピロリドン(NMP)374.8g、イオン交換水27.0g、及び1,3-ジクロロベンゼン(m-ジクロロベンゼン)149.9gを仕込んだ。次いで、オートクレーブ内を窒素ガス雰囲気に置換した後、オートクレーブを密封した。その後、オートクレーブ内の反応液を撹拌しながら、240℃まで約30分かけて徐々に加熱した。240℃を2時間保持して重縮合反応を行った後、反応液を室温近くまで冷却した。
オートクレーブの内容物を取り出した後、オートクレーブの内容物に3質量%の純水を含むアセトン1Lを加えて、室温にて30分間撹拌して洗浄した。洗浄された固形分(粗製品)をろ過により回収した後、前述のアセトンによる洗浄操作を2回繰り返した。
アセトンで洗浄された固形分を、室温にて純水1L中で30分間撹拌して洗浄した後、ろ過により回収した。回収された固形分に対して、前述の純水による洗浄操作を3回繰り返した後、ろ過により回収された固形分を120℃で4時間乾燥させて、ポリm-フェニレンスルフィド樹脂を得た。得られたポリm-フェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量(Mw)は5000であった。
【0059】
[実施例2~7、及び比較例1]
実施例2~6において、ポリp-フェニレンスルフィド樹脂((株)クレハ製、W-214A)と、実施例1で得たハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂とを、表1に記載の比率で混合して、樹脂組成物を得た。
実施例7において、ポリp-フェニレンスルフィド樹脂((株)クレハ製、W-214A)と、上記調製例1で得たポリm-フェニレンスルフィド樹脂と、実施例1で得たハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂とを、表1に記載の比率で混合して、樹脂組成物を得た。
具体的には、ポリフェニレンスルフィド樹脂と、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂とを表1に記載の比率でドライブレンドした後、混合物を、R60(容量60mL)のバレルと、フルフライトのスクリューを備える溶融混錬装置(ラボプラストミル、東洋精機製作所製)にて、試験温度320℃、試験時間5分、回転数100rpmの条件で溶融混錬して樹脂組成物を得た。
比較例1では、ポリフェニレンスルフィド樹脂単独を試料として用いた。
【0060】
実施例2~7、及び比較例1について、樹脂組成物、又は樹脂単独の試料を320℃で、5MPa、1分の条件で圧縮成形して55mm×55mm×1mmのサイズのシートを作製した。作成されたシートのもろさを手触り及び目視により確認して、成形性を評価した。シートの強度に全く問題ない場合を◎と評価し、圧縮成形可能であるがシートに若干の脆さが感じられた場合を〇と評価し、圧縮成形できなかった場合を×と評価した。○と評価される場合は、具体的には、曲げにより容易にクラックが発生する程度にシートが脆い場合である。
【0061】
また、得られたシートから、カッターナイフによりDMA測定用の短冊状の試験片を切り出し、DMAによる動的粘弾性の評価を行い、損失係数を測定した。なお、試験片には、DMA測定前に、150℃、1時間の条件でアニール処理を施した。DMA測定条件は以下の通りである。損失係数の値は、20℃~240℃でと測定された値の最大値である。損失係数の測定結果を、表1に記す。
<DMA測定条件>
試料サイズ:10mm×5mm×1mm
引張温度:20℃~240℃
昇温速度:2℃/分
周波数:10Hz
【0062】
【表1】
【0063】
実施例2~7と、比較例1との比較によれば、ポリフェニレンスルフィド樹脂に、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂が配合されることにより、損失係数が顕著に高まり、制振性が改良されることが分かる。
【0064】
〔実施例8〕
1,2,4-トリクロロベンゼン(純度99.8%)を、不純物としてp-ジクロロベンゼン2.3質量%を含む1,2,4-トリクロロベンゼン(純度97.5質量%)に変えることの他は、実施例1と同様にして、ハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を得た。得られたハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量(Mw)は3500であり、ガラス転移温度は90℃であった。
得られたハロゲン化ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることの他は、実施例3と同様にして、樹脂組成物の調製と評価とを行った。樹脂組成物の評価結果は、実施例3と同様であった。
図1