(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】多層樹脂シート、及びそれを成形してなる成形容器
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20240816BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20240816BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20240816BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240816BHJP
B65D 65/40 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
B32B27/30 B
C08L25/04
C08L51/04
C08L53/02
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2022570006
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2021046021
(87)【国際公開番号】W WO2022131246
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020209813
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】中里 利勝
(72)【発明者】
【氏名】長野 利生
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/129344(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/221374(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/087696(WO,A1)
【文献】特開2008-213355(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116504(WO,A1)
【文献】特開2020-121505(JP,A)
【文献】特開2017-171770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B65D1/00 -1/48
C08L25/04-25/14
C08L51/04
C08L53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素バリア性樹脂層と、
前記酸素バリア性樹脂層の両面に、それぞれ変性オレフィン系重合体層A及びBを介して積層されてなるスチレン系樹脂層C及びDとを含む、多層樹脂シートであって、
全体の厚みが500~1200μmであり、
前記酸素バリア性樹脂層の厚みは、前記全体の厚みの0.5~8%であり、
前記変性オレフィン系重合体層A及びBの厚みは、それぞれ前記全体の厚みの0.5~4%であり、
前記スチレン系樹脂層Cの厚みは、前記全体の厚みの10~35%であり、
前記スチレン系樹脂層Dの厚みは、前記全体の厚みの50~80%であり、
前記スチレン系樹脂層C及びDの、前記変性オレフィン系重合体層A及びBと対向する面とは反対側の面の表面粗さ(Ra)は、0.1~2.0μmであり、
前記スチレン系樹脂層Dは、スチレン-共役ジエンブロック共重合体
40~70質量%、及びスチレン単量体がグラフト重合した共役ジエン系ゴムを0.5~5質量%含有するポリスチレン
40~85質量%を含んでなる、多層樹脂シート。
【請求項2】
前記酸素バリア性樹脂層が、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を含んでなる、請求項1に記載の多層樹脂シート。
【請求項3】
前記変性オレフィン系重合体層A及びBの厚みが、それぞれ10~50μmである、請求項1または2に記載の多層樹脂シート。
【請求項4】
前記酸素バリア性樹脂層の厚みが、10~50μmである、請求項1から3のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の多層樹脂シートの成形品。
【請求項6】
スチレン系樹脂層D側の面にノッチを有する成形容器である、請求項5に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層樹脂シート、及びそれを成形してなる成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、清涼飲料水や果汁飲料、嗜好飲食品等の容器としてはスチレン系樹脂やポリオレフィン系樹脂が用いられてきた。しかし、近年、前記樹脂に変性オレフィン系樹脂等の接着層を介してエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層を設けて酸素バリア性を付与し、内容物の酸化による品質低下を抑えた多層樹脂シート及びそれからなる多層容器が普及している(特許文献1~3)。
【0003】
これらの容器は、成形、内容物の充填、蓋材のシールの一貫工程で製造されるケースが近年増えている。特許文献1には、ポリスチレン樹脂層の表面粗さを調整することで容器成形時の熱盤付着の発生を防止した多層樹脂シートが提案されている。
【0004】
さらに、特許文献2には、透明なスチレン系樹脂を用いることで透明性や剛性、酸素バリア性を兼ね備えた多層樹脂シートが提案されている。
【0005】
また、特許文献3にはオレフィン系樹脂層と、ガスバリア性樹脂層、およびスチレン系樹脂、スチレン- ジエン系共重合体及びオレフィン系樹脂で構成された樹脂組成物層を特定の順序で組み合わせることでガスバリア性や成形性、剛性を具備した多層樹脂シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第06225159号公報
【文献】特開平10-100338号公報
【文献】特許第3967899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、近年では複雑なデザイン形状の深絞り形状の容器が増えており、例えば
図5に示すような大小2つの容器が連なった形状の容器において、容器(大)にメインのデザートを充填し、容器(小)にソースを充填するといった商品が提案されている。このような容器においては、容器の間にノッチ加工を施しておき、ノッチ部分で折り曲げることにより、容器(大)と容器(小)を破断させずに容器(小)から容器(大)側にソースをかけることで味を好みに調整することが出来る。さらに、容器が透明であり内容物が見えるような優れた意匠性および視認性が求められている。
【0008】
しかしながら、特許文献1および2に記載された多層樹脂シートはノッチ部分で折り曲げた際に破断してしまうため、前記容器には適用不可であった。また、特許文献3に記載された多層樹脂シートは基材層であるポリプロピレンの成形性が悪く、前記容器のような複雑な形状の容器に適用することが不可であった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、熱成形性、剛性、酸素バリア性を具備しつつ、熱成形後のノッチ折り曲げ性を付与することが容易である上、内容物充填後の意匠性や視認性に優れた深絞り形状の容器に成形可能な多層樹脂シート、及びそれを成形してなる成形容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明者は、前記特性を有し、深絞り成形に適した多層樹脂シートを開発しようと鋭意研究した結果、酸素バリア性樹脂層の両面に変性オレフィン系重合体層を介してスチレン系樹脂層が積層されてなる多層樹脂シートにおいて、その少なくとも一方の面側のスチレン系樹脂層を特定のスチレン系樹脂で形成し、かつ前記一方の面側及び他方の面側のスチレン系樹脂層の、前記変性オレフィン系重合体層と対向する面の反対側の面(すなわち多層樹脂シートの両表面)の表面粗さ(Ra)と、多層シート全体の厚みに対するそれぞれの厚み比率の調整を併せて行うことで前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
上記課題を解決する本発明は、下記より構成される。
(1)酸素バリア性樹脂層と、前記酸素バリア性樹脂層の両面に、それぞれ変性オレフィン系重合体層A及びBを介して積層されてなるスチレン系樹脂層C及びDとを含む、多層樹脂シートであって、全体の厚みが500~1200μmであり、前記スチレン系樹脂層Cの厚みは、前記全体の厚みの10~35%であり、前記スチレン系樹脂層Dの厚みは、前記全体の厚みの50~80%であり、前記スチレン系樹脂層C及びDの、前記変性オレフィン系重合体層A及びBと対向する面とは反対側の面の表面粗さ(Ra)は、0.1~2.0μmであり、前記スチレン系樹脂層Dは、スチレン-共役ジエンブロック共重合体15~70質量%、及びスチレン単量体がグラフト重合した共役ジエン系ゴムを0.5~5質量%含有するポリスチレン30~85質量%を含むことを特徴とする多層樹脂シート。
(2)前記酸素バリア性樹脂層が、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を含んでなる、(1)に記載の多層樹脂シート。
(3)前記変性オレフィン系重合体層A及びBの厚みが、それぞれ10~50μmである、(1)又は(2)に記載の多層樹脂シート。
(4)前記酸素バリア性樹脂層の厚みが、10~50μmである、(1)から(3)のいずれかに記載の多層樹脂シート。
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の多層樹脂シートの成形品。
(6)スチレン系樹脂層D側の面にノッチを有する成形容器である、(5)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱成形性、剛性、酸素バリア性を具備した、熱成形後のノッチ折り曲げ性を付与することが可能な多層樹脂シートが提供される。また、本発明の多層樹脂シートを用いることで、意匠性や視認性に優れた深絞り形状の成形容器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る多層樹脂シートの積層構造を示す、概略縦側断面図である。
【
図2】本発明の成形容器の一例を示す概略斜視図である。
【
図3】本発明の成形容器の一例を示す概略側面図である。
【
図4】容器の打ち抜き工程を説明するための概略図である。
【
図5】本発明の成形容器の他の一例を示す上面(開口部を有する面)の概略平面図と、C-C線に沿う概略縦側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、多層樹脂シートの種々の実施形態を説明し、ついで多層樹脂シートの製造方法について説明するが、一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している。
【0015】
[第一実施形態]
本発明の一実施形態に係る多層樹脂シートは、
図1に示すように、酸素バリア性樹脂層と、前記酸素バリア性樹脂層の両面に、それぞれ変性オレフィン系重合体層A及びBを介して積層されてなるスチレン系樹脂層C及びDとを含む、多層樹脂シートであって、全体の厚みが500~1200μmであり、前記スチレン系樹脂層Cの厚みは、前記全体の厚みの10~35%であり、前記スチレン系樹脂層Dの厚みは、前記全体の厚みの50~80%であり、前記スチレン系樹脂層C及びDの、前記変性オレフィン系重合体層A及びBと対向する面とは反対側の面の表面粗さ(Ra)は、0.1~2.0μmであり、前記スチレン系樹脂層Dは、スチレン-共役ジエンブロック共重合体15~70質量%、及びスチレン単量体がグラフト重合した共役ジエン系ゴムを0.5~5質量%含有するポリスチレン30~85質量%を含むことを特徴とする多層樹脂シートである。
【0016】
(酸素バリア性樹脂層)
酸素バリア性樹脂層は、例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂、ポリアミド樹脂等の酸素バリア性樹脂を主として含有する。その中でも、加工性、成形性の面でエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を含有することが好ましい。
ここで、「主として含有する」とは、その樹脂を50質量%以上含有することを意味する。他の実施形態においては、70質量%以上、もしくは90質量%以上含有するか、その樹脂のみからなってもよい。
【0017】
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、通常、エチレン-酢酸ビニル共重合体を鹸化して得られる。酸素バリア性、加工性、成形性を具備させる為に、エチレン含有量は10~65モル%が好ましく、20~50モル%がより好ましく、25~40%がさらに好ましい。また、鹸化度は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましい。
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂中のエチレン含有量は、例えば、核磁気共鳴分光法(NMR)によって算出することができる。
【0018】
また、ポリアミド樹脂としては、カプロラクタム、ラウロラクタム等のラクタム重合体、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重合体、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-または1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン、m-またはp-キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等のジアミン単位と、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等のジカルボン酸単位との重縮合体、並びにこれらの共重合体等が挙げられる。
【0019】
具体的なポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン611、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロンMXD6、ナイロン6/66、ナイロン6/610、ナイロン6/6T、ナイロン6I/6T等があり、中でもナイロン6、ナイロンMXD6が好適である。
【0020】
酸素バリア性樹脂層の厚みは、好ましくは10~50μm、より好ましくは20~40μm、さらに好ましくは30~40μmである。10μm以上であると、成形容器の内容物の酸化による品質低下を抑える程度の十分な酸素バリア性能が得られ、また、50μm以下であれば、熱成形容器の打ち抜き時に樹脂ヒゲの発生を十分に抑制できる。
酸素バリア層の厚みの、後述する多層樹脂シート全体の厚みに対する割合は、0.5~15%が好ましく、1~10%がより好ましく、2~8%がさらに好ましい。
【0021】
(変性オレフィン系重合体層A及びB)
変性オレフィン系重合体層A及びBは、エチレン、プロピレン、ブテン-1等の炭素数2~8程度のオレフィンの単独重合体、それらのオレフィンとエチレン、プロピレン、ブテン-1、3-メチルブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、デセン-1等の炭素数2~20程度の他のオレフィンや酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン等のビニル化合物との共重合体等のオレフィン系樹脂や、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体等のオレフィン系ゴムを、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸、または、その酸ハライド、アミド、イミド、無水物、エステル等の誘導体、具体的には、塩化マレイル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸グリシジル等でグラフト反応条件下に変性したものから選択される変性オレフィン系重合体を主として含有する。変性オレフィン系重合体層Aを構成する変性オレフィン系重合体は、変性オレフィン系重合体層Bを構成する変性オレフィン系重合体と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0022】
変性オレフィン系重合体として、中でも、不飽和ジカルボン酸またはその無水物、特にマレイン酸またはその無水物で変性したエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、またはエチレン-プロピレンまたはブテン-1共重合体ゴムが好適に用いられる。
【0023】
変性オレフィン系重合体層A及びBの厚みは、それぞれ、好ましくは10~50μm、より好ましくは20~40μm、さらに好ましくは20~25μmである。10μm以上であると、十分な層間接着強度が得られ、また、50μm以下であれば、熱成形容器の打ち抜き時に樹脂ヒゲの発生を十分に抑制できる。変性オレフィン系重合体層Aの厚みは、変性オレフィン系重合体層Bの厚みと同じであってもよく、異なっていてもよい。
変性オレフィン系重合体層A及びBの厚みの、後述する多層樹脂シート全体の厚みに対する割合は、それぞれ0.5~15%が好ましく、1~10%がより好ましく、1.5~4%がさらに好ましい。
【0024】
(スチレン系樹脂層C)
スチレン系樹脂層Cは、例えば、本発明の効果を阻害しない範囲で、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体の単独または共重合体、それらスチレン系単量体と他の単量体との共重合体、例えばスチレン-アクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、または、前記スチレン系単量体を一種類あるいは二種類以上、あるいはさらに他の単量体とともに、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等の共役ジエン系ゴム質重合体の存在下にグラフト重合したグラフト重合体、例えば耐衝撃性ポリスチレン(HIPS樹脂)、スチレン-アクリルニトリルグラフト重合体(ABS樹脂)等のスチレン系樹脂から選択されるスチレン系樹脂を主として含有する。スチレン系樹脂は、単独、または組み合わせてスチレン系樹脂層として使用することができる。また、後述するスチレン系樹脂層Dに用いられるスチレン系樹脂を使用してもよい。
【0025】
スチレン系樹脂層Cの厚みとしては、後述する多層樹脂シート全体の厚みの10~35%が好ましく、15~30%がより好ましく、20~25%がさらに好ましい。10%以上であれば、容器成形時にスチレン系樹脂層Cが切れて変性オレフィン系重合体層が剥き出しになり、容器の外観が損なわれるという不具合が生じない。また、35%未満であれば、容器をノッチ部分で折り曲げる際の抵抗が大きくなり、折り曲げ性が低下するという不具合が生じない。
スチレン系樹脂層Cの厚みは、好ましくは50~420μm、より好ましくは70~260μm、さらに好ましくは150~200μmである。
【0026】
スチレン系樹脂層Cの変性オレフィン系重合体層Aと対向する面の反対側の面(すなわち
図1における上側の表面)の表面粗さ(Ra)は、0.1~2.0μmが好ましく、0.1~1.0μmがより好ましく、0.3~0.7μmがさらに好ましい。0.1μm以上であれば、加熱成形の際に樹脂層が熱源に融着してしまうことがなく、2.0μm以下であれば、得られた成形品の透明性や表面光沢が無くなり、商品価値の低下を招くという問題も生じない。
【0027】
(スチレン系樹脂層D)
スチレン系樹脂層Dは、スチレン-共役ジエンブロック共重合体15~70質量%、及びスチレン単量体がグラフト重合した共役ジエン系ゴムを0.5~5質量%含有するポリスチレン30~85質量%を含むスチレン系樹脂を含んでなる。
一実施形態において、スチレン系樹脂層Dは、スチレン-共役ジエンブロック共重合体を40~60質量%含んでもよく、45~55質量%含んでもよい。
また、スチレン系樹脂層Dは、スチレン単量体がグラフト重合した共役ジエン系ゴムを0.5~5質量%含有するポリスチレンを40~60質量%含んでもよく、45~55質量%含んでもよい。
【0028】
スチレン-共役ジエンブロック共重合体とは、その構造中にスチレン系単量体を主体とする重合体ブロックと、共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックとを含有する重合体である。
スチレン系単量体としてはスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等がある。本実施形態においてはスチレンが主体であるが、前記の他の成分を微量成分として1種以上含むものであってもよい。
【0029】
共役ジエン単量体とは、その構造中に共役二重結合を有する化合物であり、例えば1,3-ブタジエン(ブタジエン)、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2-メチルペンタジエン等があり、なかでもブタジエン、イソプレンが好適に用いられる。また、二種類以上の共役ジエン単量体を用いてもよい。
【0030】
スチレン系単量体を主体とする重合体ブロックとは、スチレン系単量体に由来する構造のみからなる重合体ブロックであってもよく、スチレン系単量体に由来する構造を50質量%以上、70質量%以上もしくは90質量%以上含有する重合体ブロックであってもよい。共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックとは、共役ジエン単量体に由来する構造のみからなる重合体ブロックであってもよく、共役ジエン単量体に由来する構造を50質量%以上、70質量%以上もしくは90質量%以上含有する重合体ブロックであってもよい。スチレン-共役ジエンブロック共重合体の共役ジエン含有量は、シートの機械特性の点から、スチレン-共役ジエンブロック共重合体の全単量体単位に対して、その10~40質量%が好ましく、15~35質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。ここで、共役ジエン含有量とは共役ジエン単量体に由来する構造の、スチレン-共役ジエンブロック共重合体中に占める質量の割合を意味する。なお、スチレン-共役ジエンブロック共重合体の共役ジエン含有量は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)等で分析することによって算出することができる。
【0031】
本発明の一実施形態においては、一種類あるいは二種類以上のスチレン-共役ジエンブロック共重合体が用いられる。また、スチレン-共役ジエンブロック共重合体は、例えば共役ジエンがブタジエンである場合、スチレン-ブタジエン(SB)の二元共重合体およびスチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)の三元共重合体(SBS)のいずれであってもよく、スチレンブロックが3つ以上でブタジエンブロックが2つ以上の複数のブロックで構成される樹脂であってもよい。更に、各ブロック間のスチレンとブタジエンの組成比が連続的に変化するようないわゆるテーパーブロック構造を有するものであってもよい。スチレン-共役ジエンブロック共重合体は、乳化重合、溶液重合等の従来公知の重合方法によって製造することができ、市販のものをそのまま用いることもできる。
【0032】
スチレン単量体がグラフト重合した共役ジエン系ゴム(以下、「グラフトゴム」ということもある。)を含有するポリスチレンとは、共役ジエン系ゴム質重合体の存在下でスチレン単量体を重合して得られ、ポリスチレンからなる樹脂相中に、スチレン単量体がグラフト重合した微粒子状ゴム成分が島状に分散している、所謂耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)である。
【0033】
ここで、スチレン単量体は、本発明の効果を阻害しない範囲でo-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル化合物の1種以上を含有するものであってもよい。
【0034】
共役ジエン系ゴム質重合体としては、例えば1,3-ブタジエン(ブタジエン)、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2-メチルペンタジエン等を単量体とする共役ジエン系ゴムが挙げられる。また、共役ジエン成分が50質量%以上のスチレン-共役ジエンブロック共重合体等の熱可塑性エラストマーを用いることもできる。中でも、ポリブタジエンやスチレン-ブタジエンブロック共重合体が好ましい。
【0035】
ポリスチレンは、グラフトゴムを0.5~5質量%、好ましくは0.5~3.0質量%、より好ましくは1.0~2.5質量%含有する。グラフトゴムの含有量が0.5質量%以上であるとシート同士が固着するブロッキングを十分に抑制することができ、5質量%以下であれば、容器の透明性を十分に確保することができる。
スチレン系樹脂層に用いられる全スチレン系樹脂に対するグラフトゴムの含有量は、0.3~3質量%が好ましく、0.3~2.5質量%がより好ましく、0.5~2.0質量%がさらに好ましい。
【0036】
ポリスチレン中のグラフトゴムの含有量は、HIPSの製造段階で調整することができるが、グラフトゴムの含有量が目標とする含有量より多いHIPSをあらかじめ準備しておき、ポリスチレン(汎用ポリスチレン、GPPS)をブレンドすることにより調整するのが簡便な方法である。ここで、GPPSは一般にはスチレン単量体の単独重合体を意味するが、本発明の効果を阻害しない範囲でスチレン以外の単量体として、例えばo-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル化合物の1種以上を含有していてもよい。なお、グラフトゴムの含有量は、HIPSをクロロホルムに溶解させ、一定量の一塩化ヨウ素/四塩化炭素溶液を加え暗所に約1時間放置後、ヨウ化カリウム溶液を加え、過剰の一塩化ヨウ素を0.1Nチオ硫酸ナトリウム/エタノール水溶液で滴定し、付加した一塩化ヨウ素量から求めることができる。
【0037】
グラフトゴムの粒子径は、シートの透明性及び強度の観点から、1.0μm以上3.0μm以下が好ましく、1.0μm以上2.8μm以下がより好ましく、1.0μm以上2.5μm以下がさらに好ましい。ここでいうグラフトゴムの粒子径はレーザー回折方式粒子アナライザーにより測定したグラフトゴム分の平均粒子径を意味する。
【0038】
スチレン系樹脂層Dの厚みとしては、後述するシート全体の厚みの50~80%、好ましくは60~80%、より好ましくは70~75%である。50%以上であれば、ノッチ加工時にスチレン系樹脂層Dが切れて変性オレフィン系重合体層が剥き出しになり、容器の外観が損なわれるという不具合を生じない。また、80%以下であれば、容器をノッチ部分で折り曲げる際の抵抗が大きくなり、折り曲げ性が低下するという不具合が生じない。更に、酸素バリア性樹脂層の厚みが相対的に大きくなることで酸素バリア性能を良好にでき、或いはスチレン系樹脂層Cの相対的な厚みが大きくなることで容器成形時にスチレン系樹脂層Cが切れて変性オレフィン系重合体層が剥き出しになり、容器の外観が損なわれるという不具合を防止することができる。
スチレン系樹脂層Dの厚みは、好ましくは250~850μm、より好ましくは340~750μm、さらに好ましくは500~580μmである。
【0039】
スチレン系樹脂層Dの変性オレフィン系重合体層Bと対向する面とは反対側の面(すなわち
図1における下側の表面)の表面粗さ(Ra)は、0.1~2.0μm、好ましくは0.1~1.0μm、より好ましくは0.3~0.7μmである。0.1μm以上であれば、加熱成形の際に樹脂層が熱源に融着してしまうことがなく、2.0μm以下であれば、得られた成形品の透明性や表面光沢が無くなり、商品価値の低下を招くという問題も生じない。
【0040】
(多層樹脂シート)
本実施形態の多層樹脂シートは、深絞り成形用として用いることができる。ここで、「深絞り成形用」とは、深絞り成形に適した特性を備えていることを意味し、深絞りとは、成形容器の形状にかかわらず、成形容器の深さと幅(複数の幅がある形状では最大の幅)の比である絞り比が0.5以上のものと定義する。ここでの深絞り成形容器は、この絞り比が0.5以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1以上、最も好ましくは1.5以上の容器である。
【0041】
また、本実施形態の多層樹脂シートは、ノッチ形成用として用いることもできる。ここで、「ノッチ形成用」とは、ノッチを形成するのに適した特性を備えていることを意味し、ノッチを形成し、ノッチを入れた面とは逆側に繰り返し折り曲げる場合に手で容易に折り曲げることが出来、かつ5回以上折り曲げても割れないことと定義する。形成するノッチの深さは、手で容易に折り曲げることができれば特に限定されないが、例えば100~400μm、好ましくは150~350μm、さらに好ましくは200~300μmとすることができる。
【0042】
本実施形態の多層樹脂シートは、スチレン系樹脂層Dとして、スチレン-共役ジエンブロック共重合体15~70質量%、及びスチレン単量体がグラフト重合した共役ジエン系ゴムを0.5~5質量%含有するポリスチレン85~30質量%を含んでなるスチレン系樹脂を用いることによって、透明性、剛性、ノッチ折り曲げ性のいずれもが満足でき、また、深絞り成形した際に成形容器の肉厚が底面に偏ってしまい、容器の強度が低下するといった不具合が生じることが抑制されたシートが得られる。
【0043】
本実施形態の多層樹脂シートは、一例として
図2及び
図3に示すような、一方に面側にノッチを有する容器に成形する場合、ノッチが形成される面側にスチレン系樹脂層Dが配置され、ノッチが形成されない面側にスチレン系樹脂層Cが配置される。
【0044】
本実施形態の多層樹脂シートの全体の厚みは、好ましくは500~1200μm、より好ましくは700~1000μm、さらに好ましくは800~900μmである。500μm以上とすることにより、熱成形して得られる容器の十分な強度が得られ、1200μm以下とすることにより、容器の製造コストを抑えることができる。
【0045】
(多層樹脂シートの製造方法)
本実施形態の多層樹脂シートの製造方法は、特に限定されず、一般的な方法を用いることができる。例えば、3台もしくはそれ以上の単軸押出機を用いて各々の原料樹脂を溶融押出し、フィードブロックとTダイによって多層樹脂シートを得る方法や、マルチマニホールドダイを使用して多層樹脂シートを得る方法が挙げられる。
【0046】
本実施形態の多層樹脂シートの両面に所定の表面粗さを付与する方法としては、特に限定されず、一般的な方法を用いることができる。例えば、溶融樹脂を引き取る際、凹凸加工を施したロールやベルトで引き取る方法が挙げられる。
【0047】
[第二実施形態]
本発明の第二実施形態に係る成形容器は、第一実施形態に係る多層樹脂シートを熱形成してなり、一方の面に形成されたノッチを有する成形容器である。
【0048】
(成形容器)
本実施形態の成形容器は、上記第一実施形態の多層樹脂シートを熱成形してなる。
図2及び
図3に、本発明の一実施形態の成形容器の一例を示す。熱成形方法としては、一般的な真空成形、圧空成形や、これらの応用として、シートの片面にプラグを接触させて成形を行うプラグアシスト法、また、シートの両面に一対をなす雄雌型を接触させて成形を行う、いわゆるマッチモールド成形と称される方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、成形前にシートを加熱軟化させる方法として非接触加熱である赤外線ヒーター等による輻射加熱等、公知のシート加熱方法を適用することができる。
【0049】
熱成形の際の成形温度は、樹脂の融点等を考慮して適切に設定されるが、第一実施形態に係る多層樹脂シートを用いて絞り比が0.5以上の深絞り成形を行う場合、熱盤温度で170℃以上、好ましくは175~180℃に設定される。熱盤温度が170℃未満では、加熱不足により容器の賦型状態が不十分であり、高すぎると熱盤への融着等の不具合を起こす虞があるため好ましくない。
【0050】
また、本発明の成形容器はノッチを有する。ノッチは断面V字形状であり、一方の面側、すなわちスチレン系樹脂層D側に、熱盤方式等により加熱してV字形状の刃を挿入することにより形成することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例等の内容に何ら限定されるものではない。
【0052】
実施例、比較例で用いた樹脂原料は以下の通りである。
(1)酸素バリア性樹脂層
エチレン-ビニルアルコール共重合体「エバールJ-171B」(クラレ社製、エチレン含量32モル%、鹸化度99%以上)
(2)変性オレフィン系重合体層
「モディックF502」(三菱ケミカル社製)
(3)スチレン系樹脂層
耐衝撃性ポリスチレン樹脂:「トーヨースチロールH870」(東洋スチレン社製、グラフトゴム含有量8.6質量%、グラフトゴムの粒子径2.5μm)
ポリスチレン樹脂:「HRM23」(東洋スチレン社製)
スチレン-共役ジエンブロック共重合体:「730L」(デンカ社製、共役ジエン含有量25質量%)
【0053】
<実施例1>
酸素バリア性樹脂層及び変性オレフィン系重合体層A及びB用として2台の40mm単軸押出機と、スチレン系樹脂層C及びD用として1台の65mm単軸押出機を使用し、フィードブロック法により、スチレン系樹脂層C160μm/変性オレフィン系重合体層A20μm/酸素バリア性樹脂層30μm/変性オレフィン系重合体層B20μm/スチレン系樹脂層D570μmという層構成を有し、全体の厚みが800μmの多層樹脂シートを得た。多層樹脂シートには、引取ロール(タッチロール及びキャストロール)として表面粗さ(Ra)が0.5μmの凹凸加工を施した金属ロールを用い、スチレン系樹脂層C側の面をタッチロール側、スチレン系樹脂層D側の面をキャストロール側にして挟持することにより、スチレン系樹脂層C側の面に0.3μm、スチレン系樹脂層D側の面に0.15μmの表面粗さ(Ra)付与した。スチレン系樹脂層C及びDには、スチレン-ブタジエンブロック共重合体17質量%、ポリスチレン樹脂71質量%、耐衝撃性ポリスチレン樹脂12質量%をドライブレンドして用いた。この場合、ポリスチレン中のグラフトゴムの含有量は1.2質量%となる。
【0054】
<実施例2~10>
スチレン系樹脂層C及びDのポリスチレン系樹脂の配合割合を表1に示す通りとした他は、実施例1と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0055】
<実施例11>
表面粗さ(Ra)が0.3μmの凹凸加工を施した金属ロール(タッチロール及びキャストロール)を用い、スチレン系樹脂層C側の面に0.2μm、スチレン系樹脂層D側の面に0.1μmの表面粗さ(Ra)付与した他は、実施例2と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0056】
<実施例12>
表面粗さ(Ra)が1μmの凹凸加工を施した金属ロール(タッチロール及びキャストロール)を用い、スチレン系樹脂層C側の面に0.95μm、スチレン系樹脂層D側の面に0.5μmの表面粗さ(Ra)付与した他は、実施例2と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0057】
<実施例13>
表面粗さ(Ra)が1.5μmの凹凸加工を施した金属ロール(タッチロール及びキャストロール)を用い、スチレン系樹脂層C側の面に1.3μm、スチレン系樹脂層D側の面に1.0μmの表面粗さ(Ra)付与した他は、実施例2と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0058】
<実施例14>
表面粗さ(Ra)が2μmの凹凸加工を施した金属ロール(タッチロール及びキャストロール)を用い、スチレン系樹脂層C側の面に1.9μm、スチレン系樹脂層D側の面に1.2μmの表面粗さ(Ra)付与した他は、実施例2と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0059】
<実施例15>
スチレン系樹脂層C180μm/変性オレフィン系重合体層A25μm/酸素バリア性樹脂層40μm/変性オレフィン系重合体層B25μm/スチレン系樹脂層D350μmという層構成を有し、全体の厚みが620μmとした他は、実施例2と同様な方法で多層樹脂シートを得た。なお、多層樹脂シートの全体の厚み及び各樹脂層の厚みは、各押出機からの溶融樹脂原料の吐出量を調節するとともに、Tダイの出口(リップ口)の間隔を調節し、加えて多層樹脂シートの巻き取り速度を調節することで変化させた。
【0060】
<実施例16>
スチレン系樹脂層C100μm/変性オレフィン系重合体層A25μm/酸素バリア性樹脂層40μm/変性オレフィン系重合体層B25μm/スチレン系樹脂層D350μmという層構成を有し、全体の厚みが540μmとした他は、実施例2と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0061】
<実施例17>
スチレン系樹脂層C100μm/変性オレフィン系重合体層A20μm/酸素バリア性樹脂層30μm/変性オレフィン系重合体層B20μm/スチレン系樹脂層D630μmという層構成を有し、全体の厚みが800μmとした他は、実施例2と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0062】
<実施例18>
スチレン系樹脂層C150μm/変性オレフィン系重合体層A20μm/酸素バリア性樹脂層30μm/変性オレフィン系重合体層B20μm/スチレン系樹脂層D800μmという層構成を有し、全体の厚みが1020μmとした他は、実施例2と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0063】
<実施例19>
スチレン系樹脂層C80μm/変性オレフィン系重合体層A20μm/酸素バリア性樹脂層30μm/変性オレフィン系重合体層B20μm/スチレン系樹脂層D500μmという層構成を有し、全体の厚みが650μmとした他は、実施例2と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0064】
<実施例20>
スチレン系樹脂層C100μm/変性オレフィン系重合体層A20μm/酸素バリア性樹脂層30μm/変性オレフィン系重合体層B20μm/スチレン系樹脂層D500μmという層構成を有し、全体の厚みが670μmとした他は、実施例2と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0065】
<実施例21>
スチレン系樹脂層C200μm/変性オレフィン系重合体層A20μm/酸素バリア性樹脂層30μm/変性オレフィン系重合体層B20μm/スチレン系樹脂層D500μmという層構成を有し、全体の厚みが770μmとした他は、実施例2と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0066】
<実施例22>
スチレン系樹脂層C250μm/変性オレフィン系重合体層A20μm/酸素バリア性樹脂層30μm/変性オレフィン系重合体層B20μm/スチレン系樹脂層D500μmという層構成を有し、全体の厚みが820μmとした他は、実施例2と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0067】
<比較例1>
スチレン系樹脂層C及びDには、スチレン-ブタジエンブロック共重合体12質量%、ポリスチレン樹脂78質量%、耐衝撃性ポリスチレン樹脂10質量%をドライブレンドして用いた他は、実施例1と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0068】
<比較例2>
スチレン系樹脂層C及びDには、スチレン-ブタジエンブロック共重合体73質量%、ポリスチレン樹脂17質量%、耐衝撃性ポリスチレン樹脂10質量%をドライブレンドして用いた他は、実施例1と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0069】
<比較例3>
スチレン系樹脂層C及びDには、スチレン-ブタジエンブロック共重合体73質量%、ポリスチレン樹脂24質量%、耐衝撃性ポリスチレン樹脂3質量%をドライブレンドして用いた他は、実施例1と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0070】
<比較例4>
スチレン系樹脂層C及びDには、スチレン-ブタジエンブロック共重合体10質量%、ポリスチレン樹脂40質量%、耐衝撃性ポリスチレン樹脂50質量%をドライブレンドして用いた他は、実施例1と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0071】
<比較例5>
スチレン系樹脂層C及びDには、スチレン-ブタジエンブロック共重合体29質量%、ポリスチレン樹脂68質量%、耐衝撃性ポリスチレン樹脂3質量%をドライブレンドして用い、スチレン系樹脂層C160μm/変性オレフィン系重合体層A15μm/酸素バリア性樹脂層20μm/変性オレフィン系重合体層B15μm/スチレン系樹脂層D590μmという層構成を有し、全体の厚みが800μmとした他は、実施例1と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0072】
<比較例6>
スチレン系樹脂層C及びDには、スチレン-ブタジエンブロック共重合体58質量%、ポリスチレン樹脂15質量%、耐衝撃性ポリスチレン樹脂27質量%をドライブレンドして用いた他は、実施例1と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0073】
<比較例7>
スチレン系樹脂層C及びDには、スチレン-ブタジエンブロック共重合体58質量%、ポリスチレン樹脂30質量%、耐衝撃性ポリスチレン樹脂12質量%をドライブレンドして用い、表面粗さ(Ra)が0.2μmの凹凸加工を施した金属ロール(タッチロール及びキャストロール)を用いてスチレン系樹脂層C側の面に0.1μm、スチレン系樹脂層D側の面に0.07μmの表面粗さ(Ra)付与した他は、実施例1と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0074】
<比較例8>
表面粗さ(Ra)が5μmの凹凸加工を施した金属ロール(タッチロール及びキャストロール)を用い、スチレン系樹脂層C側の面に2.4μm、スチレン系樹脂層D側の面に2.1μmの表面粗さ(Ra)付与した他は、比較例7と同様の方法で多層樹脂シートを得た。
【0075】
<比較例9>
スチレン系樹脂層C及びDには、スチレン-ブタジエンブロック共重合体65質量%、ポリスチレン樹脂25質量%、耐衝撃性ポリスチレン樹脂10質量%をドライブレンドして用い、スチレン系樹脂層C250μm/変性オレフィン系重合体層A20μm/酸素バリア性樹脂層30μm/変性オレフィン系重合体層B20μm/スチレン系樹脂層D250μmという層構成を有し、全体の厚みが570μmとした他は、実施例1と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0076】
<比較例10>
スチレン系樹脂層C100μm/変性オレフィン系重合体層A20μm/酸素バリア性樹脂層20μm/変性オレフィン系重合体層B20μm/スチレン系樹脂層D800μmという層構成を有し、全体の厚みが960μmとした他は、比較例9と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0077】
<比較例11>
スチレン系樹脂層C及びDには、スチレン-ブタジエンブロック共重合体65質量%、ポリスチレン樹脂25質量%、耐衝撃性ポリスチレン樹脂10質量%をドライブレンドして用い、スチレン系樹脂層C40μm/変性オレフィン系重合体層A20μm/酸素バリア性樹脂層30μm/変性オレフィン系重合体層B20μm/スチレン系樹脂層D390μmという層構成を有し、全体の厚みが500μmとした他は、実施例1と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0078】
<比較例12>
スチレン系樹脂層C350μm/変性オレフィン系重合体層A20μm/酸素バリア性樹脂層30μm/変性オレフィン系重合体層B20μm/スチレン系樹脂層D480μmという層構成を有し、全体の厚みが900μmとした他は、実施例12と同様な方法で多層樹脂シートを得た。
【0079】
作製した多層シートの評価方法とその基準は、以下の通りである。結果を表1~3に示す。
【0080】
<シート各層の厚み>
シートを2mm×5mm程度に切り出し、片刃ナイフで面出しを行った。得られた断面を(株)キーエンス製 レーザー顕微鏡 VK-8500で拡大観察し、各層の厚みを測定した。
【0081】
<表面粗さ(Ra)>
シートの表面粗さ(Ra)を、以下の方法に従って測定した。
[測定方法] JIS B0601に記載された方法
使用機器:(株)キーエンス VK-8500
【0082】
<透明性>
シートの全光線透過率を、以下の方法に従って測定し、以下の基準で評価した。
[測定方法] JIS K7105に記載された方法
使用機器:日本電色工業(株)ヘーズメーター NDH-5000
[評価基準]
○:全光線透過率80%以上
×:全光線透過率80%未満
【0083】
<光沢度>
シートの光沢度を、以下の方法に従って測定し、以下の基準で評価した。
[測定方法] JIS Z8741に記載された方法
使用機器:日本電色工業(株)グロスメーターVG7000
測定角度:60°
[評価基準]
○:光沢度80以上
×:光沢度80未満
【0084】
<耐ブロッキング性>
シートを10×10cmに切り出し、巻き内面と巻き外面を重ねた。その上に、5×5cmの金属片、10kgの重りを順に乗せて、23℃×50%の環境下で3日間放置した。3日後、重りと金属片を取り除き、サンプル同士を引き剥がしブロッキングの有無を確認し、以下の基準で耐ブロッキング性を評価した。尚、この評価方法で評価した結果は、シートを製膜して長期間放置した後の、ロールのブロッキング状態と、良く対応していることを確認している。
○:抵抗なくサンプルを引き剥がすことが可能である。
×:サンプルを引き剥がすことが不可能である。
【0085】
多層樹脂シートを下記条件にて、成形、ノッチ形成、容器打ち抜き(
図4)まで一連の工程で加工し、
図2に示す容器を得た。尚、ノッチに関しては、スチレン系樹脂層D側の面から形成し、ノッチ形成部分の加熱温度を160℃に調整して深さ250μmのノッチを付与した。
使用機器:CFF-300(CKD株式会社製)
上熱盤温度: 170℃
下熱盤温度: 170℃
容器打ち抜き刃上側構造:雄刃
容器打ち抜き刃下側構造:雌刃
容器打ち抜き刃の上側下側間の間隙:20μm
【0086】
<成形状態>
容器を熱成形する際の成形性を、以下の基準で評価した。
○:成形性良好
×:熱盤付着による成形不良や表面層の破れが確認される。
【0087】
<肉厚分布>
作製した容器の側面、および底面を触診し、肉厚の偏りの有無を以下の基準に従い判定した。
○:底面への肉厚の偏りがなく、側面部分の肉厚が十分である。
×:底面への肉厚の偏りがあり、側面部分の肉厚が薄い。
【0088】
<ノッチ折り曲げ性>
作製した容器の一方を把持し、
図3に示すように、ノッチ部分でノッチを入れた面とは逆側に繰り返し折り曲げ、ノッチ折り曲げ性を以下の基準に従い、優劣を判定した。
○:手で容易に折り曲げることが出来る、かつ5回以上折り曲げても割れない。
×:手で容易に折り曲げることが出来ない、または1回折り曲げることで割れる。
【0089】
<総合判定>
上記全ての評価結果が○であるものを○、それ以外のものを×とした。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
実施例1~22から、本発明の深絞り成形用多層樹脂シートは、熱成形後のノッチ折り曲げ性を付与することが容易である上、シートの透明性、光沢度、耐ブロッキング性も良好であるとともに、容器へ熱成形する際の成形性も良好であり、肉厚分布の偏りもないため、意匠性や視認性に優れた深絞りの成形容器を得られることが確認できた。
【0094】
実施例1~22に対し、スチレン系樹脂層Dのスチレン-共役ジエンブロック共重合体の含有量が少ない(グラフトゴムを含有するポリスチレンの含有量が多い)比較例1及び比較例4は、ノッチ折り曲げ性に関し、1回折り曲げることで割れが発生した。一方、スチレン-共役ジエンブロック共重合体の含有量が多い(グラフトゴムを含有するポリスチレンの含有量が少ない)比較例2及び比較例3は、容器の肉厚分布に偏りが見られた。また、ポリスチレン樹脂中のグラフトゴムの含有量が少ない比較例5は、耐ブロッキング性が劣り、一方、ポリスチレン樹脂中のグラフトゴムの含有量が多い比較例6は、透明性、光沢度が劣った。また、スチレン系樹脂層D側の表面粗さ(Ra)が小さい比較例7は、容器への成形時に熱盤付着による成形不良が見られた。一方、スチレン系樹脂層C側、スチレン系樹脂層D側共に表面粗さ(Ra)が大きい比較例8は、透明性光沢度が劣った。また、スチレン系樹脂層Dの厚みの割合が小さい比較例9は、ノッチ加工時にスチレン系樹脂層Dが切れて変性オレフィン系重合体層Bが剥き出しになる現象が見られた。一方、スチレン系樹脂層Dの厚みの割合が大きい比較例10は、ノッチ折り曲げ性に関し、手で容易に折り曲げることが出来なかった。また、スチレン系樹脂層Cの厚みの割合が小さい比較例11は、容器成形時にスチレン系樹脂層Cが切れて変性オレフィン系重合体層Aが剥き出しになる現象が見られた。一方、スチレン系樹脂層Cの厚みの割合が大きい比較例12は、ノッチ折り曲げ性に関し、手で容易に折り曲げることが出来なかった。
【符号の説明】
【0095】
1 酸素バリア性樹脂層
2 変性オレフィン系重合体層A
3 変性オレフィン系重合体層B
4 スチレン系樹脂層C
5 スチレン系樹脂層D