(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】インサートおよび切削工具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5831 20060101AFI20240816BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240816BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C04B35/5831
B23B27/14 B
B23B27/20
(21)【出願番号】P 2022572243
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2021046380
(87)【国際公開番号】W WO2022138401
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2020217966
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯部 太志
(72)【発明者】
【氏名】萩原 亜寿紗
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/262468(WO,A1)
【文献】特開平8-336705(JP,A)
【文献】特開平11-246271(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244894(WO,A1)
【文献】特開平10-158065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/583
C04B 35/5831
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、第2面と、前記第1面および前記第2面との稜部の少なくとも一部に位置する切刃とを有する窒化硼素焼結体を具備するインサートであって、
前記窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素と圧縮型窒化硼素とを含有し、
前記第1面に垂直な前記窒化硼素焼結体の断面に対する、透過型X線回折において、
前記第1面に垂直な方向における、前記立方晶窒化硼素の111回折のピークの頂点におけるX線強度をIcBN(111)vとし、前記圧縮型窒化硼素の002回折のピークの頂点におけるX線強度をIhBN(002)vとし、
前記第1面に平行な方向における、前記立方晶窒化硼素の111回折のピークの頂点におけるX線強度をIcBN(111)hとし、前記圧縮型窒化硼素の002回折のピークの頂点におけるX線強度をIhBN(002)hとしたとき、
(IhBN(002)v+IhBN(002)h)/(IcBN(111)v+IcBN(111)h)で示される圧縮型窒化硼素含有値は、0.002よりも大きく、0.01よりも小さく、
IcBN(111)v/(IcBN(111)v+IcBN(111)h)で示される立方晶配向値は、0.5よりも大きく、
IhBN(002)v/(IhBN(002)v+IhBN(002)h)で示される圧縮型窒化硼素配向値は、前記立方晶配向値よりも大きく、
前記窒化硼素焼結体の前記第1面に対して垂直な方向におけるビッカース硬度は、1000℃において40.0GPa以上である、インサート。
【請求項2】
前記立方晶配向値は、0.55以上である、請求項1に記載のインサート。
【請求項3】
前記圧縮型窒化硼素配向値は、0.8以上である、請求項1または2に記載のインサート。
【請求項4】
前記窒化硼素焼結体は、ウルツ型窒化硼素を含有する、請求項1~3のいずれか一つに記載のインサート。
【請求項5】
前記断面における前記立方晶窒化硼素の平均粒径は、200nm以下である、請求項1~4のいずれか一つに記載のインサート。
【請求項6】
前記ビッカース硬度は、700℃において45.0GPaより大きい、請求項1~5のいずれか一つに記載のインサート。
【請求項7】
前記ビッカース硬度は、400℃において47.0GPaより大きい、請求項1~6のいずれか一つに記載のインサート。
【請求項8】
第1端から第2端に亘る長さを有し、前記第1端側にポケットを有するホルダと、
前記ポケットに位置する請求項1~7のいずれか一つに記載のインサートと、を備えた切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インサートおよび切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化硼素焼結体は、高い硬度を有する。その特性を利用して、窒化硼素焼結体は、粉砕部材や工具のインサートなどに用いられている。
【0003】
特許文献1には、立方晶窒化硼素を含有する窒化硼素焼結体が記載されている。また、特許文献1には、ウルツ型窒化硼素を含有するとともに、立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折強度I(111)に対する、立方晶窒化硼素の(220)面のX線回折強度I(220)の比I(220)/I(111)が0.1未満である配向面を備える、立方晶窒化硼素複合多結晶体が記載されている。言い換えると、この立方晶窒化硼素複合多結晶体における配向面においては、I(111)がI(220)の10倍以上である。すなわち、配向面においては、(111)面が強く配向しているといえる。この立方晶窒化硼素複合多結晶体は、原料として配向したpBNを用いて得られるものである。また、比較例として六方晶窒化硼素を含む場合には、立方晶窒化硼素が配向面においては、(111)面が強く配向していても、摩耗量が大きく、切削工具としての性能が劣ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様によるインサートは、第1面と、第2面と、第1面および第2面との稜部の少なくとも一部に位置する切刃とを有する窒化硼素焼結体を具備する。窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素と圧縮型窒化硼素とを含有する。第1面に垂直な窒化硼素焼結体の断面に対する、透過型X線回折において、第1面に垂直な方向における、立方晶窒化硼素の111回折のピークの頂点におけるX線強度をIcBN(111)vとし、圧縮型窒化硼素の002回折のピークの頂点におけるX線強度をIhBN(002)vとし、第1面に平行な方向における、立方晶窒化硼素の111回折のピークの頂点におけるX線強度をIcBN(111)hとし、圧縮型窒化硼素の002回折のピークの頂点におけるX線強度をIhBN(002)hとする。(IhBN(002)v+IhBN(002)h)/(IcBN(111)v+IcBN(111)h)で示される圧縮型窒化硼素含有値は、0.002よりも大きく、0.01よりも小さい。IcBN(111)v/(IcBN(111)v+IcBN(111)h)で示される立方晶配向値は、0.5よりも大きい。IhBN(002)v/(IhBNv(002)+IhBN(002)h)で示される圧縮型窒化硼素配向値は、立方晶配向値よりも大きい。また、窒化硼素焼結体の第1面に対して垂直な方向におけるビッカース硬度は、1000℃において40.0GPa以上である。
【0006】
本開示の一態様による切削工具は、第1端から第2端に亘る長さを有し、第1端側にポケットを有するホルダと、ポケットに位置する上述のインサートと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示のインサートの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本開示のインサートの他の例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本開示の切削工具の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、高温硬度測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本開示によるインサートおよび切削工具を実施するための形態(以下、「実施形態」と記載する)について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではない。また、各実施形態は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。また、以下の各実施形態において同一の部位には同一の符号を付し、重複する説明は省略される。
【0009】
また、以下に示す実施形態では、「一定」、「直交」、「垂直」あるいは「平行」といった表現が用いられる場合があるが、これらの表現は、厳密に「一定」、「直交」、「垂直」あるいは「平行」であることを要しない。すなわち、上記した各表現は、例えば製造精度、設置精度などのずれを許容するものとする。
【0010】
また、以下で参照する各図は、説明の便宜上、必要な主要部分のみを簡略化して示したものである。
【0011】
窒化硼素焼結体からなるインサートが知られている。この種のインサートには、耐摩耗性を向上させるという点でさらなる改善の余地がある。
【0012】
<インサート>
図1に本開示のインサート1の一例を示す。
図1に示す例において、インサート1は、多角形状の窒化硼素焼結体3である。
図2に本開示のインサート1の他の例を示す。
図2には、窒化硼素焼結体3がたとえば超硬合金からなる基体5に接合される例を示している。基体5は、窒化硼素焼結体3と合わせて多角形状のインサートとなっている。このような構成を有すると、インサート1に占める比較的高価な窒化硼素焼結体3の割合を小さくすることができる。
図2に示す例では、インサート1が有する複数の角部のうち、一つに窒化硼素焼結体3が位置している。これに限らず、インサート1が有する複数の角部のうち、二つ以上に窒化硼素焼結体3が位置していてもよい。
【0013】
窒化硼素焼結体3と基体5との間には、例えば、TiやAgを含有する接合材(図示しない)が位置していてもよい。窒化硼素焼結体3と基体5とは、従来周知の接合法を用いて接合材を介して一体化することができる。
【0014】
窒化硼素焼結体3は、第1面7と第2面9とを有している。
図1および
図2に示す例において、第1面7はインサート1の上面であり、第2面はインサート1の側面である。また、
図1および
図2に示す例において、第1面7はすくい面に相当し、第2面9は逃げ面に相当する。以後、第1面7をすくい面7ということがある。また、第2面9を逃げ面9ということがある。インサート1は、第1面7と第2面9との稜部の少なくとも一部に切刃13を有している。
【0015】
本開示のインサート1における窒化硼素焼結体3は、立方晶窒化硼素と、圧縮型窒化硼素とを含有する。
【0016】
窒化硼素焼結体3における第1面7に垂直な断面に対する、透過型X線回折において、得られたデータのうち、第1面7に垂直な方向における、立方晶窒化硼素の111回折のX線強度をIcBN(111)vとする。また、第1面7に垂直な方向における、圧縮型窒化硼素の002回折のX線強度をIhBN(002)vとする。また、窒化硼素焼結体3における第1面7に垂直な断面に対する、透過型X線回折において、得られたデータのうち、第1面7に平行な方向における、立方晶窒化硼素の111回折のX線強度をIcBN(111)hとする。また、第1面7に平行な方向における、圧縮型窒化硼素の002回折のX線強度をIhBN(002)hとする。
【0017】
なお、上記の各面の特定は、立方晶窒化硼素についてはJCPDSカードNo.01-075-6381を基礎とした。また、圧縮型窒化硼素についてはJCPDSカードNo.18-251を基礎とした。六方晶窒化硼素についてはJCPDSカードNo.00―045―0893を基礎とした。また、後述するウルツ型窒化硼素については、JCPDSカードNo.00-049-1327を基礎とした。
【0018】
透過型X線回折は、例えば、株式会社リガク製の湾曲IPX線回折装置RINT RAPID2を用いて行うとよい。
【0019】
上記の各X線強度を元に得られる(IhBN(002)v+IhBN(002)h)/(I(111)v+IcBN(111)h)を圧縮型窒化硼素含有値という。圧縮型窒化硼素含有値は、窒化硼素焼結体3に含まれる圧縮型窒化硼素の量と関連する指標である。この値が大きいほど、窒化硼素焼結体3に含まれる圧縮型窒化硼素の量が多い。圧縮型窒化硼素含有値は、含有量そのものではない。
【0020】
本開示のインサート1における窒化硼素焼結体3は、圧縮型窒化硼素含有値が0.002よりも大きく、0.01よりも小さい。すなわち、本開示のインサート1のおける窒化硼素焼結体3は、この条件を満たす程度に圧縮型窒化硼素を含有している。
【0021】
また、上記の各X線強度を元に得られるIcBN(111)v/(IcBN(111)v+IcBN(111)h)を立方晶配向値という。立方晶配向値が0.5であると、立方晶窒化硼素の111面はランダムな方向を向いており、無配向な状態である。立方晶配向値が大きいほど、窒化硼素焼結体3に含まれる立方晶窒化硼素の111面が第1面7と平行に配向する度合いが大きい。
【0022】
本開示のインサート1における窒化硼素焼結体3は、立方晶配向値が、0.5よりも大きい。言い換えると、垂直方向における立方晶窒化硼素の111回折のピークの頂点におけるX線強度は、平行方向における立方晶窒化硼素の111回折のピークの頂点におけるX線強度よりも大きい。すなわち、立方晶窒化硼素の111面は、第1面7の法線方向に沿って配向しているともいえる。
【0023】
上記の各X線強度を元に得られるIhBN(002)v/(IhBN(002)v+IhBN(002)h)を圧縮型窒化硼素配向値という。圧縮型窒化硼素配向値が0.5であると、圧縮型窒化硼素の002面はランダムな方向を向いており、無配向な状態である。圧縮型窒化硼素配向値が、大きいほど、窒化硼素焼結体3に含まれる圧縮型窒化硼素の002面が、第1面7と平行に配向する度合いが大きい。
【0024】
本開示のインサート1における窒化硼素焼結体3は、圧縮型窒化硼素配向値が、立方晶配向値よりも大きい。すなわち、圧縮型窒化硼素の002面は、立方晶窒化硼素の111面よりも、第1面7と平行に配向する度合いが大きい。
【0025】
本開示のインサート1は、上述の構成を有することにより、優れた耐摩耗性を有する。この効果は、本開示のインサート1が、少量の圧縮型窒化硼素を含有し、さらに、第1面において圧縮型窒化硼素の002面が多く配向していることから、第1面に溶着した被削物が圧縮型窒化硼素とともに剥離されることによるものと推測される。
【0026】
本開示のインサート1における窒化硼素焼結体3は、圧縮型窒化硼素含有値が、0.004以上、0.008以下であってもよい。このような構成を有すると、インサート1の硬度が高い。
【0027】
また、本開示のインサート1における窒化硼素焼結体3は、立方晶配向値が、0.55以上であってもよい。このような構成を有すると、第1面7における硬度が高い。
【0028】
また、本開示のインサート1における窒化硼素焼結体3は、圧縮型窒化硼素配向値が、0.8以上であってもよい。このような構成を有すると、インサート1の寿命が長い。
【0029】
また、本開示のインサート1における窒化硼素焼結体3は、ウルツ型窒化硼素を含有していてもよい。このような構成を有する窒化硼素焼結体3は硬度が高い。
【0030】
また、本開示のインサート1は、立方晶窒化硼素の平均粒径が、200nm以下であってもよい。このような構成を有すると、インサート1の強度が高い。なお、立方晶窒化硼素の平均粒径は、100nm以下であってもよい。
【0031】
また、本開示のインサート1は、窒化硼素焼結体3の表面に硬質被覆層(図示しない)を有していてもよい。
【0032】
<ビッカース硬度>
本開示のインサート1において、窒化硼素焼結体3の第1面7に対して垂直な方向におけるビッカース硬度は、1000℃において40.0GPa以上である。
【0033】
また、窒化硼素焼結体3の第1面7に対して垂直な方向におけるビッカース硬度は、700℃において45.0GPaより大きい。
【0034】
また、窒化硼素焼結体3の第1面7に対して垂直な方向におけるビッカース硬度は、400℃において47.0GPaより大きい。
【0035】
このように、本開示のインサート1は、高温で高い硬度を有するため、高温切削時の耐摩耗性に優れる。
【0036】
<切削工具>
次に、本開示の切削工具について
図3を参照して説明する。
図3は、本開示の切削工具の一例を示す図である。
【0037】
本開示の切削工具101は、
図3に示すように、例えば、第1端(
図3における上端)から第2端(
図3における下端)に向かって延びる棒状体である。
【0038】
切削工具101は、
図3に示すように、第1端(先端)から第2端に亘る長さを有し、第1端側に位置するポケット103を有するホルダ105と、ポケット103に位置する上記のインサート1とを備えている。切削工具101は、インサート1を備えているため、長期に渡り安定した切削加工を行うことができる。
【0039】
ポケット103は、インサート1が装着される部分であり、ホルダ105の下面に対して平行な着座面と、着座面に対して垂直であるか、または、傾斜する拘束側面とを有している。また、ポケット103は、ホルダ105の第1端側において開口している。
【0040】
ポケット103にはインサート1が位置している。このとき、インサート1の下面がポケット103に直接に接していてもよく、また、インサート1とポケット103との間にシート(図示しない)が挟まれていてもよい。
【0041】
インサート1は、すくい面7及び逃げ面9が交わる稜部における切刃13として用いられる部分の少なくとも一部がホルダ105から外方に突出するようにホルダ105に装着される。本実施形態において、インサート1は、固定ネジ107によって、ホルダ105に装着されている。すなわち、インサート1の貫通孔55に固定ネジ107を挿入し、この固定ネジ107の先端をポケット103に形成されたネジ孔(図示しない)に挿入してネジ部同士を螺合させることによって、インサート1がホルダ105に装着されている。
【0042】
ホルダ105の材質としては、鋼、鋳鉄などを用いることができる。これらの部材の中で靱性の高い鋼を用いてもよい。
【0043】
本実施形態においては、いわゆる旋削加工に用いられる切削工具を例示している。旋削加工としては、例えば、内径加工、外径加工及び溝入れ加工などが挙げられる。なお、切削工具としては旋削加工に用いられるものに限定されない。例えば、転削加工に用いられる切削工具に上記の実施形態のインサート1を用いてもよい。
【0044】
<製造方法>
以下に、本開示のインサートにおける窒化硼素焼結体の製造方法について説明する。まず、原料粉末である扁平形状の六方晶窒化硼素粉末を準備する。平均粒径は0.7μm以上で、市販の原料のうち酸素不純物量が0.5質量%未満のものを使用する。六方晶窒化硼素粉末の平均粒径とは、電子顕微鏡で測定した窒化硼素粉末の長軸方向の長さの平均値を意味する。六方晶窒化硼素粉末は、平均粒径が、0.2μm以上、30μm以下であってもよい。六方晶窒化硼素粉末は、99%以上の純度を有する高純度のものであってもよい。また、立方晶の窒化硼素粉末を製造する際に用いる触媒成分を含有するものであってもよい。また、99%未満の純度の原料粉末を用いてもよい。
【0045】
原料粉末の成形は一軸プレスにて行い、成形時の圧力を制御することで、焼成後の立方晶配向値および圧縮型窒化硼素配向値を制御することができる。一軸プレスで成形するときに扁平な六方晶窒化硼素粉末が配向し、六方晶窒化硼素粉末の002面がプレスの加圧軸方向と垂直になるように配向する。一軸プレスの際に、同一の成形体に繰り返し、圧力を加えるように行うと成形体における六方晶窒化硼素粉末の配向性が高い。
【0046】
次に、上記方法で作製した成形体を、1800~2200度の温度、8~10GPaの圧力で焼成することで、本開示の窒化硼素焼結体を得ることができる。窒化硼素焼結体に含まれる圧縮型窒化硼素の割合は、焼成時の温度と圧力により、制御することができる。
【0047】
以上、本開示の窒化硼素焼結体、インサートおよび切削工具について説明したが、上述の実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行なってもよい。
【実施例】
【0048】
平均粒径が、0.3μm、6μm、16μmで、酸素不純物量が0.3質量%の扁平形状の六方晶窒化硼素粉末を一軸プレスで成形し、成形体を得た。また、同じ六方晶窒化硼素粉末を等圧加圧して成形体を作製した。これらの成形体を表1に示す条件で焼成した。
【0049】
次に、得られた焼結体を、焼結体の第1面に垂直な方向に切断し、第1面に対して直角に交わる面を有する厚さ約0.5mmの試験片を作製した。この試験片の第1面に垂直な断面を基準として、株式会社リガク製の湾曲IPX線回折装置RINT RAPID2を用いて圧縮型窒化硼素含有値、立方晶配向値、圧縮型窒化硼素配向値を求めた。得られた各値を表1に示す。
【表1】
【0050】
さらに、得られた焼結体の一部を切り出し、インサートを作製した。このインサートの第1面をすくい面として切削試験を行った。以下に切削試験の条件を示す。
【0051】
<切削試験の条件>
被削材:Ti合金(Ti-6Al-4V)
切削条件:Vc=100m/min、f=0.1mm/rev、ap=0.4mm、Wet
使用工具:CNGA120408
【0052】
等圧成形した成形体から得られた試料である試料No.1~3、7、11、15は、いずれも、本開示のインサートにおける窒化硼素焼結体の構成を有していない。また、1軸加圧した成形体を用いた場合であっても、焼成温度が2100℃であり、焼成圧力が11GPaの試料No.8~10では、圧縮型窒化硼素が含まれていなかった。1軸加圧した成形体を用いて、焼成温度が2300℃であり、焼成圧力が7.7GPaの試料No.16では、圧縮型窒化硼素を含有していたが、圧縮型窒化硼素配向値が立方晶配向値よりも小さかった。
【0053】
一方、一軸プレスで成形した試料のうち、試料No.4~6、12~14は、圧縮型窒化硼素含有値が0.005よりも小さく、立方晶配向値が0.5よりも大きく、圧縮型窒化硼素配向値が立方晶配向値よりも大きく、長寿命であった。なお、試料No.4~6、12~14の立方晶窒化硼素の平均粒径は、いずれも200nm以下であった。特に、平均粒径が小さい原料粉末を用いた試料No.4および試料No.12の平均粒径は、100nm以下であった。
【0054】
立方晶配向値が0.55以上である試料No.5、6、12、13、14は、立方晶配向値が0.55未満である試料No.4よりも長寿命であった。圧縮型窒化硼素配向値が0.8以上である、試料No.13、14は、圧縮型窒化硼素配向値が0.8未満の試料No.12よりも長寿命であった。
【0055】
本開示のインサートの構成要件を満たさない試料は、本開示のインサートである試料No.4~6、12~14よりも寿命が短かった。
【0056】
<高温硬度測定>
平均粒径が、0.3μm、6μm、16μmで、酸素不純物量が0.3質量%の扁平形状の六方晶窒化硼素粉末を一軸プレスで成形し、成形体を得た。この成形体を、焼成温度2100~2200℃、圧力9GPaの条件で焼成した。
【0057】
そして、得られた焼結体に対し、それぞれ25℃、400℃、700℃および1000℃の温度環境下にてビッカース硬度の測定を行った。ビッカース硬度は、ダイヤモンドで作られたピラミッド形状(正四角錐状)の圧子を焼結体の第1面(すくい面)に押し込み、荷重を除いた後に残ったへこみを測定する周知の試験法を用いて評価された。測定条件は、下記のとおりである。
<測定条件>
即例装置 :ニコン(株)製 高温硬度計 QM型
圧子押し込み荷重:4.9N
圧子押し込み時間:15sec
測定雰囲気 :真空
【0058】
図4は、高温硬度測定の結果を示すグラフである。
図4に示すように、得られた焼結体の第1面に対して垂直な方向におけるビッカース硬度は、1000℃において約42.0GPa、700℃において約46.0GPa、400℃において約48.0GPaであった。
【0059】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。実に、上記した実施形態は多様な形態で具現され得る。また、上記の実施形態は、添付の請求の範囲およびその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1・・・インサート
3・・・窒化硼素焼結体
5・・・基体
7・・・すくい面
9・・・逃げ面
13・・・切刃
101・・切削工具
103・・ポケット
105・・ホルダ