IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ヨコオの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 9/36 20060101AFI20240816BHJP
   H01Q 9/40 20060101ALI20240816BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20240816BHJP
   H01Q 21/28 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01Q9/36
H01Q9/40
H01Q13/08
H01Q21/28
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023005852
(22)【出願日】2023-01-18
(62)【分割の表示】P 2020055667の分割
【原出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2023033550
(43)【公開日】2023-03-10
【審査請求日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017037653
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006758
【氏名又は名称】株式会社ヨコオ
(74)【代理人】
【識別番号】100127306
【弁理士】
【氏名又は名称】野中 剛
(72)【発明者】
【氏名】曽根 孝之
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-084575(JP,A)
【文献】特開2014-112828(JP,A)
【文献】特開2016-032165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 9/36
H01Q 9/40
H01Q 13/08
H01Q 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の周波数帯で動作するパッチアンテナ部と、
前記第1の周波数帯とは異なる第2の周波数帯で動作するアンテナ部と、
前記パッチアンテナ部及び前記アンテナ部を搭載するアンテナベース部と、を備え、
前記アンテナ部は、導体金属板で形成された容量装荷素子及び前記容量装荷素子に電気的に接続されるヘリカル素子を有し、
前記アンテナベース部は、長手方向と幅方向とを有する形状であり、
前記容量装荷素子は、前記パッチアンテナ部の少なくとも一部の上方に位置する第1容量装荷素子と、前記第1容量装荷素子と導体を介して電気的に接続された第2容量装荷素子と、を有し、
前記第1容量装荷素子及び前記第2容量装荷素子の各々は、前記アンテナベース部を基準にして最も高い位置の稜線から前記幅方向に向かって低くなる第1傾斜部及び第2傾斜部を有し、かつ、互いに離間している、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記導体は、前記第1の周波数帯で高インピーダンスになる、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記導体は、フィルタである、
請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記導体は、導線である、
請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第1容量装荷素子及び前記第2容量装荷素子の少なくとも一方は、蛇行形状部を有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記蛇行形状部は、上下方向の切欠部により構成される、
請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
側方から見て、前記パッチアンテナ部の放射面から前記第1容量装荷素子の下端までの距離が、前記第1の周波数帯の波長の0.25倍より小さい、
請求項1から6のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
上方から見て、前記ヘリカル素子は、前記第2容量装荷素子の少なくとも一部と重複するように位置する、
請求項1から7のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記第1容量装荷素子及び前記第2容量装荷素子の少なくとも一方において、前記第1傾斜部の上縁と前記第2傾斜部の上縁とは、互いに離間している、
請求項1から8のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記第1容量装荷素子及び前記第2容量装荷素子の各々は、前記長手方向の電気長と、前記長手方向に直交する方向の電気長と、が略等しい、
請求項1から9のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【請求項11】
前記第1容量装荷素子及び前記第2容量装荷素子は、前記長手方向において、互いに略等しい長さである、
請求項1から10のいずれか一項に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッチアンテナと、これとは別のアンテナ(例えばAM/FM放送受信用アンテナ)を構成するための容量装荷素子とを備えるアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のアンテナ装置は、パッチアンテナに対する容量装荷素子の影響を少なくするために、天頂(上方)から見て、容量装荷素子とパッチアンテナとが互いに重ならないように配置していた。しかし、近年ではアンテナ装置の小型化が求められているため、パッチアンテナの上方に容量装荷素子を配置することが検討されている。この場合を比較例として図16A図16Dに示す。
【0003】
図16A図16Dの比較例のアンテナ装置11は、図示しないアンテナベース上に搭載された第1のアンテナとしてのパッチアンテナ20と、容量装荷素子40及びヘリカル素子(コイル)70を有する第2のアンテナとしてのAM/FM放送受信用アンテナ30とを備え、容量装荷素子40は前後方向(長手方向)に連続した非分割構造であってパッチアンテナ20の上方に位置している。パッチアンテナ20は地導体(図示せず)上に配置された誘電体基板21上面に放射電極22を設けたものであり、放射電極22を設けた側がパッチアンテナ20の上側となる。図16A中に、前後、左右、上下方向について定義した。前後方向は容量装荷素子40の長手方向(稜線Pの方向)、左右方向は水平面内で前後方向に直交する方向であって前方を見て左側が左方向となり、上下方向は前後、左右方向にそれぞれ直交する方向であり、パッチアンテナ20の放射電極22を設けた側が上方向となる。
【0004】
容量装荷素子40は、例えば導体金属板であって、最も高い位置の稜線Pから左右に向かって低くなる斜面を有する山形形状であり、両斜面の成す角α=70°である。容量装荷素子40の長さ(前後方向の長さ)j=80mm、右側及び左側の斜面の幅(左右方向の斜面に沿った長さ)k=m=22.5mmである。図示しないアンテナベースから稜線Pまでの高さは約50mmであり、図16Cにおけるパッチアンテナ20の上面と容量装荷素子40の下端との間隔zは約24mmである。
【0005】
図16A図16Dの比較例のように、パッチアンテナ20の上方に非分割構造の容量装荷素子40を単に配置したのでは、パッチアンテナ20の軸比(dB)が大きくなって平均利得が低下し、放送又は通信衛星からの受信性能が低下する。
【0006】
図17は、図16A図16Dの比較例のようにパッチアンテナの上方に容量装荷素子を配置しているときと、配置していないときとのアンテナ装置の周波数(MHz)と仰角90°における軸比(以下、軸比と表記)との関係を示すシミュレーションによる特性図である。図17に示すように、パッチアンテナの上方に容量装荷素子を配置すると(図17の実線)、配置していないとき(図17の点線)に比べて軸比が大きくなる。つまり、円偏波に対するパッチアンテナの性能が低下する。ここでは仰角は水平面からの角度を示すものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-32165号公報
【0008】
特許文献1は衛星ラジオアンテナと容量エレメント(容量装荷素子に相当)とを備える車載用アンテナ装置を示している。容量エレメントよりも前方に衛星ラジオアンテナが配置され、上方から見て容量エレメントと衛星ラジオアンテナとが重ならない配置である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、単にパッチアンテナの上方に容量装荷素子を配置したのでは、放送又は通信衛星からの円偏波の電波を送受信する場合のパッチアンテナの特性が低下する。
【0010】
本発明に係る実施の形態は、容量装荷素子の存在にもかかわらずパッチアンテナによる円偏波の送受信を良好に行うことが可能なアンテナ装置の技術を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様はアンテナ装置である。このアンテナ装置は、第1のアンテナであるパッチアンテナと、
容量装荷素子を有する第2のアンテナとを備え、
前記容量装荷素子は、前記パッチアンテナの上方に位置し、かつ所定方向に分かれて配置されていることを特徴とする。
【0012】
各容量装荷素子の前記所定方向の電気長と前記所定方向に直交する方向の電気長とが略等しいとよい。
【0013】
所定方向に分かれて配置された前記容量装荷素子を、前記パッチアンテナが動作する周波数帯で高インピーダンスとなるフィルタで相互に接続するとよい。
【0014】
前記容量装荷素子は、前記所定方向に等しい長さに分かれて配置されているとよい。
【0015】
第2の態様もアンテナ装置である。このアンテナ装置は、第1のアンテナであるパッチアンテナと、
容量装荷素子を有する第2のアンテナとを備え、
前記容量装荷素子は前記パッチアンテナの上方に位置し、前記容量装荷素子の少なくとも一方の側縁に、所定方向のスリット状切欠部が形成されていることを特徴とする。
【0016】
前記容量装荷素子が前記所定方向の稜線を有し、前記所定方向における前記容量装荷素子の両側縁に前記稜線の延長線を含むようにスリット状切欠部をそれぞれ形成した構成であるとよい。
【0017】
以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
第1の態様および第2の態様によれば、第1のアンテナであるパッチアンテナと、前記パッチアンテナの上方に位置する容量装荷素子を有する第2のアンテナとを備える場合において、前記容量装荷素子が、所定方向(長手方向)に分かれて配置されているか、あるいは前記容量装荷素子の少なくとも一方の側縁に、所定方向(長手方向)のスリット状切欠部が形成されていることで、パッチアンテナによる円偏波の送受信を良好に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態1を示す模式的斜視図。
図2】実施の形態2を示す模式的斜視図。
図3】実施の形態3を示す模式的斜視図。
図4】実施の形態4を示す模式的斜視図。
図5】実施の形態5を示す模式的斜視図。
図6】アンテナ装置が有する容量装荷素子を前後方向に分割したときと、分割していないときの、アンテナ装置の周波数と軸比との関係を示すシミュレーションによる特性図。
図7】容量装荷素子を前後方向に3分割したときと、分割していないときの、仰角10°におけるアンテナ装置の周波数と平均利得との関係を示すシミュレーションによる特性図。
図8】容量装荷素子を前後方向に等分割したときと、分割個数は同じで等分割していないときの、アンテナ装置の周波数と軸比との関係を示すシミュレーションによる特性図。
図9】容量装荷素子を前後方向に異なる分割数で等分割したときの、アンテナ装置の周波数と軸比との関係を示すシミュレーションによる特性図。
図10】実施の形態6を示す模式的斜視図。
図11】実施の形態7を示す模式的斜視図。
図12】容量装荷素子がスリット状切欠部を有しているときと、有していないときの、アンテナ装置の周波数と軸比との関係を示すシミュレーションによる特性図。
図13】実施の形態8を示す模式的斜視図。
図14】実施の形態9を示す模式的斜視図。
図15】実施の形態10を示す模式的斜視図。
図16A】容量装荷素子を前後方向に分割していないときのアンテナ装置の比較例を示す模式的斜視図。
図16B】比較例を前方から見た正面図。
図16C】比較例の前方に向かって左側を示す側面図。
図16D】比較例を上方から見た平面図。
図17】パッチアンテナの上方に容量装荷素子を配置しているときと、配置していないときの、アンテナ装置の周波数と軸比の関係を示すシミュレーションによる特性図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳述する。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は本発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0021】
<実施の形態1>
図1は実施の形態1に係るアンテナ装置の模式的斜視図であって、アンテナ装置1は、図示しないアンテナベース上に搭載された第1のアンテナとしてのパッチアンテナ20と、前後方向(長手方向)に分かれて配置された(分割された)容量装荷素子41,42,43及びヘリカル素子(コイル)70を有する第2のアンテナとしてのAM/FM放送受信用アンテナ30とを備えている。パッチアンテナ20は、放送又は通信衛星からの円偏波を受信する又は円偏波を送信するGPS(Global Positioning System)アンテナやSXM(Sirius XM)アンテナ、GNSS(Global Navigation Satellite System)アンテナ等である。容量装荷素子41,42,43及びヘリカル素子70はAM/FM放送受信用アンテナの構成要素である。図1中に、前後、左右、上下方向について定義した。前後方向は容量装荷素子41,42,43の配列方向(各容量装荷素子の稜線Pの方向)、左右方向は水平面内で前後方向に直交する方向であって前方を見て左側が左方向となり、上下方向は前後、左右方向にそれぞれ直交する方向であり、パッチアンテナ20の放射電極22を設けた側が上方向となる。
【0022】
容量装荷素子41,42,43は、例えば導体金属板であり、図示しないアンテナベースを基準して最も高い位置の稜線Pから左右に向かって低くなる斜面を有する山形形状であり、パッチアンテナ20の上方に位置し、かつ前後方向に3分割された配置となっている。ここで、上方とは、アンテナ装置1の上方から見たときに、パッチアンテナ20と容量装荷素子41,42,43とが完全に重なっている場合だけでなく、パッチアンテナ20の一部が容量装荷素子41,42,43と重なっている場合も含む。各容量装荷素子41,42,43は前方に向かって右側の端部において、相互にフィルタ60で接続されている。容量装荷素子41,42,43の分割前の形状、寸法は図16A図16Dの比較例における容量装荷素子40と同程度に設定されている。容量装荷素子41,42,43相互間の隙間を形状で表すと、容量装荷素子41,42,43の配列方向(つまり前後方向)に直交する直線状である。ヘリカル素子70は、例えば前方位置の容量装荷素子43に接続されており、前方に位置している。
【0023】
フィルタ60は、パッチアンテナ20の動作周波数帯(例えば図6等に示す1560~1610MHzを含む周波数帯)で並列共振する(高インピーダンスになる)ようにコイルとコンデンサとを並列に接続したものや、コイルの自己共振周波数をパッチアンテナ20の動作周波数帯に設定したもの等であり、分割された容量装荷素子41,42を接続し、分割された容量装荷素子42,43を接続している。フィルタ60はAM/FM放送周波数帯では低インピーダンスであるから、分割された容量装荷素子41,42,43の全てはAM/FM放送周波数帯に対してヘリカル素子70とともに単一導体として動作する。一方、フィルタ60及びヘリカル素子70は、パッチアンテナ20の動作周波数帯では高インピーダンスである。このため、分割された容量装荷素子41,42,43の各々はパッチアンテナ20に電磁的影響を与え、パッチアンテナ20の特性が変化し得る。上方から見たときにパッチアンテナ20と容量装荷素子41,42,43とが重なっていない場合も、容量装荷素子41,42,43はパッチアンテナ20に何らかの電磁的影響を与え得るため、パッチアンテナ20の特性が変化し得る。
【0024】
アンテナ装置1の低背化のために、パッチアンテナ20(放射電極22)の上面と容量装荷素子41,42,43の下端との間隔は短い方が望ましい。パッチアンテナ20の動作周波数帯の中心周波数の波長をλとした際に、パッチアンテナ20の上面と容量装荷素子41,42,43の下端との間隔が約0.25λ以上でもよいが、低背化の観点からは約0.25λより小さい方がよい。
【0025】
<実施の形態2>
図2は実施の形態2に係るアンテナ装置の模式的斜視図であって、アンテナ装置2は、実施の形態1における3分割の容量装荷素子の代わりに、2分割された容量装荷素子44,45を備えている。容量装荷素子44,45の分割前の形状、寸法は図16A図16Dの比較例における容量装荷素子40と同程度に設定されている。ヘリカル素子70は、例えば前方位置の容量装荷素子45に接続されている。その他の構成は前述の実施の形態1と同様である。
【0026】
図6は、容量装荷素子を前後方向に分割したとき(図1の実施の形態1又は図2の実施の形態2)と分割していないとき(図16A図16Dの比較例)のアンテナ装置の周波数(MHz)と軸比(dB)との関係を示すシミュレーションによる特性図である。この図から、容量装荷素子を分割していない比較例の場合よりも、2分割の実施の形態2の方が軸比が大幅に低下し、さらに3分割の実施の形態1の方が軸比が低くなっている。
【0027】
図7は、容量装荷素子を前後方向に3分割したとき(図1の実施の形態1)と分割していないとき(図16A図16Dの比較例)の仰角10°における、円偏波受信時のアンテナ装置の周波数(MHz)と平均利得(dBi)との関係を示すシミュレーションによる特性図である。この図から、容量装荷素子を分割していない比較例の場合よりも、3分割の実施の形態1の方が平均利得が増加していることがわかる。
【0028】
図6及び図7の特性図は、図1の容量装荷素子41,42,43及び図2の容量装荷素子44,45の前後方向の長さをa,b,c,f,hとし、稜線Pに対して右側の斜面に沿った長さをd、左側の斜面に沿った長さをeとしたとき、a=35mm,b=21mm,c=20mm,f=45mm,h=33mmであり、d=e=22.5mm(各容量装荷素子41,42,43,44,45共に同じ)である。容量装荷素子41,42,43間の隙間及び容量装荷素子44,45間の隙間の前後方向の長さg=2mmであり、容量装荷素子41~45の山形形状の左右斜面の成す角度は図16A図16Dの容量装荷素子40と同じであるとして求めている。前記寸法a,b,c,f,hの関係からわかるように、図1の実施の形態1や図2の実施の形態2では、容量装荷素子は前後方向に等しい長さで分割されていない(等分割されていない)。
【0029】
実施の形態1や実施の形態2のように、容量装荷素子を前後方向に分割することで、分割された容量装荷素子41,42,43や容量装荷素子44,45の各々における前後方向の電気長と、これに直交する左右方向の電気長との差が小さくなって、図6に示すように軸比が小さくなる。また、分割された容量装荷素子の各々の前後方向の電気長がパッチアンテナ20の動作周波数帯の波長に比べて小さくなると、パッチアンテナ20の上方にある容量装荷素子によるパッチアンテナ20のアンテナ特性への影響が低下する。このため、図7に示すように、容量装荷素子を前後方向に3分割すると、分割していないときに比べて、低仰角(仰角10°)における平均利得が向上する。容量装荷素子の分割数を増やすとフィルタ60の数が増えてコストが増すので、容量装荷素子を等分割しない場合、容量装荷素子の分割数は3程度が望ましい。また、パッチアンテナ20(放射電極22)の上面と容量装荷素子44,45の下端との間隔については、実施の形態1と同様である。
【0030】
上記実施の形態1によれば、下記の効果を奏することができる。
【0031】
(1)第1のアンテナであるパッチアンテナ20と、第2のアンテナとしてのAM/FM放送受信用アンテナ30とを備える場合に、所定方向(前後方向)に分かれて配置された容量装荷素子41,42,43(容量装荷素子の3分割構造)をAM/FM放送受信用アンテナ30の構成要素として用いている。このため、非分割構造の容量装荷素子に比べて円偏波に対する軸比を低くすることができる。この結果、パッチアンテナ20の上方に位置する容量装荷素子41,42,43の存在にもかかわらず、パッチアンテナ20で円偏波の送受信を良好に行うことができる。
【0032】
(2)また、所定方向に分かれて配置された(分割された)容量装荷素子41,42,43であるため、非分割構造の容量装荷素子に比べ低仰角で円偏波をパッチアンテナ20によって送受信する場合の平均利得を良好に保つことができる。
【0033】
(3)所定方向に分かれて配置された容量装荷素子41,42と容量装荷素子42,43とを、パッチアンテナ20が動作する周波数帯で高インピーダンスとなるフィルタ60で相互に接続する。これにより、パッチアンテナ20の動作周波数帯で容量装荷素子41,42,43は別々の無給電導体と見なすことができ、パッチアンテナ20への悪影響(平均利得の低下)を軽減可能である。
【0034】
実施の形態2によれば、所定方向(前後方向)に分かれて配置された容量装荷素子44,45(容量装荷素子の2分割構造)をAM/FM放送受信用アンテナ30の構成要素として用いているため、実施の形態1に準ずる作用効果を得ることができる。
【0035】
<実施の形態3>
図3は実施の形態3に係るアンテナ装置の模式的斜視図であって、アンテナ装置3は、実施の形態1における非等分割の容量装荷素子の代わりに、3分割かつ等分割された容量装荷素子46,47,48を備えている。容量装荷素子46,47,48の分割前の形状、寸法は図16A図16Dの比較例における容量装荷素子40と同程度に設定する。ヘリカル素子70は、例えば前方位置の容量装荷素子48に接続されている。その他の構成は前述の実施の形態1と同様である。
【0036】
<実施の形態4>
図4は実施の形態4に係るアンテナ装置の模式的斜視図であって、アンテナ装置4は、実施の形態1における非等分割の容量装荷素子の代わりに、4分割かつ等分割された容量装荷素子51,52,53,54を備えている。容量装荷素子51,52,53,54の分割前の形状、寸法は図16A図16Dの比較例における容量装荷素子40と同程度に設定する。ヘリカル素子70は、例えば前方位置の容量装荷素子54に接続されている。その他の構成は前述の実施の形態1と同様である。
【0037】
<実施の形態5>
図5は実施の形態5に係るアンテナ装置の模式的斜視図であって、アンテナ装置5は、実施の形態1における非等分割の容量装荷素子の代わりに、5分割かつ等分割された容量装荷素子55,56,57,58,59を備えている。容量装荷素子55,56,57,58,59の分割前の形状、寸法は図16A図16Dの比較例における容量装荷素子40と同程度に設定する。ヘリカル素子70は、例えば前方位置の容量装荷素子59に接続されている。その他の構成は前述の実施の形態1と同様である。
【0038】
図8は、容量装荷素子を前後方向に等分割(3分割)したとき(図3の実施の形態3)と、分割個数は同じで等分割していないとき(図1の実施の形態1)の、アンテナ装置の周波数(MHz)と軸比(dB)との関係を示すシミュレーションによる特性図である。前後方向に等分割した容量装荷素子46,47,48を前後方向に分けて配置することで、等分割してないときに比べて分割された容量装荷素子46,47,48の各々の前後方向の電気長が全て同じになる。実施の形態1の場合は、等分割でない容量装荷素子41,42,43の各々について、前後方向の電気長と左右方向の電気長との差がバラバラであった。しかし、実施の形態3では、等分割した容量装荷素子46,47,48の各々について、前後方向の電気長と左右方向の電気長との差は何れも同程度となる。このため、図8に示すように、前後方向に等分割した容量装荷素子46,47,48を配列することで、等分割していない容量装荷素子を配列する場合に比べて軸比が低くなり、いっそう良好に円偏波の送受信が可能となる。
【0039】
図9は、容量装荷素子を前後方向に異なる分割数(3~5)で等分割したときの、アンテナ装置の周波数(MHz)と軸比(dB)との関係を示すシミュレーションによる特性図である。図4の実施の形態4のように、前後方向に4等分割した容量装荷素子51,52,53,54を分けて配置し、各容量装荷素子51,52,53,54の前後方向の電気長と左右方向の電気長との差を略零にする(前後方向の電気長と左右方向の電気長を略一致させる)ことで、略零にしていないとき(容量装荷素子を前後方向に3等分割した図3の実施の形態3或いは5等分割した図5の実施の形態5)に比べて、さらに軸比が小さくなる。物理的長さが同じ場合、容量装荷素子の折曲げ部分や湾曲部分を含む方向の電気長は、平坦方向の電気長よりも短くなる。このため、図4の実施の形態4では各容量装荷素子51,52,53,54の前後方向の長さよりも左右方向に沿った長さを大きく設定している。
【0040】
分割された容量装荷素子の各々の左右方向の長さが異なる場合や、稜線の両側の斜面の成す角度が変化するような場合には、容量装荷素子の各々について前後方向の電気長と左右方向の電気長との差を小さくするように設定するとよい。
【0041】
<実施の形態6>
図10は実施の形態6に係るアンテナ装置の模式的斜視図であって、アンテナ装置6は、実施の形態2に示すような容量装荷素子44,45のうち前後方向の長さが大きい容量装荷素子44に一対のスリット状切欠部80を形成したものである。容量装荷素子44は前後方向の稜線Pを有し、容量装荷素子44の前後方向両側の側縁(前縁及び後縁)に稜線Pの延長線を含むようにスリット状切欠部80がそれぞれ側縁から内側に向けて形成されている(容量装荷素子44の前縁から後方に向けてスリット状切欠部80が形成され、容量装荷素子44の後縁から前方に向けてスリット状切欠部80が形成されている)。容量装荷素子44,45の分割前の形状、寸法は図16A図16Dの比較例における容量装荷素子40と同程度に設定する。その他の構成は前述の実施の形態2と同様である。
【0042】
<実施の形態7>
図11は実施の形態7に係るアンテナ装置の模式的斜視図であって、アンテナ装置7は、前後方向(長手方向)の長さが大きい容量装荷素子44の前後方向両側の側縁(前縁及び後縁)に一対のスリット状切欠部81を形成したものであるが、その位置が容量装荷素子44の稜線Pから外れた位置(右側傾斜面)となっている。容量装荷素子44,45の分割前の形状、寸法は図16A図16Dの比較例における容量装荷素子40と同程度に設定する。その他の構成は前述の実施の形態2と同様である。一方のスリット状切欠部81を容量装荷素子44の左側に、他方のスリット状切欠部81を右側に配置する構成も可能である。
【0043】
図12は、実施の形態6の容量装荷素子44がスリット状切欠部80を有するアンテナ装置6の場合と、実施の形態7の容量装荷素子44がスリット状切欠部81を有するアンテナ装置7の場合とを、スリット状切欠部を有していない場合(容量装荷素子が2分割された実施の形態2に相当)と対比した周波数(MHz)と軸比(dB)との関係を示すシミュレーションによる特性図である。容量装荷素子44が前後方向両側の側縁(換言すれば左右方向に沿った側縁)から内側に切り込み形成されたスリット状切欠部80又はスリット状切欠部81を有する。これにより、容量装荷素子44の左右方向の側縁に沿った電気長を長くすることができ、容量装荷素子44の左右方向の電気長と前後方向の電気長との差が小さくなる。このため、スリット状切欠部80,81を有する実施の形態6,7の場合は、スリット状切欠部の無い場合に比べて軸比が小さくなる。図11の実施の形態7では、スリット状切欠部81が容量装荷素子44の右側のみに位置する。このようにスリット状切欠部81が上方(稜線Pの位置付近)に無いときには、図10の実施の形態6のようにスリット状切欠部80が上方にあるときに比べて、容量装荷素子44の左右方向と前後方向との電気長の差が小さくならない。このため、図12に示すように、実施の形態7の場合は、実施の形態6程には軸比が小さくならない。
【0044】
図10図11の2分割した容量装荷素子の場合、容量装荷素子の前後方向の電気長が左右方向の電気長に比べて長いので、例えば容量装荷素子44に左右方向にスリット状切欠部を設ける(容量装荷素子44の前後方向の電気長をさらに長くする)のは軸比を大きくすることに繋がり、好ましくない。
【0045】
<実施の形態8>
図13は実施の形態8に係るアンテナ装置の模式的斜視図であって、アンテナ装置8は、前後方向(長手方向)に4等分割された容量装荷素子91,92,93,94を備える。各容量装荷素子91,92,93,94は、それぞれ上部に間隙を有するように底辺連結部91a,92a,93a,94aの両側に傾斜部91b,92b,93b,94bを折り曲げ形成したものである。左右の傾斜部91b,92b,93b,94bは左側及び右側に傾斜する山形の傾斜面をなしている。傾斜部91b,92b及び傾斜部93b,94bの右側上端間にフィルタ60が、傾斜部92b,93bの左側上端間にフィルタ60が設けられている。ヘリカル素子70は容量装荷素子94に接続されている。その他の構成は前述の実施の形態4と同様である。
【0046】
実施の形態8によれば、4等分割された容量装荷素子91,92,93,94を用いることで、前述の実施の形態4に準ずる作用効果が得られる。
【0047】
<実施の形態9>
図14は実施の形態9に係るアンテナ装置の模式的斜視図であって、アンテナ装置9は、前後方向(長手方向)に2分割された容量装荷素子95,96を有する。容量装荷素子95は上部に間隙を有するように底辺連結部95aの両側に山形傾斜面となる傾斜部95bをそれぞれ折り曲げ形成したものである。容量装荷素子96は上部に間隙を有するように、底辺連結部96aの両側に山形傾斜面となる傾斜部96bをそれぞれ折り曲げ形成し、さらに傾斜部96bの上辺及び下辺にスリット状切欠部97、98を交互に形成したものである。この結果、容量装荷素子96の傾斜部96bはミアンダ状(蛇行形状)となる。容量装荷素子95,96の左側の傾斜部95b,96b上端間がフィルタ60により相互に接続されている。ヘリカル素子70は容量装荷素子96に接続されている。その他の構成は前述の実施の形態1と同様であり、実施の形態1に準ずる作用効果が得られる。
【0048】
<実施の形態10>
図15は実施の形態10に係るアンテナ装置の模式的斜視図であって、アンテナ装置10は、実施の形態9に示した容量装荷素子96の後側に左右に分割された容量装荷素子99A,99Bを有している。容量装荷素子99A,99Bは上辺及び下辺にスリット状切欠部100、101を交互に形成したミアンダ状(蛇行形状)である。容量装荷素子99A,99Bは山形の左右の傾斜面を成し、容量装荷素子96の左右の傾斜部96b上端にフィルタ60を介して接続されている。その他の構成は前述の実施の形態9と同様であり、実施の形態9に準ずる作用効果が得られる。
【0049】
以上、複数の実施の形態を説明したが、各実施の形態の各構成要素や各処理プロセスは、本発明の趣旨の範囲内で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。例えば、以下の変形例が考えられる。
【0050】
各実施の形態において、AM/FM放送受信用アンテナ30の構成要素であるヘリカル素子70の位置は前方に限られず、後方位置の容量装荷素子に接続されてパッチアンテナ20の前方に位置していてもよい。さらに、前後方向と直交する左右方向にオフセットしていてもよい(左右方向にずれていてもよい)。
【0051】
各実施の形態において、容量装荷素子同士を接続するフィルタ60の位置は、容量装荷素子の端部に限らず、容量装荷素子を互いに接続可能な位置であれば良く、1個に限らず複数個用いてもよい。さらに、求められる軸比がさほど小さくなくてもよい場合には、フィルタ60の代わりに分割された各容量装荷素子間を導線で接続する構成でもよい。
【0052】
各実施の形態では各容量装荷素子を相互接続するためにフィルタ60を用いたが、パッチアンテナ20が動作する周波数帯で高インピーダンスとなるフィルタであればフィルタ60の代わりに或いはフィルタ60と共に使用可能である。
【0053】
図10の実施の形態6や図11の実施の形態7においては、容量装荷素子44の前縁と後縁の両方にスリット状切欠部を内側に向けて前後方向に形成しているが、前縁又は後縁の片方のみにスリット状切欠部を形成した場合も軸比の改善効果がある。実施の形態6,7では容量装荷素子が2分割されている場合にスリット状切欠部を設けた場合を示すが、容量装荷素子が分割されていない場合や容量装荷素子が3分割以上に分かれている場合にもスリット状切欠部を設けることで軸比を改善できる場合がある。また、複数の容量装荷素子にスリット状切欠部を設けても良い。
【0054】
各実施の形態では、容量装荷素子が稜線を有する山形形状である場合を例示したが、山形に限定されず、平板等であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1~11 アンテナ装置
20 パッチアンテナ
30 AM/FM放送受信用アンテナ
40~48,51~59 容量装荷素子
60 フィルタ
70 ヘリカル素子
80,81 スリット状切欠部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17