(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】髪の外観改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/05 20060101AFI20240816BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20240816BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240816BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20240816BHJP
A61K 35/20 20060101ALN20240816BHJP
C07K 5/078 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
A61K38/05
A61P17/14
A61P17/00 171
A23L33/18
A61K35/20
C07K5/078
(21)【出願番号】P 2023113385
(22)【出願日】2023-07-11
(62)【分割の表示】P 2019057191の分割
【原出願日】2019-03-25
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿野 泰久
(72)【発明者】
【氏名】大屋 怜奈
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/068338(WO,A1)
【文献】特開平3-052810(JP,A)
【文献】特開2014-005243(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086303(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P,A23L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WYのアミノ酸配列
からなるジペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物を有効成分として含んでなる、
ヒト以外の哺乳動物の体毛の外観改善用組成物。
【請求項2】
ヒト以外の哺乳動物の体毛の外観悪化の抑制および/または改善に用いるためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ヒト以外の哺乳動物の体毛の外観悪化が加齢に起因するものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ヒト以外の哺乳動物の体毛の外観悪化が、毛量および/または毛質に関するものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
毛量に関する外観の悪化が、脱毛、薄毛および毛の太さの減少からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
毛質に関する外観の悪化が、毛色の脱色化、毛色の薄色化、毛艶の減少および毛の硬さの減少からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
体毛の外観が、毛並みである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
WYのアミノ酸配列からなるジペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物あるいはそれを含んでなる組成物を、ヒト以外の哺乳動物に摂取させることを含んでなる、ヒト以外の哺乳動物の体毛の外観改善方法。
【請求項9】
WYのアミノ酸配列
からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物を有効成分として含んでなる、
ヒト以外の哺乳動物の体毛の脱毛、薄毛、脱色化および/または薄色化の治療、予防または改善用組成物。
【請求項10】
WYのアミノ酸配列からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物あるいはそれを含んでなる組成物を、ヒト以外の哺乳動物に摂取させることを含んでなる、ヒト以外の哺乳動物の体毛の脱毛、薄毛、脱色化および/または薄色化の治療、予防または改善方法。
【請求項11】
WYのアミノ酸配列
からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物を有効成分として含んでなる、
ヒト以外の哺乳動物の体毛の発毛促進および/または抜け毛抑制用組成物。
【請求項12】
WYのアミノ酸配列からなるペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物あるいはそれを含んでなる組成物を、ヒト以外の哺乳動物に摂取させることを含んでなる、ヒト以外の哺乳動物の発毛促進方法および抜け毛抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は髪の外観改善のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢により、多くの身体組織において機能低下が生じることが知られている。頭髪や頭皮も例外ではなく、誕生時から思春期まで頭髪は次第に発達し、健康な状態では10万本程度となるが、以後、男女差や個人差はあるものの、毛が細くなる、毛量が減少する、毛艶が減少する、あるいは白髪が増加するといった加齢変化がみられる。加齢に伴う頭髪の変化の原因として、頭皮における毛包の矮小化や毛包幹細胞の減少が知られている(特許文献1)。
【0003】
加齢による頭皮および頭髪の機能低下に加えて、薄毛や脱毛、白髪等の外観の悪化がきっかけとなり自信や気力を失い、対人交流等の機会が減少してしまう中高年者の存在が指摘されている。中高年者のうち特に高齢者については身体面、精神面および社会生活面における悪循環が要介護状態を招く要因であるとして問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、髪の外観を改善することができる新規素材およびそれを含む組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは今般、老齢マウスでは、若齢マウスと比較して、毛量と、毛艶、毛色等の毛質の悪化が生じるところ、WYペプチドを摂取させた老齢マウスでは、毛量および毛質の悪化が改善されることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]WYのアミノ酸配列を有するペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物を有効成分として含んでなる、髪の外観改善用組成物および髪の外観改善剤。
[2]髪の外観悪化の抑制および/または改善に用いるためのものである、上記[1]に記載の組成物および用剤。
[3]髪の外観悪化が加齢に起因するものである、上記[1]または[2]に記載の組成物および用剤。
[4]髪の外観悪化が、毛量および/または毛質に関するものである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[5]毛量に関する外観の悪化が、脱毛、薄毛および毛の太さの減少からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[4]に記載の組成物および用剤。
[6]毛質に関する外観の悪化が、毛色の脱色化、毛色の薄色化、毛艶の減少および毛の硬さの減少からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[4]に記載の組成物および用剤。
[7]中高年者に摂取させるための、上記[1]~[6]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[8]食品の形態である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[9]WYのアミノ酸配列を有するペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物を有効成分として含んでなる、髪の脱毛、薄毛、脱色化および/または薄色化の治療、予防または改善用組成物並びに髪の脱毛、薄毛、脱色および/または薄色化の治療剤、予防剤または改善剤。
[10]WYのアミノ酸配列を有するペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物を有効成分として含んでなる、発毛促進および/または抜け毛抑制用組成物並びに発毛促進剤または抜け毛抑制剤。
【0008】
上記[1]、[9]および[10]の組成物を本明細書において「本発明の組成物」と、上記[1]、[9]および[10]の用剤を本明細書において「本発明の用剤」と、それぞれいうことがある。
【0009】
本発明の組成物および用剤が有効成分とするジペプチド:WYは、髪の外観(特に毛量および毛質)を改善する機能を発揮する機能性素材として利用できるとともに、ヒトを含む哺乳類に安全な機能性素材として利用できる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、WYペプチド摂取が老齢マウスの毛量および毛質(毛艶、毛色)に与える影響を示す図である。平均±標準誤差で表記した。*はp<0.05を示す。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明の組成物および用剤は、WYのアミノ酸配列を有するペプチド(以下、「本発明のペプチド」ということがある)を有効成分として含有してなるものである。ここで、「アミノ酸配列を有するペプチド」とは、該アミノ酸配列により配列が特定されたペプチドを意味する。
【0012】
本発明のペプチドは、化学合成によって得られたものを用いてもよく、乳、大豆、小麦、卵、畜肉、魚肉、魚介などに由来するタンパク質やポリペプチド原料等から化学的もしくは酵素的に分解して得られたものを用いてもよい。具体的には、例えば、本発明のペプチドの配列は、少なくとも、乳のホエイやカゼイン、牛血清アルブミン(BSA)、大豆のグリシニン、小麦のグルテニン、卵黄のリボビテリン、卵白のオボアルブミン、オボトランスフェリン、リゾチウム、チキン蛋白のコラーゲンなどに含まれているから、これら食品もしくは食品素材を酸加水分解やプロテアーゼによる酵素処理または微生物発酵等に供して、上記ペプチドを生成させることができる。本発明の組成物および用剤としては上記食品もしくは食品素材の調製物をそのまま用いてもよいし、濃縮物として、あるいはスプレードライや凍結乾燥等により乾燥粉末として用いてもよい。また、必要に応じて不純物、塩、酵素等の除去など、任意の程度の精製を施して用いてもよい。
【0013】
本発明のペプチドを構成するアミノ酸は、L型のアミノ酸のみから構成されていてもよいし、D型のアミノ酸のみから構成されていてもよいし、あるいは両者が混在したペプチドのいずれであってもよい。また、天然に存在するアミノ酸のみから構成されていてもよいし、アミノ酸にリン酸化やグリコシル化等、任意の官能基が結合した修飾アミノ酸のみから構成されていてもよいし、あるいは両者が混在したペプチドのいずれであってもよい。また、ペプチドが2以上の不斉炭素を含む場合には、エナンチオマー、ジアステレオマー、あるいは両者が混在したペプチドのいずれであってもよい。
【0014】
さらに、本発明のペプチドは、遊離塩の形態であっても、その薬学上許容される塩または溶媒和物の形態であってもよく、本発明の組成物および用剤はこれらのいずれか、あるいはこれら全部または一部の混合物を含むものである。薬学上許容される塩としては酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩および有機アミン付加塩が挙げられる。薬学上許容される酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。また、薬学上許容される金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。また、薬学上許容されるアンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。また、薬学上許容される有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の付加塩が挙げられる。
【0015】
本発明の組成物および用剤は、本発明のペプチド単独で、あるいは本発明のペプチドを含む素材(例えば、食品原料)として提供することができる。本発明の組成物および用剤はまた、本発明のペプチドまたは本発明のペプチドを含む素材と、他の成分(例えば、食品原料、食品添加物、製剤添加物)とを混合して提供することもできる。本発明の組成物および用剤における本発明のペプチドの含有量は、その目的、用途、形態、剤型、症状、体重等に応じて任意に定めることができ、本発明はこれに限定されないが、その含有量としては、全体量に対して、0.00001~50質量%(固形分換算)の割合で含有させることができ、さらに好ましくは0.0001~10質量%(固形分換算)の割合で含有させることができる。本発明においては、本発明の用剤を本発明のペプチドからなるものとし、本発明の組成物を本発明のペプチドと他の成分とを含んでなるものとすることができる。
【0016】
本発明のペプチドの含有量の測定は、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC/MS/MS)により実施することができる。当業者であればその条件設定は容易に行うことができ、測定の際に標準ペプチドとしてLC/MS/MS測定用の純度のものを使用することはいうまでもないが、例えば、SIGMA ALDRICH社製AQUAペプチドを使用することができる。
【0017】
本発明のペプチドを含む食品素材としては、タンパク質の酵素分解物が挙げられ、好ましくはホエイタンパク質の酵素分解物(以下、「ホエイ分解物」ということがある)である。本発明のペプチドが含まれるホエイ分解物の製造方法は公知であり、例えば、国際公開公報第2017/086303号の記載に従って製造することができる。あるいは、本発明のペプチドを含有する市販のホエイ酵素分解物を用いてもよく、例えば、LE80GF-US(DMV社製)やHW-3(雪印メグミルク社製)を本発明のペプチドとして用いてもよい。
【0018】
本発明のペプチドをホエイタンパク質分解物として本発明の組成物および用剤に含有させる場合、本発明のペプチドをホエイタンパク質分解物に対して、0.001~10質量%(固形分換算)の割合で含有させることができ、さらに好ましくは0.01~5質量%(固形分換算)の割合で含有させることができる。また、本発明の組成物および用剤に対して、ホエイタンパク質分解物は、0.001~95質量%(固形分換算)の割合で含有させることができ、好ましくは0.01~50質量%(固形分換算)の割合で含有させることができる。
【0019】
後記実施例に示されるように、本発明のペプチドは、老齢モデル動物において体毛の外観改善作用を有する。げっ歯類における体毛の外観(毛量および毛質)の改善は、ヒトにおける頭髪の外観(毛量および毛質)の改善のモデルとなる(参考としてDrug Derivery System 24-2, 2009, 109-116およびコスメトロジー研究報告Vol.21, 2013,19-23)。従って、本発明のペプチドは髪の外観改善に用いるための組成物および髪の外観改善剤の有効成分として使用することができる。なお、本発明において「髪」と「頭髪」は同義である。
【0020】
本発明において、「髪の外観改善」とは、髪の外観を向上する(よりよくする)ことに加えて、髪の外観の悪化を抑制することや、髪の外観の悪化を回復させることを含む。すなわち、「髪の外観改善」は「髪の外観悪化の抑制および改善」を含む意味で用いられるものとする。
【0021】
本発明において「髪の外観悪化」は、好ましくは加齢(特に老化)に起因するものである。一般的に中高年者は髪の外観悪化が進行していることが多く、特に高齢者は髪の外観悪化の進行度合いが著しいことが多い。従って、本発明の組成物および用剤は、中高年者(例えば、50歳以上の者、56歳以上の者)に摂取させるためのものとすることができ、特に高齢者(例えば、65歳以上の者)に摂取させるためのものとすることができる。すなわち、本発明の組成物および用剤は、中高年者あるいは高齢者を摂取対象とすることができる。
【0022】
本発明において「髪の外観」は、好ましくは毛量および毛質のいずれかまたは両方に関するものである。毛量に関する髪の外観悪化としては、脱毛(毛のない状態)、薄毛、毛の太さの減少が挙げられ、特に脱毛、薄毛が挙げられる。毛質に関する外観の悪化としては、毛色の脱色化、毛色の薄色化、毛艶の減少、毛の硬さの減少が挙げられ、特に毛色の脱色化、毛色の薄色化、毛艶の減少が挙げられる。
【0023】
本発明の別の面によれば、本発明のペプチドを含んでなる、髪の脱毛、薄毛、脱色化および/または薄色化の治療、予防または改善用組成物と、髪の脱毛、薄毛、脱色化および/または薄色化の治療剤、予防剤または改善剤が提供される。髪の脱毛、薄毛、脱色化および薄色化は加齢(特に老化)に起因するものとすることができる。
【0024】
本発明の別の面によればまた、本発明のペプチドを含んでなる、発毛促進および/または抜け毛抑制用組成物と、発毛促進剤および抜け毛抑制剤が提供される。本発明では、発毛促進および抜け毛抑制は「育毛」を含む意味で用いられるものとする。
【0025】
本発明の組成物および用剤は、医薬品(例えば、医薬組成物)、医薬部外品、食品(例えば、食品組成物)、飼料(ペットフード含む)等の形態で提供することができ、下記の記載に従って実施することができる。
【0026】
本発明のペプチドは、ヒトおよび非ヒト動物に経口投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
【0027】
本発明のペプチドは、ヒトおよび非ヒト動物に経口摂取させることができ、代表的な摂取形態は食品である。本発明のペプチドを食品として提供する場合には、それをそのまま食品として提供することができ、あるいはそれを食品に含有させて提供することができる。例えば、本発明のペプチドを食品として提供する場合には、本発明のペプチドを含有する、ホエイ分解物等のタンパク質の酵素分解物等を、そのまま食品として提供することができ、あるいはそれを食品に含有させて提供することができる。このようにして提供された食品は本発明のペプチドを有効量含有した食品である。本明細書において、本発明のペプチドを「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に後述するような範囲で本発明のペプチドが摂取されるような含有量をいう。また「食品」とは、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品)およびサプリメントを含む意味で用いられる。なお、本発明のペプチドをヒト以外の動物に摂取させる場合には、本発明でいう食品が飼料として使用されることはいうまでもない。
【0028】
本発明のペプチドは、上記のような外観の悪化改善効果を有するため、日常摂取する食品に含有させることができ、あるいは、サプリメントとして提供することができる。すなわち、本発明の組成物および用剤は食品の形態で提供することができる。この場合、本発明の組成物および用剤は1食当たりに摂取する量が予め定められた単位包装形態で提供することができる。1食当たりの単位包装形態としては、例えば、パック、包装、缶、ボトル等で一定量を規定する形態が挙げられる。本発明の組成物および用剤の各種作用をよりよく発揮させるためには、後述する、本発明のペプチドの1回当たりの摂取量に従って1食当たりの摂取量を決定できる。本発明の食品は、摂取量に関する説明事項が包装に表示されるか、あるいは説明事項が記載された文書等と一緒に提供されてもよい。
【0029】
単位包装形態においてあらかじめ定められた1食当たりの摂取量は、1日当たりの有効摂取量であっても、1日当たりの有効摂取量を2回またはそれ以上(好ましくは2または3回)に分けた摂取量であってもよい。従って、本発明の組成物および用剤の単位包装形態には、後述のヒト1日当たりの摂取量で本発明のペプチドを含有させることができ、あるいは、後述のヒト1日当たりの摂取量の2分の1から6分の1の量で本発明のペプチドを含有させることができる。本発明の組成物および用剤は、摂取の便宜上、1食当たりの摂取量が1日当たりの有効摂取量である、「1食当たりの単位包装形態」で提供することが好ましい。
【0030】
「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であっても、半液体やゲル状の形態であっても、固形体や粉末状の形態であってもよい。また、「サプリメント」としては、本発明のペプチドに賦形剤、結合剤等を加え練り合わせた後に打錠することにより製造された錠剤や、カプセル等に封入されたカプセル剤が挙げられる。
【0031】
本発明で提供される食品は、本発明のペプチドを含有する限り、特に限定されるものではないが、例えば、清涼飲料水、炭酸飲料、果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、牛乳等の畜乳、豆乳、乳飲料、ドリンクタイプのヨーグルト、ドリンクタイプやスティックタイプのゼリー、コーヒー、ココア、茶飲料、栄養ドリンク、エナジー飲料、スポーツドリンク、ミネラルウォーター、ニア・ウォーター、ノンアルコールのビールテイスト飲料等の非アルコール飲料;飯類、麺類、パン類およびパスタ類等炭水化物含有飲食品;チーズ類、ハードタイプまたはソフトタイプのヨーグルト、畜乳その他の油脂原料による生クリーム、アイスクリーム等の乳製品;クッキー、ケーキ、チョコレート等の洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、ラムネ等のタブレット菓子(清涼菓子)、キャンディー類、ガム類、ゼリーやプリン等の冷菓や氷菓、スナック菓子等の各種菓子類;ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1%以下のノンアルコールビール、発泡酒、その他雑酒、酎ハイ等のアルコール飲料;卵を用いた加工品、魚介類や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味を含む)、味噌汁等のスープ類等の加工食品、みそ、しょうゆ、ふりかけ、その他シーズニング調味料等の調味料、濃厚流動食等の流動食等を例示することができる。なお、ミネラルウォーターは、発泡性および非発泡性のミネラルウォーターのいずれもが包含される。また、本発明で提供される食品には、食品製造原料および食品添加物のいずれもが含まれる。
【0032】
茶飲料としては、発酵茶、半発酵茶および不発酵茶のいずれもが包含され、例えば、紅茶、緑茶、麦茶、玄米茶、煎茶、玉露茶、ほうじ茶、ウーロン茶、ウコン茶、プーアル茶、ルイボスティー、ローズ茶、キク茶、イチョウ葉茶、ハーブ茶(例えば、ミント茶、ジャスミン茶)が挙げられる。
【0033】
果汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる果物としては、例えば、リンゴ、ミカン、ブドウ、バナナ、ナシ、モモ、マンゴー、アサイー、ブルーベリーおよびウメが挙げられる。また、野菜汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる野菜としては、例えば、トマト、ニンジン、セロリ、カボチャ、キュウリおよびスイカが挙げられる。
【0034】
本発明のペプチドの摂取量は、受容者の性別、年齢および体重、症状、摂取時間、剤形、摂取経路並びに組み合わせる薬剤等に依存して決定できる。髪の外観改善(髪の脱毛、薄毛、脱色化、薄色化の改善等を含む)や、発毛促進および抜け毛抑制を目的とした本発明のペプチドの成人1日当たりの摂取量(乾燥質量換算)は、例えば、0.001~1000mg(好ましくは0.01~100mg)である。上記の本発明のペプチドの摂取量および下記摂取タイミングおよび摂取期間は、本発明のペプチドを非治療目的および治療目的のいずれで使用する場合にも適用があり、治療目的の場合には摂取は投与に読み替えることができる。なお、本発明のペプチドはヒト以外の哺乳動物(好ましくは体毛で覆われた動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対しても摂取させることができ、摂取量、摂取タイミングおよび摂取期間はヒトに関する記載を参考にして決定することができる。
【0035】
本発明のペプチドの摂取期間は、上記1日量での摂取を少なくとも3日間(好ましくは5日間、10日、または13日間)とすることができる。本発明のペプチドの摂取間隔は、上記1日量での摂取を3日に1回、2日に1回または1日1回とすることができる。
【0036】
本発明の組成物および用剤並びに食品には、髪の外観改善効果を有する旨の表示が付されてもよい。この場合、消費者に理解しやすい表示とするため本発明の組成物および用剤並びに食品には以下の一部または全部の表示が付されてもよい。なお、本発明において「髪の外観改善」が以下の表示を含む意味で用いられることはいうまでもない。
・髪の毛の老化が気になる方に
・髪の毛のアンチエージングのために
・抜け毛、脱毛、薄毛、白髪が気になる方に
【0037】
本発明の別の面によれば、有効量の本発明のペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物あるいはそれを含む組成物を、それを必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、髪の外観改善方法が提供される。本発明によればまた、有効量の本発明のペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物あるいはそれを含む組成物を、それを必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、髪の脱毛、薄毛または脱色の治療、予防または改善方法が提供される。本発明によればまた、有効量の本発明のペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物あるいはそれを含む組成物を、それを必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、発毛促進方法および抜け毛抑制方法が提供される。本発明の方法は、本発明の組成物および用剤に関する記載に従って実施することができる。
【0038】
本発明のさらに別の面によれば、髪の外観改善剤の製造のための、髪の外観改善剤としての、あるいは本発明の髪の外観改善方法における、本発明のペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物の使用が提供される。本発明によればまた、髪の脱毛、薄毛または脱色の治療剤、予防剤または改善剤の製造のための、髪の脱毛、薄毛または脱色の治療剤、予防剤または改善剤としての、あるいは本発明の髪の脱毛、薄毛または脱色の治療、予防または改善方法における、本発明のペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物の使用が提供される。本発明によればまた、発毛促進剤または抜け毛抑制剤の製造のための、発毛促進剤または抜け毛抑制剤としての、あるいは本発明の発毛促進方法または抜け毛抑制方法における、本発明のペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物の使用が提供される。本発明の使用は、本発明の組成物および用剤に関する記載に従って実施することができる。
【0039】
本発明のさらにまた別の面によれば、髪の外観改善に用いるための、WYのアミノ酸配列を有するペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物が提供される。本発明によればまた、髪の脱毛、薄毛または脱色の治療、予防または改善に用いるための、WYのアミノ酸配列を有するペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物が提供される。本発明によればまた、発毛促進または抜け毛抑制に用いるための、WYのアミノ酸配列を有するペプチドまたはその薬学上許容される塩もしくは溶媒和物が提供される。上記のWYのアミノ酸配列を有するペプチド並びにその薬学上許容される塩および溶媒和物は、本発明の組成物および用剤に関する記載に従って実施することができる。
【0040】
本発明の方法および本発明の使用はヒトを含む哺乳動物における使用であってもよく、治療的使用と非治療的使用のいずれもが意図される。本明細書において、「非治療的」とはヒトを手術、治療または診断する行為(すなわち、ヒトに対する医療行為)を含まないことを意味し、具体的には、医師または医師の指示を受けた者がヒトに対して手術、治療または診断を行う方法を含まないことを意味する。
【実施例】
【0041】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定される
ものではない。
【0042】
例1:加齢による外観の悪化に対するWYペプチドの改善効果
(1)試験の概要
老齢マウスについて、被験食品摂取群と非摂取群の外観を比較検討した。また、若齢マウスの被験食品非摂取群と比較検討した。被験食品として、WYペプチドを用いた。
【0043】
(2)マウス
C57BL/6J雄マウス(日本チャールス・リバー社、本明細書において単に「本マウス」ということがある)を使用した。日本チャールス・リバー社の資料によれば(https://www.crj.co.jp/cms/cmsrs/img/usr/top/B6-Aged.pdf)、本マウスはジャクソン研究所により開発され、加齢研究に広く使われているものであり、本マウス32匹を観察した結果、100週齢で死亡個体が発生し、170週齢までに全ての個体が死亡したことが公開されている(マウス・フェノーム・データベース(https://www.phenome.jax.org/)参照)。本マウスとヒトとの生涯の対応は、ヒト20~30歳が本マウス3~6月齢(成熟個体)と、ヒト38~47歳が本マウス10~14月齢(中年個体)と、ヒト56~69歳が本マウス18~24月齢(老年個体)とそれぞれ対応する。また、加齢にともなって被毛が薄くなったり、灰色や茶色になることがあり、部分的な脱毛がみられることもあるとされている。本試験では、老齢マウスとして本マウス78週齢の個体を、若齢マウスとして本マウス6月齢の個体を、それぞれ1ヵ月の馴化飼育の後に使用した。老齢マウスは、被験食品(WYペプチド)を摂取させる「老齢WY摂取群」(9匹)と、被験食品を摂取させない「老齢非摂取群」(8匹)とに体重の偏りが無いように群分けした。また、若齢マウスは、被験食品を摂取させない「若齢非摂取群」(5匹)とし、老齢非摂取群と同じ条件で飼育した。割付時および評価時の各個体の体重を測定した。
【0044】
(3)被験食品(WYペプチド)の投与
老齢WY摂取群には、WYペプチドを10mg/kgの量となるようゾンデで胃内に強制投与した。なお、WYペプチドはその摂取量が10mL/kg(マウス体重)となるように蒸留水で溶解して使用した。老齢非摂取群には、WYペプチドを含まない蒸留水10mL/kg(マウス体重)をゾンデで胃内に強制投与した。摂取期間は13日間とした。
【0045】
(4)評価
摂取期間終了後、マウス各個体を背部から観察して評価した。評価項目は、毛量(見た目のボリューム感)並びに毛質として毛艶および毛色の3項目とした。若齢非摂取群の各個体に毛量と毛質のばらつきがほとんど認められなかったことから、若齢非摂取群の毛量および毛質を基準として、老齢WY摂取群と老齢非摂取群の各個体を表1に示す評価基準に基づいて5段階評価した。本試験における観察によれば、本マウスは加齢に伴い毛色が黒色、茶色、うす茶色、白色の順に脱色化(白毛化)することが確認されたため、毛色についての評価は、若齢非摂取群との比較ではなく、各個体における毛全体に対する白色の毛(白毛)の割合で評価する絶対評価とした。また、本試験における観察によっても、本マウスは脱毛が進行し、毛量(見た目のボリューム感)が減少することが確認された。なお、評価は研究者2名のディスカッションにより行った。
【0046】
【0047】
(5)統計処理
各群の測定値は、平均値±標準偏差で表記した。検定は、t検定により行い、危険率P<0.05%であった場合に、比較した両群間に有意差ありとした。
【0048】
(6)結果
結果は、
図1、表2および表3に示した通りであった。
【0049】
【0050】
【0051】
図1、表2および表3の結果から、老齢非摂取群の毛量および毛質(毛艶、毛色)のスコアは、若齢非摂取群と比較して極めて低かった。一方、老齢WY摂取群では、老齢非摂取群と比較して、毛量および毛質(毛艶、毛色)の評点が有意に増加し、若齢非摂取群と同程度であることが確認された。老齢WY摂取群における毛質の改善については、ターンオーバー(抜け毛と発毛)により新たに生えた毛の毛質(毛艶、毛色)が改善されたことによるものと考えられた。このことからさらに、老齢WY摂取群における毛量(脱毛)の改善については、ターンオーバーにより新たに生える毛が増えた可能性が考えられた。これらの結果から、WYペプチドの摂取は、毛量および毛質(毛艶、毛色)の悪化を改善し、髪の外観の老化および悪化を改善することが示された。また前記の通り、本マウスは加齢に伴い脱毛が進行して毛量が減少するところ、老齢WY摂取群では老齢非摂取群に対して有意に毛量が増加することが確認された。従って、WYペプチドの摂取は発毛促進および抜け毛抑制に効果があるといえる。