(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】透過性を有する材料にビアを穿孔するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/382 20140101AFI20240816BHJP
B23K 26/402 20140101ALI20240816BHJP
C03C 23/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B23K26/382
B23K26/402
C03C23/00 D
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023142673
(22)【出願日】2023-09-04
(62)【分割の表示】P 2021518967の分割
【原出願日】2019-10-02
【審査請求日】2023-09-08
(32)【優先日】2018-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593141632
【氏名又は名称】エレクトロ サイエンティフィック インダストリーズ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100109896
【氏名又は名称】森 友宏
(72)【発明者】
【氏名】松本 久
(72)【発明者】
【氏名】クライネルト,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】リン,ジィビン
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-509300(JP,A)
【文献】特表2017-510531(JP,A)
【文献】特開2008-288577(JP,A)
【文献】特開2004-337901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/382
B23K 26/402
C03C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に貫通ビアを形成するための方法であって、
第1の面と、前記第1の面とは反対側にある第2の面とを有する基板を用意し、
100μs未満の穿孔期間中に、集束レーザパルスビームを前記基板の前記第1の面を通過する位置で前記基板に照射し、続いて前記基板の前記第2の面を通過する位置で前記基板に照射し、
前記集束レーザパルスビームは、前記基板が少なくとも実質的に透過性を有する波長を有し、
前記基板での前記集束レーザパルスビームの光強度は、前記基板の光学破壊強度よりも低く、
前記集束レーザパルスビームは、ガウス形エネルギー分布を有し、
前記集束レーザパルスビームは、5MHzよりも高いパルス繰り返し率を有し、
前記集束レーザパルスビーム内のレーザパルスは、200fsよりも長いパルス幅を有する、
方法。
【請求項2】
前記基板は、電磁スペクトルの紫外光領域内の少なくとも1つの波長に対して少なくとも実質的に透過性を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記基板は
、電磁スペクトルの可視光領域内の少なくとも1つの波長に対して少なくとも実質的に透過性を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記基板は
、電磁スペクトルの赤外光領域内の少なくとも1つの波長に対して少なくとも実質的に透過性を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記基板はガラスである、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記基板はサファイヤである、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記基板はシリコンダイである、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記基板はGaNダイである、請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
前記集束レーザパルスビームは、25MHzよりも高いパルス繰り返し率を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
前記集束レーザパルスビームは、40MHzよりも高いパルス繰り返し率を有する、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記集束レーザパルスビームは、300MHzよりも高いパルス繰り返し率を有する、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記集束レーザパルスビームは、500MHzよりも高いパルス繰り返し率を有する、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記集束レーザパルスビーム内のレーザパルスは、50psよりも短いパルス幅を有する、請求項
10に記載の方法。
【請求項14】
基板内に貫通ビアを形成するための方法であって、
30μmから150μmの範囲の厚さを有し、第1の面と、前記第1の面とは反対側にある第2の面とを有する基板を用意し、
前記基板の前記第1の面を通過し、その後前記基板の前記第2の面を通過するように前記基板に集束レーザパルスビームを照射し、
前記集束レーザパルスビームは、前記基板が少なくとも実質的に透過性を有する波長を有し、
前記基板での前記集束レーザパルスビームの光強度は、前記基板の光学破壊強度よりも低く、
前記集束レーザパルスビームは、ガウス形エネルギー分布を有し、
前記集束レーザパルスビームは、パルス繰り返し率、前記基板でのピーク光強度、及び累積加熱効果を生じる前記基板での平均パワーを有し、
前記集束レーザパルスビーム内のレーザパルスはパルス幅を有し、
前記ピーク光強度、前記パルス繰り返し率、前記平均パワー、及び前記パルス幅は、前記貫通ビアが40μsよりも短い時間中に形成されるように選択される、
方法。
【請求項15】
前記ピーク光強度、前記パルス繰り返し率、前記平均パワー、及び前記パルス幅は、前記貫通ビアが30μsよりも短い時間中に形成されるように選択される、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記ピーク光強度、前記パルス繰り返し率、前記平均パワー、及び前記パルス幅は、前記貫通ビアが20μsよりも短い時間中に形成されるように選択される、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記ピーク光強度、前記パルス繰り返し率、前記平均パワー、及び前記パルス幅は、前記貫通ビアが10μsよりも短い時間中に形成されるように選択される、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記ピーク光強度、前記パルス繰り返し率、前記平均パワー、及び前記パルス幅は、前記貫通ビアが5μsから15μsの範囲内の時間中に形成されるように選択される、請求項
15に記載の方法。
【請求項19】
基板に貫通ビアを形成するための方法であって、
第1の面と、前記第1の面とは反対側にある第2の面とを有する基板を用意し、
前記基板の前記第1の面を通過し、その後前記基板の前記第2の面を通過するように前記基板に集束レーザパルスビームを照射し、
前記集束レーザパルスビームは、前記基板が少なくとも実質的に透過性を有する波長を有し、前記集束レーザパルスビームのビームウェストは、前記基板の前記第1の面よりも前記基板の前記第2の面に近く、
前記集束レーザパルスビームは、
前記第2の面に近い前記基板の領域を溶融することにより、前記基板内に溶融ゾーンを生成し、
前記溶融ゾーンを前記第1の面に向けて伝搬させ、
前記溶融ゾーン内に位置する前記基板の材料を気化又は蒸発させる
のに十分なパルス繰り返し率、前記基板でのピーク光強度、及び前記基板での平均パワーによって特徴付けられる、
方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2018年10月8日に提出された米国仮特許出願第62/742,694号の利益を主張するものであり、当該仮特許出願はその全体が参照により組み込まれる。
【背景】
【0002】
I.技術分野
本発明の実施形態は、概して、基板の加工に関するものであり、特に、基板に貫通ビアのようなビアをレーザ穿孔することに関するものである。
【0003】
II.関連技術の説明
電子技術の用途に関しては精密に形成された孔を有する薄いガラスが注目を集めている。これらの孔には導電材料が充填され、これらの孔は、ある部品から他の部品に電気信号を伝達するために使用される。これにより、中央処理装置、メモリチップ、画像処理装置、又は他の電子的構成要素の精密な接続が実現される。そのような用途に関して、内部にメタライズされた孔を有する基板は、典型的には、「インタポーザ」と呼ばれる。繊維強化ポリマ又はシリコンのような現在使用されているインタポーザ材料と比較すると、ガラスは、有利な特性を数多く備えている。ガラスは、研磨を要することなく、大きなシート内に薄く滑らかに形成することができ、有機物の代替物よりも堅く、寸法安定性も高い。ガラスは、シリコンよりもずっと良い電気的絶縁物であり、有機物の選択肢よりも(熱的及び剛性)寸法安定性も良い。ガラスは、異なる熱膨張係数に適合させて集積回路において積み重なった反りを制御することができる。
【0004】
ガラス内に孔を形成するために、ホットプレス法や光学的に加工可能なガラスのリソグラフィ、放電ドリリング、粉末ブラスト法、及び様々なレーザ穿孔プロセスのような種々の孔形成方法を使用することができる。これらの手法のいずれかを用いた場合の課題は、一般的に、十分な品質(低いクラック率、適切なサイズや真円度)の孔を十分に高いビア形成速度(個/秒)で形成することであり、これが最終的にコストに影響を与える。例えば、ガラスのホットプレス法では、十分に小さい寸法(約100ミクロン以下)の孔を形成することが難しい。放電ドリリングは、狭い孔ピッチ(すなわち、孔間の距離が約50ミクロン未満)に対処するのが難しいことがある。ビームトレパニングを用いた孔のレーザ穿孔は、速度が遅いことがある(例えば約1個/秒)。エキシマレーザ加工及び光学的に加工可能ガラスは初期投資コストが大きくなり得る。
【0005】
従来から特に高品質の孔を形成するレーザ穿孔プロセスが開発されてきた。例えば、1つの孔に対して複数の(例えば、数百の)レーザパルスを用いてガラス部品にパイロット孔(それぞれ直径が約10ミクロン)を形成するためのパーカッションドリリングプロセスにおいてはUVナノ秒レーザを用いることができる。その後、この部品は、パイロット孔を大きくして目標とする寸法を実現するために酸でエッチング処理される。その後、エッチングされた孔がメタライズされ、電気信号のファンアウトのための再配置層が追加され、この部品がより小さな個片にダイシングされて機能的インタポーザが生成される。しかしながら、UVナノ秒レーザを用いたレーザ穿孔は、時間のかかるプロセスであり、パーカッションドリリング(すなわち同一の位置に次々とパルスを当てる)では、単一の孔を所望の深さにまで穿孔するために数百のパルスが必要となることがある。精密レーザ穿孔のプラットフォームを構築するための資本コストは相当なものとなり得るので(1台当たり100万ドルに近づいている)、孔形成の速度は、インタポーザの生産コスト全体の中でキーパラメータとなる。また、ガラス部品をエッチングすると、エッチング後に異なるガラス部品が実質的に同一の厚さを有するようにすることが難しくなる。
【0006】
従来の他のレーザ穿孔プロセスには、ビアが必要とされる場所がどこであるかにかかわらず、ガラス部品を改質するためにベッセルビームプロファイルを有する単一のレーザパルスを用いた後、ビアを形成するためにその部品を酸でエッチングするシングルショットレーザプロセスがある。毎秒5000個までのビアを生成するために(1つのビア当たり200μs)このプロセスを用いることができるが、このプロセスは、上述したように、完成品においてガラス部品の均一の厚さを実現することを難しくさせ得るエッチングを依然として必要としている。さらに、ベッセルビームプロファイルを有するレーザパルスは、従来のビームステアリング方法(例えば、ガルバノメータミラーなど)を用いて高速で偏向することが難しい。したがって、比較的散在するビアのパターンを形成するために必要な時間は、典型的には、毎秒5000個のビアよりもずっと遅い。
【0007】
Karimelahi、Samira、Ladan Abolghasemi、及びPeter R. Herman著、「Rapid micromachining of high aspect ratio holes in fused silica glass by high repetition rate picosecond laser」、Applied Physics A 114.1(2014年)の91~111ページにおいては、IR及び緑色超高速レーザ及びガウシアン焦点スポットを用いてガラスに高いアスペクト比のビアを生成することができるが、それらのビアは品質が悪いか、引き続きエッチング工程をしなければならなかったことが綿密な研究により明らかになった。したがって、ガラスのような材料をレーザ穿孔する方法であって上述した問題を最小限にする、あるいはなくしてしまうような方法に対する需要が存在する。
【概要】
【0008】
一実施形態は、上記基板の第1の面から上記基板の上記第1の面とは反対にある上記基板の第2の面まで連続的に延びる複数のレーザドリル貫通孔を有する基板を含み、上記複数のレーザドリル貫通孔は、10μm以上の直径を有し、隣接するエッチングされた貫通孔の間隔は30μm以上であり、上記複数のレーザドリル貫通孔は、上記第1の面における開口と、上記第2の面における開口と、上記第1の面における上記開口と上記第2の面における上記開口との間に位置するウェストとを含み、上記ウェストの直径は、上記第1の面における上記開口又は上記第2の面における上記開口の直径の75%以上であり、上記第1の面における上記開口の直径と上記第2の面における上記開口の直径との差は3.5μm以下である、製品として特徴付けることができる。
【0009】
他の実施形態は、基板に貫通ビアを形成するための方法であって、第1の面と、上記第1の面とは反対側にある第2の面とを有する基板を用意し、100μs未満の穿孔期間中に、集束レーザパルスビームを上記基板の上記第1の面を通過する位置で上記基板に照射し、続いて上記基板の上記第2の面を通過する位置で上記基板に照射し、上記集束レーザパルスビームは、上記基板が少なくとも実質的に透過性を有する波長を有し、上記基板での上記集束レーザパルスビームの光強度は、上記基板の光学破壊強度よりも低く、上記集束レーザパルスビームは、ガウス形エネルギー分布を有し、上記集束レーザパルスビームは、5MHzよりも高いパルス繰り返し率を有し、上記集束レーザパルスビーム内のレーザパルスは、200fsよりも長いパルス幅を有する、方法として特徴付けることができる。
【0010】
他の実施形態は、基板内に貫通ビアを形成するための方法であって、30μmから150μmの範囲の厚さを有し、第1の面と、上記第1の面とは反対側にある第2の面とを有する基板を用意し、上記基板の上記第1の面を通過し、その後上記基板の上記第2の面を通過するように上記基板に集束レーザパルスビームを照射し、上記集束レーザパルスビームは、上記基板が少なくとも実質的に透過性を有する波長を有し、上記基板での上記集束レーザパルスビームの光強度は、上記基板の光学破壊強度よりも低く、上記集束レーザパルスビームは、ガウス形エネルギー分布を有し、上記集束レーザパルスビームは、パルス繰り返し率、上記基板でのピーク光強度、及び累積加熱効果を生じる上記基板での平均パワーを有し、上記集束レーザパルスビーム内のレーザパルスはパルス幅を有し、上記ピーク光強度、上記パルス繰り返し率、上記平均パワー、及び上記パルス幅は、上記貫通ビアが40μsよりも短い時間中に形成されるように選択される、方法として特徴付けることができる。
【0011】
さらに他の実施形態は、基板に貫通ビアを形成するための方法であって、第1の面と、上記第1の面とは反対側にある第2の面とを有する基板を用意し、上記基板の上記第1の面を通過し、その後上記基板の上記第2の面を通過するように上記基板に集束レーザパルスビームを照射し、上記集束レーザパルスビームは、上記基板が少なくとも実質的に透過性を有する波長を有し、上記集束レーザパルスビームのビームウェストは、上記基板の上記第1の面よりも上記基板の上記第2の面に近く、上記集束レーザパルスビームは、上記第2の面に近い上記基板の領域を溶融することにより、上記基板内に溶融ゾーンを生成し、上記溶融ゾーンを上記第1の面に向けて伝搬させ、上記溶融ゾーン内に位置する上記基板の材料を気化又は蒸発させるのに十分であるパルス繰り返し率、上記基板でのピーク光強度、及び上記基板での平均パワーによって特徴付けられる、方法として特徴付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、レーザ穿孔プロセスを実施するための例示的レーザ加工システムを示すものである。
【
図2-3】
図2及び
図3は、一実施形態によるレーザ穿孔プロセスを用いて例示的ガラス基板に穿孔された貫通ビアを示す写真である。
【
図4】
図4は、ある実施形態においてガラス基板にレーザ穿孔プロセスを行った実験の結果を示すグラフである。
【
図5-8】
図5から
図8は、本明細書に述べられている実施形態により処理されて貫通ビアが形成された切断ガラス基板の写真である。
【詳細な説明】
【0013】
本明細書においては、実施形態の例が添付図面を参照して述べられる。明確にそうでないことが記載されていない限り、図面においては、構成要素、特徴、要素などのサイズや位置など、またそれらの間の距離は、必ずしも縮尺通りではなく、明確にするために誇張されている。図面を通して同様の数字は同様の要素を意味している。このため、同一又は類似の数字は、対応する図面で言及又は説明されていない場合であっても、他の図面を参照して述べられることがある。また、参照番号の付されていない要素であっても、他の図面を参照して述べられることがある。
【0014】
本明細書において使用される用語は、特定の例示的な実施形態を説明するためだけのものであり、限定を意図しているものではない。特に定義されている場合を除き、本明細書において使用される(技術的用語及び科学的用語を含む)すべての用語は、当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される場合には、内容が明確にそうではないことを示している場合を除き、単数形は複数形を含むことを意図している。さらに、「備える」及び/又は「備えている」という用語は、本明細書で使用されている場合には、述べられた特徴、整数、ステップ、動作、要素、及び/又は構成要素の存在を特定するものであるが、1つ以上の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、及び/又はそのグループの存在又は追加を排除するものではないことを理解すべきである。特に示している場合を除き、値の範囲が記載されているときは、その範囲は、その範囲の上限と下限の間にあるサブレンジだけではなく、その上限及び下限を含むものである。特に示している場合を除き、「第1」や「第2」などの用語は、要素を互いに区別するために使用されているだけである。例えば、あるノードを「第1のノード」と呼ぶことができ、同様に別のノードを「第2のノード」と呼ぶことができ、あるいはこれと逆にすることもできる。
【0015】
特に示されている場合を除き、「約」や「その前後」、「およそ」などの用語は、量、サイズ、配合、パラメータ、及び他の数量及び特性が、正確ではなく、また正確である必要がなく、必要に応じて、あるいは許容誤差、換算係数、端数計算、測定誤差など、及び当業者に知られている他のファクタを反映して、概数であってもよく、さらに/あるいは大きくても小さくてもよいことを意味している。本明細書において、「下方」、「下」、「下側」、「上方」、及び「上側」などの空間的に相対的な用語は、図に示されるような、ある要素又は特徴の他の要素又は特徴に対する関係を述べる際に説明を容易にするために使用され得るものである。空間的に相対的な用語は、図において示されている方位に加えて異なる方位を含むことを意図するものであることは理解すべきである。例えば、他の要素又は特徴の「下方」又は「下」にあるとして説明される要素は、図中の対象物が反転した場合には、他の要素又は特徴の「上方」を向くことになる。このように、「下方」という例示的な用語は、上方及び下方の方位の双方を含み得るものである。対象物が他の方位を向く場合(例えば90度回転される場合や他の方位にある場合)には、本明細書において使用される空間的に相対的な記述子はこれに応じて解釈され得る。
【0016】
本開示の精神及び教示を逸脱することなく、多くの異なる形態、実施形態及び組み合わせが考えられ、本開示を本明細書で述べた実施形態の例に限定して解釈すべきではないことは理解できよう。むしろ、これらの例及び実施形態は、本開示が完全かつすべてを含むものであって、本開示の範囲を当業者に十分に伝えるように提供されるものである。
【0017】
本明細書で説明される実施形態においては、基板に貫通ビアを穿孔するためのレーザ穿孔プロセスは、レーザパルスビームが基板の第1の面を通って基板内に送られ、基板内を第1の面とは反対側にある基板の第2の面に向かって伝搬するように基板にビームレーザパルスを照射する。一般的に、第2の面上又はその近傍(基板の内側又は外側)にビームウェストが位置するようにレーザパルスビームが集束される。
【0018】
ある実施形態においては、基板は、ガラス(例えば、ホウケイ酸ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、アルカリ鉛ケイ酸ガラス、アルカリアルカリ土類ケイ酸ガラス、酸化ゲルマニウムガラス、石英ガラスなど)、合成水晶、ガラスセラミック(例えば、リチウム-アルミニウム-ケイ酸)、セラミック、サファイヤ、半導体材料(例えば、Si、SiGe、GaAs、GaN、SiCなど)など、あるいはこれらを任意に組み合わせたものからなる製品として提供される。したがって、この製品は、ガラスインタポーザ、シリコンインタポーザ、半導体ウェハ、半導体ダイ、(例えば、ディスプレイスクリーン用、ウェハ実装又は他の他の半導体実装用、ディスプレイパネル実装用、MEMS又はセンサデバイス用などの)基板など、あるいはこれらを任意に組み合わせたものとして提供され得る。ある実施形態においては、基板は、(例えば、30μm(又はその前後)から150μm(又はその前後)の範囲の厚さを有する)製品として提供される。しかしながら、基板により具体化される特定の製品によっては、基板の厚さは、30μmよりも薄くてもよく、あるいは150μmよりも厚くてもよいことは理解されるべきである。
【0019】
一般的に、基板に照射されるレーザパルスビームは、基板が実質的に透過性を有する波長を有する。本明細書で使用される場合には、基板によるレーザパルスビームの吸収が当該波長において材料深さ1mm辺り約20%よりも低い(例えば、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約1%未満)場合に、基板がレーザパルスビームの波長に対して「実質的に透過性を有する」と考えられる。したがって、基板を形成している材料に応じて、レーザパルスビームは、電磁スペクトルの紫外光領域、可視光領域、又は赤外光領域内の波長を有し得る。例えば、ある実施形態においては、基板がガラス、石英、又はサファイヤからなる製品である場合には、レーザパルスビームは、300nm(又はその前後)から1064nm(又はその前後)の範囲の波長を有し得る、。
【0020】
以下でより詳細に述べるように、レーザ穿孔プロセスは、パルス波長、パルス幅、パルスエネルギー、パルス繰り返し率、基板でのピーク光強度、穿孔期間(すなわち、貫通ビアを形成するために基板の特定の位置にレーザパルスが照射されている時間)、及び基板でのレーザパルスビームの平均パワーをはじめとするパラメータにより特徴付けることができる。一般的に、レーザ穿孔プロセス中に基板に最終的に照射されるレーザパルスビームは、ガウス形エネルギープロファイルを有している。ガウス形エネルギープロファイルを有するレーザパルスビームを用いることにより、従来のビームステアリング技術(例えば、ガルバノメータミラー、ファストステアリングミラー、回転多面鏡、音響光学偏向器、電気光学偏向器など)を用いてレーザパルスビームを高速に偏向して基板に貫通ビアを形成することが可能になる。必要とされるビアの直径によっては、(例えば、1μmから100μmの範囲、例えば、10μm、20μm、30μm、50μmなどの直径を有するビアを形成するときには)パーカッションドリリングプロセスを用いることができ、あるいは、同様の直径又はこれよりも大きな直径のビアを形成するために(例えば上述したように)ビームを偏向することができる。ビームを高速に偏向することができるので、従来のレーザ穿孔プロセスを用いた場合と比べて高いスループットで比較的散在する貫通ビアのパターンでさえ形成することができる。最後に、本明細書で述べられるレーザ穿孔プロセスは、許容される直径又は表面形態を有する貫通ビアを得るために酸エッチングプロセスを必要としない。
【0021】
また、レーザ穿孔プロセスは、本明細書において「z範囲」と呼ばれるパラメータにより特徴付けることができる。z範囲は、基板の第2の面と、レーザ穿孔プロセスが行われている間に基板に貫通ビアを形成するレーザパルスビームのビームウェストとの間の距離の範囲である。z範囲はレーザ穿孔プロセスの上述した他のパラメータの少なくとも一部に依存していることが本発明者等により発見されている。例えば、所定のパルス波長、パルス幅、及びパルス繰り返し率で、かつ、閾値穿孔期間及び基板での平均パワーを上回る条件では、レーザ穿孔プロセス中における穿孔期間と基板での平均パワーとに応じてz範囲が変化することが発見されている。十分に大きなz範囲が得られるレーザ穿孔プロセスパラメータ(例えば、所定のパルス波長、パルス幅、及びパルス繰り返し率での穿孔期間及び基板での平均パワー)の値を特定することは大変である。これは、基板は、典型的には、完全に均一な厚さを有しておらず(すなわち、約10μm以上のオーダで厚さの変動性が生じ得る)、さらに/あるいはレーザ穿孔プロセスが行われているときに完全に平坦ではなく(すなわち、約10μm以上のオーダで基板上に何らかのうねりが生じ得る)、ある基板の厚さは他の基板の厚さと異なり得るからである。z範囲が基板の厚さと平坦性の変動に適応していない場合には、レーザ穿孔プロセスによって確実に貫通ビアを形成することができない。
【0022】
穿孔後に、貫通ビアは導電材料などでコーティングされ、さらに/あるいは導電材料などで充填され得る。例えば、ガラスインタポーザのような基板に貫通ビアが形成され、導電材料(例えば、銅、アルミニウム、金、銀、鉛、スズ、酸化インジウムスズなど、あるいはこれらを任意に組み合わせたもの、あるいはその合金)でコーティングされ、さらに/あるいは導電材料で充填され得る。貫通ビアの内部をメタライズするために使用されるプロセスは、例えば、電解めっき、無電解めっき、物理蒸着、又は他の蒸着コーティング方法であり得る。また、貫通ビアは、プラチナ、パラジウム、二酸化チタンのような触媒材料、あるいは孔の内部での化学反応を促進する他の材料でコーティングされていてもよい。あるいは、貫通ビアは、表面の濡れ特性を変化させ、あるいは生体分子の付着を可能にするように化学的機能化でコーティングされ、生化学分析のために使用されていてもよい。そのような化学的機能化は、貫通ビアのガラス表面のシラン処理、及び/又は所望の用途に対して生体分子の付着を促進するように設計された特定のタンパク質、抗体、又は他の生物学的に特有な分子の付加的な付着であり得る。
【0023】
一般的に、レーザパルスビームは、パルス繰り返し率、パルスエネルギー、及びパルス幅のようなパラメータにより特徴付けることができる。パルスエネルギー及びパルス幅は、レーザパルスビームの焦点が合わされたときに、ビームウェストが基板の第2の面からオフセット距離だけ離れ、集束レーザパルスビームにおけるそれぞれのレーザパルスが、基板の光学破壊強度よりも低いピーク光強度で基板の一領域(すなわち、基板の当該領域でのレーザパルスのスポットサイズに対応する)に当たるように選択される。さらに、レーザパルスビームのパルス繰り返し率は、基板の照射された領域が初期期間(例えば、本明細書においては「インキュベーション期間」とも呼ばれる)中に熱を蓄積し得るように、(例えば、基板の一領域に当たるそれぞれのレーザパルスのピーク光強度を考慮して)十分に高くなるように選択される。インキュベーション期間中の基板の加熱は、主に基板材料による多光子吸収によって始まる。また、伝導帯と価電子帯との間に光吸収のための欠陥状態を生み出し得る基板内の点欠陥においては、インキュベーション期間中のレーザパルスの吸収も起こり得る。
【0024】
インキュベーション期間の最後になると、基板の照射領域(例えば、基板の第2の面上又はその近傍、基板の第1の面上又はその近傍、あるいはこれらを組み合わせたところに存在し得る)は、十分な量の熱を蓄積して基板の温度が局所的に上昇し、そのバンドギャップエネルギーが減少し、基板の照射領域が溶融して最終的には蒸発させることが可能な状態への遷移が可能となる。熱イオン化、すなわち、分子の電子的振動状態による高温でのバンドギャップの漸進オーバレイの結果として基板材料のバンドギャップが狭くなると考えられる。基板の高温領域内で衝撃イオン化及びカスケードイオン化も生じ、促進レーザ吸収にも寄与し得るキャリア密度の増加を引き起こし得ることも考えられる。レーザ穿孔プロセス中に溶融するようになる基板の領域は「溶融ゾーン」として特徴付けることができる。基板内の高温領域の縁部又は境界又は界面でレーザパルスの吸収率が大きく上昇すると、直ぐに溶融ゾーンが第1の面に向かって(すなわち、スキャンレンズ110からレーザパルスビームが伝搬する方向とは反対の方向に)累進的に成長していく。加えて、基板の内部において極めて高い温度では(すなわち3000℃を超える温度では)、多光子吸収の寄与がなくても熱イオン化された自由電子によって衝撃イオン化及びカスケードイオン化が生じ、レーザパルスの吸収が大きく増加し得ることが分かっている。溶融ゾーン内の温度が基板材料の気化/沸点を超えて増加すると、最終的に、溶融した基板材料をビアから(少なくとも主には第2の面を通って)押し出して貫通ビアを生成し得る大きな蒸気圧が生じる。したがって、インキュベーション期間の直後の付加的な期間(例えば、本明細書においては「除去期間」とも呼ばれる)の間、基板の照射領域に集束レーザパルスビームを留めて、基板の照射領域を加熱及び溶融し、(基板の厚さ方向の全長にわたっって)蒸発させて貫通ビアを形成してもよい。インキュベーション期間の開始から除去期間の終了までの全期間は、本明細書においては「穿孔期間」と呼ばれる。
【0025】
上記を考慮すると、本明細書に述べられているレーザ穿孔プロセスは、(集束レーザパルスビームにより照射された際の)基板の熱蓄積力学に大きく依存することは明らかであるはずである。したがって、レーザパルスビームは、当該技術分野において知られている任意の方法により生成及び集束されて集束レーザパルスビームが生成されてもよい。集束レーザパルスビーム中のそれぞれのレーザパルスは、基板を加熱する(が、アブレートしたり、クラックを生じさせたり、ダメージを与えたりはしない)のに十分な、基板でのピークパワーとピーク光強度を有している。レーザパルスの間に基板が実質的に冷却されるのを防ぐのに(例えば、上述したようにインキュベーション期間中に基板が熱を蓄積できるようにし、除去期間中に熱を蓄積し続けるのに)十分なピークパワーを有するレーザパルスを冷却防止に十分なパルス繰り返し率で生成するように当該技術分野で知られている任意の方法でレーザパルスビームがさらに生成される。しかしながら、集束レーザパルスビームのピークパワー、ピーク光強度、及びパルス繰り返し率は、基板が熱を蓄積するのが早過ぎてことを防止するように選択すべきでもある。熱を蓄積するのが早過ぎる場合には、レーザパルスビームが照射されていない基板の領域にクラックが生じたり、基板の外部に溶融した材料が噴出したりする望ましくない現象が生じてしまうことがある。
【0026】
一実施形態においては、本明細書で述べられたレーザ穿孔プロセスを行うように生成され、集束され、基板に照射されたレーザパルスビームは、1.27・1011W/cm2(又はその前後)のピーク光強度(例えば、当該技術分野において知られているようにピークパワーと基板でのスポットサイズによって決定される)で基板を照射するように30MHzのパルス繰り返し率と約78kWの基板でのピークパワー(例えば、当該技術分野において知られているようにパルスエネルギー及びパルス幅によって決定される)とを有するものとして特徴付けることができる。レーザパルスビームは、30MHzよりも高いか、あるいは30MHzよりも低いパルス繰り返し率を有していてもよく、パルス繰り返し率の変化を補償するために必要であれば(例えば、レーザパルスビーム中のレーザパルスのパルス幅又はパルスエネルギーを調整することにより)基板でのレーザパルスビームのピークパワーを維持し、あるいは調整することができることは理解すべきである。同様に、必要に応じて、パルス繰り返し率の変化を補償するために必要であれば、(例えば、レーザパルスビーム中のレーザパルスのパルス幅、パルスエネルギー、又は基板の第2の面でのスポットサイズを調整することにより)基板でのピーク光強度を維持し、あるいは調整することができる。穿孔期間中は、レーザパルスビーム中のレーザパルスのパルス繰り返し率、ピークパワー、パルス幅、又はパルスエネルギーが一定であってもよいし、変化してもよい。一般的に、レーザ穿孔プロセスを実施できる程度に十分に高いパルス繰り返し周波数とピークパワーを有するレーザパルスビームを生成することができるレーザは、200fs(又はその前後)から50ps(又はその前後)の範囲のパルス幅を有するレーザパルスを生成可能なQCWレーザである。例えば、レーザパルスは、200fs、400fs、800fs、1ps、2ps、5ps、10ps、20ps、25ps、30ps、40ps、45ps、50psなど、あるいはこれらの値のいずれかの間の値のパルス幅を有することができる。
【0027】
したがって、本明細書で述べられたレーザ穿孔プロセスを実施するためには、パルス繰り返し率の変化を補償するために必要であればレーザパルスビームのピークパワーと必要に応じて基板でのピーク光強度とが調整されるとすると、レーザパルスビームのパルス繰り返し率は、5MHz(又はその前後)から5GHz(又はその前後)の範囲であり得る。一実施形態においては、パルス繰り返し率は、5MHz(又はその前後)から500MHz(又はその前後)の範囲であり得る。他の実施形態においては、パルス繰り返し率は、25MHz(又はその前後)から40MHz(又はその前後)の範囲、150MHz(又はその前後)から180MHz(又はその前後)の範囲であり得る。
【0028】
基板の厚さ、レーザパルスビームのパルス繰り返し率、レーザパルスビーム中のレーザパルスのパルスエネルギー、レーザパルスビーム中のレーザパルスのパルス幅、基板でのピークパワー、基板での光強度のような1以上のファクタに応じて、穿孔期間は5μs(又はその前後)から120μs(又はその前後)の範囲であり得る。ある実施形態においては、穿孔期間は、50μs(又はその前後)以下、30μs (又はその前後)以下、20μs(又はその前後)以下、15μs(又はその前後)以下、10μs(又はその前後)以下など、あるいはこれらの値のいずれかの間の値であれば有利になり得る。
【0029】
集束レーザパルスビームのビームウェストが第2の面の近傍の基板の外側にあるとき、基板の第2の面と周辺環境(すなわち空気)との界面でレーザエネルギーの吸収が起きる。この界面は、レーザパルスビーム内のレーザエネルギーが基板に結合し始めるアブレーション閾値を下げるのに役立つ。比較的高いピーク強度は、基板の第2の面での吸収コーティングの必要性をなくすのに役立つ。本発明者等によりなされた実験から、集束レーザパルスビームが基板にダメージを与えない初期インキュベーション期間が存在するようである。
【0030】
ある実施形態においては、レーザパルスビーム内のエネルギーを吸収するであろう第1の面上の汚染物質を除去(あるいはその量を低減)するために基板の第1の面が洗浄される。本発明者等によってなされた実験においては、洗浄されていなかった第1の面の部分をレーザエネルギービームが通過すると、基板内に形成された貫通ビアは、第1の面で相対的に大きな開口を有し、第2の面で相対的に小さな開口を有する傾向があることがわかった。好適に洗浄されていた第1の面の部分をレーザエネルギービームが通過すると、基板内に形成された貫通ビアは、第1の面及び第2の面でほぼ同一の直径(例えば、それぞれの2μmから5μmの範囲内)の開口を有する傾向がある。
【0031】
このため、レーザ穿孔プロセス中における基板からの材料の除去は、基板材料の溶融とアブレーションの組み合わせを伴うように思われ、材料除去速度は、レーザパルスビームが比較的低い平均パワーを有するにもかかわらず、従来のレーザ穿孔プロセスと比べると驚くほど高かった。実際、本明細書で述べられているレーザ穿孔プロセスでは、従来のレーザ穿孔プロセスと比較するとビア形成速度において著しい改善が見られる。100μm以下の厚さの光学的に透明なガラス基板に対して本発明者等が行った実験(すなわち、パーカッションドリリング方法により本明細書に述べられたレーザ穿孔プロセスを行った)は、約10μmの直径を有する貫通ビアを15μs(又はその前後)で確実に形成することができることを示している。50μm以下の厚さの光学的に透明なガラス基板に対して本発明者等が行った実験(すなわち、パーカッションドリリング方法により本明細書に述べられたレーザ穿孔プロセスを行った)は、約10μmの直径を有する貫通ビアをたった5μs(又はその前後)で形成することができ、15μs(又はその前後)で確実に形成することができることを示している。本明細書で述べられている実施形態におけるレーザ穿孔プロセスとは対照的に、透過性を有する波長で10ピコ秒未満のパルス幅を有するレーザパルスを用いて光学的に透明なガラス基板に対して行う従来のレーザ穿孔プロセスは非線形吸収に依存しており、1つの貫通ビアを形成するために必要とされる時間が、本明細書に述べられているレーザ穿孔プロセスにより1つの貫通ビアを形成するのに必要とされる時間よりも数倍長い傾向にある。
【0032】
図1は、上記実施形態において述べられたレーザ穿孔プロセスを実施するための例示的なレーザ加工システムを示すものである。
図1を参照すると、レーザ加工システム100は、レーザ102、ビームエキスパンダ104、ビーム変調器106、ビームスキャナ108、スキャンレンズ110、及びステージ112を含んでいる。
【0033】
レーザ102は、上記の特性を有するレーザパルスビームを生成可能な任意の好適なレーザ(例えば、上記の特性を有するレーザパルスビームを生成可能なQCWレーザ)であり得る。例えば、レーザ102は、平均パワー100W(又はその前後)、波長515nm(又はその前後、例えば532nm)、パルス幅の範囲20ps(又はその前後)から40ps(又はその前後)、パルス繰り返し率の範囲25MHz(又はその前後)から40MHz(又はその前後)でレーザパルスビームを生成するように構成され得る。一実施形態においては、レーザパルスのパルス幅は28ps(又はその前後)であり、パルス繰り返し率は30MHz(又はその前後)である。
【0034】
ビームエキスパンダ104は、入射ビームを第1のビームサイズ(例えば、直径2mm又はその前後)から第2のビームサイズ(例えば、直径4.5mm又はその前後)に拡大可能な任意の好適な装置であり得る。一実施形態においては、ビームエキスパンダは、電動可変ビームエキスパンダであってもよい。
【0035】
ビーム変調器106は、レーザエネルギービームを選択的に減衰可能な(例えば、部分的に減衰する、完全に減衰する、あるいは全く減衰しない)任意の好適な装置であり得る。一実施形態においては、ビーム変調器106は、音響光学(AO)変調器(AOM)又はAO偏向器(AOD)であり得る。
【0036】
ビームスキャナ108は、(例えば、1次元スキャン領域内で、2次元スキャン領域内などで)入射レーザパルスビームを偏向可能な任意の好適な装置(又は複数の装置)であり得る。したがって、ビームスキャナ108は、1以上のガルバノメータミラー、1以上のファストステアリングミラー、1以上の可変鏡、1以上のAOD、回転多面鏡など、又はこれらを任意に組み合わせたものを含み得る。
【0037】
スキャンレンズ110は、集束レーザパルスビームを生成するように入射レーザパルスビームを集束可能な任意の好適な装置(又は複数の装置)であり得る。一実施形態においては、スキャンレンズ110は、テレセントリックスキャンレンズである。他の実施形態においては、スキャンレンズ110は、100mm(又はその前後)の焦点距離及び約0.5以下の開口数(NA)を有している。一実施形態においては、スキャンレンズ110は、レーザパルスビームを集束して(例えば、スキャンレンズ110の焦点面で)10μm(又はその前後)から13μm(又はその前後)の範囲、例えば、11μmから12μmの範囲の直径を有するビームウェストを生成することができる。
【0038】
ステージ112は、(例えば114で特定される)上述した基板を支持及び移動可能な任意の好適な装置(又は複数の装置)であり得る。一実施形態においては、ステージ112は、1つの軸に沿って、2つの軸に沿って、あるいはこれに類する軸に沿って、あるいはこれらを任意に組み合わせた軸に沿って基板114を直線的に移動するように構成される。一般的に、基板114は、(例えばスキャンレンズ110に面する)第1の面と、第1の面とは反対側の(例えばスキャンレンズ110とは離れた側に面する)第2の面とを含むものとして特徴付けることができる。ステージ112は、基板114の第2の面がステージ112のようなその下の構造に接触しないように基板114を支持するように構成される。本明細書で用いられる場合には、基板114の第1の面は基板114の「表面」とも呼ばれ、基板114の第2の面は基板114の「裏面」とも呼ばれる。
【0039】
一実施形態においては、ステージ112は、スキャンレンズ110の焦点面が基板114の外側(すなわち、基板114の第2の面の下方)に位置するように基板114を支持する。基板114の第2の面とスキャンレンズ110の焦点面との間の距離(すなわち、上述した「オフセット距離」)は、集束レーザパルスビームが、上述したように基板に貫通ビアを生成しつつ、基板の光学破壊強度よりも低いピーク強度で基板のある領域を照射するように設定される。オフセット距離は、実験的に決定されてもよく、あるいは(例えば、レーザ穿孔プロセスのパラメータに基づいて、基板の材料に基づいて、あるいはこれに類する方法で、あるいはこれらを任意に組み合わせて)計算されてもよいことは理解できよう。
【0040】
システム100は、(例えば、
図1に例示的に示される点線に沿って)レーザ102からスキャンレンズ110に伝搬するレーザパルスビームを偏光、反射、拡大、集束などする1以上の他の構成要素をさらに含んでいてもよい。そのような構成要素の例としては、半波長板116、1対のリレーレンズ118、及び複数の折り返しミラー(例えば折り返しミラー120)が挙げられる。一実施形態においては、1対のリレーレンズは、ビーム変調器106からの出力としてのレーザパルスビームを拡大する(例えば、ビーム変調器106からの出力としてのレーザパルスビームのビームサイズを2倍にする)ように配置及び構成されている。したがって、ビーム変調器106からの出力としてのレーザパルスビームが上述した4.5mm(又はその前後)の第2のビームサイズを有している場合には、1対のリレーレンズから出力されるレーザパルスビームは、9mm(又はその前後)の第3のビームサイズを有するものとして特徴付けることができる。
【0041】
図2及び
図3は、上述したレーザ加工システム100を用いて上述したレーザ穿孔プロセスを行って50μmの厚さのガラス基板(すなわち、SCHOTT社により製造されるAF 32(登録商標)から形成される基板)に穿孔された貫通ビアをそれぞれガラス基板の第1の面と第2の面から撮った写真である。いずれの面にも吸収コーティングが形成されていなかったという意味においてガラス基板はコーティングされておらず、基板での(すなわち、レーザ加工システム100の上述した構成要素によって反射され、伝搬され、あるいは回折された後の)レーザパルスビームの平均パワーは66W(又はその前後)から67W(又はその前後)の範囲であった。(
図2に示される)第1の面での貫通ビアの直径は9.5μmから10.1μmであり、(
図3に示される)第2の面での貫通ビアの直径は9μmであった。
【0042】
図4は、50μmの厚さのガラス基板(すなわち、SCHOTT社により製造されるAF 32(登録商標)から形成されるコーティングされていない基板)に対して上述したレーザ穿孔プロセスを行った実験の結果を示すグラフである。この実験においては、基板でのレーザパルスビームの平均パワーを25W(又はその前後)から67W(又はその前後)まで変化させ、ビアを形成しようとしている基板のそれぞれの位置での穿孔期間を5μsから120μsまで5μsの間隔で変化させた。グラフ中の点は、それぞれの実験から得られた実際のデータ点を表しており、輪郭線の境界は、実験的に得られたデータからSAS INSTITUTE社により製作された統計分析ソフトウェアJPMを用いて得られたものである。
【0043】
図4に示されるように、本発明者等により行われた実験は、平均パワー25W、穿孔期間120μsのレーザ穿孔プロセスは、基板に全くダメージを与えず、貫通ビアを形成しなかったことを示していた。同様に、25W/40μs、30W/40μs、35W/40μs、40W/30μs、40W/20μs、40W/10μs、50W/10μsの平均パワー/穿孔期間の組み合わせでも同様であった。平均パワー67W、穿孔期間5μsでは、zオフセットが0.05mmのときに基板に貫通ビアが形成されたが、zオフセットが0.05mmよりも大きいときには貫通ビアが形成されなかった。このように、平均パワー66W(又はその前後)から67W(又はその前後)、穿孔期間5μsでは、レーザ穿孔プロセスのz範囲は0.05mmである。レーザ穿孔プロセスのz範囲は、
図4に示されるように、基板での平均パワーを増加させることにより、さらに/あるいはそれぞれの穿孔位置における穿孔期間を増加させることにより拡大できることが分かった。例えば、(平均パワー30Wで)穿孔期間を40μsから120μsに増加させることにより、貫通ビアをzオフセット0.075mmで形成することができる。同様に、平均パワー40W、穿孔期間40μsでは、zオフセットが0.075mmのときに基板に貫通ビアが形成された(しかしながら、zオフセットが0.075mmよりも大きいときには貫通ビアが形成されなかった)。重要なことに、ワークピースでの平均パワーが66W(又はその前後)から67W(又はその前後)の範囲にあるときに、穿孔期間15μs で形成される貫通ビアを0.2mm(又はその前後)以上のzオフセットで形成できることが発見された。このように、平均パワー66W(又はその前後)から67W(又はその前後)、穿孔期間15μsでは、レーザ穿孔プロセスのz範囲は0.2mmよりも大きい。多くの場合、z範囲は、望ましくは、基板の厚さ又は平坦性の変動に適応しており、これにより、基板を貫通する貫通ビアを高速かつ確実に形成することができる。
【0044】
図5から
図8は、(例えば、レーザ加工システム100及び上述したレーザ穿孔プロセスを用いて)貫通ビアを形成するように処理された、厚さ50μm(
図5及び
図7)又は厚さ100μm(
図6及び
図8)のガラス基板(すなわち、SCHOTT社により製造されるAF 32(登録商標)から形成されるガラス基板)の断面写真である。それぞれのビアは穿孔期間15μsで形成された。ガラス基板のいずれの面にも吸収コーティングは形成されていなかった。基板での(すなわち、レーザ加工システム100の上述した構成要素によって反射され、伝搬され、あるいは回折された後の)レーザパルスビームの平均パワーは、67W(又はその前後)から69W(又はその前後)であった。
図5から
図8においては、断面平面での縁部の凹凸の品質は、基板を切断するのに使用した機械的研削方法に対するガラス材料の脆弱性によるものである。このため、
図5から
図8で特定される直径は、切断の前においては、注釈を入れた直径よりも小さいものであった可能性がある。
図5から
図8の主な目的は、貫通ビアの側壁がいかに真っ直ぐであるか、そして基板の厚さ方向の全長にわたって貫通ビアの直径が均一であることを示すことにある。
【0045】
上記のことから、レーザパルスビームを(例えばビームスキャナ108によって)スキャンして複数の貫通ビアを形成することができることは理解できよう。本明細書で述べられるレーザ穿孔プロセスにおいては、最小ビア間ピッチ(すなわち、最も近くにある隣接ビア間の距離)は、一般的に、基板の第2の面におけるそれぞれの貫通ビアの開口の周囲の「飛沫帯」の直径によって制限される。一般的に、飛沫帯は、第2の面における開口の周囲で貫通ビアの形成中に基板から溶融材料が噴出する領域である。ある実施形態においては、上述したレーザ穿孔プロセスにより直径約30μmの飛沫帯が生じる。このため、ビア間ピッチは、30μm(又はその前後)以上となり得る。
【0046】
上記は、本発明の実施形態及び例を説明したものであって、これに限定するものとして解釈されるものではない。いくつかの特定の実施形態及び例が図面を参照して述べられたが、当業者は、本発明の新規な教示や利点から大きく逸脱することなく、開示された実施形態及び例と他の実施形態に対して多くの改良が可能であることを容易に認識するであろう。
【0047】
例えば、50μm又は100μmのいずれかの厚さを有する基板の第1の面及び第2の面で約10μmの直径の開口を有する貫通ビアについて述べてきたが、同様のサイズの開口を有する貫通ビアを50μm未満、50μmから100μm、あるいは100μmよりも大きい厚さを有する基板に形成してもよいことは理解できるであろう。さらに、0.5よりも高いNAを有するスキャンレンズ110を用いることにより、第1面及び第2の面でより小さい半径の開口を有する貫通ビアを得ることができる。
【0048】
他の例においては、上記では、レーザシステム100が515nm(又はその前後)の波長でレーザパルスビームを生成可能なレーザ102を含むものとして述べられているが、基板での平均パワー、パルス幅、パルス繰り返し率、基板を形成する材料などの1以上の他のファクタに応じて、515nm(又はその前後)以外の波長のレーザパルスを用いて上記実施形態で述べられたレーザ穿孔プロセスを実現することができることは理解できるであろう。例えば、レーザパルスビームが上述したパルス繰り返し率を有するとし、さらに、基板でのレーザパルスビームの平均パワーが100W(又はその前後)以上(例えば、110W、120W、130Wなど、あるいはこれらの値のいずれかの間の値)であるとすると、電磁スペクトルの近赤外領域の波長(例えば、1030nm、1064nmなど)のレーザパルスビームを用いて上述したレーザ穿孔プロセスを行うことができる。近赤外領域の波長では、レーザパルスビーム中のレーザパルスは上述したパルス幅を有することができる。しかしながら、パルス幅の選択が穿孔期間の長さに影響を与えることがあることは留意すべきである。一般的に、所定の平均パワー及びパルス繰り返し率においては、比較的短いパルス幅(例えば10ps又はその前後)を有するレーザパルスビームは、比較的長いパルス幅(例えば30ps又はその前後)を有するレーザパルスビームよりも短い穿孔期間で貫通ビアを形成することができることが分かっている。
【0049】
他の例においては、上記では、レーザ穿孔プロセスは、基板の第2の面での吸収コーティングの必要性をなくすものとして説明されているが、基板の第2の面は、基板よりもレーザパルスビームに対してより吸収的な材料又はレーザパルスに対する基板の吸収率を(例えば、その第2の面で、あるいはその近傍で)変える材料でコーティングあるいは処理されていてもよいことは理解できよう。
【0050】
他の例においては、必要に応じて、貫通ビアを形成するためにレーザ穿孔プロセスが行われた後に熱アニールプロセスを基板に対して行ってもよい。この場合において、熱アニール処理は、レーザ穿孔プロセス中に飛沫帯に噴出した溶融材料の固化によって生じる基板内の内部応力を軽減するように作用し得る。
【0051】
したがって、そのような改良はすべて、特許請求の範囲において規定される本発明の範囲に含まれることを意図している。例えば、当業者は、そのような組み合わせが互いに排他的になる場合を除いて、いずれかの文や段落、例又は実施形態の主題を他の文や段落、例又は実施形態の一部又は全部の主題と組み合わせることができることを理解するであろう。したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲とこれに含まれるべき請求項の均等物とによって決定されるべきである。