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特許7539551プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
G05B23/02 R
G05B23/02 T
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023505523
(86)(22)【出願日】2022-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2022009600
(87)【国際公開番号】W WO2022191098
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2021037106
(32)【優先日】2021-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】永野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真由美
(72)【発明者】
【氏名】青山 邦明
(72)【発明者】
【氏名】江口 慶治
【審査官】尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-18435(JP,A)
【文献】特開2012-48616(JP,A)
【文献】国際公開第2021/019760(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視方法であって、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けする区分けステップと、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する単位空間作成ステップと、
を備え
前記区分けステップでは、前記複数の第1の範囲帯のうち任意の2つの範囲帯における前記一の変数の度数の比が0.75以上1.25以下となるように前記一の変数の範囲を区分けする
プラント監視方法。
【請求項2】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視方法であって、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けする区分けステップと、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する単位空間作成ステップと、
を備え、
前記区分けステップでは、前記複数の第1の範囲帯のうち少なくとも2つの範囲帯における前記一の変数の度数の比が1となるように前記一の変数の範囲を区分けす
ラント監視方法。
【請求項3】
前記複数の第2の範囲帯は、前記複数の第1の範囲帯にそれぞれ対応する
請求項1又は2に記載のプラント監視方法。
【請求項4】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視方法であって、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けする区分けステップと、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する単位空間作成ステップと、
前記複数の第1の範囲帯の中から、前記複数の第2の範囲帯同士の境界となる前記一の変数の値を選択する境界選択ステップと、を備え
ラント監視方法。
【請求項5】
前記境界選択ステップでは、前記複数の第1の範囲帯の各々における前記一の変数の最頻値のうち少なくとも1つを、前記複数の第2の範囲帯同士の境界として選択する
請求項に記載のプラント監視方法。
【請求項6】
前記境界選択ステップでは、隣り合う一対の前記一の変数の最頻値同士の差が規定値未満であるとき、前記一対の一の変数の最頻値のうち、度数の大きい一方を前記境界として選択し、度数の小さい一方を前記境界として選択しない
請求項に記載のプラント監視方法。
【請求項7】
前記プラントはガスタービン又は蒸気タービンを含み、
前記プラントの状態を示す前記一の変数は前記プラントの出力であり、
前記プラントの前記出力は前記ガスタービン又は前記蒸気タービンに接続される発電機の出力を含む
請求項1乃至の何れか一項に記載のプラント監視方法。
【請求項8】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視装置であって、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けするように構成された区分け部と、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する単位空間作成部と、
を備え
前記区分け部は、前記複数の第1の範囲帯のうち任意の2つの範囲帯における前記一の変数の度数の比が0.75以上1.25以下となるように前記一の変数の範囲を区分けするように構成された
プラント監視装置。
【請求項9】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視装置であって、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けするように構成された区分け部と、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する単位空間作成部と、
を備え、
前記区分け部は、前記複数の第1の範囲帯のうち少なくとも2つの範囲帯における前記一の変数の度数の比が1となるように前記一の変数の範囲を区分けするように構成された
プラント監視装置。
【請求項10】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視装置であって、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けするように構成された区分け部と、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する単位空間作成部と、
前記複数の第1の範囲帯の中から、前記複数の第2の範囲帯同士の境界となる前記一の変数の値を選択するように構成された境界選択部と、
を備える
プラント監視装置。
【請求項11】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いて前記プラントを監視するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けする手順と、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する手順と、
を実行させるように構成され、
前記区分けする手順では、前記複数の第1の範囲帯のうち任意の2つの範囲帯における前記一の変数の度数の比が0.75以上1.25以下となるように前記一の変数の範囲を区分けする
プラント監視プログラム。
【請求項12】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いて前記プラントを監視するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けする手順と、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する手順と、
を実行させるように構成され、
前記区分けする手順では、前記複数の第1の範囲帯のうち少なくとも2つの範囲帯における前記一の変数の度数の比が1となるように前記一の変数の範囲を区分けする
プラント監視プログラム。
【請求項13】
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いて前記プラントを監視するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けする手順と、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する手順と、
前記複数の第1の範囲帯の中から、前記複数の第2の範囲帯同士の境界となる前記一の変数の値を選択する手順と、
を実行させるためのプラント監視プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラムに関する。
本願は、2021年3月9日に日本国特許庁に出願された特願2021-037106号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
プラントの状態を示す変数(センサで取得可能な状態量等)の基準的なデータ集合と、該変数についての計測データとの乖離を示すマハラノビス距離を用いてプラントを監視することがある。
【0003】
特許文献1には、マハラノビス距離を用いたプラント監視方法において、運転期間に応じて設定される複数の単位空間を用いてマハラノビス距離を算出することが記載されている。ここで、上述の単位空間は、プラントの運転状態が正常であるか否かを判定する際の基準となるデータの集合体である。より具体的には、特許文献1では、プラントの起動運転期間におけるプラントの状態量に基づいて作成される単位空間を用いてプラントの起動運転期間に取得されるデータについてのマハラノビス距離を算出するとともに、プラントの負荷運転期間におけるプラントの状態量に基づいて作成される単位空間を用いてプラントの負荷運転期間に取得されるデータについてのマハラノビス距離を算出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5031088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、監視対象のプラントについて、プラントの状態を示す変数のデータを何らかの基準で区分けして、各区分に応じて作成される複数の単位空間を用いてマハラノビス距離を算出することにより、上述のデータの全てを用いて作成される単一の単位空間を用いてマハラノビス距離を算出する場合に比べ、異常検知精度が向上すると考えられる。
【0006】
しかしながら、上述のようにプラントの状態を示す変数のデータを区分けして複数の単位空間を作成する場合、データの区分けの仕方によっては、複数の単位空間のうち何れかの単位空間を構成するデータの数が少なくなり得、プラントの異常の検出精度が低下するおそれがある。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、プラントの異常を精度良く検知可能なプラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント監視方法は、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視方法であって、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けする区分けステップと、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する単位空間作成ステップと、
を備える。
【0009】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント監視装置は、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視装置であって、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けするように構成された区分け部と、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する単位空間作成部と、
を備える。
【0010】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント監視プログラムは、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いて前記プラントを監視するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けする手順と、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する手順と、
を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、プラントの異常を精度良く検知可能なプラント監視方法、プラント監視装置及びプラント監視プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る監視方法が適用されるプラントに含まれるガスタービンの概略構成図である。
図2】一実施形態に係る監視方法が適用されるプラントに含まれる蒸気タービンの概略構成図である。
図3】一実施形態に係るプラント監視装置の概略構成図である。
図4】一実施形態に係るプラントの監視方法のフローチャートである。
図5】プラントの出力(一の変数)の度数分布の一例を示すグラフである。
図6】プラントの出力(一の変数)の累積度数分布の一例を示すグラフである。
図7】プラントの出力(一の変数)の度数分布の一例を示すグラフである。
図8】プラントの出力(一の変数)の度数分布の一例を示すグラフである。
図9】プラントの出力(一の変数)の度数分布の一例を示すグラフである。
図10】プラントの出力(一の変数)の度数分布の一部を模式的に示すグラフである。
図11】単位空間の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0014】
(プラント監視装置の構成)
図1及び図2は、幾つかの実施形態に係る監視方法が適用されるプラントに含まれる機器の概略構成図である。図1に示される機器はガスタービンであり、図2に示される機器は蒸気タービンである。図3は、一実施形態に係るプラント監視装置の概略構成図である。
【0015】
図1に示すガスタービン10は、空気を圧縮するための圧縮機12と、圧縮機12からの圧縮空気とともに燃料を燃焼させるための燃焼器14と、燃焼器14で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービン16と、を備える。ガスタービン10のロータ15に発電機18が連結され、ガスタービン10によって発電機18が回転駆動されるようになっている。
【0016】
図2に示す蒸気タービン20は、蒸気を生成するためのボイラ22と、ボイラ22からの蒸気によって駆動されるタービン24と、を備える。タービン24は、高圧タービン25と、高圧タービン25よりも入口圧力が低い中圧タービン26と、中圧タービン26よりも入口圧力が低い低圧タービン27を含む。高圧タービン25と中圧タービン26との間には再熱器29が設けられている。蒸気タービン20のロータ23に発電機28が連結され、蒸気タービン20によって発電機28が回転駆動されるようになっている。
【0017】
幾つかの実施形態では、監視対象のプラントは、上述のガスタービン10又は蒸気タービン20を含む。幾つかの実施形態では、監視対象のプラントは、風力や水力等の再生可能エネルギーによって駆動されるタービン(風車や水車等)を含んでもよい。幾つかの実施形態では、監視対象のプラントはタービン以外の機械を含んでもよい。
【0018】
図3に示すプラント監視装置40は、計測部30によって計測されるプラントの状態を示す複数の変数の計測値に基づいて、プラントの監視をするように構成される。
【0019】
計測部30は、プラントの状態を示す複数の変数を計測するように構成される。計測部30は、プラントの状態を示す複数の変数をそれぞれ計測するように構成された複数のセンサを含んでもよい。
【0020】
ガスタービン10を含むプラントの場合、計測部30は、プラントの状態を示す変数として、ガスタービン10のロータ回転数、各段ブレードパス温度、ブレードパス平均温度、タービン入口圧力、タービン出口圧力、又は発電機出力の何れかを計測するように構成されたセンサを含んでもよい。蒸気タービン20を含むプラントの場合、計測部30は、プラントの状態を示す変数として、蒸気タービン20のロータ回転数、各段ブレードパス温度、ブレードパス平均温度、タービン入口圧力、タービン出口圧力、又は発電機出力の何れかを計測するように構成されたセンサを含んでもよい。
【0021】
プラント監視装置40は、計測部30から、プラントの状態を示す変数の計測値を示す信号を受け取るように構成される。プラント監視装置40は、計測部30からの計測値を示す信号を、規定のサンプリング周期毎に受け取るように構成されていてもよい。また、また、プラント監視装置40は、計測部30から受け取った信号を処理して、プラントの異常の有無を判定するように構成される。プラント監視装置40による判定結果は、表示部60(ディスプレイ等)に表示されるようになっていてもよい。
【0022】
図3に示すように、一実施形態に係るプラント監視装置40は、データ取得部42と、区分け部44と、単位空間作成部46と、マハラノビス距離算出部48と、異常判定部50と、を含む。
【0023】
プラント監視装置40は、プロセッサ(CPU等)、記憶装置(メモリデバイス;RAM等)、補助記憶部及びインターフェース等を備えた計算機を含む。プラント監視装置40は、インターフェースを介して、計測部30から、プラントの状態を示す変数の計測値を示す信号を受け取るようになっている。プロセッサは、このようにして受け取った信号を処理するように構成される。また、プロセッサは、記憶装置に展開されるプログラムを処理するように構成される。これにより、上述の各機能部(データ取得部42等)の機能が実現される。
【0024】
プラント監視装置40での処理内容は、プロセッサにより実行されるプログラムとして実装される。プログラムは、補助記憶部に記憶されていてもよい。プログラム実行時には、これらのプログラムは記憶装置に展開される。プロセッサは、記憶装置からプログラムを読み出し、プログラムに含まれる命令を実行するようになっている。
【0025】
データ取得部42は、複数の時刻t(t1,t2,…)の各々におけるプラントの状態を示す一の変数、及び、プラントの状態を示す複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータを取得するように構成される。以下に説明する実施形態では、データ取得部42は、プラントの状態を示す一の変数として、プラントの出力(p)のデータを取得するように構成される。なお、プラントの出力は、ガスタービン10に接続される発電機18の出力又は蒸気タービン20に接続される発電機28等の発電機の出力であってもよい。他の実施形態では、データ取得部42は、プラントの状態を示す一の変数として、プラントを構成する機器の回転数、機器の振動に関する数値(振動数や振動レベルを示す値等)、機器の温度、雰囲気温度、又は、機器に供給される燃料の流量(供給量)等を取得するように構成されてもよい。
【0026】
データ取得部42は、計測部30により計測されるプラントの出力(一の変数)又は複数の変数の計測値に基づき上述のデータを取得するように構成されてもよい。プラントの出力又は複数の変数の計測値又は該計測値に基づくデータは、記憶部32に記憶されていてもよい。データ取得部42は、上述の計測値又は該計測値に基づくデータを、記憶部32から取得するように構成されていてもよい。
【0027】
なお、記憶部32は、プラント監視装置40を構成する計算機の主記憶部又は補助記憶部を含んでもよい。あるいは、記憶部32は、該計算機とネットワークを介して接続される遠隔記憶装置を含んでもよい。
【0028】
区分け部44は、データ取得部42により取得されたプラントの出力(一の変数)の度数分布に基づいて、プラントの出力範囲を複数の第1の出力帯(範囲帯)(A1,A2,…)に区分けするように構成される。
【0029】
単位空間作成部46は、区分け部44により得られた複数の第1の出力帯に基づいて、複数の第2の出力帯(範囲帯)(B1,B2,…)を決定するように構成される。また、単位空間作成部46は、複数の第2の出力帯にそれぞれ対応する複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータ(計測値)に基づいて、マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成するように構成される。
【0030】
上述の単位空間は、目的に対して均質な集団(正常データの集合)であり、評価対象となるデータの単位空間の中心からの距離がマハラノビス距離として算出される。マハラノビス距離が小さければ評価対象のデータは正常である可能性が大きく、マハラノビス距離が大きければ評価対象のデータは異常である可能性が大きい。
【0031】
マハラノビス距離算出部48は、単位空間作成部46により作成された複数の単位空間のうち、評価対象の複数の変数のデータ(計測値)の取得時におけるプラントの出力(一の変数)に対応する単位空間を用いて、評価対象のデータについてマハラノビス距離を計算するように構成される。
【0032】
異常判定部50は、マハラノビス距離算出部48により算出されたマハラノビス距離に基づいて、プラントの異常の有無を判定するように構成される。
【0033】
(プラント監視のフロー)
以下、幾つかの実施形態に係るプラント監視方法についてより具体的に説明する。なお、以下において、上述のプラント監視装置40を用いて一実施形態に係るプラント監視方法を実行する場合について説明するが、幾つかの実施形態では、他の装置を用いてプラントの監視方法を実行するようにしてもよい。
【0034】
図4は、幾つかの実施形態に係るプラントの監視方法のフローチャートである。図5図9は、幾つかの実施形態に係るプラントの監視方法を説明するための図である。図5及び図7図9は、プラントの出力(一の変数)の度数分布(ヒストグラム)の一例を示すグラフであり、図6は、プラントの出力(一の変数)の累積度数分布の一例を示すグラフである。なお、図5及び図7図9において、横軸はプラントの出力(一の変数)を表し、縦軸はプラントの出力(一の変数)の度数を表す。また、図6において、横軸はプラントの出力(一の変数)を表し、縦軸はプラントの出力(一の変数)の累積相対度数を表す。図7図9のグラフ中、累積相対度数を示す曲線が破線で示されている。
【0035】
幾つかの実施形態では、まず、データ取得部42により、プラントの出力(一の変数)及びプラントの状態を示す複数の変数のデータを取得する(S2)。より具体的には、ステップS2では、複数の時刻t(t1,t2,…)の各々に対応するプラントの出力p(p1,p2,…)を取得するとともに、複数の時刻t(t1,t2,…)の各々に対応するプラントの状態を示すn個の変数(V1,V2,…,Vn)のデータをそれぞれ取得する。なお、時刻tに対応するプラントの出力又は上述の複数の変数のデータは、時刻tを基準とする規定期間におけるプラントの出力又は複数の変数の計測値の代表値(例えば平均値)であってもよい。
【0036】
プラントの状態を示すn個の変数は、例えば、ガスタービン10又は蒸気タービン20のロータ回転数、各段ブレードパス温度、ブレードパス平均温度、タービン入口圧力、タービン出口圧力、又は発電機出力の少なくとも1つを含んでもよい。
【0037】
次に、区分け部44は、プラントの出力の度数分布に基づいて、プラントの出力範囲を複数の第1の出力帯(範囲帯)(A1,A2,…)に区分けする(S4)。プラントの出力の度数分布は、ステップS2で取得されたプラントの出力に基づいて得ることができる。
【0038】
図5は、ステップS2で取得されるプラントの出力pについての度数分布の一例を表すグラフである。図5に示すグラフでは、プラントの出力範囲0[MW]以上Pmax[MW]以下の範囲の度数分布が示されている。
【0039】
ステップS4では、例えば、複数の第1の出力帯(A1,A2,…)の各々に含まれる出力の度数のばらつきが大きくならないように、複数の第1の出力帯(A1,A2,…)の各々の範囲が決定される。
【0040】
ここで、図6は、図5に示すプラントの出力の度数分布を、累積度数分布に変換したものを表すグラフである。幾つかの実施形態では、ステップS4では、プラントの出力の相対累積度数に基づいて、複数の第1の出力帯(A1,A2…)についての出力の相対度数がほぼ均等になるように(即ち、複数の第1の出力帯についての出力の度数がほぼ均等になるように)、第1の出力帯の各々の範囲を決定してもよい。
【0041】
この手順の一例について図6のグラフを用いて説明すると、まず、出力0での累積相対度数0%、出力Pmaxでの累積相対度数100%とし、累積相対度数を、0%以上C1以下、C1超C2以下、C3超C4以下、C4超C5以下、C5超C6以下、C6超C7(=100%)以下、の複数の範囲で分割する。これら複数の範囲は、相対度数の幅がほぼ同じである(すなわち、複数の範囲における度数がほぼ同じである)。そして、これらの複数の範囲に対応する出力帯を、複数の第1の出力帯(A1~A7)として決定することができる。ここで、第1の出力帯A1~A7の出力 [MW]の範囲は、それぞれ、0以上PA1以下、PA1超PA2以下、PA2超PA3以下、PA3超PA4以下、PA4超PA5以下、PA5超PA6以下、PA6超PA7以下、である。また、第1の出力帯A1~A7の出力の度数の比率は、それぞれ、C1、(C2-C1)、(C3-C2)、(C4-C3)、(C5-C4)、(C6-C5)、及び(C7-C6)で表される。
【0042】
幾つかの実施形態では、ステップS4では、複数の第1の出力帯(A1,A2,…)のうち任意の2つの出力帯におけるプラントの出力の度数の比が0.75以上1.25以下となるように、プラントの出力範囲を区分けする。なお、図6に示す例を用いると、例えば第1の出力帯A2と第1の出力帯A3におけるプラントの出力の度数の比は、(C3-C2)/(C2-C1)で表すことができる。
【0043】
幾つかの実施形態では、ステップS4では、複数の第1の出力帯(A1,A2,…)のうち少なくとも2つの出力帯におけるプラントの出力の度数の比が1となるように前記プラントの出力範囲を区分けする。
【0044】
幾つかの実施形態では、ステップS4では、複数の第1の出力帯(A1,A2,…)のうち任意の2つの出力帯におけるプラントの出力の度数の比が1となるように前記プラントの出力範囲を区分けする。
【0045】
以下、ステップS4において、図6に示すように、プラントの出力範囲が7個の第1の出力帯(A1~A7)に区分けされたことを前提として説明する。
【0046】
次に、単位空間作成部46は、複数の第1の出力帯(A1~A7)に基づき、プラントの複数の第2の出力帯(範囲帯)(B1,B2,…)を決定する(S6)。ここで、複数の第1の出力帯(A1~A7)はプラントの出力の度数分布に基づいて設定されるものであるから、複数の第2の出力帯(B1,B2,…)もプラントの出力の度数分布に基づいて決定されるものである、といえる。なお、ステップS6の手順については後述する。
【0047】
次に、単位空間作成部46は、ステップS6で決定される複数の第2の出力帯(B1,B2,…)にそれぞれ対応するn個の変数(複数の変数)(V1,V2,…,Vn)のデータに基づいてマハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間(Q1,Q2,…)をそれぞれ作成する(S8)。
【0048】
そして、マハラノビス距離算出部48は、単位空間作成部46により作成された複数の単位空間(Q1,Q2,…)のうち、評価対象のn個の変数(複数の変数)のデータの取得時刻におけるプラントの出力(一の変数)に対応する単位空間を用いて、評価対象のデータ(信号空間データ)についてマハラノビス距離を計算する(S10)。例えば、評価対象のn個の変数のデータの取得時刻におけるプラントの出力が、第2の出力帯B2の範囲に含まれる場合、第2の出力帯B2に対応する単位空間Q2を用いて、評価対象のデータについてのマハラノビス距離Dを計算する。
【0049】
評価対象のデータについてのマハラノビス距離は、特許文献1に記載される方法で算出することができるが、マハラノビス距離の算出方法について、概略的には以下のように説明することができる。まず、単位空間を構成するデータ(n個の変数(V1,V2,…,Vn)についてのデータ(X,X,…,X))を用いて、下記式(A)より各項目(変数)毎の平均を求める。なお、下記式において、kは単位空間を構成するn個の変数の各々のデータ数(データセット数)である。
【数1】
次に、上記式(A)で算出した各項目(変数)毎の平均を用いて、下記式(B)により単位空間を構成するデータについて共分散行列COV(n×n行列)を求める。
【数2】
そして、評価対象のデータY~Yと、上記式(A)により求めた平均及び上記式(B)により求めた共分散行列の逆行列を用いて、下記式(C)によりマハラノビス距離Dの2乗値Dが算出される。なお、下記式において、lはn個の変数についての評価対象のデータ(信号空間データ)Y~Yのデータ数(データセット数)である。
【数3】
【0050】
次に、異常判定部50は、ステップS10で算出されたマハラノビス距離Dに基づいて、プラントの異常の有無を判定する(S12)。ステップS12では、上述のマハラノビス距離Dと閾値との比較に基づき、プラントの異常の有無を判定してもよい。例えば、ステップS10で算出されたマハラノビス距離Dが閾値以下であるときにプラントは正常であると判定するとともに、マハラノビス距離Dが閾値より大きいときにプラントに異常が生じていると判定するようにしてもよい。
【0051】
上述の実施形態に係る方法によれば、プラントの出力の度数分布に基づいてプラントの出力範囲を複数の第1の出力帯(A1,A2,…)に区分けするとともに、該複数の第1の出力帯に基づいて決定される複数の第2の出力帯(B1,B2,…)にそれぞれ対応する複数の単位空間(Q1,Q2,…)を作成する。即ち、プラント出力の度数分布に基づいて、複数の単位空間にそれぞれ対応する複数の出力帯(第1の出力帯及び第2の出力帯)が決定される。したがって、例えば、複数の出力帯における度数が均等になるように複数の出力帯(第1の出力帯又は第2の出力帯)を決定すること等により、複数の単位空間の各々を構成する複数の変数(V1,V2,…,Vn)のデータ数を十分に確保しやすくなる。あるいは、複数の単位空間のうち何れかの単位空間を構成するデータ数が過少となる事態を回避しやすくなる。よって、プラントの出力によらず、マハラノビス距離に基づいて精度良くプラントの異常検知をすることができ、例えば誤検知や誤警報を抑制することができる。
【0052】
また、上述の実施形態において、ステップS4にて、複数の第1の出力帯(A1,A2,…)のうち任意の2つの出力帯における度数の比が0.75以上1.25以下となるように、プラントの出力範囲を区分けする場合、複数の第1の出力帯のそれぞれにおける出力の度数がほぼ均等となる。このため、複数の第1の出力帯に基づいて定まる複数の単位空間の各々を構成する複数の変数のデータ数を十分に確保しやすくなる。よって、プラントの出力によらず、マハラノビス距離に基づいて精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0053】
また、上述の実施形態において、ステップS4にて、複数の第1の出力帯(A1,A2,…)のうち少なくとも2つの出力帯における度数の比が1となるように、プラントの出力範囲を区分けする場合、複数の第1の出力帯のうち少なくとも2つの出力帯における出力の度数が均等となる。このため、該2つの出力帯に基づいて定まる複数の単位空間の各々を構成する複数の変数のデータ数を十分に確保しやすくなる。よって、プラントの出力によらず、マハラノビス距離に基づいて精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0054】
幾つかの実施形態では、ステップS6において、単位空間作成部46は、複数の第1の出力帯(A1~A7)にそれぞれ対応する複数の出力帯を、プラントの複数の第2の出力帯(B1~B7)として決定する。すなわち、図7に示すように、複数の第2出力帯(B1~B7)の出力範囲は、複数の第1の出力帯(A1~A7)の出力範囲にそれぞれ等しい。
【0055】
上述の実施形態によれば、複数の第2の出力帯(B1~B7)を、複数の第1の出力帯(A1~A7)にそれぞれ対応する出力帯として、簡易な手順で決定することができる。よって、より簡易な手順で、プラントの出力によらず、マハラノビス距離に基づいて精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0056】
幾つかの実施形態では、ステップS6において、単位空間作成部46は、複数の第1の出力帯(A1~A7)の中から、前記複数の第2の出力帯(B1,B2,…)同士の境界となる出力を選択し、該境界によって区切られる複数の出力帯を複数の第2出力帯として決定する。
【0057】
幾つかの実施形態では、図8及び図9に示すように、複数の第1の出力帯(A1~A7)の各々における出力の最頻値Pm1~Pm7のうち少なくとも1つを、複数の第2の出力帯同士の境界として選択してもよい。なお、図8に示す例では、複数の第1の出力帯(A1~A7)の各々における出力の最頻値Pm1~Pm7の各々が、複数の第2の出力帯同士の境界として選択されている。そして、プラントの出力範囲(0以上Pmax以下)を、これらの最頻値Pm1~Pm7によって分割することにより複数の第2出力帯(B1~B8)が決定される。
【0058】
上述の実施形態によれば、複数の第1の出力帯(A1~A7)における出力の最頻値(Pm1~Pm7)の少なくとも1つを、複数の第2の出力帯(B1,B2,…)同士の境界として採用する。したがって、出力対度数のグラフ(図8図9等)において、該境界を上限又は下限とする第2の出力帯(隣り合う一対の第2の出力帯)の各々には、少なくとも、該境界を含むピーク面積のおよそ半分が含まれることになる。よって、これらの第2の出力帯(B1,B2,…)に対応する単位空間(Q1,Q2,…)の各々を構成するデータ数をより確保しやすくなる。このため、マハラノビス距離に基づくプラントの異常検知の精度を向上させることができる。
【0059】
ここで、図10は、プラントの出力の度数分布の一部を模式的に示すグラフであり、図11は、図10に示すプラントの出力の度数分布に基づき作成される単位空間の一例を模式的に示す図である。ここで、図10中の出力帯B及びBk+1は、プラントの出力の最頻値Pma,Pmbで区切られる出力帯であり、出力帯Bは、プラントの出力の最頻値同士の間の出力Pc,Pdで区切られる出力帯である。なお、図11における楕円は、それぞれ単位空間(Q,Qk+1,Q等)を示し、それぞれの楕円は、各単位空間から計算されるマハラノビス距離が等しい点の集合である。
【0060】
出力帯Bは、出力の最頻値(Pma,Pmb等)同士の間の出力Pc,Pdによって区切られている。このため、出力帯Bにおけるデータには、該出力帯Bの下限の出力(Pc)及び上限の出力(Pd)の近傍の出力に対応するデータはあまり含まれず、下限と上限の間に位置する最頻値Pma近傍の多数のデータが含まれる。これは、出力帯Bにおけるデータから構成される単位空間Qを示す楕円において、該楕円の長軸の両端部の近傍に位置するデータ数が少なく、該楕円の長軸の中心近傍に位置するデータが多数存在することを意味する(図11参照)。この場合、楕円の形状(長軸の傾き等)が安定的に定まらず(図11中のQ及びQ’参照)、このため、マハラノビス距離に基づく異常判定が安定しない。
【0061】
例えば、評価対象のデータ(信号空間データ)が図11のグラフにおけるdとして表される場合、単位空間Qに基づき算出されるマハラノビス距離と、単位空間Q’に基づき算出されるマハラノビス距離とは大きく異なる。すなわち、単位空間Qに基づき算出されるマハラノビス距離は比較的大きく、単位空間Q’に基づき算出されるマハラノビス距離は比較的小さい。このため、マハラノビス距離に基づく異常判定結果が異なる可能性がある。したがって、例えば、異常判定において誤判定をする可能性が高くなる。
【0062】
一方、出力帯Bは、出力の最頻値Pma,Pmbによって区切られている。このため、出力帯Bにおけるデータには、該出力帯Bの下限の出力(Pma)及び上限の出力(Pmb)の近傍の出力に対応する比較的多数のデータが含まれる。これは、出力帯Bにおけるデータから構成される単位空間Qを示す楕円において、該楕円の長軸の両端部の近傍に位置するデータが多数存在することを意味する(図11参照)。この場合、楕円の形状(長軸の傾き等)が安定的に定まる。このため、マハラノビス距離の算出結果が安定的に得られ、安定的に異常判定をすることができる。
【0063】
また、出力帯Bに隣接する出力帯Bk+1におけるデータから構成される単位空間Qk+1を示す楕円についても、同様に、楕円の形状(長軸の傾き等)が安定的に定まり、これら2つの楕円が滑らかに接続される(例えば、これらの楕円の傾きが似たものとなる)。したがって、プラント運転中に、プラントの出力が、出力帯Bと出力帯Bk+1の境界(図10におけるPmb)を跨いで変化する場合であっても、異常判定を安定的にすることができる。
【0064】
この点、上述の実施形態によれば、第1の出力帯(A1~A7)における出力の最頻値Pm1~Pm7を、複数の第2の出力帯(B1,B2,…)同士の境界としたので、該境界を上限又は下限とする第2の出力帯におけるデータには、該境界(上限又は下限)近傍の出力に対応する比較的多数のデータが含まれることになる。このため、これらの第2の出力帯(B1,B2,…)におけるデータに基づき作成される単位空間(Q1,Q2,…)同士のつながりが滑らかになりやすい。よって、プラントの出力が上述の境界を跨いで変化する場合であっても、安定的にプラントの異常を検知することができる。
【0065】
幾つかの実施形態では、ステップS6において、隣り合う一対の出力の最頻値同士の差が規定値未満であるとき、該一対の出力の最頻値のうち、度数の大きい一方を第2の出力帯同士の境界として選択し、度数の小さい一方を第2の出力帯同士の境界として選択しない。
【0066】
例えば、図9に示す例では、複数の第1の出力帯(A1~A7)の各々における出力の最頻値Pm1~Pm7のうち、互いに隣り合う一対の最頻値Pm4,Pm5の差が小さく、規定値未満である。このため、最頻値Pm4,Pm5のうち、度数が大きい一方である最頻値Pm4を第2の出力帯同士の境界として選択し、度数が小さい一方である最頻値Pm5を第2の出力帯同士の境界として選択しない。その結果、プラントの出力範囲(0以上Pmax以下)を、最頻値Pm1~Pm7のうち、最頻値Pm5以外のもの(すなわちPm1~Pm4及びPm6~Pm7)によって分割することにより、複数の第2出力帯(B1~B7)が決定される。
【0067】
プラントの出力の度数がピークとなる出力は、季節変化等に応じて若干変動することがあり、この場合、互いに近傍に位置する別々のピークとして度数分布のグラフに現れる。このような複数のピークの出力に対応するデータを別々の単位空間に含めると、マハラノビス距離に基づく異常検知を安定して行うことが難しくなる場合がある。この点、上述の実施形態によれば、複数の第1の出力帯(A1~A7)の各々における出力の最頻値(Pm1~Pm7)のうち、隣り合う一対の最頻値(Pm4,Pm5)同士の差が規定値未満であるとき(即ち、上述のピーク同士が近いとき)、これら一対の最頻値のうち、度数が大きい一方(Pm4)のみを複数の第2の出力帯(B1,B2,…)同士の境界として選択する。したがって、これらの2つの最頻値(Pm4,Pm5)に対応するデータを同一の単位空間に含めることができるため、プラントの異常検知を安定的に行うこと可能となる。
【0068】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0069】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るプラント監視方法は、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視方法であって、
前記プラントの状態を示す一の変数(例えばプラントの出力)の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯(例えば上述の複数第1の出力帯A1,A2,…)に区分けする区分けステップ(S4)と、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯(例えば上述の複数の第2の出力帯B1,B2,…)にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する単位空間作成ステップ(S6~S8)と、
を備える。
【0070】
上記(1)の方法によれば、プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて該一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けするとともに、該複数の第1の範囲帯に基づいて決定される複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する複数の単位空間を作成する。即ち、該一の変数の度数分布に基づいて、複数の単位空間にそれぞれ対応する複数の範囲帯(第1の範囲帯及び第2の範囲帯)が決定される。したがって、例えば、複数の範囲帯における度数が均等になるように複数の範囲帯(第1の範囲帯又は第2の範囲帯)を決定すること等により、複数の単位空間の各々を構成する複数の変数のデータ数を十分に確保しやすくなる。よって、一の変数の値によらず、マハラノビス距離に基づいて精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0071】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記区分けステップでは、前記複数の第1の範囲帯のうち任意の2つの範囲帯における前記一の変数の度数の比が0.75以上1.25以下となるように前記一の変数の範囲を区分けする。
【0072】
上記(2)の方法によれば、複数の第1の範囲帯のうち任意の2つの範囲帯における度数の比が0.75以上1.25以下となるように、一の変数の範囲を区分けする。すなわち、複数の第1の範囲帯のそれぞれにおける一の変数の度数がほぼ均等となるので、複数の第1の範囲帯に基づいて定まる複数の単位空間の各々を構成する複数の変数のデータ数を十分に確保しやすくなる。よって、一の変数の値によらず、マハラノビス距離に基づいて精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0073】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の方法において、
前記区分けステップでは、前記複数の第1の範囲帯のうち少なくとも2つの範囲帯における前記一の変数の度数の比が1となるように前記一の変数の範囲を区分けする。
【0074】
上記(3)の方法によれば、複数の第1の範囲帯のうち少なくとも2つの範囲帯における度数の比が1となるように、一の変数の範囲を区分けする。すなわち、複数の第1の範囲帯のうち少なくとも2つの範囲帯における一の変数の度数が均等となるので、該2つの範囲帯に基づいて定まる複数の単位空間の各々を構成する複数の変数のデータ数を十分に確保しやすくなる。よって、一の変数の値によらず、マハラノビス距離に基づいて精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0075】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの方法において、
前記複数の第2の範囲帯は、前記複数の第1の範囲帯にそれぞれ対応する。
【0076】
上記(4)の方法によれば、複数の第2の範囲帯を、複数の第1の範囲帯にそれぞれ対応する範囲帯として、簡易な手順で決定することができる。よって、より簡易な手順で、一の変数の値によらず、マハラノビス距離に基づいて精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0077】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの方法において、
前記複数の第1の範囲帯の中から、前記複数の第2の範囲帯同士の境界となる前記一の変数の値を選択する境界選択ステップを備える。
【0078】
上記(5)の方法によれば、複数の第1の範囲帯の中から、複数の第2の範囲帯同士の境界を選択する。したがって、複数の第1の範囲帯同士の境界をそのまま複数の第2の範囲帯同士の境界として採用する場合に比べ、一の変数の度数分布に応じて、複数の単位空間を作成するのにより適した境界を設定することができる。よって、マハラノビス距離に基づくプラントの異常検知の精度を向上させることができる。
【0079】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の方法において、
前記境界選択ステップでは、前記複数の第1の範囲帯の各々における前記一の変数の最頻値(例えば上述の出力の最頻値Pm1,Pm2,…)のうち少なくとも1つを、前記複数の第2の範囲帯同士の境界として選択する。
【0080】
上記(6)の方法によれば、複数の第1の範囲帯における一の変数の最頻値の少なくとも1つを、複数の第2の範囲帯同士の境界として採用する。したがって、一の変数(例えば出力)対度数のグラフにおいて、該境界を上限又は下限とする第2の範囲帯(隣り合う一対の第2の範囲帯)の各々には、少なくとも、該境界を含むピーク面積のおよそ半分が含まれることになる。よって、これらの第2の範囲帯に対応する単位空間の各々を構成するデータ数をより確保しやすくなる。このため、マハラノビス距離に基づくプラントの異常検知の精度を向上させることができる。
【0081】
また、上記(6)の方法によれば、第1の範囲帯における一の変数の最頻値を、複数の第2の範囲帯同士の境界としたので、該境界を上限又は下限とする第2の範囲帯におけるデータには、該境界(上限又は下限)近傍の一の変数の値に対応する比較的多数のデータが含まれることになる。このため、これらの第2の範囲帯におけるデータに基づき作成される単位空間同士のつながりが滑らかになりやすい。よって、一の変数が上述の境界を跨いで変化する場合であっても、安定的にプラントの異常を検知することができる。
【0082】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)の方法において、
前記境界選択ステップでは、隣り合う一対の前記一の変数の最頻値同士の差が規定値未満であるとき、前記一対の一の変数の最頻値のうち、度数の大きい一方を前記境界として選択し、度数の小さい一方を前記境界として選択しない。
【0083】
一の変数の度数がピークとなる該一の変数の値は、季節変化等に応じて若干変動することがあり、この場合、互いに近傍に位置する別々のピークとして度数分布のグラフに現れる。このような複数のピークの一の変数に対応するデータを別々の単位空間に含めると、マハラノビス距離に基づく異常検知を安定して行うことが難しくなる場合がある。この点、上記(7)の方法によれば、複数の第1の範囲帯の各々における一の変数の最頻値のうち、隣り合う一対の最頻値同士の差が規定値未満であるとき(即ち、上述のピーク同士が近いとき)、これら一対の最頻値のうち、度数が大きい一方のみを複数の第2の範囲帯同士の境界として選択する。したがって、これらの2つの最頻値に対応するデータを同一の単位空間に含めることができるため、プラントの異常検知を安定的に行うこと可能となる。
【0084】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れかの方法において、
前記プラントはガスタービン(10)又は蒸気タービン(20)を含み、
前記プラントの状態を示す前記一の変数は前記プラントの出力であり、
前記プラントの前記出力は前記ガスタービン又は前記蒸気タービンに接続される発電機(18,28)の出力を含む。
【0085】
上記(8)の方法によれば、ガスタービン又は蒸気タービンに接続される発電機の出力の度数分布に基づいて、複数の単位空間にそれぞれ対応する複数の範囲帯(第1の出力帯及び第2の出力帯)が決定される。このため、複数の単位空間の各々を構成する複数の変数のデータ数を十分に確保しやすくなる。よって、ガスタービン又は蒸気タービンを含むプラントについて、プラントの出力によらず、マハラノビス距離に基づいて精度良く異常検知をすることができる。
【0086】
(9)少なくとも一実施形態に係るプラント監視装置(40)は、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いる前記プラントの監視装置であって、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けするように構成された区分け部(44)と、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する単位空間作成部(46)と、
を備える。
【0087】
上記(9)の構成によれば、プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて該一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けするとともに、該複数の第1の範囲帯に基づいて決定される複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する複数の単位空間を作成する。即ち、該一の変数の度数分布に基づいて、複数の単位空間にそれぞれ対応する複数の範囲帯(第1の範囲帯及び第2の範囲帯)が決定される。したがって、例えば、複数の範囲帯における度数が均等になるように複数の範囲帯(第1の範囲帯又は第2の範囲帯)を決定すること等により、複数の単位空間の各々を構成する複数の変数のデータ数を十分に確保しやすくなる。よって、一の変数の値によらず、マハラノビス距離に基づいて精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0088】
(10)少なくとも一実施形態に係るプラント監視プログラムは、
プラントの状態を示す複数の変数のデータから算出されるマハラノビス距離を用いて前記プラントを監視するためのプログラムであって、
コンピュータに、
前記プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて、前記一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けする手順と、
前記複数の第1の範囲帯に基づき決定される前記一の変数の複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する前記複数の変数のデータに基づいて、前記マハラノビス距離の計算の基礎となる複数の単位空間をそれぞれ作成する手順と、
を実行させる。
【0089】
上記(10)のプログラムによれば、プラントの状態を示す一の変数の度数分布に基づいて該一の変数の範囲を複数の第1の範囲帯に区分けするとともに、該複数の第1の範囲帯に基づいて決定される複数の第2の範囲帯にそれぞれ対応する複数の単位空間を作成する。即ち、該一の変数の度数分布に基づいて、複数の単位空間にそれぞれ対応する複数の範囲帯(第1の範囲帯及び第2の範囲帯)が決定される。したがって、例えば、複数の範囲帯における度数が均等になるように複数の範囲帯(第1の範囲帯又は第2の範囲帯)を決定すること等により、複数の単位空間の各々を構成する複数の変数のデータ数を十分に確保しやすくなる。よって、一の変数の値によらず、マハラノビス距離に基づいて精度良くプラントの異常検知をすることができる。
【0090】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0091】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0092】
10 ガスタービン
12 圧縮機
14 燃焼器
15 ロータ
16 タービン
18 発電機
20 蒸気タービン
22 ボイラ
23 ロータ
24 タービン
25 高圧タービン
26 中圧タービン
27 低圧タービン
28 発電機
29 再熱器
30 計測部
32 記憶部
40 プラント監視装置
42 データ取得部
44 区分け部
46 単位空間作成部
48 マハラノビス距離算出部
50 異常判定部
60 表示部
A1~A7 第1の出力帯
B1~B8 第2の出力帯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11