(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料及びその製造方法並びに用途
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240816BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240816BHJP
【FI】
H05K9/00 W
B32B7/025
(21)【出願番号】P 2024009697
(22)【出願日】2024-01-25
【審査請求日】2024-01-25
(31)【優先権主張番号】202311687762.9
(32)【優先日】2023-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524034486
【氏名又は名称】杭州象限科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】HANGZHOU QUADRANT TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.55, Xiacheng Road, Tonglu County, Hangzhou, Zhejiang 311500, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】劉志堅
(72)【発明者】
【氏名】倪成梁
(72)【発明者】
【氏名】馮莉
(72)【発明者】
【氏名】王古偉
(72)【発明者】
【氏名】夏丹
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-010672(JP,A)
【文献】特開2020-095998(JP,A)
【文献】特開2018-049921(JP,A)
【文献】特表2018-537931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造方法であって、
ナノ結晶軟磁性合金リボンに両面テープを覆い、接着剤被覆ナノ結晶リボンを製造し得るステップS1と、
前記接着剤被覆ナノ結晶リボンに対して一次磁気破砕処理を行い、単層ナノ結晶磁性層を製造し得るステップS2と、
前記単層ナノ結晶磁性層に対して多層複合して複合材料を製造し得り、前記複合材料に対して応力緩和処理を行い、多層ナノ結晶磁性層を製造し得るステップS3と、
前記多層ナノ結晶磁性層に対して二次磁気破砕処理を行い、耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料を製造し得るステップS4と、を含む
ことを特徴とする耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造方法。
【請求項2】
ステップS1で、前記両面テープは、無基材両面テープあるいは基材有り両面テープであり、前記基材有り両面テープにおける基材は、厚さ1.9μm以下のPETフィルムである
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記両面テープにおける粘着層は、厚さが3~30μmであり、粘着層における接着剤は、アクリル系接着剤あるいは変性アクリル系接着剤であり、前記変性アクリル系接着剤は、ビスメチルシランカップリング剤による変性アクリル系接着剤である
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップS2で、前記一次磁気破砕処理は、縦横クロスローラーせん断方式により磁気破砕を行い、あるいは、凸部付きアニロックスローラーにより圧延して磁気破砕を行い、前記クロスローラーせん断においてローラーはさみのブレードクリアランスは1~1.5mmであり、前記アニロックスローラーの凸部はサイズが1~1.5mmである
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップS1で、前記ナノ結晶軟磁性合金リボンの厚さは12~22μmであり、且つ/あるいは、
ステップS3で、前記多層複合の場合に、単層ナノ結晶磁性層の複合層数は2~4層であり、製造された多層ナノ結晶磁性層の厚さは30~120μmである
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップS3で、前記応力緩和処理は、前記複合材料を80~120℃で0.5~24時間老化処理する工程を含む
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記応力緩和処理は、老化処理した複合材料を相対湿度75~95%、温度80~100℃の条件で6~24時間湿熱老化処理する工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ステップステップ4で、前記二次磁気破砕処理は、凸部付きのファインアニロックスローラー及びパターンなしローラーにより交互ローリングを実行して実現され、前記ファインアニロックスローラーの凸部はサイズが0.5~1mmである
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁シールド材料技術分野に関し、特に耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料及びその製造方法並びに用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電子製品の高周波化、小型化、薄型化に伴い、複雑な電磁干渉問題を解決するための性能が高い磁気絶縁シールド材料の開発が急務となっており、特に常温をはるかに超える作動環境において、既存の磁気絶縁シールド材料の性能に大きな変動が生じ、さらに電子製品の性能安定性や使用寿命に影響を及ぼしてしまう。例えば、電子タバコの誘導加熱温度は通常、200~300℃に達すが、効率を向上させるために一部の端末はMHzレベルで作動するように設計され、磁気絶縁シールド材料の高温性能安定性に対して非常に高い要求が課せられる。また、例えば、ドローンは、作動電流が大きく急激な変化があるため、比較的複雑な電磁干渉を引き起こす可能性があり、システムの局所領域の温度が、短時間で200°C以上に達し、一般的な磁気絶縁シールド材料は、変形、膨れの現象が発生しやすく、インダクタンス、抵抗の変動が大きすぎると、センサに影響を与え、さらには飛行状態及び位置決め精度に支障をきたすおそれがある。したがって、電子製品の高品質、高安定性の要求に応えるため、作動環境温度200℃以上でも性能が安定する耐熱磁気絶縁シールド材料の開発が新たな開発の方向性となっている。
【0003】
現在、ナノ結晶シールド材料は、より広い周波数適用範囲、より薄い厚さ、より低い損失、透磁率の調整の容易さ、加工の容易さなどの優れた特性を有し、現在、電子製品に用いられる磁気絶縁シールド材料の主流となっており、スマートフォン、スマートウェアラブル等の製品のワイヤレス充電、及び消費電子製品の電磁シールドなどに広く使用されている。両面テープとナノ結晶リボンを単層あるいは多層として複合することによってシールド材料を製造し、用いられる両面テープは基本的にアクリルであり、この接着剤の耐熱温度は一般的に90~120℃であり、低消費電力で常温の作動環境の電子製品にとって問題なく使用されることができるが、高周波、大電流や高温環境で作動する一部の特殊な電子製品にとっては、例えば、タバコ、ドローンなどの機器では、局所的な環境温度が短期間で200°C以上に達する可能性があり、一般的なアクリル接着剤と従来のナノ結晶シールドシート工程を利用して製造されたナノ結晶シールド材料には、性能が不安定になる現象が生じる。特許出願CN104011814Aには、複数の細い片に分離されたアモルファスリボンから形成された少なくとも一層の薄い磁性シートと、第1接着層により上記薄い磁性シートの一方面に接着された保護フィルムと、一側面に設けられた第2接着層により上記薄い磁性シートの他方面に接着された両面テープと、を含むワイヤレス充電器用磁場シールドシートが開示されている。この特許出願に記載の接着層の厚さはナノ結晶厚さの50%以上を超える必要があり、好ましくは10/20/30umであり、このような両面テープは高温環境で明らかな欠点があり、厚ければ厚いほど性能が不安定になってしまう。特許出願CN104900383Aには、ワイヤレス充電用の単層/多層磁性導電シート及びその製造方法が開示されており、細かい片を絶縁し、充電効率を向上させるために接着剤浸漬法の使用について言及され、片面で接着剤を浸漬させることにより、接着液がリボンの亀裂に充填され、亀裂に完全に充填と同時に、小さな単位のアモルファスまたはナノ結晶フレークの露出領域をすべて覆い、互いに絶縁させ、渦電流損失を低減させる。特許出願CN110364340Aには、磁気絶縁シート及びその製造方法並びに用途が開示され、この特許出願に言及された磁気絶縁シートの亀裂の隙間には絶縁接着層で充填され、前記亀裂の両側の断片ユニットを互いに絶縁させ、リボンに絶縁性接着剤液をディップコートし、磁気絶縁シートの両側にいずれも絶縁性接着剤層があるようにして、より優れた絶縁効果を有する磁気絶縁シートを得る。上記2つの特許出願は、片面浸漬であっても両面浸漬であっても、熱処理後のナノ結晶リボンは非常に脆くて壊れやすいため、実際に工業生産において連続的大量生産を達成することが困難であり、生産の継続性も制御が非常に難しいため、現在、このような工程は大規模生産に使用されていない。特許出願CN114551053Aには、電子タバコの電磁誘導加熱用のナノ結晶磁気絶縁シート及びその製造並びに用途が開示されている。この特許出願に言及されたナノ結晶磁気絶縁シートの100kHz周波数における初期透磁率は200~2000であり、ナノ結晶磁気絶縁シートの電磁誘導加熱コイルに対する良好なカバレッジを実現し、非常に優れた磁気絶縁効果及び加熱効果を達成することができる。しかし、一部の電子タバコ製品の電磁誘導加熱システムはMHzレベルで作動するため、高周波での磁気損失及び磁性シートの高温安定性が非常に高く要求され、この特許出願には100kHzでの性能のみが開示され、MHz周波数での磁気絶縁シートの性能の安定性及び適用性を保証することができない。
【0004】
そのため、高温作動環境でも適用でき、さらに電子タバコ、ドローン、ロボットなどの高周波や大電流で作動する分野でも使用できる磁気絶縁シートの開発は非常に価値がある。
【発明の概要】
【0005】
従来の磁気絶縁系製品に存在する不備及び不足を解決するために、本発明は、ナノ結晶軟磁性合金リボンに超薄い両面テープを覆って後の一次磁気破砕、応力緩和及び二次磁気破砕処理等の工程を合わせることによって、高温環境で性能が安定する耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料を取得する耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料及びその製造方法が提供される。
【0006】
そのため、本発明の第1態様は、
ナノ結晶軟磁性合金リボンに両面テープを覆い、接着剤被覆ナノ結晶リボンを製造し得るステップS1と、
前記接着剤被覆ナノ結晶リボンに対して一次磁気破砕処理を行い、単層ナノ結晶磁性層を製造し得るステップS2と、
前記単層ナノ結晶磁性層に対して多層複合して複合材料を製造し得り、前記複合材料に対して応力緩和処理を行い、多層ナノ結晶磁性層を製造し得るステップS3と、
前記多層ナノ結晶磁性層に対して二次磁気破砕処理を行い、耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料を製造し得るステップS4と、を含む耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造方法が提供される。
【0007】
本発明では、前記耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造中において、接着剤被覆ナノ結晶リボンに対して一次磁気破砕処理を行った後、さらに応力緩和処理及び二次磁気破砕処理を導入することによって、製造され得る耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料により優れた熱安定性を具備させ、さらに磁気デバイスの高温環境で作動する安定性を大幅に向上させる。
【0008】
本発明のステップS1で用いられるナノ結晶軟磁性合金リボンは、アモルファスの軟磁性合金リボンを熱処理して製造されてもよく、熱処理の前に、アモルファスの軟磁性合金リボンを片状にカットし、あるいはリング型鉄芯として巻き付けられ、耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の連続的製造に寄与する。本発明で、アモルファスの軟磁性合金リボンを熱処理する温度は500~600℃であり、例えば500℃、520℃、550℃、580℃あるいは600℃等であってもよく、好ましくは550~580℃であり、熱処理雰囲気は不活性雰囲気あるいは真空であり、好ましくは窒素雰囲気保護である。
【0009】
本発明では、前記アモルファス軟磁性合金リボンは、鉄ベースのアモルファス軟磁性合金リボンあるいはコバルトベースのアモルファス軟磁性合金リボンであってもよく、本発明で用いられる鉄ベースのアモルファス軟磁性合金リボンあるいはコバルトベースのアモルファス軟磁性合金リボンの元素組成について明らかに限定せず、当業者は市販している製品を購買することによって取得できる。
【0010】
いくつかの実施形態において、ステップS1で、前記両面テープは、無基材両面テープあるいは基材有り両面テープであり、前記基材有り両面テープにおける基材は、厚さ1.9μm以下のPETフィルムである。
【0011】
本発明で、用いられる両面テープは、無基材両面テープであってもよいし、基材有り両面テープであってもよい。本発明の発明者は、研究した結果、基材有り両面テープよりも、無基材両面テープを用い、本発明に記載の方法によって製造された磁気絶縁シート(磁気絶縁シールド材料)が高温で保管した後に、同様に性能の変動を効果的に低減させることができ、且つその性能の変動がより小さくなるが、基材有り両面テープよりも、同じ透磁率を制御し、無基材両面テープを用いて製造された磁気絶縁シートの磁気損失がやや大きくなる、と発見した。
【0012】
本発明で、前記基材有り両面テープにおける基材は、PET(ポリゼニレングリコールグリコール)フィルムであり、この基材は変形しやすく湾曲性を有し、その後の加工処理に寄与すると同時に、耐熱性が高く電気損失が低く、製造された耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の包括的性能をさらに向上することに寄与する。本発明で、前記基材の厚さは1.9μm以下であり、好ましくは1.0~1.9μmであり、例えば1.4μmあるいは1.9μm等であってもよく、好ましくは1.4μmである。本発明で基材の厚さは、製造された耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の高温安定性に大きく影響し、熱衝撃試験の後に、1.4μm基材の両面テープを用いて製造された磁気絶縁シートの磁気性能安定性は、1.9μm基材の両面テープよりも顕著に優れたと発見した。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記両面テープにおける粘着層は、厚さが3~30μmであり、粘着層における接着剤は、アクリル系接着剤あるいは変性アクリル系接着剤であり、前記変性アクリル系接着剤は、ビスメチルシランカップリング剤による変性アクリル系接着剤である。
【0014】
本発明で、前記両面テープにおける粘着層の厚さは、3μm、5μm、8μm、10μm、15μm、20μm、25μmあるいは30μm等であってもよい。いくつかの好ましい実施形態において、前記両面テープにおける粘着層の厚さは、3~8μm、例えば3μmである。両面テープは、高温環境で顕著な欠点が存在し、且つ厚いほど安定しなくなるが、本発明で用いられる両面テープ粘着層の厚さは薄く、できるだけ厚すぎる粘着層の製造された磁気絶縁シートの熱安定性への影響を回避する。
【0015】
本発明で、前記両面テープ粘着層における接着剤は、普通のアクリル系接着剤であってもよいし、高い耐熱性能を有する変性アクリル系接着剤であってもよく、好ましくは変性アクリル系接着剤であり、前記変性アクリル系接着剤は、ビスメチルシランカップリング剤を耐熱モノマーとして変性されたアクリル系接着剤である。本発明で前記耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料は、製造中にさらに応力緩和処理及び二次磁気破砕処理ステップが導入されるため、本発明では、耐熱性がよくない普通のアクリル系接着剤を用いても製造された磁気絶縁シールド材料がよりよい熱安定性を有するが、変性アクリル系接着剤を用いて磁気絶縁シールド材料の高温存在安定性をさらに向上させることができる。本発明で用いられる両面テープは市販されている製品であり、当業者は、需要に応じて購買して使用することができる。
【0016】
いくつかの実施形態において、ステップS2で、前記一次磁気破砕処理は、縦横クロスローラーせん断方式により磁気破砕を行い、あるいは、凸部付きアニロックスローラーにより圧延して磁気破砕を行い、前記クロスローラーせん断においてローラーはさみのブレードクリアランスは1~1.5mmであり、前記アニロックスローラーの凸部はサイズが1~1.5mmである。
【0017】
本発明で、上記一次磁気破砕処理により、取得した単層ナノ結晶磁性層におけるナノ結晶断片ユニットのサイズを0.3~1.5mmにし、製造された磁気絶縁シールド材料の磁気損失を低減させるとともに、その熱安定性を向上させることができる。
【0018】
本発明での一次磁気破砕処理は、単層ナノ結晶磁性層に対して多層複合を行った後、且つ応力緩和処理の前に行われてもよく、取得したナノ結晶シールド材料の高温安定性は、単層ナノ結晶磁性層の多層複合前の一次磁気破砕の効果に近く、基本的に要求を満たすが、一次磁気破砕工程の時間が顕著に長くなる。
【0019】
いくつかの実施形態において、ステップS1で、前記ナノ結晶軟磁性合金リボンの厚さは12~22μmである。
【0020】
いくつかの具体的な実施例において、前記ナノ結晶軟磁性合金リボンの厚さは、12μm、14μm、16μm、18μm、20μmあるいは22μmであってもよい。いくつかの好ましい実施形態において、前記ナノ結晶軟磁性合金リボンの厚さは16~18μmである。
【0021】
本発明で、ナノ結晶軟磁性合金リボンの厚さが小さすぎると、合金リボンの机械強度が低くなり、厚さが高過ぎるようになり、合金リボンの性能が悪くなる。本発明の発明者は、研究した結果、厚さ16~18μmのナノ結晶軟磁性合金リボンを用いて、製造された磁気絶縁シールド材料の高温保管後の性能の変動をより小さくできると発見した。本発明では、ナノ結晶軟磁性合金リボンの幅について特に制限せず、5~300mmである。
【0022】
いくつかの実施形態において、ステップS3で、前記多層複合の場合に、単層ナノ結晶磁性層の複合層数は2~4層であり、製造された多層ナノ結晶磁性層の厚さは30~120μmである。
【0023】
本発明で、前記単層ナノ結晶磁性層の厚さは、一般的に18~32μmであり、多層複合時に単層ナノ結晶磁性層の複合層数が2層である場合に、この際に製造された二重層ナノ結晶磁性層の厚さは30~65μmであり、多層複合時に単層ナノ結晶磁性層の複合層数が3層である場合に、この際に製造された三層ナノ結晶磁性層の厚さは45~90μmであり、多層複合時に単層ナノ結晶磁性層の複合層数が4層である場合に、この際に製造された多層ナノ結晶磁性層の厚さは60~120μmである。本発明で、前記多層複合の場合に、単層ナノ結晶磁性層の複合層数は2~3層であり、この際に製造された多層ナノ結晶磁性層の厚さは好ましい。本発明で、基材有り両面テープを用いて製造された単層ナノ結晶磁性層の積層構造概略図を
図1に示し、基材有り両面テープを用いて製造された二重層ナノ結晶磁性層の積層構造概略図を
図2に示し、基材有り両面テープを用いて製造された三層ナノ結晶磁性層の積層構造概略図を
図3に示す。
【0024】
いくつかの実施形態において、ステップS3で、前記応力緩和処理は、前記複合材料を80~120℃で0.5~24時間老化処理する工程を含む。
【0025】
いくつかの好ましい実施形態において、前記応力緩和処理は、前記複合材料を85~120℃で6~12時間老化処理する工程を含む。
【0026】
本発明で、上記応力緩和処理によって、後の磁気絶縁シールド材料が高温で使用される時に両面テープの性能の変動による磁気破砕片への応力作用を効果的に解消することができ、さらに、応力による磁気特性の変化を回避し、磁気絶縁シールド材料の高温での熱安定性を効果的に向上させる。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記応力緩和処理は、老化処理した複合材料を相対湿度75~95%、温度80~100℃の条件で6~24時間湿熱老化処理する工程をさらに含む。
【0028】
いくつかの好ましい実施形態において、前記応力緩和処理は、老化処理した複合材料を相対湿度85%、温度85℃の条件で18~24時間湿熱老化処理する工程をさらに含む。
【0029】
本発明では、老化処理した複合材料に対してさらに湿熱老化処理を行うことによって、磁気絶縁シールド材料の高温での熱安定性をより高めることができる。
【0030】
いくつかの実施形態において、ステップS4で、前記二次磁気破砕処理は、凸部付きのファインアニロックスローラー及びパターンなしローラーにより交互ローリングを実行して実現され、前記ファインアニロックスローラーの凸部はサイズが0.5~1mmである。
【0031】
本発明で、上記二次磁気破砕処理によって、取得した耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料におけるナノ結晶断片ユニットのうち、微小亀裂で割った細かい片のサイズが0.01~0.05mmである。二次磁気破砕処理を行うことによって、さらに高温で応力による磁気特性の変化を解消することができ、磁気絶縁シールド材料の高温での熱安定性をさらに向上させることに寄与する。
【0032】
本発明で、前記方法は、連続するナノ結晶軟磁性合金リボンに対してコーティング、一次磁気破砕、多層複合、応力緩和、二次磁気破砕等の大規模な処理により、製造工程の連続性が保証され、操作が簡単で、工業生産に適している。
【0033】
本発明の第2態様は、本発明の第1態様に記載の方法で製造され得る耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料が提供される。
【0034】
本発明では、一次、二次磁気破砕工程と応力緩和処理との組み合わせにより、適当なリボン及び両面テープを選択することによって、ナノ結晶断片構造を最適化するだけではなく、両面テープの高温衝撃での変動を改良し、さらに両面テープによるナノ結晶断片への応力作用を小さくし、渦電流損失及び高温性能の変動を効果的に低減させ、熱安定に優れた耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料が製造され、この磁気絶縁シールド材料は、6.78MHz周波数で透磁率μ'が200以上、磁気損失μ"が100以下であり、且つ120℃での高温保管及び200℃の熱衝撃で、磁性能の変動が小さく、高周波や大電流で作動する際に発熱しやすい電子製品の安定した高温性能の要求を満たすことができる。
【0035】
本発明に記載の方法で製造された耐熱性磁気絶縁シールド材料は、2~4層のナノ結晶軟磁性合金リボンと両面テープとが複合してなり、前記軟磁性合金リボンは、均一なグリッド状断片ユニットに分割され、且つ各断片ユニットの内部に全体にわたって微小亀裂があり、グリッド状断片ユニットのサイズ範囲が0.3mm~1.5mmであり、断片ユニットのうち、微小亀裂で割った細かい片のサイズが0.01mm~0.05mmであり、製造された耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の表面の磁気破砕構造概略図を
図4に示す。
【0036】
本発明の第3態様は、高温環境で作動する電子製品の電磁波シールド材料の製造における本発明の第2態様に記載の耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の用途が提供され、前記電子製品は電子タバコ、ドローン、ロボットのいずれか一つから選択される。
【0037】
本発明で提供される耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料は、周波数6.78MHz、温度200℃で作動する時の磁気性能が安定し、ナノ結晶シールド材料の作動温度及び周波数適用範囲が拡大し、さらに高温環境で動作する必要がある電子製品(例えば電子タバコ、ドローン、ロボット)の電磁波シールド材として使用できる。注意すべきこととしては、本発明の耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料は、数百kHzレベルの周波数、200℃以下の作動環境での電磁シールドにも適している。
【0038】
本発明では、前記耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料について、必要に応じて使用前に多層複合及び型抜きすることができる。
【0039】
本発明の有益な技術効果:本発明で提供される耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造方法は、応力緩和処理工程と組み合わせた2段階の磁気破砕を独創的に採用し、特殊な両面テープを使用することで、ナノ結晶断片構造を最適化するだけでなく、両面テープの高温衝撃での変動を改良し、さらに両面テープによるナノ結晶断片への応力作用を小さくし、渦電流損失及び高温性能の変動を効果的に低減させ、ナノ結晶磁気絶縁シールド材料が長い時間での180°C、短時間での200℃という使用条件でも、安定した磁気特性を維持できるようになり、明らかな外観品質欠陥がなく、良好な磁気絶縁シールド効果が得られる。同時に、本発明に記載された方法は、大量生産装置および大量生産工程に基づいており、連続的な大規模生産に適し、産業応用にとって実用的な意義があり、応用の見通しが良好である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明で基材有り両面テープを用いて製造され得る単層ナノ結晶磁性層の積層構造概略図である。
【
図2】本発明で基材有り両面テープを用いて製造され得る二重層ナノ結晶磁性層の積層構造概略図である。
【
図3】本発明で基材有り両面テープを用いて製造され得る三層ナノ結晶磁性層の積層構造概略図である。
【
図4】本発明で製造された耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の表面の磁気破砕構造概略図である。
【
図5】実施例1で製造された耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の表面の磁気破砕形貌図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の理解を容易にするために、実施例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は説明するためのものに過ぎず、本発明の適用範囲を限定するものではない。本発明で用いられる原料あるいは成分については、特に明記しない限り、いずれも市販ルートまたは常規方法により製造することができる。
【0042】
下記の実施例で、接着剤がアクリル系接着剤である両面テープとしては、いずれも天津シン港源亨達科技発展有限公司製の関連両面テープが用いられ、両面テープのうち、接着剤が変性アクリル系接着剤である両面テープとしては、いずれも格林開思茂光電科技株式有限公司製の関連両面テープが用いられ、鉄ベースのアモルファス軟磁性合金リボンとしては、いずれも常徳知見新材料有限公司製の関連リボンが用いられる。
実施例1:耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造
【0043】
(1)厚さ20μmの鉄ベースのアモルファス軟磁性合金リボンを選択してリング型鉄芯として巻き付け、窒素保護雰囲気で熱処理を行い、熱処理温度が565℃であり、焼鈍後に厚さ20μmの鉄ベースのナノ結晶軟磁性合金リボンを製造し得る。
【0044】
(2)ステップ(1)で得られたナノ結晶リボンの片面を粘着層の厚さが3μmである両面テープに覆い、両面テープとしては基材有り両面テープが用いられ、粘着層における接着剤がアクリル系接着剤であり、基材が厚さ1.9μmのPETフィルムであり、他方面が裸面であり、片面接着剤被覆ナノ結晶リボンが取得される。
【0045】
(3)ステップ(2)で得られた片面接着剤被覆ナノ結晶リボンに対して一次磁気破砕を行い、一次磁気破砕処理としては、縦横クロスローラーせん断方式により実現され、クロスローラーせん断におけるローラーはさみのブレードクリアランスが1.5mmであり、単層ナノ結晶磁性層が取得され、単層ナノ結晶磁性層におけるナノ結晶断片サイズが0.5mmほどであり、よって、単層ナノ結晶磁性層の6.78MHz周波数における透磁率μ'=250±50にする。
【0046】
(4)ステップ(3)で得られた単層ナノ結晶磁性層に対して三層複合を行い、複合材料を取得し、複合材料を85℃のオーブンに入れて12時間置いて応力緩和処理を行い、厚さ66μmの三層ナノ結晶磁性層を取得する。
【0047】
(5)ステップ(4)で得られた三層ナノ結晶磁性層に対して二次磁気破砕処理を行い、二次磁気破砕処理として、凸部付きのファインアニロックスローラー及びパターンなしローラーにより交互ローリングを実行して実現され、ファインアニロックスローラーの凸部のサイズが0.8mmであり、耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料を製造し、耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料においてナノ結晶断片ユニットのうち、微小亀裂で割った細かい片のサイズが0.03mmほどであり、耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の6.78MHz周波数における磁気損失μ"<100にする。製造された耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の表面磁気破砕形貌図を
図5に示す。
実施例2:耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造
【0048】
製造工程は基本的に実施例1と同じであるが、相違点としては、厚さ16μmの鉄ベースのアモルファス軟磁性合金リボンを選択して熱処理し、焼鈍後に厚さ16μmの鉄ベースのナノ結晶軟磁性合金リボンを製造し得ることである。
実施例3:耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造
【0049】
製造工程は基本的に実施例2と同じであるが、相違点としては、製造工程において使用される両面テープにおける基材が、厚さ1.4μmのPETフィルムであることである。
実施例4:耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造
【0050】
製造工程は基本的に実施例2と同じであるが、相違点としては、製造工程において使用される両面テープが無基材両面テープであることである。
実施例5:耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造
【0051】
製造工程は基本的に実施例2と同じであるが、相違点としては、製造工程において応力緩和処理の方式が、複合材料を120℃のオーブンに入れて6時間置いて応力緩和処理を行うことである。
実施例6:耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造
【0052】
製造工程は基本的に実施例2と同じであるが、相違点としては、製造工程において応力緩和処理の方式が、複合材料を120℃のオーブンに入れて6時間置いて、その後、温度85℃、相対湿度85%RHの湿熱オーブンに入れて24時間置いて応力緩和処理を行うことである。
実施例7:耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造
【0053】
製造工程は基本的に実施例2と同じであるが、相違点としては、製造工程において使用される両面テープ粘着層における接着剤が、変性アクリル系接着剤(ビスメチルシランカップリング剤を耐熱モノマーとする)であることである。
実施例8:耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の製造
【0054】
(1)厚さ16μmの鉄ベースのアモルファス軟磁性合金リボンを選択してリング型鉄芯として巻き付け、窒素保護雰囲気で熱処理を行い、熱処理温度が565℃であり、焼鈍後に厚さ16μmの鉄ベースのナノ結晶軟磁性合金リボンを製造し得る。
【0055】
(2)ステップ(1)で得られたナノ結晶リボンの片面を粘着層の厚さが30μmである両面テープに覆い、両面テープとしては無基材アクリル酸が用いられ、他方面が裸面であり、片面接着剤が被覆されるナノ結晶リボンが取得され、且つ2つの片面接着剤被覆ナノ結晶リボンを厚さ45μmの二重層ナノ結晶リボンとして複合し、一方面が裸面、他方面が両面テープである。
【0056】
(3)ステップ(2)で得られた二重層ナノ結晶リボンに対して一次磁気破砕を行い、一次磁気破砕処理としては、縦横クロスローラーせん断方式により実現され、クロスローラーせん断におけるローラーはさみのブレードクリアランスが1.5mmであり、二重層ナノ結晶磁性層が取得され、二重層ナノ結晶磁性層におけるナノ結晶断片サイズが0.5mmほどであり、よって、二重層ナノ結晶磁性層の6.78MHz周波数における透磁率μ'=250±50にする。
【0057】
(4)ステップ(3)で得られた二重層ナノ結晶磁性層を120℃のオーブンに入れて6時間置いて、その後、温度85℃、相対湿度85%RHの湿熱オーブンに入れて24時間置いて応力緩和処理を行い、厚さ45μmの応力緩和処理後の二重層ナノ結晶磁性層が得られる。
【0058】
(5)ステップ(4)で得られた二重層ナノ結晶磁性層に対して二次磁気破砕処理を行い、二次磁気破砕処理として、凸部付きのファインアニロックスローラー及びパターンなしローラーにより交互ローリングを実行して実現され、ファインアニロックスローラーの凸部のサイズが0.8mmであり、耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料を製造し、耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料においてナノ結晶断片ユニットのうち、微小亀裂で割った細かい片のサイズが0.03mmほどであり、耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の6.78MHz周波数における磁気損失μ"<100にする。
比較例1
【0059】
(1)厚さ16μmの鉄ベースのアモルファス軟磁性合金リボンを選択してリング型鉄芯として巻き付け、窒素保護雰囲気で熱処理を行い、熱処理温度が565℃であり、焼鈍後に厚さ16μmの鉄ベースのナノ結晶軟磁性合金リボンを製造し得る。
【0060】
(2)ステップ(1)で得られたナノ結晶リボンの片面を粘着層の厚さが3μmである両面テープに覆い、両面テープとしては無基材両面テープが用いられ、粘着層における接着剤がアクリル系接着剤であり、他方面が裸面であり、片面接着剤被覆ナノ結晶リボンが取得される。
【0061】
(3)ステップ(2)で得られた片面接着剤被覆ナノ結晶リボンに対して一次磁気破砕を行い、一次磁気破砕処理としては、縦横クロスローラーせん断方式により実現され、クロスローラーせん断におけるローラーはさみのブレードクリアランスが1.5mmであり、単層ナノ結晶磁性層が取得され、単層ナノ結晶磁性層におけるナノ結晶断片サイズが0.5mmほどであり、よって、単層ナノ結晶磁性層の6.78MHz周波数における透磁率μ'=250±50にする。
【0062】
(4)ステップ(3)で得られた単層ナノ結晶磁性層に対して三層複合を行い、ナノ結晶磁気絶縁シールド材料が得られる。
比較例2
【0063】
(1)厚さ16μmの鉄ベースのアモルファス軟磁性合金リボンを選択してリング型鉄芯として巻き付け、窒素保護雰囲気で熱処理を行い、熱処理温度が565℃であり、焼鈍後に厚さ16μmの鉄ベースのナノ結晶軟磁性合金リボンを製造し得る。
【0064】
(2)ステップ(1)で得られたナノ結晶リボンの片面を粘着層の厚さが3μmである両面テープに覆い、両面テープとしては基材有り両面テープが用いられ、粘着層における接着剤がアクリル系接着剤であり、基材が厚さ1.9μmのPETフィルムであり、他方面が裸面であり、片面接着剤被覆ナノ結晶リボンが取得される。
【0065】
(3)ステップ(2)で得られた片面接着剤被覆ナノ結晶リボンに対して一次磁気破砕を行い、一次磁気破砕処理としては、縦横クロスローラーせん断方式により実現され、クロスローラーせん断におけるローラーはさみのブレードクリアランスが1.5mmであり、単層ナノ結晶磁性層が取得され、単層ナノ結晶磁性層におけるナノ結晶断片サイズが0.5mmほどであり、よって、単層ナノ結晶磁性層の6.78MHz周波数における透磁率μ'=250±50にする。
【0066】
(4)ステップ(3)で得られた単層ナノ結晶磁性層に対して三層複合を行い、厚さ66μmの三層ナノ結晶磁性層が得られる。
【0067】
(5)ステップ(4)で得られた三層ナノ結晶磁性層に対して二次磁気破砕処理を行い、二次磁気破砕処理として、凸部付きのファインアニロックスローラー及びパターンなしローラーにより交互ローリングを実行して実現され、ファインアニロックスローラーの凸部のサイズが0.8mmであり、ナノ結晶磁気絶縁シールド材料を製造し、ナノ結晶磁気絶縁シールド材料においてナノ結晶断片ユニットのうち、微小亀裂で割った細かい片のサイズが0.03mmほどであり、ナノ結晶磁気絶縁シールド材料の6.78MHz周波数における磁気損失μ"<100にする。
テスト例1
【0068】
実施例1-8及び比較例1-2で製造された磁気絶縁シールド材料を120℃のオーブンに入れて24時間保持して高温保管試験を行い、取り出して十分に冷却した後、キーサイト・テクノロジーE4990Aインピーダンスアナライザーを用いて透磁率をテストする。透磁率テスト結果を下記の表1に示す。
【0069】
【0070】
表1の透磁率テスト結果から分かるように、実施例1-8で製造された磁気絶縁シールド材料は、比較例1-2で製造された磁気絶縁シールド材料と比べると、120℃での高温保管試験を経過し、本発明の二次磁気破砕工程及び応力緩和処理で製造された磁気絶縁シールド材料は、応力緩和処理が採用されず、応力緩和処理及び二次磁気破砕工程が採用されずに製造された磁気絶縁シールド材料に比べると、6.78MHz周波数での透磁率μ'及びμ"の変化変動が顕著に小さくなる。
【0071】
実施例6及び7の試験結果の比較から分かるように、変性アクリル両面テープは、磁気性能の変動をさらに低減させることができ、高温保管で安定性能のパフォーマンスが最も優れる一方、128kHz周波数で、透磁率の変動がより小さく、本発明のナノ結晶磁気絶縁シールド材料が120℃での高温保管で磁気性能が非常に安定し、優れた耐熱性を有することが示される。実施例1-2の試験結果から分かるように、厚さがより薄い16μmのナノ結晶軟磁性合金リボンを用いて製造された磁気絶縁シールド材料は、高温保管性能の変動がより小さい。実施例2-3の試験結果の比較から分かるように、そのうち、両面テープの基材の厚さ1.4μmのものが1.9μmのものよりも、高温安定性がよりよく、実施例2及び4の試験結果の比較から分かるように、無基材両面テープを用いて本発明方法で製造された磁気絶縁シールド材料は、高温保管面でも性能の変動を効果的に低減させることができ、且つ変動がより小さく、相違点としては、基材有りに比べて、同じ透磁率を制御し、無基材両面テープの磁気損失が僅かに大きくなる。実施例2及び5-6の試験結果から分かるように、熱老化温度が85°Cから120°Cまで上昇することにつれて、湿熱老化処理を追加した後、120°Cでの高温保管後、磁気絶縁シールド材料の磁気性能の変化は非常に小さく、特に128kHz周波数では、透磁率性能がほとんど変わらない。実施例8の試験結果から、無基材両面テープを用いてそのまま二重層ナノ結晶リボンを複合した後、一緒に一次磁気破砕を行うと、同様に、高温保管安定性を強化する目的を達成し、磁気性能が基本的に要求を満たすことができるが、磁気破砕工程時間が顕著に増加することが示される。
【0072】
上記試験結果から、本発明に記載の製造方法で製造された磁気絶縁シールド材料は、よい高温安定性を有し、120℃の高温環境で長い時間で作動する要求を満たすことができ、特にMHzレベルの高周波数での使用に適し、同様にkHzレベルの作動周波数にも適している。
テスト例2
【0073】
実施例1-8及び比較例1-2で製造された磁気絶縁シールド材料を、20mm幅仕様のテープに均一にカットし、一部を切り出してφ4.5mmの銅棒に巻き付けて多層複合が行われ、多層複合ナノ結晶磁気絶縁シールド材料のサンプルが製造され、三層複合による磁気絶縁シールド材料(実施例1~7および比較例1~2)を80mmの長さで切り出し(三層ナノ結晶磁性層の五層複合に相当する)、二重層複合による磁気絶縁シールド材(実施例8)を120mmの長さで切り出す(二重層ナノ結晶磁性層の八層複合相当する)。製造された多層複合ナノ結晶磁気絶縁シールド材料のサンプルを順に150℃及び200℃のオーブンに入れてそれぞれ30分間保持して熱衝撃試験が行われ、サンプルを取り出して十分に冷却した後、HIOKI IM3536精密LCRメータを使用して、6.78MHzと128kHzで異なる温度の熱衝撃後のサンプルのインダクタンスLs、抵抗Rs及びQ値をそれぞれテストし、室温テストデータと比較することで変化を観察する。そのうち、サンプルの6.78MHzテストにおけるインダクタンスLs、抵抗Rs及びQ値のテストデータを以下の表2に示し、サンプルの128kHzテストにおけるインダクタンスLs、抵抗Rs及びQ値のテストデータを以下の表3に示す。
【0074】
【0075】
表2及び表3のテスト結果から分かるように、実施例1-8で製造された磁気絶縁シールド材料は、比較例1-2で製造された磁気絶縁シールド材料に比べて、150℃の熱衝撃後、6.78MHz及び128kHzの周波数で、インダクタンスの変化が非常に小さく、抵抗が僅かに増加するが、変化の幅が小さく、200℃の熱衝撃後、インダクタンスが相変わらず変化が小さく、抵抗がほとんど150℃の衝撃よりも大きくなる一方、実施例1-8では、抵抗の増加値が比較例1-2よりも明らかに小さく、基材有り両面テープ及び無基材両面テープは、本発明に記載の方法でいずれも磁気絶縁シールド材料の高温磁気性能が安定するという要求を満たすことができる。実施例1-2の結果比較から、厚さがより薄い16μmのナノ結晶軟磁性合金リボンを用いて製造された磁気絶縁シールド材料は、熱衝撃後、インダクタンスの変化が顕著ではないが、抵抗が明らかに低下することが示される。実施例2-3の結果比較から、熱衝撃後、両面テープの基材厚さ1.4μmのものは1.9μmのものよりも磁気性能の安定性がより優れ、両面テープの基材厚さが高温サイクルの安定性に影響を与えることが示される。
【0076】
要すると、本発明では、両面テープを選択して一次、二次磁気破砕工程及び応力緩和処理を合わせることによって、両面テープの高温衝撃での変動を改良し、ナノ結晶断片に対する応力作用を低減させ、磁気損失を効果的に低減させ、製造された耐熱型磁気絶縁シールド材料は、120℃での高温保管及び200℃の熱衝撃で、磁気性能の変動が小さく、高周波や大電流で作動する際に発熱しやすい電子製品の安定した高温性能の要求を満たすことができる。
【0077】
注意すべきこととしては、上記した実施形態は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明を限定するものではない。本発明は、例示的な実施形態を参照して説明されたが、その中で使用される用語は、限定するものではなく、説明的かつ解釈的なものであると理解されるべきである。本発明の特許請求の範囲で規定に従って本発明を修正することができ、本発明の範囲および精神から逸脱することなく本発明を修正することができる。そこに記載される本発明は、特定の方法、材料、および実施例に関わるが、本発明は、そこに開示される特定の例に限定されることを意図しておらず、むしろ、本発明は、同じ機能を有する他のすべての方法および用途に拡張されることができる。
【要約】 (修正有)
【課題】耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料及びその製造方法並びに用途を提供する。
【解決手段】方法は、ナノ結晶軟磁性合金リボンに両面テープを覆い、接着剤被覆ナノ結晶リボンを製造するステップと、接着剤被覆ナノ結晶リボンに対して一次磁気破砕処理を行い、単層ナノ結晶磁性層を製造するステップと、単層ナノ結晶磁性層に対して多層複合して複合材料を製造し、複合材料に対して応力緩和処理を行い、多層ナノ結晶磁性層を製造するステップと、多層ナノ結晶磁性層に対して二次磁気破砕処理を行い、耐熱性ナノ結晶磁気絶縁シールド材料を製造するステップと、を含む。応力緩和処理工程と組み合わせた2段階の磁気破砕を独創的に採用し、特殊な両面テープを使用することで、製造された磁気絶縁シールド材料により優れた熱安定性を具備させる。
【選択図】なし