(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-15
(45)【発行日】2024-08-23
(54)【発明の名称】電気絶縁用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240816BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20240816BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240816BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20240816BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240816BHJP
H01B 3/42 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K5/3492
C08K3/22
C08K3/24
C08K3/38
H01B3/42 E
(21)【出願番号】P 2024052099
(22)【出願日】2024-03-27
【審査請求日】2024-04-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星 銀河
(72)【発明者】
【氏名】森下 健
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-202149(JP,A)
【文献】特開昭63-077964(JP,A)
【文献】特開平08-311318(JP,A)
【文献】特開平11-349824(JP,A)
【文献】特開平11-199784(JP,A)
【文献】特開昭61-253371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
H01B 3/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキレンテレフタレートと、
テトラブロモビスフェノール、塩化シアヌル及びトリブロモフェノールの縮合物
であって重量平均分子量が2000~5000である縮合物と、を含み、
前記ポリアルキレンテレフタレート100質量部に対する前記縮合物の量が9~19質量部である、電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
前記縮合物が、下記一般式(1)で表される化合物を含み、
【化1】
式(1)中のR
1は、-C(CH
3)
2-又は-SO
2-を表し、nは1以上の数を表す、請求項1に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸カリウム、スズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛からなる群より選ばれる1種以上の難燃助剤を更に含む、請求項1又は2に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項4】
前記縮合物100質量部に対する前記難燃助剤の量が1~100質量部である、請求項3に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアルキレンテレフタレートがポリブチレンテレフタレートを含む、請求項1又は2に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートは、優れた物性、成形加工性、機械的特性を示すことから、電気・電子部品などの分野に広く利用されている。ポリアルキレンテレフタレートは、それ自身では難燃性に乏しいことから、難燃性が要求される用途においては、難燃剤が添加されている。難燃剤としては様々な化合物が用いられているが、近年、環境面などの観点から高分子型の難燃剤を使用することが望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂に、難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA-エピクロルヒドリン型エポキシ樹脂とテトラブロモビスフェノールAとを反応させて得られるハロゲン含有ポリヒドロキシポリエーテル樹脂を配合するとともに、難燃助剤として三酸化アンチモンを配合した難燃性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平8-26228号公報
【文献】特公昭60-4236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにポリアルキレンテレフタレートに難燃剤を添加することにより難燃性を付与することはできるが、難燃剤を添加した場合、電気絶縁性、特に耐トラッキング性が低下するという問題がある。ここで、耐トラッキング性とは、トラッキングを起こしにくい耐性をいう。トラッキングとは、絶縁物の表面に導電路(トラック)が形成されることにより配線間でショート(絶縁破壊)してしまうことをいう。
【0006】
本発明の実施形態は、難燃性と耐トラッキング性を両立することができる電気絶縁用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] ポリアルキレンテレフタレートと、
テトラブロモビスフェノール、塩化シアヌル及びトリブロモフェノールの縮合物と、を含み、
前記ポリアルキレンテレフタレート100質量部に対する前記縮合物の量が9~19質量部である、電気絶縁用樹脂組成物。
[2] 前記縮合物が、下記一般式(1)で表される化合物を含み、
【化1】
式(1)中のR
1は、-C(CH
3)
2-又は-SO
2-を表し、nは1以上の数を表す、[1]に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
[3] 三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸カリウム、スズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛からなる群より選ばれる1種以上の難燃助剤を更に含む、[1]又は[2]に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
[4] 前記縮合物100質量部に対する前記難燃助剤の量が1~100質量部である、[3]に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
[5] 前記ポリアルキレンテレフタレートがポリブチレンテレフタレートを含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の電気絶縁用樹脂組成物。
[6] ポリアルキレンテレフタレート、及び、テトラブロモビスフェノール、塩化シアヌル及びトリブロモフェノールの縮合物と、を含み、前記ポリアルキレンテレフタレート100質量部に対する前記縮合物の量が9~19質量部である樹脂組成物の、電気絶縁用途としての使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態に係る電気絶縁用樹脂組成物であると、難燃性と耐トラッキング性を両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係る電気絶縁用樹脂組成物は、ポリアルキレンテレフタレートと、テトラブロモビスフェノール、塩化シアヌル及びトリブロモフェノールの縮合物とを含むものであって、ポリアルキレンテレフタレート100質量部に対する上記縮合物の量が9~19質量部である。かかる本実施形態によれば、難燃剤である上記縮合物を少量添加するだけで高い難燃性を発現することができ、高い耐トラッキング性が得られる。そのため、難燃性と耐トラッキング性を両立することができる。また、一般にUL-94試験において薄い成形品でのV-0達成は難しいが、本実施形態によれば薄い成形品においてもV-0を達成できる。また、難燃剤である上記縮合物が少量添加であるため、ポリアルキレンテレフタレート本来の樹脂物性を高く維持しやすい。
【0010】
ポリアルキレンテレフタレートは、テレフタル酸と脂肪族ジオールとを主成分とする重縮合反応によって得られるポリエステル樹脂である。脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどが挙げられる。
【0011】
ポリアルキレンテレフタレートの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが挙げられる。これらの中でもポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましい。すなわち、一実施形態において、ポリアルキレンテレフタレートは、ポリブチレンテレフタレートを含むことが好ましい。その場合、ポリブチレンテレフタレートの量は、ポリアルキレンテレフタレート100質量%中、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0012】
本実施形態では、難燃剤としてテトラブロモビスフェノール、塩化シアヌル及びトリブロモフェノールの縮合物が用いられる。該縮合物は、塩化シアヌルとテトラブロモビスフェノールとの間及び塩化シアヌルとトリブロモフェノールとの間での脱塩酸縮合により形成される縮合物である。
【0013】
テトラブロモビスフェノールとしては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールS等が挙げられる。
【0014】
一実施形態において、上記縮合物は、テトラブロモビスフェノールA及び/又はテトラブロモビスフェノールSと、塩化シアヌルと、トリブロモフェノールとの縮合物であり、下記一般式(1)で表される化合物(1)を含むことが好ましい。
【化2】
【0015】
式(1)中のR1は、-C(CH3)2-又は-SO2-を表し、好ましくは-C(CH3)2-である。式(1)中のnは、繰り返し単位数の平均値であって1以上の数を表す。nは、好ましくは1~5であり、より好ましくは1.8~4であり、更に好ましくは2以上3未満である。ここで、nは化合物(1)の重量平均分子量から算出される。
【0016】
上記縮合物が化合物(1)を含む場合、当該化合物(1)を主成分とすることが好ましく、縮合物100質量%における化合物(1)の量は80質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0017】
上記縮合物は、例えば、テトラブロモビスフェノールA及び/又はテトラブロモビスフェノールSと、塩化シアヌルと、トリブロモフェノールとをアルカリで処理することにより得られる。一実施形態において、縮合物は、特公昭60-4236号公報に記載の方法により製造することができ、塩化シアヌル1モルに対して、aモルのテトラブロモビスフェノールA及び/又はテトラブロモビスフェノールSと、(3-2a)モルのトリブロモフェノールとを、溶媒中で、3当量以上のアルカリで処理することにより得られる。ここで、aは0より大きく1.5未満であり、好ましくは0.5以上1未満である。
【0018】
上記縮合物の重量平均分子量(Mw)は、2000~6000であることが好ましく、より好ましくは2000~5000であり、より好ましくは2200~4000であり、更に好ましくは2500~3500である。このように縮合物として分子量が比較的小さなものを用いることにより、樹脂組成物の流動性を高めて、成形品の薄肉化が容易となる。
【0019】
本明細書において、重量平均分子量は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)により測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出した値である。詳細には、試料濃度0.2質量%のテトラヒドロフラン(THF)溶液を調製し、メンブレンフィルター(0.45μm)で濾過して測定溶液とする。下記測定装置及びカラムを用いて、溶離液をTHFとし、カラム温度40℃、試料注入量20μL、流量1.0mL/minとして分子量の測定を実施し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて重量平均分子量を算出することができる。
測定装置:Prominance-I((株)島津製作所製)
カラム:TSKgelG2000Hxl,TSKgelG3000Hxl,TSKgelG4000Hxl((株)島津製作所製)を直列に接続。
【0020】
電気絶縁用樹脂組成物における上記縮合物の量は、ポリアルキレンテレフタレート100質量部に対して、9~19質量部であり、好ましくは12~19質量部であり、より好ましくは15~19質量部であり、更に好ましくは17~18質量部である。
【0021】
電気絶縁用樹脂組成物は、難燃助剤を更に含んでもよい。難燃助剤としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、アンチモン酸カリウム、スズ酸亜鉛及びホウ酸亜鉛からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。これらの難燃助剤を含むことにより、難燃性を更に向上することができる。難燃助剤として、より好ましくは、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム及びアンチモン酸カリウムからなる群より選ばれる1種以上であり、更に好ましくは三酸化アンチモン及び/又は五酸化アンチモンである。
【0022】
難燃助剤の量は、上記縮合物100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、より好ましくは5~80質量部であり、より好ましくは10~60質量部であり、更に好ましくは20~50質量部である。
【0023】
電気絶縁用樹脂組成物は、繊維状補強材を更に含んでもよい。繊維状補強材を含むことにより、成形品の強度を向上することができる。繊維状補強材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維などが挙げられる。
【0024】
繊維状補強材を配合する場合、その量は特に限定されないが、例えば、ポリアルキレンテレフタレート100質量部に対して、1~100質量部でもよく、5~80質量部でもよく、10~60質量部でもよい。
【0025】
電気絶縁用樹脂組成物は、無機充填剤を更に含んでもよい。無機充填剤としては、例えば、ケイ酸金属塩、酸化チタンなどが挙げられる。ケイ酸金属塩としては、例えば、タルクなどのケイ酸マグネシウム系充填剤、カオリンなどのケイ酸アルミニウム系充填剤、マイカなどのケイ酸アルミニウム-カリウム系充填剤、ワラステナイトなどのケイ酸カルシウム系充填剤などが挙げられる。これらの中でもケイ酸金属塩を配合すると、耐トラッキング性の向上効果を高めることができる。
【0026】
無機充填剤(より好ましくはケイ酸金属塩)を配合する場合、その量は特に限定されないが、例えば、ポリアルキレンテレフタレート100質量部に対して、1~100質量部でもよく、5~80質量部でもよく、10~60質量部でもよい。
【0027】
電気絶縁用樹脂組成物は、更に、酸化防止剤、滴下防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、結晶化促進剤、着色剤(例えば顔料)などの各種添加剤を更に含んでもよい。
【0028】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。酸化防止剤を含む場合、その量は特に限定されず、例えば、ポリアルキレンテレフタレート100質量部に対して、0.05~5質量部でもよく、0.1~3質量部でもよい。
【0029】
滴下防止剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。滴下防止剤を含む場合、その量は特に限定されず、例えば、ポリアルキレンテレフタレート100質量部に対して0.05~5質量部でもよく、0.1~3質量部でもよい。
【0030】
電気絶縁用樹脂組成物の調製方法は特に限定されず、例えば、ポリアルキレンテレフタレート及び上記縮合物、更に任意成分としての難燃助剤、繊維状補強材、無機充填剤及びその他の添加剤を配合し、押出機などの混合機を用いて溶融混合する方法が挙げられる。
【0031】
得られた電気絶縁用樹脂組成物は、射出成形、押出成形、真空成形などの任意の成形方法により所望の成形をすることができ、成形品が得られる。
【0032】
本実施形態に係る樹脂組成物は、様々な電気絶縁用途に用いることができる。すなわち、本実施形態に係る樹脂組成物により作製された成形品は、難燃性と耐トラッキング性に優れるため、例えば、電気・電子部品、自動車部品として使用される耐電圧部品、例えば、ソケット、コイル、端子台、プラグ、スイッチ、リレー部品、ブレーカー部品などに好ましく利用できる。従って、本実施形態に係る樹脂組成物は、耐電圧部品用樹脂組成物とも称される。
【0033】
本実施形態に係る電気絶縁用樹脂組成物は、また、上記のように、薄く成形しても難燃性を発現することができる。そのため、例えば、厚さが0.4~1.6mm、より好ましくは0.5~1.0mm、更に好ましくは1.0mm未満のような薄い成形品を作製するためにも好適に用いられ、そのような薄い成形品とした場合であっても、難燃性と耐トラッキング性を両立することができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例について比較例とともに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例及び比較例で使用した原料の詳細は以下のとおりである。
[難燃剤]
・難燃剤1:上記式(1)で表される化合物(式中のR1は-C(CH3)2-)を含む、テトラブロモビスフェノールA、塩化シアヌル及びトリブロモフェノールの縮合物(TBBA/CC/TBP)。合成方法は以下の通りである。
【0036】
還流管、温度計、滴下ロート、撹拌機を備えた5Lガラス製4ツ口フラスコにテトラブロモビスフェノールA(TBBA)543.9g(1.0mol)、トリブロモフェノール(TBP)661.6g(2.0mol)、塩化シアヌル(CC)245.3g(1.33mol)、塩化メチレン2Lを加え攪拌しながら5℃に冷却し、滴下ロートより50質量%のNaOH水溶液352.0gを、反応溶液の温度を10℃以下に保ちながら、徐々に滴下した。滴下終了後、30分間10℃以下に保ち、その後10℃/hの温度で昇温し、還流するまで溶液の温度を上げた。還流温度において3時間保った後、反応溶液を水洗し2Lのメタノール中に再沈殿を行った。更に、得られた沈殿を1Nの塩酸、1Lの水、2Lのメタノールで順次洗浄した。80℃で12時間乾燥後、白色の粉体が収率98質量%で得られ、当該粉体の臭素含有率は60.0質量%であった。該粉体についてTHF溶液でのGPC測定による重量平均分子量(Mw)は3000であった。化学反応式は以下の通りである。
【0037】
【0038】
・難燃剤2:比較例、阪本薬品工業(株)製「SR-T20000」、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素含有量52質量%
【0039】
・難燃剤3:比較例、アルベマール社製「SAYTEX HP-7010」、臭素化ポリスチレン、臭素含有量68質量%
【0040】
・難燃剤4:比較例、第一工業製薬(株)製「ピロガード(登録商標) SR-460B」、トリブロモフェノール重縮合物、臭素含有量62質量%
【0041】
[ポリアルキレンテレフタレート]
・PBT(GF30%):東レ(株)製「トレコン 1101G-30」、ガラス繊維を30質量%含む、ガラス繊維強化ポリブチレンテレフタレート。表中の括弧内はガラス繊維の配合量であり、残部がPBTの配合量である。
【0042】
[難燃助剤]
・難燃助剤1:三酸化アンチモン、第一工業製薬(株)製「ピロガード(登録商標) AN-800T」
・難燃助剤2:五酸化アンチモン、日産化学(株)製「NA-1030」
【0043】
[ケイ酸金属塩]
・ケイ酸金属塩:タルク、林化成(株)製「ミクロンホワイト#5000S」
【0044】
[添加剤]
・安定剤1:ヒンダードフェノール系酸化防止剤、BASFジャパン(株)製「Irganox 1010」
・安定剤2:ホスファイト系酸化防止剤、BASFジャパン(株)製「Irgafos 168」
・滴下防止剤:AGC(株)製「FluonPTFE CD145E(PTFE)」
【0045】
[評価方法]
・難燃性:短冊状試験片(長さ127mm×幅12.7mm×厚さ0.8mm)の試験片を用いて、UL-94に準拠して測定した。難燃性は、UL-94の判定基準に従い、V-0(優)、V-1(良)、V-2(可)、N.R.(不可)の4段階で評価した。V-2以上が合格であり、N.R.はUL-94の判定基準外であり、難燃性に劣ることを示す。
【0046】
・耐トラッキング性:国際電気標準会議のIEC 60112に準拠し、角板試験片(50mm×50mm×厚さ3.2mm)を用いて、比較トラッキング(CTI)を測定した。溶液Aを用いて角板試験片表面の電極間に電解液を滴下しトラッキングせずに50滴耐える電圧をCTIとした。
CTIが600V以上のものを「A」(耐トラッキング性非常に良好)、600V未満250V以上のものを「B」(耐トラッキング性良好)、250V未満のものを「C」(耐トラッキング性不良)と評価した。
【0047】
[第1実験例]
下記表1に示す配合(質量部)に従い、二軸押出機を用いて260℃、スクリュー回転数200rpmで押出し、ペレットを製造した。このペレットをシリンダ温度260度、金型温度80度の条件で射出成形を行い、試験片を作製した。得られた試験片を用いて難燃性及び耐トラッキング性を評価した。
【0048】
【0049】
結果は表1に示す通りである。第1実験例では、難燃剤1~4のそれぞれについて、難燃性の評価がV-0となる難燃剤の最少量を予備試験により求めておき、各実施例及び比較例において、難燃剤の量を当該最少量に設定して、その場合に耐トラッキング性に差異がでるかを評価した。その結果、本実施形態に係る難燃剤1(TBBA/CC/TBP)を用いた実施例1~3では、耐トラッキング性に優れていた。これに対し、本実施形態に係る難燃剤とは異なる高分子型の難燃剤2~4を用いた比較例1~3では、耐トラッキング性に劣っていた。
【0050】
[第2実験例]
下記表2に示す配合(質量部)従い、その他は第1実験例と同様にして、試験片を作製し、得られた試験片を用いて難燃性及び耐トラッキング性を評価した。なお、表2中の実施例1は、第1実験例の実施例1に相当する。
【0051】
【0052】
結果は表2に示す通りである。第2実験例において、比較例4~6では難燃剤の配合量を実施例1に一致させて、難燃性と耐トラッキング性の両立効果が得られるかを確認した。比較例4,5では比較例1,2に対して難燃剤を減量したが、依然として耐トラッキング性に劣っており、また、実施例1に対して難燃性が低下した。比較例6では、比較例3と同様、難燃性には優れていたものの耐トラッキング性に劣っていた。このように本実施形態に係る難燃剤とは異なる難燃剤2~4を用いた場合、難燃性と耐トラッキング性を両立できなかった。
【0053】
第2実験例ではまた、実施例4~7及び比較例7として、本実施形態に係る難燃剤の配合量を変更した評価を行った。その結果、実施例1に対して難燃剤1を増量し、PBT100質量部に対する配合量を19質量部とした実施例4では、実施例1と同様、難燃性に優れ、耐トラッキング性も良好であった。実施例1に対して難燃剤1を減量し、PBT100質量部に対する配合量を9~14.3質量部とした実施例5~7では、実施例1に対して難燃性が低下したもののV-2で合格レベルにあり、耐トラッキング性も良好であった。これに対し、難燃剤1の配合量をPBT100質量部に対して21質量部とした比較例7では、難燃性には優れていたものの、耐トラッキング性に劣っており、難燃性と耐トラッキング性を両立できなかった。
【0054】
[第3実験例]
下記表3に示す配合(質量部)に従い、その他は第1実験例と同様にして、試験片を作製し、得られた試験片を用いて難燃性及び耐トラッキング性を評価した。なお、表3中の実施例1は、第1実験例の実施例1に相当する。
【0055】
【0056】
結果は表3に示すとおりであり、実施例8ではケイ酸金属塩を配合することにより、実施例1に対して、優れた難燃性を維持しながら、耐トラッキング性を向上することができた。
【0057】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0058】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【要約】
【課題】難燃性と耐トラッキング性を両立することができる電気絶縁用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】実施形態に係る電気絶縁用樹脂組成物は、ポリアルキレンテレフタレートと、テトラブロモビスフェノール、塩化シアヌル及びトリブロモフェノールの縮合物と、を含む。ポリアルキレンテレフタレート100質量部に対する前記縮合物の量は9~19質量部である。
【選択図】なし