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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】冷媒
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20240819BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
C09K5/04 E
C09K5/04 A
F25B1/00 396U
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020535296
(86)(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2018072819
(87)【国際公開番号】W WO2019048250
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】102017120786.4
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102017216363.1
(32)【優先日】2017-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517381603
【氏名又は名称】バイス テヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ゲプフェルト
(72)【発明者】
【氏名】ウルリッヒ ヘッセ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ハアック
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/045354(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/030236(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194847(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第04116274(DE,A1)
【文献】特開2017-146285(JP,A)
【文献】特表2020-533474(JP,A)
【文献】特許第6985101(JP,B1)
【文献】特表平11-511192(JP,A)
【文献】特表2006-504851(JP,A)
【文献】国際公開第1996/02606(WO,A1)
【文献】国際公開第1996/02607(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00- 5/20
F25B 1/00- 7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの熱交換器(12,25,47)を備えた冷却回路(11,24,39,44)を有する冷却装置(10,23,30,36,43)用の冷媒であって、前記少なくとも1つの熱交換器において前記冷媒は相転移し、前記冷媒は、ある質量分率の二酸化炭素(CO)とある質量分率の少なくとも1種の他の成分との冷媒混合物であり、
前記冷媒混合物中の二酸化炭素の前記質量分率が33~38質量%であり、前記他の成分がペンタフルオロエタン(CHF)及びジフルオロメタン(CH)であり、ペンタフルオロエタンの質量分率が33.5~31質量%であり、ジフルオロメタンの質量分率が33.5~31質量%であることを特徴とする、冷媒。
【請求項2】
二酸化炭素の質量分率が35質量%であり、ペンタフルオロエタンの質量分率が32.5質量%であり、ジフルオロメタンの質量分率が32.5質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の冷媒。
【請求項3】
二酸化炭素の質量分率が33~38質量%であり、冷媒R410A質量分率が67~62質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の冷媒。
【請求項4】
前記冷媒が非共沸冷媒であり、≧10Kの温度グライドを有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷媒。
【請求項5】
前記冷媒は、20年間にわたって、<2500の相対CO等価量を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の冷媒。
【請求項6】
前記冷媒は不燃性であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の冷媒。
【請求項7】
空気を調整するための試験室であって、前記試験室は、試験材料を収容する役目を果たし、かつ、環境に対して密閉されることができ、断熱されている試験空間と、前記試験空間の温度を制御するための温度制御装置とを含み、前記温度制御装置により前記試験空間内に-60℃~+180℃の温度範囲内の温度を確立可能であり、前記温度制御装置は、請求項1~のいずれか一項に記載の冷媒と、熱交換器(12、25、47)と、圧縮器(13、26)と、凝縮器(14、27、38)と、膨張要素(15、28)とを備えた冷却回路(11、24、39、44)を備えた冷却装置(10、23、30、36、43)を有する、試験室。
【請求項8】
前記冷却回路(11、24、39、44)は内部熱交換器(19、29、46)を有し、前記内部熱交換器は、膨張要素(15、28)の上流で、かつ、凝縮器(14、27、38)の下流で前記冷却回路の高圧側(17)に接続されており、圧縮器(13、26)の上流で、かつ、熱交換器(12、25、47)の下流で前記冷却回路の低圧側(18)に接続されていることを特徴とする、請求項7に記載の試験室。
【請求項9】
前記熱交換器(12、25、47)は、前記冷媒が前記熱交換器内で部分的にしか蒸発することができないような寸法のものであることを特徴とする、請求項7又は8に記載の試験室。
【請求項10】
前記凝縮器(14、27、38)が、前記冷却装置のもう1つの冷却回路(36、43)のカスケード熱交換器(40)として実現されていることを特徴とする、請求項7~9のいずれか一項に記載の試験室。
【請求項11】
前記温度制御装置が、試験空間内に、ヒーターと加熱熱交換器とを備えた加熱装置を有することを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項に記載の試験室。
【請求項12】
少なくとも1つの制御可能な第2の膨張要素(33)を有する第1のバイパス(31)が前記冷却回路(24、39、44)内に実現され、前記第1のバイパスは、前記内部熱交換器(29、46)の上流で、かつ、前記凝縮器(27、38)の下流で前記冷却回路に接続されており、前記第1のバイパスはさらなる制御可能な内部冷却(34)として実現されていることを特徴とする、請求項7~11のいずれか一項に記載の試験室。
【請求項13】
33~38質量%の二酸化炭素(CO)と、33.5~31質量%のペンタフルオロエタン(CHF)と、33.5~31質量%のジフルオロメタン(CH)との冷媒混合物からなる冷媒の試験室の試験空間内の空気を調整するための使用であって、前記試験空間は、試験材料を収容する役目を果たし、かつ、環境に対して密閉され、断熱されており、前記冷媒と、熱交換器(12、25、47)と、圧縮器(13、26)と、凝縮器(14、27、38)と、膨張要素(15、25、28)とを備えた冷却回路(11、24、39、44)を備えた、前記試験室の温度制御装置の冷却装置(10、23、30、36、43)が、前記試験空間内に、-60℃~+180℃の温度範囲内の温度を確立するために使用される、前記冷媒の使用。
【請求項14】
前記膨張要素(15、28)の上流で、かつ、凝縮器(14、27、38)の下流で前記冷却回路の高圧側(17)に接続されており、圧縮器(13、26)の上流で、かつ、熱交換器(12、25、47)の下流で前記冷却回路の低圧側(18)に接続されている前記冷却回路(11、24、39、44)の内部熱交換器(19、29、46)が、前記高圧側の前記冷媒を冷却するために使用され、前記内部熱交換器による前記高圧側の前記冷媒の冷却が、前記膨張要素での蒸発温度を下げるために使用されることを特徴とする、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記高圧側(17)の前記冷媒が、前記内部熱交換器(19、29、46)による前記低圧側(18)での一定の吸引圧力で低圧側の冷媒により冷却されることを特徴とする、請求項13又は14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置用の冷媒、及び冷媒を備えた試験室、並びに冷媒の使用に関し、冷媒が相転移する少なくとも1つの熱交換器を備えた冷却回路を備えた冷却装置用の前記冷媒は、ある質量分率の二酸化炭素とある質量分率の少なくとも1種の他の成分を含む冷媒混合物からなる。
【背景技術】
【0002】
この種の冷媒は、典型的には、冷却装置の閉じた冷却回路内を循環し、一連の様々な状態変化を経験する。冷媒は、所定の温度差内の冷却回路で使用できる性質を有するものでなければならない。最新の技術水準から、単一成分冷媒及び少なくとも2つの成分の冷媒混合物が知られている。冷媒は、DIN 8960のセクション6に従って分類される。
【0003】
法的規制により、冷媒は大気中のオゾンの破壊や地球温暖化に大きく寄与してはならない。これは、フッ素化又は塩素化された物質を冷媒として実質的に使用できないことを意味する。そのため、自然冷媒やガスが選択肢になる。さらに、順守しなければならない安全規制のために、冷却回路の充填、搬送及び運転を複雑にしないように、冷媒は不燃性であるべきである。また、可燃性冷媒が使用される場合には、その場合に要求される構造上の措置のために、冷却回路の製造もより費用がかかることになる。可燃性は、熱を放出することによって周囲の酸素と反応する冷媒の特性として理解されている。冷媒は、ヨーロッパ規格EN2の火災クラスC、又はDIN 378のクラスA2、A2L及びA3に分類された場合、特に可燃性である。
【0004】
さらに、冷媒が放出された場合に環境への間接的なダメージを回避するために、冷媒は比較的低いCO等価量を有するべきである。すなわち、相対地球温暖化係数(GWP)ができるだけ低いものであるべきである。GWPは、二酸化炭素を比較値として使用して、所定質量の温室効果ガスが地球温暖化にどれだけ寄与しているかを示す。この値は、一定期間の平均温暖化効果を表しており、比較のために20年間が設定されている。相対CO等価量又はGWPの定義については、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価レポート、付録8.A、表8.A.1を参照されたい。
【0005】
GWPが低い、例えば<2500の冷媒は、比較的高いGWPを有する冷媒よりも、冷却回路に関連する温度範囲でこれらの冷媒がかなり低い冷却能力を有する傾向があるという欠点を有する。二酸化炭素の質量分率が比較的高い冷媒混合物を使用すると、より低いGWPを達成することができるが、これらの冷媒混合物は、様々な物質が混合されるため、非共沸特性を有するおそれがあり、多くの冷却回路で望ましくない。
【0006】
非共沸冷媒混合物の場合、相転移は温度範囲にわたって起こり、これは温度グライドとして知られている。温度グライドは、一定圧力での沸点と露点温度の差である。非共沸冷媒混合物は、不燃性成分を高い質量分率で含むが、比較的高いGWPにより特徴付けられる。一見したところでは、二酸化炭素は不燃性であり、低いGWPを有するため、冷媒混合物の好適な成分であるように見受けられる。しかしながら、二酸化炭素と別の成分との混合物では、他の成分が可燃性である場合には、二酸化炭素の質量分率は比較的大きくなければならない。しかし、二酸化炭素は-56.6℃の凝固温度又は凝固点を有するため、これは不利である。この凝固温度又は凝固点のために、高い二酸化炭素濃度で-60℃までの温度を達成することはほとんどできない。
【0007】
また、冷媒の使用は、できるだけ単純であるべき、すなわち、冷却装置の大がかりな技術的な再構成を必要としないべきである。特に>3Kの温度グライドを有する冷媒では、対象となっている冷却回路の膨張要素と熱交換器又は蒸発器を、冷媒の蒸発温度に調節する必要があり。それに応じた制御も提供されなければならない。さらに、冷却装置、すなわち、熱交換器又は蒸発器の温度が長時間にわたって本質的に一定である冷却装置の静的運転のために設計された冷媒と、熱交換器で比較的速い温度変化を示す動的冷却装置用に設計された冷媒とを区別する必要がある。この種の動的冷却装置は、例えば試験室に設置される。このことは、使用される冷媒が広い温度範囲で使用可能なものであることが必要であることを意味する。
【0008】
試験室は、典型的には、対象物、特に装置の物理的及び/又は化学的特性を試験するために使用される。例えば、-60℃~+180℃の範囲内の温度を設定可能な温度試験室又は気候試験室が知られている。気候試験室では、装置又は試験材料を所定期間さらすことになる所望の気候条件をさらに設定可能である。この種の試験室は、しばしば又は時々、単に所要の供給ラインを介して建物に接続される移動式装置として実現され、温度及び気候を制御するのに必要な全てのモジュールを備える。試験されるべき材料を保持する試験空間の温度は、典型的には、試験空間内の循環空気ダクトで制御される。空気循環ダクトは、試験空間内に空気処理空間を形成し、この空気処理空間に、空気循環ダクト又は試験空間を通って流れる空気を加熱又は冷却するための熱交換器が配置される。この目的のために、ファン又は換気装置が試験空間内に存在する空気を吸引し、空気循環ダクトによってその空気を各熱交換器へ案内する。このように、試験材料を温度調節するか、所定の温度変化にさらすことができる。試験インターバル中、温度を試験室の最高温度と最低温度との間で繰り返し変化させることができる。この種の試験室は、例えば、欧州特許出願公開第0 344 397号明細書(A2)から知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
冷却回路を循環する冷媒は、前述の温度差の範囲内で冷却回路において使用できるような性質を有するものでなければならない。特に、冷媒の露点温度は、達成されるべき冷却回路の温度範囲の最低温度より高いことはできない。なぜなら、そうでなければ、試験空間を冷却する役目を果たす熱交換器で冷媒が蒸発するときに最低温度を到達できないためである。共沸冷媒の露点温度は、熱交換器における膨張要素の直後に到達する。試験空間のストレートな冷却回路では、試験室の温度を精密に制御するために非常に高い空間温度安定性が必要である。これは、非共沸冷媒を使用して達成できないか、限られた程度までしか達成できない。この場合には、高い温度安定性を達成することはできない。なぜなら、非共沸冷媒の露点温度又は露点が、温度の違いのために試験空間内の熱交換器の領域内の試験空間の温度の関数として局所的にシフトし得るからである。したがって、非共沸冷媒の使用、すなわち、試験室の冷却回路で温度グライドを有する冷媒の使用は避けられる。
【0010】
さらに、非共沸冷媒混合物を連続的に蒸発させる冷却装置が知られている。これは、膨張要素により冷媒の成分が次々と蒸発することを意味する。この種の冷却装置は混合流体カスケードシステムとも呼ばれ、実質的に静的な低温を実現するのに適している。
【0011】
したがって、本発明の目的は、冷却装置用の冷媒、冷媒を備えた試験室、及び環境に優しく安全な方法で最低-60℃までの温度を達成できる冷媒の使用を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する冷媒、請求項12に記載の特徴を有する試験室、及び請求項18に記載の特徴を有する冷媒の使用によって達成される。
【0013】
少なくとも1つの熱交換器を備えた冷却回路を備えた冷却装置用の本発明による冷媒では、冷媒は熱交換器において相転移し、冷媒は、ある質量分率の二酸化炭素(CO)とある質量分率の少なくとも1種の他の成分との冷媒混合物であり、冷媒混合物中の二酸化炭素の質量分率は10~50質量%、好ましくは30~50質量%であり、他の成分はペンタフルオロエタン及び/又はジフルオロメタンである。
【0014】
本願の優先日前の最新バージョンのドイツ工業規格DIN 8960に準拠すると、二酸化炭素(CO)はR744の名称で冷媒又は成分として知られており、ペンタフルオロエタン(CHF)はR125の名称で知られており、ジフルオロメタン(CH)はR32の名称で知られており、トリフルオロエチレンはR1123の名称で知られており、1,1-ジフルオロエテン(C)はR-1132aの名称で知られており、フルオロエテン(CF)はR1141の名称で知られている。
【0015】
本発明は、二酸化炭素と、低いGWPを有し、かつ、不燃性であるか又は限られた程度までしか燃焼性がない1又は2種以上のフッ素化冷媒との冷媒混合物を提供する。二酸化炭素の割合はできる限り低くする必要がある。なぜなら、そうでない場合、二酸化炭素の質量分率が増加するにつれて冷媒混合物の凝固点が上昇するからである。しかしながら、二酸化炭素の質量分率が低いと、二酸化炭素のGWP削減効果が低下する。部分的にフッ素化された冷媒は二酸化炭素よりもかなり高いGWPを有するが、これらは改善された難燃効果も有する。特に、ペンタフルオロエタン及びジフルオロメタンは、かなりの量のフッ素原子を含み、これは望ましくない高いGWPをもたらす。しかしながら、驚くべきことに、30~40質量%の質量分率の二酸化炭素と、ペンタフルオロエタン及び/又はジフルオロメタンとを含む冷媒混合物で、十分に低いGWP、すなわち、<150のGWPを達成できることが見出された。また、ペンタフルオロエタンの難燃効果は二酸化炭素の難燃効果よりも比較的大きいことが見出された。冷媒混合物の第3成分としてジフルオロメタンを加えることによって、ペンタフルオロエタン及び二酸化炭素の負の特性も低減できる。したがって、ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンの冷媒混合物は、不燃性として分類できる。同時に、二酸化炭素を含むジフルオロメタンは、ペンタフルオロエタンを含むジフルオロメタンよりも低い凝固温度を有する。その結果、ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンと二酸化炭素との混合物は、ペンタフルオロエタンと二酸化炭素のみの場合よりも低い凝固温度を達成できる。そのため、ジフルオロメタンは、冷媒混合物の凝固点を著しく低下させ、冷媒混合物が不燃性であるように、特定の質量分率の二酸化炭素が必要とされる。しかしながら、同時に、ジフルオロメタンは高い最終圧縮温度をもたらすため、ジフルオロメタンは二酸化炭素の唯一の混合パートナーとしてのみ適している。ペンタフルオロエタンは、ジフルオロメタンほどには冷媒混合物の凝固点を下げることができないが、二酸化炭素よりも難燃効果が高く、有利である。
【0016】
冷媒混合物中の二酸化炭素の質量分率が31~46質量%である場合、二酸化炭素は、ペンタフルオロエタン及び/又はジフルオロメタンと混合し得ることが特に有利である。冷媒混合物の凝固点は、上記成分を加えることにより低下できる。この低下は、冷媒混合物の凝固点が意図する蒸発温度より低く、同時に、蒸発温度に関連する蒸気圧が周囲圧力よりも高いか又はほんのわずか低いように設定することができる。
【0017】
冷媒の一実施形態において、二酸化炭素の質量分率は、30~33質量%、好ましくは3l質量%であることができ、ペンタフルオロエタンの質量分率は、70~67質量%、好ましくは69質量%であることができる。そのため、この場合に、二酸化炭素とペンタフルオロエタンのみからなる冷媒混合物を製造することができる。ペンタフルオロエタンは不燃性である。これは、ペンタフルオロエタンと二酸化炭素を含むすべての混合物は不燃性であることを意味する。凝固点は、ジフルオロメタン及びR1123と比較してそれほど顕著に低下しない。3150のGWPは、他の可能な成分のGWPよりもかなり高い。したがって、冷媒混合物のGWPを低下させるために、3150を冷媒混合物中の他の物質で部分的に置き換えることもできる。ペンタフルオロエタンの難燃効果は二酸化炭素の難燃効果よりも高いため、冷媒混合物中の二酸化炭素の質量分率を減らすことができ、これにより凝固点がさらに低下し、不燃性は依然として確保されるが、GWPを増加させる。したがって、二酸化炭素と、ペンタフルオロエタンと、R1132A、R1123及びR1141との混合物も可能である。
【0018】
冷媒のさらなる実施形態では、二酸化炭素の質量分率は、44~48質量%、好ましくは45.8質量%であり、ジフルオロメタンの質量分率は56~52質量%、好ましくは54.2質量%である。この場合、冷媒混合物は、二酸化炭素とジフルオロメタンのみからなることができる。少なくとも35質量%の二酸化炭素の質量分率は、冷媒混合物が不燃性として分類されるのに十分である。凝固点は、R125、R1132A及びR1141による場合よりもされる低下するため、凝固点の低下が可能になる。しかしながら、ジフルオロメタンのGWPは、R1132A、R1141、R1123及び二酸化炭素のGWPよりも大きい。
【0019】
ジフルオロメタンは、同じ技術的条件で圧縮した場合に、ペンタフルオロエタンなどの大きくて重い分子と比較して、ジフルオロメタンの最終圧縮温度は高いという結果をもたらす小さな分子と呼ぶことができる。冷媒R410A及びR410Bはジフルオロメタンよりも低い圧縮温度を示すため、冷媒R410A及びR410Bは二酸化炭素との特に好ましい混合パートナーである。
【0020】
その結果、冷媒混合物は二元混合物であることができる。
【0021】
冷媒混合物は、追加成分としてトリフルオロエチレン、1,1-ジフルオロエテン又はフルオロエテンを含んでもよい。1,1-ジフルオロエテンは非常に低いGWPを有するため、GWPを低下させるのに好適な成分である。さらに、1,1-ジフルオロエテンは非常に低い凝固点と非常に低い標準沸点を有するため、低温用途に使用可能である。しかしながら、1,1-ジフルオロエテン及びフルオロエテンは可燃性であり、もし混合する場合には、合計が冷媒混合物中で10質量%よりも多くなってはならない。トリフルオロエチレンは非常に低いGWPを有するため、GWPを低下させるのに好適な成分である。トリフルオロエチレンは熱力学的にジフルオロメタンに似ているため、二酸化炭素と、ジフルオロメタンと、トリフルオロエチレンとの冷媒混合物を製造することができる。ジフルオロメタンと同様、トリフルオロエチレンは、(ペンタフルオロエタンの場合よりも)凝固点の大幅な低下をもたらすことができる。トリフルオロエチレン及びジフルオロメタンの質量分率は好ましくは45/55であることができる。
【0022】
さらなる実施形態において、冷媒は、33~38質量%、好ましくは35質量%の質量分率の二酸化炭素、33.5~3l質量%、好ましくは32.5質量%の質量分率のペンタフルオロエタン、及び33.5~3l質量%、好ましくは32.5質量%の質量分率のジフルオロメタンを有することができる。したがって、冷媒混合物は3つを超えない成分からなることができる。その場合、ジフルオロメタンとペンタフルオロエタンの成分の質量分率は等しい。上記のように、二酸化炭素とペンタフルオロエタン及びジフルオロメタンとの混合物は特に有利であることが証明されている。この冷媒混合物は、約1barの蒸発圧力で>7Kの温度グライドを有することができる。さらに、この冷媒混合物は、濃度に依存する凝固点の低下をもたらす。したがって、質量分率が上記の指定した質量分率から外れた場合には、様々な温度用途のための可燃性及び不燃性の冷媒混合物が生じるであろう。
【0023】
別の実施形態において、冷媒中の二酸化炭素の質量分率は10~35質量%であることができ、その場合、ペンタフルオロエタンの質量分率及びジフルオロメタンの質量分率は合計で65~80質量%になり、ペンタフルオロエタンとジフルオロメタンの質量分率の比は0.7~1.3であることができる。
【0024】
さらに、二酸化炭素の質量分率は33~38質量%、好ましくは35質量%であることができ、冷媒R410A又はR410Bの質量分率は67~62質量%、好ましくは65質量%であることができる。冷媒R410Aは、等しい質量分率のペンタフルオロエタン及びジフルオロメタンを含む。冷媒R410Aは、容易に購入できる既製の冷媒混合物であるため、単にR410Aに二酸化炭素を混合することによる、費用効率が高く、かつ、単純な方法で、冷媒を調製できる。
【0025】
以下の表は、上記実施形態に従う冷媒の例を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
さらに、冷媒は、≧10K、好ましくは≧15K、特に好ましくは≧18Kの温度グライドを有することができる。冷却装置を効果的に動作させるには、冷媒の温度グライドが20Kを超えないべきである。
【0028】
冷媒は、20年間にわたって、<2500、好ましくは<1500、特に好ましくは<500の相対CO等価量を有することができる。その結果、冷媒による環境への影響はほとんどない。
【0029】
冷媒は不燃性であることができる。冷媒が不燃性である場合、冷媒の可燃性に関する特別な安全対策を講じる必要がないため、特に冷却回路及び試験室をより費用効率高く設計することができる。この場合、冷媒は少なくとも火災クラスC及び/又は冷媒安全グループAIに分類することができない。さらに、輸送の種類に関係なく、輸送前に冷却回路に冷媒を充填できるため、冷却回路の出荷及び輸送が簡略化される。可燃性冷媒が使用される場合、設置場所で試運転までに充填できない場合がある。さらに、着火源の存在下での不燃性冷媒の使用が可能である。
【0030】
空気を調整するための本発明による試験室は、試験材料を収容する役目を果たし、かつ、環境に対して密閉されることができ、断熱されている試験空間と、試験空間の温度を制御するための温度制御装置とを含み、温度制御装置により試験空間内に-60℃~+180℃の温度範囲内の温度を確立可能であり、温度制御装置は、本発明による冷媒と、熱交換器と、圧縮器と、凝縮器と、膨張要素とを備えた冷却回路を備えた冷却装置を有する。本発明による試験室の利点に関しては、本発明による冷媒の利点の説明を参照されたい。
【0031】
温度制御装置により、-60℃~+180℃、好ましくは-80℃~+180℃、特に好ましくは-100℃~+180℃の温度範囲内の温度を試験空間内に確立できる。混合流体カスケードシステム(mixed fluid cascade system)とは異なり、この冷媒では、冷媒に含まれるすべての成分を膨張要素により同時に蒸発させることができる。二酸化炭素の凝固点は-56.6℃であるため、二酸化炭素の質量分率が高い冷媒混合物は、原則として-56.6℃未満の温度を達成するのにはもはや適さない。しかしながら、本発明による冷媒を使用することにより、-60℃未満の冷媒の露点温度を達成することが可能である。
【0032】
冷却回路は内部熱交換器を有することができ、内部熱交換器は、膨張要素の上流で、かつ、凝縮器の下流で冷却回路の高圧側に接続されており、圧縮器の上流で、かつ、熱交換器の下流で冷却回路の低圧側に接続されている。内部熱交換器の使用及び内部熱交換器による高圧側の液化冷媒の冷却によって、-56℃未満の温度に容易に到達できる。内部熱交換器によって冷却された冷媒の蒸発温度は、膨張要素で、冷却されていない冷媒の蒸発温度と比べて低下させることができる。そのため、内部熱交換器を介しての低圧側から高圧側に移った冷却能力を、膨張要素上の冷媒の蒸発温度を下げることに、少なくとも部分的に、好ましくは排他的に使用することができる。さらに、この場合、冷媒の露点温度又は冷媒の露点の位置を内部熱交換器にシフトできるため、まず、温度グライドを有する非共沸冷媒の使用が可能になる。非共沸冷媒の温度グライドの結果として、冷媒の達成される露点温度は比較的高くなり、それにより熱交換器のさらなる冷却が妨げられることがある。
【0033】
したがって、熱交換器で冷媒の一部のみを蒸発させることができ、冷媒の湿り蒸気部分の使用できない部分を内部熱交換器にシフトすることができる。全体として、これにより、ある質量分率の二酸化炭素を含み、かつ、環境に優しいのと同時に、非共沸特性を有する冷媒を、試験空間で低温を確立するために使用することが可能になる。さらに、温度グライドの一部又は冷媒の湿り蒸気の一部を試験空間の熱交換器から内部熱交換器に移す場合、非共沸冷媒で比較的改善された温度安定性を達成することが可能になる。この場合、熱交換器を介して出力される冷却能力は、温度グライドのセクションのみで生成できるため、冷却回路内の冷媒の露点のシフトは、熱交換器の温度安定性にほとんど影響を及ぼさない。さらに、この場合には、流体、すなわち試験空間内の空気を冷却するために、単一の熱交換器を使用することができる。
【0034】
熱交換器は、冷媒の一部のみが熱交換器内で蒸発することができるような寸法のものであることができる。これは、冷媒の露点又は露点温度の位置を熱交換器から内部熱交換器にシフトできるという利点をもたらす。非共沸冷媒の温度グライドにより、熱交換器での冷媒の部分的な蒸発は、内部熱交換器での冷媒の残りの蒸発よりも熱交換器で低い温度を達成する。
【0035】
試験室の一実施形態では、熱交換器を試験空間内に配置することができる。この場合、熱交換器を試験空間の空気処理空間に配置して、ファンによって循環される空気を熱交換器に接触させることができる。このようにして、熱交換器を介して、冷却装置によって、試験空間の空気の循環量を試験空間において直接冷却することが可能である。試験室は、単一の冷却回路として冷却回路を有することができる。この場合、冷却回路は試験空間に直接接続される。
【0036】
試験室の別の実施形態では、凝縮器は、冷却装置のもう1つの冷却回路のカスケード熱交換器として実現できる。したがって、試験室は少なくとも2つの冷却回路を有することができ、その場合、冷却回路は冷却装置の第2段階を形成することができ、この冷却回路の上流に配置された別の冷却回路は冷却装置の第1段階を形成することができる。この場合、凝縮器は冷却回路のカスケード熱交換器又は熱交換器として機能する。試験室のこの実施形態は、試験空間において特に低温を確立することを可能にする。
【0037】
温度制御装置は、試験空間にヒーターと加熱熱交換器を備えた加熱装置を有することができる。加熱装置は、例えば、試験空間の温度を加熱熱交換器により上昇させることができるように加熱熱交換器を加熱する電気抵抗ヒーターであることができる。熱交換器と加熱用熱交換器を、試験空間で循環する空気を冷却又は加熱するために制御装置により具体的に制御できる場合、上に示した温度範囲内の温度を温度制御装置により試験空間内で確立することができる。試験材料又は試験材料の動作状態に関係なく、±1K、好ましくは±0.3K~±0.5K、又は±0.3K未満の一時的な温度安定性を試験インターバル中に試験空間内に確立することができる。試験インターバルは、試験材料が実質的に一定の温度又は気候条件に曝される完全な試験期間の一部である。加熱熱交換器は、冷媒が流れることができ、電気抵抗ヒーターの加熱要素を有する共通の熱交換器本体が実現されるように、冷却回路の熱交換器と組み合わされてもよい。凝縮器は、空気もしくは水又は別の冷却剤により冷却できる。原則として、凝縮器は任意の適切な流体で冷却できる。
【0038】
必須の特徴は、冷媒が完全に液化されるまで冷媒を凝縮できるように、凝縮器で生じる熱負荷を冷却用空気又は冷却水によって放散されることである。
【0039】
少なくとも1つの制御可能な第2の膨張要素を有する第1のバイパスを冷却回路内に実現されていてもよい。その場合、第1のバイパスは、内部熱交換器の上流で、かつ、凝縮器の下流で冷却回路に接続されていることができ、第1のバイパスは、制御可能なさらなる内部冷却システムとして実現できる。そのため、第1のバイパスは、冷媒の再注入装置を形成することができる。これにより、低圧側の内部熱交換器における制御可能な第2の膨張要素から冷媒をリサイクルすることができる。この場合に、第1のバイパスは、内部熱交換器の上流で、かつ、熱交換器の下流で冷却回路の低圧側に接続されていることができる。第2の膨張要素によって冷却された、又は温度レベルが低下した冷媒は、内部熱交換器を通過し、内部熱交換器の高圧側での冷媒の冷却を増強することができる。また、これにより、内部熱交換器の冷却能力をより精密に調整することも可能になる。
【0040】
少なくとも1つの第3の膨張要素を備えた第2のバイパスを冷却回路内に形成されていてもよい。その場合、第2のバイパスは、凝縮器の下流で、かつ、内部熱交換器の上流で膨張要素をバイパスし、冷媒の吸入ガス温度及び/又は吸入ガス圧力を冷却回路の低圧側の圧縮器の上流で調整できるように第3の膨張要素により冷媒を計量供給できる。この方法では、とりわけ、例えば圧縮装置であることができる圧縮器の過熱及び損傷を防止することができる。その結果、圧縮器の上流に位置するガス状冷媒を、依然として液体の冷媒を加えることにより第3の膨張要素を作動させることによって、第2のバイパスを介して冷却することができる。第3の膨張要素は、制御装置によって作動させることができ、制御装置自体は圧縮器の上流の冷却回路内の圧力及び/又は温度センサーに結合されている。特に有利なことに、第2のバイパスを介して≦30℃の吸込ガス温度を設定することができる。また、圧縮器の運転時間を調整できるように冷媒を計量供給することもできる。原則として、圧縮器又は圧縮器装置が頻繁にオン/オフされる場合は不利である。圧縮器を長期間使用する場合には、圧縮器の寿命を延ばすことができる。例えば、圧縮器の自動シャットダウンを遅らせ、圧縮器の稼働時間を長くするために、第2のバイパスを介して冷媒を膨張要素又は凝縮器に通過させることができる。
【0041】
少なくとも1つの他の膨張要素を備えたもう1つのバイパスを冷却回路に形成でき、この他のバイパスは、冷媒の吸入ガス温度及び/又は吸入ガス圧力を冷却回路の低圧側の圧縮器の上流で調整でき、及び/又は、冷却回路の高圧側と低圧側の間の圧力差を均等化できるように、圧縮器の下流で、かつ、凝縮器の上流で圧縮器をバイパスする。第2のバイパスは、調整可能又は制御可能な弁、例えば電磁弁をさらに備えていてもよい。高圧側と低圧側を他の膨張要素を介して接続することにより、システムが停止しているときに、圧縮されたガス状の冷媒が冷却回路の高圧側から低圧側に徐々に流れる。これにより、膨張要素が閉じている場合でも、高圧側と低圧側の間で圧力が徐々に均等化される。他の膨張要素の断面は、高圧側から低圧側へ流れる冷媒が冷却装置の通常の動作にほとんど影響を与えないような寸法であることができる。同時に、他のバイパスを介して液体冷媒を加えることによって、圧縮器の上流に位置するガス状冷媒を冷却することができる。
【0042】
さらに、内部熱交換器は、サブ冷却セクション又は熱交換器、特にプレート熱交換器として実現することができる。サブ冷却セクションは、単に、互いに隣接する冷却回路の2つのラインセクションにより実現されていてもよい。
【0043】
膨張要素は、絞り弁及び電磁弁を有することができ、その場合、冷媒は、絞り弁及び電磁弁を介して計量供給できる。絞り弁は、調節可能な弁又はキャピラリーであることができ、それを通して冷媒が電磁弁によって導かれる。電磁弁自体は、制御装置によって作動させることができる。
【0044】
また、温度制御装置は、冷却回路内に少なくとも1つの圧力センサー及び/又は少なくとも1つの温度センサーを備えた制御装置を備えることができ、その場合、測定された温度又は圧力の関数として、制御装置により電磁弁を作動させることができる。制御装置は、センサーからのデータセットを処理し、電磁弁を制御するデータ処理手段を備えることができる。この場合、例えば、適切なコンピュータプログラムを介して、冷却装置の機能を、使用される冷媒に適合させることもできる。さらに、制御装置は、試験室の重大又は望ましくない動作状態による損傷から試験室及び試験材料を保護するために、動作不良を知らせ、必要に応じて、試験室の停止を引き起こすことができる。
【0045】
10~50質量%、好ましくは30~50質量%の質量分率の二酸化炭素及びある質量分率の少なくとも1種の他の成分から構成され、他の成分がペンタフルオロエタン及び/又はジフルオロメタンである冷媒混合物からなる本発明による冷媒が使用されるとき、冷媒は、試験室の試験空間内の空気を調整するために使用され、試験空間は、試験材料を収容する役目を果たし、かつ、環境に対して密閉され、断熱されており、冷媒と、熱交換器と、圧縮器と、凝縮器と、膨張要素とを備えた冷却回路を備えた試験室の温度制御装置の冷却装置が、試験空間内に、-60℃~+180℃、好ましくは-70℃~+180℃、特に好ましくは-80℃~+180℃の温度範囲内の温度を確立するために使用される。
【0046】
冷媒は、膨張要素の上流で、かつ、凝縮器の下流で冷却回路の高圧側に接続されており、圧縮器の上流で、かつ、高圧側の熱交換器の下流で冷却回路の低圧側に接続されている冷却回路の内部熱交換器により冷却することができる。膨張要素の蒸発温度を下げるために内部熱交換器による高圧側の冷媒の冷却を使用することができる。高圧側の冷媒の蒸発温度が低下している間、低圧側の冷媒の吸込圧力を一定に保つことができる。この場合、例えば、吸込圧力のさらなる制御、及び吸込圧力の関数としての膨張要素の制御の点などで、システムの複雑性がより増大することは必ずしも必要でない。特に、冷却回路の運転状態に関係なく、圧縮器は一定の出力で運転することもできる。特にピストンポンプが圧縮器として使用される場合、長い実用寿命を達成するために、それらを長期間にわたって一定速度で稼働することが不可欠である。
【0047】
内部熱交換器により低圧側で一定の吸込圧力で、低圧側の冷媒により高圧側の冷媒を冷却することができる。その結果、冷媒は、膨張要素から内部熱交換器までの内部熱交換器を含む冷却回路の蒸発セクションで、一定の吸込圧力で、蒸発することができる。次に、冷媒の吸込圧力又は蒸発圧力が一定である場合には、冷媒は、低蒸発温度の膨張要素から高蒸発温度の内部熱交換器に、冷媒の温度グライドに従って蒸発することができる。温度グライドによって生じる露点温度は、冷却される流体の温度又は試験空間内の空気の温度より高いことができる。同じ吸込圧力で、冷媒の蒸発温度が、試験空間で冷却される空気の温度に等しくなると、空気をそれ以上冷冷却することはできない。しかしながら、他の熱交換器で到達する露点温度は、内部熱交換器の高圧側の冷媒の液温よりも低いため、冷媒の液温をさらに下げることができる。これにより、吸込圧力を変えることなく、膨張要素の下流の蒸発温度を下げることができ、試験空間内の空気のさらなる冷却を達成することができる。
【0048】
このようにして、膨張要素を通過した冷媒の第1の部分は熱交換器で蒸発することができ、冷媒の第2の部分は内部熱交換器で蒸発することができる。内部で冷媒が蒸発する冷却回路の蒸発セクションは、膨張要素から内部熱交換器まで延びることができる。蒸発セクションは、内部熱交換器中に延びていることができ、その場合、冷媒の露点は、圧縮機の上流の内部熱交換器の出口にあることができる。第1の部分と第2の部分との比は、冷却回路の動作中に、試験空間内又は熱交換器における温度の関数として変化することがある。例えば、熱交換器の温度と試験空間の温度との温度差が比較的大きいと、熱交換器内の冷媒の加熱が加速され、冷媒の露点が内部熱交換器の入口又は圧縮機の上流の熱交換器の出口にシフトする。試験空間内に比較的低い温度又は目標温度がまだ確立されていない限り、露点のこの種のシフトは許容できる。熱交換器の温度が試験空間の温度に近づくと、露点がシフトし、第2の部分が冷媒の第1の部分に比べて増加する。
【0049】
高圧側の冷媒の蒸発温度は、自己制御方式で低下させることができる。熱交換器の温度に依存して、この場合に熱交換器の温度が冷媒の相転移を生じさせるのにもはや十分ではないため、もはや蒸発しない冷媒が熱交換器から流れ方向に放出されなくなる。そのため、この場合、高圧側と低圧側との間の温度差が熱交換器におけるよりも常に大きくなり得るため、湿った蒸気又は液体冷媒は内部熱交換器で再蒸発する。膨張要素の上流の液体冷媒の温度が内部熱交換器における熱交換により内部熱交換器によって低下される場合、膨張要素の上流の冷媒のエネルギー密度と熱交換器で達成できる温度差とが増加する。原則として、膨張要素と熱交換器と内部熱交換器との相互作用を調整する必要はない。
【0050】
特に有利なことに、冷却装置はもっぱら冷媒の臨界点未満で運転される。冷却装置が冷媒の三重点未満で運転される場合、冷媒が超臨界状態に達することは防止できる。そのため、超臨界状態での運転のために冷却装置を構成する必要はなく、冷却装置の製造コストを節約することができる。
【0051】
特に、内部熱交換器による高圧側の冷媒の蒸発温度の低下中に、一定の吸込圧力を維持することもできる。したがって、内部熱交換器を介した高圧側の冷媒の冷却を、少なくとも部分的に又は排他的に、膨張要素での冷媒の蒸発温度を低下させるために使用することもできる。
【0052】
冷媒の露点温度は、上記温度範囲の最低温度より高くなることがある。最新の技術水準から知られている試験室では、上記温度範囲の最低温度は、この場合、この種の冷媒によってはもはや確立することができないが、冷媒の露点温度に実質的に対応する比較的高い最低温度が確立される。しかしながら、本発明により試験室において、上記温度範囲の達成可能な最低温度よりも露点が高い冷媒を使用することができる。なぜなら、高圧側で液化冷媒を内部熱交換器により冷却できるからである。これは、膨張要素における冷媒の蒸発温度が比較的低いことを意味する。
【0053】
冷媒は、0.3~5barの圧力範囲内の吸込圧力又は蒸発圧力で完全に蒸発させることができる。この圧力範囲内の冷媒を使用すると、冷却回路の低圧側を構成するために特別な耐圧性のモジュール及びコンポーネントを必要としないため、冷却回路の費用効率の高い生産が可能になる。
【0054】
また、冷媒は、5~35barの圧力範囲内の凝縮圧力で完全に凝縮することもできる。この場合でも、高圧側は、比較的高い圧力に適合させる必要のないモジュール及びコンポーネントを使用して構成することができる。
【0055】
使用のさらなる実施形態は、装置に関する請求項1に従属する請求項に記載に特徴の説明から明らかである。
【0056】
本発明の好ましい実施形態を、添付の図面を参照して以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1図1は、冷媒の圧力-エンタルピー図を示す。
図2図2は、冷却装置の第1の実施形態の概略図を示す。
図3図3は、冷却装置の第2の実施形態の概略図を示す。
図4図4は、冷却装置の第3の実施形態の概略図を示す。
図5図5は、冷却装置の第4の実施形態の概略図を示す。
図6図6は、冷却装置の第5の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
図2は、試験室(図示せず)の冷却装置10の第1の実施形態を示す。冷却装置10は、冷媒を備えた冷却回路11、熱交換器12、圧縮器13、凝縮器14及び膨張要素15を備える。凝縮器14は、ここではもう1つの冷却回路16によって冷却される。熱交換器12は、試験室の試験空間(図示せず)内に配置される。さらに、冷却回路11は、内部熱交換器19が接続されている高圧側17及び低圧側18を有する。
【0059】
図1は、冷媒が非共沸冷媒である冷却回路11を循環する冷媒の圧力-エンタルピー図(log p/h線図)を示す。図1及び図2を併せて参照すると、位置Aから始まって、圧縮器13の上流の冷媒が吸込まれて圧縮されるため、位置Bに従う圧縮器13の下流の圧力が達成される。冷媒は、圧縮器13により圧縮され、その後、位置Cに従う凝縮器14で液化される。冷媒は高圧側17で内部熱交換器19を通過し、そこでさらに冷却される。膨張要素15の上流の位置C’に到達する。内部熱交換器19により、熱交換器12で使用できない湿り蒸気領域の部分(位置EからE’)を使用して、冷媒の温度をさらに下げることができる(位置CからC’)。膨張要素15では、冷媒が緩和され(位置CからD’)、熱交換器12で部分的に液化される(位置D’からE)。次に、冷媒の湿り蒸気は、低圧側18で内部熱交換器19に入り、そこで、冷媒の露点温度又は露点が位置E’に達するまで冷媒は再蒸発する。したがって、冷媒の蒸発セクション22の第1のサブセクション20は熱交換器12中に延びており、蒸発セクション22の第2のサブセクション21は内部熱交換器19中に延びている。この不可欠な特徴は、膨張要素15での蒸発温度が変化したとしても、蒸発セクション22で低圧側18の圧縮器13の吸込圧力が一定に維持されるということである。
【0060】
冷媒は、30~50質量%の質量分率の二酸化炭素及びある質量分率の少なくとも1つの他の成分から構成される冷媒混合物であり、他の成分はペンタフルオロエタン及び/又はジフルオロメタンである。原則として、上記の表に掲載した冷媒を、冷却回路11及び以下に記載の冷却回路で使用することが可能である。
【0061】
図3は、冷却装置23の最も単純な実施形態の概略図を示し、冷却装置23は、自己制御式のものである。冷却装置23は、冷却回路24と、熱交換器25、圧縮器26、凝縮器27、膨張要素28及び内部熱交換器29を備えた冷却回路24を備える。熱交換器25の温度に依存して、不完全に蒸発した冷媒が熱交換器25から出る。なぜなら、熱交換器25又は試験空間(図示せず)の温度は、相転移を生じさせるのにもはや十分ではないからである。この場合、温度差は常に熱交換器25におけるよりも大きくなければならないので、依然として液体である冷媒は内部熱交換器29で再蒸発する。膨張要素28の上流の液体冷媒の温度が内部熱交換器29での熱交換によって低下すると、エネルギー密度と熱交換器25でそれにより達成できる温度差が増大する。冷却装置23は、センサーなどによる複雑な制御を必要としない。
【0062】
図4は、冷却装置30が第1のバイパス31及び第2のバイパス32を有する点で図3の冷却装置とは異なる冷却装置30を示す。制御可能な第2の膨張要素33は、第1のバイパス31に配置され、第1のバイパス31は、さらなる内部冷却システム34として構成されている。第1のバイパス31は、凝縮器27のすぐ下流、内部熱交換器29の上流で冷却回路24に接続されており、熱交換器25の下流、かつ、内部熱交換器29の上流で冷却回路24に接続されている。したがって、第1のバイパス31は、膨張要素28と熱交換器25とをバイパスし、内部熱交換器29に、第2の膨張要素33を介して蒸発する冷媒を供給可能である。内部熱交換器29に導入される吸込ガスマスフローは、熱交換器25により生じ得る高い吸込ガス温度の場合、第1のバイパス31によりさらに冷却することができる。これにより、膨張要素の上流の冷媒の蒸発を防止できる。したがって、第1のバイパス31は、冷却装置30の負荷が変化するケースに対応することができる。第2のバイパス32は、第3の膨張要素35を有し、凝縮器27の下流、かつ、内部熱交換器29の上流で冷却回路24に接続されており、内部熱交換器29の下流、かつ、圧縮機26の上流で冷却回路24に接続されている。これにより、許容できないほど高い最終圧縮温度を回避するのに十分に、第2のバイパス32を介して、圧縮器26の上流の吸込ガスマスフローを低減することが可能になる。
【0063】
図5は、冷却装置36がもう1つの冷却回路37を有する点で図4の冷却装置とは異なる冷却装置36を示す。他の冷却回路37は、冷却回路39の凝縮器38を冷却する役目を果たす。凝縮器38は、ここでは、カスケード熱交換器40として実現されている。さらに、冷却回路39は、もう1つの膨張要素42を有するもう1つのバイパス41を有する。他のバイパス41は、圧縮器26の下流、かつ、凝縮器38の上流で冷却回路39に接続されており、内部熱交換器29の下流、かつ、圧縮器26の上流で冷却回路39に接続されている。したがって、まだ液化されていないが圧縮された冷媒は、他のバイパス41を介して圧縮器26の上流に戻すことができ、それによって、冷媒の吸込ガス温度及び/又は吸込ガス圧力を調節することができる。
【0064】
図6は、冷却回路44と、もう1つの冷却回路45と、特に冷却回路44に内部熱交換器46を有する冷却装置30を示す。この場合には、熱交換器47が、試験室(図示せず)の断熱された試験空間(図示せず)内に配置されている。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に示す。
[態様1]
少なくとも1つの熱交換器(12,25,47)を備えた冷却回路(11,24,39,44)を有する冷却装置(10,23,30,36,43)用の冷媒であって、前記少なくとも1つの熱交換器において前記冷媒は相転移し、前記冷媒は、ある質量分率の二酸化炭素(CO )とある質量分率の少なくとも1種の他の成分との冷媒混合物であり、
前記冷媒混合物中の二酸化炭素の前記質量分率が10~50質量%、好ましくは30~50質量%であり、前記他の成分がペンタフルオロエタン(C HF )及び/又はジフルオロメタン(CH )であることを特徴とする、冷媒。
[態様2]
前記冷媒中の二酸化炭素の質量分率が31~46質量%であることを特徴とする、態様1に記載の冷媒。
[態様3]
二酸化炭素の質量分率が30~33質量%、好ましくは31質量%であり、ペンタフルオロエタンの質量分率が70~67質量%、好ましくは69質量%であることを特徴とする、態様1に記載の冷媒。
[態様4]
二酸化炭素の質量分率が44~48質量%、好ましくは45.8質量%であり、ジフルオロメタンの質量分率が56~52質量%、好ましくは54.2質量%であることを特徴とする、態様1に記載の冷媒。
[態様5]
前記冷媒混合物が二成分混合物であることを特徴とする、態様1~4のいずれか一つに記載の冷媒。
[態様6]
前記冷媒混合物が、トリフルオロエチレン、1,1-ジフルオロエテン(C )、又はフルオロエテン(C F)を追加成分として有することを特徴とする、態様1に記載の冷媒。
[態様7]
二酸化炭素の質量分率が33~38質量%、好ましくは35質量%であり、ペンタフルオロエタンの質量分率が33.5~31質量%、好ましくは32.5質量%であり、ジフルオロメタンの質量分率が33.5~31質量%、好ましくは32.5質量%であることを特徴とする、態様1に記載の冷媒。
[態様8]
二酸化炭素の質量分率が33~38質量%、好ましくは35質量%であり、冷媒R410A又は冷媒R410Bの質量分率が67~62質量%、好ましくは65質量%であることを特徴とする、態様1又は7に記載の冷媒。
[態様9]
前記冷媒が非共沸冷媒であり、≧10K、好ましくは≧15K、特に好ましくは≧18Kの温度グライドを有することを特徴とする、態様1~8のいずれか一つに記載の冷媒。
[態様10]
前記冷媒は、20年間にわたって、<2500、好ましくは<1500、特に好ましくは<500の相対CO 等価量を有することを特徴とする、態様1~9のいずれか一つに記載の冷媒。
[態様11]
前記冷媒は不燃性であることを特徴とする、態様1~10のいずれか一つに記載の冷媒。
[態様12]
空気を調整するための試験室であって、前記試験室は、試験材料を収容する役目を果たし、かつ、環境に対して密閉されることができ、断熱されている試験空間と、前記試験空間の温度を制御するための温度制御装置とを含み、前記温度制御装置により前記試験空間内に-60℃~+180℃の温度範囲内の温度を確立可能であり、前記温度制御装置は、態様1~11のいずれか一つに記載の冷媒と、熱交換器(12、25、47)と、圧縮器(13、26)と、凝縮器(14、27、38)と、膨張要素(15、28)とを備えた冷却回路(11、24、39、44)を備えた冷却装置(10、23、30、36、43)を有する、試験室。
[態様13]
前記冷却回路(11、24、39、44)は内部熱交換器(19、29、46)を有し、前記内部熱交換器は、膨張要素(15、28)の上流で、かつ、凝縮器(14、27、38)の下流で前記冷却回路の高圧側(17)に接続されており、圧縮器(13、26)の上流で、かつ、熱交換器(12、25、47)の下流で前記冷却回路の低圧側(18)に接続されていることを特徴とする、態様12に記載の試験室。
[態様14]
前記熱交換器(12、25、47)は、前記冷媒が前記熱交換器内で部分的にしか蒸発することができないような寸法のものであることを特徴とする、態様12又は13に記載の試験室。
[態様15]
前記凝縮器(14、27、38)が、前記冷却装置のもう1つの冷却回路(36、43)のカスケード熱交換器(40)として実現されていることを特徴とする、態様12~14のいずれか一つに記載の試験室。
[態様16]
前記温度制御装置が、試験空間内に、ヒーターと加熱熱交換器とを備えた加熱装置を有することを特徴とする、態様12~15のいずれか一つに記載の試験室。
[態様17]
少なくとも1つの制御可能な第2の膨張要素(33)を有する第1のバイパス(31)が前記冷却回路(24、39、44)内に実現され、前記第1のバイパスは、前記内部熱交換器(29、46)の上流で、かつ、前記凝縮器(27、38)の下流で前記冷却回路に接続されており、前記第1のバイパスはさらなる制御可能な内部冷却(34)として実現されていることを特徴とする、態様12~16のいずれか一つに記載の試験室。
[態様18]
10~50質量%、好ましくは30~50質量%の質量分率の二酸化炭素(CO )とある質量分率の少なくとも1種の他の成分とを含み、前記他の成分がペンタフルオロエタン(C HF )及び/又はジフルオロメタン(CH )である冷媒混合物からなる冷媒の試験室の試験空間内の空気を調整するための使用であって、前記試験空間は、試験材料を収容する役目を果たし、かつ、環境に対して密閉され、断熱されており、前記冷媒と、熱交換器(12、25、47)と、圧縮器(13、26)と、凝縮器(14、27、38)と、膨張要素(15、25、28)とを備えた冷却回路(11、24、39、44)を備えた、前記試験室の温度制御装置の冷却装置(10、23、30、36、43)が、前記試験空間内に、-60℃~+180℃、好ましくは-70℃~+180℃、特に好ましくは-80℃~+180℃の温度範囲内の温度を確立するために使用される、前記冷媒の使用。
[態様19]
前記膨張要素(15、28)の上流で、かつ、凝縮器(14、27、38)の下流で前記冷却回路の高圧側(17)に接続されており、圧縮器(13、26)の上流で、かつ、熱交換器(12、25、47)の下流で前記冷却回路の低圧側(18)に接続されている前記冷却回路(11、24、39、44)の内部熱交換器(19、29、46)が、前記高圧側の前記冷媒を冷却するために使用され、前記内部熱交換器による前記高圧側の前記冷媒の冷却が、前記膨張要素での蒸発温度を下げるために使用されることを特徴とする、態様18に記載の使用。
[態様20]
前記高圧側(17)の前記冷媒が、前記内部熱交換器(19、29、46)による前記低圧側(18)での一定の吸引圧力で低圧側の冷媒により冷却されることを特徴とする、態様18又は19に記載の使用。
図1
図2
図3
図4
図5
図6