(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】修飾カーボンナノ材料、ナノクラスター、物質送達担体及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 47/04 20060101AFI20240819BHJP
A61K 47/52 20170101ALI20240819BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240819BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240819BHJP
C01B 32/28 20170101ALI20240819BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240819BHJP
【FI】
A61K47/04
A61K47/52
A61K45/00
A61K9/16
C01B32/28
B82Y30/00
(21)【出願番号】P 2021504944
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2020008815
(87)【国際公開番号】W WO2020184272
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019044209
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】都 英次郎
(72)【発明者】
【氏名】于 躍
(72)【発明者】
【氏名】西川 正浩
(72)【発明者】
【氏名】劉 明
(72)【発明者】
【氏名】鄭 貴寛
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0289836(US,A1)
【文献】特開2017-186235(JP,A)
【文献】特開2010-202458(JP,A)
【文献】KANG R H et al.,Fabrication of blue-fluorescent nanodiamonds modified with alkyl isocyanate for cellular bioimaging,Colloids Surf B Biointerfaces,2018年,Vol.167,p.191-196
【文献】NAKANISHI, T et al.,Flower-shaped supramolecular assemblies: hierarchical organization of a fullerene bearing long aliph,Small,2007年,Vol.3, No.12,p.2019-2023
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/04
A61K 47/52
A61K 45/00
A61K 9/16
A61K 9/51
C01B 32/28
B82Y 30/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高級アルキル基又は高級アルケニル基で修飾されたカーボンナノ材料が自己組織化したナノクラスターであって、前記カーボンナノ材料がカーボンナノダイヤモンド又はカーボンナノドットであり、平均粒子径が1~100nmであり、有効成分と複合化した、ナノクラスター。
【請求項2】
カーボンナノ材料がさらにポリアルキレングリコールで修飾されてなる、請求項1に記載のナノクラスター。
【請求項3】
ポリエチレングリコールで修飾されてなる、請求項2に記載のナノクラスター。
【請求項4】
高級アルキル基又は高級アルケニル基、ポリアルキレングリコールが、-NH-、-O-、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-O-CO-NH-、-O-CO-O-、及び、-NH-CO-NH-からなる群から選ばれるいずれかの連結基でカーボンナノ材料に連結されてなる、請求項1又は2に記載のナノクラスター。
【請求項5】
前記カーボンナノ材料がOH、COOH及びNH
2からなる群から選ばれる少なくとも1種の表面基を有し、高級アルキル基又は高級アルケニル基が、前記表面基を介してカーボンナノ材料に結合されてなる、請求項1に記載のナノクラスター。
【請求項6】
前記カーボンナノ材料がOH、COOH及びNH
2からなる群から選ばれる少なくとも1種の表面基を有し、ポリアルキレングリコールが、前記表面基を介してカーボンナノ材料に結合されてなる、請求項2に記載のナノクラスター。
【請求項7】
有効成分が生理活性物質、標識物質、香料、精油又は有機色素である、請求項1に記載のナノクラスター。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のナノクラスターを含む、有効成分の送達担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、修飾カーボンナノ材料、ナノクラスター、物質送達担体及び医薬組成物に関する。
【0002】
本明細書において、以下の略号を用いる:
NDc:カルボキシル化ナノダイヤモンド(carboxylated nano diamond)
ND:ナノダイヤモンド(nano diamond)
NDc-ori:未修飾のカルボキシル化ナノダイヤモンド原料
SP:超粒子(super particle)
NDc-SP:アルキル基で修飾されたカルボキシル化ナノダイヤモンドのナノクラスター
PEG:ポリエチレングリコール
PEGMEM:ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート
DSPE:ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン
F127:プルロニックF127
CPT:カンプトテシン
PTX:パクリタキセル
【背景技術】
【0003】
カーボンナノダイヤモンド(以下、「CND」と称する)は、ダイヤモンド固有の性質に加え、平均粒子径が小さく、比表面積が大きいという特徴を有しており、更には、比較的安価であり、入手が容易という利点がある。CNDは、爆発法や高温高圧法などによって製造することができる(特許文献1)。CNDは毒性の低さ、優れた生体適合性及び安定した蛍光特性を有することから、生物医療分野での応用が幅広く研究されている。さらに、特許文献2、3は、修飾されたCND及びその製造方法について開示する。
【0004】
CNDの生物医療分野での応用の例として、非特許文献1では、CNDに抗癌剤であるシスプラチンを担持させることによりシスプラチン-CND複合体を作製したこと、pHが酸性領域にある場合に複合体からシスプラチンを遊離させることが可能であること、複合体から遊離した薬剤は遊離のシスプラチンと同程度の細胞毒性を保持していることが報告されている。また、非特許文献2では、CND表面に抗癌剤エピルビシンを疎水性相互作用により吸着させ、さらに大腸癌の上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor; EGFR)に特異性のある抗体(anti-EGFR-PEG)を結合させた脂質ベシクルで当該エピルビシン-CND複合体を包み込むことで溶解性を高め、癌細胞に対する薬物集積作用ならびに効能について報告している。
【0005】
CNDに薬物を担持させた従来の複合体は、基本的に薬物担持量が少ないことや複合体形成後に水中分散性が著しく低下する問題点がある。
【0006】
CNDの水や極性有機溶媒への溶解性、分散性及び分散安定性を向上させるために、CNDの表面を高分子により修飾することが提案されている。例えば、特許文献4では、ナノダイヤモンドの表面を、ポリグリセリン鎖を含む特定の基で修飾することにより、水や極性有機溶媒への溶解性、分散性及び分散安定性が大幅に向上することが報告されている。しかしながら、従来技術では、基本的にCNDの分散性を高めることに主眼が置かれており、表面化学修飾後のCNDを利用した自己組織化能に関する評価や薬物担持を目的とするナノ構造制御に関する研究は皆無である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-202458号公報
【文献】特開2017-186234号公報
【文献】特開2017-186235号公報
【文献】特開2010-248023号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Bo Guan et al., Small 2010, 6, 1514-1519
【文献】Laura Moore et al., Adv. Mater. 2013, 25, 3532-3541
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、医薬品、香料などの生理活性物質を効果的に担持可能で、且つ生理的環境下で優れた溶解性を示す材料を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の修飾カーボンナノ材料、ナノクラスター、物質送達担体及び医薬組成物を提供するものである。
項1. 高級アルキル基又は高級アルケニル基で修飾されたカーボンナノ材料が自己組織化したナノクラスター。
項2. カーボンナノ材料がさらにポリアルキレングリコールで修飾されてなる、項1に記載のナノクラスター。
項3. ポリエチレングリコールで修飾されてなる、項2に記載のナノクラスター。
項4. 高級アルキル基又は高級アルケニル基、ポリアルキレングリコールが、-NH-、-O-、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-O-CO-NH-、-O-CO-O-、及び、-NH-CO-NH-からなる群から選ばれるいずれかの連結基でカーボンナノ材料に連結されてなる、項1~3のいずれかに記載のナノクラスター。
項5. 前記カーボンナノ材料がOH、COOH及びNH2からなる群から選ばれる少なくとも1種の表面基を有し、高級アルキル基又は高級アルケニル基が、前記表面基を介してカーボンナノ材料に結合されてなる、項1~4のいずれか1項に記載のナノクラスター。
項6. 前記カーボンナノ材料がOH、COOH及びNH2からなる群から選ばれる少なくとも1種の表面基を有し、ポリアルキレングリコールが、前記表面基を介してカーボンナノ材料に結合されてなる、項2に記載のナノクラスター。
項7. 有効成分と複合化した、項1~5のいずれか1項に記載のナノクラスター。
項8. 有効成分が生理活性物質、標識物質、香料、精油又は有機色素である、項7に記載のナノクラスター。
項9. カーボンナノ材料がカーボンナノダイヤモンド又はカーボンナノドットである、項1~8のいずれか1項に記載のナノクラスター。
項10. 項1~9のいずれか1項に記載のナノクラスターを含む、有効成分の送達担体。
項11. 高級アルキル基及び/又は高級アルケニル基とポリアルキレングリコールで修飾されてなるカーボンナノ材料。
項12. 高級アルキル基又は高級アルケニル基、並びに、ポリアルキレングリコールが、-NH-、-O-、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-O-CO-NH-、-O-CO-O-、及び、-NH-CO-NH-からなる群から選ばれるいずれかの連結基で連結されてなる、項11に記載のカーボンナノ材料。
項13. カーボンナノ材料がカーボンナノダイヤモンドである、項11又は12に記載のカーボンナノ材料。
項14. 医薬と複合化した項1に記載の自己組織化したナノクラスターを含む医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生理活性物質、香料、有機色素などの有効成分を効果的に担持可能で、且つ生理的環境下で優れた溶解性を示す表面化学修飾カーボンナノ材料クラスターならびに該ナノクラスターを含む医薬組成物などの複合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】カルボキシル基を有するナノダイヤモンド(NDc)を利用した超粒子(SP)(NDc-SP)の合成方法。NDc-ori(NDcからなる原料)のカルボキシル基とアミノ末端アルキル分子のアミノ基を縮合反応により共有結合し、超音波照射することで自己組織化NDc-SPナノクラスターを調製可能である。
【
図2】a) アルキル鎖長の異なるアミノ末端アルキル分子(C8-NH
2、C12-NH
2、C18-NH
2)を導入した各種NDc-SP水溶液の写真。ND濃度は全て5.6 mg ml
-1である。b) 各種NDc-SPのDLS測定による粒子径の結果。 アルキル鎖の鎖長に依存して粒子径が大きくなることが判明した。これは鎖長が長くなるとNDc表面の疎水性が高まった結果、NDc粒子間の相互作用が高まり、結果として大きな粒子径になったと考えられる。c) 各種NDc-SPのTEM像。高倍率像を各画像の左上に表示してある。DLS(動的光散乱)の結果と同様にアルキル鎖長が大きくなると実際の粒子径も増大していることが明らかとなった。Oct(C8)及びOct(C8)-NDc-SPは、オクチル基で修飾したNDcが自己組織化したナノクラスター、Dod(C12) 及びDod(C12)-NDc-SPは、ドデシル基で修飾したNDcが自己組織化したナノクラスター、Ole(C18) 及びOle(C18)-NDc-SPは、オレイル基で修飾したNDcが自己組織化したナノクラスターを各々示す。
【
図3】a) 各種NDc-SP及び製造原料であるNDc-oriのUV-Vis-NIR吸収スペクトル。ND濃度は56 μg ml
-1に揃えてある。b) NDc-oriならびに各種NDc-SPの熱重量(TGA)測定結果。 本測定結果よりNDc-SP 中のOct (C8)、Dod (C12)、Ole (C18)のクラスター中における割合はそれぞれ約13%, w/w、約17%, w/w、約35%, w/wであることが分かった。
【
図4】a) 各種NDc-SPの細胞毒性評価。ヒト骨肉腫細胞(U2OS)に各種NDc-SPを24時間暴露させた後の生存率を測定した。b) Dod(C12)-NDc-SPへのカンプトテシン(CPT)封入前後のUV-Vis-NIR吸収スペクトル。CPT封入後はCPTに由来する明確なピークが確認できることから、CPTは NDc-SPにうまく導入されていることを示唆している。c) CPT@NDc-ori、CPT@Oct(C8)-NDc-SP、CPT@Dod(C12)-NDc-SPの抗ガン活性。ヒトU2OS細胞を使用し、各種ナノ複合体を24時間暴露した後の細胞生存率を示す。 CPT@Dod(C12)-NDc-SPは他のナノ複合体に比較して10%高い抗ガン活性を有することが分かった。Dod (C12)に由来する長いアルキル鎖によってガン細胞との親和性がより高まり、高い抗ガン活性を示したと考えられる。d) CPTを導入した一般的なナノメディスン(PEGMEM、F127、DSPE-PEG)とCPT@Dod(C12)-NDc-SP のU2OSに対する24時間暴露後の抗ガン活性の比較試験。CPT@Dod(C12)-NDc-SPを用いた場合、およそ90%のガン細胞が死滅した。この結果は、PEGMEM(約34%死滅)、F127(約33%死滅)、DSPE-PEG(約46%死滅)に比較しても最大で57%もの薬理活性の改善が見られた。以上の結果は、NDc-SPが抗がん剤のナノキャリアとして有用であることを強く示唆している。
【
図5】アミノ官能基を有するナノダイヤモンド(NDa)を利用したナノクラスター(NDa-SP)の合成方法。NDa-oriのアミノ基とカルボキシル末端アルキル鎖を有する化合物(NaOc(C8)、NaLA(C12)、NaOle(C18))のカルボキシル基を縮合反応によりアミノ官能基と共有結合し、超音波照射することで自己組織化NDa-SPナノクラスターを調製可能である。
【
図6】a) 原料のNDa-oriと異なるアルキル鎖を有する各種NDa-SPs(NaOc(C8)、NaLA(C12)、NaOle(C18))水溶液の写真。各水溶液中のND濃度は3 mg ml
-1である。b) Nda-oriならびに各種NDa-SPsのDLS測定による粒子径。 アルキル鎖長に依存して粒子径を制御できることが分かった。c) 各種NDa-SPsのTEM像。アルキル鎖長に依存して粒子径が増大するが、DLSの結果を相補補完していることが分かる。d) Nda-oriならびに各種NDa-SPの高倍率TEM像。NaOc(C8)-NDa-SPは、オクチル基で修飾したNDaが自己組織化したナノクラスター、NaLA(C12)-NDa-SPは、ドデシル基で修飾したNDaが自己組織化したナノクラスター、NaOle(C18)-NDa-SPは、オレイル基で修飾したNDaが自己組織化したナノクラスターを各々示す。
【
図7】a) Nda-oriならびに各種NDa-SPs(NaOc(C8)-NDa-SP、NaLA(C12)-NDa-SP、NaOle(C18)-NDa-SP)のUV-Vis-NIR吸収スペクトル。各水溶液中のND濃度は30 μg ml
-1。b) NDa-oriならびに各種NDa-SPs(NaOc(C8)-NDa-SP、NaLA(C12)-NDa-SP、NaOle(C18)-NDa-SP)のTGA測定。NDa-SPs中のNaOc (C8) 、NaLA (C12)、NaOle (C18)は、それぞれ約 8%, w/w、約17%, w/w、約24%, w/wということが分かった。c) NDa-oriならびに各種NDa-SPs中のアミノ基量(NH
2 loading)と界面張力。アミノ基の定量はカイザーテストを用い、NDa-oriを100%として各ナノ粒子中のアミノ基量を算出した。表面張力は水温25℃、ND濃度が3 mg ml
-1のサンプルを測定した。アルキル鎖の導入によりNDa-SPs中のアミノ基が減少していることがわかる。また、NDa-oriに比較してNDa-SPsはいずれも表面張力の低下が観察された。この結果は、アルキル鎖導入によりNDa-SPが界面活性剤様の性質を帯びたことを意味している。d) 各種NDa-SPsの細胞毒性評価。本試験ではU2OS細胞を用い、各種ナノ粒子を24時間暴露後の細胞生存率をWST-8によって測定した。 この結果、いずれのNDa-SPs(NaOc(C8)-NDa-SP、NaLA(C12)-NDa-SP、NaOle(C18)-NDa-SP)も細胞毒性が低いことが分かった。
【
図8】ポリエチレングリコール(PEG)で被覆したNDa-SP(PEG coated-NDa-SP又はPEG-NDa-SP)の合成と非共有結合を利用したPEG-NDa-SP内への薬物の封入。本研究におけるPEG修飾には粒子径の大きなNaOle (C18)-NDa-SP(平均粒子径167 nm)は利用しなかった。この理由は、ナノ粒子のEPR効果の発現は100 nm以下が最適であるといわれており、100 nm以上のNaOle (C18)-NDa-SPは実験に適していないと考慮したためである。
【
図9】a) パクリタキセル(PTX)を導入した050GS-NaLA(C12)-NDa-SPの合成直後と24時間後の写真。ナノ複合体中のNDとPTX濃度はそれぞれ0.3、0.1 mg ml
-1。24時間後、沈殿を形成しており、分散安定性が高いといえないことから、050GS-NaLA(C12)-NDa-SPは以下の実験に使用しなかった。なお、050GSは、市販品であるSUNBRIGHT(登録商標) ME-050GSを用いてPEGを導入したことを示す。b) 8Arm-NaOc(C8)-NDa-SPと8Arm-NaLA(C12)-NDa-SPの合成直後と24時間後の写真。いずれのナノ複合体もND 濃度は3 mg ml
-1の NDa-SPを用いている。8Armを活用するとNDa-SPの分散性を向上させることができる。しかし、最終生成物の8Arm-NaOc(C8)-NDa-SPは、分散性が上がりすぎるため、遠心分離により回収できるナノ粒子の濃度が低い。以上の結果から、以降の試験では8Arm-NaLA (C12)-NDa-SPを実験に使用した。なお、8-Armは、市販品である8-ArmPEG-SCMによりPEG基をNDaに導入したことを示す。
【
図10】a) PTXを導入したPEG修飾NDa-SPs(050GS-NaOc(C8)-NDa-SPと8Arm-NaLA(C12)-NDa-SP)とPEG非修飾NDa-SPs(NaOc(C8)-NDa-SPとNaLA(C12)-NDa-SP)の24時間後の水中分散性。ナノ複合体中のNDaとPTX濃度はそれぞれ3 mg ml
-1、1 mg ml
-1。050GSと8Armで被覆したNDa-SPはPTX導入後も高い水中分散性を有することが分かった。以上の薬物導入後の水中分散性の結果から、本研究では050GS-NaOc(C8)-NDa-SPと8Arm-NaLa(C12)-NDa-SPを薬物キャリアとして以降の実験に用いることにした。b) PEG-NDa-SPのPTX導入前後における平均粒子径の変化。c) PTXを導入したPEG-NDa-SPs(050GS-NaOc(C8)-NDa-SPと8Arm-NaLA(C12)-NDa-SP)の5日間に渡る水中分散安定性の評価。データはPTX@050GS-NaOc(C8)-NDa-SP(左)とPTX@8Arm-NaLA(C12)-NDa-SP水溶液(右)の経時的なDLS測定値(粒子径)を示している。内部の写真は合成直後と5日後の様子。凝集物が全く見られないことがわかる。
【
図11】a) 050GS-NaOc(C8)-NDa-SPと8Arm-NaLA(C12)-NDa-SPのTEM像。b) PTX@050GS-NaOc(C8)-NDa-SP、PTX@8Arm-NaLA(C12)-NDa-SP、PTXのUV-Vis-NIR吸収スペクトル。各ナノ複合体中にはPTXに由来するピークが確認できることから、概念図のようにPTXは首尾よく封入されていることが確認できた。
【
図12】PTXを導入したPEG-NDa-SPの抗ガン活性評価。a) 050GS-NaOc(C8)-NDa-SP(左)と8Arm-NaLA(C12)-NDa-SP(右)のSKOV3、U2OS、TIG3に対する24時間暴露後の細胞毒性評価。b) PTX@050GS-NaOc(C8)-NDa-SPならびにPTX@8Arm-NaLA(C12)-NDa-SPとFDAで認可されているPTX製剤Abraxaneとの抗がん活性比較試験。SKOV3細胞を利用し、各種ナノ複合体を暴露24時間後(左)ならびに48時間後(右)を調査した。c) 各種ナノ複合体を24時間暴露したSKOV3細胞の位相差像(Phase)ならびにcrystal violet染色像(CV staining)。050GS-NaOc(C8)-NDa-SPと8Arm-NaLA(C12)-NDa-SP中のND濃度は30 μg ml
-1。PTX@050GS-NaOc(C8)-NDa-SPとPTX@8Arm-NaLA(C12)-NDa-SP中のPTXならびにND濃度はそれぞれ10 ng ml
-1、30 ng ml
-1である。画像からPTX@050GS-NaOc(C8)-NDa-SPとPTX@8Arm-NaLA(C12)-NDa-SPの抗がん活性が明らかに高いことが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、カーボンナノ材料はカーボンナノダイヤモンド、カーボンナノドットを包含する。
【0014】
ナノクラスターの製造に用いられるカーボンナノ材料は、高級アルキル基又は高級アルケニル基で修飾されている。これらの官能基で修飾されたカーボンナノ材料を「修飾カーボンナノ材料」と記載することがある。
【0015】
本発明の修飾カーボンナノ材料は、高級アルキル基又は高級アルケニル基を0.0001~30質量%程度、好ましくは0.001~20質量%程度、好ましくは0.01~15質量%程度、好ましくは0.05~10質量%程度含む。
【0016】
高級アルキル基又は高級アルケニル基は、2価の連結基でカーボンナノ材料に連結される。2価の連結基としては、-NH-、-O-、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、-NH-CO-、-NH-CO-O-、-O-CO-NH-、-O-CO-O-、-NH-CO-NH-が挙げられる。
【0017】
高級アルキル基としては、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、イソヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、イソオクタデシル、ノナデシル、アイコシル、ヘンアイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシルなどの直鎖又は分岐を有するC6-C24アルキル基、好ましくはC8-C18アルキル基、より好ましくはC8-C14アルキル基、さらに好ましくはC10-C14アルキル基が挙げられる。
【0018】
高級アルケニル基としては、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル(パルミトオレイル)、イソヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル(オレイル、Ole)、イソオクタデセニル、ノナデセニル、アイコセニル、ヘンアイコセニル、ドコセニル、トリコセニル、テトラコセニルなどの直鎖又は分岐を有するC6-C24アルケニル基、好ましくはC8-C18アルケニル基、より好ましくはC12-C18アルケニル基、さらに好ましくはC14-C18アルケニル基が挙げられる。
【0019】
本発明のナノクラスターの製造に用いられるカーボンナノ材料は、さらにポリアルキレングリコールで修飾されていてもよい。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロック共重合体などが挙げられる。
【0020】
高級アルキル基及び/又は高級アルケニル基とポリアルキレングリコールによる修飾前のカーボンナノ材料の一次粒子の平均粒子径は、好ましくは10nm以下、より好ましくは1~10nmである。
【0021】
高級アルキル基及び/又は高級アルケニル基とポリアルキレングリコールで修飾されたカーボンナノ材料の一次粒子の平均粒子径は、好ましくは12nm以下、より好ましくは1~12nm、さらに好ましくは3~12nmである。
【0022】
修飾前又は修飾後のカーボンナノ材料の一次粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により測定してもよく、X線回析装置(商品名「S mart Lab 」,リガク社製)を使用して小角X線散乱測定(SAXS法)により決定してもよい。
【0023】
本発明のナノクラスターの製造に用いられるカーボンナノ材料は、表面にOH、COOH、NH2などの官能基を多数有するカーボンナノ材料(以下、「CNM」と記載することがある)を使用することが好ましい。表面にOH、COOH、NH2などの基を多数有するカーボンナノ材料は公知であり、このような材料を用いて以下のスキーム(1)~(10)に従い、高級アルキル基又は高級アルケニル基で修飾されたカーボンナノ材料を得ることができる。
スキーム
【0024】
【0025】
【0026】
(式中、XはCl、Br又はIを示す。CNMはカーボンナノ材料を示す。n1は1以上の整数を示す。n2は0以上の整数を示す。Rは、高級アルキル基又は高級アルケニル基を示す。)
上記スキーム(1)~(10)の反応は常法に従い行うことができ、OH、NH2又はCOOHの表面基を有するカーボンナノ材料1gに対し、R-COX、R-NH2、R-OH、R-Xのいずれかの化合物を1mg~過剰量使用し、0℃から溶媒の沸騰する温度において1~24時間反応させることで目的とする生成物を得ることができる。溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0027】
上記スキーム(1)~(10)で得られた化合物(Ia)~(Ij)は、さらに未反応の各官能基(OH,COOH,NH2)とポリアルキレングリコール化試薬(R2-Y2-X2;ここで、R2はポリアルキレングリコール部分を含む基、Y2は単結合又は2価のスペーサー基、X2はNH2,OH,COOH,N-ヒドロキシスクシンイミドを示す。)と反応させることで、ポリアルキレングリコールで修飾することができる。2価のスペーサー基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、フェニレン(1,2-、1,3-、1,4-)、-CH2CH2O-、-CH2CH2CH2O-、-CH2CH2CH2CH2O-、-CH2CH2NH-、-CH2CH2CH2NH-、-CH2CH2CH2CH2NH-、-CH2CH2CONH-、-CH2CH2CH2CONH-、-CH2CH2CH2CH2CONH-、-CH2CH2NHCO-、-CH2CH2CH2NHCO-、-CH2CH2CH2CH2NHCO-、-CH2CH2CO-、-CH2CH2CH2CO-、-CH2CH2CH2CH2CO-、-CH2CH2COO-、-CH2CH2CH2COO-、-CH2CH2CH2CH2COO-、-CH2CH2OCO-、-CH2CH2CH2OCO-、-CH2CH2CH2CH2OCO-などが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上を組み合わせたものが挙げられる。ポリアルキレングリコールを導入する反応は、化合物(Ia)~(Ij)1gに対し、ポリアルキレングリコール化試薬を100mg~過剰量使用し、0℃から溶媒の沸騰する温度において1~24時間反応させることで目的とする高級アルキル基及び/又は高級アルケニル基と、ポリアルキレングリコールで修飾されたカーボンナノ材料を得ることができる。溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0028】
本発明のナノクラスターは、高級アルキル基及び/又は高級アルケニル基、必要に応じてさらにポリアルキレングリコール基で修飾されたカーボンナノ材料を水又は緩衝液などの適当な水性媒体に懸濁させ、超音波照射により自己組織化させて作製することができる。超音波照射後、クラスターを形成していない未反応の官能基修飾カーボンナノ材料を遠心分離などの精製操作により除去し、自己組織化ナノクラスターを分離することができる。
【0029】
本発明のナノクラスターは、有効成分を含む適当な溶媒に懸濁させることにより、有効成分と複合化させることができる。有効成分はナノクラスターの表面又は内部に存在する。有効成分としては、生理活性物質、標識物質、精油、香料、有機色素などが挙げられる。
【0030】
標識物質としては、フルオレセイン、オレゴングリーン、エオシン、エリスロシン等のフルオレセイン類;テトラメチルローダミン誘導体、テキサスレッド誘導体、ローダミンB base、リサミンローダミンB、ローダミン6G等のローダミン類;クマリン類;ダンシル型(ジメチルアミノナフタレンスルホン酸型)蛍光色素;NBD型色素;ピレン;R-フィコエリスリン、フロフィコシアニン、アロフィコシアニン等のフィコビリプロテイン;BODIPY誘導体;Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5等のCy(登録商標)色素;Alexa Fluor350、405、430、488、532、546、555、568、594、633、647、680、700、750等のアレキサ(登録商標)フローラなど挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、グレープフルーツ、ライム、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、フェンネル、スターアニス、クローブ、シナモン、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、ホップ、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0032】
香料の成分としては、l-メントール、α-ピネン、β-ピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエン、ブタノール、ペンタノール、イソアミルアルコール、ヘキサノール、プレノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、2,6-ノナジエノール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、フルフリルアルコール、アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナール、シトロネラール、シトラール、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、フルフラール、ヘリオトロピン、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトイン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、ヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノン、ラズベリーケトン、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、メチルチャビコール、アネトール、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酪酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸ベンジル、サリチル酸メチル、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリド、酪酸、4-メチル-3-ペンテン酸、オクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、インドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、メタンチオール、フルフリルメルカプタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジフルフリルジスルフィド、アリルイソチオシアネートなどが挙げられ、これらの2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
有機色素としては、アナトー色素、コチニール色素、紅麹色素、β-カロチン、ハイビスカス色素、サーフルイエロー、カカオ色素、リボフラビン、クロロフィル、カラメル、アンナット、カルミン、ラッカイン酸、ブラジリン、クロシン、シコニン、シソニン、ルチンなどが挙げられる。
【0034】
有効成分と複合化した本発明のナノクラスターは、哺乳動物(ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、イヌ、ネコなど)の生体内または皮膚に投与もしくは適用した場合に、有効成分を徐々に放出する。したがって、有効成分と複合化した本発明のナノクラスターは、医薬品もしくは医薬組成物、化粧品、口腔用組成物として有用である。化粧品としては、ファンデーション、フェイスパウダー、ローション、乳液、口紅、化粧水、美容液、マッサージクリーム、保湿クリーム、パック、洗顔料、シャンプー、リンス、育毛剤、ボディパウダーなどが挙げられる。口腔用組成物としては、マウスウォッシュ、マウスリンス、練歯磨き、歯磨き粉、チューインガム、飴、グミ、ラムネなどが挙げられる。医薬品の剤形としては、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、丸剤、チュアブル錠、注射剤、坐剤、シロップ剤、軟膏剤、硬膏剤などが挙げられる。また、本発明のナノクラスターは、有効成分を徐々に放出するので、有効成分の送達担体として有用である。
【0035】
生理活性物質は、医薬、核酸、タンパク質を含む。医薬としては、抗腫瘍剤、抗高血圧剤、抗低血圧剤、抗精神病剤、鎮痛剤、抗鬱剤、抗躁剤、抗不安剤、鎮静剤、催眠剤、抗癲癇剤、オピオイドアゴニスト、喘息治療剤、麻酔剤、抗不整脈剤、関節炎治療剤、鎮痙剤、ACEインヒビター、鬱血除去剤、抗生物質、抗狭心症剤、利尿剤、抗パーキンソン病剤、気管支拡張剤、抗利尿剤、利尿剤、抗高脂血症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、制吐剤、抗感染症剤、抗新生物剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗糖尿病剤、抗アレルギー剤、解熱剤、抗痛風剤、抗ヒスタミン剤、止痒剤、骨調節剤、心血管剤、コレステロール低下剤、抗マラリア剤、鎮咳剤、去痰剤、粘液溶解剤、鼻詰り用薬剤、ドパミン作動剤、消化管用薬剤、筋弛緩剤、神経筋遮断剤、副交感神経作動剤、プロスタグランジン、興奮薬、食欲抑制剤、甲状腺剤又は抗甲状腺剤、ホルモン、抗偏頭痛剤、抗肥満剤、抗炎症剤などが挙げられる。好ましい医薬は抗腫瘍剤である。抗腫瘍剤としては、ホルモン療法剤(例えば、ホスフェストロール、ジエチルスチルベストロール、クロロトリアニセリン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、酢酸クロルマジノン、酢酸シプロテロン、ダナゾール、アリルエストレノール、ゲストリノン、メパルトリシン、ラロキシフェン、オルメロキフェン、レボルメロキシフェン、抗エストロゲン(例、クエン酸タモキシフェン、クエン酸トレミフェンなど)、ピル製剤、メピチオスタン、テストロラクトン、アミノグルテチイミド、LH-RHアゴニスト(例、酢酸ゴセレリン、ブセレリン、リュープロレリンなど)、ドロロキシフェン、エピチオスタノール、スルホン酸エチニルエストラジオール、アロマターゼ阻害薬(例、塩酸ファドロゾール、アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン、ボロゾール、フォルメスタンなど)、抗アンドロゲン(例、フルタミド、ビカルタミド、ニルタミドなど)、5α-レダクターゼ阻害薬(例、フィナステリド、エプリステリドなど)、副腎皮質ホルモン系薬剤(例、デキサメタゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロンなど)、アンドロゲン合成阻害薬(例、アビラテロンなど)、レチノイドおよびレチノイドの代謝を遅らせる薬剤(例、リアロゾールなど)などが挙げられ、なかでもLH-RHアゴニスト(例、酢酸ゴセレリン、ブセレリン、リュープロレリンなど))、アルキル化剤(例えば、ナイトロジェンマスタード、塩酸ナイトロジェンマスタード-N-オキシド、クロラムブチル、シクロフォスファミド、イホスファミド、チオテパ、カルボコン、トシル酸インプロスルファン、ブスルファン、塩酸ニムスチン、ミトブロニトール、メルファラン、ダカルバジン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、トリエチレンメラミン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、ピポブロマン、エトグルシド、カルボプラチン、シスプラチン、ミボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、アルトレタミン、アンバムスチン、塩酸ジブロスピジウム、フォテムスチン、プレドニムスチン、プミテパ、リボムスチン、テモゾロミド、トレオスルファン、トロフォスファミド、ジノスタチンスチマラマー、カルボコン、アドゼレシン、システムスチン、ビゼレシン)、代謝拮抗剤(例えば、メルカプトプリン、6-メルカプトプリンリボシド、チオイノシン、メトトレキサート、エノシタビン、シタラビン、シタラビンオクフォスファート、塩酸アンシタビン、5-FU系薬剤(例、フルオロウラシル、テガフール、UFT、ドキシフルリジン、カルモフール、ガロシタビン、エミテフールなど)、アミノプテリン、ロイコボリンカルシウム、タブロイド、ブトシン、フォリネイトカルシウム、レボフォリネイトカルシウム、クラドリビン、エミテフール、フルダラビン、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、ペントスタチン、ピリトレキシム、イドキシウリジン、ミトグアゾン、チアゾフリン、アンバムスチン)、抗癌性抗生物質(例えば、アクチノマイシンD、アクチノマイシンC、マイトマイシンC、クロモマイシンA3、塩酸ブレオマイシン、硫酸ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸アクラルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸エピルビシン、ネオカルチノスタチン、ミスラマイシン、ザルコマイシン、カルチノフィリン、ミトタン、塩酸ゾルビシン、塩酸ミトキサントロン、塩酸イダルビシン)、植物由来抗癌剤(例えば、エトポシド、リン酸エトポシド、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、テニポシド、パクリタキセル、ドセタクセル、ビノレルビン、カンプトテシン、塩酸イリノテカン)、免疫療法剤(BRM)(例えば、ピシバニール、クレスチン、シゾフィラン、レンチナン、ウベニメクス、インターフェロン、インターロイキン、マクロファージコロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポイエチン、リンホトキシン、BCGワクチン、コリネバクテリウムパルブム、レバミゾール、ポリサッカライドK、プロコダゾール)、細胞増殖因子ならびにその受容体の作用を阻害する薬剤(例えば、トラスツズマブ(ハーセプチン(商標);抗HER2抗体)、ZD1839(イレッサ)、グリーベック(GLEEVEC)などの抗体医薬)が挙げられる。抗腫瘍剤の対象となる癌の種類としては、結腸・直腸癌、肝臓癌、腎臓癌、頭頸部癌、食道癌、胃癌、胆道癌、胆のう・胆管癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍等が挙げられ、好ましくは結腸・直腸癌、胃癌、頭頸部癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、胆道癌、肝臓癌が挙げられる。
【0036】
核酸としては、特に制限はなく、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラ核酸、DNA/RNAのハイブリッド等いかなるものであってもよい。また、核酸は1~3本鎖のいずれも用いることができるが、好ましくは1本鎖又は2本鎖である。核酸は、プリンまたはピリミジン塩基のN-グリコシドであるその他のタイプのヌクレオチド、あるいは非ヌクレオチド骨格を有するその他のオリゴマー(例えば、市販のペプチド核酸(PNA)等)または特殊な結合を含有するその他のオリゴマー(但し、該オリゴマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などであってもよい。さらには公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えば蛋白質(ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチドなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレート化合物(例えば、アクリジン、プソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。好ましい核酸としては、siRNAなどのRNAが挙げられる。
【0037】
siRNAとは、標的遺伝子のmRNAもしくは初期転写産物のヌクレオチド配列又はその部分配列(好ましくはコード領域内)(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相同なヌクレオチド配列とその相補鎖からなる二本鎖オリゴRNAである。siRNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相同な部分の長さは、通常、約18塩基以上、例えば約20塩基前後(代表的には約21~23塩基長)の長さであるが、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されない。また、siRNAの全長も、通常、約18塩基以上、例えば約20塩基前後(代表的には約21~23塩基長)の長さであるが、RNA干渉を引き起こすことが出来る限り、特に限定されない。
【0038】
標的ヌクレオチド配列と、siRNAに含まれるそれに相同な配列との関係については、100%一致していてもよいし、塩基の変異があってもよい(少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%以上の同一性の範囲内であり得る)。
【0039】
siRNAは、5’又は3’末端に5塩基以下、好ましくは2塩基からなる、塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’等の配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0040】
siRNAは任意の標的遺伝子に対するものであってよい。siRNAは、その発現亢進が対象疾患の発症および/または増悪に関与する遺伝子を標的とするものであることが好ましく、より具体的には、その遺伝子に対するアンチセンス核酸が、臨床もしくは前臨床段階に進んでいる遺伝子や新たに知られた遺伝子を標的とするもの等が挙げられる。
【0041】
siRNAは、1種のみで使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
タンパク質としては、酵素、受容体、抗体、抗原、インターフェロン、インターロイキンなどのサイトカインなどが挙げられる。
【0043】
本発明のナノクラスターの平均粒子径は、1~1000nm程度、好ましくは3~800nm程度、より好ましくは5~500nm程度、さらに好ましくは10~300nm程度、特に30~250nm程度である。
【0044】
ナノクラスターのゼータ電位としては、好ましくは5~30mV程度、より好ましくは10~25mV程度である。
【0045】
本発明のナノクラスターが有効成分と複合化している場合、ナノクラスター100質量部に対し、有効成分を5~50質量部程度、好ましくは10~20質量部程度含む。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
実施例1
<実験方法>
1.カルボキシル化ナノダイヤモンドを活用した超粒子複合体の合成
カルボキル化ナノダイヤモンド(NDc)(粒子径:4-5 nm)は、特開2017-202940又は特開2016-113333の記載に従い爆轟法により調製した。合成したNDcは硝酸により精製し、水素ガス雰囲気下で焼成した。NDcの元素分析を有機元素分析装置(Micro Corder JM10; J-Science Lab Co., Ltd, Kyoto, Japan)により解析した結果、C (86.92%)、H (0.44%)、N (2.29%)であることが分かった。精製したNDcをビーズミル(Sand Grinder LSG-4U; Aimex Co., Ltd, Tokyo, Japan)により蒸留水中に分散させた。次いで、NDc分散水溶液を遠心分離に掛け、水に不溶のNDを除去した。得られた上澄み溶液(NDc-ori)を以降の実験に利用した。1 mlのNDc-ori分散水溶液(ND濃度 = 56 mg ml
-1)、末端アミノ化アルキル分子(50 μlのn-octylamine(Oct (C8))、50 μlのoleylamine(Ole (C18))、10 mgのdodecylamine(Dod (C12))のいずれか(いずれもFUJIFILM Wako Pure Chemical, Osaka, Japanより購入))、10 mgの1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride(WSC)(FUJIFILM Wako Pure Chemical)を9 mlの2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid(MES)緩衝液(pH 6.0、100 mM)に加え、バス型超音波照射装置(出力 = 80 W、振動数 = 40 kHz)(USD-2R; AS ONE, Osaka, Japan)を用いて5分間照射した。室温で1.5時間スターラーを用いて激しく攪拌した後、混合物を遠心分離に掛け、Milli-Q水で3回洗浄した。10 mlのMilli-Q水を遠心分離により得られた沈殿物に加え、パルス型超音波照射装置(VCX-600; Sonics, Danbury, CT, USA)によって10分間超音波を照射することで再分散させた。当該カルボキシル化ナノダイヤモンド超粒子(NDc-SP)分散液を以降の実験に利用した。得られたカルボキシル化ナノダイヤモンド超粒子(NDc-SP)分散液は、Oct(C8)-NDc-SP、Dod(C12)-NDc-SP、Ole(C18)-NDc-SPの3種類であり、これらはいずれもナノクラスターを構成していた(
図2(b)、
図2(c))。最終生成物中のND濃度は約5.6 mg ml
-1であることは紫外-可視-近赤外スペクトルメーター(V-730 BIO; Jasco, Tokyo, Japan)により判明した。またNDc-SP(クラスター)中のOct(C8)、Dod(C12)、Ole(C18)はそれぞれ約13%, w/w、約17%, w/w、約35%, w/wであることが熱重量分析(Q 500; TA Instruments, New Castle, DE, USA)により明らかとなった。
【0047】
CPT@Oct(C8)-NDc-SPとCPT@Dod(C12)-NDc-SP複合体は、次の方法で調製した。遠心分離により洗浄したOct(C8)-NDc-SPあるいはDod(C12)-NDc-SPから成る沈殿物と10 mgのCPT(FUJIFILM Wako Pure Chemical)を10 mlのMilli-Q水中に混合し、10分間パルス超音波を照射した。CPT@NDc-oriは10 mgのCPT、1 mlのNDc-or水溶液、9 mlのMilli-Q水を混ぜ、10分間パルス超音波を照射することで調製した。CPT@Oct(C8)-NDc-SPとCPT@Dod(C12)-NDc-SP複合体は、いずれもナノクラスターを構成していた(
図4(b)、
図4(c)、
図4(d))。CPT@PEGMEM、CPT@F127、CPT@DSPE-PEGは、ND沈殿物の代わりに 56 mgのpoly(ethylene glycol) methyl ether methacrylate(PEGMEM)(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)、56 mgのpluronic F127(F127)(FUJIFILM Wako Pure Chemical)、あるいは56 mgのN-(aminopropyl polyethyleneglycol)carbamyl-distearoylphosphatidyl-ethanolamine(DSPE-PEG)(Sunbright DSPE-020PA; Yuka Sangyo, Tokyo, Japan)を用いて、同様の手法で調製した。
【0048】
2.アミノ化ナノダイヤモンドを活用した超粒子複合体の合成
アミノ化ナノダイヤモンド(NDa)(粒子径:4-5 nm)は、既報の調製法に従い合成した(V. V. Danilenko, Combust., Explos. Shock Waves 2005, 41, 577; V. Y. Dolmatov, J. Superhard Mater. 2008, 30, 233; V. Y. Dolmatov, V. Myllymaki and A. Vehanen, J. Superhard Mater. 2013, 35, 143.)。合成したNDaを硝酸で精製し、水素ガス雰囲気下で焼成した。NDaの元素分析[C (92.20 %), H (0.74%), and N (2.30%) contents]は有機元素分析装置(Micro Corder JM10; J-Science Lab Co., Ltd, Kyoto, Japan)により解析した。精製したNDaをビーズミル(Sand Grinder LSG-4U; Aimex Co., Ltd, Tokyo, Japan)によって蒸留水中に分散させた。次いで、当該NDa分散液を遠心に掛け、水に不溶なNDを除去した。得られた上澄み分散液(NDa-ori)をさらなる実験に利用した。1 mlのNDa-ori分散液(ND濃度 = 30 mg ml
-1)、10 mgのカルボキシル末端アルキル鎖(sodium octanoate(NaOc (C8))、sodium laurate(NaLA (C12))、あるいはsodium oleate(NaOle (C18))(いずれもFUJIFILM Wako Pure Chemicalより購入)、10 mgのWSCを9 mlのMES緩衝液(pH 6.0, 100 mM)にバス型超音波照射装置(出力:80 W、発振周波数:40 kHz)(USD-2R; AS ONE, Osaka, Japan)を用いて5分間超音波照射することで溶解させた。当該混合物をさらに1.5時間、室温で激しくスターラーで撹拌した後、遠心分離を用いてMill-Q水で3回洗浄し、未反応物質を除去した。遠心分離によって得られたペレットをパルス型超音波照射装置を用いて10分間超音波を照射することで10 mlのMill-Q水に再分散させた。得られたアミノ化ナノダイヤモンド超粒子(NDa-SP)分散液は、NaOc(C8)-NDa-SP、NaLA(C12)-NDa-SP、NaOle(C18)-NDa-SPの3種類であり、これらはいずれもナノクラスターを構成していた(
図6(c)、
図6(d))。
【0049】
当該NDa-SP分散液を引き続き実験に利用した。また、NDa-SP分散液中のND濃度(~3 mg ml
-1)はUV-Vis-NIR分光光度計により測定した(
図7(a))。また、NDa-SP中のNaOc (C8)(~8%, w/w)、NaLA (C12)(~17%, w/w)、NaOle (C18)(~24%, w/w)は 熱重量測定(TGA)(Q 500; TA Instruments, New Castle, DE, USA)を用いて見積もった。
【0050】
ND表面上のアミノ基は、Kaiser test kit(60017-1EA; Sigma-Aldrich)を用いて既報の方法(Yue Yu et al. Nanoscale 10, 8969-8978 (2018).)に従い定量した(
図7(c))。
【0051】
各種NDa-SPの表面張力は、Mitsui Chemical Analysis & Consulting Service (Tokyo, Japan)によってsurface tensiometer(CBVP-Z; Kyowa Interface Science Co.)を用いて測定された(
図7(c))。
【0052】
PEG修飾したNDa-SP (PEG-NDa-SP)は以下の方法により合成した(
図8)。1 mlのMES緩衝液(pH 6.0、500 mM)を10 mlの NaOc(C8)-NDa-SP 水溶液あるいは10 mlのNaLA(C12)-NDa-SPに加えた。遠心分離(15000 rpm、10分間)に掛け、 透明な上澄み溶液を注意深く取り除いた。次いで、遠心分離後のペレットに20 mgのα-succinimidyloxyglutaryl-ω-methoxy, polyoxyethylene(SUNBRIGHT ME-050GS; Yuka Sangyo, Tokyo, Japan)(050GS)あるいは20 mgのhexaglycerol octa(succinimidyloxyglutaryl) polyoxyethylene(8-ArmPEG-SCM; Funakoshi, Tokyo, Japan)(8Arm)を含む5 mlのDMSO(FUJIFILM Wako Pure Chemical)を加えた。混合物を30分間超音波照射後、室温で一晩激しく攪拌した。最後に、1 mlのMES緩衝液(pH 6.0、100 mM)を反応液に加え、Milli-Q水と遠心分離を用いて3回洗浄した。得られたペレットを10 mlのMilli-Q水中にパルス超音波を10分間照射することで再分散させた。合成した050GS被覆NaOc(C8)-NDa-SP(050GS-NaOc(C8)-NDa-SP)水溶液(ND濃度: ~3 mg ml
-1)と8Arm被覆NaLA(C12)-NDa-SP(8Arm-NaLA (C12)-NDa-SP)(ND濃度: ~3 mg ml
-1)を以降の実験に用いた。これらはナノクラスターを構成していた(
図10(b)、
図11(a)、
図11(b))
PTX@050GS-NaOc(C8)-NDa-SPとPTX@8Arm-NaLA(C12)-NDa-SP複合体は次の方法により調製した。遠心分離によって洗浄した050GS-NaOc(C8)-NDa-SPあるいは8Arm-NaLA(C12)-NDa-SPのペレットに10 mgのpaclitaxel(PTX)(FUJIFILM Wako Pure Chemical)を含む10 mlのMilli-Q水を加え、10分間パルス超音波を照射した。得られた混合物は使用前まで4℃で保存した。AbraxaneはTaiho Pharmaceutical Co., Ltd.より購入し、化学修飾等の処理を施さず、そのまま実験に使用した。これらはナノクラスターを構成していた(
図10(b)、
図11(a)、
図11(b))。
【0053】
3.ND-SPの物性解析
合成したND-SPの構造ならびにモルフォロジーは高分解透過型電子顕微鏡(TEM)(加速電圧:120 kV)(EM-002B; Topcon, Tokyo, Japan)を用いて解析した(
図2(c)、
図6(c)、
図6(d)、
図11(a))。
【0054】
ND-SPの粒子径(流体力学的直径)は動的光散乱法(DLS)(Photal FPAR-1000; Otsuka Electronics, Osaka, Japan)により求めた(
図2(b)、
図6(b)、
図10(b))。
【0055】
ND-SPの分光学的解析ならびにND-SP 複合体中のND、CPT、PTX濃度は紫外-可視-近赤外スペクトルメーター(V-730 BIO; Jasco, Tokyo, Japan)により見積もった(
図2(a)、
図3(a)、
図4(b)、
図6(a)、
図7(a)、
図7(b)、
図9(a)、
図9(b)、
図10(a)、
図10(c)、
図11(b))。
【0056】
4.細胞培養と細胞毒性評価
ヒト骨肉腫細胞(U2OS)、ヒト卵巣腺腫細胞(SKOV3)、ヒト正常二倍体線維芽細胞(TIG3)は、the Japanese Collection of Research Bioresources Cell Bank(Tokyo, Japan)より分譲し、10% fetal bovine serum、2 mM L-glutamine、1 mM sodium pyruvate、gentamycin、penicillin-streptomycin(100 IU ml-1)、Hank's balanced salt solution(Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)を含むDulbecco's Modified Eagle's Medium(DMEM)(Gibco, Grand Island, NY, USA)で培養した。細胞は37℃、5%のCO2 雰囲気下の加湿チャンバー中で培養した。
【0057】
細胞生存率は、crystal violet 染色(FUJIFILM Wako Pure Chemical)とCell Counting Kit (CCK)-8(Dojindo Laboratories, Kumamoto, Japan)を用い、それらのマニュアルに従い評価した。細胞を96-well plate(5 × 10
3 cells well
-1)に播種し、一晩インキュベートした。次いで、細胞を薬物あるいはナノ複合体分散溶液に暴露させ、新鮮な培養液で洗浄後、CCK-8溶液中でインキュベートした。最後に450 nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Infinite M200 PRO; Tecan, Mannedorf, Switzerland)で測定することで細胞生存割合を算出した(
図4(a)、
図4(c)、
図4(d)、
図7(d)、
図12(a)、
図12(b)、
図12(c))。
【0058】
5.血液検査
全血算(CBC)ならびに生化学パラメータは Japan SLC and Oriental Yeast Co.(Tokyo, Japan)より測定された。具体的には、10週齢の雌のBALB/cSlcマウス(n = 5; 平均体重 = 21 g; Japan SLC)に200 μlの各種サンプル[ND-SPを含む滅菌水(NDc-SP: 1.12 mg kg-1; NDa-SP: 30 mg kg-1)、PBS緩衝液あるいは滅菌水]を尾静脈より投与した。血液サンプルはナノ複合体投与後4週間後に採血した(表1~4)。
【0059】
6.データの統計解析
データ中の±は標準偏差、nは使用したサンプル数を示している。データの統計解析は、Student's t-testを用いた。*、**、***は、それぞれ< 0.05、< 0.005、< 0.001のp値を示している。
【0060】
【0061】
【0062】
Dod(C12)-NDc-SP分散液あるいはPBSをマウスの尾静脈に投与後、4週間後の全血算(CBC)ならびに生化学パラメータを調査したところ、サンプル間に有意な差が見られなかった。この結果は、Dod(C12)-NDc-SPが高い生体適合性を有することを意味している。
【0063】
【0064】
【0065】
PEG-NDc-SPを分散させた滅菌水あるいは滅菌水のみをマウスの尾静脈に投与後、4週間後の全血算(CBC)ならびに生化学パラメータを調査したところ、サンプル間に有意な差が見られなかった。この結果は、PEG-NDc-SPが高い生体適合性を有することを意味している。