(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】高透湿性ポリウレタン樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 18/48 20060101AFI20240819BHJP
【FI】
C08G18/48 037
C08G18/48 004
(21)【出願番号】P 2020042156
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松本 明洋
(72)【発明者】
【氏名】青木 良和
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-201084(JP,A)
【文献】特開昭60-059178(JP,A)
【文献】特開平08-003263(JP,A)
【文献】特開昭61-245376(JP,A)
【文献】特開2014-141643(JP,A)
【文献】特開2020-059928(JP,A)
【文献】特開平08-104724(JP,A)
【文献】特開2018-053123(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110511346(CN,A)
【文献】特開2013-194081(JP,A)
【文献】特開2015-074735(JP,A)
【文献】国際公開第03/059989(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/220983(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/056761(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキル側鎖を有するポリオールと、イソシアネート化合物との反応物である透湿性ポ
リウレタン樹脂であって、
前記ポリオールが、下記式(1)で表されるポリ(アルキル)アルキレンエーテルグリコールの構成単位と、下記式(2)で表されるポリエチレングリコールの構成単位を含むことを特徴とする透湿性ポリウレタン樹脂。
〔式(1)中、
R1は、炭素原子数が3~5であるアルキレン基であり、
R2は、水素原子または炭素原子数が1~4であるアルキル基であり、かつ1つ以上のアルキル基を有し、
nは、5~200の整数である。〕
〔式(2)中、mは5~180の整数である。〕
【請求項2】
前記ポリオールの数平均分子量が200~8000である請求項1に記載の透湿性ポリウレタン樹脂。
【請求項3】
前記式(1)の構成単位を含むグリコールと、前記式(2)の構成単位を含むグリコールの配合比が50~20:50~80である請求項1または請求項2に記載の透湿性ポリウレタン樹脂。
【請求項4】
アルキル側鎖を有するポリオールの
含有量が、アルキル側鎖を有するポリオールとポリイソシアネート化合物との硬化反応により得られた透湿性ポリウレタン樹脂中の10~80wt%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の透湿性ポリウレタン樹脂。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の透湿性ポリウレタン樹脂であって、その厚みが25~35μmであるときの透湿度(JIS L-1099:2012塩化カルシウム法(A-1))は5000g/m
2・24h以上であることを特徴とする透湿性ポリウレタン樹脂。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の透湿性ポリウレタン樹脂であって、フィルムとしたときに、目視にてフィルム上に結晶物が無いことを特徴とする透湿性ポリウレタン樹脂。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の透湿性ポリウレタン樹脂であって、試験片における中心部から5cmの部分の対角線長さを基準に、その水中浸漬後の増加率を表す水膨潤率が20%以下であることを特徴とする透湿性ポリウレタン樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂フィルムを成型した際に、高透湿性を保持したまま、フィルム上に結晶物が無く、水膨潤率の低い前記成型物の提供を可能にできる、熱可塑性ポリウレタン樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透湿素材に用いる透湿性材料としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を延伸して多孔質化させたシートやポリウレタン樹脂の湿式製膜フィルムのような微多孔質シートを利用するもの(例えば、特許文献1参照)等が知られている。しかしながら、従来の多孔質のシートでは、汗、汚れ等で目詰まりして透湿性が低下するという問題がある。
【0003】
このような問題点を解決するものとして、親水性を有する透湿性ポリウレタン樹脂をコーティングした無孔質シートが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。これらの透湿性ポリウレタン樹脂には、親水性セグメントであるポリオキシエチレングリコールや、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体等のポリオール成分が導入されている。これらの無孔質シートは、ポリウレタン樹脂膜の厚みを薄くすることによって、透湿性は格段に向上する。しかしながら、薄くすることにより樹脂強度が低くなるため、シート強度が低下する。ここで、シート強度を上げるために樹脂膜の厚みを増すと透湿性は低下するという問題があった。
【0004】
また、透湿性ポリウレタン樹脂に用いられるポリオールは、主に親水性セグメントであるポリオキシエチレングリコールを使用している。高透湿性ポリウレタン樹脂を得るにはポリオキシエチレングリコールの濃度を高めることが考えられるが、これらを用いたポリウレタン樹脂は、フィルム上に凝集物等が生じて、製品の外観が劣るといった問題があった。
【0005】
ここで、熱可塑性樹脂の溶融成形時における凝集物の発生の抑制の問題に関しては、複数の種類のポリマーにおいて言及されており検討がされている。例えば、特許文献3では、エチレン-ビニルアルコール共重合体において検討されており、特許文献4ではポリオレフィン系樹脂について検討され、特許文献5ではメタクリル系樹脂について検討されている。また、特許文献6では、テトラヒドロフラン-ネオペンチルグリコール共重合体を使用した例が検討されている。しかしながら、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いた、有効且つ実用的なフィルム等で、凝集物の発生が抑制された透湿性のフィルム等の提供を可能にした技術や手段については未だ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭56-26076号公報
【文献】特開昭64-62320号公報
【文献】特開2011-202052号公報
【文献】特開2007-063570号公報
【文献】特開2000-178401号公報
【文献】特開2018-2882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ポリエチレングリコールの濃度を高くしても、ポリウレタン樹脂フィルムを成型した際に、フィルム上に結晶物が無く、かつ高透湿度を保持したまま、水膨潤率の低く柔軟性のある前記成型物を提供することにある。なお、結晶物とは、フィルムやシート等の成形物において見られる凝集物等による外観不良を指す。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を包含する。
【0009】
[1]アルキル側鎖を有するポリオールと、イソシアネート化合物との反応物である透湿性ポリウレタン樹脂であって、
前記ポリオールが、ポリ(アルキル)アルキレンエーテルグリコールの構成単位と、ポリエチレングリコールの構成単位を含むことを特徴とする透湿性ポリウレタン樹脂。
【0010】
[2]前記ポリオールのポリ(アルキル)アルキレンエーテルグリコールの構成単位が下記式(1)であり、
前記ポリオールのポリエチレングリコールの構成単位が下記式(2)であることを特徴とする[1]の透湿性ポリウレタン樹脂。
〔式(1)中、
R
1は、炭素原子数が1~5であるアルキレン基であり、
R
2は、水素原子または炭素原子数が1~4であるアルキル基であり、かつ1つ以上のアルキル基を有し、
nは、5~200の整数である。〕
〔式(2)中、mは5~180の整数である。〕
【0011】
[3]前記ポリオールの数平均分子量が200~8000である[1]または[2]に記載の透湿性ポリウレタン樹脂。
【0012】
[4]前記式(1)の構成単位を含むグリコールと、前記式(2)の構成単位を含むグリコールの配合比が50~20:50~80である[1]~[3]いずれかに記載の透湿性ポリウレタン樹脂。
【0013】
[5]アルキル側鎖を有するポリオールの含有量が10~80wt%であることを特徴とする[1]~[4]いずれかに記載の透湿性ポリウレタン樹脂。
【0014】
[6][1]~[5]いずれかに記載の透湿性ポリウレタン樹脂であって、その厚みが25~35μmであるときの透湿度(JIS L-1099:2012塩化カルシウム法(A-1))は5000g/m2・24h以上であることを特徴とする透湿性ポリウレタン樹脂。
【0015】
[7][1]~[6]いずれかに記載の透湿性ポリウレタン樹脂であって、目視にてフィルム上に結晶物が無く、かつ高透湿度であることを特徴とする透湿性ポリウレタン樹脂。
【0016】
[8][1]~[7]いずれかに記載の透湿性ポリウレタン樹脂であって、水膨潤率が20%以下であることを特徴とする透湿性ポリウレタン樹脂。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリウレタン樹脂製のフィルムやシート等の成形物において、高い透湿性が維持されたまま、その構成成分であるポリウレタン樹脂の凝集が抑制される。また、本発明によれば、上記した有用な熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いることで、高透湿性を維持し、結晶物のない、フィルムやシート等の透湿性樹脂成形物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に好ましい実施形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
<アルキル側鎖を有するポリオール>
透湿性ポリウレタン樹脂用の原料であるアルキル側鎖を有するポリオールは、アルキル基を側鎖に有するポリオールであれば特に限定されないが、分子中に、ポリ(アルキル)アルキレンエーテルグリコールの構成単位(以下、構成単位Aともいう)と、ポリエチレングリコールの構成単位(以下、構成単位Bともいう)と、を含むポリオールが好ましい。従来の透湿性ポリオールと比べて、アルキル基を側鎖に有するため、その側鎖が立体障害となりポリエチレングリコール同士の結晶化を阻害するため、凝集物の生成を抑制することができる。
【0020】
(構成単位)
アルキル側鎖を有するポリオールの構成単位は、下記式(1)で表される構成単位Aを有することが好ましい。
【0021】
【化1】
〔式(1)中、
R
1は、炭素原子数が1~5であるアルキレン基であり、
R
2は、水素原子または炭素原子数が1~4であるアルキル基であり、かつ1つ以上のアルキル基を有し、
nは、5~200の整数である。〕
【0022】
式(1)中のR1は、好ましくは炭素原子数が1~4のアルキレン基である。炭素原子数が4の場合、フィルムの柔軟性、伸縮性の観点で特に好ましい。炭素原子数が5より大きい場合、疎水性が高くなるため透湿性が十分に発現しない。アルキレン基は、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基が挙げられる。
【0023】
式(1)中のR2のアルキル基における好ましい炭素原子数は、1~2である。炭素原子数が1より小さい場合、ポリエチレングリコールの結晶化の阻害が起こらなくなり、フィルム上に結晶物が生成する。炭素原子数が4より大きい場合、樹脂中の立体障害が大きくなりすぎるため、樹脂が柔らかくなり破断強度等の一般物性の低下を起こすことが考えられる。アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。また、アルキル基は、ポリエチレングリコールの結晶化の阻害性の観点から1~3つ有することが好ましい。特に1~2つ有することが好ましい。
【0024】
式(1)中のnは、好ましくは10~50の整数である。nが5より小さい場合、フィルムの柔軟性、伸縮性が十分に発現しない。また、nが200より大きい場合、イソシアネート成分との相溶性が悪化し、破断強度等の一般物性が低下する。
【0025】
ポリエチレングリコールの構成単位は、下記式(2)で表される構成単位Bを有することが好ましい。
【0026】
【化2】
〔式(2)中、mは5~180の整数である。〕
【0027】
式(2)中のmは、好ましくは10~100の整数である。mが5より小さい場合、透湿性が十分に発現しない。また、mが180より大きい場合、イソシアネート成分との相溶性が悪化し、破断強度等の一般物性が低下する。
【0028】
さらに、フィルムの柔軟性、伸縮性の観点から下記式(3)で表されるポリテトラメチレンエーテルグリコールの構成単位Cを有することが好ましい。
【0029】
【化3】
〔式(3)中のpは、5~100の整数であり、好ましくは5~70の整数である。〕
【0030】
式(3)中のpが5より小さい場合、フィルムの柔軟性、伸縮性が十分に発現しない。また、pが100より大きい場合、イソシアネート成分との相溶性が悪化し、破断強度等の一般物性が低下する。
【0031】
特に、下記式(4)で表される構成単位Dを有することが好ましい。
【0032】
【化4】
〔式(4)中のR
1、R
2、n及びmは、式(1)および式(2)と同様である。〕
【0033】
(好ましい態様)
アルキル側鎖を有するポリオールの平均分子量が200~8000であり、より好ましくは600~4000である。平均分子量が200より小さい場合、ポリオールのソフトセグメント鎖が短すぎるため、柔軟性のあるフィルムが得られない。平均分子量が8000より大きい場合、イソシアネート成分との相溶性が悪化し、破断強度等の一般物性が低下する。
【0034】
(合成方法)
アルキル側鎖を有するポリオールは、2種以上のグリコールを共重合化することにより得られる。2種以上のグリコールは、合わせて構成単位A、BおよびCを少なくとも1つ以上有するものを用いる。特に、構成単位AおよびCを含むグリコール(以下、グリコールAともいう)と、構成単位Bを含むグリコール(以下、グリコールBともいう)とを共重合させたものが好ましい。共重合化の方法については、一般的な手法が使用できる。例えば、炭酸ジエチルを使用する方法、トリオキサンと酸触媒を使用する方法などが上げられる。
【0035】
〔グリコールA〕
グリコールAとしては、構成単位AおよびCを含むグリコールであれば特に限定されないが、たとえば、ポリ(テトラメチレンエーテル/3―メチルテトラメチレンエーテル)グリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル/2―メチルテトラメチレンエーテル)グリコール、ポリプロピレングリコール(PPG)などが挙げられる。
【0036】
〔グリコールB〕
グリコールBは、構成単位Bを含むグリコールであれば特に限定されないが、特にポリエチレングリコールが好ましい。ポリエチレングリコールとしては、種々の数平均分子量のものが市販されており、特に限定されないが、その数平均分子量が200~8000程度のもの、より好ましくは300~4000程度のものを用いることが好ましい。先に述べたように、高透湿性ポリウレタン樹脂は、その形成成分であるポリオールとしてポリエチレングリコールを用いているため、得られる樹脂成形物は、高い透湿性を示すものになる。ポリエチレングリコールは、数平均分子量の異なるものが種々市販されており、その中から所望の数平均分子量のものを選択して使用すればよい。本発明者らの検討によれば、市販されている数平均分子量2000程度のポリエチレングリコールは、高分子量で親水性のため、透湿の効果があり、また、ハンドリングが容易であるため、本発明で用いるポリエチレングリコールとして最適である。
【0037】
〔反応条件〕
グリコールAとグリコールBとの配合比が50~20:50~80であり、より好ましくは50~30:50~70である。グリコールAについて、20wt%以下の場合、結晶化阻害効果が低くなり、フィルム上に結晶物が生成し、50wt%以上の場合、十分な透湿性が得られない。グリコールBについて、50wt%以下の場合、透湿成分が少なくなるため、十分な透湿性が得られず、80wt%以上の場合、十分な強度のウレタンが得られない。
【0038】
<透湿性ポリウレタン樹脂>
アルキル側鎖を有するポリオールとポリイソシアネート化合物との硬化反応することにより、透湿性ポリウレタン樹脂が得られる。硬化反応系において、アルキル側鎖を有するポリオールの含有量は透湿性の観点から10~80wt%であり、好ましくは40~80wt%である。グリコールAの含有量が10wt%以下の場合、樹脂中の透湿性成分量が小ないため、透湿性が十分に発現しない。ポリオール含有量が80wt%以上の場合、イソシアネートのハードセグメント成分が少なすぎるため、樹脂が柔らかくなり、十分なウレタン物性が得られない。
【0039】
(ポリウレタン樹脂の製造方法)
透湿性ポリウレタン樹脂の製造方法は特に限定されず、公知の方法等で製造できる。例えば、ポリオール、鎖延長剤、有機金属触媒中にポリイソシアネート化合物を一括して仕込んで反応させてもよいし、ポリオールとポリイソシアネート成分とを反応させてイソシアネート基末端のプレポリマーを得た後、鎖伸長剤を添加して伸長反応を行ってもよい。有機金属触媒の代わりに第3級アミン触媒を用いてもよい。
【0040】
(ポリイソシアネート化合物)
ポリイソシアネート化合物としては、イソシアネート基を2以上有する、芳香族系、脂環族系、脂肪族系等のポリイソシアネート等が挙げられる。
【0041】
具体例としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(PMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のポリイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、入手および水酸基との反応制御が容易であるという観点から、MDIが特に好ましい。
【0042】
(鎖延長剤)
鎖延長剤については、特に限定するものではないが、市販のジオールを適宜に選択して使用することができる。具体的には、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキノンビス(b-ヒドロキシエチルエーテル)等の低分子量二価アルコールが挙げられる。本発明者らの検討によれば、上記に挙げた中でも特に1,4-ブタンジオールは有用である。
【0043】
(有機金属触媒)
有機金属触媒としては、特に限定するものではないが、具体的には、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジクロライド、ジオクチル錫ジラウレート等の有機スズ触媒や、オクチル酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト、オクチル酸ビスマス、ナフテン酸ビスマス等が例示される。これらのうち、好ましい化合物としては、有機スズ触媒であり、更に好ましくはジブチル錫ジラウレートである。
【0044】
(第3級アミン触媒)
第3級アミン触媒としては、特に限定するものではないが、具体的には、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N-メチルモルホリン、N,N-ジメチルエタノールアミン等が例示される。
【0045】
有機金属触媒や第3級アミン触媒を使用する場合は、その使用量は、ポリオールを100.0重量部としたとき、通常0.0001~5.0重量部の範囲であり、更に好ましくは0.001~3.0重量部の範囲である。
【0046】
(溶剤)
透湿性ポリウレタン樹脂は、有機溶剤により溶解可能である。具体例としては、アミド系溶剤(DMF、N,N-ジメチルアセトアミド及びN-メチルピロリドン等)、スルホキシド系溶剤(ジメチルスルホキシド等)、エーテル系溶剤(THF等)などが挙げられる。濃度によっては溶解温度を高くする場合があることから、DMF、N,N-ジメチルアセトアミドがより好ましい。
【0047】
透湿性ポリウレタン樹脂は、有機溶剤により溶解可能であるため、様々な透湿性ポリウレタン樹脂製品の加工は簡単にできる。例えば、透湿性ポリウレタン樹脂シート、フィルム、糸や布への塗布、積層、コーティング等がある。
【0048】
<熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物>
熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、上記で説明した高透湿性ポリウレタン樹脂を含有してなることを特徴とする。本発明の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物は、その他に、例えば、酸化防止剤、加水分解防止剤、光安定剤等の各種添加物を含んでもよい。
【0049】
(酸化防止剤)
好適に用いられる酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、硫黄系、リン系等の酸化防止剤が挙げられる。特にフェノール系の酸化防止剤が好適に用いられる。
【0050】
(加水分解防止剤)
好適に用いられる加水分解防止剤としては、例えば、カルボジイミド、エポキシ化合物等が挙げられ、特にカルボジイミドが好適に用いられる。
【0051】
(光安定剤)
好適に用いられる光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の光安定剤が挙げられ、特にヒンダードアミン系の光安定剤が好適に用いられる。
【0052】
(更なる成分)
更に、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物には、必要に応じて滑剤を添加することができる。特に、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物と加工機の摩擦が大きい場合、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物の粒子同士の摩擦が大きく流動性が得られない場合、また、熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物のみでは十分な離型性が得られない場合等に、適宜な滑剤を添加するとよい。具体的な滑剤の例としては、エステル系、金属石鹸系、脂肪族アミド系、脂肪酸系、高級アルコール系、炭化水素系等の滑剤が挙げられる。
【0053】
(好ましい形態)
本発明は、上記した構成の熱可塑性ポリウレタン樹脂組成物からなり、且つ、フィルム状又はシート状であることを特徴とする熱可塑性ポリウレタン樹脂製の透湿性樹脂成形物を提供する。
【0054】
(成型方法)
透湿性樹脂成形物の製造方法も特に限定されず、従来用いられている各種製造方法により製造することができる。例えば、フィルム状成形物及びシート状成形物を製造する際には、Tダイ法、インフレーション法、カレンダー法等が挙げられる。
【0055】
以下、本発明に使用した測定方法について、説明する。
【0056】
[ポリオールの数平均分子量(Mn)の測定方法]
ポリオールの数平均分子量(Mn)はJIS K 1557-1OH価フタル化法により算出した。
【0057】
透湿性ポリウレタン樹脂の数平均分子量(Mn)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記)を用いて例えば以下の条件で測定することができる。
装置ポンプ:Shodex DS-4(昭和電工株式会社製)
カラム :Shodex GPC KD-806M×2+KD-802(同上)
検出器 :Shodex RI-101(同上)
溶離液 :N,N-ジメチルホルムアミド(臭化カリウム(10mmol/L)入り)
標準物質 :ポリエチレングリコール
注入量 :100μL
流速 :1.0mL/min
測定温度 :50℃
前処理80℃で加温処理してから室温で一昼夜置いて溶解させた。次いでメンブレンフィルター(0.2μm)で濾過した。
【0058】
[透湿度測定方法]
透湿測定用フィルムは、透湿性ポリウレタン樹脂を有機溶媒(N,N-ジメチルアセトアミド)に溶解し、離型処理したガラス板上に塗布し、80~110℃で減圧乾燥し、ガラス板からフィルムをはがすことにより作製した。前記フィルムの厚みは25~35μmであった。
【0059】
透湿測定用フィルムをJIS L 1099:2012塩化カルシウム法(A-1)に基づいて、透湿度を測定した。
【0060】
[水膨潤率測定方法]
透湿性ポリウレタン樹脂の水膨潤率は、およそ12×12cmの透湿測定用フィルムに対角線を引き、中心部から5cmの部分に印を4ヶ所つけ、印間の長さを測った(2点)。そのフィルムを室温の水に浸漬した。5分後そのフィルムを取り出し、印間の長さを再度測定した。水に浸漬前の印間の長さと水に浸漬後の印間の長さの割合から水膨潤率を算出した。
【0061】
[フィルム上の結晶物の有無判定方法]
透湿測定用フィルム上の結晶物の有無については、目視にてその有無を確認した。
【実施例】
【0062】
以下、実施例をもって本発明を説明するが、これらは本発明をなんら制限するものではない。実施例において、「部」は全て「質量部」を表す。
【0063】
<アルキル側鎖を有するポリオールの合成>
[合成例1]
ポリエチレングリコール2000(日油株式会社製)80部(0.04mol) 、ポリ(テトラメチレンエーテル/3―メチルテトラメチレンエーテル)グリコール1000(保土谷化学工業株式会社製)10部(0.01mol) を仕込み、100℃、5mmHgで1時間減圧した。そこへトリオキサン(キシダ化学株式会社製)5.4部(0.06mol) 、THF(キシダ化学株式会社製)100部(1.39mol) 、酸性イオン交換樹脂アンバーリスト15wet(オルガノ社製)10mLを仕込み、60~70℃で5時間撹拌した。40℃まで冷却後、濾過でイオン交換樹脂を除去した。アルカリ性イオン交換樹脂IRA-96S(オルガノ社製)50mLを添加し1時間撹拌した。濾過でイオン交換樹脂を除去後、濃縮、乾燥し目的物を得た。出発原料に基づき計算した収率は85%であった。
【0064】
前記の高分子ポリオールの数平均分子量(Mn)の測定方法により、測定し得た数平均分子量(Mn)は2800であった。
【0065】
[合成例2]
合成例1のポリエチレングリコール2000(日油株式会社製)80部(0.04mol)を、ポリエチレングリコール600(日油株式会社製)24部(0.04mol) とした以外は合成例1と同条件、同操作によって重合反応を行った。出発原料に基づき計算した収率は80%であった。
【0066】
前記の高分子ポリオールの数平均分子量(Mn)の測定方法により、測定し得た数平均分子量(Mn)は1500であった。
【0067】
[合成例3]
合成例1のポリ(テトラメチレンエーテル/3―メチルテトラメチレンエーテル)グリコール1000(保土谷化学工業株式会社製)10部(0.01mol) をポリ(テトラメチレンエーテル/2―メチルテトラメチレンエーテル)グリコール18部(0.01mol)とした以外は合成例1と同条件、同操作によって重合反応を行った。出発原料に基づき計算した収率は85%であった。
【0068】
前記の高分子ポリオールの数平均分子量(Mn)の測定方法により、測定し得た数平均分子量(Mn)は4000であった。
【0069】
[合成例4]
合成例1のポリ(テトラメチレンエーテル/3―メチルテトラメチレンエーテル)グリコール1000(保土谷化学工業株式会社製)10部(0.01mol)をポリ(テトラメチレンエーテル/3―メチルテトラメチレンエーテル)グリコール2000(保土谷化学工業株式会社製)20部(0.01mol)とした以外は合成例1と同条件、同操作によって重合反応を行った。出発原料に基づき計算した収率は78%であった。
【0070】
前記の高分子ポリオールの数平均分子量(Mn)の測定方法により、測定し得た数平均分子量(Mn)は4500であった。
【0071】
<透湿性ポリウレタン樹脂の作製>
[実施例1]
合成例1で得たアルキル側鎖を有するポリオール15.0部(0.01mol)、1,4-ブタンジオール(キシダ化学株式会社製)1.2部(0.01mol)を仕込み80℃に加温した。そこにMDI(日本ポリウレタン株式会社製)4.9部(0.02mol、NCO6.0%)添加し、1800rpmで4分間撹拌した。硝子板に流し込み、110℃で15時間熟成し透湿性ポリウレタン樹脂シートを作製した。前記した透湿度及び硬度の測定方法により、測定した透湿度は表1に示す。
【0072】
[実施例2]
合成例2で得たアルキル側鎖を有するポリオール15.0部(0.01mol)、1,4-ブタンジオール(キシダ化学株式会社製)1.3部(0.01mol)を仕込み80℃に加温した。そこにMDI(日本ポリウレタン株式会社製)6.3部(0.03mol、NCO6.0%)添加し、1800rpmで4分間撹拌した。硝子板に流し込み、110℃で15時間熟成し透湿性ポリウレタン樹脂シートを作製した。前記した透湿度及び硬度の測定方法により、測定した透湿度は表1に示す。
【0073】
[実施例3]
合成例3で得たアルキル側鎖を有するポリオール15.0部(0.004mol)、1,4-ブタンジオール(キシダ化学株式会社製)1.2部(0.01mol)を仕込み80℃に加温した。そこにMDI(日本ポリウレタン株式会社製)4.4部(0.02mol、NCO6.0%)添加し、1800rpmで4分間撹拌した。硝子板に流し込み、110℃で15時間熟成し透湿性ポリウレタン樹脂シートを作製した。前記した透湿度及び硬度の測定方法により、測定した透湿度は表1に示す。
【0074】
[実施例4]
合成例4で得たアルキル側鎖を有するポリオール15.0部(0.003mol)、1,4-ブタンジオール(キシダ化学株式会社製)1.2部(0.01mol)、を仕込み80℃に加温した。そこにMDI(日本ポリウレタン株式会社製)4.3部(0.02mol、NCO6.0%)添加し、1800rpmで4分間撹拌した。硝子板に流し込み、110℃で15時間熟成し透湿性ポリウレタン樹脂シートを作製した。前記した透湿度及び硬度の測定方法により、測定した透湿度は表1に示す。
【0075】
<ポリオールの合成>
[合成例5]
合成例1のポリ(テトラメチレンエーテル/3―メチルテトラメチレンエーテル)グリコール1000(保土谷化学工業株式会社製)10部(0.01mol) をポリテトラメチレンエーテルグリコール2000(保土谷化学工業株式会社製)20部(0.01mol)とした以外は実施例1と同条件、同操作によって重合反応を行った。出発原料に基づき計算した収率は85%であった。
【0076】
前記の高分子ポリオールの数平均分子量(Mn)の測定方法により、測定し得た数平均分子量(Mn)は3800であった。
【0077】
<透湿性ポリウレタン樹脂の作製>
[比較例1]
合成例5で得たポリオール15.0部(0.004mol)、1,4-ブタンジオール(キシダ化学株式会社製)1.2部(0.01mol)、を仕込み80℃に加温した。そこにMDI(日本ポリウレタン株式会社製)4.5部(0.02mol、NCO6.0%)添加し、1800rpmで4分間撹拌した。硝子板に流し込み、110℃で15時間熟成し透湿性ポリウレタン樹脂シートを作製した。前記した透湿度及び硬度の測定方法により、測定した透湿度は表1に示す。
【0078】
[比較例2]
ポリエチレングリコール2000(日油株式会社製)15.0部(0.01mol)、1,4-ブタンジオール1.3部(0.01mol、キシダ化学株式会社製)を仕込み80℃に加温した。そこにMDI(日本ポリウレタン株式会社製)5.5部(0.02mol、NCO6.0%)添加し、1800rpmで4分間撹拌した。硝子板に流し込み、110℃で15時間熟成し透湿性ポリウレタン樹脂シートを作製した。前記した透湿度及び硬度の測定方法により、測定した透湿度は表1に示す。
【0079】
【0080】
表1に示すように、本発明の透湿性ポリウレタン樹脂は比較例1、2に比べ、高透湿度、低水膨潤率を維持しつつ、フィルム上の結晶物の発生を抑制する効果がある事が明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の透湿性ポリウレタン樹脂を用いた透湿素材は、フィッシングや登山等の際のアウトドアウェア、スキー関連ウェア、ウィンドブレーカー、アスレチックウェア、ゴルフウェア、レインウェア、カジュアルコート、屋外作業着、手袋、靴及びテント等の登山用具等に好適に用いることができる。