(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】深部体温推定装置、深部体温推定方法、深部体温推定プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/01 20060101AFI20240819BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20240819BHJP
A61B 5/352 20210101ALI20240819BHJP
G01K 13/20 20210101ALI20240819BHJP
【FI】
A61B5/01 250
A61B5/0245 100D
A61B5/0245 B
A61B5/352 100
G01K13/20 361C
(21)【出願番号】P 2021545588
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2020034305
(87)【国際公開番号】W WO2021049573
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2019164711
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593021286
【氏名又は名称】ミツフジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 知絵
(72)【発明者】
【氏名】坂本 寛人
(72)【発明者】
【氏名】松本 健志
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0180027(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0239038(US,A1)
【文献】国際公開第2017/213011(WO,A1)
【文献】特開2016-150084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/01
A61B 5/0245
A61B 5/352
G01K 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
深部体温を推定する対象となる推定対象被験者の第1時刻の深部体温を取得する深部体温取得部と、
前記推定対象被験者の第1時刻を含む期間の拍動を取得する拍動取得部と、
初期時刻の深部体温と前記初期時刻から所定時刻までの拍動とから前記所定時刻の深部体温を推定する深部体温推定モデルを用いて、前記深部体温取得部が取得した前記第1時刻の深部体温及び前記拍動取得部が取得した前記第1時刻を含む期間の拍動に基づいて、前記推定対象被験者の深部体温を推定する推定部と、を備え
、
前記深部体温推定モデルは、所定時間間隔に分割された基準期間毎に深部体温の変化量を推定するモデルであって、複数のモデル構築用被験者の拍動の間隔である拍動間隔のポアンカレプロットの解析から得られる指標及びn番目の基準期間開始時の前記モデル構築用被験者の推定された深部体温を説明変数とし、前記モデル構築用被験者のn番目の基準期間における深部体温の変化量を目的変数とする回帰分析により構築されるモデルである、
深部体温推定装置。
【請求項2】
前記指標は、心拍変動を反映する指標である、
請求項
1に記載の深部体温推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記第1時刻の深部体温に、前記第1時刻以降の基準期間毎に推定された深部体温の変化量を加算することにより、前記推定対象被験者の前記第1時刻以降の深部体温を推定する、
請求項
1または2に記載の深部体温推定装置。
【請求項4】
前記推定対象被験者の拍動を測定する電極を含む拍動計を備え、
前記拍動取得部は、前記拍動計で測定された、前記推定対象被験者の前記拍動を取得する、
請求項
1から3のいずれか1項に記載の深部体温推定装置。
【請求項5】
コンピュータが、
深部体温を推定する対象となる推定対象被験者の第1時刻の深部体温を取得し、
前記推定対象被験者の第1時刻を含む期間の拍動を取得し、
初期時刻の深部体温と前記初期時刻から所定時刻までの拍動とから前記所定時刻の深部体温を推定する深部体温推定モデルを用いて、前記第1時刻の深部体温及び前記第1時刻を含む期間の拍動に基づいて、前記推定対象被験者の深部体温を推定する、
ことを実行する
深部体温推定方法であって、
前記深部体温推定モデルは、所定時間間隔に分割された基準期間毎に深部体温の変化量を推定するモデルであって、複数のモデル構築用被験者の拍動の間隔である拍動間隔のポアンカレプロットの解析から得られる指標及びn番目の基準期間開始時の前記モデル構築用被験者の推定された深部体温を説明変数とし、前記モデル構築用被験者のn番目の基準期間における深部体温の変化量を目的変数とする回帰分析により構築されるモデルである、
深部体温推定方法。
【請求項6】
コンピュータが、
深部体温を推定する対象となる推定対象被験者の第1時刻の深部体温を取得し、
前記推定対象被験者の第1時刻を含む期間の拍動を取得し、
初期時刻の深部体温と前記初期時刻から所定時刻までの拍動とから前記所定時刻の深部体温を推定する深部体温推定モデルを用いて、前記第1時刻の深部体温及び前記第1時刻を含む期間の拍動に基づいて、前記推定対象被験者の深部体温を推定する、
ことを実行するための
深部体温推定プログラムであって、
前記深部体温推定モデルは、所定時間間隔に分割された基準期間毎に深部体温の変化量を推定するモデルであって、複数のモデル構築用被験者の拍動の間隔である拍動間隔のポアンカレプロットの解析から得られる指標及びn番目の基準期間開始時の前記モデル構築用被験者の推定された深部体温を説明変数とし、前記モデル構築用被験者のn番目の基準期間における深部体温の変化量を目的変数とする回帰分析により構築されるモデルである、
深部体温推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深部体温推定装置、深部体温推定方法、深部体温推定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高温化傾向が顕著であり、熱中症の危険が増大している。そこで、熱中症対策のための技術が種々開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。特許文献1に記載された技術は、暑熱環境における体温の上昇を防止することに加え、作業者の体調を総合的に管理することを目的とした体温モニタリング機能を有する空調服に関するものである。
【0003】
この体温モニタリング機能を有する空調服は、作業者が装着する着衣部と、着衣部と作業者の身体との間に送風を行う送風装置と、着衣部を装着した作業者の体温を測定する体温測定装置と、体温測定装置による体温の測定結果に基づいて、送風装置の駆動を制御する送風制御装置とを備えている。送風制御装置は、体温の測定結果が所定温度を下回った場合に、送風装置による送風を停止させ、あるいは送風量を低下させるとともに、体温の測定結果が所定温度を上回った場合に、送風装置による送風量を増加させる。さらに、作業者の心拍数を測定する心拍数測定装置を備えている。
【0004】
特許文献2に記載された技術は、作業者の深部体温に異常が生じる前段階で、その作業者の熱中症発症リスクを検出するための技術である。この技術は、作業者の作業負荷情報を入力する作業負荷情報入力手段と、作業者の呼吸をリアルタイムで検出する呼吸センサと、作業者の心拍をリアルタイムで検出する心電計と、呼吸センサを用いて得られる呼吸曲線情報と、心電計を用いて得られる心拍情報を、同期を取りながら記録する情報記録手段と、情報記録手段に記録された呼吸曲線情報と心拍情報から、呼吸性洞性不整脈(RSA)を導出するRSA演算手段と、RSA演算手段により算出されたRSA算出値と、作業負荷情報を表示する表示手段を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-166075号公報
【文献】特開2017-27123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱中症は、深部体温と関係があるとされている。よって、作業者の熱中症等の危険性を判断するためには、作業者の深部体温を測定することが望ましい。しかし、何らかの作業中に作業者の深部体温を測定することは難しい。そこで、深部体温よりも容易に測定することができる生理指標で、深部体温を推定することが求められている。
【0007】
本発明は、生理指標に基づいて、深部体温を推定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
即ち、第1の態様は、
深部体温を推定する対象となる推定対象被験者の第1時刻の深部体温を取得する深部体温取得部と、
前記推定対象被験者の第1時刻を含む期間の拍動を取得する拍動取得部と、
初期時刻の深部体温と前記初期時刻から所定時刻までの拍動とから前記所定時刻の深部体温を推定する深部体温推定モデルを用いて、前記深部体温取得部が取得した前記第1時刻の深部体温及び前記拍動取得部が取得した前記第1時刻を含む期間の拍動に基づいて、前記推定対象被験者の深部体温を推定する推定部と、を備える、
深部体温推定装置とする。
【0009】
開示の態様は、プログラムが情報処理装置によって実行されることによって実現されてもよい。即ち、開示の構成は、上記した態様における各手段が実行する処理を、情報処理装置に対して実行させるためのプログラム、或いは当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体として特定することができる。また、開示の構成は、上記した各手段が実行する処理を情報処理装置が実行する方法をもって特定されてもよい。開示の構成は、上記した各手段が実行する処理を行う情報処理装置を含むシステムとして特定されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生理指標に基づいて、深部体温を推定する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、深部体温推定モデル構築装置の機能ブロックの例を示す図である。
【
図2】
図2は、深部体温推定装置の機能ブロックの例を示す図である。
【
図3】
図3は、情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、深部体温推定モデル構築装置における深部体温推定モデルの構築の動作フローの例を示す図である。
【
図5】
図5は、RRIのポアンカレプロットの例である。
【
図6】
図6は、深部体温の推定値TMPと深部体温の変化量ΔTMPとの関係の例を示す図である。
【
図7】
図7は、深部体温推定装置における深部体温推定の動作フローの例を示す図である。
【
図8】
図8は、被験者Aについて、運動負荷試験を行った際の、試験中の実測の深部体温の変化と、心拍情報に基づく推定の深部体温との例を示すグラフである。
【
図9】
図9は、被験者Bについて、運動負荷試験を行った際の、試験中の実測の深部体温の変化と、心拍情報に基づく推定の深部体温との例を示すグラフである。
【
図10】
図10は、被験者Cについて、運動負荷試験を行った際の、試験中の実測の深部体温の変化と、心拍情報に基づく推定の深部体温との例を示すグラフである。
【
図11】
図11は、被験者Dについて、運動負荷試験を行った際の、試験中の実測の深部体温の変化と、心拍情報に基づく推定の深部体温との例を示すグラフである。
【
図12】
図12は、被験者Eについて、運動負荷試験を行った際の、試験中の実測の深部体温の変化と、心拍情報に基づく推定の深部体温との例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、発明の構成は、開示の実施形態の具体的構成に限定されない。発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0013】
〔実施形態〕
図1は、本実施形態の深部体温推定モデル構築装置の機能ブロックの例を示す図である。
図1の深部体温推定モデル構築装置100は、深部体温取得部102、心拍情報取得部104、推定モデル構築部106、格納部108を含む。
【0014】
深部体温推定モデル構築装置100は、複数のモデル構築用被験者の所定の負荷の作業中の深部体温、及び、心拍情報を取得し、深部体温を推定する深部体温推定モデルを構築する。
【0015】
深部体温取得部102は、深部体温を測定する体温計等により測定されたモデル構築用被験者の深部体温を取得する。深部体温は、例えば、直腸温である。
【0016】
心拍情報取得部104は、心拍情報を計測する心電計等により測定された作業中のモデル構築用被験者の心拍情報を取得する。心拍情報は、例えば、心電図データ、心拍データである。心電計は、拍動を測定する拍動計の一例である。
【0017】
推定モデル構築部106は、取得したモデル構築用被験者の初期時刻以降の深部体温、初期時刻以降の心拍情報に基づいて、回帰分析により、深部体温を推定する深部体温推定モデルを構築する。
【0018】
格納部108は、深部体温推定モデル構築装置100で使用される、プログラム、モデル、データ等を格納する。格納部108は、構築された深部体温推定モデル、深部体温、心拍情報等を格納する。
【0019】
図2は、本実施形態の深部体温推定装置の機能ブロックの例を示す図である。
図2の深部体温推定装置200は、初期深部体温取得部202、心拍情報取得部204、推定部206、格納部208を含む。
【0020】
深部体温推定装置200は、深部体温推定の対象となる推定対象被験者の初期時刻の深部体温、作業中の推定対象被験者の心拍情報を取得し、深部体温推定モデル構築装置100で構築された深部体温推定モデルを使用して、当該推定対象被験者の深部体温を推定する。モデル構築用被験者、推定対象被験者を総称して、単に、被験者ともいう。
【0021】
初期深部体温取得部202は、深部体温を測定する体温計等により測定された作業前の推定対象被験者の深部体温を取得する。
【0022】
心拍情報取得部204は、心拍情報を計測する心電計等により測定された作業中の推定対象被験者の心拍情報を取得する。心拍情報は、例えば、心電図データ、心拍データである。心拍情報取得部204は、拍動取得部の一例である。
【0023】
推定部206は、推定対象被験者の第1時刻(任意の時刻)の深部体温と、第1時刻を含む期間の心拍情報に基づいて、深部体温推定モデル構築装置100で構築された深部体温推定モデルを使用して、各基準期間における深部体温の変化量を推定する。
【0024】
格納部208は、深部体温推定装置200で使用される、プログラム、モデル、データ等を格納する。格納部208は、深部体温推定モデル構築装置100で構築された深部体温推定モデル、推定された深部体温の変化量、深部体温、心拍情報等を格納する。
【0025】
ここでは、心拍情報を使用しているが、心拍情報の代わりに他の拍動情報が使用されてもよい。心拍は、心臓の拍動である。心拍は、拍動の一種である。拍動は、内臓の周期的な収縮、弛緩が繰り返された場合に起こる運動である。他の拍動の例として、指尖脈波、耳朶脈波が挙げられる。心拍数は、一定期間における心拍の回数である。脈拍は、動脈の拍動である。拍動間隔は、拍動の1周期の長さである。
【0026】
深部体温推定モデル構築装置100、深部体温推定装置200は、PC(Personal Computer)、ワークステーション(WS、Work Station)スマートフォン、携帯電話、タブレット型端末、カーナビゲーション装置、PDA(Personal Digital Assistant)のような専用または汎用のコンピュータ、あるいは、コンピュータを搭載した電子機器を使用して実現可能である。
【0027】
図3は、情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
図3に示す情報処理装置は、一般的なコンピュータの構成を有している。深部体温推定モデル構築装置100、深部体温推定装置200は、
図3に示すような情報処理装置90によって実現される。
図3の情報処理装置90は、プロセッサ91、メモリ92、記憶部93、入力部94、出力部95、通信制御部96を有する。これらは、互いにバスによって接続される。メモリ92及び記憶部93は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体である。コンピュータのハードウェア構成は、
図3に示される例に限らず、適宜構成要素の省略、置換、追加が行われてもよい。
【0028】
情報処理装置90は、プロセッサ91が記録媒体に記憶されたプログラムをメモリ92の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部等が制御されることによって、所定の目的に合致した機能を実現することができる。
【0029】
プロセッサ91は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)である。
【0030】
メモリ92は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。メモリ92は、主記憶装置とも呼ばれる。
【0031】
記憶部93は、例えば、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)である。また、記憶部93は、リムーバブルメディア、即ち可搬記録媒体を含むことができる。リムーバブルメディアは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、あるいは、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)のようなディスク記録媒体である。記憶部93は、二次記憶装置とも呼ばれる。
【0032】
記憶部93は、各種のプログラム、各種のデータ及び各種のテーブルを読み書き自在に記録媒体に格納する。記憶部93には、オペレーティングシステム(Operating System :OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。記憶部93に格納される情報は、メモリ92に格納されてもよい。また、メモリ92に格納される情報は、記憶部93に格納されてもよい。
【0033】
オペレーティングシステムは、ソフトウェアとハードウェアとの仲介、メモリ空間の管理、ファイル管理、プロセスやタスクの管理等を行うソフトウェアである。オペレーティングシステムは、通信インタフェースを含む。通信インタフェースは、通信制御部96を介して接続される他の外部装置等とデータのやり取りを行うプログラムである。外部装置等には、例えば、他のコンピュータ、外部記憶装置等が含まれる。
【0034】
入力部94は、キーボード、ポインティングデバイス、ワイヤレスリモコン、タッチパネル等を含む。また、入力部94は、カメラのような映像や画像の入力装置や、マイクロフォンのような音声の入力装置を含むことができる。
【0035】
出力部95は、LCD(Liquid Crystal Display)、EL(Electroluminescence)パネル、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、PDP(Plasma Display Panel)等の表示装置、プリンタ等の出力装置を含む。また、出力部95は、スピーカのような音声の出力装置を含むことができる。
【0036】
通信制御部96は、他の装置と接続し、コンピュータ90と他の装置との間の通信を制御する。通信制御部96は、例えば、LAN(Local Area Network)インタフェースボード、無線通信のための無線通信回路、有線通信のための通信回路である。LANインタフェースボードや無線通信回路は、インターネット等のネットワークに接続される。
【0037】
深部体温推定モデル構築装置100を実現するコンピュータは、プロセッサが補助記憶装置に記憶されているプログラムを主記憶装置にロードして実行することによって、深部体温取得部102、心拍情報取得部104、推定モデル構築部106としての機能を実現する。一方、格納部108は、主記憶装置または補助記憶装置の記憶領域に設けられる。
【0038】
深部体温推定装置200を実現するコンピュータは、プロセッサが補助記憶装置に記憶されているプログラムを主記憶装置にロードして実行することによって、初期深部体温取得部202、心拍情報取得部204、推定部206としての機能を実現する。一方、格納部208は、主記憶装置または補助記憶装置の記憶領域に設けられる。
【0039】
〈深部体温推定モデルの構築〉
図4は、深部体温推定モデル構築装置における深部体温推定モデルの構築の動作フローの例を示す図である。ここでは、深部体温推定モデル構築装置100は、複数のモデル構築用被験者が所定期間に所定の運動負荷試験を行った際の、各モデル構築用被験者の所定期間の開始時刻から終了時刻までの深部体温、開始時刻から終了時刻までの心拍情報を取得し、被験者の深部体温を推定する深部体温推定モデルを構築する。深部体温推定モデルは、例えば、任意の第1時刻の深部体温と、当該第1時刻を含む期間の心拍情報とから、当該第1時刻から所定の時間間隔(時間Pとする)に分割された基準期間毎に深部体温を推定するモデルである。より具体的には、深部体温推定モデルは、例えば、時刻t=nPの深部体温(推定された深部体温でもよい)と、時刻t=(n-1)Pから時刻t=(n+1)Pまでの心拍情報とから、時刻t=nPから時刻t=(n+1)Pまでの深部体温の変化量を推定するモデルである(nは0以上の整数)。各モデル構築用被験者は、運動負荷試験の際、所定期間の開始時刻から終了時刻まで、所定の環境下(所定気温、所定湿度等)で、所定の負荷の作業を行う。運動負荷試験は、例えば、気温35℃、湿度50%に調整した人工気象室で、安静6分、運動負荷18分、休憩18分、運動負荷24分、休憩18分の手順で遂行される。運動負荷は、エルゴメータで与えられ、80kW、または、事前に計測した各モデル構築用被験者の最大酸素摂取量の60%とする。各モデル構築用被験者は、当該運動負荷試験中、体温計等により深部体温及び心電計等により心拍情報を並行して連続的に測定される。複数のモデル構築用被験者の運動負荷試験は、同時に並行して行われても、別々に行われてもよい。
【0040】
S101において、深部体温推定モデル構築装置100の深部体温取得部102は、深部体温を測定する体温計等により測定されたモデル構築用被験者の深部体温を取得する。深部体温取得部102は、深部体温推定モデル構築装置100に、直接または、ネットワーク等を介して接続される体温計等から、複数のモデル構築用被験者の運動負荷試験の開始時刻から終了時刻までの深部体温を取得する。また、深部体温取得部102は、モデル構築用被験者や他の管理者等に、キーボードなどの入力手段等により深部体温を入力させることにより、運動負荷試験の開始時刻から終了時刻までの深部体温を取得してもよい。深部体温取得部102は、取得した深部体温を格納部108に格納する。
【0041】
S102において、心拍情報取得部104は、心拍情報を計測する心電計等により測定された複数のモデル構築用被験者の運動負荷試験の開始時刻から終了時刻までの心拍情報を取得する。心電計は、例えば、モデル構築用被験者の皮膚に貼付する電極と、当該電極で測定した心拍情報を格納及び送信するための送信部とを含む機器である。また、心電計は、ウェア(Tシャツなど)に設けた電極と、当該電極で測定した心電図データを送信するための送信部とを含むウェアラブル端末でもよい。また、その他に、心電計は、心拍情報を取得する腕時計やリストバンドのように手首に装着し測定するウェアラブル端末あるいは指先や耳に装着するクリップ型ウェアラブル端末でもよい。心拍情報取得部104は、深部体温推定モデル構築装置100に、直接、または、ネットワーク等を介して接続される心電計等から、モデル構築用被験者の運動負荷試験の開始時刻から終了時刻までの心拍情報を取得する。また、心拍情報取得部104は、心電計等から心拍情報を取得した他の情報処理装置等から、ネットワーク等を介して、心拍情報を取得してもよい。心拍情報取得部104は、初期時刻以降の心拍情報を取得する。心拍情報取得部104は、取得したそれぞれのモデル構築用被験者の心拍情報を格納部108に格納する。
【0042】
S101とS102とは、処理の順序が入れ替わってもよい。また、S101とS102とは、処理が並行して行われてもよい。深部体温取得部102及び心拍情報取得部104は、モデル構築用被験者の運動負荷試験中に、深部体温の測定、心拍情報の測定と並行して、それぞれ、深部体温及び心拍情報を取得してもよい。深部体温、心拍情報は、それぞれ、測定された時刻を示す時刻情報とともに格納部108に格納される。
【0043】
S103において、推定モデル構築部106は、取得したモデル構築用被験者の初期時刻以降の深部体温、心拍情報に基づいて、回帰分析により、深部体温を推定する深部体温推定モデルを構築する。深部体温推定モデルは、例えば、初期時刻から所定の基準期間毎に、各基準期間の深部体温の変化量を推定するモデルである。深部体温推定モデルは、例えば、心拍情報と1つの基準期間開始時の深部体温とを説明変数とし、当該基準期間における深部体温の変化量を目的変数として構築される。目的変数は、深部体温の推定値であってもよい。深部体温推定モデルは、例えば、初期時刻から基準期間毎に深部体温を推定するモデルであってもよい。
【0044】
推定モデル構築部106は、取得した心拍情報から、RRI(R-R interval)を算出する。RRIは、心電図におけるR波の発生時刻とその1つ前のR波の発生時刻との時間差である。RRIは、心拍1拍(1周期)の長さである。RRIは、拍動間隔の一例である。RRIの変動を心拍変動という。推定部106は、取得した心拍情報から、RRIを算出する。推定モデル構築部106は、算出した各心拍のRRIを、初期時刻から基準期間(例えば、3分間)毎に分割し、基準期間毎にポアンカレプロットを作成する。周知の他の方法で算出された心拍1拍の長さが、RRIの代わりに使用されてもよい。基準期間の長さは、3分間に限定されるものではなく、3分間よりも長くても短くてもよい。基準期間の長さは、後述の心拍変動を反映する指標を算出する上での統計学的観点等から1分以上であることが好ましい。また、基準期間の長さは、深部体温を推定する精度や運用の観点等から15分以下であることが好ましい。
【0045】
《ポアンカレプロットの例》
図5は、RRIのポアンカレプロットの例である。
図5に示すポアンカレプロットは、モデル構築用被験者に対して心拍情報を計測する心電計等を装着させ、所定の作業(運動)を行わせながら、基準期間(例えば、3分間)毎に作成したポアンカレプロットの一例である。
【0046】
図5のポアンカレプロットでは、1つの基準期間において、横軸の座標をn拍目のRRI(ms)、縦軸の座標をn+1拍目のRRI(ms)とし、n拍目とn+1拍目との関係をプロットしている。また、
図5では、横軸の座標と縦軸の座標とが等しくなる線を恒等線として示している。さらに、
図5では、すべてのプロットした点の重心が示されている。重心の座標(X,Y)は、(横軸の各点の座標の平均値,縦軸の各点の座標の平均値)として求められる。重心を通り恒等線に平行な直線を第1重心線といい、重心を通り恒等線に垂直な直線を第2重心線という。ここで、i番目の点(横軸の座標:i拍目のRRI、縦軸の座標:i+1拍目のRRI)から恒等線までの距離をv
i、i番目の点から第2重心線までの距離をh
iとする。これらを用いて、RRIのポアンカレプロットに基づく指標SD1、SD2が次のように得られる。
【数1】
ここで、Nは、1つのポアンカレプロットにおける点の総数である。SD1、SD2は、心拍変動を反映する指標である。なお、SD1、SD2は、それぞれ、0、または、正の値である。SD1、SD2は、RRIのポアンカレプロットの解析から得られる指標の例である。
【0047】
推定モデル構築部106は、それぞれの基準期間について、RRIに基づいて、SD2を算出する。x番目の基準期間(第x基準期間)のSD2をSD2(x)とする。推定部106は、初期時刻から基準期間(例えば、3分間)経過毎の深部体温を推定するための深部体温推定モデルを構築する。ここで、基準期間の長さをPとすると、初期時刻(t=0とする)から第1基準期間を経過した時刻はt=1×P、第j基準期間を経過した時刻はt=jPとなる。すなわち、第1基準期間は、初期時刻(t=0)から第1基準期間を経過した時刻(t=1×P)までである。第j基準期間は、第j-1基準期間を経過した時刻(t=(j-1)×P)から第j基準期間を経過した時刻(t=j×P)までである。推定モデル構築部106は、第j基準期間及び第j-1基準期間のRRIのポアンカレプロットの解析から得られたSD2(j)及びSD2(j-1)と、第j-1基準期間経過時(第j基準期間開始時)の時刻t=(j-1)Pの深部体温の推定値(TMP(j-1)とする)とを説明変数とし、時刻t=(j-1)Pから時刻t=jPまでの深部体温の変化量(第j基準期間における深部体温の変化量)を目的変数とする回帰分析を行い、深部体温推定モデルを構築する。回帰分析として、重回帰分析、ロジスティック回帰分析等の統計解析手法が使用され得る。時刻t=(j-1)Pから時刻t=jPまでの深部体温の変化量(第j基準期間における深部体温の変化量)をΔTMP(j)とすると、次のように表される。
【数2】
ここで、f(SD2(j),SD2(j-1),TMP(j-1))は、SD2(j)、SD2(j-1)、TMP(j-1)の関数である。また、TMP(0)は、初期時刻の深部体温である。f(SD2(j),SD2(j-1),TMP(j-1))は、例えば、次のように表される。
【数3】
ここで、A1、A2、A3,A4は、回帰分析により求められる係数である。logは、常用対数である。回帰分析によって得られる式は、ここに示したものに限定されるものではない。また、時刻t=jPの深部体温の推定値TMP(j)は、次のように求められる。
【数4】
ここで、TMP(0)は、測定によって得られる初期時刻(t=0)の深部体温である。時刻t=jPの深部体温の推定値TMP(j)は、初期時刻の深部体温TMP(0)に、時刻t=0から時刻t=jPまでの各基準期間の推定された深部体温の変化量を加算することにより得られる。推定モデル構築部106は、構築した深部体温推定モデル(ΔTMP、TMP)を、格納部108に格納する。これにより、深部体温推定モデル構築装置100において、深部体温推定モデルが構築される。深部体温推定モデルにおいて、ΔTMP、TMPは、TMP(0)及びSD2の関数として表される。深部体温推定モデルにおいて、SD2を含むことで、心拍変動に基づいて、深部体温を算出することができる。
【0048】
図6は、深部体温の推定値TMPと深部体温の変化量ΔTMPとの関係の例を示す図である。
図6のグラフの横軸は時刻t、縦軸は深部体温の推定値TMPを表す。ここで、TMP(0)は、初期時刻の深部体温の測定値である。各ΔTMP(j)は、基準期間経過毎に推定されうる。例えば、第2基準期間における深部体温の変化量ΔTMP(2)は、第1基準期間経過時(t=P)から第2基準期間経過時(t=2P)までの深部体温の変化量である。また、例えば、第2基準期間経過時の深部体温の推定値TMP(2)は、TMP(1)+ΔTMP(2)=TMP(0)+ΔTMP(1)+ΔTMP(2)と表すことができる。第n基準期間経過時(t=nP)は、第n+1基準期間開始時(t=(n+1)P-P=nP)と同じである。
【0049】
推定モデル構築部106は、深部体温推定モデル構築の際の説明変数として、他の生理指標を用いてもよい。他の生理指標としては、例えば、性別、年齢、皮膚温、血圧、呼気ガス、脈波、血中酸素濃度、血流量、運動量、呼吸数を挙げることができる。さらに、衣服内温度、WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)、気象データ等を説明変数に加えてもよい。これらの説明変数を加味して、深部体温推定モデルを構築することにより、より正確な推定を行うことができる。
【0050】
〈深部体温の推定〉
図7は、深部体温推定装置における深部体温推定の動作フローの例を示す図である。ここでは、深部体温推定装置200は、推定対象被験者の初期時刻(第1時刻)の深部体温、第1時刻を含む期間の心拍情報を取得し、
図4の動作フローにより、深部体温推定モデル構築装置100で構築された深部体温推定モデルを用いて、推定対象被験者の深部体温を推定する。推定対象被験者は、心電計等により心拍情報を測定されている。また、推定対象被験者は、体温計等により初期時刻(第1時刻)に深部体温を測定される。推定対象被験者は、初期時刻の深部体温と、初期時刻を含む期間の心拍情報とに基づいて、深部体温を推定される。推定対象被験者は、初期時刻より後に深部体温を測定されない。推定対象被験者は、例えば、何らかの作業を行っているとする。
【0051】
S201において、深部体温推定装置200の初期深部体温取得部202は、深部体温を測定する体温計等により測定された推定対象被験者の初期時刻の深部体温を取得する。初期時刻は、深部体温を推定される期間の開始時刻である。初期深部体温取得部202は、深部体温推定装置200に、直接または、ネットワーク等を介して接続される体温計等から、推定対象被験者の初期時刻の深部体温を取得する。また、初期深部体温取得部202は、推定対象被験者や他の管理者等に、キーボードなどの入力手段等により深部体温を入力させることにより、深部体温を取得してもよい。初期深部体温取得部202は、取得した深部体温を格納部208に格納する。初期深部体温取得部202は、推定対象被験者の初期時刻の深部体温を取得し、初期時刻より後の深部体温を取得しない。また、推定対象被験者の初期時刻の深部体温を直接測定することが困難な場合は、推定対象被験者の初期時刻の鼓膜温や皮膚表面温度から推定した深部体温を、初期時刻の深部体温としてもよい。
【0052】
S202において、心拍情報取得部204は、心拍情報を計測する心電計等により測定された推定対象被験者の心拍情報を取得する。心電計として、
図4のS102で使用された心電計と同様のものが使用されうる。心拍情報取得部204は、深部体温推定装置200に、直接、または、ネットワーク等を介して接続される心電計等から、推定対象被験者の心拍情報を取得する。また、心拍情報取得部204は、心電計等から心拍情報を取得した他の情報処理装置等から、ネットワーク等を介して、心拍情報を取得してもよい。心拍情報取得部204は、初期時刻を含む期間の心拍情報を取得する。心拍情報取得部204は、例えば、初期時刻から1基準期間前の時刻から初期時刻後の任意の時刻までの心拍情報を取得する。基準期間の長さは、例えば、3分間である。ここでの基準期間の長さは、深部体温推定モデルを構築した際の基準期間の長さと同じである。心拍情報取得部204は、取得した推定対象被験者の心拍情報を格納部208に格納する。
【0053】
深部体温、心拍情報は、それぞれ、測定された時刻を示す時刻情報とともに格納部208に格納される。
【0054】
S203において、推定部206は、取得した推定対象被験者の初期時刻の深部体温、初期時刻以降の心拍情報に基づいて、
図4の動作フローで構築された深部体温推定モデルを用いて、深部体温を推定する。推定部206は、深部体温推定モデルにより推定される深部体温の変化量を用いて、初期時刻(第1時刻)の深部体温に、各基準期間の深部体温の変化量を加算することにより、深部体温を推定することができる。
【0055】
推定部206は、格納部208に格納される深部体温推定モデルを抽出する。また、推定部206は、取得した心拍情報から、各心拍のRRIを算出する。推定部206は、算出した各心拍のRRIを、初期時刻から1基準期間前の時刻から基準期間(例えば、3分間)毎に分割し、基準期間毎にポアンカレプロットを作成する。推定部206は、RRIのポアンカレプロットに基づいて、基準期間毎の指標SD2を算出する。推定部206は、推定対象被験者の初期時刻(任意の時刻)の深部体温と、基準期間毎の指標SD2とに基づいて、深部体温推定モデルを使用して、各基準期間の深部体温の変化量(ΔTMP)を推定する。また、推定部206は、初期時刻の深部体温に、各基準期間の深部体温の変化量を加算することにより、推定対象被験者の各基準期間(各基準期間の終了時刻)の深部体温(TMP)を推定する。推定された深部体温等は、格納部208に格納される。
【0056】
また、推定部206は、推定した深部体温が所定の閾値以上となった場合に、熱中症等の発生の危険性の警告を行ってもよい。推定部206は、ディスプレイ、スピーカなどの出力手段を使用して、熱中症等の発生の危険性の警告を出力してもよい。これにより、推定対象被験者等は、熱中症の危険性等を把握することができる。推定部206は、単に、推定した深部体温を、出力手段を使用して出力してもよい。これにより、推定対象被験者等は、心拍情報に基づく深部体温の推定値を把握することができる。
【0057】
推定部206は、基準期間毎に、RRIからSD2を算出し、深部体温を推定してもよい。さらに、推定部206は、基準期間毎に、推定した深部体温を、出力手段を使用して、出力してもよい。これにより、推定対象被験者等は、深部体温推定装置200の出力手段により、リアルタイムで、深部体温を把握することができる。
【0058】
深部体温推定装置200は、予め、
図4の動作フローの深部体温推定モデルの構築を行う深部体温推定モデル構築装置100と一体化してもよい。また、深部体温推定装置200は、推定対象被験者の心拍情報を計測する心電計を含んでもよい。この場合、深部体温推定装置200の心拍情報取得部204は、当該心電計より心拍情報を取得する。
【0059】
深部体温推定装置200において、ΔTMP(1)を算出する際等にSD2(0)が必要となるが、SD2(0)は初期時刻よりも時間P前(t=-P)から初期時刻(時刻t=0)の心拍情報により算出される。ここで、例えば、体温計等により時刻t=Pにおける深部体温TMP(1)を測定し(もしくは、時刻t=Pにおける鼓膜温や皮膚表面温度から時刻t=Pにおける深部体温TMP(1)を推定し)取得して、時刻t=2×P(j=2)以降の、ΔTMP(j)、TMP(j)を算出してもよい。また、時刻t=Pにおける深部体温TMP(1)と時刻t=0における深部体温TMP(0)とが同じであるとみなして、TMP(1)=TMP(0)としてもよい。すなわち、時刻t=-Pから時刻t=0までの心拍情報を必要としない。
【0060】
(その他)
図8から
図12は、それぞれ、被験者Aから被験者Eについて、運動負荷試験を行った際の、試験中の実測の深部体温の変化と、上記の方法による心拍情報に基づく推定の深部体温との例を示すグラフである。
図8から
図12の各グラフにおいて、横軸は運動負荷試験開始からの時間を示し、縦軸は深部体温を示す。また、
図8から
図12の各グラフにおいて、点線は実測の深部体温を示し、実線は推定の深部体温を示す。各被験者は、運動負荷試験の際、所定期間の開始時刻から終了時刻まで、所定の環境下(所定気温、所定湿度等)で、所定の負荷の作業を行う。ここでは、運動負荷試験は、運動負荷時及び休憩時の気温35℃、湿度50%に調整した人工気象室で、安静(休憩)6分(R1)、運動負荷18分(E1)、休憩18分(R2)、運動負荷24分(E2)、休憩18分(R3)の手順で遂行される。運動負荷は、エルゴメータで与えられ、80kW、または、事前に計測した各被験者の最大酸素摂取量の60%とする。各被験者は、当該運動負荷試験中、体温計等により深部体温及び心電計等により心拍情報を並行して連続的に測定される。深部体温の推定の際、運動負荷試験開始時の被験者の実測の深部体温が使用される。
図8から
図12の各グラフにおいて、各被験者の推定の深部体温は、概ね、各被験者の実測の深部体温と合っていることを確認できる。上記の方法による深部体温の推定によって、被験者の深部体温を推定することができる。
【0061】
(実施形態の作用、効果)
深部体温推定モデル構築装置100は、複数のモデル構築用被験者の初期時刻以降の深部体温(例えば、直腸温等)、心拍情報(例えば、心電図データ等)を取得する。深部体温推定モデル構築装置100は、心拍情報からRRI(またはその他の拍動間隔)を算出し、基準期間毎のRRIのポアンカレプロットを作成する。深部体温推定モデル構築装置100は、RRIに基づいて、基準期間毎にSD2を算出する。深部体温推定モデル構築装置100は、RRIのポアンカレプロットの解析から得られたSD2(j)及びSD2(j-1)と、深部体温の推定値TMP(j-1)とを説明変数とし、推定された深部体温の変化量ΔTMP(j)を目的変数とする回帰分析を行い、深部体温推定モデルを構築する。時刻t=jPの深部体温の推定値TMP(j)は、TMP(j-1)+ΔTMP(j)と表される。また、TMP(0)は、初期時刻の深部体温である。深部体温推定モデル構築装置100によれば、モデル構築用被験者の初期時刻以後の深部体温と、心拍情報とに基づいて、深部体温を推定する深部体温推定モデルを構築することができる。
【0062】
深部体温推定装置200は、推定対象被験者の初期時刻の深部体温を取得する。深部体温推定装置200は、推定対象被験者の初期時刻を含む期間の心拍情報を取得する。深部体温推定装置200は、深部体温推定モデルを使用して、初期時刻の深部体温と初期時刻を含む期間の心拍情報とに基づいて、推定対象被験者の深部体温を推定する。深部体温推定装置200によれば、深部体温推定モデルを使用して、作業中等における、常時の測定が難しい深部体温を心拍情報等の生理指標を使用して容易に推定することができる。
【0063】
深部体温推定モデル構築装置100により、モデル構築用被験者が上記の運動負荷試験を行った際に測定された深部体温及び心拍情報を用いて、深部体温推定モデルを構築した。深部体温推定装置200により、初期時刻の深部体温、測定された心拍情報を用いて、構築された深部体温推定モデルに基づいて、深部体温の推定値を算出した。深部体温の測定値と、当該深部体温推定モデルによる深部体温の推定値との誤差は、平均-0.007℃(最大-0.50℃)で、平均誤差率は-0.02%(最大-1.30%)であった。当該深部体温推定モデルより、初期時刻の深部体温及び心拍情報を用いて、精度よく深部体温を推定できる。
【0064】
〈コンピュータ読み取り可能な記録媒体〉
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0065】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体内には、CPU、メモリ等のコンピュータを構成する要素を設け、そのCPUにプログラムを実行させてもよい。
【0066】
また、このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、DAT、8mmテープ、メモリカード等がある。
【0067】
また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスクやROM、SSD等がある。
【0068】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらはあくまで例示にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲の趣旨を逸脱しない限りにおいて、各構成の組み合わせなど、当業者の知識に基づく種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0069】
100 深部体温推定モデル構築装置
102 深部体温取得部
104 心拍情報取得部
106 推定モデル構築部
108 格納部
200 深部体温推定装置
202 初期深部体温取得部
204 心拍情報取得部
206 推定部
208 格納部