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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】飛行体
(51)【国際特許分類】
   B64C 29/02 20060101AFI20240819BHJP
   B64C 27/28 20060101ALI20240819BHJP
   B64C 27/08 20230101ALI20240819BHJP
【FI】
B64C29/02
B64C27/28
B64C27/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019552634
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2019036728
(87)【国際公開番号】W WO2021053786
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】517331376
【氏名又は名称】株式会社エアロネクスト
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽一
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-113779(JP,A)
【文献】国際公開第2019/056053(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0257761(US,A1)
【文献】特公昭46-033628(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 29/02
B64C 27/22
B64C 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼部と、当該翼部に設けられた複数のモータ及びプロペラを備える飛行部と、
前記飛行部が設けられる機体部とを備え、
前記翼部は、前記プロペラのプロペラ後流を受ける位置に設けられ、
前記翼部は、少なくとも水平移動時において、当該翼部に設けられて回転する全ての前記プロペラの回転中心軸に沿って発生する気流の方向に対して負の迎角を維持するように構成される、
飛行体。
【請求項2】
請求項1に記載の飛行体であって、
側面視において、前記機体部の略中央に収容部を備える、
飛行体。
【請求項3】
翼部と当該翼部に設けられた複数のモータ及びプロペラとを備える飛行部と、
前記飛行部が設けられる機体部とを備え
前記翼部は、前記プロペラのプロペラ後流を受ける位置に設けられる飛行体の飛行方法であって、
前記翼部が、少なくとも水平移動時において、当該翼部に設けられて回転する全ての前記プロペラの回転中心軸に沿って発生する気流の方向に対して負の迎角を維持するように飛行する、
飛行方法。
【請求項4】
翼部と当該翼部に設けられた複数のモータ及びプロペラとを備える飛行部と、
前記飛行部が設けられる機体部とを備え
前記翼部は、前記プロペラのプロペラ後流を受ける位置に設けられる飛行体を制御するプログラムであって、
前記翼部が、少なくとも水平移動時において、当該翼部に設けられて回転する全ての前記プロペラの回転中心軸に沿って発生する気流の方向に対して負の迎角を維持するように前記飛行体を飛行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行体に関し、特に、推力部と翼部とが変位可能に接続されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
ローター(回転翼)と主翼を備えた航空機として、所謂ティルトロータ方式及びティルトウイング方式の2つの方式が知られている。
【0003】
特許文献1には、主翼は本体部に固定されており、モータを含むローター全体が垂直方向及び飛行方向の範囲で変位可能に構成されている航空機が開示されている(ティルトロータ方式)。
【0004】
一方、特許文献2には、主翼と本体部とが垂直方向及び飛行方向の範囲で変位可能に構成されており、モータ及びロータ全体は主翼に固定されている航空機が開示されている(ティルトウイング方式)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2013-501677号公報
【文献】特開2017-81360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によれば、上昇時において主翼がプロペラ後流の広範囲に入ることから主翼に飛行効率が悪い。
【0007】
特許文献2の技術によれば、主翼全体が変位することから風の抵抗を受けたりと不安定である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ホバリングから水平飛行への効率的かつ安全な移行を可能にした飛行体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、
翼部と当該翼部に設けられた回転翼とを備える飛行部と、
機体部とを備え、
前記翼部は、
少なくとも進行方向に対して負の迎角を維持可能となるように構成される、
飛行体が得られる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、ホバリングから水平飛行への効率的かつ安全な移行を可能にした飛行体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る飛行体の図である。図示される飛行体は着陸時の状態である。
図2】飛行体を上から見た図である。
図3】本発明の実施の形態に係る飛行体を説明する図である。図示される飛行体は上昇時の状態である。
図4】本発明の実施の形態に係る飛行体を説明する図である。図示される飛行体は進行方向への飛行状態である。
図5】翼型の揚力・抵抗特性を示したグラフである。
図6】本発明の飛行体の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施の形態による発明は、以下の構成を備える。
[項目1]
翼部と当該翼部に設けられた回転翼とを備える飛行部と、
機体部とを備え、
前記翼部は、
少なくとも進行方向に対して負の迎角を維持可能となるように構成される、
飛行体。
[項目2]
項目1に記載の飛行体であって、
前記翼部は、
少なくともホバリング時において前記回転翼の回転中心軸に対して負の迎角を維持可能となるように構成される、
飛行体。
[項目3]
項目1又は項目2に記載の飛行体であって、
前記機体部と独立変位可能な搭乗部を備える、
飛行体。
[項目4]
項目3に記載の飛行体であって、
前記機体部は、飛行方向に対して水平かつ垂直に延び、
前記搭乗部は、側面視において、前記機体部の略中央に設けられている、
飛行体。
【0013】
次に、図を参照して、本発明の実施の形態による飛行体について説明する。
【0014】
<構造>
図1に示されるように、本実施の形態による飛行体1は、概略、飛行部10と、機体部20と、搭乗部30と、を備えている。飛行部10は、翼部100と、モータ102と、プロペラ(回転翼)104とを備えている。翼部100は、少なくともホバリング時においてプロペラ104の回転中心軸に対して負の迎角を維持可能となるように構成され、機体部20に対して固定される。固定方法は、公知の種々の方法を採用できる。また、機体部20(及び当該機体部20に固定された飛行部10)と、搭乗部30とは独立変位可能に構成されている。
【0015】
図2に示されるように、本実施の形態による飛行体1は、上から見た場合にH字形状を有している。即ち、飛行体1は、前後に設けられた2つの飛行部10と、これらを接続する機体部20(及び搭乗部30)とを備えている。
【0016】
上述したように、飛行部10は、翼部100と、モータ102と、プロペラ104とを備えている。なお。以下の説明においては、図におけるX軸、Y軸及びZ軸と、方向との対応は次の通り対応する。
X軸:第1水平方向(+X方向:左、-X方向:右)
Y軸:第2水平方向(+Y方向:前、-Y方向:後)
Z軸:垂直方向(+Z方向:上、-Z方向:下)
【0017】
翼部100は、X方向に延びており、モータ102によって揚力を発生させる部位である。初期状態(図1に示される状態)では、前縁が上、後縁が下を向いている。翼部100は、前側の翼部100と後側の翼部100とで構成されている。
【0018】
推力発生部10は、プロペラ(推力発生部)104を回転させることにより推力発生部10から前方への推進力を生みだす。
【0019】
モータ102は、エンジン等により置換することが可能である。プロペラ104は、モータ102によって駆動可能であり、時計方向に及び/または反時計方向に、モータ102の回転軸(例えば、モータの長軸)の周りに回転する。
【0020】
本実施の形態おいて、モータ102は、プロペラ104を、すべて同一方向に回転可能であるし、独立して回転することも可能である。プロペラ104のいくつかは一方の方向に回転し、他のプロペラ104は他方方向に回転する。プロペラ104を構成するブレードは、同一回転数ですべて回転することも可能であり、夫々異なる回転数で回転することも可能である。回転数は移動体の寸法(例えば、大きさ、重さ)や制御状態(速さ、移動方向等)に基づいて自動又は手動により定めることができる。
【0021】
プロペラ104は、モータ102からの出力を受けて回転する。プロペラ104が回転することによって、飛行体1を地面Gから離陸させ、水平移動させ、目的地に着陸させるための推進力が発生する。なお、プロペラ104は、右方向への回転、停止及び左方向への回転が可能である。
【0022】
本発明のプロペラ104は、ブレードは細長い形状を有している。任意のブレード(回転子)の数(例えば、1、2、3、4、またはそれ以上のブレード)でよい。また、ブレードの形状は、平らな形状、曲がった形状、よじれた形状、テーパ形状、またはそれらの組み合わせ等の任意の形状が可能である。
【0023】
なお、ブレードの形状は変化可能である(例えば、伸縮、折りたたみ、折り曲げ等)。ブレードは対称的(同一の上部及び下部表面を有する)または非対称的(異なる形状の上部及び下部表面を有する)であってもよい。
【0024】
ブレードはエアホイル、ウイング、またはブレードが空中を移動される時に動的空気力(例えば、揚力、推力)を生成するために好適な幾何学形状に形成可能である。ブレードの幾何学形状は、揚力及び推力を増加させ、抗力を削減する等の、ブレードの動的空気特性を最適化するために適宜選択可能である。
【0025】
機体部20は、前側の翼部100の中央から後方に延びており、後側の翼部100の中央に接続されている。
【0026】
本実施の形態による機体部20は、カーボン、ステンレス、アルミニウム、マグネシウム等またはこれらの合金又は組合わせ等から適宜選択される素材で形成することが可能である。
【0027】
機体部20は、搭乗部30を包含する略環状の収容部を有している。収容部は、機体部20の略中央付近に設けられている。
【0028】
搭乗部30は、収容部の形状に対応する略環状の形状を有しており、収容部の内側に位置している。搭乗部30と収容部とは、略環状の周方向に独立変位可能に構成されている。
【0029】
<飛行形態>
続いて、図3及び図4を参照して、飛行時の形態及び変形について説明する。
【0030】
本実施の形態によるプロペラ104は、翼部100の前縁よりも前に設けられている。図1に示される着陸状態において、翼部100の前縁を上方に向けると共に、モータユニットが少なくとも上方向への推進力を生じる向きとされている。脚部202と後側翼部(及びモータ102)は、着陸時に飛行体1を支える部位として機能する。
【0031】
図3に示されるように、飛行体1の上昇時及びホバリング時においては、翼部100は、プロペラ104の回転中心軸に対して負の迎角となっている。この際、前側のプロペラ104も後側のプロペラ104もプロペラ104の回転中心軸に対して負の迎角となる。
【0032】
図3及び図4に示されるように、垂直離陸(図3)から水平移動(図4)へ移行する際に、機体部20が、図の両矢印のように、周方向に変位することにより、水平姿勢から前傾姿勢へと変位する。この際、搭乗部30は、同じ方向を向いたままとなる。
【0033】
図4に示されるように、水平移動時においても、翼部100は、プロペラ104の回転中心軸に対して負の迎角となっている。この際、前側のプロペラ104も後側のプロペラ104もプロペラ104の回転中心軸に対して負の迎角となる。この際、前側のプロペラ104も後側のプロペラ104もプロペラ104の回転中心軸に対して負の迎角となる。
【0034】
図5は、翼型の揚力・抵抗特性を示したグラフである。図5の横軸は、迎え角を示し、縦軸は、抵抗係数及び揚力係数を示す。図5より明らかなように、マイナスの迎角の方が、プラスの迎角よりも抵抗係数が小さいことがわかる。また、仮に、マイナス6度の迎角で機体を製作すると、ゼロ迎角の機体と同等の主翼の揚力が得られることがわかる。このように、翼部100をプロペラ104の回転中心軸に対して負の迎角とすると、プロペラ後流の抗力を押さえつつ、翼部100の過剰な迎角を控えることが可能になる。
【0035】
したがって、本実施形態の飛行体によれば、ホバリング時から水平飛行移行へと安全に移行することができる。
【0036】
<一般的構造>
図6は、本発明の飛行体の機能ブロック図である。上述した飛行体は、例えば、図6に示されるような構成を有していてもよい。
【0037】
フライトコントローラは、プログラマブルプロセッサ(例えば、中央演算処理装置(CPU))などの1つ以上のプロセッサを有することができる。
【0038】
フライトコントローラは、図示しないメモリを有しており、当該メモリにアクセス可能である。メモリは、1つ以上のステップを行うためにフライトコントローラが実行可能であるロジック、コード、および/またはプログラム命令を記憶している。
【0039】
メモリは、例えば、SDカードやランダムアクセスメモリ(RAM)などの分離可能な媒体または外部の記憶装置を含んでいてもよい。カメラやセンサ類から取得したデータは、メモリに直接に伝達されかつ記憶されてもよい。例えば、カメラ等で撮影した静止画・動画データが内蔵メモリ又は外部メモリに記録される。
【0040】
フライトコントローラは、飛行体の状態を制御するように構成された制御モジュールを含んでいる。例えば、制御モジュールは、6自由度(並進運動x、y及びz、並びに回転運動θ、θ及びθ)を有する飛行体の空間的配置、速度、および/または加速度を調整するために飛行体の推進機構(モータ等)を制御する。制御モジュールは、搭載部、センサ類の状態のうちの1つ以上を制御することができる。
【0041】
フライトコントローラは、1つ以上の外部のデバイス(例えば、端末、表示装置、または他の遠隔の制御器)からのデータを送信および/または受け取るように構成された送受信部と通信可能である。送受信機は、有線通信または無線通信などの任意の適当な通信手段を使用することができる。
【0042】
例えば、送受信部は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、赤外線、無線、WiFi、ポイントツーポイント(P2P)ネットワーク、電気通信ネットワーク、クラウド通信などのうちの1つ以上を利用することができる。
【0043】
送受信部は、センサ類で取得したデータ、フライトコントローラが生成した処理結果、所定の制御データ、端末または遠隔の制御器からのユーザコマンドなどのうちの1つ以上を送信および/または受け取ることができる。
【0044】
本実施の形態によるセンサ類は、慣性センサ(加速度センサ、ジャイロセンサ)、GPSセンサ、近接センサ(例えば、ライダー)、またはビジョン/イメージセンサ(例えば、カメラ)を含み得る。
【0045】
本発明の飛行体は、中長距離における宅配業務専用の飛行体としての利用、及び広域の監視業務、山岳領域の偵察・救助業務における産業用の飛行体としての利用が期待できる。また、本発明の飛行体は、マルチコプター・ドローン等の飛行機関連産業において利用することができ、さらに、本発明に、カメラ等を搭載し空撮任務も遂行可能な飛行体としても好適に使用することができる他、セキュリティ分野、農業、インフラ監視等の様々な産業にも利用することができる。
【0046】
上述した実施の形態は、本発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良することができると共に、本発明にはその均等物が含まれることは言うまでもない。
【0047】
上述した実施の形態では、本発明の飛行体を有人の飛行体に適用する例を示した。しかし、これに限らない。本発明の飛行体を無人の飛行体に適用してもよい。
【0048】
上述した実施の形態では、翼部100が、少なくともホバリング時において前記回転翼の回転中心軸に対して負の迎角を維持可能となるように構成される例を示した。しかし、これに限らない。翼部100は、少なくとも進行方向に対して負の迎角を維持可能となるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0049】
1 飛行体
10 飛行部
100 翼部
102 モータ
104 プロペラ(回転翼)
20 機体部
30 搭乗部
図1
図2
図3
図4
図5
図6