(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-16
(45)【発行日】2024-08-26
(54)【発明の名称】足指用のバランスリング又は手指用のグリップリング及びそれらの成形方法
(51)【国際特許分類】
A61F 5/01 20060101AFI20240819BHJP
A61F 13/00 20240101ALI20240819BHJP
A61F 13/06 20060101ALI20240819BHJP
A61F 13/10 20060101ALI20240819BHJP
【FI】
A61F5/01 N
A61F13/00 355D
A61F13/06 A
A61F13/06 L
A61F13/10 B
(21)【出願番号】P 2020186175
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2022-10-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505297633
【氏名又は名称】株式会社コーポレーションパールスター
(74)【代理人】
【識別番号】100121795
【氏名又は名称】鶴亀 國康
(72)【発明者】
【氏名】新宅 光男
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】平城 俊雅
【審判官】鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-271211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/00-5/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
編地からなり、足指に挿着される5つの指輪が一体に連接されてなるバランスリングで
あって、
前記指輪は、
コース数が22本~32本からなり、指輪内周面の上縁から外方に巻き込んでなる断面円形の上縁巻部と、下縁から外方に巻き込んでなる断面円形の下縁巻部を有し、前記上縁巻部と下縁巻部は指輪中央部で会して外方に開放された環状溝を形成してなるバランスリング。
ここで、指輪中央部とは、指輪の幅の中央部をいう。
【請求項2】
編地は、ポリエステルナノファイバとポリエステル繊維の混繊糸を含み、前記ポリエステルナノファイバの前記混繊糸に対する割合が、35~50%であることを特徴とする請求項1に記載のバランスリン
グ。
【請求項3】
指輪は、第一足指に挿着される指輪Aと、第二足指から第四足指に挿着される指輪Bと、
第五足指に挿着される指輪Cからなり、それぞれの大きさは順に指輪C<指輪B<指輪Aであることを特徴とする請求項1に記載のバランスリン
グ。
【請求項4】
編地からなり、
コース数が22本~32本であって、両側縁がまくれて会合し、断面円形の同等の外径を有する二条の紐状巻帯が形成されてなるリングを成形し、次に、前記紐状巻帯の会合部に形成される環状溝が外方に向く状態に前記リングを2つ折に重ねて所定間隔ごとに縫合し、足指に挿着される5つの指輪を形成するバランスリング成形方法。
【請求項5】
編地は、足サイズのランクによりウエル数は異なるがいずれのランクも所定のコース数で、平編みにより編成されることを特徴とする請求項
4に記載のバランスリング成形方法。
【請求項6】
編地からなり、手指に挿着される5つの指輪が連接して輪状に配設された連接体の前端部と後端部が、所定間隔を設けて手首に挿着される腕輪の指側縁部に縫合されてなるグリップリング。
【請求項7】
腕輪は、袋状に二重に形成され、指側縁部に環状弾性帯が設けられてなることを特徴とする請求項6に記載のグリップリング。
【請求項8】
指輪は、指輪外周面の上縁から内方に巻き込んでなる断面円形の上縁巻部と、下縁から内方に巻き込んでなる断面円形の下縁巻部を有し、前記上縁巻部と下縁巻部は指輪中央部で会して内方に開放された環状溝を形成してなる請求項6又は7に記載のグリップリング。
ここで、指輪中央部とは、指輪の幅の中央部をいう。
【請求項9】
指輪は、二重の編地に囲まれた円筒状であることを特徴とする請求項6又は7に記載のグリップリング。
【請求項10】
指輪は、第1指又は第5指に挿着される指輪Xと、第2指から第4指に挿着される指輪Yとからなり、その大きさは指輪Y<指輪Xであることを特徴とする請求項6~9の何れか一項に記載のグリップリング。
【請求項11】
編地は、ポリエステルナノファイバとポリエステル繊維の混繊糸を含み、前記ポリエステルナノファイバの前記混繊糸に対する割合が、35~50%であることを特徴と
する請求項6~
10の何れか一項に記載のグリップリングの連接体。
【請求項12】
編地からなる環状リングを2つ折に重ね先端部及び後端部を残し所定間隔ごとに縫合して手指に挿着される5つの指輪を形成し、前記先端部及び後端部をそれぞれ対向する方向に捻って裏返し、所定間隔を設けた状態で、編地からなる腕輪の指側縁部に縫合してなるグリップリング成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手の震え、しびれ又は動作や歩行が困難な高齢者等の運動機能障害者の補助、運動機能の回復に好適に使用される足指用のバランスリング又は手指用のグリップリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、足の水虫予防、足むれ、臭いやよごれ防止のために、足指に挿着されるリングが提案されている。このリングは、それぞれ足指に挿着される単独の指輪であるものや、あるいは数本の足指に挿着される指輪の連接体であるものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に、伸縮弾性の大きい抗菌性編地より成り、三個のリング状指挿通孔を有し、隣接する指挿通孔間の仕切りを上下編地のウェールを交差させて形成した指サックが提案されている。この指サックは、引張応力の大きい弾性糸を用いた編地によって形成されており、手足のサイズの大小に拘らずよく適合し三個の挿通孔だけで全ての指間をカバーできるとされる。そして、フリーサイズで水虫等の予防、治療効果が大きく、外観的にも好ましいとされる。
【0004】
特許文献2には、全体としてリング状をなし且つ断面が略円形の外形を有する柔軟性と吸湿性に富む材料により形成され、足指の根元部分に挿入して用いる形状であることを特徴とする水虫防止用品が提案されている。この水虫防止用品は、装着が簡単で、装着後は根元部のやや細い外周に係合して歩いても簡単に外れるということがなく、装着性が良好であるとされる。
【0005】
また、上記に記載の水虫予防等を目的とする足指用のリングのみならず、歩行、姿勢あるいは運動機能の改善等を目的とする足指用のリングが提案されている。例えば、特許文献3には、編地からなり、第二趾から第四趾に挿着される三連の筒状体であって、熱融解糸が融解されてなる編み始めの上縁部と編み終わりの下縁部と、数コース間隔でゴム糸が編み込まれてなる本体部を有する筒状体が提案されている。この筒状体は、足むれや臭いを軽減し、ほつれがなくストレッチ性に優れ、縫製加工を要せず経済性に優れる。また、足の中3本指をまとめて親指と小指を自由に動かせるようにし、歩行時に拇指球で蹴るという「正しい歩行」をサポートすることができるとされる。
【0006】
特許文献4には、伸縮性と柔軟性のあるエラストマーの素材で形成される足指間パッドであって、足指の少なくとも親指と中指に嵌合する嵌合リング部を設け、これらの嵌合リング部を連結する基礎部を設けるとともに、該基礎部の中指近傍から踵方向に延びる舌状部を設け、該舌状部の先端部の足裏中央で母指球近傍に突起部を設け、該突起部が足裏を押し圧して刺激するようにしたことを特徴とする足指間パッドが提案されている。この足指間パッドは、歩行方向を無意識に直線方向にし、直立した姿勢及び歩行姿勢を矯正して、歩行時、運動時に良い姿勢を保ち、リンパと甲状腺もツボを刺激することができるとされる。
【0007】
特許文献5には、円筒形の矯正器具であって、内周部に内側方向に三角柱状の突起を有し、円周に対して該三角形が一方向に向かって傾斜している、矯正器具が提案されている。この矯正器具は、実際に足指に装着してみて、柔軟性が向上する等の効果がある足指に装着すればよいとされ、身体の重心バランスの偏りを直し、身体の歪みを修正し柔軟性を増加することができるとされる。
【0008】
一方、手指に挿着される手用のリングに関する特許文献は見当たらないが、特許文献6には、O状リングを利用したリハビリの補助具として使用することができる器具が提案されている。すなわち、物品の把持を補助する器具であって、可撓性のあるO状リングと、該O状リングと小カンを接合部材によって装着し、該小カンを通しベルトを着脱自在に備える、或いはO状リングにベルトを直に通し着脱自在に備えたことを特徴とする物品の把持を補助する器具が提案されている。この器具は、フォーク、コップ、ペットボトルや球体などを把持する際に必要な機能を補助することができ、これにより球体を使った上肢又は下肢のリハビリを行うことができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】実用新案登録第3063124号公報
【文献】実用新案登録第3035240号公報
【文献】特開2011-104180号公報
【文献】特開2017-144212号公報
【文献】国際公開第2018/062569号
【文献】特開2011-212393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1~3に記載の足指に挿着して使用される指輪は、密接しやすい足指の隙間を確保し、臭いやむれ又は水虫防止に資するとされる。一方、特許文献3に記載の筒状体は、足むれや臭いの軽減のみならず、正しい歩行に資するとされる。特に、特許文献4に記載の足指間パッド、特許文献5に記載の矯正器具は、歩行姿勢の改善、身体の重心バランスの改善など運動機能改善に資するとされる。かかる簡易な足指用の指輪によって運動機能改善に資するとされる。さらに積極的に身体の機能障害を有する人や高齢者の運動機能の補助・改善に資するものが求められる。また、手の機能障害についても補助・改善に資するものが求められる。
【0011】
本発明は、このような従来の問題点又は要請に鑑み、足指用又は手指用に長時間装着して使用され、足又は手の運動機能補助又は運動機能障害の改善に資する足指用のバランスリング又は手指用のグリップリング及びそれらの成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るバランスリングは、編地からなり、足指に挿着される5つの指輪が一体に連接されてなるバランスリングであって、前記指輪は、指輪内周面の上縁から外方に巻き込んでなる断面円形の上縁巻部と、下縁から外方に巻き込んでなる断面円形の下縁巻部を有し、前記上縁巻部と下縁巻部は指輪中央部で会して外方に開放された環状溝を形成してなる。ここで、指輪中央部とは、指輪の幅の中央部をいう。
【0013】
また、本発明に係るバランスリング成形方法は、編地からなり、両側縁がまくれて会合し、断面円形の同等の外径を有する二条の紐状巻帯が形成されてなるリングを成形し、次に、前記紐状巻帯の会合部に形成される環状溝が外方に向く状態に前記リングを2つ折に重ね所定間隔ごとに縫合し、足指に挿着される5つの指輪を形成する。
【0014】
上記バランスリング成形方法の発明において、編地は、足サイズのランクによりウエル数は異なるがいずれのランクも所定のコース数で、平編みにより編成されるのがよい。そして、コース数は、22本~32本とするのがよい。
【0015】
また、指輪は、第一足指に挿着される指輪Aと、第二足指から第四足指に挿着される指輪Bと、第五足指に挿着される指輪Cからなり、それぞれの大きさは順に指輪C<指輪B<指輪A であるのがよい。
【0016】
本発明に係るグリップリングは、編地からなり、手指に挿着される5つの指輪が連接して輪状に配設された連接体の前端部と後端部が、所定間隔を設けて手首に挿着される腕輪の指側縁部に縫合されてなる。
【0017】
上記グリップリングに係る発明において、腕輪は、袋状に二重に形成され、指側縁部に環状弾性帯が設けられてなるものがよい。
【0018】
指輪は、指輪外周面の上縁から内方に巻き込んでなる断面円形の上縁巻部と、下縁から内方に巻き込んでなる断面円形の下縁巻部を有し、前記上縁巻部と下縁巻部は指輪中央部で会して内方に開放された環状溝を形成してなるものとすることができる。ここで、指輪中央部とは、指輪の幅の中央部をいう。また、指輪は、二重の編地に囲まれた円筒状のものとすることができる。
【0019】
また、指輪は、第1指又は第5指に挿着される指輪Xと、第2指から第4指に挿着される指輪Yとからなり、その大きさは指輪Y<指輪X であるものがよい。
【0020】
指輪Yの穴の方向は、腕輪の軸心方向であるのがよい。
【0021】
上記バランスリングの編地又はグリップリングの連接体の編地は、ポリエステルナノファイバとポリエステル繊維の混繊糸を含み、前記ポリエステルナノファイバの前記混繊糸に対する割合が、35~50%であるのがよい。
【0022】
また、本願発明に係るグリップリング成形方法は、編地からなる環状リングを2つ折に重ね先端部及び後端部を残し所定間隔ごとに縫合して手指に挿着される5つの指輪を形成し、前記前端部及び後端部をそれぞれ対向する方向に捻って裏返し、所定間隔を設けた状態で、編地からなる腕輪の指側縁部に縫合してなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るバランスリングは、身体のバランス感覚を向上させることができ、また、直進歩行が困難な機能障害を有する者の機能改善に資することができる。また、本発明に係るグリップリングは、把持機能を補助することができ、特に把持機能に障害を有する者や高齢者に対して好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係るバランスリングの構成を示す説明図である。
図1(a)はバランスリングの全体図、
図1(b)は、A-A端面拡大図である。
【
図2】本発明に係るバランスリングの成形方法を説明する模式図である。
図2(a)はリングの斜視図、
図2(b)はリングを2つ折りに重ねた状態を示す図面(正面図及び側面図)である。
【
図3】ファンクショナルリーチテストの結果を示すグラフである。
【
図4】足裏バランス測定装置(フットルック)による足裏圧測定結果を示す図面である。
【
図5】重心動揺試験における動揺軌跡と左右及び前後方向の動揺波形の例を示す。
【
図7】
図1に示すバランスリングを足指に挿着した状態を示す説明図である。
【
図8】本発明に係るグリップリングの構成を示す説明図である。
図8(a)は全体正面図、
図8(b)は連接体の取付部拡大図である。
【
図9】
図8に示す腕輪の断面及び腕輪と連接体の取付部分の断面を示す説明図である。
図9(a)は腕輪の断面図、
図9(b)は腕輪と連接体の取付部分の断面図である。
【
図10】グリップリングの成形方法を説明する模式図である。
【
図11】
図8に示すグリップリングの使用状態を示す説明図である。
【
図12】
図8に示すグリップリングの他の使用状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図面を基に説明する。
図1は、本発明に係るバランスリングの構成を示す説明図である。本発明に係るバランスリングは、編地からなり、足指に挿着される5つの指輪が一体に連接されてなるバランスリングである。このバランスリング10の指輪11は、
図1に示すように、指輪内周面11aの上縁から外方に巻き込んでなる断面円形の上縁巻部113と、下縁から外方に巻き込んでなる断面円形の下縁巻部114を有し、上縁巻部113と下縁巻部114は指輪中央部で会して外方に開放された環状溝115を形成している。上縁巻部113と下縁巻部114が指輪中央部で会してなる指輪の外径断面は円形又は長円径をしている。なお、指輪中央部とは、指輪の幅の中央部をいう。
【0026】
指輪11は、それぞれ縫合部14で仕切られ、第一足指に挿着される指輪A110と、第二足指から第四足指に挿着される指輪B111と、第五足指に挿着される指輪C112が連接している。それぞれの大きさは、順に指輪C112<指輪B111<指輪A110である。本バランスリング10は、足指の指輪C112から指輪A110に向かう連接方向が指輪B111と指輪A110の接合部で屈曲し、への字になるものが足指への挿着性がよい。
【0027】
本バランスリング10は、
図2に示すように成形することができる。すなわち、先ず
図2(a)に示すリング1を成形する。このリング1は、編地からなり、両側縁がまくれて会合し、断面円形の同等の外径を有する二条の紐状巻帯2(
図2(b))が形成されている。二条の紐状巻帯2は、編地のまくれを利用して成形することができる。まくれは、
図1(b)の上縁巻部113と下縁巻部114に示すように、編地の両側縁が渦巻状に巻き込まれて中央部で会するように形成される。その会合部分に環状溝3が形成される。かかる編地は平編みで編成するのがよい。平編みの編地は、その編出し、編み終わり又は編み端にまくれが生じ易いからである。このため、衣服においては、一般にまくれが形成されないように側縁部は平編み以外の編成方法を使用して処理される。しかしながら、本発明においては、このまくれを利用する。まくれにより形成された上縁巻部113と下縁巻部114は柔軟であるとともに弾力を有しており、断面が円形又は長円の指輪11は足指の付根部に挿着するのに好ましい。本リング1は、例えば外径が70~80mm、伸び率が140~200%である。
【0028】
次に、二条の紐状巻帯2の環状溝3がリング1の外方に向くように2つ折りに重ねる(
図2(b))。そして、その2つ折りに重ねたリング1を所定間隔ごとに縫合する。
図2(b)に示す破線は、縫合箇所4を示す。
図2(b)において、例えば、L1=30、L2=20、L3=15(単位mm)とされる。まくれにより形成される上縁巻部113又は下縁巻部114(
図1(b))は、例えばまくれ径Ddが3~4、指輪厚Dtが5~6(単位mm)とされる。L1部分により指輪A110、L2部分により指輪B111、L3部分により指輪C112が形成される。指輪A110と指輪B111の仕切部が他のものと異なる色違い糸で縫合されたバランスリング10は、第一足指に挿着される指輪A110が明確になり挿着し易い。なお、上記測定寸法は、ノギスにより測定した数値である。
【0029】
リング1の素材は、例えば、重量比で、ポリエステル混繊糸75~85%、ナイロン繊維糸12~18%、ポリウレタン繊維糸4~6%、前記ポリエステル混繊糸のうち35~50%がポリエステルナノファイバ糸とされ、残部が一般に衣服等に使用されるポリエステル繊維糸である。ポリエステル繊維糸は、優れた強度、伸度を持っており、衣料用合成繊維の中では耐熱性が高い。また、水分を吸いにくい(公定水分率 0.4%)ので乾きが早く、ヤング率が高く、ハリ・コシがあり、濡れても特性が変化しにくいので、シワになりにくく寸法安定性に優れる。ポリエステルナノファイバ糸は、ポリエステルナノファイバのフィラメント数が2,000~60,000本、総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)が35~500dtexであるものを使用することができる。ポリエステルナノファイバは、これを形成するポリマーが、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどであり、単繊維径(単繊維の直径)が200~2,000nm、より好ましくは250~800nmであるものがよい。ポリエステルナノファイバ糸による編地は、摩擦抵抗が高いのですべり難く、グリップ性に優れる。また、この編地は、クーリング性能や抱水力が高く、汗を速やかに抱水・拡散し易いという特徴を有する。
【0030】
本発明に係るバランスリング10は、足指の付根部に装着され長期間使用されるのが好ましい。このため、足指に直接接触する部分は滑らかであるのが良く、指輪11の環状溝115が外方に開放された形態のバランスリング10が好ましい。また、バランスリング10の指輪11は、上縁巻部113及び下縁巻部114の部分が適度の大きさ、柔らかさを有するものが好ましい。この上縁巻部113及び下縁巻部114の部分は、バランスリング10の使用感のみならず、その機能にも影響する。
【0031】
図3は、72才男性による、3種類のバランスリングを着用してファンクショナルリーチテスト(Pamela Duncan によるFRT)を行った試験結果を示すグラフである。バランスリングは、編地のウエルを一定本数にし、コース本数を変えて編成したリングを用いて作製した3種類の大リング、中リング及び小リングのバランスリングを使用した。各リングの仕様を表1に示す。指輪厚(Dt)はノギスによる測定値である。表1によると、コースの本数とDtは比例していることが分かる。なお、ファンクショナルリーチテストは、身体重心の移動を伴う動作を達成する機能(動的バランス機能)を評価する方法として広く利用されている。
【0032】
【0033】
図3において、横軸はコースの本数、縦軸はリーチ量を示す。
図3によると、コースの本数が30~35本を超えると急速にリーチ量が低下するように観察される。バランスリングの装着感は、小リングにおいて足指に痛みを感じるほどの締付け感があり、中リングは足指に締付け感はあるが気になる程度でなく、大リングは足指の締付け感がなく足指間に膨満感がある。
図3及び上記装着感によると中リングが好ましく、リングの編地はコース数が22~32本程度が好ましい。
【0034】
また、足裏バランス測定装置(フットルック)を使用し、上記72才男性の足裏圧測定を行った。
図4は、初期(通常時)、小リング装着時(比較例 小)、中リング装着時(発明例)及び大リング装着時(比較例 大)の足裏圧を示す。
図4によると、初期の足裏圧は左足よりも右足に負荷が掛かった状態(白色部)になっている。小リングを装着すると左足裏の白色部分が増加し、左足の負荷が増大し、左右足の負荷バランスがよくなっていることが分かる。中リングを装着した場合は、さらに右足の第一足指部分が白色になり、左右の第一足指部分で足裏圧を均等に負荷し、バランスが良くなり足裏把持力が増していることが分かる。大リングを装着した場合は、足裏圧の左足負荷部分が増大しているが、足指部分が全体に黒くなり浮き趾になって足裏把持力が低下していることが分かる。
【0035】
上記
図3及び4に示すように、バランスリングは中リングが好ましい。このため中リングを使用し、さらに以下のファンクショナルリーチテストを行った。表2は、広島県立大学保健福祉学部看護学科において、附属診療センターリハビリ対象者の50代男性と60代女性に対して行ったファンクショナルリーチテストの結果を示す。表2によると、本発明に係るバランスリングを着用することにより動的バランス機能が向上し、動的バランス機能が平常(標準)者の約90%に低下していた人がほぼ平常者と同等の100%に回復していることを示している。なお、平常者のデータは、高齢者の機能障害に対する運動療法(市橋則明、文光堂、2010)による。
【0036】
【実施例1】
【0037】
重心動揺試験機(アニマ株式会社製グラビコーダGW-5000)を使用し、健常男性4名(平均年齢55才)について、裸足状態(比較例)の場合と上記中リング挿着状態(発明例)の場合の重心動揺試験を行った。計測は、それぞれ開眼状態と閉眼状態について行い、計測時間は30秒、取り込み周期は20Hzであった。
図5に、上記72才男性の発明例(a)と比較例(b)について、閉眼状態における動揺軌跡と、左右及び前後方向の揺動波形を示す。発明例の場合は、比較例に対して、動揺軌跡範囲は非常に小さく、左右及び前後方向の波形の乱れが少ないことが分かる。すなわち、本発明に係るバランスリングにより、身体バランス機能が改善されていることが分かる。
【0038】
図6は、上記重心動揺測定結果を、それぞれ発明例と比較例の総軌跡長、外周面積、ロンベルグ率、揺動速度、重心の左右方向(左右中心)及び前後方向(前後中心)に関する動揺の平均値とばらつき範囲を示すグラフである。各グラフにおいて白丸が比較例(平均値)、●が発明例(平均値)を示す。ロンベルグ率は、外周面積の閉眼動揺と開眼動揺の比である。
図6に示すように、前後中心を除いて、発明例の各特性は比較例に対して平均値が小さくばらつき範囲も狭く重心動揺が少ないことが分かる。また、各特性について平均値に対する最大値と最小値の関係を見ると、概して平均値が中央位置にあるが、発明例の動揺速度は最大値側に、左右中心は最小値側に偏っている。比較例のロンベルグ率は最大値側に偏っている。なお、開眼状態の重心動揺試験結果は、発明例と比較例の特徴について上記閉眼状態の重心動揺試験結果と傾向は似ていたが、その差異は小さかった。
【0039】
以上、足指に挿着される指輪が連接したバランスリングについて説明した。中リングを足指に装着した状態を
図7に示す。このバランスリングは、動的バランス機能の改善に資することができ、直進歩行が困難な機能障害を有する者の機能改善に資することができる。また、本バランスリングは伸縮性に優れるので、S~Mサイズ用の編地(ウエル144本、コース27本)からなるもの、M~Lサイズ用の編地(ウエル156本、コース27本)からなるものの2種類程度を設ければ足りる。
【0040】
上記指輪の連接体は、手指についても把持機能を補助することができ、特に把持機能に障害を有する者や高齢者に対して好適に使用することができる。しかしながら、手指は足指と形態や機能が異なるので、手首に装着され指輪の連接体を固定するための腕輪を設けた形態のグリップリングがよい。すなわち、編地からなり、手指が挿着される5つの指輪が連接して輪状に配設された連接体の前端部と後端部が、所定間隔を設けて手首に挿着される腕輪の指側縁部に縫合されてなるグリップリングがよい。
【0041】
図8に本発明に係るグリップリングを示す。このグリップリング30は、
図8(a)に示すように編地からなる連接体32と腕輪31を有し、
図8(b)に示すように連接体32の前端部321aと後端部321bが所定間隔(L)を設けて腕輪31の指側縁部31bに縫合されている。その縫合箇所353を破線で示す。間隔Lは、グリップリングの指輪の手指への挿着性を考慮して選択される。なお、前端部321aと後端部321bは、以下に説明する指側縁部を周回する上縫合線(縫合箇所351)によっても指側縁部31bに縫合されている。
【0042】
腕輪31は、表層と裏層の二層構造を有する編地からなり、
図9に示すように、表層が腕輪31の内周面及び外周面になるように袋状二重構造の円筒状をしている。表層はポリエステルナノファイバ糸から編成され、裏層はポリエステル繊維糸から編成される。ポリエステルナノファイバ糸、ポリエステル繊維糸は、上述のバランスリング編地の編成に使用されるものと同等のものを使用する。腕輪31は、上記編地の構成によりグリップ性に優れるとともに平板状の薄い編地にすることができる。
【0043】
腕輪31の指側縁部31bは、
図9に示すように、腕輪本体31aの上縁が折り込まれるとともにまくれ31cを有しており、そのまくれ31cが上縫合線(縫合箇所351)と下縫合線(縫合箇所352)で仕切られた環状部(
図8)に内在するように縫合されている。この指側縁部31bは、手首を適度に締め付ける弾性を有し、環状弾性帯とされる。腕輪本体31aは、手首の屈曲範囲が被われる幅を有しており、例えば5~8cmの幅とされる。腕輪31は、上記の環状弾性帯の締付力と編地のグリップ特性により手首の所定位置に保持され、グリップリング30のずれや手首回りの回転を防止することができる。
【0044】
連接体32は、
図8に示すように、手指が挿着される5つの指輪が輪状に配設された形状をしている。その5つの指輪は、第1指又は第5指に挿着される指輪X321と、第2指から第4指に挿着される指輪Y322とからなり、大きさは指輪Y322<指輪X321 である。
図8(a)に矢印aで示す指輪Y322の穴方向は、腕輪31の軸心方向であるのがよい。これにより、腕輪31を手先から手首に装着した状態で、先ず指輪Y322に第2指から第4指を容易に挿着することができる。指輪X321の穴方向は、連接体32の前端部321aと後端部321bが縫合された腕輪31の腕輪本体31aがなす平面Pに傾斜して連接体32の中心から外方に向かう矢印b又は矢印cの方向であるのがよい。これにより、第1指及び第5指の指輪X321への挿着性が向上する。なお、腕輪31の軸心及び矢印aは平面Pに平行である。
【0045】
連接体32は、
図10に示す環状リング5を所定間隔で縫合して成形される。グリップリングは上記バランスリングと異なって指輪間で圧迫されて手指が痛くなるというようなことがない。このため、グリップリングの指輪は、バランスリングの指輪のように適度の柔軟さと弾力性を有する断面円形状のまくれ(上縁巻部113と下縁巻部114)を必ずしも要せず、円筒状のものであってもよい。すなわち、環状リングは、
図10のA-A端面図に示す扁平又は平板な中空断面を有する環状リングであってもよく、また、バランスリングのリングのようにまくれを有する環状リングであってもよい。
図10に示す環状リング5の場合は、二重の編地に囲まれた円筒状の指輪が形成される。まくれを有する環状リングの場合は、指輪外周面の上縁から内方に巻き込んでなる断面円形の上縁巻部と、下縁から内方に巻き込んでなる断面円形の下縁巻部を有し、前記上縁巻部と下縁巻部は指輪中央部で会して内方に開放された環状溝を形成してなる指輪が形成される。この指輪内周面に環状溝がある指輪は、まくれにより手指への挿着性が向上する。なお、
図10のA-A端面図に示す下端部はほつれ留め処理がなされる。
【0046】
グリップリング30は、以下の様に成形する。すなわち、先ず、
図10に示す環状リング5を2つ折に重ねて破線で示す6箇所の縫合箇所8で縫合し、手指に挿着される5つの指輪を形成する。このとき、環状リング5の前端部と後端部は余裕代L0を設け、それぞれL1、L2・・L1と所定間隔ごとに縫合する。次に、前記前端部及び後端部をそれぞれ対向する方向(
図10(a)に示す矢印Ra、Rb)に捻って裏返し、
図8(b)に示すように所定間隔(L)を設けて上記編地からなる腕輪31の指側縁部31bに縫合する。かかる前端部及び後端部を捻った状態で腕輪31の指側縁部31bに縫合することにより、第2指から第4指が装着される指輪Y322の穴方向を矢印a方向、第1指又は第5指が装着される指輪X321の穴方向を矢印b、第5指又は第1指が装着される指輪X321の穴方向を矢印cの方向にすることができる(
図8(a))。これにより、グリップリング30の挿着が容易になる。すなわち、手首に腕輪31を装着すること、各手指をそれぞれの指輪に挿着する各動作を素早く容易に行うことができる。なお、
図10のA-A端面図に示す下端部はほつれ留め処理がなされる。
【0047】
連接体32の編地素材は、バランスリングのリングと同様にすることができる。すなわち、編地は、ポリエステルナノファイバとポリエステル繊維の混繊糸を含み、前記ポリエステルナノファイバの前記混繊糸に対する割合を35~50%とすることができる。連接体32の編地は、平編みで、ウエル220本、コース40本とすることができる。腕輪の編地はウエル220本、コース242本とすることができる。
【0048】
以上、グリップリングについて説明した。本グリップリングは、高齢者や手に麻痺を有する者など把持機能に障害を有する者の把持機能を向上させることができる。このグリップリングの使用例を
図11及び
図12に示す。
図11は、手指の拘縮を生じている高齢者等に対して手指を反らす方向にグリップリングを装着する場合(左図、手の甲側)と、手指の把持力が弱っている高齢者等に対して把持力を補助する方向にグリップリングを装着する場合(右図、手の平側)を示す。
図12の左図は
図11図の左図における手の平側を示し、
図12の右図は
図11図の右図における手の甲側を示す。
【符号の説明】
【0049】
1 リング
2 紐状巻帯
3 環状溝
4 縫合箇所
5 環状リング
8 縫合箇所
10 バランスリング
11 指輪
11a 指輪内周面
110 指輪A
111 指輪B
112 指輪C
113 上縁巻部
114 下縁巻部
115 環状溝
14 縫合部
30 グリップリング
31 腕輪
31a 腕輪本体
31b 指側縁部
31c まくれ
32 連接体
321 指輪X
321a 前端部
321b 後端部
322 指輪Y
34 縫合部
351~353 縫合箇所